説明

難燃性極細ポリエステル繊維およびその製造方法ならびに高密度織物

【課題】本発明は、エアバッグ及びエアベルトに好適に使用可能な高密度織物に関し、機械的強度、難燃性、柔軟性を同時に満足する高密度織物、及び、該織物を製造するのに好適な難燃性極細繊維の提供を課題とする。
【解決手段】2官能性リン化合物がリン量で0.1〜1.5重量%共重合され、固有粘度が0.7〜1.2、単糸繊度が0.05〜1dtex、強度が4.5〜8cN/dtexであることを特徴とする難燃性極細ポリエステル繊維を少なくとも一部に用い、縦方向及び緯方向強力の双方が200〜400N/cm、厚みが0.13〜0.3mmである高密度織物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は極細ポリエステル繊維に関するものである。詳しくは、優れた機械的強度、高度な難燃性、優れた柔軟性を兼ね揃えた極細ポリエステル繊維及びその製造方法に関するものであって、本発明の極細ポリエステル繊維は、柔軟性、難燃性及び低通気性の求められる高密度織物に好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
近年、エアバッグ用基布やエアベルト用基布に代表される高強力な高密度 織物の需要が広がりつつある。従来、前記高密度織物に用いられる糸としては、単糸あたりの強力を高く保つために一般的に単糸繊度が3dtex以上のものが用いられていた。
【0003】
しかしながら、高密度織物が一般的になりつつある今日、高密度織物には低通気性や高強力性に加えて、さらなる高機能化が求められている。例えば、エアバッグ用基布、エアベルト用基布を例に取ってみると、コンパクトな収納性や難燃性、バッグ展開時にバッグと人体との擦過により乗員を傷付けないこと等が求められている。
【0004】
これまでに開発されている代表的なエアバッグ用基布としては、単糸繊度3〜7dtex、総繊度235〜500dtexの糸条で構成されたノンコート基布や、基布に難燃性や低通気性を付与するためにシリコーンなどの樹脂をコーティングしたコート基布がある。しかしながら、単糸繊度が3〜7dtex糸条で構成された基布は布帛が硬く柔軟性に欠けるという問題を有しており、これらの問題を解決するためにエアバッグ用基布やエアベルト用基布に代表される高密度織物に極細繊維を適用する技術が特許文献1又は特許文献2等に開示されている。
【0005】
例えば、特許文献1には「単糸繊度が0.8d(約0.9dtex)未満の極細繊維からなり、かつ、引張強度6.5g/d(5.7cN/dtex)以上、破断伸度15%以上を有する高強度マルチフィラメントから構成されることを特徴とする高強度極細繊維構造物」を高密度織物に適用する技術が開示されている。しかしながら、特許文献1記載の技術を用いた高密度織物はそれ自体が難燃性を有していない。エアバッグ及びエアベルトは火薬及び/又は高圧ガスを用いて展開するため、難燃性が求められており、特許文献1の方法ではコーティング段階で難燃剤等を付与する必要が生じる。
【0006】
また、特許文献2には「単糸繊度が0.7dtex以下の合成繊維極細マルチフィラメント糸を少なくとも経糸及び/又は緯糸の一部に用いてなる織物であって、カバーファクターが2400以上で且つ硬さ係数が特定範囲を満足する高密度織物において、合成繊維極細マルチフィラメント糸がリン原子を500〜50000ppm含有することで難燃性を有する高密度織物」に関する技術が開示されている。しかしながら、特許文献2に記載の高密度織物は防水布に関し、本発明の如くエアバッグ用基布及びエアベルト用基布に好適な高密度織物に求められる強度に関しては何ら示唆していない。さらに、本発明者らによる追試において、特許文献2の実施例2記載の方法では本発明の如き強度レベルを有する難燃性極細繊維を得ることができなかった。
【0007】
以上の例から明らかなように、難燃性及び高強力性を同時に満足する難燃性極細繊維はこれまでに存在していなかった。また、特許文献2[0042]に記載のように、難燃性極細繊維を用いたこれまでの高密度織物は防縮加工を施す工程に供する必要があり、製造工程の増加やコスト上昇が避けられない状態にあった。
【特許文献1】特開平7−258940号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2003−138449号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らが前記目的を達成するため検討を重ねた結果、 本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものであり、機械的強度、難燃性、低価格、柔軟性(収納性)などの品質を同時に満足する高密度織物及び概織物を製造するのに好適な難燃性極細繊維の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は2官能性リン化合物をリン量で0.1〜1.5重量%共重合したポリエステルポリマから構成され、固有粘度が0.7〜1.2、単糸繊度が0.05〜1dtex、強度が4.5〜8cN/dtexであることを特徴とする難燃性極細ポリエステル繊維、であり、また、島成分ポリマおよび海成分ポリマを口金単孔より同時に溶融複合吐出した後、油剤を付与し、熱延伸をおこなう海島複合繊維の製造方法であって、海島比率が40重量%:60重量%〜10重量%:90重量%であり、島成分ポリマが2官能性リン化合物をリン量で0.1〜1.5重量%共重合したポリエステルポリマであって、島成分ポリマの固有粘度が0.7〜1.2である難燃性極細ポリエステル繊維の製造方法である。さらに本発明は、前述の難燃性極細ポリエステル繊維を少なくとも一部に用いた、経方向及び緯方向強力の双方が200〜400N/cm、厚みが0.13〜0.3mmであることを特徴とする高密度織物である。本発明の高密度織物については、(イ)少なくとも片面に樹脂が被覆されてなること、または(ロ)緯方向の伸度が経方向の伸度より大きい高密度織物であって、緯方向伸度と経方向伸度の差が2〜15%であること、が好ましい条件として挙げられる。得られた高密度織物は、エアバッグおよび/またはエアベルト用織物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、以下に説明するように、機械的強度、難燃性、低価格、柔軟性、品質を同時に満足する高密度織物、及び、概織物を製造するのに好適な難燃性極細繊維の提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明の難燃性極細繊維は汎用性、価格、溶融成形性の観点からポリエステル繊維であることが必要である。本発明のポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート等の芳香族ポリエステルや、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルを用いることができるが、価格、物理的性質等の観点から、エチレンテレフタレートの繰り返し単位が90モル%以上のポリエチレンテレフタレートであることが好ましい。
【0012】
本発明の難燃性極細ポリエステル繊維に用いるポリエステルポリマは、本発明の効果を損なわない範囲であれば共重合体またはブレンド可能な他の熱可塑性ポリマとのブレンド物であってもよい。共重合成分としては、イソフタル酸やナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸などの脂肪族ジカルボン酸、ジエチレングリコールや1,4−ブタンジオールなどのジオール化合物、多官能化合物、5−スルホイソフタル酸金属塩、含リン化合物などが挙げられる。
【0013】
本発明に用いる難燃性極細ポリエステル繊維は、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、クレーなどの艶消し剤、顔料、染料、滑剤、酸化防止剤、耐熱剤、耐蒸熱剤、耐光剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤などを含むことができる。
【0014】
本発明で用いる難燃性極細ポリエステル繊維の固有粘度は、0.7〜1.2であることが必要である。固有粘度が0.7未満では本発明の強度を達成することが困難であり、結果として該繊維を用いた高密度織物の強力が低下してしまう。一方、固有粘度が1.2を超える繊維を得ようとした場合、製糸工程においてポリエステルポリマを溶融した際の粘度が高過ぎて製糸性が悪化する恐れがある。また、固有粘度の好ましい範囲として0.70〜1.1を例示することができる。
【0015】
本発明の難燃性極細ポリエステル繊維は2官能性リン化合物をリン量で0.1〜1.5重量%含有することが必要である。2官能性リン化合物としては、ポリエステルに共重合可能であれば特に決まりは無いが、ホスホネート化合物、ホスフィネート化合物、ホスフィンオキシド化合物が好ましく使用される。ホスホネート化合物としては、フェニルホスホン酸ジメチル、フェニルホスホン酸ジフェニル等が、ホスフィネート化合物としては、(2−カルボキシエチル)メチルホスフィン酸、(2−メトキシカルボニルエチル)メチルホスフィン酸メチル、(2−カルボキシエチル)フェニルホスフィン酸、(2−メトキシカルボニルエチル)フェニルホスフィン酸メチル、(4−メトキシカルボニルフェニル)フェニルホスフィン酸メチル、[2−(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)エチル]メチルホスフィン酸のエチレングリコールエステル等が、ホスフィンオキシド化合物としては、(1,2−ジカルボキシエチル)ジメチルホスフィンオキシド、(2,3ジカルボキシプロピル)ジメチルホスフィンオキシド、(1,2ジメトシキカルボニルエチル)ジメチルホスフィンオキシド、(2,3ジメトキシカルボニルエチル)ジメチルホスフィンオキシド、[1,2ジ(βヒドロキシエトキシカルボニル)エチル]ジメチルホスフィンオキシド、[2,3ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)エチル]ジメチルホスフィンオキシド等を例示することができる。
【0016】
上述の2官能性リン化合物は、ポリエステルポリマ中に、リン元素に換算して0.1〜1.5重量%、好ましくは0.2〜1.0重量%含有することが必要である。すなわち、0.1重量%未満の場合は、該繊維を用いて得られる高密度織物の難燃性が低下してしまう。一方、リン量が1.5重量%を超えると原糸の物理的特性、特に強度低下、収縮特性の増大および製造コストが高くなるなどの問題が発生する。かかる難燃性極細ポリエステル繊維は、それのみで織物を構成してもよいが、少なくとも40重量%含有されていれば難燃効果は発揮されるので、交織、混繊、混紡など、他の繊維と混用されて構成されていてもよい。しかしながら、得られる布帛の柔軟性の観点から、90重量%以上が本発明の難燃性極細ポリエステル繊維から構成されることが好ましい。
【0017】
本発明の難燃性極細ポリエステル繊維の単糸繊度は0.05〜1dtex、好ましくは0.1〜0.5dtex、さらに好ましくは0.1〜0.3dtexであることが必要である。単糸繊度が1dtexを超える場合には総繊度を低く設定した場合においても、柔軟性に優れた高密度織物を得ることが困難となる。一方、単糸繊度が0.05dtexを下回る場合には、単糸が擦過等により簡単に破壊されてしまうという問題や、強力を得るために単糸数を大幅に増加させる必要があり、製糸工程が複雑になると言う問題を有している。
【0018】
本発明の難燃性極細ポリエステル繊維の総繊度になんらきまりは無い。しかしながら、難燃性極細ポリエステル繊維の生産性、及び、該繊維を用いた繊維製品の柔軟性、風合いを考慮に入れた場合には、総繊度は100〜1000dtexであることが好ましい。
【0019】
本発明の難燃性極細ポリエステル繊維は強度が4.5〜8cN/dtex、好ましくは5〜6cN/dtexであることが必要である。強度が4.5cN/dtex未満の場合には織物等とした際に要求される機械的特性を満足させられない可能性が有る。一方、強度に本来上限は無いが、8cN/dtexを超える強度を有する難燃性極細ポリエステル繊維を製糸性良く得ることは困難である。
【0020】
また、難燃性ポリエステル繊維の伸度に関して特に決まりは無いが、難燃性極細ポリエステル繊維を用いた製品の柔軟性や、製品製造工程における工程通過性の観点から伸度は10%以上が好ましい。一方、伸度が25%を超える場合には、本発明の難燃性極細ポリエステル繊維の強度レベルを達成することが困難となる。さらに好ましい伸度範囲として、10〜20%の範囲を例示することができる。
【0021】
本発明の難燃性極細ポリエステル繊維の中間伸度は3〜13%であることが好ましい。エアバッグやエアベルトとして使用した場合を考えると、中間伸度が3%未満の場合には、衝突によってエアバッグ又はエアベルトが展開した際に基布のモデュラスが高過ぎて、人体との接触エネルギーを吸収できずに人体に怪我を負わせてしまう可能性が有る。また、中間伸度が13%を超える場合には、基布のモデュラスが低すぎて、エアバッグ又はエアベルト展開時に基布が破裂する恐れがある。
【0022】
本発明の難燃性極細ポリエステル繊維は、150℃雰囲気下で30分間処理した際の乾熱収縮率が3〜11%であることが好ましい。乾熱収縮率が11%を超える場合には、製織又は編網によって得られた基布を熱処理する際や、高温雰囲気下で使用する際に基布収縮が大きく、当初設計した基布厚みよりも厚みが増大してしまう危険性を有している。一方、乾熱収縮率が3%未満の場合には、難燃性極細ポリエステル繊維を用いた基布を熱セットする際の収縮が少ないため目開きが大きい(気体透過性の大きい)基布となる危険性を有している。さらに好ましい乾熱収縮率の範囲として、4〜8%の範囲を例示することができる。
【0023】
本発明の難燃性極細ポリエステル繊維の物性は、脱海や割繊等により極細化した時点の特性であり、織物等を分解して得られた難燃性極細ポリエステル繊維の物性を測定することでも得られる。
【0024】
本発明の難燃性極細ポリエステル繊維は種々の用途、特に産業資材用途に展開可能である。なかでも極細繊維であるため、布帛にした際に布帛中の空隙率が低くなることから、エアバッグ用基布に好適に使用できる。さらに、本発明の難燃性極細ポリエステルを用いた基布は軽量で柔軟性に優れることから、エアベルト用基布として特に優れた効果を発現する。
【0025】
本発明の難燃性極細ポリエステル繊維の製造方法は限定されるものではなく、2成分以上のポリマを海島状に配置した後、海成分を溶出して得る海島紡糸法、2成分異常のポリマを放射線状に配置した後、物理的処理等により極細繊維を得る割繊紡糸法、直接極細繊維を紡出する直接紡糸法を採用することができる。なかでも、単糸繊度の細繊度化が容易であり、毛羽が発生し難い等、製造の容易さから海島紡糸法が好ましく、特に、以下に示す本発明の難燃性極細ポリエステル繊維の製造方法を用いることで、難燃性を有しながらも高強度な極細繊維を容易に得ることが可能となる。
【0026】
本発明の難燃性極細繊維の製造方法には「プレストレッチ−2段延伸−リラックス」法を採用することが好ましいが、本発明の難燃性極細ポリエステル繊維の製造方法はこのプロセスに限定されるものではない。しかしながら、高強度な難燃性極細ポリエステル繊維を得るためには、2〜5段の多段延伸法を採用することが好ましい。
【0027】
本発明の難燃性極細ポリエステル繊維の製造方法は、単糸細繊度化、総繊度太繊度化が容易であることから海島複合紡糸法を採用する。極細繊維製造方法には種々の方法が存在するが、直接紡糸法では延伸や巻取り段階において単糸切れが発生しやすく、ブレンド紡糸法や割繊紡糸法では繊維径が一定の極細繊維を得ることが困難である。
【0028】
海成分および島成分ポリマはエクストルーダー等で溶融した後、ギヤポンプ等で計量して紡糸パック内に導かれる。紡糸パック内に導かれた海成分および島成分ポリマは、それぞれ紡糸パック内でフィルターやサンド等により濾過された後、2成分のポリマを同時に口金孔より複合吐出できる海島用複合口金より吐出される。使用する口金は、通常知られた海島複合繊維用口金を用いて製造することが可能である。
【0029】
しかしながら、2成分のポリマを口金より吐出する際の口金当たりの孔数は240以下が好ましい。孔数が240を超える場合には冷却工程において全ての孔より吐出した複合繊維を均一に冷却することが困難となる。また、複合繊維の単糸繊度に関しては、必要に応じて適宜変更すれば良いが、冷却均一性、製糸性を考慮に入れると2〜15dtexの範囲であることが好ましい。
【0030】
海島複合繊維中に含まれる島数にも特にきまりは無いものの、島数は10〜20個であることが好ましい。島数が10個未満では生産性が悪化し、島数が20個を超える場合には、複合繊維中で島成分同士が接触する可能性がある。
【0031】
本発明の難燃性極細ポリエステル繊維の製造方法においては、少なくとも島成分ポリマが2官能性リン化合物をリン量で0.1〜1.5重量%、好ましくは0.2〜1重量%共重合されたポリエステルポリマであることが必須である。すなわち、0.1重量%未満の場合は、該繊維を用いて得られる高密度織物の難燃性が低下してしまう。一方、リン量が1.5重量%を超えると原糸の物理的特性、特に強度低下、収縮特性の増大および製造コストが高くなるなどの欠点が出現してくる。2官能リン化合物としては、前述の化合物群を使用することができる。
【0032】
島成分に用いるポリマは、機械的特性、汎用性、および成形性の観点から、ポリマポリエステルポリマであることが必要である。ポリエステルポリマとしては特に限定されるものでは無く、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリ乳酸等のポリエステルポリマを用いることができる。また、使用するポリマはポリエステルポリマと共重合可能な成分との共重合体またはブレンド可能な他の熱可塑性ポリマとのブレンド物などであってもよい。共重合成分としては、イソフタル酸やナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸などの脂肪族ジカルボン酸、ジエチレングリコールや1,4−ブタンジオールなどのジオール化合物、多官能化合物、5−スルホイソフタル酸金属塩、含リン化合物などが挙げられる。
【0033】
島成分に用いるポリエステルポリマの固有粘度は0.7〜1.3であることが必要である。固有粘度が0.7未満の場合には、産業用途に好適な強度を達成できない恐れがあり、固有粘度が1.3を超える場合には、溶融粘度が高過ぎて製糸性が悪化する可能性を有している。
【0034】
本発明に用いるポリエステル繊維は、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、クレーなどの艶消し剤、顔料、染料、滑剤、酸化防止剤、耐熱剤、耐蒸熱剤、耐光剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤および難燃剤などを含むことができる。
【0035】
海成分に用いるポリマに特にきまりは無く、例えば、5−ナトリウムスルホイソフタル酸共重合ポリエステルのようにアルカリ処理によって容易に脱海処理が可能なポリマや、ポリスチレンのようにトリクロロエチレン等の溶媒に容易に脱海処理が可能なポリマを使用すればよいが、価格、脱海処理の容易さの観点から、ポリエステル共重合ポリマが好ましい。
【0036】
本発明の難燃性極細ポリエステル繊維の製造方法においては、海島比率を40重量%:60重量%〜10重量%:90重量%、好ましくは40重量%:60重量%〜15重量%:85重量%、さらに好ましくは、40重量%:60重量%〜20重量%:80重量%とすることが必要である。海成分の比率が40重量%を超える場合には、生産性が悪く、さらに製織後に脱海処理をして得られる基布の空隙率が大きくなるという問題を有している。一方、海成分の比率が6重量%未満の場合には、複合繊維中の島成分量が多くなりすぎて、島成分同士が合流してしまう可能性を有している。
【0037】
本発明の難燃性極細ポリエステル繊維の製造方法においては、島成分ポリマ固有粘度と海成分ポリマ固有粘度の差が0.1〜0.7であることが好ましく、さらに好ましい範囲としては0.3〜0.6があげられる。島成分ポリマ固有粘度と海成分ポリマ固有粘度の差が0.7を超える場合には、島成分および海成分ポリマの固有粘度差が大きすぎるため、紡出直後の複合繊維の状態において、島成分ポリマの移動性が大きくなり、異なる島より吐出された島成分ポリマ同士が接触し、製糸性が悪化してしまう恐れがある。一方、島成分ポリマと海成分ポリマの固有粘度差が0.1を下回る場合には、最終的に得られる難燃性極細ポリエステル繊維の強度が低下する恐れがある。本発明の如き高強度な難燃性極細繊維を得ようとした場合には、紡出時に海成分に応力を集中させて島成分の配向を緩和させ、延伸工程において島成分ポリマに延伸応力を集中させる必要性がある。島成分ポリマと海ポリマ成分の固有粘度差が0.1を下回る場合には、前述の効果を得ることが困難となってしまう。
【0038】
また、溶融紡糸に供する島成分および海成分ポリマの水分率としてはポリマの加水分解を抑制するために0〜200ppmであることが好ましい。
【0039】
紡糸温度は、用いるポリマの融点に左右され、これは共重合成分の有無等によって変化させることができるものの、通常は250〜330℃、より好ましくは270〜310℃に設定される。250℃未満で紡糸すると、ポリマの溶融時に十分な流動性が得られない可能性がある。一方、330℃を越える温度では、ポリマの熱分解が発生し、高強度な難燃性極細ポリエステル繊維を安定して得るのが困難となる可能性がある。島成分および海成分ポリマの融点が異なり、パック等の芯成分ポリマと海成分ポリマが合流する領域では、高融点ポリマの紡糸温度に設定することが好ましい。
【0040】
本発明の製造方法において、海成分ポリマの吐出圧力は2.5MPa以上であることが好ましい。海成分ポリマの吐出圧力が2.5MPa未満の場合には、島成分ポリマの移動自由度が大きくなり、島成分同士が接触して製糸性を悪化させる危険性を有している。吐出圧力に特に上限はないが、紡糸機配管の破裂を防ぐ等の安全性を考慮すると、40MPa以下、好ましくは25MPa以下であることが好ましい。ここで吐出圧力とは、ポリマ計量後、紡糸バックに溶融ポリマが導かれるまでの間で測定する。島成分ポリマの吐出圧力に特にきまりはないが、各吐出孔からの吐出量ばらつきを低減させるためには、吐出圧力は2MPa以上、好ましくは8MPa以上が良い。
【0041】
紡糸口金の直下は、紡糸口金面より0〜15cmを上端とし、その上端から5〜100cmの範囲を加熱筒および/または断熱筒で囲み、紡出糸条を250〜350℃の高温雰囲気中を通過させることが本発明の製造方法の好ましい形態である。より好ましい高温雰囲気の温度範囲としては290〜330℃の範囲を例示できる。
【0042】
紡出した糸条を直ちに冷却せず、上記加熱筒および/または断熱筒で囲まれた高温雰囲気中を通して徐冷することにより、紡出された糸条の配向が緩和され、かつ単繊維間の分子配向均一性を高めることができる。一方、高温雰囲気中を通過させることなく直ちに冷却すると、未延伸糸の配向が高まり、かつ単繊維間の配向度分布が大きくなる。 かかる未延伸糸条を熱延伸すると、結果として高強度で耐熱性に優れた繊維が得られない可能性がある。
【0043】
高温雰囲気中を通過した未延伸糸条は、次いで10〜100℃、好ましくは15〜75℃の風を吹きつけて冷却固化することが好ましい。冷却風が10℃未満の場合には通常装置とは別に大型の冷却装置が必要となるため好ましくない。また、冷却風が100℃を超える場合には紡糸時の単繊維揺れが大きくなるため、単繊維同士の衝突等が発生し製糸性良く繊維を製造することが困難となる。空冷装置は横吹き出しタイプでも良いし、環状型吹きだしタイプを用いても良い。
【0044】
冷却固化された未延伸糸条は、次いで油剤が付与される。油剤は、水系であっても非水系であっても良い。
【0045】
油剤を付与された未延伸糸条は、引取りローラ(1FR)に捲回して引き取る。1FRの表面速度、即ち引取り速度は300m/分以上が好ましく、さらに好ましくは500m/分以上である。300m/分未満の引取り速度でも本発明難燃性極細ポリエステル繊維の物性は得られるが、生産効率が低いため採用し難い。引取り速度に特に上限は無いものの、工業的に安定して生産する場合には引取り速度は5000m/分以下が好ましく、より好ましくは3500m/分以下である。
【0046】
上記引取り速度で引き取られた未延伸糸条は一旦巻き取った後、若しくは一旦巻き取ることなく連続して延伸する。1FRと同様に、2ケのローラを1ユニットとするネルソン型ローラを、2FR、1DR、2DR、および弛緩ローラ(RR)と並べて配置し、順次糸条を捲回して延伸熱処理を行う。
【0047】
通常、1FRと2FR間では糸条を集束させるためにストレッチを行う。好ましいストレッチ率は1〜7%、さらに好ましくは1〜5%の範囲である。1FRは20〜60℃で糸条を引き取り、次の延伸工程に送る。使用するローラとしては、表面粗さがRa=0.3〜5μm、好ましくはRa=0.5〜3μmのクロムメッキされたものを好適に使用することができる。
【0048】
1段目の延伸は2FRと1DR間で行い、2FRの温度は60〜120℃、好ましくは80〜110℃とし、1DRの温度を90〜130℃、好ましくは100〜120℃とし、例えば、総合延伸段数が2段の場合には1段目の延伸倍率を総合延伸倍率の30〜90%、好ましくは50〜90%の範囲に設定する。2段目の延伸は1DRと2DR間で行うが、2DRは190〜250℃、好ましくは210〜250℃である。2段延伸の場合は総合延伸倍率に対し、1段目の延伸倍率の残りの延伸をこの間で行う。2段延伸を終えた糸条はRRとの間で0〜10%、好ましくは0〜7%、さらに好ましくは0〜5%の弛緩処理を行い、熱延伸によって生じた歪みを取るだけで無く、延伸によって達成された高配向構造を固定したり、非晶領域の配向を緩和させ熱収縮率を下げたりすることができる。RRは非加熱ローラまたは、160℃以下に加熱したローラを用いることが好ましい。
【0049】
本発明の難燃性極細ポリエステル繊維の元となる複合繊維は、上記方法によって製造可能である。しかし、毛羽の発生を少なくして高品位の繊維を得るために、1段延伸が行われる2FRと1DRの間に、繊維糸条に高圧流体を吹き付けて、該繊維を構成する糸条に交絡を付与し、糸条を集束させながら延伸を行っても良い。糸条を交絡、集束させるための装置は、通常糸条を巻き取る直前に糸条に交絡を付与し、集束させるために用いられる交絡ノズルを用いることができる。該交絡装置は1段目の延伸時に行うのが効果的であるが、1段目に加え、2段目の延伸時にも行っても良い。
【0050】
また、前述の製造方法で得られる難燃性極細ポリエステル繊維には、製織時等の工程通過制を向上させる目的でRR−巻取り機間で交絡を付与してもよい。交絡度(CF値)としては5〜70であることが好ましく、10〜60であることがより好ましい。
【0051】
このようにして、本発明の難燃性極細ポリエステルの元となる海島複合繊維を得ることができる。得られた複合繊維を、使用した海成分ポリマの特性に応じた溶媒等を用いて脱海処理をすることで難燃性極細繊維を得ることができる。得られた極細繊維を脱海処理した後に基布化しても良いが、極細繊維を製織工程等に供した場合には工程通過性が悪化するため、複合繊維を製織したのちに、脱海処理することが好ましい。
【0052】
本発明の高密度織物は、経方向、および、緯方向強力の双方が200〜400N/cm、好ましくは250〜320N/cmであることが必要である。織物強力が250N/cm未満の場合には、例えばエアベルトに用いた時、交通事故等によりエアベルトが展開した際に、強力不足によりエアベルトが破裂してしまう可能性を有している。一方、本来、織物強力は高いほど良いが、400N/cmを超える強力の高密度織物を得ようとした場合には、織物に使用する繊維量が増加するため、軽量性、柔軟性に劣る高密度織物となる可能性を有している。
【0053】
本発明の高密度織物は、厚みが0.13〜0.3mm、好ましくは0.13〜0.25mm、さらに好ましくは0.15〜0.2mmであることが必要である。厚みが0.13mm未満の場合には、柔軟性、軽量性には優れるものの、例えばエアベルトやエアバッグに使用した際に必要とされる強力を達成することが困難になり、さらに、耐磨耗性に問題のある基布しか得られない可能性がある。一方、厚みが0.3mmを超える高密度織物は、機械的特性には優れるものの、柔軟性、軽量性に劣る可能性を有している。
【0054】
本発明の高密度織物は、少なくとも片面が樹脂被覆されていることが好ましい。樹脂の被覆により、耐磨耗性、更なる低通気性、耐候性、耐光性等の特性を向上させることが可能となる。被覆方法に特に決まりはなく、浸漬法やナイフコート法を採用することができる。また、使用する樹脂にも特に決まりはなく、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素系樹脂、等を例示することができる。また、樹脂は添加剤を含有しても良く、添加剤として難燃化合物、顔料、タルク、耐光剤、耐候剤等を例示できるが、これらに限られるものではない。但し、環境配慮の観点から、ノンハロゲン系添加剤を用いることが好ましい。樹脂被覆量にも特にきまりはないが、柔軟性、軽量性、樹脂の均一付着の観点から付着量は10〜50g/mが好ましい。また、コーティングは2回以上に分けて実施しても良い。
【0055】
本発明の高密度織物は経方向の伸度が緯方向の伸度より大きく、且つ、経方向と緯方向の伸度差が2〜15%であることが好ましく、より好ましい範囲として4〜10%を例示することができる。伸度差を本発明の範囲とすることで、例えばエアベルトに使用した場合に、交通事故等によりエアベルトが展開する時に、経方向は人体の衝撃を担いながらも、緯方向の伸度が縦方向と比べて大きいため、ベルトにより人体が受ける衝撃エネルギーを基布の緯方向伸度が吸収することで、人体に与える負荷を低減することが可能となる。しかし、経方向と緯方向の伸度差が2%未満の場合には前述のエネルギー吸収能を十分に発揮することができず、経方向と緯方向の伸度差が15%を超える場合には、経方向および緯方向の寸法変化が大きくなるため好ましくない。
【0056】
軽量、柔軟、高強力、エネルギー吸収能を有するという以上の観点から、本発明の高密度織物は産業資材、特にエアバッグやエアベルト用基布として好適に使用することができる。
【0057】
以下に本発明の高密度織物の製造方法を例示するが、製造方法はこれに限られるものではない。
【0058】
前述の方法で得られた海島複合繊維をウォータージェットルーム、エアージェットルーム、レピアルーム等の製織機を用いて製織する。この時、海島複合繊維をサイジング、撚糸等の工程に供した後に製織しても良い。
【0059】
織組織としては、織物の薄地化の観点から平織が好ましいが、斜文組織や朱子組織等、通常知られた織組織を採用することができる。この時、織密度は使用目的に応じて適宜変更すれば良い。
【0060】
得られた織物は脱海処理を施して海成分を除去する。脱海処理は、水溶出、アルカリ溶出、有機溶剤溶出等、海成分ポリマの特性に合わせて選択すれば良い。例えば、海成分に5−ナトリウムスルホイソフタル酸を強重合したポリエチレンテレフタレートを用いた場合には、液流染色機を用いて酸性溶液にて処理した後、水酸化ナトリウム水溶液で処理することで海成分を除去することが可能である。この時、水酸化ナトリウム溶液濃度、処理温度、処理時間等は島成分ポリマ特性や、脱海状態を確認しながら決定すればよい。
【0061】
また、脱海処理は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、高圧や加熱条件下で実施することができる。次いで、脱海処理後の織物に前述の方法で樹脂被覆を施す。
【0062】
また、本発明の高密度織物は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、カレンダー加工や熱セット加工を施しても良い。本発明の高密度織物の特徴である経方向と緯方向の伸度差を本発明の範囲内に納めるためには、元々伸度を異なるように設計した原糸を用いる手法の他に、熱セット時に経方向と緯方向に与える張力を変更して熱セット処理を施す方法等を採用すれば良い。
【実施例】
【0063】
以下、実施例によって本発明の態様を更に詳しく説明するが、明細書本文および実施例に用いた特性の定義および測定法は次の通りである。
【0064】
[固有粘度]試料8gをオルソクロロフェノール100mlに溶解したポリマ溶液を作製し、溶液粘度(η)をオストワルド粘度計を用いて25℃で測定し、次の近似式により固有粘度を算出し、2回の測定値の平均を採用した。
(固有粘度)=0.0242η+0.2634
但し、η=(ポリマ溶液落下時間×ポリマ溶液密度)/(オルソクロロフェノール落下時間×オルソクロロフェノール密度)。
【0065】
[繊度]JIS L1090により測定した。単糸繊度に関しては、JIS L1090により測定した総繊度をマルチフィラメントを構成する単糸数で除して得た。
【0066】
[強度、伸度]試料を気温20℃、湿度65%の温調室にて24時間以上放置した後、JIS L1013の方法で測定した。
【0067】
[リン量]蛍光X線元素分析装置(堀場製作所社製 MESA−500W型)を用いて測定した。試行回数3回の平均値を採用した。
【0068】
[乾熱収縮率]JIS L1013の方法にしたがい、150℃の乾熱収縮率を測定した。
【0069】
[製糸性]紡糸連続延伸を行ったときの断糸、毛羽の発生状況から3段階で評価した。
○:非常に良好で長時間の安定製糸が可能。毛羽発生率が2個/万m未満。
×:不安定。毛羽発生率が2個/万m以上。
【0070】
[基布強力、伸度]JIS L1096(ストリップ法)に準拠して測定した。
【0071】
[難燃性]FMVSS302に基づき測定した。
【0072】
[柔軟性]本発明の実施例(比較例)で得られた高密度織物の官能試験を実施した。パネラーとして各10名の成人男性、及び、成人女性を抽出した。500mm(経)×400(緯)mmに裁断した基布を2枚縫い合わせた後、緯方向に2回、経方向に1回折りたたんだ状態で柔軟性の評価を実施し、以下の○×で評価した。
○:12名以上が「柔軟性に優れ、エアベルトとして使用した際に違和感が無い」と解答。
×:0〜11名が「柔軟性に優れ、エアベルトとして使用した際に違和感が無い」と解答。
【0073】
[厚み]JIS1096に基づき測定した。
【0074】
(実施例1〜6、比較例1〜8)[極細繊維の製造]
島成分用ポリマとして、表1のリン量となるように2−(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)エチル]メチルホスフィン酸を共重合し、表1記載の固有粘度(IV)を有するポリエチレンテレフタレート共重合体(Co−PET(A))を、海成分用ポリマとして、固有粘度が0.55の5−ナトリウムスルホイソフタル酸を5.0%モル共重合したポリエチレンテレフタレート共重合体(Co−PET(B))を用いて、エクストルーダー型海島複合紡糸機を用いて2成分溶融複合紡糸を行った。溶融ポリマはギヤポンプ内にて表1の海島比率、及び、総繊度となるように計量し、それぞれパック中で20μの金属不織布フィルターで濾過した後、表1に示す口金から紡出した。口金面より3cm下には15cmの加熱筒および15cmの断熱筒を取り付け、筒内雰囲気温度が300℃となるように加熱した。ここで筒内雰囲気温度とは、加熱筒長の中央部で、内壁から1cm離れた部分の空気層温度である。加熱筒の直下には環状吹きだし型チムニーを取り付け、糸条に30℃の冷風を35m/分の速度で吹き付け冷却固化した後、糸条に油剤を付与し、表面速度600m/分の速度で回転する1FRに捲回して引き取った。
【0075】
引き取った糸条は一旦巻き取ることなく延伸工程において総倍率5.6倍で延伸し、巻取り機にて巻き取った。この時、1FRと2FRとの間で3%のストレッチ処理、2FRと1DR間で第1段延伸し、1DRと2DR間で第2段延伸、2DRとRR間で3%の弛緩処理を施し、第1段延伸においては総延伸倍率の7割を、第2段延伸においては残りの3割の延伸を実施した。また、1FRは非加熱、2FRは90℃、1DRは110℃、2DRは210℃、RRは非加熱とし、ローラへの糸条の捲周回数はそれぞれ、3回、4回、4回、5回、4回とした。得られた繊維物性を評価して表1および表2に示した。
【0076】
また、得られた複合繊維を3g/lのマレイン酸溶液(130℃)で60分間処理した後、9g/lの水酸化ナトリウム溶液(90℃)で海成分を除去して得られた極細繊維物性を評価して表1および表2に示した。
【0077】
【表1】

【0078】
【表2】

【0079】
表1および表2より明らかなように、本発明の難燃性極細繊維は機械的強度に優れ、且つ製糸性良く得ることが可能である。
【0080】
一方で、リン量が本発明の範囲を超える繊維を製造しようとした場合(比較例2)、固有粘度が本発明の範囲を超える繊維を得ようとした場合(比較例5)においては製糸性良く繊維を得ることが困難であった。
【0081】
海成分比率が本発明の範囲を下回る場合(比較例3)の場合には、製糸性良く繊維を得ることが可能であるが、脱海処理後に得られる極細繊維の割合が少なく、生産性の悪いものとなった。
【0082】
また、海成分比率が本発明の範囲を上回る場合(比較例4)、島成分の吐出圧が本発明の製造方法の範囲を下回る場合(比較例4、比較例6)、脱海後繊維の単糸繊度が本発明の範囲を下回る場合(比較例7)には脱海後に島成分同士の融着が認められた。
【0083】
(実施例7〜9、比較例9〜12)[高密度織物の製造]
表3に示す脱海前複合繊維をウォータージェットルームで平織にて、表3に示す織密度で製織した。得られた織物は、液流染色機を用いて弛緩状態にて3g/lのマレイン酸溶液(130℃)で60分間処理した後、9g/lの水酸化ナトリウム溶液(90℃)で海成分を除去した後、乾燥し、ピンテンターを用いて160℃にて熱セットをおこなった。この時、基布の経方向、緯方向の伸度が表3となるように張力を調整した。また、水酸化ナトリウム溶液での処理時間は、重量測定をおこないながら、海成分が除去されたことを確認して決定した。
【0084】
次いで、この織物に粘度12Pa・sの無溶剤系メチルビニルシリコーン樹脂液をフローティングナイフコーターによりコーティングをおこなった後、190℃で2分間加硫処理し、吐工量13g/mの高密度織物を得た。得られた織物の評価結果を表3に示す。また常法によりエアバッグを製造した。エアバッグの評価結果も織物と同じであった。
【0085】
【表3】

【0086】
表3より明らかなように、本発明の高密度織物は柔軟性、機械強度、柔軟性を満足するものであった。
【0087】
一方で、リンを含有しない極細繊維を用いた場合(比較例9)には燃焼性に問題があり、厚みが本発明の範囲を外れる場合(比較例11)には織物強力が不足してしまう結果であった。また、比較例11の如き基布厚み低減のために織密度を下げた場合には織物の目開きが大きく、品質的に問題のあるものであった。
【0088】
さらに、脱海後の極細繊維の単糸繊度が本発明の範囲を超える場合(比較例10)や、基布強力を高めるために経糸の織密度を増加させた場合(比較例12)には、基布が硬く、柔軟性に課題の有るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2官能性リン化合物をリン量で0.1〜1.5重量%共重合したポリエステルポリマから構成され、固有粘度が0.7〜1.2、単糸繊度が0.05〜1dtex、強度が4.5〜8cN/dtexであることを特徴とする極細ポリエステル繊維。
【請求項2】
島成分ポリマおよび海成分ポリマを口金単孔より同時に溶融複合吐出した後、油剤を付与し、熱延伸をおこなう海島複合繊維の製造方法であって、海島比率が40重量%:60重量%〜10重量%:90重量%であり、島成分ポリマが2官能性リン化合物をリン量で0.1〜1.5重量%共重合したポリエステルポリマであって、島成分ポリマの固有粘度が0.7〜1.3である極細ポリエステル繊維の製造方法。
【請求項3】
海成分ポリマの吐出圧力が2.5〜40MPaであることを特徴とする請求項2に記載の極細ポリエステル繊維の製造方法。
【請求項4】
請求項1の極細ポリエステル繊維を少なくとも一部に用いた、経方向及び緯方向の双方の強力が200〜400N/cm、厚みが0.13〜0.3mmであることを特徴とする高密度織物。
【請求項5】
少なくとも片面に樹脂が被覆されてなることを特徴とする請求項4に記載の高密度織物。
【請求項6】
緯方向の伸度が経方向の伸度より大きい高密度織物であって、緯方向伸度と経方向伸度の差が2〜15%であることを特徴とする請求項4または5に記載の高密度織物。
【請求項7】
エアバッグまたはエアベルト用織物であることを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の高密度織物。

【公開番号】特開2007−182646(P2007−182646A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−1388(P2006−1388)
【出願日】平成18年1月6日(2006.1.6)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】