説明

零入力電流操作式電磁ばね圧ブレーキの騒音防止

機械壁部とブレーキ(1)の間にあって、固定ねじ(16)でこれに固定されるトルク伝達スリーブ(11)を有し、軸方向移動可能なアーマチュアディスク(4)がその周囲に穴を備えており、トルク伝達スリーブ(11)がこの穴に係合してブレーキトルクを周方向に伝達し、トルク伝達スリーブ(11)の外周に溝があって、Oリング(12)がこの溝に挿着されている零入力電流操作式電磁ばね圧ブレーキ。制動時に良好な騒音防止を得るために、本発明に基づきトルク伝達スリーブ(11)の外周区域に、溝に配置されたOリングのほかに少なくとも1個のピストンガイドリング(13)が設けられ、Oリングの溝又は独自の溝に挿着され、周方向にアーマチュアディスクの緩衝、軸方向にすべりを生じさせることを提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、欧州特許EP0907840B1の明細書において、特にその請求項9及び10に記載の周知のブレーキ、特に零入力電流操作式電磁ばね圧ブレーキの騒音防止に関する。
【背景技術】
【0002】
在来のこの種のブレーキでは、ロータの制動の際にブレーキトルクの一方の半分が直接に機械壁部に、他方の半分はロータからブレーキのアーマチュアディスクを介してスリーブに伝達される。スリーブは固定ねじで機械壁部にねじ止めされているから、ブレーキトルクの他方の半分は機械壁部に伝達される。こうして制動の際に全ブレーキトルクが固定機械壁部に伝達される。
【0003】
制動の際にアーマチュアディスクはばね圧により、2つの摩擦ライニングを有するロータに押し付けられる。これは極めて短時間(ミリ秒範囲)で行われ、急ブレーキによりスリーブに接するアーマチュアディスクの衝撃音や摩擦音、いわゆるキーキー音が発生する。
【0004】
スリーブ外径とアーマチュアディスクの間に僅かなすき間しかないスリーブへのアーマチュアディスクの衝撃によって、有害な負荷伝達騒音及びキーキー音が生じる。しかし特にエレベータ技術では極めて静粛なブレーキが要求される。
【0005】
欧州特許EP0907840B1では軸方向移動可能かつ回転不能に結合されたコイル支えをスリーブのOリングによって中間位置に保持し、制動の際に緩衝効果を得た。しかしこの効果は最適ではなかったので、別の解決策により騒音防止を一層改善しようと努めた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、アーマチュアディスクとスリーブの間で緩衝効果を得ることを課題とするものである。該スリーブはねじ止めして固定され、該アーマチュアディスクはスリーブの上に軸方向移動可能に支承される。即ち周方向回転不能にスリーブと結合されている。一方ではすき間がなるべく小さくなければならず、他方ではアーマチュアディスクが適当な処置により軸方向に軽快に移動でき、周方向に緩衝が行われなければならない。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0007】
この課題の解決は、請求項1の特徴によって、即ちOリングに加えて、補助溝又は同じ溝に挿入した少なくとも1個のピストンガイドリングをスリーブの外周に又は外周に接して設けることによって達成される。
【0008】
こうして本発明においては、トルク伝達スリーブ(11)の外周に少なくとも1個の別のピストンガイドリング(13)が挿入された構成とする。該ピストンガイドリング(13)はOリングの溝又は独自の溝に挿入され、周方向にアーマチュアディスクの緩衝を生じさせるとともに軸方向にすべりを生じさせる。
【0009】
ピストンガイドリングは非常に優れたすべり特性でアーマチュアディスクの軸方向運動を許すが、アーマチュアディスクはもはやスリーブを直接衝撃せず、ピストンガイドリングによってスリーブから引き離されているから、周方向の緩衝が得られる。制動の際にトルク衝撃によって周方向に高い荷重が伝達されるが、ピストンガイドリングによってこれを吸収することができる。Oリングしかなくて、これが緩衝にも寄与するとしても、高い荷重、すなわち衝撃的なブレーキトルクがかかるとアーマチュアディスクとスリーブの衝突が起こり、このため望ましくない騒音が発生することになる。
【0010】
Oリングはスリーブ11を定心、すなわちセンター位置に保持し、軸方向に沿ってアーマチュアディスク4を保持する役割がある。従って、ブレーキの輸送及び組立の際にトルク伝達スリーブ11は外れることが不可能となる。
【0011】
これの代案として、複数のOリング12及びピストンガイドリング13を挿入し、これらのリングが各々独自に1つの溝を得るか、又は共同で1つの溝を分かち合うようにすることができる。
【0012】
またOリング12及びピストンガイドリング13のための溝がトルク伝達スリーブ11にではなく、アーマチュアディスク4の穴にあって、Oリング12とピストンガイドリング13がアーマチュアディスク4に固定され、平滑なトルク伝達スリーブ11の上で軸方向にすべるようにすることができる。
【0013】
さらに、制動のために複数個のトルク伝達スリーブ11が周囲に配分され、とりわけ3個又は4個のトルク伝達スリーブ11が均等に配分される構成が好ましい。
【0014】
なおトルク伝達スリーブ11の周囲の形状は円形だけでなく、例えば、楕円形、多角形又は長方形等の他の形状とすることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1はエレベータ技術で多重ブレーキシステムとして使用される、ダブルブレーキとしての零入力電流操作式電磁ばね圧ブレーキを示す。ブレーキ1及びブレーキ2は固定ねじ10又は16及びトルク伝達スリーブ15又は11により、図示しない機械壁部(図1の左側)にねじ止めされる。
【0016】
ブレーキ2は同じ機能を有するから、以下ではブレーキ1だけを説明する。
【0017】
電磁石コイル3に電流が付与されると、アーマチュアディスク4は圧縮ばね8に抗してブレーキ1に引き付けられ、2つの摩擦ライニング6を有するブレーキロータ5は自由に回転することができる。ロータ5は周囲の歯によって、同じく周囲に歯を付けたボス7と結合されている。ボス7は図示しないシャフトにブレーキトルクを伝達する。
【0018】
次にブレーキ1から電流が除かれると、磁界が崩壊し、アーマチュアディスク4は周囲に配分された複数個の圧縮ばね8によって、詳しく図示しない機械壁部に向かって2つの摩擦ライニング6に押し付けられる。歯付きボス7と結合されたロータ5がこうして制動され、シャフトが停止する。この制動操作でアーマチュアディスク4は回転方向にトルク伝達スリーブ11に押し付けられる。ブレーキトルクの半分はこうしてトルク伝達スリーブ11によって伝達され、他方の半分はブレーキロータ5から直接に左側の摩擦ライニング6を経て図示しない機械壁部に伝達される。
【0019】
図2はトルク伝達スリーブ11の細部Xを拡大して示す。ここにおいて、Oリング12に加えてピストンガイドリング13が、アーマチュアディスク4の軸方向に沿う長さの範囲内で、Oリングと並んで、その近傍でトルク伝達スリーブ11の外周に沿ってそれぞれ1つの溝に挿入されている。これらの溝は小さな軸方向相互間隔を有する。該ピストンガイドリング13が設けられた部位は、アーマチュアディスク4とトルク伝達スリーブ11の間の外周区域である。ブレーキ1の固定ねじ16はトルク伝達スリーブ11の内孔を貫通する。それによってトルク伝達スリーブ11は図示しない機械壁部及びブレーキ1に押し付けられ、こうしてブレーキトルクの半分が伝達される。
【0020】
ピストンガイドリング13は優れたすべり特性を有するとともに横断面がおおむね、あるいは実質的に長方形状ないし矩形状をなし、PTFEプラスチックよりなる帯条で構成され、溝の周囲の長さに対応しているとともにスリーブ11の所定の溝に挿入される。ピストンガイドリング13は回転方向に高い、あるいは強い表面圧力を許すと同時に、優れた軸方向すべり特性を有する。
【0021】
ブレーキ1の切替えの際にアーマチュアディスク4は、例えば不等な磁力のため必ずしも平行にロータの回転平面に対して移動されないから、スリーブ11のピストンガイドリング13に強い力と傾きが生じ、Oリング12だけではこれを抑制することができない。
【0022】
単数個又は複数個のピストンガイドリング13の優れた軸方向すべり特性によって、アーマチュアディスク4は自動的にスリーブ11と、より一層平行に案内され、スリーブ11との接触が起こらず、金属同士の摺動による望ましくない騒音が生じない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る実施例の零入力電流操作式電磁ばね圧ブレーキの縦断面図である。
【図2】図1に示すばね圧ブレーキにおけるトルク伝達スリーブの細部Xの拡大図である。
【符号の説明】
【0024】
1 ブレーキ1
2 ブレーキ2
3 電磁石コイル
4 アーマチュアディスク
5 ロータ
6 摩擦ライニング
7 歯付きボス
8 圧縮ばね
9 ブレーキ2のロータ
10 ブレーキ1及びブレーキ2の固定ねじ
12 Oリング
13 ピストンガイドリング
14 ブレーキ2のアーマチュアディスク
15 ブレーキ2のトルク伝達スリーブ
16 ブレーキ1の固定ねじ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械壁部とブレーキ(1)の間にあって、固定ねじ(16)でこれに固定されるトルク伝達スリーブ(11)を有し、軸方向移動可能なアーマチュアディスク(4)がその周囲に穴を備えており、該トルク伝達スリーブ(11)が該穴に係合してブレーキトルクを周方向に伝達し、該トルク伝達スリーブ(11)の外周に溝があって、Oリング(12)が該溝に挿着されている零入力電流操作式電磁ばね圧ブレーキにおいて、
前記トルク伝達スリーブ(11)の外周区域において前記溝に挿着されたOリングと並んで少なくとも1個のピストンガイドリング(13)が設けられるとともに該Oリングの挿着された溝又は独自の溝に挿着され、周方向にアーマチュアディスクの緩衝を生じさせるとともに軸方向にすべりを生じさせることを特徴とするブレーキ。
【請求項2】
該ピストンガイドリング(13)が該トルク伝達スリーブ(11)の溝の周囲の長さに対応したPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)のプラスチックの帯条であることを特徴とする請求項1に記載のブレーキ。
【請求項3】
代案として複数個の該Oリング(12)及び該ピストンガイドリング(13)をそれぞれ単数個又は複数個の溝に挿着することを特徴とする上記請求項のいずれか1つに記載のブレーキ。
【請求項4】
前記Oリング(12)及びピストンガイドリング(13)のための前記溝が該トルク伝達スリーブ(11)ではなく該アーマチュアディスク(4)の該穴にあり、これによって該Oリング(12)及びピストンガイドリング(13)が該アーマチュアディスク(4)に固定されるとともに、平滑な該トルク伝達スリーブ(11)の上で軸方向にすべることを特徴とする上記請求項のいずれか1つに記載のブレーキ。
【請求項5】
ブレーキのために複数個の前記トルク伝達スリーブ(11)が周囲に配分され、とりわけ3個又は4個のトルク伝達スリーブ(11)が均等に配分されていることを特徴とする上記請求項のいずれか1つに記載のブレーキ。
【請求項6】
前記トルク伝達スリーブ(11)の周囲の形状が円形でなく、例えば楕円形、多角形又は長方形に形成されていることを特徴とする上記請求項のいずれか1つに記載のブレーキ。
【請求項7】
前記トルク伝達スリーブ(13)がPTFE、又は同様なすべり特性及び高い許容表面圧力を有する同等な代替材料で形成されていることを特徴とする上記請求項のいずれか1つに記載のブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−537745(P2009−537745A)
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−508258(P2009−508258)
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【国際出願番号】PCT/EP2007/004205
【国際公開番号】WO2007/131726
【国際公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(500400308)ツェーハーエル・マイヤー・ゲーエムベーハー・ウント・コンパニー・カーゲー (8)
【Fターム(参考)】