説明

電動アクチュエータ

【課題】産業機械等への適用が容易であり、かつ、耐久性にすぐれた電動アクチュエータを提供する。
【解決手段】電動アクチュエータ1は、内周面にねじ溝7が形成され、端部に開口8を有するシリンダ2と、開口8からシリンダ2の内部に挿入される基端部3a及びその反対側でシリンダ2外部の先端部3bを有するロッド3と、ロッド3の基端部3aに対してねじ溝7の中心軸と同軸回りに相対回転可能で、かつ、中心軸の方向にロッド3と一体に移動するように連結され、外周面にねじ溝7に螺合するねじ山11を有するねじ部材5と、ねじ部材5をロッド3に対して相対的に回転駆動させることにより、ねじ部材5及びロッド3を中心軸の方向に直線移動させるモータ4とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業機械や建設機械などに用いられる、伸縮運動を行なう電動アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
産業機械や建設機械などの分野においては、大きな推力で直線駆動を行うアクチュエータとして、油圧シリンダが広く用いられている。しかし、油圧シリンダは、油圧の調節によって制御を行うので、位置制御の精度や応答性を向上することが難しいという問題がある。
【0003】
そこで、近年、位置制御の精度や応答性を向上できるアクチュエータとして、電動アクチュエータが種々開発されている。
【0004】
例えば、特許文献1および2に記載されている電動アクチュエータは、回転駆動力を直線駆動力に変換するボールねじ構造などの変換機構を電動モータに結合した構造を有している。これらの電動アクチュエータでは、電動モータの回転駆動力を変換機構で直線駆動力に変換して、シリンダ内部のロッドを往復直線移動させている。
【0005】
このような特許文献1および特許文献2に開示された電動アクチュエータは、シリンダ部分の外部に電動モータや減速機構が取り付けられた、いわゆる外付けの構成になっている。そのため、電動アクチュエータユニット全体が、油圧シリンダと比較して大きくなっている。したがって、このような電動アクチュエータは、設置スペースの制約から産業機械や建設機械へ適用することが困難である。
【0006】
そこで、小型の電動アクチュエータとして、特許文献3に記載されているように、電動モータのロータ内部に、波動歯車装置(例えば、ハーモニックドライブ(登録商標))およびねじ構造部分を収納した構造の電動アクチュエータが提案されている。ねじ構造部分は、出力側のロッドの外周面に形成されたおねじと、ロッド外周面を覆う筒体の内周面のめねじとから構成されている。筒体は、波動歯車装置の従動側のフレックススプラインに連結されている。
【0007】
この特許文献3記載の電動アクチュエータでは、モータのロータが回転することで、ロータ内部において、ロータの回転運動を波動歯車装置で減速し、減速された回転運動をねじ構造部分で直線運動に変換することにより、ロッドを直線運動させている。このように、ロータの内部に減速機構および運動変換機構が内蔵されているので、アクチュエータ全体がコンパクトになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開2006/106817号公報
【特許文献2】特開平2―273049号公報
【特許文献3】特開平7―123631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献3記載の電動アクチュエータは、出力側のロッドが回転しながら直線運動する構造を有しているので、直線運動のみを行う油圧シリンダが適用された従来の産業機械や建設機械にそのまま適用することが困難である。
【0010】
このため、この特許文献3記載の電動アクチュエータを産業機械や建設機械に適用するためには、産業機械等の取付部位に、ロッドの回転を受けながらロッド端部と結合できる軸受けや治具を必要とするので、産業機械等の構造を変更する必要がある。
【0011】
また、特許文献3記載の電動アクチュエータでは、ロッドの外周面にねじ溝が形成されているため、ロッドのストロークを長くしたい場合には、長いロッドが必要であると共にその外周面のねじ溝が形成される範囲も広くする必要がある。
【0012】
したがって、長いロッドの伸縮動作を行ったときに、ロッド外周面のねじ溝がアクチュエータのケーシングの外部へ露出するおそれがある。ねじ溝が外部に露出すれば、ねじ溝にごみやチリが付着したり、さらには、ねじの噛み合い部分において異物のかみ込みが生じやすくなる。また、ねじ溝が外部に露出して劣悪な環境(例えば、湿度が多い環境)に曝されることによって、ねじ溝の部分が腐食しやすくなり、ねじの噛み合い部分が磨耗や破損しやすくなる。
【0013】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、産業機械等への適用が容易であり、かつ、耐久性にすぐれた電動アクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するためのものとして、本発明の電動アクチュエータは、内周面にねじ溝が形成され、端部に開口を有するシリンダと、前記開口から前記シリンダの内部に挿入される基端部及びその反対側で前記シリンダ外部に位置する端部である先端部を有するロッドと、前記ロッドの基端部に対して前記ねじ溝の中心軸と同軸回りに相対回転可能で、かつ、当該中心軸の方向に前記ロッドと一体に移動するように連結され、外周面に前記ねじ溝に螺合するねじ山を有するねじ部材と、前記ねじ部材を前記ロッドに対して相対的に回転駆動させることにより、当該ねじ部材及び前記ロッドを前記中心軸の方向に直線移動させるモータとを備えていることを特徴とする(請求項1)。
【0015】
この構成によれば、電動アクチュエータは、シリンダの内周面にねじ溝が形成され、そのねじ溝に噛み合うねじ部材が、シリンダの内部に挿入されるロッドの基端部に対してねじ溝の中心軸と同軸回りに相対回転可能で、かつ、当該中心軸の方向にロッドと一体に移動するように連結されている。そして、モータによって、ねじ部材をロッドに対して相対的に回転駆動させることにより、モータの回転駆動力を受けたねじ部材がシリンダ内部をねじ溝と噛み合いながら回転し、ねじ部材およびロッドはねじ溝の中心軸の方向にシリンダの内部を直線移動する。このように、モータの回転運動を、シリンダおよびロッドを伸縮させる直線運動へ変換することによって、シリンダおよびロッドを回転運動させずに従来の油圧シリンダと同様に伸縮運動させることができる。
【0016】
さらに、ねじ部材がロッドにおけるシリンダ内側の基端部に取り付けられているので、ロッドがシリンダの外部へ伸びていっても、ねじ部材はシリンダの外部に露出しない。そのため、ねじ部材のねじ山にごみやチリが付着したり、ねじの噛み合い部分に異物のかみ込みが生じるおそれがない。また、ねじ山の腐食も抑えることができるので、電動アクチュエータの耐久性が向上する。
【0017】
前記モータは、前記ロッドの内部に設けられたモータ本体と、前記ロッドに対して相対的に回転可能な駆動軸とを有しており、前記ねじ部材は、前記駆動軸に結合されているのが好ましい(請求項2)。
【0018】
この構成によれば、モータ本体がロッドに内蔵されているので、電動アクチュエータ全体の小型化が可能である。しかも、モータ本体が回転しないロッドの内部に設けられているので、電動アクチュエータ全体の小型化が可能でありモータの取付けおよび配線が容易になっている。とくに、モータ本体をねじ部材の内部に設ける場合と比較して、モータの取付けおよび配線はより容易になる。
【0019】
また、前記ねじ部材は、外周面に前記ねじ山が形成されたねじ部材本体と、前記ねじ部材本体の内部に設けられ、前記モータの回転駆動力を前記駆動軸から前記ねじ部材本体へ伝達する減速機構とを有しているのが好ましい(請求項3)。
【0020】
この構成によれば、ねじ部材本体の内部に減速機構を備えているので、モータの回転運動を大きい減速比でねじ部材本体へ伝達することが可能である。
【0021】
さらに、前記減速機構は、遊星歯車装置からなり、前記遊星歯車装置は、前記駆動軸に固定された太陽歯車と、前記ねじ部材本体に固定され、前記太陽歯車の周囲を取り囲むように配置された内歯車と、前記内歯車の内側に配置され、前記太陽歯車から前記内歯車へ駆動力を伝達する遊星歯車と、前記ロッドの基端部に固定され、前記遊星歯車を支持する遊星キャリアとを有するのが好ましい(請求項4)。
【0022】
この構成によれば、減速機構が遊星歯車装置からなり、駆動側の太陽歯車が駆動軸に固定され、従動側の内歯車がねじ部材本体に固定され、遊星キャリアが回転しないロッドの基端部に固定されているので、ねじ部材本体内部の小さい空間にこれらの太陽歯車、遊星歯車および内歯車を収容でき、しかも、大きな減速比を得ることが可能である。
【0023】
また、前記減速機構は、遊星歯車装置からなり、前記遊星歯車装置は、前記駆動軸に固定された太陽歯車と、前記ロッドの基端部に固定され、前記太陽歯車の周囲を取り囲むように配置された内歯車と、前記内歯車の内側に配置され、前記太陽歯車から前記内歯車へ駆動力を伝達する遊星歯車と、前記ねじ部材本体に固定され、前記遊星歯車を支持する遊星キャリアとを有するのが好ましい(請求項5)。
【0024】
この構成によれば、減速機構が遊星歯車装置からなり、駆動側の太陽歯車が駆動軸に固定され、従動側の遊星キャリアがねじ部材本体に固定され、内歯車が回転しないロッドの基端部に固定されているので、ねじ部材本体内部の小さい空間にこれらの太陽歯車、遊星歯車および内歯車を収容でき、しかも、さらに大きな減速比を得ることが可能である。
【0025】
さらに、前記減速機構は、遊星歯車装置からなり、前記遊星歯車装置は、前記ロッドの基端部に固定された太陽歯車と、前記駆動軸に結合され、前記太陽歯車の周囲を取り囲むように配置された内歯車と、前記内歯車の内側に配置され、前記太陽歯車から前記内歯車へ駆動力を伝達する遊星歯車と、前記ねじ部材本体に固定され、前記遊星歯車を支持する遊星キャリアとを有するのが好ましい(請求項6)。
【0026】
この構成によれば、減速機構が遊星歯車装置からなり、駆動側の内歯車が駆動軸に結合され、従動側の遊星キャリアがねじ部材本体に固定され、太陽歯車が回転しないロッドの基端部に固定されているので、ねじ部材本体内部の小さい空間にこれらの太陽歯車、遊星歯車および内歯車を収容でき、しかも、大きな減速比を得ることが可能である。
【0027】
さらに、前記減速機構は、波動歯車装置からなり、前記波動歯車装置は、前記駆動軸に固定された楕円形のウェーブジェネレータと、前記ねじ部材本体に固定され、前記ウェーブジェネレータの外周面に沿って弾性変形して配置され、外周面に歯を有するフレクスプラインと、前記ロッドにおける前記シリンダ内側の基端部に固定され、前記フレクスプラインの周囲を取り囲むように配置され、内周面に前記フレクスプラインの歯と噛み合う歯を有する円形のサーキュラスプラインとを有するのが好ましい(請求項7)。
【0028】
この構成によれば、減速機構が波動歯車装置からなり、駆動側のウェーブジェネレータが駆動軸に固定され、従動側のフレクスプラインがねじ部材本体に固定され、サーキュラスプラインが回転しないロッドの基端部に固定されているので、ねじ部材本体内部の小さい空間にこれらのウェーブジェネレータ、フレクスプラインおよびサーキュラスプラインを収容でき、しかも、非常に大きな減速比を得ることが可能である。しかも、波動歯車装置は、部品点数が少ないので、組立てが容易である。
【発明の効果】
【0029】
以上説明したように、本発明の電動アクチュエータによれば、従来の油圧シリンダとの置換えが可能であるので、産業機械や建設機械へ適用が容易である。しかも、ねじ部材のねじ山がシリンダの外部に露出しないので、電動アクチュエータの耐久性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1実施形態に係わる電動アクチュエータの縦断面図である。
【図2】図1の電動アクチュエータのねじ部材付近の拡大断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係わる電動アクチュエータのねじ部材付近の拡大断面図である。
【図4】図3の遊星歯車機構を駆動軸の延びる方向から見た図である。
【図5】本発明の第2実施形態の変形例に係わる電動アクチュエータのねじ部材付近の拡大断面図である。
【図6】図5の遊星歯車機構を駆動軸の延びる方向から見た図である。
【図7】本発明の第2実施形態の他の変形例に係わる電動アクチュエータのねじ部材付近の拡大断面図である。
【図8】図7の遊星歯車機構を駆動軸の延びる方向から見た図である。
【図9】本発明の第3実施形態に係わる電動アクチュエータのねじ部材付近の拡大断面図である。
【図10】図9の波動歯車機構を駆動軸の延びる方向から見た図であり、駆動軸の回転角度が0度のときの状態を示す図である。
【図11】駆動軸の回転角度が90度のときの波動歯車機構の状態を示す図である。
【図12】駆動軸の回転角度が180度のときの波動歯車機構の状態を示す図である。
【図13】駆動軸の回転角度が360度のときの波動歯車機構の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の電動アクチュエータの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0032】
(第1実施形態)
図1〜2に示される電動アクチュエータ1は、シリンダ2と、ロッド3と、モータ4と、ねじ部材5とを備えている。
【0033】
シリンダ2は、円筒状の筒体からなる。シリンダ2の一方の端部2aには、開口8が形成されている。シリンダ2の他方の端部2bは、閉じられており、ブラケット12が取り付けられている。ブラケット12は、産業機械や建設機械などの可動部分またはその近傍(例えば、アームまたはアームの台座など)に連結される。
【0034】
シリンダ2の内周面2cには、ねじ溝7が形成されている。ねじ溝7は、シリンダ2のほぼ全長にわたって形成されている。なお、シリンダ2の内部のねじ溝7を形成する場合、両端部2a、2bを有しない状態のシリンダ2の胴部の内面を切削加工してねじ溝7を形成し、その後、両端部2a、2bを胴部にロウ付けまたは溶接すればよい。
【0035】
ロッド3は、開口8からシリンダ2の内部に挿入される基端部3a及びその反対側でシリンダ2の外部に位置する端部である先端部3bを有する棒状の部材である。また、ロッド3の基端部3aには、開口13が形成されている。ロッド3の先端部3bは、閉じられており、ブラケット14が取り付けられている。ブラケット14は、産業機械や建設機械などの可動部分またはその近傍(例えば、アームまたはアームの台座など)に連結される。
【0036】
また、ロッド3の内部には、モータ本体9を収容する空間部15が形成されている。モータ4は、ロッド3の内部に設けられたモータ本体9と、駆動軸10とを有する。モータ本体9は、ケーシング16と、ケーシング16内部に収納されたステータ(固定子)17と、ステータ17の内側に回転自在に設置されたロータ(回転子)18とから構成されている。ロータ18には、駆動軸10が同軸状に固定されている。
【0037】
モータ4は、ねじ部材5をロッド3に対して相対的に回転駆動させることにより、ねじ部材5及びロッド3を中心軸CLの方向に直線移動させる。
【0038】
ケーシング16は、ロッド3の空間部15の内壁19にロウ付けなどによって固定されている。なお、ケーシング16の他の固定方法として、例えば、ロッド3の内壁19およびケーシング16にそれぞれ凹部または凸部を設けておき、これら凹部と凸部を結合することによってケーシング16を固定してもよい。さらには、モータのステータ17をロッド3の空間部15に直接はめ込むことにより、ロッド3自体をモータ本体9のケーシングとして用いてもよい。
【0039】
駆動軸10は、ロッド3の基端部3aの開口13からシリンダ2の内部へ突出している。
【0040】
モータ4は、モータ本体9がロッド3に内蔵されているので、電動アクチュエータ全体の小型化が可能である。しかも、モータ本体9が回転しないロッド3の内部に設けられているので、モータ4の取付けおよび配線が容易になっている。なお、モータ本体9をねじ部材5の内部に設けてもよい。
【0041】
モータ4へ電力を供給する電線20は、ロッド3の空間部15を通り、ロッド3の先端部3b付近から外部へ引き出され、図示しない外部電源に接続されている。電線20に流れる電流の向きを切り換えることにより、モータ4の回転方向を正逆いずれにも切り換えることができる。
【0042】
図2に示されるねじ部材5は、ロッド3の基端部3aに対してねじ溝7の中心軸CLと同軸回りに相対回転可能で、かつ、中心軸CLの方向にロッド3と一体に移動するように連結されている。ロッド3の外周面には、ねじ溝7に螺合するねじ山11が形成されている。
【0043】
第1実施形態のねじ部材5は、その外周面にねじ山11が形成された中実の円柱体からなり、駆動軸10に直接固定されている。そのため、モータ4の回転駆動力がねじ部材5に直接伝達される。したがって、ねじ部材の構造が簡単である。さらに、ねじ部材5は、中実の円柱体であるので、強度も高い。
【0044】
図2に示されるねじ溝7およびねじ山11では、三角形断面の形状をしたねじ構造(三角ねじの構造)が採用されているが、その他のねじ山の形状を採用してもよい。例えば、台形ねじの構造にすれば、ねじの噛み合い部分の耐久強度が向上し、シリンダ2およびロッド3に作用する大きな引張荷重または圧縮荷重に耐えることができる。
【0045】
以上のように構成された第1実施形態の電動アクチュエータ1では、シリンダ2の内周面にねじ溝7が形成され、そのねじ溝7に噛み合うねじ部材5が、シリンダ2の内部に挿入されるロッド3の基端部3aに対してねじ溝7の中心軸CLと同軸回りに相対回転可能で、かつ、中心軸CLの方向にロッド3と一体に移動するように連結されている。そして、モータ4は、ねじ部材5をロッド3に対して相対的に回転駆動させることにより、ねじ部材5及びロッド3を中心軸の方向に直線移動させる。
【0046】
これにより、ロッド3の内部のモータ4の回転駆動力によりねじ部材5を正回転または逆回転させたとき、ねじ部材5は、ねじ山11がシリンダ2の内周面2cのねじ溝7と噛み合いながら回転し、ねじ部材5およびロッド3は、ねじ溝7の中心軸CLの方向にシリンダ2の内部を往復直線移動する。その結果、モータ4の回転運動を、シリンダ2およびロッド3を相対的に伸縮させる直線運動へ変換することができる。
【0047】
なお、ロッド3の先端部3bは、産業機械や建設機械などの可動部分またはその近傍に連結されているので、ロッド3は、ねじ部材5が回転するときに生じる反力を受けても、シリンダ2に対して相対的に回転しない状態で、シリンダ2の内部を直線移動することができる。
【0048】
なお、ロッド3とシリンダ2との間に、ロッド3がシリンダ2に対して相対的に回転するのを防止するために回り止めを設けてもよい。
【0049】
また、ねじ部材5は、モータ4の回転運動を直線運動へ変換するときに減速させる機能も有している。つまり、モータ4の駆動力によってねじ部材5がシリンダ2の内部を回転運動するとき、ねじ部材5の周速度よりもはるかに遅い直線移動速度へ減速させることができる。この減速に関する減速比は、ねじ部材5のねじ山11のねじピッチによって決定される。
【0050】
以上のように構成された電動アクチュエータ1では、ねじ部材5がシリンダ2の内部を回転しながら直線移動するが、ロッド3自体は、回転しないでシリンダ2に対して直線移動するのみである。したがって、シリンダ2およびロッド3を回転運動させずに、従来の油圧シリンダと同様の伸縮運動のみを実現することが可能である。その結果、従来の油圧シリンダが適用されている産業機械や建設機械の構造を変更させることなく、本発明の電動アクチュエータ1を容易に適用することができる。
【0051】
さらに、この電動アクチュエータ1では、シリンダ2およびロッド3が長距離にわたって伸縮しても、ロッド3の基端部3aに位置するねじ部材5がシリンダ2の外部に露出しないようになっている。したがって、ねじ部材5のねじ山11が外部に露出しないので、電動アクチュエータ1の耐久性が向上する。
【0052】
また、シリンダ2の外部に露出するロッド3は、油圧シリンダのロッドと同様に外周面にねじ山が形成されていない滑らかな外周面を有している。そのため、ロッド3の外周面に、油圧シリンダのロッド外周面と同様の耐磨耗、耐腐食用のコーティングを施せば、劣悪な環境下でも、高い耐久性を維持してロッド3を使用することが可能である。
【0053】
なお、本発明において、ロッド3の内部に収容されるモータ4については、ロッド3の内部に収容可能であり、かつ、ねじ部材5を回転させることが可能であれば、どのような電動機でもよく、いかなる種類、方式、または構造の電動機を採用してもよい。
【0054】
(第2実施形態)
上記の第1実施形態では、ねじ部材5がモータ4の回転駆動力を直線駆動力へ変換するときに減速させているが、さらに、減速比を大きくしたい場合には、ねじ部材の内部に遊星歯車機構などの減速機構を有する構造にしてもよい。
【0055】
すなわち、第2実施形態の電動アクチュエータ21では、図3〜4に示されるように、ねじ部材22は、ねじ部材本体23と、遊星歯車機構24とを有している。なお、図3〜4において、図1〜2の符号と同一の符号が付された部分は、図1〜2と同一の部分を指しているものとする。
【0056】
ねじ部材本体23は、その外周面にねじ山11が形成されている円注体である。ねじ部材本体23の端部23aには、凹部23bが形成されている。
【0057】
遊星歯車機構24は、ねじ部材本体23の凹部23bの内部に設けられている。遊星歯車機構24は、モータ4の回転駆動力を駆動軸10からねじ部材本体23へ伝達する減速機構である。
【0058】
具体的には、遊星歯車機構24は、太陽歯車25と、内歯車26と、複数の遊星歯車27と、遊星キャリア28とを備えている。
【0059】
太陽歯車25は、駆動軸10に固定されており、駆動側の歯車として機能する。
【0060】
内歯車26は、ねじ部材本体23の凹部23bの内周面に固定されており、従動側の歯車として機能する。内歯車26は、太陽歯車25の周囲を取り囲むように配置されている。
【0061】
複数の遊星歯車27は、内歯車26の内側に配置され、太陽歯車25から内歯車26へ駆動力を伝達する。
【0062】
遊星キャリア28は、複数の遊星歯車27を互いに所定間隔をあけて回転自在に支持する部材である。遊星キャリア28は、ロッド3の基端部3aに固定されている。そのため、複数の遊星歯車27は、太陽歯車25の周りを公転せずに自転のみを行うことが可能である。
【0063】
図3〜4に示される遊星歯車機構24では、モータ4の駆動軸10から入力された回転駆動力によって太陽歯車25が回転する。太陽歯車25に噛み合う遊星歯車27は、太陽歯車25の回転方向と逆方向に回転する。遊星歯車27に噛み合う内歯車26は、遊星歯車27と同じ方向へ減速しながら回転する。内歯車26が固定されたねじ部材本体23は、内歯車26とともに回転する。
【0064】
この場合、内歯車26の歯数N2に対する太陽歯車25の歯数N1の比率(N1/N2)が減速比となるので、モータ4の回転運動を大幅に減速してねじ部材本体23へ伝達することが可能である。
【0065】
以上のように、第2実施形態では、ねじ部材本体23内部に遊星歯車機構24が設けられ、駆動側の太陽歯車25が駆動軸10に固定され、従動側の内歯車26がねじ部材本体23に固定され、遊星キャリア28が回転しないロッド3の基端部3aに固定されているので、ねじ部材本体23内部の小さい空間にこれらの太陽歯車25、遊星歯車27および内歯車26を収容でき、しかも、大きな減速比を得ることが可能である。また、第2実施形態の変形例として、図5〜6に示されるように、遊星歯車機構24の遊星キャリア28を、従動側として、ねじ部材本体23に固定し、内歯車26を太陽歯車25の周りを公転しないようにロッド3の基端部3aに固定してもよい。なお、駆動側の太陽歯車25は、図3〜4と同様に、駆動軸10に固定されている。
【0066】
すなわち、図5〜6に示される変形例の遊星歯車機構24は、駆動軸10に固定された太陽歯車25と、ロッド3の基端部3aに固定され、太陽歯車25の周囲を取り囲むように配置された内歯車26と、内歯車26の内側に配置され、太陽歯車25から内歯車26へ駆動力を伝達する遊星歯車27と、ねじ部材本体23に固定され、遊星歯車27を支持する遊星キャリア28を有する構成となっている。遊星キャリア28は、ねじ部材本体23の凹部23bの内奥面23cに固定されている。
【0067】
このような図5〜6に示される変形例の遊星歯車機構24は、以下のようにして減速動作を行う。まず、モータ4の駆動軸10から入力された回転駆動力によって太陽歯車25が回転すると、太陽歯車25に噛み合う遊星歯車27は、太陽歯車25の回転方向と逆方向に回転する。このとき、遊星歯車27は、ロッド3の基端部3aに固定された内歯車26と噛み合いながら、太陽歯車25の回転方向と同じ方向に公転する。それとともに、遊星歯車27を固定する遊星キャリア28も、遊星歯車27とともに公転する。その結果、遊星キャリア28が固定されたねじ部材本体23は、遊星キャリア28とともに回転する。
【0068】
この場合、太陽歯車25の歯数N1と内歯車26の歯数N2の和に対する太陽歯車25の歯数N1の比率(N1/(N1+N2))が減速比となるので、モータ4の回転運動をより大きな減速比で減速してねじ部材本体23へ伝達することが可能である。
【0069】
また、第2実施形態の他の変形例として、図7〜8に示されるように、内歯車26を、駆動側として、駆動軸10に結合し、遊星歯車機構24の遊星キャリア28を、従動側として、ねじ部材本体23に固定し、太陽歯車25をロッド3の基端部3aに固定してもよい。
【0070】
すなわち、図7〜8に示される変形例の遊星歯車機構24は、ロッド3の基端部3aに固定された太陽歯車25と、駆動軸10に結合され、太陽歯車25の周囲を取り囲むように配置された内歯車26と、内歯車26の内側に配置され、太陽歯車25から内歯車26へ駆動力を伝達する遊星歯車27と、ねじ部材本体23に固定され、遊星歯車27を支持する遊星キャリア28とを有するを有する構成となっている。遊星キャリア28は、ねじ部材本体23の凹部23bの内奥面23cに固定されている。
【0071】
また、図7に示される内歯車26は、モータ4の回転駆動力を受けるために、駆動軸10の出力歯車10aと、両端に歯車29a、29bを有する伝達軸29とを介して、駆動軸10に結合している。伝達軸29の入力側の歯車29aは、出力歯車10aに噛み合い、出力側の歯車29bは、内歯車26に噛み合っている。
【0072】
このような図7〜8に示される変形例の遊星歯車機構24は、以下のようにして減速動作を行う。まず、モータ4の駆動軸10から伝達軸29を介して入力された回転駆動力によって内歯車26が回転すると、内歯車26に噛み合う遊星歯車27は、内歯車26の回転方向と同じ方向に回転する。このとき、遊星歯車27は、ロッド3の基端部3aに固定された太陽歯車25と噛み合いながら、内歯車26の回転方向と同じ方向に公転する。それとともに、遊星歯車27を固定する遊星キャリア28も遊星歯車27とともに公転する。その結果、遊星キャリア28が固定されたねじ部材本体23は、遊星キャリア28とともに回転する。
【0073】
この場合、太陽歯車25の歯数N1と内歯車26の歯数N2の和に対する内歯車26の歯数N2の比率(N2/(N1+N2))が減速比となるので、モータ4の回転運動を大きな減速比で減速してねじ部材本体23へ伝達することが可能である。
【0074】
(第3実施形態)
また、ねじ部材の内部の減速機構として、以下のような波動歯車機構(例えば、ハーモニックドライブ(登録商標))を用いれば、さらに大きい減速比を得ることができる。
【0075】
すなわち、第3実施形態の電動アクチュエータ31では、図9〜10に示されるように、ねじ部材32は、ねじ部材本体33と、波動歯車機構34とを有している。なお、図9〜13において、図1〜2の符号と同一の符号が付された部分は、図1〜2と同一の部分を指しているものとする。
【0076】
ねじ部材本体33は、その外周面にねじ山11が形成されている円注体である。ねじ部材本体33の端部33aには、凹部33bが形成されている。
【0077】
波動歯車機構34は、ねじ部材本体33の凹部33bの内部に設けられている。波動歯車機構34は、モータ4の回転駆動力を駆動軸10からねじ部材本体33へ伝達する減速機構である。
【0078】
具体的には、波動歯車機構34は、ウェーブジェネレータ35と、フレクスプライン36と、サーキュラスプライン37とを備えている。
【0079】
ウェーブジェネレータ35は、駆動軸10に固定されており、駆動側の歯車として機能する。ウェーブジェネレータ35は、楕円状カム41と、その外周に取り付けられたボールベアリング42とから構成されている。
【0080】
ボールベアリング42は、小さい直径の複数のボール43が内輪44と外輪45との間にはめ込まれて構成されている。内輪44は、楕円状カム41に固定されている。外輪45は、ボール43によって弾性変形する。
【0081】
フレクスプライン36は、ねじ部材本体33に固定されており、従動側の歯車として機能する。フレクスプライン36は、薄肉カップ状の金属弾性体の部品であり、外周側に歯36aが形成されている。フレクスプライン36は、ウェーブジェネレータ35の外周面に沿って弾性変形して配置されている。フレクスプライン36の内周面は、ボールベアリング42の外輪45と接触している。フレクスプライン36の底部36a(図9参照)は、ねじ部材本体33の凹部33bの内奥面33cに固定されている。
【0082】
サーキュラスプライン37は、剛体リング状の部品であり、内周に歯37aが刻まれている。サーキュラスプライン37は、ロッド3の基端部3aに固定されており、フレクスプライン36の周囲を取り囲むように配置され、フレクスプライン36の外側の歯36aと噛み合う。サーキュラスプライン37の歯数は、フレスクプライン36の歯数よりも2枚多い。
【0083】
この波動歯車機構34では、図10に示されるように、ねじ部材本体33に固定されたフレクスプライン36は、ウェーブジェネレータ35によって楕円状にたわめられる。このため、フレクスプライン36の歯36aは、楕円の長軸の部分ではサーキュラスプライン37の歯37aと噛み合うが、短軸の部分では、完全に離れて噛み合わない状態となる。
【0084】
図11に示されるように、サーキュラスプライン37をロッド3の基端部3aに固定した状態で、モータ4の回転駆動力により駆動軸10に固定されたウェーブジェネレータ35を時計方向C1に回転させると、フレスクプライン36は弾性変形し、サーキュラスプライン37の歯37aと噛み合う位置が順次移動していく。
【0085】
そして、図12に示されるように、ウェーブジェネレータ35が時計方向C1へ180度まで回転すると、フレスクプライン36は歯数1枚分だけ、反時計方向C2へ移動する。
【0086】
さらに、図13に示されるように、ウェーブジェネレータ35が1回転(360度)すると、フレスクプライン36はサーキュラスプライン37より歯数が2枚少ないため、歯数差2枚分だけ、反時計方向C2へ移動する。
【0087】
この場合、ウェーブジェネレータ35が1回転するごとに2枚の歯の分だけフレクスプライン36が逆回転するので、モータ4の回転運動を非常に大きな減速比で減速してねじ部材本体33へ伝達することが可能である。
【0088】
第3実施形態では、ねじ部材本体33内部に波動歯車機構34が設けられ、駆動側のウェーブジェネレータ35が駆動軸10に固定され、従動側のフレクスプライン36がねじ部材本体33に固定され、サーキュラスプライン37が回転しないロッド3の基端部3aに固定されているので、ねじ部材本体33内部の小さい空間にこれらのウェーブジェネレータ35、フレクスプライン36およびサーキュラスプライン37を収容でき、非常に大きな減速比を得ることが可能である。しかも、波動歯車機構34の主要な部品は、3個(ウェーブジェネレータ35、フレクスプライン36、サーキュラスプライン37)のみである。そのため、部品点数が非常に少なく、波動歯車装置34の組立てが容易である。
【符号の説明】
【0089】
1、21、31 電動アクチュエータ
2 シリンダ
3 ロッド
4 モータ
5、22、32 ねじ部材
7 ねじ溝
8 開口
9 モータ本体
10 駆動軸
11 ねじ山
12 ブラケット
23、33 ねじ部材本体
24 遊星歯車機構
34 波動歯車機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面にねじ溝が形成され、端部に開口を有するシリンダと、
前記開口から前記シリンダの内部に挿入される基端部及びその反対側で前記シリンダ外部に位置する端部である先端部を有するロッドと、
前記ロッドの基端部に対して前記ねじ溝の中心軸と同軸回りに相対回転可能で、かつ、当該中心軸の方向に前記ロッドと一体に移動するように連結され、外周面に前記ねじ溝に螺合するねじ山を有するねじ部材と、
前記ねじ部材を前記ロッドに対して相対的に回転駆動させることにより、当該ねじ部材及び前記ロッドを前記中心軸の方向に直線移動させるモータとを備えている、
ことを特徴とする電動アクチュエータ。
【請求項2】
前記モータは、前記ロッドの内部に設けられたモータ本体と、前記ロッドに対して相対的に回転可能な駆動軸とを有しており、
前記ねじ部材は、前記駆動軸に結合されている、
請求項1に記載の電動アクチュエータ。
【請求項3】
前記ねじ部材は、
外周面に前記ねじ山が形成されたねじ部材本体と、
前記ねじ部材本体の内部に設けられ、前記モータの回転駆動力を前記駆動軸から前記ねじ部材本体へ伝達する減速機構と
を有している、
請求項2に記載の電動アクチュエータ。
【請求項4】
前記減速機構は、遊星歯車装置からなり、
前記遊星歯車装置は、
前記駆動軸に固定された太陽歯車と、
前記ねじ部材本体に固定され、前記太陽歯車の周囲を取り囲むように配置された内歯車と、
前記内歯車の内側に配置され、前記太陽歯車から前記内歯車へ駆動力を伝達する遊星歯車と、
前記ロッドの基端部に固定され、前記遊星歯車を支持する遊星キャリアと
を有する請求項3に記載の電動アクチュエータ。
【請求項5】
前記減速機構は、遊星歯車装置からなり、
前記遊星歯車装置は、
前記駆動軸に固定された太陽歯車と、
前記ロッドの基端部に固定され、前記太陽歯車の周囲を取り囲むように配置された内歯車と、
前記内歯車の内側に配置され、前記太陽歯車から前記内歯車へ駆動力を伝達する遊星歯車と、
前記ねじ部材本体に固定され、前記遊星歯車を支持する遊星キャリアと
を有する請求項3に記載の電動アクチュエータ。
【請求項6】
前記減速機構は、遊星歯車装置からなり、
前記遊星歯車装置は、
前記ロッドの基端部に固定された太陽歯車と、
前記駆動軸に結合され、前記太陽歯車の周囲を取り囲むように配置された内歯車と、
前記内歯車の内側に配置され、前記太陽歯車から前記内歯車へ駆動力を伝達する遊星歯車と、
前記ねじ部材本体に固定され、前記遊星歯車を支持する遊星キャリアと
を有する請求項3に記載の電動アクチュエータ。
【請求項7】
前記減速機構は、波動歯車装置からなり、
前記波動歯車装置は、
前記駆動軸に固定された楕円形のウェーブジェネレータと、
前記ねじ部材本体に固定され、前記ウェーブジェネレータの外周面に沿って弾性変形して配置され、外周面に歯を有するフレクスプラインと、
前記ロッドの基端部に固定され、前記フレクスプラインの周囲を取り囲むように配置され、内周面に前記フレクスプラインの歯と噛み合う歯を有する円形のサーキュラスプラインとを有する、
請求項3に記載の電動アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−2292(P2012−2292A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138411(P2010−138411)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】