説明

電動シャッターの過負荷検知装置

【課題】
シャッター開閉機のモータの回転数が、直前の開閉時の回転数に比べて一時的に大きく増加した場合であっても、次回の開閉時にシャッターカーテンの開閉が停止することがないような過負荷検知装置を提供する。
【解決手段】
過負荷検知装置における学習値の補正手段は、シャッター開閉中のモータの回転速度と記憶されている学習値(前回の開閉時の回転速度)を、シャッターカーテンの位置を対応させて比較し、シャッター開閉中のモータの回転速度が対応する学習値よりも所定以上大きい時に、当該回転速度を異常値と判定する異常値判定手段と、異常値と判定された前記回転速度を、より小さい回転速度(≧対応する学習値)に補正して補正学習値を取得する手段と、を備えており、前記補正学習値を用いて直前の学習値を更新する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動シャッターの過負荷検知装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動シャッターにおける障害物検知手段として過負荷検知を用いたものが知られている。電動シャッターは、開閉機に内蔵されたモータによる電動駆動でシャッターカーテンを昇降させて開口部を開閉するものであり、シャッターカーテン昇降中のモータが過負荷状態にあるかを判定し、モータが過負荷状態にあると判断した場合に、モータを停止させてシャッターカーテンの昇降を停止する。
【0003】
モータの過負荷状態は、モータの回転速度(回転数)を用いて取得する。より具体的には、シャッターカーテンの開閉毎に、モータの回転速度を経時的(例えば、20ミリ秒毎)に取得し、取得した回転速度を学習値として記憶部に記憶する。学習値に対して所定のマージンが設定されており、開閉駆動中のモータの回転速度が「学習値−マージン(過負荷検知感度を決定する)」を下回った時にモータが過負荷状態にあると判断して、モータを停止する。本明細書において、「学習値−マージン」を判定基準値と呼び、1つの態様では、判定基準値は「学習値×N(N<1)」で計算される。
【0004】
このような過負荷検知装置は、例えば特許文献1に開示されている。特許文献1では、開閉動負荷の原因には障害物への衝突の他に風圧などがあることに鑑み、風圧などによる誤停止を防止することを目的としている。負荷が大きくなる場合はモータの回転速度が通常時の回転速度に比べて小さくなる場合であることから、従来の過負荷検知装置では、モータの回転速度が小さくなる場合について専ら論じられており(例えば、特許文献1では、モータの回転速度が小さくなる場合を、非停止条件範囲を用いて場合分けしている)、モータの回転速度が通常時の回転速度に比べて大きくなる場合について着目されることはなかった。
【0005】
しかしながら、発明者等が研究したところ、電圧変動や周波数変動が要因となりモータの回転速度が、直前の開閉時の回転速度に比べて一時的に増加する場合があることが判った。ここで、過負荷検知装置において、学習値は、モータの回転速度を開閉毎に取得することで開閉毎に更新され、直前の学習値を用いて計算された判定基準値を基準として現在開閉駆動中の負荷状態が判定されるため、直前の開閉における増加した回転速度が学習値として記憶されると、増加した回転速度に基づいて判定基準値が決定されるため、過負荷状態の判定の基準となる判定基準値自体が大きくなってしまい、その時の開閉駆動中のモータの回転速度が通常の回転速度であるにもかかわらず、判定基準値を下回ることになって、過負荷状態にあると判定されてモータが停止してシャッターカーテンの開閉が途中停止してしまうおそれがある。すなわち、モータの回転速度が通常時の回転速度に比べて増大することに起因した過負荷状態の誤検知のおそれがある。
【特許文献1】特開2001−173345
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、シャッター開閉機のモータの回転数が、直前の開閉時の回転数に比べて一時的に大きく増加した場合であっても、次回の開閉時にシャッターカーテンの開閉が停止することがないような過負荷検知装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明が採用した技術手段は、
シャッター開閉時のシャッターカーテンの位置を取得する手段と、
シャッター開閉時の開閉機のモータの回転速度を経時的に取得する手段と、
モータの回転速度をシャッターカーテンの位置と関連付けてシャッター開閉毎に更新し、更新された回転速度を学習値として記憶する学習値記憶手段と、
前記学習値を基準として、シャッター開閉中のモータの過負荷状態を判定するための判定基準値(<前記学習値)を取得する手段と、
シャッター開閉中のモータの回転速度と前記判定基準値を、シャッターカーテンの位置を対応させて実時間で比較し、シャッター開閉中のモータの回転速度が対応する判定基準値よりも小さい時に、過負荷状態であると判定する過負荷判定手段と、
を備えた過負荷検知装置であって、さらに、
シャッター開閉中のモータの回転速度と前記学習値を、シャッターカーテンの位置を対応させて比較し、シャッター開閉中のモータの回転速度が対応する学習値よりも所定以上大きい時に、当該回転速度を異常値と判定する異常値判定手段と、
異常値と判定された前記回転速度を、より小さい回転速度(≧対応する学習値)に補正して補正学習値を取得する手段と、を備え、
前記学習値記憶手段は、前記補正学習値を用いて直前の学習値を更新することを特徴とする電動シャッターの過負荷検知装置、である。
【0008】
1つの態様では、前記補正学習値を取得する手段は、シャッター開閉中のモータの過負荷の判定に用いる判定基準値を用いて、
補正学習値=異常値−(異常値−判定基準値)/A(A>1)
により、補正学習値を取得する。
【0009】
前記異常値判定手段は、シャッター開閉中のモータの回転速度が対応する学習値よりも所定以上(所定>0)大きい時に、当該回転速度を異常値と判定する。
1つの態様では、前記異常値判定手段は、「シャッター開閉中のモータの回転速度−対応する学習値>B(B:開閉毎の回転速度の正常な変動幅に対応するマージンであり、B>0である)」を満たす時に、当該回転速度を異常値と判定する。
後述する実施形態では、一例として、B=5rpmが採用されている。
【0010】
1つの態様では、前記判定基準値を取得する手段は、前記学習値から所定のマージンを減じること、あるいは、前記学習値に係数N(N<1)を乗じることで判定基準値を計算する手段であり、前記判定基準値は、前記学習値から予め設定された所定のマージンを減じること、あるいは、前記学習値に予め設定された係数N(N<1)を乗じることで計算される。
1つの態様では、シャッターカーテンの位置に応じて異なるマージンあるいは係数が設定されている。より具体的な態様では、開口部の高さを高さ方向に3つないし2の区域に区画し、各区域に応じて異なるマージンあるいは係数が設定されている。望ましい態様では、最下位の区域のマージンを小さくする、あるいは係数を大きくすることで、最下位の区域における過負荷検知の感度を敏感にする。
前記補正学習値は、前記シャッターカーテンの位置に応じて異なるマージンあるいは係数を用いて計算された判定基準値を用いて取得される。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、モータの回転速度が通常時の回転速度に比べて増大することに起因した過負荷状態の誤検知を防止することができる。より具体的には、シャッター開閉機のモータの回転数が、電圧や周波数の一時的な変化により、直前の開閉時の回転数に比べて一時的に大きく増加した場合に、次回のシャッター開閉時に、本来であれば通常の適正な回転速度であるにもかかわらず、過負荷であると判定されてシャッターカーテンの開閉が停止してしまうようなことが防止される。
【0012】
前記補正学習値取得手段が、異常値と判定された前記回転速度を、より小さい回転速度(>対応する学習値)に補正するものでは、異常であると判定された回転速度が仮に正常値であったとしても、異常判定された正常な回転速度の補正を繰り返すことで、更新される学習値が、正常な回転速度に近づいていき、正常化される。
【0013】
シャッター開閉中のモータの回転速度−対応する学習値が、予め設定した所定量Bよりも大きくなった場合にのみ当該回転速度を異常値と判定することで、全ての場合、すなわち、シャッター開閉中のモータの回転速度−対応する学習値>0の場合に当該回転速度を異常値と判定する場合に比べて、学習値補正のための計算量を低減することができ、制御部の負担を軽くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】電動シャッターの概略図である。
【図2】過負荷検知のしくみを説明する図である。
【図3】異常値の判定を説明する図である。
【図4】異常値の補正を説明する図である。
【図5】学習値の更新の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[A]電動シャッター装置
図1において、建物開口部に設置されるシャッター装置は、シャッターカーテン1とシャッターカーテン1の上端が連結されている巻取りシャフト2と、巻取りシャフト2を開閉駆動させる開閉機3とを有する。開閉機3は駆動手段としてのモータ4を有しており、モータ4の回転軸と巻取りシャフト2とを伝動連結させ、モータ4の回転軸の回転を巻取りシャフト2に伝達することで巻取りシャフト2を正逆回転させてシャッターカーテン1を巻取りシャフト2に巻き取り、あるいは、巻取りシャフト2から繰り出すことでシャッターカーテン1が左右のガイドレール5に案内されながら上下動して開口部を開閉する。
【0016】
シャッター装置の開閉駆動は、スイッチボックス6からの指令によって行われる。スイッチボックス6からの指令は制御部7を介して開閉機3に送信される。スイッチボックス6には、上昇用、下降用、停止用の押釦式操作スイッチPBU,PBS,PBDが設けてある。上昇用ボタンPBUを押すと、シャッター上昇信号が制御部7の開閉制御回路に送信され、モータ駆動電流が開閉機3のモータ4に供給されて、モータ4が回転して、シャッターカーテン1を巻取りシャフト2に巻き取る。下降用ボタンPBDを押すと、シャッター下降信号が制御部7の開閉制御回路に送信され、モータ駆動電流が開閉機3のモータ4に供給されて、モータ4が回転して、シャッターカーテン1を巻取りシャフト2から繰り出す。停止用ボタンPBSを押すと、制御部7によってモータ4へのモータ駆動電流の供給が遮断されて、モータ4の回転が停止する。
【0017】
モータ4によるシャッターカーテンの開閉駆動は制御部7によって制御される。制御部7はマイクロコンピュータを有しており、マイクロコンピュータは、制御に必要な各演算を行うCPUと、予め設定された値、各計測値、各演算結果、過負荷検知のための制御プログラム等を記憶する記憶部を備えている。
【0018】
[B]過負荷検知装置
過負荷検知装置は、シャッター開閉時のシャッターカーテン1の位置を取得する位置検出手段8と、シャッター開閉時の開閉機3のモータ4の回転速度を経時的に取得する回転速度検出手段9と、モータ4の回転速度をシャッターカーテン1の位置と関連付けてシャッター開閉毎に更新し、更新された回転速度を学習値として記憶する学習値記憶手段と、前記学習値から所定のマージンを減じること、あるいは、前記学習値に係数N(N<1)を乗じることで判定基準値を計算する手段と、シャッター開閉中のモータ4の回転速度と前記判定基準値を、シャッターカーテン1の位置を対応させて実時間で比較し、シャッター開閉中のモータ4の回転速度が対応する判定基準値よりも小さい時に、過負荷状態であると判定する過負荷判定手段と、を備えている。
【0019】
シャッターカーテンの位置検出手段8として、ロータリーエンコーダを例示することができる。開閉機3を構成するモータ4の回転軸にはロータリーエンコーダが取り付けてあり、回転軸の回転に応じて出力されるパルス数をカウント手段によってカウントし、カウント値を記憶部に記憶するようになっている。シャッターカーテンの上限位置または下限位置を原点位置としてロータリーエンコーダから出力されるパルスをカウントして記憶することで、カウント値によってシャッターカーテンの位置が検出される。
【0020】
開閉機のモータの回転速度検出手段9として、タコジェネレータを例示することができる。回転速度センサとしてのタコジェネレータは当業者によく知られており、モータの回転速度(回転数)の取得についての詳細な説明は省略する。モータの回転速度は、シャッターカーテンの開閉駆動時に経時的(所定時間間隔毎)に取得される。より具体的には、例えば、20ミリ秒毎にモータの回転速度を取得し、取得した回転速度をシャッターカーテンの位置情報と関連付けて記憶部に記憶する。モータにかかる負荷はシャッターカーテンの位置によって変化することが知られており、モータの回転速度もシャッターカーテンの位置によって変化し得る。
【0021】
記憶部に記憶されるモータの回転速度は、シャッター開閉毎に書き換えられる。すなわち、モータの回転速度は、シャッターカーテンの位置と関連付けてシャッター開閉毎に更新され、更新された回転速度が学習値として記憶部に記憶される。更新された回転速度、すなわち学習値は、次のシャッター開閉時の過負荷検知に用いられる。
【0022】
本実施形態では、モータの過負荷状態を判定するための判定基準値は、学習値に係数Nを乗じることで得られる。係数Nは、予め設定されて記憶部に記憶されている。学習値は、モータの回転数を開閉毎に取得することで開閉毎に更新され、直前の学習値を用いて計算された判定基準値を基準として現在開閉駆動中の電動シャッターの過負荷状態が判定される。なお、予め所定量(rpm)のマージンを設定して記憶しておき、取得された学習値からマージンを減算することで判定基準値を計算してもよい。マージンとして設定される所定量は、少なくとも、通常動作における正常な変動量(回転速度が小さくなる場合)よりは大きく、また、所定量がより小さければ検知感度が鋭く、所定量がより大きければ検知感度が鈍いことが当業者に理解される。検知感度の異なる複数のマージンテーブルを用意しておき、適宜選択して用いるようにしてもよい。
【0023】
過負荷検知のしくみについて、図2を参照しつつ説明する。図2において、学習値は、開閉毎に更新されるモータの回転速度であり、直前の開閉時の回転速度(rpm)がシャッターカーテンの位置情報(mm)と関連付けられて記憶部に記憶されている。また、学習値×係数Nで判定基準値(rpm)が計算されており、シャッターカーテンの位置(mm)と関連付けられて記憶部に記憶されている。運転データ(実際の開閉時のモータの回転速度)と判定基準値を、シャッターカーテンの位置に基づいて対応させて比較し、運転データが対応する判定基準値を下回った場合にモータが過負荷状態にあると判定する。
【0024】
判定基準値を計算するための係数Nは、例えば、表1に示すテーブルとして、記憶部に予め記憶されている。表1では、3つの異なるレベル(検知感度)の過負荷検知を行うための係数および連続検知回数が規定されている。レベル1では、判定基準値は現在記憶されている学習値(すなわち直前の開閉において取得した学習値)×0.95であり、シャッターカーテン下降時におけるモータの回転速度が2回連続して(実施形態では、20ミリ秒毎の判定で2回連続して)判定基準値を下回った場合には、モータが過負荷状態にあると判定してモータの回転を停止して、シャッターカーテンの下降を停止する。シャッターカーテン停止後、さらに数秒間、シャッターカーテンを反転上昇させるように制御してもよい。また、過負荷検知が行われた時のモータの回転速度は、学習値としては記憶されない。
【0025】
同様に、レベル2では、判定基準値は学習値×0.90であり、シャッターカーテン下降時におけるモータの回転速度が3回連続して(実施形態では、20ミリ秒毎の判定で3回連続して)判定基準値を下回った場合には、モータが過負荷状態にあると判定してモータの回転を停止して、シャッターカーテンの下降を停止する。同様に、レベル3では、判定値は学習値×0.85であり、シャッターカーテン下降時におけるモータの回転速度が4回連続して(実施形態では、20ミリ秒毎の判定で4回連続して)判定基準値を下回った場合には、モータが過負荷状態にあると判定してモータの回転を停止して、シャッターカーテンの下降を停止する。
【0026】
表1の例では、レベル1、レベル2、レベル3の順で検知感度が鈍くなる。電動シャッターの設置場所や用途等に応じて適切なレベルを選択することができる。また、表1に示す係数の具体的な数値は、単なる例示に過ぎないものであり、電動シャッターの設置場所や用途等に応じて適切な係数が当業者によって設定される。なお、レベルの数は3つに限定されるものではなく、1以上の任意の数のレベルを設定することができる。
【表1】

【0027】
表1の例では、シャッターカーテンの位置に関係なく、一定の判定基準値(係数)及び連続検知回数を用いて過負荷検知を行うものであるが、シャッターカーテンの位置に応じて異なる判定基準値(係数)及び連続検知回数を設定して過負荷検知を行うことができる。表2の態様例では、レベル1をさらにシャッターカーテンの位置に応じて3つのエリアに区切り、エリア毎に判定基準値(係数)及び連続検知回数が設定されている。
【0028】
エリア1は、例えば、下限位置から高さ50〜70cm程度の区域であり、エリア2はエリア1の上端から下限位置から高さ130cm〜150cm程度の区域であり、エリア3はエリア2の上端から上限までの区域である。エリア1では、過負荷検知(障害物検知)の感度が最も高く設定してある。エリア毎に検知感度を変えることで、不必要に過負荷検知を行ってシャッターカーテンが途中で停止してしまうことを低減することができる。例えば、エリア3で挟まれる可能性は低いため、エリア3の検知感度を落とすことができる。また、エリア1では後述する学習値の補正を行わないように設定してもよい。なお、エリアの数は3つに限定されるものではなく、例えば、下側区域、上側区域の2つのエリアに区切るものでもよい。なお、学習値から所定のマージンを減じることで判定基準値を計算するものにおいては、エリア毎に異なる量のマージンを設定してもよい。
【表2】

【0029】
[C]学習値補正手段
過負荷検知装置は、学習値補正手段を備えている。学習値補正手段は、運転中のモータの回転速度が異常値であることを判定する異常値判定手段と、異常値を判定されたモータ回転速度を補正して補正学習値を取得する手段と、を備えている。学習値記憶手段は、前記補正学習値を用いて直前の学習値を更新するようになっている。本明細書では、主としてシャッターカーテンが下降する場合について説明するが、シャッターカーテンが上昇する場合においても、同様に、過負荷検知、異常値判定、回転速度の補正が行われることが当業者に理解される。
【0030】
異常値判定手段は、シャッター開閉中のモータの回転速度と前回のシャッター開閉時のモータの回転速度(すなわち、学習値)を、シャッターカーテンの位置を対応させて比較し、シャッター開閉中のモータの回転速度が対応する学習値よりも大きい時に、当該回転速度を異常値と判定する。
【0031】
1つの態様では、前記異常値判定手段は、「シャッター開閉中のモータの回転速度−対応する学習値>B(B:開閉毎の回転速度の正常な変動幅に対応するマージンであり、B>0である)」を満たす時に、当該回転速度を異常値と判定する。本実施形態では、B=5rpmである。5rpmは、直前のシャッター開閉時の回転速度に対して5rpm程度の増加は正常な変動幅の範囲内であると考えて設定した値である。この値は、シャッターサイズやモータの種類によって異なり得ることが当業者に理解される。
【0032】
異常値判定を図3に基づいて説明すると、降下中のシャッターカーテンの位置がXの時のシャッター開閉中のモータの回転速度と前回のシャッター開閉時のモータの回転速度の差がdrpmであるとすると、d>5の場合に、シャッター開閉中のモータの回転速度が異常値であると判定し、当該回転速度の補正が行われる。d≦5の場合には、シャッター開閉中のモータの回転速度が正常値であると判定し、当該回転速度により学習値を更新する。図3において、位置Xの時のd=d>5の場合、回転速度が異常値であると判定されて当該回転速度の補正が行われ、位置Xの時のd=d<5の場合、回転速度が正常値であると判定し、当該回転速度により学習値を更新する。
【0033】
補正学習値取得手段は、異常値と判定された回転速度を、より小さい回転速度(≧対応する学習値、すなわち、前回の開閉時の回転速度)に補正して補正学習値を取得する。1つの態様では、前記補正学習値を取得する手段は、シャッター開閉中のモータの過負荷の判定に用いる判定基準値を用いて、「補正学習値=異常値−(異常値−判定基準値)/A(A>1)」により補正学習値を取得する。Aは、得られた補正学習値>対応する学習値(前回の開閉時の回転速度)を満たすように設定される。1つの態様では、A=2であり、すなわち、「補正学習値=異常値−(異常値−判定基準値)/2」により、補正学習値を取得する。
【0034】
異常値の補正について図4に基づいて説明すると、降下中のシャッターカーテンの位置がXの時のシャッター開閉中のモータの回転速度Rが異常値であると判定された場合には、シャッターカーテンの位置がXの時の判定基準値Rを用いて、学習補正値Rが算出される。すなわち、R=R−(R−R)/Aとなる。
【0035】
学習値の更新(学習値の補正を含む)の流れについて図5に基づいて説明する。下降用ボタンPBDからの降下指令により開閉機のモータが回転してシャッターカーテンが降下する。シャッターカーテン降下中において、20ミリ秒毎にモータの回転速度とシャッターカーテンの位置情報が取得される。記憶部には前回のシャッターカーテン降下時に取得した学習値及び学習値に基づいて計算した判定基準値がシャッターカーテンの位置情報と関連して記憶されている。例えば表2に示す係数が用いられる場合には、シャッターカーテン位置xが属するエリア1〜3に応じて異なる係数が用いられて判定基準値が計算される。
【0036】
シャッターカーテン位置xにおける運転中のモータの回転速度と学習値(前回のモータの回転速度)が比較され、「運転中のモータの回転速度−学習値≦5」の場合には(例えば、運転中のモータの回転速度が1515rpm、学習値が1510rpm)、運転中のモータの回転速度1515rpmは正常値であると判定されて、当該回転速度1515rpmによって学習値1510rpm(前回のモータの回転速度)を更新する。
【0037】
「運転中のモータの回転速度−学習値>5」の場合には、運転中のモータの回転速度は異常値であると判定されて、学習値の補正が行われる。例えば、降下中のシャッターカーテンの位置がxの時のシャッター開閉中のモータの回転速度が1540rpmで、学習値が1510rpmだとすると、1540−1510>5であるため、シャッターカーテン位置xの回転速度1540rpmが異常値であると判定される。
【0038】
判定基準値を算出するための係数N=0.99とすると、判定基準値は、学習値1510rpm×0.99=1494.9rpm(小数点以下切り上げて1495rpm)となる。表2のように、エリア毎に係数Nが異なる場合には、シャッターカーテン位置xがどのエリアに属するかによって、学習値に対する判定基準値の割合が異なるため、判定基準値(学習値ではなく)を用いて補正学習値を計算することで、その違いが反映されることになる。
【0039】
ここで、「補正学習値=異常値−(異常値−判定基準値)/A(A>1)」において、A=2とすると、補正学習値は、1540−(1540−1495)/2=1517.5rpm(小数点以下切り上げて1518rpm)となり、当該回転速度1518rpmによって学習値1510rpm(前回のモータの回転速度)を更新する。
【0040】
したがって、次回のシャッターカーテン降下時に、降下中のシャッターカーテンの位置がXの時のシャッター開閉中のモータの回転速度が1510rpm(正常な回転速度とする)であるすると、判定基準値は1518×0.99=1502.82(<1510)であり、正常の負荷とみなされ、過負荷検知は行われない。もし、補正学習値1518rpmでなく、実際の回転速度1540rpmが学習値として記憶されていると仮定すると、判定基準値は1540×0.99=1524.6(>1510)であり、運転中のモータの回転速度が1510rpmが判定基準値1524.6rpmを下回って、正常なシャッターカーテン降下動作であるにもかかわらず、過負荷検知が行われ、モータの回転が停止してシャッターカーテンの降下が停止してしまうことになる。本実施形態ではこのような過負荷状態の誤検知を防止することができる。
【0041】
また、本実施形態では、過負荷検知が行われてシャッターカーテンの降下が停止した場合には、その時の回転速度は棄却されて、学習値として記憶されないようにしている。したがって、上記の例の場合、運転中のモータの回転速度が1510rpmは記憶されることなく、一度記憶された学習値1540rpmが有効に記憶され続けることになり、下降動作の度に繰り返し過負荷検知が行われて、シャッターカーテンの下降が停止してしまうことになる。これに対して、補正学習値1518rpmを用いた場合には、運転中のモータの回転速度が1510rpmで過負荷検知が行われることがないため、モータの回転速度1510rpmによって記憶されている補正学習値1518rpmが更新され、さらに次の開閉時には記憶されている学習値1510rpmに対して判定基準値が設定される。
【0042】
本実施形態では、「シャッター開閉中のモータの回転速度−対応する学習値>B(B:開閉毎の回転速度の正常な変動幅に対応するマージンであり、B>0である)」を満たす時、すなわち、シャッター開閉中のモータの回転速度が、前回の回転速度に対してある余裕範囲を超えて大きくなった場合には、その回転速度が異常であると仮定している。ここで留意すべき点は、シャッター開閉中のモータの回転速度が、前回の回転速度に対してある余裕範囲を超えて大きくなった場合で、かつその回転速度が正常である場合もあり得るということである。具体的な例では、経年使用によりスラットとの間で抵抗が大きくなったガイドレールを交換したり、修理したりすることで、スラットとガイドレール間の抵抗が小さくなると、モータの正常な回転速度RNEWが余裕範囲を超えて大きくなることが予想される。このような場合、前記補正学習値取得手段が、異常値と判定された回転速度を、より小さい回転速度(>対応する学習値)に補正するもの(より具体的には、「補正学習値=異常値−(異常値−判定基準値)/A(A>1)」)では、その回転速度RNEWが異常値と判定されて学習値補正が行われたとしても、シャッター開閉毎に学習値補正が、例えば、「第1補正学習値>前回の学習値」→「第2補正学習値>第1補正学習値」→「第3補正学習値>第2補正学習値」のように繰り返されて、学習補正値が開閉毎に大きくなるように更新されることで回転速度RNEWに近づいて行き、「回転速度RNEW±α(α:開閉毎の正常な変動量)−対応する学習値≦B」が満たされることになる。すなわち、本実施形態は、異常であると判定された大きい回転速度が仮に正常値であったとしても、異常判定された回転速度の補正を繰り返すことで、更新された学習値が正常化される。したがって、この実施形態では、シャッター開閉機のモータの回転速度が、直前の開閉時の回転速度に比べて大きく増加した場合において、(1)それが突発的な電圧変動や周波数変動に起因する異常値である場合、(2)増加した回転速度が正常値である場合、の2つの場合に対応することができる。
【0043】
本発明に係る補正学習値取得手段は上述のものに限定されるものではなく、他の補正学習値取得手段を採用してもよい。他の補正学習値取得手段としては、「補正学習値=対応する学習値(記憶されている前回の学習値)」、「補正学習値=対応する学習値(記憶されている前回の学習値)+C(C>0)、例えば、C=Bでもよい」を例示することができる。前者の実施形態(「補正学習値=対応する学習値(記憶されている前回の学習値)」)では、シャッター開閉機のモータの回転速度が、直前の開閉時の回転速度に比べて大きく増加した場合において、(1)それが突発的な電圧変動や周波数変動に起因する異常値である場合に対応することができる。後者の実施形態(「補正学習値=対応する学習値(記憶されている前回の学習値)+C(C>0))では、シャッター開閉機のモータの回転速度が、直前の開閉時の回転速度に比べて大きく増加した場合において、(1)それが突発的な電圧変動や周波数変動に起因する異常値である場合、(2)増加した回転速度が正常値である場合、の2つの場合に対応することができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、電動シャッターの過負荷検知装置として利用可能である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャッター開閉時のシャッターカーテンの位置を取得する手段と、
シャッター開閉時の開閉機のモータの回転速度を経時的に取得する手段と、
モータの回転速度をシャッターカーテンの位置と関連付けてシャッター開閉毎に更新し、更新された回転速度を学習値として記憶する学習値記憶手段と、
前記学習値を基準として、シャッター開閉中のモータの過負荷状態を判定するための判定基準値(<前記学習値)を取得する手段と、
シャッター開閉中のモータの回転速度と前記判定基準値を、シャッターカーテンの位置を対応させて実時間で比較し、シャッター開閉中のモータの回転速度が対応する判定基準値よりも小さい時に、過負荷状態であると判定する過負荷判定手段と、
を備えた過負荷検知装置であって、さらに、
シャッター開閉中のモータの回転速度と前記学習値を、シャッターカーテンの位置を対応させて比較し、シャッター開閉中のモータの回転速度が対応する学習値よりも所定以上大きい時に、当該回転速度を異常値と判定する異常値判定手段と、
異常値と判定された前記回転速度を、より小さい回転速度(≧対応する学習値)に補正して補正学習値を取得する手段と、を備え、
前記学習値記憶手段は、前記補正学習値を用いて直前の学習値を更新することを特徴とする電動シャッターの過負荷検知装置。
【請求項2】
前記補正学習値を取得する手段は、シャッター開閉中のモータの過負荷の判定に用いる判定基準値を用いて、
補正学習値=異常値−(異常値−判定基準値)/A(A>1)
により、補正学習値を取得する、請求項1に記載の過負荷検知装置。
【請求項3】
前記異常値判定手段は、
シャッター開閉中のモータの回転速度−対応する学習値>B(B:開閉毎の回転速度の正常な変動幅に対応するマージンであり、B>0である)
を満たす時に、当該回転速度を異常値と判定する、請求項1、2いずれかに記載の過負荷検知装置。
【請求項4】
前記判定基準値は、前記学習値から所定のマージンを減じること、あるいは、前記学習値に係数N(N<1)を乗じることで計算されると共に、前記シャッターカーテンの位置に応じて異なるマージンあるいは係数が設定されており、
前記補正学習値は、前記シャッターカーテンの位置に応じて異なるマージンあるいは係数を用いて計算された判定基準値を用いて取得される、請求項1〜3いずれか1項に記載の過負荷検知装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−211452(P2012−211452A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77095(P2011−77095)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(307038540)三和シヤッター工業株式会社 (273)
【Fターム(参考)】