説明

電動パワーステアリング装置及び電力供給システム

【課題】 その目的は、簡素な構成にて、車内ネットワークの障害により車載電源の状態を示す確認信号が途絶した場合であっても、安定的に駆動電力の供給を行うことができる電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【解決手段】 DC/DCコンバータ14は、EPSECU11に対して、その電源供給状態(ステータス情報)を示す電源供給状態信号Ssc2を出力し、また、EPSECU11は、DC/DCコンバータ14から供給される二次電圧V2の値を検出するための電圧センサを備える。そして、EPSECU11は、強電バッテリ13の電源供給状態を示す一次電源供給状態確認信号Ssc1が途絶した場合には、電圧センサにより検出された二次電圧V2の値、及び電源供給状態信号Ssc2に示されるDC/DCコンバータ14の電源供給状態に基づき制限された駆動電力をモータ12に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリング装置及び電力供給システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、車両においては、多岐にわたる電動化及び電子制御化が進められており、配線の複雑化を回避するとともに、各種アクチュエータの制御装置間の相互通信及び情報の共有化、ひいてはその統合的な制御を可能とすべく、各制御装置を共通の制御線にて接続する車内ネットワーク(CAN:Control Area Network等)を採用するものが増えている。
【0003】
ところで、電気自動車や燃料電池車、或いは状況に応じてエンジン駆動とモータ駆動とを切り替えるハイブリッド車等には、車載電源として走行用モータを駆動可能な高電圧を有する強電バッテリが搭載されている。そして、こうした高電圧車両の電動パワーステアリング装置(EPS)には、DC/DCコンバータにて降圧された二次電圧に基づく駆動電力が供給されるようになっている。
【0004】
通常、このような高電圧車両においては、強電バッテリの電源供給状態(電圧等)は、上位ECUにより監視されており、EPS用ECUは、車内ネットワークを介して上位ECUから入力される強電バッテリの電源供給状態を示す確認信号に基づいて、EPSアクチュエータへの駆動電力の供給を行う。そして、この確認信号が強電バッテリの異常を示すものである場合には、EPSアクチュエータへの駆動電力の供給、即ちパワーアシスト制御が停止されるようになっている。
【0005】
しかしながら、こうした車内ネットワークを介した相互通信に基づき各種アクチュエータの制御がなされるものにおいては、車内ネットワークに何らかの障害が発生した場合に、その制御の前提となる各種信号が途絶するおそれがある。そして、上記EPSの場合、確認信号が途絶した場合には、強電バッテリ、或いはその一次電圧を降圧するDC/DCコンバータに何ら異常のない場合であっても、その確認ができない以上、フェールセーフの観点から、その異常の有無に関わらずパワーアシスト制御を停止せざるを得ないという問題がある。
【0006】
従来、こうした問題を解決すべく、閉ループを構成する迂回幹線を設ける等により各制御装置を接続する制御線を冗長化し、車内ネットワークを構成する制御線の何れかに障害が発生した場合には、自動的に迂回路を形成するものがある(特許文献1参照)。そして、このような構成を採用することにより、車内ネットワークの障害による各種信号の途絶を防止してその信頼性を向上させることができる。
【特許文献1】特開2002−186120号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来例のごとく、車内ネットワークを構成する制御線を冗長化し完全二重化を図るとすれば、配線長の延伸により製造コストの上昇を招くことになる。また、制御線の冗長化に伴う配線の複雑化を回避するためには、制御線の敷設パターンを新たに設計し直す必要があり、これにより更にコストが上昇するという問題がある。
【0008】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、簡素な構成にて、車内ネットワークの障害により車載電源の状態を示す確認信号が途絶した場合であっても、安定的に駆動電力の供給を行うことができる電動パワーステアリング装置及び電力供給システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、モータを駆動源として操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する操舵力補助装置と、一次電源の電圧を変圧して出力する変圧手段と、該変圧された二次電圧に基づく駆動電力を前記モータに供給することにより前記操舵力補助装置の作動を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、車内ネットワークを介して入力される前記一次電源の電源供給状態を示す確認信号に基づいて前記駆動電力の供給を行う電動パワーステアリング装置であって、前記制御手段は、前記確認信号が途絶した場合には、前記二次電圧の値、又は前記変圧手段の出力する電源供給状態信号に示される電源供給状態の少なくとも一つに基づき制限された駆動電力を前記モータに供給すること、を要旨とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、モータを駆動源として操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する操舵力補助装置と、一次電源の電圧を変圧して出力する変圧手段と、該変圧された二次電圧に基づく駆動電力を前記モータに供給することにより前記操舵力補助装置の作動を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、車内ネットワークを介して入力される前記一次電源の電源供給状態を示す確認信号に基づいて前記駆動電力の供給を行う電動パワーステアリング装置であって、前記制御手段は、前記二次電圧の値を検出する検出手段と、該検出された値に基づいて前記モータに通電する電流量の制限率を決定する決定手段とを備え、前記確認信号が途絶した場合には、前記制限率に基づき制限された駆動電力を前記モータに供給すること、を要旨とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、前記決定手段は、前記検出された二次電圧の値が低いほど、前記モータに通電される電流量の値が小さくなるように前記制限率を決定すること、を要旨とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、前記変圧手段は、該変圧手段の電源供給状態を示す電源供給状態信号を出力し、前記制御手段は、前記変圧手段が出力する電源供給状態信号に基づいて前記モータに通電する電流量の第2の制限率を決定する第2の決定手段とを備え、前記確認信号が途絶した場合には、両制限率に基づき制限された駆動電力を前記モータに供給すること、を要旨とする。
【0013】
請求項5に記載の発明は、一次電源の電圧を変圧して出力する変圧手段と、該変圧された二次電圧に基づく駆動電力をモータに供給する制御手段と、前記一次電源の電源供給状態を監視する監視手段とを備え、前記制御手段は、車内ネットワークを介して監視手段から入力される一次電源の電源供給状態を示す確認信号に基づいて前記駆動電力の供給を行う電力供給システムであって、前記制御手段は、前記確認信号が途絶した場合には、前記二次電圧の値、又は前記変圧手段の出力する電源供給状態信号に示される電源供給状態の少なくとも一つに基づき制限された駆動電力を前記モータに供給すること、を要旨とする。
【0014】
上記各構成によれば、車内ネットワークの異常により確認信号が途絶した場合には、モータに供給する駆動電力が、一次電源及び変圧手段に過剰な負荷をかけない程度、即ち正常動作可能な範囲に制限される。従って、確認信号の途絶により一次電源の正常/異常が確認できない場合であっても、安定的に駆動電力の供給を行うことができる。そして、特に、請求項1,請求項2〜請求項4に記載の電動パワーステアリング装置においては、その結果として、パワーアシスト制御を停止することなく好適な操舵フィーリングを維持することができるようになる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、簡素な構成にて、車内ネットワークの障害により車載電源の状態を示す確認信号が途絶した場合であっても、安定的に駆動電力の供給を行うことが可能な電動パワーステアリング装置及び電力供給システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を高電圧車両の電動パワーステアリング装置(EPS)に具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1は、本実施形態のEPS1の概略構成図である。同図に示すように、ステアリングホイール(ステアリング)2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック5に連結されており、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック5の往復直線運動に変換される。そして、このラック5の往復直線運動により操舵輪6の舵角、即ちタイヤ角が可変することにより、車両の進行方向が変更されるようになっている。
【0017】
EPS1は、操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する操舵力補助装置としてのEPSアクチュエータ10と、該EPSアクチュエータ10の作動を制御する制御手段としてのEPSECU11とを備えている。
【0018】
本実施形態のEPSアクチュエータ10は、その駆動源であるモータ12がラック5と同軸に配置された所謂ラック型のEPSアクチュエータであり、モータ12が発生するアシストトルクは、ボール送り機構(図示略)を介してラック5に伝達される。尚、本実施形態のモータ12は、ブラシレスモータであり、EPSECU11から三相(U,V,W)の駆動電力の供給を受けることにより回転する。そして、EPSECU11は、このモータ12が発生するアシストトルクを制御することにより、操舵系に付与するアシスト力を制御する(パワーアシスト制御)。
【0019】
次に、本実施形態のEPSにおける給電システム及びその制御態様について説明する。
本実施形態のEPS1は、モータ12の駆動電圧よりも出力電圧の高い強電バッテリ13を車載電源とする電気自動車や燃料電池車、或いはハイブリッド車等の高電圧車両用のEPSであり、強電バッテリ13が出力する一次電圧V1は、変圧手段としてのDC/DCコンバータ14にて二次電圧V2に変圧(降圧)された後、EPSECU11に供給される。そして、EPSECU11は、このDC/DCコンバータ14から供給される二次電圧V2に基づいて三相の駆動電力をモータ12へと供給する。
【0020】
尚、本実施形態の車両は、ハイブリッド車であり、強電バッテリ13の出力する一次電圧V1は、約245V(又は288V)に設定されている。そして、DC/DCコンバータ14は、その一次電圧V1を42Vまで降圧した二次電圧V2をEPSECU11に供給するようになっている。
【0021】
また、本実施形態では、EPSECU11は、車内ネットワーク15(CAN:Controller Area Network)を介してハイブリッド車の上位制御装置である監視手段としてのHEVECU16と接続されている。HEVECU16は、走行用モータ(図示略)を制御するとともに、車載電源である強電バッテリ13の状態(出力電圧値等)を監視し、その電源供給状態を示す一次電源供給状態確認信号Ssc1を出力する。そして、EPSECU11は、車内ネットワーク15を介して入力される一次電源供給状態確認信号Ssc1に基づいて、モータ12への駆動電力の供給、即ちパワーアシスト制御を実行する。
【0022】
図2に示すように、EPSECU11は、モータ制御信号を出力するマイコン17と、モータ制御信号に基づいてモータ12に三相の駆動電力を供給する駆動回路18とを備えている。
【0023】
本実施形態では、EPSECU11には、トルクセンサ19及び車速センサ20が接続されており、マイコン17は、これら各センサの出力信号に基づいて操舵トルクτ及び車速Vを検出する(図1参照)。尚、本実施形態では、車速センサ20は、車内ネットワーク15を介してEPSECU11と接続されている。また、EPSECU11には、モータ12に通電される各相電流値Iu,Iv,Iwを検出するための電流センサ21u,21v、及びモータ12の回転角(電気角)θを検出するための回転角センサ22が接続されている。そして、マイコン17は、これら各センサの出力信号に基づき検出されたモータ12の各相電流値Iu,Iv,Iw及び回転角θ、並びに上記操舵トルクτ及び車速Vに基づいて駆動回路18にモータ制御信号を出力する。
【0024】
詳述すると、マイコン17は、操舵系に付与するアシスト力の制御目標量である電流指令値Iq*を演算する電流指令値演算部25と、電流指令値演算部25により算出された電流指令値Iq*に基づいてモータ制御信号を出力するモータ制御信号出力部26とを備えている。
【0025】
電流指令値演算部25は、上記トルクセンサ19及び車速センサ20により検出された操舵トルクτ及び車速Vに基づいて電流指令値Iq*を演算し、その電流指令値Iq*をモータ制御信号出力部26に出力する。また、モータ制御信号出力部26には、電流指令値演算部25により算出された電流指令値Iq*とともに、各電流センサ21u,21vにより検出された各相電流値Iu,Iv,Iw及び回転角センサ22により検出された回転角θが入力される。そして、モータ制御信号出力部26は、これら各相電流値Iu,Iv,Iw、及び回転角θに基づいて、制御目標量である電流指令値Iq*にモータ12に供給される電流量(実電流値)を追従させるべくモータ制御信号を出力する。
【0026】
尚、本実施形態では、モータ制御信号出力部26は、検出された各相電流値Iu,Iv,Iwをd/q座標系のd,q軸電流値に変換(d/q変換)することにより、上記電流フィードバック制御を行う。
【0027】
即ち、電流指令値Iq*は、q軸電流指令値としてモータ制御信号出力部26に入力され、モータ制御信号出力部26は、回転角θに基づいて各相電流値Iu,Iv,Iwをd/q変換する。続いて、モータ制御信号出力部26は、そのd,q軸電流値及びq軸電流指令値に基づいてd,q軸電圧指令値を演算し、そのd,q軸電圧指令値をd/q逆変換することにより各相の電圧指令値を算出する。そして、モータ制御信号出力部26は、この電圧指令値に基づいてモータ制御信号を生成し、駆動回路18へと出力する。
【0028】
一方、駆動回路18は、モータ12の相数に対応する複数(6個)のパワーMOSFET(以下、単にFET)により構成されており、具体的にはFET28a,28dの直列回路、FET28b,28eの直列回路及びFET28c,28fの直列回路を並列接続することにより構成されている。そして、FET28a,28dの接続点29uはモータ12のU相コイルに接続され、FET28b,28eの接続点29vはモータ12のV相コイルに接続され、FET28c,28fの接続点29wはモータ12のW相コイルに接続されている。また、各FET28a〜28fのゲート端子には、マイコン17から出力されるモータ制御信号が印加される。そして、このモータ制御信号に応答して各FET28a〜28fがオン/オフすることにより、DC/DCコンバータ14から供給される直流電圧(二次電圧V2)が三相の駆動電力に変換され、モータ12に供給されるようになっている。
【0029】
(一次電源供給状態確認信号途絶時のパワーアシスト制御)
上述ように、従来、高電圧車両用のEPSにおいては、車内ネットワークの障害により強電バッテリの電源供給状態を示す確認信号が途絶した場合、強電バッテリやDC/DCコンバータに何ら異常のない場合であっても、その確認ができない以上、異常の有無に関わらずパワーアシスト制御を停止してフェールセーフを図らざるを得ない実情がある。しかしながら、確認信号の途絶と同時にパワーアシスト制御を停止するとすれば、急にステアリングが重くなる等、その操舵フィーリングを著しく損ねるおそれがある。
【0030】
この点を踏まえ、本実施形態のEPS1では、EPSECU11に一次電源供給状態確認信号Ssc1の入力がない、即ち車内ネットワーク15の障害により一次電源供給状態確認信号Ssc1が途絶した場合であっても、モータ12に供給する駆動電力を制限することによりパワーアシスト制御を続行する。
【0031】
具体的には、図1に示すように、本実施形態のDC/DCコンバータ14は、EPSECU11に対して、その電源供給状態(ステータス情報)を示す電源供給状態信号Ssc2を出力し、また、図2に示すように、EPSECU11は、DC/DCコンバータ14から供給される二次電圧V2の値を検出する検出手段としての電圧センサ30を備えている。そして、EPSECU11は、一次電源供給状態確認信号Ssc1が途絶した場合には、電圧センサ30により検出された二次電圧V2の値、及び電源供給状態信号Ssc2に示されるDC/DCコンバータ14の電源供給状態に基づき制限された駆動電力をモータ12に供給する。
【0032】
詳述すると、図2に示すように、電流指令値演算部25は、操舵トルクτ及び車速Vに基づいて操舵系に付与するアシスト力の基礎的制御目標量、即ち電流指令値Iq*の基礎成分である基本アシスト量Ias*を演算する基本アシスト量演算部31と、一次電源供給状態確認信号Ssc1の入力の有無を判定する一次電源供給状態判定部32とを備えている。
【0033】
また、電流指令値演算部25は、検出された二次電圧V2の値に基づく制限率αを決定する決定手段としての二次電圧制限率決定部33と、電源供給状態信号Ssc2に示されるDC/DCコンバータ14の電源供給状態に基づく制限率βを決定する第2の決定手段としての電源供給状態制限率決定部34とを備えている。そして、電流指令値演算部25は、一次電源供給状態判定部32において一次電源供給状態確認信号Ssc1の途絶が判定された場合には、基本アシスト量演算部31により算出された基本アシスト量Ias*に二次電圧制限率決定部33及び電源供給状態制限率決定部34により決定された上記両制限率α,βを乗じた値を電流指令値Iq*としてモータ制御信号出力部26に出力する。
【0034】
更に詳述すると、二次電圧制限率決定部33は、制限率αと二次電圧V2の値とが関連付けられたマップ35を有しており(図3参照)、同マップ35において、制限率αは、二次電圧V2の値がその規定値V0より小さいほど小となる、即ち該制限率αによって制限された電流指令値Iq*の値が小さくなるように設定されている。より具体的には、制限率αは、検出された二次電圧V2の値が規定値V0よりも小さい領域において、二次電圧V2の値に比例して制限率α1まで略直線的に小となり、更に検出された二次電圧V2の値が所定の電圧Vaよりも小さい領域においては「0%」となるように設定されている。そして、二次電圧制限率決定部33は、検出された二次電圧V2の値をこのマップ35に照合することにより、制限率αを決定する。
【0035】
同様に、電源供給状態制限率決定部34は、制限率βと電源供給状態信号Ssc2に示されるDC/DCコンバータ14の電源供給状態とが関連付けられたマップ36を有している(図4参照)。尚、本実施形態では、電源供給状態信号Ssc2において、DC/DCコンバータ14の電源供給状態は、2ビットのステータス情報によって示されるようになっており、マップ36において、制限率βは、そのステータス情報毎に設定されている。具体的には、制限率βは、ステータス情報が、DC/DCコンバータ14が正常であることを示す「10」であるときは「100%」、DC/DCコンバータ14が過負荷(オーバーロード)状態にあることを示す「01」の場合にはβ1、DC/DCコンバータ14の異常を示す「00」の場合には「0%」に設定されている。そして、電源供給状態制限率決定部34は、入力された電源供給状態信号Ssc2に示される電源供給状態をこのマップ36に照合することにより、制限率βを決定する。
【0036】
本実施形態では、二次電圧制限率決定部33及び電源供給状態制限率決定部34により決定された両制限率α,βは、乗算器37に入力され、これら両制限率α,βの積である制限率γは、一次電源供給状態判定部32によりオン/オフ制御される切替部38を介して乗算器39に入力される。具体的には、一次電源供給状態判定部32は、一次電源供給状態確認信号Ssc1の途絶を判定した場合に、切替部38に対してオン信号を出力する。そして、乗算器39において、基本アシスト量演算部31により算出された基本アシスト量Ias*に制限率γを乗じた値が、電流指令値Iq*としてモータ制御信号出力部26へと出力されるようになっている。
【0037】
即ち、一次電源供給状態確認信号Ssc1が途絶した場合には、電圧センサ30により検出された二次電圧V2の値、及び電源供給状態信号Ssc2に示されるDC/DCコンバータ14の電源供給状態に基づいて電流指令値Iq*が制限される。そして、この制限された電流指令値Iq*に基づく電流制御が行われることにより、制限された駆動電力がモータ12に供給されるようになっている。
【0038】
以上、本実施形態によれば、以下のような特徴を得ることができる。
DC/DCコンバータ14は、EPSECU11に対して、その電源供給状態(ステータス情報)を示す電源供給状態信号Ssc2を出力し、また、EPSECU11は、DC/DCコンバータ14から供給される二次電圧V2の値を検出するための電圧センサ30を備える。そして、EPSECU11は、強電バッテリ13の電源供給状態を示す一次電源供給状態確認信号Ssc1が途絶した場合には、電圧センサ30により検出された二次電圧V2の値、及び電源供給状態信号Ssc2に示されるDC/DCコンバータ14の電源供給状態に基づき制限された駆動電力をモータ12に供給する。
【0039】
このような構成とすれば、一次電源供給状態確認信号Ssc1が途絶した場合には、モータ12に供給する駆動電力が、強電バッテリ13及びDC/DCコンバータ14に過剰な負荷をかけない程度、即ち正常動作可能な範囲に制限される。従って、一次電源供給状態確認信号Ssc1の途絶により強電バッテリ13の正常/異常が確認できない場合であっても、安定的に駆動電力の供給を行うことができ、その結果、パワーアシスト制御を停止することなく好適な操舵フィーリングを維持することができるようになる。
【0040】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・本実施形態では、本発明を高電圧車両の電動パワーステアリング装置(EPS)に具体化したが、例えばギヤ比可変装置等、EPS以外の駆動モータに駆動電力を供給する電力供給システムに具体化してもよい。
【0041】
・本実施形態では、EPSECU11は、一次電源供給状態確認信号Ssc1が途絶した場合には、電圧センサ30により検出された二次電圧V2の値、及び電源供給状態信号Ssc2に示されるDC/DCコンバータ14の電源供給状態に基づき制限された駆動電力をモータ12に供給することとした。しかし、これに限らず、検出された二次電圧V2の値、又は電源供給状態信号Ssc2に示されるDC/DCコンバータ14の電源供給状態の少なくとも一つに基づいて、モータ12に供給する駆動電力を制限することとしてもよい。
【0042】
・また、本実施形態では、両制限率α,βの積である制限率γを基本アシスト量Ias*に乗ずることによりモータ12に供給する駆動電力を制限することとしたが、必ずしも両制限率α,βの積を用いる必要はなく、例えば両制限率α,βの和に基づいてモータ12に供給する駆動電力を制限することとしてもよい。尚、この場合、両制限率α,βの和が100%を超えないように設計すべきことはいうまでもない。
【0043】
・本実施形態では、本発明を、一次電圧V1をDC/DCコンバータ14にて降圧する構成に適用したが、昇圧する構成に適用してもよい。
次に、以上の実施形態から把握することのできる請求項以外の技術的思想を記載する。
【0044】
(イ)請求項4に記載の電動パワーステアリング装置において、前記制御手段は、前記両制限率の積により前記駆動電力を制限すること、を特徴とする電動パワーステアリング装置。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本実施形態のEPSの概略構成図。
【図2】本実施形態のEPSにおける給電システムの概略構成図。
【図3】制限率と二次電圧の値とが関連付けられたマップの概略構成図。
【図4】制限率と電源供給状態信号に示されるDC/DCコンバータの電源供給状態とが関連付けられたマップの概略構成図。
【符号の説明】
【0046】
1…EPS、2…ステアリングホイール、10…EPSアクチュエータ、11…EPSECU、12…モータ、13…強電バッテリ、14…DC/DCコンバータ、15…車内ネットワーク、16…HEVECU、17…マイコン、18…駆動回路、25…電流指令値演算部、30…電圧センサ、31…基本アシスト量演算部、32…一次電源供給状態判定部、33…二次電圧制限率決定部、34…電源供給状態制限率決定部、35,36…マップ、37,39…乗算器、α,β,γ…制限率、V1…一次電圧、V2…二次電圧、Iq*…電流指令値、Ias*…基本アシスト量、Ssc1…一次電源供給状態確認信号、Ssc2…電源供給状態信号。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動源として操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する操舵力補助装置と、一次電源の電圧を変圧して出力する変圧手段と、該変圧された二次電圧に基づく駆動電力を前記モータに供給することにより前記操舵力補助装置の作動を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、車内ネットワークを介して入力される前記一次電源の電源供給状態を示す確認信号に基づいて前記駆動電力の供給を行う電動パワーステアリング装置であって、
前記制御手段は、前記確認信号が途絶した場合には、前記二次電圧の値、又は前記変圧手段の出力する電源供給状態信号に示される電源供給状態の少なくとも一つに基づき制限された駆動電力を前記モータに供給すること、
を特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
モータを駆動源として操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する操舵力補助装置と、一次電源の電圧を変圧して出力する変圧手段と、該変圧された二次電圧に基づく駆動電力を前記モータに供給することにより前記操舵力補助装置の作動を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、車内ネットワークを介して入力される前記一次電源の電源供給状態を示す確認信号に基づいて前記駆動電力の供給を行う電動パワーステアリング装置であって、
前記制御手段は、前記二次電圧の値を検出する検出手段と、該検出された値に基づいて前記モータに通電する電流量の制限率を決定する決定手段とを備え、
前記確認信号が途絶した場合には、前記制限率に基づき制限された駆動電力を前記モータに供給すること、を特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記決定手段は、前記検出された二次電圧の値が低いほど、前記モータに通電される電流量の値が小さくなるように前記制限率を決定すること、
を特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記変圧手段は、該変圧手段の電源供給状態を示す電源供給状態信号を出力し、
前記制御手段は、前記変圧手段が出力する電源供給状態信号に基づいて前記モータに通電する電流量の第2の制限率を決定する第2の決定手段とを備え、
前記確認信号が途絶した場合には、両制限率に基づき制限された駆動電力を前記モータに供給すること、を特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項5】
一次電源の電圧を変圧して出力する変圧手段と、該変圧された二次電圧に基づく駆動電力をモータに供給する制御手段と、前記一次電源の電源供給状態を監視する監視手段とを備え、前記制御手段は、車内ネットワークを介して監視手段から入力される一次電源の電源供給状態を示す確認信号に基づいて前記駆動電力の供給を行う電力供給システムであって、
前記制御手段は、前記確認信号が途絶した場合には、前記二次電圧の値、又は前記変圧手段の出力する電源供給状態信号に示される電源供給状態の少なくとも一つに基づき制限された駆動電力を前記モータに供給すること、を特徴とする電力供給システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−117142(P2006−117142A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−308159(P2004−308159)
【出願日】平成16年10月22日(2004.10.22)
【出願人】(302066630)株式会社ファーベス (138)
【出願人】(000003470)豊田工機株式会社 (198)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】