説明

電動パワーステアリング装置

【課題】 簡単な構成かつ高精度に静止摩擦を推定する電動パワーステアリング装置を提供することを課題とする。
【解決手段】 操舵状態に応じてモータ5による操舵補助力をステアリング系に付加する電動パワーステアリング装置1であって、モータ5の回転角を検出する回転角検出手段4と、モータ5に電流を供給する電流供給手段6と、モータ5が停止状態のときに電流を供給し、モータ5の回転角が変化し始めたときのモータ5に供給している電流値に基づいて静止摩擦を推定する静止摩擦推定手段6とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータによる操舵補助力をステアリング系に付加する電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動パワーステアリング装置は、運転者によって入力された操舵トルクや車速に応じてモータの駆動を制御し、モータによってステアリング系に対して操舵補助力を付加する。このモータ自体の摩擦やサスペンションの摩擦などによってステアリング系には静止摩擦が存在するので、電動パワーステアリング装置では静止摩擦の影響を受ける。そのため、操舵補助力に静止摩擦を考慮していない場合、操舵し始めるときに引っ掛かり感などが生じ、ステアリングの中立付近での操舵フィーリングが悪化する。また、レーンキープ装置などの車両側で操舵を行う場合、この静止摩擦を考慮しないでモータを駆動制御すると、タイヤが転舵しなかったりあるいはタイヤが切れすぎたりする。
【0003】
そこで、電動パワーステアリング装置には、静止摩擦を推定し、その推定した静止摩擦を考慮してモータによる操舵補助力を付加するものがある(特許文献1参照)。静止摩擦の推定方法としては、モータの角速度、モータの逆起電力、モータの電流あるいは操舵角速度を検出し、その急峻な変化から静止摩擦を推定する方法が採られている。
【特許文献1】特許第3481468号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の静止摩擦の推定方法では、モータの角速度などの急峻な変化を利用しているので、各センサ信号の時間微分を求めることになる。そのため、各センサ信号にノイズが存在する場合にはそのノイズを急峻な変化として検出する可能性があるので、静止摩擦の推定精度が悪化する。そこで、ノイズを除去するためにセンサ信号に対してフィルタ処理を施した場合、ハードウエアとして別にフィルタが必要となったりあるいはソフトウエアで除去すると制御ソフトが複雑化するので、コストが増加する。また、フィルタ処理によってモータの角速度などの急峻な変化も除去してしまう場合があり、静止摩擦の推定精度が悪化し、信頼性を低下させる。
【0005】
そこで、本発明は、簡単な構成かつ高精度に静止摩擦を推定する電動パワーステアリング装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る電動パワーステアリング装置は、操舵状態に応じてモータによる操舵補助力をステアリング系に付加する電動パワーステアリング装置であって、モータの回転角を検出する回転角検出手段と、モータに電流を供給する電流供給手段と、モータが停止状態のときに電流を供給し、モータの回転角が変化し始めたときのモータに供給している電流値に基づいて静止摩擦を推定する静止摩擦推定手段とを備えることを特徴とする。
【0007】
この電動パワーステアリング装置では、モータの停止状態のときに、電流供給手段によりモータに電流を供給していく。電流を供給し始めてから、電動パワーステアリング装置では、回転角検出手段によりモータの回転角を検出し、モータの回転角が変化し始めた時点(モータが停止から回転し始めた時点)を検出する。そして、電動パワーステアリング装置では、静止摩擦推定手段によりその回転角が変化し始めたときにモータに供給している電流値に基づいて静止摩擦を推定する。つまり、モータに電流を供給し始めたときには、静止摩擦の影響によりモータが停止状態のままである。モータに供給する電流を徐々に増加するとモータで発生するトルクも増加し、やがて、静止摩擦力に対してモータのトルクが上回り、モータが回転し始める。したがって、モータが停止から回転し始めたときに供給している電流によって発生しているモータのトルクが、静止摩擦力に対して必要なモータのトルクとなる。このように、電動パワーステアリング装置では、簡単の構成により静止摩擦を推定することができる。また、電動パワーステアリング装置では、モータが停止状態から回転角が変化した瞬間を検出すればよいので、静止摩擦の推定精度も非常に高い。
【0008】
本発明の上記電動パワーステアリング装置では、モータの停止状態から回転角が変化したときに当該モータの回転によるステアリング系における回転をキャンセルするキャンセル手段を備える構成としてもよい。
【0009】
この電動パワーステアリング装置では、静止摩擦を推定する際に、キャンセル手段によりモータの回転によって発生するステアリング系における回転をキャンセルする。つまり、静止摩擦を推定するためにモータに電流を供給した場合、モータが回転するとステアリングシャフトを介してステアリングホイールが多少動いてしまう。そこで、モータとステアリングホイールとの間に設けられたキャンセル手段によって、モータによる回転がステアリングホイールに伝達される前に、そのステアリング系における回転を打ち消すような作用をキャンセル手段によって与える。その結果、静止摩擦を推定しているときにステアリングホイールが動くようなことがなくなるので、運転者に対して不安感を与えない。キャンセル手段としては、例えば、ステアリングシャフトの途中に設けられたギヤ比可変装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡単な構成により、静止摩擦を高精度に推定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明に係る電動パワーステアリング装置の実施の形態を説明する。
【0012】
本実施の形態では、本発明に係る電動パワーステアリング装置を、ブラシレスモータによって操舵補助力を付加する電動パワーステアリング装置に適用する。本実施の形態に係る電動パワーステアリング装置は、ブラシレスモータを駆動制御するために必要なモータ回転角センサを利用し、ECUにおける静止摩擦推定処理によりステアリング系の静止摩擦を推定する。本実施の形態には、2つの実施の形態があり、第1の実施の形態が静止摩擦推定の基本的な構成であり、第2の実施の形態が静止摩擦を推定する際にモータの回転によるステアリング系の回転をキャンセルする手段も有する構成である。なお、本実施の形態では、モータの回転角や操舵トルクの方向を正負で表し、正値を右回転方向とし、負値を左回転方向とする。
【0013】
図1及び図2を参照して、第1の実施の形態に係る電動パワーステアリング装置1について説明する。図1は、第1の実施の形態に係る電動パワーステアリング装置の構成図である。図2は、モータの駆動電流とモータの回転トルクとの関係を示すモータ用マップの一例である。
【0014】
電動パワーステアリング装置1では、車両の各種状態に応じて操舵補助トルクを設定し、モータによってその操舵補助トルクをステアリング系に付加する。特に、電動パワーステアリング装置1では、ステアリング系の静止摩擦(摩擦トルク)を推定することができる。そのために、電動パワーステアリング装置1は、操舵トルクセンサ2、車速センサ3、モータ回転角センサ4、モータ5、ECU[Electronic Control Unit]6などを備えている。
【0015】
なお、第1の実施の形態ではモータ回転角センサ4が特許請求の範囲に記載する回転角検出手段に相当し、ECU6が特許請求の範囲に記載する電流供給手段及び静止摩擦推定手段に相当する。
【0016】
操舵トルクセンサ2は、操舵トルクの方向と大きさを検出するセンサである。操舵トルクセンサ2では、その方向と大きさを示す操舵トルク信号TSをECU6に送信する。車速センサ3は、その検出値を示す車速信号SSをECU6に送信する。モータ回転角センサ4は、モータ5の回転角の方向と大きさを検出するセンサである。モータ回転角センサ4では、その方向と大きさを示すモータ回転角信号ASをECU6に送信する。
【0017】
モータ5は、ブラシレスモータであり、コイルに流す電流がモータ回転角センサ4で検出したモータ回転角に基づいて制御される。モータ5は、ECU6に接続され、ECU6からモータ回転角に基づく制御電流CIが供給される。そして、モータ5では、制御電流CIに応じた方向に回転駆動し、制御電流CIに応じた回転トルクを発生する。
【0018】
なお、電動パワーステアリング装置1は、モータ5がステアリングシャフト(図示せず)に対して設けられるコラム駆動タイプでもよいし、あるいは、ラック軸(図示せず)に対して設けられるラック駆動タイプでもよい。いずれのタイプの場合も、モータ5は減速機(図示せず)を介してステアリングシャフト又はラック軸に所定のトルクを与える。
【0019】
ECU6は、CPU[Central Processing Unit]、ROM[Read Only Memory]、RAM[Random Access Memory]、モータ駆動回路等からなる電子制御ユニットである。ECU6では、各種センサ2,3,4からの検出信号TS,SS,ASに基づいて操舵補助制御処理、静止摩擦推定処理などを行い、モータ5の駆動を制御する。
【0020】
操舵補助制御処理について説明する。ECU6では、操舵補助トルク設定用マップを用いて、車速信号SSによる車速及び操舵トルク信号TSによる操舵トルクなどに基づいて操舵補助トルク(方向と大きさ)を求める。この際、ECU6では、車速信号SSによる各輪の回転速度から車速を演算する。そして、ECU6では、操舵補助トルクの方向と大きさを発生するために必要な駆動電流指令値(方向と大きさ)を設定する。さらに、ECU6のモータ駆動回路において、その駆動電流指令値に応じた制御電流CIを発生し、その発生した制御電流CIをモータ5に供給する。この際、ECU6では、駆動電流指令値となるように、モータ回転角信号ASによるモータ回転角に基づいてモータ5をフィードバック制御する。
【0021】
静止摩擦推定処理について説明する。ECU6では、イグニッションスイッチがオンされる毎に、静止摩擦推定処理を実行する。まず、ECU6では、運転者からの操舵入力が無いことを確認するために、操舵トルク信号TSによる操舵トルクに基づいて操舵トルクが0か否かを判定する。また、ECU6では、モータ5が停止状態であることを確認するために、駆動電流指令値が0か否かを確認する。さらに、ECU6では、モータ5の回転角を0にリセットする。この際、ECU6では、モータ回転角信号ASによるモータ回転角が0になっているかを確認する。
【0022】
ECU6では、運転者からの操舵入力が無くかつモータ5が停止状態であることを確認すると、駆動電流指令値を一定の極少量づつ微増設定していく。駆動電流指令値を微増設定する毎に、ECU6のモータ駆動回路において、その駆動電流指令値に応じた制御電流CIを発生し、その発生した制御電流CIをモータ5に供給する。微増した制御電流CIをモータ5に供給する毎に、ECU6では、モータ回転角信号ASによるモータ回転角の絶対値が0から変化したか否かを判定する。ちなみに、モータ回転角の絶対値が0の場合、静止摩擦の摩擦トルクがモータ5の回転トルクに減速機を介したトルクより大きく、モータ5が停止状態のままである。モータ回転角の絶対値が0から変化した瞬間、静止摩擦の摩擦トルクがモータ5の回転トルクに減速機を介したトルクと等しくなり、モータ5が停止状態から回転し始める。
【0023】
ECU6では、モータ回転角の絶対値が0から変化したと判定した場合、その変化し始めたときの駆動電流指令値を保持する。そして、ECU6では、モータ用マップを用いて(図2参照)、保持した駆動電流指令値からその駆動電流指令値に応じた制御電流CIを供給したときのモータ5の回転トルクを求める。モータ用マップは、モータ5に供給される駆動電流と発生する回転トルクとの関係を示すマップであり、駆動電流が大きくなるのに従って大きくなる回転トルクが設定されている。モータ用マップは、実験などによって予め求められたものであり、ECU6内に保持されている。さらに、ECU6では、モータ5とステアリングシャフト又はラック軸との間の減速機のギヤ比により、求めた回転トルクから静止摩擦の摩擦トルクを換算する。
【0024】
電動パワーステアリング装置1では、ステアリング系の静止摩擦を補償するために、この推定した摩擦トルクを操舵補助トルクを求める際に利用する。また、この車両にレーンキープ装置などの車両側で操舵を行うような装置が搭載されている場合、ステアリング系の静止摩擦を補償するために、付加する操舵トルクに推定した摩擦トルクを加味するようにしてもよい。
【0025】
図1を参照して、電動パワーステアリング装置1における静止摩擦を推定する際の動作について説明する。特に、ECU6における静止摩擦推定処理については図3のフローチャートに沿って説明する。図3は、図1のECUにおける静止摩擦推定処理を示すフローチャートである。
【0026】
運転者が、イグニッションスイッチをオンする。すると、ECU6では、静止摩擦推定処理が起動する。操舵トルクセンサ2では、操舵トルクを検出し、ECU6に操舵トルク信号TSを送信している。また、モータ回転角センサ4では、モータ5の回転角を検出し、ECU6にモータ回転角信号ASを送信している。また、車速センサ3では、各輪の回転速度を各々検出し、ECU6に車速信号SSを各々送信している。ECU6では、この検出した回転速度から車速を演算している。
【0027】
ECU6では、操舵トルクが0か否かを判定する(S1)。ECU6では、操舵トルクが0でない場合、S1の処理を繰り返し実行する。S1にて操舵トルクが0と判定すると、ECU6では、駆動電流指令値が0になっているか否かを判定する(S2)。ECU6では、駆動電流指令値が0でない場合、S2の処理を繰り返し実行する。S2にて駆動電流指令値が0と判定すると、ECU6では、モータ5の回転角を0にリセットする(S3)。
【0028】
以上の条件が整うと、ECU6では、駆動電流指令値として前回の駆動電流指令値に対して一定の微小量を積算設定し、モータ駆動回路からその駆動電流指令値に応じた制御電流CIをモータ5に供給する(S4)。
【0029】
モータ5では、供給された制御電流CIに応じた回転トルクを発生する。そして、この回転トルクが、減速機を介してステアリングシャフト又はラック軸に付加される。この付加されたトルクが静止摩擦の摩擦トルクより小さい場合、モータ5は停止したままであり(回転角が0)、ステアリングシャフト又はラック軸も停止したままである。一方、付加されたトルクが静止摩擦の摩擦トルクより大きくなると、モータ5は回転し(回転角が0から変化し)、ステアリングシャフトが回転又はラック軸が車幅方向に移動する。
【0030】
S4の処理を実行する毎に、ECU6では、モータ5の回転角の絶対値が0から変化したか否かを判定する(S5)。S5にて回転角の絶対角が0と判定した場合、ECU6では、S4の処理に戻って、更に、駆動電流指令値を一定の微小量分を微増設定し、その微増した制御電流CIをモータ5に供給する(S4)。
【0031】
S5にて回転角の絶対値が0から変化したと判定した場合、ECU6では、モータ用マップを用いて、そのときの駆動電流指令値に基づいてモータ5の回転トルクを求める(S6)。さらに、ECU6では、減速機のギヤ比を用いて、その求めた回転トルクからステアリング系の摩擦トルクを演算する(S7)。
【0032】
この電動パワーステアリング装置1によれば、モータ5の停止状態から徐々に電流を供給し、モータ5の回転角が変化したときの駆動電流値から摩擦トルクを求める簡単な構成によって静止摩擦を推定することができる。また、電動パワーステアリング装置1では、モータ5が停止状態から回転し始めた時点を検出するだけなので、静止摩擦を高精度に推定できる。
【0033】
図4を参照して、第2の実施の形態に係る電動パワーステアリング装置11について説明する。図4は、第2の実施の形態に係る電動パワーステアリング装置の構成図である。なお、電動パワーステアリング装置11では、第1の実施の形態に係る電動パワーステアリング装置1と同様の構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0034】
電動パワーステアリング装置11は、電動パワーステアリング装置1と同様の装置であるが、静止摩擦を推定する際にステアリングホイールが動かないようにモータ5の回転によるステアリングホイールの回転をキャンセルする。そのために、電動パワーステアリング装置11は、操舵トルクセンサ2、車速センサ3、モータ回転角センサ4、モータ5、ECU[Electronic Control Unit]16などを備えており、車両に搭載されるギヤ比可変装置17を利用する。
【0035】
なお、第2の実施の形態ではモータ回転角センサ4が特許請求の範囲に記載する回転角検出手段に相当し、ECU16が特許請求の範囲に記載する電流供給手段及び静止摩擦推定手段に相当し、ギヤ比可変装置17が特許請求の範囲に記載するキャンセル手段に相当する。
【0036】
ギヤ比可変装置17は、車速に応じてステアリングギヤ比(ステアリングホイールの操舵角とタイヤの転舵角の比率)を変化させる装置である。ギヤ比可変装置17は、ステアリングシャフトの中間部に設けられ、ステアリングシャフトのステアリングホイール側とピニオン側の回転比を変化させる。したがって、ステアリングシャフトは、ギヤ比可変装置17を介してステアリングホイール側とピニオン側とに分離されている。また、ギヤ比可変装置17は、ECU16に接続され、ECU16からキャンセル信号CS(回転方向と回転角度)を受信する。ギヤ比可変装置17では、キャンセル信号CSを受信すると、ピニオン側のステアリングシャフトをキャンセル信号CSに示される回転方向に回転角度分回転させる。
【0037】
ECU16は、第1の実施の形態に係るECU6と同様のECUであるが、静止摩擦推定処理においてステアリングホイールの回転をキャンセルするための処理も有している。そのため、ECU16では、モータ5の駆動を制御する他に、ギヤ比可変装置17にキャンセル信号CSを送信して作動させる。ここでは、ECU16における静止摩擦推定処理において、ECU6における静止摩擦推定処理に対して追加した処理についてのみ説明する。
【0038】
微増した制御電流CIをモータ5に供給する毎に、ECU16では、モータ回転角信号ASによるモータ回転角を時間微分し、モータ5の角速度を求める。そして、ECU16では、このモータ角速度(微分値)が0から変化したか否かを判定する。このように、モータ回転角の変化を判定するのでなく、モータ角速度の変化を判定するのは、回転角の少しの変化に対しても角速度は急峻に立ち上がるので、モータの回転し始めた瞬間を出来るだけ速く検出するためのである。
【0039】
ECU16では、モータ角速度が0から変化したと判定した場合、そのときのモータ回転角(回転方向と大きさ)からステアリングシャフトが回転する方向(ひいては、ステアリングホイールが操舵される方向)とは逆方向を回転方向として設定し、モータ5の回転によるピニオン軸側のステアリングシャフトの回転角度を求める。そして、ECU16では、その回転方向と回転角度を示したキャンセル信号CSを設定し、ギヤ比可変装置17に送信する。
【0040】
図4を参照して、電動パワーステアリング装置11における静止摩擦を推定する際の動作について説明する。特に、ECU16における静止摩擦推定処理については図5のフローチャートに沿って説明する。ここでの動作説明では、第1の実施の形態における動作説明と異なる点についてのみ詳細に説明する。図5は、図4のECUにおける静止摩擦推定処理を示すフローチャートである。なお、図5に示すフローチャートでは、第1の実施の形態に係る図3に示すフローチャートと同様の処理については同一のステップ番号を付している。
【0041】
ECU16では、S1〜S7の処理により、静止摩擦の摩擦トルクを演算する。この際、S4の処理が終了する毎に、ECU16では、モータ5の回転角を時間微分し、モータ5の角速度を演算する(S8)。そして、ECU6では、そのモータ角速度(微分値)が0から変化したか否かを判定する(S9)。S9にてモータ角速度が変化なしと判定した場合、ECU6では、S4の処理に戻る。この場合、モータ5の回転角も変化していないので、S5にて回転角の絶対角が0と判定している。
【0042】
S9にてモータ角速度が変化したと判定した場合、ECU6では、ステアリングホイールの操舵をキャンセルするための回転方向と回転角度を示したキャンセル信号CSを設定し、ギヤ比可変装置17に送信する(S10)。すると、ギヤ比可変装置17では、ピニオン側のステアリングシャフトをキャンセル信号CSに設定されている回転方向に回転角度分回転させる。したがって、モータ5の回転は、ギヤ比可変装置17においてキャンセルされ、ステアリングホイール側のステアリングシャフト(ひいては、ステアリングホイール)まで伝達されない。
【0043】
この電動パワーステアリング装置11によれば、第1の実施の形態に係る電動パワーステアリング装置1と同様の効果を有する上に、静止摩擦を推定する際にステアリングホイールが回転しない。そのため、ステアリングホイールを勝手に回転することによって、運転者に違和感を与えることはない。また、電動パワーステアリング装置11では、モータ5の変化を角速度で判定することにより、モータ5の変化を迅速に検知でき、モータ5の回転がステアリングホイールに伝達する前にその回転をキャンセルすることができる。
【0044】
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されることなく様々な形態で実施される。
【0045】
例えば、本実施の形態ではブラシレスモータを備える電動パワーステアリング装置に適用したが、他のモータを備える電動パワーステアリング装置にも適用可能である。また、ブラシレスモータと共に備えられるモータ回転角センサによってモータの回転角を検出する構成としたが、ブラシレスモータでない場合には、回転角検出手段としては、モータ回転角センサを備える構成としてもよいが、モータの電流値と電圧値からモータの回転角を推定する手段としてもよいしあるいはモータの角速度やモータの角加速度から演算する手段であってもよい。
【0046】
また、本実施の形態ではモータ用マップを用いてモータの駆動電流からモータの回転トルクを求める構成としたが、所定の演算式を用いてモータの駆動電流からモータの回転トルクを演算によって求める構成としてもよい。
【0047】
また、第2の実施の形態ではキャンセル手段としてギヤ比可変装置を利用する構成としてが、モータの回転によるステアリング系の回転をキャンセルできる装置なら他の装置を利用してもよいし、あるいは、専用のキャンセル手段を構成してもよい。
【0048】
また、第2の実施の形態ではラック駆動タイプの電動パワーステアリング装置に適用したが、ギヤ比可変装置が小型であり、ステアリングシャフトのステアリングホイール近傍に設けることができる場合にはコラム駆動タイプにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】第1の実施の形態に係る電動パワーステアリング装置の構成図である。
【図2】モータの駆動電流とモータの回転トルクとの関係を示すモータ用マップの一例である。
【図3】図1のECUにおける静止摩擦推定処理を示すフローチャートである。
【図4】第2の実施の形態に係る電動パワーステアリング装置の構成図である。
【図5】図4のECUにおける静止摩擦推定処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0050】
1,11…電動パワーステアリング装置、2…操舵トルクセンサ、3…車速センサ、4…モータ回転角センサ、5…モータ、6,16…ECU、17…ギヤ比可変装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵状態に応じてモータによる操舵補助力をステアリング系に付加する電動パワーステアリング装置であって、
モータの回転角を検出する回転角検出手段と、
モータに電流を供給する電流供給手段と、
モータが停止状態のときに電流を供給し、モータの回転角が変化し始めたときのモータに供給している電流値に基づいて静止摩擦を推定する静止摩擦推定手段と
を備えることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記モータの停止状態から回転角が変化したときに当該モータの回転によるステアリング系における回転をキャンセルするキャンセル手段を備えることを特徴とする請求項1に記載する電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−160010(P2006−160010A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−351684(P2004−351684)
【出願日】平成16年12月3日(2004.12.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】