説明

電動パワーステアリング装置

【課題】騒音を抑制でき、安価で、組み立ての手間が少なく、且つ、運転者の操舵負荷を充分に低減できる電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】ウォーム軸20の第1端部22を支持する第1軸受31の内輪31aの軌道溝31dおよび外輪31bの軌道溝31eの曲率半径は、それぞれ、転動体31cの直径の50%よりも大きい。これにより、第1端部22を中心とするウォーム軸20の揺動が許容されている。第1軸受31は、押圧部材35によって径方向Q1に押圧されることで内部隙間が詰められている。ウォーム軸20がハウジング70に対して軸方向S1に振動したときに、この振動は、一対の第2弾性部材63,67によって減衰・吸収される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動モータの出力が減速機構を介して転舵機構に伝達される電動パワーステアリング装置において、減速機構として、ウォーム減速機構を用いることがある(例えば、特許文献1参照)。ウォーム減速機構のウォーム軸は、電動モータの回転軸に連結されている。このウォーム軸の両端部は、軸受を介してハウジングに支持されている。この軸受のうち、電動モータが連結されている一端部を支持する軸受は、玉軸受である。この玉軸受の内輪が外輪に対して揺動可能となっている。具体的には、この玉軸受の内輪および外輪の軌道溝の曲率半径を大きくすることで、内輪が外輪に対して揺動可能となっている。また、上記ウォーム軸の他端部は、弾性体によってウォームホイール側に付勢されている。
【0003】
上記の構成により、ウォーム軸は、一端部を中心としてウォームホイール側に傾くことで、ウォーム軸とウォームホイールとの噛み合い部分のバックラッシが詰められている。
また、ウォームホイールからウォーム軸に対してウォーム軸の軸方向に沿うアキシャル荷重が作用したとき、上記玉軸受の内輪および外輪が弾性的に撓むことにより、ウォーム軸をわずかに軸方向に移動させることが可能となっている。これにより、ステアリングホイールの操舵の開始の瞬間等、電動モータが駆動されないときに、ステアリングホイールからウォームホイールを介してウォーム軸に伝わった力によって、ウォーム軸が軸方向に移動可能となっている。これにより、電動モータが駆動していないときに電動モータからウォーム軸が受ける抵抗を少なくでき、その結果、電動モータが駆動されていないときの運転者の操舵負荷を低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−301265号公報([0035]、[0037]、[0038])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、玉軸受には、内部隙間が存在している。この内部隙間が大きいと、ウォーム軸が軸方向に変位したときに、軸受の内輪も一緒に軸方向に変位し、軸受の玉が内輪や外輪と衝突して衝突音を発する。一方で、軸受の内部隙間をむやみに小さくすると、ウォーム軸の変位を阻害してしまう。具体的には、軸受の内部隙間が小さいと、ウォーム軸の反モータ側端部をウォームホイールに向けて充分に変位させることができなくなる。これにより、ウォーム軸の歯部が摩耗したときに、ウォーム軸とウォームホイールとの間のバックラッシを詰めることができず、バックラッシに起因するウォーム軸とウォームホイールとの衝突音が生じてしまう。
【0006】
したがって、玉軸受のアキシャル内部隙間は、大きすぎず且つ小さすぎない適切な値となるようにする必要があり、玉軸受に関して厳密な寸法管理が要求される。このような寸法管理は、製造コストの上昇を招いてしまう。
特許文献1では、内輪をウォーム軸に圧入することにより、内輪を外輪に向けて押圧することで、玉軸受の内部隙間を負隙間にしている。これにより、軸受が単品の状態での内部隙間を大きくすることによるウォーム軸の変位可能量を充分に確保しつつ、内部隙間に起因する玉と内外輪との衝突音の抑制が可能であると考えられる。
【0007】
しかしながら、特許文献1の構成では、ウォーム軸によって内輪を径方向に押圧する量を適切な値にするために、細長いウォーム軸の外径と、玉軸受の内輪の内径とを精度よく合わせる必要がある。すなわち、ウォーム軸と軸受内輪との圧入のしめしろについて、非常に厳しく寸法管理する必要がある。したがって、ウォーム軸と玉軸受の内輪とを組み付けるのに手間がかかる。
【0008】
また、特許文献1の構成では、軸受の鋼製の内輪および外輪の撓みを利用してウォーム軸の軸方向移動を許容する構成であるので、ウォーム軸を軸方向に変位できる量が極めて小さい。このため、操舵部材からウォームホイールを介してウォーム軸にアキシャル荷重が作用したときにウォーム軸が軸方向に少ししか動けず、駆動されていない状態の電動モータからの抵抗を緩和できない。その結果、ウォーム軸およびウォームホイールを介して操舵部材に大きな反力が作用し、運転者の操舵負荷を充分に低減できない。
【0009】
本発明は、かかる背景のもとでなされたもので、騒音を抑制でき、安価で、組み立ての手間が少なく、且つ運転者の操舵負荷を充分に低減できる電動パワーステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は、第1端部(22)および第2端部(23)を含み、電動モータ(18)に連結されたウォーム軸(20)と、このウォーム軸に噛み合い転舵機構(29)に連結されたウォームホイール(21)と、前記第1端部を回転可能に支持する第1軸受(31)と、前記第2端部を回転可能に支持する第2軸受(32)と、前記ウォーム軸および前記ウォームホイールの中心間距離(K1)が近づく方向(D2)に前記第2軸受を弾性的に付勢する第1弾性部材(45)と、前記ウォーム軸および前記ウォームホイールを収容するハウジング(70)と、を備え、前記第1軸受は、軌道溝(31d)を有する内輪(31a)と、軌道溝(31e)を有する外輪(31b)と、各前記軌道溝間に介在する転動体(31c)と、を含み、各前記軌道溝の曲率半径(R1,R2)が前記転動体の直径(D1)の50%よりも大きいことにより前記第1端部を中心とする前記ウォーム軸の揺動を許容し、前記第1軸受は、前記ハウジングまたは前記ウォーム軸に形成された対向部(41,42;41B,42B)と前記ウォーム軸の軸方向(S1)に対向し前記対向部に対して前記軸方向に変位可能とされ、前記第1軸受に嵌合され第1軸受を径方向(Q1)に押圧することで各前記軌道溝および前記転動体を互いに押圧させる環状の押圧部材(35;35A)と、前記対向部と前記第1軸受の間に配置され、前記ハウジングに対する前記ウォーム軸の軸方向移動に伴って弾性変形可能な第2弾性部材(63,67;63B,67B)と、を備えていることを特徴とする電動パワーステアリング装置(1)を提供する(請求項1)。
【0011】
本発明によれば、第1端部を中心とするウォーム軸の揺動を許容している。これにより、ウォーム軸を、第1軸受を中心に揺動可能な量を充分に大きくできる。したがって、ウォーム軸とウォームホイールの噛み合い領域に摩耗が生じても、第1弾性部材の付勢力を受けたウォーム軸が充分に大きく揺動できる。よって、ウォーム軸とウォームホイールとの間のバックラッシを詰めた状態を維持できる。このため、長期に亘って、ウォーム軸とウォームホイールとの間にがたつき(振動)が生じることを抑制できる。よって、悪路走行時等に、路面から転舵機構等を介してウォームホイールとウォーム軸との噛み合い領域に入力される力としての逆入力が入力された場合に、逆入力に起因してウォームホイールがウォーム軸に対して振動することを抑制できる。したがって、ウォーム軸とウォームホイールとの噛み合い領域におけるラトル音(噛み合いラトル音)の発生を抑制できる。しかも、ウォーム軸の振動を第2弾性部材で減衰・吸収できるので、噛み合いラトル音をより確実に抑制できる。
【0012】
また、第1軸受が対向部に対して軸方向に変位可能とされている。これにより、ウォーム軸が軸方向に移動可能な量を充分に大きくできる。その結果、運転者による操舵部材の操作によってウォームホイールが回転され、これによりウォーム軸にアキシャル荷重が作用したときに、ウォーム軸を軸方向に充分に変位させることができる。このため、操舵部材の操舵量が微小であること等によって電動モータが駆動されていないときにおいて、電動モータからの反力がウォーム軸に作用することを抑制できる。したがって、ウォーム軸およびウォームホイールを介して操舵部材に作用する反力を小さくできる。これにより、運転者の操舵負荷を充分に低減できる。その上、各軌道溝の曲率半径を大きくしていることにより、外輪に対する内輪の揺動荷重が低くされている結果、ウォーム軸が動きやすくされている。これにより、運転者の操舵負荷をより一層低減できる。
【0013】
さらに、押圧部材を用いて第1軸受の内輪、外輪および転動体を径方向に押圧することにより、第1軸受の内部隙間を負隙間にする(内部隙間を詰める)ことができる。よって、第1軸受の内部隙間に起因する転動体と軌道溝との衝突による衝突音を抑制できる。すなわち、第1軸受のがたつきによるラトル音(軸受ラトル音)の発生を抑制できる。しかも、第1軸受を軸方向に押圧することで内部隙間を詰める場合と異なり、押圧部材によって第1軸受の外輪に対する内輪の揺動が阻害されずに済む。しかも、予め第1軸受に押圧部材を組み付けたサブアセンブリをウォーム軸に取り付けるという簡易な作業で、第1軸受をウォーム軸に組み付けることができる。すなわち、第1軸受の内輪の内径とウォーム軸の外径とを厳密に寸法合わせし、且つ、第1軸受の内輪をウォーム軸に圧入することにより第1軸受の内部隙間を適切な値に管理するという手間のかかる作業が不要である。よって、電動パワーステアリング装置の組み付けにかかる手間およびコストを少なくできる。
【0014】
また、本発明において、前記第1軸受は玉軸受を含み、前記転動体は玉を含み、各前記軌道溝の曲率半径は、前記第1軸受の中心軸線を含む断面の曲率半径である場合がある(請求項2)。本発明によれば、第1軸受によるウォーム軸の揺動を確実に実現できる。
また、本発明において、前記押圧部材は、前記第1軸受の外輪の外周面に圧入固定されている場合がある(請求項3)。この場合、第1軸受の外輪に押圧部材を圧入固定したサブアセンブリをウォーム軸の第1端部に嵌めるという簡易な構成で、第1軸受および押圧部材をウォーム軸に容易に組み付けることができる。
【0015】
また、本発明において、前記押圧部材は、前記ハウジングに形成された保持孔(71a)にすきまばめによって保持されている場合がある(請求項4)。この場合、押圧部材および第1軸受がハウジングの保持孔に圧入される構成と異なり、押圧部材および第1軸受を保持孔で保持したときに、第1軸受の内部隙間が不用意に変化することをより確実に抑制できる。
【0016】
また、本発明において、前記対向部は、前記第1軸受を前記軸方向に挟んで一対設けられており、前記第2弾性部材は、各前記対向部と前記第1軸受との間にそれぞれ設けられている場合がある(請求項5)。
この場合、ウォーム軸が軸方向に振動したときに、第1軸受の両側に配置された弾性部材によって、この振動を確実に減衰・吸収することができる。例えば、車両が路面の凹凸の激しい悪路等を走行している場合を考える。この場合、路面から転舵機構およびウォームホイールに力(逆入力)が入力されたとき、この逆入力は、ウォームホイールを、ウォームホイールの周方向に高周波振動させるような力として作用する。このときの力によってウォーム軸が軸方向に振動したときに、第1軸受の両側に配置された第2弾性部材によって、この振動を確実に減衰・吸収することができる。
【0017】
また、本発明において、前記内輪の軌道溝の曲率半径は、前記転動体の直径の52%〜56%に設定されている場合がある(請求項6)。
この場合、内輪の軌道溝の曲率半径を転動体の直径の52%以上としている。これにより、内輪が転動体に対して転がることで内輪が外輪に対して揺動可能な量を充分に確保できる。また、内輪の軌道溝の曲率半径を転動体の直径の56%以下としている。これにより、内輪の軌道溝の深さを充分に確保できるので、内輪で転動体を確実に保持できる。したがって、転動体が内輪の軌道溝から外れようとすることをより確実に抑制できるので、転動体や内輪の軌道溝への負担の低減を通じて第1軸受の寿命をより長くできる。
【0018】
また、本発明において、前記外輪の軌道溝の曲率半径は、前記転動体の直径の54%〜58%に設定されている場合がある(請求項7)。
この場合、外輪の軌道溝の曲率半径を転動体の直径の54%以上としている。これにより、外輪が転動体に対して転がることで外輪が内輪に対して揺動可能な量を充分に確保できる。また、外輪の軌道溝の曲率半径を転動体の直径の58%以下としている。これにより、外輪の軌道溝の深さを充分に確保できるので、外輪で転動体を確実に保持できる。したがって、転動体が外輪の軌道溝から外れようとすることをより確実に抑制できるので、転動体や外輪の軌道溝への負担の低減を通じて第1軸受の寿命をより長くできる。
【0019】
なお、上記において、括弧内の数字等は、後述する実施形態における対応構成要素の参照符号を表すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を限定する趣旨ではない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態にかかる電動パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】電動モータ、減速機およびその近傍の構成を示す断面図である。
【図3】図2の第1軸受の周辺の拡大図である。
【図4】図3の第1軸受の周辺の更なる拡大図である。
【図5】本発明の別の実施形態の主要部の断面図である。
【図6】本発明のさらに別の実施形態の主要部の断面図である。
【図7】本発明のさらに別の実施形態の主要部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下には、図面を参照して、本発明の実施形態について具体的に説明する。
図1は、本発明の一実施形態にかかる電動パワーステアリング装置1の概略構成を示す模式図である。図1を参照して、電動パワーステアリング装置1は、ステアリングホイール等の操舵部材2に連結されるステアリングシャフト3と、中間軸4を介してステアリングシャフト3と連結されるピニオン軸5と、ピニオン軸5に形成されたピニオン6に噛み合うラック7を有し、自動車の左右方向に延びる転舵軸としてのラック軸8とを備えている。ピニオン軸5およびラック軸8によって、ラックアンドピニオン機構からなる転舵機構29が構成されている。
【0022】
ステアリングシャフト3は、操舵部材2に連なる入力軸9と、中間軸4に連なる出力軸10とを含んでいる。これら入力軸9および出力軸10はトーションバー11を介して同一軸線上で相対回転可能に連結されている。
ラック軸8は、図示しない複数の軸受を介して直線往復運動可能にハウジング12に支持されている。ラック軸8の両端部は、ハウジング12の外部へ突出している。ラック軸8の各端部は、それぞれタイロッド13およびナックルアーム(図示せず)を介して、転舵輪14に連結されている。
【0023】
操舵部材2が回転操作されることにより、ステアリングシャフト3が回転する。このステアリングシャフト3の回転は、ピニオン6およびラック7を介してラック軸8の直線往復運動に変換される。これにより、転舵輪14の転舵が達成される。
操舵部材2に操舵トルクが入力されることにより、トーションバー11がねじれ、入力軸9および出力軸10が微小角度、相対回転する。この相対回転変位は、ステアリングシャフト3の近傍に設けられたトルクセンサ15によって検出される。これにより、操舵部材2に作用するトルクが検出される。トルクセンサ15の出力信号は、ECU16(Electronic ControlUnit:電子制御ユニット)に与えられる。ECU16は、トルク値や図示しない車速センサから与えられる車速値等に基づいて、駆動回路17を介して操舵補助用の電動モータ18を駆動制御する。
【0024】
電動モータ18の出力は、減速機19を介してステアリングシャフト3の出力軸10に伝達される。出力軸10に伝達された力は、ピニオン軸5等を介してラック軸8に伝達される。これにより操舵が補助される。
減速機19は、電動モータ18により回転駆動される駆動ギヤとしてのウォーム軸20と、このウォーム軸20に噛み合う従動ギヤとしてのウォームホイール21とを備えている。ウォームホイール21は、ステアリングシャフト3の出力軸10等を介して転舵機構29に連結されている。
【0025】
図2は、電動モータ18、減速機19およびその近傍の構成を示す断面図である。図2を参照して、減速機19は、ハウジング70に収容されている、また、電動モータ18は、このハウジング70に支持されている。ハウジング70は、ウォーム軸20を収容する筒状の駆動ギヤ収容ハウジング71と、ウォームホイール21を収容する筒状の従動ギヤ収容ハウジング72とを含んでいる。駆動ギヤ収容ハウジング71および従動ギヤ収容ハウジング72は、アルミニウム合金等の金属材料を用いて一体成形されている。
【0026】
駆動ギヤ収容ハウジング71の一端部には、環状フランジ部73が形成されている。環状フランジ部73は、駆動ギヤ収容ハウジング71と一体成形されている。環状フランジ部73には、図示しない固定ねじを用いて、電動モータ18のモータハウジング18aが取り付けられている。電動モータ18は、このモータハウジング18aと、モータハウジング18aに回転可能に支持された出力軸18bとを含んでいる。出力軸18bは、駆動ギヤ収容ハウジング71に向けて出力軸18bから突出している。出力軸18bは、継手50を介してウォーム軸20に動力伝達可能に連結されている。
【0027】
ウォーム軸20は、第1端部22と、第2端部23と、第1端部22および第2端部23間に配置され歯部を有する柱状のウォーム24と、を含んでいる。
第1端部22は、電動モータ18の出力軸18bに継手50を介して動力伝達可能に連結されている。これにより、電動モータ18の出力が、ウォーム軸20に伝達される。
ウォームホイール21は、出力軸10に一体回転可能に結合された環状の芯金27と、芯金27の周囲を取り囲み外周に歯が形成された合成樹脂部材28とを含んでいる。芯金27は、例えば合成樹脂部材28の樹脂成形時に金型内にインサートされる。芯金27は、ステアリングシャフト3の出力軸10に、例えば圧入によって嵌め合わされ、連結されている。これにより、ウォームホイール21は、出力軸10に対して一体回転可能に且つ軸方向に移動不能となっている。
【0028】
ウォーム軸20の第1端部22には、第1軸受31が配置されている。また、ウォーム軸20の第2端部23には、第2軸受32が配置されている。第1および第2軸受31,32は、例えば、深溝玉軸受等の転がり軸受である。ウォーム軸20は、第1軸受31および第2軸受32等を介して、ハウジング70の駆動ギヤ収容ハウジング71に回転可能に支持されている。
【0029】
ウォーム軸20は、第1軸受31を中心に、揺動方向A1に揺動可能である。また、ウォーム軸20の中心としての中心軸線L1と、ウォームホイール21の中心としての中心軸線L2との間の距離(中心間距離)K1が近づく方向としての付勢方向B2に、ウォーム軸20の第2端部23が弾性的に付勢されている。
これにより、ウォーム軸20の歯形成部としてのウォーム24とウォームホイール21の互いの噛み合い領域26においてバックラッシが生じることを抑制している。また、本電動パワーステアリング装置1では、ウォーム軸20を支持する第1軸受31の内部隙間が詰められており、第1軸受31の内部でがたつき(振動)が生じることが抑制されている。なお、第1軸受31の内部隙間とは、例えば、転動体31cと内輪31aとの間の径方向の隙間、および転動体31cと外輪31bとの間の径方向の隙間をいう。
【0030】
さらに、ウォーム軸20がハウジング70に対して軸方向S1に変位可能とされていることにより、操舵部材2が操作されてから電動モータ18が駆動されるまでの間に電動モータ18からウォーム軸20に伝わる反力が低減されている。なお、以下では、ウォーム軸20の軸方向S1、径方向Q1および周方向C1を、単に軸方向S1、径方向Q1および周方向C1という。
【0031】
図3は、図2の第1軸受31の周辺の拡大図である。図3を参照して、第1軸受31は、ウォーム軸20が第1軸受31を中心に揺動方向A1に揺動可能となるように、ウォーム軸20の第1端部22を支持している。第1軸受31は、内輪31aと、外輪31bと、転動体(玉)31cとを含んでいる。
第1軸受31の内輪31aは、第1端部22の外周22aに嵌め合わされている。この内輪31aは、第1端部22にすきまばめ等により嵌合されており、ウォーム軸20とは軸方向S1に相対移動可能である。第1軸受31の内輪31aの両側には、2つの第2弾性部材ユニット33,34が配置されている。
【0032】
第1軸受31の外輪31bは、この外輪31bの外周面に圧入固定された押圧部材35を介して、第1軸受支持部(保持孔)71aに支持されている。第1軸受支持部71aは、駆動ギヤ収容ハウジング71の内周面に形成されている。押圧部材35は、鉄等の金属製のカラーであり、第1軸受31を取り囲む円筒状に形成されている。
押圧部材35および第1軸受31は、互いに組み合わされることでサブアセンブリ36を構成している。電動パワーステアリング装置1の組み立て時には、このサブアセンブリ36の状態で、第1軸受31をウォーム軸20の第1端部22に嵌め合わすことが可能となっている。
【0033】
押圧部材35と、第1軸受支持部71aとは、すきまばめ等によって保持されている。これにより、押圧部材35および第1軸受31は、第1軸受支持部71aから径方向Q1の押圧力を受けないようにされている。
駆動ギヤ収容ハウジング71には、第1軸受支持部71aを軸方向S1に挟んで環状の段部71cおよび第1止め輪37が設けられている。第1止め輪37は、駆動ギヤ収容ハウジング71の内周面に形成された環状溝に固定されている。これら環状の段部71cおよび第1止め輪37は、第1軸受31の外輪31bおよび押圧部材35を軸方向S1に挟んでいる。これにより、第1軸受31の外輪31bおよび押圧部材35は、駆動ギヤ収容ハウジング71に対する軸方向S1が規制されている。
【0034】
図4は、図3の第1軸受31の周辺の更なる拡大図である。図4を参照して、第1軸受31の転動体31cは、内輪31aの外周面の軌道溝31dと、外輪31bの内周面の軌道溝31eとの間に介在している。第1軸受31の転動体31cは、所定の直径D1を有する玉からなる。第1軸受31の中心軸線および転動体31cの中心を含む切断面(図4に示す切断面)において、内輪31aの軌道溝31dの曲率半径R1は、転動体31cの直径D1の50%よりも大きい。また、外輪31bの軌道溝31eの曲率半径R2は、転動体31cの直径D1の50%よりも大きい。
【0035】
転動体31cの直径D1に対する内輪31aの軌道溝31dの曲率半径R1の割合(R1/D1)は、JIS(日本工業規格)等で定められている標準の軸受における、転動体の直径D10に対する内輪の軌道溝の曲率半径R10の割合(R10/D10。例えば、51%)と比べて大きいことが好ましい。
内輪31aの軌道溝31dの曲率半径R1は、転動体31cの直径D1の52%〜56%(0.52D1≦R1≦0.56D1)に設定されていることが好ましい。曲率半径R1が直径D1の52%未満である(R1<0.52D1)と、内輪31aが転動体31cに対して転がることで内輪31aが外輪31bに対して揺動可能な量を充分に確保し難い。また、曲率半径R1が直径D1の56%を超える(0.56D1<R1)と、内輪31aの軌道溝31dが浅くなり、転動体31cを保持し難い。その結果、転動体31cが内輪31aの軌道溝31dから外れ易くなる。なお、曲率半径R1は、直径D1の52.5%以上であることがより好ましい。また、曲率半径R1は、直径D1の75%以下であってもよい。
【0036】
転動体31cの直径D1に対する外輪31bの軌道溝31eの曲率半径R2の割合(R2/D1)は、JIS(日本工業規格)等で定められている標準の軸受における、転動体の直径D10に対する外輪の軌道溝の曲率半径R20の割合(R20/D10。例えば、53%)と比べて大きいことが好ましい。
外輪31bの軌道溝31eの曲率半径R2は、転動体31cの直径D1の54%〜58%(0.54D1≦R2≦0.58D1)に設定されていることが好ましい。曲率半径R1が直径D1の54%未満である(R1<0.54D1)と、外輪31bが転動体31cに対して転がることで外輪31bが内輪31aに対して揺動可能な量を充分に確保し難い。また、曲率半径R2が直径D1の58%を超える(0.58D1<R2)と、外輪31bの軌道溝31eが浅くなり、転動体31cを保持し難い。その結果、転動体31cが外輪31bの軌道溝31eから外れ易くなる。なお、曲率半径R2は、直径D1の53.5%以上であることが好ましい。また、曲率半径R2は、直径D1の85%以下であってもよい。
【0037】
また、内輪31aの軌道溝31dの曲率半径R1と比べて外輪31bの軌道溝31eの曲率半径R2が大きいこと(R1<R2)が好ましい。これにより、ウォーム軸20とともに内輪31aが外輪31bに対して揺動する際の揺動をより滑らかにできる。
図3を参照して、上記の構成により、第1軸受31の内輪31aは、外輪31bに対して揺動方向A1に大きく揺動可能となっている。揺動方向A1は、ウォームホイール21の中心軸線L2に沿ってウォーム軸20を見たときにおける、第1軸受31を中心とする時計回り方向および反時計回り方向を含む方向である。
【0038】
また、押圧部材35が第1軸受31に結合されていないとき、押圧部材35の内周面の直径は、第1軸受31の外輪31bの外径よりも小さくされている。これにより、押圧部材35が外輪31bに結合されているとき、押圧部材35は、第1軸受31の外輪31bを径方向Q1の内方に弾性的に押圧している。これにより、第1軸受31の外輪31bの軌道溝31e、転動体31cおよび内輪31aの軌道溝31dが径方向Q1に互いに弾性的に押圧される。これにより、第1軸受31の内部隙間が詰められている(負隙間とされている)。
【0039】
第1軸受31は、軸方向S1に関して、ウォーム軸20に設けられた一対の対向部41,42の間に配置されている。一方の対向部41は、ウォーム軸20の第1端部22の環状溝に固定された第2止め輪38に形成されている。一方の対向部41は、第2止め輪38の一側面に形成されており、円環状をなしている。他方の対向部42は、ウォーム軸20の第1端部22とウォーム24との間の環状の段部に形成されており、円環状をなしている。
【0040】
軸方向S1に関する対向部41,42の間であって、第1軸受31の両側に、第2弾性部材ユニット33,34が配置されている。具体的には、第1軸受31の内輪31aと一方の対向部41との間に一方の第2弾性部材ユニット33が配置されている。また、第1軸受31の内輪31aと他方の対向部42との間に他方の第2弾性部材ユニット34が配置されている。
【0041】
各第2弾性部材ユニット33,34は、ハウジング70に対してウォーム軸20を軸方向S1に弾性的に変位可能にするために設けられている。また、各第2弾性部材ユニット33,34は、軸方向S1に沿う振動力がウォーム軸20に入力されたときに、ウォーム24の振動を減衰・吸収することが可能となっている。
一方の第2弾性部材ユニット33は、軸方向S1に並ぶ一対の側板61,62と、一対の側板61,62の間に配置された第2弾性部材63とを含んでいる。一対の側板61,62は、金属板を用いて形成されている。
【0042】
一方の側板61は、環状に形成されており、一方の対向部41に受けられている。一方の側板61からは、他方の側板62に向けて延びるストッパ部64が設けられている。他方の側板62は、円環状に形成されている。他方の側板62は、第1軸受31の内輪31aの一側面31fに当接して受けられている。
第2弾性部材63は、ゴム等の弾性部材を用いて環状に形成されている。第2弾性部材63は、一方の側板61に例えば加硫接着により接合されている。また、第2弾性部材63は、他方の側板62に例えば加硫接着により接合されている。第2弾性部材63は、一方の対向部41と、第1軸受31との間に配置されている。
【0043】
上記の構成により、第2弾性部材63の圧縮量が大きくなると、ストッパ部64が他方の側板62に当接するようになっている。これにより、第2弾性部材63が過度に圧縮されることを抑制できる。
他方の第2弾性部材ユニット34は、軸方向S1に並ぶ一対の側板65,66と、一対の側板65,66の間に配置された第2弾性部材67とを含んでいる。一対の側板65,66は、金属板を用いて形成されている。
【0044】
一方の側板65は、環状に形成されており、他方の対向部42に受けられている。一方の側板65からは、他方の側板66に向けて延びるストッパ部68が設けられている。他方の側板66は、円環状に形成されている。他方の側板66は、第1軸受31の内輪31aの他側面31gに当接して受けられている。
第2弾性部材67は、第2弾性部材63と同様の材料を用いて環状に形成されている。第2弾性部材67は、一方の側板65に例えば加硫接着により接合されている。また、第2弾性部材67は、他方の側板66に例えば加硫接着により接合されている。第2弾性部材67は、他方の対向部42と、第1軸受31との間に配置されている。
【0045】
上記の構成により、第2弾性部材67の圧縮量が大きくなると、ストッパ部68が他方の側板66に当接するようになっている。これにより、第2弾性部材67が過度に圧縮されることを抑制できる。
上記の構成により、電動パワーステアリング装置1の初期状態のとき、各弾性部材63,67は、弾性的に圧縮されている。ウォーム軸20がハウジング70に対して軸方向S1に振動したとき、この振動は、各弾性部材63,67の弾性変形によって減衰・吸収される。
【0046】
図2を参照して、第2軸受32は、内輪32aと、外輪32bと、転動体32cとを含んでいる。第2軸受32の内輪32aは、第2端部23の外周に嵌め合わされている。この内輪32aの一端面は、第2端部23とウォーム24との間の環状の段部20bに受けられている。
第2軸受32の外輪32bは、駆動ギヤ収容ハウジング71の内周面に形成された第2軸受支持部71bに第1弾性部材45を介して支持されている。第1軸受保持部71bは、対向方向B1に長い長孔に形成されている。これにより、第2軸受32および第2端部23は、駆動ギヤ収容ハウジング71に対して、ウォーム軸20の中心軸線L1とウォームホイール21の中心軸線L2とが対向する対向方向B1に相対移動可能とされている。
【0047】
第1弾性部材45は、帯状の金属片をプレス加工することにより形成された板ばね部材である。第1弾性部材45は、有端環状の主体部46と、主体部46から延設された弾性舌片47と、を含んでいる。主体部46は、第2軸受32の外輪32bの外周面に嵌合されている。弾性舌片47は、第2軸受保持部71bに接触しており、弾性的に圧縮されている。この弾性圧縮による弾性反発力を用いることで、第1弾性部材45は、第2軸受32を介してウォーム軸20の第2端部23を対向方向B1の一方としての付勢方向B2に付勢している。
【0048】
付勢方向B2は、ウォームホイール21の軸方向に沿ってウォーム減速機19を視たときにおける、ウォーム軸20の中心軸線L1と直交し且つウォーム軸20からウォームホイール21に向かう方向(中心間距離K1が近づく方向)である。
主体部37には弾性突起48が設けられている。この複数の弾性突起48は、主体部37の径方向内方に向けて延びている。各弾性突起48は、駆動ギヤ収容ハウジング71の端壁71dに受けられており、第2軸受32を第1軸受31側に弾性的に付勢している。
【0049】
このように、第2軸受32は、第1弾性部材45を介して、第2軸受支持部71bによって、ウォーム軸20およびウォームホイール21の中心間距離K1が長短する方向(対向方向B1)に偏倚可能に支持されている。
また、ウォーム軸20は、第1軸受31(第1端部22)を中心として、ウォーム軸20とウォームホイール21の互いの中心間距離K1が短くなるように弾性的に付勢されている。その結果、ウォーム軸20のウォーム24とウォームホイール21との間のバックラッシがゼロに保たれている。
【0050】
図3を参照して、継手50は、揺動方向A1へのウォーム軸20の揺動、すなわち、第1軸受31を中心とするウォーム軸20の揺動を許容しつつ、ウォーム軸20と電動モータ18の出力軸18bとを動力伝達可能に連結している。
継手50は、電動モータ18の出力軸18bに一体回転可能に連結された第1係合部材51と、ウォーム軸20の第1端部22に一体回転可能に連結された第2係合部材52と、第1および第2係合部材51,52の間に介在し、第1係合部材51から第2係合部材52にトルクを伝達する弾性部材53とを含んでいる。
【0051】
第1係合部材51は、電動モータ18の出力軸18bに固定された第1主体部54と、第1主体部54から第2係合部材52に向けて突出する複数の第1係合突起55とを有している(図3において、1つの第1係合突起55のみを図示)。各第1係合突起55は、第1主体部54の周方向に等間隔に配置されている。
第2係合部材52は、ウォーム軸20の第1端部22に固定された第2主体部58と、第1主体部54から第2係合部材52に向けて突出する複数の第2係合突起59とを有している。各第2係合突起59は、第2主体部58の周方向に等間隔に配置されている。周方向C1に関して、第1係合突起55と第2係合突起59とが交互に配置されている。
【0052】
弾性部材53は、例えば合成ゴムや合成樹脂で形成されている。弾性部材53は、環状の第3主体部53aと、第3主体部53aの周面から放射状に延びる複数の係合腕53bとを有している。
各係合腕53bは、周方向C1に相対向する第1係合突起55と第2係合突起59との間にそれぞれ配置されており、第1係合突起55と第2係合突起59とが互いに接触することを防止している。
【0053】
ウォーム軸20が揺動方向A1に揺動したとき、第2係合部材52は、弾性部材53を弾性変形しつつ、第1係合部材51に対して傾くように変位する。これにより、継手50は、電動モータ18の出力軸18bとウォーム軸20の第1端部22とをトルク伝達可能に連結しつつ、ウォーム軸20の揺動方向A1への揺動を許容している。
以上説明したように、本実施形態によれば、第1軸受31の各軌道溝31d,31eの曲率半径R1,R2を、転動体31cの直径D1の50%よりも大きくすることにより、第1端部22を中心とするウォーム軸20の揺動を許容している。これにより、ウォーム軸20を、第1軸受31を中心に揺動可能な量を充分に大きくできる。したがって、ウォーム軸20とウォームホイール21の噛み合い領域26に摩耗が生じても、第1弾性部材45の付勢力を受けたウォーム軸20が充分に大きく揺動できる。よって、ウォーム軸20とウォームホイール21との間のバックラッシを詰めた状態を維持できる。このため、長期に亘って、ウォーム軸20とウォームホイール21との間にがたつき(振動)が生じることを抑制できる。よって、悪路走行時等に、路面から転舵機構29等を介してウォームホイール21とウォーム軸20との噛み合い領域26に入力される力としての逆入力が入力された場合に、逆入力に起因してウォームホイールがウォーム軸に対して振動することを抑制できる。したがって、ウォーム軸とウォームホイールとの噛み合い領域におけるラトル音(噛み合いラトル音)の発生を抑制できる。しかも、ウォーム軸20の振動を第2弾性部材63,67で減衰・吸収できるので、噛み合いラトル音をより確実に抑制できる。
【0054】
また、第1軸受31がウォーム軸20の一対の対向部41,42に対して軸方向S1に変位可能とされている。これにより、ウォーム軸20が軸方向S1に移動可能な量を充分に大きくできる。その結果、運転者による操舵部材2の操作によってステアリングシャフト3およびウォームホイール21が回転され、これによりウォーム軸20にアキシャル荷重が作用したときに、ウォーム軸20を軸方向S1に充分に変位させることができる。このため、操舵部材2の操舵量が微小であること等によって電動モータ18が駆動されていないときにおいて、電動モータ18からの反力がウォーム軸20に作用することを抑制できる。したがって、ウォーム軸20、ウォームホイール21およびステアリングシャフト3を介して操舵部材2に作用する反力を小さくできる。これにより、運転者の操舵負荷を充分に低減できる。その上、各軌道溝31d,31eの曲率半径R1,R2を大きくしていることにより、外輪31bに対する内輪31aの揺動荷重が低くされている結果、ウォーム軸20が動きやすくされている。これにより、運転者の操舵負荷をより一層低減できる。
【0055】
さらに、押圧部材35を用いて第1軸受31の内輪31a、外輪31bおよび転動体31cを径方向Q1に押圧することにより、第1軸受31の内部隙間を負隙間にする(内部隙間を詰める)ことができる。よって、第1軸受31の内部隙間に起因する転動体31cと各軌道溝31d,31eとの衝突による衝突音を抑制できる。すなわち、第1軸受31のがたつきによるラトル音(軸受ラトル音)の発生を抑制できる。しかも、第1軸受31を軸方向S1に押圧することで内部隙間を詰める場合と異なり、押圧部材35によって第1軸受31の外輪31bに対する内輪31aの揺動が阻害されずに済む。しかも、予め第1軸受31に押圧部材35を組み付けたサブアセンブリ36をウォーム軸20に取り付けるという簡易な作業で、第1軸受31をウォーム軸20に組み付けることができる。
【0056】
すなわち、第1軸受31の内輪31aの内径とウォーム軸20の外径とを厳密に寸法合わせし、且つ、第1軸受31の内輪31aをウォーム軸20に圧入することにより第1軸受31の内部隙間を適切な値に管理するという手間のかかる作業が不要である。よって、電動パワーステアリング装置1の組み付けにかかる手間およびコストを少なくできる。
さらに、第1軸受31として玉軸受を用いることにより、第1軸受31によるウォーム軸20の揺動を確実に実現できる。
【0057】
また、第1軸受31の外輪31bに押圧部材35を圧入固定したサブアセンブリ36をウォーム軸の第1端部22に嵌めるという簡易な構成で、第1軸受31および押圧部材35をウォーム軸20に容易に組み付けることができる。
また、押圧部材35は、ハウジング70の第1軸受保持部71bにすきまばめによって保持されている。押圧部材35および第1軸受31がハウジング70の第1軸受保持孔71bに圧入される構成と異なり、押圧部材35および第1軸受31を第1軸受保持部71aで保持したときに、第1軸受31の内部隙間が不用意に変化することを、より確実に抑制できる。
【0058】
さらに、ウォーム軸20が軸方向S1に振動したときに、第1軸受31の両側に配置された第2弾性部材63,67によって、この振動を確実に減衰・吸収することができる。例えば、車両が路面の凹凸の激しい悪路等を走行している場合を考える。この場合、路面から転舵輪14、転舵機構29およびウォームホイール21に力(逆入力)が入力されたとき、この逆入力は、ウォーム軸20に噛み合わされたウォームホイール21を、ウォームホイール21の周方向に高周波振動させるような力として作用する。このときの力によってウォーム軸20が軸方向S1に振動したときに、第1軸受31の両側に配置された第2弾性部材63,67によって、この振動を確実に減衰・吸収することができる。
【0059】
また、第1軸受31の内輪31aの軌道溝31dの曲率半径R1を転動体31cの直径D1の52%以上とすることにより、内輪31aが転動体31cに対して転がることで内輪31aが外輪31bに対して揺動可能な量を充分に確保できる。また、第1軸受31の内輪31aの軌道溝31dの曲率半径R1を転動体31cの直径D1の56%以下とすることにより、内輪31aの軌道溝31dの深さを充分に確保できるので、内輪31aで転動体31cを確実に保持できる。したがって、転動体31cが内輪31aの軌道溝31dから外れようとすることをより確実に抑制できるので、転動体31cや内輪31aの軌道溝31dへの負担の低減を通じて第1軸受31の寿命をより長くできる。
【0060】
さらに、第1軸受31の外輪31bの軌道溝31eの曲率半径R2を転動体31cの直径D1の54%以上とすることにより、外輪31bが転動体31cに対して転がることで外輪31bが内輪31aに対して揺動可能な量を充分に確保できる。また、外輪31bの軌道溝31eの曲率半径R2を転動体31cの直径D1の58%以下とすることにより、外輪31bの軌道溝31eの深さを充分に確保できるので、外輪31bで転動体31cを確実に保持できる。したがって、転動体31cが外輪31bの軌道溝31eから外れようとすることをより確実に抑制できるので、転動体31cや外輪31bの軌道溝31eへの負担の低減を通じて第1軸受31の寿命をより長くできる。
【0061】
本発明は、以上の実施形態の内容に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。
例えば、図5に示すように、第1軸受31の内輪31aに押圧部材35Aを嵌合させてもよい。なお、以下では、図1〜図4に示す実施形態の構成と異なる点について主に説明し、同様の構成には図に同様の符号を付してその説明を省略する。
【0062】
押圧部材35Aは、第1軸受31の内輪31aの内周面に圧入固定されている。押圧部材35Aが第1軸受31に結合されていないとき、押圧部材35Aの外周面の直径は、第1軸受31の内輪31aの内径よりも大きくされている。押圧部材35Aは、第1軸受31の内輪31aを径方向Q1の外方に弾性的に押圧している。これにより、第1軸受31の内輪31aの軌道溝31d、転動体31c、および外輪31bの軌道溝31eは、径方向Q1に互いに弾性的に押圧されている。これにより、第1軸受31の内部隙間が詰められている(負隙間とされている)。
【0063】
押圧部材35Aは、ウォーム軸20の第1端部22にすきまばめにより嵌合されており、ウォーム軸20に対して軸方向S1に移動可能である。各第2軸受ユニット33,34の他方の側板62,66は、第1軸受31の内輪31aおよび押圧部材35Aを軸方向S1に挟んでいる。第1軸受31の外輪31bは、第1軸受保持部71aに直接、すきまばめによって嵌合されている。
【0064】
押圧部材35Aおよび第1軸受31は、互いに組み合わされることでサブアセンブリ36Aを構成している。電動パワーステアリング装置1の組み立て時には、このサブアセンブリ36の状態で、第1軸受31をウォーム軸20の第1端部22に嵌め合わすことが可能となっている。
また、図1〜図4に示す実施形態、および図5に示す実施形態では、それぞれ、ウォーム軸20に形成された一対の対向部41,42によって、第2弾性部材63,67を軸方向S1に挟む構成を説明したけれども、これに限定されない。
【0065】
例えば、図6に示すように、ハウジング70に形成された一対の対向部41B,42Bによって、第2弾性部材63B,67Bを軸方向S1に挟んでもよい。一方の対向部41Bは、第1止め輪37の一側面に形成された円環状の部分である。他方の対向部42Bは、駆動ギヤ収容ハウジング71の環状の段部71cに形成された円環状の部分である。
一方の第2弾性部材ユニット33Bは、一方の対向部41Bと第1軸受31の外輪31bとの間に配置されている。一方の第2弾性部材ユニット33Bの一方の側板61Bは、一方の対向部41Bに受けられており、他方の側板62Bは、第1軸受31の外輪31bの一側面31hに受けられている。
【0066】
他方の第2弾性部材ユニット34Bは、他方の対向部42Bと第1軸受31の外輪31bとの間に配置されている。他方の第2弾性部材ユニット34Bの一方の側板65Bは、他方の対向部42Bに受けられており、他方の側板66Bは、第1軸受31の外輪31bの他側面31jに受けられている。
第1軸受31の外輪31bは、第1軸受保持部71aにすきまばめによって保持されており、ハウジング70に対して軸方向S1に移動可能である。
【0067】
第1軸受31の内輪31aは、ウォーム軸20の第1端部22に嵌合されている。この内輪31aは、第1端部22に例えば圧入固定されていることにより、ウォーム軸20に対する軸方向S1の相対移動が規制されている。
上記の構成により、ウォーム軸20がハウジング70に対して軸方向S1に振動(変位)したとき、第1軸受31も同時に軸方向S1に振動し、各第2弾性部材63B,67Bが弾性変形することでこの振動を減衰・吸収する。
【0068】
図6に示す実施形態では、第1軸受31の外輪31bに固定された押圧部材35を用いたけれども、この押圧部材35に代えて、図7に示すように、押圧部材35Aを用いてもよい。図7に示す実施形態では、図6に示す実施形態と異なり、押圧部材35Aの内周面がウォーム軸20の第1端部22に圧入固定され、且つ、押圧部材35Aの外周面が第1軸受31の内輪31aの内周面に圧入固定されている。第1軸受31の外輪31bは、第1軸受保持部711にすきまばめによって軸方向S1に移動可能に支持されている。その他の構成は、図6に示す実施形態の構成と同様である。
【0069】
また、各第2弾性部材ユニット33,34;33B,34Bを、対応する第2弾性部材63,67;63B,67Bのみで構成してもよい。この場合、第2弾性部材63,67は、第1軸受31の内輪31aおよび対応する一対の対向部41,42に接着剤等によって接着される。また、第2弾性部材63B,67Bは、第1軸受の外輪31bおよび対応する一対の対向部41B,42Bに接着剤等によって接着される。
【符号の説明】
【0070】
1…電動パワーステアリング装置、18…電動モータ、20…ウォーム軸、21…ウォームホイール、22…第1端部、23…第2端部、29…転舵機構、31…第1軸受、31a…内輪、31b…外輪、31c…転動体、31d,31e…軌道溝、32…第2軸受、35,35A…押圧部材、41,42,41B,42B…対向部、45…第1弾性部材、63,67,63B,67B…第2弾性部材、70…ハウジング、71a…軸受保持部(保持孔)、D1…転動体の直径、D2…付勢方向(中心間距離が近づく方向)、K1…中心間距離、Q1…径方向、R1,R2…曲率半径、S1…軸方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1端部および第2端部を含み、電動モータに連結されたウォーム軸と、
このウォーム軸に噛み合い転舵機構に連結されたウォームホイールと、
前記第1端部を回転可能に支持する第1軸受と、
前記第2端部を回転可能に支持する第2軸受と、
前記ウォーム軸および前記ウォームホイールの中心間距離が近づく方向に前記第2軸受を弾性的に付勢する第1弾性部材と、
前記ウォーム軸および前記ウォームホイールを収容するハウジングと、を備え、
前記第1軸受は、軌道溝を有する内輪と、軌道溝を有する外輪と、各前記軌道溝間に介在する転動体と、を含み、各前記軌道溝の曲率半径が前記転動体の直径の50%よりも大きいことにより前記第1端部を中心とする前記ウォーム軸の揺動を許容し、
前記第1軸受は、前記ハウジングまたは前記ウォーム軸に形成された対向部と前記ウォーム軸の軸方向に対向し前記対向部に対して前記軸方向に変位可能とされ、
前記第1軸受に嵌合され第1軸受を径方向に押圧することで各前記軌道溝および前記転動体を互いに押圧させる環状の押圧部材と、
前記対向部と前記第1軸受の間に配置され、前記ハウジングに対する前記ウォーム軸の軸方向移動に伴って弾性変形可能な第2弾性部材と、を備えていることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
請求項1において、前記第1軸受は玉軸受を含み、前記転動体は玉を含み、各前記軌道溝の曲率半径は、前記第1軸受の中心軸線を含む断面の曲率半径であることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
請求項1または2において、前記押圧部材は、前記第1軸受の外輪の外周面に圧入固定されていることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
請求項3において、前記押圧部材は、前記ハウジングに形成された保持孔にすきまばめによって保持されていることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項において、前記対向部は、前記第1軸受を前記軸方向に挟んで一対設けられており、
前記第2弾性部材は、各前記対向部と前記第1軸受との間にそれぞれ設けられていることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項において、前記内輪の軌道溝の曲率半径は、前記転動体の直径の52%〜56%に設定されていることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項において、前記外輪の軌道溝の曲率半径は、前記転動体の直径の54%〜58%に設定されていることを特徴とする電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−101649(P2012−101649A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251068(P2010−251068)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】