電動パーキングブレーキシステム
【課題】摩擦材のブレーキ回転体との摺合わせが安定して行われる電動パーキングブレーキシステムを提供する。
【解決手段】トランスミッションをDレンジとし、車両の駆動装置により左右後輪を回転させ、工場モードを指示し、PKBスイッチのロック位置への操作により摺合わせを開始し、車両走行時より小さい作動力でブレーキシューをドラムに押圧する(S1〜S8)。PKBスイッチの操作解除により摺合わせは終了するが、解除がなくても摺合わせ開始から設定時間経過後に摺合わせを終了し、過剰な摺合わせを回避する(S8〜S11)。摺合わせ時間の経過前に解除を指令すれば、無視時間内は解除指令を無視し、無視時間内の摺合わせ実行指示により、解除はなかったものとし、設定時間、摺合わせを行う(S22,S23)。電動モータへの電流供給のデューティ制御,車輪回転速度の所望速度での維持によっても摺合わせを安定して行う(S6,S8)。
【解決手段】トランスミッションをDレンジとし、車両の駆動装置により左右後輪を回転させ、工場モードを指示し、PKBスイッチのロック位置への操作により摺合わせを開始し、車両走行時より小さい作動力でブレーキシューをドラムに押圧する(S1〜S8)。PKBスイッチの操作解除により摺合わせは終了するが、解除がなくても摺合わせ開始から設定時間経過後に摺合わせを終了し、過剰な摺合わせを回避する(S8〜S11)。摺合わせ時間の経過前に解除を指令すれば、無視時間内は解除指令を無視し、無視時間内の摺合わせ実行指示により、解除はなかったものとし、設定時間、摺合わせを行う(S22,S23)。電動モータへの電流供給のデューティ制御,車輪回転速度の所望速度での維持によっても摺合わせを安定して行う(S6,S8)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パーキングブレーキシステムに関するものであり、特に、摩擦材のブレーキ回転体との摺合わせに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動パーキングブレーキシステムは、電動モータを駆動源として作動し、摩擦材をブレーキ回転体に押圧して車両を停車状態に維持する電動パーキングブレーキと、電動モータを制御することにより電動パーキングブレーキを制御する制御装置とを含むように構成される。摩擦材は、ブレーキ回転体に沿って押し付けられる形状,寸法に製造されるが、予めブレーキ回転体に押し付けてなじませておけば、使用開始当初から制動力が正常に発生する。そのため、従来、電動パーキングブレーキシステムの通常の使用とは別に、摩擦材をブレーキ回転体に押し付け、なじませる摺合わせが行われている。
例えば、下記の特許文献1に記載の電動パーキングブレーキシステムにおいては、工場出荷時に電動モータを作動させて摩擦材をブレーキ回転体に僅かに押し付け、それらの間に微小な引摺りを生じさせて、車両の走行に伴って摺合わせが自動的に行われるようにされている。引摺りは、車両の使用開始から所定時間が経過し、摺合わせが概ね完了したとすることができる状態で自動的に解除される。
【特許文献1】特開2006−137257公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の電動パーキングブレーキシステムにおいては、車両の使用開始後、所定時間が経過するまでの間、摩擦材がブレーキ回転体に押し付けられるが、その間の車両の走行状態は、車両によって異なり、摺合わせの安定性に欠ける問題がある。
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、摩擦材のブレーキ回転体との摺合わせが安定して行われる電動パーキングブレーキシステムの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の課題は、(A)電動モータを駆動源として作動し、摩擦材をブレーキ回転体に押圧して車両を停車状態に維持する電動パーキングブレーキと、(B)前記電動モータを制御することにより電動パーキングブレーキを制御する制御装置とを含む電動パーキングブレーキシステムの制御装置を、(a)電動パーキングブレーキを、車両を停車状態に維持するために作用させる場合の作動力である駐車時作動力で作用させる第一制御部と、(b)電動パーキングブレーキを、操作状態に応じて少なくとも2種類の信号を出力する手動操作スイッチの手動操作に応じて、駐車時作動力より小さく、摩擦材のブレーキ回転体との摺合わせに適した大きさの摺合わせ用作動力で作用させる第二制御部とを含むものとすることにより解決される。
作動力は、摩擦材をブレーキ回転体に押圧する力であり、例えば、電動パーキングブレーキが電動モータの作動によってケーブルが引っ張られ、摩擦材がブレーキ回転体に押圧される構成を有するものである場合、ケーブルの張力に対応し、その張力を検出することにより取得することができる。作動力は、電動モータへの電流供給が遮断されても維持され、摩擦材がブレーキ回転体に押し付けられた状態に保たれる。この状態では、摩擦材のブレーキ回転体への押圧動作は終わっており、電動パーキングブレーキは作動中ではないが、作用中であることとなる。
【発明の効果】
【0005】
摩擦材のブレーキ回転体との摺合わせは、少なくとも2種類の信号を出力する手動操作スイッチの手動操作に基づいて開始される。そのため、摺合わせを行う時期を選択することができ、適切な時期、例えば、工場での組立終了時,修理終了時あるいは車検時等、車両の使用時ではない時期であって、電動パーキングブレーキシステムが車輪の回転を抑制するための通常の使用に供されることがない時期に摺合わせを安定して行うことができる。また、手動操作スイッチの手動操作に基づいて摺合わせを終了させるようにすれば、例えば、摺合わせを開始してから摺合わせが十分に行われたとすることができる時間が経過した場合等、作業者の判断に基づいて適宜の時期に、あるいは状況に応じて摺合わせを終了することができる。しかも、摺合わせ時には、電動パーキングブレーキが駐車時作動力より小さい摺合わせ用作動力で作用させられるため、摺合わせの効果が均一化されるとともに、摩擦材が摺合わせには過大な力でブレーキ回転体に押し付けられることが確実に回避され、車輪の減速度が抑制され、摩擦材の変形や摩耗を生じることなく、摺合わせが良好に行われる。また、摺合わせ用作動力が小さいため、摩擦材のブレーキ回転体への押付けにより車輪の回転が過剰に抑制されることがなく、例えば、摺合わせがブレーキテスト装置上で行われ、ブレーキテスト装置の車輪回転駆動装置によって車輪が回転駆動される場合、車両がテスト台上において安定して静止した状態で支持され、摺合わせが安定して行われる。
【発明の態様】
【0006】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。請求可能発明は、少なくとも、請求の範囲に記載された発明である「本発明」ないし「本願発明」を含むが、本願発明の下位概念発明や、本願発明の上位概念あるいは別概念の発明を含むこともある。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0007】
なお、以下の各項において、(1)項,(2)項および(5)項を合わせたものが請求項1に相当し、(6)項と(7)項とを合わせたものが請求項2に、(8)項が請求項3に、(10)項が請求項4に、(11)項が請求項5に、(12)項が請求項6にそれぞれ相当する。
【0008】
(1)電動モータを駆動源として作動し、摩擦材をブレーキ回転体に押圧して車両を停車状態に維持する電動パーキングブレーキと、前記電動モータを制御することにより前記電動パーキングブレーキを制御する制御装置とを含む電動パーキングブレーキシステムであって、前記制御装置が、
電動パーキングブレーキを、前記車両を停車状態に維持するために作用させる場合の作動力である駐車時作動力で作用させる第一制御部と、
前記電動パーキングブレーキを、前記駐車時作動力より小さく、前記摩擦材の前記ブレーキ回転体との摺合わせに適した大きさの摺合わせ用作動力で作用させる第二制御部と
を含む電動パーキングブレーキシステム。
摺合わせ時には、電動パーキングブレーキが設定された大きさの作動力であって、摺合わせに適した作動力で作用させられ、摩擦材の変形や摩耗を回避しつつ、良好に摺合わせが行われる。
本項以下に記載の特徴は、摺合わせを、ブレーキテスト装置を利用して、あるいは摺合わせ専用の車輪回転駆動装置を使用して行う場合に特に有効であるが、車両をテストコース等において実際に走行させつつ行う場合に採用することも可能である。
(2)前記制御装置が摺合わせ指令操作装置の手動操作に応じて前記第二制御部を作動させる(1)項に記載の電動パーキングブレーキシステム。
第二制御部は自動的に作動させてもよいが、手動操作に応じて作動させれば、例えば、任意の時期に摺合わせを行うことができ、必要に応じて、また、適切な時期に摺合わせを行うことができる。
(3)前記第二制御部が、前記車両のトランスミッションが自由回転許容レンジにある状態で前記摺合わせ指令操作装置の手動操作が行われた場合に作用するものである(2)項に記載の電動パーキングブレーキシステム。
自由回転許容レンジは、トランスミッションの出力軸の自由な回転を許容するレンジであり、例えば、ニュートラルレンジや、パーキングレンジで出力軸の自由な回転が許容される構成のトランスミッションにおけるパーキングレンジが含まれる。
車両のトランスミッションが自由回転許容レンジにある状態では、車輪を外部から自由に回転させることができ、外部駆動装置によって車輪を回転させた状態で摺合わせを行うことができる。
(4)前記第二制御部が、前記車両のトランスミッションが駆動レンジにある状態で前記摺合わせ指令操作装置の手動操作が行われた場合に作動するものである(2)項または(3)項に記載の電動パーキングブレーキシステム。
駆動レンジには、例えば、ドライブレンジおよびリバースレンジが含まれる。
車両のトランスミッションが駆動レンジにある状態では、車輪が車両の駆動装置によって回転させられた状態で摺合わせを行うことができ、例えば、車両が有する機能を利用して摺合わせをより多様な態様で行うことができる。(11)項および(12)項にそれぞれ記載の開始時点走行速度維持要求や指定速度維持要求は、その例である。
(5)前記摺合わせ指令操作装置が、操作状態に応じて少なくとも2種類の信号を出力する手動操作スイッチを含む(2)項ないし(4)項のいずれかに記載の電動パーキングブレーキシステム。
手動操作スイッチが、操作部材に操作力が加えられている間は第一信号を出力し続け、操作力が解除されれば第一信号とは異なる第二信号を出力する状態に変わる非保持型スイッチでも、操作部材が一旦所定の操作位置へ操作されれば、操作力が解除されても同じ信号を出力し続け、操作部材が改めて操作されてはじめて出力信号が変わる保持型スイッチでもよい。いずれの場合でも、出力信号が3種類以上に変化する手動操作スイッチとしてもよい。保持型スイッチは、操作部材が操作された位置に物理的に保持されるものとすることができるが、不可欠ではなく、スイッチ部と回路部との共同により出力信号の状態が保持されるものでもよい。
手動操作スイッチが操作状態に応じて出力する少なくとも2種類の信号は、例えば、摺合わせの実行を指令する信号および何も指令しない信号とされてもよく、あるいは摺合わせの実行と終了とをそれぞれ指令する信号とされてもよい。手動操作スイッチの出力信号の使い方により、種々の態様で摺合わせを行うことができる。
また、手動操作スイッチは操作が簡単であり、摺合わせを容易に指令することができる。
(6)前記第二制御部が、前記電動パーキングブレーキの作用状態が設定条件が満たされるまで継続した場合に、その作用状態を自動で解除する自動解除部を含む(1)項ないし(5)項のいずれかに記載の電動パーキングブレーキシステム。
本項が(5)項に従属する態様では、手動操作スイッチが、電動パーキングブレーキを作用方向に作動させることを指令する作用指令信号を出力していても、設定条件が満たされれば、電動パーキングブレーキが自動的に解除される。設定条件が過不足なく満たされるように電動パーキングブレーキを作用状態に維持することが容易となる効果が得られる。
(7)前記設定条件が、少なくとも、前記電動パーキングブレーキの作用状態が設定時間継続することを含む(6)項に記載の電動パーキングブレーキシステム。
例えば、本項が(5)項に従属する態様では、例えば、手動操作スイッチの操作に基づいて摺合わせの開始および終了が指令される場合、手動操作スイッチの操作に基づいて摺合わせが開始された後、摺合わせを終了させるための操作が遅れても、設定時間の経過により、手動操作スイッチが操作される前に摺合わせが自動的に解除され、摺合わせ時間が長過ぎることに起因する過剰な摺合わせによる摩擦材の焼けすぎの発生が防止される。また、摺合わせ実行時間にばらつきがなくなり、電動パーキングブレーキが自動的に摺合わせ用作動力で作動させられることと相俟って、摺合わせの効果がより精度良く均一化される。
また、例えば、手動操作スイッチが出力する2種類の信号の一方が摺合わせの実行を指令する信号であり、他方が何も指令しない信号である場合、手動操作スイッチの操作状態が、出力信号が何も指令しない信号である状態から摺合わせの実行を指令する信号を出力する状態に操作され、その操作による摺合わせの実行指令に基づいて摺合わせが開始された後、タイマにより時間を計測し、設定時間が経過した状態で摺合わせが自動的に解除されるようにすれば、摺合わせを過不足なく行うことができ、摩擦材のブレーキ回転体への当たり不良、すなわち摺合わせ時間の不足に起因する摺合わせの不足や、摩擦材の焼けすぎの発生が防止される。
作用状態が設定時間継続することが唯一の条件であるようにすることも、他の条件と選択的な条件であるようにすることも、複数の必須条件の1つであるようにすることも可能である。
(8)前記第二制御部が、電動パーキングブレーキを一旦作用状態にした後は、解除指令を受けても、少なくとも前記設定時間の計測に関して、予め定められた無視時間の間は前記解除指令を無視する解除指令無視部を含む(7)項に記載の電動パーキングブレーキシステム。
解除指令が出されても直ちには電動パーキングブレーキの作用は解除されず、摺合わせが続けて行われるとともに、摺合わせのための電動パーキングブレーキの作用状態の時間が続けて計測される。そのため、例えば、本項が(5)項に従属する態様では、例えば、手動操作スイッチが摺合わせの解除を指令する信号を出力するものである場合、手動操作スイッチの操作ミスにより解除指令が出され、その直後に手動操作スイッチが操作されて摺合わせの実行が指令されても、摺合わせがやり直しされて設定時間が計測し直されることがなく、摺合わせが過剰に長い時間行われることが回避される。解除指令により第二制御部の作動が解除され、設定時間の計測がリセットされれば、その直後に手動操作スイッチが操作された場合、設定時間は、その操作による摺合わせの開始から計測し直されることとなり、解除前に行われた摺合わせの時間と合わせて、過剰に長い時間、摺合わせが行われることとなるのであるが、本項が(5)項に従属する態様では、摺合わせ時間が計測し直されることがなく、長時間の摺合わせにより摩擦材が焼けすぎとなることが防止される。
(9)前記制御装置が前記車両の外部に設けられた外部制御装置と有線または無線で通信可能であり、前記摺合わせ指令操作装置がその外部制御装置に設けられた外部指令操作装置を含む(2)項ないし(8)項のいずれかに記載の電動パーキングブレーキシステム。
電動パーキングブレーキシステムの制御装置自体は、外部指令操作装置の操作に応じて外部制御装置から供給される指令を受け取る入力部のみを含み、第二制御部の作動指令を含めて、摺合わせを行うのに要する指令の全部が外部指令操作装置の操作により、外部から供給され、摺合わせ指令操作装置が外部指令操作装置のみにより構成されるようにしてもよく、制御装置が入力部を含むとともに、電動パーキングブレーキシステムに摺合わせ指令操作装置が内蔵され、外部指令操作装置の操作に基づく指令と、内蔵の指令操作装置の操作に基づく指令との共同により第二制御部が作動させられて摺合わせが行われるようにしてもよく、制御装置が入力部を含まず、摺合わせを行うのに要する指令の全部が電動パーキングブレーキシステムに内蔵の指令操作装置の操作により為されるようにしてもよく、制御装置が入力部を含むとともに、電動パーキングブレーキシステムに操作指令装置が内蔵され、第二制御部を作動させるのに要する指令の全部が内蔵の指令操作装置により為されるモードと、指令の全部が外部の指令操作装置により為されるモードとが選択的に行われるようにしてもよい。
外部制御装置から摺合わせ制御の実施を指令することができれば、工場等において摺合わせを行う場合の作業性が向上する。また、電動パーキングブレーキシステムの制御装置が、外部指令操作装置の操作に応じて外部制御装置から供給される指令を受け取る入力部のみを含むものである場合には、外部制御装置を保有するメーカや修理工場のみが摺合わせを実行することができ、ユーザが妄りに摺合わせを実行することを回避することができる。
(10)前記第二制御部が、前記電動パーキングブレーキを作用状態にする際の作動力の増加勾配である立上がり勾配を予め定められた大きさに制御する立上がり勾配制御部を含む(1)項ないし(9)項のいずれかに記載の電動パーキングブレーキシステム。
摺合わせが行われるとき、ブレーキ回転体は回転させられるが、本項に記載の電動パーキングブレーキシステムによれば、摩擦材が徐々にブレーキ回転体に押し付けられることとなるため、回転しているブレーキ回転体に急に接触して損傷することが回避される。また、車輪の減速度が抑制され、摩擦材の損傷が回避される。さらに、減速度の抑制により、例えば、摺合わせがブレーキテスト装置上で行われ、ブレーキテスト装置の車輪回転駆動装置によって車輪が回転駆動される場合、車両がテスト台上において安定して静止した状態で支持され、摺合わせがより安定して行われる。
(11)前記車両が、制御開始の指令が行われた時点の走行速度である開始時点走行速度を維持するように当該車両の駆動装置を制御する開始時点走行速度維持装置を含み、前記第二制御部が、前記電動パーキングブレーキを前記摺合わせ用作動力で作用状態に保つ間、前記開始時点走行速度維持装置の作動を要求する開始時点走行速度維持要求部を含む(1)項ないし(10)項のいずれかに記載の電動パーキングブレーキシステム。
例えば、走行速度が摺合わせに適した速度である状態で制御開始が指令されることにより、ブレーキ回転体が摺合わせに適した速度で回転させられている状態で摺合わせが行われ、より安定して摺合わせが行われる。
(12)前記車両が任意に指定される指定走行速度を維持するように当該車両の駆動装置を制御する指定速度維持装置を含み、前記第二制御部が、前記電動パーキングブレーキを前記摺合わせ用作動力で作用状態に保つ間、前記指定速度維持装置の作動を要求する指定速度維持要求部を含む(1)項ないし(11)項のいずれかに記載の電動パーキングブレーキシステム。
指定走行速度は、例えば、摩擦材やブレーキ回転体の種類(形状,寸法,材料,作動構成等)等に応じて設定され、走行速度の指定により、ブレーキ回転体が摩擦材等の種類に応じた速度で回転させられている状態で摺合わせが行われ、より安定して行われる。
(13)電動モータを駆動源として作動し、摩擦材を車輪と共に回転するブレーキ回転体に押圧して車両を停車状態に維持する電動パーキングブレーキと、その電動パーキングブレーキを前記電動モータを制御することにより制御する制御装置とを含む電動パーキングブレーキシステムの、前記摩擦材の前記ブレーキ回転体に対する摺合わせを行う方法であって、
前記電動パーキングブレーキにより回転を防止されるべき車輪を回転させ、その状態で、手動操作装置の操作に応じて前記摩擦材を前記ブレーキ回転体に、前記車両を停車状態に維持するために作用する場合の作動力である駐車時作動力より小さく設定された摺合わせ用作動力で押圧し、その押圧開始から設定時間が経過した時点で前記摩擦材の前記ブレーキ回転体への押圧を解除する電動パーキングブレーキの摺合わせ方法。
本項に記載の摺合わせ方法によれば、例えば、(1)項,(2)項および(7)項に記載の電動パーキングブレーキシステムと同様の効果が得られる。
(14)前記摺合わせ用作動力で摺合わせを行っている間に解除指令が供給されても、少なくとも前記設定時間の計測に関して、予め定められた無視時間の間は前記解除指令を無視する(13)項に記載の電動パーキングブレーキの摺合わせ方法。
本項に記載の摺合わせ方法によれば、例えば、(8)項に記載の電動パーキングブレーキシステムと同様の効果が得られる。
(15)前記車輪を前記車両自体の駆動源の駆動力で回転させつつ前記第二制御部を作動させる(13)項または(14)項に記載の電動パーキングブレーキの摺合わせ方法。
本項に記載の摺合わせ方法によれば、例えば、(4)項に記載の電動パーキングブレーキシステムと同様の効果が得られる。
(16)前記車輪を前記車両の外部からの駆動力で回転させつつ前記第二制御部を作動させる(13)項または(14)項に記載の電動パーキングブレーキの摺合わせ方法。
本項に記載の摺合わせ方法によれば、例えば、(3)項に記載の電動パーキングブレーキシステムと同様の効果が得られる。
【実施例】
【0009】
以下、請求可能発明のいくつかの実施例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、請求可能発明は、下記実施例の他、上記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更を施した態様で実施することができる。
【0010】
図1に請求可能発明の一実施例である電動パーキングブレーキシステムが概略的に図示されている。図1において、符号10は駆動源たる電動モータを示し、符号12はクラッチ付き運動変換機構を示す。本電動モータ10は、デューティ制御が可能な電動モータにより構成され、例えば、ブラシレス直流モータにより構成される。クラッチ付き運動変換機構12は、電動モータ10の出力軸の回転を出力部材の直線運動に変換するとともに、出力部材に加えられる力によって電動モータ10が回転させられることを防止する。また、符号14,16は左右後輪を示し、符号18,20は車輪14,16にそれぞれ設けられたパーキングブレーキを示す。本電動パーキングブレーキシステムが設けられた車両は後輪駆動の車両であり、駆動輪である左右後輪14,16にそれぞれパーキングブレーキが設けられる。パーキングブレーキ18,20とクラッチ付き運動変換機構12とは、それぞれ、ケーブル22,24によって連結されている。ケーブル22,24が、電動モータ10の作動により引っ張られると、パーキングブレーキ18,20が作用する状態とされる。本実施例においては、電動モータ10,クラッチ付き運動変換機構12,ケーブル22,24,パーキングブレーキ18,20等により電動パーキングブレーキ30が構成されている。なお、電動モータ10は、ブラシ付直流モータにより構成してもよい。
【0011】
クラッチ付き運動変換機構12は、図2に示すように、ギヤ列40,クラッチ42,ねじ機構44等を含む。
ギヤ列40は、複数のギヤ46,48,50から成る。ギヤ46は、電動モータ10の出力軸52のギヤ部に噛み合わされて出力軸52の回転により回転させられ、ギヤ46の回転がギヤ48を経てギヤ50に伝達される。ギヤ50の電動モータ10とは反対側の端面には、軸線方向と平行に突出する駆動伝達部54が設けられている。
【0012】
クラッチ42は、一方向クラッチであり、図3に示すように、ハウジング60と、そのハウジング60の内周側に設けられたコイルスプリング62と、クラッチ42の出力軸64と一体的に回転可能なロータ66とを含む。図3には、クラッチ42が図2に示すA−A切断線において切断にされた状態が図示されている。コイルスプリング62は、巻径が弾性的に僅かに収縮させられた状態でハウジング60に嵌合されており、それの外周面がハウジング60の内周面に密着し、素線の端部68,70が、それぞれ、内周側に向かって突出させられた状態で設けられている。また、ギヤ50の駆動伝達部54が2つの端部68,70で挟まれた2つの空間の一方に位置し、ロータ66が他方に位置する。
【0013】
電動モータ10の回転に伴ってギヤ50が回転すると、駆動伝達部54が端部68,70のいずれか一方に当接し、コイルスプリング62が巻き締められてハウジング60の内周面とスプリング62の外周面との間の摩擦力が小さくなる。それによって、コイルスプリング62,ロータ66が回転可能となり、出力軸64を回転させる。出力軸64はギヤ50と一体的に回転させられるのであり、クラッチ42によって、電動モータ10の回転が出力軸64に伝達されることになる。
【0014】
電動モータ10に電流が供給されない状態において、出力軸64にトルクが加わると、ロータ66が端部68,70のいずれか一方に当接し、それによって、コイルスプリング62が拡径させられる。コイルスプリング62の外周面とハウジング60の内周面との間の摩擦力が大きくなり、コイルスプリング62の回転は阻止される。クラッチ42によって、出力軸64のトルクのギヤ50への伝達が阻止され、電動モータ10に電流が供給されない状態において、出力軸64に加えられるトルクによって電動モータ10が回転させられることはないのである。
【0015】
ねじ機構44は、図2に示すように、ハウジング80と、軸線Lと平行な方向に延びた雄ねじ部材82と、雄ねじ部材82に螺合させられた図示しないナットと、ナットに、ナットの軸線と直交する軸線のまわりに回動可能に取り付けられたイコライザ84とを含む。雄ねじ部材82は、一対のラジアルベアリング85(他方は図示は省略する)、ニードルスラストベアリング86を介して、ハウジング80に相対回転可能に支持される。イコライザ84の両アームには、それぞれ、ケーブル22,24のインナケーブル87が連結されている。イコライザ84の本体には係合突部88が設けられ、図示は省略するが、ハウジング80に、軸線Lと平行な方向に設けられたガイドに係合させられる。その結果、イコライザ84は、ハウジング80に、軸線Lを中心とした相対回転不能、軸線Lと平行な方向に相対移動可能、かつ、係合突部88の回り(軸線Mの回り)に相対回動可能となっている。
【0016】
イコライザ84は、図2に実線で示す位置と二点鎖線で示す位置との間で、ハウジング80に対して相対移動可能とされており、イコライザ84の相対移動に伴ってケーブル22,24のインナケーブル87が引っ張られたり、緩められたりする。また、イコライザ84は、2つのケーブル22,24のインナケーブル87に加えられる張力(以下、単にケーブル22,24の張力という)が同じになるように、係合突部88の回り(軸線Mの回り)に回動させられる。なお、ハウジング80の内部には、ケーブル24の張力を検出する張力センサ90が設けられている。イコライザ84により、ケーブル22,24に加えられる張力は同じ大きさとされるため、張力センサ90によって検出されたケーブル24に加えられた張力は、ケーブル22に加えられた張力でもある。
【0017】
また、符号92は異常時解除装置を示す。異常時解除装置92は、電動モータ10の異常時等に、パーキングブレーキ18,20を解除するための装置である。異常時解除装置92は、アウタケーブル93と、アウタケーブル93内に長手方向に移動可能に設けられた駆動部材たるインナケーブル94とを備え、操作者が操作部材たるグリップ(図示省略)を操作し、ケーブル94をギヤ96に相対回転不能に係合させるとともに、ギヤ96を回転させる。ギヤ96の回転は前記ギヤ46,48を介してギヤ50に伝達され、ギヤ50の回転により出力軸64が回転させられてイコライザ84がケーブル22,24を緩める向きに移動させられる。それによって、パーキングブレーキ18,20が解除される。
【0018】
パーキングブレーキ18,20は、図4,5に示すように、本実施例においては、デュオサーボ型のドラムブレーキである。したがって、以下、必要に応じて、パーキングブレーキ18,20をドラムブレーキと称することがある。本電動パーキングブレーキ30は、電動ドラムブレーキなのである。また、図4において、符号97はブレーキディスクを示し、符号98はキャリパを示し、これらブレーキディスク97とキャリパ98とは、共同してサービスブレーキとしてのディスクブレーキ99を構成する。パーキングブレーキ18,20としてのドラムブレーキは、ブレーキディスク97の内周側に設けられているのであり、本実施例においては、ドラムインディスクブレーキとなっている。ドラムブレーキ18,20は、それそれ、構造が同じものであるため、ドラムブレーキ18について説明し、ドラムブレーキ20についての説明を省略する。
【0019】
ドラムブレーキ18は、図示しない車体に取り付けられた非回転部材としてのバッキングプレート100と、内周面に摩擦面102を備えて車輪14と共に回転するブレーキ回転体としてのブレーキドラム104(以後、ドラム104と略称する)とを備えている。バッキングプレート100の一直径方向に隔たった2箇所には、それぞれアンカ部材106と中継リンクとしてのアジャスタ108とが設けられている。アンカ部材106はバッキングプレート100に固定されており、アジャスタ108はフローティング式とされている。それらアンカ部材106とアジャスタ108との間には、各々円弧状を成す摩擦材としての一対のブレーキシュー110a,110bがドラム104の内周面に対面するように取り付けられている。一対のブレーキシュー110a,110bは、シューホールドダウン装置112a,112bによってバッキングプレート100にそれの面に沿って移動可能に取り付けられている。なお、バッキングプレート100の中央に設けられた貫通穴は、図示しないアクスルシャフトの貫通を許容するためのものである。
【0020】
一対のブレーキシュー110a,110bは、一端部同士がアジャスタ108により作動的に連結される一方、各他端部がアンカ部材106と当接して回動可能に支持されるようになっている。一対のブレーキシュー110a,110bの一端部同士は、アジャスタスプリング114によりアジャスタ108に当接する向きに付勢されており、各他端部はリターンスプリング115によりアンカ部材106に向かって付勢されている。各ブレーキシュー110a,110bの外周面に摩擦材としてのブレーキライニング116a,116bが保持され、それら一対のブレーキライニング116a,116bがドラム104の摩擦面102に接触させられることにより、それらブレーキライニング116a,116bとドラム104との間に摩擦力が発生する。アジャスタ108は、一対のブレーキシュー110a,110bの摩耗に応じて一対のブレーキライニング116a,116bとドラム104との隙間を調整するために操作される。
【0021】
図5に押付機構120を示す。押付機構120は、ブレーキレバー122と、ストラット124とを含み、アンカ部材106をバッキングプレート100に固定するボルト138、140の頭部に相対移動可能に支持されている。ブレーキレバー122,ストラット124は、それぞれ、板状部材であり、ストラット124を構成する2枚の板材の間にブレーキレバー122が挟まれた状態で、ブレーキレバー122とストラット124とがそれらの一端部において連結軸126の回りに相対回動可能に連結されている。ブレーキレバー122において、連結軸126からバッキングプレート100側に隔たった部分に設けられた係合部128にブレーキシュー110aが係合させられ、連結軸126からバッキングプレート100に平行な方向において隔たった端部に設けられた係合部130にケーブル22のインナケーブル87が連結されている。インナケーブル87は、バッキングプレート100に設けられた貫通孔132に一端が固定されたアウタチューブ134に案内されて、バッキングプレート100のブレーキシュー110等が配設された側とは反対側に伸び出させられている。
また、ストラット124において、連結軸126とは反対側の端部に設けられた係合部135にブレーキシュー110bが係合させられている。
なお、係合部130は、図示する状態においては、貫通穴132の(アウタチューブ134のバッキングプレート100への固定端の)中心線Nより、後退回転方向側に位置する。また、後述するように、押付機構120が円周方向に相対移動させられると、それに伴って係合部130も相対移動させられるが、設計上、中心線Nより前進回転方向側の位置まで相対移動させられることがないようにされている。
【0022】
押付機構120は、被支持部136,137においてボルト138,140の頭部に支持されている。電動モータ10がパーキングブレーキ18,20を作用させる方向に回転させられて雄ねじ部材82が回転させられ、イコライザ84が図2に実線で示す位置から二点鎖線で示す位置側へ移動させられ、インナケーブル87が引っ張られると、ブレーキレバー122が被支持部136とボルト138の頭部との接触点まわりに回動し、その結果、連結軸126およびストラット124が図5において右方へ移動させられ、ストラット124がブレーキシュー110bを右方へ押す。その際、ブレーキシュー110bからの反力がストラット124,連結軸126およびブレーキレバー122を介してブレーキシュー110aに伝達され、ブレーキシュー110aが図5において左方へ押される。ブレーキシュー110a,110bには、それぞれ、同じ大きさの拡開力が加えられて、拡開させられるのであり、その結果、ブレーキライニング116a,116bがドラム104の摩擦面102に互いに同じ大きさの力で押し付けられる。なお、ケーブル22に加えられた引張力は、ブレーキレバー122のレバー比に応じて倍力され、その倍力された力から、被支持部136とボルト138の頭部との間の摩擦力を差し引いた大きさの拡開力として、ブレーキシュー110aに加えられる。
【0023】
ドラム104にトルクが加えられている状態で、ドラムブレーキ18が作動させられると、ドラム104からブレーキシュー110a,110bに円周方向の力が加えられ、ブレーキシュー110a,110bの一方がアンカ部材106に当接させられ、いわゆるデュオサーボ効果が生じる。前進回転方向(車両が前進する場合の車輪の回転方向)Pのトルクが加えられると、自己サーボ効果によりブレーキシュー110aが拡開力のみによる場合より大きな力でドラム104に押し付けられる(接触面圧が増大させられる)。この自己サーボ効果による円周方向の力が拡開力と共に、アジャスタ108によってブレーキシュー110bに伝達され、ブレーキシュー110bはブレーキシュー110aよりも更に強くドラム104に押し付けられる。ブレーキシュー110bがアンカ部材106に当接させられ、制動トルクが発生させられる。後退回転方向(車両が後退する場合の車輪の回転方向)Qのトルクが加えられた場合には、逆に、ブレーキシュー110aがブレーキシュー110bよりも強くドラム104に押し付けられる。一対のブレーキシュー110a,110bの一方の出力が他方の入力となるのである。この場合のブレーキシュー110a,110bのドラム104への押付力は、ケーブル22の張力の大きさに応じた大きさとなるのであり、これら張力と制動可能トルクとの間には、図6に示す曲線で表される関係がある。車両が停止状態にあり、かつ、ブレーキライニング116a,116bとドラム内周面102との間の摩擦係数が一定である場合には、制動可能トルク、摩擦力、押付力、拡開力の間には一定の関係が成立し、拡開力が大きくなれば、押付力、摩擦力、制動可能トルクも大きくなる関係にある。したがって、例えば、張力と拡開力との関係に基づけば、張力と押付力との関係、張力と摩擦力との関係、張力と制動可能トルクとの関係を取得することが可能となる。
【0024】
電動パーキングブレーキ30は、図1に示す制御装置たるパーキングブレーキ(PKB)ECU(電子制御ユニット)200により制御される。パーキングブレーキECU200は、入出力部202,実行部204,記憶部206を備え、入出力部202にはパーキングブレーキスイッチ210(以後、PKBスイッチ210と略記する)および張力センサ90が接続されている。
【0025】
本PKBスイッチ210は手動操作スイッチとされ、図7および図8に示すように、例えば、インストルメントパネル218に回動可能に設けられ、ロック側操作部220およびリリース側操作部222を備え、図7に実線で示すOFF位置と、一点鎖線で示すロック位置と、二点鎖線で示すリリース位置とに選択的に位置させられるとともに、操作力が加えられない状態では自動的にOFF位置に戻る自動復帰型のスイッチとされている。PKBスイッチ210はOFF位置に位置する状態ではOFF信号を出力する。後述するように、車両の通常使用時の走行中に電動パーキングブレーキ30が作用させられるとき、その作用はOFF信号の出力に基づいて解除される。本PKBスイッチ210のOFF信号は、電動パーキングブレーキ30の作用の解除指令信号である。PKBスイッチ210は、図8に示すロック側操作部220が押されれば、ロック位置へ回動させられてロック信号を出力し、それに基づいて電動パーキングブレーキ30が作用させられる。本PKBスイッチ210のロック信号は、電動パーキングブレーキ30の作用指令信号である。また、PKBスイッチ210のリリース側操作部222が押されれば、PKBスイッチ210はリリース位置へ回動させられてリリース信号を出力する。後述するように、車両の通常使用時に駐車のために電動パーキングブレーキ30が作用させられるとき、その作用は、リリース信号の出力に基づいて解除される。本PKBスイッチ210のリリース信号は、駐車制御の解除指令信号である。
【0026】
入出力部202にはまた、図1に示すように、駆動回路230を介して電動モータ10が接続され、駆動される。入出力部202にはさらに、CAN(Car Area Network)232が接続され、それにより、パーキングブレーキECU200とスキッドコントロールコンピュータ234およびエンジンコントロールコンピュータ236等との間で通信が行われる。スキッドコントロールコンピュータ234には、車輪速センサ238,前後Gセンサ239等、各種センサの検出信号等が入力され、それらに基づいてブレーキアクチュエータ240等を制御し、制動制御,アンチロック制御,ビークルスタビリティ制御等を行う。スキッドコントロールコンピュータ234からパーキングブレーキECU200へは、例えば、車両の走行速度(以後、車速と略称する)が供給される。
【0027】
本エンジンコントロールコンピュータ236は、図1に示すように、エンジン制御部250,トランスミッション制御部252,クルーズコントロール制御部254を含み、シフト位置センサ256,図示を省略するアクセルセンサ,スロットルポジションセンサ等、各種センサの検出信号が入力され、それらに基づいて車両の駆動源たるエンジン262およびトランスミッション264を含む駆動装置258を制御し、左右後輪14,16が回転駆動される。クルーズコントロール制御は、例えば、希望の車速においてクルーズコントロールスイッチ260がセットされることにより、駆動装置258や、必要であれば、ブレーキアクチュエータ240の制御も加えて車両を希望の車速で定速走行させる制御であり、クルーズコントロール制御部254の制御により行われる。
【0028】
本電動パーキングブレーキシステムは、図9に示すブレーキテスト装置300により、性能テスト、例えば、制動力テストが行われる。ブレーキテスト装置300は、テスト台302と、複数組、例えば、4組の車輪回転駆動装置304とを備えている。これら車輪回転駆動装置304はそれぞれ、2本のローラ306およびローラ回転装置308を備え、テスト台302に設けられている。2本のローラ306は互いに平行な軸線まわりに回転可能に設けられている。ローラ回転装置308は、電動モータ310を駆動源とし、電動モータ310の回転はトルクメータ312,回転伝達装置314を介して2本のローラ306に伝達され、2本のローラ306が同時に同じ速度で同方向に回転させられる。トルクメータ312により、電動モータ310がローラ306を介して左右後輪14,16から受ける反トルクが検出される。
【0029】
ローラ回転装置308の電動モータ310は、図1に示す特殊作動制御装置320により制御される。本特殊作動制御装置320は、車両の外部であって、ブレーキテスト等を行う工場に設けられ、外部制御装置を構成する。特殊作動制御装置320はコンピュータを主体として構成され、駆動回路(図示省略)を介して電動モータ310を制御する。特殊作動制御装置320には、前記トルクメータ312により検出される反トルクが入力され、車輪の径等に基づいて制動トルクに換算される。この算出された制動トルクは表示装置322により表示画面324に表示される。
【0030】
特殊作動制御装置320にはまた、キーボード等の外部指令操作装置としての入力装置326が接続され、コマンドの入力等が行われる。特殊作動制御装置320は、電動パーキングブレーキ30を特殊制御モードで作用させる際に通信ケーブルによりパーキングブレーキECU200の入出力部202に接続され、通信を行い、コマンドの送信等を行う。特殊制御モードは、車両の通常使用時に電動パーキングブレーキ30を作用させる通常制御モードとは異なる制御モードであり、例えば、電動パーキングブレーキ30の制動力テストを行うためのテスト制御モードおよびブレーキシュー110a,110bのドラム104との摺合わせ(以下、特に必要がない限り、単に「摺合わせ」と称する)を行うための摺合わせ制御モードが含まれる。通常制御モードには、例えば、車両を駐車するための駐車制御モードおよびパーキングブレーキ18,20を緊急ブレーキとして作用させるための緊急制御モードが含まれる。緊急制御モードは、ブレーキ操作部材の一種であるブレーキペダルの踏込みに基づいて作用させられるサービスブレーキの異常時に、車輪の回転を抑制するために、サービスブレーキに代えて電動パーキングブレーキ30を作用させるモードであり、補助制御モードの一種である。これら制御モードは、電動パーキングブレーキ30の作動モードでもあり、作用モードでもある。
【0031】
通常制御モードおよび特殊制御モードでの電動パーキングブレーキ30の作用はいずれも、パーキングブレーキECU200により制御される。そのため、パーキングブレーキECU200の記憶部206には、図示を省略するメインルーチンの他、図10にフローチャートで表す電動パーキングブレーキ制御ルーチンが記憶させられ、一定微小時間間隔で繰り返し実行される。以下、このフローチャートに基づいて、電動パーキングブレーキシステムの4つの制御モードを説明する。
【0032】
まず、駐車制御モードでの電動パーキングブレーキシステムの作用を説明する。
車両の駐車制御は、車速が設定車速以下の状態で、PKBスイッチ210がロック位置にON操作されることにより開始される。ロック信号の出力に基づいて電動モータ10が起動され、ブレーキシュー110a,110bがドラム104に駐車時作動力で押圧される。設定車速は、車両が停車状態にあることを判定することができる大きさに設定されている。駐車時作動力は、車両を停車状態に維持するための作動力であり、例えば、路面の勾配に応じて設定され、記憶部206に記憶させられている。路面の勾配は前後Gセンサ239により検出される前後加速度に基づいて取得され、駐車時作動力は、例えば、マップあるいは式により求められ、路面勾配が大きいほど大きく設定される。前後Gセンサ239およびパーキングブレーキECU200の前後加速度に基づいて路面勾配を取得する部分が路面勾配検出装置を構成する。駐車制御の場合、PKBスイッチ210に加える力が解除され、PKBスイッチ210がOFF位置に戻っても、リリース側操作部222が操作されてリリース信号が出力されるまで、電動パーキングブレーキ30が作用状態に保たれ、駐車制御が続けられ、車両が停車状態に維持される。
【0033】
図10に示す電動パーキングブレーキ制御ルーチンのステップ1(以後、S1と略記する。他のステップについても同じ。)においては、PKBスイッチ210がロック位置に切り替えられたか否かが判定される。この判定は、PKBスイッチ210の出力信号がロック信号であるか否かにより行われ、PKBスイッチ210が操作され、ロック位置に切り替えられていれば、S1の判定結果がYESになってS2が実行され、駐車制御中であるか否かが判定される。この判定はフラグF1が1にセットされているか否かにより行われる。フラグF1はセットされることにより、駐車制御が実行されていることを示す。
【0034】
駐車制御が開始されていない状態ではフラグF1がセットされておらず、S2の判定結果がNOになってS3が実行され、工場モードの実行が指示されているか否かが判定される。本電動パーキングブレーキシステムについては、摺合わせ制御およびテスト制御を含む特殊制御は、共に工場で電動パーキングブレーキシステムを作用させることにより行われるため、それらの実行時には、入力装置326を用いて工場モードの実行が特殊制御装置320に入力され、特殊作動制御装置320からパーキングブレーキECU200へ実行コマンドが送信される。パーキングブレーキECU200では、摺合わせ制御あるいはテスト制御が行われる間、それらの実行コマンドが記憶される。工場モードの実行の入力は、特殊制御モードの実行の入力の一種である。
【0035】
電動パーキングブレーキシステムが車両の通常走行時に作用させられる場合、工場モードの実行コマンドは供給されないため、S3の判定結果はNOになってS14が実行され、車速vが設定車速α以上であるか否かが判定される。車速vは、スキッドコントロールコンピュータ234より供給され、読み込まれる。車速vが設定車速αより小さければ、車両は停車状態にあると見なしてよく、S14の判定結果がNOになってS16が実行され、駐車制御が実行される。電動モータ10が起動され、ブレーキシュー110a,110bがドラム104の摩擦面102に押し付けられ、車輪の回転が阻止されて車両が停車状態に維持されるのである。この際、張力センサ90により検出されるケーブル22,24の張力に基づいて電動モータ10への電流供給が制御され、所定の駐車時作動力で電動パーキングブレーキ30が作用させられ、車両が停車状態に維持されるようにされる。作動力は、ブレーキシュー110a,110bをドラム104に押圧する力であり、ケーブル22の張力に対応し、その張力を検出することにより取得される。作動力は、電動モータ10への電流供給が遮断されても維持され、ブレーキシュー110a,110bがドラム104に押し付けられた状態に保たれる。S16においてはまた、フラグF1がセットされ、駐車制御中であることが示される。
【0036】
駐車制御の開始後もロック側操作部220が操作され続け、PKBスイッチ210がロック位置に切り替えられていれば、S1の判定結果がYESになってS2が実行されるが、フラグF1がセットされているため、S2の判定結果がYESになってS16が実行される。PKBスイッチ210の操作が解除され、OFF位置に位置する状態に戻れば、PKBスイッチ210によりOFF信号が出力され、S1の判定結果がNOになってS17が実行され、リリース信号が出力されているか否かが判定される。この判定結果はNOであり、S18において駐車制御中であるか否かが判定される。この判定はフラグF1がセットされているか否かにより行われるが、フラグF1がセットされているため、S18の判定結果がYESになってS16が実行され、駐車制御が続けて行われる。PKBスイッチ210のリリース側操作部222が操作され、PKBスイッチ210がリリース位置にON操作されれば、S1の判定結果がNO、S17の判定結果がYESになってS27が実行され、駐車制御が終了させられる。電動モータ10が電動パーキングブレーキ30を作用させる場合とほ逆向きに回転させられ、ケーブル22,24が緩められ、ブレーキシュー110a,110bがリターンスプリング115の付勢によりドラム104から離間させられるようにされて電動パーキングブレーキ30が解除されるのである。S27においてはまた、フラグF1が0にリセットされる。
【0037】
緊急制御モードを説明する。
緊急制御は、車速が設定速度以上である状態でPKBスイッチ210のロック側操作部220が操作され、ロック信号が出力されて電動パーキングブレーキ30を作用させる旨の指令が出力されることにより開始される。電動パーキングブレーキ30は、予め設定された走行中作動力で作用させられる。本走行中作動力は予め一定の大きさに設定され、固定であり、記憶部206に記憶させられている。前述のように、駐車時作動力は路面の勾配に応じて設定され、一定ではないが、走行中作動力は、可変の駐車時作動力のうち、小さい方の駐車時作動力および駐車時作動力より小さい作動力を含む範囲のうちで一定の大きさに設定され、駐車時作動力とは異ならされている。緊急制御は、PKBスイッチ210がロック位置に操作されている間、行われ、PKBスイッチ210に加えられていた力が解除され、PKBスイッチ210がOFF位置に戻れば、終了させられる。
【0038】
緊急制御が行われる際には、PKBスイッチ210がロック位置に操作され、S1の判定結果がYESになり、S2が実行されるが、駐車制御は行われていないため、S2の判定結果はNOになる。また、工場モードの実行ではないため、S3の判定結果がNOになってS14が実行される。緊急制御が行われ、電動パーキングブレーキ30がサービスブレーキに代わって作動させられる状態では、車両は走行状態にあるのが普通であり、車速vは設定車速α以上であり、S14の判定結果がYESになってS15が実行され、緊急制御が行われる。電動モータ10が起動され、ブレーキシュー110a,110bがドラム104に押圧され、車輪の回転を抑制するのである。電動モータ10は、張力センサ90により検出されるケーブル22,24の張力に基づいて制御され、緊急時作動力が得られるようにされる。S15においてはまた、フラグF2がセットされ、緊急制御の実行が示される。車速vが設定車速α以上であり、PKBスイッチ210がロック位置に操作されている間、S1の判定結果がYES、S2,S3の各判定結果がNO、S14の判定結果がYESになってS15が実行され、緊急制御が行われる。
【0039】
運転者によるPKBスイッチ210の操作が解除され、PKBスイッチ210がOFF位置へ戻り、OFF信号が出力されれば、S1,S17,S18の各判定結果がNOになってS19が実行され、緊急制御中であるか否かが判定される。この判定はフラグF2がセットされているか否かにより行われるが、フラグF2がセットされているため、S19の判定結果がYESになってS20が実行され、電動パーキングブレーキ30が解除され、緊急制御が終了させられる。また、フラグF2がリセットされる。
【0040】
摺合わせ制御モードを説明する。
摺合わせは、例えば、車両の組立時,修理時,車検時に行われ、本電動パーキングブレーキシステムについては、制動力テストと同様にブレーキテスト装置300上において行われるが、パーキングブレーキ18,20が設けられた左右後輪14,16は車両側において駆動され、回転させられる。そのため、車両はテスト台302上に載せられ、4輪がそれぞれ車輪回転駆動装置304の2本のローラ306上に載せられ、支持された状態で駆動装置258が作動させられ、左右後輪14,16が回転させられる。なお、ここでは、左右後輪14,16は車両前進方向に回転させられ、前進用の摺合わせが行われる。この際、ブレーキテスト装置300のローラ回転装置308の電動モータ310は、左右後輪14,16の回転を許容する状態とされ、ローラ306は左右後輪14,16の回転に伴ってつれ回る。
【0041】
摺合わせは、予め設定された手順に従って行われる。車両の電源が投入され、作動レンジ切換部材たるシフトレバーが操作されてトランスミッション264の作動レンジが駆動レンジたるD(ドライブ)レンジとされるとともにアクセルペダルが踏み込まれ、駆動装置258が作動させられて左右後輪14,16が車両を前進させる向きに回転させられる。また、特殊作動制御装置320がパーキングブレーキECU200に接続され、入力装置326を用いて工場モードの実行指示が特殊作動制御装置320に入力され、その指示コマンドが特殊作動制御装置320からパーキングブレーキECU200に送信され、記憶させられる。
【0042】
その状態でPKBスイッチ210のロック側操作部220が押され、PKBスイッチ210がロック位置に切り替えられてロック信号が出力され、摺合わせの実行が指示される。摺合わせは、原則としてPKBスイッチ210がロック位置に操作されている間、行われ、操作が解除されれば、終了させられるが、ロック位置に操作されていても、摺合わせの開始から設定時間が経過すれば、自動的に終了させられ、摺合わせが過剰に行われることが回避されるようにされている。また、摺合わせ用の設定時間が経過する前に摺合わせの解除が指令されても、別の設定時間が経過するまでは無視されて摺合わせが続行され、解除指令直後に再度、摺合わせが指令されても、摺合わせが摺合わせ用の設定時間を超えて行われることがないようにされている。
【0043】
工場モードの実行が指示され、左右後輪14,16が回転させられている状態でPKBスイッチ210がロック位置に操作されたならば、S1の判定結果がYES、S2の判定結果がNO、S3,S4aの各判定結果がYESになってS4bが実行され、摺合わせが終了したか否かの判定が行われる。この判定は、フラグF5が1にセットされているか否かにより行われるが、摺合わせはまだ終了しておらず、F5が0にリセットされているため、S4bの判定結果はNOになってS5が実行され、摺合わせの実行中であるか否かが判定される。この判定は、フラグF3がセットされているか否かにより行われる。S5が初めて実行されるとき、フラグF3はリセットされており、その判定結果はNOになってS6aが実行され、車速を、S6aの実行時の走行速度に維持する旨の指示が出力される。この指示は、パーキングブレーキECU200からエンジンコントロールコンピュータ236へ送られ、駆動装置258がクルーズコントロール制御部254により制御され、車速が、指示された大きさに維持されるように左右後輪14,16が回転させられる。作業者は、摺合わせを開始する際、車速が所望の車速になった状態でPKBスイッチ210をロック位置に操作する。S1が実行された後、極く短時間でS6aが実行され、摺合わせ制御の開始が指令された際の車速を維持するように指示が為されることとなり、クルーズコントロール制御部254の制御により、車速は指示された大きさに維持される。この車速維持要求は、摺合わせが終了するまでクルーズコントロール制御部254において記憶され、摺合わせが行われる間、車速が所望の車速であって制御開始時点車速に維持され、摺合わせが安定して行われる。S6aにおいてはまた、出力された制御開始時点車速が記憶部206に記憶させられる。次いでS6bが実行され、車速が指示された大きさに維持されているか否かが判定される。PKBスイッチ210は、車速が所望の車速になった状態でロック位置に操作されるため、S6bが実行されるとき、車速は殆ど維持を指示された車速になっており、S6bの判定結果は極く短い時間でYESになり、図11(a)に示すように、PKBスイッチ210のロック位置へのON操作により、殆どすぐに摺合わせが開始される。
【0044】
そして、S7においてフラグF3が1にセットされた後、S8が実行され、摺合わせが行われる。電動モータ10が起動され、ブレーキシュー110a,110bがドラム104に摺合わせ用作動力で押し付けられる。電動モータ10は、張力センサ90により検出されるケーブル22,24の張力に基づいて、摺合わせ用作動力が得られるように制御される。本システムにおいて摺合わせ用作動力は、前記駐車時作動力より小さく、図11(a)に示すように、前記走行中作動力が設定される作動力の範囲のうち、小さい方の大きさであって、摺合わせに適した大きさに予め設定され、記憶部206に記憶させられている。摺合わせ用作動力は、電動パーキングブレーキ30が特殊制御モードで作用させられる際の作動力であり、特殊作動力であり、駐車時作動力より小さい大きさに規制された規制作動力である。摺合わせは、工場モードの実行が指示されるとともに、トランスミッションがDレンジとされ、左右後輪14,16が回転させられた状態で行われ、摺合わせ実行時の車速、本システムにおいては、維持を要求された車速が、駐車制御と緊急制御との選択に使用される設定車速α以上であっても、設定車速αより小さくても、電動パーキングブレーキ30が摺合わせ用作動力で作動させられ、摺合わせが行われる。
【0045】
また、電動モータ10への電流供給はデューティ制御され、デューティ比が予め定められたパターンに従って変化させられて、作動力の増加勾配である立上がり勾配が予め定められた大きさに制御される。通常制御モードの実行時にも電動モータ10への電流供給はデューティ制御されるが、摺合わせ制御時には、作動力の立上がり勾配が駐車制御時および緊急制御時におけるより小さくなるようにデューティ制御が行われる。このデューティ制御のためのデューティ比のパターンは記憶部206に記憶させられており、ケーブル22,24の張力は、図11(a)のタイムチャートに太線で示すように、一点鎖線で示される通常制御時より小さい勾配で増加させられ、ブレーキシュー110a,110bが徐々にドラム104に押し付けられる。
【0046】
次いでS9が実行され、第1カウンタのカウント値C1が1増加させられ、摺合わせが行われる時間が計測される。第1カウンタは、記憶部206に設けられている。次いでS10が実行され、カウント値C1が設定値CA以上であるか否かが判定される。摺合わせを行う時間は予め設定され、設定値CAは摺合わせ時間を表す。S10では、摺合わせが設定時間、行われたか否かが判定されるのであり、この判定は摺合わせ時間が経過するまでNOであり、ルーチンの実行は終了する。
【0047】
フラグF3がセットされ、摺合わせ制御中であることが示されるため、PKBスイッチ210がロック位置に操作されている間、摺合わせが終了するまでS1〜S5,S8〜S10が繰り返し実行され、摺合わせが行われる。摺合わせ時間が経過すれば、S10の判定結果がYESになってS11が実行され、終了処理が行われる。電動パーキングブレーキ30の作用が解除されるとともに、フラグF3,第1,第2カウンタがリセットされる。また、フラグF5が1にセットされ、摺合わせが終了したことが示される。そのため、摺合わせ時間が経過し、摺合わせが十分に行われてもなお、PKBスイッチ210がロック位置に操作されている場合、S1の判定結果はYESになるが、S4bの判定結果がYESになってS5〜S11がスキップされ、摺合わせは行われない。図11(a)に太線で示すように、PKBスイッチ210の操作が解除され、OFF位置に復帰する前に摺合わせが終了させられるのであり、摺合わせが過剰に行われることが回避される。さらに、S11では、工場モードの実行の記憶がリセットされるとともに、走行速度維持の終了指令が出力され、エンジンコントロールコンピュータ236へ送信され、クルーズコントロール制御部254による走行速度維持制御が終了させられる。
【0048】
摺合わせの終了後にPKBスイッチ210の操作が解除されれば、S1,S17〜S19,S21,S25の各判定結果がNOになってS28が実行され、フラグF5がセットされているか否かが判定される。摺合わせが設定時間、行われ、フラグF5がセットされているため、S28の判定結果はYESになってS29が実行され、フラグF5が0にリセットされる。フラグF5がセットされていなければ、S28の判定結果はNOになってルーチンの実行は終了する。
【0049】
摺合わせ時間が経過する前にPKBスイッチ210の操作が解除されれば、S1の判定結果がNOになってS17が実行されるが、この判定結果もNOであり、続くS18,S19の各判定結果もNOになってS21が実行され、摺合わせ制御中であるか否かが判定される。この判定は、フラグF3がセットされているか否かにより行われるが、摺合わせが開始され、フラグF3がセットされているため、S21の判定結果がYESになってS22が実行され、第2カウンタのカウント値C2が1増加させられる。第2カウンタは記憶部206に設けられている。PKBスイッチ210の操作が解除され、OFF信号の出力によって摺合わせの解除が指令されてからの時間が計測されるのである。
【0050】
そして、S23においてカウント値C2が設定値CB以上になったか否かが判定される。設定値CBは、摺合わせの解除指令を無視する無視時間に対応する値に設定されている。無視時間は、例えば、解除指令がPKBスイッチ210の操作ミスにより発せられたために、直ちに摺合わせの実行が再指令されることが予測される時間よりやや長い時間に設定されている。無視時間が経過するまでS23の判定結果はNOになってS8〜S10が実行され、摺合わせが続行される。解除指令が出力されても、直ちには摺合わせが終了させられず、第1カウンタにより摺合わせ時間が続けて計測される。
【0051】
無視時間が経過する前にPKBスイッチ210がロック位置に操作されれば、S1の判定結果がYESになり、S2〜S5,S8〜S10が実行され、解除指令が出力された際に行われていた摺合わせの開始から、設定された摺合わせ時間が経過するまで摺合わせが行われる。解除指令はなかったものとされるのである。そのため、図11(b)のタイムチャートに二点鎖線で示すように、解除指令(OFF信号)の出力に基づいて電動パーキングブレーキ30の作用が解除され、摺合わせが終了するようにされれば、直後に摺合わせの実行が指令された場合、再度の摺合わせ実行指令の出力による摺合わせの開始から摺合わせ時間が計測し直され、解除指令が出力される際に行われていた摺合わせの時間と合わせた時間、摺合わせが行われることとなるが、解除指令が無視されることにより、図11(b)に太線で示すように、摺合わせは設定された時間のみ行われ、過剰に行われることが回避される。解除指令の出力後、PKBスイッチ210がロック位置に操作されることなく、無視時間が経過すれば、S23の判定結果がYESになってS24が実行され、摺合わせが終了させられる。この終了処理は、フラグF5のセットを除いてS11と同様に行われる。なお、図11(b)に示すタイムチャートにおいて一点鎖線で示すのは、摺合わせ開始時の電動モータ10への電流供給のデューティ制御を、電動パーキングブレーキ30の通常制御時と同様に行った場合のケーブル張力の立上がりであり、それとの比較により、摺合わせ制御時におけるケーブル張力の増加勾配が小さいことが示される。
【0052】
制動力テストを説明する。
制動力テストは、例えば、車両の組立時,修理時,車検時に行われ、本電動パーキングブレーキシステムを備えた車両をテスト台302上に載せ、左右後輪14,16を車輪回転駆動装置304によって回転させた状態で電動パーキングブレーキ30を作動させることにより行われる。制動力テスト時には、左右後輪14,16は外部から駆動されるのである。そのため、テスト時には、トランスミッション264の作動レンジが自由回転許容レンジたるN(ニュートラル)レンジとされ、車輪回転駆動装置304による左右後輪14,16の回転駆動を妨げないようにされる。なお、ここでは、車輪回転装置304のローラ306は左右後輪14,16を車両前進方向に回転させる向きに回転させられ、前進用の制動力テストが行われる。また、この場合、車両の走行速度、すなわち車輪の回転速度は、車輪回転駆動装置304の性能によって決まり、一定ではない。
【0053】
制動力テストは、摺合わせと同様に、予め設定された手順に従って行われる。車両の電源が投入され、シフトレバーが操作されてトランスミッション264の作動レンジがNレンジとされる。また、特殊作動制御装置320がパーキングブレーキECU200に接続され、入力装置326を用いて工場モードの実行指示が特殊作動制御装置320に入力され、その指示コマンドが特殊作動制御装置320からパーキングブレーキECU200に送信され、記憶させられる。
【0054】
その状態でPKBスイッチ210のロック側操作部220が押され、PKBスイッチ210がロック位置に切り替えられてロック信号が出力され、制動力テストの実行が指示される。制動力テストは、PKBスイッチ210がロック位置に操作されている間、行われ、操作が解除され、PKBスイッチ210がOFF位置へ戻れば、制動力テストは終了させられる。
【0055】
テスト者がPKBスイッチ210を操作し、ロック位置に切り替えれば、S1の判定結果がYES、S2の判定結果がNO、S3の判定結果がYES、S4aの判定結果がNOになってS12が実行され、トランスミッション264の作動レンジがNレンジであるか否かが判定される。Nレンジであれば、S12の判定結果がYESになってS13が実行され、制動力テストが実行される。電動モータ10が起動され、ブレーキシュー110a,110bがドラム104に押し付けられ、左右後輪14,16の回転が抑制されるのである。この際、電動モータ10への電流はデューティ制御され、デューティ比が予め定められたパターンに従って変化させられて、ケーブル張力が緩やかに増大させられ、ブレーキシュー110a,110bが徐々にドラム104に押し付けられる。電動パーキングブレーキ30の作動力は、予め設定されたテスト時作動力であって、本電動パーキングブレーキシステムでは、緊急時作動力と同じ大きさとされ、可変の駐車時制動力とは異ならされた固定の大きさの特殊作動力である。この作動力が得られるように、張力センサ90により検出される張力に基づいて電動モータ10が制御され、電動パーキングブレーキ30について適切な走行中作動力が得られるか否かがテストされる。
【0056】
左右後輪14,16が回転させられている状態でブレーキシュー110a,110bがドラム104に押し付けられれば、ローラ回転装置308の電動モータ310に反力が作用し、トルクがトルクメータ312により検出され、特殊作動制御装置320へ送られるとともに、制動力に換算され、表示画面324に表示される。テスト者は表示された制動力に基づいて、車両前進時において電動パーキングブレーキ30の制動力が正常に得られるか否かを判定することができる。制動力テストを行うブレーキテスト装置300には、テスト時に左右後輪14,16を回転させる回転駆動速度が異なるものがあり、駐車制御と緊急制御との選択に使用される設定車速α以上であることも、設定車速αより小さいこともあるが、本電動パーキングブレーキシステムにおいては、左右後輪14,16の回転速度の高低に関係なく、電動パーキングブレーキ30がテスト時作動力で作用させられ、制動力テストが安定して行われる。S13においてはまた、フラグF4がセットされ、制動力テストの実行が示される。
【0057】
PKBスイッチ210の操作が解除され、PKBスイッチ210がOFF位置に戻れば、S1,S17〜S19,S21の各判定結果がNOになってS25が実行され、制動力テストの実行中であるか否かが判定される。この判定はフラグF4がセットされているか否かにより行われるが、その判定結果はYESになってS26が実行され、制動力テストが終了させられる。電動パーキングブレーキ30の作用が解除されるとともに、フラグF4がリセットされる等の処理が行われるのである。
【0058】
なお、PKBスイッチ210がOFF位置に位置し、駐車制御,緊急制御,テスト制御および摺合わせ制御のいずれも行われない状態では、S1,S17〜S19,S21,S25,S28の各判定結果がNOになってルーチンの実行が終了する。
【0059】
以上の説明から明らかなように、本電動パーキングブレーキシステムにおいては、PKBスイッチ210が非保持型の手動操作スイッチを構成し、入力装置326と共に摺合わせ指令操作装置を構成し、クルーズコントロール制御部254が開始時点走行速度維持装置を構成している。また、パーキングブレーキECU200のS16を実行する部分が電動パーキングブレーキ30を駐車時作動力で作用させる第一制御部を構成している。さらに、パーキングブレーキECU200のS9〜S11を実行する部分が自動解除部を構成し、S22,S23を実行する部分が解除指令無視部を構成し、S8において電動モータ10への電流供給をデューティ制御する部分が摺合わせ制御時立上がり勾配制御部を構成し、S6aを実行する部分が開始時点走行速度維持要求部を構成し、これらがPKBスイッチ210の手動操作に応じて電動パーキングブレーキ30を摺合わせ用作動力で作用させる第二制御部を構成している。また、パーキングブレーキECU200のS13において電動モータ10への電流供給をデューティ制御する部分がテスト制御時立上がり勾配制御部を構成している。さらに、パーキングブレーキECU200のS14を実行する部分が通常制御態様選択部たる緊急制御・駐車制御選択部を構成し、S3,S4aを実行する部分が特殊制御実行判定部たる摺合わせ制御実行判定部を構成し、S3,S12を実行する部分が特殊制御実行判定部たる性能テスト実行判定部としての制動力テスト実行判定部を構成している。パーキングブレーキECU200のS16の実行により行われる駐車制御モードが第一制御モードであり、S15の実行により行われる緊急制御モードが第二制御モードであり、S8の実行により行われる特殊制御モードたる摺合わせ制御モードが第三制御モードである。S13の実行により行われる特殊制御モードとしての性能テスト制御モードたる制動力テスト制御モードが第三制御モードであり、パーキングブレーキECU200のS16を実行する部分が通常制御部たる駐車制御部であって、第一制御モードを実行する第一制御部を構成し、S15を実行する部分が通常制御部たる緊急制御部であって、第二制御モードを実行する第二制御部を構成し、S8を実行する部分が特殊制御部たる摺合わせ制御部であって、第三制御モードを実行する第三制御部を構成し、S13を実行する部分が特殊制御部たる性能テスト制御部たる制動力テスト制御部であって、第三制御モードを実行する第三制御部を構成している。工場モードの実行が指示されていることおよびトランスミッション264がDレンジに設定されていることが摺合わせを行うために予め設定された条件であり、工場モードの実行が指示されていることおよびトランスミッション264がNレンジに設定されていることが制動力テストを行うために予め設定された条件である。
【0060】
なお、摺合わせ制御を行う際に、左右後輪14,16を、車両を後進させる方向に回転させ、車両後進用の摺合わせが行われるようにしてもよい。この場合、トランスミッション264の作動レンジがR(リバース)レンジとされ、左右後輪14,16が車両を後進させる方向に回転させられる。電動パーキングブレーキ制御ルーチンは、例えば、図10に示す前記電動パーキングブレーキ制御ルーチンのS4aの判定結果がNOになった後、トランスミッション264の作動レンジがNレンジであるか否かを判定する前に、R(リバース)レンジであるか否かが判定され、Rレンジであれば、S4b以下のステップが実行され、摺合わせが行われるように構成される。
【0061】
また、制動力テストも、車輪を、車両を後進させる方向に回転させた状態で行われるようにしてもよい。この場合、トランスミッション264の作動レンジをNレンジとし、ブレーキテスト装置300の車輪回転駆動装置304により、左右後輪14,16を、車両を後進させる方向に回転させる。その他は、前進用の制動力テストと同様に行われる。
【0062】
摺合わせ制御を行う際、車両側において車輪を回転させる場合、車両が任意に指定される指定走行速度を維持するように車両の駆動装置が制御されてもよい。その例を図12ないし図14に基づいて説明する。なお、前記実施例と同じ作用を成す構成要素には同じ符号を付して対応関係を示し、説明を省略する。
指定走行速度を維持するための駆動装置258の制御は、例えば、クルーズコントロール制御を利用して行われる。エンジンコントロールコンピュータ236には、図12に示すように、走行速度指定装置400が接続され、通常走行時に走行速度を維持する際、維持すべき任意の大きさの走行速度が入力され、指定される。本クルーズコントロール制御部402は、走行速度の指定に基づいて駆動装置258を制御し、車両の走行速度を指定された走行速度に制御し、その大きさに維持する機能を有する。この種のクルーズコントロール制御部402は既に知られており、更なる説明は省略する。
【0063】
摺合わせ制御時には、図13に示す電動パーキングブレーキ制御ルーチンが実行される。本ルーチンは、摺合わせ時に車両の走行速度が指定走行速度に維持されることを除いて前記図10に示す電動パーキングブレーキ制御ルーチンと同様に構成されている。
摺合わせは、図1〜図11に基づいて説明した電動パーキングブレーキシステムと同様に予め設定された手順に従って行われるが、更に、走行速度指定装置400により摺合わせ時に維持する走行速度の入力が行われる。PKBスイッチ210がロック位置にON操作されれば、S1の判定結果がYES、S2の判定結果がNO、S3,S4aの各判定結果がYES、S4b,S5の各判定結果がNOになってS106aが実行され、指定速度維持要求がエンジンコントロールコンピュータ236へ出力される。それにより、クルーズコントロール制御部402が制御を開始し、左右後輪14,16の回転を、指定走行速度が得られるように制御する。指定速度維持要求は摺合わせ終了により解除され、クルーズコントロール制御部402は、解除指令が供給されるまで指定走行速度が維持されるように駆動装置258を制御する。
【0064】
次いで106bが実行され、車速が指定走行速度に到達したか否かが判定される。S106bの判定結果は、車速が指定走行速度になるまでNOとなる。車速が指定走行速度になれば、S106bの判定結果がYESになり、S7以下のステップが実行され、車速が走行速度指定装置400により指定された大きさに維持された状態で摺合わせが行われる。車速が指定走行速度になることが待たれるため、図14のタイムチャートに示すように、OFF位置にあるPKBスイッチ210のロック位置へのON操作に対して摺合わせが遅れて開始される。PKBスイッチ210のロック位置へのON操作は、車速が摺合わせに適した大きさであって、走行速度指定装置400により指定された車速にほぼ到達した状態で操作されることが多く、S106bの実行により車速が指定走行速度になることが待たれるが、その時間は短い。摺合わせが終了すれば、S11あるいはS24での終了処理において指定速度維持制御の解除指令がエンジンコントロールコンピュータ236へ出力され、それによりクルーズコントロール制御部402が指定速度維持制御を終了する。
本電動パーキングブレーキシステムにおいては、クルーズコントロール制御部402が指定速度維持装置を構成し、パーキングブレーキECU200のS106aを実行する部分が指定速度維持要求部を構成している。
【0065】
なお、電動パーキングブレーキシステムは、特殊制御として、摺合わせ制御とテスト制御とのいずれか一方のみが行われるシステムとしてもよい。
【0066】
また、車両を開始時点走行速度維持装置および指定速度維持装置を含むものとし、電動パーキングブレーキシステムを開始時点走行速度維持要求部および指定速度維持要求部を含むものとし、開始時点走行速度維持制御と指定速度維持制御とが選択的に行われるようにしてもよい。
【0067】
さらに、PKBスイッチ210がロック位置に操作されて摺合わせ制御が開始され、摺合わせ時間が経過する前に操作が解除され、その後、再度、PKBスイッチ210が操作されて摺合わせ制御の実行が指示されることがなく、無視時間が経過した場合、例えば、摺合わせが不足していることが報知装置によって報知されるようにしてもよく、後に摺合わせ制御の実行が指示された場合、不足時間分、摺合わせが行われるようにしてもよい。例えば、記憶部および報知部を設け、摺合わせの解除時に第1カウンタにより計測される摺合わせ制御の実行時間が予め設定された摺合わせのための時間より短い場合には、実際の摺合わせ実行時間を記憶しておき、それに基づいて報知部により摺合わせ不足を報知したり、摺合わせ補填部を設け、摺合わせの不足時間を求めて次の摺合わせ実行時に使用したりする。表示部を設け、摺合わせ不足時間を表示装置により表示するようにしてもよい。
【0068】
また、摺合わせおよび制動力テスト等の性能テストは、特殊作動制御装置の入力装置等、外部指令操作装置から、電動パーキングブレーキシステムの制御装置の入力部への指令の入力のみによって実行されるようにしてもよい。特殊制御時には電動パーキングブレーキが外部からの指令によって作動を開始するようにするのである。
【0069】
さらに、電動パーキングブレーキシステムの性能テストは、制動力テストの他、例えば、駐車時におけるケーブルの張力テストを行ってもよい。例えば、外部の車輪回転駆動装置により車輪を低速で回転させた状態で電動パーキングブレーキを作動させ、摩擦材をゆっくりドラムに押し付け、車輪回転駆動装置の電動モータが受ける反トルクと、張力との関係を求める。車輪が停止している状態で摩擦材をドラムに押し付け、その状態で車輪を回転させてもよい。
【0070】
さらに、摺合わせ制御は、車輪をブレーキテスト装置の車輪回転駆動装置により回転させた状態で行ってもよく、車両をテストコース等において実際に走行させつつ行うように
してもよい。前者の場合、制動力テストの場合と同様に、ブレーキテスト装置には、車輪を回転させる回転駆動速度が異なるものがあり、駐車制御と走行中の補助制御との選択に使用される設定車速以上であることも、設定車速より小さいこともあるが、車輪の回転速度の高低に関係なく、電動パーキングブレーキを摺合わせ用作動力で作動させ、摺合わせが安定して行われる。
【0071】
また、請求可能発明は、4輪駆動車両や前輪駆動車両に設けられた電動パーキングブレーキシステムや、電動ブレーキシステムがディスクブレーキを備えた電動パーキングブレーキシステムにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】請求可能発明の実施例である電動パーキングブレーキシステムを概略的に示す図である。
【図2】上記電動パーキングブレーキシステムのクラッチ付き運動変換機構を示す正面図(一部断面)である。
【図3】上記クラッチ付き運動変換機構のクラッチを示す側面断面図であり、図2におけるA−A断面図である。
【図4】上記電動パーキングブレーキシステムのパーキングブレーキであるドラムブレーキを示す正面図である。
【図5】上記電動パーキングブレーキシステムの押付機構を示す正面図(一部断面)である。
【図6】上記電動パーキングブレーキシステムの作動時におけるケーブルの張力と制動可能トルクとの関係を表すグラフである。
【図7】上記電動パーキングブレーキシステムを操作するパーキングブレーキスイッチを示す正面図である。
【図8】上記パーキングブレーキスイッチを示す平面図である。
【図9】上記電動パーキングブレーキシステムについてテストを行うブレーキテスト装置を概略的に示す平面図である。
【図10】上記電動パーキングブレーキシステムのパーキングブレーキECUの記憶部に記憶させられた電動パーキングブレーキ制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図11】上記電動パーキングブレーキシステムにおいて摺合わせが行われる際のパーキングブレーキスイッチの操作および時間の経過とケーブルの張力との関係を表すタイムチャートであり、パーキングブレーキスイッチの操作が途中で解除されることなく、設定時間が経過した場合と、途中で解除されるとともに、直後に再度、摺合わせが指令された場合とをそれぞれ表すタイムチャートである。
【図12】別の実施例である電動パーキングブレーキシステムを概略的に示す図である。
【図13】図12に示す電動パーキングブレーキシステムのパーキングブレーキECUの記憶部に記憶させられた電動パーキングブレーキ制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図14】図12に示す電動パーキングブレーキシステムにおいて摺合わせが行われる際のパーキングブレーキスイッチの操作および時間の経過とケーブルの張力との関係を表すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0073】
10:電動モータ 14:左後輪 16:右後輪 18,20:パーキングブレーキ 30:電動パーキングブレーキ 90:張力センサ 100:バッキングプレート 102:摩擦面 104:ドラム 110a:ブレーキシュー 110b:ブレーキシュー 120:押付機構 200:パーキングブレーキECU 210:PKBスイッチ 220:ロック側操作部 222:リリース側操作部 254:クルーズコントロール制御部 258:駆動装置 262:エンジン 264:トランスミッション 300:ブレーキテスト装置 304:車輪回転駆動装置 216:特殊作動制御装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パーキングブレーキシステムに関するものであり、特に、摩擦材のブレーキ回転体との摺合わせに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動パーキングブレーキシステムは、電動モータを駆動源として作動し、摩擦材をブレーキ回転体に押圧して車両を停車状態に維持する電動パーキングブレーキと、電動モータを制御することにより電動パーキングブレーキを制御する制御装置とを含むように構成される。摩擦材は、ブレーキ回転体に沿って押し付けられる形状,寸法に製造されるが、予めブレーキ回転体に押し付けてなじませておけば、使用開始当初から制動力が正常に発生する。そのため、従来、電動パーキングブレーキシステムの通常の使用とは別に、摩擦材をブレーキ回転体に押し付け、なじませる摺合わせが行われている。
例えば、下記の特許文献1に記載の電動パーキングブレーキシステムにおいては、工場出荷時に電動モータを作動させて摩擦材をブレーキ回転体に僅かに押し付け、それらの間に微小な引摺りを生じさせて、車両の走行に伴って摺合わせが自動的に行われるようにされている。引摺りは、車両の使用開始から所定時間が経過し、摺合わせが概ね完了したとすることができる状態で自動的に解除される。
【特許文献1】特開2006−137257公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の電動パーキングブレーキシステムにおいては、車両の使用開始後、所定時間が経過するまでの間、摩擦材がブレーキ回転体に押し付けられるが、その間の車両の走行状態は、車両によって異なり、摺合わせの安定性に欠ける問題がある。
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、摩擦材のブレーキ回転体との摺合わせが安定して行われる電動パーキングブレーキシステムの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の課題は、(A)電動モータを駆動源として作動し、摩擦材をブレーキ回転体に押圧して車両を停車状態に維持する電動パーキングブレーキと、(B)前記電動モータを制御することにより電動パーキングブレーキを制御する制御装置とを含む電動パーキングブレーキシステムの制御装置を、(a)電動パーキングブレーキを、車両を停車状態に維持するために作用させる場合の作動力である駐車時作動力で作用させる第一制御部と、(b)電動パーキングブレーキを、操作状態に応じて少なくとも2種類の信号を出力する手動操作スイッチの手動操作に応じて、駐車時作動力より小さく、摩擦材のブレーキ回転体との摺合わせに適した大きさの摺合わせ用作動力で作用させる第二制御部とを含むものとすることにより解決される。
作動力は、摩擦材をブレーキ回転体に押圧する力であり、例えば、電動パーキングブレーキが電動モータの作動によってケーブルが引っ張られ、摩擦材がブレーキ回転体に押圧される構成を有するものである場合、ケーブルの張力に対応し、その張力を検出することにより取得することができる。作動力は、電動モータへの電流供給が遮断されても維持され、摩擦材がブレーキ回転体に押し付けられた状態に保たれる。この状態では、摩擦材のブレーキ回転体への押圧動作は終わっており、電動パーキングブレーキは作動中ではないが、作用中であることとなる。
【発明の効果】
【0005】
摩擦材のブレーキ回転体との摺合わせは、少なくとも2種類の信号を出力する手動操作スイッチの手動操作に基づいて開始される。そのため、摺合わせを行う時期を選択することができ、適切な時期、例えば、工場での組立終了時,修理終了時あるいは車検時等、車両の使用時ではない時期であって、電動パーキングブレーキシステムが車輪の回転を抑制するための通常の使用に供されることがない時期に摺合わせを安定して行うことができる。また、手動操作スイッチの手動操作に基づいて摺合わせを終了させるようにすれば、例えば、摺合わせを開始してから摺合わせが十分に行われたとすることができる時間が経過した場合等、作業者の判断に基づいて適宜の時期に、あるいは状況に応じて摺合わせを終了することができる。しかも、摺合わせ時には、電動パーキングブレーキが駐車時作動力より小さい摺合わせ用作動力で作用させられるため、摺合わせの効果が均一化されるとともに、摩擦材が摺合わせには過大な力でブレーキ回転体に押し付けられることが確実に回避され、車輪の減速度が抑制され、摩擦材の変形や摩耗を生じることなく、摺合わせが良好に行われる。また、摺合わせ用作動力が小さいため、摩擦材のブレーキ回転体への押付けにより車輪の回転が過剰に抑制されることがなく、例えば、摺合わせがブレーキテスト装置上で行われ、ブレーキテスト装置の車輪回転駆動装置によって車輪が回転駆動される場合、車両がテスト台上において安定して静止した状態で支持され、摺合わせが安定して行われる。
【発明の態様】
【0006】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。請求可能発明は、少なくとも、請求の範囲に記載された発明である「本発明」ないし「本願発明」を含むが、本願発明の下位概念発明や、本願発明の上位概念あるいは別概念の発明を含むこともある。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0007】
なお、以下の各項において、(1)項,(2)項および(5)項を合わせたものが請求項1に相当し、(6)項と(7)項とを合わせたものが請求項2に、(8)項が請求項3に、(10)項が請求項4に、(11)項が請求項5に、(12)項が請求項6にそれぞれ相当する。
【0008】
(1)電動モータを駆動源として作動し、摩擦材をブレーキ回転体に押圧して車両を停車状態に維持する電動パーキングブレーキと、前記電動モータを制御することにより前記電動パーキングブレーキを制御する制御装置とを含む電動パーキングブレーキシステムであって、前記制御装置が、
電動パーキングブレーキを、前記車両を停車状態に維持するために作用させる場合の作動力である駐車時作動力で作用させる第一制御部と、
前記電動パーキングブレーキを、前記駐車時作動力より小さく、前記摩擦材の前記ブレーキ回転体との摺合わせに適した大きさの摺合わせ用作動力で作用させる第二制御部と
を含む電動パーキングブレーキシステム。
摺合わせ時には、電動パーキングブレーキが設定された大きさの作動力であって、摺合わせに適した作動力で作用させられ、摩擦材の変形や摩耗を回避しつつ、良好に摺合わせが行われる。
本項以下に記載の特徴は、摺合わせを、ブレーキテスト装置を利用して、あるいは摺合わせ専用の車輪回転駆動装置を使用して行う場合に特に有効であるが、車両をテストコース等において実際に走行させつつ行う場合に採用することも可能である。
(2)前記制御装置が摺合わせ指令操作装置の手動操作に応じて前記第二制御部を作動させる(1)項に記載の電動パーキングブレーキシステム。
第二制御部は自動的に作動させてもよいが、手動操作に応じて作動させれば、例えば、任意の時期に摺合わせを行うことができ、必要に応じて、また、適切な時期に摺合わせを行うことができる。
(3)前記第二制御部が、前記車両のトランスミッションが自由回転許容レンジにある状態で前記摺合わせ指令操作装置の手動操作が行われた場合に作用するものである(2)項に記載の電動パーキングブレーキシステム。
自由回転許容レンジは、トランスミッションの出力軸の自由な回転を許容するレンジであり、例えば、ニュートラルレンジや、パーキングレンジで出力軸の自由な回転が許容される構成のトランスミッションにおけるパーキングレンジが含まれる。
車両のトランスミッションが自由回転許容レンジにある状態では、車輪を外部から自由に回転させることができ、外部駆動装置によって車輪を回転させた状態で摺合わせを行うことができる。
(4)前記第二制御部が、前記車両のトランスミッションが駆動レンジにある状態で前記摺合わせ指令操作装置の手動操作が行われた場合に作動するものである(2)項または(3)項に記載の電動パーキングブレーキシステム。
駆動レンジには、例えば、ドライブレンジおよびリバースレンジが含まれる。
車両のトランスミッションが駆動レンジにある状態では、車輪が車両の駆動装置によって回転させられた状態で摺合わせを行うことができ、例えば、車両が有する機能を利用して摺合わせをより多様な態様で行うことができる。(11)項および(12)項にそれぞれ記載の開始時点走行速度維持要求や指定速度維持要求は、その例である。
(5)前記摺合わせ指令操作装置が、操作状態に応じて少なくとも2種類の信号を出力する手動操作スイッチを含む(2)項ないし(4)項のいずれかに記載の電動パーキングブレーキシステム。
手動操作スイッチが、操作部材に操作力が加えられている間は第一信号を出力し続け、操作力が解除されれば第一信号とは異なる第二信号を出力する状態に変わる非保持型スイッチでも、操作部材が一旦所定の操作位置へ操作されれば、操作力が解除されても同じ信号を出力し続け、操作部材が改めて操作されてはじめて出力信号が変わる保持型スイッチでもよい。いずれの場合でも、出力信号が3種類以上に変化する手動操作スイッチとしてもよい。保持型スイッチは、操作部材が操作された位置に物理的に保持されるものとすることができるが、不可欠ではなく、スイッチ部と回路部との共同により出力信号の状態が保持されるものでもよい。
手動操作スイッチが操作状態に応じて出力する少なくとも2種類の信号は、例えば、摺合わせの実行を指令する信号および何も指令しない信号とされてもよく、あるいは摺合わせの実行と終了とをそれぞれ指令する信号とされてもよい。手動操作スイッチの出力信号の使い方により、種々の態様で摺合わせを行うことができる。
また、手動操作スイッチは操作が簡単であり、摺合わせを容易に指令することができる。
(6)前記第二制御部が、前記電動パーキングブレーキの作用状態が設定条件が満たされるまで継続した場合に、その作用状態を自動で解除する自動解除部を含む(1)項ないし(5)項のいずれかに記載の電動パーキングブレーキシステム。
本項が(5)項に従属する態様では、手動操作スイッチが、電動パーキングブレーキを作用方向に作動させることを指令する作用指令信号を出力していても、設定条件が満たされれば、電動パーキングブレーキが自動的に解除される。設定条件が過不足なく満たされるように電動パーキングブレーキを作用状態に維持することが容易となる効果が得られる。
(7)前記設定条件が、少なくとも、前記電動パーキングブレーキの作用状態が設定時間継続することを含む(6)項に記載の電動パーキングブレーキシステム。
例えば、本項が(5)項に従属する態様では、例えば、手動操作スイッチの操作に基づいて摺合わせの開始および終了が指令される場合、手動操作スイッチの操作に基づいて摺合わせが開始された後、摺合わせを終了させるための操作が遅れても、設定時間の経過により、手動操作スイッチが操作される前に摺合わせが自動的に解除され、摺合わせ時間が長過ぎることに起因する過剰な摺合わせによる摩擦材の焼けすぎの発生が防止される。また、摺合わせ実行時間にばらつきがなくなり、電動パーキングブレーキが自動的に摺合わせ用作動力で作動させられることと相俟って、摺合わせの効果がより精度良く均一化される。
また、例えば、手動操作スイッチが出力する2種類の信号の一方が摺合わせの実行を指令する信号であり、他方が何も指令しない信号である場合、手動操作スイッチの操作状態が、出力信号が何も指令しない信号である状態から摺合わせの実行を指令する信号を出力する状態に操作され、その操作による摺合わせの実行指令に基づいて摺合わせが開始された後、タイマにより時間を計測し、設定時間が経過した状態で摺合わせが自動的に解除されるようにすれば、摺合わせを過不足なく行うことができ、摩擦材のブレーキ回転体への当たり不良、すなわち摺合わせ時間の不足に起因する摺合わせの不足や、摩擦材の焼けすぎの発生が防止される。
作用状態が設定時間継続することが唯一の条件であるようにすることも、他の条件と選択的な条件であるようにすることも、複数の必須条件の1つであるようにすることも可能である。
(8)前記第二制御部が、電動パーキングブレーキを一旦作用状態にした後は、解除指令を受けても、少なくとも前記設定時間の計測に関して、予め定められた無視時間の間は前記解除指令を無視する解除指令無視部を含む(7)項に記載の電動パーキングブレーキシステム。
解除指令が出されても直ちには電動パーキングブレーキの作用は解除されず、摺合わせが続けて行われるとともに、摺合わせのための電動パーキングブレーキの作用状態の時間が続けて計測される。そのため、例えば、本項が(5)項に従属する態様では、例えば、手動操作スイッチが摺合わせの解除を指令する信号を出力するものである場合、手動操作スイッチの操作ミスにより解除指令が出され、その直後に手動操作スイッチが操作されて摺合わせの実行が指令されても、摺合わせがやり直しされて設定時間が計測し直されることがなく、摺合わせが過剰に長い時間行われることが回避される。解除指令により第二制御部の作動が解除され、設定時間の計測がリセットされれば、その直後に手動操作スイッチが操作された場合、設定時間は、その操作による摺合わせの開始から計測し直されることとなり、解除前に行われた摺合わせの時間と合わせて、過剰に長い時間、摺合わせが行われることとなるのであるが、本項が(5)項に従属する態様では、摺合わせ時間が計測し直されることがなく、長時間の摺合わせにより摩擦材が焼けすぎとなることが防止される。
(9)前記制御装置が前記車両の外部に設けられた外部制御装置と有線または無線で通信可能であり、前記摺合わせ指令操作装置がその外部制御装置に設けられた外部指令操作装置を含む(2)項ないし(8)項のいずれかに記載の電動パーキングブレーキシステム。
電動パーキングブレーキシステムの制御装置自体は、外部指令操作装置の操作に応じて外部制御装置から供給される指令を受け取る入力部のみを含み、第二制御部の作動指令を含めて、摺合わせを行うのに要する指令の全部が外部指令操作装置の操作により、外部から供給され、摺合わせ指令操作装置が外部指令操作装置のみにより構成されるようにしてもよく、制御装置が入力部を含むとともに、電動パーキングブレーキシステムに摺合わせ指令操作装置が内蔵され、外部指令操作装置の操作に基づく指令と、内蔵の指令操作装置の操作に基づく指令との共同により第二制御部が作動させられて摺合わせが行われるようにしてもよく、制御装置が入力部を含まず、摺合わせを行うのに要する指令の全部が電動パーキングブレーキシステムに内蔵の指令操作装置の操作により為されるようにしてもよく、制御装置が入力部を含むとともに、電動パーキングブレーキシステムに操作指令装置が内蔵され、第二制御部を作動させるのに要する指令の全部が内蔵の指令操作装置により為されるモードと、指令の全部が外部の指令操作装置により為されるモードとが選択的に行われるようにしてもよい。
外部制御装置から摺合わせ制御の実施を指令することができれば、工場等において摺合わせを行う場合の作業性が向上する。また、電動パーキングブレーキシステムの制御装置が、外部指令操作装置の操作に応じて外部制御装置から供給される指令を受け取る入力部のみを含むものである場合には、外部制御装置を保有するメーカや修理工場のみが摺合わせを実行することができ、ユーザが妄りに摺合わせを実行することを回避することができる。
(10)前記第二制御部が、前記電動パーキングブレーキを作用状態にする際の作動力の増加勾配である立上がり勾配を予め定められた大きさに制御する立上がり勾配制御部を含む(1)項ないし(9)項のいずれかに記載の電動パーキングブレーキシステム。
摺合わせが行われるとき、ブレーキ回転体は回転させられるが、本項に記載の電動パーキングブレーキシステムによれば、摩擦材が徐々にブレーキ回転体に押し付けられることとなるため、回転しているブレーキ回転体に急に接触して損傷することが回避される。また、車輪の減速度が抑制され、摩擦材の損傷が回避される。さらに、減速度の抑制により、例えば、摺合わせがブレーキテスト装置上で行われ、ブレーキテスト装置の車輪回転駆動装置によって車輪が回転駆動される場合、車両がテスト台上において安定して静止した状態で支持され、摺合わせがより安定して行われる。
(11)前記車両が、制御開始の指令が行われた時点の走行速度である開始時点走行速度を維持するように当該車両の駆動装置を制御する開始時点走行速度維持装置を含み、前記第二制御部が、前記電動パーキングブレーキを前記摺合わせ用作動力で作用状態に保つ間、前記開始時点走行速度維持装置の作動を要求する開始時点走行速度維持要求部を含む(1)項ないし(10)項のいずれかに記載の電動パーキングブレーキシステム。
例えば、走行速度が摺合わせに適した速度である状態で制御開始が指令されることにより、ブレーキ回転体が摺合わせに適した速度で回転させられている状態で摺合わせが行われ、より安定して摺合わせが行われる。
(12)前記車両が任意に指定される指定走行速度を維持するように当該車両の駆動装置を制御する指定速度維持装置を含み、前記第二制御部が、前記電動パーキングブレーキを前記摺合わせ用作動力で作用状態に保つ間、前記指定速度維持装置の作動を要求する指定速度維持要求部を含む(1)項ないし(11)項のいずれかに記載の電動パーキングブレーキシステム。
指定走行速度は、例えば、摩擦材やブレーキ回転体の種類(形状,寸法,材料,作動構成等)等に応じて設定され、走行速度の指定により、ブレーキ回転体が摩擦材等の種類に応じた速度で回転させられている状態で摺合わせが行われ、より安定して行われる。
(13)電動モータを駆動源として作動し、摩擦材を車輪と共に回転するブレーキ回転体に押圧して車両を停車状態に維持する電動パーキングブレーキと、その電動パーキングブレーキを前記電動モータを制御することにより制御する制御装置とを含む電動パーキングブレーキシステムの、前記摩擦材の前記ブレーキ回転体に対する摺合わせを行う方法であって、
前記電動パーキングブレーキにより回転を防止されるべき車輪を回転させ、その状態で、手動操作装置の操作に応じて前記摩擦材を前記ブレーキ回転体に、前記車両を停車状態に維持するために作用する場合の作動力である駐車時作動力より小さく設定された摺合わせ用作動力で押圧し、その押圧開始から設定時間が経過した時点で前記摩擦材の前記ブレーキ回転体への押圧を解除する電動パーキングブレーキの摺合わせ方法。
本項に記載の摺合わせ方法によれば、例えば、(1)項,(2)項および(7)項に記載の電動パーキングブレーキシステムと同様の効果が得られる。
(14)前記摺合わせ用作動力で摺合わせを行っている間に解除指令が供給されても、少なくとも前記設定時間の計測に関して、予め定められた無視時間の間は前記解除指令を無視する(13)項に記載の電動パーキングブレーキの摺合わせ方法。
本項に記載の摺合わせ方法によれば、例えば、(8)項に記載の電動パーキングブレーキシステムと同様の効果が得られる。
(15)前記車輪を前記車両自体の駆動源の駆動力で回転させつつ前記第二制御部を作動させる(13)項または(14)項に記載の電動パーキングブレーキの摺合わせ方法。
本項に記載の摺合わせ方法によれば、例えば、(4)項に記載の電動パーキングブレーキシステムと同様の効果が得られる。
(16)前記車輪を前記車両の外部からの駆動力で回転させつつ前記第二制御部を作動させる(13)項または(14)項に記載の電動パーキングブレーキの摺合わせ方法。
本項に記載の摺合わせ方法によれば、例えば、(3)項に記載の電動パーキングブレーキシステムと同様の効果が得られる。
【実施例】
【0009】
以下、請求可能発明のいくつかの実施例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、請求可能発明は、下記実施例の他、上記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更を施した態様で実施することができる。
【0010】
図1に請求可能発明の一実施例である電動パーキングブレーキシステムが概略的に図示されている。図1において、符号10は駆動源たる電動モータを示し、符号12はクラッチ付き運動変換機構を示す。本電動モータ10は、デューティ制御が可能な電動モータにより構成され、例えば、ブラシレス直流モータにより構成される。クラッチ付き運動変換機構12は、電動モータ10の出力軸の回転を出力部材の直線運動に変換するとともに、出力部材に加えられる力によって電動モータ10が回転させられることを防止する。また、符号14,16は左右後輪を示し、符号18,20は車輪14,16にそれぞれ設けられたパーキングブレーキを示す。本電動パーキングブレーキシステムが設けられた車両は後輪駆動の車両であり、駆動輪である左右後輪14,16にそれぞれパーキングブレーキが設けられる。パーキングブレーキ18,20とクラッチ付き運動変換機構12とは、それぞれ、ケーブル22,24によって連結されている。ケーブル22,24が、電動モータ10の作動により引っ張られると、パーキングブレーキ18,20が作用する状態とされる。本実施例においては、電動モータ10,クラッチ付き運動変換機構12,ケーブル22,24,パーキングブレーキ18,20等により電動パーキングブレーキ30が構成されている。なお、電動モータ10は、ブラシ付直流モータにより構成してもよい。
【0011】
クラッチ付き運動変換機構12は、図2に示すように、ギヤ列40,クラッチ42,ねじ機構44等を含む。
ギヤ列40は、複数のギヤ46,48,50から成る。ギヤ46は、電動モータ10の出力軸52のギヤ部に噛み合わされて出力軸52の回転により回転させられ、ギヤ46の回転がギヤ48を経てギヤ50に伝達される。ギヤ50の電動モータ10とは反対側の端面には、軸線方向と平行に突出する駆動伝達部54が設けられている。
【0012】
クラッチ42は、一方向クラッチであり、図3に示すように、ハウジング60と、そのハウジング60の内周側に設けられたコイルスプリング62と、クラッチ42の出力軸64と一体的に回転可能なロータ66とを含む。図3には、クラッチ42が図2に示すA−A切断線において切断にされた状態が図示されている。コイルスプリング62は、巻径が弾性的に僅かに収縮させられた状態でハウジング60に嵌合されており、それの外周面がハウジング60の内周面に密着し、素線の端部68,70が、それぞれ、内周側に向かって突出させられた状態で設けられている。また、ギヤ50の駆動伝達部54が2つの端部68,70で挟まれた2つの空間の一方に位置し、ロータ66が他方に位置する。
【0013】
電動モータ10の回転に伴ってギヤ50が回転すると、駆動伝達部54が端部68,70のいずれか一方に当接し、コイルスプリング62が巻き締められてハウジング60の内周面とスプリング62の外周面との間の摩擦力が小さくなる。それによって、コイルスプリング62,ロータ66が回転可能となり、出力軸64を回転させる。出力軸64はギヤ50と一体的に回転させられるのであり、クラッチ42によって、電動モータ10の回転が出力軸64に伝達されることになる。
【0014】
電動モータ10に電流が供給されない状態において、出力軸64にトルクが加わると、ロータ66が端部68,70のいずれか一方に当接し、それによって、コイルスプリング62が拡径させられる。コイルスプリング62の外周面とハウジング60の内周面との間の摩擦力が大きくなり、コイルスプリング62の回転は阻止される。クラッチ42によって、出力軸64のトルクのギヤ50への伝達が阻止され、電動モータ10に電流が供給されない状態において、出力軸64に加えられるトルクによって電動モータ10が回転させられることはないのである。
【0015】
ねじ機構44は、図2に示すように、ハウジング80と、軸線Lと平行な方向に延びた雄ねじ部材82と、雄ねじ部材82に螺合させられた図示しないナットと、ナットに、ナットの軸線と直交する軸線のまわりに回動可能に取り付けられたイコライザ84とを含む。雄ねじ部材82は、一対のラジアルベアリング85(他方は図示は省略する)、ニードルスラストベアリング86を介して、ハウジング80に相対回転可能に支持される。イコライザ84の両アームには、それぞれ、ケーブル22,24のインナケーブル87が連結されている。イコライザ84の本体には係合突部88が設けられ、図示は省略するが、ハウジング80に、軸線Lと平行な方向に設けられたガイドに係合させられる。その結果、イコライザ84は、ハウジング80に、軸線Lを中心とした相対回転不能、軸線Lと平行な方向に相対移動可能、かつ、係合突部88の回り(軸線Mの回り)に相対回動可能となっている。
【0016】
イコライザ84は、図2に実線で示す位置と二点鎖線で示す位置との間で、ハウジング80に対して相対移動可能とされており、イコライザ84の相対移動に伴ってケーブル22,24のインナケーブル87が引っ張られたり、緩められたりする。また、イコライザ84は、2つのケーブル22,24のインナケーブル87に加えられる張力(以下、単にケーブル22,24の張力という)が同じになるように、係合突部88の回り(軸線Mの回り)に回動させられる。なお、ハウジング80の内部には、ケーブル24の張力を検出する張力センサ90が設けられている。イコライザ84により、ケーブル22,24に加えられる張力は同じ大きさとされるため、張力センサ90によって検出されたケーブル24に加えられた張力は、ケーブル22に加えられた張力でもある。
【0017】
また、符号92は異常時解除装置を示す。異常時解除装置92は、電動モータ10の異常時等に、パーキングブレーキ18,20を解除するための装置である。異常時解除装置92は、アウタケーブル93と、アウタケーブル93内に長手方向に移動可能に設けられた駆動部材たるインナケーブル94とを備え、操作者が操作部材たるグリップ(図示省略)を操作し、ケーブル94をギヤ96に相対回転不能に係合させるとともに、ギヤ96を回転させる。ギヤ96の回転は前記ギヤ46,48を介してギヤ50に伝達され、ギヤ50の回転により出力軸64が回転させられてイコライザ84がケーブル22,24を緩める向きに移動させられる。それによって、パーキングブレーキ18,20が解除される。
【0018】
パーキングブレーキ18,20は、図4,5に示すように、本実施例においては、デュオサーボ型のドラムブレーキである。したがって、以下、必要に応じて、パーキングブレーキ18,20をドラムブレーキと称することがある。本電動パーキングブレーキ30は、電動ドラムブレーキなのである。また、図4において、符号97はブレーキディスクを示し、符号98はキャリパを示し、これらブレーキディスク97とキャリパ98とは、共同してサービスブレーキとしてのディスクブレーキ99を構成する。パーキングブレーキ18,20としてのドラムブレーキは、ブレーキディスク97の内周側に設けられているのであり、本実施例においては、ドラムインディスクブレーキとなっている。ドラムブレーキ18,20は、それそれ、構造が同じものであるため、ドラムブレーキ18について説明し、ドラムブレーキ20についての説明を省略する。
【0019】
ドラムブレーキ18は、図示しない車体に取り付けられた非回転部材としてのバッキングプレート100と、内周面に摩擦面102を備えて車輪14と共に回転するブレーキ回転体としてのブレーキドラム104(以後、ドラム104と略称する)とを備えている。バッキングプレート100の一直径方向に隔たった2箇所には、それぞれアンカ部材106と中継リンクとしてのアジャスタ108とが設けられている。アンカ部材106はバッキングプレート100に固定されており、アジャスタ108はフローティング式とされている。それらアンカ部材106とアジャスタ108との間には、各々円弧状を成す摩擦材としての一対のブレーキシュー110a,110bがドラム104の内周面に対面するように取り付けられている。一対のブレーキシュー110a,110bは、シューホールドダウン装置112a,112bによってバッキングプレート100にそれの面に沿って移動可能に取り付けられている。なお、バッキングプレート100の中央に設けられた貫通穴は、図示しないアクスルシャフトの貫通を許容するためのものである。
【0020】
一対のブレーキシュー110a,110bは、一端部同士がアジャスタ108により作動的に連結される一方、各他端部がアンカ部材106と当接して回動可能に支持されるようになっている。一対のブレーキシュー110a,110bの一端部同士は、アジャスタスプリング114によりアジャスタ108に当接する向きに付勢されており、各他端部はリターンスプリング115によりアンカ部材106に向かって付勢されている。各ブレーキシュー110a,110bの外周面に摩擦材としてのブレーキライニング116a,116bが保持され、それら一対のブレーキライニング116a,116bがドラム104の摩擦面102に接触させられることにより、それらブレーキライニング116a,116bとドラム104との間に摩擦力が発生する。アジャスタ108は、一対のブレーキシュー110a,110bの摩耗に応じて一対のブレーキライニング116a,116bとドラム104との隙間を調整するために操作される。
【0021】
図5に押付機構120を示す。押付機構120は、ブレーキレバー122と、ストラット124とを含み、アンカ部材106をバッキングプレート100に固定するボルト138、140の頭部に相対移動可能に支持されている。ブレーキレバー122,ストラット124は、それぞれ、板状部材であり、ストラット124を構成する2枚の板材の間にブレーキレバー122が挟まれた状態で、ブレーキレバー122とストラット124とがそれらの一端部において連結軸126の回りに相対回動可能に連結されている。ブレーキレバー122において、連結軸126からバッキングプレート100側に隔たった部分に設けられた係合部128にブレーキシュー110aが係合させられ、連結軸126からバッキングプレート100に平行な方向において隔たった端部に設けられた係合部130にケーブル22のインナケーブル87が連結されている。インナケーブル87は、バッキングプレート100に設けられた貫通孔132に一端が固定されたアウタチューブ134に案内されて、バッキングプレート100のブレーキシュー110等が配設された側とは反対側に伸び出させられている。
また、ストラット124において、連結軸126とは反対側の端部に設けられた係合部135にブレーキシュー110bが係合させられている。
なお、係合部130は、図示する状態においては、貫通穴132の(アウタチューブ134のバッキングプレート100への固定端の)中心線Nより、後退回転方向側に位置する。また、後述するように、押付機構120が円周方向に相対移動させられると、それに伴って係合部130も相対移動させられるが、設計上、中心線Nより前進回転方向側の位置まで相対移動させられることがないようにされている。
【0022】
押付機構120は、被支持部136,137においてボルト138,140の頭部に支持されている。電動モータ10がパーキングブレーキ18,20を作用させる方向に回転させられて雄ねじ部材82が回転させられ、イコライザ84が図2に実線で示す位置から二点鎖線で示す位置側へ移動させられ、インナケーブル87が引っ張られると、ブレーキレバー122が被支持部136とボルト138の頭部との接触点まわりに回動し、その結果、連結軸126およびストラット124が図5において右方へ移動させられ、ストラット124がブレーキシュー110bを右方へ押す。その際、ブレーキシュー110bからの反力がストラット124,連結軸126およびブレーキレバー122を介してブレーキシュー110aに伝達され、ブレーキシュー110aが図5において左方へ押される。ブレーキシュー110a,110bには、それぞれ、同じ大きさの拡開力が加えられて、拡開させられるのであり、その結果、ブレーキライニング116a,116bがドラム104の摩擦面102に互いに同じ大きさの力で押し付けられる。なお、ケーブル22に加えられた引張力は、ブレーキレバー122のレバー比に応じて倍力され、その倍力された力から、被支持部136とボルト138の頭部との間の摩擦力を差し引いた大きさの拡開力として、ブレーキシュー110aに加えられる。
【0023】
ドラム104にトルクが加えられている状態で、ドラムブレーキ18が作動させられると、ドラム104からブレーキシュー110a,110bに円周方向の力が加えられ、ブレーキシュー110a,110bの一方がアンカ部材106に当接させられ、いわゆるデュオサーボ効果が生じる。前進回転方向(車両が前進する場合の車輪の回転方向)Pのトルクが加えられると、自己サーボ効果によりブレーキシュー110aが拡開力のみによる場合より大きな力でドラム104に押し付けられる(接触面圧が増大させられる)。この自己サーボ効果による円周方向の力が拡開力と共に、アジャスタ108によってブレーキシュー110bに伝達され、ブレーキシュー110bはブレーキシュー110aよりも更に強くドラム104に押し付けられる。ブレーキシュー110bがアンカ部材106に当接させられ、制動トルクが発生させられる。後退回転方向(車両が後退する場合の車輪の回転方向)Qのトルクが加えられた場合には、逆に、ブレーキシュー110aがブレーキシュー110bよりも強くドラム104に押し付けられる。一対のブレーキシュー110a,110bの一方の出力が他方の入力となるのである。この場合のブレーキシュー110a,110bのドラム104への押付力は、ケーブル22の張力の大きさに応じた大きさとなるのであり、これら張力と制動可能トルクとの間には、図6に示す曲線で表される関係がある。車両が停止状態にあり、かつ、ブレーキライニング116a,116bとドラム内周面102との間の摩擦係数が一定である場合には、制動可能トルク、摩擦力、押付力、拡開力の間には一定の関係が成立し、拡開力が大きくなれば、押付力、摩擦力、制動可能トルクも大きくなる関係にある。したがって、例えば、張力と拡開力との関係に基づけば、張力と押付力との関係、張力と摩擦力との関係、張力と制動可能トルクとの関係を取得することが可能となる。
【0024】
電動パーキングブレーキ30は、図1に示す制御装置たるパーキングブレーキ(PKB)ECU(電子制御ユニット)200により制御される。パーキングブレーキECU200は、入出力部202,実行部204,記憶部206を備え、入出力部202にはパーキングブレーキスイッチ210(以後、PKBスイッチ210と略記する)および張力センサ90が接続されている。
【0025】
本PKBスイッチ210は手動操作スイッチとされ、図7および図8に示すように、例えば、インストルメントパネル218に回動可能に設けられ、ロック側操作部220およびリリース側操作部222を備え、図7に実線で示すOFF位置と、一点鎖線で示すロック位置と、二点鎖線で示すリリース位置とに選択的に位置させられるとともに、操作力が加えられない状態では自動的にOFF位置に戻る自動復帰型のスイッチとされている。PKBスイッチ210はOFF位置に位置する状態ではOFF信号を出力する。後述するように、車両の通常使用時の走行中に電動パーキングブレーキ30が作用させられるとき、その作用はOFF信号の出力に基づいて解除される。本PKBスイッチ210のOFF信号は、電動パーキングブレーキ30の作用の解除指令信号である。PKBスイッチ210は、図8に示すロック側操作部220が押されれば、ロック位置へ回動させられてロック信号を出力し、それに基づいて電動パーキングブレーキ30が作用させられる。本PKBスイッチ210のロック信号は、電動パーキングブレーキ30の作用指令信号である。また、PKBスイッチ210のリリース側操作部222が押されれば、PKBスイッチ210はリリース位置へ回動させられてリリース信号を出力する。後述するように、車両の通常使用時に駐車のために電動パーキングブレーキ30が作用させられるとき、その作用は、リリース信号の出力に基づいて解除される。本PKBスイッチ210のリリース信号は、駐車制御の解除指令信号である。
【0026】
入出力部202にはまた、図1に示すように、駆動回路230を介して電動モータ10が接続され、駆動される。入出力部202にはさらに、CAN(Car Area Network)232が接続され、それにより、パーキングブレーキECU200とスキッドコントロールコンピュータ234およびエンジンコントロールコンピュータ236等との間で通信が行われる。スキッドコントロールコンピュータ234には、車輪速センサ238,前後Gセンサ239等、各種センサの検出信号等が入力され、それらに基づいてブレーキアクチュエータ240等を制御し、制動制御,アンチロック制御,ビークルスタビリティ制御等を行う。スキッドコントロールコンピュータ234からパーキングブレーキECU200へは、例えば、車両の走行速度(以後、車速と略称する)が供給される。
【0027】
本エンジンコントロールコンピュータ236は、図1に示すように、エンジン制御部250,トランスミッション制御部252,クルーズコントロール制御部254を含み、シフト位置センサ256,図示を省略するアクセルセンサ,スロットルポジションセンサ等、各種センサの検出信号が入力され、それらに基づいて車両の駆動源たるエンジン262およびトランスミッション264を含む駆動装置258を制御し、左右後輪14,16が回転駆動される。クルーズコントロール制御は、例えば、希望の車速においてクルーズコントロールスイッチ260がセットされることにより、駆動装置258や、必要であれば、ブレーキアクチュエータ240の制御も加えて車両を希望の車速で定速走行させる制御であり、クルーズコントロール制御部254の制御により行われる。
【0028】
本電動パーキングブレーキシステムは、図9に示すブレーキテスト装置300により、性能テスト、例えば、制動力テストが行われる。ブレーキテスト装置300は、テスト台302と、複数組、例えば、4組の車輪回転駆動装置304とを備えている。これら車輪回転駆動装置304はそれぞれ、2本のローラ306およびローラ回転装置308を備え、テスト台302に設けられている。2本のローラ306は互いに平行な軸線まわりに回転可能に設けられている。ローラ回転装置308は、電動モータ310を駆動源とし、電動モータ310の回転はトルクメータ312,回転伝達装置314を介して2本のローラ306に伝達され、2本のローラ306が同時に同じ速度で同方向に回転させられる。トルクメータ312により、電動モータ310がローラ306を介して左右後輪14,16から受ける反トルクが検出される。
【0029】
ローラ回転装置308の電動モータ310は、図1に示す特殊作動制御装置320により制御される。本特殊作動制御装置320は、車両の外部であって、ブレーキテスト等を行う工場に設けられ、外部制御装置を構成する。特殊作動制御装置320はコンピュータを主体として構成され、駆動回路(図示省略)を介して電動モータ310を制御する。特殊作動制御装置320には、前記トルクメータ312により検出される反トルクが入力され、車輪の径等に基づいて制動トルクに換算される。この算出された制動トルクは表示装置322により表示画面324に表示される。
【0030】
特殊作動制御装置320にはまた、キーボード等の外部指令操作装置としての入力装置326が接続され、コマンドの入力等が行われる。特殊作動制御装置320は、電動パーキングブレーキ30を特殊制御モードで作用させる際に通信ケーブルによりパーキングブレーキECU200の入出力部202に接続され、通信を行い、コマンドの送信等を行う。特殊制御モードは、車両の通常使用時に電動パーキングブレーキ30を作用させる通常制御モードとは異なる制御モードであり、例えば、電動パーキングブレーキ30の制動力テストを行うためのテスト制御モードおよびブレーキシュー110a,110bのドラム104との摺合わせ(以下、特に必要がない限り、単に「摺合わせ」と称する)を行うための摺合わせ制御モードが含まれる。通常制御モードには、例えば、車両を駐車するための駐車制御モードおよびパーキングブレーキ18,20を緊急ブレーキとして作用させるための緊急制御モードが含まれる。緊急制御モードは、ブレーキ操作部材の一種であるブレーキペダルの踏込みに基づいて作用させられるサービスブレーキの異常時に、車輪の回転を抑制するために、サービスブレーキに代えて電動パーキングブレーキ30を作用させるモードであり、補助制御モードの一種である。これら制御モードは、電動パーキングブレーキ30の作動モードでもあり、作用モードでもある。
【0031】
通常制御モードおよび特殊制御モードでの電動パーキングブレーキ30の作用はいずれも、パーキングブレーキECU200により制御される。そのため、パーキングブレーキECU200の記憶部206には、図示を省略するメインルーチンの他、図10にフローチャートで表す電動パーキングブレーキ制御ルーチンが記憶させられ、一定微小時間間隔で繰り返し実行される。以下、このフローチャートに基づいて、電動パーキングブレーキシステムの4つの制御モードを説明する。
【0032】
まず、駐車制御モードでの電動パーキングブレーキシステムの作用を説明する。
車両の駐車制御は、車速が設定車速以下の状態で、PKBスイッチ210がロック位置にON操作されることにより開始される。ロック信号の出力に基づいて電動モータ10が起動され、ブレーキシュー110a,110bがドラム104に駐車時作動力で押圧される。設定車速は、車両が停車状態にあることを判定することができる大きさに設定されている。駐車時作動力は、車両を停車状態に維持するための作動力であり、例えば、路面の勾配に応じて設定され、記憶部206に記憶させられている。路面の勾配は前後Gセンサ239により検出される前後加速度に基づいて取得され、駐車時作動力は、例えば、マップあるいは式により求められ、路面勾配が大きいほど大きく設定される。前後Gセンサ239およびパーキングブレーキECU200の前後加速度に基づいて路面勾配を取得する部分が路面勾配検出装置を構成する。駐車制御の場合、PKBスイッチ210に加える力が解除され、PKBスイッチ210がOFF位置に戻っても、リリース側操作部222が操作されてリリース信号が出力されるまで、電動パーキングブレーキ30が作用状態に保たれ、駐車制御が続けられ、車両が停車状態に維持される。
【0033】
図10に示す電動パーキングブレーキ制御ルーチンのステップ1(以後、S1と略記する。他のステップについても同じ。)においては、PKBスイッチ210がロック位置に切り替えられたか否かが判定される。この判定は、PKBスイッチ210の出力信号がロック信号であるか否かにより行われ、PKBスイッチ210が操作され、ロック位置に切り替えられていれば、S1の判定結果がYESになってS2が実行され、駐車制御中であるか否かが判定される。この判定はフラグF1が1にセットされているか否かにより行われる。フラグF1はセットされることにより、駐車制御が実行されていることを示す。
【0034】
駐車制御が開始されていない状態ではフラグF1がセットされておらず、S2の判定結果がNOになってS3が実行され、工場モードの実行が指示されているか否かが判定される。本電動パーキングブレーキシステムについては、摺合わせ制御およびテスト制御を含む特殊制御は、共に工場で電動パーキングブレーキシステムを作用させることにより行われるため、それらの実行時には、入力装置326を用いて工場モードの実行が特殊制御装置320に入力され、特殊作動制御装置320からパーキングブレーキECU200へ実行コマンドが送信される。パーキングブレーキECU200では、摺合わせ制御あるいはテスト制御が行われる間、それらの実行コマンドが記憶される。工場モードの実行の入力は、特殊制御モードの実行の入力の一種である。
【0035】
電動パーキングブレーキシステムが車両の通常走行時に作用させられる場合、工場モードの実行コマンドは供給されないため、S3の判定結果はNOになってS14が実行され、車速vが設定車速α以上であるか否かが判定される。車速vは、スキッドコントロールコンピュータ234より供給され、読み込まれる。車速vが設定車速αより小さければ、車両は停車状態にあると見なしてよく、S14の判定結果がNOになってS16が実行され、駐車制御が実行される。電動モータ10が起動され、ブレーキシュー110a,110bがドラム104の摩擦面102に押し付けられ、車輪の回転が阻止されて車両が停車状態に維持されるのである。この際、張力センサ90により検出されるケーブル22,24の張力に基づいて電動モータ10への電流供給が制御され、所定の駐車時作動力で電動パーキングブレーキ30が作用させられ、車両が停車状態に維持されるようにされる。作動力は、ブレーキシュー110a,110bをドラム104に押圧する力であり、ケーブル22の張力に対応し、その張力を検出することにより取得される。作動力は、電動モータ10への電流供給が遮断されても維持され、ブレーキシュー110a,110bがドラム104に押し付けられた状態に保たれる。S16においてはまた、フラグF1がセットされ、駐車制御中であることが示される。
【0036】
駐車制御の開始後もロック側操作部220が操作され続け、PKBスイッチ210がロック位置に切り替えられていれば、S1の判定結果がYESになってS2が実行されるが、フラグF1がセットされているため、S2の判定結果がYESになってS16が実行される。PKBスイッチ210の操作が解除され、OFF位置に位置する状態に戻れば、PKBスイッチ210によりOFF信号が出力され、S1の判定結果がNOになってS17が実行され、リリース信号が出力されているか否かが判定される。この判定結果はNOであり、S18において駐車制御中であるか否かが判定される。この判定はフラグF1がセットされているか否かにより行われるが、フラグF1がセットされているため、S18の判定結果がYESになってS16が実行され、駐車制御が続けて行われる。PKBスイッチ210のリリース側操作部222が操作され、PKBスイッチ210がリリース位置にON操作されれば、S1の判定結果がNO、S17の判定結果がYESになってS27が実行され、駐車制御が終了させられる。電動モータ10が電動パーキングブレーキ30を作用させる場合とほ逆向きに回転させられ、ケーブル22,24が緩められ、ブレーキシュー110a,110bがリターンスプリング115の付勢によりドラム104から離間させられるようにされて電動パーキングブレーキ30が解除されるのである。S27においてはまた、フラグF1が0にリセットされる。
【0037】
緊急制御モードを説明する。
緊急制御は、車速が設定速度以上である状態でPKBスイッチ210のロック側操作部220が操作され、ロック信号が出力されて電動パーキングブレーキ30を作用させる旨の指令が出力されることにより開始される。電動パーキングブレーキ30は、予め設定された走行中作動力で作用させられる。本走行中作動力は予め一定の大きさに設定され、固定であり、記憶部206に記憶させられている。前述のように、駐車時作動力は路面の勾配に応じて設定され、一定ではないが、走行中作動力は、可変の駐車時作動力のうち、小さい方の駐車時作動力および駐車時作動力より小さい作動力を含む範囲のうちで一定の大きさに設定され、駐車時作動力とは異ならされている。緊急制御は、PKBスイッチ210がロック位置に操作されている間、行われ、PKBスイッチ210に加えられていた力が解除され、PKBスイッチ210がOFF位置に戻れば、終了させられる。
【0038】
緊急制御が行われる際には、PKBスイッチ210がロック位置に操作され、S1の判定結果がYESになり、S2が実行されるが、駐車制御は行われていないため、S2の判定結果はNOになる。また、工場モードの実行ではないため、S3の判定結果がNOになってS14が実行される。緊急制御が行われ、電動パーキングブレーキ30がサービスブレーキに代わって作動させられる状態では、車両は走行状態にあるのが普通であり、車速vは設定車速α以上であり、S14の判定結果がYESになってS15が実行され、緊急制御が行われる。電動モータ10が起動され、ブレーキシュー110a,110bがドラム104に押圧され、車輪の回転を抑制するのである。電動モータ10は、張力センサ90により検出されるケーブル22,24の張力に基づいて制御され、緊急時作動力が得られるようにされる。S15においてはまた、フラグF2がセットされ、緊急制御の実行が示される。車速vが設定車速α以上であり、PKBスイッチ210がロック位置に操作されている間、S1の判定結果がYES、S2,S3の各判定結果がNO、S14の判定結果がYESになってS15が実行され、緊急制御が行われる。
【0039】
運転者によるPKBスイッチ210の操作が解除され、PKBスイッチ210がOFF位置へ戻り、OFF信号が出力されれば、S1,S17,S18の各判定結果がNOになってS19が実行され、緊急制御中であるか否かが判定される。この判定はフラグF2がセットされているか否かにより行われるが、フラグF2がセットされているため、S19の判定結果がYESになってS20が実行され、電動パーキングブレーキ30が解除され、緊急制御が終了させられる。また、フラグF2がリセットされる。
【0040】
摺合わせ制御モードを説明する。
摺合わせは、例えば、車両の組立時,修理時,車検時に行われ、本電動パーキングブレーキシステムについては、制動力テストと同様にブレーキテスト装置300上において行われるが、パーキングブレーキ18,20が設けられた左右後輪14,16は車両側において駆動され、回転させられる。そのため、車両はテスト台302上に載せられ、4輪がそれぞれ車輪回転駆動装置304の2本のローラ306上に載せられ、支持された状態で駆動装置258が作動させられ、左右後輪14,16が回転させられる。なお、ここでは、左右後輪14,16は車両前進方向に回転させられ、前進用の摺合わせが行われる。この際、ブレーキテスト装置300のローラ回転装置308の電動モータ310は、左右後輪14,16の回転を許容する状態とされ、ローラ306は左右後輪14,16の回転に伴ってつれ回る。
【0041】
摺合わせは、予め設定された手順に従って行われる。車両の電源が投入され、作動レンジ切換部材たるシフトレバーが操作されてトランスミッション264の作動レンジが駆動レンジたるD(ドライブ)レンジとされるとともにアクセルペダルが踏み込まれ、駆動装置258が作動させられて左右後輪14,16が車両を前進させる向きに回転させられる。また、特殊作動制御装置320がパーキングブレーキECU200に接続され、入力装置326を用いて工場モードの実行指示が特殊作動制御装置320に入力され、その指示コマンドが特殊作動制御装置320からパーキングブレーキECU200に送信され、記憶させられる。
【0042】
その状態でPKBスイッチ210のロック側操作部220が押され、PKBスイッチ210がロック位置に切り替えられてロック信号が出力され、摺合わせの実行が指示される。摺合わせは、原則としてPKBスイッチ210がロック位置に操作されている間、行われ、操作が解除されれば、終了させられるが、ロック位置に操作されていても、摺合わせの開始から設定時間が経過すれば、自動的に終了させられ、摺合わせが過剰に行われることが回避されるようにされている。また、摺合わせ用の設定時間が経過する前に摺合わせの解除が指令されても、別の設定時間が経過するまでは無視されて摺合わせが続行され、解除指令直後に再度、摺合わせが指令されても、摺合わせが摺合わせ用の設定時間を超えて行われることがないようにされている。
【0043】
工場モードの実行が指示され、左右後輪14,16が回転させられている状態でPKBスイッチ210がロック位置に操作されたならば、S1の判定結果がYES、S2の判定結果がNO、S3,S4aの各判定結果がYESになってS4bが実行され、摺合わせが終了したか否かの判定が行われる。この判定は、フラグF5が1にセットされているか否かにより行われるが、摺合わせはまだ終了しておらず、F5が0にリセットされているため、S4bの判定結果はNOになってS5が実行され、摺合わせの実行中であるか否かが判定される。この判定は、フラグF3がセットされているか否かにより行われる。S5が初めて実行されるとき、フラグF3はリセットされており、その判定結果はNOになってS6aが実行され、車速を、S6aの実行時の走行速度に維持する旨の指示が出力される。この指示は、パーキングブレーキECU200からエンジンコントロールコンピュータ236へ送られ、駆動装置258がクルーズコントロール制御部254により制御され、車速が、指示された大きさに維持されるように左右後輪14,16が回転させられる。作業者は、摺合わせを開始する際、車速が所望の車速になった状態でPKBスイッチ210をロック位置に操作する。S1が実行された後、極く短時間でS6aが実行され、摺合わせ制御の開始が指令された際の車速を維持するように指示が為されることとなり、クルーズコントロール制御部254の制御により、車速は指示された大きさに維持される。この車速維持要求は、摺合わせが終了するまでクルーズコントロール制御部254において記憶され、摺合わせが行われる間、車速が所望の車速であって制御開始時点車速に維持され、摺合わせが安定して行われる。S6aにおいてはまた、出力された制御開始時点車速が記憶部206に記憶させられる。次いでS6bが実行され、車速が指示された大きさに維持されているか否かが判定される。PKBスイッチ210は、車速が所望の車速になった状態でロック位置に操作されるため、S6bが実行されるとき、車速は殆ど維持を指示された車速になっており、S6bの判定結果は極く短い時間でYESになり、図11(a)に示すように、PKBスイッチ210のロック位置へのON操作により、殆どすぐに摺合わせが開始される。
【0044】
そして、S7においてフラグF3が1にセットされた後、S8が実行され、摺合わせが行われる。電動モータ10が起動され、ブレーキシュー110a,110bがドラム104に摺合わせ用作動力で押し付けられる。電動モータ10は、張力センサ90により検出されるケーブル22,24の張力に基づいて、摺合わせ用作動力が得られるように制御される。本システムにおいて摺合わせ用作動力は、前記駐車時作動力より小さく、図11(a)に示すように、前記走行中作動力が設定される作動力の範囲のうち、小さい方の大きさであって、摺合わせに適した大きさに予め設定され、記憶部206に記憶させられている。摺合わせ用作動力は、電動パーキングブレーキ30が特殊制御モードで作用させられる際の作動力であり、特殊作動力であり、駐車時作動力より小さい大きさに規制された規制作動力である。摺合わせは、工場モードの実行が指示されるとともに、トランスミッションがDレンジとされ、左右後輪14,16が回転させられた状態で行われ、摺合わせ実行時の車速、本システムにおいては、維持を要求された車速が、駐車制御と緊急制御との選択に使用される設定車速α以上であっても、設定車速αより小さくても、電動パーキングブレーキ30が摺合わせ用作動力で作動させられ、摺合わせが行われる。
【0045】
また、電動モータ10への電流供給はデューティ制御され、デューティ比が予め定められたパターンに従って変化させられて、作動力の増加勾配である立上がり勾配が予め定められた大きさに制御される。通常制御モードの実行時にも電動モータ10への電流供給はデューティ制御されるが、摺合わせ制御時には、作動力の立上がり勾配が駐車制御時および緊急制御時におけるより小さくなるようにデューティ制御が行われる。このデューティ制御のためのデューティ比のパターンは記憶部206に記憶させられており、ケーブル22,24の張力は、図11(a)のタイムチャートに太線で示すように、一点鎖線で示される通常制御時より小さい勾配で増加させられ、ブレーキシュー110a,110bが徐々にドラム104に押し付けられる。
【0046】
次いでS9が実行され、第1カウンタのカウント値C1が1増加させられ、摺合わせが行われる時間が計測される。第1カウンタは、記憶部206に設けられている。次いでS10が実行され、カウント値C1が設定値CA以上であるか否かが判定される。摺合わせを行う時間は予め設定され、設定値CAは摺合わせ時間を表す。S10では、摺合わせが設定時間、行われたか否かが判定されるのであり、この判定は摺合わせ時間が経過するまでNOであり、ルーチンの実行は終了する。
【0047】
フラグF3がセットされ、摺合わせ制御中であることが示されるため、PKBスイッチ210がロック位置に操作されている間、摺合わせが終了するまでS1〜S5,S8〜S10が繰り返し実行され、摺合わせが行われる。摺合わせ時間が経過すれば、S10の判定結果がYESになってS11が実行され、終了処理が行われる。電動パーキングブレーキ30の作用が解除されるとともに、フラグF3,第1,第2カウンタがリセットされる。また、フラグF5が1にセットされ、摺合わせが終了したことが示される。そのため、摺合わせ時間が経過し、摺合わせが十分に行われてもなお、PKBスイッチ210がロック位置に操作されている場合、S1の判定結果はYESになるが、S4bの判定結果がYESになってS5〜S11がスキップされ、摺合わせは行われない。図11(a)に太線で示すように、PKBスイッチ210の操作が解除され、OFF位置に復帰する前に摺合わせが終了させられるのであり、摺合わせが過剰に行われることが回避される。さらに、S11では、工場モードの実行の記憶がリセットされるとともに、走行速度維持の終了指令が出力され、エンジンコントロールコンピュータ236へ送信され、クルーズコントロール制御部254による走行速度維持制御が終了させられる。
【0048】
摺合わせの終了後にPKBスイッチ210の操作が解除されれば、S1,S17〜S19,S21,S25の各判定結果がNOになってS28が実行され、フラグF5がセットされているか否かが判定される。摺合わせが設定時間、行われ、フラグF5がセットされているため、S28の判定結果はYESになってS29が実行され、フラグF5が0にリセットされる。フラグF5がセットされていなければ、S28の判定結果はNOになってルーチンの実行は終了する。
【0049】
摺合わせ時間が経過する前にPKBスイッチ210の操作が解除されれば、S1の判定結果がNOになってS17が実行されるが、この判定結果もNOであり、続くS18,S19の各判定結果もNOになってS21が実行され、摺合わせ制御中であるか否かが判定される。この判定は、フラグF3がセットされているか否かにより行われるが、摺合わせが開始され、フラグF3がセットされているため、S21の判定結果がYESになってS22が実行され、第2カウンタのカウント値C2が1増加させられる。第2カウンタは記憶部206に設けられている。PKBスイッチ210の操作が解除され、OFF信号の出力によって摺合わせの解除が指令されてからの時間が計測されるのである。
【0050】
そして、S23においてカウント値C2が設定値CB以上になったか否かが判定される。設定値CBは、摺合わせの解除指令を無視する無視時間に対応する値に設定されている。無視時間は、例えば、解除指令がPKBスイッチ210の操作ミスにより発せられたために、直ちに摺合わせの実行が再指令されることが予測される時間よりやや長い時間に設定されている。無視時間が経過するまでS23の判定結果はNOになってS8〜S10が実行され、摺合わせが続行される。解除指令が出力されても、直ちには摺合わせが終了させられず、第1カウンタにより摺合わせ時間が続けて計測される。
【0051】
無視時間が経過する前にPKBスイッチ210がロック位置に操作されれば、S1の判定結果がYESになり、S2〜S5,S8〜S10が実行され、解除指令が出力された際に行われていた摺合わせの開始から、設定された摺合わせ時間が経過するまで摺合わせが行われる。解除指令はなかったものとされるのである。そのため、図11(b)のタイムチャートに二点鎖線で示すように、解除指令(OFF信号)の出力に基づいて電動パーキングブレーキ30の作用が解除され、摺合わせが終了するようにされれば、直後に摺合わせの実行が指令された場合、再度の摺合わせ実行指令の出力による摺合わせの開始から摺合わせ時間が計測し直され、解除指令が出力される際に行われていた摺合わせの時間と合わせた時間、摺合わせが行われることとなるが、解除指令が無視されることにより、図11(b)に太線で示すように、摺合わせは設定された時間のみ行われ、過剰に行われることが回避される。解除指令の出力後、PKBスイッチ210がロック位置に操作されることなく、無視時間が経過すれば、S23の判定結果がYESになってS24が実行され、摺合わせが終了させられる。この終了処理は、フラグF5のセットを除いてS11と同様に行われる。なお、図11(b)に示すタイムチャートにおいて一点鎖線で示すのは、摺合わせ開始時の電動モータ10への電流供給のデューティ制御を、電動パーキングブレーキ30の通常制御時と同様に行った場合のケーブル張力の立上がりであり、それとの比較により、摺合わせ制御時におけるケーブル張力の増加勾配が小さいことが示される。
【0052】
制動力テストを説明する。
制動力テストは、例えば、車両の組立時,修理時,車検時に行われ、本電動パーキングブレーキシステムを備えた車両をテスト台302上に載せ、左右後輪14,16を車輪回転駆動装置304によって回転させた状態で電動パーキングブレーキ30を作動させることにより行われる。制動力テスト時には、左右後輪14,16は外部から駆動されるのである。そのため、テスト時には、トランスミッション264の作動レンジが自由回転許容レンジたるN(ニュートラル)レンジとされ、車輪回転駆動装置304による左右後輪14,16の回転駆動を妨げないようにされる。なお、ここでは、車輪回転装置304のローラ306は左右後輪14,16を車両前進方向に回転させる向きに回転させられ、前進用の制動力テストが行われる。また、この場合、車両の走行速度、すなわち車輪の回転速度は、車輪回転駆動装置304の性能によって決まり、一定ではない。
【0053】
制動力テストは、摺合わせと同様に、予め設定された手順に従って行われる。車両の電源が投入され、シフトレバーが操作されてトランスミッション264の作動レンジがNレンジとされる。また、特殊作動制御装置320がパーキングブレーキECU200に接続され、入力装置326を用いて工場モードの実行指示が特殊作動制御装置320に入力され、その指示コマンドが特殊作動制御装置320からパーキングブレーキECU200に送信され、記憶させられる。
【0054】
その状態でPKBスイッチ210のロック側操作部220が押され、PKBスイッチ210がロック位置に切り替えられてロック信号が出力され、制動力テストの実行が指示される。制動力テストは、PKBスイッチ210がロック位置に操作されている間、行われ、操作が解除され、PKBスイッチ210がOFF位置へ戻れば、制動力テストは終了させられる。
【0055】
テスト者がPKBスイッチ210を操作し、ロック位置に切り替えれば、S1の判定結果がYES、S2の判定結果がNO、S3の判定結果がYES、S4aの判定結果がNOになってS12が実行され、トランスミッション264の作動レンジがNレンジであるか否かが判定される。Nレンジであれば、S12の判定結果がYESになってS13が実行され、制動力テストが実行される。電動モータ10が起動され、ブレーキシュー110a,110bがドラム104に押し付けられ、左右後輪14,16の回転が抑制されるのである。この際、電動モータ10への電流はデューティ制御され、デューティ比が予め定められたパターンに従って変化させられて、ケーブル張力が緩やかに増大させられ、ブレーキシュー110a,110bが徐々にドラム104に押し付けられる。電動パーキングブレーキ30の作動力は、予め設定されたテスト時作動力であって、本電動パーキングブレーキシステムでは、緊急時作動力と同じ大きさとされ、可変の駐車時制動力とは異ならされた固定の大きさの特殊作動力である。この作動力が得られるように、張力センサ90により検出される張力に基づいて電動モータ10が制御され、電動パーキングブレーキ30について適切な走行中作動力が得られるか否かがテストされる。
【0056】
左右後輪14,16が回転させられている状態でブレーキシュー110a,110bがドラム104に押し付けられれば、ローラ回転装置308の電動モータ310に反力が作用し、トルクがトルクメータ312により検出され、特殊作動制御装置320へ送られるとともに、制動力に換算され、表示画面324に表示される。テスト者は表示された制動力に基づいて、車両前進時において電動パーキングブレーキ30の制動力が正常に得られるか否かを判定することができる。制動力テストを行うブレーキテスト装置300には、テスト時に左右後輪14,16を回転させる回転駆動速度が異なるものがあり、駐車制御と緊急制御との選択に使用される設定車速α以上であることも、設定車速αより小さいこともあるが、本電動パーキングブレーキシステムにおいては、左右後輪14,16の回転速度の高低に関係なく、電動パーキングブレーキ30がテスト時作動力で作用させられ、制動力テストが安定して行われる。S13においてはまた、フラグF4がセットされ、制動力テストの実行が示される。
【0057】
PKBスイッチ210の操作が解除され、PKBスイッチ210がOFF位置に戻れば、S1,S17〜S19,S21の各判定結果がNOになってS25が実行され、制動力テストの実行中であるか否かが判定される。この判定はフラグF4がセットされているか否かにより行われるが、その判定結果はYESになってS26が実行され、制動力テストが終了させられる。電動パーキングブレーキ30の作用が解除されるとともに、フラグF4がリセットされる等の処理が行われるのである。
【0058】
なお、PKBスイッチ210がOFF位置に位置し、駐車制御,緊急制御,テスト制御および摺合わせ制御のいずれも行われない状態では、S1,S17〜S19,S21,S25,S28の各判定結果がNOになってルーチンの実行が終了する。
【0059】
以上の説明から明らかなように、本電動パーキングブレーキシステムにおいては、PKBスイッチ210が非保持型の手動操作スイッチを構成し、入力装置326と共に摺合わせ指令操作装置を構成し、クルーズコントロール制御部254が開始時点走行速度維持装置を構成している。また、パーキングブレーキECU200のS16を実行する部分が電動パーキングブレーキ30を駐車時作動力で作用させる第一制御部を構成している。さらに、パーキングブレーキECU200のS9〜S11を実行する部分が自動解除部を構成し、S22,S23を実行する部分が解除指令無視部を構成し、S8において電動モータ10への電流供給をデューティ制御する部分が摺合わせ制御時立上がり勾配制御部を構成し、S6aを実行する部分が開始時点走行速度維持要求部を構成し、これらがPKBスイッチ210の手動操作に応じて電動パーキングブレーキ30を摺合わせ用作動力で作用させる第二制御部を構成している。また、パーキングブレーキECU200のS13において電動モータ10への電流供給をデューティ制御する部分がテスト制御時立上がり勾配制御部を構成している。さらに、パーキングブレーキECU200のS14を実行する部分が通常制御態様選択部たる緊急制御・駐車制御選択部を構成し、S3,S4aを実行する部分が特殊制御実行判定部たる摺合わせ制御実行判定部を構成し、S3,S12を実行する部分が特殊制御実行判定部たる性能テスト実行判定部としての制動力テスト実行判定部を構成している。パーキングブレーキECU200のS16の実行により行われる駐車制御モードが第一制御モードであり、S15の実行により行われる緊急制御モードが第二制御モードであり、S8の実行により行われる特殊制御モードたる摺合わせ制御モードが第三制御モードである。S13の実行により行われる特殊制御モードとしての性能テスト制御モードたる制動力テスト制御モードが第三制御モードであり、パーキングブレーキECU200のS16を実行する部分が通常制御部たる駐車制御部であって、第一制御モードを実行する第一制御部を構成し、S15を実行する部分が通常制御部たる緊急制御部であって、第二制御モードを実行する第二制御部を構成し、S8を実行する部分が特殊制御部たる摺合わせ制御部であって、第三制御モードを実行する第三制御部を構成し、S13を実行する部分が特殊制御部たる性能テスト制御部たる制動力テスト制御部であって、第三制御モードを実行する第三制御部を構成している。工場モードの実行が指示されていることおよびトランスミッション264がDレンジに設定されていることが摺合わせを行うために予め設定された条件であり、工場モードの実行が指示されていることおよびトランスミッション264がNレンジに設定されていることが制動力テストを行うために予め設定された条件である。
【0060】
なお、摺合わせ制御を行う際に、左右後輪14,16を、車両を後進させる方向に回転させ、車両後進用の摺合わせが行われるようにしてもよい。この場合、トランスミッション264の作動レンジがR(リバース)レンジとされ、左右後輪14,16が車両を後進させる方向に回転させられる。電動パーキングブレーキ制御ルーチンは、例えば、図10に示す前記電動パーキングブレーキ制御ルーチンのS4aの判定結果がNOになった後、トランスミッション264の作動レンジがNレンジであるか否かを判定する前に、R(リバース)レンジであるか否かが判定され、Rレンジであれば、S4b以下のステップが実行され、摺合わせが行われるように構成される。
【0061】
また、制動力テストも、車輪を、車両を後進させる方向に回転させた状態で行われるようにしてもよい。この場合、トランスミッション264の作動レンジをNレンジとし、ブレーキテスト装置300の車輪回転駆動装置304により、左右後輪14,16を、車両を後進させる方向に回転させる。その他は、前進用の制動力テストと同様に行われる。
【0062】
摺合わせ制御を行う際、車両側において車輪を回転させる場合、車両が任意に指定される指定走行速度を維持するように車両の駆動装置が制御されてもよい。その例を図12ないし図14に基づいて説明する。なお、前記実施例と同じ作用を成す構成要素には同じ符号を付して対応関係を示し、説明を省略する。
指定走行速度を維持するための駆動装置258の制御は、例えば、クルーズコントロール制御を利用して行われる。エンジンコントロールコンピュータ236には、図12に示すように、走行速度指定装置400が接続され、通常走行時に走行速度を維持する際、維持すべき任意の大きさの走行速度が入力され、指定される。本クルーズコントロール制御部402は、走行速度の指定に基づいて駆動装置258を制御し、車両の走行速度を指定された走行速度に制御し、その大きさに維持する機能を有する。この種のクルーズコントロール制御部402は既に知られており、更なる説明は省略する。
【0063】
摺合わせ制御時には、図13に示す電動パーキングブレーキ制御ルーチンが実行される。本ルーチンは、摺合わせ時に車両の走行速度が指定走行速度に維持されることを除いて前記図10に示す電動パーキングブレーキ制御ルーチンと同様に構成されている。
摺合わせは、図1〜図11に基づいて説明した電動パーキングブレーキシステムと同様に予め設定された手順に従って行われるが、更に、走行速度指定装置400により摺合わせ時に維持する走行速度の入力が行われる。PKBスイッチ210がロック位置にON操作されれば、S1の判定結果がYES、S2の判定結果がNO、S3,S4aの各判定結果がYES、S4b,S5の各判定結果がNOになってS106aが実行され、指定速度維持要求がエンジンコントロールコンピュータ236へ出力される。それにより、クルーズコントロール制御部402が制御を開始し、左右後輪14,16の回転を、指定走行速度が得られるように制御する。指定速度維持要求は摺合わせ終了により解除され、クルーズコントロール制御部402は、解除指令が供給されるまで指定走行速度が維持されるように駆動装置258を制御する。
【0064】
次いで106bが実行され、車速が指定走行速度に到達したか否かが判定される。S106bの判定結果は、車速が指定走行速度になるまでNOとなる。車速が指定走行速度になれば、S106bの判定結果がYESになり、S7以下のステップが実行され、車速が走行速度指定装置400により指定された大きさに維持された状態で摺合わせが行われる。車速が指定走行速度になることが待たれるため、図14のタイムチャートに示すように、OFF位置にあるPKBスイッチ210のロック位置へのON操作に対して摺合わせが遅れて開始される。PKBスイッチ210のロック位置へのON操作は、車速が摺合わせに適した大きさであって、走行速度指定装置400により指定された車速にほぼ到達した状態で操作されることが多く、S106bの実行により車速が指定走行速度になることが待たれるが、その時間は短い。摺合わせが終了すれば、S11あるいはS24での終了処理において指定速度維持制御の解除指令がエンジンコントロールコンピュータ236へ出力され、それによりクルーズコントロール制御部402が指定速度維持制御を終了する。
本電動パーキングブレーキシステムにおいては、クルーズコントロール制御部402が指定速度維持装置を構成し、パーキングブレーキECU200のS106aを実行する部分が指定速度維持要求部を構成している。
【0065】
なお、電動パーキングブレーキシステムは、特殊制御として、摺合わせ制御とテスト制御とのいずれか一方のみが行われるシステムとしてもよい。
【0066】
また、車両を開始時点走行速度維持装置および指定速度維持装置を含むものとし、電動パーキングブレーキシステムを開始時点走行速度維持要求部および指定速度維持要求部を含むものとし、開始時点走行速度維持制御と指定速度維持制御とが選択的に行われるようにしてもよい。
【0067】
さらに、PKBスイッチ210がロック位置に操作されて摺合わせ制御が開始され、摺合わせ時間が経過する前に操作が解除され、その後、再度、PKBスイッチ210が操作されて摺合わせ制御の実行が指示されることがなく、無視時間が経過した場合、例えば、摺合わせが不足していることが報知装置によって報知されるようにしてもよく、後に摺合わせ制御の実行が指示された場合、不足時間分、摺合わせが行われるようにしてもよい。例えば、記憶部および報知部を設け、摺合わせの解除時に第1カウンタにより計測される摺合わせ制御の実行時間が予め設定された摺合わせのための時間より短い場合には、実際の摺合わせ実行時間を記憶しておき、それに基づいて報知部により摺合わせ不足を報知したり、摺合わせ補填部を設け、摺合わせの不足時間を求めて次の摺合わせ実行時に使用したりする。表示部を設け、摺合わせ不足時間を表示装置により表示するようにしてもよい。
【0068】
また、摺合わせおよび制動力テスト等の性能テストは、特殊作動制御装置の入力装置等、外部指令操作装置から、電動パーキングブレーキシステムの制御装置の入力部への指令の入力のみによって実行されるようにしてもよい。特殊制御時には電動パーキングブレーキが外部からの指令によって作動を開始するようにするのである。
【0069】
さらに、電動パーキングブレーキシステムの性能テストは、制動力テストの他、例えば、駐車時におけるケーブルの張力テストを行ってもよい。例えば、外部の車輪回転駆動装置により車輪を低速で回転させた状態で電動パーキングブレーキを作動させ、摩擦材をゆっくりドラムに押し付け、車輪回転駆動装置の電動モータが受ける反トルクと、張力との関係を求める。車輪が停止している状態で摩擦材をドラムに押し付け、その状態で車輪を回転させてもよい。
【0070】
さらに、摺合わせ制御は、車輪をブレーキテスト装置の車輪回転駆動装置により回転させた状態で行ってもよく、車両をテストコース等において実際に走行させつつ行うように
してもよい。前者の場合、制動力テストの場合と同様に、ブレーキテスト装置には、車輪を回転させる回転駆動速度が異なるものがあり、駐車制御と走行中の補助制御との選択に使用される設定車速以上であることも、設定車速より小さいこともあるが、車輪の回転速度の高低に関係なく、電動パーキングブレーキを摺合わせ用作動力で作動させ、摺合わせが安定して行われる。
【0071】
また、請求可能発明は、4輪駆動車両や前輪駆動車両に設けられた電動パーキングブレーキシステムや、電動ブレーキシステムがディスクブレーキを備えた電動パーキングブレーキシステムにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】請求可能発明の実施例である電動パーキングブレーキシステムを概略的に示す図である。
【図2】上記電動パーキングブレーキシステムのクラッチ付き運動変換機構を示す正面図(一部断面)である。
【図3】上記クラッチ付き運動変換機構のクラッチを示す側面断面図であり、図2におけるA−A断面図である。
【図4】上記電動パーキングブレーキシステムのパーキングブレーキであるドラムブレーキを示す正面図である。
【図5】上記電動パーキングブレーキシステムの押付機構を示す正面図(一部断面)である。
【図6】上記電動パーキングブレーキシステムの作動時におけるケーブルの張力と制動可能トルクとの関係を表すグラフである。
【図7】上記電動パーキングブレーキシステムを操作するパーキングブレーキスイッチを示す正面図である。
【図8】上記パーキングブレーキスイッチを示す平面図である。
【図9】上記電動パーキングブレーキシステムについてテストを行うブレーキテスト装置を概略的に示す平面図である。
【図10】上記電動パーキングブレーキシステムのパーキングブレーキECUの記憶部に記憶させられた電動パーキングブレーキ制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図11】上記電動パーキングブレーキシステムにおいて摺合わせが行われる際のパーキングブレーキスイッチの操作および時間の経過とケーブルの張力との関係を表すタイムチャートであり、パーキングブレーキスイッチの操作が途中で解除されることなく、設定時間が経過した場合と、途中で解除されるとともに、直後に再度、摺合わせが指令された場合とをそれぞれ表すタイムチャートである。
【図12】別の実施例である電動パーキングブレーキシステムを概略的に示す図である。
【図13】図12に示す電動パーキングブレーキシステムのパーキングブレーキECUの記憶部に記憶させられた電動パーキングブレーキ制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図14】図12に示す電動パーキングブレーキシステムにおいて摺合わせが行われる際のパーキングブレーキスイッチの操作および時間の経過とケーブルの張力との関係を表すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0073】
10:電動モータ 14:左後輪 16:右後輪 18,20:パーキングブレーキ 30:電動パーキングブレーキ 90:張力センサ 100:バッキングプレート 102:摩擦面 104:ドラム 110a:ブレーキシュー 110b:ブレーキシュー 120:押付機構 200:パーキングブレーキECU 210:PKBスイッチ 220:ロック側操作部 222:リリース側操作部 254:クルーズコントロール制御部 258:駆動装置 262:エンジン 264:トランスミッション 300:ブレーキテスト装置 304:車輪回転駆動装置 216:特殊作動制御装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータを駆動源として作動し、摩擦材をブレーキ回転体に押圧して車両を停車状態に維持する電動パーキングブレーキと、前記電動モータを制御することにより前記電動パーキングブレーキを制御する制御装置とを含む電動パーキングブレーキシステムであって、前記制御装置が、
電動パーキングブレーキを、前記車両を停車状態に維持するために作用させる場合の作動力である駐車時作動力で作用させる第一制御部と、
前記電動パーキングブレーキを、操作状態に応じて少なくとも2種類の信号を出力する手動操作スイッチの手動操作に応じて、前記駐車時作動力より小さく、前記摩擦材の前記ブレーキ回転体との摺合わせに適した大きさの摺合わせ用作動力で作用させる第二制御部と
を含むことを特徴とする電動パーキングブレーキシステム。
【請求項2】
前記第二制御部が、少なくとも、前記電動パーキングブレーキの作用状態が設定時間継続した場合に、その作用状態を自動で解除する自動解除部を含むことを特徴とする請求項1に記載の電動パーキングブレーキシステム。
【請求項3】
前記第二制御部が、前記電動パーキングブレーキを一旦作用状態にした後は、解除指令を受けても、少なくとも前記設定時間の計測に関して、予め定められた無視時間の間は前記解除指令を無視する解除指令無視部を含むことを特徴とする請求項2に記載の電動パーキングブレーキシステム。
【請求項4】
前記第二制御部が、前記電動パーキングブレーキを作用状態にする際の作動力の増加勾配である立上がり勾配を予め定められた大きさに制御する立上がり勾配制御部を含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の電動パーキングブレーキシステム。
【請求項5】
前記車両が、制御開始の指令が行われた時点の走行速度である開始時点走行速度を維持するように当該車両の駆動装置を制御する開始時点走行速度維持装置を含み、前記第二制御部が、前記電動パーキングブレーキを前記摺合わせ用作動力で作用状態に保つ間、前記開始時点走行速度維持装置の作動を要求する開始時点走行速度維持要求部を含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の電動パーキングブレーキシステム。
【請求項6】
前記車両が任意に指定される指定走行速度を維持するように当該車両の駆動装置を制御する指定速度維持装置を含み、前記第二制御部が、前記電動パーキングブレーキを前記摺合わせ用作動力で作用状態に保つ間、前記指定速度維持装置の作動を要求する指定速度維持要求部を含むことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の電動パーキングブレーキシステム。
【請求項1】
電動モータを駆動源として作動し、摩擦材をブレーキ回転体に押圧して車両を停車状態に維持する電動パーキングブレーキと、前記電動モータを制御することにより前記電動パーキングブレーキを制御する制御装置とを含む電動パーキングブレーキシステムであって、前記制御装置が、
電動パーキングブレーキを、前記車両を停車状態に維持するために作用させる場合の作動力である駐車時作動力で作用させる第一制御部と、
前記電動パーキングブレーキを、操作状態に応じて少なくとも2種類の信号を出力する手動操作スイッチの手動操作に応じて、前記駐車時作動力より小さく、前記摩擦材の前記ブレーキ回転体との摺合わせに適した大きさの摺合わせ用作動力で作用させる第二制御部と
を含むことを特徴とする電動パーキングブレーキシステム。
【請求項2】
前記第二制御部が、少なくとも、前記電動パーキングブレーキの作用状態が設定時間継続した場合に、その作用状態を自動で解除する自動解除部を含むことを特徴とする請求項1に記載の電動パーキングブレーキシステム。
【請求項3】
前記第二制御部が、前記電動パーキングブレーキを一旦作用状態にした後は、解除指令を受けても、少なくとも前記設定時間の計測に関して、予め定められた無視時間の間は前記解除指令を無視する解除指令無視部を含むことを特徴とする請求項2に記載の電動パーキングブレーキシステム。
【請求項4】
前記第二制御部が、前記電動パーキングブレーキを作用状態にする際の作動力の増加勾配である立上がり勾配を予め定められた大きさに制御する立上がり勾配制御部を含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の電動パーキングブレーキシステム。
【請求項5】
前記車両が、制御開始の指令が行われた時点の走行速度である開始時点走行速度を維持するように当該車両の駆動装置を制御する開始時点走行速度維持装置を含み、前記第二制御部が、前記電動パーキングブレーキを前記摺合わせ用作動力で作用状態に保つ間、前記開始時点走行速度維持装置の作動を要求する開始時点走行速度維持要求部を含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の電動パーキングブレーキシステム。
【請求項6】
前記車両が任意に指定される指定走行速度を維持するように当該車両の駆動装置を制御する指定速度維持装置を含み、前記第二制御部が、前記電動パーキングブレーキを前記摺合わせ用作動力で作用状態に保つ間、前記指定速度維持装置の作動を要求する指定速度維持要求部を含むことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の電動パーキングブレーキシステム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2008−68834(P2008−68834A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−251796(P2006−251796)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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