説明

電動補助自転車

【課題】電動補助自転車の駆動輪のハブ内に設けた変速機構に用いる、シンプルな構造で耐久性を向上させた遊星歯車機構を提供する。
【解決手段】駆動輪に設けたハブ1内部に遊星歯車機構によって構成された変速機構3を備え、前進駆動時に、踏力又はモータの出力による駆動力が駆動力伝達要素から遊星歯車機構を通じて駆動輪と一体に回転するように設けられたハブケース7に伝達され、前進非駆動時には、駆動輪からの逆入力は、ハブケース7から遊星歯車機構を通じて駆動力伝達要素に伝達されるハブ1を備えた電動補助自転車用である。遊星歯車機構とハブケース7との間は、ハブケース7に固定されたそのハブケース7とは別体の伝達部材Dを通じて駆動力及び逆入力が伝達され、前記遊星歯車機構を構成する歯車の少なくとも一つをその歯車の半径方向へ可動とし、その可動とした歯車とそれに噛み合う歯車との間に、通常よりも拡大されたバックラッシを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動モータにより人力駆動系に補助力を付加させる電動補助自転車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動モータにより人力駆動系に補助力を付加させる電動補助自転車には、電動補助力を与えるためのモータ用電源としてバッテリが搭載される。このバッテリは、1回の充電で長時間走行できることが望ましいことから、走行エネルギーを有効に利用し、回生発電によりバッテリを充電する機能を備えた電動補助自転車が開発されている。
【0003】
その回生発電によるバッテリの充電装置として、例えば、特許文献1に、ブレーキレバーの操作を検出して回生装置に回生作動を指令する回生制御装置の技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この種の電力回生機能を搭載する場合、例えば、特許文献2に示すように、車軸周辺にモータ及び変速機を設けた電動補助自転車(ハブモータ方式)の場合は、駆動輪とモータの出力軸とを直結とすることで、電力回生は比較的容易に実現できる(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
しかし、このハブモータ方式の場合、バッテリ(以下、二次電池と称する)からモータまでの距離が遠くなりがちであり、その二次電池までの配線の取り回しが煩雑になる傾向がある。また、モータをフロント側に配置すると操作性が悪化し、リア側に配置すると変速機との両立が困難になるという問題もある。
【0006】
このため、電力回生機能を搭載する場合、操作性と構造の簡素化を求めるならば、例えば、特許文献3のように、クランク軸及びその軸受等を含む人力駆動系と、モータによる補助動力をクランク軸に合力させる駆動系とを単一のハウジングに収容した駆動装置、いわゆるセンタモータユニットを備えた構造(センタモータ方式)とするのが有利である(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
センタモータ方式で、電力回生機能を搭載した電動補助自転車として、例えば、特許文献4に示すものがある。
この電動補助自転車では、モータの出力軸と駆動側スプロケットとの間に第一ワンウェイクラッチを設け、ペダルから踏力が入力されるクランク軸と駆動側スプロケットとの間に第二のワンウェイクラッチを設け、さらにブレーキ操作に応じて第一ワンウェイクラッチをロックする直結手段を設けることで、制動時の電力回生を実現している。なお、リアハブとリアスプロケットとは、回生時に後輪からの逆入力トルクをモータに伝えることができるように直結されている(例えば、特許文献4参照)。
【0008】
また、同じく、電力回生機能を搭載した電動補助自転車として、例えば、特許文献5に示すものがある。
この電動補助自転車では、センタモータユニット内で、モータの出力軸にブレーキ操作に連動してロック方向を切り替えることが出来るツーウェイクラッチを設け、制動時の電力回生を実現している。
【0009】
すなわち、モータアシスト時には、ツーウェイクラッチを正回転方向でロックさせることにより、モータの出力を後輪に伝達することができ、モータアシストが可能となる。また、乗員のブレーキ操作に連動してツーウェイクラッチのロック方向を切り替え、ツーウェイクラッチを逆回転方向でロックさせれば、後輪側からの逆入力トルク(正回転方向)をモータに伝達することができ、これによって回生発電およびブレーキアシストが可能となる。この構成では、回生時に後輪側からの逆入力トルクをモータ側に伝達させる必要があるため、リアハブとリアスプロケットとは直結としている(例えば、特許文献5参照)。
【0010】
このように、センタモータ方式の駆動系において、電力回生機能を搭載する場合、後輪からの逆入力トルクをモータに伝えるため、上記特許文献4や特許文献5では、リアハブとリアスプロケットは直結されている。
【0011】
ところで、一般的な自転車の変速機構は、クランク軸又はリア車軸の何れか一方、もしくは両方の同軸上に多段のスプロケットを設け、ディレイラーによってチェーンをスプロケット間で移動させることによって変速する方式(外装変速機)とリアハブの内部に設けた歯車を掛けかえることによって変速する方式(内装変速機)がある。
外装変速機は構造が簡単で軽量であるが、スプロケットやチェーンが摩耗する原因になり、チェーン外れの原因にもなる。一方、内装変速機は防塵、防水性があり、メンテナンスフリーであるためシティサイクルに使われることが多い。現在のところ、電動補助自転車はシティサイクルを中心に展開しており、その殆どが内装変速機を採用している。
【0012】
この点、上記特許文献4や特許文献5では、リアハブとリアスプロケットとが直結されているので、内装変速機に対応することができない。
【0013】
また、内装変速機内には、通常、惰性走行に対応するためのワンウェイクラッチが設けられている。このため、その構造を、そのまま回生機構を備えた電動補助自転車に適用しても、後輪からの逆入力は、リアハブからリアスプロケットに伝わらない。すなわち、ワンウェイクラッチは空転するから、後輪からの逆入力により、センタモータを回転、回生させることができない。
【0014】
逆入力に対応するため、例えば、後輪からクランク軸、及び後輪からモータの出力軸をそれぞれ別々の動力伝達要素で結合することも可能であるが、2本の伝達要素を用いることはレイアウト的にもコスト的にも商品価値の大幅な低下を招く。
【0015】
そこで、特許文献6では、内装変速機を備えたセンタモータ方式の電動補助自転車において、リアハブに変速機構と逆入力伝達用のクラッチを設けることにより、惰性走行時に後輪からの逆入力がチェーンを介してモータに伝達されることで、回生発電を可能としている。
【0016】
この特許文献6の電動補助自転車において、変速機構は、遊星歯車機構を用いており、車軸周りに設けた複数の太陽歯車が、それぞれ歯数の異なる複数の歯車部を有する遊星歯車の各歯車部に噛み合っている。また、その遊星歯車は、ハブケースと一体に回転するように設けられた外輪歯車に噛み合っている。チェーンが係合されるスプロケットは、遊星歯車と一体に回転する遊星キャリアに取り付けられている。
【0017】
各歯車部に噛み合う太陽歯車と車軸との間には、それぞれ変速用クラッチが設けられており、さらに、遊星キャリアとハブケースとの間には駆動用ワンウェイクラッチが設けられている。これらの変速用クラッチ、駆動用ワンウェイクラッチによって、変速比を切り替えることができる。
【0018】
この変速機構では、例えば、スプロケットから遊星キャリアに入力された駆動力が、遊星キャリアとハブケースとの間の駆動用ワンウェイクラッチを介して、車輪(ハブケース)に伝達される直結状態とすることができる。また、複数の太陽歯車と車軸との間にそれぞれ設けてある変速用クラッチを切り替えることによって、複数段の増速状態の切り替えを行うことができる。
【0019】
なお、この種の逆入力用クラッチとして通常のワンウェイクラッチを採用すると、後退しようとした際(自転車を手で押して後退するような状態)に、逆入力用クラッチが噛み合って車輪がロックしてしまう。このため、後退することができない状態となってしまう。このような事態を回避するため、その後退時において、逆入力用クラッチの係合を解除する(係合させない)機構が必要である。
上記特許文献6に記載された発明では、逆入力用クラッチの係合を解除する(係合させない)機構(以下、逆入力用クラッチ解除機構と称する。)は、固定の車軸に対するハブケースの回転方向が、後退時にのみ、駆動方向と逆回転となることを利用して、ハブケースの回転運動を軸方向運動に変換して、逆入力用クラッチを解除する機構となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開平8−140212号公報
【特許文献2】特開2003−166563号公報
【特許文献3】特開平10−250673号公報
【特許文献4】特開2001−213383号公報
【特許文献5】特開2004−268843号公報
【特許文献6】特開2010−095203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
上記特許文献6に記載のような、駆動輪のハブ内に遊星歯車機構を用いた電動自転車では、複数個備えられた遊星歯車において、各遊星歯車に負荷される荷重は、理想的には均一に負荷される。
したがって、この理想状態が維持されれば、遊星歯車が多ければ多いほど、各歯車に負荷される荷重は小さくなり、装置を小型化できる利点がある。
【0022】
しかしながら、実際には、遊星歯車や太陽歯車等の各部品には、製造誤差や組立誤差が存在し、理想状態とは成り得ない。
すなわち、遊星歯車機構の構成要素である遊星歯車、太陽歯車、遊星キャリア、及び外輪歯車を全てベアリング等で固定支持(この固定支持とは、各部品の相対的な位置が固定される意味であり、相対的な回転運動の可否は問わない)した場合、前記誤差の影響により、各歯車に負荷される荷重が不均一となる。
【0023】
したがって、各歯車に負荷される荷重をできるだけ均一にするためには、各部品を高精度に加工し、組み立てる必要がある。しかし、誤差を完全に取り除くことは不可能であり、またコストの増加も避けられない。
【0024】
そこで、この発明は、駆動輪のハブ内に遊星歯車機構を用いた電動自転車において、シンプルな構造で遊星歯車機構の耐久性を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記の課題を解決するために、この発明は、前輪と後輪とを結ぶフレームに二次電池及び補助駆動用のモータを取り付け、クランク軸から伝達された踏力又は前記モータの出力による駆動力を駆動力伝達要素を介して駆動輪に伝達可能とし、前進非駆動時には、駆動輪からモータの出力軸への逆入力により生じた回生電力を二次電池に還元する回生機構を備え、駆動輪に設けたハブ内部に遊星歯車機構によって構成された変速機構を備えており、前記変速機構は、前記駆動輪の車軸周りに設けられた太陽歯車と、その太陽歯車に噛み合う遊星歯車、及びその遊星歯車を保持する遊星キャリアを有し、前記ハブケースは、前記遊星歯車に噛み合う外輪歯車と一体に回転するようになっており、前記変速機構は、前進駆動時に、踏力又はモータの出力による駆動力が、前記駆動力伝達要素から前記遊星歯車機構を通じて駆動輪と一体に回転するように設けられたハブケースに伝達され、前進非駆動時には、駆動輪からの逆入力は、前記ハブケースから前記遊星歯車機構を通じて前記駆動力伝達要素に伝達されるようになっており、前記太陽歯車、前記遊星歯車、前記外輪歯車の少なくとも1つの歯車をその歯車の半径方向へ可動とした電動補助自転車を採用した。
また、このとき、その可動とした歯車とそれに噛み合う歯車との間に、その可動とした歯車を半径方向へ不動とした場合に設定される寸法よりも大きいバックラッシを設けた構成を採用することができる。
【0026】
このように、遊星歯車、太陽歯車、遊星キャリア、及び外輪歯車の少なくとも1つを可動とした場合、すなわち、いわゆる浮動支持とした場合、その可動とした歯車は、所定量だけその歯車の半径方向へ移動可能である。
このとき、遊星歯車機構にトルクが入力されると、その可動とした歯車は、荷重が最もバランスの取れる位置に向かって半径方向へ自動的に移動する(自動調心作用)。この歯車の移動によって、各歯車に負荷される荷重が不均一となることを抑制でき、耐久性が向上する。
【0027】
したがって、その可動とした歯車とそれに噛み合う歯車間には、通常よりも拡大されたバックラッシを設けることが望ましい。拡大されたバックラッシとは、その可動とした歯車を、仮に、半径方向へ不動とした場合に設定される寸法よりも大きいバックラッシを意味する。この拡大されたバックラッシの設定によって、その歯車の移動の前後において、変わりなく円滑な歯車間の荷重の伝達を可能とする。
【0028】
すなわち、設定されるバックラッシの寸法や、前記可動とした歯車の半径方向への移動可能量は、その噛み合っている両歯車に許容される半径方向への寸法誤差(製造誤差)やその歯車の組立誤差の影響を吸収するのに十分な値であればよい。これにより、各部品をそれほど高精度に加工しなくても、各歯車に負荷される荷重が不均一となることを抑制でき、耐久性が向上する。
【0029】
前述のように、遊星歯車の個数が多いほど各遊星歯車に負荷される荷重を小さくすることが可能であるが、遊星歯車の個数が四個以上の場合は、前記自動調心作用が機能した場合でも、荷重が均一とはならない場合がある。それに対して、遊星歯車の個数が三個の場合は、前記自動調心作用が機能した場合その三個の遊星歯車間で荷重のバランスが取れるため、比較的均一となりやすい。このため、遊星歯車の個数を三個とした場合、設計が比較的容易となり望ましい。
【0030】
なお、この拡大されたバックラッシは、遊星歯車機構の噛み合っている全ての歯車間に設けることが望ましい。
【0031】
なお、歯車を可動とするとは、すなわち、歯車を浮動支持することであり、これは、例えば、ベアリング等を用いず、歯車とそれを支持する部品間に隙間を介在させてその状態で歯車を前記部品に対して相対回転可能とし、半径方向にはその隙間分だけ歯車を自由に移動できる支持方法が挙げられる。また、例えば、歯車とそれを支持する部品間にヤング率が比較的低く変形しやすい弾性体(ゴム、樹脂等)を介在させてその状態で歯車を前記部品に対して相対回転可能とし、その弾性体の変形によって、歯車をその半径方向へ自由に移動できる支持方法が挙げられる。
【0032】
したがって、例えば、前記可動とした歯車には少なくとも前記太陽歯車が含まれ、その太陽歯車は、前記遊星車軸に対して隙間又は弾性体を介在して可動とされている構成を採用することができる。また、前記可動とした歯車には少なくとも前記遊星歯車が含まれ、その遊星歯車は、前記遊星キャリアに対して隙間又は弾性体を介在して可動とされている構成を採用することができる。さらには、前記可動とした歯車には少なくとも前記外輪歯車が含まれ、その外輪歯車は、前記ハブケースに対して隙間又は弾性体を介在して可動とされている構成を採用することができる。
【0033】
すなわち、遊星歯車機構の構成要素である遊星歯車(遊星キャリア)、太陽歯車、及び外輪歯車の少なくとも1つの歯車を可動、すなわち、浮動支持としていればよく、これらの遊星歯車(遊星キャリア)、太陽歯車、及び外輪歯車の中から選択される単数、又は複数種類のものを浮動支持としてもよいし、あるいは、全てを浮動支持としてもよい。
このとき、相互に噛み合う各歯車間に設定されるバックラッシや、可動とした各歯車の半径方向への移動可能量は、同じく、その噛み合っている両歯車に許容される半径方向への寸法誤差(製造誤差)やその歯車の組立誤差の影響を吸収するのに十分な値であればよい。
【0034】
好ましい構成としては、例えば、遊星歯車及び太陽歯車を浮動支持し、他を固定支持した(浮動支持しない)構成が挙げられる。この場合、遊星歯車とそれを支持する遊星歯車軸との間に隙間を設けて互いに相対回転可能に支持し、太陽歯車と車軸との間に隙間を設けて互いに相対回転可能に支持することができる。遊星キャリアは車軸及びハブケースとベアリングを介して互いに相対回転可能に支持し、外輪歯車はハブケースと一体に回転し、且つ半径方向へ不動となるように一体化する。
【0035】
これらの各構成において、前記ハブ内部に変速制御機構を備え、前記変速機構は、前進駆動時に、踏力又はモータの出力による駆動力が前記駆動力伝達要素から前記遊星キャリアに入力されて前記遊星キャリアから駆動輪に等速以上で伝達される増速型であり、前記変速機構は、前記変速制御機構により、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して前記太陽歯車をクラッチを介して前記車軸周りに相対回転可能または相対回転不能とに切り替えることにより変速する機能を有し、前進非駆動時には、駆動輪からの逆入力は、前記変速機構のいずれの変速段においても前進駆動時の駆動力伝達経路と逆向きに伝達される構成を採用することができる。
【0036】
従来例の上記特許文献6では、回転運動を軸方向運動に変換するために、車軸周りに沿って徐々に軸方向一方へ傾斜するテーパ状の部材を用いているため、所定の位置に解除部材が移動するまでに、ハブケースがある程度の角度回転する必要がある。したがって、各クラッチの状態によっては、逆入力用クラッチが解除される前に他のクラッチとの干渉が生じてしまい、後退できない場合が生じる恐れがある。また、その特許文献6では、後退時に、逆入力用クラッチの係合を手動で解除する機構についても述べているが、後退の度に切り替えることは不便である。
それに対し、上記の構成によれば、変速制御機構により、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して太陽歯車を車軸周りに相対回転可能または相対回転不能とに切り替えることができるから、その変速制御機構によって選択されたクラッチが係合可能な状態にあるときには、他の場所にあるクラッチは変速制御機構によって係合不可能な状態とし得る。このため、クラッチ同士の干渉が起きることはなく、いかなる変速段においても後退が可能である。すなわち、従来のようなテーパ状の部材を用いた逆入力用クラッチ解除機構が不要であるから構造がシンプルとなり、後退時にクラッチ同士が干渉してロックすることを防ぐ機構を簡素化できる。
【0037】
さらに、この構成によれば、増速型の変速機構を備えているから、回生時に外部操作を行うことなく駆動輪からの逆入力をモータに伝達可能となる。すなわち、仮に、変速機構を減速型とした場合、本構成によらずとも逆入力用クラッチ解除機構を不要とし得るが、その場合、変速機構自体の構造が複雑となるため、このように増速型とすることが望ましいのである。
【0038】
この構成において、前記遊星歯車は歯数の異なる複数の歯車部を有し、前記太陽歯車は前記歯車部と同数設けられてその各太陽歯車が前記歯車部にそれぞれ噛み合っており、前記クラッチとして、前記各太陽歯車と前記車軸の間にはそれぞれ変速用第一クラッチが設けられ、前記変速制御機構は、前記各変速用第一クラッチをそれぞれ係合可能状態又は係合不能状態とに切り替えることで、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して前記各太陽歯車を前記車軸周りに相対回転可能または相対回転不能とに切り替え可能である構成を採用することができる。
【0039】
この構成において、前記各変速用第一クラッチは、一つの係合子が駆動力と逆入力の両方に対して係合可能である構造を有するものとすることができる。すなわち、一つの係合子が、駆動力と逆入力の両方向の相対回転に対してそれぞれ係合可能である構成である。
この変速用第一クラッチとして、係合子としてボール、スプラグ、ローラまたはラチェット爪等を備えた各種クラッチ、及びスプライン等によるドグクラッチ等の構成を採用することができる。
【0040】
また、前記各変速用第一クラッチとしては、複数の係合子を有し、少なくとも一つの係合子が駆動力に対して係合可能であり、少なくとも一つの係合子が逆入力に対して係合可能である構造とすることもできる。
この各構成においても、前記変速用第一クラッチとして、係合子としてボール、スプラグ、ローラまたはラチェット爪等を備えた各種クラッチ、及びスプライン等によるドグクラッチ等の構成を採用することができる。ラチェットクラッチを採用した場合、例えば、以下の構成を採用することができる。
【0041】
すなわち、前記変速用第一クラッチは、少なくとも二つの変速用第一クラッチ爪が前記車軸の外面に揺動自在に設けられており、その変速用第一クラッチ爪が噛み合う変速用第一クラッチカム面が前記太陽歯車の内面に設けられており、前記少なくとも二つの変速用第一クラッチ爪は互いに逆方向に揺動可能であって、前記変速用第一クラッチカム面は、その逆方向に揺動する前記変速用第一クラッチ爪の一方が駆動力に対して他方が逆入力に対してそれぞれ係合可能な形状を有する構成である。
【0042】
また、ラチェットクラッチのラチェット爪とカム面を内外逆にした構成、すなわち、記変速用第一クラッチは、少なくとも二つの変速用第一クラッチ爪が前記太陽歯車の内面に揺動自在に設けられており、その変速用第一クラッチ爪が噛み合う変速用第一クラッチカム面が前記車軸の外面に設けられており、前記少なくとも二つの変速用第一クラッチ爪は互いに逆方向に揺動可能であって、前記変速用第一クラッチカム面は、その逆方向に揺動する前記変速用第一クラッチ爪の一方が駆動力に対して他方が逆入力に対してそれぞれ係合可能な形状を有する構成を採用することもできる。
【0043】
前者のように、変速用のクラッチ爪を車軸の外面に設け、変速用のクラッチカム面を太陽歯車の内面に設けた場合、各カム面の溝数を周方向に沿って数多く配置できることから機能的には望ましい。すなわち、変速用第一クラッチのクラッチカム面の係合溝数を確保し易くなるため、クラッチの遊び角(係合するまでのタイムラグ)を小さくできる。
逆に、後者のように、変速用のクラッチ爪を太陽歯車の内面に設け、変速用のクラッチカム面を車軸の外面に設けた場合、各カム面の溝数は少なくなるが、車軸の構造をシンプルにできるため低コスト化を図ることができる。
【0044】
また、これらの各構成において、前記遊星キャリアと前記太陽歯車との間には変速用第二クラッチが設けられ、前記変速制御機構は、前記各変速用第二クラッチを係合可能状態又は係合不能状態とに切り替えることで、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して前記遊星キャリアを前記太陽歯車周りに相対回転可能または相対回転不能とに切り替え可能である構成を採用することができる。
【0045】
この構成において、前記変速用第二クラッチとして、係合子としてボール、スプラグ、ローラまたはラチェット爪等を備えた各種クラッチ、及びスプライン等によるドグクラッチ等の構成を採用してよいが、特に、ラチェットクラッチからなる構成を採用することができる。ラチェットクラッチを採用した場合、例えば、以下の構成を採用することができる。
【0046】
すなわち、前記変速用第二クラッチは、少なくとも二つの変速用第二クラッチ爪が前記太陽歯車の外面に揺動自在に設けられており、その変速用第二クラッチ爪が噛み合う変速用第二クラッチカム面が前記遊星キャリアの内面に設けられており、前記少なくとも二つの変速用第二クラッチ爪は互いに逆方向に揺動可能であって、前記変速用第二クラッチカム面は、その逆方向に揺動する前記変速用第二クラッチ爪の一方が駆動力に対して他方が逆入力に対してそれぞれ係合可能な形状を有する構成を採用することができる。
【0047】
このように、変速用第二クラッチ爪を太陽歯車の外面に設け、変速用第二クラッチカム面を遊星キャリアの内面に設けることにより、変速制御機構による両方のクラッチの切替のための機構を簡素化することができる。
【0048】
これらの変速用第一クラッチ及び変速用第二クラッチを備えた構成において、前記変速制御機構は、前記各太陽歯車のいずれか一つを前記車軸周りに相対回転不能に他を相対回転可能に、且つ、前記遊星キャリアを前記いずれか一つの太陽歯車周りに相対回転可能とする増速状態と、前記各太陽歯車の全てを前記車軸周りに相対回転可能に、且つ、前記遊星キャリアを前記いずれか一つの太陽歯車周りに相対回転不能とする等速状態とに変速可能である構成を採用することができる。
この構成によれば、直結(等速)状態と、それとは別の複数段階の増速状態との切り替えによる変速構造とすることができる。
【0049】
また、これらの各構成において、変速制御機構は、車軸内を通して外部に引き出された操作部を有しており、操作部を移動操作することにより変速を行う構成を採用することができる。
この構成によれば、簡単な機構により、各変速用クラッチの切り替えを外部から行うことができるようになる。
【0050】
また、前記変速用第一クラッチの構成としてラチェットクラッチを採用した場合において、前記変速用第一クラッチ爪を車軸側に設けた場合、前記変速用第一クラッチ爪は、弾性部材によってそれぞれその一端が前記変速用第一クラッチカム面側に起き上がる方向に付勢され、その他端が前記車軸の外周に設けた変速用スリーブに接することができるようになっており、前記操作部の移動操作により、前記変速用スリーブに設けられた切欠部が、前記変速用第一クラッチ爪の位置と、その前記変速用第一クラッチ爪から退避した位置との間でそれぞれ移動することにより、前記変速用第一クラッチが切り替えられる構成を採用することができる。
【0051】
例えば、この変速用スリーブが、前記車軸の軸方向に移動することにより、前記切欠部の移動が行われる構成とした場合、その切欠部の軸方向端部に、軸方向外側に向かうにつれて外径側に近づくテーパ面を設けた構成を採用することができる。
このようにすれば、クラッチカム面に噛み込んだクラッチ爪と切欠部が接触した際に、そのテーパ面の傾斜面によってクラッチ爪をカム面から外す力を大きくすることができる。
なお、変速用スリーブが、前記車軸の軸周り方向に移動することにより、前記切欠部の移動が行われる場合は、変速用スリーブの切欠部の周方向端縁にテーパ面を設けることもできる。
【0052】
さらに、前記変速用第二クラッチの構成としてラチェットクラッチを採用した場合において、前記変速用第二クラッチ爪を太陽歯車側に設けた場合、前記変速用第二クラッチ爪は、弾性部材によってそれぞれその一端が前記変速用第二クラッチカム面側に起き上がる方向に付勢され、その他端が前記車軸の外周に設けた変速用第二クラッチ切替部に接することができるようになっており、前記操作部の移動操作により、前記第二クラッチ切替部が、前記変速用第二クラッチ爪の位置と、その前記変速用第二クラッチ爪から退避した位置との間でそれぞれ移動することにより、前記変速用第二クラッチが切り替えられる構成を採用することができる。
【0053】
この変速用第二クラッチ切替部は、例えば、前記操作部を移動操作することにより、前記車軸の軸方向に沿って移動し、その軸方向への移動により、前記変速用第二クラッチ爪の位置と、その前記変速用第二クラッチ爪から退避した位置との間でそれぞれ移動する構成とできる。この場合、前記変速用第二クラッチ切替部の軸方向(車軸の軸方向)端部に、軸方向外側に向かうにつれて内径側に近づくテーパ部を設けた構成を採用することができる。
この構成によれば、クラッチカム面に噛み込んだクラッチ爪とテーパ部が接触した際に、そのテーパ面の傾斜面によってクラッチ爪をカム面から外す力を大きくすることができる。
なお、変速用第二クラッチ切替部が、前記車軸の軸周り方向に移動することにより前記切り替えが行われる場合は、第二クラッチ切替部の周方向端縁にテーパ部を設けることもできる。
【0054】
また、変速機構の他の構成としては、前記遊星キャリアと前記ハブケースとの間には変速用第三クラッチが設けられ、前記変速制御機構は、前記変速用第一クラッチ及び前記変速用第三クラッチを切り替えることによって、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して前記太陽歯車を前記車軸周りに相対回転可能または相対回転不能とに、及び、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して前記遊星キャリアを前記ハブケース周りに相対回転可能または相対回転不能とに切り替える機能を有する構成を採用することができる。
【0055】
この構成においても、前述の構成の場合と同様に、全ての変速用クラッチを両方向に係合可能なクラッチとし、変速制御機構によりクラッチの切替を制御することで、いずれの変速段においても逆入力の伝達を可能とし得る。このとき、変速機構は、等速以上で伝達される増速型とすれば、逆入力に対しては減速となり、設定された増速比と同じ値の減速比となる。
すなわち、この構成によれば、クラッチ同士の干渉が起きることはなく、いかなる変速段においても後退が可能である。また、従来のような複雑な逆入力用クラッチ解除機構が不要であるから構造がシンプルとなり、後退時にクラッチ同士が干渉してロックすることを防ぐ機構を簡素化できる。
【0056】
また、直結(等速)状態を得るために必要な変速用第三クラッチを、遊星キャリアとハブケースに設けた伝達部材との間に設けることにより、直結時の駆動力及び逆入力は、遊星キャリア、変速用第三クラッチ、伝達部材及びハブケースを経由して伝達される。このため、遊星歯車は、駆動力及び逆入力の伝達に関与しないため、歯車の耐久面から考えると、前述の構成のように、変速用第二クラッチを遊星キャリアと太陽歯車との間に設けるよりも有利である。
【0057】
この変速用第三クラッチとして、前記変速用第一クラッチや変速用第二クラッチと同様、スプラグクラッチ、ローラクラッチ等の構成を採用してよいが、特に、ラチェットクラッチからなる構成を採用することができる。ラチェットクラッチを採用した場合、例えば、以下の構成を採用することができる。
【0058】
すなわち、その構成は、前記変速用第三クラッチは、少なくとも二つの変速用第三クラッチ爪が前記遊星キャリアの外面に揺動自在に設けられており、その変速用第二クラッチ爪が噛み合う変速用第三クラッチカム面が前記ハブケースの内面に設けられており、前記少なくとも二つの変速用第三クラッチ爪は互いに逆方向に係合可能であって、前記変速用第三クラッチカム面は、その互いに逆方向に係合可能な前記変速用第三クラッチ爪の一方が駆動力に対して他方が逆入力に対してそれぞれ係合可能な形状を有する構成である。
【0059】
このように、変速用第三クラッチ爪を遊星キャリアの外面に設け、変速用第三クラッチカム面をハブケースの内面に設けることにより、変速制御機構による両方のクラッチの切替のための機構を簡素化することができる。
【0060】
また、変速用第三クラッチ爪は、少なくとも係合方向の異なる二つのものがあれば、駆動力と逆入力のそれぞれを伝達可能とし得るが、さらに、同一の係合方向のクラッチ爪を複数とすることにより、その伝達時のトルク容量を容易に確保できる。さらに、その同一方向のクラッチ爪の位相(車軸周りの方位の位相)を、変速用第三クラッチカム面の位相とずらして配置することにより、クラッチが係合するまでのタイムラグを小さくすることができる。
【0061】
さらに、前記変速用第三クラッチの構成としてラチェットクラッチを採用した場合において、前記変速用第三クラッチ爪は、前記車軸の軸方向に並行なクラッチ軸周りに揺動可能に支持され、その一端が弾性部材によって前記変速用第三クラッチカム面側に起き上がる方向に付勢されており、変速用第三クラッチ切替部が前記変速用第三クラッチ爪の位置と変速用第三クラッチ爪から退避した位置との間で移動することによって、前記変速用第三クラッチ爪を、前記変速用第三クラッチカム面に係合可能な状態と係合不可能な状態とに切り替えることができる構成を採用することができる。
【0062】
この変速用第三クラッチ切替部は、例えば、その変速用第三クラッチ切替部の軸方向(車軸の軸方向)端部に、軸方向外側に向かうにつれて内径側に近づくテーパ部を設けた構成を採用することができる。
この構成によれば、クラッチカム面に噛み込んだクラッチ爪とテーパ部が接触した際に、そのテーパ面の傾斜面によってクラッチ爪をカム面から外す力を大きくすることができる。
なお、変速用第三クラッチ切替部が、前記車軸の軸周り方向に移動することにより前記切り替えが行われる場合は、変速用第三クラッチ切替部の周方向端縁にテーパ部を設けることもできる。
【0063】
また、この構成において、前記変速用第三クラッチ爪を支持するクラッチ軸は、前記遊星歯車と前記遊星キャリアとを結ぶ遊星歯車軸と一体である構成を採用することができる。
この構成によれば、変速用第三クラッチのクラッチ軸を支持するために、遊星キャリアに対して新たにクラッチ軸用の穴を加工する必要がなく、コスト低減が可能である。すなわち、遊星キャリアに設けられている遊星歯車軸用の軸穴を、変速用第三クラッチ爪を支持するクラッチ軸の軸穴と共通化することができるので、新たにクラッチ軸用の穴を加工する必要がない。
【0064】
また、遊星歯車の数は、奇数個または偶数個備えることが可能である。遊星歯車が偶数個備えられている場合、前記変速用第三クラッチは、駆動力に対して係合可能な係合子の数と逆入力に対して係合可能な係合子の数が等しく備えられている構成を採用することが望ましい。一方、遊星歯車が奇数個備えられている場合、平均的な駆動力と逆入力との大きさから考えると、前記変速用第三クラッチは、駆動力に対して係合可能な係合子の数が逆入力に対して係合可能な係合子の数よりも多く備えられている構成を採用することが望ましい。
また、その遊星歯車は、特に、荷重のバランスが取れやすい3個備えている構成を採用することができる。この場合、同じく、平均的な駆動力と逆入力の大きさから考えると、変速用第三クラッチは、例えば、駆動力に対して係合可能な係合子を二つとし、逆入力に対して係合可能な係合子を一つとすることができる。
【0065】
これらの各構成において、変速制御機構は、車軸内を通して外部に引き出された操作部を有しており、操作部を軸方向に移動操作することにより、変速切替を行うことが可能な構成を採用することができる点は、前述の構成と同様である。
【0066】
さらに、これらの各構成において、踏力又はモータの出力による駆動力は、前記駆動力伝達要素から前記遊星キャリアに対してリアスプロケットを介して入力され、前記変速用第三クラッチは、前記遊星歯車を挟んで前記リアスプロケットの反対側に配置されている構成を採用することができる。
【0067】
このとき、前記変速制御機構は、前記車軸の軸方向に対して、前記リアスプロケットと反対側に配置されている構成を採用することができる。
【発明の効果】
【0068】
この発明は、遊星歯車、太陽歯車、遊星キャリア、及び外輪歯車の少なくとも1つを可動としたので、その可動とした歯車は、所定量だけその歯車の半径方向へ移動可能である。このため、遊星歯車機構にトルクが入力されると、その可動とした歯車は、荷重が最もバランスの取れる位置に向かって半径方向へ自動的に移動し、自動調心作用が発揮されるので、各歯車に負荷される荷重が不均一となることを抑制でき、耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】この発明の第一の実施形態の変速1段目(直結状態)を示すハブの縦断面図
【図2】(a)は図1のA−A断面図、(b)は同B−B断面図、(c)は同C−C断面図
【図3】この発明の第一の実施形態の変速2段目を示すハブの縦断面図
【図4】(a)は図3のA−A断面図、(b)は同B−B断面図、(c)は同C−C断面図
【図5】この発明の第一の実施形態の変速3段目を示すハブの縦断面図
【図6】(a)は図5のA−A断面図、(b)は同B−B断面図、(c)は同C−C断面図
【図7】この発明の第一の実施形態の前進駆動時(変速2段目による回生状態)を示すハブの縦断面図
【図8】(a)は図7のA−A断面図、(b)は同B−B断面図、(c)は同C−C断面図
【図9】この発明の第二の実施形態の前進駆動時(変速1段目)を示すハブの縦断面図
【図10】(a)は図9のA−A断面図、(b)は同B−B断面図、(c)は同C−C断面図
【図11】遊星歯車機構の各歯車を固定支持とした場合における各歯車が理想位置にある状態を示す断面図
【図12】(a)(b)(c)は、図11において、一部の遊星歯車に車軸周り方向への取付誤差がある場合の作用を示す断面図
【図13】遊星歯車機構の太陽歯車を浮動支持とし、遊星歯車及び外輪歯車を固定支持した場合における各歯車が理想位置にある状態を示す断面図
【図14】(a)(b)(c)は、図13において、一部の遊星歯車に車軸周り方向への取付誤差がある場合の作用を示す断面図
【図15】遊星歯車機構の太陽歯車及び遊星歯車を浮動支持とし、外輪歯車を固定支持した場合における各歯車が理想位置にある状態を示す断面図
【図16】この発明の第三の実施形態の変速1段目(直結状態)を示すハブの縦断面図
【図17】(a)は図16のA−A断面図、(b)は同B−B断面図、(c)は同C−C断面図
【図18】この発明の第三の実施形態の変速2段目を示すハブの縦断面図
【図19】(a)は図18のA−A断面図、(b)は同B−B断面図、(c)は同C−C断面図
【図20】この発明の第三の実施形態の変速3段目を示すハブの縦断面図
【図21】(a)は図20のA−A断面図、(b)は同B−B断面図、(c)は同C−C断面図
【図22】この発明の第三の実施形態の前進非駆動時(変速3段目による回生状態)を示すハブの縦断面図
【図23】(a)は図22のA−A断面図、(b)は同B−B断面図、(c)は同C−C断面図
【図24】電動補助自転車の全体図
【発明を実施するための形態】
【0070】
(第一の実施形態)
この発明の第一の実施形態を、図1〜図8に基づいて説明する。この実施形態の電動補助自転車は、図24に示す前輪22と後輪25間の中央部付近において、その前輪22と後輪25とを結ぶフレームFに二次電池及び補助駆動用のモータを内蔵したセンタモータユニットCが取り付けられたセンタモータ方式である。
【0071】
駆動時、例えば、図24に示すペダル20を通じてクランク軸21から伝達された踏力,又は前記モータの出力による駆動力が入力された場合は、フロントスプロケット24と後輪25のスプロケット4(以下、「リアスプロケット4」と称する。)とを結ぶチェーン23等の動力伝達要素を介して、駆動輪である後輪25にその駆動力が伝達可能となっている。
【0072】
また、前進非駆動時には、後輪25のハブ1(以下、「リアハブ1」と称する)から前記モータの出力軸へ逆入力が伝達され、その逆入力により生じた回生電力を、前記センタモータユニットCの二次電池に還元する回生機構を備えている。その回生機構は、センタモータユニットCや二次電池を収容したケース26の周辺において、前記フレームFに取り付けられる。
【0073】
リアハブ1は、図1に示すように、後輪25の車軸5と同軸に設けたハブケース7内に、遊星歯車機構で構成された変速機構3と変速制御機構10とを備えている。車軸5はフレームFに対して回転不能に固定されている。
【0074】
変速機構3は、直結と2段増速の合計3段変速が可能な遊星歯車機構で構成された増速型である。その遊星歯車機構による変速機構3は、車軸5の外周に設けられた太陽歯車3aが、変速用第一クラッチ3eを介して接続されている。
【0075】
この実施形態では、遊星歯車3bは歯数の異なる二つの歯車部を有し、太陽歯車3aは同じく二つ設けられて、その各太陽歯車3aが対応する歯車部にそれぞれ噛み合っている。以下、その二つの太陽歯車3aを、第一太陽歯車3a−1、第二太陽歯車3a−2と称する。
【0076】
その第一太陽歯車3a−1と車軸5との間、第二太陽歯車3a−2と車軸5との間には、それぞれ変速用第一クラッチ3eが設けられている。
【0077】
第一太陽歯車3a−1と車軸5の間の変速用第一クラッチ3eを、以下、変速用第一クラッチ部3e−1と称する。また、第二太陽歯車3a−2と車軸5の間の変速用第一クラッチ3eを、以下、変速用第二クラッチ部3e−2と称する。
【0078】
また、第二太陽歯車3a−2と遊星キャリア3cとは、変速用第二クラッチ3hを介して接続されている。
【0079】
この実施形態では、変速用第一クラッチ3eの変速用第一クラッチ部3e−1及び変速用第二クラッチ部3e−2、変速用第二クラッチ3hとして、それぞれラチェットクラッチ(ラチェット機構)を採用している。
【0080】
また、変速機構3は、第一太陽歯車3a−1及び第二太陽歯車3a−2に対して噛み合う2段の歯車部を有する遊星歯車3b、その遊星歯車3bを保持する遊星キャリア3c、遊星歯車3bに噛み合い、ハブケース7と一体に回転する外輪歯車3dを備えている。外輪歯車3dは、ハブケース7の内側に設けられた伝達部材Dの内径面に形成されている。
【0081】
ハブケース7と伝達部材D(外輪歯車3d)とは別体に成形され、それらが一体に回転するように、ハブケース7内に伝達部材Dが圧入固定されている。この圧入固定に代えて、スプライン結合等によって両者が一体に回転するようにしてもよい。また、ハブケース7の内面に外輪歯車3dを一体に形成してもよい。すなわち、遊星歯車機構とハブケース7との間は、駆動力及び逆入力がそれぞれ伝達されるようになっている。
【0082】
ハブケース7には、車軸5の軸方向に沿って二つのハブフランジ6を備えており、その二つのハブフランジ6は、ハブケース7と一体にアルミダイキャストにより成形されている。
【0083】
この構成からなるハブ1を製造する際には、例えば、ハブケース7を二つのハブフランジ6とともにアルミダイキャストにより一体に成形し、その後、ハブケース7に伝達部材Dを固定し、さらに、そのハブケース7の内部に前記遊星歯車機構を収容する手順となる。
【0084】
なお、この実施形態では、二つのハブフランジ6をハブケース7と一体に成型しているが、これに代えて、例えば、一方のハブフランジ6をハブケース7と一体にプレス又はアルミダイキャストにより成形し、他方のハブフランジ6をハブケース7とは別体に成形して、その他方のハブフランジ6を、ハブケース7に圧入等によって固定するようにしてもよい。
【0085】
このハブ1を製造する際には、例えば、ハブケース7に伝達部材Dを固定する前に、他方のハブフランジ6をハブケース7に固定することができる。また、ハブケース7に伝達部材Dを固定した後に、他方のハブフランジ6をハブケース7に固定することもできる。
【0086】
なお、遊星キャリア3cと車軸5との間、及びハブケース7と車軸5との間には、それぞれ軸受部13,13が設けられ、互いに相対回転可能に支持されている。遊星キャリア3cとハブケース7との間にも、軸受部14が設けられて互いに相対回転可能となっている。
【0087】
また、遊星歯車3bは、鍛造又は焼結(粉末冶金)により成形し、その後、熱処理を施している。
遊星歯車3bは、歯数の異なる複数の歯車部を有しているので、これを歯切りにより歯車加工する場合、歯数の最も多い歯車部の加工については特に支障はないが、歯数の少ない側の歯車部の加工については、歯数の最も多い側の歯車部の端面に近い部分の歯の加工が困難である(図1又は、後述の第三の実施形態の説明図である図16の符号Xに示す部分)。したがって、遊星歯車3bの製造は、鍛造や焼結等の金型を用いて成形する加工方法を採用することが好ましい。
これにより、特に、鍛造の場合は、加工硬化等影響により強度や耐久性の向上が期待できる。一方、焼結の場合は、鍛造に比べて低コストで製造可能である。いずれの製造方法においても、成形後熱処理を施すことにより高硬度化し、耐久性を向上させることが望ましい。これらは、後述の各実施形態においても同様である。
【0088】
変速用第一クラッチ3eの変速用第一クラッチ部3e−1は、車軸5に固定した揺動軸(クラッチ軸)3kの軸周りに、二つの揺動自在の変速用第一クラッチ爪3f(以下、変速用第一爪部3f−1と称する)が車軸5の外面に設けられており、その変速用第一爪部3f−1が噛み合う変速用第一クラッチカム面3g(以下、変速用第一カム面部3g−1と称する)が第一太陽歯車3a−1の内面に設けられている(図2(c)参照)。
【0089】
この二つの変速用第一爪部3f−1は互いに逆方向に揺動可能であって、図2(c)に示す上方の変速用第一爪部3f−1は、揺動軸3kを揺動中心として時計回り方向に揺動することで係合側に近づき、下方の変速用第一爪部3f−1は、反時計回り方向に揺動することで係合側に近づくようになっている。
【0090】
また、変速用第一カム面部3g−1は、周方向に沿って凹凸が連続する形状となっており、これは、逆方向に揺動する変速用第一爪部3f−1の一方が駆動力に対して、他方が逆入力に対してそれぞれ係合可能な形状となっている。
【0091】
なお、この実施形態では、変速用第一爪部3f−1は、互いに逆方向に揺動可能な二つの爪で構成されているが、変速用第一爪部3f−1の数は、少なくとも互いに逆方向に揺動可能な二つのものが含まれていれば、その数は限定されない。例えば、時計回り方向に揺動することで係合側に近づく変速用第一爪部3f−1を二つ、反時計回り方向に揺動することで係合側に近づく変速用第一爪部3f−1を二つとしてもよい。また、それらを揺動方向の異なる爪を、互いに異なる数に設定してもよい。
【0092】
また、変速用第一クラッチ3eの変速用第二クラッチ部3e−2も、前記揺動軸(クラッチ軸)3kの軸周りに、二つの揺動自在の変速用第一クラッチ爪3f(以下、変速用第二爪部3f−2と称する)が車軸5の外面に設けられており、その変速用第二爪部3f−2が噛み合う変速用第一クラッチカム面3g(以下、変速用第二カム面部3g−2と称する)が第一太陽歯車3a−1の内面に設けられている(図2(b)参照)。
【0093】
この変速用第二クラッチ部3e−2についても、変速用第一クラッチ部3e−1の場合と同様に、二つの変速用第二爪部3f−2は互いに逆方向に揺動可能であって、図2(b)に示す上方の変速用第二爪部3f−2は、揺動軸3kを揺動中心として時計回り方向に揺動することで係合側に近づき、下方の変速用第二爪部3f−2は、反時計回り方向に揺動することで係合側に近づくようになっている。
【0094】
また、変速用第二カム面部3g−2は、周方向に沿って凹凸が連続する形状となっており、これは、逆方向に揺動する変速用第二爪部3f−2の一方が駆動力に対して、他方が逆入力に対してそれぞれ係合可能な形状となっている。
【0095】
なお、この実施形態では、変速用第二爪部3f−2は、互いに逆方向に揺動可能な二つの爪で構成されているが、変速用第二爪部3f−2の数は、少なくとも互いに逆方向に揺動可能な二つのものが含まれていれば、その数は限定されない。例えば、時計回り方向に揺動することで係合側に近づく変速用第二爪部3f−2を二つ、反時計回り方向に揺動することで係合側に近づく変速用第二爪部3f−2を二つとしてもよい。また、それらを揺動方向の異なる爪を、互いに異なる数に設定してもよい。なお、図2(b)(c)等において、遊星歯車3bの図示は省略している。
【0096】
また、変速用第二クラッチ3hは、第二太陽歯車3a−2に固定した揺動軸(クラッチ軸)3nの軸周りに、二つの揺動自在の変速用第二クラッチ爪3iが第二太陽歯車3a−2の外面に設けられており、その変速用第二クラッチ爪3iが噛み合う変速用第二クラッチカム面3jが、遊星キャリア3cの内面に設けられている(図2(a)参照)。
【0097】
この変速用第二クラッチ3hについても、変速用第一クラッチ3eの場合と同様に、二つの変速用第二クラッチ爪3iは互いに逆方向に揺動可能であって、図2(a)に示す上方の変速用第二クラッチ爪3iは、揺動軸3nを揺動中心として時計回り方向に揺動することで係合側に近づき、下方の変速用第二クラッチ爪3iは、反時計回り方向に揺動することで係合側に近づくようになっている。
【0098】
また、変速用第二クラッチカム面3jは、周方向に沿って凹凸が連続する形状となっており、これは、逆方向に揺動する変速用第二クラッチ爪3iの一方が駆動力に対して、他方が逆入力に対してそれぞれ係合可能な形状となっている。
【0099】
なお、この実施形態では、変速用第二クラッチ爪3iは、互いに逆方向に揺動可能な二つの爪で構成されているが、変速用第二クラッチ爪3iの数は、少なくとも互いに逆方向に揺動可能な二つのものが含まれていれば、その数は限定されない。例えば、時計回り方向に揺動することで係合側に近づく変速用第二クラッチ爪3iを二つ、反時計回り方向に揺動することで係合側に近づく変速用第二クラッチ爪3iを二つとしてもよい。また、それらを揺動方向の異なる爪を、互いに異なる数に設定してもよい。なお、図2(a)等において、太陽歯車3aの内径側に位置する車軸5等の図示は省略している。
【0100】
変速制御機構10は、車軸5の中心に設けた軸方向へ伸びる孔5a内を通して外部に引き出された操作部10aと、その操作部10aに接続され車軸5の外側に設けられた二つの変速用スリーブ10bを有している。
【0101】
その操作部10aを軸方向に移動操作することにより、変速用スリーブ10bが軸方向へ移動し、その移動によって、変速用第一クラッチ3eの変速用第一クラッチ部3e−1及び変速用第二クラッチ部3e−2が、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して係合状態又は係合不能状態とに切り替えられる。
すなわち、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して、第一太陽歯車3a−1及び第二太陽歯車3a−2を、それぞれ車軸5周りに相対回転可能または相対回転不能とに切り替えることができる。
【0102】
その作用について、さらに詳しく説明すると、変速用第一クラッチ部3e−1及び変速用第二クラッチ部3e−2のそれぞれにおいて、変速用第一爪部3f−1及び変速用第二爪部3f−2は、それぞれ、対応するカム面に対して、係合していない状態から係合した状態への揺動方向が揺動軸3k周り逆向きになるクラッチ爪を備えている。その逆向きの各クラッチ爪は、それぞれカム面への係合側の端部(一端)が、図示しない弾性部材によって、そのカム面(変速用第一カム面部3g−1又は変速用第二カム面部3g−2)側に起き上がる方向に負荷を与えられている。一方、その係合側の反対側の端部(他端)は、変速制御機構10における変速用スリーブ10bに接しており、その弾性部材の弾性力に抗して、変速用第一カム面部3g−1又は変速用第二カム面部3g−2側に起き上がるのが抑制されている(例えば、図2(b)(c)参照)。
【0103】
ここで、変速用スリーブ10bには、車軸5の軸方向に沿って2箇所の切欠部10dが設けられている。車軸5内を通って外部に引き出された操作部10aを、車軸5外からの外部操作により軸方向へ移動させると、変速用スリーブ10bも軸方向に移動し、その変速用スリーブ10bの切欠部10dが、変速用第一爪部3f−1又は変速用第二爪部3f−2の位置、あるいは、その位置から外れた位置に移動する。
【0104】
そうすると、変速用スリーブ10bの切欠部10dに対面した変速用第一爪部3f−1や変速用第二爪部3f−2は、その変速用スリーブ10bによる拘束が解除され、その一端が、変速用第一カム面部3g−1や変速用第二カム面部3g−2側に起き上がり、駆動力及び逆入力に対して係合することが可能な状態となる(以下、係合可能状態と称する。)。例えば、図4(b)(c)及び図8(b)(c)は、変速用第一爪部3f−1と変速用第二爪部3f−2のうち、変速用第一爪部3f−1のみが係合可能状態で、その変速用第一爪部3f−1が実際に起き上がって係合している状態を示しており、図6(b)(c)は、変速用第一爪部3f−1と変速用第二爪部3f−2のうち、変速用第二爪部3f−2のみが係合可能状態で、その変速用第二爪部3f−2が実際に起き上がって係合している状態を示している。また、図2(b)(c)は、変速用第一爪部3f−1と変速用第二爪部3f−2の両方が拘束されて、それぞれ係合できない状態(以下、係合不能状態と称する。)となっているのを示している。
【0105】
変速用スリーブ10bの切欠部10dの軸方向一端には、テーパ面10eが設けられている。このテーパ面10eは、変速用第一爪部3f−1や変速用第二爪部3f−2が、変速用第一カム面部3g−1や変速用第二カム面部3g−2と係合している状態から、その係合を解除しようとする際に、テーパ面10eが各爪部3f−1,3f−2の他端に接することで、その係合解除をスムーズにしている。すなわち、そのテーパ面10eの傾斜面によって、各爪部3f−1,3f−2をカム面部3g−1,3g−2から外す力を大きくすることができる。
【0106】
ただし、同一の太陽歯車3aに対応するクラッチ、すなわち、軸方向同一の位置に設けられた二つの変速用第一爪部3f−1、あるいは、二つの変速用第二爪部3f−2は、前述のように、その揺動方向が互いに逆向きになるよう配置されているので、前記係合可能状態であっても、駆動力に対しては、その逆向きの各爪部のうち、一方の変速用第一爪部3f−1、変速用第二爪部3f−2のみが係合し、逆入力に対しては、他方の変速用第一爪部3f−1、変速用第二爪部3f−2のみが係合することとなる。
【0107】
さらに、操作部10aを軸方向に移動操作することにより、変速用第二クラッチ切替部10iが軸方向へ移動し、その移動によって、変速用第二クラッチ3hが、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して係合可能状態又は係合不能状態とに切り替えられる。
すなわち、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して、遊星キャリア3cを第二太陽歯車3a−2周りに相対回転可能または相対回転不能とに切り替えることができる。
【0108】
その作用について、さらに詳しく説明すると、変速用第二クラッチ3hにおいて、二つの変速用第二クラッチ爪3iは、カム面に対して、係合していない状態から係合した状態への揺動方向が揺動軸3n周り逆向きになっている。その逆向きの各変速用第二クラッチ爪3iは、それぞれ変速用第二クラッチカム面3jへの係合側の端部(一端)が、図示しない弾性部材によって、その変速用第二クラッチカム面3j側に起き上がる方向に負荷を与えられている。一方、その係合側の反対側の端部(他端)は、変速制御機構10における第二クラッチ切替部10iに接しており、その弾性部材の弾性力に抗して、変速用第二クラッチカム面3j側に起き上がるのが抑制されている(例えば、図4(a)参照)。
【0109】
ここで、操作部10aを、車軸5外からの外部操作により軸方向へ移動させると、変速用スリーブ10bとともに変速用第二クラッチ切替部10iも軸方向に移動し、その変速用第二クラッチ切替部10iが、変速用第二クラッチ爪3iの位置、あるいは、その位置から外れた位置に移動する。
【0110】
そうすると、変速用第二クラッチ切替部10iに対面した変速用第二クラッチ爪3iは、その変速用第二クラッチ切替部10iによって拘束され、その一端が、変速用第二クラッチカム面3j側に起き上がらないため、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して係合しない状態となる。また、変速用第二クラッチ切替部10iが、変速用第二クラッチ爪3iの位置から離脱すると、その変速用第二クラッチ切替部10iによる拘束が解除され、その一端が、変速用第二クラッチカム面3j側に起き上がり、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して係合することが可能な状態となる。
【0111】
例えば、図2(a)は、二つの変速用第二クラッチ爪3iの両方が係合可能状態となって、そのうち、一方が起き上がって実際に係合している状態を示しており、図4(a)、図6(a)、図8(a)は、変速用第二クラッチ爪3iが拘束されて、それぞれ係合不能状態となっているのを示している。ただし、二つの変速用第二クラッチ爪3iは、前述のように、その揺動方向が互いに逆向きになるよう配置されているので、前記係合可能状態であっても、駆動力に対しては、その逆向きの変速用第二クラッチ爪3iのうち、一方の変速用第二クラッチ爪3iのみが係合し、逆入力に対しては、他方の変速用第二クラッチ爪3iのみが係合することとなる。
【0112】
操作部10aは軸状を成し、車軸5内に設けた孔5a内に進退自在に挿通されており、弾性部材10gによって、軸方向外側に付勢されている。このため、変速操作部10aの軸方向への移動操作は、その操作部10aをハブ1内に押し込む時は、前記弾性部材10gの付勢力に抗して行われ、押し込む力を解除すると、変速操作部10aは、その付勢力によって自動的に元の状態に復帰する。
【0113】
また、変速用スリーブ10bは、車軸5に設けられた横穴10hに挿入されたピン10fによってその車軸5に固定されている。ピン10fを変速操作部10aによって横穴10h内で軸方向へ移動操作することにより、変速用スリーブ10bの軸方向への移動を行うことができる。
【0114】
このように、変速用第一クラッチ3eに関し、変速制御機構10は、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して、その変速用第一クラッチ3eの変速用第一クラッチ部3e−1及び変速用第二クラッチ部3e−2を、係合可能状態又は係合不能状態とに切り替える機能を有している。この切替により、第一太陽歯車3a−1及び第二太陽歯車3a−2を、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して、車軸5周りに相対回転可能または相対回転不能とに切り替えることができる。
【0115】
また、変速用第二クラッチ3hに関し、変速制御機構10は、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して、その変速用第二クラッチ3hを係合可能状態又は係合不能状態とに切り替える機能を有している。この切替により、遊星キャリア3cを、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して、第二太陽歯車3a−2周りに相対回転可能または相対回転不能とに切り替えることができる。
【0116】
この切替によって、前進駆動時に、踏力又はモータの出力による駆動力が、チェーン23から遊星キャリア3cに入力されて、その遊星キャリア3cから駆動輪に等速、又は増速状態で伝達される。また、前進非駆動時には、駆動輪からの逆入力は、その変速機構3のいずれの変速段においても前進駆動時の駆動力伝達経路と逆向きに伝達される。
【0117】
変速機構3による変速段の切替について具体的に説明すると、例えば、変速用第二クラッチ3hにより、第二太陽歯車3a−2を遊星キャリア3cに相対回転不能とし、変速用第一クラッチ3eの変速用第一クラッチ部3e−1及び変速用第二クラッチ部3e−2により、第一太陽歯車3a−1及び第二太陽歯車3a−2を車軸5に対して相対回転可能とする。この場合、リアスプロケット4から駆動力が入力されると、遊星キャリア3cを介して遊星歯車3bに駆動力が伝達される。このとき、第二太陽歯車3a−2が遊星キャリア3cと一体に回転するため、等速(直結)で遊星歯車3bから外輪歯車3d(伝達部材D)及びハブケース7に駆動力が伝達される。
【0118】
また、変速用第二クラッチ3hにより、第二太陽歯車3a−2を遊星キャリア3cに相対回転可能とし、変速用第一クラッチ3eの変速用第一クラッチ部3e−1及び変速用第二クラッチ部3e−2により、第一太陽歯車3a−1を車軸5に対して相対回転不能、第二太陽歯車3a−2を車軸5に相対回転可能とした場合、第一太陽歯車3a−1の歯数をa、外輪歯車3dの歯数をdとすると、遊星キャリア3cから外輪歯車3dへの増速比は
(a+d)/d
となる。このとき、第二太陽歯車3a−2は車軸5に対して空転状態であり、トルク伝達に関与しない。また、変速用第二クラッチ3hは、変速制御機構10における変速用第二クラッチ切替部10iによって、強制的に変速用第二クラッチ爪3iが変速用第二クラッチカム面3jに噛み込まない状態にしてある。
【0119】
また、変速用第二クラッチ3hにより、第二太陽歯車3a−2を遊星キャリア3cに相対回転可能とし、変速用第一クラッチ3eの変速用第一クラッチ部3e−1及び変速用第二クラッチ部3e−2により、第一太陽歯車3a−1を車軸5に相対回転可能、第二太陽歯車3a−2を車軸5に相対回転不能した場合、第二太陽歯車3a−2の歯数をa、第一太陽歯車3a−1と噛み合う遊星歯車3bの歯数をb、第二太陽歯車3a−2と噛み合う遊星歯車3bの歯数をc、外輪歯車3dの歯数をdとすると、遊星キャリア3cから外輪歯車3dへの増速比は
[(a×b)/(c×d)]+1
となる。このとき、第一太陽歯車3a−1は空転状態であり、トルク伝達に関与しない。
【0120】
すなわち、第一太陽歯車3a−1、第二太陽歯車3a−2は異なる歯数であり、車軸5に対して全てフリー(相対回転可能)として、第二太陽歯車3a−2と遊星キャリア3cとを固定するか、第二太陽歯車3a−2と遊星キャリア3cをフリーとして車軸5に対していずれか一つの太陽歯車3aを固定(相対回転不能)とすることで増速比を変化させることができる。
【0121】
また、変速制御機構10により、変速用第二クラッチ3hを係合可能状態とし、変速用第一クラッチ3eの変速用第一クラッチ部3e−1、変速用第二クラッチ部3e−2が係合不能状態となっていれば(等速状態)、前進非駆動時において、駆動輪からの逆入力はハブケース7からリアスプロケット4に等速で伝達される。
【0122】
同様に、変速制御機構10により、変速用第二クラッチ3hを係合可能状態とし、変速用第一クラッチ3eの変速用第一クラッチ部3e−1、変速用第二クラッチ部3e−2のうち、変速用第一クラッチ部3e−1のみが係合不能状態となっているとき、第一太陽歯車3a−1は車軸5に固定(相対回転不能)である。
よって、駆動輪からの逆入力が、ハブケース7からリアスプロケット4に伝達されるとき、第一太陽歯車3a−1の歯数をa、外輪歯車3dの歯数をdとすると、減速比は、
(a+d)/d
となる。
【0123】
さらに、変速制御機構10により、変速用第二クラッチ3hを係合可能状態とし、変速用第一クラッチ3eの変速用第一クラッチ部3e−1、変速用第二クラッチ部3e−2のうち、変速用第二クラッチ部3e−2のみが係合不能状態となっているとき、第二太陽歯車3a−2は車軸5に固定(相対回転不能)である。
よって、駆動輪からの逆入力が、ハブケース7からリアスプロケット4に伝達されるとき、第二太陽歯車3a−2の歯数をa、第一太陽歯車3a−1と噛み合う遊星歯車3bの歯数をb、第二太陽歯車3a−2と噛み合う遊星歯車3bの歯数をc、外輪歯車3dの歯数をdとすると、減速比は、
[(a×b)/(c×d)]+1
となる。すなわち、駆動輪からの逆入力は、変速制御機構10により選択された変速段に応じて、駆動力が伝達する経路と同じ経路を逆方向に伝達される。
【0124】
つぎに、この変速機構3の遊星歯車機構が備える自動調心機能について説明する。
【0125】
図11は、製造誤差等の無い理想状態において、全ての歯車を固定支持した状態を示す。固定支持とは、ハブ1の空間内において、それを支持する部材に対する相対的な位置を固定した状態で、その歯車が回転可能になっている状態を意味する。全ての歯車が固定支持であるから、この構成では自動調心機能は備えない。
【0126】
すなわち、ハブケース7の内側に外輪歯車3dが不動に固定されそのハブケース7と外輪歯車3dとが一体に回転するようになっている。外輪歯車3dは、それを支持するハブケース7に対して固定支持である。
また、遊星キャリア3cに接続された遊星歯車軸3mの外面には、ベアリングを介して遊星歯車3bが相対回転可能に支持されている。遊星歯車3bは、それを支持する遊星歯車軸3m、遊星キャリア3cに対して固定支持である。
車軸5の外面には、同様にベアリングを介して太陽歯車3a(第一太陽歯車3a−1,第二太陽歯車3a−2共)が相対回転可能に支持されている。太陽歯車3aは、それを支持する車軸5に対して固定支持である。
【0127】
なお、太陽歯車3aと車軸5との間には、図示しない変速用第一クラッチ3eが設けられており、太陽歯車3aが車軸5周りに相対回転または相対回転不能とに切り替え可能である。図示しない遊星キャリア3cは、車軸5及びハブケース7にベアリングを介して支持されている。また、各歯車間には適度なバックラッシが与えられている。
【0128】
図示しない変速用第一クラッチ3eにより太陽歯車3aを車軸5に固定し、遊星キャリア3cを入力部材、外輪歯車3dを出力部材とすると、遊星歯車3bには均一に荷重が負荷され、スムーズに回転を伝達可能となる。この理想状態においても、バックラッシが完全に0の場合は、スムーズな回転が困難である。
【0129】
一例として、図12は、図11と同様の支持方法、及びバックラッシを与えた状態で、一の遊星歯車3b(図12(a)中の上方に位置する遊星歯車3b)のみが、図中の矢印に示すように、車軸5の軸周り方向(円周方向右側)にずれて配置された状態を示している。そのずれて配置された一の遊星歯車3bの詳細を、図12(c)に示す。正常な位置に配置された他の遊星歯車3b(図12(a)中の左下に位置する遊星歯車3b)の詳細を、図12(b)に示す。
【0130】
この図12の状態では、遊星キャリア3cから入力されたトルク(図中の矢印方向)は、外輪歯車3dへの出力(図中の矢印方向)に際し、前記一の遊星歯車3bのみにより受け持たれており、残りの遊星歯車3bはトルク伝達に関与することができない。
なぜならば、例えば、図12(c)において、前記一の遊星歯車3bの歯のトルク伝達側に向く面(図中右側に向く端面)は、太陽歯車3aと外輪歯車3dの各歯に対して、図中接触状態となっているが、図12(b)において、前記他の遊星歯車3bの歯のトルク伝達側に向く面(図中上側に向く端面)は、外輪歯車3dの歯に対しては接触状態となっているものの、太陽歯車3aの歯に対しては非接触の状態となっているからである。
【0131】
図13に、理想状態において、太陽歯車3aと車軸5とを浮動支持した状態を示す。この場合の浮動支持とは、部材間に隙間を与えて相対回転可能に支持することを示す。太陽歯車3aと車軸5との間には、全周に亘って隙間w0が設定されているので、太陽歯車3aは車軸5に対して半径方向に隙間w0の2倍に相当する距離だけ移動可能である。
【0132】
図14に、図13と同様の支持方法及びバックラッシを与えた状態で、同様に、一の遊星歯車3b(図14(a)中の上方に位置する遊星歯車3b)のみが、図中の矢印に示すように、車軸5の軸周り方向(円周方向右側)にずれて配置された状態を示している。
そのずれて配置された一の遊星歯車3bの詳細を、図14(c)に示す。正常な位置に配置された他の遊星歯車3b(図14(a)中の左下に位置する遊星歯車3b)の詳細を、図14(b)に示す。
【0133】
この図14の状態では、遊星キャリア3cから入力されたトルク(図中の矢印方向)は、外輪歯車3dへの出力(図中の矢印方向)に際し、太陽歯車3aは車軸5に対して半径方向に図13に示す前記隙間w0の2倍分だけ移動可能であるため、その太陽歯車3aは、全ての歯車が適切に噛み合う位置に自動的に移動する。図14では、その移動後の状態において、左右の各隙間がw1,w2となっている状態を示している。なお、2×w0=w1+w2となっている。
【0134】
これにより、各遊星歯車3bへの不均一な荷重は抑制される。すなわち、例えば、図14(c)において、前記一の遊星歯車3bの歯のトルク伝達側に向く面(図中右側に向く端面)は、太陽歯車3aと外輪歯車3dの各歯に対して、図中接触状態となっており、図14(b)において、前記他の遊星歯車3bの歯のトルク伝達側に向く面(図中上側に向く端面)も、外輪歯車3d、太陽歯車3aの各歯に対して接触状態となっているからである。
【0135】
このように、遊星歯車3b(遊星キャリア3c)、太陽歯車3a、及び外輪歯車3dの少なくとも1つを半径方向へ可動とすることにより、その可動とした歯車は、所定量だけその歯車の半径方向へ移動可能である。
そして、遊星歯車機構にトルクが入力されると、その可動とした歯車は、荷重が最もバランスの取れる位置に向かって半径方向へ自動的に移動し、自動調心作用を発揮する。このため、この歯車の移動によって、各歯車に負荷される荷重が不均一となることを抑制でき、耐久性が向上するものである。
【0136】
なお、この図13及び図14の構成において、その可動とした歯車とそれに噛み合う歯車間には、通常よりも拡大されたバックラッシを設けることが望ましい。拡大されたバックラッシとは、その可動とした歯車を、仮に、半径方向へ不動とした場合に設定される寸法よりも大きいバックラッシを意味する。この拡大されたバックラッシの設定によって、その歯車の移動の前後において、変わりなく円滑な歯車間の荷重の伝達を可能としている。
【0137】
すなわち、設定されるバックラッシの寸法や、前記可動とした歯車の半径方向への移動可能量は、その噛み合っている両歯車に許容される半径方向への寸法誤差(製造誤差)やその歯車の組立誤差の影響を吸収するのに十分な値であればよい。これにより、各部品をそれほど高精度に加工しなくても、各歯車に負荷される荷重が不均一となることを抑制でき、耐久性が向上する。
【0138】
図15の実施形態は、例えば、遊星歯車3bと太陽歯車3aを、それぞれ半径方向へ可動(浮動支持)としたものである。遊星歯車3bと遊星歯車軸3mとの間には、全周に亘って隙間v0が設定されている。太陽歯車3aのみを可動とした図13、図14の構成に比べて、自動調心機能が働き易くなり、ベアリング等を使用しない分コストも低減できる。
しかしながら、このような浮動支持部は滑り接触となるため摩擦損失が大きくなり、太陽歯車3aのみの浮動支持でも自動調心機能は働くため、図13、図14の例のように遊星歯車3bはベアリング支持(固定支持)としてもよい。
【0139】
なお、この変速機構3の遊星歯車機構が備える自動調心機能については、後述の各実施形態においてもその構成は同じであるので、その後述の各実施形態において、説明を省略する。
【0140】
変速1段目(直結)の状態を図1及び図2に示す。この実施形態では、車軸5の軸方向両端のうち、リアスプロケット4を設けた側に変速制御機構10の操作部10aを配置しているが、これを逆方向に配置してもよい。
【0141】
この変速1段目において、変速制御機構10における変速用スリーブ10bによって、変速用第一爪部3f−1及び変速用第二爪部3f−2は、図2(b)(c)に示すように、いずれも変速用スリーブ10bによりその他端が拘束され、係合不能状態となっている。
したがって、第一太陽歯車3a−1及び第二太陽歯車3a−2は、車軸5周りに相対回転可能となっている。
【0142】
また、変速用第二クラッチ3hの変速用第二クラッチ爪3iは、図2(a)に示すように、変速制御機構10における変速用第二クラッチ切替部10iの拘束が解除され係合可能状態となっている。
このため、遊星キャリア3cと第二太陽歯車3a−2は、相対回転不能となっている。
【0143】
この場合、リアスプロケット4から駆動力は、遊星キャリア3c、遊星歯車3b、ハブケース7(外輪歯車3d)の順に等速で伝達される。一方、この状態で、駆動輪からの逆入力が入力されると、変速用第二クラッチ爪3iは変速用第二クラッチカム面3jに係合し、前進駆動時の駆動力伝達経路とは逆方向の経路、すなわち、ハブケース7(外輪歯車3d)、遊星歯車3b、遊星キャリア3c、リアスプロケット4の順に等速で伝達される。
【0144】
変速2段目(増速1)の状態を図3及び図4に示す。前記変速1段目の状態から、外部操作により変速制御機構10の変速操作部10aを、図3で示す矢印の方向へ軸方向のある位置まで押し込むと、変速用スリーブ10bが軸方向にスライドし、変速用第一爪部3f−1の位置に変速用スリーブ10bの切欠部10dが移動する。
【0145】
これにより、変速用第一爪部3f−1は、変速用第一カム面部3g−1に係合可能状態となり、第一太陽歯車3a−1は駆動力及び逆入力のそれぞれに対して車軸5に相対回転不能となる。このとき、変速用第二爪部3f−2の駆動力及び逆入力のそれぞれに対する係合不能状態は維持されている。
【0146】
また、このとき、変速用第二クラッチ爪3iは、変速用第二クラッチ切替部10iのテーパ部10jに沿って、遊星キャリア3cの変速用第二クラッチカム面3jから切り離される。
このため、遊星キャリア3cと第二太陽歯車3a−2は、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して相対回転可能となる。
【0147】
この状態では、リアスプロケット4からの駆動力は、第一太陽歯車3a−1の歯数をa、外輪歯車3dの歯数をdとすると、増速比、
(a+d)/d
でハブケース7に伝達される。一方、駆動輪からの逆入力は、減速比
(a+d)/d
でリアスプロケット4に伝達される。
【0148】
変速3段目(増速2)の状態を図5及び図6に示す。前記変速2段目の状態から、外部操作により変速制御機構10の変速操作部10aを、図5で示す矢印の方向へ軸方向のある位置までさらに押し込むと、変速用スリーブ10bが軸方向にスライドし、変速用第二爪部3f−2の位置に変速用スリーブ10bの切欠部10dが移動する。
【0149】
変速用第二爪部3f−2は、変速用第二カム面部3g−2に係合可能状態となり、第二太陽歯車3a−2は駆動力及び逆入力のそれぞれに対して車軸5に相対回転不能となる。
このとき、変速用第一爪部3f−1の位置にあった変速用スリーブ10bの切欠部10dは、その変速用第一爪部3f−1の位置から離脱する。このため、変速用第一爪部3f−1は、その他端が拘束されて、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して係合不能状態に移行する。
【0150】
また、このとき、遊星キャリア3cと第二太陽歯車3a−2とは、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して相対回転可能な状態に維持されている。
【0151】
この状態では、リアスプロケット4からの駆動力は、第二太陽歯車3a−2の歯数をa、第一太陽歯車3a−1と噛み合う遊星歯車3bの歯数をb、第二太陽歯車3a−2と噛み合う遊星歯車3bの歯数をc、外輪歯車3dの歯数をdとすると、増速比
[(a×b)/(c×d)]+1
でハブケース7に伝達される。一方、駆動輪からの逆入力は、減速比
[(a×b)/(c×d)]+1
でリアスプロケット4に伝達される。
【0152】
変速3段目から2段目に戻す場合や、変速2段目から1段目に戻す場合、操作部10aを押し込む方向の力を解除すれば、あるいは緩めれば、弾性部材10gによって変速用スリーブ10b、変速用第二クラッチ切替部10iが押し戻されるので、容易に変速操作が可能である。
【0153】
このとき、切欠部10dの軸方向端部に設けられたテーパ面10eによって、変速用第一クラッチカム面3gに噛み込んでいる変速用第一爪部3g−1、変速用第二爪部3g−2の他端を押し上げる力が強くなり、変速用スリーブ10bが戻り易くなるため、スムーズな切替が可能となる。
【0154】
また、変速用第二クラッチ3hについても、変速用第二クラッチ切替部10iの軸方向端部に設けられたテーパ部10jによって、変速用第二クラッチカム面3jに噛み込んでいる変速用第二クラッチ3hの他端を押し上げる力が強くなり、変速用スリーブ10bが戻り易くなるため、スムーズな切替が可能となる。
【0155】
前進非駆動時(駆動輪からの逆入力時)の状態を図7及び図8に示す。図では、一例として、変速2段目の状態を示している。このとき、変速制御機構10により、変速用第一クラッチ部3e−1のみが係合可能状態となっている。
【0156】
逆入力に対しては、第一太陽歯車3a−1は車軸5に対して駆動方向と逆方向に回転しようとするが、その揺動方向が互いに逆向きになるよう設けられた二つの変速用第一爪部3f−1によって、第一太陽歯車3a−1は車軸5周りに相対回転不能となる。他のクラッチ、すなわち、変速用第一クラッチ3eの変速用第二クラッチ部3e−2は、変速制御機構10によって、いずれも係合しない状態に拘束されているため、干渉することはない。よって、駆動輪からの逆入力は、減速比
(a+d)/d
でリアスプロケット4に伝達される。
【0157】
なお、自転車を手で押して後退する際(後退時)において、変速制御機構10により、いずれの変速段においてもある一ヶ所のクラッチのみ(変速用第一クラッチ3eの変速用第一クラッチ部3e−1、変速用第二クラッチ部3e−2、及び、変速用第二クラッチ3hの三つのクラッチのうち一つ)しか係合可能状態となっていないため、他のクラッチと干渉が起こることはなく、後退が可能である。
【0158】
(第二の実施形態)
この発明の第二の実施形態を、図9及び図10に基づいて説明する。この実施形態では、変速用第一クラッチ3eの変速用第一クラッチ部3e−1及び変速用第二クラッチ部3e−2における変速用第一爪部3f−1、変速用第二爪部3f−2を、それぞれ第一太陽歯車3a−1及び第二太陽歯車3a−2の内面に設け、変速用第一カム面部3g−1、変速用第二カム面部3g−2を車軸5の外面に設けたものである。
【0159】
変速用第一爪部3f−1、変速用第二爪部3f−2は、それぞれ第一太陽歯車3a−1、第二太陽歯車3a−2の内面に二つ設けられ、前述の実施形態と同様、その二つの変速用第一爪部3f−1、変速用第二爪部3f−2は、互いにその揺動方向が逆向きになるように配置されている。
【0160】
変速用第一クラッチカム面3gの溝数は、第一太陽歯車3a−1及び第二太陽歯車3a−2に対面する位置における車軸5の外面において、それぞれ周方向に沿って6ヶ所としており、その溝部に互いに切欠部10dの向きが異なる変速用スリーブ10bが、周方向に沿って交互に配置されている。
【0161】
したがって、一方の変速用第一爪部3f−1、変速用第二爪部3f−2がそれぞれ係合可能である溝数は3ヶ所となっている。
【0162】
第一の実施形態とした場合、変速用第一クラッチカム面3gの溝数を多く確保し易いことから、最大遊び角(クラッチ爪が係合するまでのタイムラグ)を小さくできるため機能的に有利であるが、車軸5の構造が複雑となる。一方、この第二の実施形態とした場合、変速用第一クラッチカム面3gの溝数は確保し難くなるが、車軸5の構造がシンプルとなる。
【0163】
なお、これらの実施形態では、変速用第二クラッチ3hを、第二太陽歯車3a−2と遊星キャリア3cとの間に設けているが、これらを第一太陽歯車3a−1と車軸5との間に設けてもよい。
【0164】
また、変速制御機構10として、車軸5内を通して軸方向に移動操作することにより切り替える方式を採用しているが、車軸5周りに操作部を回転(揺動)操作することにより切り替える方式など、既知の自転車の変速機構を採用することができる。また、遊星歯車3bを2段としているが、1段もしくは3段以上の遊星歯車を用いても差し支えない。また、車軸5は軸方向に沿って伸びる孔5aが、軸方向片側の端部から空けられており他端は中実となっているが、これを、両端間を結ぶ貫通穴としてもよい。
【0165】
また、これらの実施形態では、ラチェットクラッチで構成された変速用第一クラッチ3eと変速用第二クラッチ3hにおいて、そのラチェットクラッチの各クラッチ爪のクラッチカム面への噛合を、変速用スリーブ10bや変速用第二クラッチ切替部10iによって係合できる状態と係合できない状態とに切り替える方式を採用したが、車軸5と太陽歯車3aとの間のクラッチや、遊星キャリア3cと太陽歯車3aとの間のクラッチを係合できる状態と係合できない状態とに切り替える手段としては、これらの実施形態の変速用スリーブ10bや変速用第二クラッチ切替部10i以外の他の構成を採用してもよい。
【0166】
また、この実施形態では、変速用第一クラッチ3eと変速用第二クラッチ3hは、ラチェットクラッチによって構成されているが、ローラクラッチ、スプラグクラッチ等、他の構成からなるクラッチを採用することもできる。
【0167】
(第三の実施形態)
この発明の実施形態を、図16〜図23に基づいて説明する。ハブ1を構成するハブケース7、変速機構3、変速制御機構10等の主たる構成は、前述の実施形態と同様であるので、以下、その差異点を中心に説明する。
【0168】
変速機構3は、直結と2段増速の合計3段変速が可能な遊星歯車機構で構成された増速型である。その遊星歯車機構による変速機構3は、車軸5の外周に設けられた太陽歯車3aが、変速用第一クラッチ3eを介して接続されている。
【0169】
変速機構3は、歯数の異なる二つの歯車部を有する遊星歯車3bを備え、太陽歯車3aは、その遊星歯車3bの数、すなわち、歯車部の数と同じく二つ設けられて、その各太陽歯車3a(前記第一太陽歯車3a−1、前記第二太陽歯車3a−2)が対応する歯車部にそれぞれ噛み合っている。
【0170】
また、変速機構3は、その遊星歯車3bを保持する遊星キャリア3c、遊星歯車3bに噛み合い、ハブケース7と一体に回転する外輪歯車3dを備えている。外輪歯車3dは、ハブケース7の内側に設けられた伝達部材Dの内面に形成されている。
【0171】
ハブケース7と伝達部材D(外輪歯車3d)とは別体に成形され、それらが一体に回転するように、ハブケース7内に伝達部材Dが圧入固定されている。この圧入固定に代えて、スプライン結合等によって両者が一体に回転するようにしてもよい点は同様である。
このため、遊星歯車機構とハブケース7との間は、この伝達部材D(外輪歯車3d)を通じて駆動力及び逆入力が伝達されるようになっている。
【0172】
ハブケース7には、車軸5の軸方向に沿って二つのハブフランジ6を備えており、その二つのハブフランジ6のうち、一方のハブフランジ6はハブケース7と一体にプレス又はアルミダイキャストにより成形されている。また、他方のハブフランジ6は、ハブケース7とは別体に成形され、そのハブフランジ6がハブケース7の外側に圧入等により固定されている。
【0173】
この構成からなるハブ1を製造する際には、例えば、ハブケース7を一方のハブフランジ6とともにプレス又はアルミダイキャストにより一体に成形し、その後、ハブケース7に伝達部材Dを固定し、さらに、そのハブケース7の内部に遊星歯車機構を収容する手順とすることができる。
このとき、ハブケース7に伝達部材Dを固定する前に、他方のハブフランジ6をハブケース7に固定することができる。また、ハブケース7に伝達部材Dを固定した後に、他方のハブフランジ6をハブケース7に固定することもできる。
【0174】
その第一太陽歯車3a−1と車軸5との間、第二太陽歯車3a−2と車軸5との間には、それぞれ前記変速用第一クラッチ3e(前記変速用第一クラッチ部3e−1、前記変速用第二クラッチ部3e−2)とが設けられている。
【0175】
また、遊星キャリア3cとハブケース7との間には、変速用第三クラッチ3rが設けられている。遊星キャリア3cとハブケース7との間は、変速用第三クラッチ3rを介して接続されている。
【0176】
この実施形態では、変速用第一クラッチ3eの変速用第一クラッチ部3e−1及び変速用第二クラッチ部3e−2、変速用第三クラッチ3rとして、それぞれラチェットクラッチ(ラチェット機構)を採用している。
【0177】
この変速用第三クラッチ3rの係合子である変速用第三クラッチ爪3sは、ハブケース7内に固定された伝達部材Dの内面に形成された変速用第三クラッチカム面3tに係合可能となっている。
ハブケース7と伝達部材D(変速用第三クラッチカム面3t)とは別体に成形され、それらが一体に回転するように、ハブケース7内に伝達部材Dが圧入固定されている。この圧入固定に代えて、スプライン結合等によって両者が一体に回転するようにしてもよい点は同様である。
このため、遊星歯車機構とハブケース7との間は、この伝達部材D(変速用第三クラッチカム面3t)を通じて駆動力及び逆入力が伝達されるようになっている。
【0178】
これらの構成により、変速制御機構10を操作することで、第一太陽歯車3a−1は変速用第一クラッチ部3e−1、第二太陽歯車3a−2は変速用第二クラッチ部3e−2を介して、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して車軸5周りに相対回転可能または相対回転不能とすることにより変速を行うことができる。また、同じく変速制御機構10を操作することで、遊星キャリア3cは、変速用第三クラッチ3rを介して、駆動力及び逆入力のそれぞれに対してハブケース7周りに相対回転可能または相対回転不能とすることにより変速を行うことができる。
【0179】
変速用第一クラッチ3eの基本構成については、前述の実施形態と同様であるので、その同様な構成の部分は共通の符号を用いてその説明を省略する。
なお、図16、図18、図20、図22中の符号3pは、図17(b)等におけるクラッチ軸3kを支持するための部材である。この実施形態では、その部材3pは、外面が円筒状で、その内面が三角形状を成す部材となっており、その内側に断面六角形の車軸5が圧入されている。
【0180】
なお、この実施形態において、遊星キャリア3cには、アルミニウム合金材料またはマグネシウム合金材料を用いている。
この実施形態において、遊星キャリア3cについては、例えば、クラッチカム面のような特に高面圧となるような荷重負荷部位が存在しない。このため、軽量化のために、遊星キャリア3cはアルミニウム合金材料またはマグネシウム合金材料を用いることが望ましい。
【0181】
変速用第三クラッチ3rは、遊星キャリア3cに固定したクラッチ軸3mの軸周りに、複数の揺動自在の変速用第三クラッチ爪3sが設けられており、その変速用第三クラッチ爪3sが噛み合う変速用第三クラッチカム面3tが、ハブケース7の内面に固定された伝達部材Dの内面に設けられている(図17(a)参照)。この実施形態では、三つの変速用第三クラッチ爪3sが設けられている。
【0182】
この変速用第三クラッチ3rについても、変速用第一クラッチ3eの場合と同様に、互いに遊星キャリア3cとハブケース7との逆方向の相対回転に対してそれぞれ係合可能な、揺動方向の異なる変速用第三クラッチ爪3sが含まれている。具体的には、図17(a)に示す右下の変速用第三クラッチ爪3sは、クラッチ軸3mを揺動中心として時計回り方向に揺動することで係合側に近づき、上方及び左下の変速用第三クラッチ爪3sは、反時計回り方向に揺動することで係合側に近づくようになっている。
【0183】
また、変速用第三クラッチカム面3tは、周方向に沿って凹凸が連続する形状となっており、これは、逆方向に揺動する変速用第三クラッチ爪3sの一部が駆動力に対して、残りが逆入力に対してそれぞれ係合可能な形状となっている。
【0184】
なお、この実施形態では、変速用第三クラッチ爪3sは、互いに遊星キャリア3cとハブケース7に設けた伝達部材Dとの逆方向の相対回転に対してそれぞれ係合可能な、揺動方向の異なる変速用第三クラッチ爪3sを備えているが、この互いに逆方向に係合可能な変速用第三クラッチ爪3sの数は限定されない。例えば、時計回り方向に揺動することで係合側に近づく変速用第三クラッチ爪3sを二つ、反時計回り方向に揺動することで係合側に近づく変速用第三クラッチ爪3sを二つとしてもよい。また、それらを係合方向の異なる爪を、互いに異なる数に設定してもよい。ただし、平均的な駆動力と逆入力の大きさから考えると、変速用第三クラッチ爪3sは、駆動力に対して係合可能なものを、逆入力に対して係合可能なものよりも多く配置することが望ましい。
なお、図17(a)等において、太陽歯車3aの内径側に位置する車軸5等の図示は省略している。
【0185】
また、この実施形態では、変速用第三クラッチ3rの変速用第三クラッチ爪3sを支持するクラッチ軸3mは、遊星歯車3bと前記遊星キャリア3cとを結ぶ遊星歯車軸3m’と一体となっている。すなわち、クラッチ軸3mと遊星歯車軸3m’とは、連続する一本の軸で構成されている。
この構成によれば、変速用第三クラッチ3rのクラッチ軸3mを支持するために、遊星キャリア3cに対して新たにクラッチ軸3m用の穴を加工する必要がなく、コスト低減が可能である。すなわち、遊星キャリア3cに設けられている遊星歯車軸3m’用の軸穴3qを、変速用第三クラッチ爪3rを支持するクラッチ軸3mの軸穴と共通化することができるので、新たにクラッチ軸3m用の穴を加工する必要がない。
また、遊星歯車軸3m’とクラッチ軸3mが一体でなくても、両者を同一の穴で支持することは差し支えない。
【0186】
つぎに、変速制御機構10について説明する。変速制御機構10の変速用第一クラッチ3eに対する構成、作用は、前述の実施形態と同様であるので、変速用第三クラッチ3rとの関係を中心に以下説明する。
【0187】
踏力又はモータの出力による駆動力は、チェーン23から遊星キャリア3cに対して、車軸5の軸方向一方側に設けたリアスプロケット4を介して入力される。一方、変速用第二クラッチ3hは、遊星歯車3bを挟んでリアスプロケット4の反対側に配置されているから、変速制御機構10の操作部10aは、車軸5の軸方向に対して、リアスプロケット4と反対側に配置しやすい。このため、操作部10aの動作機構(図示せず)を、リアスプロケット4の反対側のより広いスペースを利用して配置することができ、装置の構成を簡素化し得る。
【0188】
その操作部10aを軸方向に移動操作することにより、変速用スリーブ10bが軸方向へ移動し、その移動によって、変速用第一クラッチ3eの変速用第一クラッチ部3e−1及び変速用第二クラッチ部3e−2が、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して係合状態又は係合不能状態とに切り替えられる。
すなわち、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して、第一太陽歯車3a−1及び第二太陽歯車3a−2を、それぞれ車軸5周りに相対回転可能または相対回転不能とに切り替えることができる。
【0189】
その変速用第一クラッチ部3e−1及び変速用第二クラッチ部3e−2のそれぞれにおいて、変速用第一爪部3f−1及び変速用第二爪部3f−2は、それぞれ、対応するカム面に対して、係合していない状態から係合した状態への揺動方向がクラッチ軸3k周り逆向きになるクラッチ爪を備えている。その逆向きの各クラッチ爪は、それぞれカム面への係合側の端部(一端)が、図示しない弾性部材によって、そのカム面(変速用第一カム面部3g−1又は変速用第二カム面部3g−2)側に起き上がる方向に負荷を与えられている。一方、その係合側の反対側の端部(他端)は、変速制御機構10における変速用スリーブ10bに接しており、その弾性部材の弾性力に抗して、変速用第一カム面部3g−1又は変速用第二カム面部3g−2側に起き上がるのが抑制されている(例えば、図12(b)(c)参照)。
【0190】
また、図19(b)(c)は、変速用第一爪部3f−1と変速用第二爪部3f−2のうち、変速用第一爪部3f−1のみが係合可能状態で、その変速用第一爪部3f−1が実際に起き上がって係合している状態を示しており、図21(b)(c)及び図23(b)(c)は、変速用第一爪部3f−1と変速用第二爪部3f−2のうち、変速用第二爪部3f−2のみが係合可能状態で、その変速用第二爪部3f−2が実際に起き上がって係合している状態を示している。
【0191】
操作部10aを軸方向に移動操作することにより、変速用第三クラッチ切替部10kが軸方向へ移動し、その移動によって、変速用第三クラッチ3rが、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して係合可能状態又は係合不能状態とに切り替えられる。
すなわち、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して、遊星キャリア3cをハブケース7周りに相対回転可能または相対回転不能とに切り替えることができる。
【0192】
その作用について、さらに詳しく説明すると、変速用第三クラッチ3rにおいて、変速用第三クラッチ爪3sは、カム面に対して、係合していない状態から係合した状態への揺動方向がクラッチ軸3m周り逆向きのものが含まれている。その逆向きの各変速用第三クラッチ爪3sは、それぞれ変速用第三クラッチカム面3tへの係合側の端部(一端)が、図示しない弾性部材によって、その変速用第三クラッチカム面3t側に起き上がる方向に負荷を与えられている。一方、その係合側の反対側の端部(他端)は、変速制御機構10における変速用第三クラッチ切替部10kに接しており、その弾性部材の弾性力に抗して、変速用第三クラッチカム面3t側に起き上がるのが抑制されている(例えば、図19(a)参照)。
【0193】
ここで、操作部10aを、車軸5外からの外部操作により軸方向へ移動させると、変速用スリーブ10bとともに変速用第三クラッチ切替部10kも軸方向に移動し、その変速用第三クラッチ切替部10kが、変速用第三クラッチ爪3sの位置、あるいは、その位置から外れた位置に移動する。
【0194】
そうすると、変速用第三クラッチ切替部10kに対面した変速用第三クラッチ爪3sは、その変速用第三クラッチ切替部10kによって拘束され、その一端が、変速用第三クラッチカム面3t側に起き上がらないため、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して係合しない状態となる。また、変速用第三クラッチ切替部10kが、変速用第三クラッチ爪3sの位置から離脱すると、その変速用第三クラッチ切替部10kによる拘束が解除され、その一端が、変速用第三クラッチカム面3t側に起き上がり、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して係合することが可能な状態となる。
【0195】
例えば、図17(a)は、三つの変速用第三クラッチ爪3sの全てが係合可能状態となって、そのうち、遊星キャリア3cとハブケース7との相対回転方向に応じて一部が実際に係合している状態を示しており、図19(a)、図21(a)、図23(a)は、いずれも変速用第三クラッチ爪3sが拘束されて、それぞれ係合不能状態となっているのを示している。ただし、変速用第三クラッチ爪3sは、前述のように、その係合方向が互いに逆向きになるものが含まれて配置されているので、前記係合可能状態であっても、駆動力に対しては、その逆向きの変速用第三クラッチ爪3sのうち、一部の変速用第三クラッチ爪3sのみが係合し、逆入力に対しては、残りの変速用第三クラッチ爪3sのみが係合することとなる。
【0196】
すなわち、変速制御機構10は、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して、その変速用第一クラッチ3eの変速用第一クラッチ部3e−1及び変速用第二クラッチ部3e−2を、係合可能状態又は係合不能状態とに切り替える機能を有している。この切替により、第一太陽歯車3a−1及び第二太陽歯車3a−2を、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して、車軸5周りに相対回転可能または相対回転不能とに切り替えることができる。
【0197】
また、変速制御機構10は、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して、その変速用第三クラッチ3rを係合可能状態又は係合不能状態とに切り替える機能を有している。この切替により、遊星キャリア3cを、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して、ハブケース7周りに相対回転可能または相対回転不能とに切り替えることができる。
【0198】
変速機構3による変速段の切替について具体的に説明すると、例えば、変速用第三クラッチ3rにより、遊星キャリア3cをハブケース7に対して相対回転不能とし、変速用第一クラッチ3eの変速用第一クラッチ部3e−1及び変速用第二クラッチ部3e−2により、第一太陽歯車3a−1及び第二太陽歯車3a−2を車軸5に対して相対回転可能とする。この場合、リアスプロケット4から駆動力が入力されると、遊星キャリア3cを介して遊星歯車3bに駆動力が伝達される。このとき、遊星キャリア3cとハブケース7の伝達部材D(変速用第三クラッチカム面3t)とが一体に回転するため、等速(直結)で駆動力が伝達される。
【0199】
また、変速用第三クラッチ3rにより、遊星キャリア3cをハブケース7に対して相対回転可能とし、変速用第一クラッチ3eの変速用第一クラッチ部3e−1及び変速用第二クラッチ部3e−2により、第一太陽歯車3a−1を車軸5に対して相対回転不能、第二太陽歯車3a−2を車軸5に対して相対回転可能とした場合、第一太陽歯車3a−1の歯数をa、外輪歯車3dの歯数をdとすると、遊星キャリア3cから外輪歯車3dへの増速比は、
(a+d)/d
となる。このとき、第二太陽歯車3a−2は車軸5に対して空転状態であり、トルク伝達に関与しない。また、変速用第三クラッチ3rは、変速制御機構10における変速用第三クラッチ切替部10kによって、強制的に変速用第三クラッチ爪3sが変速用第二クラッチカム面3tに噛み込まない状態にしてある。
【0200】
また、変速用第三クラッチ3rにより、遊星キャリア3cをハブケース7に対して相対回転可能とし、変速用第一クラッチ3eの変速用第一クラッチ部3e−1及び変速用第二クラッチ部3e−2により、第一太陽歯車3a−1を車軸5に対して相対回転可能、第二太陽歯車3a−2を車軸5に対して相対回転不能とした場合、第二太陽歯車3a−2の歯数をa、第一太陽歯車3a−1と噛み合う遊星歯車3bの歯数をb、第二太陽歯車3a−2と噛み合う遊星歯車3bの歯数をc、外輪歯車3dの歯数をdとすると、遊星キャリア3cからハブケース7の伝達部材D(外輪歯車3d)への増速比は、
[(a×b)/(c×d)]+1
となる。このとき、第一太陽歯車3a−1は空転状態であり、トルク伝達に関与しない。
【0201】
すなわち、第一太陽歯車3a−1、第二太陽歯車3a−2は異なる歯数であり、車軸5に対して全てフリー(相対回転可能)として、遊星キャリア3cとハブケース7とを固定するか、遊星キャリア3cとハブケース7をフリーとして車軸5に対していずれか一つの太陽歯車3aを固定(相対回転不能)とすることで増速比を変化させることができる。
【0202】
また、変速制御機構10により、変速用第三クラッチ3rを係合可能状態とし、変速用第一クラッチ3eの変速用第一クラッチ部3e−1、変速用第二クラッチ部3e−2が係合不能状態となっていれば(等速状態)、前進非駆動時において、駆動輪からの逆入力はハブケース7からリアスプロケット4に等速で伝達される。
【0203】
同様に、変速制御機構10により、変速用第三クラッチ3rを係合可能状態とし、変速用第一クラッチ3eの変速用第一クラッチ部3e−1、変速用第二クラッチ部3e−2のうち、変速用第一クラッチ部3e−1のみが係合不能状態となっているとき、第一太陽歯車3a−1は車軸5に固定(相対回転不能)である。
よって、駆動輪からの逆入力が、ハブケース7からリアスプロケット4に伝達されるとき、第一太陽歯車3a−1の歯数をa、外輪歯車3dの歯数をdとすると、減速比は、
(a+d)/d
となる。
【0204】
さらに、変速制御機構10により、変速用第三クラッチ3rを係合可能状態とし、変速用第一クラッチ3eの変速用第一クラッチ部3e−1、変速用第二クラッチ部3e−2のうち、変速用第二クラッチ部3e−2のみが係合不能状態となっているとき、第二太陽歯車3a−2は車軸5に固定(相対回転不能)である。
よって、駆動輪からの逆入力が、ハブケース7からリアスプロケット4に伝達されるとき、第二太陽歯車3a−2の歯数をa、第一太陽歯車3a−1と噛み合う遊星歯車3bの歯数をb、第二太陽歯車3a−2と噛み合う遊星歯車3bの歯数をc、外輪歯車3dの歯数をdとすると、減速比は、
[(a×b)/(c×d)]+1
となる。すなわち、駆動輪からの逆入力は、変速制御機構10により選択された変速段に応じて、駆動力が伝達する経路と同じ経路を逆方向に伝達される。
【0205】
変速1段目(直結)の状態を図16及び図17に示す。この実施形態では、車軸5の軸方向両端のうち、リアスプロケット4を設けた側の反対側に変速制御機構10の操作部10aを配置して装置の構成を簡素化しているが、これを逆方向に配置してもよい。
【0206】
この変速1段目において、変速制御機構10における変速用スリーブ10bによって、変速用第一爪部3f−1及び変速用第二爪部3f−2は、図17(b)(c)に示すように、いずれも変速用スリーブ10bによりその他端が拘束され、係合不能状態となっている。
したがって、第一太陽歯車3a−1及び第二太陽歯車3a−2は、車軸5周りに相対回転可能となっている。
【0207】
また、変速用第三クラッチ3rの変速用第三クラッチ爪3sは、図17(a)に示すように、変速制御機構10における変速用第三クラッチ切替部10kの拘束が解除され係合可能状態となっている。
このため、遊星キャリア3cとハブケース7とは、相対回転不能となっている。
【0208】
この場合、リアスプロケット4からの駆動力は、遊星キャリア3c、変速用第三クラッチ3r、伝達部材D(変速用第三クラッチカム面3t)、ハブケース7の順に等速で伝達される。一方、この状態で、駆動輪からの逆入力が入力されると、変速用第三クラッチ爪3sは変速用第三クラッチカム面3tに係合し、前進駆動時の駆動力伝達経路とは逆方向の経路、すなわち、ハブケース7、伝達部材D(変速用第三クラッチカム面3t)、変速用第三クラッチ3r、遊星キャリア3c、リアスプロケット4の順に等速で伝達される。
【0209】
変速2段目(増速1)の状態を図18及び図19に示す。前記変速1段目の状態から、外部操作により変速制御機構10の操作部10aを、図18で示す矢印の方向へ軸方向のある位置まで押し込むと、変速用スリーブ10bが軸方向にスライドし、変速用第一爪部3f−1の位置に変速用スリーブ10bの切欠部10dが移動する。
【0210】
これにより、変速用第一爪部3f−1は、変速用第一カム面部3g−1に係合可能状態となり、第一太陽歯車3a−1は駆動力及び逆入力のそれぞれに対して車軸5周りに相対回転不能となる。このとき、変速用第二爪部3f−2の駆動力及び逆入力のそれぞれに対する係合不能状態は維持されている。
【0211】
また、このとき、変速用第三クラッチ爪3sは、変速用第三クラッチ切替部10kのテーパ部10mに沿って、伝達部材Dの変速用第三クラッチカム面3tから切り離される。
このため、遊星キャリア3cとハブケース7とは、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して相対回転可能となる。
【0212】
この状態では、リアスプロケット4からの駆動力は、第一太陽歯車3a−1の歯数をa、外輪歯車3dの歯数をdとすると、増速比が、
(a+d)/d
でハブケース7に伝達される。一方、駆動輪からの逆入力は、減速比が、
(a+d)/d
でリアスプロケット4に伝達される。
【0213】
変速3段目(増速2)の状態を図20及び図21に示す。前記変速2段目の状態から、外部操作により変速制御機構10の操作部10aを、図20で示す矢印の方向へ軸方向のある位置までさらに押し込むと、変速用スリーブ10bが軸方向にスライドし、変速用第二爪部3f−2の位置に変速用スリーブ10bの切欠部10dが移動する。
【0214】
変速用第二爪部3f−2は、変速用第二カム面部3g−2に係合可能状態となり、第二太陽歯車3a−2は駆動力及び逆入力のそれぞれに対して車軸5周りに相対回転不能となる。
このとき、変速用第一爪部3f−1の位置にあった変速用スリーブ10bの切欠部10dは、その変速用第一爪部3f−1の位置から離脱する。このため、変速用第一爪部3f−1は、その他端が拘束されて、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して係合不能状態に移行する。
【0215】
また、このとき、遊星キャリア3cとハブケース7とは、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して相対回転可能な状態に維持されている。
【0216】
この状態では、リアスプロケット4からの駆動力は、第二太陽歯車3a−2の歯数をa、第一太陽歯車3a−1と噛み合う遊星歯車3bの歯数をb、第二太陽歯車3a−2と噛み合う遊星歯車3bの歯数をc、外輪歯車3dの歯数をdとすると、増速比が、
[(a×b)/(c×d)]+1
でハブケース7に伝達される。一方、駆動輪からの逆入力は、減速比が、
[(a×b)/(c×d)]+1
でリアスプロケット4に伝達される。
【0217】
変速3段目から2段目に戻す場合や、変速2段目から1段目に戻す場合、操作部10aを押し込む方向の力を解除すれば、あるいは緩めれば、弾性部材10gによって変速用スリーブ10b、変速用第三クラッチ切替部10kが押し戻されるので、容易に変速操作が可能である。
【0218】
このとき、切欠部10dの軸方向端部に設けられたテーパ面10eによって、変速用第一クラッチカム面3gに噛み込んでいる変速用第一爪部3f−1、変速用第二爪部3f−2の他端を押し上げる力が強くなり、変速用スリーブ10bが戻り易くなるため、スムーズな切替が可能となる。
【0219】
また、変速用第三クラッチ3rについても、変速用第三クラッチ切替部10kの軸方向端部に設けられたテーパ部10mによって、変速用第三クラッチカム面3tに噛み込んでいる変速用第三クラッチ爪3tの他端を押し上げる力が強くなり、変速用スリーブ10bが戻り易くなるため、スムーズな切替が可能となる。
【0220】
前進非駆動時(駆動輪からの逆入力時)の状態を図22及び図23に示す。図では、一例として、変速3段目の状態を示している。このとき、変速制御機構10により、変速用第二クラッチ部3e−2のみが係合可能状態となっている。
【0221】
逆入力に対しては、第二太陽歯車3a−2は車軸5に対して駆動方向と逆方向に回転しようとするが、その係合方向が互いに逆向きになるよう設けられた二つの変速用第二爪部3f−2によって、第二太陽歯車3a−2は車軸5周りに相対回転不能となる。他のクラッチ、すなわち、変速用第一クラッチ3eの変速用第一クラッチ部3e−1は、変速制御機構10によって、いずれも係合しない状態に拘束されているため、干渉することはない。よって、駆動輪からの逆入力は、減速比が、
[(a×b)/(c×d)]+1
でリアスプロケット4に伝達される。
【0222】
なお、自転車を手で押して後退する際(後退時)において、変速制御機構10により、いずれの変速段においてもある一ヶ所のクラッチのみ(変速用第一クラッチ3eの変速用第一クラッチ部3e−1、変速用第二クラッチ部3e−2、及び、変速用第三クラッチ3rの三つのクラッチのうち一つ)しか係合可能状態となっていないため、他のクラッチと干渉が起こることはなく、後退が可能である。
【0223】
なお、他の実施形態として、変速用第一クラッチ3eの変速用第一クラッチ部3e−1及び変速用第二クラッチ部3e−2における変速用第一爪部3f−1、変速用第二爪部3f−2を、それぞれ第一太陽歯車3a−1及び第二太陽歯車3a−2の内面に設け、変速用第一カム面部3g−1、変速用第二カム面部3g−2を車軸5の外面に設けた構成を採用することもできる。
【0224】
この構成において、例えば、変速用第一爪部3f−1、変速用第二爪部3f−2は、それぞれ第一太陽歯車3a−1、第二太陽歯車3a−2の内面に少なくとも二つ設けられ、前述の実施形態と同様、その変速用第一爪部3f−1、変速用第二爪部3f−2は、互いに太陽歯車3aと車軸5との逆方向の相対回転に対してそれぞれ係合可能な、つまり、逆方向に係合可能なクラッチ爪を含んだ構成とすることができる。
【0225】
この実施形態の場合、変速用第一クラッチカム面3gの溝数は確保し難くなるが、車軸5の構造をシンプルとし得る。
【0226】
また、変速制御機構10として、車軸5内を通して軸方向に移動操作することにより切り替える方式を採用しているが、車軸5周りに操作部を回転(揺動)操作することにより切り替える方式など、既知の自転車の変速機構を採用することができる。また、遊星歯車3bを2段としているが、1段もしくは3段以上の遊星歯車を用いても差し支えない。また、車軸5は軸方向に沿って伸びる孔5aが、軸方向片側の端部から空けられており他端は中実となっているが、これを、両端間を結ぶ貫通穴としてもよい。
【0227】
また、これらの実施形態では、ラチェットクラッチで構成された変速用第一クラッチ3eと変速用第三クラッチ3rにおいて、そのラチェットクラッチの各クラッチ爪のクラッチカム面への噛合を、変速用スリーブ10bや変速用第三クラッチ切替部10kによって係合できる状態と係合できない状態とに切り替える方式を採用したが、車軸5と太陽歯車3aとの間のクラッチや、遊星キャリア3cとハブケース7との間のクラッチを係合できる状態と係合できない状態とに切り替える手段としては、これらの実施形態の変速用スリーブ10bや変速用第三クラッチ切替部10k以外の他の構成を採用してもよい。
【0228】
また、この実施形態では、変速用第一クラッチ3eと変速用第三クラッチ3rは、ラチェットクラッチによって構成されているが、ローラクラッチ、スプラグクラッチ等、他の構成からなるクラッチを採用することもできる。
【符号の説明】
【0229】
1 リアハブ(ハブ)
3 変速機構
3a 太陽歯車
3a−1 第一太陽歯車
3a−2 第二太陽歯車
3b 遊星歯車
3c 遊星キャリア
3d 外輪歯車
3e 変速用第一クラッチ
3e−1 変速用第一クラッチ部
3e−2 変速用第二クラッチ部
3f 変速用第一クラッチ爪
3f−1 変速用第一爪部
3f−2 変速用第二爪部
3g 変速用第一クラッチカム面
3g−1 変速用第一カム面部
3g−2 変速用第二カム面部
3h 変速用第二クラッチ
3i 変速用第二クラッチ爪
3j 変速用第二クラッチカム面
3k,3n 揺動軸(クラッチ軸)
3m,3m’ 遊星歯車軸(クラッチ軸)
3p 筒状部材
3q 軸穴
3r 変速用第三クラッチ
3s 変速用第三クラッチ爪
3t 変速用第三クラッチカム面
4 リアスプロケット(スプロケット)
5 車軸
5a 孔
6 ハブフランジ
7 ハブケース
10 変速制御機構
10a 操作部
10b 変速用スリーブ
10d 切欠部
10e テーパ面
10f ピン
10g 弾性部材
10h 横穴
10i 変速用第二クラッチ切替部
10j テーパ部
10k 変速用第三クラッチ切替部
10m テーパ部
13,14 軸受部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪と後輪とを結ぶフレームに二次電池及び補助駆動用のモータを取り付け、クランク軸から伝達された踏力又は前記モータの出力による駆動力を駆動力伝達要素を介して駆動輪に伝達可能とし、前進非駆動時には、駆動輪からモータの出力軸への逆入力により生じた回生電力を二次電池に還元する回生機構を備え、駆動輪に設けたハブ(1)内部に遊星歯車機構によって構成された変速機構(3)を備えており、前記変速機構(3)は、前記駆動輪の車軸(5)周りに設けられた太陽歯車(3a)と、その太陽歯車(3a)に噛み合う遊星歯車(3b)、及びその遊星歯車(3b)を保持する遊星キャリア(3c)を有し、ハブケース(7)は、前記遊星歯車(3b)に噛み合う外輪歯車(3d)と一体に回転するようになっており、前記変速機構(3)は、前進駆動時に、踏力又はモータの出力による駆動力が、前記駆動力伝達要素から前記遊星歯車機構を通じて駆動輪と一体に回転するように設けられたハブケース(7)に伝達され、前進非駆動時には、駆動輪からの逆入力は、前記ハブケース(7)から前記遊星歯車機構を通じて前記駆動力伝達要素に伝達されるようになっており、前記太陽歯車(3a)、前記遊星歯車(3b)、前記外輪歯車(3d)の少なくとも一つの歯車をその歯車の半径方向へ可動としたことを特徴とする電動補助自転車。
【請求項2】
前記可動とした歯車とそれに噛み合う歯車との間に、その可動とした歯車を半径方向へ不動とした場合に設定される寸法よりも大きいバックラッシを設けたことを特徴とする請求項1に記載の電動補助自転車。
【請求項3】
前記可動とした歯車には少なくとも前記太陽歯車(3a)が含まれ、その太陽歯車(3a)は、前記遊星車軸(5)に対して隙間又は弾性体を介在して可動とされていることを特徴とする請求項1又は2に記載の電動補助自転車。
【請求項4】
前記可動とした歯車には少なくとも前記遊星歯車(3b)が含まれ、その遊星歯車(3b)は、前記遊星キャリア(3c)に対して隙間又は弾性体を介在して可動とされていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載の電動補助自転車。
【請求項5】
前記可動とした歯車には少なくとも前記外輪歯車(3d)が含まれ、その外輪歯車(3d)は、前記ハブケース(7)に対して隙間又は弾性体を介在して可動とされていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載の電動補助自転車。
【請求項6】
前記ハブ(1)内部に変速制御機構(10)を備え、前記変速機構(3)は、前進駆動時に、踏力又はモータの出力による駆動力が前記駆動力伝達要素から前記遊星キャリア(3c)に入力されて前記遊星キャリア(3c)から駆動輪に等速以上で伝達される増速型であり、前記変速機構(3)は、前記変速制御機構(10)により、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して前記各太陽歯車(3a)をクラッチを介して前記車軸(5)周りに相対回転可能または相対回転不能とに切り替えることにより変速する機能を有し、前進非駆動時には、駆動輪からの逆入力は、前記変速機構(3)のいずれの変速段においても前進駆動時の駆動力伝達経路と逆向きに伝達されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載の電動補助自転車。
【請求項7】
前記遊星歯車(3b)は歯数の異なる複数の歯車部を有し、前記太陽歯車(3a)は前記歯車部と同数設けられてその各太陽歯車(3a)が前記歯車部にそれぞれ噛み合っており、前記クラッチとして、前記各太陽歯車(3a)と前記車軸(5)の間にはそれぞれ変速用第一クラッチ(3e)が設けられ、前記変速制御機構(10)は、前記各変速用第一クラッチ(3e)をそれぞれ係合可能状態又は係合不能状態とに切り替えることで、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して前記各太陽歯車(3a)を前記車軸(5)周りに相対回転可能または相対回転不能とに切り替え可能であることを特徴とする請求項6に記載の電動補助自転車。
【請求項8】
前記遊星キャリア(3c)と前記太陽歯車(3a)との間には変速用第二クラッチ(3h)が設けられ、前記変速制御機構(10)は、前記変速用第二クラッチ(3h)を係合可能状態又は係合不能状態とに切り替えることで、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して前記遊星キャリア(3c)を前記太陽歯車(3a)周りに相対回転可能または相対回転不能とに切り替え可能であることを特徴とする請求項6又は7に記載の電動補助自転車。
【請求項9】
前記遊星キャリア(3c)と前記ハブケース(7)との間には変速用第三クラッチ(3r)が設けられ、前記変速制御機構(10)は、前記変速用第一クラッチ(3e)及び前記変速用第三クラッチ(3r)を切り替えることによって、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して前記太陽歯車(3a)を前記車軸(5)周りに相対回転可能または相対回転不能とに、及び、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して前記遊星キャリア(3c)を前記ハブケース(7)周りに相対回転可能または相対回転不能とに切り替え可能であることを特徴とする請求項6又は7に記載の電動補助自転車。
【請求項10】
前記各変速用第一クラッチ(3e)は、1つの係合子が駆動力と逆入力の両方に対して係合可能である構造を有する請求項7に記載の電動補助自転車。
【請求項11】
前記各変速用第一クラッチ(3e)は、複数の係合子を有し、少なくとも1つの係合子が駆動力に対して係合可能であり、少なくとも1つの係合子が逆入力に対して係合可能である構造を有する請求項7に記載の電動補助自転車。
【請求項12】
前記変速用第一クラッチ(3e)がラチェットクラッチによって構成されていることを特徴とする請求項11に記載の電動補助自転車。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate


【公開番号】特開2012−86625(P2012−86625A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233574(P2010−233574)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】