説明

電動過給機の制御装置

【課題】自動車の加速時にスムーズなエンジントルク特性を実現する電動過給機の制御装置を得る。
【解決手段】電動過給機の制御装置は、少なくともエンジンを過給するコンプレッサを有し、前記コンプレッサを有する軸にコアが一体化されるモータを備える電動過給機を制御する電動過給機の制御装置において、前記モータに流れるモータ電流を検出する電流センサと、前記モータ電流値を制御して外部から入力される電流指令値および速度制限値を満たす速度指令値を出力する電流制御器と、前記モータ電流値を制御して前記速度指令値を満たす電圧指令値を出力する速度制御器と、前記電圧指令値に対応する電流を前記モータに流すインバータとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動機により駆動されるターボチャージャを有する電動過給機の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、排気ガスで駆動されるタービンと吸気ガスを圧縮するコンプレッサが軸により連結されるターボチャージャに軸にロータを一体化して配置する超高速回転することができる電動機を備えることにより、エンジンの吸入空気をターボチャージャで圧縮して高出力を得ようとする場合におけるターボチャージャの低速回転域での過給圧の立ち遅れを解決した電動ターボシステムが提案されている(例えば、非特許文献1、非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】茨木 誠一、他4名、「電動アシストターボチャージャ”ハイブリッドターボ”の開発」、三菱重工技報、三菱重工株式会社、2006年9月、第43巻、第3号、p.36−40
【非特許文献2】高田 陽介、他4名、「ターボチャージャ用220000r/min − 2kW PMモータ駆動システム」、平成16年電気学会産業応用部門大会講演論文集、社団法人電気学会、平成16年9月、第1分冊、p.155−160
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなターボチャージャを有する電動過給機の制御装置にあっては、電動過給機の電動機の温度上昇、電動過給機のインバータの温度上昇、あるいはバッテリなどの車載電源系の電力供給容量の制限により、電動過給機の連続運転時間が制限される。
また、電動過給機の回転数は22万rpmまで上昇するため、電動過給機の制御装置の演算処理装置の処理能力が低い場合、演算処理速度が間に合わなくなり、制御上は数万rpmで電動機によるアシストを止めるような制御を行う必要がある。モータアシストを急に止めると、エンジンの過給圧が急激に下がるため、エンジン出力が瞬間的に下がり、自動車の加速中に運転者が違和感を感じるといった問題点があった。自動車の加速トルクのスムーズ感が車の質感(高級感)に影響を与えるため、上述の急激なエンジントルク低下はできるだけ低減する必要がある。
【0005】
この発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、自動車の加速時にスムーズなエンジントルク特性を実現する電動過給機の制御装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る電動過給機の制御装置は、少なくともエンジンを過給するコンプレッサを有し、前記コンプレッサを有する軸にコアが一体化されるモータを備える電動過給機を制御する電動過給機の制御装置において、前記モータに流れるモータ電流を検出する電流センサと、前記モータ電流値を制御して外部から入力される電流指令値および速度制限値を満たす速度指令値を出力する電流制御器と、前記モータ電流値を制御して前記速度指令値を満たす電圧指令値を出力する速度制御器と、前記電圧指令値に対応する電流を前記モータに流すインバータとを有する。
【発明の効果】
【0007】
この発明に係る電動過給機の制御装置は、速度制限値に到達したときに、排ガストルクが上昇してモータ電流が電流閾値以下になるまでは一定回転を保持するようにモータ6を制御することで、モータ速度の落ち込みが抑制されるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明の実施の形態1に係る電動過給機の構成を示す構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係るモータ停止判定器で実行されるモータ停止フラグセットルーチンの手順を示すフローチャートである。
【図3】この発明の実施の形態1に係るモータ停止判定器で実行されるモータ停止フラグリセットルーチンの手順を示すフローチャートである。
【図4】ステップ状に増加する電流指令値を与えたときにモータに流れる電流および速度制限値に対するモータの速度の変化を示す。
【図5】従来の電動過給機の構成を示す構成図である。
【図6】モータに通電して急加速させ、モータの回転数がモータ停止回転数まで到達したときに、電動過給機の制御装置による制御を停止したときのモータの回転数の時系列データである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の電動過給機の制御装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係る電動過給機の構成を示す構成図である。
この発明の実施の形態1に係る電動過給機は、図1に示すように、エンジン1の吸気管2の内部に設置されるコンプレッサ3、エンジン1の排気管4の内部に設置されるタービン5、コンプレッサ3にタービン5を軸結する軸の中間でコアがその軸と一体化されるモータ6、及び、モータ6に流す電流を制御する制御装置7を備える。
コンプレッサ3は、回転することにより吸気管2を介して強制的にエンジン1に空気を送り込む。
タービン5は、エンジン1から排気される排ガスの流体力により回転される。
そして、コンプレッサ3にタービン5が軸結されているので、タービン5の回転によりコンプレッサ3が回転され、エンジン1からの排ガスにより空気が過給される。
【0010】
モータ6は、制御装置7によって駆動される。通常は、自動車を運転しているドライバのアクセル(図示省略)の踏み込み量に応じて排ガス量が増加し、排ガス量が増加することによりタービン5の回転数が上昇し、それに伴ってコンプレッサ3の回転数が上昇することにより、コンプレッサ3による過給圧も増加する。
【0011】
モータ6を駆動しないとしたときには、エンジン1の吸入空気量が増えれば、排気量が大きいエンジンと同じ効果が得られるため、エンジン1の出力が増加する。逆に、エンジン1からの排ガス量が少ない領域では過給が十分行えないため、エンジン1の出力トルクの増加が遅れる、いわゆるターボラグを生じることになる。
【0012】
一方、モータ6を駆動するとしたときには、タービン5から得られる排ガスのエネルギに加えて、モータ6を駆動することによって得られるエネルギがコンプレッサ3に作用することによって、エンジン1の排ガス量が少ない領域でもエンジン1を過給することが可能である。モータ6の回転数の立ち上がりを早めることによって、ターボラグを解消することができることが電動過給機を用いる大きな理由の1つとなっている。
【0013】
ところで、電動過給機に用いられるモータ6には、一般に位置センサの配置が困難なため、位置センサレス制御が用いられる。位置センサレス制御としては、特開2003−259680号公報(以下、参考文献1と称す)に開示されているように、モータ6に供給する電流のモータ電流値を検出し、検出したモータ電流値に基づいてモータ6への速度指令値に対応するインバータ8への電圧指令値を速度制御器10によって制御する方式がよく知られている。
【0014】
タービン5とコンプレッサ3自体は、非特許文献2に記載されているように、20万rpmを超える回転数まで回転する。
一方、電動過給機の制御装置7でモータ6を駆動する回転数はせいぜい12万rpm〜16万rpm程度が演算処理装置のコストやインバータ損失の観点から現実的である。
このため、回転数に到達した時点で電動過給機の制御装置7の制御を停止するようなことを行った場合には、制御を停止した瞬間にモータ6の回転数が瞬間的に落ち込み、これがエンジン1の瞬間的なトルク低下となり、違和感を運転者が感じるといった問題があった。
【0015】
この発明の実施の形態1に係る制御装置7は、モータ6に流れるモータ電流値を検出する電流センサ9、予め設定された速度制限値、外部から入力される電流指令値及びモータ電流値が入力され、それらに基づいて速度指令値を演算し、演算した速度指令値を出力する電流制御器11、速度指令値及びモータ電流値に基づいて電圧指令値を演算し、演算した電圧指令値を出力する速度制御器10、電圧指令値に基づく電流をモータ6に流すインバータ8、及び、モータ停止判定器12を備える。
【0016】
電流センサ9は、モータ6の各相の巻線に流れるモータ電流値を検出する。
電流制御器11は、電流センサ9からのモータ電流値、エンジン制御装置(図示省略)によって生成されるモータ6への電流指令値、及び、速度制限値が入力され、モータ電流値を制御して電流指令値及び速度制限値を満たす速度指令値を演算し、演算して得た速度指令値を速度制御器10に出力する。
【0017】
速度制御器10は、電流センサ9からのモータ電流値及び電流制御器11からの速度指令値が入力され、モータ電流値を制御して速度指令値を満たす電圧指令値を演算し、演算して得た電圧指令値をインバータ8に出力する。
インバータ8は、電圧指令値に基づいてモータ6の各相の巻線に電流を流す。
【0018】
電流制御器11において行われる速度指令値の演算は、例えば次のような処理を実施する。
モータ6の速度が速度制限値以下のときには、電流制御器11は式(1)の演算を行って得た速度指令値を出力する。
モータ6の速度が速度制限値を超えたときには、電流制御器11は速度指令値として速度制限値を出力する。
【0019】
【数1】

【0020】
モータ停止判定器12は、CPU、ROM、RAM、インターフェース回路を有するコンピュータから構成されており、電流制御器11から出力される速度指令値、電流センサ9から出力されるモータ電流値および図示しないリセットボタンから入力されるリセット要求信号が入力され、速度指令値、モータ電流値およびリセット要求信号に基づいてモータ停止フラグに「1」または「0」をセットし、セットしたモータ停止フラグの「1」または「0」をインバータ8、速度制御器10、電流制御器11に与える。
【0021】
図2は、この発明の実施の形態1に係るモータ停止判定器12で実行されるモータ停止フラグセットルーチンの手順を示すフローチャートである。
次に、モータ停止判定器12で実行されるモータ停止フラグセットルーチンの手順を説明する。
電動過給機が起動されると、モータ停止フラグセットルーチンが周期的に開始される。
モータ停止フラグセットルーチンが開始されると、ステップS1において、モータ電流値および速度指令値を読み込む。
次に、ステップS2において、速度指令値が予め設定した速度制限値以上か、否かを判断し、速度指令値が速度制限値以上の場合ステップS3に進み、速度指令値が速度制限値未満の場合モータ停止フラグセットルーチンを終了する。
ステップS3において、モータ電流値が予め設定したモータ電流閾値以下か、否かを判断し、モータ電流値がモータ電流閾値以下の場合ステップS4に進み、モータ電流値がモータ電流閾値を超えている場合モータ停止フラグセットルーチンを終了する。
ステップS4において、モータ停止フラグに「1」をセットし、モータ停止フラグセットルーチンを終了する。
【0022】
図3は、この発明の実施の形態1に係るモータ停止判定器12で実行されるモータ停止フラグリセットルーチンの手順を示すフローチャートである。
前後のモータ停止フラグセットルーチンの間でモータ停止フラグリセットルーチンが開始される。
モータ停止フラグリセットルーチンが開始されると、ステップS11において、リセット要求信号が入力されたか、否かを判断し、リセット要求信号が入力された場合ステップS12に進み、リセット要求信号が入力されていない場合モータ停止フラグリセットルーチンを終了する。
ステップS12において、モータ停止フラグに「0」をセットし、モータ停止フラグリセットルーチンを終了する。
【0023】
ステップ状に増減する電流指令値を与えたときにモータ6に流れる電流を図4(a)、速度制限値に対するモータ6の速度を図4(b)に示す。
電流制御器11の動作によって、モータ6の速度が速度制限値に達するまでは電流指令に沿うように電流が応答する。
モータ6の速度が速度制限値に到達するときには、モータ6の速度が速度制限値に漸近するように変化する。
図4では、モータ6の速度が速度制限値に到達した後、排ガスのアシストトルクが増えてくると、モータ6に流れる電流が小さくなり、モータ6に流れる電流がモータ電流閾値以下になったときにモータ6への通電がオフされる。
【0024】
なお、本発明の実施の形態1に係る電動過給機の制御装置7は、タービンを有さないモータとコンプレッサとを組み合わせた電動過給機にも適用可能である。電流閾値については、コンプレッサを速度制限値まで回すのに必要な電流値よりも十分小さく設定することで、モータ6の速度が速度制限値に達するまでは電流指令に沿うように電流が応答し、モータ6の速度が速度制限値に達すると、モータ6の速度が速度制限値に沿うように電流制御器11が速度指令を出力するようにできる。このようにすることによって、タービンを有さないモータとコンプレッサとを組み合わせた電動過給機をコンプレッサ負荷に応じて最大加速で回転数を上昇させることが可能となり、過給機の応答遅れが短縮できる利点もある。
【0025】
この発明の実施の形態1に係る電動過給機の制御装置7の効果を明らかにするために、従来の電動過給機の制御装置13と比較する。
図5は、従来の電動過給機の構成を示す図である。
従来の電動過給機は、この発明の実施の形態1に係る電動過給機と制御装置13が異なりそれ以外は同様である。そして、制御装置13は、制御装置7から電流制御器11とモータ停止判定器12を削除したことが異なっている。
【0026】
図6の破線は従来の電動過給機のモータ6の応答であり、モータ6に通電して急加速させ、モータ6の回転数がモータ停止回転数まで到達したときに、電動過給機の制御装置13による制御を停止したときのモータ6の回転数の時系列データである。
モータ6の回転数がモータ停止回転数に到達したときに、モータ6の回転数が一瞬落ち込んでおり、これにより、エンジン1の過給圧が低下し、エンジン1のトルク出力が落ちることが容易に想像できる。
【0027】
一方、本発明のモータ停止判定器12を適用したときのモータ6の速度応答を図6の実線に示す。速度制限値に到達したときに、排ガストルクが上昇してモータ電流が電流閾値以下になるまでは一定回転を保持するようにモータ6を制御することで、モータ速度の落ち込みが抑制されている。
【0028】
この発明の実施の形態1に係る電動過給機の制御装置7は、電流センサ9で検出したモータ電流値を外部から入力される電流指令値および速度制限値を満たすように制御して速度制御器10に入力する速度指令値を出力するようにし、目標速度まで、所望のモータ電流で発生し得るトルクで加速できるので、モータ6の温度、インバータ8の温度、バッテリの状態に応じた電流で目標速度まで加速でき、インバータ8、モータ6、バッテリの故障を防止することが可能となる。
【符号の説明】
【0029】
1 エンジン、2 吸気管、3 コンプレッサ、4 排気管、5 タービン、6 モータ、7、13 制御装置、8 インバータ、9 電流センサ、10 速度制御器、11 電流制御器、12 モータ停止判定器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともエンジンを過給するコンプレッサを有し、前記コンプレッサを有する軸にコアが一体化されるモータを備える電動過給機を制御する電動過給機の制御装置において、
前記モータに流れるモータ電流を検出する電流センサと、
前記モータ電流値を制御して外部から入力される電流指令値および速度制限値を満たす速度指令値を出力する電流制御器と、
前記モータ電流値を制御して前記速度指令値を満たす電圧指令値を出力する速度制御器と、
前記電圧指令値に対応する電流を前記モータに流すインバータと
を有することを特徴とする電動過給機の制御装置。
【請求項2】
前記モータ電流値が所定の閾値を下回ったときに前記電流制御器、前記速度制御器、およびインバータの動作を停止するモータ停止判定器を有することを特徴とする請求項1に記載の電動過給機の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−127332(P2012−127332A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282109(P2010−282109)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】