電圧形電力変換器のEMI抑制回路
【課題】 電圧形電力変換器の高速スイッチングにより発生するコモンモード電流を抑制するEMI抑制回路であって、電力損失を軽減し、かつ接地線に流れるコモンモード電流を効果的に低減することができる電圧形電力変換器のEMI抑制回路を提供する。
【解決手段】 電源装置1、電圧形電力変換器3および負荷としてモータ4で構成される電気回路において、電圧形電力変換器3のシャーシに接地線9を接続して1次2次側結合トランス(WLT:Winding-Linked-Transformer)10を介して大地に接地し、同様に、モータ4のフレームに接地線11を接続してWLT12を介して接地することで、接地線に流れるコモンモード電流を高インピーダンスのWLTで抑制してEMIノイズを軽減する。
【解決手段】 電源装置1、電圧形電力変換器3および負荷としてモータ4で構成される電気回路において、電圧形電力変換器3のシャーシに接地線9を接続して1次2次側結合トランス(WLT:Winding-Linked-Transformer)10を介して大地に接地し、同様に、モータ4のフレームに接地線11を接続してWLT12を介して接地することで、接地線に流れるコモンモード電流を高インピーダンスのWLTで抑制してEMIノイズを軽減する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換器のノイズ抑制回路に関し、電圧形電力変換器、特に新型のZソースインバータを導入した回路におけるコモンモード電流を抑制するEMI抑制回路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費電力の削減のために、電力変換器を使用し可変電圧可変周波数電源でモータを駆動して家庭用電化製品の動作をきめ細かく制御し、省エネルギーを達成する技術が広まっている。また、地球温暖化防止や化石燃料資源枯渇の観点から急速に開発が進んでいる電気自動車においても、その速度制御に電力変換器が重要な役割を果たしている。
【0003】
しかし、高速スイッチング素子の発展に伴い、高速のスイッチング動作により発生し、電力変換器およびモータ負荷側における漂遊容量を通して接地線から電源装置に還流するコモンモード電流が問題となっている。高周波のコモンモード電流が接地線等を通して多くのノイズを発生し、周辺の精密電子機器等を誤作動させる原因となる。したがって、電力変換器の高周波化に伴い、自己および他の電子機器に対する電磁妨害(EMI:electromagnetic interference)の管理がより重要になる。
【0004】
コモンモード電流によるEMIを低減する方法として、コモンモードフィルタを利用する方法、アクティブキャンセラによる方法、コモンモードトランスによる方法など種々のものがある。
【0005】
例えば特許文献1には、コモンモードトランスを整流器とインバータの間の直流部に挿入することにより、トランスの巻線数を減らし、窓面積を節約したコモンモードトランスを挿入した電力変換装置が開示されている。従来のコモンモードトランスは、回路の交流部分に挿入することが一般的であるため、1次巻線に三相の導線を巻き付けなければならない。これに対して、特許文献1に記載された電力変換装置に用いるコモンモードトランスでは、トランスを電力変換装置の直流部分に挿入したことから、1次巻線として巻き付ける巻線を直流電力線2本のみに節約している。これにより、トランスの窓面積を縮小しトランスを小型化している。
【0006】
しかし、特許文献1に開示された発明を含む、従来の一般的なコモンモードトランスでは、2次側に励起された電流を抵抗で消費することによりコモンモード電流を抑制するため、2次側に大きな抵抗を必要とし、抵抗での電力損失を避けることができない。
また、従来発明は、主回路中のコモンモード電流を抑制することを目的としており、接地線から電源装置に還流するコモンモード電流により放射されるEMIノイズを直接抑制する構成とはなっていない。
【0007】
また、近年、電圧形電力変換器の降圧特性及びスイッチング制約を問題としない第3の電力変換器として、Zソースインバータが開発されている。Zソースインバータは、直流リンク部における独特なLCネットワーク及び短絡スイッチング制御(シュートスルー制御:Shoot-Through)を組み合わせることにより、シングルステージでの昇圧制御を可能にし、加えてデットタイム制御を不要のものとしたものである。現在、各方面の注目を集め、各種の研究論文が発表されている。しかし、Zソースインバータにおけるコモンモード電流の解析及びその抑制に関する論文は見あたらない。
【特許文献1】特開2000−060107号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、電圧形電力変換器の高速スイッチングにより発生するコモンモード電流を抑制するEMI抑制回路において、電力損失を軽減し、かつ接地線に流れるコモンモード電流を直接的に低減することができる電圧形電力変換器のEMI抑制回路を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の電圧形電力変換器のEMI抑制回路は、一端が電圧形電力変換器のシャーシに接続され他端が接地されてコモンモード電流の経路となる接地線に、第1巻線と第2巻線が加極性を有する向きに直列に接続された1次2次側結合トランス(WTL)を直列に接続して形成されることを特徴とする。
1次2次側結合トランスは電圧形電力変換器の接地線および負荷の接地線にそれぞれ配すことができる。また、電圧形電力変換器の接地線と負荷の接地線を連結し、かかる連結点と接地点との間に1次2次側結合トランスを挿入してもよい。
【0010】
本発明のEMI抑制回路に利用する電圧形電力変換器は、Zソースインバータであってもよい。本発明のEMI抑制回路は、新型のZソースインバータに対しても、コモンモード電流から発生する電磁妨害を効率的に抑制することができる。
本発明の電圧形電力変換器のEMI抑制回路は、電圧形電力変換器を主要素とする電気回路に高インダクタンスの1次2次側結合トランスを挿入することで、電圧形電力変換器から接地線に流れるコモンモード電流のピーク振幅値および高周波成分を低減する。
【0011】
本発明に使用する1次2次側結合トランスは、電流流路の上流に第1巻線を、下流に第2巻線を加極性を有する向きに接続した形態になっている。従って、第1巻線、第2巻線の自己励磁力および相互インダクタンスがコモンモード電流の振幅の抑止に寄与するため、従来型のコモンモードトランスより高インダクタンスとなり効率的にコモンモード電流のピーク振幅値および高周波成分を低減する。
また、1次2次側結合トランスに抵抗を備えないため、抵抗による電力消費を削減し、電力効率を向上することができる。
【0012】
さらに負荷を備え、負荷に、一端が負荷に接続され他端が接地されている負荷側接地線を配し、負荷側接地線上に負荷側第1巻線と負荷側第2巻線を直列に挿入し、負荷側第1巻線と負荷側第2巻線を加極性に電磁的に結合して負荷側1次2次側結合トランスを形成しても良い。
本形態とすれば、電圧形電力変換器からの高周波電流により駆動されるモータ等から発生し接地線に流れるコモンモード電流も抑制することができる。
【0013】
電圧形電力変換器および負荷に接続された接地線にトランスを挿入しているため、主回路の電流に影響を与えず、電圧形電力変換器および負荷から接地線を通して電源装置に還流するコモンモード電流のみを直接的に抑制することができる。また、電圧形電力変換器、負荷に接続される接地線を連結して1本とし、連結点と接地点の間に1次2次側結合トランスを挿入することで、1台の1次2次側結合トランスで同様の効果を得ることができる。
【0014】
本発明の電圧形電力変換器のEMI抑制回路では、電圧形電力変換器としてZソースインバータを用いても良好なコモンモード電流の抑制効果を得ることができる。また、たとえば負荷が電力系統であっても、同様にコモンモード電流のピーク振幅値および高周波成分を抑制することができる。
なお、負荷のみに本発明の1次2次側結合トランスを備えても、負荷から接地線に流れるコモンモード電流の抑制に効果を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(実施態様1)
以下、図面を用い実施形態に基づいて本発明の電圧形電力変換器のEMI抑制回路を詳細に説明する。
図1は本発明の1実施形態における1実施態様に係る電圧形電力変換器のEMI抑制回路の回路図である。電源装置1がVinの電圧を発生しており、電源装置1は接地線2によって接地されている。電源装置1には電圧形電力変換器3が接続されている。電圧形電力変換器3は、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)とダイオードからなる6個のスイッチング素子5で構成されている。電圧形電力変換器3からインダクタ7、キャパシタ8を介してモータ4が配されている。
【0016】
電圧形電力変換器3の放熱板に接地線9が接続されており、接地線9は1次2次側結合トランス(WLT:Winding-Linked-Transformer)10を介して大地に接地されている。同様に、モータ4のフレームに接地線11が接続されており、負荷用のWLT12を介して大地に接地している。
【0017】
電圧形電力変換器3では、電圧変換部と放熱板間に漂遊キャパシタ(Cs)13が存在し、放熱板は変換器のシャーシに接続されるので、接地線9をシャーシに接続するとコモンモード電流iccが流れる経路ができる。また、負荷側においては、モータ4における内部巻線とフレームの間に漂遊キャパシタ(Cl)14が存在するので、モータフレームに接地線11を接続するとコモンモード電流iclの経路が成立する。また、それぞれの接地線9,11に直列に挿入されたWLT10,12では、コモンモード電流は漂遊キャパシタ側から1次巻線と2次巻線を通って接地点へと流れる。
【0018】
図2は、加極性のWLTを挿入したときのコモンモード電流に係る等価回路図である。WLT10は、接地線の上流に1次巻線20、下流に2次巻線21が電磁的に連結して配されたものであり、1次巻線20と2次巻線21が加極性を有する向きに直列に接続されたトランスである。コモンモード電流等価回路には、1次巻線20の自己インダクタンス22、2次巻線の自己インダクタンス23に加えて相互インダクタンス24が挿入される。図2では、ステップ電圧源の入力電圧をVin/3としている。コモンモード電流icommonは、電圧形電力変換器のスイッチング素子がスイッチングするたびに、コモンモード電流経路を流れる。
【0019】
本実施態様の電圧形電力変換器のEMI抑制回路は、接地線を通して電源装置に還流するコモンモード電流icommonにより発生するEMIノイズを抑制するために、接地線に高インピーダンスのWLTを挿入してコモンモード電流のピーク振幅値と高周波成分を減少させるものである。
後述するように、コモンモード電流流路にインダクタを挿入することで、ピーク振幅値を抑制し低周波数化することができる。本実施態様に用いたWLTは、2個のインダクタの相互インダクタンスを効果的に用いるため、小型のインダクタでも高インピーダンスを得ることができ、効率的にEMIノイズを抑制することができる。また、抵抗に電流を流すことによりコモンモード電流を抑制するものではないため、抵抗での電力損失が少ない。
【0020】
以下、シミュレーションによって本実施態様の電圧形電力変換器のEMI抑制回路のEMI抑制効果を証明する。
図3は、図1に示す本実施態様のEMI抑制回路の適用対象であって、コモンモード電流解析のためのシミュレーションモデルの回路図である。図3に示した回路は、図1の回路からWLTを除いたものになっている。なお、簡便のため図1と同等の各要素に対しては図1と同じ番号を付番している。
【0021】
図3に示したシミュレーションモデル回路において、電圧形電力変換器3のスイッチング素子5がスイッチングするたびに、電圧形電力変換器3の配線のインダクタンス、電力変換部と放熱板間の漂遊キャパシタ(Cs)13および接地線9を通して、コモンモード電流iccが流れる。また、電力変換器3で駆動されるモータ4についても、スイッチング素子5がスイッチングするときに、モータ4の内部巻線とフレーム間の漂遊キャパシタ(Cl)14を通して、大きなコモンモード電流iclが接地線11に流れる。
【0022】
このコモンモード電流は、RLC直列共振回路にステップ状の電圧を印加した場合の減衰振動波形と相似な波形となる。よって、電圧形電力変換器3のスイッチングにより発生するコモンモード電流についての等価回路は、図4で表すことができる。図4では、ステップ電圧源の入力電圧をVin/3としている。図4に示されるRLC直列共振回路におけるコモンモード電流icは伝達関数を用いて下の(1)式で表される。
(1) ic=(Vin/3s)・sCc/(LcCcs2+RcCcs+1)
【0023】
(1)式より、RLC直列共振回路の減衰振動電流icは(2)式で表される。
(2) ic=Vin/{(1−ζ2)1/2Z0}・ε−ζωntsin{(1−ζ2)1/2ωnt}
ここで、ωn=1/(LcCc)1/2、ζ=Rc/2・(Cc/Lc)1/2、Z0=(Lc/Cc)1/2
である。
ωnは固有角周波数すなわち共振角周波数、ζは減衰係数、Z0は特性インピーダンスを意味する。この特性インピーダンスは減衰振動電流の振幅を決定する。減衰係数が小さい(1≫ζ2)場合には、減衰振動電流icは(3)式で表現される。
【0024】
(3) ic≒Vin/Z0・ε−ζωntsinωnt
(3)式より、振動電流のピーク値はVin/Z0で近似できる。このコモンモード電流解析式より、コモンモード電流のピーク振幅値抑制および低周波数化には、コモンモード電流の流れる経路にインピーダンスの大きなインダクタを挿入すればよいことがわかる。
【0025】
以上に基づき、本実施態様のEMI抑制回路を適用する前の、図3に示すシミュレーションモデル回路に流れるコモンモード電流の波形を算出した結果を図5に示す。算出時に使用した各パラメータは図6に示す表のとおりである。
【0026】
図5は、上から、電圧形電力変換器3のスイッチング素子Upのスイッチング動作を示す波形図(図5(a))、スイッチング素子Vpのスイッチング動作を示す波形図(図5(b))、スイッチング素子Wpのスイッチング動作を示す波形図(図5(c))、電圧形電力変換器3に接続された接地線9に流れるコモンモード電流iccの波形図(図5(d))およびその拡大図(図5(e))、モータ4に接続された接地線11に流れるコモンモード電流iclの波形図(図5(f))を表している。
【0027】
図5(d)または図5(e)から、電力変換部のスイッチングに同期して振幅値が大きなコモンモード電流icc,iclが流れることが確認できる。また、スイッチング後は経時と共に振幅が減衰していく振動電流となっており、(2)式における減衰振動電流式に沿った動作となっていることがわかる。
【0028】
図5(d)および図5(f)より、電圧形電力変換器3に接続された接地線9に流れるコモンモード電流iccのピーク振幅値は±3.0A程度、モータ4に接続された接地線11に流れるコモンモード電流iclのピーク振幅値は±0.4A程度と読み取れる。モータ4側のコモンモード電流iclが電圧形電力変換器3側のコモンモード電流iccより小さくなっているのは、モータ4側に接続されているLCフィルタの抑制効果だと考えられる。
【0029】
つぎに、導出したコモンモード電流のシミュレーション式を用い、図3に示す適用対象の回路において、従来技術におけるコモンモードトランス(CMT)を接地線に挿入した場合と、本実施態様のEMI抑制回路におけるWLTを挿入した場合のEMI抑制効果の比較を行う。
【0030】
図7に、従来のCMTを備えたEMI抑制回路の回路図を示す。
図7に示した回路において、電圧形電力変換器3のスイッチング素子5がスイッチングすると、電力変換器3の接地線9を通してコモンモード電流iccが流れ、電圧形電力変換器3で駆動されるモータ4についても、コモンモード電流iclがモータ4の接地線11に流れる。
従来のCMT30は、1次巻線31に対して電磁的に結合する2次巻線32を配し、2次巻線32の両端に抵抗33を接続したものである。接地線9に1次巻線31を直列に接続し、2次巻線32は接地線9と接続せずコモンモード電流iccの流路外に配される。モータ4についても、同様に、接地線11にCMTが設けられる。
【0031】
CMT30のトランス内部の励磁インダクタンスをLt、2次巻線32に接続される抵抗33の抵抗値をRtとすると、図7の回路におけるコモンモード電流に係る等価回路は図8に示したRLC直列共振回路で表される。ただし、1次巻線31と2次巻線32の結合は非常に強いものと考え、漏れインダクタンスは考慮していない。ステップ電圧源の電圧をVin/3とすると、RLC直列共振回路におけるコモンモード電流icは伝達関数を用いて(4)式で表現される。
【0032】
(4) ic=(Vin/3s)・sCc(sLt+Rt)/{LtLcCcs3+(Lt+Lc)RtCcs2+Lts+Rt}
ここで、抵抗Rcは2次側に挿入されるRtと比較し十分小さいため考慮されない。(4)式の特性方程式は、(5)式で表現される。
(5) LtLcCcs3+(Lt+Lc)RtCcs2+Lts+Rt=0
の3次方程式となり、3つの根を持つ。Lt≫Lcであることを考慮すれば、判別式は(6)式で表現される。
(6) D=4/LtLc・Rt4−1/LcCc・Rt2+4/Cc2=0
【0033】
上式をRtについて解くと、
(7) Rt=2Zc0、または、Rt=1/2Zc∞
となる。したがって、抵抗Rtの大きさを適切な値に設定することでコモンモード電流の振舞いを変化させることが可能となることが分かる。
【0034】
ここで、Zc0とZc∞はそれぞれ、Rt=0およびRt=∞の場合の特性インピーダンスを意味し、Zc0=(Lc/Cc)1/2、Zc∞=(Lt/Cc)1/2である。
Rt=0〜2Zc0の場合(I)、コモンモード電流は高周波の減衰振動波形となり、Rt=2Zc0〜1/2Zc∞の場合(II)は指数関数状の波形、Rt>1/2Zc∞の場合(III)は低周波の振動波形となる。(III)の場合におけるコモンモード電流のピーク値低減効果は大きいが、振動周波数の減衰効果が低いため実効値計算において、(II)の場合と比較し大きくなる。したがって、CMTでは(II)の場合を選択し、抵抗Rtの値をRt=2Zc0〜1/2Zc∞となるように調整する。
【0035】
図9にCMTを用いたEMI抑制回路のコモンモード電流の波形図を示す。パラメータは図34の表のものを用い、Rtを500Ω、CMTにおける例示インダクタンスLtを17.1mHとしている。図9(a)は電圧形電力変換器3に接続された接地線9におけるコモンモード電流の波形図であり、図9(b)はその拡大図である。図9(c)はモータ4に接続された接地線11におけるコモンモード電流の波形図であり、図9(d)はその拡大図である。
【0036】
図9(b)(d)より、コモンモード電流が指数関数状の波形となっていることがわかる。図5に示したCMTを挿入しない状態のコモンモード電流と比較すると、およそ3Aおよび0.4Aの振動ピーク電流値を持つ電力変換側および負荷側におけるコモンモード電流が、CMT接続によりそれぞれ0.1Aおよび0.05Aまで低減され、低周波数化されている。
【0037】
続いて、本実施態様の電圧形電力変換器のEMI抑制回路でのコモンモード電流の振幅・高周波抑制効果を示す。本実施態様のEMI抑制回路の回路図は図1に、コモンモード電流流路の等価回路図は図2に示したとおりである。
【0038】
図2に示す等価回路はRLCの直列共振回路であるため、解析式は(2)式と同じものとなる。すなわち、コモンモード電流icは下の(8)式で表される。
(8) ic=Vin/{(1−ζ2)1/2Z0}・ε−ζωntsin{(1−ζ2)1/2ωnt}
ここで、ωn=1/{(Lc+2M+L1+L2)Cn}1/2、
ζ=Rc/2・{Cc/(Lc+2M+L1+L2)}1/2、
Z0={(Lc+2M+L1+L2)/Cc}1/2
である。
【0039】
上式より、WLTの接続回路は、1次側および2次側自己インダクタンスに加え、相互インダクタンス2MをRLC直列共振回路のインダクタンス要素として扱うことができる。つまり、(2)式に示された振動電流式におけるインダクタンスLにおいて、L1およびL2に加え相互インダクタンス2Mが高周波振動電流のピーク振幅値および周波数の低減に寄与する点でCMT接続による抑制回路とは抑制原理が異なる。
【0040】
図6の表に記載したパラメータを用い上式により算出した、本実施態様のEMI抑制回路におけるコモンモード電流の波形を図10に示す。図10(a)は電圧形電力変換器3に接続された接地線9に流れるコモンモード電流iccの波形図であり、図10(b)はその拡大図、図10(c)はモータ4に接続された接地線11に流れるコモンモード電流iclの波形図であり、図10(d)はその拡大図である。なお、励磁インダクタンスLtはCMTと同様に17.1mHとしている。
【0041】
図10(b)より、電圧形電力変換器3側ではコモンモード電流iccの振幅値が図5で得られた約3Aから約0.05Aに低減され、周波数が約500kHzから約5kHzの振動電流になっていることが確認できる。また、図10(d)によれば、モータ4側ではコモンモード電流iclのピーク振幅が図5における約0.4Aから約0.1Aに、周波数が約500kHzから約5kHzになっている。
【0042】
図9に示されたCMTの効果と図10に示された本実施態様のWLTとを比較すると、電圧形電力変換器3側では、CMTを挿入した場合のピーク振幅値が約0.1Aに対して、WLTの場合は約0.05A、モータ4側ではCMTが約0.05Aに対して、WLTが約0.1Aと、ほぼ同等のピーク振幅値抑制効果を持つことが確認できる。また、双方ともに、接地線に挿入したトランスにより高調波成分はほぼ完全に除去できることが分かる。
【0043】
さらに、それぞれのコモンモード電流の波形を比較すると、CMTの場合は指数関数状で時間変化率が大きな波形になっているのに対し、WLTでは、高周波成分が消滅して正弦波に近い波形となっており、低周波数化効果においてはWLTの方が優れていることがわかる。
【0044】
以上のように、本実施態様の電圧形電力変換器のEMI抑制回路は、電圧形電力変換器およびモータからグラウンドに接続する接地線にWLTを挿入することで、コモンモード電流のピーク振幅値と高調波成分を抑制することができる。特に、高調波成分の抑制に関しては、従来型のCMTに比べて効果が高い。また、本実施態様に用いたWLTは抵抗を使用しないため、新たな電力消費が発生せず、電力効率の点でも優れている。
【0045】
(実施態様2)
図11は本実施形態における第2の実施態様に係る電圧形電力変換器のEMI抑制回路の回路図である。図1に示した第1実施態様のEMI抑制回路では、電圧形電力変換器に接続した接地線と、モータに接続した接地線はそれぞれ独立に1次2次側結合トランス(WLT)を介して大地に接地されているが、図11に示した本実施態様のEMI抑制回路は、電圧形電力変換器3のシャーシに接続された接地線9とモータ4のフレームに接続された接地線11が連結点41で連結され、1本の接地線42として大地に接地している。連結点41と大地との間にWLT43が挿入されている。コモンモード電流は電圧形電力変換器3側と負荷であるモータ4側のコモンモード電流が合成された一括コモンモード電流ictとしてWLT43を流れる。
【0046】
図12は、本実施態様の電圧形電力変換器のEMI抑制回路の効果を示す図面である。図12(a)は、WLT43に流れる一括コモンモード電流ictの波形図であり、図12(b)はその拡大図である。
電力変換器3側とモータ4側の接地線がそれぞれ接地されている場合と比較すると、二つの接地線が接続されて1本の接地線として大地に接地される場合の方が、スイッチング信号と同期したピーク電流及び衰退時における振動電流の周波数の低下が大きい。それぞれのコモンモード電流が合流して一括コモンモード電流ictとなるからである。一括コモンモード電流ictの流れる1本の接地線42にWLT43を適用することにより、図12に見るように、一括コモンモード電流ictの電流波形はさらに振幅が小さくなり周波数が低くなる。
このように、電力変換器3側とモータ4側の接地線を連結して連結点41より下流にWLT43を挿入することで、コモンモード電流をより効果的に抑制することが可能になるばかりか、WLTの個数を節約し、回路の規模を縮小することができる。
【0047】
(実施態様3)
図13は本実施形態における第3の実施態様に係る電圧形電力変換器のEMI抑制回路の回路図である。本実施態様における電圧形電力変換器3は、電源装置1と電圧形電力変換器3の間にLCネットワーク部50が形成されたZソースインバータとなっている。また、電圧形電力変換器3のシャーシに接続された接地線9とモータ4のフレームに接続された接地線11が連結点41で連結され、1本の接地線42としてWLT43を介して接地している。2つの接地線9,11が連結した後の接地線42には電力変換器側のコモンモード電流とモータ側のコモンモード電流が合流した一括コモンモード電流ictが流れる。
【0048】
本実施態様の電圧形電力変換器のEMI抑制回路をZソースインバータに対して用いたときのシミュレーション結果を図14に示す。図14(a)は、WLT43に流れる一括コモンモード電流ictの波形図であり、図14(b)はその拡大図である。
また、比較のために、コモンモード電流抑制のための付加回路を備えない状態の図15に示すシミュレーションモデル回路におけるコモンモード電流の波形図を図16に示し、さらにCMTを備えたEMI抑制回路を適用した図17に示す回路におけるコモンモード電流の波形を図18に示す。
【0049】
図16(a)(b)(c)はそれぞれ、スイッチング素子Vp、Up、Wpのスイッチング動作を示す電流値のグラフであり、図16(d)はZソースインバータに特徴的なシュートスルー動作の動作状態を示す波形図である。また、図16(e)は接地線を流れるコモンモード電流の波形図であり、図16(f)はその拡大図である。
図16から、Zソースインバータを用いたモータ負荷回路では、シュートスルー動作の際に1.5〜2.5A程度のピーク振幅が現れ、電圧形電力変換器を用いた回路と同様、500kHz程度の高調波成分を含んでいることが確認できる。
【0050】
図18(a)は図17に示すCMTを備えたEMI抑制回路のCMT部を流れるコモンモード電流の波形図であり、図18(b)はその拡大図である。なお、各グラフ描出のために用いたシミュレーション式は第1実施態様のものと同一であり、パラメータは図6の表に記載の通りである。
【0051】
Zソースインバータを用いたモータ負荷回路において、図13、図15および図17に基づいて、EMI抑制回路が付属しない場合(図14)に対して、この回路にCMTを用いたEMI抑制回路(図16)を適用した場合とWLTを用いたEMI抑制回路(図12)を適用した場合についてコモンモード電流抑制効果を比較すると、コモンモード電流のピーク振幅値が、EMI抑制回路のついていないもので約2.5AであったものをCMTの挿入により約0.5Aに抑制することができるが、さらに、CMTに代えてWLTを用いることにより約0.05Aまで抑制されることがわかる。
【0052】
また、低周波数化効果においても、CMTでは図17に見られるように約500kHzのコモンモード電流を数10kHzに低周波数化しているが、図11に表したWLTではさらに数kHzまで低周波数化できていることが確認できた。また、波形についてもCMTでは指数関数状の時間変化率が高い波形になっているが、WLTではピークが穏やかな波形となっている。
以上のように、Zソースインバータを用いたモータ負荷回路においては、従来型のCMTに比較して、ピーク振幅値の抑制、波形の低周波数化の両方において本実施態様のWLTを利用したEMI抑制回路が遥かに優れていることがわかる。
【0053】
また、本実施態様のEMI抑制回路では、電圧形電力変換器に接続した接地線と、モータに接続した接地線を連結点で結線して1本とし、連結後の接地線にWLTを挿入しているが、それぞれの接地線にWLTを挿入した場合に比べても良好なコモンモード電流の抑制効果を得ることが可能である。したがって、接地線を連結して連結点より下流にWLTを挿入することで、WLTの個数を節約し、回路の規模を縮小することができる。
【0054】
以上の各実施態様について見たとおり、本実施形態の電圧形電力変換器のEMI抑制回路によれば、電圧形電力変換器およびZソースインバータを用いたモータ負荷回路において、WLTを挿入することにより、接地線を通して電源装置に還流するコモンモード電流のピーク振幅値および高周波数成分を低減し、コモンモード電流から発生するEMIノイズを効果的に抑制することができる。
上記のシミュレーションにより、1次2次側結合トランス(WLT)を各接地線側に接続することで、コモンモード電流の最大ピーク振幅値を1/20〜1/40に抑制し、高周波成分の周波数をおよそ1/100に低減することが可能であることを確認した。
【0055】
なお、上記各実施態様は本発明の電圧形電力変換器のEMI抑制回路の実施形態の1つについて示したものに過ぎず、別の実施態様の抑制回路を形成することもできることは言うまでもない。たとえば、Zソースインバータにおいて電力変換器側のコモンモード電流とモータ側のコモンモード電流のそれぞれに対してWLTを用いたEMI抑制回路を形成することができる。また、負荷は電気モータに限らず、たとえば電力系統に接続した場合にも、モータに代えて電力変換器と電力系統の間に介在させるスターデルタトランスについて、モータにおけるコモンモード電流と同様に処置することにより、効果的にコモンモード電流のピーク振幅値と高周波成分を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の1実施形態における第1の実施態様に係る電圧形電力変換器のEMI抑制回路の回路図である。
【図2】WLTを挿入したときのコモンモード電流に係る等価回路の回路図である。
【図3】第1実施態様に係るEMI抑制回路の適用対象となる電圧形電力変換器のコモンモード電流解析のためのシミュレーションモデルの回路図である。
【図4】コモンモード電流に関する等価回路である。
【図5】第1実施態様に係るEMI抑制回路の適用対象について行ったコモンモード電流解析のためのシミュレーションの結果を示す波形図である。(a)はシミュレーション回路におけるスイッチング素子Upのスイッチング動作を示す波形図、(b)はスイッチング素子Vpのスイッチング動作を示す波形図、(c)はスイッチング素子Wpのスイッチング動作を示す波形図、(d)は電圧形電力変換器に接続された接地線に流れる電流の波形図、(e)は電圧形電力変換器に接続された接地線に流れる電流の波形図の拡大図、(f)はモータに接続された接地線に流れる電流の波形図である。
【図6】シミュレーションに用いたパラメータの表である。
【図7】従来型のCMTを備えたEMI抑制回路の回路図である。
【図8】図7におけるコモンモード電流に係る等価回路図である。
【図9】第1実施態様に係るEMI抑制回路の適用対象についてCMTを挿入したときのシミュレーションの結果を示す波形図である。(a)はシミュレーション回路における電圧形電力変換器に接続された接地線に流れる電流の波形図、(b)はその拡大図、(c)はモータに接続された接地線における波形図、(d)はその拡大図である。
【図10】第1実施態様に係るEMI抑制回路について行ったシミュレーションの結果を示す波形図である。(a)はシミュレーション回路における電圧形電力変換器に接続された接地線に流れる電流の波形図、(b)はその拡大図、(c)はモータに接続された接地線における波形図、(d)はその拡大図である。
【図11】第2実施態様に係る電圧形電力変換器のEMI抑制回路の回路図である。
【図12】第2実施態様の電圧形電力変換器のEMI抑制回路の効果を示す図面である。(a)は電圧形電力変換器とモータに接続された接地線に流れる一括コモンモード電流の波形図、(b)はその拡大図である。
【図13】第3実施態様に係るZソースインバータのEMI抑制回路の回路図である。
【図14】第3実施態様に係るZソースインバータのEMI抑制回路の効果を示す図面である。(a)は電圧形電力変換器とモータに接続された接地線に流れる一括コモンモード電流の波形図、(b)はその拡大図である。
【図15】第3実施態様に係るZソースインバータのEMI抑制回路の適用対象となるシミュレーションモデルの回路図である。
【図16】第3実施態様に係るZソースインバータのEMI抑制回路に特徴的なシュートスルー動作状態における各所の波形図である。(a)(b)(c)はそれぞれスイッチング素子Vp,Up,Wpのスイッチング動作を示す波形図、(d)はZソースインバータのシュートスルー動作状況を示す波形図、(e)は接地線を流れる一括コモンモード電流の波形図、(f)はその拡大図である。
【図17】第3実施態様に係るZソースインバータのEMI抑制回路にCMTを適用した場合の回路図である。
【図18】図17のEMI抑制回路の効果を示す図面である。(a)は電圧形電力変換器とモータに接続された接地線に流れる一括コモンモード電流の波形図、(b)はその拡大図である。
【符号の説明】
【0057】
1 電源装置
2、9、11、42 接地線
3 電圧形電力変換器
4 モータ
5 スイッチング素子
7 インダクタ
8 キャパシタ
10、12、43 WLT
13、14 漂遊キャパシタ
20、31 1次巻線
21、32 2次巻線
22、23 自己インダクタンス
24 相互インダクタンス
30 CMT
33 抵抗
40 LCネットワーク
41 連結点
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換器のノイズ抑制回路に関し、電圧形電力変換器、特に新型のZソースインバータを導入した回路におけるコモンモード電流を抑制するEMI抑制回路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費電力の削減のために、電力変換器を使用し可変電圧可変周波数電源でモータを駆動して家庭用電化製品の動作をきめ細かく制御し、省エネルギーを達成する技術が広まっている。また、地球温暖化防止や化石燃料資源枯渇の観点から急速に開発が進んでいる電気自動車においても、その速度制御に電力変換器が重要な役割を果たしている。
【0003】
しかし、高速スイッチング素子の発展に伴い、高速のスイッチング動作により発生し、電力変換器およびモータ負荷側における漂遊容量を通して接地線から電源装置に還流するコモンモード電流が問題となっている。高周波のコモンモード電流が接地線等を通して多くのノイズを発生し、周辺の精密電子機器等を誤作動させる原因となる。したがって、電力変換器の高周波化に伴い、自己および他の電子機器に対する電磁妨害(EMI:electromagnetic interference)の管理がより重要になる。
【0004】
コモンモード電流によるEMIを低減する方法として、コモンモードフィルタを利用する方法、アクティブキャンセラによる方法、コモンモードトランスによる方法など種々のものがある。
【0005】
例えば特許文献1には、コモンモードトランスを整流器とインバータの間の直流部に挿入することにより、トランスの巻線数を減らし、窓面積を節約したコモンモードトランスを挿入した電力変換装置が開示されている。従来のコモンモードトランスは、回路の交流部分に挿入することが一般的であるため、1次巻線に三相の導線を巻き付けなければならない。これに対して、特許文献1に記載された電力変換装置に用いるコモンモードトランスでは、トランスを電力変換装置の直流部分に挿入したことから、1次巻線として巻き付ける巻線を直流電力線2本のみに節約している。これにより、トランスの窓面積を縮小しトランスを小型化している。
【0006】
しかし、特許文献1に開示された発明を含む、従来の一般的なコモンモードトランスでは、2次側に励起された電流を抵抗で消費することによりコモンモード電流を抑制するため、2次側に大きな抵抗を必要とし、抵抗での電力損失を避けることができない。
また、従来発明は、主回路中のコモンモード電流を抑制することを目的としており、接地線から電源装置に還流するコモンモード電流により放射されるEMIノイズを直接抑制する構成とはなっていない。
【0007】
また、近年、電圧形電力変換器の降圧特性及びスイッチング制約を問題としない第3の電力変換器として、Zソースインバータが開発されている。Zソースインバータは、直流リンク部における独特なLCネットワーク及び短絡スイッチング制御(シュートスルー制御:Shoot-Through)を組み合わせることにより、シングルステージでの昇圧制御を可能にし、加えてデットタイム制御を不要のものとしたものである。現在、各方面の注目を集め、各種の研究論文が発表されている。しかし、Zソースインバータにおけるコモンモード電流の解析及びその抑制に関する論文は見あたらない。
【特許文献1】特開2000−060107号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、電圧形電力変換器の高速スイッチングにより発生するコモンモード電流を抑制するEMI抑制回路において、電力損失を軽減し、かつ接地線に流れるコモンモード電流を直接的に低減することができる電圧形電力変換器のEMI抑制回路を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の電圧形電力変換器のEMI抑制回路は、一端が電圧形電力変換器のシャーシに接続され他端が接地されてコモンモード電流の経路となる接地線に、第1巻線と第2巻線が加極性を有する向きに直列に接続された1次2次側結合トランス(WTL)を直列に接続して形成されることを特徴とする。
1次2次側結合トランスは電圧形電力変換器の接地線および負荷の接地線にそれぞれ配すことができる。また、電圧形電力変換器の接地線と負荷の接地線を連結し、かかる連結点と接地点との間に1次2次側結合トランスを挿入してもよい。
【0010】
本発明のEMI抑制回路に利用する電圧形電力変換器は、Zソースインバータであってもよい。本発明のEMI抑制回路は、新型のZソースインバータに対しても、コモンモード電流から発生する電磁妨害を効率的に抑制することができる。
本発明の電圧形電力変換器のEMI抑制回路は、電圧形電力変換器を主要素とする電気回路に高インダクタンスの1次2次側結合トランスを挿入することで、電圧形電力変換器から接地線に流れるコモンモード電流のピーク振幅値および高周波成分を低減する。
【0011】
本発明に使用する1次2次側結合トランスは、電流流路の上流に第1巻線を、下流に第2巻線を加極性を有する向きに接続した形態になっている。従って、第1巻線、第2巻線の自己励磁力および相互インダクタンスがコモンモード電流の振幅の抑止に寄与するため、従来型のコモンモードトランスより高インダクタンスとなり効率的にコモンモード電流のピーク振幅値および高周波成分を低減する。
また、1次2次側結合トランスに抵抗を備えないため、抵抗による電力消費を削減し、電力効率を向上することができる。
【0012】
さらに負荷を備え、負荷に、一端が負荷に接続され他端が接地されている負荷側接地線を配し、負荷側接地線上に負荷側第1巻線と負荷側第2巻線を直列に挿入し、負荷側第1巻線と負荷側第2巻線を加極性に電磁的に結合して負荷側1次2次側結合トランスを形成しても良い。
本形態とすれば、電圧形電力変換器からの高周波電流により駆動されるモータ等から発生し接地線に流れるコモンモード電流も抑制することができる。
【0013】
電圧形電力変換器および負荷に接続された接地線にトランスを挿入しているため、主回路の電流に影響を与えず、電圧形電力変換器および負荷から接地線を通して電源装置に還流するコモンモード電流のみを直接的に抑制することができる。また、電圧形電力変換器、負荷に接続される接地線を連結して1本とし、連結点と接地点の間に1次2次側結合トランスを挿入することで、1台の1次2次側結合トランスで同様の効果を得ることができる。
【0014】
本発明の電圧形電力変換器のEMI抑制回路では、電圧形電力変換器としてZソースインバータを用いても良好なコモンモード電流の抑制効果を得ることができる。また、たとえば負荷が電力系統であっても、同様にコモンモード電流のピーク振幅値および高周波成分を抑制することができる。
なお、負荷のみに本発明の1次2次側結合トランスを備えても、負荷から接地線に流れるコモンモード電流の抑制に効果を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(実施態様1)
以下、図面を用い実施形態に基づいて本発明の電圧形電力変換器のEMI抑制回路を詳細に説明する。
図1は本発明の1実施形態における1実施態様に係る電圧形電力変換器のEMI抑制回路の回路図である。電源装置1がVinの電圧を発生しており、電源装置1は接地線2によって接地されている。電源装置1には電圧形電力変換器3が接続されている。電圧形電力変換器3は、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)とダイオードからなる6個のスイッチング素子5で構成されている。電圧形電力変換器3からインダクタ7、キャパシタ8を介してモータ4が配されている。
【0016】
電圧形電力変換器3の放熱板に接地線9が接続されており、接地線9は1次2次側結合トランス(WLT:Winding-Linked-Transformer)10を介して大地に接地されている。同様に、モータ4のフレームに接地線11が接続されており、負荷用のWLT12を介して大地に接地している。
【0017】
電圧形電力変換器3では、電圧変換部と放熱板間に漂遊キャパシタ(Cs)13が存在し、放熱板は変換器のシャーシに接続されるので、接地線9をシャーシに接続するとコモンモード電流iccが流れる経路ができる。また、負荷側においては、モータ4における内部巻線とフレームの間に漂遊キャパシタ(Cl)14が存在するので、モータフレームに接地線11を接続するとコモンモード電流iclの経路が成立する。また、それぞれの接地線9,11に直列に挿入されたWLT10,12では、コモンモード電流は漂遊キャパシタ側から1次巻線と2次巻線を通って接地点へと流れる。
【0018】
図2は、加極性のWLTを挿入したときのコモンモード電流に係る等価回路図である。WLT10は、接地線の上流に1次巻線20、下流に2次巻線21が電磁的に連結して配されたものであり、1次巻線20と2次巻線21が加極性を有する向きに直列に接続されたトランスである。コモンモード電流等価回路には、1次巻線20の自己インダクタンス22、2次巻線の自己インダクタンス23に加えて相互インダクタンス24が挿入される。図2では、ステップ電圧源の入力電圧をVin/3としている。コモンモード電流icommonは、電圧形電力変換器のスイッチング素子がスイッチングするたびに、コモンモード電流経路を流れる。
【0019】
本実施態様の電圧形電力変換器のEMI抑制回路は、接地線を通して電源装置に還流するコモンモード電流icommonにより発生するEMIノイズを抑制するために、接地線に高インピーダンスのWLTを挿入してコモンモード電流のピーク振幅値と高周波成分を減少させるものである。
後述するように、コモンモード電流流路にインダクタを挿入することで、ピーク振幅値を抑制し低周波数化することができる。本実施態様に用いたWLTは、2個のインダクタの相互インダクタンスを効果的に用いるため、小型のインダクタでも高インピーダンスを得ることができ、効率的にEMIノイズを抑制することができる。また、抵抗に電流を流すことによりコモンモード電流を抑制するものではないため、抵抗での電力損失が少ない。
【0020】
以下、シミュレーションによって本実施態様の電圧形電力変換器のEMI抑制回路のEMI抑制効果を証明する。
図3は、図1に示す本実施態様のEMI抑制回路の適用対象であって、コモンモード電流解析のためのシミュレーションモデルの回路図である。図3に示した回路は、図1の回路からWLTを除いたものになっている。なお、簡便のため図1と同等の各要素に対しては図1と同じ番号を付番している。
【0021】
図3に示したシミュレーションモデル回路において、電圧形電力変換器3のスイッチング素子5がスイッチングするたびに、電圧形電力変換器3の配線のインダクタンス、電力変換部と放熱板間の漂遊キャパシタ(Cs)13および接地線9を通して、コモンモード電流iccが流れる。また、電力変換器3で駆動されるモータ4についても、スイッチング素子5がスイッチングするときに、モータ4の内部巻線とフレーム間の漂遊キャパシタ(Cl)14を通して、大きなコモンモード電流iclが接地線11に流れる。
【0022】
このコモンモード電流は、RLC直列共振回路にステップ状の電圧を印加した場合の減衰振動波形と相似な波形となる。よって、電圧形電力変換器3のスイッチングにより発生するコモンモード電流についての等価回路は、図4で表すことができる。図4では、ステップ電圧源の入力電圧をVin/3としている。図4に示されるRLC直列共振回路におけるコモンモード電流icは伝達関数を用いて下の(1)式で表される。
(1) ic=(Vin/3s)・sCc/(LcCcs2+RcCcs+1)
【0023】
(1)式より、RLC直列共振回路の減衰振動電流icは(2)式で表される。
(2) ic=Vin/{(1−ζ2)1/2Z0}・ε−ζωntsin{(1−ζ2)1/2ωnt}
ここで、ωn=1/(LcCc)1/2、ζ=Rc/2・(Cc/Lc)1/2、Z0=(Lc/Cc)1/2
である。
ωnは固有角周波数すなわち共振角周波数、ζは減衰係数、Z0は特性インピーダンスを意味する。この特性インピーダンスは減衰振動電流の振幅を決定する。減衰係数が小さい(1≫ζ2)場合には、減衰振動電流icは(3)式で表現される。
【0024】
(3) ic≒Vin/Z0・ε−ζωntsinωnt
(3)式より、振動電流のピーク値はVin/Z0で近似できる。このコモンモード電流解析式より、コモンモード電流のピーク振幅値抑制および低周波数化には、コモンモード電流の流れる経路にインピーダンスの大きなインダクタを挿入すればよいことがわかる。
【0025】
以上に基づき、本実施態様のEMI抑制回路を適用する前の、図3に示すシミュレーションモデル回路に流れるコモンモード電流の波形を算出した結果を図5に示す。算出時に使用した各パラメータは図6に示す表のとおりである。
【0026】
図5は、上から、電圧形電力変換器3のスイッチング素子Upのスイッチング動作を示す波形図(図5(a))、スイッチング素子Vpのスイッチング動作を示す波形図(図5(b))、スイッチング素子Wpのスイッチング動作を示す波形図(図5(c))、電圧形電力変換器3に接続された接地線9に流れるコモンモード電流iccの波形図(図5(d))およびその拡大図(図5(e))、モータ4に接続された接地線11に流れるコモンモード電流iclの波形図(図5(f))を表している。
【0027】
図5(d)または図5(e)から、電力変換部のスイッチングに同期して振幅値が大きなコモンモード電流icc,iclが流れることが確認できる。また、スイッチング後は経時と共に振幅が減衰していく振動電流となっており、(2)式における減衰振動電流式に沿った動作となっていることがわかる。
【0028】
図5(d)および図5(f)より、電圧形電力変換器3に接続された接地線9に流れるコモンモード電流iccのピーク振幅値は±3.0A程度、モータ4に接続された接地線11に流れるコモンモード電流iclのピーク振幅値は±0.4A程度と読み取れる。モータ4側のコモンモード電流iclが電圧形電力変換器3側のコモンモード電流iccより小さくなっているのは、モータ4側に接続されているLCフィルタの抑制効果だと考えられる。
【0029】
つぎに、導出したコモンモード電流のシミュレーション式を用い、図3に示す適用対象の回路において、従来技術におけるコモンモードトランス(CMT)を接地線に挿入した場合と、本実施態様のEMI抑制回路におけるWLTを挿入した場合のEMI抑制効果の比較を行う。
【0030】
図7に、従来のCMTを備えたEMI抑制回路の回路図を示す。
図7に示した回路において、電圧形電力変換器3のスイッチング素子5がスイッチングすると、電力変換器3の接地線9を通してコモンモード電流iccが流れ、電圧形電力変換器3で駆動されるモータ4についても、コモンモード電流iclがモータ4の接地線11に流れる。
従来のCMT30は、1次巻線31に対して電磁的に結合する2次巻線32を配し、2次巻線32の両端に抵抗33を接続したものである。接地線9に1次巻線31を直列に接続し、2次巻線32は接地線9と接続せずコモンモード電流iccの流路外に配される。モータ4についても、同様に、接地線11にCMTが設けられる。
【0031】
CMT30のトランス内部の励磁インダクタンスをLt、2次巻線32に接続される抵抗33の抵抗値をRtとすると、図7の回路におけるコモンモード電流に係る等価回路は図8に示したRLC直列共振回路で表される。ただし、1次巻線31と2次巻線32の結合は非常に強いものと考え、漏れインダクタンスは考慮していない。ステップ電圧源の電圧をVin/3とすると、RLC直列共振回路におけるコモンモード電流icは伝達関数を用いて(4)式で表現される。
【0032】
(4) ic=(Vin/3s)・sCc(sLt+Rt)/{LtLcCcs3+(Lt+Lc)RtCcs2+Lts+Rt}
ここで、抵抗Rcは2次側に挿入されるRtと比較し十分小さいため考慮されない。(4)式の特性方程式は、(5)式で表現される。
(5) LtLcCcs3+(Lt+Lc)RtCcs2+Lts+Rt=0
の3次方程式となり、3つの根を持つ。Lt≫Lcであることを考慮すれば、判別式は(6)式で表現される。
(6) D=4/LtLc・Rt4−1/LcCc・Rt2+4/Cc2=0
【0033】
上式をRtについて解くと、
(7) Rt=2Zc0、または、Rt=1/2Zc∞
となる。したがって、抵抗Rtの大きさを適切な値に設定することでコモンモード電流の振舞いを変化させることが可能となることが分かる。
【0034】
ここで、Zc0とZc∞はそれぞれ、Rt=0およびRt=∞の場合の特性インピーダンスを意味し、Zc0=(Lc/Cc)1/2、Zc∞=(Lt/Cc)1/2である。
Rt=0〜2Zc0の場合(I)、コモンモード電流は高周波の減衰振動波形となり、Rt=2Zc0〜1/2Zc∞の場合(II)は指数関数状の波形、Rt>1/2Zc∞の場合(III)は低周波の振動波形となる。(III)の場合におけるコモンモード電流のピーク値低減効果は大きいが、振動周波数の減衰効果が低いため実効値計算において、(II)の場合と比較し大きくなる。したがって、CMTでは(II)の場合を選択し、抵抗Rtの値をRt=2Zc0〜1/2Zc∞となるように調整する。
【0035】
図9にCMTを用いたEMI抑制回路のコモンモード電流の波形図を示す。パラメータは図34の表のものを用い、Rtを500Ω、CMTにおける例示インダクタンスLtを17.1mHとしている。図9(a)は電圧形電力変換器3に接続された接地線9におけるコモンモード電流の波形図であり、図9(b)はその拡大図である。図9(c)はモータ4に接続された接地線11におけるコモンモード電流の波形図であり、図9(d)はその拡大図である。
【0036】
図9(b)(d)より、コモンモード電流が指数関数状の波形となっていることがわかる。図5に示したCMTを挿入しない状態のコモンモード電流と比較すると、およそ3Aおよび0.4Aの振動ピーク電流値を持つ電力変換側および負荷側におけるコモンモード電流が、CMT接続によりそれぞれ0.1Aおよび0.05Aまで低減され、低周波数化されている。
【0037】
続いて、本実施態様の電圧形電力変換器のEMI抑制回路でのコモンモード電流の振幅・高周波抑制効果を示す。本実施態様のEMI抑制回路の回路図は図1に、コモンモード電流流路の等価回路図は図2に示したとおりである。
【0038】
図2に示す等価回路はRLCの直列共振回路であるため、解析式は(2)式と同じものとなる。すなわち、コモンモード電流icは下の(8)式で表される。
(8) ic=Vin/{(1−ζ2)1/2Z0}・ε−ζωntsin{(1−ζ2)1/2ωnt}
ここで、ωn=1/{(Lc+2M+L1+L2)Cn}1/2、
ζ=Rc/2・{Cc/(Lc+2M+L1+L2)}1/2、
Z0={(Lc+2M+L1+L2)/Cc}1/2
である。
【0039】
上式より、WLTの接続回路は、1次側および2次側自己インダクタンスに加え、相互インダクタンス2MをRLC直列共振回路のインダクタンス要素として扱うことができる。つまり、(2)式に示された振動電流式におけるインダクタンスLにおいて、L1およびL2に加え相互インダクタンス2Mが高周波振動電流のピーク振幅値および周波数の低減に寄与する点でCMT接続による抑制回路とは抑制原理が異なる。
【0040】
図6の表に記載したパラメータを用い上式により算出した、本実施態様のEMI抑制回路におけるコモンモード電流の波形を図10に示す。図10(a)は電圧形電力変換器3に接続された接地線9に流れるコモンモード電流iccの波形図であり、図10(b)はその拡大図、図10(c)はモータ4に接続された接地線11に流れるコモンモード電流iclの波形図であり、図10(d)はその拡大図である。なお、励磁インダクタンスLtはCMTと同様に17.1mHとしている。
【0041】
図10(b)より、電圧形電力変換器3側ではコモンモード電流iccの振幅値が図5で得られた約3Aから約0.05Aに低減され、周波数が約500kHzから約5kHzの振動電流になっていることが確認できる。また、図10(d)によれば、モータ4側ではコモンモード電流iclのピーク振幅が図5における約0.4Aから約0.1Aに、周波数が約500kHzから約5kHzになっている。
【0042】
図9に示されたCMTの効果と図10に示された本実施態様のWLTとを比較すると、電圧形電力変換器3側では、CMTを挿入した場合のピーク振幅値が約0.1Aに対して、WLTの場合は約0.05A、モータ4側ではCMTが約0.05Aに対して、WLTが約0.1Aと、ほぼ同等のピーク振幅値抑制効果を持つことが確認できる。また、双方ともに、接地線に挿入したトランスにより高調波成分はほぼ完全に除去できることが分かる。
【0043】
さらに、それぞれのコモンモード電流の波形を比較すると、CMTの場合は指数関数状で時間変化率が大きな波形になっているのに対し、WLTでは、高周波成分が消滅して正弦波に近い波形となっており、低周波数化効果においてはWLTの方が優れていることがわかる。
【0044】
以上のように、本実施態様の電圧形電力変換器のEMI抑制回路は、電圧形電力変換器およびモータからグラウンドに接続する接地線にWLTを挿入することで、コモンモード電流のピーク振幅値と高調波成分を抑制することができる。特に、高調波成分の抑制に関しては、従来型のCMTに比べて効果が高い。また、本実施態様に用いたWLTは抵抗を使用しないため、新たな電力消費が発生せず、電力効率の点でも優れている。
【0045】
(実施態様2)
図11は本実施形態における第2の実施態様に係る電圧形電力変換器のEMI抑制回路の回路図である。図1に示した第1実施態様のEMI抑制回路では、電圧形電力変換器に接続した接地線と、モータに接続した接地線はそれぞれ独立に1次2次側結合トランス(WLT)を介して大地に接地されているが、図11に示した本実施態様のEMI抑制回路は、電圧形電力変換器3のシャーシに接続された接地線9とモータ4のフレームに接続された接地線11が連結点41で連結され、1本の接地線42として大地に接地している。連結点41と大地との間にWLT43が挿入されている。コモンモード電流は電圧形電力変換器3側と負荷であるモータ4側のコモンモード電流が合成された一括コモンモード電流ictとしてWLT43を流れる。
【0046】
図12は、本実施態様の電圧形電力変換器のEMI抑制回路の効果を示す図面である。図12(a)は、WLT43に流れる一括コモンモード電流ictの波形図であり、図12(b)はその拡大図である。
電力変換器3側とモータ4側の接地線がそれぞれ接地されている場合と比較すると、二つの接地線が接続されて1本の接地線として大地に接地される場合の方が、スイッチング信号と同期したピーク電流及び衰退時における振動電流の周波数の低下が大きい。それぞれのコモンモード電流が合流して一括コモンモード電流ictとなるからである。一括コモンモード電流ictの流れる1本の接地線42にWLT43を適用することにより、図12に見るように、一括コモンモード電流ictの電流波形はさらに振幅が小さくなり周波数が低くなる。
このように、電力変換器3側とモータ4側の接地線を連結して連結点41より下流にWLT43を挿入することで、コモンモード電流をより効果的に抑制することが可能になるばかりか、WLTの個数を節約し、回路の規模を縮小することができる。
【0047】
(実施態様3)
図13は本実施形態における第3の実施態様に係る電圧形電力変換器のEMI抑制回路の回路図である。本実施態様における電圧形電力変換器3は、電源装置1と電圧形電力変換器3の間にLCネットワーク部50が形成されたZソースインバータとなっている。また、電圧形電力変換器3のシャーシに接続された接地線9とモータ4のフレームに接続された接地線11が連結点41で連結され、1本の接地線42としてWLT43を介して接地している。2つの接地線9,11が連結した後の接地線42には電力変換器側のコモンモード電流とモータ側のコモンモード電流が合流した一括コモンモード電流ictが流れる。
【0048】
本実施態様の電圧形電力変換器のEMI抑制回路をZソースインバータに対して用いたときのシミュレーション結果を図14に示す。図14(a)は、WLT43に流れる一括コモンモード電流ictの波形図であり、図14(b)はその拡大図である。
また、比較のために、コモンモード電流抑制のための付加回路を備えない状態の図15に示すシミュレーションモデル回路におけるコモンモード電流の波形図を図16に示し、さらにCMTを備えたEMI抑制回路を適用した図17に示す回路におけるコモンモード電流の波形を図18に示す。
【0049】
図16(a)(b)(c)はそれぞれ、スイッチング素子Vp、Up、Wpのスイッチング動作を示す電流値のグラフであり、図16(d)はZソースインバータに特徴的なシュートスルー動作の動作状態を示す波形図である。また、図16(e)は接地線を流れるコモンモード電流の波形図であり、図16(f)はその拡大図である。
図16から、Zソースインバータを用いたモータ負荷回路では、シュートスルー動作の際に1.5〜2.5A程度のピーク振幅が現れ、電圧形電力変換器を用いた回路と同様、500kHz程度の高調波成分を含んでいることが確認できる。
【0050】
図18(a)は図17に示すCMTを備えたEMI抑制回路のCMT部を流れるコモンモード電流の波形図であり、図18(b)はその拡大図である。なお、各グラフ描出のために用いたシミュレーション式は第1実施態様のものと同一であり、パラメータは図6の表に記載の通りである。
【0051】
Zソースインバータを用いたモータ負荷回路において、図13、図15および図17に基づいて、EMI抑制回路が付属しない場合(図14)に対して、この回路にCMTを用いたEMI抑制回路(図16)を適用した場合とWLTを用いたEMI抑制回路(図12)を適用した場合についてコモンモード電流抑制効果を比較すると、コモンモード電流のピーク振幅値が、EMI抑制回路のついていないもので約2.5AであったものをCMTの挿入により約0.5Aに抑制することができるが、さらに、CMTに代えてWLTを用いることにより約0.05Aまで抑制されることがわかる。
【0052】
また、低周波数化効果においても、CMTでは図17に見られるように約500kHzのコモンモード電流を数10kHzに低周波数化しているが、図11に表したWLTではさらに数kHzまで低周波数化できていることが確認できた。また、波形についてもCMTでは指数関数状の時間変化率が高い波形になっているが、WLTではピークが穏やかな波形となっている。
以上のように、Zソースインバータを用いたモータ負荷回路においては、従来型のCMTに比較して、ピーク振幅値の抑制、波形の低周波数化の両方において本実施態様のWLTを利用したEMI抑制回路が遥かに優れていることがわかる。
【0053】
また、本実施態様のEMI抑制回路では、電圧形電力変換器に接続した接地線と、モータに接続した接地線を連結点で結線して1本とし、連結後の接地線にWLTを挿入しているが、それぞれの接地線にWLTを挿入した場合に比べても良好なコモンモード電流の抑制効果を得ることが可能である。したがって、接地線を連結して連結点より下流にWLTを挿入することで、WLTの個数を節約し、回路の規模を縮小することができる。
【0054】
以上の各実施態様について見たとおり、本実施形態の電圧形電力変換器のEMI抑制回路によれば、電圧形電力変換器およびZソースインバータを用いたモータ負荷回路において、WLTを挿入することにより、接地線を通して電源装置に還流するコモンモード電流のピーク振幅値および高周波数成分を低減し、コモンモード電流から発生するEMIノイズを効果的に抑制することができる。
上記のシミュレーションにより、1次2次側結合トランス(WLT)を各接地線側に接続することで、コモンモード電流の最大ピーク振幅値を1/20〜1/40に抑制し、高周波成分の周波数をおよそ1/100に低減することが可能であることを確認した。
【0055】
なお、上記各実施態様は本発明の電圧形電力変換器のEMI抑制回路の実施形態の1つについて示したものに過ぎず、別の実施態様の抑制回路を形成することもできることは言うまでもない。たとえば、Zソースインバータにおいて電力変換器側のコモンモード電流とモータ側のコモンモード電流のそれぞれに対してWLTを用いたEMI抑制回路を形成することができる。また、負荷は電気モータに限らず、たとえば電力系統に接続した場合にも、モータに代えて電力変換器と電力系統の間に介在させるスターデルタトランスについて、モータにおけるコモンモード電流と同様に処置することにより、効果的にコモンモード電流のピーク振幅値と高周波成分を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の1実施形態における第1の実施態様に係る電圧形電力変換器のEMI抑制回路の回路図である。
【図2】WLTを挿入したときのコモンモード電流に係る等価回路の回路図である。
【図3】第1実施態様に係るEMI抑制回路の適用対象となる電圧形電力変換器のコモンモード電流解析のためのシミュレーションモデルの回路図である。
【図4】コモンモード電流に関する等価回路である。
【図5】第1実施態様に係るEMI抑制回路の適用対象について行ったコモンモード電流解析のためのシミュレーションの結果を示す波形図である。(a)はシミュレーション回路におけるスイッチング素子Upのスイッチング動作を示す波形図、(b)はスイッチング素子Vpのスイッチング動作を示す波形図、(c)はスイッチング素子Wpのスイッチング動作を示す波形図、(d)は電圧形電力変換器に接続された接地線に流れる電流の波形図、(e)は電圧形電力変換器に接続された接地線に流れる電流の波形図の拡大図、(f)はモータに接続された接地線に流れる電流の波形図である。
【図6】シミュレーションに用いたパラメータの表である。
【図7】従来型のCMTを備えたEMI抑制回路の回路図である。
【図8】図7におけるコモンモード電流に係る等価回路図である。
【図9】第1実施態様に係るEMI抑制回路の適用対象についてCMTを挿入したときのシミュレーションの結果を示す波形図である。(a)はシミュレーション回路における電圧形電力変換器に接続された接地線に流れる電流の波形図、(b)はその拡大図、(c)はモータに接続された接地線における波形図、(d)はその拡大図である。
【図10】第1実施態様に係るEMI抑制回路について行ったシミュレーションの結果を示す波形図である。(a)はシミュレーション回路における電圧形電力変換器に接続された接地線に流れる電流の波形図、(b)はその拡大図、(c)はモータに接続された接地線における波形図、(d)はその拡大図である。
【図11】第2実施態様に係る電圧形電力変換器のEMI抑制回路の回路図である。
【図12】第2実施態様の電圧形電力変換器のEMI抑制回路の効果を示す図面である。(a)は電圧形電力変換器とモータに接続された接地線に流れる一括コモンモード電流の波形図、(b)はその拡大図である。
【図13】第3実施態様に係るZソースインバータのEMI抑制回路の回路図である。
【図14】第3実施態様に係るZソースインバータのEMI抑制回路の効果を示す図面である。(a)は電圧形電力変換器とモータに接続された接地線に流れる一括コモンモード電流の波形図、(b)はその拡大図である。
【図15】第3実施態様に係るZソースインバータのEMI抑制回路の適用対象となるシミュレーションモデルの回路図である。
【図16】第3実施態様に係るZソースインバータのEMI抑制回路に特徴的なシュートスルー動作状態における各所の波形図である。(a)(b)(c)はそれぞれスイッチング素子Vp,Up,Wpのスイッチング動作を示す波形図、(d)はZソースインバータのシュートスルー動作状況を示す波形図、(e)は接地線を流れる一括コモンモード電流の波形図、(f)はその拡大図である。
【図17】第3実施態様に係るZソースインバータのEMI抑制回路にCMTを適用した場合の回路図である。
【図18】図17のEMI抑制回路の効果を示す図面である。(a)は電圧形電力変換器とモータに接続された接地線に流れる一括コモンモード電流の波形図、(b)はその拡大図である。
【符号の説明】
【0057】
1 電源装置
2、9、11、42 接地線
3 電圧形電力変換器
4 モータ
5 スイッチング素子
7 インダクタ
8 キャパシタ
10、12、43 WLT
13、14 漂遊キャパシタ
20、31 1次巻線
21、32 2次巻線
22、23 自己インダクタンス
24 相互インダクタンス
30 CMT
33 抵抗
40 LCネットワーク
41 連結点
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が電圧形電力変換器のシャーシに接続され他端が接地されてコモンモード電流の経路となる接地線に、第1巻線と第2巻線が加極性を有する向きに直列に接続された1次2次側結合トランス(WTL)を直列に接続して形成される、電圧形電力変換器のEMI抑制回路。
【請求項2】
前記電圧形電力変換器に駆動される負荷を備え、該負荷に、一端が該負荷に接続され他端が接地されている負荷側接地線が配されており、該負荷側接地線中に負荷側第1巻線と負荷側第2巻線が直列に加極性に結合して形成される負荷側1次2次側結合トランスが直列に接続されていることを特徴とする請求項1記載の電圧形電力変換器のEMI抑制回路。
【請求項3】
前記電圧形電力変換器に駆動される負荷および負荷側接地線を備え、該負荷側接地線が、一端が該負荷に接続され、他端が前記電圧形電力変換器のシャーシに接続された変換器接地線の前記1次2次側結合トランスとの接続部に接続されていることを特徴とする請求項1記載の電圧形電力変換器のEMI抑制回路。
【請求項4】
電圧形電力変換器に駆動される負荷に、一端が該負荷に接続され他端が接地されている負荷側接地線が配されており、該負荷側接地線中に第1巻線と第2巻線が直列に加極性に結合して形成される1次2次側結合トランスが直列に接続されている電圧形電力変換器のEMI抑制回路。
【請求項5】
前記電圧形電力変換器がZソースインバータであることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の電圧形電力変換器のEMI抑制回路。
【請求項1】
一端が電圧形電力変換器のシャーシに接続され他端が接地されてコモンモード電流の経路となる接地線に、第1巻線と第2巻線が加極性を有する向きに直列に接続された1次2次側結合トランス(WTL)を直列に接続して形成される、電圧形電力変換器のEMI抑制回路。
【請求項2】
前記電圧形電力変換器に駆動される負荷を備え、該負荷に、一端が該負荷に接続され他端が接地されている負荷側接地線が配されており、該負荷側接地線中に負荷側第1巻線と負荷側第2巻線が直列に加極性に結合して形成される負荷側1次2次側結合トランスが直列に接続されていることを特徴とする請求項1記載の電圧形電力変換器のEMI抑制回路。
【請求項3】
前記電圧形電力変換器に駆動される負荷および負荷側接地線を備え、該負荷側接地線が、一端が該負荷に接続され、他端が前記電圧形電力変換器のシャーシに接続された変換器接地線の前記1次2次側結合トランスとの接続部に接続されていることを特徴とする請求項1記載の電圧形電力変換器のEMI抑制回路。
【請求項4】
電圧形電力変換器に駆動される負荷に、一端が該負荷に接続され他端が接地されている負荷側接地線が配されており、該負荷側接地線中に第1巻線と第2巻線が直列に加極性に結合して形成される1次2次側結合トランスが直列に接続されている電圧形電力変換器のEMI抑制回路。
【請求項5】
前記電圧形電力変換器がZソースインバータであることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の電圧形電力変換器のEMI抑制回路。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2010−45940(P2010−45940A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−209683(P2008−209683)
【出願日】平成20年8月18日(2008.8.18)
【出願人】(504145308)国立大学法人 琉球大学 (100)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月18日(2008.8.18)
【出願人】(504145308)国立大学法人 琉球大学 (100)
【Fターム(参考)】
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