説明

電圧発生ユニット、電圧発生装置及びこれを備えた荷電粒子加速器

【課題】 多段に積み上げた際に必要とされる機械的強度を確保できる電圧発生ユニット及びこれを多段に積み上げて形成された高電圧発生装置を提供する。
【解決手段】 本発明の電圧発生ユニット50は、コッククロフトウォルトン回路(多段式倍電圧整流回路)の各段を形成する回路構成素子群が、複数に分割された絶縁物により被覆されたユニット構造で形成され、その表面部に、隣接する他のユニット体と電気的接続を行う入出力端子群52A’52C’及び52A〜52Cが設けられている。そして、これら入出力端子群が形成されている表面部は、隣接する他のユニット体の表面部(接合面)と接合する接合面S1,S2とされており、これらの入出力端子群は、その端子面が上記接合面S1,S2と整列するようにして設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばイオン注入装置における高電圧電源に用いられる電圧発生ユニット、電圧発生装置及びこれを備えた荷電粒子加速器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、コッククロフトウォルトン回路(多段式倍電圧整流回路)は、半導体製造用のイオン注入装置等の高電圧発生装置に用いられている。まず、従来のイオン注入装置の概略構成について図8を参照して説明する。
【0003】
従来のイオン注入装置10は、図8に示したように、負イオン源11、アインツエルレンズ12、質量分離電磁石13、スリット14、ファラデーカップ15、静電ステアラ16及び四重極静電型レンズ17を備えている。
【0004】
30は荷電粒子加速器である。絶縁性ガスが充填されている高圧タンク18の内部には、グランド側加速管19Aと高電圧側加速管19Bとが収納され、これら2つの加速管19A,19Bの間には高電圧ターミナル20が取り付けられている。この高電圧ターミナル20には高電圧発生装置21が接続され、高電圧ターミナル20の内部には、イオンビームが通過するストリッパカナル20Aが設けられている。
【0005】
そして、荷電粒子加速器30の後段側には、四重極静電型レンズ24と、偏向電磁石25と、ファラデーカップ26とが設けられている。
【0006】
以上のような構成の従来のイオン注入装置10は、負イオン源11において金属あるいはガス種の負イオンを発生させて、これを例えば約20〜30kVで引き出し加速する。加速された負イオンは、アインツエルレンズ12で収束された後、質量分離電磁石13に入射する。質量分離電磁石13に入射した負イオンは、約90°偏向されて所定の質量のイオンに分離される。分離された負イオンは、スリット14を通過し、ファラデーカップ15で電流を検出される。
【0007】
一方、荷電粒子加速器30においては、発振器23からの交流電圧が昇圧トランス22で昇圧され、これが高電圧発生装置21に導入される。高電圧発生装置21は、高電圧ターミナル20で例えば700kVの高電圧を発生させる。
【0008】
四重極静電型レンズ17を通過し、グランド側加速管19Aに入射した負イオンは、高電圧発生装置21により700kVの高電圧に昇圧されている高電圧ターミナル20によって、最大700keVまで加速される。このエネルギーを持った負イオンは、ストリッパカナル20A内に導入され、このストリッパカナル20A内に予め供給された窒素ガス(あるいはアルゴンガス)分子と衝突する。
【0009】
窒素分子と衝突した負イオンは、電子が剥ぎ取られ、さらに原子の外殻電子が剥ぎ取られて正イオンにチャージ変換される。例えば、1価の正イオンに変換されると、ストリッパカナル20Aを通過した当該1価の正イオンは、高電圧側加速管19Bにおいて700kVの加速電圧を受けて700keVの加速エネルギーを得る。これにより、加速管19A,19Bを通過したイオンは最大、700keV+700keV=1400keVのエネルギーを得てグランド電位に達する。
【0010】
その後、イオンは、四重極静電型レンズ24を通過し、偏向電磁石25で偏向されて、ファラデーカップ26に達する。ファラデーカップ26の後方には、図示せずともプラテンあるいはイオン照射ステージが設けられており、そこに取り付けられた被照射基材(例えば半導体ウェーハ)に対して1400keVのエネルギーに達したイオンの照射処理がなされる。
【0011】
ところで、上述した従来のイオン注入装置10における高電圧発生装置21としては、上述したようにコッククロフトウォルトン回路(多段倍電圧整流回路)を用いることができる。このコッククロフトウォルトン回路は、一段当たり複数のコンデンサと複数の整流用ダイオード素子等の回路構成素子群を、多段に組み上げることによって形成される。
【0012】
例えば下記特許文献1には、図9及び図10に示すように、各段の回路構成素子群を一段単位で合成樹脂材料により被覆した円盤状のモールド体2を一方向に複数積み重ねて形成した、コッククロフトウォルトン回路でなる高電圧発生装置1が開示されている。
【0013】
各モールド体2は、合成樹脂製の円盤状の中空状容器3の中に、コッククロフトウォルトン回路一段分の回路構成素子群(図示略)を配置するとともに、エポキシ樹脂等の硬質の絶縁樹脂モールド材4を充填して一体成形したものである。そして、各円盤状モールド体2の間は、各段のモールド体2の下面の複数箇所に立設された金属製の電気回路端子5及び座金6によって電気的機械的に接続されている。
【0014】
なお、図9において符号7は、各モールド体2に形成された貫通孔内に組み付けられた高圧側抵抗分圧器スタックボビン、符号8は、コッククロフトウォルトン回路の最上段に接続された共振コイルである。
【0015】
【特許文献1】特開平7−312300号公報
【特許文献2】特開平7−262960号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上述した従来の高電圧発生装置1においては、円盤状のモールド体2の下面に立設された軸状の電気回路端子5(及び座金6)を介して各モールド体2の層間の電気的機械的接続を図るようにしている。
【0017】
しかしながら、上記電気回路端子5がモールド体2の段積み状態を保持する構造となっているので、積み上げ段数が多くなると電気回路端子5に大きな機械的曲げ応力が作用することになり、これにより当該電気回路端子5が破損したり、モールド体2の本体部分が劣化する等して、構造的欠陥だけでなく電圧変動等の不具合を発生させることになる。このように従来の電圧発生装置1においては、段積み状態における機械的曲げ応力に対して十分な強度及び信頼性を確保することができないという問題がある。
【0018】
一方、上記特許文献1には更に、多段に組み上げた倍電圧回路全体を一括して樹脂材料でモールドすることにより、機械的曲げ応力に対して必要な強度の確保を図る構成が開示されているが、この構造では、例えばある段における構成部品の交換等の作業が非常に面倒となり、結果的にメンテナンス作業性を悪化させるという問題を有している。
【0019】
本発明は上述の問題に鑑みてなされ、多段に積み上げた際に必要とされる機械的強度を確保できる電圧発生ユニット、電圧発生装置及びこれを備えた荷電粒子加速器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
以上の課題を解決するに当たり、本発明の電圧発生ユニットは、多段式倍電圧整流回路の各段を形成する回路構成素子群が、複数に分割された絶縁物製のユニット本体内に組み込まれてなり、その表裏面に、隣接する他の電圧発生ユニットと電気的接続を行う入出力端子群が設けられている。そして、上記入出力端子群が形成されている表裏面は、隣接する他の電圧発生ユニットの表面側又は裏面側と当接し合う接合面とされており、この入出力端子群は、上記接合面とほぼ同一面を形成している。
【0021】
この構成により、複数の電圧発生ユニットを積み上げた際、各電圧発生ユニットの表裏面(接合面)と、隣接する他の電圧発生ユニットの表面側又は裏面側と当接し合うことによって支持されると同時に、これら接合界面とほぼ同一面に形成された入出力端子群を介して各電圧発生ユニットが電気的に接続されることになる。
【発明の効果】
【0022】
従って、本発明によれば、段積みされた各電圧発生ユニットはその接合面全域で機械的曲げ応力を受けることができるので、これら複数の電圧発生ユニットの段積み構造で形成された電圧発生装置の十分な機械的強度を確保できるとともに、入出力端子群に作用する機械的ストレスを緩和して、高電圧電源としての信頼性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0024】
図1は、本発明の実施の形態によるイオン注入装置40の概略構成図である。まず、このイオン注入装置40の概要について説明する。
【0025】
本実施の形態のイオン注入装置40は、負イオン源11、アインツエルレンズ12、質量分離電磁石13、スリット14、ファラデーカップ15A、静電ステアラ16、ファラデーカップ15B及び四重極静電型レンズ17を備えている。これら一連のユニットは真空配管で接続されているとともに、負イオン源11、質量分離電磁石13及び四重極静電型レンズ17には真空排気ポンプ(図示略)が各々接続されており、例えば1.3×10-4Pa以下に配管内が排気されている。
【0026】
41は荷電粒子加速器である。密閉容器である高圧タンク18の内部には絶縁性ガスが充填されている。高圧タンク18の内壁面には、グランド側加速管19Aと高電圧側加速管19Bとが接続されており、これら2つの加速管19A,19Bの間には高電圧ターミナル20が取り付けられている。この高電圧ターミナル20には高電圧発生装置42が接続されている。この高電圧発生装置42の詳細については、後述する。
【0027】
高電圧ターミナル20の内部には、イオンビームが通過するストリッパカナル20Aが設けられている。ストリッパカナル20Aは、グランド側加速管19Aの出射端と高電圧側加速管19Bの入射端との間に接続されている。
【0028】
荷電粒子加速器41の後段側には、四重極静電型レンズ24、偏向電磁石25、ファラデーカップ26及び、半導体ウェーハ等の被照射基材を収容したプラテン27がそれぞれ設けられている。
【0029】
このような構成のイオン注入装置40においては、負イオン源11において金属あるいはガス種の負イオンを発生させて、これを例えば20〜30kVで引き出し加速する。加速された負イオンは、アインツエルレンズ12で収束された後、質量分離電磁石13に入射する。質量分離電磁石13に入射した負イオンは、約90°偏向されて所定の質量のイオンに分離される。分離された負イオンは、スリット14、静電ステアラ16を通過して、ファラデーカップ15A,15Bで電流を検出される。
【0030】
一方、荷電粒子加速器41においては、発振器23からの交流電圧が昇圧トランス22で昇圧され、これが高電圧発生装置42に導入される。高電圧発生装置42は、高電圧ターミナル20で例えば990kVの高電圧を発生させる。
【0031】
四重極静電型レンズ17を通過し、グランド側加速管19Aに入射した負イオンは、高電圧発生装置42により990kVの高電圧に昇圧されている高電圧ターミナル20によって、最大990keVまで加速される。このエネルギーを持った負イオンは、ストリッパカナル20A内に導入され、このストリッパカナル20A内に予め供給された窒素ガス(あるいはアルゴンガス)分子と衝突する。
【0032】
窒素分子と衝突した負イオンは、電子が剥ぎ取られ、さらに原子の外殻電子が剥ぎ取られて正イオンにチャージ変換される。例えば、1価の正イオンに変換されると、ストリッパカナル20Aを通過した当該1価の正イオンは、高電圧側加速管19Bにおいて990kVの加速電圧を受けて990keVの加速エネルギーを得る。これにより、加速管19A,19Bを通過したイオンは最大、990keV+990keV=1980keVのエネルギーを得てグランド電位に達する。
【0033】
その後、イオンは、四重極静電型レンズ24を通過し、偏向電磁石25で偏向されて、ファラデーカップ26に達する。そして、ファラデーカップ26の後方に設けられたプラテン27内の被照射基材に対して、最大1980keVのエネルギーに達したイオンの照射処理がなされる。
【0034】
次に、本発明に係る荷電粒子加速器41及び高電圧発生装置42の詳細について図2〜図4を参照して説明する。ここで、図2は荷電粒子加速器41の内部構成を示す平面図、図3は図2における[3]−[3]線方向断面図、図4は高電圧発生装置42の全体構成図とその等価回路図をそれぞれ示している
【0035】
本実施の形態の荷電粒子加速器41は、高圧タンク18の内部において、グランド側加速管19Aと高電圧側加速管19Bとが高電圧ターミナル20を挟んで直線的に接続されている。グランド側加速管19A及び高電圧側加速管19Bは、それぞれ加速電極47A及び加速電極47Bを挟んで複数段に形成されている。加速管19A,19Bの各段の高さは、一定とされている。
【0036】
このうち、グランド側加速管19Aと並行して高電圧発生装置42が配置されている。高電圧発生装置42は、コッククロフトウォルトン回路(多段式倍電圧整流回路)で構成されている。特に、この高電圧発生装置42は、コッククロフトウォルトン回路の各段を形成する回路構成素子が、複数に分割された絶縁物により被覆された電圧発生ユニット50を複数段積み上げて構成されている(図4A)。これら電圧発生ユニット50の積み上げ方向は、グランド側加速管19Aの軸方向と平行とされている。なお電圧発生ユニット50の詳細については後述する。
【0037】
高電圧発生装置42は、その最終段が高電圧ターミナル20に接続されている。高電圧発生装置42の最終段で発生する電圧は、これを形成する電圧発生ユニット50の積み上げ段数によって決定される。本実施の形態では例えば、電圧発生ユニット50が45段積み上げられており、最終段において990kVの高電圧を発生させるようにしている。
【0038】
また、高電圧発生装置42を形成する任意の段の電圧発生ユニット50は、これと並行するグランド側加速管19Aの各段と電気的に連結されている。本実施の形態では、電圧発生ユニット50の一段当たりの高さを加速管19Aの一段当たりの高さの1/3としている。従って、加速管19Aの一段当たりの高さは電圧発生ユニット50の3段分の高さに相当するので、初段から3n段目(n=1〜15)の電圧発生ユニット50がグランド側加速管19Aの各段の対応する加速電極47Aにそれぞれ接続されている(図2)。
【0039】
これら電圧発生ユニット50と加速電極47Aとの間の相互の電気的接続は、導電性の連結板44を介して行われている(図2,図3)。連結板44は円形の例えばアルミニウム合金等の軽量な金属板で形成されている。そして、連結板44の外周部には、メンテナンススペースの縮小を目的として例えば一段おきに、電界緩和用の金属製のフープ43Aが一体的に設けられている。
【0040】
フープ43Aは、グランド側加速管19Aと高電圧発生装置42との間の連結位置で、これらグランド側加速管19A及び高電圧発生装置42を囲んでいる。なお、フープ43A及び連結板44は、高圧タンク18の内壁面と高電圧ターミナル20との間に架け渡された複数本の支持柱45A,46Aによって支持されている。
【0041】
一方、高電圧側加速管19Bもまた、同様な構成のフープ43Bで囲まれている。フープ43Bは、高電圧側加速管19Bの各段一段おきに設けられている。フープ43Bは、高圧タンク18の内壁面と高電圧ターミナル20との間に架け渡された複数本の支持柱45B,46Bによって支持されている。また、高電圧側加速管19Bの各段の間には、分圧用抵抗48がそれぞれ接続されている。
【0042】
続いて、高電圧発生装置42を形成する各段の電圧発生ユニット50の詳細について図5及び図6をも参照して説明する。
ここで、図5は電圧発生ユニット50の部品配置図で、Aはユニット上面側の図、Bはユニット下面側の図である。そして、図6は電圧発生ユニット50の回路構成を示す側断面図である。
【0043】
電圧発生ユニット50は、コッククロフトウォルトン回路の各段を形成する回路構成素子群を円盤状のユニット本体51に組み込んで構成されている。各段の回路構成素子群として、本実施の形態では、3つのコンデンサC1〜C3と、4つのダイオードD1〜D4と、3つの抵抗素子R1〜R3とを有し、これらを接続する配線群はユニット本体51に内蔵されている。ユニット本体51の構成材料としては、エポキシ系樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂等が挙げられる。
抵抗素子R1〜R3は、負荷が短絡したときに電源に流れる短絡電流を抑制するものである。これらの抵抗はコンデンサと直列にする他、ダイオードと直列にしても同様の効果が得られる。もちろん、コンデンサとダイオードの両方に直列に抵抗を接続してもよい。
【0044】
特に本実施の形態では、ユニット本体51の表面(上面)及び裏面(下面)に回路構成部品を収容する孔が穿設されており、これらの孔に各部品をそれぞれ組み込んで電圧発生ユニット50を構成するようにしている。また、回路構成部品を上記樹脂中に注形・モールドし、外部端子のみを樹脂表面に露出させて製作してもよい。
【0045】
図6に示したように、ユニット本体51の上面(表面)部及び下面(裏面)部はともに平坦に形成されており、その上層側及び下層側に隣接する(積み重ねられる)他の電圧発生ユニットの下面部及び上面部にそれぞれ接合する接合面S1及びS2とされている。
【0046】
これら接合面S1,S2には、段積みされる各電圧発生ユニット50間の電気的接続を行うための入出力端子群が設けられている。この入出力端子群は、上面側の接合面S1側に設けられた外部端子52A’,52B’及び52C’と、下面側の接合面S2側に設けられた外部端子52A,52B及び52Cとで構成されている(図6)。
【0047】
これらのうち、外部端子52A’及び外部端子52Aは接合面S1及び接合面S2の周縁部にそれぞれ環状に形成されており、外部端子52B’,52C及び外部端子52B,52Cは、接合面S1及び接合面S2の内央側にそれぞれランド(島)状に形成されている。これら入出力端子群は、図6に示したように、端子面が接合面S1,S2とほぼ同一面を形成するようにして、これら接合面S1,S2にそれぞれ設けられている。
【0048】
なお、段積みされる電圧発生ユニット50間の電気的接続を確保するために、これら入出力端子群の端子面を接合面S1,S2に対して若干量(例えば0.2mm〜0.5mm程度)突出させてもよい。
【0049】
一方、高電圧発生装置42を形成するコッククロフトウォルトン回路は、図4Bに示したような回路構成を有しており、これらに対応する要素については図5及び図6の各図において同一の符号を付けている。
【0050】
即ち、端子A−A’間には、コンデンサC2と抵抗R2とが直列接続され、端子B−B’間には、コンデンサC1と抵抗R1とが直列接続されている。また、端子C−C’間には、コンデンサC3と抵抗R3とが直列接続され、端子A−B’間にはダイオードD1が接続されている。さらに、端子A−C’間にはダイオードD3が、端子B’−A’間にはダイオードD2が、端子C’−A’間にはダイオードD4がそれぞれ接続されている。
【0051】
なお、端子A’,Aは外部端子52A’,52Aに対応し、端子B’,Bは外部端子52B’,52Bに対応し、端子C’,Cは外部端子52C’,52Cに対応している(図5A,B)。また、外部端子52BはコンデンサC1に層間接続され、外部端子52CはコンデンサC3に層間接続されている。さらに、内部端子53AはコンデンサC2に、内部端子53Bは外部端子52B’に、内部端子53Cは外部端子52C’にそれぞれ層間接続されている。抵抗R2は配置上、接合面S1側と接合面S2側に分割して取り付けられて互いに直列に接続されているが、どちらか片方の面にのみ取り付けることも可能である。
【0052】
なおまた、図4Bにおいて示した抵抗素子RM1〜RM3は、それぞれ電圧検出用のモニタ抵抗であり、電圧発生ユニット50の中央部に形成された貫通孔55内に配置されている(図5A,B)。
【0053】
そして、各電圧発生ユニット50の周囲には、外部端子52Aよりも内周側に、組付具挿通用の挿通孔54が等角度間隔で複数個同一円周上に形成されている。これらの挿通孔54は、図4Aに示したように電圧発生ユニット50を複数段積み上げて高電圧発生装置42を組み上げる際、例えば総ネジや頭付きネジ等の絶縁物でなる複数本の軸状部材58が挿通され、これら軸状部材58の端部に螺着されるナット等の締付部材59の緊締力で各段の電圧発生ユニット50の接合面S1,S2同士を圧接し一体化するために用いられる。また、締付部材59にはナットの他、コイルバネなど軸方向に伸縮する機構を設けることにより、電圧発生ユニット50と軸状部材58の温度係数の違いによる伸縮量の差を吸収している。
【0054】
また、外部端子52A’の外周縁部には、図2又は図3を参照して説明した連結板44に接続される連結端56が突出形成されている。この連結端56は全周にわたってフランジ状に形成されていてもよいし、部分的に形成されていてもよい。これにより、外部端子52A’は、この連結端56及び連結板44を介してグランド側加速器19Aの加速電極47Aに電気的機械的に接続される。
【0055】
以上のように構成される電圧発生ユニット50は、所定段数(本例では45段)一方向に積み上げることによって、本実施の形態の高電圧発生装置42を形成する。
【0056】
本実施の形態の電圧発生ユニット50によれば、多段式倍電圧整流回路(コッククロフトウォルトン回路)の各段を形成する回路構成素子群が、複数に分割された絶縁物により被覆されたユニット構造とされているので、ユニット単位でのメンテナンスが可能となり作業性を向上させることができる。また、高電圧発生装置42の製造や設計変更等の自由度が高められる。
【0057】
また、本実施の形態の電圧発生ユニット50によれば、その表面部(接合面S1,S2)に、他の電圧発生ユニットと電気的接続を行う入出力端子群(外部端子52A’〜52C’,52A〜52C)が設けられており、これら入出力端子群の端子面がこれら接合面S1,S2とほぼ同一面を形成するように設けられているので、電圧発生ユニット50を複数段積み重ねた際、同時に各段間における電気的導通を確保することができ、高電圧発生装置42の製造が容易となる。
【0058】
さらに、上記構成の電圧発生ユニット50を複数段積み上げて形成した本実施の形態の高電圧発生装置42によれば、段積みされた各電圧発生ユニット50の接合面S1,S2全域で機械的曲げ応力を受けることになり、これにより高電圧発生装置42の十分な機械的強度を確保することができる。また、入出力端子群に作用する機械的ストレスが緩和されるので、高電圧電源としての信頼性を向上させることができる。
【0059】
一方、本実施の形態の荷電粒子加速器41によれば、高電圧発生装置42がグランド側加速管19Aと平行に配置されているので、高圧タンク18の小型化と容積低減が可能となり、これによりイオン注入装置40の設置面積の省スペース化と、高圧タンク18内に充填される絶縁性ガスの使用量低減等を図ることができる。
【0060】
またこの時、高電圧発生装置42で昇圧した電位を所定レベル毎に、グランド側加速管19Aの加速電極47Aに順次供給するようにしているので、このグランド側加速管19Aの各段に分圧用抵抗等の分圧機構を設けることなく各加速電極47A間に一定の電位を印加できるようになる。
【0061】
更に、加速管19A,19Bの各段についてその一段おきに金属製のフープ43A,43Bを設けているので加速管外部への電場を和らげることができる。また、グランド側加速管19A側については金属フープ43Aで高電圧発生装置42の周囲を囲むようにしているので、高電圧発生装置42を形成する電圧発生ユニット50を所定段数ずつ電場を分割し、この周囲の空間の電位を位置づけて安定した電圧発生を可能とする。
【0062】
ところで、上述した構成の高電圧発生装置42の最終段における発生電圧は、理論的には、電圧発生ユニット50一段当たりの発生電圧とその積み上げ段数との積で決定される。しかし、各段の浮遊容量による昇圧ロスや各段の回路構成素子群の素子特性バラツキ、電圧発生ユニット50間の製造バラツキ等により、必ずしも電位が等倍に昇圧されない場合がある。
【0063】
このため、図4Aに示したように、高電圧発生装置42の任意の段(図では3段)毎の昇圧電位V1〜V15にバラツキが生じ、一の昇圧電位が他の昇圧電位と大きく隔たる場合がある。こうなると、高電圧発生装置42の周囲に異常な電場分布を形成したり、グランド側加速管19Aの加速電極47A間で放電を生じさせるおそれがある。
【0064】
そこで、昇圧電位が他に比べて過大な段位置に対して、回路構成素子群を内含せず、かつこれを挟む電圧発生ユニット50間を電気的に接続するだけのダミーユニット60を電圧発生ユニット50の代わりに積み重ねて、昇圧電位の調整を図ることも可能である。図4Aに例示的に示すが、ダミーユニット60の挿入位置は特に限定されず、全体として、昇圧電位V1〜V15を平均化できる位置に挿入されるのが好ましい。
【0065】
図7にダミーユニット60の一構成例を示す。図6と対応する部分については同一の符号を付している。ダミーユニット60は、電圧発生ユニット50と同形、同厚の円盤状ユニット構造とされている。これにより、ダミーユニット60の挿入によるユニット間の高さの変動を防止できる。
【0066】
ダミーユニット60の上下の接合面S1,S2には、電圧発生ユニット50と同様な外部端子52A’〜52C’,52A〜52Cが形成されている。ただし、ダミーユニット60は、その上層及び下層に位置する電圧発生ユニット50間の電気的接続のみを図る構成であるので、外部端子52A’−52A間、52B’−52B間、及び52C’−52C間をそのまま導通させる内部配線群61A〜61Cのみが形成されている。
【0067】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、勿論、本発明はこれに限定されることなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
【0068】
例えば以上の実施の形態では、荷電粒子加速器41としてイオン注入装置40に用いられるイオンビームの加速器構造について説明したが、これに代えて、電子顕微鏡等に用いられる電子ビーム加速器及びその高電圧発生装置に対しても、本発明は適用可能である。
【0069】
また、以上の実施の形態では、コッククロフトウォルトン回路として、図4Bに示したように2列並進型の回路構成を採用したが、単列構成のものも適用可能である。更に、昇圧回路がコンデンサ及びダイオードのみで形成される回路構成についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の実施の形態による高電圧発生装置及び荷電粒子加速器が適用されるイオン注入装置40の概略構成図である。
【図2】荷電粒子加速器41の構成を示す平面図である。
【図3】図2における[3]−[3]線方向断面図である。
【図4】高電圧発生装置42の全体図及びその等価回路図である。
【図5】高電圧発生装置42を形成する各段の電圧発生ユニット50の素子配置例を示す図であり、Aは上面側、Bは下面側の図である。
【図6】電圧発生ユニット50の回路構成例を模式的に示す側断面図である。
【図7】ダミーユニット50の概略側断面図である。
【図8】従来のイオン注入装置の概略構成図である。
【図9】従来の高電圧発生装置の全体図である。
【図10】従来の高電圧発生装置の要部断面図である。
【符号の説明】
【0071】
18 高圧タンク
19A グランド側加速管
19B 高電圧側加速管
20 高電圧ターミナル
20A ストリッパカナル
22 昇圧トランス
23 発振器
40 イオン注入装置
41 荷電粒子加速器
42 高電圧発生装置
43A,43B フープ
44 連結板
47A,47B 加速電極
50 電圧発生ユニット
51 ユニット本体
52A’〜52C’,52A〜52C 外部端子
54 組付具挿通孔
58 軸状部材
59 締付部材
60 ダミーユニット
C1〜C3 コンデンサ
D1〜D4 ダイオード
R1〜R3 抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多段式倍電圧整流回路の各段を形成する回路構成素子群が、複数に分割された絶縁物製のユニット本体内に組み込まれてなり、このユニット体の表裏面に、隣接する他の電圧発生ユニットと電気的接続を行う入出力端子群が設けられた電圧発生ユニットにおいて、
前記入出力端子群が形成されている前記ユニット本体の表裏面は、前記隣接する他の電圧発生ユニットの表面側又は裏面側と当接し合う接合面とされており、
前記入出力端子群は、前記接合面とほぼ同一面を形成していることを特徴とする電圧発生ユニット。
【請求項2】
前記回路構成素子群として、少なくともコンデンサとダイオードとを含む請求項1に記載の電圧発生ユニット。
【請求項3】
前記回路構成素子群は、1段当たり3つのコンデンサと、4つのダイオードを有し、更に、各コンデンサに直列に抵抗が接続され、又は各ダイオードに直列に抵抗が接続され、又は、各コンデンサと各ダイオードのそれぞれに抵抗が直列に接続されている請求項2に記載の電圧発生ユニット。
【請求項4】
前記入出力端子群の一部の端子が、前記接合面の周縁部に設けられている請求項4に記載の電圧発生ユニット。
【請求項5】
多段式倍電圧整流回路の各段を形成する回路構成素子群が、複数に分割された絶縁物製のユニット本体内に組み込まれている電圧発生ユニットを、その表裏面に設けられた入出力端子群を介して複数段積み上げて形成した電圧発生装置において、
前記入出力端子群が形成されている前記電圧発生ユニットの表裏面は、隣接する他の電圧発生ユニットの表面側又は裏面側と当接し合う接合面とされており、
前記入出力端子群は、前記接合面とほぼ同一面を形成していることを特徴とする電圧発生装置。
【請求項6】
前記各段の電圧発生ユニットを貫通する組付具を有し、この組付治具の緊締力で各段の前記接合面が圧接されている請求項5に記載の電圧発生装置。
【請求項7】
荷電粒子を加速する加速管と、この加速管の各段に印加される加速電位の供給源としての電圧発生装置とを備えた荷電粒子加速器において、
前記電圧発生装置は、多段式倍電圧整流回路の各段を形成する回路構成素子群が、複数に分割された絶縁物製のユニット本体内に組み込まれている電圧発生ユニットを、その表裏面に設けられた入出力端子群を介して複数段積み上げて形成されているとともに、
前記入出力端子群が形成されている前記電圧発生ユニットの表裏面は、隣接する他の電圧発生ユニットの表面側又は裏面側と当接し合う接合面とされており、
前記入出力端子群は、前記接合面とほぼ同一面を形成していることを特徴とする荷電粒子加速器。
【請求項8】
前記電圧発生ユニットの積み上げ方向が、前記加速管の軸方向に平行とされている請求項7に記載の荷電粒子加速器。
【請求項9】
前記加速管は加速電極を挟んで複数段に形成され、この加速管の各段と、前記電圧発生装置を形成する任意の段の電圧発生ユニットとが、互いに電気的に連結されている請求項8に記載の荷電粒子加速器。
【請求項10】
前記加速管の一段の高さが、前記電圧発生ユニットの複数段分の高さに相当している請求項9に記載の荷電粒子加速器。
【請求項11】
前記電圧発生ユニットと次段の電圧発生ユニットとの間には、前記回路構成素子群を内含せず、これら各電圧発生ユニット間を電気的に接続するだけのダミーユニットが介装されている請求項9に記載の荷電粒子加速器。
【請求項12】
前記ダミーユニットは、前記各段の電圧発生ユニットと同等の厚さで形成されている請求項11に記載の電圧発生装置。
【請求項13】
前記加速管と前記電圧発生装置との間の各々の連結部には、これらを囲む金属製のフープが接続されている請求項9に記載の荷電粒子加速器。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−286302(P2006−286302A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−102462(P2005−102462)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【出願人】(000004606)ニチコン株式会社 (656)
【Fターム(参考)】