説明

電子−イオンコインシデンス分光器、及び電子−イオンコインシデンス分光法

【課題】簡易かつ廉価に電子−イオンコインシデンス分光を行うことができる、新規な電子−イオンコインシデンス分光器及び電子−イオンコインシデンス分光法を提供する。
【解決手段】放出極角が26±2度の範囲にある電子のみを分析する円筒鏡電子エネルギー分析器を準備し、この円筒鏡電子エネルギー分析器内に飛行時間型イオン質量分析器を配置する。前記円筒鏡電子エネルギー分析器の前方に試料を設置し、前記試料からの電子を検出し、前記飛行時間型イオン質量分析器で前記試料からのイオンを検出する。この電子シグナルとイオンシグナルを利用して電子−イオンコインシデンス分光を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子−イオンコインシデンス分光器、及び電子−イオンコインシデンス分光法に関する。
【背景技術】
【0002】
1996年に外径140mmで電子の取り込み角が42±(6〜12)度の円筒鏡電子エネルギー分析器と飛行時間型イオン質量分析器を組み合わせた電子−イオンコインシデンス分光器を報告した(非特許文献1)。また、2003年には外径140mmの同軸対称鏡電子エネルギー分析器と飛行時間型イオン質量分析器を組み合わせた電子−イオンコインシデンス分光器を報告した(非特許文献2)。
【0003】
さらに、2005年には同軸対称鏡電子エネルギー分析器の内部に電子の取り込み角が34.6±7度の円筒鏡電子エネルギー分析器と飛行時間型イオン質量分析器を組込んだ電子−電子−イオンコインシデンス分光器の特許を出願した「電子−電子−イオンコインシデンス分光器、電子―電子−イオンコインシデンス分光法、電子−電子コインシデンス分光法、及び電子−イオンコインシデンス分光法」(特許文献1)また、2005年に電子の取り込み角が26±2度の円筒鏡電子エネルギー分析器を報告した(非特許文献3)。
【0004】
しかしながら、電子の取り込み角が26±2度の円筒鏡電子エネルギー分析器と飛行時間型イオン質量分析器を組み合わせた電子−イオンコインシデンス分光器はこれまで提案されていなかった。
【0005】
【非特許文献1】[Development of electron-ion coincidence spectroscopy for the study of surface dynamics", Kazuhiko Mase, Mitsuru Nagasono, Tsuneo Urisu, and Yoshitada Murata, Bull. Chem. Soc. Jpn. 69 (1996) 1829-1832].
【非特許文献2】["Construction and evaluation of an electron-ion coincidence apparatus using a large transmission coaxially symmetric mirror electron energy analyzer", Kouji Isari, Eiichi Kobayashi, Kazuhiko Mase, and Kenichiro Tanaka, Surf. Sci. 528 (2003) 261-265].
【非特許文献3】["Kinetic energy distribution of H+ desorbed by core-level excitations of condensed ammonia using a miniature cylindrical mirror analyzer (CMA)", Eiichi Kobayashi, Akira Nambu, and Kazuhiko Mase, Surface Science 593 (2005) 269-275]
【特許文献1】特願2005−161509
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、放出極角が26±2度の範囲にある電子のみを分析する円筒鏡電子エネルギー分析器と飛行時間型イオン質量分析器を組み合わせることにより、簡易かつ廉価に電子−イオンコインシデンス分光を行うことができる新規な電子−イオンコインシデンス分光器及び電子−イオンコインシデンス分光法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく、本発明は、
円筒形状外電極、前記円筒形状外電極の内側に中心軸を合わせて配置された円筒形状内電極、並びに前記円筒形状外電極及び前記円筒形状内電極の後方において、これら電極の中心軸上に配置されたピンホールを有する電子検出器を含み、放出極角が26±2度の範囲にある電子のみを前記内円筒電極及び前記外円筒電極間に導入し、偏向電場により偏向させて前記電子検出器に導き分析に供するようにしたことを特徴とする円筒鏡電子エネルギー分析器と、
前記円筒鏡電子エネルギー分析器の、前記円筒形状内電極に配置された電場シールド、前記電場シールドの後方の中心軸上に配置されたイオン加速電極、前記イオン加速電極の後方の中心軸上に配置されたイオンドリフト電極、及び前記イオンドリフト電極の後方の中心軸上に配置されたイオン検出器を含む飛行時間型イオン質量分析器と、
を具えることを特徴とする、電子−イオンコインシデンス分光器に関する。
【0008】
前記円筒鏡電子エネルギー分析器は、全体の外径を54mm以下とすることができ、内部の空間の内径を32mm以上にできる。したがって、外径が56mm以下の磁気シールドで覆うことができる。
【0009】
前記飛行時間型イオン質量分析器は、全体の外径を30mm以下とすることができる。したがって、前記円筒鏡電子エネルギー分析器の内部に設置することができる。
【0010】
したがって、前記磁気シールド、前記円筒鏡電子エネルギー分析器及び前記飛行時間型イオン質量分析器を同軸状に組み合わせて、呼び径63mmのフランジ上に組み立てることができる。このために、前記電子−イオンコインシデンス分光器を呼び径63mmのフランジボートを備える多目的超高真空槽内に取り付けることができる。さらに、前記電子−イオンコインシデンス分光器全体の構成が簡易化される。この結果、前記電子−イオンコインシデンス分光器全体の製作コストを低減することができる。
【0011】
また、xyz位置調整機構及び傾き調整機構などを用いることにより、前記電子−イオンコインシデンス分光器の位置調整を簡易に行うことができる。
【0012】
また、前記電子−イオンコインシデンス分光器を用いることにより、本発明の電子−イオンコインシデンス分光法を提供することができる。
【0013】
具体的に、本発明の電子−イオンコインシデンス分光法は、
上記電子−イオンコインシデンス分光器の前方に設けられた試料に対して放射光、X線、軟X線、真空紫外光、電子、及びイオンのいずれか一を入射させ、得られた電子を前記円筒鏡電子エネルギー分析器で検出し、得られたイオンを飛行時間型イオン質量分析器で検出する工程を具えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、簡易かつ廉価に電子−イオンコインシデンス分光を行うことができる、新規な電子−イオンコインシデンス分光器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明のその他の特徴及び利点、並びに上述した電子−イオンコインシデンス分光器について詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の電子−イオンコインシデンス分光器の一例を示す構成図である。図1に示す電子−イオンコインシデンス分光器10は、円筒鏡電子エネルギー分析器20と、その内部に同軸状に組み込まれた飛行時間型イオン質量分析器30とを具えている。
【0017】
円筒鏡電子エネルギー分析器20は、円筒形状内電極21、円筒形状外電極22、及び磁気シールド25を含んでいる。これら円筒形状内電極21、円筒形状外電極22及び磁気シールド25は、中心軸A−A線上において同軸となるように配置されている。また、円筒形状内電極21及び円筒形状外電極22の後方には、中心軸A−A線上においてピンホール23を有する電子検出器24が配置されている。内電極21の電子透過部には厚さ40μm、透過率84%のメッシュを張っている。電子検出器24は例えばマイクロチャンネルプレート(浜松ホトニクス、F4655)などから構成する。電子検出器24はイオン検出にも利用できる。
【0018】
飛行時間型イオン質量分析器30は、イオン加速電極31、イオンドリフト電極32、及び電場シールド34を含んでいる。イオン加速電極の先端と、イオンドリフト電極の両端には原さ40μm、透過率77%のメッシュが張ってある。これらイオン加速電極31、イオンドリフト電極32,及び電場シールド34は、中心軸A−A線上において同軸となるように配置されており、この結果、上述したように、円筒鏡電子エネルギー分析器20、及び飛行時間型イオン質量分析器30は、互いに同軸状に配置されている。また、電場シールド34、イオン引き込み電極31、及びイオンドリフト電極32の後方には、中心軸A−A線上においてイオン検出器33が配置されている。イオン検出器33は例えばマイクロチャンネルプレート(浜松ホトニクス、F4655)などから構成する。イオン検出器33は電子検出にも利用できる。
【0019】
円筒鏡電子エネルギー分析器20及び飛行時間型イオン質量分析器30の前方の、中心軸A−A線上には計測すべき試料Sが配置されている。
【0020】
図1に示す電子−イオンコインシデンス分光器10では、円筒鏡電子エネルギー分析器20の円筒形状内電極21及び磁気シールド25の電位は0Vに保持されている。そして、円筒鏡電子エネルギー分析器20の円筒形状外電場22には円筒鏡電子エネルギー分析器20内に円筒状の電場を形成し、計測すべき電子がピンホール23を透過して効率よく電子検出器24に到達できるように、所定の電圧を印加できるように構成されている。例えば、運動エネルギー449eVの電子を検出する場合、円筒形状外電極の電位は-100Vである。
【0021】
図に示す電子−イオンコインシデンス分光器10では、飛行時間型イオン質量分析器30の電場シールド34の電位は0Vに保持されている。そして、飛行時間型イオン質量分析器30のイオン加速電極31及びイオンドリフト電極32には、計測すべきイオンがイオン検出器33に効率よく到達するように、所定の電圧を印加できるように構成されている。例えば、イオン加速電極電位は-100V、イオンドリフト電極は-2000Vである。
【0022】
円筒鏡電子エネルギー分析器20の全体の外径は54mm、内部の空間の内径は32mmである。したがって、外径56mmの磁気シールド25で覆うことができる。
【0023】
飛行時間型イオン質量分析器30の全体の外径は30mmである。したがって、円筒鏡電子子エネルギー分析器20の内部に飛行時間型イオン分析器30を設置することができる。
【0024】
電子−イオンコインシデンス分光器10は図示しないxyz位置調整機構及び傾き調整機構を介して呼び径63mmのフランジに取り付けられている。このxyz位置調整機構及び傾き調整機構を調整することによって電子−イオンコインシデンス分光器10の焦点位置を試料S上に簡易に設定できる。また、呼び径63mmフランジポートを有する多目的超高真空槽に取り付けることができる。さらに円筒鏡電子エネルギー分析器20及び飛行時間型イオン質量分析器30が小型化しているために電子−イオンコインシデンス分光器10全体の構成が簡易化される。この結果、電子−イオンコインシデンス分光器10全体の製作コストを低減することができる。
【0025】
円筒鏡電子エネルギー分析器20で試料Sからの電子を検出し、飛行時間型イオン質量分析器30で試料Sからのイオンを検出する。この電子シグナルとイオンシグナルを利用して電子−イオンコインシデンス分光を行う。
【0026】
以上、具体例を挙げながら本発明を詳細に説明してきたが、本発明は上記内容に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の電子−イオンコインシデンス分光器の一例を示す構成図である。
【符号の説明】
【0028】
10 電子−イオンコインシデンス分光器
20 円筒鏡電子エネルギー分析器
21 円筒形状内電極
22 円筒形状外電極
23 ピンホール
24 電子検出器
25 磁気シールド
30 飛行時間型イオン質量分析器
31 イオン加速電極
32 イオンドリフト電極
33 イオン検出器
34 電場シールド
S 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形状外電極、前記円筒形状外電極の内側に中心軸を合わせて配置された円筒形状内電極、並びに前記円筒形状外電極及び前記円筒形状内電極の後方において、これら電極の中心軸上に配置されたピンホールを有する電子検出器を含み、放出極角が26±2度の範囲にある電子のみを前記内円筒電極及び前記外円筒電極間に導入し、偏向電場により偏向させて前記電子検出器に導き分析に供するようにしたことを特徴とする円筒鏡電子エネルギー分析器と、
前記円筒鏡電子エネルギー分析器の、前記円筒形状内電極に配置された電場シールド、
前記電場シールドの後方の中心軸上に配置されたイオン加速電極、前記イオン加速電極の後方の中心軸上に配置されたイオンドリフト電極、及び前記イオンドリフト電極の後方の中心軸上に配置されたイオン検出器を含む飛行時間型イオン質量分析器と、
を具えることを特徴とする、電子−イオンコインシデンス分光器。
【請求項2】
前記円筒鏡電子エネルギー分析器と前記飛行時間型イオン質量分析器とを同軸上に配置したことを特徴とする、請求項1に記載の電子−イオンコインシデンス分光器。
【請求項3】
フランジを具え、前記円筒鏡電子エネルギー分析器及び前記飛行時間型イオン質量分析器は、前記フランジ上で一体的に組み立てられたことを特徴とする、請求項1又は2に記載の電子−イオンコインシデンス分光器。
【請求項4】
xyz位置調整機構を具えることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載の電子−イオンコインシデンス分光器。
【請求項5】
傾き調整機構を具えることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一に記載の電子−イオンコインシデンス分光器。
【請求項6】
磁気シールドを具えることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一に記載の電子−イオンコインシデンス分光器。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一に記載の電子−イオンコインシデンス分光器の前方に設けられた試料に対して放射光、X線、軟X線、真空紫外光、電子、及びイオンのいずれか一を入射させ、得られた電子を前記円筒鏡電子エネルギー分析器で検出し、得られたイオンを飛行時間型イオン質量分析器で検出する工程を具えることを特徴とする、電子−イオンコインシデンス分光法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−258049(P2007−258049A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−82329(P2006−82329)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(504151365)大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構 (125)
【Fターム(参考)】