説明

電子レンジ用耐熱ガラスおよび電子レンジ用耐熱ガラスの製造方法

【課題】ホットスポットが従来よりも発生しにくい電子レンジ用耐熱ガラスおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る電子レンジ用耐熱ガラスは、質量%で、SiO 75〜85%、Al 0〜5%、B 10〜20%、LiO 0〜5%、NaO 1〜10%、KO 0〜5%の組成を含有し、(LiO+NaO+KO)/(SiO+B+Al)が0.045〜0.055であり、内部の残留応力が5MPa以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子レンジ用耐熱ガラスおよびその製造方法に関し、より詳細には所定の組成を有し、熱膨張係数が低く、ホットスポットが発生しにくい電子レンジ用耐熱ガラスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電子レンジはマイクロ波発振器を内蔵し、この発振器から調理室内に周波数2.45GHzのマイクロ波を供給することによって食品自体を発熱させて加熱する。この際、食品は調理室内の底面上に設置されたガラス製のターンテーブル上に置かれる。ターンテーブルに用いられるガラスとしては、熱膨張係数が低く、耐熱衝撃性に優れた硼珪酸ガラスが使用される。硼珪酸ガラス製のターンテーブルは、一般的に、溶融ガラスを所定の粘度まで冷却し、金型でプレス成型することによって作製される。
【0003】
上記のような電子レンジにてマイクロ波の供給により調理室内の食品を加熱する際、同時にターンテーブル、すなわちガラスも発熱する。したがって、電子レンジを空焚き等すると、ターンテーブルが局所的に過度に発熱して一部が溶けて穴が空いてしまう、いわゆるホットスポットという現象を引き起こすことがある。なお、このようなガラスの発熱は、主にガラスの誘電損失に起因するものである。
【0004】
上記のような問題に鑑みて、誘電損失を低減した結晶化ガラスおよびその製造方法が開発されている(例えば、特許文献1)。ガラスの誘電損失は主にガラス組成によって左右されるが、特許文献1によれば、ガラスの結晶化工程において、結晶化の条件を制御することによって誘電損失の低い結晶を優先的に析出させ、ガラスをさらに低誘電損失化することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61‐53131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ガラスの誘電損失を低減するように組成を設計しても、誘電損失が設計時の想定以上となり、ホットスポットが発生する場合があった。また、上記特許文献1に係る製造方法を用いてもなお、ガラスの誘電損失を十分に低減できていない場合があった。すなわち、従来の電子レンジ用耐熱ガラスには未だ改良の余地が残されていた。
【0007】
上記課題に鑑み、本発明は、ホットスポットが従来よりも発生しにくい電子レンジ用耐熱ガラスおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討の結果、プレス成型によって発生するガラス内部の残留応力によって誘電損失が高くなることを見出した。すなわち、ガラスの誘電損失には、残留応力に起因する誘電損失と、組成に起因する誘電損失とが含まれることを見出した。また、これらの誘電損失のうち、残留応力に起因する誘電損失は残留応力を低減することによって低減することが可能であることを見出した。そして、本発明者は、ガラス組成を厳密に規定するとともに残留応力を所定値以下とすることによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明として、提案するものである。また、このようなガラスを製造する方法として、成型されたガラスの降温開始から終了までの温度制御域および降温速度を厳密に規制することを提案する。
【0009】
本発明に係る電子レンジ用耐熱ガラスは、質量%で、SiO 75〜85%、Al 0〜5%、B 10〜20%、LiO 0〜5%、NaO 1〜10%、KO 0〜5%の組成を含有し、(LiO+NaO+KO)/(SiO+B+Al)が0.045〜0.055であり、内部の残留応力が5MPa以下であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の電子レンジ用耐熱ガラスは、周波数2.45GHz、25℃における誘電損失が0.020〜0.035であることが好ましい。このような構成によれば、電子レンジ内で調理加熱を行った際のホットスポットの発生を十分に抑制することができる。
【0011】
また、本発明の電子レンジ用耐熱ガラスは、30〜380℃における熱膨張係数が37×10−7/℃以下であることが好ましい。30〜380℃における熱膨張係数が37×10−7/℃以下であれば、電子レンジ用耐熱ガラスとして十分な耐熱、耐衝撃性を有するといえる。
【0012】
また、本発明の電子レンジ用耐熱ガラスは、円盤形状を有し、ターンテーブルのプレートとして用いられることが好ましい。
【0013】
また、本発明の電子レンジ用耐熱ガラスは、10℃/分で(徐冷点+30℃)まで昇温し、30分保持した後、3℃/分で歪点まで降温し、さらに10℃/分で室温まで降温する熱処理を行った際の周波数2.45GHz、25℃におけるガラス中の誘電損失の減少量が0.007以下であることが好ましい。
【0014】
また、本発明の電子レンジ用耐熱ガラスは、周波数2.45GHz、25℃における(前記熱処理した際のガラス中の誘電損失の減少量)/(前記熱処理前のガラスの誘電損失)の値が0.1〜0.3であることが好ましい。
【0015】
本発明の電子レンジ用耐熱ガラスの製造方法は、質量%で、SiO 75〜85%、Al 0〜5%、B 10〜20%、LiO 0〜5%、NaO 1〜10%、KO 0〜5%の組成を含有し、且つ(LiO+NaO+KO)/(SiO+B+Al)が0.045〜0.055となるガラス原料を溶融・成形工程と、溶融・成型工程で得られたガラスを、内部の残留応力が5MPa以下となるよう徐冷する徐冷工程とを含むことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の電子レンジ用耐熱ガラスの製造方法では、徐冷工程において、溶融・成型工程で得られたガラスを、内部の残留応力が5MPa以下となるよう、(徐冷点+50℃)から歪点までの温度域において0.5〜3℃/分の降温速度で徐冷することが好ましい。
【0017】
また、本発明の電子レンジ用耐熱ガラスの製造方法では、徐冷工程において、徐冷の前後での前記電子レンジ用耐熱ガラスの内部の残留応力の差が1.5MPa以上となるよう徐冷を行うことが好ましい。このような構成によれば、残留応力に起因する高誘電損失化を十分に抑制でき、品質が安定した製品を製造することができる。
【0018】
なお、徐冷点とは、残留応力を低減する温度の目安であり、この温度でのガラスの粘度は1013.0dPa・sである。また、歪点とは、ガラスの粘性流動がおこらなくなる温度であり、この温度でのガラスの粘度は1014.5dPa・sである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の電子レンジ用耐熱ガラスによれば、残留応力を低減することによって当該残留応力に起因する誘電損失を低減することができる。すなわち、従来に比してガラス全体の誘電損失を低減し、電子レンジの調理室内部でのマイクロ波による発熱およびホットスポットの発生を抑制することができる。また、上述のような組成を有することから、ガラスの耐熱衝撃性も高く、徐冷も容易なためガラス中の残留応力を低減しやすい。すなわち製品として高い信頼性を得ることができる。また、上述のような組成を有することから溶融性に優れるため、高温溶融を必要とせず、ガラス溶解炉やプレス金型の損傷を抑制できる。また、従来技術のような結晶化処理を行う必要がないため、生産に要するエネルギーやコスト等を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態に係る電子レンジ用耐熱ガラスについて説明する。本発明の実施形態に係る電子レンジ用耐熱ガラスは、ガラス組成として、SiO、Al、B、LiO、NaO、KOを含有する。なお、以下の各成分の含有範囲の説明において、%表示は質量%を指す。
【0021】
SiOは、ガラス骨格構造を形成する主要成分である。本発明におけるSiOの含有量は75〜85%、好ましくは77〜82%、より好ましくは78〜81%である。特に、SiOの含有量を78〜81%に規制すれば、機械的強度を損なうことなく、溶融性や成形性を高めることができる。SiOの含有量が75%より少ないと、ガラスの機械的強度が低下しやすくなる。また、SiOの含有量が85%より多いと、ガラスの高温粘度が高くなり、溶融性や成形性が低下しやすくなる。そのため、溶融に要するエネルギーが増大するとともに、プレス成型時に金型が損傷するおそれがある。
【0022】
Alは、ガラスの化学的耐久性や機械的強度を高め、且つ適量添加により耐失透性を高める成分である。本発明におけるAlの含有量は0〜5%、好ましくは1〜4%、より好ましくは2〜3%である。特に、Alの含有量を2〜3%に規制すれば、成形時に溶融ガラス中に結晶が析出しにくくなるとともに、溶融性や成形性を高めることができる。Alの含有量が5%より多いと、高温粘度が高くなり、溶融性や成形性が低下しやすくなる。そのため、溶融に要するエネルギーが増大するとともに、プレス成型時に金型が損傷するおそれがある。
【0023】
は、ガラス骨格構造を形成し、且つ高温粘度を低下させる成分である。本発明におけるBの含有量は10〜20%、好ましくは10〜15%、より好ましくは12〜15%である。特に、Bの含有量を12〜15%に規制すれば、分相や溶融ガラスからの揮発量を抑制できるとともに、溶融に要するエネルギーを低減でき、プレス成型時に金型が損傷しにくくなる。Bの含有量が20%より多いと、ガラスが分相しやすくなり、一旦、分相が生じると、ガラスの熱膨張係数や誘電損失(以下、ガラス全体の誘電損失αと称する)が均一でなくなることに加えて、化学的耐久性が低下しやすくなる。また、溶融ガラスからの揮発量が増え、溶融ガラス表面に異質層が形成されやすくなってガラスの均質性が低下しやすくなる。また、Bの含有量が10%より小さいと、ガラスの粘性が高くなりすぎる。
【0024】
LiOは、ガラスの高温粘度を低下させて、溶融性を高める成分である。本発明におけるLiOの含有量は0〜5%、好ましくは0〜3%、より好ましくは0〜1%である。LiOの含有量が5%より多いと、熱膨張係数が高くなりすぎるとともに、誘電損失αも高くなりすぎる。また、溶融ガラスからLiを含む結晶が析出しやすくなる。
【0025】
NaOは、ガラスの高温粘度を低下させ、且つ溶融性を高める成分である。本発明におけるNaOの含有量は1〜10%、好ましくは2〜7%、より好ましくは4〜6%である。特に、NaOの含有量が4〜6%であれば、熱膨張係数と誘電損失αが高くなりすぎることなくガラスの溶融性を高めることができる。NaOの含有量が1%未満であると、ガラスの高温粘度が高くなり、溶融性が悪化する。NaOの含有量が10%より多いと、熱膨張係数と誘電損失αが高くなり、製品の信頼性が低下する。
【0026】
Oは、ガラスの高温粘度を低下させて、溶融性を高める成分であり、その含有量は0〜5%、好ましくは0〜3%、より好ましくは0〜1%である。KOの含有量が5%より多いと、熱膨張係数が高くなりすぎるとともに、誘電損失αも高くなりすぎる。
【0027】
(LiO+NaO+KO)/(SiO+B+Al)は、ガラスの溶融性、熱膨張係数、誘電損失αを調節するための指標である。(LiO+NaO+KO)/(SiO+B+Al)の範囲は、0.045〜0.055、好ましくは0.047〜0.052である。特に、(LiO+NaO+KO)/(SiO+B+Al)が0.047〜0.052であれば、熱膨張係数と誘電損失αの上昇を抑制できると同時にガラスの溶融性も高めることができる。(LiO+NaO+KO)/(SiO+B+Al)が0.45より小さいとガラスの高温粘度が高くなり、溶融性が悪化するとともにプレス成型時に金型が損傷しやすくなる。(LiO+NaO+KO)/(SiO+B+Al)が0.55より大きいと熱膨張係数、誘電損失αが高くなり、耐熱衝撃性が低下するとともにホットスポットが発生しやすくなり製品の信頼性が低下する。
【0028】
本発明の電子レンジ用耐熱ガラスは上記成分以外にも、他の成分を含有してもよい。例えば、熱膨張係数、誘電損失α、高温粘度等の改良のために、MgO、CaO、SrO、BaO、ZnO、TiO、ZrO、SnO、P、Cr、SB、SO、Cl、PbO、La、WO、Co、Nb、Y、CeO等を含有してもよい。なお、これらの成分の含有量は合量で3%以下とすることが好ましい。
【0029】
本発明の電子レンジ用耐熱ガラスは、H、CO2、CO、HO、He、Ne、Ar、N等の微量成分を合量で0.1%まで含有してもよい。また、誘電損失αに悪影響を及ぼさない限り、ガラス中にPt、Rh等の貴金属元素を合量で500ppmまで含有してもよい。
【0030】
また、本発明の電子レンジ用耐熱ガラスは、ガラス内部の残留応力が5MPa以下、好ましくは3MPa以下、より好ましくは1MPa以下である。特に、残留応力が1MPa以下であれば、残留応力が十分に小さく、残留応力による誘電損失αの増加を大幅に抑制できる。一方、残留応力が5MPaより大きいと、当該残留応力に起因する誘電損失によりホットスポットが発生しやすくなる。
【0031】
さらに、本発明に係る電子レンジ用耐熱ガラスは、ガラス内部の残留応力が0.1MPa以上且つ5MPa以下、好ましくは0.1MPa以上且つ3MPa以下、より好ましくは0.1MPa以上且つ1MPa以下としても良い。このような電子レンジ用耐熱ガラスであれば、ほぼ設計値通りの誘電損失とすることが可能であり、効率良く本発明の電子レンジ用耐熱ガラスを製造することができる。
【0032】
本発明の電子レンジ用耐熱ガラスにおいて、周波数2.45GHz、25℃における誘電損失αは好ましくは0.025〜0.035、より好ましくは0.025〜0.033、さらに好ましくは0.027〜0.033である。周波数2.45GHz、25℃における誘電損失が0.035よりも高くなると、ガラス中の残留応力に起因する誘電損失が低い場合でも、電子レンジ内部でマイクロ波により発熱しやすくなり、ホットスポットが発生しやすくなって製品の信頼性が低下する。また、周波数2.45GHz、25℃における誘電損失αを0.025未満にするためには、ガラス中の残留応力に起因する誘電損失の低減とともに、ガラスのアルカリ金属酸化物の含有量を少なくする必要があり、この場合ガラスの粘度が高くなってガラスの溶融が困難になる。特に、周波数2.45GHz、25℃における誘電損失αが0.027〜0.033であれば、電子レンジ内部でマイクロ波により発熱しにくくなるとともにガラスの溶融も容易になる。
【0033】
本発明の電子レンジ用耐熱ガラスにおいて、30〜380℃における熱膨張係数は37×10−7/℃以下であることが好ましい。30〜380℃における熱膨張係数が37×10−7/℃以下であれば、十分なガラスの耐熱衝撃性を得ることができる。一方、30〜380℃における熱膨張係数が37×10−7/℃より高くなると、ガラスの耐熱衝撃性が悪化する。
【0034】
本発明の電子レンジ用耐熱ガラスにおいて、ガラスの粘度が104dPa・sとなる温度は1230℃以下であることが好ましい。ガラスの粘度が104dPa・sとなる温度が1230℃以下であれば、ガラスの溶融に要するエネルギーが増大し過ぎることがなく、また、プレス成型時の金型の損傷を抑制することができる。一方、ガラスの粘度が104dPa・sとなる温度が1230℃より高くなると、ガラスの溶融性が低下し、ガラスの溶融に要するエネルギーが増大するとともにプレス成型時に金型が損傷しやすくなる。
【0035】
本発明の電子レンジ用耐熱ガラスは、ターンテーブルとして用いられる場合、円盤形状を有することが好ましい。また、本発明に係る電子レンジ用耐熱ガラスは、生産効率や誘電損失αに悪影響を及ぼさない限り、その他任意の形状であってもよい。例えば、本発明に係る電子レンジ用耐熱ガラスは、棚板として利用可能な四角平板状であっても良い。
【0036】
また、上記のように電子レンジ用耐熱ガラスが円盤状あるいは平板状を成す場合、板面(片面)の面積は好ましくは1300cm2以下、より好ましくは750cm2以下とする。また、本発明の電子レンジ用耐熱ガラスの肉厚は好ましくは1〜10mm、より好ましくは3〜7mmとする。面積が大きすぎたり、肉厚が厚すぎたりすると、ガラスの体積が増大するため、ガラスを均一に徐冷して残留応力を低減することが困難となる。また、肉厚が薄すぎると、機械的衝撃が加わった際に割れやすくなり、製品としての強度の信頼性が低下する。
【0037】
本発明の電子レンジ用耐熱ガラスは、10℃/分で(徐冷点+30℃)まで昇温し、30分保持した後、3℃/分で歪点まで降温し、さらに10℃/分で室温まで降温する熱処理をした際の周波数2.45GHz、25℃における誘電損失の減少量(以下、単に誘電損失の減少量γと称する)が好ましくは0.007以下、より好ましくは0.006以下、さらに好ましくは0.005以下である。誘電損失の減少量γが0.007以下であれば、ガラス中の残留応力に起因する高誘電損失化を抑制できる。したがって、電子レンジの調理室内部でのマイクロ波による加熱及びホットスポットの発生を抑制し、製品としての信頼性が高くなる。特に、周波数2.45GHz、25℃における誘電損失の減少量γが小さいほど、ガラス組成に起因する誘電損失が高い場合でも電子レンジ内部でマイクロ波により発熱しにくくなる。上記誘電損失の減少量γが0.007より大きい場合は、すなわちガラス中の残留応力に起因して誘電損失が設計値より著しく大きくなっている状態を意味することから、ホットスポットの発生が懸念される。
【0038】
なお、周波数2.45GHz、25℃における誘電損失の減少量γは基本的に低いほど良いが、低くするためには後述するガラスの徐冷時の降温速度を遅くする必要がある。このため、ガラスの生産効率を優先する場合には周波数2.45GHz、25℃における上記熱処理した際の誘電損失の減少量γを0.001以上にすることが好ましい。
【0039】
本発明の電子レンジ用耐熱ガラスにおいて、周波数2.45GHz、25℃における(誘電損失の減少量γ)/(熱処理前のガラスの誘電損失α)の値は好ましくは0.1〜0.3、より好ましくは0.1〜0.2、さらに好ましくは0.1〜0.15である。なお、熱処理前のガラスの誘電損失αは、上記熱処理を行う前の本発明の電子レンジ用耐熱ガラスの誘電損失を示し、すなわちガラス全体の誘電損失αと同義である(以下、単に誘電損失αと称する)。特に、周波数2.45GHz、25℃における(誘電損失の減少量γ)/(誘電損失α)の値が0.1〜0.15であれば、ガラスの全体の誘電損失に対する残留応力に起因する誘電損失の影響が十分に小さくなり、残留応力による誘電損失の増加を抑制できるとともにホットスポットの発生を抑制できる。(誘電損失の減少量γ)/(誘電損失α)の値を0.1未満にしようとすると、ガラスの徐冷時間を長くする必要があり、生産効率が低下する懸念がある。あるいはガラスの誘電損失が高いため、電子レンジ内部でマイクロ波により加熱されやすくなってホットスポットが発生しやすくなる懸念がある。(誘電損失の減少量γ)/(誘電損失α)の値が0.3を超えると、ガラス中の残留応力に起因して誘電損失が設計値より著しく大きくなっている状態を意味することから、電子レンジ内部でマイクロ波により加熱されやすくなって、ホットスポットが発生しやすくなる懸念がある。
【0040】
次いで、本発明に係る電子レンジ用耐熱ガラスの製造方法について説明する。
【0041】
本発明に係る電子レンジ用耐熱ガラスは、上述組成から成るガラス原料を溶融し、溶融ガラスからプレス成型された電子レンジ用耐熱ガラスの前駆体を、内部の残留応力が5Mpa以下となるよう、例えば、温度制御可能な連続徐冷炉によって徐冷することにより得られる。
【0042】
本発明の製造方法において、電子レンジ用耐熱ガラスの前駆体の(徐冷点+50℃)〜歪点までの温度域における連続徐冷炉内での降温速度は好ましくは0.5〜3℃/分、より好ましくは1〜2℃/分である。前記徐冷開始温度から徐冷終了温度までの降温速度が0.5〜3℃/分であれば徐冷によりガラス内部の残留応力が小さくなり、残留応力による高誘電損失化を抑制できる。特に、前記徐冷開始温度から徐冷終了温度までの降温速度が1〜2℃/分であれば徐冷によりガラス内部の残留応力が大幅に低減されるとともに、高い生産効率を実現できる。一方、前記徐冷開始温度から徐冷終了温度までの降温速度が3℃/分より速いと、徐冷時間が短くなり、残留応力の低減が困難になる。また、降温速度が0.5℃/分より遅いと、残留応力の低減は可能になるが、徐冷時間が長くなるため生産効率は低下する。
【0043】
徐冷開始温度および徐冷終了温度は上記の温度に限定されるものではないが、徐冷開始温度が高すぎると、ガラスが軟化変形しやすくなり、徐冷時にプレス成型された形状を維持できなくなる。一方、徐冷開始温度が低すぎると、ガラス内部の残留応力の低減が困難となり、残留応力に起因した高誘電損失化を抑制することができなくなる。また、徐冷終了温度が高すぎると、徐冷終了後にガラス内部に残留応力が発生し、ガラスが高誘電損失化してしまう。一方、徐冷終了温度が低すぎると、徐冷時間が長くなって生産効率が低下する。
【0044】
なお、連続徐冷炉を通過する前後の電子レンジ用耐熱ガラスの周波数2.45GHz、25℃における誘電損失の差は好ましくは0.005以上、より好ましくは0.008以上である。特に、周波数2.45GHz、25℃における誘電損失の差が0.008以上であれば、ガラス全体の誘電損失αに占める、ガラス中の残留応力に起因する誘電損失の割合を十分に小さくできる。すなわち、不要な誘電損失の増加を抑制し、品質が安定した製品を製造できる。
【0045】
さらに本発明の製造方法では、連続徐冷炉を通過する前後での電子レンジ用耐熱ガラスの内部の残留応力差(すなわち前駆体と電子レンジ用耐熱ガラスとの残留応力差)が1.5MPa以上となるよう徐冷することが好ましい。より好ましくは、連続徐冷炉を通過する前後のガラス内部の残留応力差が2.5MPa以上となるよう徐冷すると良い。特に、連続徐冷炉を通過する前後のガラス内部の残留応力差が2.5MPa以上となるようにすれば、残留応力に起因する高誘電損失化を大幅に抑制でき、品質が安定した製品を製造できる。
【0046】
なお、連続徐冷炉内を通過する電子レンジ用耐熱ガラスの前駆体の面積が1300cm2以下、肉厚が1〜10mmであることが好ましい。このような寸法で電子レンジ用耐熱ガラスの前駆体を成型すれば、前記降温速度による残留応力の低減はより一層容易となり、残留応力による高誘電損失化を抑制でき、品質が安定する。
【0047】
また、上記では連続徐冷炉によって徐冷を行う例を示したが、少量生産の場合においては生産効率の低下をもたらさない限り、プレス成型後、急冷されたガラスを温度制御可能な非連続徐冷炉で(徐冷点+50℃)まで再度加熱し、その後徐冷して残留応力を低減してもよい。
【実施例】
【0048】
以下、実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。
【0049】
表1は、本発明の実施例(試料No.1及び2)および比較例(試料No.3及び4)を示している。
【0050】
【表1】


先ず、表1中に示すガラス組成になるように、天然原料、化成原料等の各種ガラス原料を秤量、混合して、ガラスバッチを作製した。次に、このガラスバッチを白金坩堝で1600℃で8時間溶融した後、得られたガラス融液をプレス成型し、円盤形状のガラス試料を得た。さらに、このガラス試料を、各所に熱電対が設置された温度制御可能な連続徐冷炉を通過させた。
【0051】
また、ガラス試料の降温速度を、連続徐冷炉各部の熱電対の表示温度と連続徐冷炉内のコンベアの送り速度とに基づいて算出した。なお、降温速度の算出方法は従来周知の任意の手法を用いて良い。
【0052】
上記のようにして得られた各試料につき、残留応力、徐冷炉通過前後の残留応力差、30〜380℃における熱膨張係数、ガラスの粘度が104dPa・sとなる温度、周波数2.45GHz、25℃における比誘電率および誘電正接を測定した。
【0053】
なお、ガラス試料の残留応力は、徐冷炉通過前の各試料について偏光顕微鏡を用いてセナルモン法により算出した。また、同様にして徐冷炉通過後の残留応力を求め、これら徐冷炉通過前後の残留応力の差分値を、徐冷前後でのガラス内部の残留応力差として算出した。
【0054】
また、熱膨張係数は、MAC SCIENCE社製熱膨張係数測定装置を用いて30〜380℃における平均線熱膨張係数を測定した。
【0055】
また、ガラスの粘度が104dPa・sとなる温度は白金球引き上げ法により測定した。
【0056】
また、周波数2.45GHz、25℃における比誘電率、誘電正接は空洞共振器を用いて共振周波数と負荷の変化から測定した。また、誘電損失は、比誘電率および誘電正接を乗算して算出した。
【0057】
さらに、上記のように測定した比誘電率と誘電正接とを乗算して各試料ガラスの誘電損失αを算出した。また、各試料を小型徐冷炉で10℃/分で(徐冷点+30℃)まで昇温し、30分保持した後、3℃/分で歪点まで降温し、さらに10℃/分で室温まで降温する熱処理を行って残留応力を低減した後のガラスの誘電損失βを算出した。また、連続徐冷炉通過後のガラス試料の誘電損失αと熱処理後の誘電損失βとの差を、熱処理した際の誘電損失の減少量γとして算出した。
【0058】
上記誘電損失αには、ガラスの組成に起因する誘電損失、およびガラスの残留応力に起因する誘電損失が含まれている。そして、上述の熱処理によってガラス試料中の残留応力は低減される。したがって、誘電損失の減少量γは、ガラスの残留応力に起因した誘電損失に相当するものであると考えられる。故に、誘電損失の減少量γが小さいほど、不要な誘電損失の増加が抑制されており、ホットスポットが発生しにくい。
【0059】
表1から明らかなように、本発明の実施例である試料No.1および2は、(徐冷点+50℃)から歪点までの降温速度が1〜2℃/分の範囲内にあり、残留応力が2MPa以下と小さかった。このため、誘電損失が0.031と低く、誘電損失の減少量γは0.007以下であった。また、(誘電損失の減少量γ)/(誘電損失α)の値は、0.1〜0.3の範囲内であった。すなわち、何れもホットスポットの発生しにくい電子レンジ用耐熱ガラスが得られた。また、試料No.1および2は本発明における好ましいガラス組成を有しているため、30〜380℃における熱膨張係数が37×10−7/℃以下、ガラスの粘度が104dPa・sとなる温度が1230℃以下であった。すなわち、試料No.1および2は、高い耐熱、耐衝撃性および優れた成形性を有する電子レンジ用耐熱ガラスとなっている。
【0060】
一方、比較例である試料No.3は、ガラス組成は本発明における好ましい範囲内にあるが、徐冷時の降温速度が速いため、残留応力が本発明の実施例に比べ大きく、よって、ガラスの誘電損失αが0.039と高く、誘電損失の減少量γも0.012と高かった。また、周波数2.45GHz、25℃における(誘電損失の減少量γ)/(誘電損失α)の値が0.31と、0.1〜0.3の範囲外であった。すなわち、試料No.3は、ホットスポットが発生しやすいガラスとなっている。
【0061】
また、比較例である試料No.4は徐冷時の降温速度は本発明の範囲内(1〜2℃/分)にあるが、ガラス組成が本発明の範囲外であるため、熱膨張係数や誘電損失が本発明の実施例に比べ高かった。すなわち、試料No.4は、ホットスポットが発生しやすく、耐熱衝撃性が低いガラスとなっている。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係る電子レンジ用耐熱ガラスおよびその製造方法は、ホットスポットが従来よりも発生しにくい電子レンジ用耐熱ガラスおよびその製造方法などとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、SiO 75〜85%、Al 0〜5%、B 10〜20%、LiO 0〜5%、NaO 1〜10%、KO 0〜5%の組成を含有し、且つ質量比(LiO+NaO+KO)/(SiO+B+Al)が0.045〜0.055であり、
内部の残留応力が5MPa以下であることを特徴とする電子レンジ用耐熱ガラス。
【請求項2】
周波数2.45GHz、25℃における誘電損失が0.020〜0.035であることを特徴とする請求項1に記載の電子レンジ用耐熱ガラス。
【請求項3】
30〜380℃における熱膨張係数が37×10−7/℃以下であることを特徴とする請求項1または2の何れかに記載の電子レンジ用耐熱ガラス。
【請求項4】
円盤形状を有し、ターンテーブルのプレートとして用いられることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の電子レンジ用耐熱ガラス。
【請求項5】
10℃/分で(徐冷点+30℃)まで昇温し、30分保持した後、3℃/分で歪点まで降温し、さらに10℃/分で室温まで降温する熱処理を行った際の周波数2.45GHz、25℃におけるガラス中の誘電損失の減少量が0.007以下であることを特徴とする、請求項1から4の何れか1項に記載の電子レンジ用耐熱ガラス。
【請求項6】
周波数2.45GHz、25℃における(前記熱処理した際のガラス中の誘電損失の減少量)/(前記熱処理前のガラスの誘電損失)の値が0.1〜0.3であることを特徴とする、請求項5に記載の電子レンジ用耐熱ガラス。
【請求項7】
(1)質量%で、SiO 75〜85%、Al 0〜5%、B 10〜20%、LiO 0〜5%、NaO 1〜10%、KO 0〜5%の組成を含有し、且つ(LiO+NaO+KO)/(SiO+B+Al)が0.045〜0.055となるガラス原料を溶融および成型する溶融・成型工程と、
(2)前記溶融・成型工程で得られたガラスを、内部の残留応力が5MPa以下となるよう徐冷する徐冷工程とを含むことを特徴とする電子レンジ用耐熱ガラスの製造方法。
【請求項8】
前記徐冷工程において、前記溶融・成型工程で得られたガラスを、内部の残留応力が5MPa以下となるよう、徐冷前の電子レンジ用耐熱ガラスの(徐冷点+50℃)から歪点までの温度域において0.5〜3℃/分の降温速度で徐冷することを特徴とする、請求項7に記載の電子レンジ用耐熱ガラスの製造方法。
【請求項9】
前記徐冷工程において、徐冷の前後での前記電子レンジ用耐熱ガラスの内部の残留応力の差が1.5MPa以上となるよう徐冷を行うことを特徴とする、請求項7または8に記載の電子レンジ用耐熱ガラスの製造方法。

【公開番号】特開2013−63861(P2013−63861A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201746(P2011−201746)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】