説明

電子放出素子、電子線装置、及び画像表示装置の製造方法

【課題】電子源を駆動するための電圧を印加するゲート−カソード間のリーク電流の発生を抑制する。
【解決手段】表面に凹部を有する絶縁部材と、絶縁部材の表面に、凹部に対向させて配置されたゲート電極と、凹部の縁に配置され、ゲート電極に向けて突起する突起部分を有するカソードと、を含む電子放出素子の製造方法であって、凹部を設ける工程と、凹部の縁にゲート電極に向けて突起する凸部を設けた後にカソードを設ける工程と、をこの順で実施することを特徴とする電子放出素子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子放出素子、電子放出素子を用いた電子線装置、及び電子線装置を用いた画像表示装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、カソードから出た電子の多数が対向するゲート電極に衝突、散乱した後に、電子として取り出されるタイプの電子放出素子が存在する。このような形態で電子を放出する素子として、特許文献1に記載された積層型の電子放出素子が知られている。特許文献1では、表面に凹部を有する絶縁部材と、絶縁部材の外表面と凹部の内表面とに跨って位置する突起部分を有するカソードと、絶縁部材の外表面に、突起部分と対向して位置するゲートと、ゲートを介して突起部分と対向して位置するアノードとを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−272298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の電子放出素子では電子放出特性の経時劣化が抑制された。しかしながら、特許文献1の電子放出素子では絶縁部材に凹部を設けた後、凹部開口にカソードとなる凸部を形成する。カソード形成初期には凹部の開口が広いため、カソードの材料が凹部内に回り込む場合があり、まれにそれが電子源を駆動するための電圧を印加するゲート−カソード間にリーク電流を発生させる原因になることがあった。
【0005】
そこで、本発明は、簡易な製造方法で、ゲート−カソード間のリーク電流の発生を抑制し、安定して動作する電子放出素子、電子放出素子を用いた電子線装置、及び電子線装置を備えた画像表示装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、表面に凹部を有する絶縁部材と、前記絶縁部材の表面に、前記凹部に対向させて配置されたゲート電極と、前記凹部の縁に配置され、前記ゲート電極に向けて突起する突起部分を有するカソードと、を含む電子放出素子の製造方法であって、前記凹部を設ける工程と、前記凹部の縁に前記ゲート電極に向けて突起する凸部を設けた後に前記カソードを設ける工程と、をこの順で実施することを特徴とする電子放出素子の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、カソードを成膜する前に予め凹部の縁に凸部を設けるため、カソード成膜時に凹部内にカソード材料が回り込むのを抑制できる。このため、ゲート−カソード間のリーク電流の発生が抑制され、動作的に安定な電子放出素子の製造方法を提供することができる。更には、電子放出素子を用いた電子線装置、及び電子線装置を備えた画像表示装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の電子放出素子の構成を示す図である。
【図2】電子放出特性測定時の電源及び電位の関係を示す図である。
【図3】本発明の電子放出素子の製造方法を示す図である。
【図4】リセス部入り口の凸部と見込み角の関係を説明する図である。
【図5】リセス部入り口の凸部の効果を説明する図である。
【図6】実施例及び比較例で作製される電子放出素子の構成を示す図である。
【図7】実施例1の電子放出素子の製造方法を示す図である。
【図8】比較例の電子放出素子の製造方法を示す図である。
【図9】実施例7の画像表示装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に図面を参照して本発明の好適な実施形態を例示的に説明する。ただし、以下の実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置等は、特に特定的な記載がない限りは本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0010】
〔素子の概要〕
図1は本発明の製造方法で製造される電子放出素子の構成を示す模式図であり、図1(A)は上面図、図1(B)は図1(A)のA−A線での断面図、図1(C)は図1(B)において素子を矢印方向から眺めたときの側面図である。
【0011】
図1において、1は基板であり、基板1上には絶縁部材が配置されている。本発明の絶縁部材は表面に凹部7(以下、「リセス部」ということもある。)を有する。この絶縁部材は例えば図1(B)のように第1絶縁層3と、第2絶縁層4と、で構成される。このとき、凹部7は第1絶縁層3の上面の、第2絶縁層4が形成されていない部分と、第2絶縁層4の側面と、で構成される。凹部7を構成するこの2つの面を、以下「リセス部7の内表面」ということもある。5は第2絶縁層4の表面に凹部7に対向させて配置されたゲート電極である。10は凹部7の縁(リセス部7の入り口)に配置され、ゲート電極5に向けて突起する凸部である。6Aは凸部10を設けた後に設けられ、ゲート電極5に向けて突起する突起部分を有するカソードである。カソード6Aは凸部10が設けられている凹部7の縁から第1絶縁層3の側面に沿って基板1上まで設けるのが好ましい。8は電子放出に必要な電界が形成される間隙(カソード6Aの突起部分の先端からゲート電極5の底面(凹部7に対向する部分)までの最短距離d)である。2は基板1上に設けられ、カソード6Aと電気的に接続された電極である。図1には不図示であるが、ゲート電極5を介してカソード6Aと対向する位置には、これらよりも高電位に規定され、カソード6Aの先端と対向配置されたアノード電極を有し、このアノード電極と図1の電子放出素子とで電子線装置が構成される。尚、図1(B)の構成を図1(B’)の構成にしても良い。図1(B’)は図1(A)のA−A線での断面図である。図1(B’)の構成は凸部10の材料により凹部7の縁に凸部10が設けられているのみならず、凸部10の材料が凹部7の縁から第1絶縁層3の側面に沿って基板1上まで設けられている点で図1(B)の構成と異なる。
【0012】
図2は本発明の製造方法で製造された電子放出素子であり、素子の電子放出特性を測定するときの電源及び電位の関係を示す図である。Vfはカソード6Aとゲート電極5との間に印加される電圧、Ifはカソード−ゲート電極間を流れる素子電流、Vaはカソード6Aとアノード電極12の間に印加される電圧、Ieは電子放出電流である。図2において、カソード6Aから、対向するゲート電極5に向かって放出された電子は一部がアノード電極12に到達する。残りはゲート電極5に到達し、1回或いは複数回散乱した後、アノード電極12に到達するか、ゲート電極5上で消滅する。このようにして、アノード電極12に到達した電流が電子放出電流である。一方、第1絶縁層3、第2絶縁層4の表面或いは内部を経由して、電子がカソード6Aからゲート電極5に流れる電流がリーク電流である。例えば、リセス部7の内表面に導電性の材料が付着してしまうと、リーク電流の経路となってしまう。リーク電流はアノード電極12に到達する電子放出電流に全く寄与しない無効電流であり、リーク電流は消費電力を大きくするだけでなく、電子放出特性の安定性を阻害する場合があるため、極力抑制することが望ましい。
【0013】
〔製造方法の概要〕
図3は本発明の電子放出素子の製造方法を示す模式断面図である。まず、CVD法、真空蒸着法、スパッタ法等の一般的な真空成膜技術により基板1上に第1絶縁層3、第2絶縁層4、ゲート電極5をこの順に積層して形成する(図3(A))。
【0014】
基板1は素子を機械的に支えるための基板であり、基板1の材料としては石英ガラス、Na等の不純物含有量を減少させたガラス、青板ガラス、シリコン基板等が好適に用いられる。基板に必要な機能としては機械的強度が高いだけでなく、ドライエッチング、ウェットエッチング、現像液等のアルカリや酸に対して耐性があるものが望ましい。さらに、ディスプレイパネルのような一体のものとして用いる場合は成膜材料や他の積層部材と熱膨張差が小さいものが望ましい。また、熱処理に伴いガラス内部からのアルカリ元素等が拡散しづらい材料が望ましい。
【0015】
第1絶縁層3は加工性に優れる材料からなる絶縁性の膜であり、第1絶縁層3の材料としてはSiN(SixNy)やSiO2等が好適に用いられる。第1絶縁層3の厚さは5nm以上50μm以下の範囲、好ましくは50nm以上800nm以下の範囲で設定する。第1絶縁層3の前記下限値は十分な電子源効率が得られる最小の厚さであり、第1絶縁層3の前記上限値は製造の容易さ等を考慮したときの最大の厚さである。第2絶縁層4は加工性に優れる材料からなる絶縁性の膜であり、第2絶縁層4の材料としてはSiN(SixNy)やSiO2等が好適に用いられる。第2絶縁層4の厚さは5nm以上500nm以下の範囲、好ましくは5nm以上50nm以下の範囲で設定する。電子放出特性を考慮すると、第2絶縁層4の厚さを10nm以上30nm以下の範囲で設定するのがより好ましい。第2絶縁層4の前記下限値は十分な層間絶縁層としての効果が得られる最小の厚さであり、第2絶縁層4の前記上限値は十分な電子源効率が得られる最大の厚さである。第1絶縁層3の材料として例えばSixNyを用い、第2絶縁層4の材料として例えばSiO2等絶縁性材料、或いはリン濃度の高いPSG、ホウ素濃度の高いBSG膜等を用いた構成とする事もできる。なお、第1絶縁層3と第2絶縁層4を積層した後にリセス部7を形成する必要があるため、第1絶縁層3と第2絶縁層4との間にはエッチングにおいて異なるエッチングレートを持つように設定されなければならない。望ましくは第1絶縁層3と第2絶縁層4との間には選択比として10以上とするのが望ましく、できれば50以上とれることが望ましい。
【0016】
ゲート電極5は導電性に加えて高い熱伝導率があり、融点が高い材料が望ましい。例えばBe,Mg,Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Al,Cu,Ni,Cr,Au,Pt,Pd等の金属又は合金材料、TiC,ZrC,HfC,TaC,SiC,WC等の炭化物、HfB2,ZrB2,LaB6,CeB6,YB4,GdB4等の硼化物、TiN,ZrN,HfN、TaN等の窒化物、Si,Ge等の半導体、有機高分子材料、アモルファスカーボン、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボン、ダイヤモンドを分散した炭素及び炭素化合物等が適宜使用可能である。ゲート電極5の厚さは5nm以上500nm以下の範囲、好ましくは10nm以上100nm以下の範囲で設定する。ゲート電極5の前記下限値は第2絶縁層4が十分な層間絶縁層としての効果が得られる最小の厚さであり、ゲート電極5の前記上限値は十分な電子源効率が得られる最大の厚さである。
【0017】
次に、フォトリソグラフィー技術によりゲート電極上にレジストパターンを形成した後、エッチング手法を用いてゲート電極5、第2絶縁層4、第1絶縁層3をこの順に加工する(図3(B))。このようなエッチング加工では、一般的にエッチングガスをプラズマ化して材料に照射することで材料の精密なエッチング加工が可能なRIE(Reactive Ion Etching)を用いる。この際の加工ガスとしては、加工する対象部材がフッ化物を形成する場合はCF4、CHF3、SF6のフッ素系ガスが選ばれ、加工する対象部材がSiやAlのように塩化物を形成する場合はCl2、BCl3等の塩素系ガスが選ばれる。また、レジストとの選択比を取るため、エッチング面の平滑性の確保或いはエッチングスピードを上げるために水素や酸素、アルゴンガス等を随時添加する。
【0018】
続いて、エッチング手法を用いて第2絶縁層4を加工し、リセス部7を形成する(図3(C))。第2絶縁層4がSiO2からなる材料であれば通称バッファーフッ酸(BHF)と呼ばれるフッ化アンモニウムとフッ酸との混合溶液を用い、第2絶縁層4がSixNyからなる材料であれば熱リン酸系エッチング液を用いてエッチングすることが可能である。リセス部7の深さ(第1絶縁層3の側面からリセス部7を構成する第2絶縁層4の側面までの距離)は、素子形成後のリーク電流に大きく関わり、リセス部7の深さを深く形成するほどリーク電流の値が小さくなる。これは、リークの経路となる、リセス部7の内表面の距離が伸びることにより、カソードの回り込みや、残渣等の影響が小さくなるためである。ただし、あまり距離を深く形成するとゲート電極5が変形する等の課題が発生するため、リセス部7の深さはおよそ30nm以上200nm以下程度で形成される。
【0019】
次に、ゲート電極5上に剥離層11を形成する(図3(D))。剥離層11は次の工程で堆積するカソード6Bをゲート電極5から剥離することを目的として形成する。このため、例えばゲート電極5を酸化させて酸化膜を形成する、或いは電解メッキにて剥離金属を付着させる等の方法により剥離層11を形成する。
【0020】
続いて、リセス部7の入り口に凸部10を設ける。凸部10を設ける方法としては、図3(E)のように、凸部10の材料を気相成膜法、例えばCVD法、真空蒸着法、スパッタ法等の一般的な真空成膜技術により斜方成膜する方法がある。凸部10の材料をリセス部7の入り口から第1絶縁層3の側面に沿って基板1上まで成膜することにより層9Aを形成し、リセス部7の入り口にはゲート電極5に向かう凸部10を形成する。尚、この際、ゲート電極5にも凸部10の材料が付着し、ゲート電極5上及びゲート電極5の側面に層9Bが成膜される。別の方法としては、第1絶縁層3をパターニングすることで凸部10を設けることもできる。凸部10の高さはリセス部7の厚さ(第2絶縁層4の厚さ)の50%以上85%以下の範囲で設定する。凸部10の高さをリセス部7の厚さの50%とすると、リセス部7内への金属粒子の侵入を約半分にでき、リーク電流を抑制できる。よって、50%以下ではリーク電流を抑制する効果が小さくなるため好ましくない。また、凸部10の高さをリセス部7の厚さの85%以上とすると、凸部10形成後に成膜するカソードの膜厚が薄くなりすぎて抵抗が高くなったり、カソードが不連続な膜となって抵抗値が不安定になるため好ましくない。凸部10の材料としては、例えば加工性に優れる材料からなる絶縁性を有する材料、具体的にはSiN(SixNy)、SiO2、PSG、BSG、SiOF、SiOC、SiCN、TiO2、Cr23、TaO、SrO、CoO等が好適に用いられる。また、凸部10は必ずしも絶縁性を有する必要はなく、Si、SnO2、SbO2、WGeON等の高抵抗膜も使用可能である。高抵抗膜の比抵抗は10-4Ωm以上であれば良い。
【0021】
次に、CVD法、真空蒸着法、スパッタ法等の一般的な真空成膜技術によりカソード6Aを設ける。カソードの材料を凸部10が設けられているリセス部7の入り口から第1絶縁層3の側面に沿って基板1上まで斜方成膜することによりカソード6Aを形成する(図3(F))。尚、この際、ゲート電極5にもカソードの材料が付着し、層9B上にカソード6Bが成膜される。電子放出特性を考慮すると、カソード6Aは5nm程度の厚さが最小限必要であり、TEMで観察したときに間隙8が4nm以上12nm以下となるように形成するのが好ましい。カソードの材料は導電性があり、電界放出する材料であれば良く、一般的には2000℃以上の高融点、5eV以下の仕事関数材料であり、酸化物等の化学反応層の形成しづらい或いは簡易に反応層を除去可能な材料が好ましい。例えば、Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Au,Pt,Pd等の金属又は合金材料、TiC,ZrC,HfC,TaC,SiC,WC等の炭化物、HfB2,ZrB2,LaB6,CeB6,YB4,GdB4等の硼化物、TiN,ZrN,HfN、TaN等の窒化物、アモルファスカーボン、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボン、ダイヤモンドを分散した炭素及び炭素化合物等が挙げられる。
【0022】
続いて、剥離層11をエッチングで取り除くことでゲート電極5上の層9B、カソード6Bが取り除かれる(図3(G))。
【0023】
次に、CVD法、真空蒸着法、スパッタ法等の一般的な真空成膜技術、フォトリソグラフィー技術によりカソード6Aと電気的な導通を取るための電極2を形成する(図3(H))。電極2は導電性を有している材料が望ましく、例えばBe,Mg,Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Al,Cu,Ni,Cr,Au,Pt,Pd等の金属または合金材料が使用可能である。また、TiC,ZrC,HfC,TaC,SiC,WC等の炭化物、HfB2,ZrB2,LaB6,CeB6,YB4,GdB4等の硼化物、TiN,ZrN,HfN等の窒化物も使用可能である。更には、Si,Ge等の半導体、有機高分子材料、アモルファスカーボン、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボン、ダイヤモンドを分散した炭素及び炭素化合物等も使用可能である。電極2の厚さは50nm以上5mm以下の範囲、好ましくは50nm以上5μm以下の範囲で設定する。電極2の前記下限値は十分な導電性を維持できる最小の厚さであり、電極2の前記上限値は製造の容易さ等を考慮したときの最大の厚さである。電極2はゲート電極5と同一材料でも異種材料でも良く、またゲート電極5と同一形成方法でも異種形成方法でも良いが、ゲート電極5は電極2に比べてその膜厚が薄い範囲で設定される場合があるため低抵抗材料が望ましい。また、上記作製例では剥離層11を設けてゲート電極5上のカソード6Bを除去しているが、ゲート電極5上にカソード6Bを残した構成も可能である。ただし、この場合、ゲート電極5とカソード6Bとの電気的な接続を確保するため、カソード6Bが成膜される前に、層9Bをパターニングにより一部除去する必要がある。
【0024】
〔リセス部入り口に凸部を設けたことの効果〕
以上説明した電子放出素子の製造方法において、リセス部7の入り口に凸部10を設けた後、カソード6A、6Bを成膜したことによる効果について説明する。
【0025】
図4(A)は電子放出素子のカソード6A、6B成膜前の断面図である。図4(A)は、リセス部7の入り口に凸部10を設けない従来の構成である。リセス部7形成後にCVD法、真空蒸着法、スパッタ法等の一般的な真空成膜技術によりカソード6A、6Bを成膜する場合、リセス部7奥の角に到達するためのカソード粒子の見込み角は、図4(A)のθaのように比較的広くなる。このままでは、リセス部7の内表面にカソードが回り込むことになり、リーク電流が発生する。これを防止するため、斜方蒸着が用いられたり、成膜装置に粒子の飛来角度を制限するためのコリメータを設けたり、空間での粒子散乱が少ない比較的低圧で成膜が行われることが多い。
【0026】
図4(B)〜図4(D)はリセス部7の入り口に凸部10を設けた場合の、電子放出素子のカソード6A、6B成膜前の断面図である。図4(B)において、リセス部7の入り口の凸部10高さをhb、凸部10の頂点のX座標をXbとする。リセス部7入り口に凸部10を設けることで、凸部のない図4(A)に比べて、カソード6A、6B成膜時のカソード粒子の見込み角がかなり小さくなる。更に、図4(B)に対して、図4(C)のようにリセス部7の入り口の凸部10高さを高くすると(hc>hb)、カソード6A、6B成膜時のカソード粒子のリセス部7への見込み角が小さくなる(θc<θb)。また、図4(B)に対して、図4(D)のようにリセス部7入り口の凸部10の頂点をリセス部7の奥方向に設けると(Xd<Xb)、カソード6A、6B成膜時のカソード粒子のリセス部7への見込み角が小さくなる(θd<θb)。
【0027】
次に、リセス部7内へのカソード粒子の回り込みを比較した結果の一例を説明する。図5(A)は電子放出素子の断面図である。図5(A)に示すように、リセス部7の入り口の凸部10高さをh、リセス部7の厚さ(第2絶縁層4の厚さ)をtとする。図5(B)及び図5(C)は、凸部10高さが変化した場合のリセス部7内へのカソードの回り込みを比較したものである。図5(B)は、リセス部7の入り口からの距離による、リセス部7を構成する第1絶縁層3の表面のカソード粒子数の変化を表示したグラフである。横軸はリセス部7の入り口からの距離をリセス部7の厚さtで規格化した。図5(C)は、リセス部7を構成する第1絶縁層3の表面のある点で、リセス部7の入り口の凸部10の高さhが変化した場合のカソード粒子数の変化を表示したグラフである。横軸は凸部10高さhをリセス部の厚さtで規格化した。図5(B)及び図5(C)のように凸部10高さhがリセス部の厚さtに対して大きくなると、リセス部7内へのカソードの回り込みが小さくなる。よって、リセス部7の入り口に凸部10を設けることで、カソード6A、6B成膜時のリセス部7に対するカソード粒子の見込み角を制御でき、カソードの回り込みを抑制することができる。その結果、リーク電流を抑制することができる。
【0028】
また、電子放出素子自体に、リーク抑制機構が設けられているため、カソードを成膜する装置、成膜条件、カソード材料等の制限がなくなり、量産に適した選択をすることが可能となる。
【実施例】
【0029】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに詳述する。
【0030】
[実施例1]
図7は本実施例の電子放出素子の製造方法を示す模式断面図である。まず、スパッタ法により基板1上に第1絶縁層3、第2絶縁層4、ゲート電極5をこの順に積層した(図7(A))。基板1の材料はプラズマディスプレイ用に開発された低ナトリウムガラスであるPD200とした。第1絶縁層3の材料はSiN(SixNy)、第1絶縁層3の厚さは500nmとした。第2絶縁層4の材料はSiO2、第2絶縁層4の厚さは30nmとした。ゲート電極5の材料はTaN、ゲート電極5の厚さは30nmとした。その後、フォトリソグラフィー技術によりゲート電極5上にレジストパターンを形成した後、ドライエッチング手法を用いてゲート電極5、第2絶縁層4、第1絶縁層3をこの順に加工した(図7(B))。この時の加工ガスとしては、第1絶縁層3、第2絶縁層4及びゲート電極5はフッ化物を作る材料が選択されているためCF4系のガスを用いた。このガスを用いてRIEを行った結果、第1絶縁層3、第2絶縁層4及びゲート電極5のエッチング後の角度は基板水平面に対しておよそ80°の角度で形成されていた。レジスト剥離後、BHFを用いてリセス部の深さが約70nmになるようにエッチング手法を用いて第2絶縁層4をエッチングし、第1絶縁層3と、第2絶縁層4と、からなる絶縁部材の表面にリセス部7を形成した(図7(C))。
【0031】
次に、スパッタ法により凸部10の材料をリセス部7の入り口から第1絶縁層3の側面に沿って基板1上まで斜方成膜することで層9Aを形成し、リセス部7の入り口にはゲート電極5に向かう凸部10を形成した(図7(D))。凸部10の材料はSiO2、凸部10の高さは第2絶縁層4の厚さの60%である18nmとした。尚、この際、ゲート電極5上にもSiO2が付着し、ゲート電極5上に層9Bが成膜された。その後、ゲート電極5上の層9Bをパターニングし、ゲート電極5が次に成膜するカソードと電気的な接続が可能なように、ゲート電極5の一部を露出させた(図7(E))。
【0032】
続いて、スパッタ法によりモリブデン(Mo)を凸部10が設けられているリセス部7の入り口から第1絶縁層3の側面に沿って基板1上まで斜方成膜することでカソード6A(低電位側カソード)を形成した(図7(F))。尚、この際、ゲート電極5上にもMoが付着し、ゲート電極5上にカソード6Bが成膜された。Moの厚さ(ゲート電極5上等の周囲に遮蔽物がない面での厚さ)は平坦な面で12nmになるように成膜した。カソード6A、6B成膜後、カソード6Aの幅が100μmになるようにフォトリソグラフィー技術によりレジストパターンを形成した。その後、ドライエッチング手法を用いてMoからなるカソード6Aを加工した。このときの加工ガスとしてはCF4系のガスを用いた。これによって、リセス部7の縁に沿って位置する突起部分を有する短冊状のカソード6Aを形成した。本実施例においては、カソード6Aの幅は突起部分の幅と一致している。尚、突起部分の幅とは、突起部分の、リセス部7の深さ方向と垂直な方向かつリセス部7の縁に沿った長さを意味する。断面TEMによる解析の結果、図7(F)におけるカソード6Aとゲート電極5の間隙8は9nmであった。
【0033】
次に、スパッタ法により電極2を形成した。電極2の材料は銅(Cu)、電極2の厚さは500nmとした(図7(G))。
【0034】
上記方法で作製した電子放出素子の模式断面図を図6(C)に示す。図2の構成で電子放出素子の特性を効率=Ie/(If+Ie)により評価した。IfとIeは上述したため説明を省略する。ゲート電極5の電位を24Vとし、電極2を介してカソード6Aの電位を0Vに規定することによって、ゲート電極5とカソード6Aの間に24Vの駆動電圧を印加した。また、Vaは10kVとした。その結果、平均効率は6%が得られた。電子放出電流に対して、電子放出電流に寄与しないリーク電流は電流の検出限以下であった。また、長時間駆動した場合も突発的なIf電流の増減はほとんど見られなかった。
【0035】
[比較例]
図8は本比較例の電子放出素子の製造方法を示す模式断面図である。本比較例においてリセス部7を形成するまでは実施例1と同じ工程を実施した。リセス部7形成後、リセス部7の入り口に凸部10を設けることなく、カソード6Aの成膜を実施例1と同様に実施した(図8(D))。但し、電子放出特性に関わる低電位側カソード6Aとゲート電極5の間隙8を実施例1と同じにするために、カソード6Aの膜厚は30nmとした。カソード6A成膜後は実施例1と同じ工程を実施して電子放出素子を作製した(図8(E))。
【0036】
上記方法で作製した電子放出素子の模式断面図を図6(B)に示す。この電子放出素子に対して実施例1と同じ特性評価を行ったところ、素子電流Ifのうち1%程度のリーク電流が検出された。
【0037】
[実施例2]
図3は本実施例の電子放出素子の製造方法を示す模式断面図である。本実施例においてリセス部7を形成するまでは実施例1と同じ工程を実施した。リセス部7形成後、ゲート電極5に剥離層11を形成した(図3(D))。剥離層11はゲート電極5に電解メッキによりNiを電解析出させて形成した。次に、スパッタ法により凸部10の材料をリセス部7の入り口から第1絶縁層3の側面に沿って基板1上まで斜方成膜することで層9Aを形成し、リセス部7の入り口にはゲート電極5に向かう凸部10を形成した(図3(E))。凸部10の材料はSiO2、凸部の高さは第2絶縁層4の厚さの60%である18nmとした。尚、この際、ゲート電極5上にもSiO2が付着し、ゲート電極5上に層9Bが成膜された。続いて、スパッタ法によりモリブデン(Mo)を凸部10が設けられているリセス部7の入り口から第1絶縁層3の側面に沿って基板1上まで斜方成膜することでカソード6A(低電位側カソード)を形成した(図3(F))。尚、この際、ゲート電極5上にもMoが付着し、ゲート電極5上にカソード6Bが成膜された。Moの厚さは平坦な面で12nmになるように成膜した。断面TEMによる解析の結果、図3(F)におけるカソード6Aとゲート電極5の間隙8は9nmであった。カソード6A、6B成膜後、ヨウ素とヨウ化カリウムからなるエッチング液を用いてゲート電極5上に析出させたNi剥離層11を除去することによりカソード6Bをゲート電極5から剥離した(図3(G))。カソード6B剥離後は実施例1と同じ工程を実施することによりカソード6Aの加工、電極2の形成を行い、電子放出素子を作製した(図3(H))。
【0038】
上記方法で作製した電子放出素子の模式断面図を図6(A)に示す。この電子放出素子に対して実施例1と同じ特性評価を行った。その結果、平均効率は8%が得られた。電子放出電流に対して、電子放出電流に寄与しないリーク電流は電流の検出限以下であった。また、長時間駆動した場合も突発的なIf電流の増減はほとんど見られなかった。実施例1と同様の効果に加え、本実施例ではゲート電極5上の層9B、カソード6Bを剥離したため、カソード6Aから放出された電子が効率よくアノード電極に到達できる。そのため、実施例1よりも電子放出効率が増加した。
【0039】
[実施例3]
本実施例においてリセス部7を形成するまでは実施例2と同じ工程を実施した。リセス部7形成後、ゲート電極5に剥離層11を形成した(図3(D))。剥離層11はゲート電極5に電解メッキによりNiを電解析出させて形成した。次に、スパッタ法により凸部10の材料をリセス部7の入り口から第1絶縁層3の側面に沿って基板1上まで斜方成膜することで層9Aを形成し、リセス部7の入り口にはゲート電極5に向かう凸部10を形成した(図3(E))。凸部10の材料はSiN、凸部10の高さは第2絶縁層4の厚さの60%である18nmとした。尚、この際、ゲート電極5上にもSiNが付着し、ゲート電極5上に層9Bが成膜された。続いて、スパッタ法によりモリブデン(Mo)を凸部10が設けられているリセス部7の入り口から第1絶縁層3の側面に沿って基板1上まで斜方成膜することでカソード6A(低電位側カソード)を形成した(図3(F))。尚、この際、ゲート電極5上にもMoが付着し、ゲート電極5上にカソード6Bが成膜された。Moの厚さは平坦な面で12nmになるように成膜した。断面TEMによる解析の結果、図3(F)におけるカソード6Aとゲート電極5の間隙8は9nmであった。カソード6A、6B成膜後、実施例2と同じ手法でゲート電極5上に析出させたNi剥離層11を除去することによりカソード6Bをゲート電極5から剥離した(図3(G))。カソード6B剥離後、カソード6Aの幅が100μmになるようにフォトリソグラフィー技術によりレジストパターンを形成した。その後、ドライエッチング手法を用いてMoからなるカソード6Aを加工した。カソード6Aのパターニング後、BHFを用いてリセス部7の内表面に付着した残渣をリフトオフにより除去した。BHFによるSiNのエッチングレートはSiO2よりも1桁以上小さい。本実施例ではリセス部7の入り口の凸部10をSiNで形成したため、BHF処理時にも凸部10がエッチングされることはない。リセス部7の内表面に付着した残渣はリークの要因となるため、本実施例は実施例2よりも更にリーク要因を低減することができた。残渣の除去後は実施例2と同じ工程を実施することにより電極2を形成して電子放出素子を作製した(図3(H))。
【0040】
上記方法で作製した電子放出素子の模式断面図を図6(A)に示す。この電子放出素子に対して実施例1と同じ特性評価を行った。その結果、平均効率は8%が得られた。電子放出電流に対して、電子放出電流に寄与しないリーク電流は電流の検出限以下であった。また、長時間駆動した場合も突発的なIf電流の増減は実施例2よりも更に抑制された。
【0041】
[実施例4]
本実施例においてリセス部7を形成するまでは実施例1と同じ工程を実施した。リセス部7形成後、スパッタ法により凸部10の材料をリセス部7の入り口から第1絶縁層3の側面に沿って基板1上まで斜方成膜することで層9Aを形成し、リセス部7の入り口にはゲート電極5に向かう凸部10を形成した(図7(D))。凸部10の材料はSiO2、凸部10の高さは第2絶縁層4の厚さの85%である25nmとした。尚、この際、ゲート電極5上にもSiO2が付着し、ゲート電極5上に層9Bが成膜された。その後、ゲート電極5上の層9Bをパターニングし、ゲート電極5が次に成膜するカソードと電気的な接続が可能なように、ゲート電極5の一部を露出させた(図7(E))。続いて、スパッタ法によりモリブデン(Mo)を凸部10が設けられているリセス部7の入り口から第1絶縁層3の側面に沿って基板1上まで斜方成膜することでカソード6A(低電位側カソード)を形成した(図7(F))。尚、この際、ゲート電極5上にもMoが付着し、ゲート電極5上にカソード6Bが成膜された。Moの厚さは平坦な面で5nmになるように成膜した。その後、実施例1と同じ工程を実施することによりカソード6Aを加工した。断面TEMによる解析の結果、図7(F)における低電位側カソード6Aとゲート電極5の間隙8が9nmであった。次に、スパッタ法により電極2を形成した(図7(G))。電極2の材料は銅(Cu)、電極2の厚さは500nmとした。
【0042】
上記方法で作製した電子放出素子の模式断面図を図6(C)に示す。この電子放出素子に対して実施例1と同じ特性評価を行った。その結果、平均効率は3%が得られた。カソードが薄くなり、抵抗が高くなることで、カソード6Aの電位が駆動電圧24Vよりも低くなったため、実施例1よりも効率が低下したと考えられる。電子放出電流に対して、電子放出電流に寄与しないリーク電流は電流の検出限以下であった。また、長時間駆動した場合も突発的なIf電流の増減はほとんど見られなかった。
【0043】
[実施例5]
本実施例においてリセス部7を形成するまでは実施例1と同じ工程を実施した。リセス部7形成後、スパッタ法により凸部10の材料をリセス部7の入り口から第1絶縁層3の側面に沿って基板1上まで斜方成膜することで層9Aを形成し、リセス部7の入り口にはゲート電極5に向かう凸部10を形成した(図7(D))。凸部10の材料はSiO2、凸部10の高さは第2絶縁層4の厚さの50%である15nmとした。尚、この際、ゲート電極5上にもSiO2が付着し、ゲート電極5上に層9Bが成膜された。その後、ゲート電極5上の層9Bをパターニングし、ゲート電極5が次に成膜するカソードと電気的な接続が可能なように、ゲート電極5の一部を露出させた(図7(E))。続いて、スパッタ法によりモリブデン(Mo)を凸部10が設けられているリセス部7の入り口から第1絶縁層3の側面に沿って基板1上まで斜方成膜することでカソード6A(低電位側カソード)を形成した(図7(F))。尚、この際、ゲート電極5上にもMoが付着し、ゲート電極5上にカソード6Bが成膜された。Moの厚さは平坦な面で15nmになるように成膜した。その後、実施例1と同じ工程を実施することによりカソード6Aを加工した。断面TEMによる解析の結果、図7(F)における低電位側カソード6Aとゲート電極5の間隙8が9nmであった。次に、スパッタ法により電極2を形成した(図7(G))。電極2の材料は銅(Cu)、電極2の厚さは500nmとした。
【0044】
上記方法で作製した電子放出素子の模式断面図を図6(C)に示す。この電子放出素子に対して実施例1と同じ特性評価を行った。その結果、平均効率は6%が得られた。電子放出電流に対して、電子放出電流に寄与しないリーク電流は電子放出電流の0.1%程度であった。これは、リセス部内へのカソード材料遮蔽効果が小さくなったため、リーク電流が増加したと予想される。
【0045】
[実施例6]
本実施例においてリセス部7を形成するまでは実施例1と同じ工程を実施した。リセス部7形成後、スパッタ法により凸部10の材料をリセス部7の入り口から第1絶縁層3の側面に沿って基板1上まで斜方成膜することで層9Aを形成し、リセス部7の入り口にはゲート電極5に向かう凸部10を形成した(図7(D))。凸部10の材料はSi、凸部10の高さは第2絶縁層4の厚さの60%である18nmとした。尚、この際、ゲート電極5上にもSiが付着し、ゲート電極5上に層9Bが成膜された。その後、ゲート電極5上の層9Bをパターニングし、ゲート電極5が次に成膜するカソードと電気的な接続が可能なように、ゲート電極5の一部を露出させた(図7(E))。続いて、スパッタ法によりモリブデン(Mo)を凸部10が設けられているリセス部7の入り口から第1絶縁層3の側面に沿って基板1上まで斜方成膜することでカソード6A(低電位側カソード)を形成した(図7(F))。尚、この際、ゲート電極5上にもMoが付着し、ゲート電極5上にカソード6Bが成膜された。Moの厚さは平坦な面で12nmになるように成膜した。その後、実施例1と同じ工程を実施することによりカソード6Aを加工した。断面TEMによる解析の結果、図7(F)における低電位側カソード6Aとゲート電極5の間隙8が9nmであった。次に、スパッタ法により電極2を形成した(図7(G))。電極2の材料は銅(Cu)、電極2の厚さは500nmとした。
【0046】
上記方法で作製した電子放出素子の模式断面図を図6(C)に示す。この電子放出素子に対して実施例1と同じ特性評価を行った。その結果、平均効率は6%が得られた。電子放出電流に対して、電子放出電流に寄与しないリーク電流は電流の検出限以下であった。
【0047】
[実施例7]
本実施例では実施例2と同じ工程を実施して作製した電子放出素子を多数基板上にマトリクス状に配列して電子源基板を形成し、この電子源基板を用いて図9の画像表示装置を作製した。
【0048】
まず、実施例2と同じ工程によりガラス基板13上にSiN/SiO2/TaN/SiO2/Mo膜を順次成膜して電子放出素子23を作製した。
【0049】
次に、変調信号が印加される配線として機能するY方向配線18をゲート電極に接続するように配置した後、次の工程で作製する後述のX方向配線14とY方向配線18を絶縁するために、酸化シリコンからなる絶縁層を配置した。この絶縁層はX方向配線14の下、かつY方向配線18を覆うように配置した。その後、走査信号が印加される配線として機能し、銀を主成分とするX方向配線14を、先に配置した絶縁層の上に形成した。X方向配線14は絶縁層を挟んでY方向配線18と交差させて配置した。このようにしてマトリクス配線を有するガラス基板13を形成した。
【0050】
続いて、ガラス基板13の2mm上方に、ガラス基板19の内面に発光部材である蛍光体膜20とアノード電極であるメタルバック21とが積層されたフェースプレート22を、支持枠16を介して配置した。尚、図9においては外囲器17を構成するリアプレート15をガラス基板13の補強部材として設けた例を示しているが、本実施例ではこのリアプレート15を省いた。そして、フェースプレート22、支持枠16、ガラス基板13の接合部を、低融点金属であるインジウム(In)を加熱し冷却することによって封着した。また、この封着工程は、真空チャンバー中で行ったため、排気管を用いずに、封着と封止を同時に行った。
【0051】
本実施例では画像形成部材であるところの蛍光体膜20は、カラーを実現するために、ストライプ形状の蛍光体とし、先にブラックストライプ(不図示)を形成し、その間隙部にスラリー法により各色蛍光体(不図示)を塗布して蛍光体膜20を作製した。ブラックストライプの材料としては、通常よく用いられている黒鉛を主成分とする材料を用いた。また、蛍光体膜20の内面側(電子放出素子側)にはアルミニウムからなるメタルバック21を設けた。メタルバック21は、蛍光体膜20の内面側に、Alを真空蒸着することで作製した。
【0052】
上記方法で画像表示装置を作製したところ、表示画像の安定な表示装置を実現できた。
【符号の説明】
【0053】
1:基板、2:電極、3:第1絶縁層、4:第2絶縁層、5:ゲート電極、6A、6B:カソード、7:凹部(リセス部)、8:カソード6Aとゲート電極5との間隙、10:凸部、12:陽極(アノード電極)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹部を有する絶縁部材と、
前記絶縁部材の表面に、前記凹部に対向させて配置されたゲート電極と、
前記凹部の縁に配置され、前記ゲート電極に向けて突起する突起部分を有するカソードと、
を含む電子放出素子の製造方法であって、
前記凹部を設ける工程と、
前記凹部の縁に前記ゲート電極に向けて突起する凸部を設けた後に前記カソードを設ける工程と、
をこの順で実施することを特徴とする電子放出素子の製造方法。
【請求項2】
絶縁性を有する材料又は比抵抗が10-4Ωm以上である高抵抗の材料で前記凸部を形成することを特徴とする請求項1に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項3】
前記凸部は気相成膜により成膜されることを特徴とする請求項1又は2に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項4】
前記凸部を設けるときに、前記凸部の材料は同時に前記ゲート電極上にも成膜され、
前記カソードを設けるときに、前記カソードの材料は同時に前記ゲート電極上にも成膜され、
前記カソードを設ける工程の後に、前記ゲート電極上に成膜された前記凸部の材料及び前記カソードの材料を剥離する工程を実施することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項5】
電子放出素子と、アノード電極と、を有する電子線装置の製造方法であって、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の製造方法で電子放出素子を作製し、
アノード電極を前記カソードの先端と対向させて配置することを特徴とする電子線装置の製造方法。
【請求項6】
電子線装置と、発光部材と、を有する画像表示装置の製造方法であって、
請求項5に記載の製造方法で電子線装置を作製し、
発光部材と前記アノード電極とを積層して配置することを特徴とする画像表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−228000(P2011−228000A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93791(P2010−93791)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】