説明

電子放出素子およびその製造方法

【課題】 カソード電極にほぼ垂直方向にカーボンナノチューブが配向され、高エミッション電流が安定して得られ、かつ安価で信頼性の高い小型電子放出素子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 シリコン基板上に絶縁膜層、その上に金属膜層を形成した後、フォトリソグラフィにより前記絶縁膜層及び金属膜層に開口部を設けシリコン基板を露出させる。前記シリコン基板に対し陽極化成処理を施すことによりポーラスシリコン層を形成する。前記シリコン基板にカーボンナノチューブを分散させたメッキ浴を用いて電気メッキを施すことにより、カーボンナノチューブの一部を前記ポーラスシリコン層の微細孔に貫入させて突き立て、前記シリコン基板にほぼ垂直に配向させて固定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型X線発生装置、その他電子放出を利用する機器に用いられる電子放出素子、及びその製造方法に関わる。
【背景技術】
【0002】
X線管は、治療、レントゲン撮影、工業用の分析装置など様々な分野で利用されている。従来のX線管の電子放出電極としては熱陰極管を用いたものがその主流をなしていたが、電子放出電極にフィラメントを用いるため電子放出電極のサイズが大きくなり、結果としてターゲットに衝突してX線を発生させる電子ビームの径(焦点径)が小さくできなかった。昨今では女性の乳がんを早期発見するためにX線マンモグラフィ検査の導入の必要性がたびたび議論されているが、X線マンモグラフィに使用されるX線発生装置としては高分解能の画像を得るために0.1mm以下の焦点径サイズが必要とされている。X線は従来から診断用、治療用と多くの医療現場で使用されてきたが、熱陰極管を用いている限りはその大きさからX線マンモグラフィへの使用には限界があった。
【0003】
このようにX線はこれまで診断用、治療用と多くの医療現場で採用されてきたが、フィラメントを有する熱陰極管を用いている限りはその大きさから使用に限界を生じていた。
【0004】
また工業用X線撮影装置においても、最近は回路基板上へのLSI実装時などにおけるバンプ実装の不良解析等にも頻繁に使用され、高解像の画像を得るためにミクロンオーダーの焦点径をもつX線発生装置への要求も高まって来た。
【0005】
以上の事情に鑑み、最近では熱電子放出電極を持たない冷陰極を用いるX線管の開発が進められて来ている。冷陰極のタイプとしては、古くから研究されているものとして、突起を形成しその先端部に電界を集中させて電子放出を行うもの(Spindt型)が主流であったが、昨今カーボンナノチューブが発見されて以来その優れた電子放出性を生かしてディスプレイ用冷陰極等への応用を目的とする多くの研究開発が行なわれている。
【0006】
電極上にカーボンナノチューブを形成する従来技術としては、例えば図7に示すようにガラス基板41上にNiメッキ膜42を形成した基板(図7(a))をあらかじめカーボンナノチューブまたはフラーレンを分散したメッキ液43aを用いて無電解メッキすることにより(図7(b))、Niメッキ膜42上にカーボンナノチューブ46またはフラーレン47が混在したメッキ層を形成するもの(図7(c)、図7(d))がある。(特許文献1参照)
あるいは図8に示すようにガラス基板41上にNiメッキ膜42を形成した基板を、あらかじめカーボンナノチューブを分散したメッキ液43bを用いて外部電源を用いて電気メッキすることにより電気力線に沿ってカーボンナノチューブが配向することにより、より垂直配向割合の高いカーボンナノチューブをNi電極上に形成しようとするものがある。(特許文献1参照)
また、同様に電極上にカーボンナノチューブを選択的に配向させて立てる方法としては図9に示すようにカーボンナノチューブ106を分散したアルコール系の縣濁液107中に一方に突起を設けた一対の並行平板電極103、104を置き、並行平板間に電界を掛けることにより電気泳動法により一方のAl電極301上にカーボンナノチューブを移動させて突き立てるというものがある。(特許文献2参照)
【特許文献1】特開2001−283716号公報(第4−6頁)
【特許文献2】特開2001−20093号公報(第4−5頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の方法ではカーボンナノチューブを固定するメッキ層は無電解メッキで形成されるため、固定されたカーボンナノチューブの配列方向が無秩序であり、また殆どのカーボンナノチューブがメッキの金属材料中に埋没してしまうことになる。そのために埋没したカーボンナノチューブの一部がメッキ層の表面から飛び出すまで、エッチングする等の追加処理を必要とする。
【0008】
また、カーボンナノチューブの特徴を生かすためにはカーボンナノチューブはカソード電極になるべく垂直に近い角度で立てることが必要である。しかし、特許文献1の方法では電界をかけることによりカーボンナノチューブは電気力線に沿っていくらかは配向はするものの、まだ不十分である。また、この方法ではカーボンナノチューブの配向の良否は電気メッキの条件に左右されるので、カーボンナノチューブをうまく電気力線の方向に配向させるためには、電気メッキの条件を適度に調節してやる必要があり、望ましい配向のカーボンナノチューブを形成するのは容易ではない。
【0009】
また、特許文献2の方法においては、いくら高電圧をかけたとしてもAl電極表面に強固に突き立つものではなく、電子放出電極として用いた場合には電界によりカーボンナノチューブが脱離する等の信頼性や寿命上で問題が生じる。
【0010】
カーボンナノチューブをカソード電極に垂直に近い角度で形成する方法としては、上記以外に例えば電極上にカーボンナノチューブ成長の種となる触媒金属を形成した後、プラズマCVD法によって高温化で炭化水素ガスを用いてカーボンナノチューブを成長させる方法がある。しかし、装置が高価であり製造コストが高くなってしまう。
【0011】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、カソード電極にほぼ垂直方向にカーボンナノチューブが配向され、高エミッション電流が安定して得られ、かつ安価で信頼性の高い小型電子放出素子およびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る発明は、ポーラスシリコン層を表面の一部に有するシリコン基板上に、カーボンナノチューブ、絶縁膜層及び金属膜層を有する電子放出素子であって、前記カーボンナノチューブは前記シリコン基板に略垂直に配向し、その一部が前記ポーラスシリコン層の孔部に一部が貫入して、前記ポーラスシリコン層を通じて前記シリコン基板に電気的に接続され、前記絶縁膜及び金属膜は、前記カーボンナノチューブが貫入したポーラスシリコン層を開放する開口部を有することを特徴とする電子放出素子である。
【0013】
請求項2に係る発明は、前記ポーラスシリコン層に接して金属メッキ層を有し、前記メッキ層は前記カーボンナノチューブの一部を埋設するとともに、前記カーボンナノチューブと前記ポーラスシリコン層とを電気的に接続すること特徴とする請求項1に記載の電子放出素子である。
【0014】
請求項3に係る発明は、電子放出素子の製造方法であって、シリコン基板に絶縁膜層を形成する工程と、前記絶縁膜層の上に金属膜層を形成する工程と、前記絶縁膜層および金属膜層に開口部を形成しシリコン基板表面を露出させる工程と、前記露出したシリコン基板表面に陽極化成処理を施して前記シリコン基板表面にポーラスシリコン層を形成する工程と、メッキ液に分散させたカーボンナノチューブを前記ポーラスシリコン層の微細孔に貫入させる工程と、前記ポーラスシリコン層に貫入したカーボンナノチューブをメッキ処理により前記ポーラスシリコン層に固定するとともに、前記カーボンナノチューブと前記ポーラスシリコン層とを電気的に接続する工程を有することを特徴とする電子放出素子の製造方法である。
【0015】
請求項4に係る発明は、前記ポーラスシリコン層に貫入したカーボンナノチューブの高さを略一定にする工程を有することを特徴とする請求項3に記載の電子放出素子の製造方法である。
【0016】
請求項5に係る発明は、前記カーボンナノチューブの高さを略一定にする工程は、前記金属膜層とシリコン基板間に電圧を印加して前記ポーラシリコン層に貫入したカーボンナノチューブから電界放出を起こさせる工程であることを特徴とする請求項4に記載の電子放出素子の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る発明によれば、カーボンナノチューブの直径よりも大きな口径を有する孔を多数表面に有するポーラス(多孔質)シリコン層を形成して、その微細孔中に、カーボンナノチューブを貫入させて配向させるため、再現性良く、シリコン基板にほぼ垂直に配向したカーボンナノチューブを容易に形成することができる。このカーボンナノチューブ群を電子放出電極として用いることにより、ゲート印加電圧の非常に低い電子放出素子が実現できるとともに、高エミッション電流でも安定に電子放出を行うことが可能になる。また、化学的に安定なカーボンナノチューブを電子放出電極として用いることにより、残留ガスに対しても劣化の少ない、信頼性の高い電子放出電極とすることができる。
【0018】
請求項2に係る発明によれば、金属メッキ層により前記カーボンナノチューブの一部を金属メッキ層に埋設し、かつ前記カーボンナノチューブと前記ポーラスシリコン層とを電気的に接続することにより、後工程および電子放出素子としての使用状態で、カーボンナノチューブがポーラスシリコン基板から脱離し難くなる。またカーボンナノチューブとポーラスシリコン基板とが低抵抗で安定して電気的に接続できるため、ゲート印加電圧の非常に低い電子放出素子が可能になるとともに、高エミッション電流でも安定に電子放出を行うことが可能になる。
【0019】
請求項3に係る発明によれば、電子放出素子の製造工程においてカーボンナノチューブの形成にプラズマCVD等の高価な設備を必要とせず、安価な電子放出素子を提供することが可能となる。また、金属メッキ層の形成により前記カーボンナノチューブの一部を埋設して機械的強度を得るとともに、カーボンナノチューブとポーラスシリコン層とを確実に電気的に接続することができる。さらに、メッキ処理の条件によらず再現性よくシリコン基板にほぼ垂直に配向したカーボンナノチューブを容易に形成することができる。
【0020】
請求項4に係る発明によれば、電子放出電極であるカーボンナノチューブの高さが揃った電子放出素子を作製することができる。したがって、ゲート印加電圧の非常に低い電子放出素子が可能になるとともに、高エミッション電流でも安定に電子放出を行うことが可能になる。
【0021】
請求項5に係る発明によれば、カーボンナノチューブの高さが不揃いな電子放出素子に対し、カーボンナノチューブの高さを容易に効率よく一定にすることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明に係る実施の形態を図に基づいて説明する。
【0023】
図1は本発明の一実施形態に係る電子放出素子37の断面図であり、同図に基づいてこの実施形態の電子放出素子を説明する。
【0024】
1はシリコン基板でありその表面の一部にポーラスシリコン層29が形成されている。ポーラスシリコン層29の表面には微細孔29aが多数存在しており、これらの微細孔29aが本発明の「孔部」に相当する。微細孔29aの深さは例えば1〜2μm程度、直径は例えば50nm程度である。4はこの微細孔29aにその一部が貫入されたカーボンナノチューブ群であり、そのうちシリコン基板1に対し70〜110度の角度に配向しているカーボンナノチューブの割合は50%程度である。5は例えばNiなどの金属メッキ層であり、その厚さは例えば0.1μm程度であり、カーボンナノチューブ群4のポーラスシリコン層29の微細孔29aに貫入している部分の近傍をその中に埋設して、カーボンナノチューブ群4を機械的にポーラスシリコン層29に固定するとともに、カーボンナノチューブ群4とポーラスシリコン層29とを電気的に接続している。
【0025】
2はカーボンナノチューブ群4とその周辺部を開放する開口部2aを有した、換言すればカーボンナノチューブ群4の周囲に形成された絶縁膜層で、その上の金属膜層3とシリコン基板1とを絶縁している。絶縁膜層2は、厚さは例えば5μm程度であり、開口部の直径は例えば10〜25μmである。絶縁膜層2は抵抗率は10×1012Ω・cm程度以上あれば良く、SiO2膜、Si34膜、ポリイミド膜等が使用できる。金属膜層3及びシリコン基板1は電子放出素子37を動作させる場合に、それぞれゲート電極、カソード電極となる。
【0026】
図2は、本発明の方法による電子放出素子の製造方法の一例を説明した図である。符号については、図1で説明したものと同様の要素については同符号を付した。以下、この図に従って電子放出素子の製造方法を説明する。
【0027】
なお本実施の形態に用いるカーボンナノチューブについては、特に多層カーボンナノチューブを用いている。多層カーボンナノチューブはその個々の直径が3〜20nm、長さが1〜10μmと非常にアスペクト比の高い構造を有しており、また導電性が高く化学的に安定であるなど電子放出電極として非常に優れた性質を持っている。このために近年の電子放出材料として各研究機関において主にディスプレイ用として多くの研究がなされている。本実施の形態においては上記の多層カーボンナノチューブの優れた特性を有効に活用し、高エミッション電流が必要なX線発生装置用の電子放出電極として用いている。
【0028】
図2(A)は支持基板となるシリコン基板1上に絶縁膜層2、金属膜層3、およびレジスト層24を形成したものの断面図である。
シリコン基板1は電子放出素子のカソード電極としても機能するため抵抗値の低いシリコンウェハーを使用する。例えば、ボロン等がドープされた比抵抗1Ωcm以下の低抵抗のP型シリコンウェハー等が最適である。2は上記シリコン基板1にCVD法等により形成された絶縁膜層であり、例えばSiO2等の膜を5μm程度上記シリコン基板1上に形成する。
SiO2膜をCVD法により形成した場合は図に示すように、シリコン基板1の両面に形成されている。その後、絶縁膜層2上にゲート電極となる金属膜層3を1μm程度スパッタ法等で成膜する。スパッタされる金属材料としてNi、W、Mo等が使用できる。
【0029】
図2(B)はレジスト層24がフォトリソ工程により電子放出部を形成する部分を取り囲む形でパターンニングされた後、塩化鉄水溶液(FeCl3+H2O)等のエッチング液により金属膜層3(例えばNi層)をエッチングしたところを示している。
【0030】
図2(C)はその後、フッ酸液(HF)等のエッチング液中で絶縁膜層2のエッチングを行った後、レジスト層24を除去したものを示す。
【0031】
図2(D)はその後、次に行う陽極化成のプロセスの為にシリコン基板の裏面を保護するためのレジスト層25を形成したものを示す。
【0032】
次にシリコン基板1に陽極化成処理を行うが、この工程については例えば図3に示した装置を用いて行われる。陽極化成処理とはすなわち、図2(D)のシリコン基板1を白金の対向電極26と並行にフッ化水素酸溶液27などの処理液中に入れ、外部電源28を用いて対向電極26とシリコン基板1の間に電流を流すことによって、シリコン基板1表面に電気化学溶解反応により無数の微細孔が形成される現象を利用して、シリコン基板1の表面をポーラス化するプロセスである。20は処理槽である。
【0033】
29は陽極化成処理により微細孔が形成されたポーラスシリコン層を示す。陽極化成処理によって形成できる微細孔の直径は2nmから50nm程度と広範囲のサイズにわたり、微細孔の直径や深さはシリコン基板1の抵抗率、流す電流密度、時間を適度に選ぶことににより制御可能である。
【0034】
前記したように、本実施の形態で用いている多層カーボンナノチューブは、その個々の直径が3〜20nm、長さが1〜10μmと非常にアスペクト比の高い構造を有しているが、前記微細孔にカーボンナノチューブが容易に入り込めるように電流密度や通電時間を制御して、各微細孔の直径をカーボンナノチューブの数倍から数十倍の大きさに形成する。例えば微細孔の直径を50nm程度になるように制御する。また、微細孔の深さもカーボンナノチューブがその孔に収まったときにその大部分がはみ出ている様に1〜2μm程度になるように制御する。
【0035】
図2に戻って、図2(E)は前記のようにしてシリコン基板1上の電界放出部を形成する部分にポーラスシリコン層29が形成されたところを示す。
【0036】
次に形成されたポーラスシリコン層29の図示しない各微細孔にカーボンナノチューブを差し込むプロセスであるが、このプロセスは例えば図4の装置を用いて行われる。図4で32は対向電極、31はあらかじめカーボンナノチューブ30が均一に分散された電気メッキ浴、36はメッキ槽を示す。上記電気メッキ浴31に図2(E)のシリコン基板1を入れ外部電源33を接続して、対向電極32及び金属膜層3とシリコン基板1との間に一定電流を流して電気メッキを行う。このとき、外部電源33に接続された対向電極32及び金属膜層3と、シリコン基板1に電気的に接続されて電気メッキ浴31にその表面が露出しているポーラスシリコン層29との間には電界が印加されており、カーボンナノチューブ30は分極し、電気力線に沿ってポーラスシリコン層29に向かって移動し、その微細孔に一部が入り込み保持される。
【0037】
ポーラスシリコン層29の微細孔によって捕らえられたカーボンナノチューブ30は電気メッキによってポーラスシリコン層29にシリコン基板1に垂直方向に配向した状態で固定される。
【0038】
図2へ戻って、図2(F)はこのようにして完成したカーボンナノチューブを電子放出電極とする電子放出素子37の断面図である。
【0039】
なお一般的には、市販のカーボンナノチューブを使用する場合、その直径および長さに一定のバラツキを持っていることが考えられる。その場合、図2(F)のように必ずしも固定されたカーボンナノチューブ群4の高さは一様ではなく、ばらつきが生じていることがある。その場合には、電子放出素子37が完成後にエージングを行いカーボンナノチューブ群4の高さをそろえることができる。すなわち真空中でゲートとなるべき金属膜層3とカソード(シリコン基板)1間にパルス電圧を一定時間印加して放電を行うことによって、最も突出したカーボンナノチューブにはより大きな電界がその先端に集中することから他のカーボンナノチューブより多くのエミッション電流が流入するため、先端が磨耗されて全体にほぼ一様な長さに揃ったカーボンナノチューブの電界放出源を得ることができる。なおこのエージングを行う場合、放電電流を電子放出素子の実使用時の電流より大きくしておくことにより、短時間でエージングの効果が得られる。
【0040】
以上のようにして、本実施の形態による電子放出素子によればカーボンナノチューブを配向させるためにプラズマCVDなどの高価で大掛かりな装置を使用することなく、低コストで垂直に配向させて固定することができ、かつX線マンモグラフィや工業用X線撮影装置にも応用可能な小型で小焦点径サイズを確保しながら高エミッション電流が得られる電子放出素子を提供することが可能である。
【0041】
次に本実施の形態の電子放出素子を用いた小型X線発生装置について説明する。
【0042】
図5は、電子放出素子37を用いた小型X線発生装置の構成例である。
【0043】
図中、1はシリコン基板等の支持基板であり、かつ電子放出素子37におけるカソード電極として機能する。その表面の一部には金属メッキ層5によって固定された電子放出電極となるカーボンナノチューブ群4を有する。また金属メッキ層5とカーボンナノチューブ群4を取り囲んでSiO2等の絶縁物で形成された絶縁膜層2を有し、さらに絶縁膜層2の上にはNi、W、Moなどの金属材料層からなるゲート電極(引出し電極とも言う)3を有する。6はターゲット電極であり電子が衝突することによりX線を発生させるためのものであり、診断用X線用としてWやMo等が一般に用いられている。8はゲート電極3とカソード電極である支持基板1との間に、支持基板1を基準として正方向のパルス電圧を印加するパルス電圧発生器、9は同じく支持基板1を基準に正方向の高圧直流電圧をターゲット電極6に印加するための直流バイアス電源である。
【0044】
7は上記の電極群を真空状態で密封し保持するためのガラスあるいは金属材料からなるX線遮蔽構造を含む容器、11は内部で発生したX線のうち一定角度の範囲のものを外部に通過させるX線窓であり、通常X線を通過させる部分はBeなどのX線透過材料が用いられる。
【0045】
以上のような構成において、X線を発生させるための動作を説明する。
【0046】
まずパルス発生器8によりカソード電極(支持基板)1を基準に例えば100V程度のパルスをゲート電極3に印加すると、ゲート電極3がカーボンナノチューブ群4の周囲に配置されることによりカーボンナノチューブ群4の夫々のカーボンナノチューブ先端部分に電界が集中し、一般的には真空中において10の8乗V/cm程度以上の電界を与えることによってカーボンナノチューブ群4の夫々のカーボンナノチューブ先端から電子が飛び出す電界放出現象が生じる。
【0047】
このようにして放出された電子は、直流バイアス電源9で例えば30kV程度にバイアスされたターゲット電極6による電界により矢印10で示す方向に加速され、最後にはターゲット電極6の表面に衝突し、その金属材料と加速電圧に応じた波長をもつX線を発生させる。ターゲット電極材料としては先に述べたようにWやMoが用いられる。
【0048】
電子線がぶつかることによりターゲット電極6表面から飛び出したX線のうち、容器7の遮蔽構造により必要な焦点径サイズに範囲規制されたX線12がX線窓11を通して図示しない被照射体に照射される。
【0049】
このときの焦点径サイズが小さい程撮影されるX線画像の解像度は良くなる。高解像度が必要とされるマンモグラフィ用X線発生装置では焦点径サイズとして直径0.1mm程度の小ささが求められている。しかし、物理的サイズが大きくかつ電子放出方向の方位角の大きいフィラメントを有する熱陰極方式ではその物理的サイズに対して取り出し効率が非常に悪くなる。一方フィールドエミッション型では電子放出方向が一様であるためにX線取り出し効率が高く小型の電子放出素子37の実現が可能となる。
【0050】
図6は、本発明に係る電子放出素子X線発生装置の他の実施の形態を示す平面図である。なお、図5で説明したものと同様の要素については同符号を付して、その説明を省略する。
【0051】
図5では原理説明のため、1組の絶縁膜層2,ゲート電極3,カーボンナノチューブ群4、金属メッキ層5からなる1個の電子放出素子37を用いて説明したが、実際にはX線撮影診断用として必要なX線電流(エミッション電流とも言う)を得るために複数組の絶縁膜層2,ゲート電極3,カーボンナノチューブ群4、金属メッキ層5が支持基板1内に並列的電気接続で平面的に配置されるように構成されている。
【0052】
他の実施の形態に係る電子放出素子37aの動作は図5のものと同様に、カーボンナノチューブ群4に対してゲート電極3にパルス電圧を印加することにより各カーボンナノチューブ群4の各々のカーボンナノチューブ先端より電子が放出されてエミッション電流を発生する。
【0053】
以上、本発明の電子放出素子に係る各実施の形態では、直径が極めて小さな数ナノから数十ナノメートルでかつ長さ方向が数ミクロンの極めてアスペクト比が大きい良導電性の電子材料であるカーボンナノチューブを電子放出電極として用いることにより、電界集中度が極めて高くなり、結果としてゲート印加電圧の非常に低い電子放出素子の実現が可能になった。
【0054】
それに加えて、本発明の製造方法に係る実施の形態ではシリコン基板に陽極化成処理を施すことにより形成したポーラスシリコン層の微細孔にカーボンナノチューブを貫入させているため、前記カーボンナノチューブの配向方向を前記シリコン基板にほぼ垂直にすることができる。したがって、ゲート電圧が低く、高エミッション電流でも安定な電子放出素子の実現が可能となる。また、カーボンナノチューブを配向させて形成するためにCVD装置等の高価な装置を用いる必要もなく、低コストな製造装置が使用できるなどの優れた点を有する。
【0055】
また、本実施の形態に係る電子放出素子は、シリコン基板1上にカーボンナノチューブ電子放出電極を平面上に多数配置した構成をとることにより、カーボンナノチューブの化学的安定性と多数電子放出電極の電子放出安定性により、フィラメントを用いた熱電子放出方式に比べてはるかに小型でありながらX線用電子源として十分なエミッション電流が得られるという利点がある。
【0056】
なお、実施の形態では小型X線発生装置への適用例で説明したが、同様の電子放出素子を持つディスプレイその他の電子放出素子を有する機器への適用も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施の形態に係る電子放出素子の構成図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る電子放出素子の製造方法を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る電子放出素子の製造装置を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る電子放出素子の製造装置を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る電子放出素子を適用した小型X線発生装置の一例を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る電子放出素子の他の実施の形態を示す図である。
【図7】従来技術による電子放出素子の製造方法を示す図である。
【図8】従来技術による電子放出素子の製造方法を示す図である。
【図9】従来技術による電子放出素子の製造方法を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
1 シリコン基板(カソード)
2 絶縁膜層
2a 開口部
3 金属膜層(ゲート電極)
4 カーボンナノチューブ群
5 金属メッキ層
6 ターゲット電極
7 容器
8 パルス電圧発生器
9 直流バイアス電源
11 X線窓
20 処理槽
24、25 レジスト層
26 対向電極
27 陽極化成処理溶液
28 外部電源
29 ポーラスシリコン層
29a 微細孔
30 カーボンナノチューブ
31 電気メッキ浴
32 対向電極
33 外部電源
36 メッキ槽
37、37a 電子放出素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポーラスシリコン層を表面の一部に有するシリコン基板上に、カーボンナノチューブ、絶縁膜層及び金属膜層を有する電子放出素子であって、前記カーボンナノチューブは前記シリコン基板に略垂直に配向し、その一部が前記ポーラスシリコン層の孔部に一部が貫入して、前記ポーラスシリコン層を通じて前記シリコン基板に電気的に接続され、前記絶縁膜及び金属膜は、前記カーボンナノチューブが貫入したポーラスシリコン層を開放する開口部を有することを特徴とする電子放出素子。
【請求項2】
前記ポーラスシリコン層に接して金属メッキ層を有し、前記メッキ層は前記カーボンナノチューブの一部を埋設するとともに、前記カーボンナノチューブと前記ポーラスシリコン層とを電気的に接続すること特徴とする請求項1に記載の電子放出素子。
【請求項3】
電子放出素子の製造方法であって、シリコン基板に絶縁膜層を形成する工程と、前記絶縁膜層の上に金属膜層を形成する工程と、前記絶縁膜層および金属膜層に開口部を形成しシリコン基板表面を露出させる工程と、前記露出したシリコン基板表面に陽極化成処理を施して前記シリコン基板表面にポーラスシリコン層を形成する工程と、メッキ液に分散させたカーボンナノチューブを前記ポーラスシリコン層の微細孔に貫入させる工程と、前記ポーラスシリコン層に貫入したカーボンナノチューブをメッキ処理により前記ポーラスシリコン層に固定するとともに、前記カーボンナノチューブと前記ポーラスシリコン層とを電気的に接続する工程を有することを特徴とする電子放出素子の製造方法。
【請求項4】
前記ポーラスシリコン層に貫入したカーボンナノチューブの高さを略一定にする工程を有することを特徴とする請求項3に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブの高さを略一定にする工程は、前記金属膜層とシリコン基板間に電圧を印加して前記ポーラシリコン層に貫入したカーボンナノチューブから電界放出を起こさせる工程であることを特徴とする請求項4に記載の電子放出素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−59676(P2006−59676A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−240588(P2004−240588)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】