説明

電子放出素子の製造方法、およびそれを用いた電子源、電子線装置、発光装置の製造方法

【課題】所望の電子放出特性が安定して得られる電子放出素子を製造する。
【解決手段】シリコンからなる第1層10b、絶縁体からなる第2層20b、及び、非絶縁体からなる第3層30bがこの順で積層され、第1乃至3層の各々の側面(103b、203b、303b)を含む連続面403bを有する積層構造40bと、連続面403bを覆うように設けられて第1乃至3層と界面を成す、シリサイド化し得る金属材料からなる金属膜50と、を備える構造体60を加熱することによって、第1層10bと金属膜50との界面をシリサイド化する第1工程(d)と、金属材料のシリサイドに対するエッチングレートよりも金属材料に対するエッチングレートが高いエッチャントを用いて、第2層20bの側面203bが露出するように、金属膜50の一部を除去する第2工程(e)と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子放出素子の製造方法に関し、特に表面伝導型電子放出素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子放出部の近傍に電界を形成することにより、電子放出部から電子が電界放出される電子放出素子(電界放出型電子放出素子)が知られている。本発明者らは、電界放出型電子放出素子の中でも、導電性膜に平行に電流を流し、導電性膜に形成された電子放出部から放出電流を得る、表面伝導型電子放出素子を検討している。特許文献1〜3には、導電性膜が基板に対して非平行な、いわゆる縦型の表面伝導型電子放出素子が開示されている。
【0003】
特許文献1では、予め絶縁層の側面部分に表出するエッチング部材を形成しておき、かかるエッチング部材を除去して形成した空隙部に対応する導電性膜の領域に亀裂を形成して電子放出部とすることが開示されている。
【0004】
特許文献2、3では、第1絶縁層と第2絶縁層と導電層(ゲート)とを積層し、第2絶縁層をエッチングして第1絶縁層と導電性部材との間に凹部を形成している。その後に、第1絶縁層の側面上に、電子放出部を有する導電性膜(カソード)を成膜することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09−330646号公報
【特許文献2】特開2001−167693号公報
【特許文献3】特許第4458380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜3に記載された電子放出素子の導電性膜は、絶縁層の側面上に堆積させて形成されている。そのため、絶縁層と導電性膜との密着性が低く、また、導電性膜が露出しているために、電子放出素子の製造時や使用時に導電性膜が損傷しやすいという課題があった。そして、導電性膜の絶縁層の側面に沿った方向を電流経路として用いているため、導電性膜に損傷があると、電子放出時における電子放出部への電子の供給が不安定になり、所望の電子放出特性が安定して得られない場合があった。
【0007】
そこで本発明は、電流経路の機械的な強度が高く、所望の電子放出特性が安定して得られる電子放出素子を製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための電子放出素子の製造方法は、シリコンからなる第1層、絶縁体からなる第2層、及び、非絶縁体からなる第3層がこの順で積層され、前記第1乃至3層の各々の側面を含む連続面を有する積層構造と、前記連続面を覆うように設けられて前記第1乃至3層と界面を成す、シリサイド化し得る金属材料からなる金属膜と、を備える構造体を加熱することによって、前記第1層と前記金属膜との界面をシリサイド化する第1工程と、前記金属材料のシリサイドに対するエッチングレートよりも前記金属材料に対するエッチングレートが高いエッチャントを用いて、前記第2層の前記側面が露出するように、前記金属膜の一部を除去する第2工程と、を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電子放出時の電流経路(シリサイド部)を、シリサイド化を用いて形成しているために電流経路の機械的な強度が高く、所望の電子放出特性が安定して得られる電子放出素子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】電子放出素子の一例を説明する模式図。
【図2】(a)は電子線装置の一例を説明する模式図、(b)は電子源の一例を説明する模式図、(c)は表示装置の一例を説明する模式図。
【図3】電子放出素子の製造方法の第1形態を説明する模式図。
【図4】連続面について説明する模式図。
【図5】シリサイド化について説明する模式図。
【図6】電子放出素子の製造方法の第2形態を説明する模式図。
【図7】電子放出素子の一例を説明する模式図。
【図8】電子放出素子の製造方法の第3形態を説明する模式図。
【図9】電子放出素子の製造方法の第4形態を説明する模式図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に図面を参照して、本発明の好適な実施の形態を例示的に説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、限定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0012】
本発明に関する電子放出素子はシリコン部とシリサイド部を有している。そして、電子放出素子の製造方法においては、シリコンのシリサイド化を用いており、特に、自己整合的シリサイド(サリサイド:self−alinged−silicide)プロセスを利用している。
【0013】
シリコンは半導体であり、本発明では、常温でシリコンよりも抵抗率が高い(導電率が低い)材料を絶縁体と定義し、常温でシリコンよりも抵抗率が低い(導電率が高い)材料を導電体と定義する。シリコンと導電体とをまとめて非絶縁体と表現する。シリサイドはシリコンよりも抵抗率が低いため、導電体として扱う。実用的には、絶縁体の抵抗率は10Ω・m以上であることが好ましく、導電体の抵抗率は10−5Ω・m以下であることが好ましい。典型的なシリコンの抵抗率は10−5Ω・mより高く、10Ω・mより低い。
【0014】
まず、第1形態の製造方法によって製造される電子放出素子(第1の電子放出素子)について図1(a)、(b)、(c)を用いて説明する。第3形態の製造方法によって製造される電子放出素子(第3の電子放出素子)について図7(a)、(b)、(c)を用いて説明する。第2形態、第4形態の製造方法によって製造される第2、第4の電子放出素子については、後述するが、動作は第1、第2の電子放出素子とほぼ同じである。図1(a)、図7(a)は電子放出素子のX−Y上面図、図1(b)、図7(b)はY−Z側面図、図1(c)、図7(b)はX−Z断面図である。図1(a)〜(c)と、図7(a)〜(c)とで、同じ部材あるいは類似の部材については、同じ符号を付しており、必要に応じて違いを記載する。
【0015】
図1、図7の例では、電子放出素子2は基板1上に設けられている。ここでは1つの電子放出素子2のみを示しているが、複数の電子放出素子2を1次元状あるいは2次元状に配列して電子源を構成することもできる。
【0016】
電子放出素子2は、基板1上に、第1層10、第2層20、第3層30を、基板1側からこの順で有している。各層の基板1側の面を下面、下面とは反対側の面を上面、下面と上面との間に位置する面を側面と呼ぶことにする。側面は下面及び上面に連続している。
【0017】
第1層10の下面101は基板1と接し、第1層10の第1上面102は第2層20の下面と接し、第2層20の上面は第3層30の下面301と接している。このようにして、第2層20は第1層10と第3層30とに挟まれている。
【0018】
第1層10は、シリコンからなるシリコン部11と、シリサイドからなるシリサイド部12とで構成されている。第1層10の大部分はシリコン部11からなり、第1層10の側面103および第2上面104を含む、側面103の近傍と第2上面104の近傍のみがシリサイド部12となっている。すなわち、側面103および第2上面104は、シリサイド部12で構成されている。シリサイド部12の表面からの深さ(シリサイド部12の厚み)は、実用的には100nm以下である。第2上面104は、低電位電極15と接続している。
【0019】
第2層20は、絶縁体からなる。第2層20は、第1層10と第3層30との間隔を規定する機能を有する。
【0020】
第3層30は、少なくとも表面の一部が導電体からなる。第1の電子放出素子の1つの例において、第3層30は、図1(c)に示す様に、シリコンからなるシリコン部31と、シリサイド(導電体)からなるシリサイド部32とで構成されている。詳細には、第3層30の大部分はシリコン部31からなり、第3層30の上面302および側面303を含む、上面302と側面303の近傍のみがシリサイド部32となっている。ただし、第1の電子放出素子の別の例(不図示)において、第1層10がシリコン部31を有さずに、第1層10の全体がシリサイドからなる場合もある。第3の電子放出素子においては、第3層30の全体が導電体からなる。第3層30の上面302は、高電位電極35と接続している。
【0021】
第2層20の側面203は側面103及び側面303に対して、−X側に後退している。第1の電子放出素子では、側面203は、側面103近傍のシリサイド部12及び側面303近傍のシリサイド部32よりも−X側に後退している。第3の電子放出素子では、側面103近傍のシリサイド部12よりも−X側に後退している。
【0022】
側面203が後退している結果、第1層10と第2層20と第3層30とで構成される凹部が形成されている。凹部において、第1層10の上面102の一部と第3層10の下面301の一部とが空隙Gを介して対向している。第1の電子放出素子では、シリサイド部12とシリサイド部32とが空隙Gを介して対向しており、さらに、シリコン部11とシリコン部31とが空隙Gを介して対向している。図5を用いて後述する、第2の電子放出素子では、シリサイド部12とシリサイド部32とが空隙Gを介して対向しているが、シリコン部11とシリコン部31との間には第2層20が位置しており、空隙は存在していない。第3の電子放出素子では、シリサイド部12と導電体からなる第3層30とが空隙Gを介して対向しており、さらに、シリコン部11と第3層30とが空隙Gを介して対向している。このように、本発明に関する電子放出素子2は、少なくともシリサイド部12と導電体(第1の電子放出素子における第3層30のシリサイド部32、第2形態における第3層30)とが空隙を介して対向しているものである。
【0023】
電子放出素子2の動作及び、電子線装置3について図2(a)を用いて説明する。なお、図2(a)における電子放出素子2は、第3層30として示しているが、第3層30は、図1に示した第1の電子放出素子のように、シリコン部31とシリサイド部32とで構成されていてもよいし、第3の電子放出素子のように、全体が導電体で構成されていてもよい。
【0024】
図2(a)に示すように、シリサイド部12にカソード電位Vcを、第3層30(シリサイド部32)にゲート電位Vgを付与する。カソード電位Vcはゲート電位Vgよりも低い電位である。シリサイド部12が基板1に沿って延在していることにより、側面103を構成しているシリサイド部12へのカソード電位Vcの付与は、電子放出素子2が備える低電位電極15を介して容易に行うことができる。また、第3層30へのゲート電位Vgの付与は、高電位電極35を介して行うことができる。
【0025】
シリサイド部12とシリサイド部32との間にVcとVgとの電位差である駆動電圧Vdが印加されることによって、空隙Gに電界(Vd/G)が形成される。この電界によって、シリサイド部12の第3層30側の端部近傍から電子が電界放出される。放出された電子の電流を放出電流Ieと呼ぶ。放出電流Ieは、低電位電極15からシリサイド部12を介して供給される。シリサイド部12に流れる電流を素子電流If(≧Ie)と呼ぶ。そのため、シリサイド部12の表面(側面103、第2上面104)に沿った方向が素子電流Ifの電流経路となる。このような電子放出素子は、表面伝導型の電子放出素子である。なお、第1層10はシリコンからなるために、抵抗率は高いが、第1層10と第3層30との間でオーミックに流れる電流を低減するために第2層20は、第1層10と第3層30とを絶縁する機能を有していると云える。このように、シリサイド部12はカソード(電子放出体)として機能する。第3層30(第1形態においてはシリサイド部32)はゲート(引き出し電極)として機能する。詳細には、シリサイド部12の空隙Gに露出する端部(第3層30側の端部)が電子放出部として機能する。また、第3層30(第1形態においてはシリサイド部32)の空隙Gに露出する端部(第1層10側の端部)が電界形成部として機能する。
【0026】
シリサイド部12から電界放出された電子を、基板1から離れる方向に取り出して、電子線として利用することができる、電界放出された電子の一部は、第3層30の表面で散乱する場合や、第3層30に吸収される場合もある。そのため、典型的には、Ie<Ifであり、100×Ie/If(%)は電子放出効率と呼ばれる。放出電流Ieと空隙Gについて説明する。本発明に係る電子放出素子においては、電界放出型の電子放出素子であり、ファウラーノルドハイムの式で示される電界で電子放出特性が記述できる。ファウラーノルドハイムの式によれば前述の素子電流Ifは電子放出部に加わる電界強度に対して指数関数的な単調増加の特性を示す。すなわち同じVdを印加しても空隙Gの大きさが異なれば空隙Gに形成される電界強度に差が生じ、結果として得られる素子電流Ifおよび放出電流Ieに差が生ずる。すなわち複数の電子放出素子間での空隙10のばらつきは、放出電流Ieをばらつかせることになる。電子放出素子間でのIeばらつきは、抑制すべきである。電子放出効率は空隙Gが大きいほど高くなる傾向にあるが、空隙Gが大きくなると、電子放出に要する駆動電圧Vdも大きくする必要がある。このように、空隙Gの大きさは所望の駆動条件に応じて設定する必要があり、空隙Gの制御が肝要である。
【0027】
このように、電子放出素子2において、電子放出に係る動作は主に各層の側面近傍で生じる。一方、第2上面104や上面304は、空隙Gの近傍へ電流や電位を供給するための接続部として用いている。そのため、電子放出素子2の動作においては、側面が、第2上面104や上面304に比べて、より重要な機能を有している。
【0028】
図1(a)、(b)、図7(a)、(b)に示す様に、1つの電子放出素子2は、複数の(ここでは3つ)シリサイド部12を有することができるが、1つの電子放出素子2につき、1つのシリサイド部12のみを有していてもよい。図1(a)、(b)に示す様に、1つの電子放出素子2は、複数の(ここでは3つ)シリサイド部32を有することができるが、1つの電子放出素子2につき、1つのシリサイド部32のみを有していてもよい。また、複数のシリサイド部12につき、1つのシリサイド部32のみを設けることもできる。
【0029】
電子放出素子2の一部を成す低電位電極15や高電位電極35を素子電極と呼ぶが、電子放出素子2は、低電位電極15と高電位電極35の両方を有していてもよいし、図7のように一方のみを有していてもよいし、両方を有していなくてもよい。図1(a)、図7(a)に示す様に、シリサイド部12が複数設けられる場合には、低電位電極15は複数のシリサイド部12を共通に接続するように設けられる。シリサイド部32と高電位電極35との関係も同様である。
【0030】
図2(a)は、本発明の電子放出素子2の電子放出特性を測定するときの駆動形態を示している。また、図2(a)に示した構成を、電子線装置3としても用いることができる。
【0031】
電子線装置3は、電子放出素子2と、電子放出素子2に対向するアノード4とを備えている。アノード4には電子放出素子2の電位(Vc,Vg)よりも高い電位であるアノード電位Vaを付与する。電子放出素子2から放出された電子はアノード電位Vaとカソード電位Vc、ゲート電位Vgに依存して、電子放出素子2とアノード4との間に形成される電界によって加速される。その結果、電子線がアノード4に照射される。このように、電子放出素子2とアノード4とで電子線装置3を構成することができる。アノード4は、電子が透過しないように厚くすることもできるし、電子が透過するように薄くしたり、グリッド状にしたりすることもできる。
【0032】
電子線を発光部材に照射させることにより、発光部材が光を発する発光装置を構成することができる。光の波長は可視光線に限らず、赤外線や紫外線、X線でも良い。可視光線を発光させる場合には、発光部材としては、カソードルミネセンスを生じる蛍光体を好ましく用いることができる。蛍光体が発光する可視光線を利用して、表示装置を構成することもできる。X線を発光させる場合にはCuやMoなど、発光部材として電子線の衝突によって特性X線を発するような金属材料を用いることができる。発光部材が導電性を有する場合には、発光部材自体をアノード4として用いても良い。
【0033】
電子線装置3には、本発明によって製造された複数の電子放出素子2を1次元状あるいは2次元状に配列した電子源5を用いることもできる。図2(b)には多数の電子放出素子2が2次元マトリックス状に配列された電子源5を示している。本発明によれば、フォトリソグラフィ技術等でパターニングを行うことにより、多数の電子放出素子2を同時に形成することが可能となる。多数の電子放出素子2は複数(m本)の行配線62と複数(n本)の列配線63とからなるマトリックス配線で接続されている。各電子放出素子2は、低電位電極15が行配線62に接続され、高電位電極35が列配線63に接続されている。
【0034】
次に、本発明に係る電子放出素子2を用いた表示装置6について、図2(c)を用いて説明する。図2(c)は表示装置6の一例を示す模式図であり、一部を切り欠いた状態で示す。
【0035】
図7において、表示装置6は、互いに対向するリアプレート69とフェースプレート67とを備えている。リアプレート69には電子源5が固定されている。ここでは、電子源5が、リアプレート69とは別の基板1上に設けられている例を示しているが、リアプレート69自体を、その上に電子放出素子2を形成する基板(基板1)として用いてもよい。フェースプレート67は、透明基板64の内面に発光部材としての、細分化された複数の蛍光体膜65と、アノード4としてのメタルバック66等が形成されてなる。また、リアプレート69とフェースプレート67との間には枠体68が設けられている。リアプレート69とフェースプレート67がフリットガラス等を介して枠体68と接合されており、外囲器70を構成している。外囲器70は気密性を有しており、外囲器70の内部は真空(大気圧より低い圧力)に維持されている。
【0036】
このような表示装置6では、放出した電子軌道を考慮して、各電子放出素子2と各蛍光体膜65とが、アライメントして配置されている。表示装置は、端子Dx1乃至Dxm、端子Dy1乃至Dyn、及びアノード端子HVを介して外部の電気回路(不図示)と接続している。端子Dx1乃至Dxmにはそれぞれ行配線62が接続され、表示パネル内に設けられている電子源5、即ち、m行n列のマトリクス状に配列された電子放出素子群を一行(n素子)ずつ順次駆動する為の走査信号が印加される。一方、端子Dy1乃至Dynには、それぞれ列配線63が接続され、走査信号により選択された一行の電子放出素子の各素子の出力電子ビームを制御する為の変調信号が印加される。
【0037】
アノード端子HVには、不図示の直流電圧源より、たとえば数kV〜数10kVの高電位が供給されるが、これは電子放出素子2から放出される電子を加速して、電子ビームに蛍光体を励起するのに十分なエネルギーを付与する為の加速電圧となる。
【0038】
上述のように走査信号、変調信号、及びアノードへの高電位付与により、放出された電子を加速して蛍光体へと照射することによって、画像表示を実現する。尚、このような表示装置6の電子放出素子2や電子源5を本発明の製造方法を用いて製造することによって、電子ビームの形状の整った表示装置を構成でき、その結果、良好な表示特性を有する表示装置を提供することができる。
【0039】
<第1形態>
図1に示した第1の電子放出素子2の製造方法の一例を説明する。
【0040】
(工程a)
この工程aでは、図3(a)に示すように、基板1上に積層体40aを形成する。積層体40aの各層は、積層方向(Z方向)において、基板1側から、シリコン層10a、絶縁体層20a、シリコン層30aの順(空間的な順序)で積層されている。すなわち、積層体40aの各層は、シリコン層10aとシリコン層10aとの間に絶縁体層20aが位置する空間的な関係を有している。換言すれば、絶縁体層20aは、シリコン層10aとシリコン層30aに挟まれている。より詳細には、シリコン層10aの下面101aは基板1と接し、シリコン層10aの上面102aは絶縁体層20aの下面と接し、シリコン層30aの下面301aは、絶縁体層20aの上面と接している。実質的に、各層の上面および下面は積層方向に対して垂直である。
【0041】
(工程b)
この工程bでは、図3(b)に示すように、基板1上に積層構造40bを形成する。このような積層構造40bは、工程aで形成した積層体40aを加工することによって形成することができる。積層構造40bの各層は、積層方向(Z方向)において、基板1側から、第1層10b、第2層20b、第3層30bを有している。第1層10bはシリコンからなり、第2層20bは絶縁体からなり、第3層30bはシリコンからなる。積層構造40bは、各々が露出した、第1層10bの側面103b、第2層20bの側面203b、第3層30bの側面303bを有している。側面103bと側面203bと側面303bとを少なくとも含む連続した面を、まとめて、連続面403bと呼ぶ事にする。図3(b)では、側面103bと側面203bと側面303bとを太線で示してある。
【0042】
図3(b)の例では、第1層10bは、その上に第2層20bが位置する積層部13bに加えて、延長部14bを有するように形成されている。延長部14bは、基板1に沿って延長しており、側面103bに連続して露出した第2上面104bを有している。また、第3層30bは、側面303bに連続する第3層30bの上面302bが露出するように形成されている。したがって、連続面403bは、露出した上面302bと露出した第2上面104bも含んでいる。
【0043】
(工程c)
この工程cでは、図3(b)で示した連続面403b上に、連続面403bを覆うように、シリサイド化し得る金属材料からなる膜(金属膜50)を形成する。すなわち、金属膜50は、少なくとも側面103b上と側面203b上と側面203b上とに渡って連続的に形成される。このように金属膜50を形成すると、図3(c)に示すように、金属膜50は、点線で示されるように、第1層10b上に位置する部分51、第2層20b上に位置する部分52、第3層30b上に位置する部分53に区分することができる。本工程cにおいて、工程bにおける側面103bは、第1層20bと部分51との界面103cとなる。同様に、側面203bは界面203cとなり、側面303bは界面303cとなる。また、上面302bは界面302cとなり、第2上面104bは界面104cとなる。図3(c)には、界面103c、203c、303cを太線で示した。連続面403bは積層構造40bと金属膜50との界面としての連続面403cとなる。これにより、図3(c)に示した、積層構造40bと、金属膜50とを備え、積層構造40bと金属膜50とが界面(連続面403c)をなす構造体60を作製することができる。
【0044】
(工程d)
この工程dでは、図3(c)で示した構造体60の、金属膜50と第1層20bとの界面103cをシリサイド化する。シリサイド化は、構造体60を加熱することによって行われる。本工程dによって、図3(d)に示すように、工程cにおける界面103cの近傍にはシリサイド部12が形成される。界面103cの近傍とは、具体的には、界面103cの第1層10c(シリコン)側と金属膜50側の一方あるいは両方である。参考のために、図3(a)〜(g)には、側面103b、203b、303b、および、界面103c、203c、303cの位置を規定する一点鎖線を示してある。シリサイド部12の金属成分は、部分51に含まれるシリサイド化し得る金属材料の全部又は一部である。本工程dにおいて、界面302c、界面303c、界面104cもシリサイド化される。そのため、界面302c、界面303cの近傍にはシリサイド部32が形成され、同様に界面104cの近傍にもシリサイド部12が形成される。この工程dで、第1の電子放出素子2の第1層10および第3層30が形成される。
【0045】
シリサイド化は、シリサイド化し得る金属材料とシリコンとで形成される界面で生じるが、界面203cにはシリコンが存在していないために、界面203cは全くあるいは殆どシリサイド化されない。そのため、本工程dのシリサイド化は、第2層20b及び部分52に実質的な変化が極力生じないように行われる。
【0046】
(工程e)
この工程eでは、図3(e)に示すように、金属材料からなる部分52をウェットエッチングによって除去して、第2層20bの側面203bを再度露出させる。このとき、ウェットエッチングのエッチング液(第1エッチャント)は、シリサイド部12に対するエッチングレートよりも、金属膜50を構成する金属材料(部分52)に対するエッチングレートが高いものを用いる。すなわち、本工程eでは、金属材料からなる部分52を選択的に除去することによって、第2層20bの側面203bを露出させる。なお、本発明におけるエッチングレートとは、任意の材料からなる膜を所定のエッチング液でエッチングした場合の、単位時間当たりの膜の厚みの減少量(m/s)である。対象となる膜がエッチング液によって全くエッチングされない場合には、減少量は0である。
【0047】
エッチングを進めていくと、部分52の厚みの減少量がシリサイド部12の厚みの減少量よりも大きくなる。エッチングはシリサイド部12の厚みが0になる前に、すなわち、シリサイド部12が残存している状態で停止させる。その結果、部分52の厚みが0になった時点、すなわち、第2層20bの側面203bが露出した時点で、シリサイド部12が残存している。同様に、シリサイド部32も残存している。なお、部分51、部分53の金属材料のうち、シリサイド化しなかった金属材料があれば、この工程で除去することができる。
【0048】
(工程f)
この工程fでは、図3(f)に示すように、第2層20bの一部をウェットエッチングによって除去して、第2層20bの側面203bを後退させる。このとき、ウェットエッチングのエッチング液(第2エッチャント)は、シリサイド部12に対するエッチングートよりも、第2層20bに対するエッチングレートが高いものを用いる。すなわち、本工程eでは、絶縁体からなる第2層20bの一部を選択的に除去することによって、第2層20bの側面203bを後退させる。参考のために、図3(e)〜(g)には、後退した側面203bの位置を規定する二点鎖線を示してある。
【0049】
エッチングを進めていくと、第2層20bの後退量がシリサイド部12の厚みの減少量よりも大きくなる。エッチングはシリサイド部12の厚みが0になる前に、かつ、第2層20bが完全に除去される前に停止させる。すなわち、シリサイド部12及び第2層20bの一部が残存している状態で停止させる。この工程fで、第1の電子放出素子2の第2層20が形成される。
【0050】
(工程g)
最後に、図3(g)に示すように、シリサイド部12と配線(不図示)との電気的な導通を取るために低電位電極15を形成する。また、シリサイド部32と配線(不図示)との電気的な導通を取るために高電位電極35を形成する。
【0051】
以上のようにして、第1の電子放出素子2を製造することができる。
【0052】
かかる製造方法によれば、シリサイド部12が、シリコン部11と化学結合(シリサイド化反応)によって強固に接合している。そのため、素子電流Ifの電流経路となるシリサイド部12の機械的な強度が高く、所望の電子放出特性が長期にわたって安定して得られる。また、電子放出部となるシリサイド部12のシリサイド部32側の端部の位置は、部分51と部分52の境界の位置に応じて自己整合的に決定され、部分52の除去に伴って電子放出部が表出する。同様に、電界形成部となるシリサイド部32のシリサイド部12側の端部の位置も、部分53と部分52の境界の位置に応じて自己整合的に決定され、部分52の除去に伴って電界形成部が表出する。そして、側面203cの後退によって、シリサイド部12のシリサイド部32側の端部とシリサイド部32のシリサイド部12側の端部との距離を大きく変更することなく、電界形成部と電子放出部と間の空隙Gを形成することができる。そのため、製造工程中で、空隙Gの変動に影響する不確実な要因を減らすことも可能になる。その結果、例えば製造ロットが変わっても、電子放出素子2の電子放出特性のばらつきを低減することができる。あるいは、多数の電子放出素子2を基板1上に形成しても、電子放出素子2毎の電子放出特性のばらつきを低減することもできる。したがって、所望の電子放出特性を有する電子放出素子2や電子源5を製造することができる。
【0053】
次に、電子放出素子2の製造方法の第1形態について、各工程毎に詳細に説明する。
【0054】
(工程a)について
基板1は、熱処理(例えば、工程dにおける構造体60の加熱)に対して耐性を有する材料が用いられる。また、熱処理に伴いガラス内部からのアルカリ元素等が拡散しにくい材料が好ましい。また、成膜材料や他の積層部材と熱膨張差が小さいものが好ましい。また、化学処理(例えば、工程eや工程fにおけるエッチング)に対する耐性を有する材料が用いられる。基板1としては、その表面が絶縁性であることが好ましい。例えば、ガラス基板や石英基板、セラミック基板、シリコン基板を用いることができる。あるいは、絶縁膜で全面がコートされた金属基板を用いることもできる。
【0055】
積層体40aは、シリコン層10aの上に絶縁体層20aを形成し、その後に、絶縁体層20aの上にシリコン層30aを形成することで作製できる。典型的には、基板1上に、シリコン層10aとしてのシリコン膜を成膜し、シリコン膜の上に絶縁体層20aとしての絶縁体膜を成膜し、絶縁体膜の上にシリコン層30aとしてのシリコン膜を成膜する。
【0056】
ただし、各層の形成の時間的な順序は、シリコン層10a、絶縁体層20a、シリコン層30aの順に限定されることはない。例えば、SOI(Silicon On Insulator)技術で用いられているような張り合わせ方式や埋め込み方式を用いてもよい。しかし、シリコン層10a、絶縁体層20a、シリコン層30aの順に形成することは、積層体40aの形成が容易かつ低コストであるし、各層の上面と下面を明確かつ平滑にでき、各層の厚みを高精度に制御できるので好ましい。
【0057】
基板1として単結晶シリコン基板(シリコンウェハ)を用いる場合には、シリコン層10aと単結晶シリコン基板とが一体であってもよい。すなわち、単結晶シリコン基板を加工することで、単結晶シリコン基板の表面に第1層10bのような段差形状を形成することができる。さらに、単結晶シリコン基板を用いる場合には、絶縁体層20aを真空成膜法ではなく、単結晶シリコン基板自体に化学反応を生じさせることによって、絶縁体層20aとして酸化シリコン層、あるいは窒化シリコン層を形成してもよい。その場合には、絶縁体層20aは、熱酸化や熱窒化プロセスによって形成することができる。
【0058】
シリコン層10aの厚みT1、絶縁体層20aの厚みT2、シリコン層30aの厚みT3は適宜設定することができる。各層の厚みは、積層方向(Z方向)における各層の上面と下面との距離である。典型的には積層方向は、基板1に対して垂直であり、各層の上面と下面は基板1の表面と平行である。しかし、典型的には各層の厚みを、T2<T3およびT2<T1とすることが好ましく、T3<T1とすること(すなわち、T2<T3<T1)がより好ましい。T1は、5nmから50μmの範囲が好ましく、50nmから800nmの範囲がより好ましい。T2は、実用的には、1nmから50nmの範囲が好ましく、3nmから15nmの範囲がより好ましい。T3は、5nmから500nmの範囲が好ましく、10nmから100nmの範囲がより好ましい。一般的に、このような積層体40aの各層の厚みの制御は、フォトリソグラフィー技術等による基板1に平行な面内でのパターニング幅の制御に比べて、精度が高いというメリットがある。基本的に積層体40aの各層の厚みT1,T2は電子放出素子2の第1層10、第2層20の厚みと同じである。第3層30の厚みは、上面302近傍のシリサイド部32の厚みによっては、T3から変化する場合もある。絶縁体層20aの厚みT2は、電子放出素子の電界放出に要する電界強度と印加する電圧の大きさに応じて設定される空隙Gの大きさに基づいて決定される。換言すれば、絶縁体層20aの厚みT2は、電子放出素子2の空隙Gの幅を決定する要因となるため、他の層に比べてより高精度で厚みを制御する必要がある。
【0059】
シリコン層(シリコン層10a、シリコン層30a)は、単結晶シリコン、多結晶シリコン(ポリシリコン)、非晶質シリコン(アモルファスシリコン)の何れでも良い。ただし、シリコン膜を基板1上に成膜する場合には、容易にする観点では、非晶質シリコンを用いると成膜が容易である。なお、上記シリコンは不純物(ドーパント)を含んでいるn型半導体やp型半導体であっても良いが、不純物を含まない真性半導体であることが望ましい。シリコン膜の形成方法は一般的な真空成膜法、例えばCVD法、電子ビーム蒸着法あるいはスパッタ法を用いることができる。
【0060】
絶縁体からなる層(絶縁体層20a)は、加工性に優れる材料が用いられる。例えば酸化シリコン(SiOで表され、典型的にはSiOである)、窒化シリコン(SiNで表され、典型的にはSiである)、BSG(Boron Silicate Glass)、PSG(Phospho Silicate Glass)、PBSG(Phospho Boron Silicate Glass)が挙げられる。絶縁体層20aの形成方法は一般的な真空成膜法、例えばCVD法、電子ビーム蒸着法あるいはスパッタ法を用いることができる。
【0061】
(工程b)について
積層構造40bの形成方法は特に限定されない。本実施形態では、工程aと工程bとを別々の工程とする場合を記載したが、シリコン層10a、絶縁体層20a、シリコン層30aの各々を形成するごとに、側面103b、側面203b、側面303bを形成してもよい。ただし、連続面403bを平滑面とする場合には、上記したように、工程aによって積層体40aを形成した後に、工程bで積層体40aを加工して連続面403bを形成することが好ましい。工程aの後に工程bを行う場合には、例えば、フォトリソグラフィー技術等により、シリコン層30a上に、図3(a)で示した領域(ii)、(iii)をマスクする所定のパターンの第1保護膜(不図示)を形成する。そして、第1保護層をマスクとして、領域(i)に対応するシリコン層30a、絶縁体層20a、シリコン層10aを順次エッチングして、基板1を露出させる。さらに、第1保護層を除去した後に、領域(i)、(iii)をマスクする別のパターンの第2保護層をシリコン層30a上に形成する。第2保護層をマスクとして、領域(ii)に対応するシリコン層30a、絶縁体層20a、シリコン層10aを順次エッチングする。このときのエッチングは、第2保護層で保護されない領域(ii)のシリコン層10aが完全に除去される前に停止する。その後、第2保護層を除去すると、第3層30bの上面302bが露出する。
【0062】
連続面403bに関しては、図3(b)に示すように、側面103bと側面203b、側面203bと側面303bの各々が互いに連続していることが望ましい。このような連続面403bを便宜的に平滑面と呼ぶことにする。連続面403bが平滑面である場合、第1層10bと第2層20bの界面の端が、側面103bと側面203bとの境界と一致しており、第2層20bと第3層30bの界面の端が、側面203bと側面303bとの境界と一致している。換言すれば、側面103bと側面203bとの間に、第1層10bの上面や第2層10bの下面は露出せず、側面203bと側面303bとの間に、第2層20bの上面や第3層30bの下面は露出しない。そのため、平滑面である連続面403bには、各層間に段差が存在しない。
【0063】
図4には、側面103bと側面203b、側面203bと側面303bの各々(太線で示した)が互いに不連続であり、連続面403bが平滑面でない例を示した。図4(a)では、側面203bが側面103bおよび303bに対して、−X方向に後退しており、第1層10bの上面の一部と、第3層30bの下面の一部が露出している。そのため、連続面403bには、側面103b、側面203b、側面303bに加えて、第1層10bの上面と、第3層30bの下面が含まれる。図4(b)では、側面103b、303bが側面203bに対して、−X方向に後退しており、第2層20bの下面の一部と、第2層20bの上面の一部が露出している。そのため、連続面403bには、側面103b、側面203b、側面303bに加えて、第2層20bの下面と、第2層20bの上面が含まれる。図4(c)では、側面203bが側面103bに対して−X方向に後退しており、側面303bが側面203bに対して、−X方向に後退しており、第1層10bの上面の一部と、第2層20bの上面の一部が露出している。
【0064】
図3(b)では連続面403cおよび側面103b、203b、303bのそれぞれの、積層構造40bの積層方向(Z方向)に対する角度は、いずれも0度である。図4(a)〜(c)では、側面103b、203b、303bのそれぞれの、積層構造40bの積層方向(Z方向)に対する角度は、いずれも0度である。しかしながら、連続面403b、側面103b、側面203b、側面303bは、積層方向に対して傾斜した斜面であってもよい。すなわち、積層方向(Z方向)に対する、連続面403cの角度、あるいは、側面103b、203b、303bのそれぞれの角度は、0度以上90度未満である。好ましくは0度以上60度以下、より好ましくは0度以上45度以下である。側面103b、側面203b、側面303bの積層方向に対する角度が互いに異なっていてもよい。また、連続面403c、あるいは側面103b、側面203b、側面303bのそれぞれは、曲面であってもよい。連続面403cは、図中のY方向において凹凸が繰り返される、波状あるいは櫛歯状の面であってもよい。
【0065】
図3(b)と図4には、側面103bの、側面203b側の端部1031bと、側面303bの、側面203b側の端部3031bと、を示してある。端部1031bと端部3031bとを結ぶ線分の長さを表す距離gは第2層20bの厚みT2に依存する。具体的には、距離gは、端部1031bと端部3031bとを結ぶ直線の、積層構造40bの積層方向(Z方向)に対する角度θによって、g=T2/cosθで表される。図3(b)や図4(a)、(b)に示したように、端部1031bと端部3031bとを結ぶ直線が積層構造40bの積層方向(Z方向)に平行な場合には、θ=0°であり、g=T2となる。連続面403bが斜面であったり、図4(c)のような階段形状であったりするなど、端部1031bと端部3031bとを結ぶ直線が積層構造40bの積層方向(Z方向)に非平行な場合には、θ>0°となる。θが0°以上45°以下であれば、距離gは厚みT2の1倍以上√2倍以下に収めることができる。したがって、厚みT2を高精度に制御することで、距離gの制御性を向上することができる。
【0066】
角度θは、工程bのエッチング手法に依存する。エッチングの手法としては、各層を順次ウェットエッチングしてもよいが、比較的選択比の小さいドライエッチングを好適に用いることができる。ドライエッチングとしては、サンドブラストやプラズマエッチング、イオンビームエッチングを用いることもできる。容易に連続面403bを平滑面とする上では、RIE(Reactive Ion Etching)が好適である。加工する対象物の材料がフッ化物を形成し得る場合は、RIEの際の反応ガスとしては、CF、CHF、SF等のフッ素系ガスが選ばれる。またSiやAlのように塩化物を形成し得る場合はCl、BClなどの塩素系ガスが選ばれる。また、反応ガスに、水素や酸素、アルゴンガスなどを適宜添加することで、エッチング面(連続面403b)の平滑性の確保あるいはエッチングスピードを上げることもできる。
【0067】
(工程c)について
シリサイド化し得る金属材料としては、Zr,Hf,V,Nb,Mo,Ta,W,Ti,Co,Ni,Pt,Pd,Au,Ru,Os,Ir,Cr等の金属元素を含む、単体材料、合金材料が使用可能であり、単体材料を好ましく用いることができる。
【0068】
図4に示したように、連続面403bが平滑面でない場合には、各層の側面の間に露出して位置する面をも覆うように、金属膜50を形成する。すなわち、図4(a)に示したように、側面103bと側面203bとの間に露出する第1層10bの上面(第1上面102b)の一部、および、側面203bと側面303bとの間に露出する第3層30bの下面の一部をも覆うように、金属膜50を形成する。あるいは、図4(b)に示したように、側面103bと側面203bとの間に露出する第2層20bの下面の一部、および、側面203bと側面303bとの間に露出する第2層20bの上面の一部をも覆うように、金属膜50を形成する。また、金属膜50を、第3層30bの上面303b上と第1層10bの第2上面104b上にも形成する。図4(c)についても同様である。
【0069】
金属膜50の形成方法は一般的な真空成膜法、例えばCVD法、電子ビーム蒸着法あるいはスパッタ法で、薄膜(厚みが1μm以下)として形成することが望ましい。金属膜50の厚みTmは5nmから100nmの範囲が好ましく、5nmから20nmの範囲がより好ましい。なお、金属膜50の厚みTmは、第1層10bの側面103bに対して垂直な方向で測定する。図4のような連続面403bが非平滑面でない場合に、連続面403cに生じる段差は、薄い金属膜50が段差によって途切れない程度に小さく抑えることが好ましい。具体的には、工程bにおいて各層の側面の間に露出しうる、各層の上面または下面のX方向における長さは、金属膜50の膜厚よりも小さくすることが好ましい。
【0070】
図1(a)、(b)に示したように、1つの電子放出素子2につき、複数のシリサイド部12や複数のシリサイド部32を設ける場合には、本工程cで複数の金属膜50を形成する。例えば、全面に金属膜を成膜した後に、フォトリソグラフィー技術を用いて、Y方向に所定のピッチでパターニングすればよい。
【0071】
(工程d)について
構造体60の加熱は、構造体60ごと加熱炉の中で加熱したり、ヒーターで基板1を加熱したりすることによって行うことができる。加熱時の雰囲気は、NガスあるいはNとHとの混合ガス等にするとよい。シリサイド化に必要な温度は、熱処理時の温度は、シリコンの種類と金属膜50の材料との組み合わせにより選択される。200℃〜1000℃の間で適宜選択される。シリサイド化に必要な温度の一例をあげると、MoSi,TaSi,WSiでは900〜1100℃、TiSiでは600〜800℃、CoSiでは550〜700℃、PtSiでは700〜800℃である。シリサイド化に要する温度は低い方が、電子放出素子を安定に作製でき、この観点では金属材料としてPt、Ti、Coが好ましく、Coがより好ましい。
【0072】
シリサイド化について図5を用いて説明する。図5(a)、(b)の矢印の上側と下側は、シリサイド化の前後での変化を表している。シリサイド化は、シリコンと金属材料との界面103c(界面303cも同様である)で生じるが、界面103cのシリコン側で生じるか、界面103cの金属材料側で生じるかは、金属材料によって異なる。シリサイド部32についても同様である。なお、シリサイド化によって得られるシリサイド部12の厚み(側面103からの深さ)は、金属膜50の厚みTm、加熱時間、加熱温度、金属材料の種類、第1層10cの種類によって制御が可能である。第1層10bの積層部13bの、X方向における長さ(側面側から見た奥行き)は、界面103cからシリサイド化しうる範囲よりも十分に大きいため、第1層10bのすべてがシリサイド化されることはない。典型的に、積層部13bのX方向における長さは、シリサイド化しうる範囲の2倍以上であり、好ましくは、10倍以上、より好ましくは100倍に設定される。実用的には、シリサイド化し得る範囲は、100nm以下である。一方、T3が十分に小さいと、第3層30bは界面302cからすべてシリサイド化される場合もある。
【0073】
シリサイド化における拡散種が金属材料である場合には、図4(a)に示すように、主に界面103cのシリコン側でシリサイド化が生じる。拡散種がシリコンである場合には、図4(b)に示すように主に界面103cの金属材料側でシリサイド化が生じる。ただし、拡散種が金属材料であっても界面103cの金属材料側でわずかにシリサイド化が生じたり、拡散種がシリコンであっても界面103cのシリコン側でわずかにシリサイド化が生じたりする可能性もある。一例としては、シリサイドがZrSi,HfSi,VSi,NbSi,MoSi,TaSi,WSi,TiSiである場合はシリコンが拡散種である。シリサイドがCoSi、NiSi,NiSi,PtSiである場合は金属材料(Co,Ni,Pt)が拡散種であり、PdSiではPdもSiも拡散種であり得る。なお、図3(d)は拡散種が金属材料である場合を示している。
【0074】
拡散種がシリコンである場合、図5(b)で示したように、シリコンが界面203c上まで拡散し、部分52が意図せずにシリサイド化する可能性がある。そのため、距離gと空隙Gとの一致性が低下する。また、第2層20bの厚みが極端に小さい場合には、部分52のすべてがシリサイド化されてしまい、金属材料からなる部分52が残らない場合がある。第2層20bの厚みが極端に小さい場合とは、たとえば、部分52の、界面203cに沿った長さ(第2層20bの厚みに依存し、連続面403cが平滑面である場合には、距離gと同等である)がシリコンの拡散長よりも短い場合などがあげられる。以上のことから、第1形態では、シリコンと金属材料の何れが拡散種であってもよいが、より精度よく空隙Gを形成する観点において、拡散種が金属材料であると好ましい。
【0075】
シリサイド化における拡散種が金属材料である場合には、図4(a)〜(c)のいずれの形態でも空隙Gの幅を高精度に制御することができる。一方で、シリサイド化における拡散種がシリコンである場合には、図3(b)や図4(b)に示す様に、第1層10bの上面および第3層30bの下面は露出しないことが、空隙Gの幅を高精度に制御する上で、好ましい。
【0076】
空隙の幅Gは、側面103bの第3層30b側の端部1031bと、側面303bの第1層側の端部3031bとの距離gに完全にあるいはほぼ完全に一致する。特に、拡散種が金属材料である場合には、拡散種がシリコンである場合に比べて、幅Gと距離gとの一致性が高くなる。
【0077】
(工程e)について
第1エッチャントは、エッチングしたい金属材料(および、エッチングしたくないシリサイド)に応じて適宜設定することができる。シリサイド部12に対するエッチングレートは0であることが好ましいが、シリサイド部12はわずかにエッチングされてもよい。シリサイド部12のエッチングレートに対する金属材料(部分52)のエッチングレートの比(選択比)は、10以上であることが好ましく、50以上であることがより好ましい。本工程eで用いる第1エッチャントは、シリサイド部12、32だけでなく、シリコン部11、シリコン部31、基板1に対するエッチングレートが、部分52を構成する金属材料に対するエッチングレートよりも低いものが選択される。第1エッチャントとして好適な例を表1に示す。表1の組み合わせに限定されることはなく、より適切な組み合わせを選択してもよいことは言うまでもない。表1中で、SPMは硫酸と過酸化水素水の混合溶液(Sulfuric Acid Hydrogen Peroxide Mixture)である。エッチング液の濃度はエッチングレートに応じて適宜設定すればよい。
【0078】
(工程f)について
第2エッチャントは、エッチングしたい第2層20bの絶縁体(および、エッチングしたくないシリサイド)に応じて適宜設定することができる。シリサイド部12に対するエッチングレートは0であることが好ましいが、シリサイド部12はわずかにエッチングされてもよい。シリサイド部12のエッチングレートに対する第2層20のエッチングレートの比(選択比)は、10以上であることが好ましく、50以上であることがより好ましい。本工程fで用いる第2エッチャントは、シリサイド部12、32だけでなく、シリコン部11、31や、基板1に対するエッチングレートが、第2層20bを構成する絶縁体に対するエッチングレートよりも低いものが選択される。第2エッチャントとして好適な例を表1に示す。表1の組み合わせに限定されることはなく、より適切な組み合わせを選択してもよいことは言うまでもない。また、第2エッチャントとして、第1エッチャントを用いて、工程eと工程fとを連続的に行ってもよい。
【0079】
第2エッチャントは、例えば、第2層10bが酸化シリコン,PSG,BSG、PBSGの場合には、フッ酸系エッチング液(HF)を用いることができる。フッ酸系エッチング液としては、BHF(Hf+NHF)、HF+HF−NOであってもよい。第2層10bが窒化シリコンの場合には、熱リン酸系エッチング液(HPO),HF,HF−CHCOOHを用いることができる。ただしフッ酸系エッチャントの、窒化シリコンに対するエッチングレートは小さいので十分な選択比が得られない場合がある。なお、側面203bの後退量を極端に大きくすると第3層30が変形する可能性が大きくなるため、後退量は30nm〜200nmとすることが好ましい。
【0080】
(工程g)について
図3(g)では、低電位電極15がシリサイド部12の端を覆うように基板1上からシリサイド部12上に渡って形成しているが、低電位電極15を、シリサイド部12上のみに形成していてもよい。この低電位電極15は蒸着法、スパッタ法等の一般的真空成膜技術、フォトリソグラフィー技術により形成される。低電位電極15の材料は、例えば、Be,Mg,Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Al,Cu,Ni,Cr,Au,Pt,Pd等の金属または合金材料が使用可能である。また、TiC,ZrC,HfC,TaC,SiC,WC等の炭化物、HfB,ZrB,LaB,CeB,YB,GdB等の硼化物、TiN,ZrN,HfN等の窒化物も使用可能である。また、更には、有機高分子材料、アモルファスカーボン、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボン、ダイヤモンドを分散した炭素及び炭素化合物等も使用可能である。低電位電極15の厚みとしては、50nmから5mmの範囲で設定され、好ましくは50nmから5μmの範囲で選択される。この工程は、工程cと同時あるいは、工程cと工程eとの間に行ってもよく、工程cで形成する金属膜50の金属材料を、低電位電極15の材料として用いてもよい。また、電子放出素子2が低電位電極15を備えない場合には、この工程gは省略することもできる。たとえばマトリックス配線や、ワイヤーボンディング、プローブなどをシリサイド部12にコンタクトさせることによって、カソード電位Vcを付与してもよい。
【0081】
【表1】

【0082】
<第2形態>
第2形態が第1形態と異なるのは、工程f(シリサイド化の後の第2層20cのエッチングによる側面203の後退)を省略する点である。
【0083】
第2形態の1つの例は、工程cで形成する金属膜50として、工程dのシリサイド化における拡散種がシリコンとなるような金属材料を用いることである。
【0084】
工程a、工程bは第1形態と同様に行うことができる。図6(a)に示すように、工程cでは、工程dのシリサイド化において拡散種がシリコンとなるような金属材料からなる金属膜50を形成する。そのような金属材料としては、例えばZr,Hf,V,Nb,Mo,Ta,W,Tiが挙げられる。工程dにおいて、シリサイド化を行うと、図6(b)に示すように、界面103cの金属膜50側にシリサイド部12が形成される。また、界面302cの金属膜50側にシリサイド部32が形成される。工程eにおいて、部分52を選択的に除去して側面203bを露出させる。すると、図6(c)に示すように、側面203bよりも+X側の位置にシリサイド部12とシリサイド部32が残り、シリサイド部12とシリサイド部32との間に空隙Gが形成される。そのため、本形態では、側面203bを後退させる工程(工程f)を行わない。工程gにおいて、第1形態と同様に低電位電極15、高電位電極35を形成する。以上のようにして、図6(d)に示した電子放出素子2を製造することができる。
【0085】
また、第2形態の別の例として、図3(b)で示したように、工程bの時点で、第2層20bの側面203bが、側面103bおよび側面303に対して、後退している場合があげられる。この場合には、拡散種がシリコンであるか金属材料であるかに関わらず、工程fを省略することも可能である。ただし、拡散種がシリコンである場合には、工程dのシリサイド化を経ても、良好な電子放出特性が得られない場合がある。これは、第1層10bの上面と、第2層20bの側面203bと、第3層20bの下面とで形成される連続面403bの凹部内で、シリサイド部12とシリサイド部32とが接触して、空隙Gが形成されない可能性が高くなるためである。拡散種が金属材料であれば、工程fを省略しても、電子放出素子を良好に製造することができる。
【0086】
本形態によれば、工程fを省略できるため製造工程が簡単になるだけでなく、工程fにおける第2エッチャントを使用せずに済むため、シリサイド部12、32や基板1へのダメージを低減することができる。また、第2層20bや基板1、あるいは、基板1上に予め設けられた構造体60以外の部材の材料選の余地が広がり、製造工程の制限が小さくなる。
【0087】
<第3形態>
図6に示した第3の電子放出素子2の製造方法を説明する。
【0088】
第3形態が第1形態と異なる点は、第3層10bがシリコンではなく、導電体からなる点である。第3形態は第1形態と類似しているので、工程毎の違いのみを述べる。
【0089】
(工程a)
この工程aは、第1形態の工程aとは異なり、積層体40aを、シリコン層10a、絶縁体層20a、導電体層30aによって構成する。先に述べたように、導電体はシリコンよりも抵抗率が低い(導電率が高い)材料である。導電体としては、各種金属、金属合金、ゲルマニウム、あるいは、金属窒化物、金属炭化物、金属硼化物、金属珪化物(シリサイド)、金属ゲルマニウム化合物(ジャーマナイド、ゲルマニド)等の化合物を用いることができる。図8(a)参照。
【0090】
(工程b)
この工程bは、第1形態の工程bと同様に行うことができる。ただし、積層構造40bは、シリコンからなる第1層10b、絶縁体からなる第2層20b、導電体からなる第3層30bで構成される。図8(b)参照。
【0091】
(工程c)
この工程cは、第1形態の工程cと同様に行うことができる。拡散種は金属材料であってもよいし、シリコンであってもよいが、金属材料であることが好ましい。図8(c)参照。
【0092】
(工程d)
この工程dにおいて、界面103cは第1形態と同様にシリサイド化されるが、界面203c、界面303cはシリコンが存在していないため、シリサイド化されない。すなわち、この工程dでは、部分52、部分53は実質的に変化しない。ただし、第3層30bの材料によっては、部分53と第3層30bが化学反応を生じる場合もある。当該化学反応によって生じた部分が導電体からなる場合には、残しておいてもよいし除去してもよいが、絶縁体からなる場合には除去することが望ましい。図8(d)参照。
【0093】
(工程e)
この工程eにおいて、第1エッチャントを用いて部分52を除去して側面203bを露出させると、シリサイド化されていない部分53も第1エッチャントによって除去される。その結果、第3層30bの側面303bや上面303bが露出する。図8(e)参照。
【0094】
(工程f)
この工程fにおいて、第2層20bを後退させると、導電体からなる第3層30とシリサイド部との間に空隙Gが形成される。図8(f)参照。
【0095】
(工程g)
この工程gは、第1形態の工程gと同様に行うことができる。第1形態と同様に省略することもできる。図8(g)参照。
【0096】
<第4形態>
第4形態は、図9(a)に示す様に、第1形態または第3形態において、工程fの後に、シリサイド部12上に、低仕事関数膜70を形成する点が第1形態または第3形態と異なる。
【0097】
低仕事関数膜70としては、実用的には、仕事関数が5.0eV以下であればよい。特に、その仕事関数が第1層10を構成するシリコン部11より小さいことが好ましく、シリサイド部12よりも仕事関数が低いことがより好ましい。
【0098】
低仕事関数材料としては、金属や金属化合物が挙げられる。例えば、Mo、W、Ti、Taなどの遷移金属、ZrO、ThO等の金属酸化物である。特に、希土類金属化合物が好ましい。例えば、Y、La(仕事関数は2.5eV程度)、CeO(3.0eV程度)、Pr(2.6eV程度)等の希土類金属酸化物、LaB(3.0eV程度)やCeB(2.6eV程度)等の希土類金属硼化物である。
【0099】
低仕事関数膜70の厚みは十分に薄くすることが好ましく、特に、シリサイド部12の厚み(側面103からの深さ)よりも薄いこと、及び/又は20nm未満であることが好ましい。
【0100】
低仕事関数膜70を形成する方法は特に限定されない。例えば、一般的な真空成膜法、例えばCVD法、電子ビーム蒸着法あるいはスパッタ法で形成される。CVD法として、表面伝導型電子放出素子の製造方法として広く知られている、カーボンガスを用いた活性化が挙げられる。また、斜方蒸着法や、コリメーションスパッタ法等も好ましく用いることができる。
【0101】
本発明によれば、ギャップ近傍の電位規定や電子供給は、シリサイド部12によって行うことができる。そして、導電体間(シリサイド部12と第3層30)のギャップGは、第2層20の厚みT2によって高精度に制御することができる。図9(b)には比較のために、第1層110、第2層120がともに絶縁体からなり、第3層130が導電体からなる形態を示した。第1層110の側面に導電体膜140と低仕事関数膜150が堆積されている。図9(b)のような形態では、側面上の電流経路の抵抗を低くする必要がある。特に、化学的に安定な低仕事関数材料である希土類金属酸化物は導電率が低いという問題がある。そのために、低仕事関数膜150を形成する前に厚い導電体膜140を形成する必要がある。あるいは、導電体膜140を形成しない場合には、低仕事関数膜150の厚みを厚くする必要がある。このような、厚い導電体膜140や厚い低仕事関数膜150を堆積によって形成することは、間隙GとT2との差を大きくする要因である。このことは、電子放出素子の製造ばらつきにつながる。また、堆積で形成した膜の厚さを厚くすると膜応力が大きくなって剥がれ易くなる場合もある。これに対して、本発明のようにシリサイド化を用いると、十分に薄い低仕事関数膜を用いることができるため、間隙GとT2との一致性を高めることが可能になる。また、機械的に強固な構造も可能となる。
【0102】
したがって、優れた電子放出特性を得ることができる。
【0103】
<実施例1>
図3を用いて、第1形態の製造方法を説明する。
【0104】
(工程a)
基板1として、プラズマディスプレイ用に開発された低ナトリウムガラスであるPD200(旭硝子社製)を用意した。基板1上に、シリコン層10aとして、厚みが500nmの非晶質シリコン膜をスパッタ法にて成膜した。シリコン層10a上に、絶縁体層20aとして、厚みが10nmの窒化シリコン膜をスパッタ法にて成膜した。絶縁体層20a上に、非絶縁体層30aとして、厚みが30nmの非晶質シリコン膜を成膜した。このようにして、図3(a)に示した積層体40aを形成した。
【0105】
(工程b)
フォトリソグラフィー技術によりシリコン層30a上に領域(ii)、(iii)をマスクするレジストパターンを形成した後、RIEにより領域(i)に対応する部分を除去した。レジストパターンを除去した後に、再度フォトリソグラフィー技術によりシリコン層30a上に領域(i)、(ii)をマスクするレジストパターンを形成した。そして、RIEにより領域(iii)に対応する部分を、シリコン層30a、絶縁体層20a、シリコン層10aの順に連続的に除去した。RIEの反応ガスとしては、CFを用いた。このとき、シリコン層10aの延長部14bが残るようにエッチング時間を調整した。レジストパターンを除去して、図3(b)に示した積層構造40bを形成した。積層構造40bにおいて、第1層10b、第2層20b、第3層30bの各側面は互いに連続しており、連続面403bは基板1の主面に対して80°の角度(θ)で傾斜していた。
【0106】
(工程c)
フォトリソグラフィー技術により積層構造40b上に、Y方向に100μm幅の開口を有するレジストパターンを形成した。レジストパターン上及び積層構造40b上に金属膜50として、厚さが10nmのニッケル膜をスパッタ法に成膜した。その後、レジストパターンを除去して、余分な金属材料をリフトオフした。このようにして、図3(c)に示した構造体60を形成した。
【0107】
(工程d)
加熱炉に構造体60を入れて、炉内をNガス雰囲気にしたうえで、炉内温度を400℃まで上昇させて5分間維持した後、自然冷却した。これにより、第1層10bと金属膜50との界面103c、第3層30bと金属膜50との界面303cにニッケルシリサイドが形成された。このようにして、図3(d)に示した、シリサイド部12、32を有する構造が得られた。
【0108】
(工程e)
工程dでシリサイド化しなかった第2層20b上のニッケルを、SPMを用いてエッチング除去し、第2層20bの側面203bを露出させた。この時、工程dで形成されたシリサイド部12、32はほとんどエッチングされなかった。
【0109】
(工程f)
次に熱リン酸を用いて、第2層20bの側面203bが50nmだけ後退するように、第2層20bの一部を除去した。この時、工程dで形成されたシリサイド部12、32はほとんどエッチングされなかった。
【0110】
(工程g)
最後に、低電位電極15、高電位電極35として、厚みが500nmの銅電極膜をスパッタ法にて成膜した。低電位電極15は、延長部14の端部を覆うように形成した。
【0111】
以上の方法で、複数の電子放出素子を同時に基板1上に作製し、図2に示した構成で電子放出素子の特性を評価した。
【0112】
低電位電極15にカソード電位Vcとして0Vを付与し、高電位電極35におゲート電位Vgとして+50Vを付与して、電子放出素子2に50Vの駆動電圧Vdを印加した。また、アノード電位Vaは+11.8kVとした。電子放出特性を評価後に、各電子放出素子に対してTEMにより図3(g)における空隙Gの大きさを測定した。
【0113】
このとき第2層20に用いた窒化シリコンの厚みは、標準偏差をσとしたとき3σで平均値に対して3σ/平均値=5%の厚みばらつきを持っていた。
【0114】
電子放出特性の評価結果を表2に示す。表2は複数の電子放出素子の空隙Gの大きさ,素子電流If及び電子放出電流Ieの、平均値および電子放出素子間ばらつきを示している。素子間ばらつきとしては、標準偏差をσとしたときの3σと、3σ/平均値の値を示した。表2に示すように、空隙Gの大きさは平均値10.0nmに対して3σ/平均値=5%、素子電流Ifは平均値62uAに対して3σ/平均値=72%、電子放出電流Ieは平均値8uAに対して3σ/平均値=58%であった。
【0115】
【表2】

【0116】
<比較例>
比較例として、図9(b)を用いて説明した、堆積により電流経路を形成した例を説明する。なお、図9(b)で説明した低仕事関数膜150の成膜は省略した。
【0117】
まず、基板1上に、厚みが500nmの窒化シリコン膜、厚みが20nmの酸化シリコン膜、厚みが30nmの窒化タンタル膜を形成した。そして、実施例1の工程bと同様にして、窒化タンタル膜、酸化シリコン膜、窒化シリコン膜に対して順次エッチングを行い、各層の側面を露出させた。
【0118】
次いで、BHFを用いて深さ約70nmになるようにエッチング手法を用いて、酸化シリコン層をエッチングして酸化シリコン層の側面を後退させて、窒化シリコン層110、酸化シリコン層120、窒化タンタル層130で構成される凹部を形成した。
【0119】
そして、厚みが19nmのモリブデン膜140を表面に付着させた。モリブデン膜140には凹部に対応する領域に空隙が形成されていた。
【0120】
以上の方法により複数の電子放出素子を作成し、実施例1同様の方法で電子放出素子の特性を評価をした。このとき酸化シリコン層の厚みは、標準偏差をσとしたとき3σで平均値に対して3σ/平均値=5%の厚み分布を持っていた。モリブデン(Mo)の厚みは、平均値に対して3σ/平均値=5%の厚み分布を持っていた。
【0121】
電子放出特性の評価結果を表3に示す。表3は複数の電子放出素子の空隙Gの大きさ,素子電流If及び電子放出電流Ieの、平均値および電子放出素子間ばらつきを示している。素子間ばらつきとしては、標準偏差をσとしたときの3σと、3σ/平均値の値を示した。表3に示すように、空隙Gの大きさは平均値9.8nmに対して3σ/平均値=8%、素子電流Ifは平均値8uAに対して3σ/平均値=88%、電子放出電流Ieは平均値8uAに対して3σ/平均値=58%であった。実施例1と比較して空隙Gの大きさ、素子電流のIf、電子放出電流Ie共に素子間でのばらつきが大きかった。
【0122】
以下に、電子放出特性の評価結果を表3に示す。表2は複数作成した電子放出素子の空隙10の大きさd,素子電流If及び電子放出電流Ieの平均値、素子間ばらつきを示している。素子間ばらつきとしては、標準偏差をσとしたときの3σと、3σ/平均値の値を示した。表2に示すように、空隙10の大きさdは平均値9.8nmに対して3σ/平均値=8%、素子電流Ifは平均値64uAに対して3σ/平均値=93%、電子放出電流Ieは平均値8uAに対して3σ/平均値=88%であった。実施例1と比較して空隙10の大きさd、素子電流のIf、放出電流Ie共に素子間でのばらつきが大きかった。
【0123】
【表3】

【0124】
<実施例2>
第3形態を用いた例を説明する。基本的な作製方法は、非絶縁体層30aとして、厚みが30nmのPtを用い点以外は実施例1と同様である。工程bのRIEにおける反応ガスとしては、Cl系とCF系の混合ガスを用いた。
【0125】
こうして得られた電子源を用いて実施例1同様の方法で評価したところ、空隙Gの素子間ばらつき及び素子電流If、放出電流Ieの素子間ばらつきは、ほぼ同等の結果が得られた。
【0126】
<実施例3>(マトリクス基板)
本実施例では、上述した本発明の実施例1で作成した電子放出素子と同様の製造方法によって形成した電子放出素子2を基板1上にマトリクス状に配列して電子源5を形成し、この電子源5を用いて図2(c)に示した表示装置6を作成した。以下に本実施例で作製した表示装置の製造工程を説明する。
【0127】
実施例1で作製した電子源5に対して、基板1上に、銀を主成分とする列配線63を高電位電極35に接続するように配置した。この列配線63は変調信号が印加される配線として機能する。次に、次の工程で形成する行配線62と前述の列配線63を絶縁するために、酸化シリコンからなる層間絶縁膜を配置した。次に、銀を主成分とする行配線62を、先に形成した層間絶縁膜を介して、列配線63と交差するように形成した。この行配線62は走査信号が印加される配線として機能する。このようにして多数の電子放出素子2がマトリクス配線された電子源5を作製した。
【0128】
次いで、図7に示したように、上記基板1の2mm上方に、ガラス基板64の内面に蛍光体膜65とアノードとしてのメタルバック66とを積層したフェースプレート67を公知の手法で作製した。
【0129】
次に、リアプレート69を基板1の補強部材として、基板1に貼り付け、フェースプレート67と、リアプレート69とを支持枠68を間に挟んで配置した。
【0130】
フェースプレート67と支持枠68との接合部、およびリアプレート69と支持枠68との接合部を、低融点金属であるインジウム(In)を加熱し冷却することによって封着した。また、この封着工程は、真空チャンバー中で行ったため、排気管を用いずに、封着と封止を同時に行った。
【0131】
上述の実施例3によって表示装置6を作製し、動作させたところ、良好な画像を長期にわたって安定に表示することができた。
【符号の説明】
【0132】
10a シリコン層
10b 第1層
11 シリコン部
12 シリサイド部
13 積層部
14 延長部
15 低電位電極
20a 絶縁体層
20b 第2層
30a 非絶縁体層
30b 第3層
31 シリコン部
32 シリサイド部
35 高電位電極
40a 積層体
40b 積層構造
403(b、c) 連続面
50 金属膜
60 構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンからなる第1層、絶縁体からなる第2層、及び、非絶縁体からなる第3層がこの順で積層され、前記第1乃至3層の各々の側面を含む連続面を有する積層構造と、前記連続面を覆うように設けられて前記第1乃至3層と界面を成す、シリサイド化し得る金属材料からなる金属膜と、を備える構造体を加熱することによって、前記第1層と前記金属膜との界面をシリサイド化する第1工程と、
前記金属材料のシリサイドに対するエッチングレートよりも前記金属材料に対するエッチングレートが高いエッチャントを用いて、前記第2層の前記側面が露出するように、前記金属膜の一部を除去する第2工程と、
を有することを特徴とする電子放出素子の製造方法。
【請求項2】
シリコン層上に絶縁体層を形成した後に、前記絶縁体層上に非絶縁体層を形成する工程を、前記第1工程の前に有することを特徴とする請求項1に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項3】
シリコン層上に絶縁体層を形成した後に、前記絶縁体層上に非絶縁体層を形成して、積層体を形成する工程と、
前記積層体を加工して、前記積層構造を形成する工程と、
前記積層構造上に前記金属膜を成膜して、前記構造体を形成する工程と、を前記第1工程の前に有することを特徴とする請求項1に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項4】
前記金属材料のシリサイドに対するエッチングレートよりも前記絶縁体に対するエッチングレートが高いエッチャントを用いて、前記第2層の側面が前記第1層と前記金属膜との前記界面の位置及び前記第3層と前記金属膜との前記界面の位置よりも後退するように、前記第2層の一部を除去する第3工程を、前記第2工程の後に有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項5】
前記第1工程で前記第1層と前記金属膜との界面に形成されたシリサイド部の前記第3層側の端部を、仕事関数が5.0eV以下の材料からなる膜で覆う第4工程を、前記第3工程の後に有することを特徴とする請求項4に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項6】
前記非絶縁体はシリコンであって、前記第1工程において、前記第3層と前記金属膜との界面をシリサイド化することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項7】
前記連続面は、前記第1層の前記側面と前記第2層の側面とが連続し、前記第2層の前記側面と前記第3層の前記側面とが連続した面であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項8】
前記シリサイド化における拡散種は、前記金属材料であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項9】
前記第2層の厚みは、前記第1層及び前記第3層の厚みよりも薄いことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項10】
複数の電子放出素子を備えた電子源の製造方法であって、
前記複数の電子放出素子を請求項1乃至9のいずれか1項に記載の電子放出素子の製造方法によって同時に製造することを特徴とする電子源の製造方法。
【請求項11】
電子放出素子と、前記電子放出素子から放出された電子を加速する電位が付与される部材とを備えた電子線装置の製造方法であって、前記電子放出素子を請求項1乃至9のいずれか1項に記載の電子放出素子の製造方法によって製造することを特徴とする電子線装置の製造方法。
【請求項12】
電子放出素子と、前記電子放出素子に対向し、前記電子放出素子から放出された電子の照射によって発光する発光部材とを備える発光装置の製造方法であって、前記電子放出素子を請求項1乃至9のいずれか1項に記載の電子放出素子の製造方法によって製造することを特徴とする発光装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−119278(P2012−119278A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270772(P2010−270772)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】