説明

電子放出素子の製造方法及び表示装置の製造方法

【課題】エミッタ層の表面で従来よりも多くのエミッタ材料を垂直に配向させて電子放出特性を向上させる。
【解決手段】電子放出素子の製造工程として、支持基板上にカソード電極を形成する工程と、カーボンナノチューブ11とバインダ材料とを含むエミッタ層10をカソード電極上に形成する工程と、支持基板をシュウ酸水溶液に浸漬させることにより、エミッタ層10の上層部でバインダ材料を多孔質化する工程と、エミッタ層10の上層側で粘着テープ23の貼り付け及び引き剥がしによりバインダ材料を剥離することにより、カーボンナノチューブ11を支持基板に対してほぼ垂直に配向させる工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子を放出する電子放出素子の製造方法及び表示装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
真空中におかれた金属等の導体あるいは半導体の表面に、ある閾値以上の電界を与えると、トンネル効果によって電子が障壁を通過し、常温時においても真空中に電子が放出される。この現象は電界放出(Field Emission)と呼ばれ、これによって電子を放出する素子は電界放出型素子(Field Emission Device)と呼ばれている。近年では、電界放出型の電子放出素子をエミッタとして用いたFED(Field Emission Display)が注目されている。FEDは、多数の電子放出素子がカソード基板上に半導体加工技術等を駆使して形成された表示パネルを備えるフラットディスプレイ装置(平面型の表示装置)である。このFEDでは、電気的に選択(アドレッシング)された電子放出素子から電界の集中によって電子を放出させるとともに、この電子をアノード基板側の蛍光体に衝突させて、蛍光体の励起・発光により画像を表示している。
【0003】
近年、電子放出素子のエミッタ材料としてカーボンナノチューブが注目されている。カーボンナノチューブは、高いアスペクト比を有し、先端の曲率半径も非常に小さいため、高い発光効率を実現するエミッタ材料として有望視されている。また、カーボンナノチューブは非常に細かい微粒子(粉末)であるため、カーボンナノチューブを用いてエミッタを形成する場合は、カーボンナノチューブを基板に固着する必要がある。一般に、カーボンナノチューブの固着には、銀ペーストやITO(Indium Tin Oxide)溶液などのように導電性の高いバインダ材料が用いられる。具体的には、バインダ材料にカーボンナノチューブを混入してペースト状(又はスラリー状、あるいはインク状)とし、これを印刷法、スプレー法、ダイコーター法等の手法で基板の表面に塗布することにより、バインダ材料の接着性を利用して基板上にカーボンナノチューブを固着する。
【0004】
このような方法でカーボンナノチューブを基板上に固着した場合、カーボンナノチューブ自体はバインダ材料の中に埋め込まれたかたちとなるため、そのままの状態では十分な電子放出特性を得ることができない。また、高い電子放出特性を実現するには、より多くのカーボンナノチューブを露出させ、かつカーボンナノチューブを基板に対して垂直に配向させる必要がある。そこで従来においては、カーボンナノチューブを含む層の表面に粘着テープを貼り付け、その後、粘着テープを剥離することによりカーボンナノチューブを露出させる方法や、カーボンナノチューブを含む層の表面をエッチングすることにより、カーボンナノチューブを露出させる方法が提案されている(例えば、特許文献1及び特許文献2を参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2001−35360号公報(段落0028)
【特許文献2】特開2001−35361号公報(段落0018,0019)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら従来においては、仮に粘着テープの貼り付け及び引き剥がしを行っても、少数のカーボンナノチューブしか垂直に配向されないという不具合があった。そこで本発明者らは以前、カーボンナノチューブとバインダ材料とを含むエミッタ層を基板上に形成した後に、エミッタ層の上層部(表層部)のバインダ材料を除去することにより、エミッタ層の表面にカーボンナノチューブを露出させ、さらに、このカーボンナノチューブを粘着テープの貼り付け及び引き剥がし等の手法で垂直に配向させる方法を提案した。この方法では、エミッタ層の表面にカーボンナノチューブを露出させた状態で粘着テープを貼り付けるため、原理的には多数をカーボンナノチューブを粘着テープの引き剥がしによって垂直に配向させることができるものの、バインダ材料とカーボンナノチューブの密着力に対して、粘着テープの粘着力を適切に設定することが難しかった。すなわち、粘着テープの粘着力が強いとカーボンナノチューブが粘着テープの引き剥がし時に引きちぎられてしまい、粘着テープの粘着力が弱いとカーボンナノチューブがバインダ材料に密着したまま横向きの状態になってしまう。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、エミッタ材料にカーボンナノチューブ等を用いる場合に、エミッタ層の表面で従来よりも多くのエミッタ材料を垂直に配向させることができる電子放出素子の製造方法及び表示装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る電子放出素子の製造方法は、支持基板上にカソード電極を形成する工程と、繊維状のエミッタ材料とバインダ材料とを含むエミッタ層をカソード電極上に形成する工程と、エミッタ層の少なくとも上層部でバインダ材料を多孔質化する工程と、エミッタ層の上層側でバインダ材料を剥離することにより、エミッタ材料を支持基板に対してほぼ垂直に配向させる工程とを有するものである。また、本発明に係る表示装置の製造方法は、上記各工程を有する電子放出素子の製造工程を含むものである。
【0009】
本発明に係る電子放出素子の製造方法及び表示装置の製造方法においては、支持基板上にカソード基板を形成した後、カソード基板上に繊維状のエミッタ材料とバインダ材料とを含むエミッタ層を形成し、その後、エミッタ層の少なくとも上層部を多孔質化した後、エミッタ層の上層側でバインダ材料を剥離することにより、バインダ材料を剥離した後のエミッタ層の表層部に多数のエミッタ材料を露出させ、かつ各々のエミッタ材料を垂直に配向させることが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電子放出素子を製造するにあたり、エミッタ層の表面で従来よりも多くのエミッタ材料を垂直に配向させることができる。そのため、電子放出特性に優れた電子放出素子を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の具体的な実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0012】
図1は本発明が適用される表示装置のパネル構造の一例を示す断面図であり、図2はその分解斜視図である。図1及び図2においては、カソードパネル(カソード基板)1とアノードパネル(アノード基板)2とを所定の間隙を介して対向状態に配置するとともに、それらのパネル1,2を枠体3によって一体的に組み付けることにより、画像表示のための一つのパネル構体(表示パネル)が構成されている。
【0013】
カソードパネル1上には複数の電子放出素子が形成されている。これら複数の電子放出素子は、カソードパネル1の有効領域(実際に表示部分として機能する領域)に2次元マトリックス状に多数形成されている。各々の電子放出素子は、カソードパネル1のベースとなる絶縁性の支持基板(例えば、ガラス基板)4と、この支持基板4上に積層状態で順に形成されたカソード電極5、絶縁層6及びゲート電極7と、ゲート電極7及び絶縁層6に形成されたゲートホール8と、このゲートホール8の底部に形成された電子放出部9とによって構成されている。
【0014】
カソード電極5は、複数のカソードラインを形成するようにストライプ状に形成されている。ゲート電極7は、各々のカソードラインと交差(直交)する複数のゲートラインを形成するようにストライプ状に形成されている。ゲートホール8は、ゲート電極7に形成された第1の開口部8Aと、この第1の開口部8Aに連通する状態で絶縁層6に形成された第2の開口部8Bとから構成されている。電子放出部9は、主として繊維状のエミッタ材料とバインダ材料(マトリックス)とを含むエミッタ層10によって形成されている。エミッタ層10の表面には繊維状のエミッタ材料となる複数のカーボンナノチューブ11が配置されている。各々のカーボンナノチューブ11は、一端側がエミッタ層10の表面から垂直に突出し、他端側はエミッタ層10のバインダ材料中に埋め込まれた状態となっている。
【0015】
一方、アノードパネル2は、ベースとなる透明基板12と、この透明基板12上に形成された蛍光体層13及びブラックマトリックス14と、これら蛍光体層13及びブラックマトリックス14を覆う状態で透明基板12上に形成されたアノード電極15とを備えて構成されている。蛍光体層13は、赤色発光用の蛍光体層13Rと、緑色発光用の蛍光体層13Gと、青色発光用の蛍光体層13Bとから構成されている。ブラックマトリックス14は、各色発光用の蛍光体層13R,13G,13Bの間に形成されている。アノード電極15は、カソードパネル1の電子放出素子と対向するように、アノードパネル2の有効領域の全域に積層状態で形成されている。
【0016】
これらのカソードパネル1とアノードパネル2とは、それぞれの外周部(周縁部)で枠体3を介して接合されている。また、カソードパネル1の無効領域(有効領域の外側の領域で、実際に表示部分として機能しない領域)には真空排気用の貫通孔16が設けられている。貫通孔16には、真空排気後に封じ切られるチップ管17が接続されている。ただし、図1は表示装置の組み立て完了状態を示しているため、チップ管17は既に封じ切られた状態となっている。また、図1及び図2においては、各々のパネル1,2間のギャップ部分に介装される耐圧用の支持体(スペーサ)の表示を省略している。
【0017】
上記構成のパネル構造を有する表示装置においては、カソード電極5に相対的な負電圧がカソード電極制御回路18から印加され、ゲート電極7には相対的な正電圧がゲート電極制御回路19から印加され、アノード電極15にはゲート電極7よりも更に高い正電圧がアノード電極制御回路20から印加される。かかる表示装置において、実際に画像の表示を行う場合は、例えば、カソード電極5にカソード電極制御回路18から走査信号を入力し、ゲート電極7にゲート電極制御回路19からビデオ信号を入力する。あるいは又、カソード電極5にカソード電極制御回路18からビデオ信号を入力し、ゲート電極7にゲート電極制御回路19から走査信号を入力する。
【0018】
これにより、カソード電極5とゲート電極7との間に電圧が印加され、これによって電子放出部9の先鋭部(カーボンナノチューブ11の先端部)に電界が集中することにより、量子トンネル効果によって電子がエネルギー障壁を突き抜けて電子放出部9から真空中へと放出される。こうして放出された電子はアノード電極15に引き付けられてアノードパネル2側に移動し、透明基板12上の蛍光体層13(13R,13G,13B)に衝突する。その結果、蛍光体層13が電子の衝突により励起されて発光するため、この発光位置を画素単位で制御することにより、表示パネル上に所望の画像を表示することができる。
【0019】
続いて、本発明の実施形態に係る電子放出素子の製造方法の具体例について、図3〜図5を用いて説明する。先ず、図3(A)に示すように、カソードパネル1のベースとなる支持基板4上にカソード電極形成用の導電材料を用いてカソード電極(導電層)5を形成する。このカソード電極5は、例えばスパッタリング法により形成される厚さ約0.2μmのクロム層によって形成される。
【0020】
次に、支持基板4の全面に例えばスパッタリング法によりSiCN膜を成膜することにより、図3(B)に示すように、カソード電極5を覆う状態でSiCN膜からなる厚さ約0.2μmの抵抗層21を形成する。この抵抗層21は、エミッタへの放電電流が大きくなった場合に、抵抗による電圧降下の増大によってエミッタに作用する実効電圧を減少させ、逆にエミッタへの放電電流が小さくなった場合はエミッタに作用する実効電圧を増加させることにより、放電電流を安定化させる役目を果たすものである。抵抗層21は必要に応じて形成される。
【0021】
次に、抵抗層21の上(抵抗層21を形成しない場合はカソード電極5の上)に、エミッタ材料となるカーボンナノチューブ11を配置するための処理を行う。具体的には、バインダ材料として熱分解性有機金属である有機スズ及び有機インジウムを用いるとともに、エミッタ材料としてカーボンナノチューブの粉末を用い、これらを以下の条件で揮発性溶液、例えば酢酸ブチル中に分散させた混合溶液を得る。その際、カーボンナノチューブの分散性を向上させるために超音波処理を行ってもよい。希釈剤は水系でも非水系でもかまわないが、どちらを使用するかによって分散剤も変わることを前提とする。また、他の添加剤を混ぜることも可能である。カーボンナノチューブは、例えば平均直径1nm、平均長さ1μmといった非常に細長いチューブ構造(繊維状)を有するものを用いる。
【0022】
(混合溶液の生成条件)
有機スズ及び有機インジウム:10〜50質量%
酢酸ブチル:30〜80質量%
分散剤(例えば、ドデチル硫酸ナトリウム):0.1〜5質量%
カーボンナノチューブ:0.001〜20質量%
【0023】
なお、エミッタ材料としては、カーボンナノチューブ以外にも、カーボンナノファイバを用いることが可能である。また、バインダ材料としては、上述した熱分解性有機金属以外にも、例えば塩化スズ、塩化インジウムなどの金属塩を用いることが可能である。
【0024】
続いて、上記の混合溶液をスプレー法等により支持基板4上に塗布することにより、図3(C)に示すように、カーボンナノチューブとバインダ材料とを含むエミッタ層(複合体層)10を形成する。このエミッタ層10は印刷法を用いて形成することも可能である。
【0025】
その後、エミッタ層10を以下の条件で焼成する。これにより、有機成分の蒸発によってバインダ材料中(マトリックス中)にカーボンナノチューブが埋め込まれた状態の固体化したエミッタ層10が得られる。
【0026】
(焼成条件)
雰囲気:窒素(N2)ガス雰囲気中
焼成温度:500℃
焼成時間:30分
【0027】
次いで、エミッタ層10をストライプ状に加工する。具体的には、レジスト材料(フォトレジスト)をスピンコート法によって塗布することにより、エミッタ層10を覆うレジスト膜を形成するとともに、このレジスト膜をフォトリソグラフィ技術によってパターニングすることにより、エッチングマスクとなるレジストパターンをエミッタ層10上に形成する。次に、レジストパターンで被覆されたエミッタ層10を除く部分を、例えば以下の条件に基づくウェットエッチングで除去することにより、図3(D)に示すように、支持基板4上でエミッタ層10をストライプ状に形成する。
【0028】
(ウェットエッチング条件)
エッチング液:塩酸(HCL)
エッチング時間:10秒〜30分
エッチング温度:10〜60℃
【0029】
このとき、所望の領域以外にカーボンナノチューブが存在する場合は、この不要なカーボンナノチューブを、酸素プラズマ又は酸化溶液を使用して以下の条件でエッチングにより除去する。
【0030】
(酸素プラズマエッチングの条件)
装置:RIE(reactive ion etching)装置
導入ガス:酸素を含むガス
プラズマ励起パワー:500W
バイアスパワー:0〜150W(DCでもRFでもよいが、RFが好ましい)
エッチング時間:10秒以上
【0031】
(酸化溶液エッチングの条件)
溶液:KMnO4
エッチング温度:20〜80℃
エッチング時間:10秒〜20分
【0032】
続いて、周知のリソグラフィ技術及び反応性イオンエッチング法(RIE法)により、抵抗層21及びカソード電極5をパターニングすることにより、図3(E)に示すように、支持基板4上でカソード電極5をストライプ状に形成する。この時点で支持基板4上に複数本のカソードラインが形成される。
【0033】
次に、図4(A)に示すように、支持基板4上において、カソード電極5、抵抗層21及びエミッタ層10の積層部を覆うように絶縁層6を形成し、さらにその絶縁層6の上に、図4(B)に示すように、ゲート電極形成用の導電材料を用いてゲート電極(導電層)7を形成する。具体的には、TEOS(テトラエトキシシラン)を原料ガスとして使用するCVD法により、支持基板4の全面に例えばSiO2からなる厚さ約1μmの絶縁層6を形成し、次いで、絶縁層6の上にクロムからなるゲート電極7をスパッタリング法によって形成する。
【0034】
次に、ゲート電極7の上に図示しないエッチングマスクを形成し、このエッチングマスクを用いてゲート電極7の所定部位をエッチングすることにより、図4(C)に示すように、絶縁層6上でゲート電極7をストライプ状に形成するとともに、このゲート電極7を貫通する第1の開口部8Aを形成する。このとき、ストライプ状のゲート電極7は、カソード電極5とほぼ直角に交差(直交)する状態で形成される。これにより、支持基板4上に上記カソードラインに直交する複数本のゲートラインが形成される。
【0035】
次に、ゲート電極7の第1の開口部8Aを通して絶縁層6を例えばRIE法でエッチングすることにより、図5(A)に示すように、エミッタ層10の表面を露出する状態で第2の開口部8Bを形成する。これにより、第1,第2の開口部8A,8Bからなるゲートホール8が得られる。このゲートホール8は、例えば直径20μmの円形に形成される。また、ゲートホール8は、1画素当たり複数個(例えば、数十個)形成される。
【0036】
次に、ゲートホール8の底部に露出するエミッタ層10の上層部でバインダ材料を多孔質化する。具体的には、ゲートホール形成済みの支持基板4全体を酸性の液体、例えばシュウ酸水溶液に浸漬させることにより、エミッタ層10上層部のバインダ材料を多孔質化する。その際、図5(B)に示すように、シュウ酸水溶液中で支持基板4(カソード電極5)と対向する位置に対向電極22を設置し、この対向電極22側の電位をマイナス(−)、支持基板4上のカソード電極5側の電位をプラス(+)として、両電極間に電圧を印加してもよい。これにより、エミッタ層10の上層部でバインダ材料がシュウ酸により徐々に浸食される。そのため、図6(A)に示すように、エミッタ層10の上層部に多数の小孔が形成され、これによって多孔質化した構造が得られる。特に、酸性の液体として、シュウ酸水溶液を用いた場合は、バインダ材料を多孔質化するうえで適度な浸食性が得られるため、好ましいものとなる。また、上述のように電圧を印加すると、エミッタ層10の厚み方向で、表面に近い表層部とそこから深く入り込んだ深層部までバインダ材料を均一に多孔質化することができるため、より一層好ましいものとなる。。以下に具体的な処理条件の一例を示す。
【0037】
シュウ酸濃度:0.001〜10%
印加電圧:0.0001〜5V
電流密度:0.001〜30mA/mm2
処理時間:1〜600秒
処理温度:20〜80度
【0038】
続いて、カーボンナノチューブ11の配向処理を行う。具体的には、例えば図6(B)に示すように、支持基板4上でゲート電極7の上から粘着テープ23を貼り付けてその粘着面をエミッタ層10の表面に付着させた後、当該粘着テープ23を上方に引き剥がす。このとき、エミッタ層10の上層部、すなわち先述の処理によって多孔質化した部分は、多孔質化されていない部分に比較して構造的に脆弱になっている。そのため、粘着テープ23を引き剥がしたときは、エミッタ層10の上層側において、多孔質部分と非多孔質部分の境界又はその近傍でバインダ材料が剥離する。したがって、図6(C)に示すように、多孔質化したバインダ材料の部分が粘着テープ23と一緒に引き剥がされる。
【0039】
また、エミッタ層10の上層部では、バインダ材料の多孔質化により、バインダ材料とカーボンナノチューブとの密着力が弱められている。そのため、粘着テープ23を引き剥がしたときには、エミッタ層10の上層部(バインダ材料を多孔質化した部分)に一部を埋め込まれていたカーボンナノチューブ11が、多孔質化したバインダ材料とともに粘着テープ23で引き上げられるものの、その引き上げによって作用する引っ張り力によって多孔質のバインダ材料から容易に分離する。よって、粘着テープ23を引き剥がすときに、カーボンナノチューブ11が引きちぎられることが少なくなる。また、粘着テープ23に直接触れないカーボンナノチューブ11も多孔質のバインダ材料と一緒に引き上げられる。したがって、粘着テープ23の引き剥がしによってバインダ材料を剥離した後、エミッタ層10の表層部に多数のカーボンナノチューブ11を露出させることができるとともに、各々のカーボンナノチューブ11が基板面に対してほぼ垂直に起立させることができる。したがって、粘着テープ23の貼り付け及び引き剥がしによって多数のカーボンナノチューブ11を垂直に配向させることができる。
【0040】
以上の工程にしたがって電子放出素子を製造することにより、エミッタ層10の表面で従来よりも多くのカーボンナノチューブ11を垂直に配向させることができる。これにより、エミッタ層10の表面で電子放出に寄与するカーボンナノチューブ11の本数を多く確保することができる。そのため、電子放出特性に優れた電子放出素子を提供することが可能となる。
【0041】
なお、上記実施形態においては、粘着テープの貼り付け及び引き剥がしによってバインダ材料を剥離することにより、カーボンナノチューブ11を垂直に配向させるものとしたが、本発明はこれに限らず、例えば、熱硬化型や紫外線硬化型の樹脂等からなるフィルム状、ゲル状又は液状の粘着材をエミッタ層10の表面に付着させた後、この粘着材を紫外線照射処理や加熱処理によって体積収縮させることにより、多孔質化したバインダ材料を剥離してカーボンナノチューブ11を垂直に配向させることも可能である。
【0042】
また、上記実施形態においては、エミッタ層10を酸性の液体に浸漬させることによりエミッタ層10の上層部でバインダ材料を多孔質化するものとしたが、これ以外にも、例えば下記の図7〜図9に示す製造フローを採用してバインダ材料を多孔質化することも可能である。
【0043】
まず、上記実施形態と同様の手法で、図7(A)に示すように、支持基板4上にカソード電極(導電層)5を形成した後、図7(B)に示すように、カソード電極5を覆う状態で抵抗層21を形成する。次いで、周知のリソグラフィ技術及び反応性イオンエッチング法(RIE法)により、図7(C)に示すように、抵抗層21及びカソード電極5をストライプ状にパターニングする。
【0044】
次に、図7(D)に示すように、支持基板4上において、ストライプ状にパターニングした抵抗層21及びエミッタ層10の積層部を覆うように絶縁層6を形成し、さらにその絶縁層6の上に、図8(A)に示すように、ゲート電極7を形成する。次に、ゲート電極7の上に図示しないエッチングマスクを形成し、このエッチングマスクを用いてゲート電極7の所定部位をエッチングすることにより、図8(B)に示すように、絶縁層6上でゲート電極7をストライプ状に形成するとともに、このゲート電極7を貫通する第1の開口部8Aを形成する。
【0045】
次に、ゲート電極7の第1の開口部8Aを通して絶縁層6をエッチングすることにより、図8(C)に示すように、抵抗層21の表面を露出する状態で第2の開口部8Bを形成する。これにより、第1,第2の開口部8A,8Bからなるゲートホール8が得られる。
【0046】
次に、図9(A)に示すように、ゲートホール8底部の中央部分を除く、他の領域を全て覆う状態でレジストパターン24を形成する。このレジストパターン24は、基板全面にフォトレジストを塗布した後、露光、現像によって不要なレジスト部分を除去することにより形成される。
【0047】
次に、上記実施形態と同様に酢酸ブチル中にドデチル酸ナトリウムでカーボンナノチューブを分散させた混合溶液を基板全面にスプレー法等によって塗布することにより、図9(B)に示すように、多数のカーボンナノチューブを含む塗布膜25を形成する。このとき、混合溶液に分散剤として用いるドデチル硫酸ナトリウムの質量比(混合溶液に占める分散剤の割合)を上記実施形態の場合よりも増やす。すなわち、上記実施形態の場合は、ドデチル硫酸ナトリウムの質量比を0.1〜5質量%としたが、これを例えば15質量%に増やす。
【0048】
次に、上記レジストパターン24をリフトオフ等で剥離することにより、図9(C)に示すように、ゲートホール8の底部に塗布膜25の一部をエミッタ層10として残す。
【0049】
次に、エミッタ層10を以下の条件で焼成する。このとき、ドデチル硫酸ナトリウムに含まれるアクリル基の増加に伴い、焼成時の熱処理でエミッタ層10内のバインダ材料が多孔質化する。そのため、その後の工程で、上記同様の配向処理を行うことにより、エミッタ層10の表面で多数のカーボンナノチューブ11を垂直に配向させることができる。
【0050】
(焼成条件)
雰囲気:窒素(N2)ガス雰囲気中
焼成温度:500℃
焼成時間:30分
【0051】
また、ドデチル硫酸ナトリウムの質量比を変えない場合は、エミッタ層10の焼成温度を通常の焼成温度(焼結温度)よりも低く設定する、いわゆる低温焼成法でエミッタ層10を焼成することによりバインダ材料を多孔質化することができる。具体的には、エミッタ層10を焼結(結晶化)するうえで必要とされる通常の焼成温度よりも低い温度で、エミッタ層10を焼成(低温焼成)する。例えば、エミッタ層10を焼き固めるために必要とされる通常の焼結温度が500℃であったとすれば、それよりも低い温度でエミッタ層10の焼成を行う。具体的な焼成条件を以下に示す。
【0052】
(焼成条件)
雰囲気:大気中
焼成温度:300〜400℃
焼成時間:10〜40分
【0053】
このように通常の焼成温度よりも低い温度でエミッタ層10を焼成することにより、ドデチル硫酸ナトリウムの質量比を増やさなくても、エミッタ層10内のバインダ材料を多孔質化することができる。そのため、その後の工程で、上記同様の配向処理を行うことにより、エミッタ層10の表面で多数のカーボンナノチューブ11を垂直に配向させることができる。
【0054】
なお、エミッタ層10の焼成温度を500℃に設定してもバインダ材料を多孔質化できる場合は、エミッタ層10の焼成工程として、焼成温度を第1の温度(例えば、300〜400℃)に設定した第1の焼成処理と、焼成温度を第1の温度よりも高い第2の温度(例えば、500℃)に設定した第2の焼成処理とを順に行うようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明が適用される表示装置のパネル構造の一例を示す断面図である。
【図2】本発明が適用される表示装置のパネル構造の一例を示す分解斜視図である。
【図3】本発明の実施形態に係る電子放出素子の製造方法の具体例を示す工程図(その1)である。
【図4】本発明の実施形態に係る電子放出素子の製造方法の具体例を示す工程図(その2)である。
【図5】本発明の実施形態に係る電子放出素子の製造方法の具体例を示す工程図(その3)である。
【図6】エミッタ層の状態の変化を説明する図である。
【図7】本発明の他の実施形態に係る電子放出素子の製造方法を示す工程図(その1)である。
【図8】本発明の他の実施形態に係る電子放出素子の製造方法を示す工程図(その2)である。
【図9】本発明の他の実施形態に係る電子放出素子の製造方法を示す工程図(その3)である。
【符号の説明】
【0056】
1…カソードパネル、2…アノードパネル、4…支持基板、5…カソード電極、6…絶縁層、7…ゲート電極、8…ゲートホール、9…電子放出部、10…エミッタ層、11…カーボンナノチューブ(エミッタ材料)、23…粘着テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板上にカソード電極を形成する工程と、
繊維状のエミッタ材料とバインダ材料とを含むエミッタ層を前記カソード電極上に形成する工程と、
前記エミッタ層の少なくとも上層部で前記バインダ材料を多孔質化する工程と、
前記エミッタ層の上層側で前記バインダ材料を剥離することにより、前記エミッタ材料を前記支持基板に対してほぼ垂直に配向させる工程と
を有することを特徴とする電子放出素子の製造方法。
【請求項2】
前記エミッタ層を酸性の液体に浸漬させることにより前記バインダ材料を多孔質化する
ことを特徴とする請求項1記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項3】
アクリル基を含む分散剤で前記エミッタ材料と前記バインダ材料とを分散させかつ前記分散剤を所定の割合で含む混合溶液を塗布することにより前記エミッタ層を形成した後、前記エミッタ層を焼成することにより前記バインダ材料を多孔質化する
ことを特徴とする請求項1記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項4】
前記エミッタ層を低温焼成法で焼成することにより前記バインダ材料を多孔質化する
ことを特徴とする請求項1記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項5】
前記エミッタ層に対する粘着テープの貼り付け及び引き剥がしによって前記バインダ材料を剥離する
ことを特徴とする請求項1記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項6】
前記エミッタ層の表面に粘着材を付着させた後、当該粘着材を体積収縮させることにより前記バインダ材料を剥離する
ことを特徴とする請求項1記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項7】
前記エミッタ材料にカーボンナノチューブを用いる
ことを特徴とする請求項1記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項8】
前記バインダ材料に熱分解性有機金属又は金属塩を用いる
ことを特徴とする請求項1記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項9】
前記エミッタ層を酸性の液体に浸漬させた状態で、前記支持基板上のカソード電極と前記支持基板に対向して配置された対向電極との間に電圧を印加する
ことを特徴とする請求項2記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項10】
前記酸性の液体にシュウ酸水溶液を用いる
ことを特徴とする請求項2記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項11】
支持基板上にカソード電極を形成する工程と、
繊維状のエミッタ材料とバインダ材料とを含むエミッタ層を前記カソード電極上に形成する工程と、
前記エミッタ層の少なくとも上層部で前記バインダ材料を多孔質化する工程と、
前記エミッタ層の上層側で前記バインダ材料を剥離することにより、前記エミッタ材料を前記支持基板に対してほぼ垂直に配向させる工程と
を有する電子放出素子の製造工程を含む
ことを特徴とする表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−12700(P2006−12700A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−190761(P2004−190761)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】