説明

電子放出素子の製造方法及び表示装置

【課題】より低温環境で、所望の構造を有する電子放出部を確実に構成可能な電子放出物質の製造方法および表示装置を提供する。
【解決手段】 導電性を有する触媒導電層12上に、カーボン材料を含み繊維状または管状を成すとともに側部にグラフェンシート22の端面22aが露出しているグラファイトナノチューブ21を形成することを特徴とする電子放出素子の製造方法であって、前記導電触媒層12を加熱し、減圧雰囲気下において、導電触媒層12の周囲に混合ガスを導入し、プラズマを発生させてCVDを行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子放出素子の製造方法及び表示装置に関し、特に製造工程のプロセスを低温化できるものに関する。
【背景技術】
【0002】
表示装置の一種として、電子放出素子を用いるフィールドエミッションディスプレイ(以下“FED”と称す)が知られている(例えば特許文献1参照)。この種の表示装置は、一定間隔をもって配置された電子放出素子と表示部とを備えている。電子放出素子は、例えばガラス基板上にカソード電極層が形成され、このカソード電極層上に電子放出物質を有する電子放出層及びゲート電極が形成されて構成されている。一方、表示部は、電子放出部に対抗して形成されたアノード電極層を備えている。減圧状態において、これらカソード電極層、ゲート電極層及びアノード電極層に所定の電圧をかけると、電子放出部から電子が放出され、この電子が表示部に衝突することにより表示部が発光する。電子放出部としてはグラファイトナノチューブ(GNT)、グラファイトナノファイバ(GNF)カーボンナノチューブ(CNT)等が用いられる。一般的に、GNTやGNFは、熱CVD法で製造され、その際の加熱温度は500℃以上とされている(例えば特許文献2参照)。また、CNTは、プラズマCVD法を用いて形成され、その際の加熱温度は600℃前後とされている。
【特許文献1】特開2004−186015号公報(図1)
【特許文献2】特開2001−288625号公報(図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
電子放出素子において、所望の構造を有する電子放出部を構成することが求められるが、上記方法では、所望の構造を得るために高温環境を要する。
【0004】
そこで、本発明は、より低温環境で、所望の構造を有する電子放出部を確実に構成可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、一態様として、導電性を有する触媒層上に、カーボン材料を含み繊維状または管状を成すとともに側部にグラフェンシートの端面が露出している電子放出部を形成することを特徴とする電子放出素子の製造方法であって、前記触媒層を加熱し、減圧雰囲気下において、前記触媒層の周囲に混合ガスを導入し、プラズマを発生させてCVDを行い、前記電子放出部を形成することを特徴とする電子放出素子の製造方法である。
【0006】
本発明は、他の一態様として、導電性を有する触媒層上に、カーボン材料を含み繊維状または管状を成す電子放出部を形成することを特徴とする電子放出素子の製造方法であって、前記触媒層を加熱し、減圧雰囲気下において、前記触媒層の周囲に混合ガスを導入し、プラズマを発生させてCVDを行うとともに、前記電子放出部を形成するに際して、前記触媒層の触媒の核の大きさまたは形状を制御することを特徴とする電子放出素子の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、より低温環境で、所望の構造を有する電子放出素子を確実に構成することが可能となる。また、本発明によれば、そのような電子放出素子を有する表示装置を構成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
[第1実施形態]
先ず、本発明の第1実施形態にかかる画像表示装置1、電子放出素子10等について、図1乃至図3を参照して説明する。図1は画像表示装置1全体の1画素に対応する部分を示す斜視図である。図2は図1の画像表示装置1のA部分を拡大して示す断面図である。図3は図2の電子放出部を示す断面図である。図1、図2及び図3中の矢印X、Y、Zは互いに直交する三方向を示している。なお、各図において説明のため、適宜、構成を拡大、縮小または省略して示している。
【0009】
図1に示されるように、表示装置の一例としての画像表示装置1は、電子放出素子10と、この電子放出素子10から放出される電子により発光する表示部30とを備えている。これら電子放出素子10と表示部30とは所定の間隙を確保した状態で、対向して接合される。
【0010】
図1及び図2に示される電子放出素子10は、基板11と、該基板11上に形成された複数の導電触媒層12と、これら基板11及び導電触媒層12上に形成された絶縁層13と、絶縁層13上に形成された複数のゲート電極14とを備えている。絶縁層13及びゲート電極14にはエミッタ孔15が形成され、このエミッタ孔15において導電触媒層12上に電子放出層の一例としてのカーボン層20が形成されている。
【0011】
基板11はガラスやシリコン等により、1mm程度の厚さに構成され、画像を表示するために必要な所定の面積を有している。ここでは、1画素に対応する基板11上に、例えば、3個の導電触媒層12が並列して形成されている。例えば、導電触媒層12は、ニッケル等の触媒金属から、200nm程度の厚さに構成され、前述のY方向に延びる矩形に形成されている。
【0012】
図1および図2に示すように、絶縁層13は、酸化シリコン(SiO)等で構成され、基板11及び導電触媒層12の上面に形成されている。また、3つのゲート電極14は、アルミニウム等の金属から、前述のX方向に延びる矩形状に形成され、それぞれ後述する三色の蛍光体33〜35と対応する位置に配置されている。これらゲート電極14は駆動回路に接続され、マトリクス制御される。
【0013】
図1に示すように、ゲート電極14と絶縁層13と導電触媒層12とが交差して重なっている部分には、円形のエミッタ孔15が複数個形成されている。ここでは、図2に示すように、エミッタ孔15は、エッチング加工等によりゲート電極14及び絶縁層13のみが除去されて形成される。
【0014】
図2及び図3に示すように、エミッタ孔15に露出した導電触媒層12上には電子放出層としてのカーボン層20が形成されている。
【0015】
カーボン層20は、互いに絡み合う多数の電子放出部としてのグラファイトナノチューブ21を備えている。図4に示すように、グラファイトナノチューブ21は、カーボン材料を主成分とし、外側面にグラフェンシート22の端面22aが露出する筒状の物質である。このグラファイトナノチューブ21は、グラフェンシート22が触媒金属であるニッケルの導電触媒層12を介して積層され、中心に中空又はアモルファスカーボンで充填された貫通中空部分21aを有する円柱状に構成されている。なお、図4では構成を説明しやすくするために、複数のグラファイトナノチューブ21が直立している様子を示す。このグラファイトナノチューブ21は、直径より軸方向の長さが10倍以上長く、例えば直径50nm、長さ1μm程度に構成され、許容電流密度が大きく、減圧下で低い電圧が加えられることにより電子を放出する。このグラファイトナノチューブ21の側壁部21bに露出したグラフェンシート22の端面22aから電子が放出される。グラファイトナノチューブ21は、ゲート電極14より低い高さに位置している。
【0016】
一方、図1及び図2において、表示部30は、アノード基板31と、アノード基板31上に形成されたアノード電極32と、このアノード電極32の表面に塗布されたR、G、Bの三色の蛍光体33〜35とを備える。ここでは、アノード基板31は、基板11との封止を良好にするため、基板11と同素材のガラス等の透明材料で構成されている。また、アノード電極32は、基板11と対向する面上に形成され、例えばアルミ等の金属から構成されている。アノード電極32は駆動回路に接続されている。一方、3色の蛍光体33〜35は、前述のX方向に延びる矩形状を成し、それぞれゲート電極14に対応して配置されている
電子放出素子10と表示部30とは、図示しないスペーサにより所定の間隙を確保して接合されている。その間隙は例えば約10−8トール程度の減圧状態とされ、図示しないゲッターによりこの減圧状態が維持されている。
【0017】
以降、前述した本実施形態の電子放出素子10の製造方法について図1または図2を参照して説明する。
まず、スパッタ法等により、基板11上にニッケルを成膜し、導電触媒層12を形成する。ついで、導電触媒層12上、及び導電触媒層12が形成されていない基板11の上面全体に絶縁層13を形成する。ついで、スパッタ法等により、絶縁層13の表面に、導電触媒層12で使用した触媒金属とは異なるアルミ等の金属を成膜し、ゲート電極14を形成する。
【0018】
さらに、ゲート電極14及び絶縁層13を貫通して触媒金属が露出するよう所定の位置にエミッタ孔15を形成する。具体的には、まず、円形の開口部を有するマスクをゲート電極14上に設置する。その後、マスクを用い、所定のエッチングガスで、ゲート電極14にドライエッチングを施して開口する。次いで、所定のエッチングガスで絶縁層13を導電触媒層12に達するまでドライエッチングを施すことで、所定の形状のエミッタ孔15が形成される。
【0019】
エミッタ孔15の形成後、基板11を図5に示すプラズマCVD装置に導入して400〜450℃に加熱し、CH(メタン)とH(水素)の混合ガスをプラズマで分解することで、露出した導電触媒層12上にカーボン層20を形成する。
【0020】
プラズマCVD装置は、内部にヒータ24、基板支持部25等を備えた真空容器である。このプラズマCVD装置は、プラズマCVD処理の条件として、圧力、ガスの種類、ガス流量、RFパワー、ヒータ温度、処理時間等を調整可能な調整機能を有する。
【0021】
ここでは、まず、プラズマCVD装置23内の基板支持部25に導電触媒層12が形成された基板11を設置し、前処理として、水素ガスのみにより10分程度、放電処理を行う。ついで、所定流量のメタンガスを入れ、本処理を行う。ここで、プラズマの種類はマイクロ波励起型とする。ここで圧力、ガスの流量比、温度は図6の上段に示すような以下の条件に設定して処理を行う。すなわち、容器内圧力は4kPaとし、ガスの種類としてCHとHを用いる。また、CHのガス流量は10[sccm]、Hのガス流量は80[sccm]とする。さらに、ヒータ24の温度を400℃とし、RFパワーは400W、本処理の時間は30分とする。
【0022】
上記条件でプラズマCVDに晒されると、基板11に膜状に形成されていたニッケルの導電触媒層12が、所定の大きさを有する触媒の核として、粒状のニッケルの触媒核12aを有する構造となる。図7の上段に示すように、この触媒核12aの大きさ及び形状は上記プラズマ処理の条件に対応して決定され、ここでは、例えば曲率半径が5nm以下程度に構成された尖菱形状であって、大きさ100nm程度に形成される。導電触媒層12はニッケル等の触媒金属から構成されているため、触媒層として作用するので、この触媒核12aを基礎として、導電触媒層12上に直接カーボン物質が成長する。図7に示すように成長する電子放出部としてのカーボン物質の構造は触媒核12aの大きさ及び形状に依存する。ここでは大きさ100nm程度の尖菱形状の触媒核12aを基礎として、図4に示されるグラファイトナノチューブ21が成長する。こうして、導電触媒層12が露出しているエミッタ孔15内において、導電触媒層12上に多数のグラファイトナノチューブ21がランダムな方向に形成され、カーボン層20が構成される。
【0023】
一方、ガラス等の透明材からなるアノード基板31にアノード電極32を形成し、アノード電極32に蛍光体33〜35を塗布して表示部30を製造する。また、スペーサを介して所定の間隙を確保した状態で基板11の周囲とアノード基板31の周囲とを封止材で接合する。こうして電子放出素子10と表示部30とが接合され、画像表示装置1が完成する。
【0024】
次に、図1及び図2を参照しながら、本実施形態にかかる画像表示装置1の動作について説明する。
アノード電極32、カソード電極としての導電触媒層12及びゲート電極14にそれぞれ所定の電圧Va(例えば1〜15KV)、Vd(例えば0〜100V)が印加される(以上、図2を参照する)と、電界が生じる。ここで、導電触媒層12に成長したカーボン材料としてのグラファイトナノチューブ21の側壁部21bに露出したグラフェンシート22の端面22aは細いため、ここに電気力線が集中する。これにより強い電界が得られ、この電界に引き出されて、カーボン材料としてのグラファイトナノチューブ21の側壁部21bなどから、電子が放出される。この電子はゲート電極14に導かれて蛍光体33〜35が塗布されたアノード電極32に入射する。こうして蛍光体33〜35が励起され、発光する。この発光により透明なアノード基板31を通して所望の画像が表示される。ここで、ゲート電極14に印加する電圧をマトリクス制御することで発光を制御することができ、画素毎の階調表示が可能となっている。
【0025】
本実施形態にかかる電子放出素子10、画像表示装置1などは以下に掲げる効果を奏する。
【0026】
触媒の粒子である触媒核12aの大きさ又は形状を設定することにより、プラズマCVD法によって形成することで、グラファイトナノチューブ21を形成する時の基板温度を400℃〜450℃程度の低温にできるので、基板11に直接電子放出部を形成することができる。また、基板11に要求される耐熱条件を緩和できるため、基板11のコストを低減できる。
【0027】
また、例えば図6及び図7に示されるように、第2実施形態乃至第4実施形態で後述するように触媒核12aの大きさを変えるだけで、異なる構造のカーボン性物質を作り分けることが可能である。また、触媒核の大きさ及び形状は、ガス流量及び温度の調整によって容易に決定することができるため、複数種類のカーボン材料を共通の装置で容易に作り分けられる。したがって、側壁部21bから電子放出可能で電子放出性の高いグラファイトナノチューブ21を、確実に製造することが可能である。
【0028】
さらに、マイクロ波を用いることで、4kPa程度の高圧でプラズマ処理を行うことが可能となる。したがって、低圧で処理を行う場合に比べて、減圧に要するコストを低減することが可能となる。
【0029】
[第2実施形態]
次に本発明の第2実施形態に係る電子放出部としてのグラファイトナノチューブ21及びこの製造方法について図4を参照して説明する。図4はカーボン層20の一部を拡大して示す断面図である。また、各図において説明のため、適宜、構成を拡大、縮小または省略して示している。なお、本実施形態の画像表示装置1の構成等については上記第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0030】
本実施形態において、本処理における圧力、ガスの流量比、温度は図6で示すような以下の条件に設定して処理を行う。すなわち、容器内圧力は4kPaとし、ガスの種類としてCHとHを用いる。また、CHのガス流量は10[sccm]、Hのガス流量は80[sccm]とする。さらに、ヒータ24の温度を450℃とし、RFパワーは400W、本処理の時間は30分とする。
【0031】
上記条件でプラズマCVDに晒されると、基板11に膜状に形成されていたニッケルの導電触媒層12が、所定の大きさを有する粒状の触媒核12aを有する構造となる。図7に示すように、この触媒核12aの大きさ及び形状は上記プラズマ処理の条件に依存して決定され、ここでは、例えば曲率半径が5nm以下程度に構成された尖菱形状であって、大きさ100nm程度に形成される。導電触媒層12はニッケル等の触媒金属から構成されているため、触媒層として作用するので、この触媒核12aを基礎として、導電触媒層12上に直接カーボン物質が成長する。図7に示すように成長するカーボン物質の構造は触媒核12aの大きさに依存する。ここでは、大きさ50〜100nm程度の尖菱形状の触媒核12aを基礎として、グラファイトナノチューブ21が成長する。こうして、導電触媒層12が露出しているエミッタ孔15内において、導電触媒層12上に多数の電子放出物質としてのグラファイトナノチューブ21がランダムな方向に形成され、カーボン層20が構成される。
【0032】
以上の条件で形成されたグラファイトナノチューブ21は、直径50nm〜100nm、長さ1μm程度に構成され、許容電流密度が大きく、減圧下で低い電圧が加えられることにより電子を放出する。このグラファイトナノチューブ21の側壁部21bに露出したグラフェンシート22の端面22aから電子が放出される。
【0033】
本実施形態においても上述した第1実施形態にかかる電子放出素子10及び画像表示装置1などと同様の効果が得られる。
【0034】
[第3実施形態]
次に本発明の第3実施形態に係る電子放出部としてのグラファイトナノファイバ26、カーボンナノチューブ27、及びこれらの製造方法について図8、図9を参照して説明する。図8、図9はカーボン層20の一部を拡大して示す断面図である。また、各図において説明のため、適宜、構成を拡大、縮小または省略して示している。なお、本実施形態の画像表示装置1において、電子放出部としてのグラファイトナノファイバ26、カーボンナノチューブ27以外の部分の構成等については上記第1実施形態の画像表示装置1と同様であるため、説明を省略する。
【0035】
本実施形態において、本処理における圧力、ガスの流量比、温度は図6で示すような以下の条件に設定して処理を行う。すなわち、容器内圧力は4kPaとし、ガスの種類としてCHとHを用いる。また、CH4のガス流量は5[sccm]、H2のガス流量は80[sccm]とする。さらに、ヒータ24の温度を450℃とし、RFパワーは400W、本処理の時間は30分とする。
【0036】
上記条件でプラズマCVDに晒されると、図8又は図9に示されるように、基板11に膜状に形成されていたニッケルの導電触媒層12が、所定の大きさを有する粒状の触媒核12b/12cを有する構造となる。図7に示すように、この触媒核12b/12cの大きさ及び形状は上記プラズマ処理の条件に依存して決定される。ここでは、図8に示すような大きさ10〜50nm程度で菱形の触媒核12b、又は図9に示すような大きさ10nm程度で球状の触媒核12cが形成される。導電触媒層12は触媒金属であるニッケルが触媒層として作用するので、この触媒核12b/12cを基礎として、導電触媒層12上に直接電子放出部としてのカーボン物質が成長する。図7に示すように成長するカーボン物質の構造は触媒核12b/12cの大きさや形状に依存するので、ここでは大きさ10〜50nm程度の菱形状の触媒核12bを基礎とした場合は、図8に示すグラファイトナノファイバ26が成長し、大きさ10nm程度の球状の触媒核12cを基礎とした場合は、図9に示すカーボンナノチューブ27が成長する。こうして、導電触媒層12が露出しているエミッタ孔15内において、導電触媒層12上に電子放出部としての多数のグラファイトナノファイバ26またはカーボンナノチューブがランダムな方向に形成され、カーボン層20が構成される。
【0037】
以上の条件で形成されたグラファイトナノファイバ26は、カーボン材料を主成分とし、側壁部26bにグラフェンシート22の端面22aが露出する繊維状の物質である。グラファイトナノファイバ26は、触媒金属の核の表面形状に沿った形状を有するグラフェンシート22の小片が触媒金属を介して積み重なった構造を有する。グラファイトナノファイバ26は、直径より軸方向の長さが10倍以上長く、例えば直径10nm〜50nm程度、長さ1μm程度に構成され、許容電流密度が大きく、減圧下で低い電圧が加えられることにより電子を放出する。このグラファイトナノファイバ26の側壁部26bに露出したグラフェンシート22の端面22aから電子が放出される。
【0038】
以上の条件で形成されたカーボンナノチューブ27は、グラフェンシート22が円筒状に丸まった構造を成している。このカーボンナノチューブ27は、直径より軸方向の長さが10倍以上長く、例えば直径は10nm程度、長さ1μm程度に構成され、許容電流密度が大きく、減圧下で低い電圧が加えられることにより電子を放出する。カーボンナノチューブ27の先端27bに露出したグラフェンシートの端面22aから電子が放出される。ここで、図10に示すように、成長するカーボンナノチューブ27の向きを揃えるため導電触媒層12の表面に垂直に電界を形成し、カーボンナノチューブの方向をアノード電極32側に向かってブラシ上に起立するように揃えてもよい。
【0039】
本実施形態においても上述した第1実施形態にかかる電子放出素子10及び画像表示装置1などと同様の効果が得られる。
【0040】
なお、上記各実施形態においては、導電触媒層12はニッケルで構成されている場合について例示したが、この他、鉄、コバルト、モリブデン、白金などを含む触媒金属から構成されていてもよい。これらの場合にも触媒金属の粒の形状及び大きさを調整することで、上記各実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0041】
電子放出部形成時の原料ガスとして、メタン(CH)、エチレン(C)、アセチレン(C)、などの炭素系混合ガス、前記炭素系混合ガスと水素ガスとの混合ガスを用いることができる。またメタノール、エタノール、アセトン、トルエンなどを気化したガス、又は前記気化したガスと水素ガスとの混合ガスを用いても良い。
【0042】
また、各条件は装置や使用ガスなどの条件に応じて適宜変更可能である。
【0043】
上記実施形態ではガラスやシリコン等の基板11に導電触媒層12を形成したが、例えば0.1mm程度の厚さに構成された導電基板を用いてもよい。
【0044】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる画像表示装置の一部を模式的に示す斜視図。
【図2】同画像表示装置の要部を拡大して模式的に示す断面図。
【図3】図2の要部を模式的に示す側面図。
【図4】本発明の第1実施形態にかかるグラファイトナノチューブの構成を模式的に示す断面図。
【図5】本発明の第1乃至第3実施形態にかかるプラズマCVD処理装置を示す図。
【図6】本発明の第1乃至第3実施形態にかかるプラズマCVD処理条件を示す図。
【図7】本発明の第1乃至第3実施形態にかかるプラズマCVD処理条件と電子放出部の構造との対応を示す図。
【図8】本発明の第3実施形態にかかるグラファイトナノファイバの構成を模式的に示す断面図。
【図9】本発明の第4実施形態にかかるカーボンナノチューブの構成を模式的に示す断面図。
【図10】本発明の第4実施形態の変形例に掛かる画像表示装置の要部を拡大して模式的に示す断面図。
【符号の説明】
【0046】
1…画像表示装置、10…電子放出素子、11…基板、12…導電触媒層、
12a、12b、12c…触媒核、20…カーボン層、
21…グラファイトナノチューブ、21b…側壁部、22…グラフェンシート、
22a…端面、23…CVD装置、26…グラファイトナノファイバ、26b…側壁部、27…カーボンナノチューブ、30…表示部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する触媒層上に、カーボン材料を含み繊維状または管状を成すとともに側部にグラフェンシートの端面が露出している電子放出部を形成することを特徴とする電子放出素子の製造方法であって、
前記触媒層を加熱し、
減圧雰囲気下において、前記触媒層の周囲に混合ガスを導入し、
プラズマを発生させてCVDを行い、前記電子放出部を形成することを特徴とする電子放出素子の製造方法。
【請求項2】
導電性を有する触媒層上に、カーボン材料を含み繊維状または管状を成す電子放出部を形成することを特徴とする電子放出素子の製造方法であって、
前記触媒層を加熱し、
減圧雰囲気下において、前記触媒層の周囲に混合ガスを導入し、
プラズマを発生させてCVDを行うとともに、
前記電子放出部を形成するに際して、前記触媒層の触媒の核の大きさまたは形状を調整することを特徴とする電子放出素子の製造方法。
【請求項3】
前記加熱の際の温度と前記混合ガスの混合比のうち少なくともいずれか1つを制御することにより、前記触媒の核の形状又は大きさを制御することを特徴とする請求項2記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項4】
前記触媒の核の大きさを50nm以上とし、前記電子放出部としてグラファイトナノチューブを形成することを特徴とする請求項3記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項5】
前記触媒の核の大きさを10nm以上、かつ、50nm未満とし、前記電子放出部としてグラファイトナノファイバを形成することを特徴とする請求項3記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項6】
前記触媒の核の大きさを10nm未満とし、前記電子放出部としてカーボンナノチューブを形成することを特徴とする請求項3記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項7】
前記触媒の核の形状を尖菱形状とし、前記電子放出部としてグラファイトナノチューブを形成することを特徴とする請求項3記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項8】
前記触媒の核の形状を菱形状とし、前記電子放出部としてグラファイトナノファイバを形成することを特徴とする請求項3記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項9】
前記触媒の核の形状を球状とし、前記電子放出部としてカーボンナノチューブを形成することを特徴とする請求項3記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項10】
前記加熱する際に、前記触媒層が400℃以上450℃以下に加熱されることを特徴とする請求項2記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項11】
前記触媒層は、鉄、ニッケル、コバルト、又はこれらのうち少なくとも一つを有する合金を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれかに記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項12】
上記請求項1乃至11のいずれかに記載の製造方法で製造された電子放出素子と、前記電子放出素子から放出される電子により発光する発光部とを備えたことを特徴とする表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−153021(P2008−153021A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−338696(P2006−338696)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】