説明

電子線照射システム及び電子線照射方法

【課題】 有機材料に効率的に電子線照射を行って架橋等の改質処理が行えるとともに分解生成物を抑制して照射室等システムの健全性阻害を防止し、被照射物の内部に分解生成物が留まり品質劣化が生じることも防止できる電子線照射システム及び電子線照射方法。
【解決手段】 電子線照射システム及び電子線照射方法を、電子線照射を出射する電子線照射装置と、被照射物として有機材料を搬入・搬出するためのコンベアと、被照射物に対して第1の所定の範囲の温度に加熱して電子線照射を行う照射室と、照射室に接続し電子線照射後の被照射物を第2の所定の範囲の温度に加熱する揮発室とを有し、第1の所定の範囲の温度は電子線照射を受けた被照射物から放出する分解生成物の量が照射室の健全性を阻害する有意量とならない範囲の温度とし、第2の所定の範囲の温度は有機材料内に残留する分解生成物が放出される範囲の温度とするように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機材料に対して電子線照射を行って架橋等の改質処理を行う電子線照射システム及び電子線照射方法に関し、当該改質処理を高効率で実施可能にせしめると共に当該改質処理時に発生する分解生成物の被照射物への残留量を低減させることを可能とする電子線照射システム及び電子線照射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリテトラフロロエチレン(PTFE)、トリアセチルセルロース(TAC)等の有機材料に電子線を照射して、架橋等の改質処理を施して材料の強化、耐熱性向上、濡れ性改善等が行われる。
【0003】
従来、一般的な電子線照射システムの構成は、例えば特開平2002−333499号(特許文献1)に記載されるものを図3に示すように、図示しない真空排気装置により内部に真空領域Aを形成する真空容器06内に電子線発生部04を設け、真空容器06内で図示しない加速電源及び加速電極により所定エネルギまで加速発生させた電子線02を、真空領域Aと大気圧領域Bとを隔絶する照射窓03を通して大気圧領域B中に出射させる。これによって、照射窓03に対峙して配置された被照射物07への照射処理が行われる。なお、通常、電子線照射は常温で行われる。
【0004】
照射窓03内において、電子線と当該窓材自身との相互作用により、当該照射窓03に入射した電子線02はエネルギ損失及び反射逸損を生じる。また、照射窓03は真空領域Aと大気圧領域Bとの差圧(約1気圧)に耐える強度を有する必要がある。本目的に合致するために、照射窓03には、例えば厚さ10数μm程度のチタン箔が用いられる。
【0005】
上記特許文献1においては、前記エネルギ損失に基づく照射窓03の過加熱を防ぐため冷却ノズル05からの冷却用気体で照射窓03を冷却することにつき記載されているが、以下に述べる本発明の目的とする被照射物からの分解生成物発生による問題の抑制については示されていない。
【0006】
本発明に係る有機材料の電子線照射による照射処理においては、被照射物07としての有機材料は通常シート状のものであり、連続巻取りシートあるいは枚葉シートとして照射窓03に対峙して搬送されつつ照射を受けるが、大気圧領域Bは、処理内容に応じて雰囲気制御(空気の窒素置換等)を行うため図3中、2点鎖線で示すように照射室08として区画された空間に形成される。
【0007】
しかしながら、有機材料に電子線を照射した場合、ポリマ鎖の切断や官能基の脱離等が起こり、分解生成物を生じる。有機材料には酸化防止剤等の添加剤が含まれていることもあり、分解生成物は多種類に亘る。このうち一部は揮発性や腐食性が高いものもある。有機材料への照射処理時には一般に雰囲気温度が高いほどを架橋等の照射効果が促進されるが、本対応を行った場合、併せて放出量が促進される当該分解生成物は照射室内08を漂い、照射室08内面に付着し、腐食等により装置の健全性に支障をきたす可能性がある。特に照射窓03は前述のとおり薄膜であるため腐食による肉厚減損に伴う強度劣化で大気圧と真空との差圧保持を行い得なくなること、照射窓面への当該分解性生物付着による電子線エネルギ損失量増大や照射窓冷却効率低下を生じること等のために、結果として電子線照射システムに甚大な影響を及ぼす恐れが大きい。このため、例えば前述のように加熱雰囲気にて被照射物07の電子線照射処理をして、結果として価値劣化にも繋がっていた。
【0008】
【特許文献1】特開2002−333499号公報(第2頁、図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、有機材料に効率的に電子線照射を行って架橋等の改質処理が行えるとともに電子線照射時の分解生成物の放出量を抑制して当該分解生成物による照射室内構成要素の健全性阻害を防止し、併せ被照射物の内部に分解生成物が留まり被照射物の品質劣化が生じることも防止できる電子線照射システム及び電子線照射方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するためになされ、下記の(1)から(6)の手段を提供するものであり、以下、特許請求の範囲に記載の順に説明する。
【0011】
(1)その第1の手段として、照射処理に供する電子線照射を出射する電子線照射装置と、被照射物として有機材料を電子線照射システム内に搬入・搬出するためのコンベアと、当該被照射物に対して第1の所定の範囲の温度に加熱して電子線照射を行う照射室と、同照射室に接続し同照射室から電子線照射後の前記被照射物が移送され同被照射物を第2の所定の範囲の温度に加熱する揮発室とを有し、前記第1の所定の範囲の温度は電子線照射を受けた前記被照射物から放出する分解生成物の量が前記照射室の健全性を阻害する有意量とならない範囲の温度とし、前記第2の所定の範囲の温度は前記電子線照射を受けた前記有機材料内に残留する前記分解生成物が放出される範囲の温度としてなることを特徴とする電子線照射システムを提供する。
【0012】
(2)第2の手段としては、第1の手段の電子線照射システムにおいて、前記第1の所定の温度の範囲は、常温以上で前記有機材料のガラス転移温度未満の範囲において設定されることを特徴とする電子線照射システムを提供する。
【0013】
(3)また、第3の手段として、第1または第2の手段の電子線照射システムにおいて、前記第2の所定の温度の範囲は、前記第1の所定の温度以上で融点未満の所定の範囲において設定されてなることを特徴とする電子線照射システムを提供する。
【0014】
(4)第4の手段として、第1ないし第3の手段のいずれかの電子線照射システムにおいて、前記照射室と揮発室はそれぞれの排風機を備え、前記照射室内の領域より前記揮発室内の領域のほうが低圧となるように前記各排風機の吸引圧を設定してなることを特徴とする電子線照射システムを提供する。
【0015】
(5)第5の手段として、第1ないし第3の手段のいずれかの電子線照射システムにおいて、前記照射室と揮発室の接続部分にエアカーテンを備えてなることを特徴とする電子線照射システムを提供する。
【0016】
(6)第6の手段として、第1ないし第5の手段のいずれかの電子線照射システムを用い、前記被照射物としての有機材料を前記照射室内に送入して前記第1の所定の範囲の温度に加熱し、前記電子線発生部からの電子線を照射して前記有機材料の照射処理を行い、次いで、電子線照射された前記被照射物を前記揮発室に送り、前記第2の所定の範囲の温度に加熱することを特徴とする電子線照射方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
(1)特許請求の範囲に記載の請求項1の発明によれば、電子線照射システムを上記第1の手段のように構成したので、分解生成物による照射室等電子線照射システムの構成要素の健全性を担保しつつ、被照射物に対して効率的架橋等の改質処理を遂行し且つ当該被照射物への分解生成物残留量を低減し得る。
【0018】
(2)請求項2の発明によれば、電子線照射システムを上記第2の手段のように構成したので、請求項1の発明の作用効果に加え、被照射物の直接的な支持を行い得ない照射室内の電子線照射領域においても、弾性率の急激な減少を伴うことなく、被照射物の搬送健全性を保ち得る。
【0019】
(3)請求項3の発明によれば、電子線照射システムを上記第3の手段のように構成したので、請求項1または請求項2の発明の作用効果に加え、被照射物の直接的な支持を行い得る揮発室内おいて、分解生成物の被照射物外への放出を充分に促進し得る。
【0020】
(4)請求項4の発明によれば、電子線照射システムを上記第4の手段のように構成したので、請求項1ないし請求項3のいずれかの発明の作用効果に加え、照射室と揮発室から揮発・放出した分解生成物が排出されるとともに連通孔を介して揮発室から照射室へ気体が流入することを実質的に阻止し、揮発室で積極的に放出させた分解生成物が照射室内に入り、照射室内の構成機器の健全性への影響、特に照射窓の機能を阻害することを、効果的に防止することができる
(5)請求項5の発明によれば、電子線照射システムを上記第5の手段のように構成したので、請求項1ないし請求項3のいずれかの発明の作用効果に加え、連通孔を介して揮発室から照射室へ気体が流入することを実質的に阻止し、揮発室で積極的に放出させた分解生成物が照射室内に入り、照射室内の構成機器の健全性への影響、特に照射窓の機能を阻害することを、効果的に防止することができる
(6)請求項6の発明によれば、電子線照射システムを上記第6の手段のように構成したので、請求項1ないし請求項5のいずれかの発明の作用効果により、分解生成物による照射室等電子線照射システムの構成要素の健全性も害することなく、被照射物に対して効率的架橋等の改質処理を遂行し且つ当該被照射物への分解生成物残留量を低減し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明を実施するための最良の形態として、以下に実施例1及び実施例2を説明する。
【実施例1】
【0022】
図1に基づき本発明の実施例1に係る電子線照射システムを説明する。図1は本実施例の電子線照射システムの模式的な構成概要図であり、(a)は縦断面図、(b)は(a)中X部の拡大断面図である。
【0023】
図に示すように、電子線照射システム1は、電子線を出射する電子線照射装置6、被照射物7としての有機材料に電子線照射を行う照射室8と、それに連なり電子線照射後の被照射物7を加熱して被照射物7から分解生成物(以下、単に「分解生成物」という)の放出を促進させる揮発室20とを備えている。
【0024】
照射室8はX線に対する遮蔽性を有する壁部8a囲まれた筐体であり、その内部は後述のように分解生成物を排出するための排気を行うので、内部はその排気圧だけ大気圧より低い略大気圧領域Cとなる。当該照射室上部には図示しない真空排気装置によって内部に真空領域Aが形成されている電子線照射装置6が設置してある。本電子線照射装置6は、真空容器内に設けられた電子線発生部4から放出された電子線2を、図示しない加速電源により100kV〜300kV程度にまで加速した後に、照射窓3を介して略大気圧領域Cに出射する。これにより照射室8内の被照射物7に対して電子線照射を行う。
【0025】
本実施例における被照射物7は、電子線照射によって照射処理を施される巻取りシート状の有機材料であり、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリテトラフロロエチレン(PTFE)、トリアセチルセルロース(TAC)等の種々のプラスチックシート部材である。被照射物7は図示しない巻取りシート供給装置から供給路9を介して照射室8の入口10から照射室8内に送り込まれ、照射窓3に対峙する位置を通過して連通孔11から出て揮発室20へ送られる。
【0026】
揮発室20は、壁部が遮蔽壁20aで囲まれた筐体であり、後述のように分解生成物を排出するために排気を行うので、内部はその排気圧だけ大気圧より低い略大気圧領域Dとなる。被照射物7は揮発室20内を通過し出口12から外部へ出て取出路13経由で図示しない巻取り装置を含む後流工程に送られる。ここで、上記巻取りシート供給装置、巻取り装置は被照射物7を電子線照射システム内に搬入、搬出するためのコンベアとなる。
【0027】
なお、取出路13は図示のように屈曲路に形成され屈曲部はローラ13aによってガイドされる。なお、供給路9も同様に図示しない屈曲路に形成され屈曲部において被照射物7はローラによってガイドされる。また、上記の遮蔽壁8a、20a、及び供給路9、取出路13の屈曲路は、照射室8における電子線照射によって微量に発生する放射線を装置外に放出させないように遮蔽するためのものである。
【0028】
照射室8において、通過する被照射物7を挟んで照射窓3の反対側には反射板14が設けられ、被照射物7の送り方向において反射板14の上流側および下流側には被照射物7を挟んでヒータ15が設けられ、ヒータ15の周りには熱遮蔽板15aが設けられている。また、照射室8の上部に吸引口17bを位置させて排風機17の排気ダクト17aが設けられ、照射室8内に発生した分解生成物を系外に排気するようになっている。なお、照射窓3への分解生成物付着防止のため、排風機17の吸引口17bは照射室8の上部で且つ照射窓3近傍となる位置に配置されることが望ましい。
【0029】
反射板14は、被照射物7に照射されてさらに被照射物7を透過した電子線2が照射室8内の他のものに不要に照射され過熱等の問題が生じるのを防止するとともに、反射した電子線で再度、被照射物7を照射して照射処理効率を向上させるものであり、高原子番号材である金などをコーティングした、またはタンタル板、タングステン板などを取り付けた、水冷銅ブロックなどで構成される。
【0030】
また、ヒータ15は、被照射物7を所定の範囲の温度まで加熱した状態で電子線照射を行い、効率のよい照射処理を行うためのものであるが、加熱によって被照射物7から放出される分解生成物は照射窓3付着などにより照射室8等電子線照射システムの健全性に甚大な影響を及ぼす恐れがあることは前述の通りである。
【0031】
そこで、照射室8内のヒータ15は、被照射物7から有意量(照射室8の健全性を阻害する量)の分解生成物が発生しない(分解生成物の発生を所定の範囲内とする)所定の範囲の温度(本発明の「第1の所定の範囲の温度」)に加熱するように設定され、あるいは図示しない温度検知器等により温度制御される。その温度の範囲は、電子線照射による効果的な照射処理とともに電子線照射時における有機材料の物理的性質の変化を避けるため、例えば常温以上で被照射物7としての有機材料のガラス転移温度未満の範囲内において設定する。したがって、照射室8内の電子線照射領域において被照射物7の直接的な支持を行い得ない場合も、弾性率の急激な減少を伴うことなく、被照射物7の搬送健全性を保ち得る。
【0032】
なお好ましくは、照射室8内を内部筐体16で仕切り、照射窓3は内部筐体16内に位置するように配置し、被照射物7は内部筐体16内を通過し、内部筐体16内に反射板14、ヒータ15、熱遮蔽板15a等を配置して、吸引口17bは内部筐体16内に向けて開口するようにすれば、排気効率、加熱効率が向上する。
【0033】
揮発室20内には、通過する被照射物7を挟むようにヒータ21が設けられ、ヒータ21の周りには熱遮蔽板21aが設けられている。また、必要に応じて搬送される被照射物7を支持する図示しない摺動板、摺動用ワイヤ、ネット等を設けてもよい。照射処理により発生した分解生成物の一部は当該被照射物内に留まって被照射物7を品質劣化させる恐れがあるので、揮発室20では、照射室8を出た後の被照射物7としての有機材料内に残る分解生成物の放出が促進される範囲の温度(本発明の「第2の所定の範囲の温度」)に被照射物を加熱させるものであり、ヒータ21はそのように設定され、あるいは図示しない温度検知器等により温度制御される。その温度の範囲は、分解生成物の放出を促進し且つ被照射物7の変質、変形を避けるため、第1の所定の範囲の温度よりも高く且つ融点未満の範囲内、例えばガラス転移温度以上、融点未満の範囲内、において設定されることが好ましく、揮発室20内において被照射物7の直接的な支持を行い得る場合は、分解生成物の被照射物7外への放出を充分に促進し得る。
【0034】
したがって、揮発室20にも、分解生成物排出のため排風機22の排気ダクト22aが設けられ、揮発室20内の空気、ガスを室外に排気するようになっている。なお、照射室8の排風機17、揮発室20の排風機22は共に適宜な排ガス処理器に接続されるのが好ましい。
【0035】
照射室8と揮発室20を結ぶ連通孔11の揮発室20側には、図1(b)に示すように、エアカーテンノズル23が設けられ、図示しないエアカーテン気体供給装置からエアカーテン気体24が供給されエアカーテンを形成することで、連通孔11を介して揮発室20から照射室8へ気体が流入することを実質的に阻止し、揮発室20で積極的に放出させた分解生成物が照射室8内に入り、昭射室8内の構成機器の健全性への影響を防止し、特に照射窓3の機能を阻害することを防止するようになっている。なお、エアカーテンを設けることに代えて、照射室8の略大気圧領域Cより揮発室20の略大気圧領域Dのほうが低圧となるように排風機17、22の吸引圧を設定することで、同様に連通孔11を介して揮発室20から照射室8へ気体が流入することを実質的に阻止してもよく、その両者を合わせ備えてもよい。
【0036】
以上のように構成された本実施例の電子線照射システム1による電子線照射方法によれば、下記のように巻取りシート状の有機部材である被照射物7は電子線照射による架橋等の改質処理が施される。
【0037】
被照射物7としての有機材料を照射室8内に送入し、被照射物7から有意量(照射室8の健全性を阻害する量)の分解生成物が発生しない(分解生成物の発生を所定の範囲内とする)所定の範囲の温度で、例えば常温以上でその有機材料のガラス転移温度未満において、加熱して電子線照射装置6から照射窓3を介して電子線2を照射し、照射処理を行う。
【0038】
前記第1の所定の範囲の温度に加熱され電子線照射が行われるので、被照射物7からは分解生成物の発生が前記有意量以下に止まり、排風機17による排気により分解生成物が照射室8から排出されるため、分解生成物による照射室8内部機器、特に照射窓3の健全性に悪影響が生じることが防がれ、また、有機材料の弾性係数等物理的性質への影響も防止される。そして、ヒータ15による加熱により効率的に照射処理が施される。
【0039】
また、反射板14は被照射物7を透過した電子線2を反射して被照射物7に照射させるので、被照射物7に充分な照射処理を施せると共に、透過した電子線2が照射室3内部を不要に照射し加熱することも防止される。
【0040】
次いで、電子線照射による照射処理済の被照射物7を、連通孔11を通し揮発室20に送り、ヒータ21により前記第2の所定の範囲の温度、例えば第1の所定の範囲の温度以上、融点未満の温度に一時加熱することで、被照射物7内部に留まっていた分解生成物を放出するので、被照射物7に留まっている分解生成物による有機部材の品質劣化が防止される。
【0041】
放出された分解生成物は、排風機22により揮発室20から排出されるとともに、分解生成物を放出した被照射物7は、出口12から取り出されるが、連通孔11はエアカーテンノズル23からのエアカーテン気体24によるエアカーテンにより、あるいは揮発室20の略大気圧領域Dを照射室8の略大気圧領域Cより低圧に設定することにより、揮発室20から照射室8へ分解生成物が侵入することが防止され、照射室8内での前記の問題を発生させることが防止される。
【0042】
また、照射室8、揮発室20はともに壁部が遮蔽壁8a、20aで覆われる構造であるとともに、被照射物7の出入り部分である入口10、出口12はともに屈曲路に形成された供給路9、取出路13に接続しており、連通孔11も遮蔽壁8a、20aの延長部で覆われているため、電子線照射によって微量発生する放射線が外部に放出されることも防止される。
【0043】
以上の本実施例の電子線照射システム、また、電子線照射方法によって、被照射物7としての有機材料には、照射室8において適切な加熱下、効率的な照射処理を施すことができ、且つ分解生成物による機器への悪影響等が防止され、また、被照射物7内部に発生し留まっていた分解生成物を揮発室20において放出させることができ、事後の品質劣化の恐れを取り除くことができる。
【実施例2】
【0044】
図2に基づき本発明の実施例2に係る電子線照射システムを説明する。図2は本実施例の電子線照射システムの模式的な構成概要図であり、縦断面図である。
【0045】
図に示すように、本実施例の電子線照射システム1′は、電子線照射によって照射処理を施される被照射物7′としての有機材料が、枚葉状の有機材料、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリテトラフロロエチレン(PTFE)、トリアセチルセルロース(TAC)等種々のプラスチックシート部材が枚葉状のものである点が実施例1と異なり、被照射物7′は適宜の被照射物供給機19から照射室8の入口10経由で照射室8内に送り込まれ、揮発室20から出口12経由で適宜の被照射物取出機27へ取り出されることと、連続した巻取りシート状でないため、照射室8、揮発室20内に設けられたコンベア18、25、26、連通孔11に設けられたコンベア11aによって搬送されることが異なることを除き、前述の実施例1と同じである。また、図2中Y部には、図1中X部と同様にエアカーテンが備えられておる。
【0046】
コンベア18、25は、特に種類を限定するものではないが、照射室8のコンベア18は、電子線2の照射に耐えられるもので、反射板14からの反射電子線を再度被照射物7′に照射することができるものが好ましく、例えば上流端、下流端のスプロケット間に渡された循環ワイヤによるものである。揮発室20のコンベア25は、被照射物7′の一時加熱に絶えられるものであり、例えば同様に上流端、下流端のスプロケット間に渡された循環ワイヤによるものである。
【0047】
図2に示す実施例2の揮発室20においては、ヒータ21の熱遮蔽板21aを出た後は別のコンベア26が搬送を行い、また、連通孔11においては、ローラコンベア11aを設けているが、コンベアの配置、種類は搬送形態によって適宜のものとしてよい。また、被照射物供給機19、被照射物取出機27は適宜の遮蔽構造を備え、電子線照射に伴い微量発生する放射線が外部に放出されないように構成される。
【0048】
本実施例の電子線照射システム、また、電子線照射方法によれば、電子線照射による照射処理、照射室8における温度調整、分解生成物発生抑制及び排出、揮発室20における温度調整、分解生成物放出、及び排出、連通孔11での揮発室20から照射室8への分解生成物の侵入防止等の作用効果は、上記実施例1と同様に奏するものとなる。
【0049】
前記実施例1のように巻取りシート状のプラスチックシートのような被照射物7の場合は被照射物7搬送のためのコンベア類を照射室8、揮発室20外に設けて、照射室8、揮発室20内に設けることが不要な場合が多く装置構造を簡潔にし易いのに対して、本実施例の場合は装置構成が内部に設けたコンベア類で複雑になり易い面があるが、特に本実施例は、硬質であったり、平面性が重視されたりして、巻取りシート状としてハンドリングするに適しないプラスチックシート等の有機材料の照射処理に適合するものとなる。
【0050】
以上、本発明を図示の実施例について説明したが、本発明は上記の実施例に限定されず、本発明の範囲内でその具体的構造、構成に種々の変更を加えてよいことはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施例1に係る電子線照射システムの模式的な構成概要図であり、(a)は縦断面図、(b)は(a)中X部の拡大断面図である。
【図2】本発明の実施例2に係る電子線照射システムの模式的な構成概要図であり、縦断面図である。
【図3】従来の電子線照射システムの模式的な構成概要図であり、縦断面図である。
【符号の説明】
【0052】
1、1′ 電子線照射システム
2 電子線
3 照射窓
4 電子線発生部
6 電子線照射装置
7、7′ 被照射物
8 照射室
8a 遮蔽壁
9 供給路
10 入口
11 連通孔
11a コンベア
12 出口
13 取出路
15 ヒータ
16 内部筐体
17 排風機
18 コンベア
19 被照射物供給機
20 揮発室
20a 遮蔽壁
21 ヒータ
22 排風機
25 コンベア
26 コンベア
27 被照射物取出機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射処理に供する電子線照射を出射する電子線照射装置と、被照射物として有機材料を電子線照射システム内に搬入・搬出するためのコンベアと、当該被照射物に対して第1の所定の範囲の温度に加熱して電子線照射を行う照射室と、同照射室に接続し同照射室から電子線照射後の前記被照射物が移送され同被照射物を第2の所定の範囲の温度に加熱する揮発室とを有し、前記第1の所定の範囲の温度は電子線照射を受けた前記被照射物から放出する分解生成物の量が前記照射室の健全性を阻害する有意量とならない範囲の温度とし、前記第2の所定の範囲の温度は前記電子線照射を受けた前記有機材料内に残留する前記分解生成物が放出される範囲の温度としてなることを特徴とする電子線照射システム。
【請求項2】
請求項1に記載の電子線照射システムにおいて、前記第1の所定の温度の範囲は、常温以上で前記有機材料のガラス転移温度未満の範囲において設定されることを特徴とする電子線照射システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電子線照射システムにおいて、前記第2の所定の温度の範囲は、前記第1の所定の温度以上で融点未満の所定の範囲において設定されてなることを特徴とする電子線照射システム。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の電子線照射システムにおいて、前記照射室と揮発室はそれぞれの排風機を備え、前記照射室内の領域より前記揮発室内の領域のほうが低圧となるように前記各排風機の吸引圧を設定してなることを特徴とする電子線照射システム。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の電子線照射システムにおいて、前記照射室と揮発室の接続部分にエアカーテンを備えてなることを特徴とする電子線照射システム。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の電子線照射システムを用い、前記被照射物としての有機材料を前記照射室内に送入して前記第1の所定の範囲の温度に加熱し、前記電子線発生部からの電子線を照射して前記有機材料の照射処理を行い、次いで、電子線照射された前記被照射物を前記揮発室に送り、前記第2の所定の範囲の温度に加熱することを特徴とする電子線照射方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−322718(P2006−322718A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−143660(P2005−143660)
【出願日】平成17年5月17日(2005.5.17)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】