説明

電子線照射システム

【課題】 可視光や紫外光等によって影響を受けることなく、試料に照射された電子線エネルギーを正確に測定することのできる電子線照射システムを提供する。
【解決手段】 電子線照射システムにおいては、チャンバ2に収容された試料4に電子線Eを照射し、その試料4に照射された電子線エネルギーを、電子線検出器7によって測定する。このとき、電子線検出器7の検出面7aを、導電性遮光膜7bで覆うことにより、当該電子線検出器7にて電子線Eを検出する際に、チャンバ2内における可視光や紫外光等から影響を受けることを防止する。これによって、試料4に照射された電子線エネルギーを正確に測定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料に照射された電子線エネルギーを測定することのできる電子線照射システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電子線照射システムとして、試料及び電子線検出器を載置したステージをチャンバ内に配置し、当該ステージを移動させながら試料に電子線を照射して、その際における電子線を電子線検出器によって検出するものが知られている。(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3522045号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述したような電子線照射システムにおいては、電子線検出器が可視光や紫外光等をも検出してしまい、試料に照射された電子線エネルギーを正確に測定することができないおそれがある。
【0004】
そこで、本発明は、試料に照射された電子線エネルギーを正確に測定することのできる電子線照射システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明に係る電子線照射システムは、電子線を出射する電子線源と、電子線が照射される試料を収容するチャンバと、チャンバ内に配置され、電子線を検出する電子線検出器と、を備え、電子線検出器の検出面は、電子線を透過させ且つ光を遮断する導電性遮光膜で覆われることを特徴とする。
【0006】
この電子線照射システムでは、チャンバ内に収容された試料に電子線が照射され、その試料にむけて照射された電子線エネルギーを、電子線検出器によって測定する。このとき、電子線検出器の検出面が、導電性遮光膜で覆われているため、当該電子線検出器にて電子線を検出する際に、可視光や紫外光等から影響を受けることを防止することができる。これによって、試料に照射された電子線エネルギーを正確に測定することができる。
【0007】
ここで、電子線検出器としては、例えばシリコンフォトダイオードが挙げられる。
【0008】
また、本発明に係る電子線照射システムにおいては、導電性遮光膜は、接地電位とされていることが好ましい。このような構成によれば、電子線源による電子線の照射に伴って大量のイオンが発生した場合であっても、その影響を軽減し、試料に照射された電子線エネルギーを正確に測定することができる。
【0009】
また、本発明に係る電子線照射システムにおいては、電子線検出器は、電子線源の電子線出射軸線上に配置されていることが好ましい。このような構成によれば、試料に照射されるのと同等の電子線が電子線検出器に照射されることとなるため、電子線検出器による測定結果から試料に照射された電子線エネルギーを正確に導き出すことができる。
【0010】
また、本発明に係る電子線照射システムにおいては、電子線源の電子線出射軸線と交差する搬送軸線に沿って試料を搬送する搬送手段を備え、電子線検出器は、搬送軸線上に位置するように搬送手段に配置されていることが好ましい。このような構成によれば、搬送手段の移動にともない、搬送手段上に載置された試料及び電子線検出器は、いずれも電子線源の電子線出射軸線上に配置され、電子線源から直接電子線を照射される。これによって、電子線検出器に、試料と同等の電子線が照射されこととなるため、電子線検出器による測定結果から試料に照射された電子線エネルギーを正確に導き出すことができる。
【0011】
また、本発明に係る電子線照射システムにおいては、電子線源の電子線出射軸線と交差する搬送軸線に沿って試料を搬送する搬送手段を備え、電子線検出器は、搬送軸線と交差する方向に沿って並設されるように搬送手段に複数配置されていることが好ましい。このような構成によれば、搬送手段の搬送軸線と交差する方向に沿って複数の電子線検出器が並設されているため、これらの電子線検出器によって、搬送軸線と交差する方向における試料に照射された電子線エネルギー分布を導き出すことができる。
【0012】
また、電子線源の電子線出射軸線上に対して前記電子線検出器を進退させる移動手段を備えることが好ましい。このような構成によれば、電子線出射軸線上に配置され、電子線源から直接電子線を照射されている電子線検出器が、移動手段によって電子線出射軸線上に対して進退する。電子線検出器が電子線出射軸線に対して退いている間に、試料を電子線出射軸線上に配置することができ、電子線源から直接電子線が照射される。これによって、電子線検出器に、試料と同等の電子線が照射されこととなるため、電子線検出器による測定結果から試料に照射された電子線エネルギーを正確に導き出すことができる。例えば、試料が搬送される場合、試料が電子線出射軸線上に到達する前に電子線検出器を配置させることにより、条件通りの電子線出力が出ているか否かを確認することができ、到達した後に電子線検出器を配置させることにより、試料に電子線が照射されている間に条件が変化していないか否かを確認することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、試料に照射された電子線エネルギーを正確に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る電子線照射システムの好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
[第1の実施形態]
【0015】
図1に示されるように、電子線照射システム1は、内部に空間を有するチャンバ2と、チャンバ2の内部に収容され移動方向Rへ向かって移動可能とされたステージ(搬送手段)3と、ステージ3の上面である載置面3aに載置される試料4と、チャンバ2の上部に設けられて試料4に電子線Eを照射する電子線源6と、ステージ3の載置面3aに載置されて電子線Eを検出する電子線検出器7と、電子線検出器7からの検出信号に基づいて当該電子線検出器7に照射された電子線Eのエネルギーを測定する測定器8とを備えている。
【0016】
チャンバ2は、電子線Eと試料4との反応が酸素によって阻害されないように、酸素濃度を低下させるべくその内部が窒素やアルゴン等によって置換された不活性ガス雰囲気とされている。
【0017】
電子線検出器7は、シリコンフォトダイオードであって、検出面7aに電子線Eが照射され、そのエネルギーによって生成された電子−正孔対(入射エネルギー3.6eVに対して1対生成)に基づく検出信号をオシロスコープ等の測定器8に送信して出力電流を検出させることによって、電子線Eの入射エネルギーを測定させるものである。なお、シリコンフォトダイオードにより測定される電子線エネルギーは、その受光面を単位面積とする、照射された電子線Eのエネルギーと言え、そのエネルギーは、単なる電子の個数ではなく、その加速電圧も反映したエネルギー、つまり単位面積あたりの電子線Eの総熱量と同意義となる。例えば3.6keVのエネルギーを持つ1個の電子が入射した場合は1000個の電子に増倍して出力され、36keVのエネルギーを持つ1個の電子が入射した場合ならば10000個の電子に増倍して出力される。つまり、各電子毎にそのエネルギーに応じた電子数が生成され出力されるため、実際に試料に照射される総熱量を直接測定することができる。
【0018】
ステージ3は、載置面3aの移動方向Rに対する幅方向の中心位置と、電子線源6の電子線出射方向に向かって延在する電子線出射軸線C1とが交わるように配置されている。従って、ステージ3が移動方向Rへ向かって移動すると、その載置面3aに対して描かれる電子線Eの照射位置の軌跡は、図2に示される、移動方向Rに対する中心線である搬送軸線C2と一致する。
【0019】
図2に示されるように、ステージ3の載置面3a中央部に試料4が載置され、載置面3a右端部に電子線検出器7が載置されており、試料4と検出器7は、いずれも搬送軸線C2上に載置されている。従って、ステージ3が移動方向Rへ移動するに伴って電子線検出器7と試料4とは、電子線源6の電子線出射軸線C1と交差する搬送軸線C2に沿って搬送され、それぞれ異なるタイミングで電子線源6から直接電子線Eを照射されることとなる。また、ステージ3の移動速度を一定とすれば、両者に照射される電子線Eの単位面積あたりのエネルギーは同一となる。これによって電子線検出器7に、試料4に照射される電子線エネルギーと同等の電子線エネルギーが照射されることとなるため、電子線検出器7の測定結果から試料4に照射された電子線エネルギーを正確に導き出すことができる。
【0020】
ここで、電子線検出器7の検出面7aの表面は、アルミ蒸着によって形成された厚さ50nm以下の導電性遮光膜7bに覆われている。この導電性遮光膜7bは、電子線Eは透過させるが可視光や紫外光は遮断することができるという特性を有しており、これによって、電子線検出器7は可視光や紫外光等によって影響を受けることなく、電子線Eによるエネルギーのみを正確に測定することができる。更に、導電性遮光膜7bは、接地電位とされているため、電子線Eの照射に伴って大量のイオンが発生した場合であっても、その影響も軽減している。
【0021】
以上によって、電子線照射システム1は、可視光、紫外光及びイオン等の影響を受けることなく、試料4に照射された電子線エネルギーを正確に測定することができる。
【0022】
[第2の実施形態]
第2の実施形態に係る電子線照射システム1は、ステージ3の載置面3a上に更に複数の電子線検出器9が設けられている点で、第1の実施形態に係る電子線照射システム1と主に相違している。
【0023】
すなわち、第2の実施形態に係る電子線照射システム1においては、図3に示されるように、ステージ3の載置面3aにおいて、電子線検出器7から搬送軸線C2と直交する方向に沿って並設されるように電子線検出器9が複数配置されている。これによって、搬送軸線C2と直交する方向における試料4に照射された電子線エネルギー分布を導き出すことができる。なお、電子線検出器9はフォトダイオードであり、その検出面9aは導電性遮光膜9bで覆われている。
【0024】
[第3の実施形態]
第3の実施形態に係る電子線照射システム1は、電子線検出器7がステージ3の載置面3a上に載置されていない点で、第1の実施形態に係る電子線照射システム1と主に相違している。
【0025】
すなわち、第3の実施形態に係る電子線照射システム1においては、電子線検出器7が、チャンバ2の底面における電子線源6直下の位置に配置されている。また、電子線検出器7は移動アーム(移動手段)11と接続されている。この移動アーム11は、一端が電子線検出器7と接続されたアーム11aと、チャンバ2の底面に回動可能に固定されるとともにアーム11aの他端と接続された回動軸11bとからなる。
【0026】
移動アーム11は、ステージ3が電子線Eの照射位置に向かって移動してきたときに、そのステージ3と電子線検出器7とが接触しないように、回動軸11bの回動によって電子線源6直下の位置に対して電子線検出器7を進退させるものである。
【0027】
以上のような構成により、電子線源6から直接電子線Eを照射されている電子線検出器7が、移動アーム11によって電子線源6直下の位置に対して退き、その後、ステージ3に載置された試料4が電子線源6から直接電子線Eを照射される。また、ステージ3が通過した後に再び電子線検出器7を電子線源6直下の位置に配置する。これによって、電子線検出器7に、試料4と同等の電子線Eが照射されることとなるため、電子線検出器7の測定結果から試料4に照射された電子線エネルギーを正確に導き出すことができる。
【0028】
更に、試料4が電子線源6直下の位置に到達する前に電子線検出器7を配置させることにより、条件通りの電子線出力が出ているか否かを確認することができ、到達した後に電子線検出器7を配置させることにより、試料4に電子線Eが照射されている間に条件が変化していないか否かを確認することができる。
【0029】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、電子線照射システム1においては、アルミに代えてクロムやタングステン等によって導電性遮光膜7b,9bを形成してもよい。
【0030】
また、電子線照射システム1においては、電子線検出器7の検出結果を電子線源6にフィードバックさせることによって電子線Eの出射量を制御してもよい。
【0031】
また、電子線検出器7,9はシリコンフォトダイオードに限定されず、CCD素子(この場合は二次元検出も可能)やゲルマニウム、ガリウム砒素、CdTe、CdZnTe等を用いた検出素子であってもよい。
【0032】
なお、第3の実施形態において、チャンバ2の底面における電子線源6直下の位置に、移動アーム11に接続させることなく電子線検出器7を配置し、その電子線検出器7の上方をステージ3が通過するような構成としてもよい。このような構成によっても、第3の実施形態に係る電子線照射システム1と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】第1の実施形態に係る電子線照射システムの概略構成図である。
【図2】図1に示された電子線照射システムのステージを上方から見た図である。
【図3】第2の実施形態に係る電子線照射システムのステージを上方から見た図である。
【図4】第3の実施形態に係る電子線照射システムのステージを上方から見た図である。
【符号の説明】
【0034】
1…電子線照射システム、2…チャンバ、3…ステージ(搬送手段)、4…試料、6…電子線源、7,9…電子線検出器、7a,9a…検出面、7b,9b…導電性遮光膜、11…移動アーム(移動手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線を出射する電子線源と、
前記電子線が照射される試料を収容するチャンバと、
前記チャンバ内に配置され、前記電子線を検出する電子線検出器と、を備え、
前記電子線検出器の検出面は、前記電子線を透過させ且つ光を遮断する導電性遮光膜で覆われることを特徴とする電子線照射システム。
【請求項2】
前記電子線検出器は、シリコンフォトダイオードであることを特徴とする請求項1記載の電子線照射システム。
【請求項3】
前記導電性遮光膜は、接地電位とされていることを特徴とする請求項1又は2記載の電子線照射システム。
【請求項4】
前記電子線検出器は、前記電子線源の電子線出射軸線上に配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の電子線照射システム。
【請求項5】
前記電子線源の電子線出射軸線と交差する搬送軸線に沿って前記試料を搬送する搬送手段を備え、
前記電子線検出器は、前記搬送軸線上に位置するように前記搬送手段に配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の電子線照射システム。
【請求項6】
前記電子線源の電子線出射軸線と交差する搬送軸線に沿って前記試料を搬送する搬送手段を備え、
前記電子線検出器は、前記搬送軸線と交差する方向に沿って並設されるように前記搬送手段に複数配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の電子線照射システム。
【請求項7】
前記電子線源の電子線出射軸線上に対して前記電子線検出器を進退させる移動手段を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の電子線照射システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−128972(P2008−128972A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−317503(P2006−317503)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】