説明

電子線照射装置

【課題】特別な窒素ガスチャンバー等を用いることなく、簡易な構成で、不活性ガスの使用量を少なくすることができる電子線照射装置を提供する。
【解決手段】照射室20の内部には、被処理物に電子線を照射する処理が行われる照射空間21が含まれている。電子線発生部10で発生した電子線は、照射窓部30を介して照射空間21内に取り出される。被処理物は、搬送装置40により、照射空間21を通過するように搬送される。照射空間21は、照射窓部30と、照射空間21を通過した電子線を捕捉するビームキャッチャー50と、被処理物の搬送を妨げることなく、電子線の照射方向に略平行に設けられた外枠部210とにより囲まれた空間として構成される。ガス供給部60は、電子線照射処理の際、照射空間21内に不活性ガスを供給することにより、照射空間21内の照射雰囲気を不活性ガス雰囲気とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線を被処理物に照射して、被処理物に所望の処理を施す電子線照射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子線照射装置は、被処理物の表面における重合や架橋処理、被処理物の殺菌処理等、様々な用途に使用されている。この電子線照射装置では、線状のフィラメントから放出された熱電子を電子線として取り出し、この電子線を加速管内の真空空間で加速した後、照射窓部を介して照射室内に取り出し、照射室内を搬送される被処理物に照射することにより、所望の処理を行う。
【0003】
通常、電子線照射時に、照射室内は不活性ガスの雰囲気とされる。ここで、不活性ガスとは、照射室内の物質と反応しないガスを意味し、例えば窒素ガスやアルゴンガス等がこれに該当する。具体的に、被処理物の表面に塗布された放射線硬化性樹脂の硬化処理を行う場合には、照射室内の雰囲気を窒素ガスで置換する。これは、照射室内に酸素が存在すると、電子線を照射することで生成されたラジカルが酸素と反応してしまい、樹脂の硬化(重合)反応が阻害されてしまうからである。また、照射室内の雰囲気を大気雰囲気にしたまま、電子線照射処理を行うと、照射室内にオゾンが発生する。この発生したオゾンは大気中の窒素と結合して一酸化窒素や二酸化窒素等のNOガスとなり、さらにNOガスは大気中の水分と結合して硝酸(HNO)となって、照射室内の各部材を腐食させたり、被処理物に対して劣化等の悪影響を与えたりする。また、オゾンそのものも酸化力があり、装置内部に錆を生じさせたり、装置内部の部材を腐食したりする。このため、照射室内の雰囲気を窒素ガス等の不活性ガス雰囲気としている。尚、照射室内の雰囲気を不活性ガスで置換せず、空気雰囲気中で電子線を照射する場合がある。この場合には、排気装置を用いて、オゾンを含んだ照射室内の雰囲気を装置外部に放出すると共に、その放出の際に、オゾンを取り除くためのオゾン分解触媒を使用している。このようにオゾンを処理するには、触媒費用等を必要とし、これがコスト高の原因になっている。
【0004】
特に、最近では、照射室内における照射窓部の直下に窒素ガスチャンバーを設け、この窒素ガスチャンバーの中で被処理物に電子線を照射する電子線照射装置が案出されている(例えば、特許文献1参照。)。この窒素ガスチャンバーは、被処理物がその中を通過することができ、しかも一時的に窒素ガスを高濃度で保有できるような特別な構造の容器である。かかる窒素ガスチャンバーを用いることにより、窒素ガスを照射室の全体に供給する必要がなくなるので、窒素ガスの使用量を節約することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−69456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、窒素ガスを一時的に窒素ガスチャンバーの中に局在させることにより、窒素ガスの使用量を少なくして、窒素ガスのコストを低減することができる。しかし、その一方で、特別な窒素ガスチャンバーを必要とするので、その窒素ガスチャンバーを製造するのに大きなコストがかかる。このため、特別な窒素ガスチャンバー等を用いることなく、簡易な構成で、窒素ガス等の不活性ガスの使用量を少なくすることができる電子線照射装置の実現が望まれている。
【0007】
本発明は上記事情に基づいてなされたものであり、特別な窒素ガスチャンバー等を用いることなく、簡易な構成で、不活性ガスの使用量を少なくすることができる電子線照射装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するための本発明に係る電子線照射装置は、電子線を発生する電子線発生部と、被処理物に電子線を照射する処理が行われる照射空間を内部に含んでおり、被処理物に電子線を照射する処理の際に二次的に発生するX線を遮蔽するための照射室と、電子線発生部内の真空雰囲気と照射空間内の照射雰囲気とを仕切ると共に電子線を照射空間内に取り出す照射窓部と、照射室内において被処理物が照射空間を通過するように被処理物を搬送する搬送手段と、照射窓部に対向して設けられた、照射空間を通過した電子線を捕捉する電子線捕捉部と、被処理物に電子線を照射する処理が行われている間、不活性ガスを照射空間内に供給することにより、照射空間内の照射雰囲気を不活性ガス雰囲気とするガス供給手段と、を備えて構成される。ここで、照射空間は照射窓部及び電子線捕捉部により挟まれた空間であって、照射窓部及び電子線捕捉部が設けられていない照射空間の側部のうち少なくとも一部には、被処理物の搬送を妨げることがないように構成された側壁部が設けられており、電子線の照射方向に沿った照射空間の大きさは、大きくても不活性ガス雰囲気中における電子線の飛程の1倍の大きさであり、且つ、被処理物の搬送方向に沿った照射空間の大きさは、大きくても不活性ガス雰囲気中における電子線の飛程の1/2倍の大きさである。
【0009】
本発明では、既存の電子線捕捉部を利用して、照射窓部と電子線捕捉部と側壁部とにより仕切られた空間を照射空間としたことにより、従来のように特別な窒素ガスチャンバー等を用いて照射空間を構成する場合に比べて、照射空間を簡易に構成することができると共に照射空間の大きさを小さくすることが可能である。また、電子線の照射方向に沿った照射空間の大きさは、大きくても不活性ガス雰囲気中における電子線の飛程の1倍の大きさであり、且つ、被処理物の搬送方向に沿った照射空間の大きさは、大きくても不活性ガス雰囲気中における電子線の飛程の1/2倍の大きさである。しかも、ガス供給手段は、照射室全体ではなく、照射空間のみに不活性ガスを供給する。このため、本発明では、特別な窒素ガスチャンバー等を用いることなく、簡易な構成で、不活性ガスの使用量を少なくして、そのコストの低下を図ることができると共に、照射空間内を通過する被処理物に確実に電子線を照射することができる。
【0010】
尚、被処理物は連続するシート状部材や連続する線状部材であってもよい。特に、被処理物が連続する線状部材である場合には、搬送手段は、被処理物が照射空間内を複数回往復して通過するように、被処理物を搬送することが望ましい。これにより、電子線を線状部材にムラなく略均一に照射することができる。
【0011】
また、電子線捕捉部は、電子線の照射方向に沿って上下に移動可能に構成されていることが望ましい。これにより、被処理物の大きさに応じて照射空間の大きさを容易に変更することができると共に、照射窓部等のメンテナンスを容易に行うことができる。
【0012】
更に、電子線捕捉部は、当該電子線捕捉部自身を冷却する冷却手段を備えていることが望ましい。これにより、電子線照射時における電子線捕捉部の温度上昇を抑制することができる。
【0013】
また、ガス供給手段は、被処理物に電子線を照射する処理が行われている間、照射空間内の残存酸素濃度が100ppm以上3000ppm以下の範囲の値となるように、不活性ガスを前記照射空間内に供給することが望ましい。これにより、照射空間内の酸素濃度を十分に低くしているので、オゾン発生を確実に抑制することができる。
【0014】
更に、照射空間を形成する側壁部には、被処理物を通過させるための出入り口部が形成されており、ガス供給手段は、被処理物に電子線を照射する処理が行われている間、照射空間内の気体圧力が照射空間以外の照射室内の気体圧力よりも高くなるように、不活性ガスを照射空間内に供給することが望ましい。これにより、空気が照射空間以外の照射室から照射空間内へ流入するのを防ぐことができるので、オゾン発生を確実に抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の電子線照射装置では、特別な窒素ガスチャンバー等を用いることなく、簡易な構成で、窒素ガス等の不活性ガスの使用量を少なくして、そのコストの低下を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は本発明の一実施形態である電子線照射装置の概略構成図である。
【図2】図2はその電子線照射装置の概略部分拡大断面図である。
【図3】図3はその電子線照射装置の電子線発生部の概略回路図である。
【図4】図4はその電子線照射装置の照射室内に設けられているプーリ多重構造体の概略側面図である。
【図5】図5はその電子線照射装置の照射室内に設けられている外枠部の概略斜視図である。
【図6】図6はビームキャッチャーの上部が外枠部の下部に嵌め込まれた様子を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、図面を参照して、本願に係る発明を実施するための最良の形態について説明する。図1は本発明の一実施形態である電子線照射装置の概略構成図、図2はその電子線照射装置の概略部分拡大断面図、図3はその電子線照射装置の電子線発生部の概略回路図である。
【0018】
本実施形態の電子線照射装置は、電子線を被処理物に照射して、被処理物に所望の処理を施すものである。被処理物に施す処理としては、被処理物の表面における重合や架橋処理、被処理物の殺菌処理等、いろいろな処理がある。また、被処理物としては、ペットボトルやゴムロール等の立体物、フィルムや紙等のシート状部材、電線、チューブ等の線状部材など、さまざまなものを用いることができる。特に、本実施形態では、被処理物として電線を用いる場合を考える。例えば、本実施形態で用いる電線の直径は0.8〜3.0mmである。電線は、導体と、その導体を被覆する絶縁体(被覆部)とを有している。ここで、被覆部の素材としては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン等が用いられている。この被覆部の厚さは0.2〜1.3mmである。被覆部に電子線を照射することにより、被覆部に架橋処理を施して、被覆部の耐熱性等の特性を向上させることができる。
【0019】
本実施形態の電子線照射装置は、図1及び図2に示すように、電子線発生部10と、照射室20と、照射窓部30と、搬送装置40と、ビームキャッチャー(電子線捕捉部)50と、ガス供給部60とを備えるものである。ここでは、具体的に、電子線照射装置として、加速電圧が50kV〜300kVである低エネルギー電子線照射装置を使用している。
【0020】
電子線発生部10は、図2に示すように、電子線を発生するターミナル11と、ターミナル11で発生した電子線を真空空間(加速空間)で加速する加速管12とを有するものである。ターミナル11は、熱電子を放出する線状のフィラメント11aと、フィラメント11aを支持するガン構造体11bと、フィラメント11aで発生した熱電子をコントロールするグリッド11cとを含む。
【0021】
加速管12は円筒形状に形成されており、その中心軸が略水平方向を向くように設置されている。この加速管12の中心軸に沿ってフィラメント11aが配置されている。この加速管12には、電子線照射時に二次的に発生するX線が外部へ漏出しないように、鉛遮蔽が施されている。尚、加速管12(電子線発生部10)の内部は、電子が気体分子と衝突してエネルギーを失うことを防ぐため、及びフィラメント11aの酸化を防止するため、図示しないポンプ等により10−4〜10−5Paの真空に保たれている。
【0022】
照射室20は、図1に示すように、電子線発生部10の下側に設けられている。この照射室20の左側部には、被処理物Aを外部から照射室20内に取り入れるための入口部25が設けられ、照射室20の右側部には、被処理物Aを照射室20内から外部に取り出すための出口部26が設けられている。
【0023】
この照射室20内には、被処理物Aを搬送する搬送装置40が設置されている。被処理物Aは、搬送装置40により照射室20内を所定の経路に沿って搬送される。そして、図2に示すように、被処理物Aが照射窓部30の近傍を通過する際に、その照射窓部30から照射室20内に取り出された電子線がその被処理物Aに照射される。以下では、照射室20内において被処理物Aが通過する照射窓部30の近傍領域を、照射空間21と称することにする。すなわち、照射空間21とは、電子線を被処理物Aに照射する処理が行われる空間のことである。尚、この照射空間21の周囲のうち電子線の照射方向に略垂直な方向の側の周囲には外枠部210が形成されている。この外枠部210は照射空間21を規定する一要素である。外枠部210については後に詳述する。
【0024】
また、照射室20は、電子線照射時に照射室20内で二次的に発生したX線が外部へ漏出しないような構造になっている。すなわち、照射室20それ自体がX線遮蔽構造体となっている。この照射室20は、例えば鉛やステンレス等の材料で形成されている。
【0025】
ガス供給部60は、被処理物Aに電子線を照射する処理が行われている間、不活性ガスを照射空間21内に供給することにより、照射空間21内の照射雰囲気を不活性ガス雰囲気とするものである。すなわち、本実施形態では、被処理物Aに電子線を照射する処理の際には、照射空間21内の雰囲気を不活性ガスで置換することにしている。照射空間21内に酸素が存在すると、電子線を照射することによりオゾンが発生する。かかるオゾンの発生は、照射室20内の各部材を劣化させたり、被処理物Aに対して劣化等の悪影響を及ぼしたりする原因となる。このため、照射空間21内の雰囲気を不活性ガス雰囲気とすることにより、オゾン発生を抑制することにしているのである。尚、「不活性ガス」とは、照射室20内の物質と反応しないガスを意味する。例えばヘリウムガス、アルゴンガス、窒素ガス等が不活性ガスに該当する。以下では、不活性ガスとして窒素ガスを用いる場合を考える。
【0026】
また、照射室20の上板部であって照射窓部30の近傍の位置には、図2に示すように、窒素ガスを照射空間21内に放出するためのノズル部28a,28bが設けられている。ここで、窒素ガスは、ガス供給部60から供給管29a,29bを通じてノズル部28a,28bに供給される。また、ノズル部28a,28bから照射空間21内に放出される窒素ガスの吹出し方向は、電子線の照射方向と略平行な方向としている。尚、窒素ガスの吹出し方向は、窒素ガスが照射空間21の中央に向かうように斜め方向としてもよい。これにより、実際に被処理物Aに電子線が照射される領域に窒素ガスを集中させることができる。
【0027】
照射窓部30は、図2に示すように、金属箔からなる窓箔31と、窓枠部32と、クランプ板33とを有する。窓枠部32は、窓箔31を冷却すると共に窓箔31を支持するものである。クランプ板33は、照射室20の側から窓箔31を押さえるものである。窓箔31は、電子線発生部10内の真空雰囲気と照射空間21内の照射雰囲気とを仕切ると共に、窓箔31を介して電子線発生部10から照射空間21へ電子線を取り出すためのものである。窓箔31に使用する金属としては、電子線発生部10内の真空雰囲気を十分維持できる機械的強度があって、電子線が透過しやすいように比重が小さくて肉厚が薄く、しかも耐熱性に優れたものが望ましい。
【0028】
また、電子線照射装置には、図3に示すように、フィラメント11aを加熱して熱電子を発生させるための加熱用電源71と、フィラメント11aとグリッド11cとの間に電圧を印加する制御用直流電源72と、グリッド11cと窓箔31との間に電圧(加速電圧)を印加する加速用直流電源73とが備えられている。
【0029】
加熱用電源71によりフィラメント11aに電流を通じて加熱するとフィラメント11aは熱電子を放出し、この熱電子は、フィラメント11aとグリッド11cとの間に印加された制御用直流電源72の制御電圧により四方八方に引き寄せられる。このうち、グリッド11cを通過したものだけが電子線として有効に取り出される。そして、このグリッド11cから取り出された電子線は、グリッド11cと窓箔31との間に印加された加速用直流電源73の加速電圧により加速管12内の加速空間で加速された後、窓箔31を突き抜け、照射室20内の照射空間21を搬送される被処理物Aに照射される。尚、グリッド11cから取り出された電子線の流れによる電流値はビーム電流と称される。したがって、ビーム電流が大きいほど、電子線の量が多くなる。
【0030】
電子線照射装置では、加速電圧、ビーム電流、被処理物の搬送速度等を所定の値に設定して、被処理物に電子線を照射する処理が行われる。電子線に与えられるエネルギーは加速電圧によって決まる。すなわち、加速電圧を高く設定する程、電子線の得る運動エネルギーが大きくなり、その結果、電子線は被処理物の表面から深い位置まで到達することができるようになる。このため、加速電圧の設定値を変えることにより、被処理物に対する電子線の浸透深さを調整することができる。また、被処理物に電子線が照射されるときに被処理物が受けるエネルギーの量は吸収線量という値で表される。適切な吸収線量を被処理物に与えるためには、ビーム電流を制御することになる。通常は、加熱用電源71と加速用直流電源73とを所定の値に設定し、制御用直流電源72を可変にすることにより、ビーム電流の調整を行っている。被処理物が受ける吸収線量は、ビーム電流に比例し、被処理物の搬送速度に反比例する。このため、ビーム電流や被処理物の搬送速度を変えることにより、電子線の吸収線量を調整することができる。
【0031】
また、照射室20内には、ビームキャッチャー50が設けられている。ビームキャッチャー50は、図1及び図2に示すように、被処理物Aを介して照射窓部30と対向する位置に設置されている。このビームキャッチャー50は、照射空間21を通過してきた電子線を捕捉するものである。ここで、照射空間21を通過してきた電子線には、被処理物Aに照射されずにそのままビームキャッチャー50に到達した電子線だけでなく、被処理物Aを透過してビームキャッチャー50に到達した電子線も該当する。ビームキャッチャー50は、例えば、ステンレスやアルミニウム等で形成されている。尚、本実施形態では、このビームキャッチャー50は照射空間21を規定する一要素となっている。
【0032】
具体的に、ビームキャッチャー50は、図2に示すように、略直方体形状に形成されており、電子線を捕捉する役割を果たす平板状の本体部51と、その本体部51を支持する支持部52とを有する。ここで、このビームキャッチャー50は、本体部51が電子線の照射方向に沿って上下に移動可能であるように構成されている。かかるビームキャッチャー50の本体部51は、例えば複数のステンレス製角パイプの側面同士を接合することにより製作される。また、ビームキャッチャー50は水冷式の冷却手段を備えている。すなわち、上記の角パイプにより本体部51の内部には通路が形成されることになるので、この通路を冷却水用の流路として利用している。電子線は高い運動エネルギーを持っており、この電子線がビームキャッチャー50の本体部51に捕捉されると、その電子線の運動エネルギーが熱エネルギーに変換されて、ビームキャッチャー50の温度が上昇する。このため、本体部51の内部に冷却水を流通させることにより、ビームキャッチャー50を冷却することにしているのである。
【0033】
次に、被処理物Aの搬送方法及び搬送経路について詳しく説明する。上述したように、本実施形態では被処理物Aとして電線を用いている。通常、電線の断面は円形状であり、電線の種類に応じてその直径や被覆部の厚さが異なる。しかも、本実施形態では、電子線照射装置として低エネルギー電子線を照射するものを用いているので、被処理物Aに対する電子線の浸透深さは比較的浅い。このため、電線を照射空間21内に一回だけ搬送して、電子線を電線に照射することにすると、当該電線のうち照射窓部30に対向する側の部分とその反対側の部分とでは電子線の照射分布が不均一になってしまうおそれがある。そこで、本実施形態では、電線の被覆部に略均一に電子線を照射するために、電線が照射空間21内を複数回通過するように電線を搬送すると共に電線が照射空間21内を通過する度に電線を上下にひっくり返すという搬送方法を採用している。
【0034】
具体的に、搬送装置40は、図1に示すように、二つのプーリ41a,41bと、四つのプーリ多重構造体42a,42b,42c,42dとを備えている。プーリ41a,41bとしては通常のものを用いている。すなわち、プーリ41a,41bはそれぞれ略円板形状に形成されており、その側面には電線を嵌めるためのリムが形成されている。一方、図1の例では、四つのプーリ多重構造体42a,42b,42c,42dはいずれも同じ大きさ・形状を有している。図4はプーリ多重構造体42a,42b,42c,42dの概略側面図である。図4に示すように、各プーリ多重構造体42a,42b,42c,42dは、複数のプーリ421,421,・・・を備えている。複数のプーリ421,421,・・・は、それらの回転軸が一致するように重ねられている。このため、各プーリ多重構造体42a,42b,42c,42dの形状は、略円筒形状となっている。電線は各プーリ421のリム421aに嵌められた状態で搬送されることになる。尚、四つのプーリ多重構造体42a,42b,42c,42dは必ずしも同じ大きさである必要はない。
【0035】
図1に示すように、プーリ41aは入口部25の近傍に設置され、プーリ41bは出口部26の近傍に設置されている。プーリ多重構造体42aは照射空間21の左側に設置され、プーリ多重構造体42bは照射空間21の右側に設置されている。ここで、プーリ多重構造体42a,42bの設置高さは同じである。また、プーリ多重構造体42cはプーリ多重構造体42bとプーリ41bとの間に設置され、プーリ多重構造体42dはプーリ多重構造体42aとプーリ41aとの間に設置されている。ここで、プーリ多重構造体42c,42dの設置高さは同じである。一方、プーリ多重構造体42a,42bとプーリ多重構造体42c,42dとでは、それらの設置高さは若干異なっている。実際、プーリ多重構造体42a,42bは、プーリ多重構造体42c,42dよりも僅かな距離だけ低い位置に設置されている。
【0036】
電線は、これらのプーリ41a,41b及びプーリ多重構造体42a,42b,42c,42dにより、照射空間21内を複数回通過するように所定の搬送経路で搬送される。具体的に、電線の搬送経路に次のように設定されている。すなわち、図1に示すように、入口部25から照射室20内に入ってきた電線は、プーリ41aからプーリ多重構造体42aの上側に送られた後、そのプーリ多重構造体42aの上側から照射空間21内を通ってプーリ多重構造体42bの上側に送られる。そして、電線は、プーリ多重構造体42bの上側からプーリ多重構造体42cの下側に送られた後、プーリ多重構造体42cにおいてその下側から上側に転回する。すなわち、プーリ多重構造体42cは電線の搬送方向を反転させる役割をも果たしている。次に、電線は、プーリ多重構造体42cの上側から照射空間21内を通ってプーリ多重構造体42dの上側に送られる。そして、電線は、プーリ多重構造体42dにおいてその上側から下側に転回した後、プーリ多重構造体42aの上側に送られる。すなわち、プーリ多重構造体42dは電線の搬送方向を反転させる役割をも果たしている。その後は、電線をプーリ多重構造体42aからプーリ多重構造体42b,42c,42dを介して再びプーリ多重構造体42aに戻すという搬送動作が複数回繰り返される。ここで、プーリ多重構造体42c,42dにより電線の搬送方向が反転すると、その後、電線は、各プーリ多重構造体42a,42b,42c,42dにおいて前回に嵌められていたリム421aの一つ隣に位置するリム421aに嵌められて搬送されることになる。すなわち、電線が照射空間21内を通過する度に、電線の搬送位置は、例えば図1において紙面の裏側方向に少しずつずれていく。最後に、電線は、プーリ多重構造体42aの上側から照射空間21内を通ってプーリ多重構造体42bの上側に送られた後、プーリ41bを介して出口部26から外部に取り出される。
【0037】
尚、上述したように、プーリ多重構造体42a,42bは、プーリ多重構造体42c,42dよりも僅かな距離だけ低い位置に設置されている。具体的に、かかる距離は、プーリ多重構造体42cからプーリ多重構造体42dに送られる電線が、プーリ多重構造体42a,42bや、プーリ多重構造体42aからプーリ多重構造体42bに送られる電線に接触しないような距離であって、できる限り小さな距離に設定されている。
【0038】
このようにプーリ多重構造体42c,42dは電線の搬送方向を反転するので、電線がプーリ多重構造体42aからプーリ多重構造体42bに送られるときと、電線がプーリ多重構造体42cからプーリ多重構造体42dに送られるときとでは、電線の上下が逆転する。このため、プーリ多重構造体42aから照射空間21内を通ってプーリ多重構造体42bに送られるときに照射窓部30と対向している側の電線の部分は、プーリ多重構造体42cから照射空間21内を通ってプーリ多重構造体42dに送られるときに、照射窓部30と反対側を向くことになる。すなわち、電線は、照射空間21内を通過する度に上下逆にひっくり返される。しかも、電線がプーリ多重構造体42aからプーリ多重構造体42bに送られるときと、電線がプーリ多重構造体42cからプーリ多重構造体42dに送られるときとでは、電線は照射空間21内において照射窓部30から略同じ上下方向の位置を通過する。したがって、かかる搬送方法で電線を搬送することにより、電線の被覆部にはムラなく略均一に電子線を照射することができる。
【0039】
次に、照射空間21について詳しく説明する。本実施形態では、照射空間21は、従来のように特別な窒素ガスチャンバー等を用いて構成しているのではない。かかる特別な窒素ガスチャンバーを用いずに照射空間21を構成している点が本発明の一つの特徴点である。実際、図1及び図2に示すように、照射室20の上板部の内面であって照射窓部30の近傍には、外枠部210が取り付けられている。この外枠部210は、被処理物Aの搬送を妨げることなく、電子線の照射方向に略平行な方向に沿って設けられている。図5は外枠部210の概略斜視図である。外枠部210は、図5に示すように、上から見ると略四角形状に形成されており、四つの側壁部211,212,213,214を有する。このうち側壁部211,213にはそれぞれ、略四角形状の開口部211a,213aが形成されている。これらの開口部211a,213aは被処理物Aを通過させるための出入り口部である。また、側壁部212,214はそれぞれ、側壁部211と側壁部213との端部同士を連結している。これにより、外枠部210は枠状に形成されている。ここで、外枠部210の枠の形状は、ビームキャッチャー50の外形と略同じである。すなわち、外枠部210の内側にビームキャッチャー50を嵌め込むことができる。更に、電子線の照射方向に沿った各側壁部211,212,213,214の長さを長くしている。具体的に、その長さは、図1に示すように照射室20内の高さの約三分の一である。外枠部210は、側壁部211がプーリ多重構造体42aと対向すると共に側壁部213がプーリ多重構造体42bと対向するように照射室20の上板部の内面に取り付けられる。そして、ビームキャッチャー50の上部は外枠部210の下部に嵌め込まれている。図6はビームキャッチャー50の上部が外枠部210の下部に嵌め込まれた様子を説明するための図である。図6に示すように、本実施形態の電子線照射装置では、外枠部210とビームキャッチャー50との間の隙間を小さくしている。
【0040】
本実施形態では、外枠部210と、照射窓部30と、ビームキャッチャー50とにより囲まれた空間が照射空間21となる。上述したように外枠部210とビームキャッチャー50との間の隙間が小さく、しかも、両者の重なり合っている部分が長いので、外枠部210とビームキャッチャー50との間の隙間からX線が漏れたり窒素ガスが漏れたりするのを防止することができる。ここで、もし外枠部210とビームキャッチャー50との間の隙間が大きい場合には、例えばブラシ状の合成樹脂やゴム等の部材を用いて、その隙間からX線が漏れたり窒素ガスが漏れたりするのを防ぐことが望ましい。また、電子線の照射方向に沿った各側壁部211,212,213,214の長さはかなり長く、しかも、ビームキャッチャー50は電子線の照射方向に沿って上下に移動可能に構成されているので、ビームキャッチャー50を上下に移動するだけで、例えば被処理物Aの大きさに応じて照射空間21の大きさを容易に変更することができる。更に、ビームキャッチャー50を下降させることにより照射窓部30等のメンテナンスを容易に行うことができる。尚、図5の例では外枠部210の各側壁部211,212,213,214の下端部を外側に曲げているが、これはビームキャッチャー50を上方に移動するときに、ビームキャッチャー50が外枠部210の下端に当たらず、スムーズに上昇できるように案内するためである。
【0041】
このように、本実施形態では、ビームキャッチャー50を、照射空間21を規定する一要素として利用しているので、従来のように特別な窒素ガスチャンバー等を用いて照射空間を構成する場合に比べて、照射空間21を簡易に構成することができると共に照射空間21の大きさを変更することが可能である。実際、電子線の照射方向に沿った照射空間21の大きさ(照射窓部30とビームキャッチャー50との距離)は、大きくても照射雰囲気中における電子線の飛程の1倍の大きさであることが望ましい。照射空間21内を通過する被処理物Aに電子線を確実に照射するためである。また、被処理物Aの搬送方向に沿った照射空間21の大きさ(側壁部211と側壁部213との距離)は、大きくても照射雰囲気中における電子線の飛程の1/2倍の大きさであることが望ましい。電子線はその照射方向に直交する方向にはそれ程拡がらないからである。具体的に、本実施形態では、被処理物Aとして縦幅の小さなもの(電線)を用いているので、図1及び図2に示すように、電子線の照射方向に沿った照射空間21の大きさを、被処理物Aの搬送方向に沿った照射空間21の大きさよりもかなり小さくしている。尚、電子線の飛程は、加速電圧によって加速される電子の運動エネルギーを用いて計算することができる。
【0042】
また、本実施形態では、上述したように、ガス供給部60が、被処理物Aに電子線を照射する処理が行われている間、窒素ガスを照射空間21内に供給することにより、照射空間21内の照射雰囲気を窒素ガス雰囲気としている。このため、照射室20の全体ではなく照射空間21のみに窒素ガスを供給しているので、窒素ガスの使用量を少なくし、そのコストの低下を図ることができる。
【0043】
ところで、側壁部211,213には開口部211a,213aが形成されているため、外枠部210、照射窓部30及びビームキャッチャー50は、照射空間21を完全に密閉しているわけではない。照射空間21内の窒素ガスを高い濃度で維持するには、窒素ガスの流量を適切に調整することにより、窒素ガスが照射空間21内から外に流出していき、空気が外から照射空間21内へ流入しないようにする必要がある。このためには、ガス供給部60は、被処理物Aに電子線を照射する処理が行われている間、照射空間21内の気体圧力が照射空間21以外の照射室20内の気体圧力よりも高くなるように、窒素ガスを照射空間21内に供給すればよい。これにより、空気が照射空間21以外の照射室20から照射空間21内へ流入するのを防ぐことができ、したがって、オゾンの発生を確実に抑制することができる。
【0044】
また、実際、本発明者等が実験を行ったところ、照射空間21内でのオゾンの発生を確実に抑制するには、ガス供給部60は、被処理物Aに電子線を照射する処理が行われている間、照射空間21内の残存酸素濃度が最大でも3000ppmとなるように、窒素ガスを照射空間21内に供給すればよいことが分かった。一方、照射空間21内の残存酸素濃度は実用的には少なくとも100ppmとすることが望ましい。残存酸素濃度を100ppmよりも小さくするには、かえって大量の窒素ガスを必要とし、窒素ガスのコストが嵩んでしまうからである。但し、電子線照射によって引き起こされる被処理物の反応過程が100ppm以下の残存酸素濃度を要求する場合には、この限りではない。
【0045】
本実施形態の電子線照射装置では、既存のビームキャッチャーを利用して、そのビームキャッチャーと、照射窓部と、外枠部(側壁部)とにより囲まれた空間を照射空間としたことにより、従来のように特別な窒素ガスチャンバー等を用いて照射空間を構成する場合に比べて、照射空間を簡易に構成することができると共に照射空間の大きさを小さくすることが可能である。また、電子線の照射方向に沿った照射空間の大きさは、大きくても照射雰囲気中における電子線の飛程の1倍の大きさであり、且つ、被処理物の搬送方向に沿った照射空間の大きさは、大きくても照射雰囲気中における電子線の飛程の1/2倍の大きさである。しかも、ガス供給部は、照射室全体ではなく、照射空間のみに窒素ガスを供給する。このため、本実施形態では、特別な窒素ガスチャンバー等を用いることなく、簡易な構成で、窒素ガスの使用量を少なくして、そのコストの低下を図ることができると共に、照射空間内を通過する被処理物に確実に電子線を照射することができる。また、照射空間を窒素ガス雰囲気にして被処理物に電子線を照射することにより、電子線照射時にオゾンの発生を抑制することができるので、照射室内の部材の劣化を防ぐことができると共に、オゾン発生に伴う被処理物に対する劣化等の悪影響を低減することができる。
【0046】
また、本実施形態では、ビームキャッチャーを、電子線の照射方向に沿って上下に移動可能に構成したことにより、被処理物の大きさに応じて照射空間の大きさを容易に変更することができると共に、照射窓部等のメンテナンスを容易に行うことができる。更に、ビームキャッチャーが水冷式の冷却手段を備えていることにより、電子線照射時における電子線捕捉部の温度上昇を抑制することができる。
【0047】
尚、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内において種々の変形が可能である。
【0048】
例えば、上記の実施形態では、外枠部に形成する開口部の形状を略四角形状とした場合について説明したが、開口部として多数の孔を形成するようにしてもよい。この場合、電線はそれぞれの孔を通過することになる。これにより、照射空間の密閉度を高くすることができるので、窒素ガスが照射空間内から外に流出しにくくして、窒素ガスの使用量をさらに節約することができる。また、外枠部の開口部には、それを覆うように、ブラシ状の合成樹脂や多数の切り込みが入れられたゴム等の部材を設けるようにしてもよい。これにより、照射空間内の窒素ガスが外に流出しにくくすることができる。
【0049】
また、上記の実施形態では、窒素ガスを照射空間内に放出するためのノズル部(第一のノズル部)を、照射室の上板部であって照射窓部の近傍の位置に設けた場合について説明したが、かかる第一のノズル部に加えて、照射空間内において外枠部の開口部を対して窒素ガスを吹き付ける第二のノズル部を、照射室の上板部に設けるようにしてもよい。このとき、第二のノズル部から放出される窒素ガスの流速は第一のノズル部から放出される窒素ガスの流速よりも大きくしておく。電線が開口部から照射空間内に入ってくる際には、その電線は空気を一緒に照射空間内に引き込んでくることがある。第二のノズル部を設けることにより、開口部の近傍において電線と一緒に引き込まれた空気を剥ぎ取り、照射空間内の窒素ガスを十分高い濃度で維持することができる。
【0050】
更に、上記の実施形態において、外枠部及びビームキャッチャーは、X線を遮蔽する構造になっていることが望ましい。この場合、外枠部及びビームキャッチャーを、照射室と同様に、鉛やステンレス等の材料で形成すればよい。これにより、照射空間内で発生したX線を、外枠部及びビームキャッチャーで効果的に遮蔽することができるので、照射室についてはその壁を薄く形成しても、X線が外部に漏出するのを回避することができる。
【0051】
また、上記の実施形態では、外枠部として、図5に示すように四つの側壁部から構成される枠状の構造体を用いた場合について説明したが、例えば、互いに対向する二つの側壁部から構成される構造体を二つ作製し、この二つの構造体を組み合わせることにより外枠部を形成するようにしてもよい。
【0052】
また、上記の実施形態では、ビームキャッチャーと照射窓部と外枠部とにより囲まれた照射空間が略直方体形状になっている場合について説明したが、照射空間の形状は円筒形状等、任意の形状とすることができる。例えば、側壁部212,214を上から下に向かうにしたがってハの字状に開くように設け、側壁部211の側から見たときの照射空間の形状を略台形状としてもよい。
【0053】
更に、上記の実施形態では、ビームキャッチャーと照射窓部と外枠部とにより囲まれた空間を照射空間とした場合について説明したが、例えば、照射空間は照射窓部及び電子線捕捉部により挟まれた空間であって、照射窓部及び電子線捕捉部が設けられていない照射空間の側部のうち少なくとも一部に、被処理物の搬送を妨げることがないように構成された側壁部を設けるようにしてもよい。すなわち、上記の実施形態では、四つの側壁部を設けているが、側壁部は一つ、二つ又は三つだけ設けるようにしてもよい。この場合、照射空間の側部の一部は開放状態になるが、ガス供給部からの窒素ガスの流量を適切に調整することにより、照射空間内の窒素ガスを十分高い濃度で維持することができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上説明したように、本発明の電子線照射装置では、既存の電子線捕捉部を利用して、照射窓部と電子線捕捉部と側壁部とにより仕切られた空間を照射空間としたことにより、従来のように特別な窒素ガスチャンバー等を用いて照射空間を構成する場合に比べて、照射空間を簡易に構成することができると共に照射空間の大きさを小さくすることが可能である。また、電子線の照射方向に沿った照射空間の大きさは、大きくても不活性ガス雰囲気中における電子線の飛程の1倍の大きさであり、且つ、被処理物の搬送方向に沿った照射空間の大きさは、大きくても不活性ガス雰囲気中における電子線の飛程の1/2倍の大きさである。しかも、ガス供給手段は、照射室全体ではなく、照射空間のみに不活性ガスを供給する。このため、本発明では、特別な窒素ガスチャンバー等を用いることなく、簡易な構成で、不活性ガスの使用量を少なくして、そのコストの低下を図ることができると共に、照射空間内を通過する被処理物に確実に電子線を照射することができる。したがって、本発明は、電子線を被処理物に照射して、被処理物に所望の処理を施す電子線照射装置、特に低エネルギー電子線照射装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0055】
10 電子線発生部
11 ターミナル
11a フィラメント
11b ガン構造体
11c グリッド
12 加速管
20 照射室
21 照射空間
210 外枠部
211,212,213,214 側壁部
211a,213a 開口部
25 入口部
26 出口部
28a,28b ノズル部
29a,29b 供給管
30 照射窓部
31 窓箔
32 窓枠部
33 クランプ板
40 搬送装置
41a,41b プーリ
42a,42b,42c,42d プーリ多重構造体
421 プーリ
421a リム
50 ビームキャッチャー(電子線捕捉部)
51 本体部
52 支持部
60 ガス供給部
71 加熱用電源
72 制御用直流電源
73 加速用直流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線を発生する電子線発生部と、
被処理物に前記電子線を照射する処理が行われる照射空間を内部に含んでおり、前記被処理物に前記電子線を照射する処理の際に二次的に発生するX線を遮蔽するための照射室と、
前記電子線発生部内の真空雰囲気と前記照射空間内の照射雰囲気とを仕切ると共に前記電子線を前記照射空間内に取り出す照射窓部と、
前記照射室内において前記被処理物が前記照射空間を通過するように前記被処理物を搬送する搬送手段と、
前記照射窓部に対向して設けられた、前記照射空間を通過した前記電子線を捕捉する電子線捕捉部と、
前記被処理物に前記電子線を照射する処理が行われている間、不活性ガスを前記照射空間内に供給することにより、前記照射空間内の照射雰囲気を不活性ガス雰囲気とするガス供給手段と、
を備え、
前記照射空間は前記照射窓部及び前記電子線捕捉部により挟まれた空間であって、前記照射窓部及び前記電子線捕捉部が設けられていない前記照射空間の側部のうち少なくとも一部には、前記被処理物の搬送を妨げることがないように構成された側壁部が設けられており、
前記電子線の照射方向に沿った前記照射空間の大きさは、大きくても前記不活性ガス雰囲気中における電子線の飛程の1倍の大きさであり、且つ、前記被処理物の搬送方向に沿った前記照射空間の大きさは、大きくても前記不活性ガス雰囲気中における電子線の飛程の1/2倍の大きさであることを特徴とする電子線照射装置。
【請求項2】
前記電子線捕捉部は、前記電子線の照射方向に沿って上下に移動可能に構成されていることを特徴とする請求項1記載の電子線照射装置。
【請求項3】
前記電子線捕捉部は、当該電子線捕捉部自身を冷却する冷却手段を備えていることを特徴とする請求項1又は2記載の電子線照射装置。
【請求項4】
前記ガス供給手段は、前記被処理物に前記電子線を照射する処理が行われている間、前記照射空間内の残存酸素濃度が100ppm以上3000ppm以下の範囲の値となるように、前記不活性ガスを前記照射空間内に供給することを特徴とする請求項1、2又は3記載の電子線照射装置。
【請求項5】
前記照射空間を形成する前記側壁部には、前記被処理物を通過させるための出入り口部が形成されており、前記ガス供給手段は、前記被処理物に前記電子線を照射する処理が行われている間、前記照射空間内の気体圧力が前記照射空間以外の前記照射室内の気体圧力よりも高くなるように、前記不活性ガスを前記照射空間内に供給することを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の電子線照射装置。
【請求項6】
前記被処理物は連続するシート状部材であることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の電子線照射装置。
【請求項7】
前記被処理物は連続する線状部材であり、前記搬送手段は、前記被処理物が前記照射空間内を複数回往復して通過するように、前記被処理物を搬送することを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の電子線照射装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−230536(P2010−230536A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79215(P2009−79215)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000000192)岩崎電気株式会社 (533)
【Fターム(参考)】