説明

電子銃のための窓を形成する集束アノードを有する電子銃、ならびに照射および滅菌への該銃の応用

本発明は、電子銃のための窓を形成する集束アノードを有する電子銃、ならびに照射および滅菌への該銃の応用に関する。前記銃は、電子放出面8を有するカソード6と、チャンバ壁の1つに形成された電子に対して透過性があるアノード4とを含む真空チャンバ2を含む。アノードは、チャンバの内部と外部の間の圧力差に耐えるために、湾曲している。また、放出面も、湾曲しており、アノードと協調して、チャンバの外部で電子を集束させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アノードが、電子に対して透過性があり、電子銃の窓を形成する、電子銃に関する。
【0002】
本発明は、以下に特に応用可能である。すなわち、
例えば、塗料、ワニス、接着剤などの製品の重合、
表面の照射、
物体、特に、蓋、キャップ、びん、プリフォーム、ポット、熱成形フィルム、密閉フィルム(何らかの容器を密閉するのに使用されるフィルム)などの包装コンポーネント、ならびに、例えば、個々の柔軟性のある袋、または一続きの柔軟性のある袋の滅菌、
電子衝撃による溶接、
食品汚染除去処理、および
例えば、急冷やアモルファス化などの熱処理である。
【0003】
より一般的には、本発明は、レーザによって行われることが可能なタイプのイオン化である、集束された形態の低エネルギー入力を使用するすべてのイオン化アプリケーションのために使用することができる。
【背景技術】
【0004】
以下の文献を参照されたい。すなわち、
[1]Richard N.Cheeverの発明である、カナダ特許公開第1 118 180号明細書、「Process and apparatus for cold−cathode electron−beam generation for sterilization of surfaces and similar applications」、
[2]Michel Rocheの発明である米国特許第4 721 967号明細書、「electron gun printer having window sealing conductive plates」である。
【0005】
文献[1]は、冷陰極電子銃について説明する。この銃は、銃のアノードを形成し、そこを電子が通過して、物体の表面を照射する、またはその物体を滅菌する導電性の窓を含む。
【0006】
文献[2]は、電子銃と、電子に対して透明な曲面金属プレートによって形成された、いくつかの窓とを含むプリンタについて説明する。
【0007】
したがって、電子ビームを生じさせる電子銃のチャンバの外の、大気中で電子ビームをどのようにつくり出すかが知られている。そのチャンバの内部は、真空状態にあるので、電子ビームが通過する窓は、大気圧に耐えなければならない。
【0008】
この問題は、特に、チャンバから低エネルギーの電子(500keV以下の)を取り出すことが要求される場合に生じる。というのは、その場合、窓は、非常に薄くなければならないからである。そのケースでは、窓は、曲面に、例えば、柱面形に、ただし、好ましくは、球面形にされなければならない。
【0009】
しかし、別の問題が生じる。すなわち、電子ビームによる一部の照射に関して、電子ビームが集束させられることが有用である。
【0010】
これは、ビームの形状が、物体、例えば、ミルクのびんのキャップを適切に照射するのに、またはビームのエネルギーをある箇所に集中させて、溶接、切削、または表面処理のために要求される非常に高い出力密度が達せられるようにするのに重要である一部のケースでは、不可欠でさえある。
【0011】
しかし、従来の電子銃における集束要素群、ならびに偏向要素群および電子ビーム伝達要素群は、しばしば、非常に複雑であり、すべてのケースで、大きいことがよく知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、前述した欠点を修正することである。
【0013】
本発明の目的は、電子銃であり、特に、低エネルギー電子ビーム(500keV以下の)を出力することができる銃であり、この銃は、電子に対して透明であり、大気圧に耐える、アノードとしても、集束電極としても作用する曲面窓を含む。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、集束を行うために、曲面の光学特性を利用する。すなわち、本発明は、窓を形成するアノードに適用された曲率を、(大気圧に耐えるように)やはり湾曲しているカソードと協調させて使用する。
【0015】
具体的には、本発明の目的は、
真空(排気された)状態にあるように設計された、密封されたチャンバと、
チャンバ内部に配置され、電子を放出することができる放出面を含むカソードと、
チャンバの壁の1つに、その放出面に向かって形成され、その放出面によって放出された電子を、通過させることができる、密封された窓を形成するアノードと、
それらの電子をアノードに向かって加速させることができ、そのように加速された電子が、アノードを通過するビームを形成する、アノードとカソードの間の電圧をセットアップするバイアス手段とを含む電子銃であり、この電子銃は、アノードと放出面がそれぞれ、曲率を有し、アノードの曲率は、アノードが、チャンバの内部と外部の間の圧力差に耐えることができるようにし、放出面の曲率と協調して、電子ビームをチャンバの外部で集束させるように設計されていることを特徴とする。
【0016】
本発明による電子銃の1つの好ましい実施形態によれば、アノードとカソードの間にセットアップされた電圧は、500keV以下のエネルギーを電子に印加することができる。
【0017】
好ましくは、カソードの放出面は、加熱されると、電子を放出することができる放出層を含み、電子銃は、カソードを加熱する、したがって、この放出層を加熱する手段も含む。
【0018】
本発明の好ましい実施形態によれば、これらの加熱手段は、加熱されると、電子を放出し、それらの電子でカソードを衝撃することができるフィラメントを含み、カソードが、したがって、放出層がこのように、電子衝撃によって加熱される。
【0019】
本発明の1つの特定の実施形態によれば、アノードと、カソードの放出面は、同心球面の部分、または同軸の回転柱面の部分を形成する。
【0020】
アノードは、好ましくは、厚さが50マイクロメートル未満であることが可能な薄い金属シートを含む。
【0021】
本発明による電子銃の1つの好ましい実施形態によれば、バイアス手段は、パルスモードで電子を加速させるために、アノードとカソードの間でパルス電圧をセットアップするように設計される。
【0022】
そのケースでは、加熱手段がフィラメントを含むケースに相当する1つの特定の実施形態によれば、カソードを、アノードに対して、負のパルス高電圧にまで上昇させるバイアス手段が提供され、アノードは、接地され、これらのバイアス手段は、
負のパルス電圧を出力することができる補助手段と、
その負のパルス電圧を変圧して、負のパルス高電圧にすることができる変圧器とを含み、
この変圧器は、補助手段に接続された1次巻線と、3つの導線を含む2次巻線とを含み、これらの導線の2つは、フィラメントを加熱し、カソードに対して、そのフィラメントにバイアスをかけて、フィラメントによって放出された電子が、そのカソードに到達するようにするために備えられ、第3の導線は、カソードを負のパルス高電圧まで上昇させるように備えられる。
【0023】
アノードは、好ましくは、冷却手段を備える。
【0024】
それらの冷却手段は、好ましくは、アノードの周辺部の少なくとも一部分の上にガスを噴射する手段を含む。
【0025】
また、本発明は、少なくとも1つの物体の電子照射のための設備にも関し、この設備は、集束された電子ビームによって、その物体を照射する手段を含み、設備内部で、照射手段が、本発明による電子銃を含む。
【0026】
また、本発明は、物体の、特に、包装コンポーネントの電子滅菌のための設備にも関し、この設備は、集束された電子ビームによって、それらの物体を照射する手段を含み、設備内部で、照射手段が、本発明による電子銃を含む。
【0027】
本発明は、添付の図面を参照して、純粋に手引きのために、全く制限するものとしてではなく、以下に与えられる、以下の例示的な諸実施形態を読んだ後、よりよく理解されよう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
図1に断面が図示された本発明による電子銃は、真空状態にある密封されたチャンバ2、ならびにアノード4とカソード6を含む。カソード6は、チャンバ2内部に配置され、電子を放出することができる放出面8を含む。
【0029】
アノード4は、その放出面8に向かって、チャンバの壁の1つに形成され、電子に対して透明な密封された窓を形成する。このため、放出面によって放出された電子は、この窓を通過することができる。
【0030】
また、電子銃は、アノード4とカソード6の間で加速電圧Vaをセットアップして、カソードによって放出された電子をアノードに向かって加速させることができる電力供給手段10も含む。図1に示した実施例では、アノード4は、接地され、電圧Vaは、カソードに印加された負のパルス高電圧である。
【0031】
このように加速された電子は、アノード4を通過し、チャンバ2の外部にある、つまり、空気中のビーム12を形成する。
【0032】
本発明によれば、アノード4と放出面8はそれぞれ、湾曲している。アノードの曲率は、アノードが、真空状態にあるチャンバの内部と、大気圧にある、そのチャンバの外部との間の圧力差に耐えることを可能にする。さらに、アノードの曲率は、放出面の曲率と協調して、チャンバの外部で電子ビーム12を集束させる。
【0033】
図1の実施例では、後段でさらに説明する集束ゾーン14は、点または直線である。
【0034】
チャンバ2は、密封を真空状態に、より正確には、この実施例では、準真空状態に維持し、接地され、アノード4を支持する、例えば、ステンレス鋼でできた、第1のほぼ円筒形の金属部品16と、カソード6に接続され、したがって、負のパルス高電圧Vaに接続された第2のほぼ環状の金属部品20とを含む。
【0035】
図示した実施例では、アノード4は、後段でより詳細に説明する、金属シートから作られている。このシートの端部は、金属部品16とほぼ環状の部品17の間に固定されている。
【0036】
この部品17は、ねじ18によって金属部品16と接触して締め付けられる。この部品16と部品17の側で、チャンバは、図1で見て取ることができるとおり、金属シートと金属部品16の間で、金属シートと一緒に締め付けられる、例えば、インジウムでできた、金属シール19を使用して密封される。
【0037】
金属部品20は、チャンバ2の後壁を形成するフランジ21によって閉じられる。フランジ21は、アノード4を支持する壁、すなわち、前壁と向かい合わせである。ねじ22が、フランジ21を金属部品20と接触して締め付けるのに使用される。
【0038】
この部品20の側で、チャンバは、図1で見て取ることができるとおり、金属部品20とフランジ21の間で締め付けられる、例えば、インジウムでできた、別の金属シール23によって密封される。
【0039】
図1の銃は、500keVを超えない、低エネルギーのパルス電子ビームを出力するように設計される。例えば、5kWの電力を有する250keVのビームが生じさせられることが可能であるが、これは、全く限定するものではない。
【0040】
カソード6は、アノードに向かう面が、電子を放出する面8を形成する、例えば、ニッケルでできた、金属部品24を含む。これを実現するため、加熱されると、電子を放出し、例えば、ニッケル粉末と、焼結された炭酸バリウムの混合から成ることが可能な、数十ミリメートルの薄い層26が、その面8の上に付着させられる。
【0041】
例えば、水素雰囲気中で、1000℃で焼結された5%ないし10%の量のBaCOが、使用されることが可能であるが、これは、全く限定するものではない。
【0042】
部品24を加熱する、したがって、層26を加熱する手段28が提供される。この実施例では、手段28は、加熱されると、電子を放出する、例えば、タングステンでできたフィラメント30を含む、電子衝撃による加熱手段から成る。
【0043】
セラミックス金属タイプの2つのシールクロッシング34および35が、フランジ21上に溶接され、図1で見て取ることができるとおり、それぞれ金属ロッド36および38を介したフィラメント30の電力供給のために使用される。
【0044】
部品24に面したフィラメント30は、ねじ40および42などのセラミックねじによって支持されて、カソードからフィラメントを電気的に絶縁する。当然、このフィラメントは、連続的であるが、図1では、フィラメントの2つの終端部だけを見ることができ、残りの部分は、図の平面の「背後」に留まっている。
【0045】
見て取ることができるとおり、カソードは、通気穴46を備え、例えば、TIG溶接などのスポット溶接45によって、部品24にまず、固定され、他方の終端部でフランジ21に固定された、ステンレス鋼でできた別の部品44を含む。
【0046】
部品44は、ねじ40および42のようなセラミックねじで取り付けられ、中空である。つまり、図1で見て取ることができるとおり、ロッド36および38が、部品44を貫通し、セラミックリング48によって部品44から電気的に絶縁されている。
【0047】
カソード6からの、したがって、ニッケル部品24からのフィラメント30の電気絶縁は、この部品とフィラメントの間に適切なバイアス電圧をかけて、フィラメントによって放出された電子で部品24を衝撃することを可能にし、したがって、この部品を加熱することを可能にする。
【0048】
この実施例では、フィラメントには、カソードに対して、−500Vに負のバイアスがかけられる。
【0049】
チャンバ2は、高い電圧に耐える電気絶縁体を形成し、チャンバの部品16と部品20を互いに固定されて保持する、ほぼスリーブの形態の、第3の部品50を含む。例えば、アルミナでできたセラミック絶縁体を使用することが好ましい。
【0050】
この絶縁体の2つの終端部におけるセラミックス金属タイプのろう付け52が、絶縁体50と金属部品16および20の間の接続を封止する。
【0051】
この実施例では、アノード4と、部品24の面8が、同心球面の部分を形成することが可能であり、その場合、電子ビーム12の集束ゾーン14は、点であり、あるいは、アノード4と面8は、同軸の回転柱面の部分を形成することが可能であり、その場合、このゾーンは、直線(柱面の共通の軸に平行であり、その場合、この軸は、図1の平面に垂直である)である。
【0052】
図1で見て取ることができるとおり、電子放出層26は、部品24の端部よりわずかに前で止まり、電圧Vaの印加によって加速器空間(つまり、アノードとカソードの間の空間)内で生じさせられた電界が、エッジ効果によって影響されないゾーン内でだけ、電子ビーム12を加速するようにしている。
【0053】
電子ビーム12は、基本的に、界が、好ましくは、160kV/cmを超えることがほとんどない、この加速器空間内における電界線の集束によって集束させられる。参考として、全く限定するものとしてではなく、アノード4とカソード6の間で1.5cmの距離を設けることにより、250keVのビームが生じさせられ、上述の条件を満たす電界がもたらされる。
【0054】
アノード4は、薄い金属シートから成り、好ましくは、チタンまたはアルミニウムでできている。このシートの厚さは、電子ビームに要求されるエネルギーが低くなるにつれ、低下しなければならない。
【0055】
500keVを超えないビームの場合、50マイクロメートル未満の厚さを有するシートを使用することが好ましい。
【0056】
例えば、図1の電子銃は、35mmに相当する曲率半径を有し、有利には、10μmから15μmまでの厚さを有する、球面形のチタンシートを使用することが可能である。
【0057】
図1の銃の窓を形成するアノード4は、この窓の周辺部の少なくとも一部分の上に、例えば、この周辺部の半分の上に、または場合により全部の上に、空気をはねかける手段54を備えて、窓を冷却するようにしている。
【0058】
見て取ることができるとおり、これらの手段54は、要求される周辺部分の上に圧縮空気吸気口56を含み、この吸気口56には、矢印58によって表される手段によって圧縮空気が供給される。
【0059】
アノードの周辺部に向けられる空気を極めて徹底的に濾過して、空気が、ダストを含むことを完全に防止することが好ましい。このダストは、アノードに付着する可能性があり、アノードにおいて、ダストが、電子ビームによって加熱され、すると、アノードへの浸入が生じさせられる可能性がある。
【0060】
また、図1の電子銃には、実用的に制御された雰囲気(例えば、窒素雰囲気)でアノードを冷却して、電子銃の動作中にオゾン(危険なガス)の形成を防止するための吸込手段(図示せず)も取り付けられることが可能である。
【0061】
さらに、図1の銃が動作するようにされる前に、チャンバ2内で真空が生じさせられる。すなわち、チャンバ2内で準真空が、つまり、10−5Pa以下の圧力が生じさせられる。
【0062】
この真空は、「超真空(ultra−vide)」技術だけが使用されるという条件付きで、かつ、チャンバ内で準真空を生じさせる際に、高い温度、例えば、300℃で長時間の脱ガス処理が行われるという条件付きで、かつ、その後、ゲッタ(図示せず)が、チャンバ内でそのように得られた準真空を維持するのにチャンバ内で使用されるという条件付きで、チャンバ内で「静的に」維持されることが可能である。
【0063】
変種として、この準真空は、チャンバ2内で生じさせられ、次に、例えば、イオンポンプ60を使用して、「動的」に維持されることも可能である。
【0064】
例えば、図1の電子銃は、長さおよそ400mm、直径およそ50mmの円柱の形態であることが可能であり、ただし、これは、全く限定するものではない。
【0065】
本発明による電子銃の1つの好ましい実施形態は、2つの原理に、すなわち、パルスモードにおける加速、および「ダイオード」モードにおける加速に基づく。図1の電子銃は、この好ましい実施形態の実施例である。
【0066】
パルスモードにおける加速に関して、銃に常時の電子加速電圧を印加して、低い電子流、例えば、10mAを出力する代わりに、電子加速電圧は、銃が使用される時間のうち、ほんの少しの間だけ、好ましくは、その時間の1/1000の間だけ、印加される。例えば、この電圧は、500Hzの繰返し率で、2マイクロ秒にわたって印加されるが、当然、電流は、1000倍高くなければならず、したがって、10Aに相当しなければならない。
【0067】
パルスモードにおける加速は、電気絶縁制約が小さくなるという利点を有し、電気絶縁制約は、短いパルスに関して、はるかに厳しくない(降伏の確率は、電圧印加時間の平方根とともに変化する)。結果は、高電圧発生機および電子銃のサイズおよび費用が低減されることである。
【0068】
さらに、この銃が小型であることは、多くの補足的な利点、特に、遮蔽ボリュームが小さくなるという利点を有する。
【0069】
図2は、本発明による電子銃の、例えば、図1の銃のカソードに印加されて、そのカソードによって放出される電子を加速させることが可能な負のパルス高電圧Vaの、時刻tにつれての変化を示す。
【0070】
この電圧Vaの最小(負の)値は、Vmで表される。したがって、Vmは、銃使用時間のうち、ほんの少しの間だけにわたって、カソードに定期的に印加される電圧の値である。
【0071】
「ダイオード」モードにおける加速は、電子を加速させる可能な最も単純な方法である。すなわち、電子は、図3に図示する(さらに、図1に示された実施例におけるカソード6およびアノード3にそれぞれ対応する)熱陰極62とアノード64の間で加速される。
【0072】
また、電圧Vaをカソード62に印加するための手段66も示されており、アノード64は、接地されている。
【0073】
得られる電子銃の単純さは、この加速モードでは、アノードが、ほとんどの使用ケースに適合した、よく制御されたビーム幅で、大気中に電子が出るための必要な窓としても作用することを考慮すると、明白となる。
【0074】
従来の電子加速器において使用される電子ビーム集束要素、偏向要素、および伝達要素は、すべて無くされ、それらの要素は、しばしば、非常に複雑であり、いずれにしても、大きい。
【0075】
既に述べたとおり、アノードは、このアノードの薄さにもかかわらず、大気圧に耐えるのに必要であり、また、電子ビーム68(図3)を加速器空間内で直接に集束させて、集束領域70が、電子銃の外部にあるようにする曲率(大気側の観察者に対して凹面の向きの)を有する。
【0076】
図4は、図1の電子ビームのための電力供給手段10の実施例を図示する。
【0077】
これらの手段10は、負のパルス高電圧Vaをカソード6に印加すること、このカソード6に対して、フィラメント30にバイアスをかけること、およびこのフィラメントを加熱することができ、アノード4は、接地されている。
【0078】
これらの手段10は、負のパルス高電圧を得るのに使用される変圧器72を含む。この変圧器72は、有利には、油によって行われることが可能な非常に良好な電気絶縁、および低い漏れインダクタンスを基本的に特徴とする。
【0079】
この低い漏れインダクタンスは、出力パルスに関して、十分に急勾配の立ち上がりを得るのに必要であり、これらの立ち上がりの時間は、例えば、1マイクロ秒に相当し、したがって、実際の高電圧が、電子銃に印加される時間が、最小限に抑えられる、例えば、数マイクロ秒に抑えられることが可能であるようにする。
【0080】
この変圧器72の2次巻線74は、3つの導線を有するケーブル76を使用して巻かれて、高い電圧が、カソードに印加されることが可能であるようにするが、また、大地電位から、フィラメント30を加熱し、このフィラメントとカソード6の間で負の電圧Vfを印加して、カソードに対して、フィラメントに負のバイアスをかけるようにし、例えば、800℃程度の高い温度まで、電子衝撃によってカソードを加熱するようにもする。
【0081】
このため、電圧Vfは、カソード6の温度を制御する。この温度自体は、カソードの放射率を制御する。
【0082】
これらすべての制御、すなわち、カソードにパルス高電圧を印加するための制御、フィラメントを加熱するための制御、およびカソードに対して、フィラメントにバイアス電圧を印加するための制御は、非常に高い電圧パルスの存在にもかかわらず、接地電位から非常に簡単に行われることに留意されたい。
【0083】
変圧器72は、この変圧器の1次巻線78に接続され、変圧器により変圧されて、負のパルス高電圧にされる負のパルス電圧を変圧器に供給するように設計された非対称ブリッジ80を介して制御される。
【0084】
この非対称ブリッジ80は、2つのスイッチングトランジスタ82および84、ならびに2つのダイオード86および88を含み、これらのダイオードおよびトランジスタは、図4で見ることができるとおり、配置される。2つのダイオード86および88は、変圧器72を減磁することを可能にする。2つのトランジスタ82および84は、好ましくはIGBTトランジスタ、つまり、絶縁ゲートバイポーラトランジスタである。
【0085】
さらに、トランジスタ82および84は、電圧に必要とされるパルス繰返し数を得るための、図示されていない手段によって制御される。
【0086】
例えば、それらの手段は、光結合された「ドライバ」タイプの集積回路であることが可能である。
【0087】
非対称ブリッジ80は、長方形94によって図示されるグレーツブリッジを使用する3相主電源92の整流によって得られる電力供給電圧がかかっているキャパシタ90によって電力を供給される。
【0088】
例えば、非対称ブリッジ80は、グレーツブリッジを使用する3相主電源の整流によって得られる500V程度の電圧で、数百マイクロファラドのキャパシタンスを有するキャパシタによって電力を供給される。
【0089】
また、電力供給手段10は、1次巻線が、単相主電源98(220V、50Hz)に接続された別の変圧器96も含む。この変圧器96は、例えば、50Hzに相当する周波数を有し、5Aの強さの、交流によって、例えば、6Vに相当する電圧をかけて、フィラメント30を加熱することを可能にする。
【0090】
また、電力供給手段10は、カソード6の温度を制御する直流電圧を出力するように設計された発電機100も含む。このDC電圧は、例えば、100Vと500Vの間で可変であることが可能である。
【0091】
カソード6は、好ましくは、飽和モードで使用される。そのケースでは、加速器空間(カソードとアノードの間の空間)から取り出されることが可能な電流の密度は、そのカソードの温度だけに依存する。このため、電子銃によって出力される電流は、もっぱら、このDC電圧によって制御される。
【0092】
この電圧は、場合により、カソードに出力される負の高電圧パルス出力において出力された電流Iを読み取ることから、スレーブループ(図示せず)によって制御されることが可能である。
【0093】
次に、変圧器72の2次巻線のより詳細な説明を与える。この巻線が形成されるケーブル76は、互いに電気的に絶縁されている3つの導線102、104、および106を含む。
【0094】
導線102および104は、フィラメント30の2つの端子を、変圧器96の2次巻線の、対応する2つの端子に接続する。さらに、発電機100が、アースと、変圧器96側に位置する導線102の終端部の間に設置される。また、導線106の終端部も、カソード6およびアースにそれぞれ接続される。
【0095】
パルスモードにおける動作が、本発明の好ましい実施形態であるが、本発明は、この動作に限定されない。つまり、カソードに、DC電圧によって、本発明による電子銃のアノードに対して、バイアスがかけられて、連続モードの動作が得られることが可能である。
【0096】
同様に、熱陰極の使用が、本発明の好ましい実施形態に対応するが、本発明は、そのような使用に限定されない。つまり、他のタイプのカソード、例えば、電界効果によって電子を放出することができる冷陰極も、本発明による電子銃において使用することができる。
【0097】
さらに、本発明は、500keVを超えない電子ビームの供給に限定されない。すなわち、本発明による電子銃のアノードに対する、カソードのバイアスを適合させることにより、より高いエネルギーが、本発明で可能である。
【0098】
さらに、本発明は、空気中に電子ビームを供給するように設計されているが、本発明による電子銃は、そのようなビームを真空中に出力するのにも使用されることが可能であることが明らかである。
【0099】
本発明による電子銃の様々な応用例は、既に前述した。電子銃は、小型で、安価であるように製造されることが可能であり、高い浸入能力を有する低エネルギーの電子ビームを生じさせるのに使用することができるため、それらの応用例に特に適合している。
【0100】
以下は、図5および図6に関連する、本発明の2つの例示的な応用例を含む。
【0101】
図5は、ラッピングフィルム108、例えば、熱成形フィルムまたは密閉フィルムの滅菌への本発明の応用例を図示する。
【0102】
このフィルム108は、フィルム108が巻かれているコイル112から、図示していない手段によって、ローラ110上に張られ、移動させられている(矢印F1の方向に沿って、図で左から右に)。図で見て取ることができるとおり、フィルム108は、コイルから解かれた後、図示していない手段によって加圧された無菌チャンバ114に浸入し、中に進む。
【0103】
吸排気手段118とバイアス手段120とを備えた本発明による電子銃116が、無菌チャンバ114の入口に備えられて、フィルムがチャンバに浸入する前に、銃116によって出力された電子ビーム122によってフィルム108を滅菌する。
【0104】
銃は、ビームをフィルム108上に集束させるように配置される。矢印F2によって表される手段が、フィルム108の幅に沿って、銃に前進の動き/復帰の動きを加えて、集束されたビームが、フィルムの幅に沿ってフィルムを走査するように、したがって、矢印F2に垂直な矢印F1の方向に沿ったフィルムの移動により、フィルム全体を走査するように提供される。
【0105】
また、柱面集束を有する電子銃を使用して、銃を移動させる必要性を回避することもできる。そのケースでは、焦点は、処理されているフィルムの幅よりも長い長さを有する線である。
【0106】
図6は、包装コンポーネント124の、例えば、キャップまたは蓋などの滅菌への本発明の別の応用例を図示する。
【0107】
それらのコンポーネント124は、無菌のエアジェット(矢印F3によって図示する)によって押され、図示していない手段から始まり、コンポーネントが重力によって落ちる垂直ダクト126の中に入る。このダクト126は、図示していない手段によって加圧された無菌チャンバ128につながっている。
【0108】
コンポーネント124は、このチャンバの中に到着すると、長方形130によって表される機械的手段によって把持され、それらの手段によって、チャンバ内におけるコンポーネントの使用のために設計された、図示していない他の手段まで運ばれる。
【0109】
次に、本発明による電子銃116がチャンバ128の前に備えられて、コンポーネント124が、そのチャンバに入る前に、この銃によって出力された、集束された電子ビーム122を使用して、コンポーネント124を滅菌する。
【0110】
本発明によるいくつかの電子銃が、一緒に結合されて、全く浸入なしに、複雑な形状である可能性がある物体の表面を処理することも可能である。これが、図7および図8に図示されている。
【0111】
図7は、互いに120°で配置された、本発明による3つの電子銃132a、132b、および132cを示す。これらの銃によって放出される電子ビームの交差が、表面が電子照射によって処理されるべき、複雑な形状を有する物体136が置かれた領域134をカバーする。
【0112】
図7で見て取ることができるとおり、電子銃132a、132b、または132cのそれぞれが、対応する焦点領域からの発散が過度でないビーム138a、138b、または138cを放出して、その他の2つの銃を放射しないようにする。
【0113】
電子銃132a、132b、および132cは、ポンピング手段140を備える。また、電子銃132a、132b、および132cは、銃が、パルス電子ビームを同時に放出することを可能にする制御手段142も備える。
【0114】
図8は、互いに向き合って配置されて、それら2つの銃の間の領域が、放射されることが可能であるようにしている、本発明による2つの電子銃144aおよび144bを示す。物体146が、その領域内で、2つの銃からほぼ等距離に置かれて、銃によって放出された2つの電子ビーム148aおよび148bによって、物体の2つの側面を処理することができるようにする。
【0115】
電子銃144aおよび144bは、吸排気手段150を備える。また、電子銃144aおよび144bは、銃が、パルス電子ビームを同時に放出するのに使用することができる制御手段152も備える。
【0116】
これらの手段152は、物体146が、2つの銃の間に挿入された場合にだけアクティブにされて、銃の1つが、他方の銃によって放出されたビームによって損傷されず、その逆も同様であるようにする。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】本発明による電子銃の特定の実施形態を示す縦方向の概略断面図である。
【図2】図1の電子銃のカソードに印加されて、そのカソードによって放出される電子を加速させることができるパルス高電圧Vaの変化を、時刻tの関数として示す図である。
【図3】図1のこの電子銃で可能なダイオードモードの加速を示す図である。
【図4】図1の電子銃の電力供給手段を示す図である。
【図5】本発明による電子銃の、ラッピングフィルムの滅菌への応用例を示す図である。
【図6】本発明による電子銃の、キャップまたは蓋などの包装コンポーネントの滅菌への応用例を示す図である。
【図7】形状が複雑である可能性がある物体の処理のための、本発明の他の応用例を示す図である。
【図8】形状が複雑である可能性がある物体の処理のための、本発明の他の応用例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空状態にあるように設計された、密封されたチャンバ(2)と、
チャンバ内部に配置され、電子を放出することができる放出面(8)を含むカソード(6)と、
チャンバの壁の1つに、該放出面に向かって形成され、該放出面によって放出された電子を、通過させることができる、密封された窓を形成するアノード(4)と、
該電子をアノードに向かって加速させることができ、加速された電子が、アノードを通過するビーム(12)を形成する、アノードとカソードの間の電圧をセットアップするバイアス手段(10)とを含む電子銃であって、
アノード(4)と放出面(8)がそれぞれ、曲率を有し、アノードの曲率は、アノードが、チャンバの内部と外部の間の圧力差に耐えることができるようにし、放出面の曲率と協調して、電子ビーム(12)をチャンバの外部で集束させるように設計されていることを特徴とする電子銃。
【請求項2】
アノード(4)とカソード(6)の間にセットアップされた電圧は、500keV以下のエネルギーを電子に印加することができる請求項1に記載の電子銃。
【請求項3】
カソード(6)の放出面(8)は、加熱されると電子を放出することができる放出層(26)を含み、電子銃は、カソードを加熱するための、したがって、該放出層を加熱するための手段(28)も含む請求項1または2のいずれかに記載の電子銃。
【請求項4】
該加熱手段(28)は、加熱されると電子を放出し、該電子でカソードを衝撃することができるフィラメント(30)を含み、カソードが、したがって、放出層が電子衝撃によって加熱される請求項3に記載の電子銃。
【請求項5】
アノード(4)と、カソードの放出面(8)とは、同心球面の部分、または同軸の回転柱面の部分を形成する請求項1から4のいずれか一項に記載の電子銃。
【請求項6】
アノード(4)は、厚さが50マイクロメートル未満である薄い金属シートを含む請求項1から5のいずれか一項に記載の電子銃。
【請求項7】
バイアス手段(10)は、パルスモードで電子を加速させるために、アノード(4)とカソード(6)の間でパルス電圧をセットアップするように設計される請求項1から6のいずれか一項に記載の電子銃。
【請求項8】
バイアス手段(10)は、カソード(6)を、アノード(4)に対して、負のパルス高電圧にまで至らせるように設計され、アノードは、接地され、これらのバイアス手段は、
負のパルス電圧を出力することができる補助手段(80)と、
該負のパルス電圧を変圧して、負のパルス高電圧にすることができる変圧器(72)とを含み、
この変圧器は、補助手段(80)に接続された1次巻線(78)と、3つの導線(102、104、106)を含む2次巻線(74)とを含み、これらの導線の2つは、フィラメント(30)を加熱し、カソード(6)に対して、該フィラメントにバイアスをかけて、フィラメントによって放出された電子が、該カソードに到達するようにするために構成され、第3の導線(106)は、カソードを負のパルス高電圧まで至らせるように構成される請求項4および7に記載の電子銃。
【請求項9】
アノード(4)は、冷却手段(54)を備える請求項1から8のいずれか一項に記載の電子銃。
【請求項10】
該冷却手段は、アノード(4)の周辺部の少なくとも一部分の上にガスを噴射する手段(56)を含む請求項9に記載の電子銃。
【請求項11】
少なくとも1つの物体の電子照射のための設備であって、集束された電子ビームによって、該物体を照射する手段を含み、設備内部で、照射手段は、請求項1から10のいずれか一項に記載の電子銃(116)を含む設備。
【請求項12】
物体の、特に、包装コンポーネントの電子滅菌のための設備であって、集束された電子ビームによって、該物体を照射する手段を含み、設備内部で、照射手段は、請求項1から10のいずれか一項に記載の電子銃(116)を含む設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2007−511039(P2007−511039A)
【公表日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−534804(P2006−534804)
【出願日】平成16年10月19日(2004.10.19)
【国際出願番号】PCT/FR2004/002669
【国際公開番号】WO2005/041241
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【出願人】(506124136)
【出願人】(506124664)
【Fターム(参考)】