説明

電子鍵盤楽器

【課題】ストロークセンサの個体間の特性のバラツキ、特性の変化等に起因する、ストロークセンサの出力値のバラツキや変化を低減する電子鍵盤楽器を提供する。
【解決手段】1又は複数のスイッチ21は、鍵のストロークの位置が1又は複数の所定位置になったことを検出する。センサ出力抽出部26は、ストロークの位置が1又は複数の所定位置であるときの、ストロークセンサ24の出力値を抽出する。補正特性決定部28は、ストロークの位置が1又は複数の所定位置であるときの基準出力値を取得し、抽出された出力値と基準出力値との基準差分値に基づいて、基準となるストロークセンサの出力値とストロークセンサ24の出力値との差分値を補間する特性を補正特性とする。センサ出力補正部25は、ストロークセンサ24の出力値を補正特性に基づいて補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍵のストロークを連続的に検出する電子鍵盤楽器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子鍵盤楽器においては、演奏者による押鍵操作に伴う鍵のストローク位置を検出し、ストローク位置に応じて、発音する楽音の態様、例えば、音量、効果、発音タイミング等を制御している。上述した鍵のストロークの検出方式として、複数接点方式と全行程検出方式とがある。
複数接点方式は、鍵の全行程のいくつかのストローク位置を、リーフ接点やゴムスイッチ等の複数接点のオンオフで検出し、段階的に楽音を制御する。一方、全行程検出方式は、光センサ、磁気センサ等を用い、全行程におけるストローク値を検出し、連続的に楽音を制御する。従って、多様な楽音制御を行うことができ、演奏品質が向上する。
【0003】
以下、全行程検出方式の従来技術について説明する。
第1の従来技術(特許文献1参照)においては、ストロークセンサの可動部とタッチレスポンス・スイッチの可動部とを一体成型したラバーユニットを有する。
タッチレスポンス・スイッチは、2メークスイッチである。第1の可動部が撓むことにより第1メークスイッチがオンとなり、次に第2の可動部が撓むことにより第2メークスイッチがオンとなる。一方、ストロークセンサは、可動部内の天井面が白色であり、対向するプリント基板に反射型フォトセンサが配設され、その出力によりストローク位置を連続的に検出する。
【0004】
第2の従来技術(特許文献2参照)においては、ドーム状膨出部の天井面にマグネット部材、ドーム状膨出部の下部に環状の可動接点が設けられる。基板には、フラットコイル、複数の固定接点が設けられる。可動接点と複数の固定接点とによりスイッチが実現され、マグネット部材とフラットコイルとによりストロークセンサが実現される。
押鍵によりドーム状膨出部が弾性変形し、マグネット部材がフラットコイルに接近することにより、フラットコイルのインダクタンスが変化し、この変化に応じた発振信号の整流出力でストローク位置を連続的に検出する。一方、スイッチのオンオフにより楽音の発生開始及び発生終了を指示する。
【0005】
しかし、上述した第1の従来技術のストロークセンサは、反射型フォトセンサが半導体部品であるため、部品毎の特性のバラツキが大きい。また、環境温度による特性変化があるとともに、経時的に特性が変化するおそれもある。
一方、上述した第2の従来技術のストロークセンサは、マグネットを使用しているため、同様に、特性のバラツキ、特性変化がある。
従って、いずれのストロークセンサも、その特性のばらつき、特性変化が、その出力値に応じて制御される楽音に影響を及ぼすという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許2910211号公報
【特許文献2】特開平04−039695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、連続的にストロークの位置を検出するストロークセンサを有する電子鍵盤楽器において、ストロークセンサの個体間の特性のバラツキ、特性の変化等に起因する、ストロークセンサの出力値のバラツキや変化を低減する電子鍵盤楽器を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、請求項1に記載の発明においては、鍵のストロークの位置に応じた出力値を連続的に出力するストロークセンサと、前記ストロークの位置が1又は複数の所定位置になったことを検出する1又は複数のスイッチを有する電子鍵盤楽器において、前記1又は複数のスイッチにより、前記ストロークの位置が前記1又は複数の所定位置になったことが検出されたときの、前記ストロークセンサの出力値を抽出するセンサ出力抽出手段と、該センサ出力抽出手段により抽出された出力値と、基準となるストロークセンサについて前記ストロークの位置が前記1又は複数の所定位置であるときの基準出力値との基準差分値を取得し、該基準差分値に基づいて、前記ストロークセンサの出力値が、前記基準となるストロークセンサの出力値に近似し、かつ、前記ストロークの位置が前記1又は複数の所定位置であるときは前記基準出力値となるように、前記ストロークセンサの出力値を補正するための補正特性を決定する補正特性決定手段と、前記ストロークセンサの出力値を前記補正特性決定手段により決定された補正特性に基づいて補正するセンサ出力補正手段を有するものである。
従って、ストロークセンサの出力値のバラツキや変化を、簡単な構成で低減できる。また、押鍵操作によって基準差分値を取得できるため、鍵盤演奏中においても補正特性を決定することができる。
【0009】
請求項2に記載の発明においては、請求項1に記載の電子鍵盤楽器において、前記補正特性決定手段により決定された補正特性を記憶する補正特性記憶手段を有し、前記センサ出力補正手段は、前記補正特性記憶手段に記憶された補正特性に応じて、前記ストロークセンサの出力値に対する補正値を取得し、該補正値を前記ストロークセンサの出力値に加算するものである。
従って、ストロークセンサの出力値を簡単な構成で補正することができる。
【0010】
請求項3に記載の発明においては、請求項1又は2に記載の電子鍵盤楽器において、前記1又は複数のスイッチは、前記ストロークの位置が複数の所定位置になったことを検出する複数のスイッチであり、前記センサ出力抽出手段は、前記ストロークの位置が複数の所定位置になったことが検出されたときの、前記ストロークセンサの出力値を抽出し、前記補正特性決定手段は、前記センサ出力抽出手段により抽出された出力値と、基準となるストロークセンサについて前記ストロークの位置が複数の所定位置であるときの基準出力値との基準差分値を取得し、該基準差分値に基づいて、前記基準となるストロークセンサの出力値と前記ストロークセンサの出力値との差分値を補間する特性を、前記補正特性として決定するものである。
ストロークの位置が複数の所定位置であるときの基準差分値に基づいて、基準となるストロークセンサの出力値とストロークセンサの出力値との差分値を補間する特性を補正特性とすることにより、ストロークの位置が1又は複数のストローク位置でないときを含む、ストロークセンサの任意の出力値において、補正特性をほぼ正確に決定することができる。
【0011】
請求項4に記載の発明においては、請求項1から3までのいずれか1項に記載の電子鍵盤楽器において、弾性体で形成され、前記鍵のアクチュエータにより押圧される膨出部と、該膨出部が載置される基板を有し、前記1又は複数のスイッチは、前記鍵のストロークが第1のストローク位置、第2のストローク位置になったことを検出する第1のスイッチ、第2のスイッチであり、前記第1のスイッチ、前記ストロークセンサ、前記第2のスイッチは、前記膨出部内に配置されるとともに、前記ストロークセンサは、前記鍵の長手方向において、前記第1のスイッチと前記第2のスイッチとの間に配設されるものである。
従って、第1,第2のスイッチ及びストロークセンサを、鍵盤装置へコンパクトに実装することができる。
鍵盤装置の製品モデルによっては、第1,第2のスイッチを実装するが、ストロークセンサを実装しない場合がある。このような製品モデルにも、同じ膨出部、同じ第1,第2のスイッチを使用できる。その結果、製品仕様が異なる製品モデルの間で、部品が共通化されることにより、製造コストが低減される。
【発明の効果】
【0012】
上述した本発明によれば、ストロークセンサの個体間における特性のバラツキ、環境温度による特性の変化、特性の経時変化等に起因するストロークセンサの出力値のバラツキや変化を簡単な構成で低減できるという効果がある。
また、鍵盤演奏中においても補正特性を決定できるという効果がある。
ストロークセンサの出力値が補正される結果、ストロークセンサは、あたかも固体毎のばらつきがない、あるいは、少ないものであるかのように機能する。その結果、特性のバラツキが大きかったり特性が大きく変化したりするストロークセンサでも使用できるから、コストダウンが図れる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本願発明の実施形態における鍵盤装置を示す模式的構造図である。
【図2】本願発明の実施形態の機能構成を示すブロック図である。
【図3】図2に示した補正特性決定部の機能を示す説明図である。
【図4】図2に示したセンサ出力補正部の機能を示す説明図である。
【図5】図2に示したセンサ出力補正部の他の具体例を示すブロック図である。
【図6】図2に示した実施の形態を、コンピュータを用いて実現するハードウエア構成の一例を示すブロック図である。
【図7】図2に示した実施の形態を、コンピュータを用いて実現する動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本願発明の実施形態における鍵盤装置を示す模式的構造図である。
図1(a)は側面図、図1(b)は鍵スイッチユニットの垂直断面図である。
図中、1は白鍵、2は黒鍵、3は鍵フレーム、4は鍵スイッチ回路基板、5は鍵スイッチユニット、6は上限ストッパ、7は下限ストッパである。
【0015】
図1(a)に示す白鍵1において、1aは鍵本体部、1bは鍵先端部、1cは鍵支点部、1dはストッパ片であり、鍵本体部1aの両側面部から下方に延長されている。1e,1fは第1,第2のアクチュエータであり、水平断面が十字形状(+形状)であり、鍵本体部1aから下向きに突出している。図示の黒鍵2において、2aは鍵本体部、2bは鍵先端部、2cはストッパ片である。黒鍵2においても白鍵1と同様な位置に、鍵支点部、第1,第2のアクチュエータを備える。
鍵フレーム3において、3aは前方取付部、3bは前方段差部、3cは前方水平部、3dは小段差部、3eは中央水平部、3fは後方段差部、3gは後方取付部である。前方段差部3bには、縦長のスリット孔3hが、各白鍵1、各黒鍵2に対して設けられ、ここにL字状のストッパ片1d,2cの先端部が挿入されている。
【0016】
鍵フレーム3の前方水平部3cには、その下面に上限ストッパ6が設けられ、その上面に下限ストッパ7が設けられている。ストッパ片1d、2cの先端部上端は、離鍵状態では上限ストッパ6に当接した状態である。
前方水平部3cにおいて、鍵ガイド3iが鍵本体部1a,2aに対して突設され、これらの揺動時の案内をする。
中央水平部3eには、複数個のボス3j,複数個のボス3kが、それぞれ、鍵の配列方向に突設され、これらに鍵スイッチ回路基板4がネジ等により取付け固定される。
【0017】
鍵スイッチユニット5は、可撓性の弾性体、例えば、ゴムで形成されたものであり、第1,第2のアクチュエータ1e,1fに対向して、鍵スイッチ回路基板4の上に配置されている。
図1(b)に示す鍵スイッチユニット5において、5aは基台部、5bは脚部であり、鍵スイッチ回路基板4の孔4aに挿通されその裏面に係止される。5cは外ドームであり、薄肉で可撓性のある箱形であり、台部5aの上部に形成されている。
【0018】
5dは被駆動部であり、外ドーム5cの上に形成されている。この上面は、角丸長方形であり、鍵支点部1c側が低くなるように鍵の長手方向に傾斜し、アクチュエータ1e,1fとの当接面となる。
被駆動部5dには、2個の円柱状中空部5e,5fがその中心軸を垂直にして鍵の長手方向に配列されている。鍵支点部1c側の円柱状中空部5e,鍵先端部1b側の円柱状中空部5fは、内ドーム5g,5hに連なる。内ドーム5g,5hは、いずれも、薄肉で可撓性のある斜面部と、底板部5i,5jとを有する倒立円錐台状のものである。鍵スイッチ回路基板4からの底板部5iの高さは、底板部5jよりも低い。
【0019】
基台部5a、外ドーム5c、被駆動部5d、及び、内ドーム5g,5hは、鍵スイッチ回路基板4上に膨出部を構成し、鍵スイッチ回路基板4との間に、膨出部の内部空間10を形成している。基台部5aの側面、及び又は、内部空間10に面する鍵スイッチ回路基板4には、図示しない空気孔が設けられ、この空気孔を通して、内部空間10と外気との間で空気が流出・流入する。
【0020】
内部空間10には、第1のスイッチ(SW1)11、第2のスイッチ(SW2)12、ストロークセンサ13が配置される。ストロークセンサ13は、鍵の長手方向において、第1のスイッチ11と第2のスイッチ12の間に配設される。
第1のスイッチ11は、可動接点11aと固定接点(1対)11bとにより構成され、第2のスイッチ12は、可動接点12aと固定接点(1対)12bとにより構成される。
第1,第2の可動接点11a,12aは、それぞれ、内ドーム5g,5hの底板部5i,5jの下面に固着されている。
一方、これらに対向する固定接点(1対)11b,12bは、鍵スイッチ回路基板4の上面に設けられている。
【0021】
ストロークセンサ13は、例えば、発光部と受光部とを備えた反射式センサであり、鍵スイッチ回路基板4の上面において、固定接点(1対)11bと固定接点(1対)12bとの間に取付け固定されている。
一方、被駆動部5dの下面において、内ドーム5gと内ドーム5hとの間の中間領域5kは、ストロークセンサ13の直上にあり、白色塗料が塗られたり、白色材料で形成されたりすることにより、光反射面となる。ストロークセンサ13の発光部から放射された光は、この中間領域5kで反射され、反射光はストロークセンサ13の受光部により受光される。
従って、厳密に言えば、被駆動部5dの内部空間10に面する中間領域5kの反射面とストロークセンサ13とにより、白鍵1のストローク位置を検出する。
【0022】
上述した鍵スイッチユニット5は、各鍵に対応して、共通の膨出部の内部空間10に、第1のスイッチ11、第2のスイッチ12、ストロークセンサ13が配置されたものである。これに代えて、同じ鍵に対する、鍵のストロークの位置に応じた出力値を連続的に出力するストロークセンサと、第1のスイッチ11及び第2のスイッチ12を備える鍵スイッチとを別構成部品とし、それぞれが、鍵により押圧されるものであってもよい。
【0023】
上述した説明では、鍵スイッチユニット5が、鍵毎に分離独立して形成されているものとして説明した。しかし、鍵スイッチユニット5は、機能的に鍵毎に分離独立しているものの、その隣接した外ドーム5cは、基台部5aにおいて、例えば、1オクターブ単位で結合されて一体成形されてもよい。
また、スイッチの構造及びストロークセンサの構造は、図示のものに限らない。
【0024】
上述した鍵スイッチユニット5の動作を以下に説明する。
白鍵1の離鍵状態において、アクチュエータ1e,1fは、それぞれ、円柱状中空部5e,5fの周縁部に接している。鍵本体部1aは鍵支持部3mに揺動自在に支持されている。演奏者が押鍵するとき、鍵本体部1aが押下され、アクチュエータ1e,1fが被駆動部5dを押下し、外ドーム5cが撓む。
【0025】
外ドーム5aが撓むに従って、ストロークセンサ13と中間領域5kとの間の距離が短くなり、ストロークセンサ13の受光量が増加する。その結果、ストロークセンサ13の出力値は、鍵本体部1aのストローク位置が深くなるのに応じて増加する。
離鍵状態から最大ストローク位置までの全行程において、ストロークセンサ13により、鍵本体部1aのストローク位置が連続的に検出される。しかし、ストロークセンサ13は、反射型光センサを使用していることから、従来技術のものと同様に、特性のバラツキ、特性の変化がある。
【0026】
一方、ストロークが比較的浅い第1のストローク位置において、第1のスイッチ11がオフ状態からオン状態に変化(オンイベント)する。さらに、ストロークが比較的深い第2のストローク位置において、第2のスイッチ12がオフ状態からオン状態に変化(オンイベント)する。
演奏者が最大ストローク位置まで押鍵した後に離鍵操作をすると、今度は、第2のストローク位置において第2のスイッチ12、第1のストローク位置において第1のスイッチ11が、順次、オフ状態に戻る(オフイベント)。ストロークセンサ13は、離鍵操作においてもストローク位置を連続的に検出する。
【0027】
図2は、本発明の実施形態の機能構成を示すブロック図である。
図中、21は1又は複数のスイッチであり、演奏者による押鍵・離鍵操作に連動して揺動する鍵のストロークの位置が、1又は複数の所定位置であるときに、それぞれ、オンオフが切り替わることにより、鍵のストロークの位置が1又は複数の所定位置になったことを検出する。
1又は複数のスイッチ21の出力は、発音・消音指示部22に出力される。この発音・消音指示部22は、音源回路に対し、楽音の発音を指示するキーオンKON信号、楽音の消音を指示するキーオフKOF信号を出力する。
【0028】
上述した1又は複数のスイッチ21は、図1においては、第1,第2のスイッチ(SW1,SW2)11,12に相当する。この場合、発音・消音指示部22は、第1のスイッチ11のオンイベントによりキーオン(KON)信号を生成し、第2のスイッチ12のオフイベントによりキーオフ(KOF)信号を生成する。
しかし、スイッチ21の個数は、2個であることは必須でなく、1個であっても、3個以上であってもよい。
【0029】
23は押鍵速度検出部であり、1又は複数のスイッチ21の出力、又は、後述するセンサ出力補正部25の出力値に基づいて押鍵速度Vを検出する。
図1の場合、第1のスイッチ11のオンイベントのタイミングから、第2のスイッチ12のオンイベントのタイミングまでの時間差に応じて、押鍵速度Vを検出する。あるいは、センサ出力補正部25が出力するストロークセンサの出力値B又はストローク値S、の時間変化率(時間微分値)により、時間の関数としての押鍵速度Vを検出する。
【0030】
24はストロークセンサであり、鍵のストロークの位置に応じた出力値を、センサ出力補正部25に連続的に出力する。このストロークセンサ24は、図1のストロークセンサ(反射型光センサ)13の他、外ドーム5c側に固定されたマグネットの可変位置を鍵スイッチ回路基板4の固定側に配置されたホール素子、磁気抵抗素子等の磁気センサで検出するものでもよい。図示を省略しているが、ストロークセンサ24の出力は、通常、電圧値などのアナログ出力であるため、アナログ出力をA/D変換して、以降の処理をディジタル処理にて実行する。
【0031】
26はセンサ出力抽出部であり、1又は複数のスイッチ21、図1では、第1のスイッチ11、第2のスイッチ12、により検出された1又は複数の所定位置(第1のストローク位置、第2のストローク位置)であるときの、ストロークセンサ13の出力値(第1の出力値、第2の出力値)を抽出する。
ストロークセンサ24の出力値とストローク値との関係を表す特性は既知でない。しかし、センサ出力抽出部26が抽出した出力値は、ストロークセンサ24の固有の特性に従った値である。
【0032】
ここで、「基準となるストロークセンサ」について説明をしておく。
個体差のある多数のストロークセンサ24に対し、「基準となるストロークセンサ」の基準特性をあらかじめ決定しておく。
例えば、実際に使用する鍵スイッチユニット5の基準とする1個体を選別し、そのストロークセンサ13の出力値に対するストローク値を実測したものに基づいて、出力値に対するストローク値の特性を決定し、これを「基準となるストロークセンサ」の基準特性とする。
【0033】
鍵盤の複数の鍵について、同じ鍵構造(例えば、白鍵1、黒鍵2)であって、同一仕様の鍵スイッチユニット5については、「基準となるストロークセンサ」(基準特性)として共通のものを用いる。
一方、鍵盤の箇々の鍵について、現に実装されている鍵スイッチユニット5のストロークセンサ13自体を、箇々の鍵の「基準となるストロークセンサ」としてもよい。工場出荷時に、箇々のストロークセンサ13の出力値に対するストローク値を実測したものに基づいて、箇々のストロークセンサ13の個別の基準特性を設定することもできる。
この場合、固体間のバラツキは問題にならないが、温度変化、経時的変化に対して、ストロークセンサ24の出力値の補正が必要である。
【0034】
図2において、基準特性記憶部27は、上述した基準特性を、例えば、基準特性テーブル(対応表)又は基準特性関数(数式)として記憶している。
ただし、後述する基準特性参照部31を備えない場合、基準特性記憶部27は、ストロークの位置が上述した1又は複数の所定位置(第1,第2のストローク位置)であるときの、基準となるストロークセンサの基準出力値(第1,第2の基準出力値A1,A2)のみを単に記憶していればよい。
基準特性記憶部27が基準特性を記憶していれば、上述した基準出力値は、基準特性に基づいて取得される。
【0035】
図3は、図2に示した補正特性決定部28の機能を示す説明図である。1又は複数の所定のストローク位置が、第1,第2のストローク位置である場合を説明する。
横軸はストロークセンサ24の出力値、縦軸は補正値である。41は補正特性曲線(図示のように直線の場合を含む)である。
補正特性決定部28は、基準特性記憶部27に記憶されている基準出力値(第1,第2の基準出力値A1,A2)を取得するか、基準特性記憶部27に記憶された基準特性に基づいて基準出力値(第1,第2の基準出力値A1,A2)を取得する。
補正特性決定部28は、センサ出力抽出部26により抽出された出力値(第1の出力値B1、第2の出力値B2)と、上述した基準出力値(第1,第2の基準出力値A1,A2)との、基準差分値(第1の基準差分値d1=A1−B1,第2の基準差分値d2=A2−B2)を取得する。
【0036】
補正特性決定部28は、次に、上述した基準差分値に基づいて、図3に示した補正特性曲線41で示される補正特性を決定する。この補正特性は、上述した基準差分値(第1,第2の基準差分値d1,d2)に基づいて、ストロークセンサの任意の出力値B(出力値Bが取り得る範囲内の値)に対して「基準となるストロークセンサ」の出力値Aとストロークセンサ24の出力値Bとの差分値d=A−Bを補間する補間差分値の特性である。
【0037】
図示の補間特性の例は、基準差分値(第1,第2の基準差分値d1,d2)を通る直線で補間する直線補間(線形補間)である。この他、「基準となるストロークセンサ」の基準特性によっては、この基準特性に応じて、基準差分値(第1,第2の基準差分値d1,d2)を通る曲線で補間してもよい。
なお、「補間」の一般な定義によれば、第1の出力値B1から第2の出力値B2までの範囲の出力値Bにおいて、差分値dを取得することになる。しかし、本明細書では、補間は、いわゆる「外挿」を含むものとし、上述した第1の出力値B1から第2の出力値B2の範囲を超える出力値Bにおいても、補間特性と同じ特性で差分値dを取得し、この差分値を補正値とする。
この補正特性曲線41は、補正関数d(B)として次式のように表される。
d(B)={(A1−A2)÷(B1−B2)−1}×B+(A2×B1−A1×B2)÷(B1−B2)
この補正特性は、上述した補間関数d(B)として、又は、「参照テーブル」(Bの値とdの値との対応表)として、補正特性記憶部29に記憶する。
【0038】
センサ出力抽出部26と補正特性決定部28との機能を、工場出荷時に実行した場合、電子鍵盤楽器の工場出荷後は、これらの機能をなくしても、ストロークセンサ24の出力値のバラツキは補正される。しかし、ユーザが電子鍵盤楽器を購入した後において、センサ出力抽出部26と補正特性決定部28との機能が実行されれば、ストロークセンサ24の出力値の環境温度による変化、経時的変化も補正できる。
【0039】
図1においては2個のスイッチを使用していたが、スイッチは1個でもよい。説明をわかりやすくするため、以下、この1個のスイッチを、図1における第1のスイッチ(SW1)11であるとして、説明する。
センサ出力抽出部26は、1個の第1のスイッチ11によりストロークの位置が所定位置になったことが検出されたときのストロークセンサ24の出力値B1を抽出する。補正特性決定部28は、「基準となるストロークセンサ」についてストロークの位置が上述した所定位置であるときの基準出力値A1を取得する。
補正特性決定部28は、上述した出力値B1と基準出力値A1との基準差分値d1=A1−B1を取得し、この基準差分値d1に基づいて、基準となるストロークセンサの出力値Bとストロークセンサの出力値Aとの差分値dを推定する特性を、補正特性として決定する。
【0040】
ここで、「差分値dを推定する特性」とは、例えば、ストロークセンサの任意の出力値B(出力値Bが取り得る範囲内の値)に対して、差分値dを基準差分値d1に等しいと推定する。すなわち、d=d1=A1−B1である。
なお、上述した「差分値dを推定する特性」を、「基準となるストロークセンサ」の基準特性によっては、第1の基準差分値d1を通る、上述したd=d1とは異なる直線又は曲線としてもよい。
【0041】
また、補正特性決定部28は、3個以上のスイッチにより、ストロークの位置が3以上の所定位置になったことを検出してもよい。
この場合は、3以上の所定位置における、センサ出力抽出部26により抽出されたストロークセンサ24の出力値(B1,B2,B3,…)と「基準となるストロークセンサ」の基準出力値(A1,A2,A3,…)との基準差分値(A1−B1、A2−B2、A3−B3、…)に基づいて、これらの基準差分値を通る、折れ線(直線)又は曲線(例えば、ラグランジュの補間公式)で補間した差分値の特性を、補正特性として決定すればよい。
なお、センサ出力抽出部26により抽出された出力値の上限と下限の範囲にない任意の出力値B(出力値Bが取り得る範囲内の値)においても、補間(外挿)により補正値を取得する。
【0042】
1つの鍵に対して設けられるスイッチの個数を多くするほど、ストローク位置の多数の所定位置において、基準差分値を取得できるから、補正特性の精度が高まる。
しかし、1つの鍵に対して設けられるスイッチの総数よりも少ない、一部のスイッチのオンオフにより検出されるストローク位置においてのみ、ストロークセンサの出力値を抽出し、基準差分値を取得してもよい。
【0043】
センサ出力補正部25は、ストロークセンサ24の出力値を、あらかじめ補正特性記憶部29に記憶されている補正特性(図3の補正特性曲線41)に基づいて補正する。その結果、ストロークセンサ24の出力値Bが、「基準となるストロークセンサ」の出力値Aに近似し、かつ、ストロークの位置が1又は複数の所定位置であるときは基準出力値A1,A2,A3,…になるように補正することができる。
【0044】
上述したセンサ出力補正部25は種々の方法で実現できる。図2に示すセンサ出力補正部25の内部構成は、一具体例であって、ストロークセンサ24の出力値を、加算部30により、「基準となるストロークセンサ」の出力値になるように補正するものである。
センサ出力補正部25は、加算部30、基準特性参照部31を有するが、基準特性参照部31は必須のものではない。
【0045】
図4は、図2に示したセンサ出力補正部25の機能を示す説明図である。横軸はストローク値、縦軸はストロークセンサの出力値である。
図4(a)において、51は「基準となるストロークセンサ」の基準特性を示す基準特性曲線(直線である場合を含む)である。「基準となるストロークセンサ」の出力値が、A1,A2であるとき、ストローク値は、第1,第2のスイッチ(SW1,SW2)11,12がオンとなる第1,第2のストローク値S1,S2となる。
この基準特性は、基準特性記憶部27に、基準特性テーブル、又は、基準特性関数として記憶されている。
【0046】
鍵盤演奏時において、加算部30は、ストロークセンサ24の出力値(現在値)Bを入力するとともに、補正特性記憶部32に記憶された補正特性に応じて、ストロークセンサ24の出力値(現在値)Bに対する補正値dを取得し、ストロークセンサ24の出力値(現在値)Bに補正値(現在値)dを加算する。d=A−Bであるから、加算部30の出力値はA、すなわち、「基準となるストロークセンサ」の出力値となる。
【0047】
図4(b)を参照し、補正の誤差を検討する。
52はストロークセンサ24の固有の特性曲線(直線である場合を含む)である。固有の特性曲線52は、ストロークの全行程においては実測されていない。センサ出力抽出部26により抽出されたストロークセンサ24の出力値B1,B2のみが既知である。
ストロークセンサ24の出力値(現在値)Bは、加算部30において補正値(現在値)dが加算されるから、ストロークセンサ24に固有の特性曲線52は、補正後の固有の特性曲線(直線である場合を含む)53になる。
この補正後の固有の特性曲線53と基準特性曲線51とは、誤差が小さく、かつ、第1,第2のストローク値S1,S2において一致する。
【0048】
この加算部30の出力値Aは、「基準となるストロークセンサ」の出力値であって、ストローク値そのものではない。
しかし、センサ出力補正部25の出力値は、音源回路において楽音を制御するパラメータを作成するために利用される。従って、鍵のストローク位置の測定値、例えば、mm単位で表す値である必要はなく、測定値と既知の関係にある値、例えば、正比例する値であればよい。
従って、図4に例示したように、基準特性曲線51が直線である場合、「基準となるストロークセンサ」の出力値Aから直接的に楽音を制御するパラメータを作成することができる。
【0049】
基準特性参照部31を使用する場合は、加算部30の出力Aに対し、基準特性記憶部27に記憶されている、図4に基準特性曲線51で示される基準特性を参照することにより、出力Aをストローク値Sに変換して出力することができる。このストローク値Sも、上述したように、鍵のストローク位置の測定値そのものである必要はなく、測定値と既知の関係にある値、例えば、正比例する値であればよい。
【0050】
また、スイッチが1個であった場合にも、センサ出力補正部25は、ストロークセンサ24の出力値Bを補正特性決定部28により決定された補正特性に基づいて補正する。
例えば、ストロークセンサ24の出力値Bに対する補正値d=d1=A1−B1を取得し、この補正値を加算部30において、ストロークセンサ24の出力値Bに加算することにより、B+(A1−B1)を得る。
その結果、ストロークセンサ24の出力値Bが、「基準となるストロークセンサ」の出力値Aに近似し、ストロークの位置が所定位置であるときは基準出力値A1となる。
ストロークセンサ24の出力値が、単に、基準となるストロークセンサの出力値に対して一定のオフセットがあったり、このオフセットがドリフトしたりするような事例では、ストロークセンサ24の出力値を、ほぼ正確に「基準となるストロークセンサ」の出力値に補正することができる。
【0051】
図5は、図2に示したセンサ出力補正部25の他の具体例を示すブロック図である。
この具体例は、基準特性記憶部27に記憶された基準特性を、基準特性補正部61において、ストロークセンサ24に固有の特性に合うように補正し、補正後の基準特性を参照して、ストロークセンサ24の出力値をストローク値に変換するものである。
【0052】
基準特性補正部61は、基準特性記憶部27に記憶されている基準特性に基づいて取得される、「基準となるストロークセンサ」の出力値Aに対し、図2の補正特性決定部28から出力される、この「基準となるストロークセンサ」の出力値Aに対する補正値d=A−Bを減算して、補正後の基準特性を作成し、補正後の基準特性記憶部62に、「補正後の基準特性テーブル」又は「補正後の基準特性関数」として保存する。
Aからd=A−Bを減算すればBとなるから、補正後の基準特性は、ストロークセンサ24の出力値BをストロークSに変換する特性となる。
ただし、この具体例においては、図2の補正特性決定部28は、図3に示した補正特性ではなく、「基準となるストロークセンサ」の出力値Aに対する補正値dの特性を決定する。
【0053】
図2に示したストロークセンサ24の出力値(現在値)Bは、センサ出力補正部63において、補正後の基準特性記憶部62に記憶された、補正後の基準特性に基づいてストローク値Sを出力する。
なお、この具体例において、「基準となるストロークセンサ」の出力値Aを出力したい場合は、基準特性記憶部27に記憶された基準特性を参照して、ストローク値Sを「基準となるストロークセンサ」の出力値Aに変換すればよい。
【0054】
図6は、図2に示した実施の形態を、コンピュータを用いて実現するハードウエア構成の一例を示すブロック図である。
バス71は、CPU(Central Processing Unit)72をはじめ、複数のハードウエアブロックを相互接続し、CPU72の制御下でデータやプログラムを転送する。
ROM(Read Only Memory)73、フラッシュメモリ(Electrically Erasable and Programmable ROM)74には、プログラム、基準特性、パラメータの設定データ、曲データファイル、伴奏データファイル等が記憶されている。
【0055】
CPU72は、RAM(Random Access Memory)75に作業領域を設けてプログラムを実行することにより、各ハードウエアブロックの機能、ハードウエアブロック間の転送が統一的に実行されるように全体を制御するコンピュータである。時間割り込み処理は、タイマ76により指示される割り込みタイミングで実行される。
RAM75の作業領域には、例えば、キーバッファ、フラグ等の領域が設けられる。
キーバッファには、発音チャンネルに対応して、例えば、鍵番号、第1,第2のスイッチ(SW1,SW2)11,12のオンオフイベント、ストロークセンサ24の出力値B、ストローク値S、押鍵速度V、鍵のキーイベントKON,KOF、フラグ等が記憶される。
【0056】
外部記憶装置77は、HDD(ハード磁気ディスク駆動装置)、USB(Universal Serial Bus)メモリ等であり、上述したROM73、フラッシュメモリ74に代えて、プログラムやデータを記憶しておくことができる。
他のMIDI機器78から転送されるMIDI信号を、MIDIインタフェース79を経由して入力して演奏したり、本電子鍵盤楽器で演奏するときに出力されるMIDI信号を、MIDIインタフェース79を経由して他のMIDI機器78に転送したりする。
上述したROM73、フラッシュメモリ74、外部記憶装置77等が記憶するプログラム、データは、サーバ装置80から通信ネットワーク81、ネットワークインタフェース82を経由して、アップデートすることができる。
【0057】
鍵盤装置83は、図1に示した構造に対応し、鍵盤84は、複数の白鍵1、黒鍵2に対応する。鍵盤84に対する演奏者の操作は、1又は複数のスイッチ21、ストロークセンサ24により検出され、検出出力が検出回路85、バス71を経てRAM75に転送される。
設定操作子86は、演奏者によりモード選択や制御パラメータの設定をするためのスイッチ類、音量レベル等の設定値を可変調整するためのノブ類である。設定操作子86の操作は、検出回路87において検出され、バス71に出力される。
表示制御回路88は、液晶ディスプレイ、LEDインジケータ等の表示装置89を制御し、表示画像データの転送、点灯制御データの転送をする。
【0058】
音源回路90は、図2に示した音源部23に対応し、一般的には音源LSI(Large Scale Integrated Circuit)であって、演奏データに基づいて作成された音源パラメータを入力し、これらに基づいて楽音波形を生成し、サウンドシステム91に出力し、サウンドシステム91は、楽音波形の音量調整をして増幅しスピーカやヘッドホン等に出力する。
【0059】
CPU72は、図2に示した発音・消音指示部22、押鍵速度検出部23、センサ出力補正部25、センサ出力抽出部26、補正特性決定部28の機能を、コンピュータプログラムを実行することにより実現する。
CPU72は、また、設定操作子86により設定された音色等に基づいて作成した音源パラメータを音源回路90に出力する。CPU72は、図2に示した発音指示(KON)、消音指示(KOF)を音源回路90に転送する。
CPU72が、鍵盤84における、ある1つの鍵に発音チャンネルを新たに割り当てるのは、例えば、この鍵のストローク値Sが離鍵状態の初期値から変化したときである。
CPU72は、音源回路90における、ある発音チャンネルでの楽音生成処理中(キーオン状態)であるか否かのデータや、楽音生成中の振幅エンベロープの現在値等、音源状態のデータを取得し、例えば、楽音生成処理が終われば、その発音チャンネルを空きにする。
【0060】
音源回路90は、ある発音チャンネルにおけるキーオン(発音指示)KONを入力し、この発音チャンネルに割り当てられた音高の楽音信号の生成を開始し、この発音チャンネルにおけるキーオフ(消音指示)KOFを入力して、消音処理を開始する。
CPU72は、押鍵速度V、ストローク値Sに応じて、音源回路90が発生楽音の音量、音色、効果などの楽音要素を変化させるための音源パラメータを作成して音源回路90に出力する。
CPU72は、また、ストローク値Sの時間的変化に基づいて演奏者の奏法(例えば、スタッカート演奏)を検出し、奏法に応じて、音源回路90が発音開始タイミング等の制御等をするように、キーオン(KON)信号を音源回路90に出力するタイミングを制御することもできる。
【0061】
図6に示した電子鍵盤楽器は、音源回路90、サウンドシステム91等を含む。しかし、音源回路90、サウンドシステム91等を内蔵しない電子鍵盤楽器であっても、図2に示した機能を実現することができる。
また、鍵盤装置83の検出回路85において、図2に示した機能をハードウエア、又は、CPUとプログラムとを用いて実現するようにしてもよい。このような鍵盤装置83も、本願発明における電子鍵盤楽器の一実施例である。
【0062】
図7は、図2に示した実施の形態を、コンピュータを用いて実現する動作の一例を示すフローチャートである。
図7(a)は、メイン処理を示すものであり、電源オンによりプログラムが図6のROM73又はフラッシュメモリ74から、RAM75にロードされて起動する。
【0063】
S101において電子鍵盤楽器を初期化する。楽音制御パラメータのデフォルト値又は前回に使用された値が、フラッシュメモリ74等からRAM75にロードされる。
S102において、演奏者がパネル上の設定操作子86を操作し、各種楽音制御パラメータの値等を入力し、RAM75の作業領域に記憶する。
S103において、押鍵処理、離鍵処理等の楽音制御処理を実行し、S104において、その他の処理を実行し、S102に処理を戻す。
【0064】
ここで、図2に示した補正特性決定部28が補正特性を決定することが可能な場合として、以下の複数の場合があり、複数の場合を併用する仕様も可能である。
第1は、工場出荷時に補正特性を決定する。工場出荷時に、鍵盤の全鍵を試験演奏することにより、センサ出力抽出部26及び補正特性決定部28を実行する。
図2に示した具体例では、決定した補正特性を補正特性記憶部32に記憶する。図5に示した他の具体例では、加えて、基準特性補正部61の機能を実行し、補正後の基準特性を、補正後の基準特性記憶部62に記憶する。
この第1の場合によれば、ストロークセンサ24の個体間の特性のバラツキに起因して変化するストロークセンサ24の出力値を補正することができる。
【0065】
第2は、ユーザがこの電子鍵盤楽器の電源をオンにしたとき、又は、あらかじめ設けられたキャリブレーションモードをユーザが選択したときに補正特性を決定する。ユーザが鍵盤の全鍵を試験演奏することにより、補正特性を決定し、決定した補正特性、又は、補正後の基準特性を記憶する。
曲エータを読み出すことにより、楽音を音源部で生成するとともに、鍵を電磁アクチュエータで自動演奏する自動演奏機構を備えたタイプの電子鍵盤楽器の場合、演奏者が演奏するに代えて、自動的に全鍵を試験演奏することができる。
記憶処理の完了後は、センサ出力補正部25において、記憶された補正特性又は補正後の基準特性に従って、ストロークセンサの出力値が補正される。
【0066】
第3は、ユーザが電子鍵盤楽器の電源をオンにしたときから、所定時間を経過する毎に補正特性を決定する。所定時間が経過する度に、その後、任意の鍵に対し最初に押鍵操作があるときに、この鍵に対する補正特性を決定し、決定した補正特性、又は、補正後の基準特性を記憶する。
第4は、鍵盤演奏中において、任意の鍵に対し押鍵操作があったときに補正特性を決定する。押鍵操作がある度に、この鍵に対する補正特性を決定し、決定した補正特性、又は、補正後の基準特性を記憶する。
上述した第3,第4の場合において、記憶処理の完了後は、この鍵が押鍵操作される度に、記憶された補正特性又は補正後の基準特性に従って、ストロークセンサの出力値を補正する。
【0067】
上述した第2,第3,第4の場合の補正特性決定処理において、1又は複数の所定のストローク位置での基準差分値が小さいときは、処理を中止し、直前の補正特性又は直前の補正された基準特性を保持するようにしてもよい。
上述した第2,第3,第4の場合は、ストロークセンサ23の個体間の特性のバラツキだけでなく、特性の環境温度変化や経時的変化に起因する特性変化も補正される。
【0068】
図7(b)は、図2に示されたセンサ出力抽出部26、補正特性決定部28により実行される、補正特性の決定処理を、図7(a)のS104「その他の処理」の1つとして実現する場合のフローチャートである。上述した第1,第2の場合の補正特性決定処理に適している。
なお、上述した第3,第4の場合では、図7(a)のS103「楽音制御処理」において、押鍵、離鍵処理と連携して補正特性の決定処理を実行する。
【0069】
発音チャンネルの割当て処理については説明を省略する。そのため、各鍵に発音チャンネルが固定的に割り当てられるものとして説明する。iは鍵番号である。特定の値iが付された1つの鍵についての差分補間処理を説明する。
S111において、初期化をする。例えば、時間計数値T(i)をゼロとし、第1,第2のスイッチフラグSW1(i),SW2(i)をゼロとする。
S112において、第1のスイッチフラグSW1(i)が1であるか否かを判定し、1であれば、S113に処理を進め、そうでなければ、次のS114に処理を進め、第1のスイッチ11がオンになったか否かを判定する。第1のスイッチ(SW1)11がオンになったのであればS115に処理を進め、時間計数値T(i)に時間定数Tcを加算する。S116において、ストロークセンサの出力値S(i)をB1(i)としてRAM75に記憶する。S117において、第1のスイッチフラグSW1(i)を1とし、次のS113において、第2のスイッチ(SW2)12がオンになったか否かを判定し、オンになったのであればS118に処理を進め、オンになっていなければS119に処理を進める。
【0070】
S119において、時間計数値T(i)が定数Toverを超えた(タイムオーバ)か否かを判定し、超えていれば、図7(a)のS104に戻り、次の処理を実行し、超えていなければS112に処理を戻す。
一方、S118においては、ストロークセンサの出力値S(i)をB2(i)として記憶する。S120において、S116において取得されたB1(i)と、S118において取得されたB2(i)と、基準出力値A1(i),A2(i)とから、補正特性関数d(i,B)を取得する(図2に示す具体例の場合)。
S121において、補正特性関数d(i,B)に基づく補正特性を、補正特性記憶部29に記憶する(図2に示す具体例の場合)。
S122において、補正特性の記憶処理完了を示すフラグFC(i)を1とし、図7(a)のS104における次の処理に戻る。
【0071】
なお、補正特性間関数d(i,B)を常に0とすれば、ストロークセンサ24の出力値を補正しない。このような、従来と同様のストローク値を出力する鍵盤演奏モードを設けてもよい。
図7(b)に示すフローチャートでは、第1,第2のスイッチ(SW1,SW2)11,12がオンとなるときのストロークセンサの出力値を、第1,第2のストローク位置におけるものとして抽出している。
これに代えて、第1,第2のスイッチ(SW1,SW2)11,12がオフとなるときのストロークセンサの出力値を、第1,第2のストローク位置におけるものとしてもよい。
ただし、第1,第2のスイッチ(SW1,SW2)11,12がオンとなるときと、オフとなるときのストローク位置に差が生じるおそれがあるため、オンイベントで検出されるストローク位置とオフイベントで検出されるストローク位置とを区別することが望ましい。
【符号の説明】
【0072】
1…白鍵、1a…鍵本体部、1b…鍵先端部、1c…鍵支点部、1d…ストッパ片、1e,1f…アクチュエータ、2…黒鍵、2a…鍵本体部、2b…鍵先端部、2c…ストッパ片、3…鍵フレーム、3a…前方取付部、3b…前方段差部、3c…前方水平部、3d…小段差部、3e…中央水平部、3f…後方段差部、3g…後方取付部、3h…スリット孔、3i…鍵ガイド、3j,3k…ボス、3m…鍵支持部、4…鍵スイッチ回路基板、4a…孔、5…鍵スイッチユニット、5a…基台部、5b…脚部、5c…外ドーム、5d…被駆動部、5e,5f…円柱状中空部、5g,5h…内ドーム、5i,5j…底板部、5k…中間領域、6…上限ストッパ、7…下限ストッパ、10…内部空間、11…第1のスイッチ、11a…可動接点、11b…固定接点、12…第2のスイッチ、12a…可動接点、12b…固定接点、13…ストロークセンサ、
21…1又は複数のスイッチ、22…発音・消音指示部、23…押鍵速度検出部、24…ストロークセンサ、25…センサ出力補正部、26…センサ出力抽出部、27…基準特性記憶部、28…補正特性決定部、29…補正特性記憶部、30…加算部、31…基準特性参照部、
61…基準特性補正部、62…補正後の基準特性記憶部、63…センサ出力補正部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍵のストロークの位置に応じた出力値を連続的に出力するストロークセンサと、前記ストロークの位置が1又は複数の所定位置になったことを検出する1又は複数のスイッチを有する電子鍵盤楽器において、
前記1又は複数のスイッチにより、前記ストロークの位置が前記1又は複数の所定位置になったことが検出されたときの、前記ストロークセンサの出力値を抽出するセンサ出力抽出手段と、
該センサ出力抽出手段により抽出された出力値と、基準となるストロークセンサについて前記ストロークの位置が前記1又は複数の所定位置であるときの基準出力値との基準差分値を取得し、該基準差分値に基づいて、前記ストロークセンサの出力値が、前記基準となるストロークセンサの出力値に近似し、かつ、前記ストロークの位置が前記1又は複数の所定位置であるときは前記基準出力値となるように、前記ストロークセンサの出力値を補正するための補正特性を決定する補正特性決定手段と、
前記ストロークセンサの出力値を前記補正特性決定手段により決定された補正特性に基づいて補正するセンサ出力補正手段、
を有することを特徴とする電子鍵盤楽器。
【請求項2】
前記補正特性決定手段により決定された補正特性を記憶する補正特性記憶手段を有し、
前記センサ出力補正手段は、前記補正特性記憶手段に記憶された補正特性に応じて、前記ストロークセンサの出力値に対する補正値を取得し、該補正値を前記ストロークセンサの出力値に加算する、
ことを特徴とする請求項1に記載の電子鍵盤楽器。
【請求項3】
前記1又は複数のスイッチは、前記ストロークの位置が複数の所定位置になったことを検出する複数のスイッチであり、
前記センサ出力抽出手段は、前記ストロークの位置が複数の所定位置になったことが検出されたときの、前記ストロークセンサの出力値を抽出し、
前記補正特性決定手段は、前記センサ出力抽出手段により抽出された出力値と、基準となるストロークセンサについて前記ストロークの位置が複数の所定位置であるときの基準出力値との基準差分値を取得し、該基準差分値に基づいて、前記基準となるストロークセンサの出力値と前記ストロークセンサの出力値との差分値を補間する特性を、前記補正特性として決定する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の電子鍵盤楽器。
【請求項4】
弾性体で形成され、前記鍵のアクチュエータにより押圧される膨出部と、
該膨出部が載置される基板を有し、
前記1又は複数のスイッチは、前記鍵のストロークが第1のストローク位置、第2のストローク位置になったことを検出する第1のスイッチ、第2のスイッチであり、
前記第1のスイッチ、前記ストロークセンサ、前記第2のスイッチは、前記膨出部内に配置されるとともに、
前記ストロークセンサは、前記鍵の長手方向において、前記第1のスイッチと前記第2のスイッチとの間に配設される、
ことを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項に記載の電子鍵盤楽器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−107296(P2011−107296A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260640(P2009−260640)
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】