説明

電極形成用組成物及びこれを用いた電子部品

【課題】 高温焼成により緻密化した場合にも積層セラミック素体等から剥離することのない信頼性の高い端子電極形成を可能とする。
【解決手段】 導電金属材料とガラス成分とを含み、積層セラミック素体に対して焼き付けにより電極形成が行われる電極形成用組成物である。ガラス成分は、BaOを25質量%以上含み、軟化点温度が600℃以上である。ガラス成分の組成としては、例えば、B15質量%〜20質量%、SiO5質量%〜15質量%、ZnO3質量%〜13質量%、BaO25質量%〜45質量%、CaO2質量%〜12質量%、MgO3質量%〜13質量%、アルカリ金属酸化物10質量%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミックコンデンサ等の積層セラミック素体の電極形成に用いられる電極形成用組成物に関するものであり、さらには、前記電極形成用組成物の焼き付けにより端子電極を形成した電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば積層セラミック素体を有する電子部品の一つである積層セラミックコンデンサは、セラミック層と内部電極層とを交互に積層し、前記内部電極層と電気的に接続される端子電極を形成することにより構成されている。
【0003】
この種の電子部品では、端子電極の形成が必要であり、通常、電極材料(電極形成用組成物)を塗布し、焼成することにより電極形成が行われている。この場合、電極形成組成物としては、形成される端子電極と下地となるセラミック素体との密着性等を考慮して、導電金属材料とガラス成分を含んだ電極形成用組成物が用いられている(例えば、特許文献1や特許文献2等を参照)。
【0004】
例えば、特許文献1には、鉛を含有する積層セラミック部品の端子電極材料が開示されており、Ag、Pd、Cuの一種類もしくは二種類以上の金属粉末、合金粉末と、酸化硼素を含有しないガラスを含有することを特徴とする端子電極材料が開示されている。
【0005】
特許文献2には、積層磁器コンデンサの端子電極材料等に用いられる導電性ペーストが開示されており、Ag粉末とPd粉末とガラスフリットからなり、ガラスフリットの組成成分がPbO、Bi、SiO、B、Inとからなる導電性ペーストが開示されている。
【0006】
一方で、電子部品の多機能化も進められており、積層セラミックコンデンサのような単機能の電子部品ばかりではなく、複数の機能部品を一体化した複合部品も開発されている。例えば、DC−DCコンバータやスイッチング電源等の2次側回路では、平滑回路の等価直列抵抗(ESR)が帰還ループの位相特性に大きな影響を与え、特にESRが極端に低くなると問題が生ずることがある。すなわち、平滑コンデンサとしてESRの低い積層セラミックコンデンサを使用すると、2次側平滑回路が等価的にLとC成分のみで構成されてしまい、回路内に存在する位相成分が±90°及び0°のみとなり、位相の余裕がなくなり容易に発振してしまう。同様な現象は3端子レギュレータを用いた電源回路においても負荷変動時の発振現象として現れる。あるいは、CR回路等においても、低電流化に伴って周波数によってインピーダンスが変化し、電圧変動が生ずることが課題となっている。例えば、近年のCPUのデュアルコア化等に伴い、数kHz〜100MHzの周期で電流変動が生じ、電源のインピーダンスによって電圧変動が生じている。そこで、これらの不都合に対処するために、積層セラミックコンデンサの端子電極に抵抗層を形成し、これを抵抗として機能させることによりESRをある程度高めるようにしたCR複合部品等の電子部品が提案されている(例えば特許文献3等を参照)。
【0007】
特許文献3には、内部電極が形成された積層セラミックコンデンサ素体と、該コンデンサ素体の内部電極が表出する端面に、該内部電極と導通するように設けられた下地電極層と、該下地電極層上に設けられた抵抗層と、該抵抗層上に設けられ、該下地電極層に対して非接触となっている端子電極層とを備えてなるCR複合部品が開示されている。このようなCR複合部品を用い、抵抗層の抵抗値を適正に制御することで、周波数に関わらず電圧変動を抑えることが可能である。
【特許文献1】特開平5−36563号公報
【特許文献2】特開平8−298015号公報
【特許文献3】特開平10−303066号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、例えば前述のCR複合部品においては、下地電極層上に抵抗層を形成する必要があり、内部電極の保護が課題になる。抵抗層は酸化物を含んでいるため、大気中で焼成する必要があるが、内部電極が卑金属等により形成されている場合、抵抗層の焼成により酸化され電極として機能しなくなるおそれがある。これを防ぐためには、抵抗層に先だって形成される下地電極層に耐酸化性に優れた材料を用い、且つ形成される下地電極層をできるだけ緻密化することが有効である。
【0009】
また、CR複合部品に限らず、積層セラミックコンデンサ等の単機能電子部品においても、端子電極の緻密化は有効である。端子電極を緻密化することにより、内部電極が大気や湿度の侵入等により腐食されるのを防ぐことが可能となり、電子部品の信頼性を大幅に高めることができるからである。
【0010】
したがって、AgやPd等を導電金属材料としガラス成分を含む電極形成用組成物を用い、これを高温で焼成することにより端子電極を形成する必要があるが、この場合、形成された端子電極が積層セラミック素体から剥離するという問題がある。この問題は、前述の特許文献1記載の端子電極材料や、特許文献2記載の導電性ペーストを使用しても解決することはできない。
【0011】
本発明は、前述の従来の実情に鑑みて提案されたものであり、高温焼成により緻密化した場合にも積層セラミック素体等から剥離することのない信頼性の高い端子電極を形成することが可能な電極形成用組成物を提供することを目的とし、さらには積層セラミック素体の内部電極層が端子電極によって保護された信頼性の高い電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述の目的を達成するために、本発明の電極形成用組成物は、導電金属材料とガラス成分とを含み、積層セラミック素体に対して焼き付けにより電極形成が行われる電極形成用組成物であって、前記ガラス成分は、BaOを25質量%以上含み、軟化点温度が600℃以上であることを特徴とする。また、本発明の電子部品は、積層セラミック素体に端子電極が形成されてなる電子部品であって、前記端子電極が前記電極形成用組成物を焼き付けることにより形成されていることを特徴とする。
【0013】
電極形成用組成物により端子電極を形成する場合、含まれるガラス成分の特性が端子電極の信頼性を大きく左右する。電極形成用組成物に含まれるガラス成分が積層セラミック素体に対する密着性に優れたものであれば、形成される端子電極は積層セラミック素体から剥離し難くなる。また、ガラス成分の熱的挙動も重要であり、低温で軟化するガラス成分(軟化点が低いガラス成分)を用いた場合、形成される端子電極は、やはり積層セラミック素体から剥離し易くなる。
【0014】
本発明の電極形成用組成物においては、BaOを含むガラス成分を用いているので、チタン酸バリウム等のセラミックスにより形成される積層セラミック素体に対して優れた密着性を発揮する。また、ガラス成分の軟化点温度を600℃以上としているので、これによっても形成される端子電極の剥離が抑制される。これらが相俟って、本発明の電極形成用組成物を用いることで、高温焼成により緻密な端子電極の形成が実現され、また形成された端子電極の剥離が抑制される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の電極形成用組成物を用いれば、内部電極層の酸化等を抑え得る緻密な端子電極を形成することができ、しかも剥離等のない信頼性の高い端子電極を形成することが可能である。したがって、前記電極形成用組成物を用いて端子電極を形成することで、内部電極層が端子電極によって保護され、しかも端子電極剥離の無い信頼性の高い電子部品を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を適用した電極形成用組成物及びこれを用いた電子部品ついて、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下においては、積層セラミックコンデンサに端子電極を形成したCR複合部品における端子電極の形成を例にして説明するが、本発明がこれに限られるものでないことは言うまでもなく、例えば卑金属内部電極層と接続される端子電極を有する積層セラミックコンデンサ等、電子部品全般に適用可能である。
【0017】
図1は、端子電極形成の対象となるCR複合部品の一例を示すものである。CR複合部品1は、セラミック積層体である積層セラミックコンデンサ2を素子本体とし、その側面に端子電極層3及び抵抗体層4、さらには外部電極層5を形成することにより構成されている。
【0018】
前記積層セラミックコンデンサ2においては、複数の誘電体セラミック層21と内部電極層22とが交互に積層されている。そして、内部電極層22は、素子本体の対向する2端面に各側端面が交互に露出するように積層されており、素子本体の両側端部には一対の端子電極3がこれら内部電極層22と電気的に導通されるように形成されている。素子本体の形状は特に制限されるものではないが、通常は直方体形状である。その寸法も特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法に設定すればよい。
【0019】
積層セラミックコンデンサ2を構成する前記誘電体セラミック層21は、誘電体磁器組成物により構成され、誘電体磁器組成物の粉末(セラミック粉末)を焼結することにより形成される。前記誘電体磁器組成物は、例えば組成式ABO(式中、Aサイトは、Sr、Ca及びBaから選ばれる少なくとも1種の元素で構成される。Bサイトは、Ti及びZrから選ばれる少なくとも1種の元素で構成される。)で表されるペロブスカイト型結晶構造を持つ誘電体酸化物を主成分として含有するもの等を挙げることができる。前記誘電体酸化物の中でも、Aサイト元素をBaとし、Bサイト元素をTiとしたチタン酸バリウム等が好ましい。
【0020】
誘電体磁器組成物中には、主成分の他、各種副成分が含まれていてもよい。副成分としては、Sr、Zr、Y、Gd、Tb、Dy、V、Mo、Zn、Cd、Ti、Sn、W、Ba、Ca、Mn、Mg、Cr、Si及びPの酸化物から選ばれる少なくとも1種が例示される。副成分を添加することにより、例えば主成分の誘電特性を劣化させることなく低温焼成が可能となる。また、誘電体セラミック層21を薄層化した場合の不良の発生が低減され、長寿命化が可能となる。
【0021】
前記誘電体セラミック層21の積層数や厚み等の諸条件は、要求される特性や用途等に応じ適宜決定すればよい。誘電体セラミック層21の厚みについては、1μm〜50μm程度であり、通常は5μm〜20μm程度であるが、5μm以下とすることも可能である。例えば、積層セラミックコンデンサ2の小型化、大容量化を図る観点では、誘電体セラミック層21の厚さは3μm以下とすることが好ましい。誘電体セラミック層2の積層数は、2層〜300層程度であるが、特性を考慮すると150層以上とすることが好ましい。
【0022】
前記内部電極層22は、任意の金属材料を用いることができるが、例えば内部電極層22にNi、Cu、Ni合金又はCu合金等の卑金属を用いた場合に、本発明の電極形成用組成物を用いて端子電極層3を形成することの意義が大きい。内部電極層22に卑金属を用いることで、貴金属を用いた場合に比べて製造コストを削減することが可能であるが、酸化防止に留意する必要があるからである。なお、内部電極層22の厚みは、用途等に応じて適宜決定すればよく、例えば0.5μm〜5μm程度であり、好ましくは1.5μm以下である。
【0023】
一方、積層セラミックコンデンサ2の側面に形成される端子電極層3は、下地電極層として機能するものであり、前記積層セラミックコンデンサ2の内部電極層22と電気的に接続される。以下、この端子電極層3の形成に用いられる電極形成用組成物について説明する。
【0024】
前記端子電極層3の形成には、導電金属材料とガラス成分とを含む電極形成用組成物を用いる。ここで、導電金属材料としては、電気的導通が可能なものであれば如何なる金属材料であってもよいが、耐酸化性に優れ緻密な端子電極層3の形成が可能で、且つ内部電極層22の保護機能に優れる貴金属材料が好適である。具体的には、Ag、Pd、Au、Pt、あるいはこれらの合金を挙げることができる。Ag、Pd、Au、Ptやこれらの合金を前記導電金属材料として用い、これを含む電極形成用組成物を高温焼成することで、緻密で耐酸化性に優れ内部電極層22の保護機能に優れた端子電極層3の形成が可能である。
【0025】
形成される端子電極層3が下地となる積層セラミックコンデンサ2に対して十分な密着性を有するためには、前述の通り前記電極形成用組成物にガラス成分が含まれている必要があり、その選択が重要になる。前述のように電極形成用組成物を高温で焼成して緻密な端子電極層3を形成する場合、端子電極層3の密着性が悪いと積層セラミックコンデンサ2から容易に剥離してしまう。
【0026】
そこで、本発明においては、前記電極形成用組成物のガラス成分として、BaOを含み軟化点温度が600℃以上のガラス成分を使用する。BaOは、例えばチタン酸バリウム等からなるセラミック素体に対する密着性を確保する上で重要な成分であり、ガラス成分中、25質量%以上含まれている必要がある。前記割合でBaOを含むことにより、電極形成用組成物のセラミック素体(積層セラミックコンデンサ2)に対する密着性を確保することができる。ただし、これだけでは不十分であり、前記BaOを含有することに加えて、軟化点温度600℃以上であることが必要である。これらの条件が揃うことで、例えば電極形成用組成物を高温で焼成して緻密な端子電極層3を形成した場合にも剥離が生ずることがなく、保護機能に優れた端子電極層3の形成が可能になる。
【0027】
前記要件を満たすガラス成分としては、例えば下記に示すガラス組成を有するガラス成分を挙げることができる。
15質量%〜20質量%
SiO 5質量%〜15質量%
ZnO 3質量%〜13質量%
BaO 25質量%〜45質量%
CaO 2質量%〜12質量%
MgO 3質量%〜13質量%
アルカリ金属酸化物 10質量%以下
前記ガラス組成に、TiO、Al、ZrOから選ばれる1種または2種以上を5質量%以下の範囲で添加してもよい。
【0028】
前記ガラス組成において、B及びSiOはガラス化成分であり、あまり少なすぎるとガラス化しなくなるおそれがある。逆に、これらガラス化成分が多すぎると、相対的に他の成分の割合を少なくせざるを得なくなり、所望の特性が得られなくなるおそれがある。ZnOやCaO、MgOは、軟化点を調整する成分であり、ぞれぞれ前記範囲内とすることでガラス成分の軟化点温度を600℃以上とすることができる。
【0029】
電極形成用組成物において、ガラス成分の割合は、5質量%〜15質量%とすることが好ましい。ガラス成分の割合が5質量%未満であると、十分な密着性を確保することが難しくなるおそれがある。逆に、ガラス成分の割合が15質量%を越えると、相対的に導電金属材料の含有量を減らさざるを得ず、端子電極層3自体の抵抗値が高くなる等の不都合が生ずるおそれがある。
【0030】
前述の端子電極層3上には、抵抗体層4が形成されており、その結果、コンデンサC(積層セラミックコンデンサ2)と抵抗R(抵抗体層4)とが直列に接続され、CR複合部品としての機能が付与される。
【0031】
前記抵抗体層4に用いられる抵抗材料は任意であり、例えばガラス成分とRuOやPbRu等のRu酸化物との混合物(いわゆるメタルグレーズ)を用いることが好ましい。ガラス成分は任意である。導電材料としてRu酸化物を含むメタルグレーズは、湿度等の影響を受け難く、適正な等価直列抵抗(ESR)を実現することが可能である。また、Ru酸化物を導電材料として抵抗体層4を形成する場合、大気中での焼成が必要になるが、前記Pd含有導電材料を還元焼成することにより形成した端子電極層3が形成されているので、当該大気中焼成の際に内部電極層22中に酸素が侵入することがなく、内部電極層22が酸化されて電極としての機能が損なわれることがない。
【0032】
さらに、抵抗体層4上には、最も外側の電極層(外部電極層5)が形成されている。外部電極層5は、CR複合部品1の外部端子としての機能を果たすものであり、リード線の取り付けや実装時のはんだ付け等を考慮すると、抵抗値が小さく、はんだ濡れ性が良好であることが好ましい。したがって、例えばAgペースト等を焼成して焼結金属層5aを形成し、さらにNiやSn、スズ−鉛合金はんだ等をメッキすることでメッキ膜5bを形成し、これら焼結金属層5aとメッキ膜5bを外部電極層5とすればよい。また、メッキ膜5bについては、例えば内側をNiメッキ膜、外側をスズ−鉛合金はんだメッキ膜とすることも可能である。メッキ膜5bの膜厚としては、例えば0.1μm〜20μm程度である。
【0033】
次に、前述のCR複合部品1の製造方法、特にCR複合部品1における端子電極の形成方法について説明する。
【0034】
前記CR複合部品1において、積層セラミックコンデンサ2に端子電極層3を形成するには、先ず、端子電極前駆体層形成工程S1において、セラミック積層体である積層セラミックコンデンサ2の側面に端子電極前駆体層を形成する。端子電極前駆体層は、前述の導電金属材料及びガラス成分を含む導電ペーストをディッピングや印刷法等の手法を用いて積層セラミックコンデンサ2の端面に塗布することにより形成する。
【0035】
次に、前記端子電極前駆体層を還元焼成して端子電極層3とするが、有機ビヒクル等の有機物を含有しているので、当該還元焼成に際しては、先ず端子電極前駆体層に含まれる有機物を分解除去する脱バインダ工程を行う。脱バインダ工程は、大気中、例えば400℃程度の温度で行えばよい。
【0036】
前記脱バインダ工程の後、還元処理工程において端子電極前駆体層を還元処理する。還元処理は、水素等の還元性ガスを含む雰囲気中で所定の還元温度まで加熱することにより行う。通常、前記還元処理工程において、水素還元処理を施す場合、室温にて試料を雰囲気焼成可能な反応炉にセットし、密封する。炉内の雰囲気を水素含有雰囲気、例えば95%N−5%H混合ガス(N−5%H)に置換し、所定温度まで昇温し、一定時間経た後、降温する。水素濃度としては、0.1%〜10%程度に設定すればよい。先の脱バインダ工程により卑金属により形成された内部電極層22が酸化されるが、この還元処理工程を行うことにより還元され、内部電極層22本来の機能を回復する。
【0037】
なお、前記還元処理工程における還元温度は、250℃〜500℃とすることが好ましい。前記還元温度が250℃未満であると、十分に内部電極層22の還元が進まなくなるおそれがある。逆に、還元温度が500℃を越えると、積層セラミックコンデンサ2を構成する誘電体セラミック層21が還元されて特性が劣化するおそれがある。
【0038】
前記還元処理工程の後、焼き付け工程を行う。この焼き付け工程は、前記端子電極前駆体層を積層セラミックコンデンサ2に焼き付け、端子電極層3とするための工程である。焼き付け工程は、窒素雰囲気やArガス雰囲気等、不活性ガス雰囲気中で行う。また、その温度は、焼き付けに必要な温度とすればよく、形成される端子電極層3を緻密なものとするためには、例えば850℃以上に設定することが好ましい。
【0039】
前述のように焼き付け工程を850℃以上の高温で行った場合、導電ペーストに含まれる導電金属材料が収縮し、形成される端子電極層3が剥離し易くなる傾向にある。例えば導電金属材料としてPdを使用した場合、900℃〜1000℃程度で収縮する。この導電金属材料の収縮に伴って端子電極層3が積層セラミックコンデンサ2から剥離し易くなるが、前述の通り、導電ペーストに含まれるガラス成分の軟化点温度を600℃以上とし、BaOを所定の割合で含むガラス組成物を用いることにより、剥離の発生を抑えることが可能である。
【0040】
端子電極層3形成のための還元焼成工程は、以上の脱バインダ工程、還元処理工程、及び焼き付け工程の3つの工程により構成され、これら工程の後、抵抗体層4や外部電極層5の形成を行う。
【0041】
すなわち、抵抗体前駆体層形成工程において、抵抗体ペーストを印刷して抵抗体前駆体層を形成し、これを焼成工程において焼成することで抵抗体層4を形成する。例えばRu酸化物を含むメタルグレーズを抵抗材料とする場合、Ru酸化物の還元を防ぐため、大気中、850℃程度の温度で焼成を行う。この時、前記還元焼成工程により形成された緻密な端子電極層3(Pd含有導電材料により形成された端子電極層3)が酸素透過防止膜として機能するため、大気中の酸素が侵入して内部電極層22を酸化することはない。
【0042】
前記抵抗体層4の形成の後、外部電極前駆体層形成工程においてAgペースト等の導電ペーストをディッピング等の手法により塗布し、これを焼成工程において焼成することで外部電極層5を形成する。焼成工程は、例えば大気中、750℃程度の温度で行えばよい。また、外部電極層5の外側には、メッキ膜を形成してもよい。メッキ膜の形成は、湿式メッキや蒸着、スパッタ等の手法により行えばよい。
【0043】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。例えば、前述の実施形態では、CR複合部品を例にして端子電極の形成について説明したが、対象となる電子部品がCR複合部品に限られるものではない。例えば、圧電セラミック電子部品や、通常の積層セラミックコンデンサ等の端子電極の形成に適用することが可能である。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の具体的な実施例について、実験結果に基づいて説明する。
【0045】
卑金属であるNi内部電極を有するチップコンデンサ(容量1μF±20%)の端子電極形成部分にAgPd合金(Pd30質量%含有)を導電金属材料とする導電ぺーストを印刷し、大気中350℃で脱バインダ行った。さらに、320℃で水素還元処理を行い、窒素中、950℃で焼き付けを行って端子電極層を形成した。導電ペーストに含まれるガラス成分の割合は10質量%とした。次いで、RuO系メタルグレーズペーストをAgPd合金電極(端子電極層)上に印刷し、大気中、850℃で焼成した。
【0046】
導電ペーストに含まれるガラス成分の組成や軟化点温度を表1に示すように変え、種々のサンプル(サンプル1〜サンプル36)を作成した。表1において、前述の好ましい組成範囲から外れた組成については、*印を付与してある。そして、これらサンプルについて端子電極層の剥離の有無を調べた。結果を表1に示す。なお、端子電極層の剥離は、100個のうち剥離を生じているものの個数で評価を行い、100個中剥離が生じていたものが5個以下である場合を剥離無し、100個中剥離が生じていたものが6個以上である場合を剥離有りとした。
【0047】
【表1】

【0048】
この表1から明らかなように、導電ペーストに含まれるガラス組成物の軟化点温度が600℃未満であるサンプル1〜サンプル16においては、端子電極層に剥離が生じ、歩留まりの低下が避けられない。同様に、軟化点温度が600℃以上であっても、ガラス成分がBaOを含まないサンプル35,36においても、端子電極層に剥離が生じた。これに対して、導電ペーストに含まれるガラス組成物の軟化点温度が600℃以上であるサンプル17サンプル34においては、端子電極層の剥離はほとんど発生していない。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】CR複合部品の一例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0050】
1 CR複合部品、2 積層セラミックコンデンサ、3 端子電極層、4 抵抗体層、5 外部電極層、21 誘電体セラミック層、22 内部電極層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電金属材料とガラス成分とを含み、積層セラミック素体に対して焼き付けにより電極形成が行われる電極形成用組成物であって、
前記ガラス成分は、BaOを25質量%以上含み、軟化点温度が600℃以上であることを特徴とする電極形成用組成物。
【請求項2】
前記ガラス成分の組成が、
15質量%〜20質量%
SiO 5質量%〜15質量%
ZnO 3質量%〜13質量%
BaO 25質量%〜45質量%
CaO 2質量%〜12質量%
MgO 3質量%〜13質量%
アルカリ金属酸化物 10質量%以下
であることを特徴とする請求項1記載の電極形成用組成物。
【請求項3】
前記導電金属材料は、Ag、Pd、Au、Ptから選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1または2記載の電極形成用組成物。
【請求項4】
前記焼き付けが850℃以上の温度で行われることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の電極形成用組成物。
【請求項5】
積層セラミック素体に端子電極が形成されてなる電子部品であって、前記端子電極が請求項1から3のいずれか1項記載の電極形成用組成物を焼き付けることにより形成されていることを特徴とする電子部品。
【請求項6】
前記積層セラミック素体には内部電極層が形成されており、当該内部電極層が卑金属により形成されていることを特徴とする請求項5記載の電子部品。
【請求項7】
前記積層セラミック素体が積層セラミックコンデンサであり、前記端子電極を下地電極としてその上に抵抗体層及び外部電極が形成されたCR複合電子部品であることを特徴とする請求項5または6記載の電子部品。
【請求項8】
前記端子電極は、850℃以上の温度で焼き付けられていることを特徴とする請求項5から7のいずれか1項記載の電子部品。

【図1】
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【公開番号】特開2008−130720(P2008−130720A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−312564(P2006−312564)
【出願日】平成18年11月20日(2006.11.20)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】