説明

電極材料および電極

【課題】アークによる変形や消耗が少ない電極材料および電極を提供すること。
【解決手段】導電成分2からなるマトリックスと、複数の線状をなし前記マトリックス内に配置された耐弧成分1とを有し、前記複数の耐弧成分1は一方向に向いて配置されている構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力開閉装置の接点、アーク溶接機の溶接電極、放電加工機の放電電極等として用いられる電極材料および電極に関する。
【背景技術】
【0002】
電気回路を開閉し、電気の入り切りを行うためには開閉装置を必要とするが、これらの開閉装置には、発電所、変電所の送配電系統を制御するもの、工場におけるモーター、電熱炉等を制御するもの、また、それらの電力を制御するリレーなどがあり、100Vから数十万Vにいたる広範な領域で使用されている。
これらを開閉電流の大きさにより区分すると次のようになる。
【0003】
第1は、通常時の負荷電流と異常時の短絡電流を支障なく開閉できるもので、開閉の頻度は一般に少なく、遮断器(ブレーカー)がこれに属している。遮断器の種類には、油中遮断器、気中遮断器、磁気吹消遮断器、ガス遮断器、真空遮断器、配線用遮断器などがあり、電気回路に漏電が発生した場合に安全を守る漏電遮断器もこれに含まれる。
【0004】
第2は、通常時の比較的大きな負荷電流を多数回開閉できるもので、真空開閉器、電磁開閉器、タップ切替器などの開閉器がこれに該当する。
【0005】
第3は、比較的小さな負荷電流を多数回開閉するもので、制御用、電装用、電子・通信用に使用される電磁継電器(リレー)、スイッチがこれに該当する。なお、このほかに、回路の接続替えや接続を断つことを目的とし、無電流あるいはそれに近い状態での回路開閉に使用される断路器などがある。
【0006】
高圧用の遮断器、開閉器では耐アーク性、耐溶着性にすぐれた銅−タングステン、銀−タングステン、銀−炭化タングステンなどの焼結接点が使用されている。すなわち、耐酸化性にすぐれた銀−炭化タングステンは中負荷の気中開閉器に、比較的耐酸化性にすぐれた銀−タングステンは高負荷用の気中開閉器に、耐酸化性は劣るが耐消耗性にすぐれた銅−タングステンは、油中、ガス、真空遮断器においてすぐれた機能を発揮する。
【0007】
一方、電流を遮断しない通電用接点としては、銅あるいは銀などの材料が使用されている。低圧用の気中遮断器、配線用遮断器のうち、大容量のものにはアーキングチップとして銀−タングステン、銀−炭化タングステンなどが使用され、メインコンタクト(主接点)としては、銀−ニッケルが使用されている。また、中容量以下のアーク・通電兼用接点としては、通電性及び耐溶着性にすぐれた銀−炭化タングステン、銀−酸化カドミウムなどが多用されている。
【0008】
アーク溶接は、溶接電極(溶接棒)と被溶接物との間にアークを発生させ、その熱を利用して溶接する方法であり、溶接電極には一般的に、高温下で変形しにくいこと、熱、電気伝導度が高いこと、被溶接材及びメッキ材と合金化しにくいこと、大気中で酸化しにくいことが要求される。一般的には、寿命、性能などを考慮して、銅、クロム銅、アルミナ分散銅、タングステン系合金などが用いられる。
【0009】
放電加工は、被加工物である金属に対して加工工具である放電電極によって両者を絶縁する加工液(主に油)を介して電気エネルギーを加え、その時に発生する火花エネルギー(雷と同じ状況)によって被加工物の表面を微細に除去していく加工法である。放電電極は、放電加工機の電源の種類、被加工物の材質、放電条件などによって選択され、銅−タングステン合金、銀−タングステン合金のほか、銅、黄銅、グラファイト、銅−グラファイト、アルミ、鉄などが用途に応じて使用される。
【0010】
経済性と環境調和の観点から、電力機器の高電圧・大容量化とコンパクト化は重要な課題であり、継続的な開発が進められている。これらの開発では、変電機器を構成する材料にきわめて苛酷な条件が課される。
【0011】
つまり、電力機器における電気接点は、さらに苛酷な条件において、(1)消耗量の少ないこと、(2)耐溶着性のあること、(3)接触抵抗の低いこと、(4)電気伝導体であることが求められている。
【0012】
高圧用の遮断器、開閉器では、高融点材料であるタングステンまたはモリブデンと高電気伝導率及び高熱伝導率材料である銅または銀の複合材料が接点材料として使用されている(特許文献1,2)。これらの材料は、現用接点材料の中で最も苛酷な条件の用途に適合するものとして各種機器に用いられている。しかし、高圧下で繰り返し遮断を繰り返すと、上記の材料はアークエロージョンにより先端部が10mm以上も損耗する。さらに、装置のコンパクト化で電気接点径が小さくなると、電流密度が増大し、上記の苛酷な条件下での使用に耐えられない。
【0013】
上記のアークエロージョンによる損傷メカニズムは、次のような現象で説明される。高融点材料であるタングステンまたはモリブデンなどの耐弧成分と高電気伝導率及び高熱伝導率材料である銅または銀などの導電成分の複合材料は、アーキング時に銅または銀などの導電成分の部分に陰陽極点が形成され、表面の銅または銀などの導電成分が蒸発する。銅または銀などの導電成分の欠損により、表面の電気伝導率及び熱伝導率が低下し、タングステンまたはモリブデンなどの耐弧成分部分が焼結開始し、焼結収縮により亀裂が発生し、タングステンまたはモリブデンなどの耐弧成分部分が脱落、損耗する。
【0014】
アーク溶接や放電加工における電極材料も、一般的に寿命が必ずしも十分でなく、変形、消耗が激しい。
【特許文献1】特開2002−294384号公報
【特許文献2】特開2002−327232号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、アークによる変形や消耗が少ない電極材料および電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明の電極材料は、導電成分からなるマトリックスと、前記マトリックス内に配置された耐弧成分とを有し、前記耐弧成分は一方向に連続して複数配置されている構成とする。
【0017】
本発明の電極は、上記電極材料を用いて電極材料の良電気伝導の方向、すなわち導電成分および耐弧成分が一方向に配置された方向(図1(a)の上下方向)と主たる電流が流れる方向が同一となるようにした構成とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、アークによる変形や消耗が少ない電極材料および電極を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、遮断時に発生するアークエロージョンによる損耗量を減らすため、陰陽極点がつきやすい導電成分と、耐弧成分として融点および蒸発熱の高い金属の材料構造を適正化すること、導電成分の蒸発による欠損を抑制し、耐アークエロージョン特性に優れた電極材料を提供する。また本発明は、銅/タングステン材料において、遮断時に発生するアークエロージョンによる損耗量を減らすため、陰陽極点がつきやすい銅と、耐弧成分として融点および蒸発熱の高いタングステンの材料構造を適正化することによって、銅の蒸発による欠損を抑制し、耐アークエロージョン特性に優れた電極材料を提供する。
【0020】
まず本発明の電極材料は、耐弧成分と導電成分からなり、耐弧成分と導電成分が一方向に配列した組織を有する複合材料である。この複合材料では、導電成分が一方向に配列することにより、導電成分の配列方向の導電率と熱伝導率を大幅に改善し、電極材料の接点部の発熱を抑制すると同時に、電極材料の冷却性能を向上させて、発熱による温度を低下させ、導電成分の蒸発による欠損を抑制する。また、耐弧成分の金属は緻密質であるため焼結することなく、焼結収縮による亀裂が発生し耐弧成分部分が脱落、損耗することを抑制する。なお、一方向に配列させるには、一方向の繊維や棒状の耐弧成分を配置した材料構造が好ましい。
【0021】
また本発明の電極材料は、耐弧成分としてW、Mo、C、Ta、Nbなどを主体とした高融点材料、導電成分としてCu、Al、Ag、Auなどを主体とした良電気伝導材料から構成された複合材料である。耐弧成分と導電成分の組合せにおいて、耐弧成分と導電成分が合金をつくらない組合せが好ましい。しかし、耐弧成分と導電成分が合金をつくる場合は、セラミックスなどの反応抑止層を耐弧成分と導電成分の界面に設けることにより、耐弧成分及び導電成分をそれぞれ単相で存在させた電極材料を得ることができる。繊維や棒状の耐弧成分を一方向に配列させる場合、繊維や棒に、セラミックスなどの反応抑止層をコーティングすることにより、容易に耐弧成分及び導電成分をそれぞれ単相で存在させた電極材料を得ることができる。
【0022】
また本発明の電極材料は、耐弧成分としてタングステン線、導電成分として銅マトリックスで構成され、タングステンの体積比率が40から90%の範囲にあるタングステン線/銅マトリックス複合材料である構成とする。この電極材料では、導電成分である銅マトリックスが一方向に配列されていることにより、導電成分の配列方向の導電率、熱伝導率を従来の電極材料に比べて大幅に改善し、電極材料の接点部の発熱を抑制すると同時に、電極材料の冷却性能を向上させて、発熱による温度を低下させ、導電成分である銅の蒸発による欠損を抑制する。また、耐弧成分のタングステン線も一方向に配列されているため、従来のタングステン粒子のような焼結は起こらず、焼結収縮による亀裂が発生せず、耐弧成分のタングステン線部分が脱落、損耗することを抑制する。なお、耐弧成分のタングステン線が一方向に配列した構成は、タングステン繊維やタングステン棒を一方向に配置させると容易に得ることができる。
【0023】
また本発明の電極材料は、導電成分としての銅マトリックス中に5%以下のNi、Cr、Fe、Coを含有するタングステン線/銅マトリックス複合材料である構成とする。銅マトリックス中に5%以下のNi、Cr、Fe、Coを含有させることにより、タングステン線/銅マトリックス複合材料の製造プロセスにおいて、タングステン線に対する銅の濡れ性を向上し、より緻密な組織のタングステン線/銅マトリックス複合材料を得ることができる。組織が緻密であると、電極材料の配列方向の導電率、熱伝導率が高いものが得られるため、導電成分である銅の蒸発による欠損を抑制する効果が向上する。しかし、銅マトリックス中に含有する量が5%を超えると、銅の優れた導電率、熱伝導率を低下させるため、本発明の効果が得られない。
【0024】
また本発明の電極材料は、上記のようなタングステン線/銅マトリックス複合材料の電極材料において、一方向に配列したタングステン線同士の少なくとも一部が接触、あるいは接合している構成とする。すなわち、耐弧成分であるタングステン線同士を固定している構造である。これにより、アークに曝された面より融点の低い銅の蒸発による欠損が生じても、電極材料全体の強度低下を低減できる。
【0025】
また本発明の電極材料は、上記のようなタングステン線/銅マトリックス複合材料である電極材料において、タングステン線中に金属酸化物からなる第2相が含有されている構成とする。タングステン線中に金属酸化物からなる第2相を数%〜0.数%含有することにより、高温における特性が改善される。すなわち、耐熱性が向上し、より高温まで変形せず、優れた高温特性を保持する。金属酸化物は、酸化イットリウム(イットリア)、酸化ランタン、酸化セリウム(セリア)、酸化トリウム(トリア)、酸化チタン(チタニア)、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、酸化ハフニウム(ハフニア)等の3A金属または4A金属の酸化物が適している。3A金属および4A金属の酸化物は電子放出特性に優れているため、陰陽極点がタングステン線につきやすく、融点の低い銅の蒸発を抑制し、耐アーク性が改善される。また、ガス遮断器の電極とした場合、金属酸化物はタングステン線とガスの反応を抑制し、電極の損耗を抑制できる。
【0026】
また本発明の電極材料は、上記のようなタングステン線/銅マトリックス複合材料である電極材料において、タングステン線の直径が20μmから、2mmまでの範囲である構成とする。タングステン線の直径は、電極材料のサイズ、要求される耐アーク性、製品コストにより選定する。選定においては、上記の直径の範囲内のものを選定することが好ましい。つまり、20μm未満の場合、耐弧成分であるタングステン線が一方向に配列した組織に形成することが困難である。すなわち、20μm未満のタングステン線とタングステン線の間に、導電成分である銅を一様に存在させることが困難になる。また、直径が2mmを超える場合、単位面積あたりの銅のサイズが大きくなり、より陰陽極点がつきやすくなる傾向が見られる。すなわち、直径が2mm以下のタングステン線を用いることにより、優れた耐アーク性を安定して示す。
【0027】
また本発明の電極材料は、上記のようなタングステン線/銅マトリックス複合材料である電極材料において、タングステン線の直径が、2種類以上である構成とする。タングステン線径が2種類以上である場合、単位面積あたりの銅のサイズがより均等になる傾向を示す。つまり、複数の直径のタングステン線を備えることにより、陰陽極点のつきやすい銅のサイズが均等となり、優れた耐アーク性を安定して示す。
【0028】
本発明の電極は、上記電極材料を用いて、良電気伝導方向に主たる電流が流れるようにした構成である。耐弧成分と導電成分からなる電極材料において、耐弧成分が一方向に配列した組織である電極材料を、電気伝導方向に配置することにより、アークによる損耗を低減し、耐アーク性に優れた電気接点を提供することができ、長寿命で、優れた性能を安定的に示すことができる。また、この電気接点を備えた電気機器、電気回路は、長寿命で、優れた性能を長期にわたり安定して示すことができる。また、条件によっては、消耗の多いとされる電気接点のメンテナンスフリーも可能となる。
【0029】
本発明の電極は、上記のような複合材である電極材料を電力開閉装置の接点、アーク溶接機の溶接電極、放電加工機の放電電極、高圧用の遮断器、開閉器の接点として備える。これにより、現用電極に比べて耐アーク性に優れ、損耗量が2/3〜1/2に低減される。特に最も苛酷な条件の用途の場合、例えば、高圧下で繰り返し遮断を行った場合、その効果は顕著である。また、アーク溶接、放電加工における電極も、現用電極に比べて、寿命が2倍近く向上し、変形、消耗が大幅に低減される。
【0030】
以下本発明の実施の形態について、図面およびデータを用いて説明する。
【0031】
(第1の実施の形態)
本実施の形態は、耐弧成分と導電成分からなる電極材料において、耐弧成分が一方向に連続した形状を有する構成である。図1に、実施例及び比較例の電極材料断面構造の模式図を示す。比較例(従来材)は、粒子状または粉末状の耐弧成分1からなる方向性のない多孔体に、導電成分2である金属がその隙間を埋めた構成を有している。これに対して、実施例は導電成分2のマトリックス中に繊維や棒状の耐弧成分1を一方向に配列させた構成を有している。実施例の電極材料の製造方法は、耐弧成分と導電成分の比率に応じて適切な方法を採用している。すなわち、一方向に向いた繊維または棒状の耐弧成分と導電成分の粉末またはワイヤを焼結させる焼結法、あるいは、一方向に向いた繊維または棒状の耐弧成分と導電成分の粉末またはワイヤを高温静水圧成形するHIP焼結法、あるいは、一方向に向いた繊維または棒状の耐弧成分間に導電成分を溶浸していく溶浸法、あるいは、一方向に向いた繊維または棒状の耐弧成分と導電成分の粉末またはワイヤを仮焼結させて、さらに導電成分を溶浸していく焼結溶浸法である。
【0032】
図2の表に、耐弧成分としてW、Mo、C、Ta、Nb、導電成分としてCu、Al、Ag、Auを用いた各種電極材料の電気伝導率と熱伝導率とアークエロージョン試験における損耗量を示す。実施例は、耐弧成分が一方向に並んで連続した構成であるもの、比較例は、耐弧成分が粒子状のものがランダムに配置した構成であるものである。また、実施例、比較例ともに、耐弧成分と導電成分の体積比率を50%とした。
【0033】
各実施例および比較例について、焼結体から電気伝導率、熱伝導率評価用試験体を切り出し、JIS規格(非鉄金属)の電気伝導率、熱伝導率評価方法に準じて測定を行った。図2のデータから明らかなように、耐弧成分が一方向に配列する、つまり、導電成分が一方向に配列することにより、電極材料の配列方向の電気伝導率と熱伝導率が大幅に改善していることがわかる。つまり、電極材料の配列方向の電気伝導率と熱伝導率が大幅に改善しているため、電気接点としたときの発熱を抑制すると同時に、電極の冷却性能を向上させることができる。
【0034】
さらに、各実施例および比較例の電極材料について、焼結体から、直径20mm、厚さ6mmの円盤状試験体を機械加工で削り出した。ただし、アーク損傷評価試験面は#1000で研磨仕上げを行い、表面粗さを0.5μm(Rmax)程度とした。図3のアークエロージョン評価試験装置に示したように、タングステントーチを用い、陽極は水冷銅陽極とし、アーク長さは150mm、シールドガスは高純度アルゴン、シールド流量は0.001m/sとした。試験に用いた電源は定格出力500Aのインバーター式直流電源である。アークスタート電流はすべて50Aに設定した。試験条件は、100A、100V、30秒間、SFガス雰囲気中で実施した。SFガスの流量は、0.002m/sとした。アークエロージョン評価試験後の試験体の損耗量は、試験前後の試験体の重量を測定し、体積に換算して求めた。
【0035】
図2の表に示すように、アークエロージョン試験後、各実施例の損耗量は、比較例の約1/3〜1/2に低減されており、耐弧成分と導電成分からなる電極材料において、耐弧成分が一方向に連続に配列した組織は、優れた耐アーク性を示すことを確認した。
【0036】
アークエロージョン試験は、実機の電極部品の損耗量と、良い一致が見られることを、機種毎に確認している。導電率の高い方向に主たる電流が流れるように製造した電極部品は、本実施の形態により、耐アーク性に優れることにより、損耗量が2/3〜1/2に低減されることが期待される。そして、この電極部品を内蔵した電気機器は、寿命が2倍近く向上できることが期待される。
【0037】
(第2の実施の形態)
本実施の形態では、耐弧成分としてタングステン、導電成分として銅を備えた電極材料において、タングステンが一方向に連続して設けられた構成である。図4に、実施例及び比較例の電極材料断面構造の模式図を示す。比較例(従来材)は、粒子状または粉末状のタングステン5からなる多孔体に、銅マトリックス4がその隙間を埋めた構成を有している。これに対して、実施例は繊維や棒状のタングステン線3を銅マトリックス4中に一方向に配列させた構成を有している。実施例の電極材料の製造方法は、タングステンと銅の比率に応じて適切な方法を採用している。すなわち、一方向に向いた繊維または棒状のタングステンと銅の粉末またはワイヤを焼結させる焼結法、あるいは、一方向に向いた繊維または棒状のタングステンと銅の粉末またはワイヤを高温静水圧成形するHIP焼結法、あるいは、一方向に向いた繊維または棒状のタングステン間に銅を溶浸していく溶浸法、あるいは、一方向に向いた繊維または棒状のタングステンと銅の粉末またはワイヤを仮焼結させて、さらに銅を溶浸していく焼結溶浸法である。
【0038】
図5の表に、耐弧成分としてタングステン、導電成分として銅を用い、それらの体積率を変えたときの電気伝導率と熱伝導率とアークエロージョン試験における損耗量を示す。実施例は、タングステンが一方向に向いた構成であるもの、比較例は、タングステンが粒子状のものがランダムに配置した構成であるものである。また、実施例、比較例ともに、タングステンの体積率が、35、40、50、60、70、80、90、95%のものを作製し試験した。
【0039】
各実施例および比較例について、第1の実施の形態と同様に、電気伝導率と熱伝導率の評価を行った。図5のデータから明らかなように、タングステンが一方向に配列する、つまり、銅が一方向に配列することにより、電極材料の配列方向の電気伝導率と熱伝導率が大幅に改善していることがわかる。つまり、電極材料の配列方向の電気伝導率と熱伝導率が大幅に改善しているため、電気接点としたときの発熱を抑制すると同時に、電極の冷却性能を向上させることができる。
【0040】
さらに、第1の実施の形態と同様に、アークエロージョン試験を行った。アークエロージョン試験後、各実施例の損耗量は、比較例の約1/3〜1/2に低減されていることがわかった。特に、電極材料中のタングステンの体積率が40%から90%の範囲にある場合に顕著な効果を示すことが明らかになった。
【0041】
(第3の実施の形態)
図6の表に、耐弧成分としてタングステン線、導電成分として銅マトリックスを有し、銅マトリックス中に5%以下のNi、Cr、Fe、Coのいずれかを含有させた、タングステン線/銅マトリックス複合電極材料の電気伝導率と熱伝導率とアークエロージョン試験における損耗量を示す。実施例の電極材料の製造方法は、一方向に向いた繊維または棒状のタングステンと、銅の粉末またはワイヤに5%以下のNi、Cr、Fe、Coのいずれかを添加して焼結させる焼結法、一方向に向いた繊維または棒状のタングステンと、銅の粉末またはワイヤに5%以下のNi、Cr、Fe、Coのいずれかを添加して高温静水圧形成するHIP焼結法、あるいは、一方向に向いた繊維または棒状のタングステン間に5%以下のNi、Cr、Fe、Coのいずれかを含有させた銅を溶浸していく溶浸法、あるいは、一方向に向いた続繊維または棒状のタングステンと銅の粉末またはワイヤに5%以下のNi、Cr、Fe、Coのいずれかを仮焼結させて、さらに銅を溶浸していく焼結溶浸法である。
【0042】
各実施例について、上記第1、第2の実施の形態と同様に、電気伝導率と熱伝導率の評価を行った。図6のデータから明らかなように、銅中に5%以下のNi、Cr、Fe、Coのいずれかを含有させたタングステン線/銅マトリックス複合電極材料は、含有させていないものに比較して、電極材料の配列方向の電気伝導率と熱伝導率が改善していることがわかる。
【0043】
さらに、上記第1、第2の実施の形態と同様のアークエロージョン試験の結果、銅マトリックス中に5%以下のNi、Cr、Fe、Coのいずれかを含有させた実施例の電極材料の損耗量は、含有させていないものに比較して、さらに低減されることがわかった。
【0044】
タングステン線/銅マトリックス複合電極材料において、一方向に配列したタングステン線同士の少なくとも一部が接触、あるいは接合しているものは、アークに曝された後の電極材料の機械的特性、熱的特性、及び、電気的特性が、一方向に配列したタングステン線同士の一部分も接触していない、あるいは接合していないものに比較して、バラつきが小さくなる傾向が見られた。すなわち、耐弧成分であるタングステン線同士を固定した構造となるため、アークに曝された面から融点の低い銅の蒸発による欠損が生じても、電極材料の強度が低下せず、組織が安定化し、各特性のバラツキが低減していることが推察される。
【0045】
(第4の実施の形態)
図7に、タングステン線3中に金属酸化物6からなる第2相が含有されているタングステン線/銅マトリックス複合電極材料の模式図を示す。タングステン線3中に金属酸化物6からなる補強相を数%〜0.数%含有することにより、高温における特性が改善される。すなわち、耐熱性が向上し、より高温まで変形せず、タングステンの優れた高温特性を保持する。
【0046】
図8の表に、金属酸化物6として、酸化イットリウム(イットリア)、酸化ランタン、酸化セリウム(セリア)、酸化トリウム(トリア)酸化チタン(チタニア)、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、酸化ハフニウム(ハフニア)のいずれかが含有されたタングステン線/銅マトリックス複合電極材料のアークエロージョン試験における損耗量を示す。各実施例の電極材料の製造方法は、タングステン原料粉末に金属酸化物を添加して、補強相を含有させた一方向に向いた繊維または棒状のタングステンを作製し、この一方向に向いた繊維または棒状の補強相を含有したタングステンと、銅の粉末またはワイヤを焼結させる焼結法、あるいは、一方向連続繊維または棒状の補強相を含有したタングステンと、銅の粉末またはワイヤを高温静水圧成形するHIP焼結法、あるいは、一方向に向いた繊維または棒状の補強相を含有させたタングステン間に銅を溶浸していく溶浸法、あるいは、一方向に向いた繊維または棒状の補強相を含有させたタングステンと銅の粉末またはワイヤを仮焼結させて、さらに銅を溶浸していく焼結溶浸法である。
【0047】
各実施例について、上記第1〜第3の実施の形態と同様に、アークエロージョン試験を行った。アークエロージョン試験後、金属酸化物6として、酸化イットリウム(イットリア)、酸化ランタン、酸化セリウム(セリア)、酸化トリウム(トリア)酸化チタン(チタニア)、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、酸化ハフニウム(ハフニア)のいずれかが含有されたタングステン線/銅マトリックス複合電極材料の損耗量は、含有されていないものに比較して、さらに低減されることがわかった。これらの金属酸化物を補強相として含有させることにより、高温における特性が改善され、耐熱性が向上し、より高温まで変形せず、タングステンの優れた高温特性を保持するためと推察される。また、これらの金属酸化物は電子放出特性に優れるため、陰陽極点がタングステンにつきやすく、融点の低い銅の蒸発を抑制し、耐アーク性が大幅に改善されることも推察される。また、金属酸化物はタングステンとSFガスとの反応を抑制し、損耗量を抑制できることも要因として考えられる。
【0048】
(第5の実施の形態)
図9に、タングステン線3の直径が2種類以上から構成される本実施の形態のタングステン線/銅マトリックス複合電極材料の模式図を示す。タングステン線3の直径が2種類以上からなる場合、単位面積あたりの銅マトリックス4のサイズがより均等になる傾向を示すことがわかった。つまり、タングステン線径が2種類以上からなると、陰陽極点のつきやすい銅マトリックス4のサイズが均質となり、1種類のタングステン線径のものに比較して、改善できることがわかった。
【0049】
タングステン線3の直径は20μmから2mmの範囲がよい。図10の表に、タングステン3の直径を変えたタングステン線/銅マトリックス複合電極材料のアークエロージョン試験結果を示す。実施例の電極材料の製造方法は、タングステン線径の異なるものを用いて、上記第2の実施の形態と同様に作製した。タングステン線の直径が20μmから、2mmの範囲のものが、より優れたアークエロージョンを示すことがわかる。これは、直径20μm未満の場合、耐弧成分であるタングステン線を一方向に配列した組織に形成させることが困難であるため、すなわち、直径20μm未満のタングステン線の相互間に、導電成分である銅マトリックスを一様に形成させることが困難になり、均質な組織が得られないためと思われる。また、直径が2mmを超える場合、単位断面積あたりの銅マトリックスのサイズが大きくなり、より陰陽極点がつきやすくなる傾向が見られた。
【0050】
(第6の実施の形態)
アークエロージョン試験と、電力開閉装置の接点、アーク溶接機の溶接電極、放電加工機の放電電極における損耗量は、相関のあることが確認できた。アークエロージョン試験結果より、上記各種実機の損耗量を、単位実効表面積あたりの累積電流値で整理できることが確認できた。高圧用の遮断器、開閉器の接点は、本発明のタングステン線/銅マトリックス複合電極材料を用いることにより、現用接点材料に比べて、耐アーク性に優れることにより、損耗量が2/3〜1/2に低減されることが推察される。特に。最も苛酷な条件の用途の場合、例えば、高圧下で繰り返し遮断を行った場合、その効果は顕著である。また、アーク溶接、放電加工における電極材料も、現用電極材料に比べて、寿命が2倍近く向上し、変形、消耗が大幅に低減される。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示し、(a),(b),(c),(d)はそれぞれ実施例および比較例の電極材料の縦断面図および平断面図。
【図2】本発明の第1の実施の形態の実施例および比較例の電極材料の特性を示す表。
【図3】本発明の実施の形態の電極材料のアークエロージョン特性を評価する試験装置の断面および電気接続を示す図。
【図4】本発明の第2の実施の形態を示し、(a),(b),(c),(d)はそれぞれ実施例および比較例の電極材料の縦断面図および平断面図。
【図5】本発明の第2の実施の形態の実施例および比較例の電極材料の特性を示す表。
【図6】本発明の第3の実施の形態の実施例および比較例の電極材料の特性を示す表。
【図7】本発明の第4の実施の形態における実施例の電極材料の縦断面図(a)および平断面図(b)。
【図8】本発明の第4の実施の形態における実施例の電極材料の特性を示す表。
【図9】本発明の第5の実施の形態における実施例の電極材料の縦断面図(a)および平断面図(b)。
【図10】本発明の第5の実施の形態における実施例の電極材料の特性を示す表。
【符号の説明】
【0052】
1…耐弧成分、2…導電成分、3…タングステン線、4…銅マトリックス、5…タングステン粒子、6…金属酸化物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電成分からなるマトリックスと、前記マトリックス内に配置された耐弧成分とを有し、前記耐弧成分は一方向に連続して複数配置されていることを特徴とする電極材料。
【請求項2】
前記複数の耐弧成分は少なくとも一部が相互に接触、あるいは接合していることを特徴とする請求項1記載の電極材料。
【請求項3】
前記耐弧成分は、W、Mo、C、Ta、Nbのいずれかからなる高融点材料であり、前記導電成分は、Cu、Al、Ag、Auのいずれかからなる良電気伝導材料であることを特徴とする請求項1記載の電極材料。
【請求項4】
前記耐弧成分はタングステンであり、前記導電成分は銅であり、タングステンの体積比率が40から90%の範囲にあることを特徴とする請求項1記載の電極材料。
【請求項5】
前記銅中に5%以下のNi、Cr、Fe、Coのいずれかを含有することを特徴とする請求項4記載の電極材料。
【請求項6】
前記タングステン中に金属酸化物からなる第2相が含有されていることを特徴とする請求項4記載の電極材料。
【請求項7】
前記タングステンの直径が20μmから2mmまでの範囲であることを特徴とする請求項4記載の電極材料。
【請求項8】
前記タングステンの直径が、2種類以上であることを特徴とする請求項4記載の電極材料。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載の電極材料を用いて前記電極材料の良電気伝導率方向と主たる電流が流れる方向が同一となるように構成されていることを特徴とする電極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−75117(P2008−75117A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−254592(P2006−254592)
【出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】