説明

電極用薄膜の製造方法、当該方法により製造される電極用薄膜、及び当該電極用薄膜を備える電池

【課題】薄膜リチウム電池等に応用可能な電極用薄膜の製造方法、当該方法により製造される電極用薄膜、及び当該電極用薄膜を備える電池を提供する。
【解決手段】化学気相蒸着法により、電極用薄膜の原料を、550〜1000℃の基材に蒸着させる工程を有することを特徴とする、電極用薄膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜リチウム電池等に応用可能な電極用薄膜の製造方法、当該方法により製造される電極用薄膜、及び当該電極用薄膜を備える電池に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、化学反応に伴う化学エネルギーの減少分を電気エネルギーに変換し、放電を行うことができる他に、放電時と逆方向に電流を流すことにより、電気エネルギーを化学エネルギーに変換して蓄積(充電)することが可能な電池である。二次電池の中でも、リチウム二次電池に代表される金属二次電池は、エネルギー密度が高いため、ノート型のパーソナルコンピューターや、携帯電話機等の電源として幅広く応用されている。
【0003】
リチウム二次電池においては、負極活物質としてグラファイト(Cと表現する)を用いた場合、放電時において、負極では下記式(I)の反応が進行する。
LiC→C+xLi+xe (I)
(上記式(I)中、0<x<1である。)
上記式(I)の反応で生じる電子は、外部回路を経由し、外部の負荷で仕事をした後、正極に到達する。そして、上記式(I)の反応で生じたリチウムイオン(Li)は、負極と正極に挟持された電解質内を、負極側から正極側に電気浸透により移動する。
【0004】
また、正極活物質としてコバルト酸リチウム(Li1−xCoO)を用いた場合、放電時において、正極では下記式(II)の反応が進行する。
Li1−xCoO+xLi+xe→LiCoO (II)
(上記式(II)中、0<x<1である。)
充電時においては、負極及び正極において、それぞれ上記式(I)及び式(II)の逆反応が進行し、負極においてはグラファイトインターカレーションによりリチウムが入り込んだグラファイト(LiC)が、正極においてはコバルト酸リチウム(Li1−xCoO)が再生するため、再放電が可能となる。
【0005】
LiCoO薄膜の製造方法の1つとして、物理気相蒸着法(Physical Vapor Deposition;以下、PVDと称する。)が知られている。特許文献1には、正極集電体上にLiCoO薄膜を形成する方法として、PVDの一種であるスパッタ法を用いた実施例が開示されている(特許文献1の明細書の段落[0084])。また、特許文献2には、集電体上にLiCoO薄膜を形成する方法として、電子ビーム蒸着法、又はスパッタ法を用いた実施例が開示されている(特許文献2の明細書の段落[0023]、[0036])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−76278号公報
【特許文献2】特開2003−234100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、PVDの一種であるスパッタ法によって柱状のLiCoOを形成できた旨が記載されているが、柱状LiCoOの微細構造を、電子顕微鏡等で実際に確認した旨の記載はない(特許文献1の明細書の段落[0084]−[0091])。また、特許文献2の図2及び図6には、電子ビーム蒸着法又はスパッタ法により形成したLiCoO薄膜のX線回折スペクトルが掲載されているが、これらのスペクトルはLiCoOの結晶構造を示すものであったとしても、LiCoO薄膜の微細構造を示すものではない。また、特許文献2には、LiCoO薄膜の微細構造を直接確認できた旨の記載はない。
本発明は、上記実状を鑑みて成し遂げられたものであり、薄膜リチウム電池等に応用可能な電極用薄膜の製造方法、当該方法により製造される電極用薄膜、及び当該電極用薄膜を備える電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電極用薄膜の製造方法は、化学気相蒸着法により、電極用薄膜の原料を、550〜1000℃の基材に蒸着させる工程を有することを特徴とする。
【0009】
本発明の製造方法において、前記基材の温度が650〜900℃であることが好ましい。
【0010】
本発明の製造方法において、蒸着における成膜圧力が200〜1,000Paであることが好ましい。
【0011】
本発明の電極用薄膜は、上記製造方法により製造されることを特徴とする。
【0012】
本発明の電池は、正極、負極、及び、当該正極及び当該負極の間に介在する電解質層を備える電池であって、前記正極が、少なくとも、上記電極用薄膜を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電極用薄膜表面を、電池特性に好適な形状に制御することができる。その結果、本発明により得られる電極用薄膜を電池の電極に用いた際に、当該電池の性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る電池の一例を示す図であって、積層方向に切断した断面を模式的に示した図である。
【図2】実施例6、及び実施例1−実施例5のLiCoO薄膜の表面のSEM画像である。
【図3】実施例2のLiCoO薄膜の破断面のSEM画像、及び実施例2のLiCoO薄膜の表面のSEM画像の拡大図である。
【図4】実施例8のリチウム二次電池の充放電曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.電極用薄膜の製造方法
本発明の電極用薄膜の製造方法は、化学気相蒸着法により、電極用薄膜の原料を、550〜1000℃の基材に蒸着させる工程を有することを特徴とする。
【0016】
特許文献1及び2に記載された様なPVDは、目的材料を高真空雰囲気下で気化させ、Åオーダーからnmオーダーの厚さに目的材料を堆積させて成膜する技術である。塗工やPVD等の従来の方法により、電極や電解質等の電池用部材を成膜する場合には、表面が平坦な下地を用いることが一般的である。電極を成膜の下地とし、固体電解質を成膜の目的材料として、PVDにより電極上に固体電解質膜を成膜した場合には、下地となる電極表面の凹凸が固体電解質膜表面にそのまま反映されてしまったり、下地となる電極表面の凹凸が電気的な短絡の原因となったりするという問題が生じていた。したがって、PVD等の従来の方法により固体電解質膜を成膜する場合には、下地となる電極表面に凹凸がないことが好ましく、下地となる電極の材料選択の幅が狭かった。
一方、電池特性の観点からは、電極活物質と電解質(有機電解液、固体電解質)の界面抵抗を下げることで、リチウムイオンの挿入脱離反応を高速で効率よく行い、充放電容量を向上させることが好ましい。特に、固体電解質を用いた全固体電池では、電極活物質と固体電解質間の界面の抵抗が比較的高いことから、界面抵抗の低減が最も重要な課題の1つである。
【0017】
本発明者らは、鋭意努力の結果、化学気相蒸着法(Chemical Vapor Deposition;以下、CVDと称する。)を用いることにより、電極用薄膜表面の微細構造を、下地表面の凹凸形状とは無関係に自在に制御できることを見出し、本発明を完成させた。
【0018】
本発明は蒸着工程を有する。ただし、本発明は、蒸着工程のみを有する方法に必ずしも限定されない。
【0019】
CVDは、目的とする薄膜を構成する元素を含む原料ガスを基材に供給し、基材表面又は気相での化学反応を利用して成膜する蒸着法である。したがって、本発明に用いられる電極用薄膜の原料は、目的とする電極用薄膜によって異なる。
目的とする電極用薄膜は、通常電極に用いられ、且つ、蒸着により薄膜に加工できるものであれば特に限定されない。目的とする電極用薄膜としては、具体的には、LiCoO、LiNi1/3Mn1/3Co1/3、LiNiPO、LiMnPO、LiNiO、LiMn、LiCoMnO、LiNiMn、LiFe(PO及びLi(PO等を含む薄膜を挙げることができる。
【0020】
目的とする電極用薄膜が、例えばLiCoO薄膜である場合、少なくとも、リチウム元素を含む原料ガス、コバルト元素を含む原料ガス、及び酸素元素を含む原料ガスを電極用薄膜の原料として用いる。
リチウム元素を含む原料ガスとしては、リチウムのジピバロイルメタン(DPM)錯体、リチウムのジイソブチリルメタン(DIBM)錯体、リチウムのイソブチリルピバロイルメタン(IBPM)錯体、及びリチウムの2,2,6,6−テトラメチル−3,5−オクタンジオン(TMOD)錯体等の、リチウムのβ−ジケトン錯体等のリチウム金属錯体を加熱しガス化したものが挙げられる。
コバルト元素を含む原料ガスとしては、コバルトのDPM錯体、コバルトのDIBM錯体、コバルトのIBPM錯体、及びコバルトのTMOD錯体等の、コバルトのβ−ジケトン錯体等のコバルト金属錯体を加熱しガス化したものが挙げられる。
酸素元素を含む原料ガスとしては、酸素ガス、空気等が挙げられる。
【0021】
本発明に用いられる基材は、通常CVDに用いられるものであれば特に限定されない。なお、後述する基材温度との関係から、本発明に用いられる基材は、成膜時の加熱に耐えられる材料からなることが好ましい。また、電極中の集電体として用いることができるという観点から、本発明に用いられる基材は、導電性材料からなっていてもよい。
本発明に用いられる基材の材料としては、具体的には、金、白金、アルミニウム、銅、ニッケル、SUS等が挙げられる。
なお、基材は、膜状のものであってもよいし、板状の基板であってもよい。また、基材に使用できる薄膜は、蒸着を行う前に予めスパッタ法等により基板に形成された薄膜であってもよい。
【0022】
CVDにより、基材上で目的材料を合成し、且つ結晶成長させながら電極用薄膜を作製することができる。CVDにおいては、基材温度や成膜圧力等の作製条件を制御することにより、目的とする組成の材料を、電池特性に好適な形状にすることができる。その結果、表面積の広い、μmオーダーの凹凸形状を有し、且つ、後述する電池に用いられた際にも電極間が短絡するおそれのない電極用薄膜を形成することもできる。
CVDによる成膜は、上述したPVDに比べ、成膜レートが極めて早く、かつ緻密に成膜できる。したがって、電池製造工程にCVDを組み込んでも、数μm〜数十μmの電極用薄膜の成膜が実現できる。電池容量は、電極を構成する活物質材料の質量で決まる。本発明により、電池容量の設計上、予め必要とされる電極用薄膜を、CVDにより速やかに成膜できる。
【0023】
本発明における基材の温度は550〜1000℃である。基材の温度が550℃未満である場合には、基材の温度が低すぎるため、基材上に目的とする材料組成を有する膜が析出しないおそれがある。一方、基材の温度が1000℃を超える場合には、基材の温度が高すぎるため、同様に、基材上に目的とする材料組成を有する膜が析出しないおそれがある。基材の温度が高すぎる場合には、さらに、成膜時において、下地となる基材や電極集電体と薄膜との副反応を回避する観点から、基材及び電極集電体の材料選択が限られる。
後述する実施例に示されるように、電極用薄膜の単相が得られるという観点からは、基材の温度は600〜950℃であることが好ましく、650〜900℃であることがより好ましい。
基材を加熱する手段としては、ヒーター等が使用できる。
【0024】
蒸着における成膜圧力は、200〜1,000Paであることが好ましい。成膜圧力が200Pa未満である場合には、成膜圧力が低すぎるため、原料揮発の制御が困難となるおそれがある。一方、成膜圧力が1,000Paを超える場合には、成膜圧力が高すぎるため、基材上での反応が、目的とする組成の薄膜を得るのに適しないおそれがある。
蒸着における成膜圧力は、250〜800Paであることがより好ましく、300〜600Paであることがさらに好ましい。
成膜圧力を制御する観点から、本発明に係る製造方法は、真空チャンバー内で行われることが好ましい。また、成膜圧力の制御には、真空ポンプ等を用いてもよい。
【0025】
以下、本製造方法の典型例について説明する。
まず、真空チャンバー内に、基材となる膜を成膜するための基板(アルミナ基板、酸化ジルコニウム基板等)を設置する。この基板上に、スパッタ法等により金集電薄膜等を成膜する。成膜した金集電薄膜を基材とする。
次に、リチウム金属錯体、及びコバルト金属錯体をそれぞれ加熱し、ガス化したものに酸素ガスを混合して真空チャンバー内に導入し、基材上に供給する。基材上にこれら電極用薄膜の原料を供給しながら、基材の温度を550〜1000℃、真空チャンバー内の成膜圧力を200〜1,000Paとし、蒸着を開始する。加熱された基材上で、原料錯体の分解、及び目的生成物であるLiCoOの析出反応が繰り返され、その結果、LiCoO薄膜が基材上に形成される。
【0026】
2.電極用薄膜
本発明の電極用薄膜は、上記製造方法により製造されることを特徴とする。
【0027】
本発明の電極用薄膜の膜厚は、1〜50μmが好ましい。電極用薄膜の膜厚が1μm未満であるとすると、膜厚が薄すぎるため、電池としての実用性を考えた場合、特に電極中の電極活物質層として用いる場合に、十分な充放電容量を保てないおそれがある。一方、電極用薄膜の膜厚が50μmを超えるとすると、電池に組み込んだ際に、電極活物質の利用効率が低下するおそれがあり、且つ、充放電レートも低下するおそれがある。
本発明の電極用薄膜の膜厚は、3〜45μmがより好ましく、5〜40μmがさらに好ましい。
【0028】
3.電池
本発明の電池は、正極、負極、及び、当該正極及び当該負極の間に介在する電解質層を備える電池であって、前記正極が、少なくとも、上記電極用薄膜を備えることを特徴とする。
【0029】
図1は、本発明に係る電池の一例を示す図であって、積層方向に切断した断面を模式的に示した図である。なお、本発明に係る電池は、必ずしもこの例のみに限定されるものではない。図1には積層型電池のみが示されているが、この他にも、捲回型電池等であってもよい。
電池100は、正極活物質層2及び正極集電体4を含む正極6と、負極活物質層3及び負極集電体5を含む負極7と、前記正極6及び前記負極7に挟持される電解質層1を備える。電池100は、正極活物質層2として、上述した本発明に係る電極用薄膜を備える。
本発明の電池の典型例としては、リチウム二次電池が挙げられる。以下、本発明の典型例であるリチウム二次電池が備える、正極、負極、リチウムイオン伝導性電解質層及びその他の構成要素(セパレータ等)について説明する。
【0030】
(正極)
本発明に用いられる正極は、上述した本発明に係る電極用薄膜からなるものであってもよいが、上述した本発明に係る電極用薄膜を正極活物質層とし、当該正極活物質層の少なくとも一方の面に形成された正極集電体をさらに備える正極であってもよい。本発明に用いられる正極は、正極集電体に接続された正極リードをさらに備えるものであってもよい。
正極活物質層として用いられる電極用薄膜については、上述した通りである。
【0031】
(正極集電体)
本発明において用いられる正極集電体は、上記の正極活物質層の集電を行う機能を有するものである。上記正極集電体の材料としては、例えばアルミニウム、SUS、ニッケル、鉄及びチタン等を挙げることができ、中でもアルミニウム及びSUSが好ましい。また、正極集電体の形状としては、例えば、箔状、板状、メッシュ状等を挙げることができ、中でも箔状が好ましい。
本発明においては、上述した基材を正極集電体として用いてもよい。
【0032】
(負極)
本発明に用いられる負極は、負極活物質層及び負極集電体を備え、好ましくは、さらに負極集電体に接続された負極リードを備えるものである。
【0033】
(負極活物質層)
本発明に用いられる負極活物質層は、負極活物質を含有する。負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能なものであれば特に限定されないが、例えば、金属リチウム、リチウム合金、リチウム元素を含有する金属酸化物、リチウム元素を含有する金属硫化物、リチウム元素を含有する金属窒化物、及びグラファイト等の炭素材料等を挙げることができる。また、負極活物質は、粉末状であっても良く、薄膜状であっても良い。
リチウム合金としては、例えばリチウムアルミニウム合金、リチウムスズ合金、リチウム鉛合金、リチウムケイ素合金等を挙げることができる。また、リチウム元素を含有する金属酸化物としては、例えばリチウムチタン酸化物等を挙げることができる。また、リチウム元素を含有する金属窒化物としては、例えばリチウムコバルト窒化物、リチウム鉄窒化物、リチウムマンガン窒化物等を挙げることができる。また、負極層には、固体電解質をコートしたリチウムを用いることもできる。
【0034】
負極活物質層は、必要に応じて導電化材及び結着剤等を含有していても良い。
本発明に用いられる導電化材としては、負極活物質層の導電性を向上させることができれば特に限定されるものではないが、例えばアセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック等を挙げることができる。また、負極活物質層における導電化材の含有割合は、導電化材の種類によって異なるものであるが、通常1〜10質量%の範囲内である。
本発明に用いられる結着剤としては、例えばポリビニリデンフロライド(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を挙げることができる。また、負極活物質層における結着剤の含有割合は、負極活物質等を固定化できる程度であれば良く、より少ないことが好ましい。結着剤の含有割合は、通常1〜10質量%の範囲内である。
本発明に用いられる負極活物質層は、負極用電解質を含有してもよい。この場合、負極用電解質としては、固体酸化物電解質、固体硫化物電解質等の固体電解質、ポリマー電解質、ゲル電解質等を用いることができる。
負極活物質層の層厚としては、特に限定されるものではないが、例えば10〜100μmの範囲内、中でも10〜50μmの範囲内であることが好ましい。
【0035】
(負極集電体)
負極集電体の材料としては、上述した正極集電体の材料と同様のものを用いることができる。また、負極集電体の形状としては、上述した正極集電体の形状と同様のものを採用することができる。
【0036】
本発明に用いられる負極を製造する方法は、上記負極を得ることができる方法であれば特に限定されない。なお、負極活物質層を形成した後、電極密度を向上させるために、負極活物質層をプレスしても良い。
【0037】
(リチウムイオン伝導性電解質層)
本発明に用いられるリチウムイオン伝導性電解質は、リチウムイオン伝導性を有していれば特に限定されず、固体・液体を問わない。ポリマー電解質やゲル電解質等を用いることもできる。
本発明に用いられるリチウムイオン伝導性固体電解質としては、具体的には、固体酸化物電解質、固体硫化物電解質等を用いることができる。
固体酸化物電解質としては、具体的には、LiPON(リン酸リチウムオキシナイトライド)、Li1.3Al0.3Ti0.7(PO、La0.51Li0.34TiO0.74、LiPO、LiSiO、LiSiO、Li0.5La0.5TiO、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO等を例示することができる。
固体硫化物電解質としては、具体的には、LiS−P、LiS−P、LiS−P−P、LiS−SiS、LiI−LiS−P、LiI−LiS−SiS−P、LiS−SiS−LiSiO、LiS−SiS−LiPO、LiPS−LiGeS、Li3.40.6Si0.4、Li3.250.25Ge0.76、Li4−xGe1−x、Li11等を例示することができる。
【0038】
本発明に用いられるリチウムイオン伝導性電解液としては、具体的には、水系電解液及び非水系電解液を用いることができる。
本発明に用いられる水系電解液は、通常、水及びリチウム塩を含有する。リチウム塩としては、例えばLiOH、LiBF、LiClO及びLiAsF等の無機リチウム塩;及びLiCFSO、LiN(SOCF(Li−TFSI)、LiN(SO、LiC(SOCF等の有機リチウム塩等を挙げることができる。
【0039】
本発明に用いられる非水系電解液は、通常、リチウム塩及び非水溶媒を含有する。リチウム塩は上述したものの他、LiPFも使用できる。非水溶媒としては、例えばエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、エチルカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、スルホラン、アセトニトリル、1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジメトキシプロパン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン及びこれらの混合物等を挙げることができる。非水系電解液におけるリチウム塩の濃度は、例えば0.5〜3mol/Lの範囲内である。
なお、本発明においては、非水系電解液として、例えばイオン性液体等の低揮発性液体を含有していても良い。
【0040】
本発明に用いられるポリマー電解質は、リチウム塩及びポリマーを含有するものであることが好ましい。リチウム塩は上述したものを使用できる。ポリマーとしては、リチウム塩と錯体を形成するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ポリエチレンオキシド等が挙げられる。
【0041】
本発明に用いられるゲル電解質は、リチウム塩、ポリマー及び非水溶媒を含有するものであることが好ましい。
リチウム塩及び非水溶媒は上述したものを使用できる。非水溶媒は、1種のみ用いてもよく、2種以上を混合して用いても良い。また、非水溶媒として、常温溶融塩、いわゆるイオン液体を用いることもできる。
ポリマーとしては、ゲル化が可能なものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロプレンオキシド、ポリアクリルニトリル、ポリビニリデンフロライド(PVDF)、ポリウレタン、ポリアクリレート、セルロース等が挙げられる。
【0042】
(セパレータ)
本発明の電池には、セパレータを用いることができる。セパレータは、正極及び負極の間に配置されるものであり、通常、正極活物質層と負極活物質層との接触を防止し、電解質を保持する機能を有する。上記セパレータの材料としては、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース及びポリアミド等の樹脂を挙げることができ、中でもポリエチレン及びポリプロピレンが好ましい。また、上記セパレータは、単層構造であっても良く、複層構造であっても良い。複層構造のセパレータとしては、例えばPE/PPの2層構造のセパレータ、PP/PE/PPの3層構造のセパレータ等を挙げることができる。本発明においては、上記セパレータが、樹脂不織布、ガラス繊維不織布等の不織布等であっても良い。また、上記セパレータの膜厚は、特に限定されるものではなく、一般的な電池に用いられるセパレータの膜厚と同様である。
【0043】
(電池ケース)
本発明に係る電池は、正極、電解質層及び負極等を収納する電池ケースを備えていてもよい。電池ケースの形状としては、具体的にはコイン型、平板型、円筒型、ラミネート型等を挙げることができる。
【0044】
なお、本発明に係る電池は、上述したリチウム二次電池に必ずしも限定されない。すなわち、少なくとも正極と、負極と、当該正極と当該負極との間に介在する電解質とを備える電池であって、前記正極が、上記電極用薄膜を含む電池であれば、本発明に係る電池に含まれる。
【実施例】
【0045】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0046】
1.LiCoO薄膜の作製
[実施例1]
まず、基板の表面に、スパッタ法により金集電薄膜を成膜した。得られた金集電薄膜の膜厚は0.1μmであった。
【0047】
続いて、真空チャンバー内で、CVDにより、基材となる金集電薄膜上に実施例1のLiCoO薄膜を形成した。LiCoO薄膜の詳細な形成条件は以下の通りである。下記条件により形成されたLiCoO薄膜の膜厚は3μmであった。
LiCoO薄膜原料:リチウムのジピバロイルメタン(DPM)錯体、コバルトのジピバロイルメタン(DPM)錯体をそれぞれ加熱してガス化したものに、酸素ガスを混合した気体
成膜レート:12μm/h
成膜時間:15分間
基材温度:650℃
成膜圧力:400Pa
【0048】
[実施例2]
実施例1のCVDにおいて、基材温度を650℃から700℃に替えたこと以外は、実施例1と同様の条件下でCVDを行い、実施例2のLiCoO薄膜を得た。
【0049】
[実施例3]
実施例1のCVDにおいて、基材温度を650℃から800℃に替えたこと以外は、実施例1と同様の条件下でCVDを行い、実施例3のLiCoO薄膜を得た。
【0050】
[実施例4]
実施例1のCVDにおいて、基材温度を650℃から900℃に替えたこと以外は、実施例1と同様の条件下でCVDを行い、実施例4のLiCoO薄膜を得た。
【0051】
[実施例5]
実施例1のCVDにおいて、基材温度を650℃から950℃に替えたこと以外は、実施例1と同様の条件下でCVDを行い、実施例5のLiCoO薄膜を得た。
【0052】
[実施例6]
実施例1のCVDにおいて、基材温度を650℃から550℃に替えたこと以外は、実施例1と同様の条件下でCVDを行い、実施例6のLiCoO薄膜を得た。
【0053】
[実施例7]
実施例1のCVDにおいて、基材温度を650℃から1000℃に替えたこと以外は、実施例1と同様の条件下でCVDを行い、実施例7のLiCoO薄膜を得た。
【0054】
2.LiCoO薄膜のX線回折測定
実施例1−実施例7のLiCoO薄膜表面の化学組成を、粉末X線回折法(XRD)により調べた。測定には、粉末X線回折計(Rint 2200, Rigaku)を用いた。測定条件は、CuKα線を用い、加速電圧は40kVとし、印加電流は40mAとした。
下記表1は、X線回折測定結果を示す表である。下記表1の「LiCoO単相」の欄中、「○」はLiCoO単相が得られたことを示し、「△」は不純物相を含むLiCoOが得られたことを示す。下記表1に示すように、650〜950℃の温度領域でLiCoO単相が得られることが分かる。
【0055】
【表1】

【0056】
3.LiCoO薄膜のSEM観察
実施例1−実施例6のLiCoO薄膜の表面及び断面を、それぞれSEM観察した。
SEM観察条件の詳細は以下の通りである。
測定装置:走査型電子顕微鏡(日本電子社製、JSM−6610)
加速電圧:20kV
倍率:100〜10,000倍
【0057】
図2(a)−(f)は、それぞれ実施例6、及び実施例1−実施例5のLiCoO薄膜の表面のSEM画像である。
図2(a)から分かるように、基材温度を550℃とした場合(実施例6)には、LiCoO薄膜の表面に、直径2〜3μm程度の比較的大きなLiCoO結晶と、直径50〜500nm程度の比較的小さなLiCoO結晶が混在する。また、図2(b)から分かるように、基材温度を650℃とした場合(実施例1)には、LiCoO薄膜の表面に、直径0.5〜1μm程度のLiCoO結晶と、LiCoOの板状結晶が混在する。さらに、図2(c)から分かるように、基材温度を700℃とした場合(実施例2)には、直径約0.5μmのLiCoO結晶でLiCoO薄膜の表面が覆われる。
図2(d)から分かるように、基材温度を800℃とした場合(実施例3)には、直径約1μmのLiCoO結晶でLiCoO薄膜の表面が覆われる。また、図2(e)から分かるように、基材温度を900℃とした場合(実施例4)には、厚さ約0.5μm、一辺約2μmの板状結晶でLiCoO薄膜の表面が覆われる。さらに、図2(f)から分かるように、基材温度を950℃とした場合(実施例5)には、直径約0.5μmのLiCoO結晶でLiCoO薄膜の表面が覆われるが、基材温度が700℃の場合と異なり、粒子間には約0.1μm程度の隙間が空いている。
以上のように、基材温度を変えることにより、LiCoO薄膜の表面の微細構造を自在に制御できることが明らかとなった。
【0058】
図3(a)は実施例2(基材温度:700℃)のLiCoO薄膜の破断面のSEM画像、図3(b)は実施例2のLiCoO薄膜の表面のSEM画像の拡大図である。図3(a)から、実施例2(基材温度:700℃)のLiCoOは、薄膜の厚さ方向に沿って成長していることが確認できる。
【0059】
4.リチウム二次電池の作製
[実施例8]
正極として、実施例1のLiCoO薄膜(基材温度:650℃)−金集電薄膜積層体を使用した。なお、金集電薄膜は正極集電膜として用いた。
電解液として、1M LiClO/EC−DEC(富山薬品工業株式会社)を用意した。また、セパレータとしてポリオレフィン多孔フィルム(宇部興産株式会社製:ユ−ポアUP3025)を用意した。
負極として金属リチウム(本城金属製)を用意した。
上記材料を、金属リチウム−電解液を含浸させたセパレータ−LiCoO薄膜−金集電薄膜の順に積層させ、実施例8のリチウム二次電池を作製した。
以上の工程は、全て窒素雰囲気下のグローブボックス内で行った。
【0060】
[実施例9]
正極として、実施例1のLiCoO薄膜(基材温度:650℃)−金集電薄膜積層体に替えて、実施例2のLiCoO薄膜(基材温度:700℃)−金集電薄膜積層体を用いたこと以外は、実施例8と同様の材料を用いて、実施例9のリチウム二次電池を作製した。
【0061】
[実施例10]
正極として、実施例1のLiCoO薄膜(基材温度:650℃)−金集電薄膜積層体に替えて、実施例4のLiCoO薄膜(基材温度:900℃)−金集電薄膜積層体を用いたこと以外は、実施例8と同様の材料を用いて、実施例10のリチウム二次電池を作製した。
【0062】
[実施例11]
正極として、実施例1のLiCoO薄膜(基材温度:650℃)−金集電薄膜積層体に替えて、実施例6のLiCoO薄膜(基材温度:550℃)−金集電薄膜積層体を用いたこと以外は、実施例8と同様の材料を用いて、実施例11のリチウム二次電池を作製した。
【0063】
[比較例1]
まず、正極活物質としてLiCoO粉末を、導電化材としてアセチレンブラック(電気化学工業社製、商品名:HS−100)を、結着剤としてPTFE(ダイキン工業株式会社製、商品名:F−104)を、それぞれ用意した。これら正極活物質、導電化材及び結着剤を混合し、正極合材を調製した。当該正極合材を一軸加圧成型して、正極活物質層を形成した。また、正極集電体として、アルミニウム箔を用いた。
電解液、セパレータ、及び負極は、実施例8と同様の材料を用いた。
上記材料を、金属リチウム−電解液を含浸させたセパレータ−正極活物質層−正極集電体の順に積層させ、比較例1のリチウム二次電池を作製した。
以上の工程は、全て窒素雰囲気下のグローブボックス内で行った。
【0064】
5.充放電評価
実施例8−実施例11、及び比較例1のリチウム二次電池について充放電評価を行った。詳細な測定条件は以下の通りである。
測定装置:周波数応答アナライザ(FRA)(ソーラトロン社製、1260型)
雰囲気:乾燥空気雰囲気下
測定法:2端子法
【0065】
図4は、基材温度650℃で作製した電極用薄膜を用いた実施例8のリチウム二次電池の充放電曲線である。図4は、横軸に比容量(mAh/g)を、縦軸に電位(V)をそれぞれとったグラフである。
図4から分かるように、実施例8のリチウム二次電池は、135mAh/gまで充電可能である。一方、比較例1のリチウム二次電池も、135mAh/gまで充電可能であることが確認された。これらの結果は、実施例8のリチウム二次電池が、LiCoOの理論値容量まで充電可能であることを示す。また、実施例8のリチウム二次電池においては、充放電評価中に、電極間の電気的な短絡は特に発生しなかった。
なお、基材温度700℃で作製したLiCoO薄膜を用いた実施例9のリチウム二次電池は、130mAh/gまで充電可能である。また、基材温度900℃で作製したLiCoO薄膜を用いた実施例10のリチウム二次電池は、100mAh/gまで充電可能である。したがって、用いたLiCoO薄膜の作製時における基材温度を比較した場合、実施例8(基材温度:650℃)、実施例9(基材温度:700℃)、実施例10(基材温度:900℃)、実施例11(基材温度:550℃)の順に充放電性能に優れることが分かる。
【符号の説明】
【0066】
1 電解質層
2 正極活物質層
3 負極活物質層
4 正極集電体
5 負極集電体
6 正極
7 負極
100 電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学気相蒸着法により、電極用薄膜の原料を、550〜1000℃の基材に蒸着させる工程を有することを特徴とする、電極用薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記基材の温度が650〜900℃である、請求項1に記載の電極用薄膜の製造方法。
【請求項3】
蒸着における成膜圧力が200〜1,000Paである、請求項1又は2に記載の電極用薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記請求項1乃至3のいずれか一項に記載の製造方法により製造されることを特徴とする、電極用薄膜。
【請求項5】
正極、負極、及び、当該正極及び当該負極の間に介在する電解質層を備える電池であって、
前記正極が、少なくとも、前記請求項4に記載の電極用薄膜を備えることを特徴とする、電池。

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−54999(P2013−54999A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193967(P2011−193967)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】