説明

電気−機械変換素子、電気−機械変換素子を具備した液滴吐出ヘッド及び液滴吐出ヘッドを具備したインクジェットプリンタ

【課題】電気−機械変換膜がインクジェット工法で安定して形成でき、熱処理においても密着性が低下しない電気−機械変換素子と液滴吐出ヘッド及びインクジェットプリンタを提供する。
【解決手段】電気-機械変換素子は、基板301または下地膜上に形成された、一般式ABO3(但し、Aは、Sr、Ba、Ca、La、から選択される元素を示し、Bは、Ru、Co、Ni、Mn、Al、Crから選択される元素を示す。)で表されるペロブスカイト構造を有する酸化物から成る密着層303と、その上に形成された金属から成る第1の電極304と、電極304上に形成された導電性酸化物から成るパターン化された第2の電極305と、第2の電極305上に第1の電極304表面のみを疎水性領域とする改質処理を介してインクジェット工法により形成された電気-機械変換膜306と、その変換膜306上に形成された導電性酸化物から成る第3の電極307とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気−機械変換素子及び電気−機械変換素子を具備した液滴吐出ヘッド並びに液滴吐出ヘッドを具備したインクジェットプリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、ファクシミリ、複写装置等の画像記録装置或いは画像形成装置として使用されるインクジェット記録装置の液滴吐出ヘッド(インクジェット式記録ヘッド)の例としては、図1の概略図に示すような構成のものがある。すなわち、図1の構成では、インク滴を吐出するノズル(102)と、このノズルが連通する圧力室(101)[インク流路、加圧液室、吐出室、液室等とも称される。]と、加圧室内のインクを加圧する圧電素子などの電気−機械変換素子(109)(或いはヒータなどの電気熱変換素子)、及びインク流路の壁面を形成する振動板[下地(105)]とこれに対向する電極からなるエネルギー発生手段とを備え、このエネルギー発生手段で発生したエネルギーで圧力室(101)内インクを加圧することによってノズル(102)からインク滴を吐出させる。なお、図1では下部電極(106)と上部電極(108)に電圧を印加して電気−機械変換膜(圧電体薄膜)(107)を振動させて前記エネルギーを発生させる。図1中、符号103はノズル板、104は圧力室基板(Si基板)、を示す。
【0003】
インクジェット式記録ヘッドには、圧電素子の軸方向に伸長、収縮する縦振動モードの圧電アクチュエータを使用したものと、たわみ振動モードの圧電アクチュエータを使用したものの2種類が実用化されている。
たわみ振動モードのアクチュエータを使用したものとしては、例えば、振動板の表面全体に亙って成膜技術により均一な圧電材料層(圧電体薄膜)を形成し、この圧電体薄膜をリソグラフィ法により圧力発生室に対応する形状に切り分けて各圧力発生室に独立するように圧電素子を形成したものが知られている。
しかしながら、リソグラフィ法では、材料の使用効率が悪く、また工程が煩雑となるため高コストとなりタクトタイムも大きくなるという問題が発生する。特に圧電体薄膜については数μmの膜厚を要するために、低コスト化に向けて印刷法による微細パターン形成が検討されている。例えば、表面改質処理により下地を疎水性領域と親水性領域に区分けしパターン化した基板上にインクジェット等の印刷技術を用いて微細パターンの圧電体薄膜を形成する技術が提案されている(特許文献1、2参照)。ここで、数μmの膜厚の圧電体薄膜とするには、表面改質処理とインクジェット印刷を繰り返し行う必要がある。
しかし、前記特許文献に記載されている共通電極としての下部電極としては主に白金(Pt)をベースにした金属電極を用いた実施例がほとんどであり、このような構成では圧電体薄膜として用いられる代表的な材料であるPZT(ジルコン酸チタン酸鉛)の疲労特性に対する保証が懸念される。一般的に、PZTに含まれる鉛(Pb)の拡散によりPtなどの金属電極の特性が劣化し、酸化物電極を用いることで疲労特性が改善されるとされている(特許文献3参照)。しかしながら、酸化物電極を用いた場合には、金属電極に比べて比抵抗値で約10〜10倍高くなる。このため、下部電極(酸化物電極)が複数の圧電素子に共通して設けられている構成では、多数の圧電素子を同時に駆動して多数のインク滴を一度に吐出させると、電圧降下が発生して圧電素子の変位量が不安定となり、インク吐出特性が低下するという問題がある。
【0004】
圧電素子の基板(シリコン単結晶等)と金属材料から成る下部電極(白金やイリジウム等)、及び下部電極と圧電体薄膜の密着性を改善するため、基板上に密着層を形成し、この密着層を介して下部電極を設けること方法が知られている。しかし、例えば、密着層としてチタン(Ti)を用い、下部電極として金属材料(Pt等)を用いた場合に、圧電体薄膜(PZT)を結晶化させる加熱焼成工程で、下部電極も同時に加熱されてしまうため、チタンが下部電極(Pt)内に拡散して金属と合金化し、基板と下部電極との密着性が低下してしまうと共に剥離等が発生する問題がある。一方、密着層として酸化チタン(TiO)を用いた場合には、熱処理に伴う合金化は防げるものの、密着層としての機能が不十分であるため、密着層と下部電極との界面において剥れが生じる問題がある。
【0005】
上記問題を改善する方法として、例えば、特許文献4〜8に記載の方法が知られている。即ち、特許文献4では、基板の一方面側に、白金層及びチタン層を交互に積層することで密着性の低下を抑制することができるとしている。特許文献5では、下部電極を密着層と、白金にチタンが拡散した金属材料からなる導体層とで構成することで圧電素子が基板から剥離するのを防止し、繰り返し駆動による長期信頼性を改善することができるとしている。特許文献6では、基板上にチタンと白金とを主成分とする混合層又は合金層を少なくとも有する下部電極(白金の存在比/チタンの存在比:1.0〜6.5)を形成することで下部電極の剛性、圧電素子の変位特性及び密着性を向上することができるとしている。特許文献7では、密着層をチタンとし、下部電極を白金と酸化チタンとの混合物とすることで密着性を高めることができるとしている。特許文献8では、基板上の絶縁体膜(酸化ジルコニウム)を介して所定の構成(第1層:チタン、イリジウム及び酸素を含有、第2層:チタンを主成分として白金、イリジウム及び酸素を含有、第3層イリジウムを主成分として白金、チタン及び酸素を含有)とされた下部電極を設けることで下部電極と絶縁体膜との密着性及び下部電極と圧電体層との密着性を高めることができるとしている。
しかし、前述のようにインクジェット工法等の印刷技術を用いて圧電体薄膜(PZT)を形成する場合、下地の表面改質処理により疎水性領域と親水性領域に区分けることが必要になるが、特許文献4〜特許文献8のように下部電極を混合物、例えば、白金とチタンの混合物とすると、熱処理に伴って電極表面の接触角が低下し、表面改質処理によるパターニング(コントラスト付け)が難しくなり、表面改質処理とインクジェット印刷を繰り返し行う場合に、PZTのパターニング精度を悪化させる問題がある。
【0006】
上記のような問題から、下部電極として種々の構成が検討される一方、下部電極上にPZTを形成する際の表面処理方法に関しても検討されているが十分なものはなく、下部電極上に安定して圧電体薄膜、特にPZTを積層形成することができ、しかも工程が短縮された作製方法の開発が要望されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のように微細パターン形成が可能なインクジェット工法による印刷技術を用いて圧電体薄膜(電気−機械変換膜)、例えば、PZTを形成する場合、下地の表面を改質により疎水性領域と親水性領域を区分けしパターニングする必要があるが、下地となる下部電極表面が金属電極の場合と、酸化物電極の場合とで表面処理方法が全く異なってくる。図2を参照してチオール材料による処理で金属表面にPZTを形成する場合(a)、シラン材料による処理で酸化物表面にPZTを形成する場合(b)を説明する。
即ち、金属電極表面にPZTを形成する場合には、図2(a)に示すように、一般的にチオール材料(チオール化合物)等で金属表面を処理する方法が好ましい。先ずチオール材料を用いて金属電極(21)表面に所望のパターンでSAM(Self-Assembled Monolayer)(22)を形成して表面改質処理(疎水化処理)し、疎水性領域と親水性領域の区分けを行う。SAM(22)により所望のパターンとされた金属電極表面の親水性領域にPZT(23)を塗布する。PZTを塗布した後のプロセスを説明すると、PZT形成時の熱処理でチオール化合物は焼失する。1層目のPZTが形成された後、2層目以降のPZT形成については、SAM材料を浸漬処理することで金属電極表面上のみにチオール材料が反応し、親水性領域、疎水性領域の部分改質がセルフアラインで行うことができ、かつタクトタイムも大幅に短縮することができる。但し、上記PZT形成時の熱処理によってチオール材料は消失するものの、金属電極表面に熱履歴が生じてしまう。ここで、下部電極(金属電極)の下に、図示しない密着層をチタンを用いて設け、下部電極として金属材料、特に白金を用いた場合、前記熱処理によりチタンが金属と合金化してしまい、下部電極が変質して2層目以降の表面改質処理におけるチオール材料と金属電極表面との反応が不十分となる問題がある。前述のように、密着層をチタンからTiOに変更した場合、密着層としての機能が不十分となる。
一方、酸化物電極表面にPZTを形成する場合には、図2(b)に示すように、一般的にシラン材料等で酸化物表面を処理する方法が好ましい。先ずシラン材料を用いて酸化物電極(26)表面に所望のパターンでSAM(Self-Assembled Monolayer)(27)を形成して表面改質処理し、疎水性領域と親水性領域の区分けを行う。SAMにより所望のパターンとされた酸化物電極表面にPZT(28)を塗布する。PZTを塗布した後のプロセスを説明すると、図2(a)の場合と同様に、熱処理でシラン材料が焼失する。1層目のPZTが形成された後、2層目以降のPZT形成については、図2(a)の場合のようにSAM材料を浸漬処理すれば、形成されたPZTも酸化物であるため、このPZT上にもSAM材料が反応して付着してしまう。このため、図2(a)の場合のように疎水性領域と親水性領域の区分けを行う表面改質処理は不可能になる。
【0008】
本発明は前記課題を解決するためになされたものであり、基板または下地膜上に、密着層、下部電極、電気−機械変換膜、上部電極を備えた構成から成り、電気−機械変換膜がインクジェット工法で下部電極上に安定して形成でき、電気−機械変換膜形成時の熱処理において密着層と下部電極、及び下部電極と電気−機械変換膜との密着性が低下することのない電気‐機械変換素子を提供すると共に、前記電気‐機械変換素子を具備し、インク吐出特性を良好に保持できる液滴吐出ヘッド並びに前記液滴吐出ヘッドを具備したインクジェットプリンタを提供することを目的とする。
特に、下部電極に金属(特に白金)を用い、電気−機械変換膜にPZT(ジルコン酸チタン酸鉛)を用いた場合でも、電気−機械変換膜形成時の熱処理に伴う密着層と白金との合金化による不具合を回避し、密着層と下部電極、及び下部電極と電気−機械変換膜との密着性低下を防止することができ、且つ、下部電極上に電気−機械変換膜をインクジェット工法で安定して形成可能とされた電気−機械変換素子を提供することを目標とする。
なお、本発明における前記下部電極は、金属から成る第1の電極と、導電性酸化物から成る第2の電極とで構成される。また、前記上部電極は導電性酸化物から成る第3の電極で構成される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、基板または下地膜上に密着層を介して下部電極(例えば、白金)を設け、電気−機械変換膜(例えば、PZT)を下部電極上にインクジェット法で形成する場合に、密着層を一般式ABO(但し、Aは、Sr、Ba、Ca、Laから選択される元素を示し、Bは、Ru、Co、Ni、Mn、Al、Crから選択される元素を示す。)で表されるペロブスカイト構造を有する酸化物で構成し、下部電極を金属から成る第1の電極と、導電性酸化物から成るパターン化された第2の電極とで構成することにより上記課題が解決されることを見出し本発明に至った。
即ち、上記課題は、基板または下地膜上に形成された、一般式ABO(但し、Aは、Sr、Ba、Ca、Laから選択される元素を示し、Bは、Ru、Co、Ni、Mn、Al、Crから選択される元素を示す。)で表されるペロブスカイト構造を有する酸化物から成り、且つ膜厚が8nm以上80nm以下である密着層と、
該密着層上に形成された金属から成る第1の電極と、
該第1の電極上に形成された導電性酸化物から成るパターン化された第2の電極と、
該パターン化された第2の電極上に、前記第1の電極表面のみを疎水性領域とする改質処理を介してインクジェット工法により形成された電気−機械変換膜と、
該電気−機械変換膜上に形成された導電性酸化物から成る第3の電極と
を備えたことを特徴とする電気−機械変換素子により解決される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電気‐機械変換素子は、基板または下地膜上に、一般式ABO(但し、Aは、Sr、Ba、Ca、Laから選択される元素を示し、Bは、Ru、Co、Ni、Mn、Al、Crから選択される元素を示す。)で表されるペロブスカイト構造を有する酸化物から成り、且つ膜厚が10nm以上60nm以下である密着層が設けられ、この密着層上に下部電極として、金属から成る第1の電極と、導電性酸化物から成るパターン化された第2の電極が設けられ、第2の電極上に電気−機械変換膜が設けられ、電気−機械変換膜上に上部電極(導電性酸化物から成る第3の電極)が設けられた構成とされているため、電気−機械変換膜(例えば、PZT)形成時の熱処理においても密着層と下部電極(例えば、チタン)が合金化して不具合を起こすことがなく、各構成層の変質が防止されるため、密着層と下部電極(第1の電極)、及び下部電極(第2の電極)と電気−機械変換膜との密着性が低下することがなく、各界面において剥れなどの不具合が生じず、電気−機械変換膜は、パターン化された第2の電極上に、第1の電極表面のみを改質させて疎水性領域とする処理(表面改質処理)を介してインクジェット工法により安定して形成される。ここで、表面改質処理とインクジェット工法は繰り返し可能である。
本発明の電気−機械変換素子を用いて液滴吐出ヘッドを構成すれば、インク吐出特性を良好に保持できる。また、該液滴吐出ヘッドを用いてインクジェットプリンタを構成すれば、振動板駆動不良によるインク滴吐出不良がなく、安定したインク滴吐出特性が得られて、画像品質が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】インクジェット記録装置の液滴吐出ヘッドの構成例を示す概略図である。
【図2】チオール材料による処理で金属表面にPZTを形成する場合(a)及びシラン材料による処理で酸化物表面にPZTを形成する場合(b)を説明する図である。
【図3】本発明に係る電気−機械変換素子の構成例を示す概略図である。
【図4】金属電極(第1の電極)表面を選択的にチオール材料で改質処理した後に酸化物電極(第2の電極)上にPZTを形成するプロセスを示す模式図である。
【図5】本発明に係る電気−機械変換素子の別の構成例を示す概略図である。
【図6】本発明に係る第1の電極上に導電性酸化物から成るパターン化された第2の電極をインクジェット工法により作製するプロセスを説明するためのフロー図である。
【図7】本発明に係る電気−機械変換素子を複数個配置して構成した液体吐出ヘッドを示す概略図である。
【図8】本発明に係る液滴吐出ヘッドを搭載したインクジェット記録装置の一例を示す斜視説明図である。
【図9】図9に示すインクジェット記録装置の機構部の側面説明図である。
【図10】実施例において用いたインクジェット塗布装置を説明するための斜視図である。
【図11】実施例で作製した電気−機械変換素子の代表的なP−Eヒステリシス曲線を示す図である。
【図12】実施例において疎水性領域と親水性領域とのコントラストが十分確保できた場合(正常部)と確保できない場合(異常部)の電気−機械変換膜のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
前述のように本発明における電気−機械変換素子は、基板または下地膜上に形成された、一般式ABO(但し、Aは、Sr、Ba、Ca、Laから選択される元素を示し、Bは、Ru、Co、Ni、Mn、Al、Crから選択される元素を示す。)で表されるペロブスカイト構造を有する酸化物から成り、且つ膜厚が8nm以上80nm以下である密着層と、
該密着層上に形成された金属から成る第1の電極と、
該第1の電極上に形成された導電性酸化物から成るパターン化された第2の電極と、
該パターン化された第2の電極上に、前記第1の電極表面のみを疎水性領域とする改質処理を介してインクジェット工法により形成された電気−機械変換膜と、
該電気−機械変換膜上に形成された導電性酸化物から成る第3の電極と
を備えたことを特徴とするものである。
【0013】
以下、上記本発明について図を参照して詳しく説明する。
図3は、本発明に係る電気−機械変換素子の構成例を示す概略図である。図3に示す電気−機械変換素子は、基板(301)、振動板(302)、密着層(303)、第1の電極(304)、第2の電極(305)、電気−機械変換膜(306)、第3の電極(307)から構成されている。
ここで、密着層は前記一般式ABOで表されるペロブスカイト構造を有する酸化物により形成され、第1の電極は金属電極により形成され、第2、第3の電極は導電性酸化物により形成されている。第2の電極については、電気−機械変換膜形成前に予め所望のパターンに加工(パターン化)しておく。パターン化された第2の電極上にインクジェット法により電気-機械変換膜を形成する。
但し、インクジェット工法により電気−機械変換膜を形成する前に表面改質処理を施しておく必要がある。具体的には、パターン化された第2の電極表面を親水性領域として維持したまま前記第1の電極表面のみを改質させて疎水性領域とする。表面改質処理を行うには、チオール材料(例えば、アルカンチオール)を用いて浸漬処理させることで、金属から成る第1の電極表面においてはチオール材料が反応、付着し、表面状態を疎水性化(撥水化)することができる。また、導電性酸化物から成るパターン化された第2の電極表面においてはチオール材料が反応しないため、表面状態としては導電性酸化物の有する親水性が維持される。チオール材料は自己組織化された膜(SAM:Self-Assembled Monolayer)を形成するため、チオール材料を用いた表面改質処理、例えば、浸漬処理のみにより、疎水性領域の部分改質がセルフアラインで行うことができる。このように、第1の電極表面のみを改質させて疎水性領域とした後にインクジェット工法により電気−機械変換膜の形成を行う。
【0014】
電気−機械変換膜は、インクジェット工法により電気−機械変換膜用の前駆体溶液(インク)を印刷して塗膜を形成し、溶媒乾燥、熱分解、結晶化の各熱処理を施すことで得られる。この塗膜から結晶化膜への変態には体積収縮が伴うので、クラックフリーな膜が得られるように前駆体溶液の濃度調整が必要である。限定されるものではないが、通常、一度の工程で100nm以下の膜厚が得られるように前駆体溶液の濃度が調整される。即ち、電気−機械変換膜については数μm程度の厚みにするため、インクジェット工法による繰り返し印刷で塗膜を何層も重ねて作製する必要がある。
【0015】
電気−機械変換膜を形成する材料としてPZTを選択した場合、熱処理温度としては400℃以上を必要とするため、各熱処理後において表面改質処理材料(チオール材料)が消失してしまう。そのため、インクジェット工法による繰り返し印刷により電気−機械変換膜(PZT)を形成するには、PZT形成前にその都度下地となる第1の電極の表面改質処理を施す必要がある。
図4の模式図に示すように、上記熱処理後に2層目以降の電気−機械変換膜を形成する場合であっても、予めパターン化された第2の電極である導電性酸化物から成る酸化物電極(32)が設けられた金属電極(31)表面のみにチオール材料を用いてセルフアラインで表面改質処理を施すことができ、自己組織化されたSAM(チオール)(33)を利用して、パターン化された酸化物電極(32)上に繰り返しPZTを形成することが可能となる。
【0016】
また、チオール材料(例えば、アルカンチオール)を用いて浸漬処理させて金属から成る第1の電極表面のみを表面処理させた後、有機シラン材料を用いて同様な浸漬処理により、酸化物から成る第2の電極表面、若しくは電気−機械変換膜表面のみを表面処理させることもできる。即ち、有機シラン材料は金属表面に反応せず、酸化物表面のみを表面改質することが可能である。親水性の高い基を有する有機シラン材料を用いることで、さらに表面の親水性領域と疎水性領域のコントラスト比をつけることができるようになり、インクジェット工法により電気−機械変換膜用の前駆体溶液(インク)を親水性領域に印刷して電気−機械変換膜を形成するに際に、より精細なパターニング形成が効果的に行われる。
【0017】
本発明の電気−機械変換素子において、電気−機械変換膜を形成する材料としてPZTを選択した場合、第2の電極及び第3の電極を形成する材料として導電性酸化物を用いることで、各電極へのPb拡散を防止することができる。また、共通電極としての第1の電極に比抵抗の十分低い金属電極膜を設けることで、電圧駆動を行ったときに共通電極に対して十分な電流を供給することができ、多数の圧電素子を同時に駆動した場合においても、素子間でばらつきなく十分な変位量を得ることができる。
【0018】
本発明の電気−機械変換素子(圧電素子)においては図5に示すように絶縁保護膜を設けた構成とすることができる。絶縁保護膜を設けることにより、電気ショート等による不具合や水分やガス等による圧電素子の破壊防止にはより効果的な構成となる。
図5において、基板(501)表面に成膜された振動板(502)上に、密着層(500)、第1の電極(503)、第2の電極(504)、電気−機械変換膜(505)、第3の電極(506)、が順次設けられ、さらに絶縁保護膜(507)を設けた構成となっている。なお、第1の電極(503)と第3の電極(506)上の一部にコンタクトホールを有しており、第1の電極(503)は第4の電極(508)、第3の電極(506)は第5の電極(509)と導通した構成となっている。
【0019】
以下に、本発明の電気−機械変換素子に備えられる各層の構成材料、工法について具体的に説明する。
<基板、下地膜(又は下地)>
基板としては、シリコン単結晶基板を用いることが好ましく、通常100〜600μmの厚みを持つことが好ましい。面方位としては、(100)、(110)、(111)と3種あるが、半導体産業では一般的に(100)、(111)が広く使用されており、本構成においては、主に(100)の面方位を持つ単結晶基板を主に使用した。
また、図1に示すような圧力室を作製する場合、エッチングを利用してシリコン単結晶基板に加工を施していくが、この場合のエッチング方法としては、異方性エッチングを用いることが一般的である。異方性エッチングとは結晶構造の面方位に対してエッチング速度が異なる性質を利用したものである。例えば、KOH等のアルカリ溶液に浸漬させた異方性エッチングでは、(100)面に比べて(111)面は約1/400程度のエッチング速度となる。従って、面方位(100)では約54°の傾斜を持つ構造体が作製できるのに対して、面方位(110)では深い溝を掘ることができるため、より剛性を保ちつつ、配列密度を高くすることができることが分かっており、本構成としては(110)の面方位を持った単結晶基板を使用することも可能である。但し、この場合、マスク材であるSiOもエッチングされてしまうことがあるため、この点に関しても留意する必要がある。
図1に示すように電気−機械変換膜によって発生した力を受けて、下地(振動板)(105)が変形変位して、圧力室(101)内のインクをインク滴として吐出させる。そのため、下地としては所定の強度を有したものであることが好ましい。下地の構成材料としては、Si、SiO、SiをCVD法により作製したものが挙げられる。さらに、図1に示すような下部電極(106)、電気−機械変換膜(107)の線膨張係数に近い材料を選択することが好ましい。特に、電気−機械変換膜としては、一般的に材料としてPZTが使用されることから線膨張係数8×10−6(1/K)に近い線膨張係数が適当であり、5×10−6〜10×10−6(1/K)の線膨張係数を有した材料が好ましく、さらには7×10−6〜9×10−6(1/K)の線膨張係数を有した材料がより好ましい。
具体的な材料としては、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化イリジウム、酸化ルテニウム、酸化タンタル、酸化ハフニウム、酸化オスミウム、酸化レニウム、酸化ロジウム、酸化パラジウム及びそれらの化合物等であり、これらをスパッタ法もしくは、ゾル‐ゲル法を用いてスピンコーターにて作製することができる。
膜厚としては0.1〜10μmが好ましく、0.5〜3μmがさらに好ましい。膜厚が0.1μmより薄いと図1に示すような圧力室の加工が難しくなり、膜厚が10μmより厚いと下地が変形変位しにくくなり、インク滴の吐出が不安定になる。
【0020】
<密着層>
本発明における第1の電極は金属から成るが、特に白金を用いる場合、下地(特にSiO)との密着性が悪いため、密着層を用いる必要がある。前述のように本発明における密着層は、一般式ABO(但し、Aは、Sr、Ba、Ca、Laのいずれから選択される元素を示し、Bは、Ru、Co、Ni、Mn、Al、Crのいずれから選択される元素を示す。)で表されるペロブスカイト構造を有する酸化物かから構成される。好ましくはLaNiO若しくはLaAlOが挙げられる。密着層は、スパッタ法、或いはゾル‐ゲル法(スピンコーターにより塗工)により形成することができる。密着層の膜厚は8nm以上80nm以下であり、好ましくは10nm以上60nm以下である。
【0021】
<第1の電極>
本発明における第1の電極を構成する金属としては、白金族元素又はこれらの合金からなるものが挙げられる。白金族元素とは、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)を表す総称である。合金としては白金−ロジウムなどが挙げられる。
特に白金は高い耐熱性と低い反応性を有することから好ましく用いられるが、例えば、電気−機械変換膜にPZTを用いた場合に含有される鉛(Pb)に対しては十分なバリア性を有するとはいえない場合がある。本発明においては導電性酸化物から成る第2の電極を介して電気−機械変換膜が形成されるため、第1の電極に白金を用い、電気−機械変換膜にPZTを用いた場合でも金属電極の特性が劣化することは回避される。
第1の電極の作製方法としては、スパッタ法や真空蒸着等の真空成膜が用いられる。第1の電極の膜厚としては、0.05〜1μmが好ましく、0.1〜0.5μmがさらに好ましい。
【0022】
<第2の電極>
前述のように電気−機械変換膜として、鉛を含む複合酸化物(PZT)を使用する場合、鉛と下部電極(金属)との反応、もしくは下部電極(金属)への拡散が生じて圧電特性を劣化させる場合がある。従って、鉛との反応/拡散に対しバリア性のある電極材料が要求される。前述のように本発明では、下部電極を、金属から成る第1の電極と、導電性酸化物から成るパターン化された第2の電極とで構成しており、鉛を含む複合酸化物(PZT)は第2の電極(導電性酸化物)上に形成されるため、鉛が金属電極(第1の電極)と反応したり拡散することがなく、圧電特性の劣化が防止される。
第2の電極としては、上記のように導電性酸化物から構成するのが効果的である。具体的には、一般式ACO(但し、Aは、Sr、Ba、Ca、Laから選択される元素を示し、Cは、Ru、Co、Niから選択される元素を示す。)で表される導電性酸化物が挙げられる。さらに、SrRuO、CaRuOや、これらの固溶体である(Sr1−xCa)RuOのほか、LaNiO、SrCoOや、これらの固溶体である(La1−xSr)(Ni1−yCo)O(yは1でもよい)が挙げられる。それ以外の酸化物材料として、IrO、RuO等も挙げられる。
【0023】
第2の電極の作製方法としては、スパッタ法、或いはゾル‐ゲル法(スピンコーターにより塗工)により形成することができる。その場合は、第2の電極のパターニング(パターン化)が必要となるので、フォトリソグラフィ・エッチング等により所望のパターンを形成する。あるいは、スパッタ法、或いはゾル‐ゲル法以外に、本発明において電気-機械変換膜を形成する際に適用するインクジェット工法を用いて第2の電極を作製することができる。
図6を参照してインクジェット工法により第2の電極を作製するプロセスを説明する。図6は、本発明に係る第1の電極上に導電性酸化物から成るパターン化された第2の電極をインクジェット工法により作製するプロセスを説明するためのフロー図である。
先ず、図6中のBに示すように、下地(1)上にSAM形成用の材料を含有する溶液を全面塗布してSAM(自己組織化単分子膜)を形成する。SAM形成用の材料は下地の材料によっても異なるが、金属を下地とする場合は主にチオール材料(例えば、アルカンチオール)を選定する。アルカンチオールを用いる場合、分子鎖長により反応性や疎水(撥水)性は異なるが通常C6からC18の炭素数を有する分子を一般的な有機溶媒(アルコール、アセトン、トルエンなど)に溶解(濃度数mol/l)させてSAM形成用の溶液を調製する。この溶液を用いて、浸漬、蒸気、スピンコーター等のいずれかにより下地(1)上に全面塗布処理を行い、余剰な分子を溶媒で置換洗浄し乾燥することでSAMが形成できる。
次に、図6中のCに示すように、SAM上にフォトリソグラフィによりフォトレジスト(3)をパターン形成した後、図6中のDに示すように、ドライエッチングによりフォトレジスト(3)が形成されていない個所のSAM膜を除去するとともに、加工に用いたレジストを除去して、親水性領域と疎水性領域に区分けしてSAM膜のパターニングを終える。次に、図6中のEに示すように、第2の電極を形成するための原料液(前駆体液:インク)をIJヘッド(4)からインク滴として吐出し、親水性領域に塗膜(パターン化された第2の電極の前駆体膜)を形成し、通常のゾルゲルプロセスに従って熱処理を行う。
塗膜は、高温の熱処理(有機物の燃焼温度:300〜500℃、結晶化温度:500〜700℃)により行われるが、この高温処理によりSAM膜は消失する(図6中のF)。インクジェット工法を用いた場合、1層あたり約30〜100nm程度の膜厚になるため、厚膜とするにはインクジェット工法を繰り返して何層か重ね打ちし塗膜を形成する必要がある。そのため、図6中のD’に示すように、繰り返してSAM膜のパターニングを行い、インクジェット工法によりパターン化された第2の電極の前駆体膜を作製し、熱処理を行い所望の膜厚を得る。膜厚としては、0.05〜1μmが好ましく、0.1〜0.5μmがさらに好ましい。
【0024】
<電気−機械変換膜>
電気−機械変換膜としては、限定されるものではないが、前記PZT(ジルコン酸チタン酸鉛)膜が好ましく用いられる。PZTは、ジルコン酸鉛(PbZrO)とチタン酸(PbTiO)の固溶体で、その比率により特性が異なる。一般的に優れた圧電特性を示す組成は、PbZrOとPbTiOの比率が53:47の割合で、化学式で示すと、Pb(Zr0.53,Ti0.47)Oで表され、一般に、PZT(53/47)と示される。
本発明における電気−機械変換膜(例えば、PZT)は、電気−機械変換膜用の前駆体溶液(PZT前駆体溶液)を用いてインクジェット工法により形成される。PZT前駆体溶液は、酢酸鉛、ジルコニウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒としてメトキシエタノールに溶解させて均一溶液を得ることで調製できる。金属アルコキシド化合物は大気中の水分により容易に加水分解してしまうので、前駆体溶液に安定剤としてアセチルアセトン、酢酸、ジエタノールアミンなどの安定化剤を適量、添加してもよい。
PZT以外の複合酸化物としてはチタン酸バリウムなどが挙げられ、この場合には、バリウムアルコキシド化合物と、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒に溶解させることでチタン酸バリウム前駆体溶液を作製することも可能である。
これらの材料としては、一般式EDO(但し、Eは、Pb、Ba、Srから選択される元素を示し、Dは、Ti、Zr、Sn、Ni、Zn、Mg、Nbから選択される元素を示す。)で表される酸化物が該当する。
上記具体例としては、(Pb1−xBa)(Zr,Ti)O、(Pb1−xSr)(Zr,Ti)Oなどが挙げられ、これは一般式EDOのEサイトのPbを一部BaやSrで置換した場合である。このような置換は2価の元素であれば可能であり、その効果は熱処理中の鉛の蒸発による特性劣化を低減させる作用を示す。
【0025】
本発明における電気−機械変換膜は図3、図4に示したようにインクジェット工法により第2の電極上に形成される。その際、予め第1の電極表面のみ表面改質処理を施しておき、例えば、チオール材料を用いて自己組織化されたSAMを利用して、電気−機械変換膜用の前駆体液(インク)をインクジェット工法により親水性領域である第2の電極上に吐出して印刷し、塗膜を形成した後、塗膜の熱処理(溶媒乾燥、熱分解、結晶化)を施すことで得られる。塗膜から結晶化膜への変態には体積収縮が伴うので、クラックフリーな膜を得るには一度の工程で100nm以下の膜厚が得られるように前駆体濃度の調整が必要になることから、数μm程度の厚みの電気−機械変換膜とするにはインクジェット工法による繰り返し印刷で塗膜を何層も重ねて作製する必要がある。このような繰り返しに関しては、原理的に第2の電極の作製方法で説明した図6と同様のフロー(D’〜F’)で実施することができる。
電気−機械変換膜の膜厚としては0.5〜5μmが好ましく、さらに好ましくは1μm〜2μmとなる。膜厚が0.5μmより薄いと十分な変位を発生することができなくなり、膜厚が5μmより厚いと積層数が増大するため、工程数が多くなりプロセス時間が長くなる問題がある。
【0026】
<第3の電極>
第3の電極としては、第2の電極と同様に導電性酸化物から構成するのが効果的である。具体的には、一般式ACO(但し、Aは、Sr、Ba、Ca、Laから選択される元素を示し、Cは、Ru、Co、Niから選択される元素を示す。)で表される導電性酸化物が挙げられる。さらに、SrRuO、CaRuOや、これらの固溶体である(Sr1−xCa)RuOのほか、LaNiO、SrCoOや、これらの固溶体である(La1−xSr)(Ni1−yCo)O(yは1でもよい)が挙げられる。それ以外の酸化物材料として、IrO、RuO等も挙げられる。
また、配線抵抗を補うために導電性酸化物上に白金やイリジウムや白金−ロジウムなどの白金族元素や、これら合金膜、またAg合金、Cu、Al、Auを用いることも有効である。
【0027】
第3の電極の作製方法としては、スパッタ法もしくは、ゾル‐ゲル法を用いてスピンコーターにて作製することができる。その場合は、パターニング化が必要となるので、フォトリソエッチング等により所望のパターンを得る。それ以外に、表面処理により下地表面を部分的に表面改質させる工程を利用したインクジェット工法によりパターニングされた膜(第3の電極)を作製することができる。第3の電極の膜厚としては、0.05〜1μmが好ましく、0.1〜0.5μmがさらに好ましい。
【0028】
<絶縁保護膜>
電気ショート等による不具合や水分やガス等による圧電素子の破壊防止を目的に絶縁保護膜を設けることができる。絶縁保護膜の材料としては、シリコン酸化膜や窒化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜等の無機膜または、ポリイミド、パリレン膜等の有機膜が好ましい。絶縁保護膜の膜厚としては、0.5〜20μmが好ましく、1〜10μmがさらに好ましい。膜厚が0.5μm未満であると絶縁保護膜としての機能が十分果たせなくなり、膜厚が10μmを超えると、該膜厚とするためのプロセス時間が長くなるため好ましくない。
絶縁保護膜の作製方法としては、CVD、スパッタ法、スピンコート法を用いて作製することができる。また、図5に示すように、第1の電極及び第3の電極からの引き出し配線として第4、第5の電極を導通させるためのコンタクトホールの形成が必要となる場合には、フォトリソエッチング等により所望のパターンを形成する。また、スクリーン印刷工法を用いて、一度のプロセスでコンタクトホールを有する絶縁保護膜の作製を行うこともできる。スクリーン印刷に用いられるペースト材料としては、樹脂と無機または有機粒子を有機溶媒に溶解乃至分散させたものが好ましく用いられる。樹脂については、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、アクリル系樹脂、エチルセルロース樹脂などを含む材料が挙げられる。無機粒子については、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)、酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸バリウム(BaTiO)等が挙げられる。中でもシリカ、アルミナ、酸化亜鉛などの比較的比誘電率の低い材料が好ましい。本発明にて想定するような高精細のパターンを形成する場合においては、線径が15〜50μm、開口率が40〜60%のメッシュ中に充填されたペースト状材料を転写することで膜を形成することになるため、コンタクトホールと共に形成することができる。
【0029】
<第4、第5の電極>
第4の電極及び第5の電極は、Ag合金、Cu、Al、Au、Pt、Irから選択されるいずれかの金属電極材料であることが好ましい。
第4の電極及び第5の電極は、例えば、スパッタ法、スピンコート法を用いて作製し、その後フォトリソエッチング等により所望のパターンとすることで形成される。また、第4の電極或いは第5の電極の下層となる表面を部分的に表面改質させる工程を適用して、インクジェット工法によりパターニングされた膜(第4、第5の電極)を作製することができる。インクジェット工法により作製していく場合については、第2の電極と同様の作製フローにてパターニングされた膜を得ることができる。なお、表面改質材については、下層(絶縁保護膜)が酸化物である場合は主にシラン材料(シラン化合物)を選定する。また、ポリイミドのような有機物の場合には、紫外線の照射により、照射された領域の表面エネルギーを増大できることを利用して表面改質し、表面エネルギーを増大させた領域に、インクジェット工法を用いて高精細な第4または第5の電極のパターンを直接描画することができる。さらに表面エネルギーが小さいポリイミドを用いることにより、有機半導体層を高精細にパターニングすることが可能になる。紫外線で表面エネルギーを増大させることが可能な高分子材料としては、例えば、特開2006−060079号公報に記載されている材料を用いることができる。
【0030】
また、スクリーン印刷工法を用いて第4の電極及び第5の電極を形成することができる。即ち、ペースト材料を用いてスクリーン印刷で電極膜(第4の電極及び第5の電極)を得ることができる。ペースト材料としては以下のような市販材料も使用可能である。
例えば、パーフェクトゴールド(登録商標)(金ペースト、真空冶金社製商品名)、パーフェクトカッパー(銅ペースト、真空冶金社製商品名)、OrgaconPaste variant 1/4、Paste variant 1/3(以上、印刷用透明PEDOT/PSSインク、日本アグファ・ゲバルト社製商品名)、OrgaconCarbon Paste variant 2/2(カーボン電極ペースト、日本アグファ・ゲバルト社製商品名)、BAYTRON(登録商標) P(PEDT/PSS水溶液、日本スタルクヴィテック社製商品名)などが挙げられる。
第4の電極及び第5の電極の膜厚としては、0.1〜20μmが好ましく、0.2〜10μmがさらに好ましい。0.1μmより薄いと抵抗が大きくなり電極に十分な電流を流すことができなくなりヘッド吐出が不安定になり、20μmより厚いとプロセス時間が長くなる。
【0031】
本発明の電気−機械変換素子は、図3に示すように、基板上の下地膜(振動版)上に、密着層、金属から成る第1の電極、導電性酸化物から成るパターン化された第2の電極、電気-機械変換膜、導電性酸化物から成る第3の電極を備えているが、このような電気−機械変換素子を用いて液滴吐出ヘッド(例えば、図1)とすることができる。図1に示す単体の液体吐出ヘッドを複数個配置したものを図8に示す。なお、図1では密着層は非表示である。図8において、符号901は圧力室、902はノズル、903はノズル板、904は圧力室(Si基板)、905は振動板、906は密着層、907は電気−機械変換素子を示す。
本発明によれば、図8中の電気−機械変換素子が簡便な製造工程(バルクセラミックスと同等の性能を持つ)で形成でき、それに付随する圧力室形成のための裏面からのエッチング除去、ノズル孔を有するノズル板の接合により、液体吐出ヘッドが製造できる。
【0032】
また、上記液滴吐出ヘッド(インクジェットヘッド)を配備することにより、インクジェットプリンタ(インクジェット記録装置)を構成することができる。
本発明に係るインクジェットヘッドを搭載したインクジェット記録装置の一例について図9及び図10を参照して説明する。なお、図9は同記録装置の斜視説明図、図10は同記録装置の機構部の側面説明図である。
図9及び図10に示すインクジェット記録装置は、記録装置本体(81)の内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ(93)、キャリッジに搭載した本発明を実施したインクジェットヘッドからなる記録ヘッド、記録ヘッドへインクを供給するインクカートリッジ(95)等で構成される印字機構部(82)等を収納し、装置本体(81)の下方部には前方側から多数枚の用紙(83)を積載可能な給紙カセット(84)(或いは給紙トレイでもよい。)を抜き差し自在に装着することができ、また、用紙(83)を手差しで給紙するための手差しトレイ(85)を開倒することができ、給紙カセット(84)或いは手差しトレイ(85)から給送される用紙(83)を取り込み、印字機構部82によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ(86)に排紙する。
【0033】
印字機構部(82)は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド(91)と従ガイドロッド(92)とでキャリッジ(93)を主走査方向に摺動自在に保持し、このキャリッジ(93)にはイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する本発明に係るインクジェットヘッドからなるヘッド(94)を複数のインク吐出口(ノズル)を主走査方向と交差する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。またキャリッジ(93)にはヘッド(94)に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ(95)を交換可能に装着している。
【0034】
インクカートリッジ(95)は上方に大気と連通する大気口、下方にはインクジェットヘッドへインクを供給する供給口を、内部にはインクが充填された多孔質体を有しており、多孔質体の毛管力によりインクジェットヘッドへ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。また、記録ヘッドとしてここでは各色のヘッド(94)を用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個のヘッドでもよい。
【0035】
ここで、キャリッジ(93)は後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド(91)に摺動自在に嵌装し、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド(92)に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ(93)を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ(97)で回転駆動される駆動プーリ(98)と従動プーリ(99)との間にタイミングベルト(100)を張装し、このタイミングベルト(100)をキャリッジ(93)に固定しており、主走査モータ(97)の正逆回転によりキャリッジ(93)が往復駆動される。
【0036】
一方、給紙カセット(84)にセットした用紙(83)をヘッド(94)の下方側に搬送するために、給紙カセット(84)から用紙(83)を分離給装する給紙ローラ(101)及びフリクションパッド(102)と、用紙(83)を案内するガイド部材(103)と、給紙された用紙(83)を反転させて搬送する搬送ローラ(104)と、この搬送ローラ(104)の周面に押し付けられる搬送コロ(105)及び搬送ローラ(104)からの用紙(83)の送り出し角度を規定する先端コロ(106)とを設けている。搬送ローラ(104)は副走査モータ(107)によってギヤ列を介して回転駆動される。
【0037】
そして、キャリッジ(93)の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ(104)から送り出された用紙(83)を記録ヘッド(94)の下方側で案内する用紙ガイド部材である印写受け部材(109)を設けている。この印写受け部材(109)の用紙搬送方向下流側には、用紙83を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ(111)、拍車(112)を設け、さらに用紙(83)を排紙トレイ(86)に送り出す排紙ローラ(113)及び拍車(114)と、排紙経路を形成するガイド部材(115)、(116)とを配設している。
【0038】
記録時には、キャリッジ(93)を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド(94)を駆動することにより、停止している用紙(83)にインクを吐出して1行分を記録し、用紙(839を所定量搬送後次の行の記録を行う。記録終了信号または、用紙(83)の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙(83)を排紙する。
【0039】
また、キャリッジ(93)の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、ヘッド(94)の吐出不良を回復するための回復装置(117)を配置している。回復装置(117)はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有している。キャリッジ(93)は印字待機中にはこの回復装置(117)側に移動されてキャッピング手段でヘッド(94)をキャッピングされ、吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段でヘッド(94)の吐出口(ノズル)を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクとともに気泡等を吸い出し、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。また、吸引されたインクは、本体下部に設置された廃インク溜(不図示)に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
【実施例】
【0040】
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これら実施例によって制限されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限りこれらの実施例を適宜改変したものも本件の発明の範囲内である。
【0041】
[実施例1]
シリコンウエハに熱酸化膜(膜厚1μm)を形成し、この上に密着層としてSrRuO膜(膜厚50nm)をスパッタ成膜した。次に、密着層上に第1の電極として白金膜(膜厚200nm)をスパッタ成膜した。次に、第1の電極上にパターン化された第2の電極を形成するため、先ずSrRuO膜(膜厚200nm)をスパッタ成膜し、次いでSrRuO膜上に東京応化社製フォトレジスト(TSMR8800)をスピンコート法で成膜した。このフォトレジスト膜を通常のフォトリソグラフィによりレジストパターンとした後、ICPエッチング装置(サムコ製)を用いて図3に示すようなパターンを作製した。次に、第1の電極の表面改質処理[第1の電極表面のみを改質させて疎水性領域とする]を実施した。即ち、アルカンチオール[CH(CH−SH]をイソプロピルアルコールに濃度0.01mol/lに調整して溶解した溶液にパターンを作製したシリコンウエハを浸漬させ、その後、イソプロピルアルコールで洗浄・乾燥させ、SAM処理を行った。SAM処理後の白金膜(第1の電極)上の水の接触角は100.8°であるのに対して、SrRuO膜(第2の電極)上の水の接触角は15°であり、その後の電気−機械変換膜をインクジェット工法により成膜するのに必要な、親水性領域(親水面)と疎水性領域(撥水面)のコントラストが十分取れていることが確認できた。
【0042】
次に、電気−機械変換膜用の前駆体溶液を用いてインクジェット工法によりPZT(53/47)から成る電気−機械変換膜を形成した。前駆体溶液の調製には、出発材料に酢酸鉛三水和物、イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムを用いた。酢酸鉛の結晶水はメトキシエタノールに溶解後、脱水した。化学量論組成に対して鉛量を10mol%過剰にした。これは電気−機械変換膜形成過程での熱処理中に、鉛抜けによる結晶性低下を防ぐためである。即ち、イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムをメトキシエタノールに溶解し、アルコール交換反応、エステル化反応を進め、先記の酢酸鉛を溶解したメトキシエタノール溶液と混合することでPZT用の前駆体溶液を合成した。この前駆体溶液のPZT濃度は0.1mol/lにした。このPZT用の前駆体溶液(インク)をインクジェット塗布装置により図6に示す工程に準拠してパターニングされた親水領域(第2の電極として作製したSrRuO膜)に塗布(印刷して塗膜を形成)する。
【0043】
図7はインクジェット塗布装置を説明するための斜視図である。図7において架台(200)の上に、Y軸駆動手段(201)が設置してありその上に基板(202)を搭載するステージ(203)がY軸方向に駆動できるように設置されている。なおステージ(203)には図示されていない真空、静電気などの吸着手段が付随しており基板(202)が固定されている。また、X軸支持部材(204)にはX軸駆動手段(205)が取り付けられており、これにZ軸駆動手段(211)上に搭載されたヘッドベース(206)が取り付けられており、X軸方向に移動できるようになっている。ヘッドベース(206)の上にはインクを吐出させるIJヘッド(208)が搭載されている。このIJヘッドには図示されていない各インクタンクから各々着色樹脂インク供給用パイプ(210)からインクが供給される。
【0044】
インクジェット塗布装置による一度の成膜で得られる膜厚は100nm前後が好ましく、PZT用の前駆体溶液濃度は成膜面積と前駆体塗布量の関係から適正化される。例えば、図6のEはインクジェット塗布装置により前駆体溶液(インク)が塗布されている状態を示しており、前駆体溶液は、接触角のコントラストに応じて親水性領域のみに広がりパターンを形成する。これを120℃で処理(溶媒乾燥)した後、500℃で処理(有機物の熱分解)を行うことで図6のFに示すようなPZT膜を得た。このときの膜厚は90nmであった。
引き続き繰返し表面処理としてアルカンチオールによる浸漬処理を行うことで、パターニング化したSAM膜を形成した。SAM処理後の白金膜上の水の接触角は99.2°であるのに対して、インクジェットにて作製したPZT膜上の水の接触角は15°であり、2層目以降を繰り返してインクジェットにより成膜するには、親水性領域(親水面)と疎水性領域(撥水面)のコントラストが十分取れていることが確認できた。
前記繰り返しによる工程(図6のD’〜F’)を6回繰り返して540nmの膜を得た後、結晶化熱処理(温度700℃)をRTA(急速熱処理)にて行った。膜にクラックなどの不良は生じなかった。さらに、SAM膜処理、PZT前駆体の選択塗布、120℃乾燥、500℃熱分解による結晶化処理、の各工程を順次6回繰り返したが、膜にクラックなどの不良は生じなかった。膜厚は1000nmに達した。
【0045】
電気−機械変換膜上に導電性酸化物から成る第3の電極を形成するため、先ずSrRuO膜(膜厚200nm)をスパッタ成膜し、次いでSrRuO膜上に東京応化社製フォトレジスト(TSMR8800)をスピンコート法で成膜し、フォトレジスト膜を通常のフォトリソグラフィでレジストパターンを形成した後、ICPエッチング装置(サムコ製)を用いて図3あるいは図5に示すようなパターンを作製した。
【0046】
次に、絶縁保護膜として、パリレン膜(膜厚2μm)をCVDにより形成した。その後、東京応化社製フォトレジスト(TSMR8800)をスピンコート法で成膜し、通常のフォトリソグラフィでレジストパターンを形成した後、RIE(サムコ製)を用いて図5に示すようなパターンを作製した。
【0047】
最後に第4、第5の電極としてAl膜(膜厚5μm)をスパッタ成膜した。その後、東京応化社製フォトレジスト(TSMR8800)をスピンコート法で成膜し、通常のフォトリソグラフィでレジストパターンを形成した後、RIE(サムコ製)を用いて図5に示すようなパターンを形成して電気−機械変換素子を作製した。
【0048】
[実施例2]
実施例1においてシリコンウエハに熱酸化膜(膜厚1μm)上に密着層としてスパッタ成膜したSrRuO膜(膜厚50nm)を、LaNiO膜(膜厚20nm)に変更した以外は実施例1と同様にして電気−機械変換素子を作製した。
【0049】
[実施例3]
実施例1においてシリコンウエハに熱酸化膜(膜厚1μm)上に密着層としてスパッタ成膜したSrRuO膜(膜厚50nm)を、LaNiO膜(膜厚60nm)に変更した以外は実施例1と同様にして電気−機械変換素子を作製した。
【0050】
[実施例4]
実施例1においてシリコンウエハに熱酸化膜(膜厚1μm)上に密着層としてスパッタ成膜したSrRuO膜(膜厚50nm)を、LaNiO膜(膜厚10nm)に変更した以外は実施例1と同様にして電気−機械変換素子を作製した。
【0051】
[実施例5]
実施例1においてシリコンウエハに熱酸化膜(膜厚1μm)上に密着層としてスパッタ成膜したSrRuO膜(膜厚50nm)を、LaAlO膜(膜厚20nm)に変更した以外は実施例1と同様にして電気−機械変換素子を作製した。
【0052】
[実施例6]
実施例1においてシリコンウエハに熱酸化膜(膜厚1μm)上に密着層としてスパッタ成膜したSrRuO膜(膜厚50nm)を、LaCoO膜(膜厚50nm)に変更した以外は実施例1と同様にして電気−機械変換素子を作製した。
【0053】
[実施例7]
実施例1においてシリコンウエハに熱酸化膜(膜厚1μm)上に密着層としてスパッタ成膜したSrRuO膜(膜厚50nm)を、CaMnO膜(膜厚50nm)に変更した以外は実施例1と同様にして電気−機械変換素子を作製した。
【0054】
[実施例8]
実施例1においてシリコンウエハに熱酸化膜(膜厚1μm)上に密着層としてスパッタ成膜したSrRuO膜(膜厚50nm)を、BaCrO膜(膜厚50nm)に変更した以外は実施例1と同様にして電気−機械変換素子を作製した。
【0055】
[比較例1]
実施例1においてシリコンウエハに熱酸化膜(膜厚1μm)上に密着層としてスパッタ成膜したSrRuO膜(膜厚50nm)を、チタン膜(膜厚50nm)に変更した以外は実施例1と同様にして電気−機械変換素子を作製した。
【0056】
[比較例2]
実施例1においてシリコンウエハに熱酸化膜(膜厚1μm)上に密着層としてスパッタ成膜したSrRuO膜(膜厚50nm)を、TiO膜(膜厚50nm)に変更した以外は実施例1と同様にして電気−機械変換素子を作製した。
【0057】
[比較例3]
実施例1においてシリコンウエハに熱酸化膜(膜厚1μm)上に密着層としてスパッタ成膜したSrRuO膜(膜厚50nm)を、LaNiO膜(膜厚5nm)に変更した以外は実施例1と同様にして電気−機械変換素子を作製した。
【0058】
[比較例4]
実施例1においてシリコンウエハに熱酸化膜(膜厚1μm)上に密着層としてスパッタ成膜したSrRuO膜(膜厚50nm)を、LaNiO膜(膜厚100nm)に変更した以外は実施例1と同様にして電気−機械変換素子を作製した。
【0059】
実施例1〜8、比較例1〜4におけるSAM処理による表面改質の効果を確認するために、SAM処理後の白金膜上の水の接触角の評価を行った。また、白金膜の密着性に関して白金膜を成膜した直後にJIS D0202‐1988に準拠して碁盤目テープ剥離試験を行なった。結果を下記表1に示す。
なお、碁盤目テープ剥離試験においては、100マスの碁盤上にセロハンテープ(CT24、ニチバン(株)製)を用い、指の腹を膜に密着させた後にテープ剥離した。判定は100マスのうち、剥離しないマス目の数で表し、電極層が剥離しない場合を100/100、完全に剥離する場合を0/100として表記した。
また、実施例1〜8、比較例1〜4で作製した電気−機械変換素子を用いて印加電界150kV/cmにおける電気特性、電気−機械変換能(圧電定数)の初期特性及び耐久性(10^10回繰り返し電界を印加した直後の特性)の評価を行った。代表的なP−Eヒステリシス曲線を図11に示す。電気−機械変換能に関してはレーザードップラ振動計で電界印加に伴う変位量を計測し、シミュレーションを活用して合わせ込みから算出した。
評価結果を下記表1にまとめて示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表1に示す評価結果から、実施例1〜8においてはいずれも剥離せず、水の接触角も良好な値を有していた。初期特性及び耐久性試験の結果についても一般的なセラミック焼結体と同等の特性を有していた。即ち、残留分極は20〜25μC/cm、圧電定数−d31は120〜150pm/Vであった。
一方、比較例1においては白金上の接触角が低い値となっていた。そのため、親水性領域と疎水性領域とのコントラストが十分確保できず、PZTのパターニング性能が低下している。例えば、図12のSEM写真に示すように、表面改質膜による疎水性領域と親水性領域とのコントラストが十分確保できた場合(正常部)の下部電極(第1の電極)上の電気−機械変換膜と、コントラストが十分確保できない場合(異常部)では細線パターンの形成状態が大きく異なる。これに伴い、電気特性、電気−機械変換能が小さくなっている。比較例2、3においては剥離が生じ密着性が悪かった。そのため耐久試験中に剥れが生じ、評価を続けることができなくなってしまった。比較例4においては剥離率、接触角とも満たしたが、電気特性、電気−機械変換能は悪くなった。
【0062】
実施例1〜3、比較例1、2で作製した電気−機械変換素子を用いて、図8に示す構成の液滴吐出ヘッドを作製し、液(インク)の吐出評価を行った。粘度を5cpに調整したインクを用いて、単純Push波形により−10〜−30Vの印可電圧を加えたときの吐出状況を確認したところ、いずれの電気−機械変換素子のノズル孔からも吐出できていることを確認した。
また、液滴吐出ヘッドを配備したインクジェットプリンタにおいては振動板駆動不良によるインク滴吐出不良がなく、安定したインク滴吐出特性が得られて、画像品質が向上した。
【0063】
即ち、本発明の電気−機械変換素子を具備する液体吐出ヘッド、及び該液体吐出ヘッドを具備する液体吐出装置は、吐出安定性と耐久性に優れているため、インクジェット式記録装置(例えば、インクジェットプリンタ、MFPを使用するデジタル印刷装置、オフィス、パーソナルで使用するプリンタ、MFP等)用として有用である。また、インクジェット技術を利用する三次元造型技術などへの応用も可能である。
【符号の説明】
【0064】
(図1)
101 圧力室
102 ノズル
103 ノズル板
104 圧力室基板(Si基板)
105 下地
106 下部電極
107 電気−機械変換膜
108 上部電極
109 電気−機械変換素子
(図2)
21 金属電極
22 SAM(チオール)
23 PZT
26 酸化物電極
27 SAM(シラン)
28 PZT
(図3)
301 基板
302 振動板
303 密着層
304 第1の電極、
305 第2の電極
306 電気−機械変換膜
307 第3の電極
(図4)
31 酸化物電極
32 金属電極
33 SAM(チオール)
34 PZT
(図5)
500 密着層
501 基板
502 振動板
503 第1の電極
504 第2の電極
505 電気−機械変換膜
506 第3の電極
507 絶縁保護膜
508 第4の電極
509 第5の電極
(図6)
1 下地
2 SAM膜(自己組織化単分子膜)
3 フォトレジスト
4 IJヘッド
(図7)
901 圧力室
902 ノズル
903 ノズル板
904 圧力室基板(Si基板)
905 振動板
906 密着層
907 電気−機械変換素子
(図8、図9)
81 記録装置本体
82 印字機構部
83 用紙
84 給紙カセット
85 トレイ
86 排紙トレイ
91 主ガイドロッド
92 従ガイドロッド
93 キャリッジ
94 記録ヘッド
95 インクカートリッジ
97 主走査モータ
98 駆動プーリ
99 従動プーリ
100 タイミングベルト
101 給紙ローラ
102 フリクションパッド
103 ガイド部材
104 搬送ローラ
105 搬送コロ
106 先端コロ
107 副走査モータ
109 印写受け部材
111 搬送コロ
112 拍車
113 排紙ローラ
114 拍車
115 ガイド部材
116 ガイド部材
117 回復装置
(図10)
200 架台
201 Y軸駆動手段
202 基板
203 ステージ
204 X軸支持部材
205 X軸駆動手段
208 IJヘッド
210 着色樹脂インク供給用パイプ
211 Z軸駆動手段
【先行技術文献】
【特許文献】
【0065】
【特許文献1】特開2004−006645号公報
【特許文献2】特開2005−327920号公報
【特許文献3】特許第3019845号公報
【特許文献4】特開2008−066414号公報
【特許文献5】特開2008−172100号公報
【特許文献6】特開2008−1038号公報
【特許文献7】特開平10−081016号公報
【特許文献8】特許第4367654号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板または下地膜上に形成された、一般式ABO(但し、Aは、Sr、Ba、Ca、Laから選択される元素を示し、Bは、Ru、Co、Ni、Mn、Al、Crから選択される元素を示す。)で表されるペロブスカイト構造を有する酸化物から成り、且つ膜厚が8nm以上80nm以下である密着層と、
該密着層上に形成された金属から成る第1の電極と、
該第1の電極上に形成された導電性酸化物から成るパターン化された第2の電極と、
該パターン化された第2の電極上に、前記第1の電極表面のみを疎水性領域とする改質処理を介してインクジェット工法により形成された電気−機械変換膜と、
該電気−機械変換膜上に形成された導電性酸化物から成る第3の電極と
を備えたことを特徴とする電気−機械変換素子。
【請求項2】
前記一般式ABOで表されるペロブスカイト構造を有する酸化物が、LaNiO若しくはLaAlOであることを特徴とする請求項1に記載の電気−機械変換素子。
【請求項3】
前記第1の電極が、白金族元素から選択される金属から成ることを特徴とする請求項1又は2に記載の電気−機械変換素子。
【請求項4】
前記第2の電極が、一般式ACO(但し、Aは、Sr、Ba、Ca、Laから選択される元素を示し、Cは、Ru、Co、Niから選択される元素を示す。)で表される導電性酸化物、或いはIrO、RuOから選択される導電性酸化物から成ることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電気−機械変換素子。
【請求項5】
前記第3の電極が、一般式ACO(但し、Aは、Sr、Ba、Ca、Laから選択される元素を示し、Cは、Ru、Co、Niから選択される元素を示す。)で表される導電性酸化物、或いはIrO、RuOから選択される導電性酸化物から成ることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電気−機械変換素子。
【請求項6】
前記電気-機械変換膜が、下記(a)工程から(d)工程を含むプロセスフローを介して形成されたものであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電気−機械変換素子。
(a)工程:前記パターン化された第2の電極表面を親水性領域として維持したまま前記第1の電極表面のみを改質させて疎水性領域とする。
(b)工程:前記パターン化された第2の電極表面上に、インクジェット工法により電気−機械変換膜用の前駆体溶液を印刷して塗膜を形成する。
(c)工程:前記塗膜を熱処理する。
(d)工程:前記(a)工程、(b)工程、(c)工程を繰返して電気−機械変換膜を所望の膜厚とする。
【請求項7】
前記第1の電極表面のみの改質が、チオール材料により成されていることを特徴とする請求項6に記載の電気−機械変換素子。
【請求項8】
前記第2の電極が、スパッタ法或いはスピンコート法により導電性酸化物を前記第1の電極上に成膜後、フォトリソグラフィ・エッチングによりパターン化されたことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の電気−機械変換素子。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の電気−機械変換素子を具備することを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項10】
請求項9に記載の液滴吐出ヘッドを具備することを特徴とするインクジェットプリンタ。

【図1】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−62357(P2013−62357A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199596(P2011−199596)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】