説明

電気化学素子用電極の製造方法及びそれを有する電気化学素子の製造方法

エネルギー密度を向上させ、出力特性にすぐれた電極材料の製造方法を提供する。比表面積が100〜3000m/g、平均細孔直径0.4nm以上100nm以下の範囲の導電性多孔質材料の表面に重合性モノマーを吸着させ、さらに、前記導電性多孔質材料を電極として電解液中でパルス電圧を印加することにより電解重合を行って、前記重合性モノマーを積層し、導電性多孔質材料の表面に導電性ポリマー層を形成したことを特徴とする電気化学素子用電極の製造方法によって、薄く均一なポリマー層を形成する方法、すなわち出力特性にすぐれ、エネルギー密度の向上した電極材料の製造方法が提供される。更に、比表面積が100〜3000m/g、平均細孔直径0.4nm以上100nm以下の範囲の導電性多孔質材料の表面に重合性モノマーを吸着させる工程と、重合性モノマーが細孔に吸着した導電性多孔質材料を用いて電気化学素子セルを形成する工程と、該電気化学セルを電解液とともに外装ケースに収納する工程と、外装ケースの外部電極よりパルス電圧を印加することにより前記電解液中で重合性モノマーの電解重合を行って、前記重合性モノマーを積層する工程により、外装ケース内部で導電性多孔質材料の表面に導電性ポリマー層を形成したことを特徴とする電気化学素子の製造方法によって、上記電気化学素子用電極を有する電気化学素子を一連の工程で作成することが可能であり、電気化学素子の作成のための工程を削減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学素子用電極の製造方法及びそれを有する電気化学素子の製造方法に関し、さらに詳しくはエネルギー密度を向上させ、出力特性にすぐれた電気化学素子用電極の製造方法及びそれを有する電気化学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球の環境問題などから、エンジン駆動であるガソリン車やディーゼル車に代わり、電気自動車やハイブリッド車への期待が高まっている。これらの電気自動車やハイブリッド車では、モーターを駆動させるための電源としては、高エネルギー密度かつ高出力密度特性を有する電気化学素子が用いられる。このような電気化学素子としては、二次電池、電気二重層キャパシタがある。
【0003】
二次電池には、鉛電池、ニッケル・カドミウム電池、ニッケル水素電池、またはプロトン電池などがある。これらの二次電池は、イオン伝導性の高い酸性またはアルカリ性の水系電解液を用いているため、充放電の際に大電流が得られるという優れた出力特性を有するが、水の電気分解電圧が1.23Vであるため、それ以上の高い電圧を得ることができない。電気自動車の電源としては、200V前後の高電圧が必要であるため、それだけ多くの電池を直列に接続しなければならず、電源の小型・軽量化には不利である。
【0004】
高電圧型の二次電池としては、有機電解液を用いたリチウムイオン二次電池が知られている。このリチウムイオン二次電池は、分解電圧の高い有機溶媒を電解液溶媒としているため、最も卑な電位を示すリチウムイオンを充放電反応に関与する電荷とすれば、3V以上の電位を示す。リチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを吸蔵、放出する炭素を負極とし、コバルト酸リチウム(LiCoO)を正極として用いたものが主流である。電解液には、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)などのリチウム塩をエチレンカーボネートやプロピレンカーボネートなどの溶媒に溶解させたものが用いられている。
【0005】
しかしながら、このリチウムイオン二次電池は、電圧が高くエネルギー密度も高いので電源として優れているが、充電反応が電極のリチウムイオンの吸蔵、放出であるため、出力特性に劣るという問題があり、大きな瞬間電流が必要とされる電気自動車用の電源には不利である。そこで、高電圧で、かつ充放電特性を改善するために正極にポリチオフェンの誘導体を用いる試みがある(特開2003−297362号公報)。
【0006】
また、電気二重層キャパシタは、活性炭などの分極性電極を正負極とし、プロピレンカーボネートなどの有機溶媒に四フッ化ホウ素や六フッ化リンの四級アンモニウム塩を溶解させたものを電解液としている。このような、電気二重層キャパシタは電極表面と電解液との界面に生じる電気二重層を静電容量としており、電池のようなイオンが関与する反応がないので、充放電特性が高く、また充放電サイクルによる容量劣化が少ない。しかし、二重層容量によるエネルギー密度は電池に比べてエネルギー密度が低く、電気自動車の電源としては、大幅に不足する。これに対して、大容量化を目的として正極にポリピロールを用いる試みがある(特開平6−104141号公報)。
【0007】
そこで、高エネルギー密度と、高出力特性を有する、導電性高分子や金属酸化物を電極材料として用いた電気化学キャパシタが開発されている。この電気化学キャパシタは、電解液中のアニオン、カチオンの電極への吸脱着を電荷貯蔵機構としており、エネルギー密度、出力特性ともに優れている。なかでも、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセン、ポリチオフェン誘導体などの導電性高分子を用いた電気化学キャパシタは、非水系電解液中のアニオン、もしくはカチオンが導電性高分子にp−ドーピングまたはn−ドーピングすることによって、充放電を行う。このドーピングの電位は負極側では低く、正極側では高いので高電圧特性が得られる(特開2000−315527号公報)。
【0008】
しかし、上記導電性高分子を用いたキャパシタでさえも更なる高エネルギー密度、高出力特性が要求されている。この要求に対して、少なくとも2つの電極を含むバッテリ又はスーパーキャパシタのようなエネルギー蓄積装置であって、その電極の少なくとも一つが少なくとも二つの異なる酸化度のエネルギーを蓄積する遷移金属のレドックス高分子錯体化合物の層を有する電気伝導回路基盤を含み、この高分子錯体化合物が遷移金属錯体モノマーの積層されて形成されたエネルギー蓄積装置が開発されている。このエネルギー蓄積装置における遷移金属錯体モノマーは平面から0.1nm未満の偏差のプレーナー構造及びp−共有結合の分岐システムを有しており、遷移金属の高分子錯体化合物は置換4座シッフ塩基を備えた高分子金属錯体として形成されることが可能であり、レドックス高分子の厚さは1nm乃至20μmの範囲内である(国際公開第03/065536号パンフレット)。さらに前記高分子錯体化合物は、その中心金属が可逆的に酸化・還元できるため、正極・負極の双方に用いることができる。この電極を両極に用いたキャパシタは3Vと高い作動電圧と、300J/gものエネルギー密度が得られる可能性があり、このエネルギー密度を引き出す製造方法も開示されている(国際公開第04/030123号パンフレット)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、電気自動車等の電源用途での小型化の要求は恒常的で、そのための高エネルギー密度化、高出力特性化という強い要求がある。そこで、エネルギー密度を向上させ、出力特性にすぐれた電気化学素子用電極の製造方法及びそれを有する電気化学素子の製造方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために、電極の製造方法について検討を行った結果、比表面積が100〜3000m/g、平均細孔直径0.4nm以上100nm以下の範囲の導電性多孔質材料の表面に重合性モノマーを吸着させ、さらに、前記導電性多孔質材料を電極として電解液中でパルス電圧を印加することにより電解重合を行って、前記重合性モノマーを積層し、導電性多孔質材料の表面に導電性ポリマー層を形成したことを特徴とする電気化学素子用電極の製造方法によって、薄く均一なポリマー層をより効率的に形成する方法を提供するものである。
【0011】
更に本発明は、比表面積が100〜3000m/g、平均細孔直径0.4nm以上100nm以下の範囲の導電性多孔質材料の表面に重合性モノマーを吸着させる工程と、重合性モノマーが細孔に吸着した導電性多孔質材料を用いて電気化学素子セルを形成する工程と、該電気化学セルを電解液とともに外装ケースに収納する工程と、外装ケースの外部電極よりパルス電圧を印加することにより前記電解液中で重合性モノマーの電解重合を行って、前記重合性モノマーを積層する工程により、外装ケース内部で導電性多孔質材料の表面に導電性ポリマー層を形成したことを特徴とする電気化学素子の製造方法によって、電気化学素子の構成を組立てた後に電気化学素子の外部端子よりパルス電圧を印加して電解重合することで、上記電気化学素子用電極を有する電気化学素子を一連の工程で作成することが可能であり、電気化学素子の作成のための工程を削減することができる。
【発明の効果】
【0012】
本方法によれば、比表面積が100〜3000m/g、平均細孔直径0.4nm以上100nm以下の範囲の導電性多孔質材料からなる電極構造体表面を遷移金属の高分子錯体化合物で薄く均一に被覆することがより効率的に可能となり、つまり膜厚に対して表面積を大きくすることがより効率的に可能となり、その結果、本方法により作成された電極はアニオン、カチオンの膜に対する単位体積あたりのドープ、脱ドープの割合が大きくなり、レート特性やサイクル特性の向上を図ることができ、高出力特性を有する電気化学素子用電極となる。そして、膜厚が小さいと膜の抵抗が低減し、放電の際のIRドロップが小さくなるので、電圧を高くすることができる。また、以上のようにして作成された電極は、多孔質材料の空孔部を閉塞することなく電極膜を形成することが可能であるため、表面積が増大しエネルギー密度が向上する。その結果、出力特性に優れ、エネルギー密度の向上した電気化学素子用電極を得ることができる。
【0013】
また、本発明の方法により製造された電気二重層コンデンサは、遷移金属の高分子錯体化合物が導電性多孔質材料表面に形成された膜からなる電極として形成されているため、そのまま電池やキャパシタ等のデバイスの構成要素として用いることができる。よって、遷移金属の高分子錯体化合物を含有する、出力特性に優れ、エネルギー密度の向上した電気化学素子用電極を簡便且つ短工程で得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
第一に、本発明の電気化学素子用電極の製造工程について説明する。
【0015】
比表面積が100〜3000m/g、平均細孔直径0.4nm以上100nm以下の範囲の導電性多孔質材料の表面に重合性モノマーを吸着させる方法としては、導電性多孔質材料を重合性モノマー溶液に浸漬した後に、重合性モノマー溶液の溶媒を除去することにより、導電性多孔質材料の表面に重合性モノマーを吸着させる方法が好ましい。具体的には、導電性多孔質材料、例えば活性炭繊維を織って布状にしたものを重合性モノマー溶液に浸漬して、その後引き上げ、重合性モノマー溶液の溶媒を例えば乾燥処理によって除去する。溶媒を除去すると、活性炭の吸着能によって重合性モノマーは付着した状態となり、容易に脱離しない状態となる。
【0016】
ここにおいて使用される導電性多孔質材料としては、比表面積が100〜3000m/g、平均細孔直径0.4nm以上100nm以下の範囲の導電性多孔質材料であると好ましく、具体的には、活性炭が好ましい。特に、活性炭繊維を織って布状にしたものであると良く、その他、活性炭粉末と、アセチレンブラックと、バインダとしてのポリテトラフルオロエチレンとを夫々重量比で77:20:3となるように配合し、円盤状に成形したものであっても良い。
【0017】
また、ここにおいて使用される重合性モノマー溶液は少なくとも2種類の酸化数を有する遷移金属の錯体モノマー溶液であると好ましく、電解重合によって形成された導電性ポリマーが、遷移金属の高分子錯体化合物を含むエネルギー蓄積レドックスポリマー層であり、これによりレドックス反応でエネルギー蓄積するものが良い。
【0018】
さらに、表面に重合性モノマーを吸着させた導電性多孔質材料を電極として電解液中でパルス電圧を印加することにより電解重合を行って、前記重合性モノマーを積層し、導電性多孔質材料の表面に導電性ポリマー層を形成する方法としては、例えば、電解重合モードとして電位掃引重合法、定電位重合法、定電流重合法、その他電位ステップ法、電位パルス法が挙げられるが、本発明においては電位パルス法を用いる。
【0019】
重合性モノマーが溶解或いは分散した溶液に比表面積が極めて大きな導電性多孔質材料を浸漬した状態で電解重合を行うと、電解重合によって積層される導電性ポリマーは、部分的に重合反応が進行してポリマー層に凹凸が形成されてしまう場合があり、均一な厚さとならない場合がある。また、溶液中の重合性モノマーを完全に重合させるには、電解重合の時間を長くしなくてはならないという問題がある。平均細孔直径0.4nm以上100nm以下の範囲の導電性多孔質材料であれば、重合性モノマーを細孔内に取り込む効果と、導電性多孔質材料が有する物質の吸着能とが相俟って、重合性モノマーがその表面に吸着する。特に、導電性多孔質材料を重合性モノマー溶液に浸漬した後に、重合性モノマー溶液の溶媒を除去することにより、導電性多孔質材料の表面には重合性モノマーを薄く均一に吸着させることができる。この状態で、電解重合を行うと、重合性モノマーは導電性多孔質材料の表面に薄く均一に付着したまま重合反応が進行し、導電性ポリマーとすることができる。
【0020】
本発明の電気化学素子の製造方法における電解重合条件は、以下のとおりである。すなわち、前記遷移金属の高分子錯体化合物のエネルギー密度を向上させるには、パルス電解重合に関するさまざまなパラメータを最適化する必要があり、中でも電解時間、休止時間、重合電位を最適化することが望ましい。そして、さらに前記電極のエネルギー密度の向上を検討した結果、これらのパラメータに加え、電極基板の比表面積の効果が大きいことが判明した。その好ましい特性は、上記電極基板の比表面積が200から3000m/g、より好ましくは1000から3000m/g、さらに好ましくは1500から2500m/gである。そして、この基板に電解重合するためには、電解時間、休止時間、重合電位、パルス回数は以下の条件が好ましいことが判明した。すなわち、パルス電解時間は0.1から60秒、好ましくは0.5から10秒、さらに好ましくは0.7から5秒である。また、休止時間は10から300秒、好ましくは10から60秒、さらに好ましくは20から30秒である。したがって、電解時間に対するパルス繰り返し時間(電解時間+休止時間)の割合をパルス比とすると、パルス比は1500以下、好ましくは60以下、さらに30以下である。この範囲内では、高比表面積特性を有する電極基板に電解重合すると、電解時間中に酸化した錯体モノマーが、基板の細孔内や形成されたポリマーの欠陥へ拡散しながら重合するのに最適な条件が得られるため、薄く均一なポリマー膜が形成でき、結果的に高いエネルギー密度を持つ電極を効率的に製造することができる。なお、ここで休止時間の休止とは、モノマーの重合が休止する電位とすることであり、−2乃至+0.5V、好ましくは−1乃至+0.3V、さらに好ましくは−0.5乃至0Vである。
【0021】
本電解重合において、パルス電圧条件は0.5〜1.0Vvs.Ag/Ag+、好ましくは0.5〜0.7Vvs.Ag/Ag+、さらに好ましくは0.5〜0.6Vvs.Ag/Ag+であると良い。この範囲の電圧であれば、電気化学的な反応による錯体モノマーの酸化体が十分に生成されるため、遷移金属の錯体高分子化合物が効率良く形成され、その上、形成された遷移金属の錯体高分子化合物が過酸化されにくく、結果的に高容量密度の遷移金属の錯体高分子化合物が形成される。
【0022】
なお、本電解重合は前記のような電極を電解液に浸漬し、パルス電圧を印加することにより電解重合を行うが、このような2極式のみならず、作用電極及び対極のみならず参照電極を用い、参照電極に対して一定の電位を印加するか酸化電流を流すことにより重合を行う3極式を用いても良い。
【0023】
本電解重合において、サイクル数は100〜10000サイクル、好ましくは100〜5000サイクル、さらに好ましくは200〜2000サイクルであると良い。この範囲のサイクル数であれば、遷移金属の錯体高分子化合物の生成量が十分となり、その上、遷移金属の錯体高分子化合物が過剰に生成しないので、薄い遷移金属の錯体高分子化合物の膜が維持される。
【0024】
本電解重合において使用される電解液は、有機溶媒を用いた非水系の電解液であり、その支持電解質としては有機溶媒に可溶であり且つイオン導電性を確保できる塩を使用すると好ましく、種類・濃度ともに限定されない。
【0025】
具体的には、有機溶媒として、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、スルホラン、アセトニトリル及びジメトキシエタンからなる群から選ばれる1種以上を含むことが好ましい。溶質としてリチウムイオンを有するリチウム塩、第4級アンモニウムカチオン又は第4級ホスホニウムカチオンを有する第4級アンモニウム塩又は第4級ホスホニウム塩を挙げることができる。リチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiN(CFSO、LiCFSO、LiC(SOCF、LiAsF及びLiSbF等が挙げられる。また、第4級アンモニウム塩又は第4級ホスホニウム塩としては、R1 R2 R3 R4N+又はR1 R2 R3 R4 P+で表されるカチオン(ただし、R1、R2、R3、R4は炭素数1〜6のアルキル基)と、PF6−、BF4−、ClO4−、N(CF3SO2)2−、C3SO3−、C(SO2CF3)3−、AsF6−又はSbF6−からなるアニオンとからなる塩であることが好ましい。特にPF6−、BF4−、ClO4−、N(CF3SO2)2−をアニオンとすることが好ましい。
【0026】
本電解重合において使用される電解液として特に好ましいものは、(CNBFを1モル/リットル溶解させたプロピレンカーボネート(PC)である。
【0027】
本電解重合によって形成された導電性ポリマー層は遷移金属の高分子錯体化合物を含むエネルギー蓄積レドックスポリマー層であり、これによりレドックス反応でエネルギーが蓄積される。そして、遷移金属の高分子錯体化合物は4座シッフ塩基の高分子金属錯体、特に、構造式:
【0028】
【化1】

【0029】
[式中、Yは
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

又は
【化7】

【0030】
Meは遷移金属であり、
RはH又は電子供与基であり、
R’はH又はハロゲンであり、そして、
nは2乃至200000の整数である]
で表される高分子錯体化合物であると良い。特に、好適な遷移金属MeとしてはNi,Pd,Co,Cu及びFeが挙げられる。また、好適なRとしてはCHO−,CO−,HO−及びCH−が挙げられる。
【0031】
本発明の原理によると、遷移金属のレドックス高分子錯体化合物は「一方向性」又は「積層」高分子として構成される。
【0032】
電極に好適な高分子金属の典型例としては、レドックス高分子類が該当し、これは新規な異方性電子酸化還元伝導を提供する(Timonov A. M.,Shagisultanova G. A., Popeko I. E.ニッケル、パラジウム及びプラチナのシッフ塩基による高分子部分酸化錯体//プラチナ化学研究会、基本及び応用面、イタリア、フェラーラ、1991、P.28を参照)。
【0033】
フラグメント間の結合の構造は、第一の接近における、ある分子のリガンドと別の分子の金属中心体との間の供与−授与分子間相互作用とみなされ得る。いわゆる「表面的」又は「積層」巨大分子の形成は前記相互作用の結果として起こる。高分子のそのような「積層」構造の形成のメカニズムは、現在平面四角形構造のモノマーを使用した場合に一番うまく達成される。概略的に、この構造は以下のように表される:
【0034】
【化8】

【0035】
表面的にはそのような一連の巨大分子は肉眼では電極表面の硬い透明なフィルムとして確認できる。このフィルムの色は金属の種類及びリガンド構造における置換基の存在に非常に依存し得る。しかし、拡大すると積層構造が明らかとなる(図1)。
【0036】
高分子金属錯体は化学吸着によって電極表面に結合する。
【0037】
高分子金属錯体中の電荷移動は電荷の異なる状態での金属中心間の「電子ホッピング」によってもたらされる。電荷移動は拡散モデルを用いて数学的に記載されることが可能である。金属中心の電荷の状態の変化及びポリマー鎖全体にわたる電荷移動に関連する高分子金属錯体の酸化又は還元では、システム全体の電気的中性を維持するために、高分子を取り囲む電解溶液中に存在する電荷補償対イオンの高分子中への浸透が、或いは高分子からの電荷補償対イオン放出が付随して起こる。
【0038】
高分子金属錯体において電荷の異なる状態で金属中心が存在することが、「混合原子価」錯体又は「部分酸化」錯体と呼ばれる所以である。
【0039】
模範的なポリ−[Ni(CHO−Salen)]の金属中心は以下の3つの電荷の状態の一つであり得る。
Ni2+−中性状態;
Ni3+−酸化状態;
Ni−還元状態;
【0040】
この高分子が中性状態(図3a)の場合、そのモノマーフラグメントは帯電しておらず、金属中心の電荷はリガンドの電荷の状況によって補正される。この高分子が酸化状態(図3b)の場合、そのモノマーフラグメントはプラス電荷を有し、この高分子が還元状態の場合、そのモノマーフラグメントはマイナス電荷を有する。この高分子が酸化状態の場合、高分子の空間(体積)電荷を中和するため、電解質陰イオンが重合体構造中へ導入される。この高分子が還元状態の場合、正味荷電の中和が陽イオンの導入によってもたらされる(図2参照)。本発明の電極においては、酸化状態の高分子金属錯体を正極の充電状態、還元状態を負極の充電状態として利用できるので、正・負極の双方に用いることができる。
【0041】
このように本発明の方法であれば、薄く均一な遷移金属の高分子錯体化合物を導電性多孔質材料表面により効率的に被覆可能であり、つまり膜厚に対して表面積を大きくすることがより効率的に可能となり、その結果、本方法により作成された電極はアニオン、カチオンの膜に対する単位体積あたりのドープ、脱ドープの割合が大きくなり、レート特性やサイクル特性の向上を図ることができ、高出力特性を有する電気化学素子用電極となる。
【0042】
以下に本発明の方法により製造された電気化学素子用電極を用いた電気化学素子について説明する。
【0043】
(二次電池)
二次電池は以下のようにして作成することができる。リチウム二次電池の場合は、電解液としてリチウム塩を溶質とした非水系電解液を用いる。そして、正極として本発明の製造方法による電極を用い、負極としてリチウム金属、またはリチウムを吸蔵、放出する炭素などリチウムを吸蔵、放出できる電極材料を用いる。また、負極に本発明の電極材料を用い、正極にLiCoOなどのリチウム金属酸化物を用いて二次電池を作成することもできる。いずれの場合も、出力特性、エネルギー密度が向上する。
【0044】
また、プロトン電池を形成する場合は、電解液としてプロトンを有する酸性水溶液を用いる。そして、正極に本発明の電極を用い、負極はキノキサリン系ポリマー等のプロトン電池の負極を用いる。以上のプロトン電池はエネルギー密度が高い。
【0045】
(電気二重層キャパシタ)
電気二重層キャパシタは次のようにして作製することができる。電解液としては、前記の非水系を用いることができる。正極として本発明の製造方法による電極を用い、負極として活性炭などの電気二重層容量を有する電極を用いた場合、この電気二重層キャパシタはエネルギー密度が向上する。また、正極として電気二重層容量を有する電極を用い、負極として本発明の負極を用いた場合も同様にエネルギー密度が向上する。
【0046】
(電気化学キャパシタ)
電気化学キャパシタは次のようにして作製することができる。電解液としては、リチウム塩、第4級アンモニウム塩又は第4級ホスホニウム塩を溶質とした非水系電解液を用いる。正極として本発明の製造方法による電極を用い、負極として酸化還元反応応答性を有するポリチオフェン等の導電性高分子を用いた場合や、正極として前記の導電性高分子、または酸化ルテニウムなどの金属酸化物を用い、負極として本発明の負極を用いた場合、エネルギー密度が向上する。さらに、本発明の製造方法による高分子錯体電極は、正、負極の双方に用いることができるので、両極に本発明の電極を用いることができ、高いエネルギー密度を有する電気化学キャパシタを得ることができる。
【実施例】
【0047】
次に、本発明の一実施の形態に係る電気化学素子用電極を有する電気化学素子の製造工程について説明する。
【0048】
本発明により製造された電気二重層コンデンサは図4に示すように、扁平容器状の金属製ケース1及びカバー2と、活性炭電極4と、両活性炭電極4間に介挿されたセパレータ5と、ケース1及びカバー2の周囲を密封する封口ガスケット6とを備えており、このような、本発明の電気二重層コンデンサの製造方法は、以下のとおりである。
【0049】
まず第一に、活性炭繊維を織って布状にしたものを活性炭電極4として用い、この活性炭電極4を重合性モノマー溶液に浸漬して、その後引き上げ、重合性モノマー溶液の溶媒を例えば乾燥処理によって除去する。溶媒を除去すると、活性炭の吸着能によって重合性モノマーは付着した状態となり、容易に脱離しない状態となる。そこで、本活性体電極4に電解液を注液し含浸させた上で、セパレータ5を介して重ね合わせケース1上にカバー2を嵌合し、ケース1を封口ガスケット6の周囲にかしめることで内部を密封する。次に、電気化学素子の外部電極よりパルス電圧を印加して、重合性モノマーの電解重合を行う。このような電解重合を行うことにより、活性炭電極表面で導電性ポリマーが形成される。この際、導電性ポリマーとなる重合性モノマーは電極表面に付着した状態であるため、電解重合の際に印加した電気エネルギーが効率よく重合反応に消費される。このため、必要な厚さの導電性ポリマーを形成するための電気エネルギーを最小のものとすることができるとともに、重合時間も短いものとすることができる。
【0050】
本発明の電気化学素子の製造方法において使用される導電性多孔質材料、重合性モノマー溶液、電解重合条件、電解液、導電性ポリマー層については、上記電気化学素子用電極の製造方法における条件と同等である。
【0051】
なお、本発明の電気化学素子の製造方法において使用されるセパレータとしては、厚さ0.05〜0.1mmのポリエチレン又はポリプロピレン等のマイクロポーラスフィルムや不織布を用いると良い。
【0052】
このようにして本発明の方法により製造された電気二重層コンデンサは、遷移金属の高分子錯体化合物が導電性多孔質材料表面に形成された膜からなる電極として形成されているため、そのまま電池やキャパシタ等のデバイスの構成要素として用いることができる。よって、遷移金属の高分子錯体化合物を含有する、出力特性に優れ、エネルギー密度の向上した電気化学素子用電極を簡便且つ短工程で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】高分子金属錯体の積層状態を示す概略図である(a−酸化状態、b−還元状態)。
【図2】a)は化学吸着によって電極表面に結合した酸化状態の高分子金属錯体を示す概略図であり、b)は化学吸着によって電極表面に結合した還元状態の高分子金属錯体を示す概略図である。
【図3】a)は高分子金属錯体が中性状態である場合の概略図であり、b)は高分子金属錯体が酸化状態である場合の概略図である。
【図4】本発明により製造された電気二重層コンデンサの断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
比表面積が100〜3000m/g、平均細孔直径0.4nm以上100nm以下の範囲の導電性多孔質材料の表面に重合性モノマーを吸着させ、
さらに、前記導電性多孔質材料を電極として電解液中でパルス電圧を印加することにより電解重合を行って、前記重合性モノマーを積層し、
導電性多孔質材料の表面に導電性ポリマー層を形成したことを特徴とする電気化学素子用電極の製造方法。
【請求項2】
前記導電性多孔質材料を重合性モノマー溶液に浸漬した後に、重合性モノマー溶液の溶媒を除去することにより、導電性多孔質材料の表面に重合性モノマーを吸着させたことを特徴とする請求項1記載の電極の製造方法。
【請求項3】
重合性モノマー溶液が少なくとも2種類の酸化数を有する遷移金属の錯体モノマー溶液であり、電解重合によって形成された導電性ポリマーが、遷移金属の高分子錯体化合物を含むエネルギー蓄積レドックスポリマー層であり、これによりレドックス反応でエネルギー蓄積する請求項1又は2に記載の電極の製造方法。
【請求項4】
前記遷移金属の高分子錯体化合物が4座シッフ塩基の高分子金属錯体である請求項3記載の電極の製造方法。
【請求項5】
前記4座シッフ塩基の高分子金属錯体が、
構造式:
【化1】

で表される高分子錯体化合物からなり、
式中、
Yは
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

又は
【化7】

Meは遷移金属であり、
RはH又は電子供与基であり、
R’はH又はハロゲンであり、そして、
nは2乃至200000の整数である
請求項4記載の電極の製造方法。
【請求項6】
前記遷移金属MeがNi,Pd,Co,Cu及びFeから構成される群より選択される請求項5記載の電極の製造方法。
【請求項7】
前記RがCHO−,CO−,HO−及びCH−から構成される群より選択される請求項5記載の電極の製造方法。
【請求項8】
比表面積が100〜3000m/g、平均細孔直径0.4nm以上100nm以下の範囲の導電性多孔質材料の表面に重合性モノマーを吸着させる工程と、
重合性モノマーが細孔に吸着した導電性多孔質材料を用いて電気化学素子セルを形成する工程と、
該電気化学セルを電解液とともに外装ケースに収納する工程と、
外装ケースの外部電極よりパルス電圧を印加することにより前記電解液中で重合性モノマーの電解重合を行って、前記重合性モノマーを積層する工程により、
外装ケース内部で導電性多孔質材料の表面に導電性ポリマー層を形成したことを特徴とする電気化学素子の製造方法。
【請求項9】
前記導電性多孔質材料を重合性モノマー溶液に浸漬した後に、重合性モノマー溶液の溶媒を除去することにより、導電性多孔質材料の表面に重合性モノマーを吸着させたことを特徴とする請求項8記載の電気化学素子の製造方法。
【請求項10】
重合性モノマー溶液が少なくとも2種類の酸化数を有する遷移金属の錯体モノマー溶液であり、電解重合によって形成された導電性ポリマーが、遷移金属の高分子錯体化合物を含むエネルギー蓄積レドックスポリマー層であり、これによりレドックス反応でエネルギー蓄積する請求項8又は9に記載の電極の製造方法。
【請求項11】
前記遷移金属の高分子錯体化合物が4座シッフ塩基の高分子金属錯体である請求項10記載の電極の製造方法。
【請求項12】
前記4座シッフ塩基の高分子金属錯体が、
構造式:
【化8】

で表される高分子錯体化合物からなり、
式中、
Yは
【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

又は
【化14】

Meは遷移金属であり、
RはH又は電子供与基であり、
R’はH又はハロゲンであり、そして、
nは2乃至200000の整数である
請求項11記載の電極の製造方法。
【請求項13】
前記遷移金属MeがNi,Pd,Co,Cu及びFeから構成される群より選択される請求項12記載の電極の製造方法。
【請求項14】
前記RがCHO−,CO−,HO−及びCH−から構成される群より選択される請求項12記載の電極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−546210(P2008−546210A)
【公表日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−515385(P2008−515385)
【出願日】平成17年6月10日(2005.6.10)
【国際出願番号】PCT/JP2005/011085
【国際公開番号】WO2006/131992
【国際公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(000228578)日本ケミコン株式会社 (514)
【出願人】(505109439)ゲン3 パートナーズ インコーポレイテッド (6)
【Fターム(参考)】