説明

電気接点及びその製造方法

【課題】 特に、NiX層を有する電気接点において、膜厚方向に異なる膜特性を有する電気接点及びその製造方法を提供することを目的としている。
【解決手段】 電気接点1は、NiP層2と、NiP層2の表面に貴金属層3を備えて構成される。NiP層2は、主層2aと、その上面2cに形成された表面層2bとの積層メッキ構造である。前記主層2aに含まれる元素Pの含有量は、前記表面層2bに含まれる元素Pの含有量に比べて多く、主層2aはアモルファス層であり、表面層2bは結晶層である。これにより、耐摩耗性を良好にできるとともに、AuやAg等の貴金属層3をNiP層2に重ねてメッキするときの密着性を良好にできる。あるいは、図1に示すNiP層2を用いた電気接点であれば、結晶で形成された表面層2bの半田付け性を良好にできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NiX層を備える電気接点及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
NiPは、接点材料として用いられる。また、元素Pの含有量を変えることで特性が変化し、電気接点として必要とされる特性(性能)を得るために元素Pの含有量が規制される。例えば下記の特許文献1ではNiPを電気接点の弾性層として使用している。
【0003】
ところで、従来では、元素Pの含有量を一定にしていた。特許文献2や特許文献3に記載されたメッキ装置は、電極の長手方向での電流密度のばらつきを抑え、メッキ付着量を均一とする発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−032708号公報
【特許文献2】特開昭62−188799号公報
【特許文献3】特開昭63−293200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、電気接点に用いられるNiPは元素Pの含有量が一定となるように制御されていたが、電気接点によっては元素Pの含有量を一定とすることで特性上問題が生じることがわかった。
【0006】
そこで本発明は上記従来の課題を解決するためのものであり、特に、NiX層を有する電気接点において、膜厚方向に異なる膜特性を有する電気接点及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、Ni−X(ただしXは、P、W、Bのうちいずれか1種以上)でメッキ形成されたNiX層を有する電気接点であって、元素Xの含有量が前記NiX層の厚さ方向に変化していることを特徴とするものである。これにより、本発明の電気接点によれば、膜厚方向に異なる膜特性を有するNiX層を備えることができる。
【0008】
本発明では、前記元素Xの含有量が高い領域はアモルファス層で、前記元素Xの含有量が低い領域は結晶層で形成されている構成にできる。
【0009】
例えば、前記NiX層は、前記アモルファス層と、前記アモルファス層の上下面の少なくとも一方に前記結晶層とを備えて形成されている構成にできる。これにより、耐摩耗性に優れるとともに半田付け性やAu,Ag等の貴金属層との密着性を良好にできる。
【0010】
あるいは、前記NiX層は、下から、下層、中間層、及び上層の順で形成され、前記下層及び前記上層が、前記アモルファス層で形成され、前記中間層が前記結晶層で形成されている構成にできる。結晶層はアモルファス層より高速でメッキ形成できるので、結晶の中間層を設けることで、NiX層を高速でメッキ形成できる。また、積層メッキ構造であるときNiX層と他層との間の元素拡散を適切に抑制できる。
【0011】
また本発明では、前記電気接点は、弾性接点であり、前記NiX層は、アモルファスで形成されており、弾性変形時に引張応力が作用する表層側は、それ以外の領域よりも元素Xの含有量が高くなっている構成にもできる。これにより、折り曲げ性を良好にでき弾性変形部の損傷を抑制でき電気接点の長寿命化を図ることができる。
【0012】
また本発明では、前記XはPであることが好ましい。
また本発明は、Ni−X(ただしXは、P、W、Bのうちいずれか1種以上)でメッキ形成されるNiX層を有する電気接点の製造方法であって、
前記NiX層を電解メッキ法にてメッキ形成するとき、電流密度を変化させて、元素Xの含有量を前記NiX層の厚さ方向に変化させることを特徴とするものである。
【0013】
これにより簡単且つ適切に、NiX層の元素Xの含有量を厚さ方向に変化させることができる。
【0014】
本発明では、メッキ槽に設けられた陽極と、陰極である基板表面に設けられた前記電気接点の形成領域との間の距離を変えて、前記電流密度を変化させることが好ましい。
【0015】
あるいは、本発明では、メッキ槽に設けられた陽極と、陰極である基板表面に設けられた前記電気接点の形成領域との間に開孔を有するマスク板を配置し、開孔径を変化させて、前記電流密度を変化させることが好ましい。
【0016】
または、本発明では、メッキ槽に複数の陽極を配置し、各陽極に個別に電流密度を調整可能に整流器を接続し、陰極である基板表面に設けられた前記電気接点の形成領域に対向する前記陽極を変化させて、前記電流密度を変化させることが好ましい。
上記により簡単且つ適切に電流密度を変化させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、NiX層を備える電気接点において、NiX層の厚さ方向にX成分含有量を自由に制御することができ、膜厚方向に膜特性が異なるNiX層を有することができる。
【0018】
また本発明の電気接点の製造方法によれば簡単且つ適切に電流密度を変化させることができ、簡単にNiX層の元素Xの含有量を厚さ方向に変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1実施形態の電気接点の断面図、
【図2】第2実施形態の電気接点の部分断面図、
【図3】第3実施形態の電気接点の断面図、
【図4】接続装置の部分断面図、
【図5】図4に示す接続装置の接触子付近を示す拡大断面図、
【図6】図5に示す接触子の平面図、
【図7】電気接点の形成領域を備える基板の部分平面図、
【図8】Ni−Pにおいて、電流密度とP含有量との関係を示すグラフ、
【図9】メッキ槽内の陽極の配置(第1の実施形態)を示す概略図、
【図10】メッキ槽内の陽極の配置(第2の実施形態)を示す概略図、
【図11】マスク板を配置したメッキ層内の配置(第3の実施形態)を示す概略図、
【図12】図11におけるマスク板の平面図、
【図13】メッキ槽内の陽極電極の配置(第4の実施形態)を示す概略図、
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明の第1実施形態における電気接点の断面図、図2は、本発明の第2実施形態における電気接点の部分断面図、図3は、本発明の第3実施形態における電気接点の断面図、である。
【0021】
図1に示す電気接点1は、メッキされたNiP層2と、NiP層2の表面にメッキされた貴金属層3を備えて構成される。
【0022】
図1に示すように、NiP層2は、主層2aと、その上面2cに形成された表面層2bとの積層メッキ構造である。
【0023】
主層2aの膜厚は、0.01〜6μm程度であり、表面層2bの膜厚は、0.01〜3μm程度である。ただし、主層2aは表面層2bに比べて十分に厚い膜厚で形成されることが好ましい。
【0024】
図1に示す実施形態では、前記主層2aに含まれる元素Pの含有量は、前記表面層2bに含まれる元素Pの含有量に比べて多い。したがって元素Pの含有量はNiP層2の厚さ方向に変化している。
【0025】
図1に示す実施形態では、主層2aの元素Pの含有量は8〜12質量%程度であり、表面層2bの元素Pの含有量は1〜7質量%程度である。これにより、主層2aはアモルファス層となり、表面層2bは結晶層となる。
【0026】
Ni−Pにおけるアモルファスと結晶との違いは、特性として例えば次のような違いが生じる。
【0027】
特性 結晶 : アモルファス
硬度 高い : 低い
ヤング率 低い : 高い
引張強さ 低い : 高い
熱膨張係数 高い : 低い
耐摩耗性 低い : 高い
磁気 磁性 : 非磁性
比抵抗 低い : 高い
抵抗温度係数 大 : 小
耐酸性 劣 : 良
耐アルカリ性 良 : 普通
耐食性: 良 : 優
半田付け性 良 : 悪
【0028】
図1に示す実施形態では、NiP層2の主層2aをアモルファス層とし、表面層2bを結晶層とした。これにより、耐摩耗性を良好にできるとともに、AuやAg等の貴金属層3をNiP層2に重ねてメッキするときの密着性を良好にできる。
【0029】
また図1には図示しないが、貴金属層3をNiP層2の下面側に設けるときは、下から、貴金属層3、結晶層(表面層2bと同じ)、主層2aの順に積層メッキすればよい。当然、前記貴金属層3をNiP層2の上下面の双方に形成する形態でもよい。
【0030】
あるいは、図1に示すNiP層2を用いて形成された電気接点であれば、結晶で形成された表面層2bの半田付け性を良好にできる。
【0031】
次に図2に示す実施形態の電気接点4は、下から下層5a、中間層5b及び上層5cが積層メッキされたNiP層5を備える。下層5a及び上層5cに含まれる元素Pの含有量は、中間層5bに含まれる元素Pの含有量よりも多い。よって、元素Pの含有量はNiP層5の厚さ方向に変化している。前記下層5a及び上層5cは、元素Pの含有量が10〜30質量%程度であり、中間層5bの元素Pの含有量は、2〜5質量%程度である。これにより、下層5a及び上層5cはアモルファス層となり、中間層5bは結晶層となる。
【0032】
後述の製造方法で説明するように、元素Pの含有量を少なくすると、高速でのメッキが可能になる。よって図2のように元素Pの含有量が低い中間層5bを設けることで、NiP層5全体を元素Pの含有量が高いアモルファスで形成するよりも高速メッキが可能になる。なお中間層5bの膜厚は特に限定されるものでないが、下層5a及び上層5cより膜厚を厚く形成するとより効果的に高速メッキが可能になる。
【0033】
また図2に示すように、NiP層5の他層6との接する下層5aがアモルファス層であることで、他層6との間で元素拡散が生じるのを効果的に抑制することが出来る。
【0034】
次に図3に示す実施形態に示す電気接点7は弾性接点であり、NiP層8を備えている。NiP層8は弾性を発揮させるべく全体がアモルファス構造であると好適である。よってNiP層8の元素Pの含有量は比較的高くなっている。例えば図3でのNiP層8は第1層8aと第2層8bとの積層メッキ構造であるが、第2層8bの元素Pの含有量は、第1層8aの元素Pの含有量に比べて多くなっている。これにより第2層8bのヤング率及び引張強さが、第1層8aよりも大きくなる。第2層8bは、弾性接点である電気接点7の弾性変形時に引張応力が作用する表面側であるので、電気接点7が弾性変形したときにクラックが生じにくくなる。よって図3の実施形態によれば、強靭なバネ性能を備えるとともに弾性変形時にクラック等の損傷を受けにくい電気接点7にできる。
【0035】
図3において、NiP層8が非変形時から上下方向に弾性変形可能とされ、前記NiP層8の両側に弾性変形時における引張応力が作用するとき、NiP層8を下から第2層8b、第1層8a及び第2層8bの順に積層することが好適である。
【0036】
また図3において、NiP層8は2層より多くてもよいが、その場合でも、弾性変形時に引張応力が作用する表面側での元素Pの含有量がそれ以外の領域での元素Pの含有量より多くなっている。
【0037】
また図3において、第1層8aの下層側における元素Pの含有量を低くして結晶層としてもよい。例えば、NiP層8の一方の面側から他方の面側に向けて、元素Pの含有量が1質量%程度から13質量%程度にまで段階的あるいは連続的に変化するように調整することもできる。これによりNiP層8の一方の側は結晶層に他方の側はアモルファス層になるが、NiP層8全体をアモルファス構造としたほうが、NiP層8全体に効果的に弾性機能を持たせることができ好適である。
【0038】
弾性接点としての一例を以下に示す。
図4に示す接続装置9は、基台10を有している。基台10の平面形状は例えば四角形状であり、基台10の4辺のそれぞれにはほぼ垂直に立ち上がる側壁部10aが形成されている。4辺の側壁部10aで囲まれた領域は凹部であり、その底部10bの上面が支持面12である。支持面12の上には、接続シート15が設置されている。接続シート15は、例えば、可撓性の基材シート16の表面に複数の接触子20が設けられた構成である。
【0039】
図5に示すように、基材シート16には、多数のスルーホール16aが形成され、それぞれのスルーホール16aの内周面には導電層17がメッキなどの手段で形成されている。基材シート16の表面には、導電層17に導通する表側の接続ランド17aが形成され、基材シート16の裏面には、導電層17に導通する裏側の接続ランド17bが形成されている。
【0040】
接触子20は、図3に示すNiP層8を有して形成される。それぞれの接触子20は、基材シート16に設置された後に、例えば、外力が与えられて立体形状に形成される。このとき、加熱処理で内部の残留応力が除去され、接触子20は立体形状で弾性力を発揮できるようになる。
【0041】
図5に示すように、基材シート16の裏面側では、接続ランド17bに個別に接続する導電性材料のバンプ電極18が形成されている。図4に示すように、接続シート15が基台10の底部10bの表面である支持面12に設置されると、バンプ電極18が、支持面12に設けられた導電部に接続される。
【0042】
支持面12上での接触子20の配列ピッチは、例えば2mm以下であり、あるいは1mm以下である。接触子20の外形寸法の最大値も2mm以下であり、あるいは1mm以下である。
【0043】
なお上記の接続シート15の構成は一例である。例えば、図5では基材シート16にスルーホール16aが設けられているが、スルーホール16aが形成されず、基材シート16の表面に接触子20と導通する配線パターンが形成された構成でもよい。
【0044】
図5と図6に示すように、接触子20は、支持部21と弾性腕22が一体に連続して形成されている。弾性腕22は例えば螺旋形状に形成されており、弾性腕22の巻き始端である基部22aが、支持部21と一体化されている。弾性腕22の巻き終端である先端部22bは、螺旋のほぼ中心部に位置している。図5に示す形態では、接触子20を構成している支持部21が接続ランド17aに接続され、弾性腕22は、先端部22bが支持面12から離れるように立体成形されている。
【0045】
なお、接触子20は立体成形されず平面形状であってもよい。また弾性腕22は螺旋形状であることに限定されない。弾性腕22は帯状(直線状)や湾曲形状等であってもよい。また弾性腕22は片側だけが支持部21に支持されているが両側が支持部に支持された構成であってもよい。
【0046】
図4に示すように、接続装置9には、電子部品40が設置される。電子部品40は、ICパッケージなどであり、ICベアチップなどの各種電子素子が本体部41内に密閉されている。本体部41の底面41aには、複数の突出電極42が設けられており、それぞれの突出電極42が本体部41内の回路に導通している。この実施の形態の電子部品40は、突出電極42が球形状である。また、突出電極42は裁頭円錐形状などであってもよい。
【0047】
接続装置9は、例えば、電子部品40の検査用であり、図4に示すように、被検査物である電子部品40が、基台10の凹部内に装着される。このとき、電子部品40は、本体部41の底面41aに設けられた個々の突出電極42が接触子20の上に設置されるように位置決めされる。基台10の上には図示しない押圧用の蓋体が設けられており、この蓋体を基台10上に被せると、この蓋体により電子部品40が矢印F方向へ押圧される。この押圧力により、それぞれの突出電極42が弾性腕22に押し付けられ、立体形状の弾性腕22が押しつぶされて、突出電極42と弾性腕22とが個別に導通させられ、電子部品40の本体部41内の回路が断線しているか否か、本体部41内の回路の動作試験が行われる。
【0048】
前記接触子20は全体が図3に示すNiP層8で形成されていてもよいし、他層(例えばCuやCu合金)との積層メッキ構造であってもよい。本実施形態では、弾性変形時に引張応力が作用するNiP層8の表面側に元素Pの含有量が多い第2層8bを設けた接触子20の構造としている。
【0049】
なお本実施形態のNiP層を備える電気接点の構造は、図1ないし図3の形態に限定されるものでない。本実施形態では、電気接点の用途の違いによって求められる性能が異なるため、その求められる性能に合わせて、NiP層の元素Pの含有量を厚さ方向に変化させることが出来る。
【0050】
また本実施形態では、元素Pの含有量が段階的あるいは連続的に変化している。
また上記ではNiP層で説明したが、NiBやNiW、あるいはP、B、Wから2種以上選択したNi合金層であっても上記と同様の効果を奏することが出来る。
【0051】
本実施形態の電気接点の製造方法について説明する。
まず電気接点を電解メッキする形成面を有する基板35を用意する。基板35の表面にレジスト層36を塗布し、前記レジスト層36に各電気接点の形成領域36aに抜きパターンを形成する。図7に示す斜線部分が残されるレジスト層36の領域である。図7では電気接点の形成領域36aを多数配置している。図7では形成領域36aを円形状としているが、製造する電気接点の形状にしたがって形成領域36aの形状を種々変更する。
【0052】
本実施形態では、Ni−X(ただしXは、P、W、Bのうちいずれか1種以上)合金を電解メッキ法にてメッキするときに電流密度を変化させて、NiX層の元素Xの含有量を厚さ方向に変化させる。
【0053】
例えば、NiP合金メッキにおいて、電流密度(A/dm2)に対するP含有量(質量%)は図8に示す相関関係にあり、P含有量は電流密度が小さいほど大きくなる。
【0054】
また、NiP合金メッキの場合、メッキ浴の組成は以下のものとすることができる。
NiSO4・6H2O 210(g/L)
NiCl2・6H2O 56(g/L)
Na2HPO3・5H2O 70(g/L)
【0055】
この場合、メッキ浴は液温30℃、pH2.30±0.1、Ni2+(ニッケルイオン)濃度30.0±1.0(g/L)、HPO32-(亜リン酸イオン)濃度35±1.0(g/L)の範囲となるように管理することが好ましい。
【0056】
図9に示す実施形態では、前記基板35をメッキ槽51内に配置する。基板35は図9の矢印方向に移動可能に支持されている。
【0057】
図9に示すようにメッキ槽51内に配置される陽極53,53は固定側であり、前記陽極53,53は前記基板35の移動方向に対して傾斜して配置されている。
【0058】
図9の実施形態では、メッキ槽51の左側の入口からメッキ浴に入れられ、右側の出口から排出される。
【0059】
陽極53には整流器(図示せず)が接続されて電流が制御される。陽極53としては、ニッケルを用いることが好ましい。また基板35の移動速度は特に制限はないが、1〜10(m/秒)の範囲が好ましい。
【0060】
図9に示すように、陽極53を配置することにより、基板35を矢印方向へ移動させると、基板35に設けられた各形成領域36aと陽極53との間の距離が徐々に大きくなり、各形成領域36aに作用する電流密度は、前記基板35の移動に伴って略直線的に減少する。よって、基板35の各電気接点の形成領域36aには、入口から出口にかけて図中の矢印の方向に移動する間に、積層方向にX含有量が変化した(増加した)NiX層をメッキ形成できる。
【0061】
図9では、基板35の移動方向に対して、基板35と陽極53との間の距離が大きくなるように陽極を傾斜させているが、基板35と陽極53との間の距離が小さくなるように陽極53を配置することもできる。あるいは、基板35の移動方向に対して、基板35と陽極53との間の距離が途中まで大きくなり途中から小さくなる形態、基板35と陽極53との間の距離が途中まで小さくなり途中から大きくなる形態等、必要とするNiX層の形態に合わせて変更できる。
【0062】
図9に示す形態では、陽極53の傾斜角が基板35の移動方向に対してほぼ一定になっているが、図10のように、陽極53の傾斜角度を途中から変えることもできる。
【0063】
図10では、基板35の移動方向の途中から出口まで基板35の移動方向に対する陽極53の傾斜角度が急激に大きくなっている。
【0064】
図10では、各形成領域36aにおいてメッキ形成されるNiX層の元素Xの含有量を下面側から途中までほぼ一定にでき(あるいは増加率が非常に小さく)、途中から上面まで急激に多くできる。なお傾斜角度が大きくなる部分は、陽極53の基板移動方向における出口側に限らず、入口側、途中位置であってもよく、傾斜角度が複数回、異なるように設定することも可能である。
【0065】
図9、図10に示す実施形態では、陽極53は、基板35の移動方向に対して傾斜しているので、各形成領域36aにメッキ形成されるNiX層の元素Xの含有量は連続的に変化しやすい。一方、陽極53を基板35の移動方向に対して階段状に配置することで、前記NiX層の元素Xの含有量を段階的に変化させることが出来る。
【0066】
なお、図9、図10では、いずれも2つの陽極53,53を備え、前記陽極53,53の間に陰極である基板35を介在させているが、これにより基板35の両面にNiX層を備える電気接点をメッキ形成できる。当然、陽極53を一つとし、基板35の片面にのみ電気接点をメッキ形成することもできる。以下、図11、図13の実施形態においても同様である。
【0067】
次に、図11に示す実施形態では、陽極53は基板35に対して平行に配置されているが、陰極である基板35と陽極53との間に複数の開孔55を有するマスク板54を配置している。このマスク板54は、例えば、図12の平面図に示されるように、開孔径の異なる複数の開孔55が基板35の移動方向に沿って並んで設けられている。
【0068】
例えば、図12に示されるように、各開孔55の開孔径が基板35の移動方向における入口側から出口側に向かって順次小さくなるように形成されたマスク板54を用い、前記基板35を矢印方向に移動させると、基板35表面に形成された電気接点の各形成領域36aに対する電流密度が前記基板35の移動に伴って徐々に小さくなるので、各形成領域36aにメッキ形成されたNiX層の元素Xの含有量を厚さ方向に変化させる(図12の形態では増加させる)ことができる。
【0069】
図13に示す実施形態では、陽極53は基板35の移動方向に沿って複数に分割された分割陽極53a〜53fにされている。分割陽極53a〜53fは、それぞれ整流器56a〜56fに接続されて電流が制御され、各分割陽極53a〜53fにおいて、個別に電流密度を調整可能となっている。
【0070】
図13に示すように陰極側である基板35を矢印方向に移動させると、各接点電極の形成領域36aに対向する分割陽極53a〜53fが次々と変わる。このため、基板35の移動に伴って、各形成領域36aに作用する電流密度を変化させることができ、各形成領域36aにメッキ形成されるNiX層の元素Xの含有量を厚さ方向に変化させることが出来る。
【0071】
以上の製造方法は、図9ないし図13に示されるように、NiX層の連続メッキ製造法であるが、前記NiX層をバッチ式メッキによっても製造することができる。例えば、陰極である基板をメッキ浴中に配置し、陽極に与える電流を経時的に増減して変化させることで元素Xの含有量が厚さ方向に変化したNiX層を製造できる。また、複数のメッキ槽を用意し、例えば、図9の形態を利用して各メッキ槽に配置される陽極を、陰極である基板と異なる距離になるように配置し、前記基板を順に各メッキ槽に浸すことで、元素Xの含有量が厚さ方向に変化したNiX層を製造できる。
【符号の説明】
【0072】
1、4、7 電気接点
2、5、8 NiX層
3 貴金属層
9 接続装置
10 基台
10a 基台の側壁部
10b 基台の底部
12 支持面
15 接続シート
16 基材シート
16a スルーホール
17 導電層
17b 接続ランド
18 バンプ電極
20 接触子
21 支持部
22 弾性腕
35 基板
36 レジスト層
36a 形成領域
40 電子部品
41 電子部品の本体部
42 突出電極
51 メッキ槽
53 陽極
53a〜53f 分割陽極
54 マスク板
55 開孔
56a〜56f 整流器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni−X(ただしXは、P、W、Bのうちいずれか1種以上)でメッキ形成されたNiX層を有する電気接点であって、元素Xの含有量が前記NiX層の厚さ方向に変化していることを特徴とする電気接点。
【請求項2】
前記元素Xの含有量が高い領域はアモルファス層で、前記元素Xの含有量が低い領域は結晶層で形成されている請求項1記載の電気接点。
【請求項3】
前記NiX層は、前記アモルファス層と、前記アモルファス層の上下面の少なくとも一方に前記結晶層とを備えて形成されている請求項2記載の電気接点。
【請求項4】
前記結晶層の前記アモルファス層との反対側の面には最表層として貴金属層が形成されている請求項3記載の電気接点。
【請求項5】
前記NiX層は、下から、下層、中間層、及び上層の順で形成され、前記下層及び前記上層が、前記アモルファス層で形成され、前記中間層が前記結晶層で形成されている請求項2記載の電気接点。
【請求項6】
前記電気接点は、弾性接点であり、前記NiX層は、アモルファスで形成されており、弾性変形時に引張応力が作用する表層側は、それ以外の領域よりも元素Xの含有量が高くなっている請求項1記載の電気接点。
【請求項7】
前記XはPである請求項1ないし6のいずれか1項に記載の電気接点。
【請求項8】
Ni−X(ただしXは、P、W、Bのうちいずれか1種以上)でメッキ形成されるNiX層を有する電気接点の製造方法であって、
前記NiX層を電解メッキ法にてメッキ形成するとき、電流密度を変化させて、元素Xの含有量を前記NiX層の厚さ方向に変化させることを特徴とする電気接点の製造方法。
【請求項9】
メッキ槽に設けられた陽極と、陰極である基板表面に設けられた前記電気接点の形成領域との間の距離を変えて、前記電流密度を変化させる請求項8記載の電気接点の製造方法。
【請求項10】
メッキ槽に設けられた陽極と、陰極である基板表面に設けられた前記電気接点の形成領域との間に開孔を有するマスク板を配置し、開孔径を変化させて、前記電流密度を変化させる請求項8記載の電気接点の製造方法。
【請求項11】
メッキ槽に複数の陽極を配置し、各陽極に個別に電流密度を調整可能に整流器を接続し、陰極である基板表面に設けられた前記電気接点の形成領域に対向する前記陽極を変化させて、前記電流密度を変化させる請求項8記載の電気接点の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−176863(P2010−176863A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−15111(P2009−15111)
【出願日】平成21年1月27日(2009.1.27)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】