説明

電気接点材料製造方法及び電気接点材料

【課題】 金属メッキの表面の凹凸形状を大きくすることができる電気接点材料製造方法及び電気接点材料を提供する。
【解決手段】 母材2に電機メッキを施す際、電気メッキの初期段階において過電流を流し、その後は通常値の電流を流して母材2に銀メッキを形成する。この処理として、まず過電流を流す漕である第1メッキ漕3aに、メッキに必要な量の母材2を巻き取って導入する。母材2が第1メッキ漕3aにセットされると、メッキ液4に浸された母材2と電極との間に過電流を流し、メッキ液4に浸されている母材2に銀メッキを形成する。続いて、第1メッキ漕3aで銀メッキが形成された部分が第2メッキ漕3bにセットされ、その母材と電極との間に通常値の電流が流され、先程の銀メッキに銀成分を積み重ねることで必要な厚みを有した銀メッキを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電気回路のスイッチング接点等に用いる電気接点材料製造方法及び電気接点材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気回路のスイッチング接点等に用いる電気接点材料としては、例えば特許文献1〜3に開示されるような焼結材の銀−グラファイト合金が広く使用されている。グラファイトは、元来、溶着性が殆ど無く、化学的に極めて安定であり、非常に高い潤滑作用を有している。従って、グラファイトを含有した銀−グラファイト合金は高い摺動性を有した材質となるため、銀−グラファイト合金を電気接点材料として用いれば、グリースやオイル等の潤滑剤を用いなくてもよいことから、銀−グラファイト合金はグリースレス摺動接点材料として使用される。
【0003】
ここで、焼結材を用いた場合、銀に含有できるグラファイトの量には限界がないが、銀に対するグラファイトの含有量が多くなると電気接点材料の強度が低くなり、強度に対してもろくなってしまう問題がある。従って、電気接点材料の強度的な面を考えた場合には、グラファイトを含有した金属を母材にメッキすることによって、グラファイト含有の電気接点材料を製造する手法がとられることがある。
【0004】
一般的に、メッキ式の電気接点材料の製造手順としては、まず銀含有液体の入ったメッキ漕の中にグラファイト粉末を混入して、そのメッキ液中に例えば銅等の母材を浸す。この状態で母材と電極との間に電圧を印加すると銀が母材に取り付くことになるが、この際に銀がグラファイトを取り込んで母材に付着することから、母材表面にはグラファイト含有の銀メッキが形成された状態となる。このグラファイト含有の銀メッキでは、メッキ表面に露出するグラファイト量によって潤滑効果の程度が決まってくる。
【特許文献1】特開2002−53919号公報
【特許文献2】特開1996−13065号公報
【特許文献3】特開昭63−7345号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、この種のグラファイト含有の銀メッキでは、グラファイトは銀に取り込まれた状態でメッキ上に付着するため、メッキ表面上の凹凸に入り込んで取り付くことになる。従って、銀メッキの表面凹凸形状が小さいと、その分だけ取り付くグラファイト量も少なくなり、充分な表面グラファイト面積比(メッキ表面に対するグラファイト面積)が得られず、充分な耐摩耗性を確保できない問題があった。また、グラファイトは銀メッキに引っ掛かって取り付いているため、メッキ表面の凹凸形状が小さいと、その引っ掛かり具合が弱いことから、グラファイトがメッキ表面から脱落し易く、このことも耐摩耗性低下に問題を来していた。
【0006】
本発明の目的は、金属メッキの表面の凹凸形状を大きくすることができる電気接点材料製造方法及び電気接点材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明では、メッキ液中に浸した母材と電極との間に電圧を印加して電気メッキを施し、前記メッキ液中の金属イオンを前記母材に付着させて前記母材の表面にグラファイト含有の金属メッキを形成する電気接点材料製造方法において、前記母材と前記電極との間に電圧を印加する際、その電圧印加過程で過電流を流すことを要旨とする。
【0008】
この発明によれば、電気メッキに際して母材及び電極の間に過電流を流すと、その過電流印加期間はメッキ速度が速くなり、金属イオンが母材に付着する際にその付着に偏りが出てくることから、金属メッキの表面の凹凸形状が大きくなり、金属メッキの表面形状が粗くなる。ところで、例えばメッキ液中にグラファイト粒子が混入された場合、そのグラファイト粒子は金属イオンが母材に付着する際、金属イオンに取り込まれた状態で母材に付着し、金属メッキの凹凸内に入り込んで金属メッキに取り付く。従って、金属メッキの表面の凹凸形状が大きくなれば、金属メッキ上のグラファイト量が多く取り付くため、金属メッキの表面グラファイト面積比が大きくなり、高い耐摩耗性が確保される。
【0009】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の発明において、前記過電流を流す期間は、前記電気メッキを開始してから一定期間内の初期段階であることを要旨とする。
この発明によれば、請求項1に記載の発明の作用に加え、電気メッキの初期段階に過電流を流すと、母材の表層(例えば一層目)には、大きな凹凸形状を有する金属メッキの層が形成された状態となる。従って、電気メッキの早い段階から凹凸形状の大きな金属メッキが形成されるため、金属メッキの層厚をそれほど厚くさせずに、表面凹凸の大きな金属メッキを形成することが可能となる。
【0010】
請求項3に記載の発明では、母材の表面に加工処理を施して予め粗くしておき、その後工程の段階でメッキ液中に浸した前記母材と電極との間に電圧を印加して電気メッキを施し、前記メッキ液中の金属イオンを前記母材に付着させて前記母材の表面に金属メッキを形成することを要旨とする。
【0011】
この発明によれば、母材の表面に加工処理を施して母材表面を予め粗くしておくので、その母材に電気メッキを施すと、金属メッキは母材の表面形状に沿って形成されるため、金属メッキの表面の凹凸形状が大きくなり、金属メッキの表面形状が粗くなる。ところで、例えばメッキ液中にグラファイト粒子が混入された場合、そのグラファイト粒子は金属イオンが母材に付着する際、金属イオンに取り込まれた状態で母材に付着し、金属メッキの凹凸内に入り込んで金属メッキに取り付く。従って、金属メッキの表面の凹凸形状が大きくなれば、金属メッキ上のグラファイト量が多く取り付くため、金属メッキの表面グラファイト面積比が大きくなり、高い耐摩耗性が確保される。
【0012】
請求項4に記載の発明では、メッキ液中に浸した母材と電極との間に電圧を印加して電気メッキを施し、前記メッキ液中の金属イオンを前記母材に付着させて前記母材の表面に金属メッキを形成し、当該金属メッキを形成した前記母材にエッチングを施して前記金属メッキの表面を溶解し、前記エッチング後の前記母材に前記電気メッキを再度施して、前記エッチング後の前記母材の表面に前記金属メッキを再度形成することを要旨とする。
【0013】
この発明によれば、1回目の電気メッキの後にエッチングを施すと、金属メッキの表面が溶解してメッキ表面形状が粗い状態となる。そして、エッチング後の母材に電気メッキを再度施すと、表面が粗れた状態のメッキ表面形状に金属イオンが取り付いて金属メッキが形成されるため、エッチング後の金属メッキはその表面の凹凸形状が大きい状態で形成される。ところで、例えばメッキ液中にグラファイト粒子が混入された場合、そのグラファイト粒子は金属イオンが母材に付着する際、金属イオンに取り込まれた状態で母材に付着し、金属メッキの凹凸内に入り込んで金属メッキに取り付く。従って、金属メッキの表面の凹凸形状が大きくなれば、金属メッキ上のグラファイト量が多く取り付くため、金属メッキの表面グラファイト面積比が大きくなり、高い耐摩耗性が確保される。
【0014】
請求項5に記載の発明では、請求項1〜4のうちいずれか一項に記載の発明において、前記メッキ液中にはグラファイト粒子が混入され、前記母材に前記電気メッキが施された際には、前記金属メッキが前記グラファイト粒子を含有した状態で前記母材の表面に形成されることを要旨とする。
【0015】
この発明によれば、請求項1〜4のうちいずれか一項に記載の発明の作用に加え、金属メッキ内には固体潤滑作用のあるグラファイト粒子が含有されているので、グラファイト含有の金属メッキの施された電気接点材料は、グリースレス摺動接点材料として使用することが可能となる。
【0016】
請求項6に記載の発明では、メッキ液中に浸した母材と電極との間に電圧を印加して電気メッキを施し、前記メッキ液中の金属イオンを前記母材に付着させて前記母材の表面に金属メッキを形成し、前記母材と前記電極との間に電圧を印加する際、その電圧印加過程で過電流を流して製造された電気接点材料であることを要旨とする。この発明によれば、請求項1と同様の作用が得られる。
【0017】
請求項7に記載の発明は、母材の表面に加工処理を施して予め粗くしておき、その後工程の段階でメッキ液中に浸した前記母材と電極との間に電圧を印加して電気メッキを施し、前記メッキ液中の金属イオンを前記母材に付着させて前記母材の表面に金属メッキを形成した電気接点材料であることを要旨とする。この発明によれば、請求項3と同様の作用が得られる。
【0018】
請求項8に記載の発明は、メッキ液中に浸した母材と電極との間に電圧を印加して電気メッキを施し、前記メッキ液中の金属イオンを前記母材に付着させて前記母材の表面に金属メッキを形成し、当該金属メッキを形成した前記母材にエッチングを施して前記金属メッキの表面を溶解し、前記エッチング後の前記母材に前記電気メッキを再度施して、前記エッチング後の前記母材の表面に前記金属メッキを再度形成した電気接点材料であることを要旨とする。この発明によれば、請求項4と同様の作用が得られる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、金属メッキの表面の凹凸形状を大きくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を具体化した電気接点材料製造方法及び電気接点材料の一実施形態を図1〜図9に従って説明する。
【0021】
(過電流印加処理)
図1は、電気メッキ装置1の概略構成を示す模式構成図である。電気メッキ装置1は、メッキしたい母材2をメッキ漕3内のメッキ液4に浸した状態で、同じくメッキ液4に浸した電極(図示略)とその母材2との間に直流電圧を印加することで母材2に直流電流を流し、母材2の表面に金属メッキを形成する装置である。このとき、母材2が陰極(マイナス)、電極が陽極(プラス)となり、メッキ液中の金属イオンが母材2に引き寄せられることによって、母材2に金属メッキが形成される。
【0022】
本例の電気メッキ装置1はメッキ漕3が中間の区画壁5によって2領域に区画され、電気メッキ時には母材2が第1メッキ漕3a、第2メッキ漕3bの順に各漕内のメッキ液4にそれぞれ浸される。本例の電気メッキ装置1は、母材2を先に潜らす第1メッキ漕3aで母材2に過電流を流し、母材2を後で潜らす第2メッキ漕3bで母材2に通常の電流を流して、母材2の表面に金属メッキを形成する処理を行う。
【0023】
母材2は、ロール状に巻かれてメッキ漕3の外部に設置されている。メッキ漕3の区画壁5及び一対の側壁6,7には、その下部に通し孔5a,6a,7aが貫設され、母材2はメッキに際して一方(図1に示す右側)の通し孔6aから第1メッキ漕3a内に導入され、区画壁5の通し孔5aを経由して、他方(図1に示す左側)の通し孔7aから第2メッキ漕3bの外部へ導出される。また、通し孔6a,7aから漏れ出たメッキ液4はメッキ漕3の下方にある貯留部8に一旦溜められ、そのメッキ液4はポンプ装置9によってメッキ漕3へ汲み上げられる。
【0024】
本例の電気メッキ装置1は、メッキ液4としてシアン化銀の溶融した溶液を用いるため、銅等の母材2の表面に金属メッキとして銀メッキ10(図2参照)を形成する。電気メッキ装置1で母材2に銀メッキ10を形成する際、メッキ液4には例えば粒径が1〜20μm程度のグラファイト粒子11の粉末(以下、グラファイト粒子と記す)が混入される。従って、メッキ処理時に銀成分が母材2に付着する際、銀とともに粉末のグラファイト粒子11も取り込まれ、図2(a)〜(c)に示すように銀メッキ10にはグラファイト粒子11が分散状態で含有した状態となる。なお、銀メッキ10が金属メッキに相当する。
【0025】
電気メッキ装置1で母材2上にグラファイト含有の銀メッキ10を形成する際、電気メッキの初期段階、つまり電気メッキ開始から一定期間内で過電流を流して銀メッキ10を形成する。この処理として、まずメッキに必要な量の母材2が順に巻き取られながら通し孔6aを介して第1メッキ漕3a内に導入される。第1メッキ漕3aに必要量の母材2がセットされるとその状態が保持され、第1メッキ漕3aに浸された電極(図示略)と母材2との間に過電流が流される。このとき、母材2に流される過電流の電流値は、通常の電流値(即ち、第2メッキ漕3bで母材2に流される電流値)に対して例えば3〜5倍の値に設定されている。
【0026】
電気メッキで母材2に過電流を流した場合、過電流印加期間はメッキ速度が速くなるため、銀成分が母材2に付着する際には偏った状態で母材2に付着することから、図2(a)に示すように銀メッキ10は表面10aに大きな凹凸形状を有した状態(表面10aが粗い状態)で母材2に形成される。このとき、銀は電気的な結合によって母材2に付着するが、メッキ液4中のグラファイト粒子11は銀が母材2に付着するにあたってその銀に取り込まれた状態で銀メッキ10に取り付き、銀メッキ10の表面凹凸に包まれた状態で銀メッキ10内に分散する。
【0027】
過電流を所定時間流した後、母材2に過電流を流す処理が停止され、続いて第1メッキ漕3aでメッキ処理を施した部分が通し孔5aを介して第2メッキ漕3bに導入される。第1メッキ漕3aでメッキ処理を施した部分が第2メッキ漕3bにセットされるとその状態が保持され、第2メッキ漕3bに浸された電極(図示略)と母材2との間に通常値の電流が流される。通常値の電流が母材2に所定時間流されると、過電流を流してできた銀メッキ10の層上に新たに銀成分が積み重なって積層し、最終的には図2(b)に示すように必要とする層厚の銀メッキ10が母材2に形成される。
【0028】
必要とする層厚の銀メッキ10が形成されると、母材2に通常値の電流を流す処理が停止され、続いて第2メッキ漕3bでメッキ処理を施した部分が通し孔7aから第2メッキ漕3bの外部に導出される。そして、過電流を流してから通常値の電流を流す電気メッキが、ロール状に巻かれた母材2の全箇所に銀メッキ10が形成されるまで繰り返し行われ、以上の処理によって製造された母材2が電気接点材料12として取り扱われる。
【0029】
ところで、電気メッキに際して通常の電流値で銀メッキ10を形成すると、表面凹凸がそれほど大きくない銀メッキ10が形成される。しかし、本例は電気メッキの初期段階で過電流を流して、表面凹凸の大きい銀メッキ10を母材2に予め形成してそこに通常値の電流で銀成分を付着させる。従って、通常の低い電流値で電気メッキを施す場合であっても、予め凹凸の大きい銀メッキ10に銀成分が積み重なっていくため、最終的にできる銀メッキ10の表面は大きな凹凸形状を有した状態となる。
【0030】
また、銀メッキ10内に含有されたグラファイト粒子11は、銀メッキ10の表面凹凸に包まれた状態で銀メッキ10に取り付くため、銀メッキ10の凹凸形状が大きければ、銀メッキ10に多量のグラファイト粒子が取り付いた状態であると言える。従って、本例は電気メッキの初期段階で母材2に過電流を付与する処理を行うことで、銀メッキ10の表面凹凸が大きく形成されているため、その分だけグラファイト粒子11が多く取り付いた状態となる。よって、銀メッキ10の表面グラファイト面積比が大きくなり、銀メッキ10の耐摩耗性を高くすることが可能となる。
【0031】
(母材表面加工処理)
図3は、母材2の表面2aを粗くする処理を行う際の斜視図である。銀メッキ10の表面凹凸を大きくする方法は電気メッキの初期段階で過電流を流す方法に代えて、母材2の表面2aを予め粗くする加工処理を施しておき、表面2aを粗くした母材2に後工程として電気メッキを施して、銀メッキ10の表面凹凸を大きくする方法もある。母材2の表面2aを予め粗くするには、例えばヤスリやショットブラスト等で粗くする例が挙げられるが、母材2の表面凹凸を粗くできるのであれば、その方法は特に限定されない。
【0032】
表面2aの粗い母材2に電気メッキを施すと、メッキ液4中の銀成分が母材2の表面2aに順次積み重なって銀メッキ10の層となるため、銀メッキ10は母材2の表面形状に沿った形状で形成される。従って、母材2の表面2aの凹凸が大きければ、母材2の表面2aにできる銀メッキ10も表面凹凸が大きい状態で形成される。よって、銀メッキ10の表面凹凸が大きければ、銀メッキ10に多量のグラファイト粒子11が取り付いた状態となり、表面グラファイト面積比が大きくなって、銀メッキ10の耐摩耗性を高くなる。
【0033】
(エッチング−再メッキ処理)
図4は、銀メッキ10を施した電気接点材料12をエッチングする際の説明図である。銀メッキ10の表面凹凸を大きくする方法は電気メッキの初期段階で過電流を流す方法や、母材2の表面2aを予め粗くしておく方法に限らず、銀メッキ10の施された電気接点材料12をエッチングし、それを再メッキする方法でもよい。なお、1回目の電気メッキで母材2に形成される銀メッキ10には、必ずしもグラファイト粒子11が含有される必要はなく、銀成分のみのメッキでもよい。
【0034】
この処理ではまず最初に、例えば通常値の電流を流す電気メッキによって母材2に銀メッキ10を形成し、表層に銀メッキ10を有する電気接点材料12を用意する。続いて、電気接点材料12にエッチング処理を施す。このエッチング処理としては、まず図4に示すように電気接点材料12をエッチング漕13内のエッチング溶液14に浸してその表面を溶かし、その後、マスクによるパターニング処理を行なって銀メッキ10に表面凹凸を形成する。これにより、銀メッキ10の表面10aは表面凹凸がそれほど大きくない図5(a)に示す状態から、表面凹凸が大きくなった図5(b)に示す状態となる。
【0035】
エッチング処理後、その電気接点材料12に電気メッキを再度施す。即ち、エッチング処理の施された電気接点材料12を電気メッキ装置1に再度セットし、この電気接点材料12とメッキ液4内の電極との間に直流電圧を印加して、電気接点材料12の表面に銀成分を積層させて銀メッキ10を再形成する。なお、この再メッキのメッキ条件(例えばメッキ時に付与する電流値)は、最初に行う電気メッキと同条件でもよいし、或いは異なっていてもよい。
【0036】
表面凹凸の大きい銀メッキ10に電気メッキを再度施すと、メッキ液4中の銀成分が銀メッキ10の表面10aに順次積み重なって積層状態となっていくため、再メッキ時の銀メッキ10はエッチング後の銀メッキ10の表面形状に沿った形状で形成される。従って、本例はエッチングで表面凹凸を粗くした銀メッキ10の表面に銀メッキ10を再メッキすることから、最終的な銀メッキ10の表層は図5(c)に示すように表面凹凸が大きくなった状態となる。よって、銀メッキ10の表面凹凸が大きければ、銀メッキ10に多量のグラファイト粒子11が取り付いた状態となり、表面グラファイト面積比が大きくなって、銀メッキ10の耐摩耗性を高くなる。
【0037】
(レーザ処理)
図6は、レーザ装置15の概略構成を示す模式構成図である。ところで、銀メッキ10を有する電気接点材料12に高温化処理(リフロー処理)を施して、銀メッキ10に含有されたグラファイト粒子11の定着性を高めてもよい。レーザ装置15は、高温化処理として加工物にレーザを照射することで加工物を溶融する装置である。レーザ装置15は、電気接点材料12を密閉状態で収容する処理室16と、処理室16内に取り付けられたレーザ照射部17と、処理室16を真空(非酸化雰囲気)に減圧する真空ポンプ18とを備えている。レーザ装置15は、レーザ照射部17を所定方向に往復動させる駆動機構19と、レーザ照射部17の往復動方向と直交する方向に加工物を搬送する搬送機構20とを備えている。
【0038】
続いて、レーザ装置15で電気接点材料12を溶融する手順を説明すると、レーザ処理を行う際には、メッキ処理後に所定面積の平板に切断された電気接点材料12がレーザ装置15の処理室16にセットされ、続けて処理室16の内部が真空ポンプ18によって真空状態に減圧される。なお、処理室16は必ずしも真空状態とされることに限らず、非酸化雰囲気であれば足りる。
【0039】
処理室16内が真空状態となった後、レーザ照射部17は駆動機構19によって往動を開始し、その往動の過程で、処理室16内にセットされた電気接点材料12にレーザを照射し、銀メッキ10の表面10aにおいて1ライン目を溶融する。ここで、銀の融点が約962℃、グラファイト粒子11の融点が約3550℃であるため、レーザ照射部17による溶融温度は、母材2の融点よりも低く、しかも銀メッキ10のみを溶融すべく約1000℃〜1500℃に設定されている。
【0040】
レーザ照射部17が1往動を終えると、搬送機構20が電気接点材料12を所定量搬送する。続いて、今度はレーザ照射部17が復動を開始し、その復動の過程で銀メッキ10にレーザを照射して銀メッキ10の表面10aにおいて2ライン目を溶融する。そして、レーザ照射部17が1復動を終えると、搬送機構20が電気接点材料12を所定量だけ再度搬送し、これ以降も上記と同様にレーザ照射部17によるレーザ照射と電気接点材料12の搬送とが、銀メッキ10の全ラインにレーザ照射が行われるまで繰り返し行われる。
【0041】
従って、銀メッキ10の表面10aが溶融されるので、その溶融した銀成分がグラファイト粒子11の間にある隙間に流れ込み、図2(c)に示すように溶融した銀成分が銀メッキ10の凹凸を埋め、グラファイト粒子11の周囲が銀成分で満たされる。よって、溶融した銀成分が銀メッキ10内のグラファイト粒子11を周囲で強く固定し、グラファイト粒子11の定着性が高まる。これにより、グラファイト粒子11が銀メッキ10から脱落し難くなり、銀メッキ10(電気接点材料12)の耐摩耗性が向上する。
【0042】
(炉による加熱処理)
図7は、炉装置21の概略構成を示す模式構成図である。銀メッキ10の表面10aを溶融する方法は、上記したレーザ処理に限らず、例えば炉装置21による加熱処理でもよい。炉装置21は、加工物を炉22の中に入れて炉22の内部を高温化して加工物を溶融する装置である。炉装置21は、電気接点材料12を密封状態で収容する処理室23と、処理室23内の温度を高温化する熱源24と、処理室23を真空(非酸化雰囲気)状態とする真空ポンプ25とを備えている。
【0043】
続いて、炉装置21で電気接点材料12を溶融する手順を説明すると、炉22による加熱処理を行う際には、メッキ処理後に所定面積の平板に切断された電気接点材料12が炉22の処理室23にセットされ、続けて処理室23の内部が真空ポンプ25によって真空状態に減圧される。なお、処理室23はレーザ処理の場合と同様に、必ずしも真空状態とされることに限らず、非酸化雰囲気であれば足りる。また、熱源24は例えば高周波加熱用熱源等の種々のものが採用される。
【0044】
処理室23内が真空状態となった後、熱源24に電源が投入されて処理室23の温度が高温化すると、銀メッキ10の表面10aが溶融する。ここで、炉22による加熱処理の溶融温度は、レーザ処理の場合の同様の理由から約1000℃〜1500℃に設定されている。従って、炉22を用いた場合も銀メッキ10の表面10aが溶融するため、それによってグラファイト粒子11の定着性が高まり、レーザ処理の場合と同様に銀メッキ10の耐摩耗性が向上する。
【0045】
(加圧処理)
図8は、加圧処理装置26の概略構成を示す模式構成図である。ここで、銀メッキ10内のグラファイト粒子11を銀メッキ10に定着する方法は高温化処理に限らず、圧力によって定着させる加圧処理でもよい。加圧処理装置26は、ローラ等で加工物を加圧することによって加工物の表面を塑性変形させる装置である。加圧処理装置26は、電気接点材料12を載置する支持台27と、回転動作が可能なローラ28と、ローラ28を所定圧で電気接点材料12に押しつけた状態でそのローラ28を所定方向(図8の矢印A方向)に移動させる駆動機構29とを備えている。
【0046】
続いて、加圧処理装置26で電気接点材料12を加圧して電気接点材料12の表面を塑性変形させる手順を説明すると、加圧処理を行う際には、メッキ処理後に所定面積の平板に切断された電気接点材料12が支持台27にセットされる。そして、駆動機構29がローラ28を電気接点材料12に所定圧で押しつけ、その状態で駆動機構29がローラ28を図8の矢印A1方向に移動させて、ローラ28によって銀メッキ10の表面10a全域に圧を加える。この際にローラ28が銀メッキ10の表面10aにかける圧力値(所定圧)は、銀メッキ10の表面10aが塑性変形する程度の値に設定されている。
【0047】
従って、加圧処理によって銀メッキ10の表面10aを塑性変形させるので、図2(c)に示すように塑性変形した銀成分がグラファイト粒子11の周りに埋まった状態となる。よって、塑性変形した銀成分が銀メッキ10内のグラファイト粒子11を周囲で強く固定し、グラファイト粒子11の定着性が高まる。これにより、グラファイト粒子11が銀メッキ10から脱落し難くなり、銀メッキ10(電気接点材料12)の耐摩耗性が向上する。また、加圧処理で銀メッキ10内のグラファイト粒子11を定着する場合、その加圧処理によって銀メッキ10の表面硬度が高まるため、グラファイト粒子11が強固な状態で銀メッキ10に定着することになり、銀メッキ10の耐摩耗性が一層高いものとなる。
【0048】
ここで、メッキ表面表のグラファイト量によって表面グラファイト面積比Sは適宜決まるが、図9に表面グラファイト面積比Sとその耐久回数Nとの関係をグラフで示すと、表面グラファイト面積比Sによってその電気接点材料12の耐久回数Nが決まってくる。従って、耐久回数Nはターゲットとする製品仕様に異なってくるが、充分な耐摩耗性を確保するためには、図9のグラフからも分るように耐久回数Nが100万回確保された0.45以上に表面グラファイト面積比Sを設定することが望ましい。
【0049】
本実施形態の構成によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(1)母材2に電気メッキを施す際、その初期段階で過電流を流すので、その過電流印加中はメッキ速度が速くなって、母材2に付着する銀成分に偏りが生じることから、メッキ表面の凹凸形状を大きくすることができる。従って、銀メッキ10の凹凸形状が大きくなれば、それに応じてグラファイト粒子11が多く取り付くため、銀メッキ10の表面グラファイト面積比Sが大きくなり、銀メッキ10の耐摩耗性を向上することができる。また、母材2の表面2aを予め粗くしておいて母材2に電気メッキを施す場合や、電気メッキで母材2に銀メッキ10を形成した後にエッチングを施し、エッチング後に電気メッキで母材2を再メッキする場合も、同様に銀メッキ10の表面凹凸形状を大きくすることができ、銀メッキ10の耐摩耗性を向上できる。
【0050】
(2)電気メッキ時に過電流を流して銀メッキ10を形成する場合、過電流は電気メッキの初期段階に流されるので、電気メッキの初期段階から凹凸形状の大きな銀メッキ10が母材2の表層に形成される。従って、電気メッキの早い段階から凹凸形状の大きな銀メッキ10が形成されるため、銀メッキ10の層厚をそれほど厚くさせずに、表面凹凸の大きな銀メッキ10を形成することができる。
【0051】
(3)母材2の表面2aを予め粗くしておいてその母材2に電気メッキを施す場合、母材2の表面2aをヤスリ等で削るという簡単な作業を行うだけで済むので、複雑で手間のかかる作業を行うことなく表面凹凸の大きな銀メッキ10を形成することができる。
【0052】
(4)銀メッキ10内には固体潤滑作用のあるグラファイト粒子11が含有されているので、グラファイト含有の銀メッキ10の施された本例の電気接点材料12はグリースレス摺動接点材料として使用することができる。従って、グリースやオイル等の潤滑剤を使用せずに済み、潤滑剤にかかるコストを不要とすることができ、しかもグリースやオイル等は低温下で硬化する性質があるが、この問題に対しても対応できる。
【0053】
なお、実施形態は上記構成に限定されず、以下の態様に変更してもよい。
・ 銀メッキ10は光沢メッキ、無光沢メッキのどちらでもよいが、無光沢メッキには表面凹凸が大きくなる性質があるため、無光沢メッキを採用すれば、銀メッキ10の表面凹凸を一層大きくすることができる。
【0054】
・ 電気メッキ時に過電流を流して銀メッキ10を形成する場合、過電流を流すタイミングは電気メッキの初期段階に限らず、例えば電気メッキを通常の電流値で暫く(例えば10秒程度)行ってから、母材2に過電流を流す手順を経てもよい。
【0055】
・ 電機メッキ時に過電流を流して銀メッキ10を形成する場合、メッキ漕3は過電流用の第1メッキ漕3aと、通常電流用の第2メッキ漕3bとの2つに区画されることに限らず、メッキ漕3を1つの漕にして、過電流用と通常電流用とで共用してもよい。
【0056】
・ 銀メッキ10をエッチングしてそれを再メッキする場合、その際に用いるエッチング溶液は銅、塩酸、鉄、過酸化水素又は硫酸等の各種成分を用いた溶液であることに限らず、銀メッキ10の表面を溶解できるものであれば、その成分は特に限定されない。
【0057】
・ 金属メッキを電気メッキで形成する際、その金属メッキは銀メッキ10に限らず、例えば金メッキ、無電解ニッケルメッキ、クロムメッキ、ニッケルメッキ、はんだメッキ、錫メッキ、亜鉛メッキ等を採用してもよい。
【0058】
・ 母材2の表面2aを予め粗くしておいてメッキする場合や、銀メッキ10をエッチングしてそれを再メッキする場合、母材2のメッキ方法は電気メッキに限らず、例えば化学メッキ、溶融メッキ、物理蒸着、化学蒸着、浸透メッキ等を採用してもよい。
【0059】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
(1)母材の表面に加工処理を施して予め粗くしておき、その表面が粗い母材にメッキを施して、前記母材の表面に金属メッキを形成することを特徴とする電気接点材料製造方法。この場合も、金属メッキの表面凹凸を大きくすることができる。
【0060】
(2)母材にメッキを施して当該母材の表面に金属メッキを形成し、当該金属メッキを形成した該母材にエッチングを施して前記金属メッキの表面を溶解し、前記エッチング後の前記母材にメッキを再度施してエッチング後の前記母材の表面に前記金属メッキを形成することを特徴とする電気接点材料製造方法。この場合も、金属メッキの表面凹凸を大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】電気メッキ装置の概略構成を示す模式構成図。
【図2】(a)は電気メッキで過電流を流された際の電気接点材料の断面図、(b)は銀メッキのメッキ処理が完了した際の電気接点材料の断面図、(c)は電気メッキ後の電気接点材料に高温化処理(加圧処理)を施した際の電気接点材料の断面図。
【図3】母材の表面を粗くする際の作業状態を示す斜視図。
【図4】銀メッキを施した電気接点材料をエッチングする際の説明図。
【図5】(a)は1回目の電気メッキによって銀メッキが形成された電気接点材料の断面図、(b)は1回目の電気メッキの後にエッチングが施された後の電機接点材料の断面図、(c)はエッチング後の電気メッキの再メッキによって銀メッキが形成された電気接点材料の断面図。
【図6】レーザ装置の概略構成を示す模式構成図。
【図7】炉装置の概略構成を示す模式構成図。
【図8】加圧処理装置の概略構成を示す模式構成図。
【図9】表面グラファイト面積比とその耐久回数との関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0062】
2…母材、2a…表面、4…メッキ液、10…金属メッキとしての銀メッキ、11…グラファイト粒子、12…電気接点材料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メッキ液中に浸した母材と電極との間に電圧を印加して電気メッキを施し、前記メッキ液中の金属イオンを前記母材に付着させて前記母材の表面にグラファイト含有の金属メッキを形成する電気接点材料製造方法において、
前記母材と前記電極との間に電圧を印加する際、その電圧印加過程で過電流を流すことを特徴とする電気接点材料製造方法。
【請求項2】
前記過電流を流す期間は、前記電気メッキを開始してから一定期間内の初期段階であることを特徴とする請求項1に記載の電気接点材料製造方法。
【請求項3】
母材の表面に加工処理を施して予め粗くしておき、その後工程の段階でメッキ液中に浸した前記母材と電極との間に電圧を印加して電気メッキを施し、前記メッキ液中の金属イオンを前記母材に付着させて前記母材の表面に金属メッキを形成することを特徴とする電気接点材料製造方法。
【請求項4】
メッキ液中に浸した母材と電極との間に電圧を印加して電気メッキを施し、前記メッキ液中の金属イオンを前記母材に付着させて前記母材の表面に金属メッキを形成し、当該金属メッキを形成した前記母材にエッチングを施して前記金属メッキの表面を溶解し、前記エッチング後の前記母材に前記電気メッキを再度施して、前記エッチング後の前記母材の表面に前記金属メッキを再度形成することを特徴とする電気接点材料製造方法。
【請求項5】
前記メッキ液中にはグラファイト粒子が混入され、前記母材に前記電気メッキが施された際には、前記金属メッキが前記グラファイト粒子を含有した状態で前記母材の表面に形成されることを特徴とする請求項1〜4のうちいずれか一項に記載の電気接点材料製造方法。
【請求項6】
メッキ液中に浸した母材と電極との間に電圧を印加して電気メッキを施し、前記メッキ液中の金属イオンを前記母材に付着させて前記母材の表面に金属メッキを形成し、前記母材と前記電極との間に電圧を印加する際、その電圧印加過程で過電流を流して製造されたことを特徴とする電気接点材料。
【請求項7】
母材の表面に加工処理を施して予め粗くしておき、その後工程の段階でメッキ液中に浸した前記母材と電極との間に電圧を印加して電気メッキを施し、前記メッキ液中の金属イオンを前記母材に付着させて前記母材の表面に金属メッキを形成したことを特徴とする電気接点材料。
【請求項8】
メッキ液中に浸した母材と電極との間に電圧を印加して電気メッキを施し、前記メッキ液中の金属イオンを前記母材に付着させて前記母材の表面に金属メッキを形成し、当該金属メッキを形成した前記母材にエッチングを施して前記金属メッキの表面を溶解し、前記エッチング後の前記母材に前記電気メッキを再度施して、前記エッチング後の前記母材の表面に前記金属メッキを再度形成したことを特徴とする電気接点材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−42391(P2007−42391A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−224511(P2005−224511)
【出願日】平成17年8月2日(2005.8.2)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】