説明

電気機器の絶縁抵抗の測定方法及び電気機器の絶縁抵抗測定装置

【課題】冷却液を電気機器から抜き取ることなく効率的に発熱部の絶縁抵抗を算出することができる電気機器の絶縁抵抗の測定方法及び電気機器の絶縁抵抗測定装置を提供する。
【解決手段】発熱部24に通じる流水路23、23A、23Bに冷却液を流通させる電気機器21において、発熱部と接地電位との間の絶縁抵抗を測定する電気機器の絶縁抵抗の測定方法であって、流水路によって形成される冷却液流通回路と接地電位との間の冷却液流通回路絶縁抵抗及び発熱部と接地電位との間の発熱部絶縁抵抗からなる対地絶縁抵抗を一括して測定する対地絶縁抵抗測定ステップと、対地絶縁抵抗測定ステップによって測定された対地絶縁抵抗から冷却液流通回路絶縁抵抗を減算することにより発熱部絶縁抵抗を算出する発熱部絶縁抵抗算出ステップと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、発熱部に通じる流水路に冷却液を流通させる電気機器において、前記発熱部と接地電位との間の絶縁抵抗を測定する電気機器の絶縁抵抗の測定方法及び電気機器の絶縁抵抗測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、タービン発電機のような大容量の電気機器においては、回転子に流れる大電流によって発生するジュール熱に基づく温度上昇を抑えるため、回転子に冷却液を供給している。例えば、特許文献1には、純水(冷却液)を二次冷却水によって冷却する常用クーラー及び予備クーラーと、純水の導電率を検出するセンサーとを備え、センサーの検出結果に基づいて、常用クーラーにおける二次冷却水の漏洩を検知して自動的に予備クーラーに切り替えるようにした電気機器の冷却装置が開示されている。
【0003】
特許文献1の冷却装置では、二次冷却水が純水に漏洩することにより該純水の導電率が変化すると、センサーによって検出される導電率が変化し、センサーの検出結果に基づいて、常用クーラーの異常を早期に検出し、純水を冷却するクーラーを、常用クーラーから予備クーラーに切り替えることができる。このため、予備クーラーによって、純水の導電率が変化することを抑えつつ純水を冷却することができる。よって、純水の絶縁性能の低下を抑えつつ発熱部を冷却することができるため、電気機器の負荷を下げたり該電気機器を停止させずに運転できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公平5−8782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、タービン発電機のような電気機器では、定期的に回転子コイルに代表される発熱部の絶縁抵抗を測定し、該発熱部の絶縁性能を診断している。しかしながら、一般に、上記の電気機器では、純水などの冷却液を電気機器に満たした状態で、発熱部の絶縁抵抗を測定していた。このような場合には、発熱部に通じる冷却液の流水路によって形成される冷却液流通回路の絶縁抵抗と発熱部の絶縁抵抗とを一括して測定することしかできず、発熱部の絶縁抵抗のみを測定することができなかった。
【0006】
また、発熱部の絶縁抵抗のみを測定するために、冷却液を電気機器から抜き取ることも考えられるが、該冷却水を抜き取った後には、発熱部の絶縁抵抗を測定する精度を高めるために、発熱部を乾燥させる作業が必要であった。そこで、発熱部の絶縁抵抗のみを測定するためには、冷却液を電気機器から抜き取ることや発熱部を乾燥させるための時間が必要となり、効率的に発熱部の絶縁抵抗を測定することができないと考えられていた。
【0007】
この発明は、このような状況に鑑み提案されたものであって、冷却液を電気機器から抜き取ることなく効率的に発熱部の絶縁抵抗を算出することができる電気機器の絶縁抵抗の測定方法及び電気機器の絶縁抵抗測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明に係る電気機器の絶縁抵抗の測定方法は、発熱部に通じる流水路に冷却液を流通させる電気機器において、前記発熱部と接地電位との間の絶縁抵抗を測定する電気機器の絶縁抵抗の測定方法であって、前記流水路によって形成される冷却液流通回路と前記接地電位との間の冷却液流通回路絶縁抵抗及び前記発熱部と前記接地電位との間の発熱部絶縁抵抗からなる対地絶縁抵抗を一括して測定する対地絶縁抵抗測定ステップと、前記対地絶縁抵抗測定ステップによって測定された前記対地絶縁抵抗から前記冷却液流通回路絶縁抵抗を減算することにより前記発熱部絶縁抵抗を算出する発熱部絶縁抵抗算出ステップと、を備えることを特徴とする。
請求項1の発明に係る電気機器の絶縁抵抗の測定方法によれば、発熱部絶縁抵抗算出ステップにより、冷却液流通回路絶縁抵抗及び発熱部絶縁抵抗からなる対地絶縁抵抗から、冷却液流通回路絶縁抵抗を減算することによって、発熱部絶縁抵抗を算出する。
このため、冷却液を電気機器に満たした状態で、冷却液流通回路絶縁抵抗と発熱部絶縁抵抗とを一括して測定した後に、測定した対地絶縁抵抗(冷却液流通回路絶縁抵抗及び発熱部絶縁抵抗)から冷却液流通回路絶縁抵抗を減算することにより、発熱部絶縁抵抗を算出することができる。よって、発熱部絶縁抵抗を算出するために、冷却液を電気機器から抜き取らずに、対地絶縁抵抗から冷却液流通回路絶縁抵抗を減算することにより、効率的に発熱部絶縁抵抗を算出することができる。
【0009】
請求項2の発明によれば、請求項1において、前記対地絶縁抵抗測定ステップでは、前記冷却液流通回路及び前記発熱部絶縁抵抗が接続された対地絶縁抵抗測定回路に印加する電圧と、該対地絶縁抵抗測定回路に流れる電流とに基づいて、前記対地絶縁抵抗を測定し、前記発熱部絶縁抵抗算出ステップでは、前記対地絶縁抵抗測定回路を、前記冷却液流通回路絶縁抵抗と前記発熱部絶縁抵抗とが並列接続された等価回路に置き換えると共に、前記対地絶縁抵抗に相当する前記等価回路の合成抵抗を算出する計算式に、前記対地絶縁抵抗測定ステップによって測定した前記対地絶縁抵抗及び前記流水路の断面積と前記冷却液の導電率と前記流水路の長さとに応じて定められる前記冷却液流通回路絶縁抵抗を代入し、前記発熱部絶縁抵抗を算出することを特徴とする。
請求項2の発明によれば、発熱部絶縁抵抗を算出する際には、対地絶縁抵抗測定ステップによって測定した対地絶縁抵抗と、既知の値である流水路の断面積と冷却液の導電率と流水路の長さとに応じて定められる冷却液流通回路絶縁抵抗とを、対地絶縁抵抗に相当する等価回路の合成抵抗を算出する計算式に代入することにより、未知の値である発熱部絶縁抵抗を算出することができる。
したがって、測定値である対地絶縁抵抗及び既知の値によって定められる冷却液流通回路絶縁抵抗に基づいて、発熱部絶縁抵抗を算出することができるため、複雑な計算を必要とせず、効率的に発熱部絶縁抵抗を算出することができる。
【0010】
請求項3の発明によれば、請求項1又は2において、前記冷却液の導電率を互いに異なる複数の値に変化させ、前記対地絶縁抵抗測定ステップでは、前記互いに異なる値を有するそれぞれの導電率毎に前記対地絶縁抵抗を測定し、前記発熱部絶縁抵抗算出ステップでは、前記計算式に、前記それぞれの導電率毎に測定した前記対地絶縁抵抗及び前記それぞれの導電率に応じて定められた前記冷却液流通回路絶縁抵抗を代入し、前記発熱部絶縁抵抗を複数算出することを特徴とする。
請求項3の発明によれば、発熱部絶縁抵抗算出ステップにより、上記の計算式に、それぞれの導電率毎に測定した対地絶縁抵抗及びそれぞれの導電率に応じて定められた冷却液流通回路絶縁抵抗を代入し、発熱部絶縁抵抗を複数算出する。
このため、発熱部絶縁抵抗を複数算出することにより、算出された複数の発熱部絶縁抵抗同士を比較することができ、該比較の結果に応じ、発熱部絶縁抵抗のばらつきの有無を確認することができる。
したがって、発熱部絶縁抵抗のばらつきの有無に応じ、算出された発熱部絶縁抵抗の妥当性を判断することができる。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかにおいて、前記電気機器は発電機であり、前記発熱部は回転子コイルであることを特徴とする。
請求項4の発明によれば、冷却液を発電機に満たした状態で、冷却液流通回路絶縁抵抗と回転子コイルの絶縁抵抗とを一括して測定した後に、測定した対地絶縁抵抗(冷却液流通回路絶縁抵抗及び回転子コイルの絶縁抵抗)から冷却液流通回路絶縁抵抗を減算することにより、回転子コイルの絶縁抵抗を算出することができる。よって、回転子コイルの絶縁抵抗を算出するために、冷却液を発電機から抜き取らずに、対地絶縁抵抗から冷却液流通回路絶縁抵抗を減算することにより、効率的に回転子コイルの絶縁抵抗を算出することができる。
【0012】
請求項5の発明は、発熱部に通じる流水路に冷却液を流通させる電気機器において、前記発熱部と接地電位との間の絶縁抵抗を測定する電気機器の絶縁抵抗測定装置において、前記流水路によって形成される冷却液流通回路と前記接地電位との間の冷却液流通回路絶縁抵抗及び前記発熱部と前記接地電位との間の発熱部絶縁抵抗からなる対地絶縁抵抗を一括して測定する対地絶縁抵抗測定手段と、前記対地絶縁抵抗測定手段によって測定された前記対地絶縁抵抗から前記冷却液流通回路絶縁抵抗を減算することにより前記発熱部絶縁抵抗を算出する発熱部絶縁抵抗算出手段と、を備えることを特徴とする。
請求項5の発明に係る電気機器の絶縁抵抗測定装置によれば、発熱部絶縁抵抗算出手段により、冷却液流通回路絶縁抵抗及び発熱部絶縁抵抗からなる対地絶縁抵抗から、冷却液流通回路絶縁抵抗を減算することによって、発熱部絶縁抵抗を算出する。
このため、冷却液を電気機器に満たした状態で、冷却液流通回路絶縁抵抗と発熱部絶縁抵抗とを一括して測定した後に、測定した対地絶縁抵抗(冷却液流通回路絶縁抵抗及び発熱部絶縁抵抗)から冷却液流通回路絶縁抵抗を減算することにより、発熱部絶縁抵抗を算出することができる。よって、発熱部絶縁抵抗を算出するために、冷却液を電気機器から抜き取らずに、対地絶縁抵抗から冷却液流通回路絶縁抵抗を減算することにより、効率的に発熱部絶縁抵抗を算出することができる。
【0013】
請求項6の発明は、請求項5において、前記冷却液流通回路及び前記発熱部絶縁回路が接続された対地絶縁抵抗測定回路を、該冷却液流通回路絶縁抵抗と該発熱部絶縁抵抗とが並列接続された等価回路に置き換えて、前記対地絶縁抵抗に相当する前記等価回路の合成抵抗を算出する計算式が記憶された記憶手段を備え、前記対地絶縁抵抗測定手段は、前記対地絶縁抵抗測定回路に電圧を印加し、該電圧と、前記対地絶縁抵抗測定回路に流れる電流とに基づいて、前記対地絶縁抵抗を測定し、前記発熱部絶縁抵抗算出手段は、前記記憶手段に記憶された前記計算式に、前記対地絶縁抵抗測定手段によって測定した前記対地絶縁抵抗及び前記流水路の断面積と前記冷却液の導電率と前記流水路の長さとに応じて定められる前記冷却液流通回路絶縁抵抗を代入し、前記発熱部絶縁抵抗を算出することを特徴とする。
請求項6の発明によれば、発熱部絶縁抵抗を算出する際には、対地絶縁抵抗測定手段によって測定した対地絶縁抵抗と、既知の値である流水路の断面積と冷却液の導電率と流水路の長さとに応じて定められる冷却液流通回路絶縁抵抗とを、記憶手段に記憶されて対地絶縁抵抗に相当する等価回路の合成抵抗を算出する計算式に代入することにより、未知の値である発熱部絶縁抵抗を算出することができる。
したがって、測定値である対地絶縁抵抗及び既知の値によって定められる冷却液流通回路絶縁抵抗に基づいて、発熱部絶縁抵抗を算出することができるため、複雑な計算を必要とせず、効率的に発熱部絶縁抵抗を算出することができる。
【0014】
請求項7の発明は、請求項5又は6において、前記電気機器は発電機であり、前記発熱部は回転子コイルであることを特徴とする。
請求項7の発明によれば、冷却液を発電機に満たした状態で、冷却液流通回路絶縁抵抗と回転子コイルの絶縁抵抗とを一括して測定した後に、測定した対地絶縁抵抗(冷却液流通回路絶縁抵抗及び回転子コイルの絶縁抵抗)から冷却液流通回路絶縁抵抗を減算することにより、回転子コイルの絶縁抵抗を算出することができる。よって、回転子コイルの絶縁抵抗を算出するために、冷却液を電気機器から抜き取らずに、対地絶縁抵抗から冷却液流通回路絶縁抵抗を減算することにより、効率的に回転子コイルの絶縁抵抗を算出することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の電気機器の絶縁抵抗の測定方法によれば、発熱部絶縁抵抗算出ステップにより、冷却液流通回路絶縁抵抗及び発熱部絶縁抵抗からなる対地絶縁抵抗から、冷却液流通回路絶縁抵抗を減算することによって、発熱部絶縁抵抗を算出する。
このため、冷却液を電気機器に満たした状態で、冷却液流通回路絶縁抵抗と発熱部絶縁抵抗とを一括して測定した後に、測定した対地絶縁抵抗(冷却液流通回路絶縁抵抗及び発熱部絶縁抵抗)から冷却液流通回路絶縁抵抗を減算することにより、発熱部絶縁抵抗を算出することができる。よって、発熱部絶縁抵抗を算出するために、冷却液を電気機器から抜き取らずに、対地絶縁抵抗から冷却液流通回路絶縁抵抗を減算することにより、効率的に発熱部絶縁抵抗を算出することができる。
【0016】
本発明の電気機器の絶縁抵抗測定装置によれば、発熱部絶縁抵抗算出手段により、冷却液流通回路絶縁抵抗及び発熱部絶縁抵抗からなる対地絶縁抵抗から、冷却液流通回路絶縁抵抗を減算することによって、発熱部絶縁抵抗を算出する。
このため、冷却液を電気機器に満たした状態で、冷却液流通回路絶縁抵抗と発熱部絶縁抵抗とを一括して測定した後に、測定した対地絶縁抵抗(冷却液流通回路絶縁抵抗及び発熱部絶縁抵抗)から冷却液流通回路絶縁抵抗を減算することにより、発熱部絶縁抵抗を算出することができる。よって、発熱部絶縁抵抗を算出するために、冷却液を電気機器から抜き取らずに、対地絶縁抵抗から冷却液流通回路絶縁抵抗を減算することにより、効率的に発熱部絶縁抵抗を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態の絶縁抵抗計の概略構成図である。
【図2】絶縁抵抗計を用いて第2絶縁抵抗を算出する方法を説明する図である。
【図3】電流測定回路の等価回路図である。
【図4】純水の導電率σに対する第2絶縁抵抗R2の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態を、図1ないし図4を参照しつつ説明する。図1は、本実施形態の絶縁抵抗計1の概略構成図である。絶縁抵抗計1は、制御部10と、電圧生成部20と、電流検出部30と、A/D変換部40と、操作部50と、記憶部60と、表示部70とを備えている。なお、絶縁抵抗計1は、本発明の絶縁抵抗測定装置の一例である。
【0019】
制御部10には、電圧生成部20が接続されている。電圧生成部20は、被測定機器21と接続される。電圧生成部20は、制御部10によって制御され、被測定機器21に印加する測定電圧(ここでは500Vの電圧)を生成する。被測定機器21には、電流検出部30が接続されている。電流検出部30は、測定電圧を被測定機器21に印加する際に、該被測定機器21に流れる電流を検出する。
【0020】
A/D変換部40には、電圧生成部20及び電流検出部30が接続されている。A/D変換部40は、電圧生成部20によって生成された測定電圧及び電流検出部30によって検出された電流を、ディジタルデータ(電圧データ、電流データ)にそれぞれ変換する。
【0021】
さらに、A/D変換部40は、制御部10に接続されている。制御部10は、後述するように、A/D変換部40から送信された電圧データ、電流データに基づいて、被測定機器21の対地絶縁抵抗や発熱部絶縁抵抗に相当する第2絶縁抵抗を算出する。
【0022】
制御部10には、操作部50と、記憶部60と、表示部70とが接続されている。操作部50は、測定開始スイッチや設定値入力スイッチ等の各種のスイッチを備えている。操作部50は、制御部10に、各種のスイッチの操作に応じた指令信号を送信する。記憶部60には、後述するように、制御部10によって第2絶縁抵抗を算出するための計算式が予め記憶されている。表示部70には、制御部10によって算出された第2絶縁抵抗の値が表示される。なお、記憶部60は、本発明の記憶手段の一例である。
【0023】
本実施形態では、図2に示すように、被測定機器21として交流発電機を例示する。交流発電機21は、回転子22及び固定子29を備えている。回転子22には主軸23が取り付けられていると共に、回転子22の外周面には、回転子コイル24が巻かれている。主軸23には、純水供給部25が接続されている。純水供給部25は、ポンプ26により、タンクTに蓄えられた純水を主軸23の内部に供給する。
【0024】
純水は、回転子22に向けて主軸23の内部を流下した後に、該主軸23と連通した流入路23Aを流通する。流入路23Aは、各回転子コイル24にも通じている。このため、純水は、流入路23Aを流通した後に各回転子コイル24内に流入する。
【0025】
その後、各回転子コイル24内の純水は、流出路23Bを通過した後に主軸23の内部に戻される。続いて、主軸23内の純水は、タンクTに戻され、その後ポンプ26によって、再び主軸23の内部に供給される。流入路23A及び流出路23Bは、絶縁性部材によって形成されている。交流発電機21では、各回転子コイル24において発生する熱を純水に吸熱させることにより、各回転子コイル24の温度の上昇を抑えることができる。図2では、一部の流入路23A及び一部の流出路23Bの図示を省略したが、すべての回転子コイル24と主軸23との間には、流入路23A及び流出路23Bが配置されている。なお、回転子コイル24は本発明の発熱部の一例であり、主軸23、流入路23A及び流出路23Bは本発明の流水路の一例であり、純水は本発明の冷却液の一例である。また、主軸23、流入路23A及び流出路23Bにより、本発明の冷却液流通回路が形成される。
【0026】
次に、絶縁抵抗計1により、第2絶縁抵抗を測定する動作を説明する。第2絶縁抵抗を測定する際には、主軸23の内部、流入路23A及び流出路23Bや、回転子コイル24の内部には、純水を満たした状態を維持する。絶縁抵抗計1では、接地側測定端子が接地電位に接続され、ライン側測定端子がコレクタリング23Cに接続されている。
【0027】
絶縁抵抗計1の操作者が、操作部50に設けた測定開始スイッチを操作することにより、操作部50は、制御部10に測定開始指令信号を送信する。制御部10は、測定開始指令信号を受信した後に、電圧生成部20へ測定電圧生成指令信号を送信する。電圧生成部20は、測定電圧生成指令信号を受信した後に、測定電圧をコレクタリング23Cに印加する。加えて、電圧生成部20は、測定電圧のデータをA/D変換部40に送信する。コレクタリング23Cは、回転子22に直流電圧を供給するために用いられ、主軸23に取り付けられた金属リングである。なお、主軸23は接地電位に接続されている。
【0028】
コレクタリング23Cに測定電圧が印加されることにより、該コレクタリング23Cから主軸23及び流入路23Aを経て各回転子コイル24に至り、さらに回転子コイル24から流出路23Bを経て主軸23からコレクタリング23Cに至る電流測定回路が形成される。なお、電流測定回路は、本発明の対地絶縁抵抗測定回路の一例である。
【0029】
電流検出部30は、電流測定回路に流れる電流を検出し、該電流のデータをA/D変換部40に送信する。A/D変換部40は、測定電圧のデータ及び電流のデータを制御部10に送信する。その後、制御部10は、測定電圧のデータを電流のデータで除算する処理を実行することにより、対地絶縁抵抗R3を算出すると共に記憶部60に記憶する。これにより、対地絶縁抵抗R3の測定が完了する。対地絶縁抵抗R3は、流入路23Aの内部及び流出路23Bの内部にそれぞれ満たされた純水と接地電位との間の純水絶縁抵抗R1に、主軸23及び各回転子コイル24と接地電位との間の第2絶縁抵抗R2を加算したものである。なお、純水絶縁抵抗R1は、本発明の冷却液流通回路絶縁抵抗の一例であり、第2絶縁抵抗R2は、本発明の発熱部絶縁抵抗の一例である。また、制御部10、電圧生成部20、電流検出部30及びA/D変換部40は、本発明の対地絶縁抵抗測定手段の一例であり、制御部10、電圧生成部20、電流検出部30及びA/D変換部40を用いて対地絶縁抵抗R3を算出することは、本発明の対地絶縁抵抗測定ステップの一例である。
【0030】
続いて、制御部10は、第2絶縁抵抗R2を算出するため、記憶部60に記憶された計算式を読み出す。記憶部60には、下記の計算式(1)が記憶されている。本実施形態では、図3に示すように、上記の電流測定回路を、第2絶縁抵抗R2と純水絶縁抵抗R1との並列回路に置き換えて、下記の計算式(1)を導出した。計算式(1)により、電流測定回路の合成抵抗を算出できる。
R3=1/(1/R2+1/R1)
=1/(1/R2+1/{(L/πrσ)×(1/n)})・・・(1)
ここで、R3は対地絶縁抵抗[Ω]、R1は純水絶縁抵抗[Ω]、Lは流入路23A及び流出路23Bのそれぞれの1本の長さ[m]、rは流入路23A及び流出路23Bのそれぞれの内径[m]、σは純水の導電率[S/m]、nは流入路23A及び流出路23Bの合計本数(ここでは32本)
【0031】
制御部10は、操作者が、操作部50に設けた設定値入力スイッチによって設定し記憶部60に記憶された流入路23A等の長さL、該流入路23A等の内径r、純水の導電率σ、流入路23A等の合計本数nや、該記憶部60に記憶された対地絶縁抵抗R3を読み出す。その後、制御部10は、計算式(1)に、記憶部60から読み出した各抵抗R1、R3等を代入し、第2絶縁抵抗R2を算出する。第2絶縁抵抗R2は、計算式(1)を変形させた下記の計算式(2)によって算出される。計算式(2)から理解できるように、対地絶縁抵抗R3から純水絶縁抵抗R1を減算することにより、第2絶縁抵抗R2が算出される。
R2=1/(1/R3−1/R1)
=1/(1/R3−1/{(L/πrσ)×(1/n)})・・・(2)
【0032】
制御部10は、第2絶縁抵抗R2を記憶部60に記憶すると共に、第2絶縁抵抗R2の値を表示部70に表示する制御を実行する。なお、制御部10は、本発明の発熱部絶縁抵抗算出手段の一例であり、制御部10が対地絶縁抵抗R3から純水絶縁抵抗R1を減算することによって第2絶縁抵抗R2を算出することは、本発明の発熱部絶縁抵抗算出ステップの一例である。
【0033】
さらに、本実施形態では、以下に説明するように、純水の導電率σを違いに異なる複数の値に変化させ、第2絶縁抵抗R2を複数算出した。ここでは、図2に示したタンクTに水道水を供給し、該水道水の供給量に応じ、回転子コイル24に流入させる純水の導電率σを変化させた。導電率σは、伝導度計を用いて測定した。伝導度計によって測定された導電率σは、操作者が、設定値入力スイッチを操作して記憶部60に記憶される。
【0034】
図4は、純水の導電率σに対する第2絶縁抵抗R2の変化を示すグラフである。図4中の各第2絶縁抵抗R2は、制御部10が、記憶部60に記憶された各導電率σに応じて算出した対地絶縁抵抗R3、各導電率σ及び上記の計算式(1)、(2)に基づいて算出した。図4から理解できるように、純水の導電率σを互いに異なる複数の値に変化させた場合であっても、第2絶縁抵抗R2の値は、比較的ばらつきが小さく、ほぼ一定の値になった。
【0035】
<本実施形態の効果>
本実施形態の絶縁抵抗計1及び絶縁抵抗測定方法では、制御部10により、対地絶縁抵抗R3から純水絶縁抵抗R1を減算することにより、第2絶縁抵抗R2が算出される。第2絶縁抵抗R2は、主軸23及び各回転子コイル24と接地電位との間の絶縁抵抗であり、対地絶縁抵抗R3は、純水絶縁抵抗R1と第2絶縁抵抗R2とを合算したものである。
本実施形態では、回転子コイル24の内部に純水を満たした状態で、制御部10によって、純水絶縁抵抗R1と第2絶縁抵抗R2とを一括して算出した後に、算出した対地絶縁抵抗R3(純水絶縁抵抗R1及び第2絶縁抵抗R2)から純水絶縁抵抗R1を減算することにより、第2絶縁抵抗R2を算出することができる。よって、第2絶縁抵抗R2を算出するために、純水を固定子コイル24から抜き取らずに、対地絶縁抵抗R3から純水絶縁抵抗R1を減算することにより、効率的に第2絶縁抵抗R2を算出することができる。
【0036】
また、制御部10が算出した対地絶縁抵抗R3と、既知の値である流入路23A及び流出路23Bのそれぞれの断面積(πr)、純水の導電率σ、流入路23A及び流出路23Bの1本の長さLのそれぞれに応じて定められる純水絶縁抵抗R1とを、制御部10が、上記の計算式(1)に代入することにより、未知の値である第2絶縁抵抗R2を算出することができる。
したがって、制御部10が算出した対地絶縁抵抗R3及び既知の値によって定められる純水絶縁抵抗R1に基づいて、第2絶縁抵抗R2を算出することができるため、複雑な計算を必要とせず、効率的に第2絶縁抵抗R2を算出することができる。
【0037】
さらに、制御部10によって互いに異なる値に変化させた複数の純水の導電率σに対応して算出された複数の対地絶縁抵抗R3や、該複数の導電率σの内の各導電率σに応じて定められる複数の純水絶縁抵抗R1を計算式(1)に代入し、制御部10が、第2絶縁抵抗R2を複数算出する。
このため、第2絶縁抵抗R2を複数算出することにより、算出された複数の第2絶縁抵抗R2同士を比較することができ、該比較の結果に応じ、第2絶縁抵抗R2のばらつきの有無を確認することができる。
したがって、第2絶縁抵抗R2のばらつきの有無に応じ、算出された第2絶縁抵抗R2の妥当性を判断することができる。
【0038】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲内において構成の一部を適宜変更して実施することができる。上述した実施形態では、交流発電機の回転子コイルの絶縁抵抗を算出する例を説明したが、これに限定されず、例えば、純水を流通させた交流発電機の固定子コイルの絶縁抵抗の算出に本発明を適用することができる。さらに、本発明を、純水によって冷却する大容量の変圧器の巻線の絶縁抵抗の算出や、純水によって冷却する大容量のサイリスタの絶縁抵抗の算出等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1・・絶縁抵抗計、10・・制御部、20・・電圧生成部、21・・被測定機器(交流発電機)、23・・主軸、23A・・流入路、23B・・流出路、24・・回転子コイル、30・・電流検出部、40・・A/D変換部、60・・記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱部に通じる流水路に冷却液を流通させる電気機器において、前記発熱部と接地電位との間の絶縁抵抗を測定する電気機器の絶縁抵抗の測定方法であって、
前記流水路によって形成される冷却液流通回路と前記接地電位との間の冷却液流通回路絶縁抵抗及び前記発熱部と前記接地電位との間の発熱部絶縁抵抗からなる対地絶縁抵抗を一括して測定する対地絶縁抵抗測定ステップと、
前記対地絶縁抵抗測定ステップによって測定された前記対地絶縁抵抗から前記冷却液流通回路絶縁抵抗を減算することにより前記発熱部絶縁抵抗を算出する発熱部絶縁抵抗算出ステップと、
を備えることを特徴とする電気機器の絶縁抵抗の測定方法。
【請求項2】
前記対地絶縁抵抗測定ステップでは、前記冷却液流通回路及び前記発熱部絶縁抵抗が接続された対地絶縁抵抗測定回路に印加する電圧と、該対地絶縁抵抗測定回路に流れる電流とに基づいて、前記対地絶縁抵抗を測定し、
前記発熱部絶縁抵抗算出ステップでは、
前記対地絶縁抵抗測定回路を、前記冷却液流通回路絶縁抵抗と前記発熱部絶縁抵抗とが並列接続された等価回路に置き換えると共に、
前記対地絶縁抵抗に相当する前記等価回路の合成抵抗を算出する計算式に、前記対地絶縁抵抗測定ステップによって測定した前記対地絶縁抵抗及び前記流水路の断面積と前記冷却液の導電率と前記流水路の長さとに応じて定められる前記冷却液流通回路絶縁抵抗を代入し、前記発熱部絶縁抵抗を算出することを特徴とする請求項1に記載の電気機器の絶縁抵抗の測定方法。
【請求項3】
前記冷却液の導電率を互いに異なる複数の値に変化させ、
前記対地絶縁抵抗測定ステップでは、前記互いに異なる値を有するそれぞれの導電率毎に前記対地絶縁抵抗を測定し、
前記発熱部絶縁抵抗算出ステップでは、前記計算式に、前記それぞれの導電率毎に測定した前記対地絶縁抵抗及び前記それぞれの導電率に応じて定められた前記冷却液流通回路絶縁抵抗を代入し、前記発熱部絶縁抵抗を複数算出することを特徴とする請求項1又は2に記載の電気機器の絶縁抵抗の測定方法。
【請求項4】
前記電気機器は発電機であり、前記発熱部は回転子コイルであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の電気機器の絶縁抵抗の測定方法。
【請求項5】
発熱部に通じる流水路に冷却液を流通させる電気機器において、前記発熱部と接地電位との間の絶縁抵抗を測定する電気機器の絶縁抵抗測定装置において、
前記流水路によって形成される冷却液流通回路と前記接地電位との間の冷却液流通回路絶縁抵抗及び前記発熱部と前記接地電位との間の発熱部絶縁抵抗からなる対地絶縁抵抗を一括して測定する対地絶縁抵抗測定手段と、
前記対地絶縁抵抗測定手段によって測定された前記対地絶縁抵抗から前記冷却液流通回路絶縁抵抗を減算することにより前記発熱部絶縁抵抗を算出する発熱部絶縁抵抗算出手段と、
を備えることを特徴とする電気機器の絶縁抵抗測定装置。
【請求項6】
前記冷却液流通回路及び前記発熱部絶縁回路が接続された対地絶縁抵抗測定回路を、該冷却液流通回路絶縁抵抗と該発熱部絶縁抵抗とが並列接続された等価回路に置き換えて、前記対地絶縁抵抗に相当する前記等価回路の合成抵抗を算出する計算式が記憶された記憶手段を備え、
前記対地絶縁抵抗測定手段は、
前記対地絶縁抵抗測定回路に電圧を印加し、該電圧と、前記対地絶縁抵抗測定回路に流れる電流とに基づいて、前記対地絶縁抵抗を測定し、
前記発熱部絶縁抵抗算出手段は、
前記記憶手段に記憶された前記計算式に、前記対地絶縁抵抗測定手段によって測定した前記対地絶縁抵抗及び前記流水路の断面積と前記冷却液の導電率と前記流水路の長さとに応じて定められる前記冷却液流通回路絶縁抵抗を代入し、前記発熱部絶縁抵抗を算出することを特徴とする請求項5に記載の電気機器の絶縁抵抗測定装置。
【請求項7】
前記電気機器は発電機であり、前記発熱部は回転子コイルであることを特徴とする請求項5又は6に記載の電気機器の絶縁抵抗測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−164531(P2010−164531A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−9140(P2009−9140)
【出願日】平成21年1月19日(2009.1.19)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【Fターム(参考)】