説明

電気機械変換膜の製造方法と該製造方法により製造された電気機械変換膜、および電気機械変換素子の製造方法と該製造方法により製造された電気機械変換素子、並びにインクジェットヘッドとインクジェット記録装置

【課題】PZT前駆体溶液を液体吐出ヘッドから吐出させて基板に塗布するときに付随液滴を基板に付着させず電気機械変換膜を高精度に形成できる電気機械変換膜の製造方法を提供する。
【解決手段】PZT前駆体溶液49をノズル孔54から吐出することにより白金族電極46にPZT前駆体溶液49を塗布する塗布工程と、塗布したPZT前駆体溶液49を熱処理して結晶化する熱処理工程とを有する電気機械変換膜の製造方法において、塗布工程は、ノズル板51を例えば負極、白金族電極46を正極にして、電圧を印加する印加工程と、帯電したPZT前駆体溶液49をノズル孔54から吐出する吐出工程と、吐出された主液滴49dを白金族電極46に塗布する主液滴塗布工程と、付随液滴49eを異極性の吸引力によりノズル板51に吸引させて回収する回収工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機械変換膜をインクジェット方式により形成する場合に好適な電気機械変換膜の製造方法と該製造方法により製造された電気機械変換膜、および電気機械変換素子の製造方法と該製造方法により製造された電気機械変換素子、並びにインクジェットヘッドとインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェット記録装置は、騒音が極めて小さく、かつ高速印字が可能であり、更にはインクの自由度があり安価な普通紙を使用できる等、多くの利点を有している。このため、インクジェット記録装置は、プリンタ装置、複写機、ファクシミリ装置等の画像記録装置として広く普及している。
【0003】
この種のインクジェット記録装置では、インクジェットヘッド(液体吐出ヘッド)が使用される。インクジェットヘッドは、インク滴を吐出するノズル部と、このノズル部が連結される加圧室部と、加圧室部内のインクを加圧する圧力発生部とを備えている。
【0004】
圧力発生部には圧力発生手段が設けられている。圧力発生手段としては、加圧室部内のインクを加圧する圧電素子等の電気機械変換素子、あるいはヒータ等の電気熱変換素子、若しくは加圧室部の壁を形成する振動板とこれに対向する電極からなるエネルギ発生手段とを備えたもの等が使用される。
【0005】
これらの圧力発生手段の中で、電気機械変換素子を用いたピエゾ型と呼ばれるインクジェットヘッドは、高速化、高密度化、液滴粘度への対応性において他の方式のインクジェットヘッドに比べて優位であることから、現在開発が盛んに行われている。
【0006】
この電気機械変換素子は、下部電極(第1の電極)と、電気機械変換膜と、上部電極(第2の電極)とが積層されて構成されている。この下部電極と上部電極とに通電することにより、電気機械変換膜が変形して加圧室の振動板を押圧し、加圧室内のインクをノズル部から吐出させる。
【0007】
そして、インクジェットヘッドは複数の加圧室部を有している。これら加圧室部のそれぞれにインク吐出の圧力を発生させるために、加圧室部ごとに個別の電気機械変換素子が配置されている。
【0008】
電気機械変換膜としては、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)セラミックス等が用いられる。これは複数の金属酸化物を主成分としているので、一般に金属複合酸化物と称される。
【0009】
この種の薄膜の製造方法として、例えば、上部電極と、セラミックス薄膜と、下部電極とから形成される圧電体デバイス等のセラミックス薄膜を、2つ以上のインクジェットヘッドを利用して形成する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。このセラミックス薄膜の製造方法では、2種類以上の原料溶液を別々のインクジェットヘッドにより吐出して上部電極に塗布するものとしている。
【0010】
また、他の種の薄膜の製造方法として、インクジェットヘッド用に調整された膜前駆体溶液をインクジェットヘッドから吐出させて強誘電体膜を形成する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0011】
ここで、電気機械変換膜を形成するための原料を含む膜前駆体溶液は、通常のインクジェット記録装置で用いられるインク液に比して粘性が低く、またPZT前駆体を溶解する溶媒はそのような粘性の低いものに限られている。このため、膜前駆体溶液の主液滴がノズルから吐出されるときに、その主液滴よりもサイズの小さい微小の付随液滴が発生しやすくなる。ここでの付随液滴は、主液滴の例えば1000分の1程度の体積を有するとともに、大きな空気抵抗を受けて低速となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上述した電気機械変換膜の製造方法では、主液滴の吐出に伴って発生した付随液滴は何ら処理されずそのまま飛翔するので、付随液滴が下部電極の本来塗布すべきでない部分に塗布されてしまうことがある。あるいは、付随液滴が空気の抵抗を受けながらミスト状になって拡散し、下部電極の本来塗布すべきでない部分に塗布されてしまうことがある。
【0013】
このように、付随液滴が下部電極の本来塗布すべきでない部分に塗布されてしまうと、電気機械変換膜のパターン不良を生じてしまい、電気機械変換膜の均一性を維持できないという問題が発生する。
【0014】
これを解決するために、PZT前駆体溶液をインクジェットヘッドから安定吐出させることにより、付随液滴の発生を抑えることが考えられる。このために、例えば、電気機械変換素子に印加する吐出駆動信号の波形を改良する手法がある。しかしながら、吐出駆動信号の波形の最適化によるPZT前駆体溶液の安定吐出には限界があり、付随液滴の発生防止は極めて困難である。
【0015】
本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであり、電気機械変換膜を形成するための原料を含む膜前駆体溶液をインクジェットヘッドのノズルから吐出させて基板上に塗布するときに不要な液滴を基板に付着させることなく、所望パターンの電気機械変換膜を高精度に形成することができる電気機械変換膜の製造方法と該製造方法により製造された電気機械変換膜、および電気機械変換素子の製造方法と該製造方法により製造された電気機械変換素子、並びにインクジェットヘッドとインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る電気機械変換膜の製造方法は、上記目的達成のため、基板にインクジェットヘッドのノズルを対向させるとともに、ゾルからなる膜前駆体溶液を前記ノズルから吐出することにより前記基板に前記膜前駆体溶液を塗布する塗布工程と、塗布した前記膜前駆体溶液を熱処理して前記基板上で結晶化する熱処理工程とを有し、前記塗布工程および前記熱処理工程を少なくとも1回ずつ順に行うゾルゲル法により、前記基板の前記ノズル側に電気機械変換膜を製造する電気機械変換膜の製造方法において、前記塗布工程は、前記ノズルを所定の極性、前記基板を前記極性と反対の極性にして、前記ノズルと前記基板とに電圧を印加するとともに、前記膜前駆体溶液を帯電させる印加工程と、帯電した前記膜前駆体溶液を前記ノズルから吐出する吐出工程と、吐出された前記膜前駆体溶液の主液滴を前記基板に塗布する主液滴塗布工程と、前記主液滴に続いて吐出されるとともに前記ノズルの極性と反対の極性に帯電した付随液滴を、異極性の吸引力により前記ノズルに吸引させて回収する回収工程と、を備えることを特徴とするものである。
【0017】
これにより、ノズルから吐出した膜前駆体溶液の微小の付随液滴を基板に到達する前にノズルに回収することができるので、不要な液滴を基板に付着させることなく、所望パターンの電気機械変換膜を高精度に形成することができる。このため、パターン不良の発生を抑えて、電気機械変換膜の性能を高めることができる。
【0018】
本発明に係る電気機械変換膜の製造方法は、前記塗布工程に先立って、前記基板の前記電気機械変換膜側の前記膜前駆体溶液を塗布する部分以外の部分に、前記膜前駆体溶液の付着を阻害する表面改質を施す表面改質工程を備えることが好ましい。
【0019】
ここで、例えば、第1の電極が貴金属元素である場合、第1の電極の表面側は濡れ性を示すので、膜前駆体溶液を塗布すると同心円状に濡れ広がる虞がある。これに対し、本発明に係る電気機械変換膜の製造方法によれば、基板の電気機械変換膜側の膜前駆体溶液を塗布する部分以外の部分に、膜前駆体溶液が付着し難くなるので、所望パターンの電気機械変換膜を高精度に形成することができる。
【0020】
本発明に係る電気機械変換膜の製造方法は、前記表面改質工程は、前記基板の前記電気機械変換膜側の全面にチオール化合物を塗布し、前記膜前駆体溶液を塗布する部分以外の部分にフォトリソグラフィーによりフォトレジストを形成し、前記膜前駆体溶液を塗布する部分の前記チオール化合物をエッチングにより除去し、残った前記フォトレジストを除去するものであることが好ましい。
【0021】
これにより、チオール化合物の塗布部位は疎水性になるので、基板の電気機械変換膜側の膜前駆体溶液を塗布する部分以外の部分に膜前駆体溶液が付着し難くなり、所望パターンの電気機械変換膜を高精度に形成することができる。
【0022】
本発明に係る電気機械変換膜は、上述したいずれかに記載の電気機械変換膜の製造方法により製造したことを特徴とするものである。これにより、電気機械変換膜のパターンを高精度に形成することができるので、高性能の電気機械変換膜を得ることができる。
【0023】
本発明に係る電気機械変換素子の製造方法は、第1の電極と、電気機械変換膜と、第2の電極とを積層して成る電気機械変換素子を製造する電気機械変換素子の製造方法において、前記第1の電極の前記電気機械変換膜側に、前記電気機械変換膜を形成する電気機械変換膜形成工程と、前記電気機械変換膜の前記第2の電極側に、前記第2の電極を形成する第2の電極形成工程とを備え、前記電気機械変換膜形成工程は、上述した請求項1〜3のいずれか一項に記載の電気機械変換膜の製造方法であるとともに、前記第1の電極は前記基板であることを特徴とするものである。
【0024】
これにより、ノズルから吐出した膜前駆体溶液の微小の付随液滴を第1の電極に到達する前に回収することができるので、不要な液滴を第1の電極に付着させることなく、所望パターンの電気機械変換膜を高精度に形成することができる。このため、振動板駆動不良による液体吐出不良の発生を抑え、安定した液体吐出特性が得られるようになり、画像品質が向上するようになる。
【0025】
本発明に係る電気機械変換素子の製造方法は、前記第2の電極形成工程は、前記電気機械変換膜にインクジェットヘッドのノズルを対向させ、前記ノズルから前記第2の電極の前駆体溶液を吐出することにより前記電気機械変換膜に前記前駆体溶液を塗布し、塗布した前記前駆体溶液を熱処理して前記電気機械変換膜上で結晶化させることを特徴とするものである。
【0026】
これにより、第2の電極はインクジェットヘッドを利用したゾルゲル法により形成されるので、所望パターンの第2の電極を高精度に形成することができる。このため、振動板駆動不良による液体吐出不良の発生を抑え、安定した液体吐出特性が得られるようになり、画像品質が向上するようになる。
【0027】
本発明に係る電気機械変換素子の製造方法は、前記第1の電極は、白金族元素またはその酸化物の単層膜、あるいは白金族元素またはその酸化物を含む積層膜であり、前記電気機械変換膜は、金属複合酸化物膜であり、前記第2の電極は、白金族元素またはその酸化物の単層膜、あるいは白金族元素またはその酸化物を含む積層膜であることを特徴とするものである。
【0028】
これにより、電気機械変換素子の性能を高めることができる。
【0029】
本発明に係る電気機械変換素子は、上述したいずれかに記載の電気機械変換素子の製造方法により製造したことを特徴とするものである。よって、高精度のパターンを有する電気機械変換膜を利用することにより、振動板駆動不良による液体吐出不良の発生を抑え、安定した液体吐出特性が得られるようになり、画像品質が向上するようになる等、高性能の電気機械変換素子を得ることができる。
【0030】
本発明に係るインクジェットヘッドは、上述した電気機械変換素子を備えたことを特徴とするものである。これにより、高精度のパターンを有する電気機械変換膜を利用することにより、高性能のインクジェットヘッドを得ることができる。
【0031】
本発明に係るインクジェット記録装置は、上述したインクジェットヘッドを備えたことを特徴とするものである。これにより、高精度のパターンを有する電気機械変換膜を利用することにより、高性能のインクジェット記録装置を得ることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、電気機械変換膜を形成するための原料を含む膜前駆体溶液をインクジェットヘッドのノズルから吐出させて基板上に塗布するときに不要な液滴を基板に付着させることなく、所望パターンの電気機械変換膜を高精度に形成することができる電気機械変換膜の製造方法と該製造方法により製造された電気機械変換膜、および電気機械変換素子の製造方法と該製造方法により製造された電気機械変換素子、並びにインクジェットヘッドとインクジェット記録装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施の形態に係る電気機械変換素子を搭載したインクジェットヘッドを示す概略の縦断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る電気機械変換素子を搭載したインクジェットヘッドを示す一部を切断した状態の一部分解した斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る電気機械変換膜の製造方法により電気機械変換膜を製造する工程を示す概略図であり、(a)は白金族電極にSAM膜を形成した状態、(b)はフォトレジストをパターン形成した状態、(c)はフォトレジストの無い部分のSAM膜を除去してから全てのフォトレジストを除去した状態、(d)はSAM膜の無い部分にPZT前駆体溶液を塗布した状態、(e)はPZT前駆体溶液に熱処理を加えて電気機械変換膜を形成し全てのSAM膜を除去した状態をそれぞれ示す。
【図4】本発明の実施の形態に係る電気機械変換膜の製造方法により電気機械変換膜を製造する工程を示す概略図であり、膜形成用液体吐出ヘッドからPZT前駆体溶液を吐出する前の状態を示す。
【図5】本発明の実施の形態に係る電気機械変換膜の製造方法により電気機械変換膜を製造する工程を示す概略図であり、膜形成用液体吐出ヘッドのノズル孔からPZT前駆体溶液が突出した状態を示す。
【図6】本発明の実施の形態に係る電気機械変換膜の製造方法により電気機械変換膜を製造する工程を示す概略図であり、膜形成用液体吐出ヘッドのノズル孔からPZT前駆体溶液の主液滴が分離した直後の状態を示す。
【図7】本発明の実施の形態に係る電気機械変換膜の製造方法により電気機械変換膜を製造する工程を示す概略図であり、膜形成用液体吐出ヘッドのノズル孔からPZT前駆体溶液の主液滴が分離して付随液滴が発生した状態を示す。
【図8】本発明の実施の形態に係る電気機械変換膜の製造方法により電気機械変換膜を製造する工程を示す概略図であり、膜形成用液体吐出ヘッドのノズル孔から吐出されたPZT前駆体溶液の付随液滴がノズルに回収された状態を示す。
【図9】本発明の実施の形態に係る電気機械変換膜の製造方法により電気機械変換膜を製造するための膜形成用液体吐出ヘッドを搭載した液体吐出塗布装置を示す概略の斜視図である。
【図10】本発明の実施の形態に係るインクジェットヘッドを搭載したインクジェット記録装置を示す概略の斜視図である。
【図11】本発明の実施の形態に係るインクジェットヘッドを搭載したインクジェット記録装置を示す概略の横断面図である。
【図12】本発明の実施例1に係る電気機械変換膜の製造方法に用いる液体吐出塗布装置の膜形成用液体吐出ヘッドにより膜前駆体溶液を吐出した際の付随液滴の軌跡を示すグラフである。
【図13】本発明の実施例4に係る電気機械変換膜のP−Eヒステリシス曲線の一例を示すグラフである。
【図14】本発明の実施例7に係る電気機械変換膜の製造方法において、SAM膜を配置したままの表面における純水の接触角の様子を示す写真である。
【図15】本発明の実施例7に係る電気機械変換膜の製造方法において、SAM膜を除去した電極露出面における純水の接触角の様子を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。まず、図1および図2を参照して、本発明の実施の形態に係る電気機械変換素子の製造方法により製造された電気機械変換素子を備えたインクジェットヘッドについて説明する。
【0035】
本実施の形態のインクジェットヘッド1は、ノズル板10と、シリコン基板20と、振動板30と、電気機械変換素子40とを積層して備えている。すなわち、このインクジェットヘッド1は、ノズル板10のノズル孔11からインク液滴を吐出させるサイドシュータータイプのものである。
【0036】
シリコン基板20は、厚さ方向に貫通して形成される複数の加圧室21と、共通液室22と、各加圧室21と共通液室22とをそれぞれ連結する流体抵抗通路23とを備えている。これにより、共通液室22に流入されたインクは、各流体抵抗通路23を流通して各加圧室21に供給される。各加圧室21と、各流体抵抗通路23と、共通液室22とは、隔壁24により仕切られている。
【0037】
ノズル板10は、加圧室21ごとにノズル孔11を備えている。振動板30は、共通液室22に対向する部位が開口されてなるインク供給口31を備えている。このインク供給口31は、液滴として吐出されるインクを共通液室22に外部から供給できるようになっている。
【0038】
電気機械変換素子40は、第1の電極としての下部電極41と、電気機械変換膜43と、第2の電極としての上部電極44とを積層して備えている。下部電極41は、積層された酸化物電極45および白金族電極46を備えている。
【0039】
下部電極41は、振動板30の全域に形成されている。電気機械変換膜43と上部電極44とは、加圧室21ごとに対応する位置に別個に設けられている。これにより、一の上部電極44に電圧を印加することにより、その上部電極44に対応する加圧室21のみに圧力を加えることができるようになり、加圧室21ごとに別個に制御することができるようになっている。
【0040】
次いで、インクジェットヘッド1の動作について説明する。
【0041】
各加圧室21には、予めインクが満たされているものとする。この状態で、制御部の発振回路(図示せず)により、画像データに基づいて、インクの吐出を行いたいノズル孔11に対応する上部電極44に対して、20Vのパルス電圧が印加される。
【0042】
上部電極44から電気機械変換素子40に電圧パルスが印加されることにより、電気機械変換膜43は電歪効果によって瞬間的に振動板30と平行方向に縮む。これにより、振動板30が加圧室21の内部に向けて撓み、加圧室21内の圧力が急激に上昇して、加圧室21に連通するノズル孔11からインクが吐出される。
【0043】
パルス電圧印加後は縮んだ電気機械変換膜43が元の形状に戻るので、撓んだ振動板30も元の形状に戻る。このため、加圧室21内が共通液室22内に比べて負圧となり、共通液室22から流体抵抗通路23を流通してインクが加圧室21内に供給される。
【0044】
以上の動作を繰り返すことにより、インク液滴を連続的に吐出することができる。そして、インクジェットヘッド1に対向して配置された記録媒体に画像が形成される。
【0045】
次に、本発明の実施の形態に係る電気機械変換素子40の製造方法により、電気機械変換素子40を製造する手順について、図3を参照して説明する。
【0046】
まず、シリコン基板20と、埋め込みシリコン酸化膜と、活性層シリコンとを順に積層してなるSOI(Silicon On Insulator)基板を用意する。そして、活性層シリコンの表面側に一般的な熱酸化法により処理を施し、シリコン酸化膜を形成する。
【0047】
各層の厚さとしては、例えば、シリコン基板20は400μm、埋め込みシリコン酸化膜は500nm、活性層シリコンは2μm、シリコン酸化膜は300nmとしている。これら埋め込みシリコン酸化膜と、活性層シリコンと、シリコン酸化膜とは、振動板30を構成している。
【0048】
ここで、振動板30の表面側に形成される下部電極41は、電気機械変換素子40に信号入力する際の共通電極として電気的に接続される。このため、下部電極41の下に積層される振動板30は絶縁体であるか、もしくは導体であれば絶縁処理を施して用いる必要がある。そこで、本実施形態では、振動板30は、いずれも絶縁体である埋め込みシリコン酸化膜と、活性層シリコンと、シリコン酸化膜とから形成されるものとしている。
【0049】
本実施形態では、振動板30は、埋め込みシリコン酸化膜と、活性層シリコンと、シリコン酸化膜とから形成されるものとしたが、これに限られず、例えば、シリコン酸化膜、窒化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜、これらの膜を積層した膜としてもよい。これらのシリコン系絶縁膜としては、熱酸化膜やCVD堆積膜を用いる。
【0050】
あるいは、振動板30としては、熱膨張差を考慮した酸化アルミニウム膜、ジルコニア膜等のセラミック膜で、絶縁処理を施したものでもよい。これらの金属酸化膜はスパッタリング法で成膜することができる。
【0051】
そして、振動板30の表面側に下部電極41が形成される。これは、まず振動板30の表面側に、スパッタ法により、酸化物電極45が形成される。
【0052】
ここで、酸化物電極45に積層する下部電極41の材料としては、耐熱性かつアルカンチオールとの反応によりSAM(Self−Assembled Monolayer)膜を形成可能な金属である必要がある。銅や銀はSAM膜を形成可能であるが、大気下中で500〜700℃の熱処理により変質してしまうので用いることは好ましくない。また、金は、SAM膜を形成可能であるとともに500〜700℃程度の熱処理でも変質しないものの、積層する電気機械変換膜43の結晶化に不利であるので好ましくない。
【0053】
これに対し、白金、ロジウム、ルテニウム、イリジウムの単金属や白金−ロジウムなどの白金を主成分とした他の白金族元素との合金材料は、チオールとの反応性に優れてSAM膜を形成可能であるとともに、500〜700℃程度の熱処理でも変質せず、また積層する電気機械変換膜43の結晶化にも有利である。
【0054】
そこで、本実施の形態では、酸化物電極45の表面側に、スパッタ法により、白金族電極46が積層して形成される。また、シリコン基板20と、振動板30と、下部電極41とを積層したものをPZT形成前基板25と呼ぶ。
【0055】
そして、図3(a)に示すように、白金族電極46の表面側にSAM(Self−Assembled Monolayer)膜47が形成される。SAM膜47は、PZT形成前基板25をアルカンチオール液に浸漬することにより得られる。
【0056】
本実施の形態では、アルカンチオール液として、CH(CH)−SHのアルカンチオールの分子をアルコール、アセトン、トルエン等の一般的な有機溶媒に、例えば、数mol/Lの濃度で溶解させたものを用いている。
【0057】
このアルカンチオール液に、PZT形成前基板25を浸漬させ、所定時間後に取り出した後、余剰な分子を溶媒で置換洗浄し乾燥する。これにより、白金族電極46の表面側に有機分子が自己配列され、SAM膜47が形成される。SAM膜47の表面側にはアルキル基が配置されている。このため、SAM膜47の表面側は疎水性となる。
【0058】
次に、図3(b)に示すように、フォトリソグラフィーによりフォトレジスト48を所定のパターンでパターン形成する。さらに、図3(c)に示すように、例えば、酸素プラズマの照射又はUV光の照射といったドライエッチングによりSAM膜47を除去する。そして、加工に用いたフォトレジスト48を除去してSAM膜47のパターニングを終了する(表面改質工程)。
【0059】
このように形成されたSAM膜47は、純水に対する接触角が例えば92度であり、疎水性を示す。一方、SAM膜47が除去されて露出した基板の白金族電極46の表面は、純水に対する接触角が例えば5度であり、親水性を示す。
【0060】
次に、図3(d)に示すように、ゾルからなるPZT前駆体溶液49の液滴を後述する膜形成用液体吐出ヘッド50により吐出させる液体吐出方式によって、PZT前駆体溶液49が塗布される(塗布工程)。
【0061】
ここで、疎水性であるSAM膜47上にはPZT前駆体溶液49が塗布されず、SAM膜47の除去された親水性である白金族電極46のみにPZT前駆体溶液49が塗布されるようになる。すなわち、疎水面および親水面の表面エネルギのコントラストを利用して、PZT前駆体溶液49が塗り分けられる。
【0062】
そして、図3(e)に示すように、塗布されたPZT前駆体溶液49を、例えば120℃で乾燥させ(乾燥工程)、例えば500℃で熱分解し(熱分解工程)、最後に例えば700℃で結晶化させる(結晶化工程)という熱処理を施す(熱処理工程)。これにより、ゾルゲル法を利用して電気機械変換膜43が得られるとともに、熱処理により全てのSAM膜47が除去される(電気機械変換膜形成工程)。
【0063】
さらに、電気機械変換膜43の表面側に、スパッタ法により白金族の上部電極44が積層して形成される(第2の電極形成工程)。これにより、電気機械変換素子40が製造される。
【0064】
次に、図3(d)に示すPZT前駆体溶液49の塗布工程において、PZT前駆体溶液49を塗布するときに用いる膜形成用液体吐出ヘッド50について説明する。
【0065】
図4に示すように、膜形成用液体吐出ヘッド50は、ノズル板51と、図示しないシリコン基板と、振動板52と、電気機械変換素子53とを積層して備えている。すなわち、この膜形成用液体吐出ヘッド50は、ノズル板51のノズル孔54から液滴を吐出させるサイドシュータータイプのものである。
【0066】
ノズル板51はノズル孔54を有している。シリコン基板は膜前駆体溶液であるPZT前駆体溶液49を入れる加圧室55を有している。また、この膜形成用液体吐出ヘッド50の構成は、上述した図1に示すインクジェットヘッド1と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0067】
電気機械変換素子53には、吐出駆動電源56が設けられている。ノズル板51は接地されている。そして、吐出駆動電源56は、所定の制御プログラムおよび制御データに基づいて、パルス状の電圧からなる吐出駆動信号を電気機械変換素子53に印加する。
【0068】
そして、吐出駆動電源56から電気機械変換素子53に吐出駆動信号が印加されると、電気機械変換素子53が変形し、それに伴って振動板52が加圧室55側に変形する。これにより、加圧室55内が加圧され、PZT前駆体溶液49の液滴がノズル孔54から吐出される。
【0069】
また、膜形成用液体吐出ヘッド50のノズル板51に対向して、PZT前駆体溶液49を塗布する対象であるPZT形成前基板25が白金族電極46を表面側にして設置される。ノズル板51と白金族電極46との間隔は、通常のインクジェット記録装置における印刷時のノズル面と印刷対象物との間隔と同様の0.5〜1mmとしている。
【0070】
PZT形成前基板25は、板状の荷電偏向電極57に載置されている。荷電偏向電極57は印加電源58により所定極性の荷電偏向電圧を印加されている。これにより、荷電偏向電極57およびPZT形成前基板25はプラスに帯電されるとともに、膜形成用液体吐出ヘッド50およびPZT前駆体溶液49はマイナスに帯電される。ここで、図4〜図8中、「+」は正極性の帯電イオン分子、「−」は負極性の帯電イオン分子を表している。
【0071】
次に、図4〜図8を参照して、膜形成用液体吐出ヘッド50を用いたPZT前駆体溶液49の塗布工程を詳細に説明する。
【0072】
図4に示すように、PZT前駆体溶液49の吐出駆動信号が電気機械変換素子53に印加されていない吐出待機状態では、ノズル板51およびPZT前駆体溶液49は印加電源58によりマイナスに帯電されている(印加工程)。
【0073】
そして、図5に示すように、吐出駆動電源56により吐出駆動信号が印加されると、PZT前駆体溶液49の液柱状の先端部49aがノズル孔54から外部に突出する。負極性に帯電したノズル孔54を通過したPZT前駆体溶液49は、摩擦帯電によりノズル板51の帯電極性と反対極性である正極性に帯電する。
【0074】
ここで、ノズル板51は負極性に帯電しているので、分裂前のPZT前駆体溶液49中の正極性の帯電イオン分子はノズル板51側に引き寄せられる。また、分裂前のPZT前駆体溶液49中の負極性の帯電イオン分子は、正極性の帯電イオン分子との反発によりノズル板51と反対方向に移動する。
【0075】
さらに、図6に示すように、ノズル51の外部に突出したPZT前駆体溶液49は、ノズル51内のPZT前駆体溶液49から曳糸切断され、主液滴49bとなる(吐出工程)。主液滴49bの分裂時にノズル板51は負極性に帯電しているので、分裂後の主液滴49bの中でノズル板51に近い部分には正極性の帯電イオン分子が引き寄せられ、ノズル板51から遠い部分には負極性の帯電イオン分子が集められる。
【0076】
そして、図7に示すように、主液滴49dから付随液滴49eが分裂する。付随液滴49eは、主液滴49dのノズル板51に近い部分から分裂するので、正極性に帯電している。
【0077】
ここで、主液滴49dの直径は30μm程度であるのに対し、付随液滴49eの直径は数μm程度である。また、液滴の飛翔速度は、主液滴49dが6〜8m/sであるのに対し、付随液滴49eの液滴速度は4m/s以下である。このため、付随液滴49eはミスト状に発生する。
【0078】
そして、付随液滴49eは正極性であるとともにノズル板51は負極性であるので、付随液滴49eとノズル板51との間に静電気による吸引力が作用する。ここで、付随液滴49eの体積は小さく、液滴速度は遅いので、付随液滴49eはノズル板51に引き寄せられる。
【0079】
また、ノズル板51と荷電偏向電極57との間の印加電圧を適宜調整することにより、付随液滴49eの回収位置を調整することができる(図12を参照。)。さらに、ノズル板51と荷電偏向電極57との間の印加電圧を所定値より大きく設定することにより、付随液滴49eをノズル孔54に回収することができる(図12を参照。)。
【0080】
付随液滴49eは、ノズル孔54からPZT前駆体溶液49に回収されたり、あるいは、図8に示すように、ノズル板51の表面に付着して液滴49gとなる(回収工程)。これにより、付随液滴49eがPZT形成前基板25に着地することなく回収されるので、従来のように付随液滴49eが本来PZT前駆体溶液49を塗布すべき領域以外に着地してパターン不良の原因を生ずることを抑制できる。
【0081】
また、主液滴49dから正極性に帯電した付随液滴49eが分裂したことにより、図8に示すように、主液滴49fは負極性に帯電した状態と等価になる。これにより、主液滴49fは、正極性に帯電したPZT形成前基板25との間に静電気による吸引力が作用して、PZT形成前基板25に対してより確実に塗布される(主液滴塗布工程)。
【0082】
また、ノズル孔54に回収されずノズル板51に付着した液滴49gは、ノズル板51を適宜クリーニングすることにより拭き取るようにする。これにより、ノズル板51のクリーニングという容易な操作で付着した液滴49gを回収することができる。
【0083】
上述した膜形成用液体吐出ヘッド50を備えた液体吐出塗布装置100について説明する。
【0084】
図9に示すように、この液体吐出塗布装置100は、架台110と、X軸駆動手段120と、Y軸駆動手段130と、Z軸駆動手段140と、液体吐出塗布手段150とを備えている。架台110は平板状で、Y軸駆動手段130と、X軸駆動手段120とが設置されている。
【0085】
Y軸駆動手段130は、ステージ131と、図示しないY軸駆動部材とを備えている。Y軸駆動部材は、ステージ131をY軸方向に駆動するように設置されている。
【0086】
ステージ131には、シリコン基板20、振動板30、下部電極41が積層されてなる基板が搭載される。また、ステージ131は、荷電偏向電極57と、図示しない吸着手段とを備えている。
【0087】
吸着手段は、負圧あるいは静電気等により、PZT形成前基板25を荷電偏向電極57に固定するものとしている。荷電偏向電極57には印加電源58が接続されている。
【0088】
X軸駆動手段120は、X軸支持部材121と、図示しないX軸駆動部材とを備えている。X軸駆動部材は、X軸支持部材121によって支持されるとともに、Z軸駆動手段140を保持している。これにより、Z軸駆動手段140をX軸方向に駆動するようになっている。
【0089】
Z軸駆動手段140は、ヘッドベース141と、図示しないZ軸駆動部材とを備えている。Z軸駆動部材は、ヘッドベース141をZ軸方向に駆動するように設置されている。
【0090】
液体吐出塗布手段150は、液体吐出ヘッド50と、供給用パイプ151とを備えている。液体吐出塗布手段150は、ヘッドベース141に搭載されている。液体吐出ヘッド50には、図示しない液体タンクから供給用パイプ151によりPZT前駆体溶液49が供給される。また、膜形成用液体吐出ヘッド50には吐出駆動電源56が接続されている。
【0091】
上述したように本実施の形態に係るインクジェットヘッド1によれば、電気機械変換膜43の形成時に不要な液滴を下部電極41に付着させることなく、所望パターンの電気機械変換膜43を高精度に形成することができる。これにより、振動板駆動不良による液体吐出不良の発生を抑え、安定した液体吐出特性が得られるようになり、画像品質が向上するようになる。
【0092】
また、本実施の形態に係る電気機械変換膜の製造方法によれば、PZT前駆体溶液49の塗布前に表面改質工程を行っているので、白金族電極46の表面側のPZT前駆体溶液49を塗布する部分以外の部分に、PZT前駆体溶液49が付着し難くなる。これにより、所望パターンの電気機械変換膜43を高精度に形成することができる。
【0093】
さらに、上述した本発明の実施の形態に係るインクジェットヘッド1を備えたインクジェット記録装置5について説明する。
【0094】
図10および図11に示すように、インクジェット記録装置5は、記録媒体Pに対して印刷を行う印刷機構部60と、記録媒体Pの給紙を行う給紙機構部70と、記録媒体Pの排紙を行う排紙機構部80と、回復部90とを備えている。
【0095】
印刷機構部60は、インクジェットヘッド1と、インクカートリッジ61と、キャリッジ62と、主ガイドロッド63と、従ガイドロッド64と、主走査モータ65と、駆動プーリ66と、従動プーリ67と、タイミングベルト68とを備えている。
【0096】
インクジェットヘッド1は、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出するよう4個別個に設けられている。各インクジェットヘッド1は、それぞれ複数のノズル孔11を副走査方向に直線状に配列し、キャリッジ62に対してインク滴の吐出方向を下方に向けて装着されている。
【0097】
本実施の形態では、インクジェットヘッド1は各色ごと別個に設けられているが、これには限られず、各色のインク滴を吐出する別個のノズル孔11を有する1個のインクジェットヘッド1を設けるようにしてもよい。
【0098】
インクカートリッジ61は、上方に設けられた大気と連通する図示しない大気口と、下方に設けられたインクジェットヘッド1にインクを供給する図示しない供給口と、内部に設けられたインクが充填された図示しない多孔質体とを有している。多孔質体では、毛管力により、インクジェットヘッド1へ供給されるインクがわずかな負圧に維持されている。これにより、インクカートリッジ61は、インクジェットヘッド1にインクを供給するようになっている。
【0099】
主ガイドロッド63および従ガイドロッド64は、図示しない左右の側板に横架され、キャリッジ62を主走査方向に摺動自在に保持している。
【0100】
キャリッジ62には、インクカートリッジ61が交換可能に装着されている。キャリッジ62は、後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド63に摺動自在に嵌装されるとともに、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド64に摺動自在に載置されている。
【0101】
駆動プーリ66および従動プーリ67は、主走査方向の両端部に配置されている。駆動プーリ66は、主走査モータ65に取り付けられて回転駆動される。
【0102】
タイミングベルト68は、駆動プーリ66および従動プーリ67に張装されている。タイミングベルト68は、キャリッジ62に固定されている。主走査モータ65の正逆回転により、動力が駆動プーリ66およびタイミングベルト68を経由して、キャリッジ62が主走査方向に往復駆動される。
【0103】
給紙機構部70は、給紙カセット71と、手差しトレイ72と、給紙ローラ73と、フリクションパッド74と、ガイド部材75と、搬送ローラ76と、搬送コロ77と、先端コロ78と、副走査モータ79と、印写受け部材81とを備えている。
【0104】
給紙カセット71(或いは給紙トレイでもよい。)は、インクジェット記録装置5の下部に設けられるとともに、前方側から多数枚の記録媒体Pを取り込んで積載可能とされている。給紙カセット71は、インクジェット記録装置5に対して抜き差し装着可能となっている。
【0105】
手差しトレイ72は、開倒可能とされている。手差しトレイ72を開倒することにより、記録媒体Pを手差しで給紙することができる。給紙ローラ73およびフリクションパッド74は、給紙カセット71にセットした記録媒体Pを分離給装する。ガイド部材75は記録媒体Pを案内する。
【0106】
搬送ローラ76は、給紙された記録媒体Pを反転させて搬送する。搬送コロ77は、搬送ローラ76の周面に押し付けられて、搬送ローラ76との間で記録媒体Pを挟み込む。先端コロ78は、搬送ローラ76からの記録媒体Pの送り出し角度を規定する。
【0107】
副走査モータ79は、ギヤ列を介して搬送ローラ76に連結されて、搬送ローラ76を回転駆動させる。印写受け部材81は、キャリッジ62の主走査方向の移動範囲に対応して設けられている。印写受け部材81は、搬送ローラ76から送り出された記録媒体Pをインクジェットヘッド1の下方側で案内する。
【0108】
排紙機構部80は、搬送コロ82と、拍車83と、排紙ローラ84と、拍車85と、上ガイド部材86と、下ガイド部材87と、排紙トレイ88とを備えている。
【0109】
搬送コロ82および拍車83は、印写受け部材81の用紙搬送方向下流側に設けられるとともに、記録媒体Pを排紙方向へ送り出すために回転駆動する。排紙ローラ84および拍車85は、記録媒体Pを排紙トレイ88に送り出す。上ガイド部材86および下ガイド部材87は、印写受け部材81から排紙トレイ88までの排紙経路を形成する。排紙トレイ88は、インクジェット記録装置5の後面側に装着されている。
【0110】
回復部90は、インクジェットヘッド1の吐出不良を回復するものであり、図10中、キャリッジ62の移動方向の右端側の記録領域を外れた位置に設けられている。回復部90は、図示しないキャップ手段と、図示しない吸引手段と、図示しないクリーニング手段とを有している。
【0111】
上述したインクジェット記録装置5の動作を以下に説明する。
【0112】
給紙カセット71あるいは手差しトレイ72に記録媒体Pが装填される。記録媒体Pは、インクジェット記録装置5の内部に取り込まれ、給紙機構部70によりインクジェットヘッド1の下方まで搬送される。
【0113】
印刷時には、印刷機構部60により、キャリッジ62を移動させながら画像信号に応じてインクジェットヘッド1を駆動する。これにより、停止している記録媒体Pにインクを吐出して1行分を記録し、記録媒体Pを所定量搬送後、次の行の記録を行う。記録終了信号、または記録媒体Pの後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、印刷機構部60の記録動作を終了させる。そして、排紙機構部80により、記録媒体Pを後面側に装着された排紙トレイ88に排出する。
【0114】
一方、印刷待機中には、キャリッジ62は回復部90に移動されて、キャップ手段によりインクジェットヘッド1がキャッピングされる。これにより、ノズル孔11を湿潤状態に保つことができ、インク乾燥による吐出不良を防止できる。また、記録途中等には、記録と関係しないインクをも吐出することにより、全てのノズル孔11のインクの粘度を一定にして、安定した吐出性能を維持する。
【0115】
また、インクの吐出不良が発生した場合等には、キャップ手段によりインクジェットヘッド1のノズル孔11を密封する。そして、チューブを通して吸引手段でノズル孔11からインクとともに気泡等を吸い出す。これにより、ノズル板10のノズル孔11近傍に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去されるので、インクの吐出不良が回復される。
【0116】
クリーニング手段により吸引されたインクは、インクジェット記録装置5の下部に設置された図示しない廃インク溜に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
【0117】
上述したように、本実施の形態のインクジェット記録装置5によれば、上述したインクジェットヘッド1を搭載しているので、振動板駆動不良によるインク滴吐出不良がなく、安定したインク滴吐出特性が得られるようになり、画像品質が向上するようになる。
【0118】
ここで、本実施の形態に係る電気機械変換素子の製造方法においては、図3(a)〜(e)の処理を1回ずつ行って所定膜厚の電気機械変換膜43を得ているが、本発明の電気機械変換素子の製造方法においては、これに限定されない。例えば、図3(c)〜(e)の工程を2回以上繰り返して電気機械変換膜43を多層に重ねて形成し、所定膜厚の電気機械変換膜43を得るようにしてもよい。
【0119】
この場合、図3(e)に示す電気機械変換膜43の形成されたPZT形成前基板25をアルカンチオール液に浸漬させ、所定時間後に取り出して、余剰な分子を溶媒で置換洗浄し乾燥する。これにより、白金族電極46の表面側に有機分子が自己配列され、SAM膜47が形成される。
【0120】
ここで、SAM膜47は、電気機械変換膜43のような酸化物薄膜には形成されない。このため、SAM膜47は電気機械変換膜43の形成された部分以外の部分である白金族電極46の露出している表面側のみに形成される。
【0121】
これにより、図3(b)に示すような所定のパターンのフォトレジスト48を形成することなく、SAM膜47は1回目の電気機械変換膜43の形成時と同じパターンに形成される。所望のパターンに形成される。よって、1回目の電気機械変換膜43の形成時のSAM膜47の形成に比べて、処理手順を簡素化することができる。
【0122】
このように、電気機械変換膜43を多層に重ねて膜厚を厚くすることにより、一度の成膜処理で厚く成膜する場合に比べて、電気機械変換膜43のクラックの発生を抑制しながらも十分に厚い電気機械変換膜43を得ることができるようになる。電気機械変換膜43の厚さとしては、例えば、5μm程度にまで形成することができる(実施例5を参照。)。
【0123】
また、本実施の形態に係る電気機械変換素子の製造方法においては、下部電極41上のPZT前駆体溶液49が塗布される所定部分以外の表面をSAM膜47によって疎水面にする表面改質を行っているが、本発明の電気機械変換素子の製造方法においては、これに限定されない。例えば、下部電極41の表面が疎水面の場合は、その下部電極41上のPZT前駆体溶液49が塗布される所定部分の表面を親水面にする表面改質を行うようにしてもよい。
【0124】
また、本実施の形態に係る電気機械変換膜の製造方法においては、PZT前駆体溶液49の塗布前に表面改質工程を行っているが、本発明の電気機械変換膜の製造方法においては、これに限定されず、表面改質工程は無くてもよい。
【0125】
また、本実施の形態に係る電気機械変換膜の製造方法においては、ノズル51をマイナスに帯電させているが、本発明の電気機械変換膜の製造方法においては、これに限定されない。例えば、ノズル51をプラスに帯電するようにしてもよい。この場合、図4〜図8を用いて説明した作用と全て反対の極性となるが、液滴等の挙動は同様である。
【0126】
また、今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であってこの実施の形態に制限されるものではない。本発明の範囲は、上記した実施の形態のみの説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【実施例】
【0127】
(実施例1)
図4に示す膜形成用液体吐出ヘッド50と、吐出駆動電源56と、荷電偏向電極57と、印加電源58とを用いてPZT前駆体溶液49を吐出し、発生した付随液滴49eをノズル板51に回収した。回収された付随液滴49eの軌跡を、ノズル孔54の中心からの距離と、ノズル板51の表面からの距離との関係で示し、付随液滴49eの回収位置を検討した。
【0128】
本実施例では、ノズル孔54の半径rは15μmとした。また、回収の際、荷電偏向電極57による印加電圧を、100V、200V、300Vの3種類に変更した。その結果を図12に示す。
【0129】
図12に示すように、印加電圧が異なりノズル板51と荷電偏向電極57との間の電界の強度が異なると、付随液滴49eの回収位置が異なる。付随液滴49eの回収位置は、印加電圧を大きくするとノズル孔54の中心に近くなった。また、本実施例では、ノズル孔54の直径が30μmであり、200V以上の電圧印加により付随液滴49eはノズル孔54に回収された。
【0130】
以上より、ノズル板51と荷電偏向電極57との間の印加電圧を適宜調整することにより、付随液滴49eの回収位置を調整できることが判明した。また、ノズル板51と荷電偏向電極57との間の印加電圧を所定値より大きく設定することにより、付随液滴49eをノズル孔54に回収可能であることが判明した。
【0131】
(実施例2)
図9に示す液体吐出塗布装置100を用いて、図3に示す処理により、白金族電極46の表面側に膜形成用液体吐出ヘッド50によりPZT前駆体溶液49を塗布して電気機械変換膜43を形成した。
【0132】
PZT前駆体溶液49は、出発材料に酢酸鉛三水和物、イソプロポキシドチタン、ノルマルブトキシドジルコニウムを用いた。酢酸鉛の結晶水はメトキシエタノールに溶解後、脱水した。熱処理中のいわゆる鉛抜けによる結晶性低下を防ぐために、化学量論組成に対し鉛量を10mol%過剰にした。
【0133】
イソプロポキシドチタン、ノルマルブトキシドジルコニウムをメトキシエタノールに溶解し、アルコール交換反応、エステル化反応を進めた。そして、上述した酢酸鉛を溶解したメトキシエタノール溶液と均一に混合することで、PZT前駆体溶液49を合成した。
【0134】
一度の成膜で得られる膜厚は、結晶化の際のクラック発生を防ぐために100nm以下が好ましい。このため、PZT前駆体溶液49の前駆体濃度は、電気機械変換膜43の成膜面積とPZT前駆体溶液49の塗布量との関係から適正化するように調整するのが好ましい。本実施例では、PZT前駆体溶液49のPZT濃度は0.1mol/Lにした。
【0135】
ただし、PZT前駆体溶液49のPZT濃度が0.1mol/Lに限定されないのは勿論であり、PZT前駆体の濃度が高ければ、形成される膜厚は厚くなるので、PZT前駆体の濃度は必要な膜厚に応じて適宜設定するようにする。
【0136】
ここで、PZTとは、ジルコン酸鉛(PbZrO)とチタン酸鉛(PbTiO)の固溶体で、その比率により特性が異なる。一般的に優れた圧電特性を示す組成はPbZrOとPbTiOの比率が53:47の割合で、Pb(Zr0.53,Ti0.47)O、一般にPZT(53/47)と示される。酢酸鉛、ジルコニウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物の出発材料は、この化学式に従って秤量される。
【0137】
また、金属アルコキシド化合物は大気中の水分により容易に加水分解してしまうので、前駆体溶液に安定剤としてアセチルアセトン、酢酸、ジエタノールアミン等の安定化剤を適量、添加してもよい。
【0138】
本実施例では、白金族電極46にSAM膜47を部分的に形成する表面改質工程(図3(a)〜(c))と、液体吐出塗布装置100を用いてPZT前駆体溶液49を選択的に塗布する塗布工程(図3(d))と、塗布したPZT前駆体溶液49を所定温度(120℃)で乾燥させる乾燥工程(図3(e))と、乾燥したPZT前駆体溶液49を所定温度(500℃)で熱分解する熱分解工程(図3(e))とを1回ずつ行った。
【0139】
これにより、白金族電極46の表面側に、所定パターンからなる膜厚100nmの膜を得た。そして、上述した表面改質工程、塗布工程、乾燥工程、熱分解工程を6回繰り返すことにより、膜厚600nmの膜を得た。さらに、得られた膜厚600nmの膜に、700℃の結晶化熱処理を急速熱処理(RTA)にて行った。
【0140】
その結果、白金族電極46の表面側に膜厚600nmのパターン化した電気機械変換膜43を得た。この電気機械変換膜43にクラック等の不良は生じなかった。また、付随液滴49eの回収により、必要なパターン形成部以外にPZT前駆体溶液49が塗布されるパターン不良の発生はなかった。
【0141】
(実施例3)
実施例2において得られた膜厚600nmの電気機械変換膜43に対し、さらに処理を施した。ここでは、上述と同様の表面改質工程、塗布工程、乾燥工程(120℃)、熱分解工程(500℃)を6回繰り返した後、結晶化処理を2サイクル行った。
【0142】
その結果、膜厚1000nmのパターン化した電気機械変換膜43を得た。この電気機械変換膜43にクラック等の不良は生じなかった。
【0143】
(実施例4)
実施例3において得られた膜厚1000nmの電気機械変換膜43に対し、さらに処理を施した。ここでは、電気機械変換膜43に白金からなる上部電極44をスパッタリング成膜し、電気特性および電気−機械変換能(圧電定数)の評価を行った。
【0144】
その結果、電気特性については、図13に示すP(分極)−E(電界強度)のヒステリシス曲線が得られた。電気機械変換膜43の比誘電率は1220、誘電損失は0.02、残留分極は19.3μC/cm、抗電界は36.5kV/cmであった。したがって、この電気機械変換膜43は、通常のセラミック焼結体と同等の電気特性を持っていることが判明した。
【0145】
また、電気−機械変換能については、電界印加による変形量をレーザードップラー振動計で計測し、シミュレーションによる合わせ込みから算出した。その結果、圧電定数d31は120pm/Vとなった。したがって、この電気機械変換膜43は、電気−機械変換能においてもセラミック焼結体と同等の値であった。この値は、一般的なインクジェットヘッドに用いる電気機械変換膜(圧電素子)として十分適用可能な特性値である。
【0146】
これらのことより、この電気機械変換膜43は、一般的なインクジェットヘッドに用いる電気機械変換膜として十分適用可能であることが明らかになった。
【0147】
(実施例5)
実施例3において得られた膜厚1000nmの電気機械変換膜43に対し、さらに処理を施した。ここでは、上部電極44を配置せずに、電気機械変換膜43の更なる厚膜化を試みた。具体的には、上述した表面改質工程、塗布工程、乾燥工程(120℃)、熱分解工程(500℃)の6回の繰り返しおよびその後の結晶化処理を一組として、これを10回繰り返した。
【0148】
その結果、膜厚5μmのパターン化した電気機械変換膜43を得た。この電気機械変換膜43にクラック等の不良は生じなかった。これにより、この電気機械変換膜43は、必要に応じて十分な厚膜化が可能であることが明らかになった。
【0149】
(実施例6)
図9に示す液体吐出塗布装置100を用いて、白金族電極46に形成した電気機械変換膜43の必要な部分のみに膜形成用液体吐出ヘッド50により白金材料を含む液(白金インク)を塗布して乾燥させた。他は実施例2と同様に行った。
【0150】
白金材料を含む液(白金インク)を塗布するときには、実施例2でPZT前駆体溶液49を塗布したときと同様に、疎水面および親水面の表面エネルギのコントラストを利用して塗布領域を規定した。
【0151】
上部電極は、短絡を防止するために電気機械変換膜43のパターンより小さい領域に塗布する必要があるため、電気機械変換膜43の膜上にも疎水面を設ける必要がある。このため、本実施例では、まず白金からなる上部電極を形成しない部分にレジストをパターニングした。そして、液体吐出ヘッド50で白金材料を含む液(白金インク)の塗布を行い、120℃で白金を乾燥処理した後に、レジストを剥離して最終的に250℃で焼結した。
【0152】
その結果、膜厚0.5μmのパターン化した上部電極44を得た。この上部電極44にクラック等の不良は生じなかった。上部電極44の比抵抗(体積抵抗率)は5×10−6Ω・cmであった。また、液体吐出ヘッド50における付随液滴49eの回収により、必要なパターン形成部以外に白金インクが塗布されるパターン不良の発生はなかった。
【0153】
(実施例7)
下部電極41を構成する白金族電極46の代わりに、チタン密着層を配置した熱酸化膜付きシリコンウェハ上に、ルテニウムをスパッタリング成膜して下部電極41を得た。SAM膜47の形成等、他の工程は実施例2と同様に行った。
【0154】
その結果、SAM膜47を配置したままの表面における純水の接触角は92.2°で、疎水状態であった(図14を参照。)。また、SAM膜47を除去した電極露出面における純水の接触角は5°で、完全濡れ状態であった(図15を参照。)。
【0155】
(実施例8)
下部電極41を構成する白金族電極46の代わりに、チタン密着層を配置した熱酸化膜付きシリコンウェハ上に、イリジウムをスパッタリング成膜して下部電極41を得た。SAM膜47の形成等、他の工程は実施例2と同様に行った。
【0156】
(実施例9)
下部電極41を構成する白金族電極46の代わりに、チタン密着層を配置した熱酸化膜付きシリコンウェハ上に、ロジウムをスパッタリング成膜して下部電極41を得た。SAM膜47の形成等、他の工程は実施例2と同様に行った。
【0157】
(実施例10)
下部電極41を構成する白金族電極46の代わりに、チタン密着層を配置した熱酸化膜付きシリコンウェハ上に、白金−ロジウム(ロジウム濃度は15wt%)をスパッタリング成膜して下部電極41を得た。SAM膜47の形成等、他の工程は実施例2と同様に行った。
【0158】
(実施例11)
下部電極41を構成する白金族電極46の代わりに、イリジウム酸化膜付きシリコンウェハ上に、イリジウム金属をスパッタリング成膜して下部電極41を得た。SAM膜47の形成等、他の工程は実施例2と同様に行った。
【0159】
(実施例12)
下部電極41を構成する白金族電極46の代わりに、イリジウム酸化膜付きシリコンウェハ上に、白金膜をスパッタリング成膜して下部電極41を得た。SAM膜47の形成等、他の工程は実施例2と同様に行った。
【0160】
その結果、実施例8〜実施例12において、いずれもSAM膜47を配置したままの表面における純水の接触角は約90°で、疎水状態であった。また、いずれも、SAM膜47を除去した電極露出面における純水の接触角は約5°で、完全濡れ状態であった。
【産業上の利用可能性】
【0161】
以上説明したように、本発明によれば、電気機械変換膜を形成するための原料を含む膜前駆体溶液をインクジェットヘッドのノズルから吐出させて基板上に塗布するときに不要な液滴を基板に付着させることなく、所望パターンの電気機械変換膜を高精度に形成することができる電気機械変換膜の製造方法と該製造方法により製造された電気機械変換膜、および電気機械変換素子の製造方法と該製造方法により製造された電気機械変換素子、並びにインクジェットヘッドとインクジェット記録装置を提供することができるという効果を奏するものであり、例えば、プリンタ装置、複写機、ファクシミリ装置等の画像記録装置に用いられるインクジェット記録装置全般に有効である。
【符号の説明】
【0162】
1 インクジェットヘッド
5 インクジェット記録装置
40 電気機械変換素子
41 下部電極(第1の電極)
43 電気機械変換膜
44 上部電極(第2の電極)
46 白金族電極(基板)
47 SAM膜(チオール化合物)
48 フォトレジスト
49 PZT前駆体溶液(膜前駆体溶液)
49d,49f 主液滴
49e 付随液滴
50 膜形成用液体吐出ヘッド(液体吐出ヘッド)
51 ノズル板(ノズル)
54 ノズル孔(ノズル)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0163】
【特許文献1】特開2003−297825号公報
【特許文献2】特許第4269172号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板にインクジェットヘッドのノズルを対向させるとともに、ゾルからなる膜前駆体溶液を前記ノズルから吐出することにより前記基板に前記膜前駆体溶液を塗布する塗布工程と、
塗布した前記膜前駆体溶液を熱処理して前記基板上で結晶化する熱処理工程とを有し、
前記塗布工程および前記熱処理工程を少なくとも1回ずつ順に行うゾルゲル法により、前記基板の前記ノズル側に電気機械変換膜を製造する電気機械変換膜の製造方法において、
前記塗布工程は、
前記ノズルを所定の極性、前記基板を前記極性と反対の極性にして、前記ノズルと前記基板とに電圧を印加するとともに、前記膜前駆体溶液を帯電させる印加工程と、
帯電した前記膜前駆体溶液を前記ノズルから吐出する吐出工程と、
吐出された前記膜前駆体溶液の主液滴を前記基板に塗布する主液滴塗布工程と、
前記主液滴に続いて吐出されるとともに前記ノズルの極性と反対の極性に帯電した付随液滴を、異極性の吸引力により前記ノズルに吸引させて回収する回収工程と、
を備えることを特徴とする電気機械変換膜の製造方法。
【請求項2】
前記塗布工程に先立って、前記基板の前記電気機械変換膜側の前記膜前駆体溶液を塗布する部分以外の部分に、前記膜前駆体溶液の付着を阻害する表面改質を施す表面改質工程を備えることを特徴とする請求項1に記載の電気機械変換膜の形成方法。
【請求項3】
前記表面改質工程は、前記基板の前記電気機械変換膜側の全面にチオール化合物を塗布し、前記膜前駆体溶液を塗布する部分以外の部分にフォトリソグラフィーによりフォトレジストを形成し、前記膜前駆体溶液を塗布する部分の前記チオール化合物をエッチングにより除去し、残った前記フォトレジストを除去するものであることを特徴とする請求項2に記載の電気機械変換膜の形成方法。
【請求項4】
上述した請求項1〜3のいずれか一項に記載の電気機械変換膜の製造方法により製造したことを特徴とする電気機械変換膜。
【請求項5】
第1の電極と、電気機械変換膜と、第2の電極とを積層して成る電気機械変換素子を製造する電気機械変換素子の製造方法において、
前記第1の電極の前記電気機械変換膜側に、前記電気機械変換膜を形成する電気機械変換膜形成工程と、
前記電気機械変換膜の前記第2の電極側に、前記第2の電極を形成する第2の電極形成工程とを備え、
前記電気機械変換膜形成工程は、上述した請求項1〜3のいずれか一項に記載の電気機械変換膜の製造方法であるとともに、前記第1の電極は前記基板であることを特徴とする電気機械変換素子の製造方法。
【請求項6】
前記第2の電極形成工程は、前記電気機械変換膜にインクジェットヘッドのノズルを対向させ、前記ノズルから前記第2の電極の前駆体溶液を吐出することにより前記電気機械変換膜に前記前駆体溶液を塗布し、塗布した前記前駆体溶液を熱処理して前記電気機械変換膜上で結晶化させることを特徴とする請求項5に電気機械変換素子の製造方法。
【請求項7】
前記第1の電極は、白金族元素またはその酸化物の単層膜、あるいは白金族元素またはその酸化物を含む積層膜であり、
前記電気機械変換膜は、金属複合酸化物膜であり、
前記第2の電極は、白金族元素またはその酸化物の単層膜、あるいは白金族元素またはその酸化物を含む積層膜であることを特徴とする請求項5又は6に記載の電気機械変換素子の製造方法。
【請求項8】
上述した請求項5〜7のいずれか一項に記載の電気機械変換素子の製造方法により製造したことを特徴とする電気機械変換素子。
【請求項9】
請求項8に記載の電気機械変換素子を備えたことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項10】
請求項9に記載の液体吐出ヘッドを備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−169490(P2012−169490A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29975(P2011−29975)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】