説明

電気絶縁性を有する放熱基板

【課題】高温になると短寿命になったり、故障したりするLEDパッケージ、高負荷半導体、高負荷コンデンサー、集光型太陽光発電素子などの冷却に有用な電気絶縁性を有する放熱基板を提供する。
【解決手段】電気絶縁性を有するセラミック板3と、熱拡散率の良好な黒鉛板4を隣接させて、高圧鋳造することにより、安価で、接合強度も強く、かつ良好な熱拡散率を有する放熱基板を完成する。黒鉛として、炭素繊維の黒鉛化したものの使用も可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高温になると短寿命になったり、故障したりするLEDパッケージ、高負荷半導体、高負荷コンデンサー、レンズ集光型太陽光発電素子の基板に好適なセラミックス焼結板と黒鉛および金属又は合金(以下金属)の組合せからなる放熱基板に関する。
【0002】
黒鉛材料を含む黒鉛−金属複合体には、金属マトリックスと黒鉛粒子、又は黒鉛繊維を材料として、分散させた金属基複合材料や、押出成形体や冷間等方圧力成形体、金型にて一方向圧力による成形体より焼成してなる黒鉛成形体に金属を分散する黒鉛基金属複合材料が知られている。(特願平11−321828、特願2001−135551)
【0003】
一方で黒鉛を含む複合体は熱拡散率が1.5〜3cm/secと大きく、アルミニウムや銅、窒化アルミニウムなどといった伝熱媒体として通常多用されている材料の熱拡散率が0.7〜1.0cm/secと比較すると、その熱拡散性能が卓越していることが知られている。
【0004】
他方で、黒鉛を含む複合体は、優れた導電性を有するので、複合体の一方の表面に回路基板を形成する時、何らかの絶縁層を付加せねばならない。
【0005】
黒鉛−金属複合体の一方の表面に絶縁性を付与する時、一旦は、黒鉛−金属複合体を所定形状に加工した後に、その表にメッキ処理などを施して、有機フィルムや、セラミック焼結体を接着剤やハンダ等により、接合して、絶縁層を形成する方法が、多く用いられている。これは、工程が多岐に亘るので、高価になってしまう。又、接着剤やハンダの使用は、熱伝導度を下げることになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は上記問題に鑑み、黒鉛−金属複合体の良好な熱拡散率を保持しつつ、セラミック焼結体を密接させて、1回の工程で電気絶縁被膜を具備した放熱基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、用いる材料の組合せを考案することにより、上記の目的を良好に達成しうる以下の要旨を有する本発明に到達した。
【0008】
セラミック焼結板の種類としては、アルミナ、ムライト、ジルコニア、ベリリア、マグネシア、マグネシア−アルミナスピネル、トリアなどの酸化物の他に、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの窒化物で電気比抵抗値が1×10オーム・cm以上のものである。
セラミック焼結板の大きさは、適宣、用途に応じて変わるが、厚さは薄い程良好で、0.01mm〜1mmのものが、工程中のハンドリングや、出来上がった放熱基板の電気絶縁性、熱拡散率の低下を防ぐために好ましい。
【0009】
黒鉛の成形体としては、黒鉛電極のブロックから板状に切り出したもの、人工黒鉛の粉末、天然黒鉛の粉末、黒鉛繊維のチョップド化したものなど一種以上のものを混合して、板状にプレスしたものなどが好適で、冷間等方圧力成形体なども、用いることができる。これらの黒鉛は、その大きさは、適宣、用途に応じて変わるが、厚さは0.5mm〜10mmものもが、出来上がった放熱基板の熱拡散率の低下を防ぐために好ましい。
【0010】
この発明に供される黒鉛は体積率が60%以上のものが好ましく、良好な熱拡散率が期待できる。
【0011】
セラミック板と接合し、黒鉛板とは複合される金属としてアルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、マグネシウム、マグネシウム合金、銀、銀合金、亜鉛、亜鉛合金、錫、錫合金、金、金合金などの融点が1100℃以下のものが利用できる。
【0012】
セラミック焼結板(4)と黒鉛板(3)とを、例えば鉄製の治具(6)によって密接させて、金型(1)内に配置し、金属溶湯(5)を注ぎ、加圧パンチ(2)によって、密接させて、金型(1)内に配置し、金属溶湯(5)を注ぎ、加圧パンチ(2)によって、溶湯を加圧し、金属凝固後、セラミック焼結板と黒鉛に金属含浸された複合体の接合された部分を切出して得る。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電気絶縁性セラミックス板と、黒鉛−金属複合体の一体成形物は、優れた熱拡散性を有し、工程も非常に簡素で、経済性も高い。このものは、産業上では、LEDパッケージ、高負荷半導体、高負荷コンデンサー、レンズ集光型発電素子などに有用な基板を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
セラミック焼結板と黒鉛板が密接させた状態で、金属溶湯に10Mpa以上の圧力を加えて、凝固させて、電気絶縁性を有する放熱基板を得る。10Mpa以下の圧力では、セラミックの表面に金属が密着せず、目的を達し得ない。セラミックの表面に、金属を予め溶射しても良い。
【0015】
セラミック焼結板の表面に何ら前処理しない場合、50Mpa以上の加圧をすれば、密着性は良好となる。
【0016】
本発明に用いられる黒鉛板は、板厚方向に良好な熱拡散率を有するものが、好適である。そのため、黒鉛板としては、黒鉛電極に用いられるような押出材が好適であり、熱拡散率が2cm/sec以上のものがより好まれる。この黒鉛の成分の一部として、針状黒鉛、黒鉛のチョップド繊維、天然黒鉛などを含む場合、熱拡散率の高いものが得られる。
【0017】
本発明に用いられるセラミック焼結板は、その焼結板の熱拡散率の大きいものが、やはり好まれる。しかしながら、熱拡散率の低いセラミック焼結板でも、その厚さを小さくすれば、黒鉛−金属複合体の良好な熱拡散率を阻害する要因を小さくすることができる。逆に熱拡散率の低いセラミック焼結板の場合、黒鉛一金属複合体の部分の厚さを増すことにより、電気絶縁性を有する放熱基板の良好な性質を持つものを得ることができる。
【0018】
本発明に用いられるセラミック焼結板の種類として、酸化物系のものは概して、熱拡散率が低く、好ましくはないが、電気絶縁性は優れているので、板厚を薄くして使用すればよいが、0.01mm以下では、ハンドリングに困難をきたすので好ましくない。
窒化物系は、熱拡散率が酸化物系より高いので、1mm程度の板厚でも、放熱基板としての性能は優れたものが得られる。
【0019】
本発明に用いられる金属として、融点として、1100℃以下の金属ならば良いが、それは、金型が鉄性を用いることから由来する。又、経済性の面から、一般に安価で融点の低いものの方が、好まれる。鋳造時のハンドリングの良さなどから、アルミニウム、アルミニウム合金などが好適な金属である。
【0020】
以下、本発明を実施例により、具体的に説明する。
【実施例1】
【0021】
体積率85%の電極用黒鉛ブロックの押出材の押出方向に直角に2mmの厚さで切り出し、120mm×60mmのものを得た。このものの熱拡散率は、2.3cm/secであった。一方で、セラミックス焼結体として、窒化アルミニウムを厚さ0.4mmで120mm×60mmのものを図−1のように鉄製補助治具で密接することにした。この時の窒化アルミニウムの熱拡散率は0.8cm/sceであった。
【0022】
このようにして、組立したものを図−1のように金型内に配置し、JIS−AC3A溶湯を700℃で注ぎ、加圧パンチにて、80Mpaで鋳造凝固後、セラミック焼結板と黒鉛板の部分を採り出した。黒鉛にはAC3Aのアルミニウム合金が、その空隙に浸漬しており、セラミック焼結板には密に接合していた。
【0023】
以上のようにして得られた電気絶縁性を有する放熱基板の熱拡散率は、2.1cm/secであった。又、セラミック焼結板と黒鉛一金属複合体の接合強度は、45Mpa以上であった。このものは55Wの出力を有する高負荷半導体の基板として、充分な絶縁特性と、放熱特性を有していた。
【実施例2】
【0024】
ピッチ系炭素繊維の黒鉛化したものを長さ1mm(平均)に切断したものを体積で30%含む黒鉛の押出成形体を得た。このものを押出方向と直角に切り出して、100mm×100mm×3mm厚さのものを得た。このものの熱拡散率は2.6cm/secであった。
【0025】
一方で窒化珪素焼結板を100mm×100mm×0.2mm厚さのもので、この熱拡散率は0.5cm/secであり、これを実施例1と同様に、鋳造処理して、電気絶縁性を有する放熱基板を得た。このものの熱拡散率は、2.1cm/secであった。
【実施例3】
【0026】
実施例2と同様にして、アルミナ焼結板を厚さ0.05mmのもので行った。この時に利用したアルミナの熱拡散率は0.08cm/secであった。得られた電気絶縁性を有する放熱基板の熱拡散率は、2.1cm/secであった。
【0027】
実施例2と実施例3で得られた放熱基板をレンズ集光型太陽光発電機のシリコンチップの基板として、用いたところ、シリコンチップの温度を80℃以下に保持できた。
【比較例1】
【0028】
実施例1の黒鉛一金属複合体部のみを採り出して、これにNiメッキを5μm施して、その後、銅−銀−亜鉛からなるハンダを片面のみ塗布し、それに、やはり実施例1と同じサイズの窒化アルミニウム板を接合した。このものの接合強度は、28Mpaで、熱拡散率は、1.4cm/secであった。
【0029】
このようにして得られたものは、本発明の実施例1に比較すると、強度、熱拡散率の両面で劣り、かつ、工程がメッキ工程、ハンダ工程、接合工程が必要で、コスト的に大きな差異となって来て、経済的に不利であった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の電気絶縁性セラミックス板と、黒鉛−金属複合体の一体成形物は、優れた熱拡散性を有し、工程も非常に簡素で、経済性も高い。このものは、産業上では、LEDパッケージ、高負荷半導体、高負荷コンデンサー、レンズ集光型発電素子などに有用な基板となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図−1】セラミック板と黒鉛板を隣接して配置し、金属溶湯を加えて、加圧鋳造する工程。
【符号の説明】
【0032】
1.
金型
2.
加圧パンチ
3.
電気絶縁性セラミック板
4.
黒鉛板
5.
金属溶湯
6.
補助治具
【図−1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック焼結板と黒鉛−金属複合体が密接し、その金属が、1100℃以下の融点の金属又は合金からなる電気絶縁性を有する放熱基板。
【請求項2】
セラミック焼結板が、その電気比抵抗値が1×10オーム・cm以上である請求項1記載の放熱基板。
【請求項3】
黒鉛板が、電極用黒鉛ブロックから切り出したもの、人工黒鉛粉、天然黒鉛粉又は、黒鉛繊維の1種以上のものから、成形し、その体積率が60%以上のものからなる請求項1記載の放熱基板。
【請求項4】
セラミック焼結板と黒鉛板を密接するように、金型内に配置した後、金属又は合金の溶湯を注ぎ、10Mpa以上の圧力を加えて、凝固鋳造させて、電気絶縁性を有する放熱基板を得る方法。

【公開番号】特開2012−50987(P2012−50987A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−55815(P2009−55815)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(000127592)株式会社エー・エム・テクノロジー (9)
【Fターム(参考)】