電気駆動車両
【課題】車両のピッチング振動を大きくさせることなく駆動輪のスリップを抑制できる電気駆動車両を提供すること。
【解決手段】電動機1,4と、電動機により駆動される駆動輪3,6と、駆動輪にスリップが発生するときに電動機のトルクを低減させ、当該スリップ解消後に電動機のトルクを回復させる電動機制御装置40とを備えた電気駆動車両において、車両に発生するピッチング振動の振幅を検出するピッチング検出装置26を備え、スリップ解消後に電動機制御装置が一定時間に回復させる電動機のトルク量は、ピッチング検出装置で検出された振幅Aが判定値A1以下の場合と判定値A1を超える場合とで異なっている。
【解決手段】電動機1,4と、電動機により駆動される駆動輪3,6と、駆動輪にスリップが発生するときに電動機のトルクを低減させ、当該スリップ解消後に電動機のトルクを回復させる電動機制御装置40とを備えた電気駆動車両において、車両に発生するピッチング振動の振幅を検出するピッチング検出装置26を備え、スリップ解消後に電動機制御装置が一定時間に回復させる電動機のトルク量は、ピッチング検出装置で検出された振幅Aが判定値A1以下の場合と判定値A1を超える場合とで異なっている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電動機によって駆動輪が駆動されることで走行する電気駆動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
凍結路、圧雪路等の滑りやすい路面を走行中の車両において、運転者がアクセルを踏み込んで車両を加速させようとすると、駆動輪の車輪速度が急増し、駆動輪が空転する現象が発生する場合がある。また、逆に運転者がブレーキを踏み込んで車両を減速させようとすると、駆動輪の車輪速度が急減し、駆動輪がロックする現象が発生する場合がある。以下では、これらの現象をまとめてスリップと称する。このような駆動輪のスリップが発生すると、車両の挙動は不安定になり、またステアリング操作も効かず安定走行が困難になる。そこで、このような駆動輪のスリップを抑制することが重要である。
【0003】
従来の車両における駆動輪のスリップを抑制する制御(スリップ抑制制御)としては、駆動輪のスリップが発生する場合は駆動輪を駆動する電動機のトルクを低減してスリップを抑制し、スリップが解消したら低減していた当該電動機のトルクを回復する方式がある。たとえば、特開平2−299402号公報には、そのようなスリップ抑制方式を行う車両が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−299402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このように電動機のトルクを低減・回復させることでスリップの抑制を図ると、電動機のトルク変動が大きくなって車両のピッチング振動を誘発することがある。すなわち、電動機のトルクが大きく変動すると、車両に加わる前後方向の加速度が大きく変化し、ピッチング振動が車両に発生する。このとき、電動機のトルクが変動する周波数と車両のピッチング振動の固有周波数が近づいて電動機のトルク変動と車両のピッチング振動が共振すると、ピッチング振動の振幅が特に大きくなって車両の乗り心地が急激に悪化してしまう。
【0006】
上記のように、スリップを抑制するために電動機のトルクを変動させると、車両のピッチング振動が拡大し、車両の乗り心地が悪化するおそれがある。
【0007】
本発明の目的は、車両のピッチング振動を大きくさせることなく駆動輪のスリップを抑制できる電気駆動車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、電動機と、当該電動機により駆動される駆動輪と、当該駆動輪にスリップが発生するときに前記電動機のトルクを低減させ、当該スリップ解消後に前記電動機のトルクを回復させる電動機制御手段とを備えた電気駆動車両において、前記車両に発生するピッチング振動の振幅を検出するピッチング検出手段を備え、前記スリップ解消後に前記電動機制御手段が一定時間に回復させる前記電動機のトルク量は、前記ピッチング検出手段で検出された振幅が判定値以下の場合と当該判定値を超える場合とで異なっているものとする。
【0009】
このように、ピッチング検出手段で検出された振幅が判定値以下の場合と当該判定値を超える場合とで、スリップ解消後に電動機制御手段が一定時間に回復させる電動機のトルク量を変えると、電動機の出力するトルクの変動周波数とピッチング振動の固有周波数をずらすことができるので、ピッチング振動の増大を防止できる。これによりピッチング振動を大きくさせることなくスリップを抑制できるので、滑り易い路面での車両の乗り心地の悪化を防止しつつ走行安全性を維持することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ピッチング振動を大きくさせることなくスリップを抑制できるので、滑り易い路面での車両の乗り心地の悪化を防止しつつ走行安全性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る電気駆動車両の構成図。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る電気駆動車両における電動機制御装置で行われる処理のフローチャート。
【図3】本発明の第1の実施の形態において、滑り易い路面で車両が加速するときにピッチング振動の振幅Aが判定値A1以下だった場合の動作例を示す図。
【図4】本発明の第1の実施の形態において、滑り易い路面で車両が加速するときにピッチング振動の振幅Aが判定値A1を超える場合の動作例を示す図。
【図5】本発明の第1の実施の形態において、滑り易い路面で走行中の車両が減速するときにピッチング振動の振幅Aが判定値A1以下だった場合の動作例を示す図。
【図6】本発明の第1の実施の形態において、滑り易い路面で走行中の車両が減速するときにピッチング振動の振幅Aが判定値A1を超える場合の動作例を示す図。
【図7】本発明の第2の実施の形態に係る電気駆動車両における電動機制御装置で行われる処理のフローチャート。
【図8】本発明の第2の実施の形態において、滑り易い路面で車両が加速するときにピッチング振動の振幅Aが判定値A1を超える場合の動作例を示す図。
【図9】本発明の第3の実施の形態に係る電気駆動車両における電動機制御装置40で行われる処理のフローチャート。
【図10】本発明の第3の実施の形態において、滑り易い路面で車両が加速するときにピッチング振動の振幅Aが判定値A1を超える場合の動作例を示す図。
【図11】本発明の第4の実施の形態に係る電気駆動車両における電動機制御装置40で行われる処理のフローチャート。
【図12】本発明の第4の実施の形態において、滑り易い路面で車両が加速するときにピッチング振動が大きくなった場合の動作例を示す図。
【図13】本発明の第5の実施の形態に係る電気駆動車両の構成図。
【図14】本発明の第1の実施の形態に係る電気駆動車両の他の構成図。
【図15】本発明の第1の実施の形態に係る電気駆動車両のさらに他の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
【0013】
図1は本発明の第1の実施の形態に係る電気駆動車両の構成図である。この図に示す電気駆動車両は、駆動輪3及び駆動輪6と、従動輪13及び従動輪15と、駆動輪3,6及び従動輪13,15に連結されたサスペンションの車両鉛直方向における変位を検出する変位センサ22,23,24,25と、従動輪13,15の回転速度を検出する速度センサ12,14と、ギア2を介して駆動輪3を駆動する電動機1と、ギア5を介して駆動輪6を駆動する電動機4と、電動機1,4の回転速度を検出する速度センサ10,11と、電動機1及び電動機4を制御する電動機制御装置(電動機制御手段)40と、車両に発生するピッチング振動の振幅を検出するピッチング検出装置(ピッチング検出手段)26を備えている。
【0014】
変位センサ22は従動輪13に連結されたサスペンション(図示せず)の車両鉛直方向の変位を検出するためのものである。変位センサ23は従動輪15に連結されたサスペンション(図示せず)の車両鉛直方向の変位を検出するためのものである。変位センサ24は駆動輪3に連結されたサスペンション(図示せず)の車両鉛直方向の変位を検出するためのものである。変位センサ25は駆動輪6に連結されたサスペンション(図示せず)の車両鉛直方向の変位を検出するためのものである。変位センサ22,23,24,25は、ピッチング検出装置26に接続されており、それらが検出した変位はピッチング検出装置26に出力されている。
【0015】
ピッチング検出装置26は、変位センサ22、変位センサ23、変位センサ24、変位センサ25が出力する各サスペンションの車両鉛直方向の変位検出値に基づいて、車両に発生するピッチング振動の振幅を検出する(以下において、ピッチング検出装置26が検出した振幅をAと表記することがある)。ピッチング検出装置26によって検出されたピッチング振動の振幅Aは、電動機制御装置40におけるスリップ制御部21に出力される。
【0016】
電動機制御装置40は、スリップ制御部21と、トルク指令演算部19と、トルク制御部20と、電力変換器7を備えている。電動機1,4は電動機制御装置40によって制御されており、電動機1,4がギア2,5を介して駆動輪3,6を駆動することで車両は前進または後進する。
【0017】
速度センサ10は、電動機1の回転速度を検出するためのもので、電動機1に接続されている。速度センサ11は、電動機4の回転速度を検出するためのもので、電動機4に接続されている。速度センサ12は、従動輪13の回転速度を検出するためのもので、従動輪13の軸に接続されている。速度センサ14は、従動輪15の回転速度を検出するためのもので、従動輪15の軸に接続されている。速度センサ10,11,12,14はスリップ制御部21に接続されており、これらの検出速度はスリップ制御部21に出力されている。
【0018】
スリップ制御部21は、速度センサ10,11,12,14が出力する回転速度検出値を入力として駆動輪3及び駆動輪6の少なくとも1つにスリップが発生しているかどうかを判定するとともに、ピッチング検出装置26から出力される振幅Aが判定値A1を超えているか否かを判定する。そして、スリップ制御部21は、その判定結果に応じた指令(トルク低減指令、トルク回復指令、回復時間変更指令(後述))をトルク指令演算部19に出力する。ここで、上記における判定値A1は、スリップ制御部21に予め記憶されている設定値であり、ピッチング振動を抑制するために回復時間変更指令(後述)を出力するか否かの判断基準となる値である。判定値A1は後述する判定値調整装置33によって調整することができる。なお、本実施の形態におけるスリップ制御部21は、従動輪13,15の回転速度と駆動輪3,6の回転速度を比較することで駆動輪3,6のスリップ状態を判定している。この場合において、従動輪13,15の回転速度に代えて電気駆動車両の速度(車速)を算出し、当該算出した速度と駆動輪3,6の回転速度を比較してスリップ状態を判定しても良い。
【0019】
まず、スリップ制御部21は、通常走行の状態から駆動輪3及び駆動輪6の少なくとも1つにスリップが発生していると判定した場合には、当該スリップが発生している駆動輪3,6を駆動している電動機1,4のトルクを目標トルク(後述)より小さい値に低減する指令(トルク低減指令)をトルク指令演算部19に出力し、スリップの解消を図る。
【0020】
また、スリップ制御部21は、トルク低減指令の出力中に駆動輪3,6のスリップが発生していないと判定した場合(すなわち、スリップが解消したと判定した場合)には、スリップが解消した駆動輪3,6を駆動している電動機1,4のトルク(トルク低減指令によって目標トルクより小さい値に低減されている電動機1,4のトルク)を目標トルクまで回復させる指令(トルク回復指令)をトルク指令演算部19に出力し、通常走行への復帰を図る。なお、本実施の形態では、後述するように、トルク回復指令による電動機1,4のトルクの回復率(時間当たりのトルク回復量)は一定値Po(以下において、初期値と称することがある)に設定されている。
【0021】
さらに、スリップ制御部21は、トルク回復指令の出力中にピッチング検出装置26から出力される振幅Aが判定値A1を超えたと判定した場合には、トルク回復指令によってトルク回復中の電動機1,4のトルクを目標トルクまで回復させる時間を、振幅Aが判定値A1以下の場合と判定値A1を超える場合とで異ならせるために、電動機1,4のトルクを目標トルクまで回復する時間を変更する指令(回復時間変更指令)をトルク指令演算部19に出力し、ピッチング振動の低減を図る。すなわち、この回復時間変更指令により、スリップ解消後に電動機制御装置40が一定時間に回復させる電動機1,4のトルク量は、ピッチング検出装置26で検出された振幅Aが判定値A1以下の場合と判定値A1を超える場合とで異なることになる。なお、本実施の形態では、後述するように、この回復時間変更指令により、トルク回復率はPo未満の値であるP1(P1<Po)に変更される。
【0022】
なお、スリップ制御部21は、駆動輪3及び駆動輪6にスリップが発生していないと判定した場合には、トルク指令演算部19には特に指令を出力しない。
【0023】
アクセル開度センサ16、ブレーキ開度センサ17及びステアリング角度センサ18は、トルク指令演算部19と接続されている。アクセル開度センサ16は、運転者のアクセル操作に応じたアクセルペダルの開度を検出するもので、検出したアクセルペダル開度をトルク指令演算部19に出力している。ブレーキ開度センサ17は、運転者のブレーキ操作に応じたブレーキペダルの開度を検出するもので、検出したブレーキペダル開度をトルク指令演算部19に出力している。ステアリング角度センサ18は、運転者のステアリング操作に応じたステアリングの角度を検出するもので、検出したステアリング角度をトルク指令演算部19に出力している。
【0024】
判定値調整装置33は、スリップ制御部21においてピッチング振動の振幅Aと比較される判定値A1を外部から調整するためのものであり、スリップ制御部21と接続されている。判定値調整装置33は判定値A1の増減指令を出力し、スリップ制御部21は判定値調整装置33の出力する増減指令を入力として、判定値A1を増減させる。判定値調整装置33は、例えば、車両の運転室内に設置し、運転者が判定値調整装置33を操作することで判定値A1を調整できるようにする。例えば、滑り易い路面を走行中の車両において、スリップ抑制制御が動作することで発生するピッチング振動が気になる場合は、運転者は判定値A1を下げる操作を行うことで、ピッチング振動を小さくすることができる。このように判定値調整装置33を設置すると、運転者が自分の好みに合わせてピッチング振動の大きさを自由に調整することができる。なお、判定値調整装置33としては、例えば、スイッチ式のものや、ダイヤル式のもの等がある。
【0025】
トルク指令演算部19は、アクセル開度センサ16から出力されたアクセル開度検出値、ブレーキ開度センサ17から出力されたブレーキ開度検出値及びステアリング角度センサ18から出力されたステアリング角度検出値を入力値として電動機1,4の目標トルクを算出する。さらに、トルク指令演算部19は、スリップ制御部21からの指令(トルク低減指令、トルク回復指令、回復時間変更指令)の有無及び種類に応じて当該目標トルクに適宜修正を加えた修正トルクを算出する。そして、その目標トルク又は修正トルクが電動機1,4で出力されるようにトルク指令を算出し、その算出したトルク指令をトルク制御部20に出力する。
【0026】
ここで、スリップ制御部21からの指令が出力されている場合にトルク指令演算部19が行うトルク修正処理について説明する。まず、トルク低減指令が出力されている場合には、各センサ16,17,18の検出値から算出した目標トルクをそれよりも小さい値に低減するように修正トルクを算出する。本実施の形態では、時間当たりのトルク低減量(トルク低減率)が一定に設定されており、スリップ制御部21においてスリップが発生したと判定された時刻から当該スリップが解消されたと判定される時刻に至るまで、一定の割合Poでトルクが低減するように修正トルクを算出する。
【0027】
また、トルク回復指令が出力されている場合には、トルク低減指令によって目標トルクより小さい値にまで低減された電動機1,4のトルクが目標トルクまで回復するように修正トルクを算出する。本実施の形態では、トルク回復率が一定値Poに設定されており、トルク低減指令によって目標トルク未満に低減された電動機1,4のトルクが一定の回復率Poで目標トルクに達するまで又はトルク回復指令の出力が中止されるまで修正トルクを算出する。このように電動機1,4へのトルク指令を駆動輪3,6のスリップ状態に応じて変更することで、駆動輪3,6のスリップを抑制することができる。
【0028】
さらに、回復時間変更指令が出力されている場合には、トルク回復指令によってトルク回復中の電動機1,4のトルクを目標トルクまで回復させる時間が、ピッチング振動の振幅Aが判定値A1以下の場合と判定値A1を超える場合とで異なるように修正トルクを算出する。すなわち、一定時間に回復される電動機1,4のトルク量が、ピッチング振動の振幅Aが判定値A1以下の場合と判定値A1を超える場合とで異なるように修正トルクを算出する。本実施の形態では、電動機1,4のトルクを回復させるときに利用するトルク回復率の大きさを、振幅Aが判定値A1以下のときの値Poと比較して小さい値P1(P1<Po)に変更しており、目標トルク未満に低減された電動機1,4のトルクが一定の回復率P1で目標トルクに達するまで又は回復時間変更指令の出力が中止されるまで修正トルクを算出する。これにより、振幅Aが判定値A1以下のときと比較して、電動機1,4のトルクを回復させるために要する時間は長くなる。
【0029】
なお、ピッチング振動の振幅Aが判定値A1を超える場合に用いられるトルク回復率P1は、判定値A1以下の場合に用いられるPoの約1/2〜1/3にすることが好ましい。その理由は、トルク回復率の大きさを小さくするほど電動機1,4の出力するトルクの変動周波数をずらすことができ、ピッチング振動との共振条件から外れやすくなるため、トルク回復率P1はもっと小さくしても良いが、あまり小さくしすぎると電動機1,4の出力するトルクが回復するのに時間を要し過ぎて、車両の加減速性能の低下を招くおそれがあるからである。したがって、車両の加減速性能の低下が問題にならなければ、トルク回復率の大きさをPoの1/3以下にしても良い。
【0030】
電流センサ8は、電力変換器7と電動機1の間に接続されており、これらの間に流れる電流を検出するものである。電流センサ8の電流検出値はトルク制御部20に出力されている。また、電流センサ9は、電力変換器7と電動機4の間に接続されており、これらの間に流れる電流を検出するものである。電流センサ9の電流検出値はトルク制御部20に出力されている。
【0031】
トルク制御部20は、トルク指令演算部19が出力する電動機1へのトルク指令、電流センサ8の出力する電流検出値及び速度センサ10の出力する回転速度検出値に基づいて、電動機1の出力するトルクが電動機1へのトルク指令に従うように、パルス幅変調制御(PWM制御)により電力変換器7へのゲートパルス信号を出力する。また、トルク制御部20は、トルク指令演算部19が出力する電動機4へのトルク指令、電流センサ9が出力する電流検出値及び速度センサ11が出力する回転速度検出値に基づいて、電動機4の出力するトルクが電動機4へのトルク指令に従うように、PWM制御により電力変換器7へのゲートパルス信号を出力する。
【0032】
電力変換器7はトルク制御部20からのゲートパルス信号を受け、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)等のスイッチング素子が高速にスイッチングを行うことで、電動機1,4に対する高応答なトルク制御を実現する。
【0033】
図2は本発明の第1の実施の形態に係る電気駆動車両における電動機制御装置40で行われる処理のフローチャートである。この図に示すフローチャートは、スリップ制御部21において駆動輪3及び駆動輪6の少なくとも1つにスリップが発生していると判定された場合に開始する。スリップが発生していると判定された場合には、スリップ制御部21からトルク指令演算部19に出力されたトルク低減指令に基づいてトルク低減処理が開始される(S201)。これにより、スリップが発生していると判定された駆動輪3,6を駆動している電動機1,4のトルクが低減され、スリップの解消が図られる。S201を実行したらS202に移る。
【0034】
S202では、スリップ制御部21において、発生したスリップが解消したか否かを判定する。スリップが継続していると判定された場合にはトルク低減処理(S201)を繰り返し実行する。一方、スリップが解消したと判定された場合にはS203に移る。
【0035】
S203では、スリップ制御部21は、ピッチング検出装置26から出力されるピッチング振動の振幅Aを入力し、当該入力した振幅Aが判定値A1を超えているか否かを判定する(S204)。S204において、振幅Aが判定値A1以下であると判定された場合には、トルク回復処理で利用されるトルク回復率がPoに設定され(S205)、スリップ制御部21からトルク指令演算部19に出力されたトルク回復指令に基づいてトルク回復処理が開始される(S207)。これにより、スリップ抑制制御が動作する前の目標トルクまで電動機1,4のトルクを回復させることができる。
【0036】
一方、S204において、振幅Aが判定値A1を超えると判定された場合には、トルク回復処理で利用されるトルク回復率がP1(P1<Po)に設定され(S206)、スリップ制御部21からトルク指令演算部19に出力された回復時間低減指令に基づいてトルク回復処理が開始される(S207)。このようにトルク回復率が小さくなると、トルクが目標トルクまで回復するのに要する時間が長くなり、スリップ抑制制御の動作中におけるトルク指令の変動周波数を低くすることができる。その結果、電動機1,4の出力するトルクの変動周波数とピッチング振動の固有周波数をずらすことが可能となり、ピッチング振動が大きくなるのを防止することができる。
【0037】
S207でトルク回復処理を開始したら、スリップ制御部21は、トルク回復処理中にスリップが発生しているか否かを判定する(S208)。S208において駆動輪3,6にスリップが発生したと判定された場合には、S201に戻りS201以降の処理を繰り返す。一方、S208においてスリップは発生していないと判定された場合には、トルク回復処理によって電動機1,4のトルクが目標トルクまで回復したか否かを判定する(S209)。
【0038】
S209で電動機1,4のトルクが目標トルクまで回復していない場合には、S207に戻りトルク回復処理を継続する。一方、S209で電動機1,4のトルクが目標トルクに達したと判定された場合には一連の処理を終了して、電動機制御装置40は次のスリップ発生まで待機する。
【0039】
次に上記フローチャートに基づく電気駆動車両の動作例を図3〜6を用いて説明する。
【0040】
図3は滑り易い路面で車両が加速するときにピッチング振動の振幅Aが判定値A1以下だった場合の動作例を示す図である。この図に示すように、滑り易い路面で加速する時は駆動輪3,6の車輪速度が急上昇するスリップが発生するが、駆動輪3,6のスリップを検出すると電動機1,4のトルク指令を低減する。その結果、スリップが解消されてスリップを検出しなくなると、電動機1,4のトルク指令を回復する動作が行われる。これにより駆動輪3,6に発生するスリップを抑制しつつ車両を加速させることができる。なお、本実施の形態では、図3に示すように、ピッチング振動の振幅Aが判定値A1を超えない場合は、トルク回復率は常に一定のPoとなっている。
【0041】
図4は滑り易い路面で車両が加速するときにピッチング振動の振幅Aが判定値A1を超える場合の動作例を示す図である。この図に示すように、滑り易い路面で加速する時は駆動輪3,6の車輪速度が急上昇するスリップが発生するが、駆動輪3,6のスリップを検出すると電動機1,4のトルク指令を低減する。その結果、スリップが解消されてスリップを検出しなくなると、電動機1,4のトルク指令を回復する動作が行われる。これにより駆動輪3,6に発生するスリップを抑制しつつ車両を加速させることができる。ただし、スリップを抑制するために電動機1,4のトルク指令を低減させたり回復させたりする動作を繰り返す結果、電動機1,4の出力するトルクの変動とピッチング振動が共振してピッチング振動が拡大し、図4に示すようにピッチング振動の振幅Aがだんだん大きくなることがある。そこで、ピッチング振動の振幅Aが判定値A1を超える場合は、トルク回復率の大きさをPoより小さいP1に変更する。このようにトルク回復率の大きさを小さくすると、トルク指令が回復するのに要する時間が長くなり、スリップ抑制制御が動作中におけるトルク指令の変動周波数を低くすることができる。その結果、電動機1,4の出力するトルクの変動周波数とピッチング振動の固有周波数とがずれて共振条件から外れるので、ピッチング振動が大きくなることを防止することができる。
【0042】
図5は滑り易い路面で走行中の車両が減速するときにピッチング振動の振幅Aが判定値A1以下だった場合の動作例を示す図である。この図に示すように、滑り易い路面で減速する時は駆動輪3,6の車輪速度が急下降するスリップが発生するが、駆動輪3,6のスリップを検出すると電動機1,4のトルク指令を低減する。その結果、スリップが解消されてスリップを検出しなくなると、電動機1,4のトルク指令を回復する動作が行われる。これにより駆動輪3,6に発生するスリップを抑制しつつ車両を減速させることができる。なお、本実施の形態では、図4に示すように、ピッチング振動の振幅Aが判定値A1を超えない場合は、トルク回復率は常に一定のPoとなっている。
【0043】
図6は滑り易い路面で走行中の車両が減速するときにピッチング振動の振幅Aが判定値A1を超える場合の動作例を示す図である。この図に示すように、滑り易い路面で減速する時は駆動輪3,6の車輪速度が急下降するスリップが発生するが、駆動輪3,6のスリップを検出すると電動機1,4のトルク指令を低減する。その結果、スリップが解消されてスリップを検出しなくなると、電動機1,4のトルク指令を回復する動作が行われる。これにより駆動輪3,6に発生するスリップを抑制しつつ車両を減速させることができる。ただし、スリップを抑制するために電動機1,4のトルク指令を低減させたり回復させたりする動作を繰り返す結果、電動機1,4の出力するトルクの変動とピッチング振動が共振してピッチング振動が拡大し、図6に示すようにピッチング振動の振幅Aがだんだん大きくなることがある。そこで、ピッチング振動の振幅Aが判定値A1を超える場合は、トルク回復率の大きさをPoより小さいP1に変更する。このようにトルク回復率の大きさを小さくすると、トルク指令が回復するのに要する時間が長くなり、スリップ抑制制御が動作中におけるトルク指令の変動周波数を低くすることができる。その結果、電動機1,4の出力するトルクの変動周波数とピッチング振動の固有周波数とがずれて共振条件から外れるので、ピッチング振動が大きくなることを防止することができる。
【0044】
したがって、本実施の形態によれば、ピッチング振動を大きくさせることなくスリップを抑制できるので、滑り易い路面での車両の乗り心地の悪化を防止しつつ走行安全性を維持することができる。
【0045】
なお、上記の実施の形態では、ピッチング振動の振幅Aが判定値A1を超えるときには、トルク回復率を初期値Poよりも小さい値P1に変更して、振幅Aが判定値A1以下のときと比較して電動機1,4のトルクを回復させるために要する時間を長くすることでピッチング振動を抑制する場合について説明した。しかし、ピッチング振動の振幅Aが判定値A1以下の場合と当該判定値A1を超える場合とで、電動機制御装置40が一定時間に回復させる電動機1,4のトルク量が異なっていれば、上記と同様の効果が得られる。すなわち、電動機1,4の出力するトルクの変動周波数とピッチング振動の固有周波数がずれれば共振条件から外れるので、上記と同様にピッチング振動を抑制することができる。したがって、例えば、当該トルクを回復させるために要する時間を短くしても良い。このようにトルクを回復させるために要する時間を短くする具体的な方法としては、例えば、トルク回復率を初期値Poよりも大きい値に変更するものがある。
【0046】
次に本発明の第2の実施の形態について説明する。上記の実施の形態は、ピッチング振動の振幅Aが判定値A1を超えるときにトルク回復率を変更するものであったが、本実施の形態は、振幅Aが判定値A1を超えている間はトルクを回復させることを停止することでピッチング振動を抑制している点に特徴がある。すなわち、本実施の形態に係るトルク指令演算部19は、スリップが一旦解消してトルク回復処理が開始される場合において、スリップ制御部21から回復時間変更指令が出力されているときには、トルクを回復することを停止するように修正トルクを算出している。
【0047】
図7は本発明の第2の実施の形態に係る電気駆動車両における電動機制御装置40で行われる処理のフローチャートである。この図に示すフローチャートは、スリップ制御部21において駆動輪3及び駆動輪6の少なくとも1つにスリップが発生していると判定された場合に開始する。スリップが発生していると判定された場合には、スリップ制御部21からトルク指令演算部19に出力されたトルク低減指令に基づいてトルク低減処理が開始される(S701)。これにより、スリップが発生していると判定された駆動輪3,6を駆動している電動機1,4のトルクが低減され、スリップの解消が図られる。S701を実行したらS702に移る。
【0048】
S702では、スリップ制御部21において、発生したスリップが解消したか否かを判定する。スリップが継続していると判定された場合にはトルク低減処理(S701)を繰り返し実行する。一方、スリップが解消したと判定された場合にはS703に移る。
【0049】
S703では、スリップ制御部21は、ピッチング検出装置26から出力されるピッチング振動の振幅Aを入力し、当該入力した振幅Aが判定値A1を超えているか否かを判定する(S704)。S704において、振幅Aが判定値A1以下であると判定された場合には、トルク回復処理で利用されるトルク回復率がPoに設定され(S707)、スリップ制御部21からトルク指令演算部19に出力されたトルク回復指令に基づいてトルク回復処理が開始される(S708)。これにより、スリップ抑制制御が動作する前の目標トルクまで電動機1,4のトルクを回復させることができる。
【0050】
一方、S704において、振幅Aが判定値A1を超えると判定された場合には、スリップ制御部21からトルク指令演算部19に出力された回復時間低減指令に基づいてトルク回復処理が停止される(S705)。このようにトルク回復処理を停止させると、トルクが目標トルクまで回復するのに要する時間が長くなり、スリップ抑制制御が動作中におけるトルク指令の変動周波数を低くすることができる。その結果、電動機1,4の出力するトルクの変動周波数とピッチング振動の固有周波数をずらすことが可能となり、ピッチング振動が大きくなるのを防止することができる。
【0051】
S705でトルク回復処理の停止が開始されたら、スリップ制御部21は、ピッチング検出装置26から出力されるピッチング振動の振幅Aを入力し、当該入力した振幅Aが判定値A1以下に達したか否かを判定する(S706)。S706において、振幅Aが判定値A1を超えると判定された場合には、S705に戻ってトルク回復処理の停止を継続する。一方、振幅Aが判定値A1以下に達したと判定された場合には、トルク回復処理で利用されるトルク回復率がPoに設定され(S707)、トルク回復処理が開始される(S708)。
【0052】
S708でトルク回復処理を開始したら、スリップ制御部21は、トルク回復処理中にスリップが発生しているか否かを判定する(S709)。S709において駆動輪3,6にスリップが発生したと判定された場合には、S701に戻りS701以降の処理を繰り返す。一方、S709においてスリップは発生していないと判定された場合には、トルク回復処理によって電動機1,4のトルクが目標トルクまで回復したか否かを判定する(S710)。
【0053】
S710で電動機1,4のトルクが目標トルクまで回復していない場合には、S708に戻りトルク回復処理を継続する。一方、S710で電動機1,4のトルクが目標トルクに達したと判定された場合には一連の処理を終了して、電動機制御装置40は次のスリップ発生まで待機する。
【0054】
次に上記フローチャートに基づく電気駆動車両の動作例を図8を用いて説明する。図8は滑り易い路面で車両が加速するときにピッチング振動の振幅Aが判定値A1を超える場合の動作例を示す図である。この図に示すように、滑り易い路面で加速する時は駆動輪3,6の車輪速度が急上昇するスリップが発生するが、駆動輪3,6のスリップを検出すると電動機1,4のトルク指令を低減する。その結果、スリップが解消されてスリップを検出しなくなると、電動機1,4のトルク指令を回復する動作を行われる。これにより駆動輪3,6に発生するスリップを抑制しつつ車両を加速させることができる。ただし、スリップを抑制するために電動機1,4のトルク指令を低減させたり回復させたりする動作を繰り返す結果、電動機1,4の出力するトルクの変動とピッチング振動が共振してピッチング振動が拡大し、図8に示すようにピッチング振動の振幅Aがだんだん大きくなることがある。そこで、ピッチング振動の振幅Aが判定値A1を超えている間は、トルク指令を回復させる動作を停止する。このようにトルク指令を回復させる動作を停止すると、トルク指令が変動しなくなるので共振が起こらなくなり、ピッチング振動が大きくなることを防止することができる。なお、ここでは、車両が加速するときにピッチング振動が大きくなる場合ついて説明したが、車両が減速するときについても同様である。
【0055】
このように本実施の形態によっても、ピッチング振動を大きくさせることなくスリップを抑制できるので、滑り易い路面での車両の乗り心地の悪化を防止しつつ走行安全性を維持することができる。
【0056】
次に本発明の第3の実施の形態について説明する。上記の実施の形態は、ピッチング振動の振幅Aが判定値A1を超える間はトルクを回復させることを停止するものであったが、本実施の形態は、振幅Aが判定値A1を超えたときはトルクを一定に保持する期間を設けてピッチング振動を抑制している点に特徴がある。すなわち、本実施の形態に係るトルク指令演算部19は、トルク回復処理が行われている間にピッチング振動の振幅Aが判定値A1を超えて、スリップ制御部21から回復時間変更指令が出力されたときには、一定期間トルクを一定に保持し、当該トルクを一定に保持する期間が経過したらトルク回復率を初期値Poに戻してトルクを回復させるように修正トルクを算出している。
【0057】
図9は本発明の第3の実施の形態に係る電気駆動車両における電動機制御装置40で行われる処理のフローチャートである。この図に示すフローチャートは、スリップ制御部21において駆動輪3及び駆動輪6の少なくとも1つにスリップが発生していると判定された場合に開始する。スリップが発生していると判定された場合には、スリップ制御部21からトルク指令演算部19に出力されたトルク低減指令に基づいてトルク低減処理が開始される(S901)。これにより、スリップが発生していると判定された駆動輪3,6を駆動している電動機1,4のトルクが低減され、スリップの解消が図られる。S901を実行したらS902に移る。
【0058】
S902では、スリップ制御部21において、発生したスリップが解消したか否かを判定する。スリップが継続していると判定された場合にはトルク低減処理(S901)を繰り返し実行する。一方、スリップが解消したと判定された場合にはS903に移る。
【0059】
S903では、スリップ制御部21は、ピッチング検出装置26から出力されるピッチング振動の振幅Aを入力し、当該入力した振幅Aが判定値A1を超えているか否かを判定する(S904)。S904において、振幅Aが判定値A1以下であると判定された場合には、トルク回復処理で利用されるトルク回復率がPoに設定され(S906)、スリップ制御部21からトルク指令演算部19に出力されたトルク回復指令に基づいてトルク回復処理が開始される(S907)。これにより、スリップ抑制制御が動作する前の目標トルクまで電動機1,4のトルクを回復させることができる。
【0060】
一方、S904において、振幅Aが判定値A1を超えると判定された場合には、スリップ制御部21からトルク指令演算部19に出力された回復時間低減指令に基づいて、その時刻におけるトルクの値で電動機1,4のトルクを一定期間保持する(S905)。このようにトルクが一定に保持される期間を設けると、トルクが目標トルクまで回復するのに要する時間が長くなり、スリップ抑制制御が動作中におけるトルク指令の変動周波数を低くすることができる。その結果、電動機1,4の出力するトルクの変動周波数とピッチング振動の固有周波数をずらすことが可能となり、ピッチング振動が大きくなるのを防止することができる。S905で電動機1,4のトルクを一定期間保持したら、トルク回復処理で利用されるトルク回復率がPoに設定され(S906)、トルク回復処理が開始される(S907)。
【0061】
S907でトルク回復処理を開始したら、スリップ制御部21は、トルク回復処理中にスリップが発生しているか否かを判定する(S908)。S908において駆動輪3,6にスリップが発生したと判定された場合には、S901に戻りS901以降の処理を繰り返す。一方、S908においてスリップは発生していないと判定された場合には、トルク回復処理によって電動機1,4のトルクが目標トルクまで回復したか否かを判定する(S909)。
【0062】
S909で電動機1,4のトルクが目標トルクまで回復していない場合には、S907に戻りS907以降の処理を繰り返す。一方、S909で電動機1,4のトルクが目標トルクに達したと判定された場合には一連の処理を終了して、電動機制御装置40は次のスリップ発生まで待機する。
【0063】
次に上記フローチャートに基づく電気駆動車両の動作例を図10を用いて説明する。図10は滑り易い路面で車両が加速するときにピッチング振動の振幅Aが判定値A1を超える場合の動作例を示す図である。この図に示すように、滑り易い路面で加速する時は駆動輪3,6の車輪速度が急上昇するスリップが発生するが、駆動輪3,6のスリップを検出すると電動機1,4のトルク指令を低減する。その結果、スリップが解消されてスリップを検出しなくなると、電動機1,4のトルク指令を回復する動作を行われる。これにより駆動輪3,6に発生するスリップを抑制しつつ車両を加速させることができる。ただし、スリップを抑制するために電動機1,4のトルク指令を低減させたり回復させたりする動作を繰り返す結果、電動機1,4の出力するトルクの変動とピッチング振動が共振してピッチング振動が拡大し、図10に示すようにピッチング振動の振幅Aがだんだん大きくなることがある。そこで、ピッチング振動の振幅Aが判定値A1を超える場合は、トルク指令を回復させる動作を行う際にトルクを一定に保つ期間を設ける。このようにトルクを一定に保つ期間を設けると、スリップ抑制制御が動作中におけるトルク指令の変動周波数を低くすることができる。その結果、電動機1,4の出力するトルクの変動周波数とピッチング振動の固有周波数とがずれて共振条件から外れるので、ピッチング振動が大きくなることを防止することができる。なお、ここでは、車両が加速するときにピッチング振動が大きくなる場合ついて説明したが、車両が減速するときについても同様である。
【0064】
このように本実施の形態によっても、ピッチング振動を大きくさせることなくスリップを抑制できるので、滑り易い路面での車両の乗り心地の悪化を防止しつつ走行安全性を維持することができる。
【0065】
なお、上記の説明では、ピッチング振動の振幅Aが判定値A1を超えた時刻から一定期間トルクを保持する場合について説明したが、振幅Aが判定値A1を超えてから所定の時間が経過した後にトルクを一定に保持しても良い。
【0066】
次に本発明の第4の実施の形態について説明する。上記の各実施の形態は、ピッチング振動の振幅Aが判定値A1を超えたときに、トルクを回復させるために要する時間を変更するものであったが、本実施の形態では、ピッチング振動の振幅Aの大きさに合わせてトルク回復率を変更する点に特徴がある。すなわち、本実施の形態に係るトルク指令演算部19は、スリップ制御部21からトルク回復指令が出力されているとき(トルク回復処理が行われているとき)に利用するトルク回復率の大きさをピッチング振動の振幅Aの増加に合わせて小さくなるように算出し、トルク低減指令によって目標トルク未満に低減された電動機1,4のトルクが当該算出したトルク回復率に従って回復するように修正トルクを算出する。すなわち、本実施の形態におけるトルク回復率は、ピッチング振動の振幅Aの増加に合わせて単調減少し、振幅Aの減少に合わせて単調増加する。また、本実施の形態で利用するトルク回復率は振幅Aの関数であり、当該トルク回復率を以下においてP(A)と表記することがある。なお、本実施の形態におけるスリップ制御部21は回復時間変更指令を出力しないこととする。
【0067】
図11は本発明の第4の実施の形態に係る電気駆動車両における電動機制御装置40で行われる処理のフローチャートである。この図に示すフローチャートは、スリップ制御部21において駆動輪3及び駆動輪6の少なくとも1つにスリップが発生していると判定された場合に開始する。スリップが発生していると判定された場合には、スリップ制御部21からトルク指令演算部19に出力されたトルク低減指令に基づいてトルク低減処理が開始される(S1101)。これにより、スリップが発生していると判定された駆動輪3,6を駆動している電動機1,4のトルクが低減され、スリップの解消が図られる。S1101を実行したらS1102に移る。
【0068】
S1102では、スリップ制御部21において、発生したスリップが解消したか否かを判定する。スリップが継続していると判定された場合にはトルク低減処理(S1101)を繰り返し実行する。一方、スリップが解消したと判定された場合にはS1103に移る。
【0069】
S1103では、スリップ制御部21は、ピッチング検出装置26から出力されるピッチング振動の振幅Aを入力し、当該入力した振幅Aに基づいてトルク回復率P(A)を算出する(S1104)。S1104においてトルク回復率P(A)を算出したら、その算出したトルク回復率P(A)を利用してトルク回復処理が開始される(S1105)。S1105でトルク回復処理を開始したら、スリップ制御部21は、トルク回復処理中にスリップが発生しているか否かを判定する(S1106)。S1106において駆動輪3,6にスリップが発生したと判定された場合には、S1101に戻りS1101以降の処理を繰り返す。
【0070】
一方、S1106においてスリップは発生していないと判定された場合には、トルク回復処理によって電動機1,4のトルクが目標トルクまで回復したか否かを判定する(S1107)。S1107で電動機1,4のトルクが目標トルクまで回復していない場合には、S1103に戻りS1103以降の処理を繰り返す。
【0071】
このようにピッチング振動の振幅Aに合わせてトルク回復率P(A)を変化させると、電動機1,4のトルクが回復する時間が振幅Aの増加に合わせて長くなり、スリップ抑制制御が動作中におけるトルク指令の変動周波数を低くすることができる。その結果、電動機1,4の出力するトルクの変動周波数とピッチング振動の固有周波数をずらすことが可能となり、ピッチング振動が大きくなるのを防止することができる。なお、S1107で電動機1,4のトルクが目標トルクに達したと判定された場合には一連の処理を終了して、電動機制御装置40は次のスリップ発生まで待機する。
【0072】
次に上記フローチャートに基づく電気駆動車両の動作例を図12を用いて説明する。図12は滑り易い路面で車両が加速するときにピッチング振動が大きくなった場合の動作例を示す図である。この図に示すように、滑り易い路面で加速する時は駆動輪3,6の車輪速度が急上昇するスリップが発生するが、駆動輪3,6のスリップを検出すると電動機1,4のトルク指令を低減する。その結果、スリップが解消されてスリップを検出しなくなると、電動機1,4のトルク指令を回復する動作を行われる。これにより駆動輪3,6に発生するスリップを抑制しつつ車両を加速させることができる。ただし、スリップを抑制するために電動機1,4のトルク指令を低減させたり回復させたりする動作を繰り返す結果、電動機1,4の出力するトルクの変動とピッチング振動が共振してピッチング振動が拡大し、図12に示すようにピッチング振動の振幅Aがだんだん大きくなることがある。そこで、ピッチング振動の振幅Aが大きくなるにつれてトルク回復率の大きさを小さくし、そのトルク変化率を利用してトルクを回復させる。このように振幅Aに合わせてトルク変化率を変えると、電動機1,4の出力するトルクの変動周波数を低くすることができる。その結果、電動機1,4の出力するトルクの変動周波数とピッチング振動の固有周波数とがずれて共振条件から外れるので、ピッチング振動が大きくなることを防止することができる。なお、ここでは、車両が加速するときにピッチング振動が大きくなる場合ついて説明したが、車両が減速するときについても同様である。
【0073】
このように本実施の形態によっても、ピッチング振動を大きくさせることなくスリップを抑制できるので、滑り易い路面での車両の乗り心地の悪化を防止しつつ走行安全性を維持することができる。なお、本実施の形態は、ピッチング振動の振幅Aに応じて常にトルク回復率P(A)を調節しているので、上記の各実施の形態に比較して特にピッチング振動が大きくなり難いという特別な効果を発揮する。
【0074】
図13は本発明の第5の実施の形態に係る電気駆動車両の構成図である。なお、先の図と同じ部分には同じ符号を付して説明は省略する。図1の電気駆動車両と異なる点は、車両の積載量を検出し、その検出した積載量検出値をスリップ制御部36に出力する積載量センサ35を備えている点と、スリップ解消後のトルク回復処理において一定時間に回復させる電動機1,4のトルク量を積載量センサ35の検出した積載量の増加に合わせて小さくなるように調整するスリップ制御部36を備えている点である。
【0075】
例えば、トラックのように積載量が大きく変化する車両では、積載量に応じてピッチング振動の固有周波数が変化する。一般に、積載量が大きくなるとピッチング振動の固有周波数は低くなり、積載量が小さくなるとピッチング振動の固有周波数は高くなる。そこで、トルクの変動とピッチング振動の共振をより外し易くするためには、積載量の増加に合わせて一定時間に回復させる電動機1,4のトルク量を小さくすれば良い。例えば、これをトルク回復率で表せば、積載量が大きい場合はトルク回復率の大きさを大きくし、積載量が小さい場合はトルク回復率の大きさを小さくすれば良い。
【0076】
したがって、本実施の形態のようにスリップ解消後のトルク回復処理において一定時間に回復させる電動機1,4のトルク量を積載量の増加に合わせて小さくすると、上記の各実施の形態の場合と比較して、トルクの変動とピッチング振動の共振をより外し易くすることができる。
【0077】
ところで、上記の各実施の形態では、各車輪3,6,13,15に連結されたサスペンションの車両鉛直方向の変位検出値に基づいて車両に発生するピッチング振動の振幅を検出してきたが、次に示す他の検出値に基づいてもピッチング振動の振幅は検出することができる。
【0078】
図14は本発明の第1の実施の形態に係る電気駆動車両の他の構成図である。図1と異なるのは、サスペンションの車両鉛直方向の変位を検出する変位センサ22,23,24,25の代わりに当該サスペンションのストラット圧力を検出する圧力センサ27,28,29,30と、当該圧力センサ27,28,29,30から出力される圧力検出値に基づいて車両に発生するピッチング振動の振幅Aを検出するピッチング検出装置31を備えている点である。
【0079】
圧力センサ27は従動輪13に連結されたサスペンションのストラット圧力を検出するためのもので、圧力センサ28は従動輪15に連結されたサスペンションのストラット圧力を検出するためのもので、圧力センサ29は駆動輪3に連結されたサスペンションのストラット圧力を検出するためのもので、圧力センサ30は駆動輪6に連結されたサスペンションのストラット圧力を検出するためのものである。
【0080】
ピッチング検出部31は、圧力センサ27、圧力センサ28、圧力センサ29、圧力センサ30から出力される各サスペンションのストラット圧力検出値を入力として、車両に発生するピッチング振動の振幅Aを検出する。サスペンションのストラット圧力はサスペンションの車両鉛直方向の変位と相関があるため、このようにストラット圧力を用いても車両に発生するピッチング振動の振幅Aを検出することができる。
【0081】
図15は本発明の第1の実施の形態に係る電気駆動車両のさらに他の構成図である。図1と異なるのは、サスペンションの車両鉛直方向の変位の代わりに速度センサ10,11,12,14で検出される各車輪3,6,13,15の回転速度を利用しており、当該速度センサ10,11,12,14から出力される車輪速度検出値に基づいて車両に発生するピッチング振動の振幅Aを検出するピッチング検出装置32を備えている点である。
【0082】
ピッチング検出装置32は、速度センサ10、速度センサ11、速度センサ12、速度センサ14から出力される回転速度検出値を入力として、車両に発生するピッチング振動の振幅Aを検出する。車両にピッチング振動が発生すると、その振動は車体を伝播して駆動輪3、駆動輪6、従動輪13、従動輪15の回転速度にも発生し、その大きさはピッチング振動の大きさと相関がある。そのため、このように車輪の回転速度を用いても車両に発生するピッチング振動の振幅Aを検出することができる。
【0083】
なお、以上の説明では、車輪として駆動輪及び従動輪を備える車両について説明したが、すべての車輪が駆動輪である場合にも本発明は適用可能である。この場合には、スリップ判定をする際に従動輪の回転速度を利用することができないので、車両速度を利用ことが必要となる。
【符号の説明】
【0084】
1…電動機、2…ギア、3…駆動輪、4…電動機、5…ギア、6…駆動輪、7…電力変換器、8…電流センサ、9…電流センサ、10…速度センサ、11…速度センサ、12…速度センサ、13…従動輪、14…速度センサ、15…従動輪、16…アクセル開度センサ、17…ブレーキ開度センサ、18…ステアリング角度センサ、19…トルク指令演算部、20…トルク制御部、21…スリップ制御部、22…変位センサ、23…変位センサ、24…変位センサ、25…変位センサ、26…ピッチング検出装置、27…圧力センサ、28…圧力センサ、29…圧力センサ、30…圧力センサ、31…ピッチング検出装置、32…ピッチング検出装置、33…判定値調整装置、34…スリップ制御部、35…積載量センサ、36…スリップ制御部、40…電動機制御装置
【技術分野】
【0001】
本発明は電動機によって駆動輪が駆動されることで走行する電気駆動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
凍結路、圧雪路等の滑りやすい路面を走行中の車両において、運転者がアクセルを踏み込んで車両を加速させようとすると、駆動輪の車輪速度が急増し、駆動輪が空転する現象が発生する場合がある。また、逆に運転者がブレーキを踏み込んで車両を減速させようとすると、駆動輪の車輪速度が急減し、駆動輪がロックする現象が発生する場合がある。以下では、これらの現象をまとめてスリップと称する。このような駆動輪のスリップが発生すると、車両の挙動は不安定になり、またステアリング操作も効かず安定走行が困難になる。そこで、このような駆動輪のスリップを抑制することが重要である。
【0003】
従来の車両における駆動輪のスリップを抑制する制御(スリップ抑制制御)としては、駆動輪のスリップが発生する場合は駆動輪を駆動する電動機のトルクを低減してスリップを抑制し、スリップが解消したら低減していた当該電動機のトルクを回復する方式がある。たとえば、特開平2−299402号公報には、そのようなスリップ抑制方式を行う車両が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−299402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このように電動機のトルクを低減・回復させることでスリップの抑制を図ると、電動機のトルク変動が大きくなって車両のピッチング振動を誘発することがある。すなわち、電動機のトルクが大きく変動すると、車両に加わる前後方向の加速度が大きく変化し、ピッチング振動が車両に発生する。このとき、電動機のトルクが変動する周波数と車両のピッチング振動の固有周波数が近づいて電動機のトルク変動と車両のピッチング振動が共振すると、ピッチング振動の振幅が特に大きくなって車両の乗り心地が急激に悪化してしまう。
【0006】
上記のように、スリップを抑制するために電動機のトルクを変動させると、車両のピッチング振動が拡大し、車両の乗り心地が悪化するおそれがある。
【0007】
本発明の目的は、車両のピッチング振動を大きくさせることなく駆動輪のスリップを抑制できる電気駆動車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、電動機と、当該電動機により駆動される駆動輪と、当該駆動輪にスリップが発生するときに前記電動機のトルクを低減させ、当該スリップ解消後に前記電動機のトルクを回復させる電動機制御手段とを備えた電気駆動車両において、前記車両に発生するピッチング振動の振幅を検出するピッチング検出手段を備え、前記スリップ解消後に前記電動機制御手段が一定時間に回復させる前記電動機のトルク量は、前記ピッチング検出手段で検出された振幅が判定値以下の場合と当該判定値を超える場合とで異なっているものとする。
【0009】
このように、ピッチング検出手段で検出された振幅が判定値以下の場合と当該判定値を超える場合とで、スリップ解消後に電動機制御手段が一定時間に回復させる電動機のトルク量を変えると、電動機の出力するトルクの変動周波数とピッチング振動の固有周波数をずらすことができるので、ピッチング振動の増大を防止できる。これによりピッチング振動を大きくさせることなくスリップを抑制できるので、滑り易い路面での車両の乗り心地の悪化を防止しつつ走行安全性を維持することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ピッチング振動を大きくさせることなくスリップを抑制できるので、滑り易い路面での車両の乗り心地の悪化を防止しつつ走行安全性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る電気駆動車両の構成図。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る電気駆動車両における電動機制御装置で行われる処理のフローチャート。
【図3】本発明の第1の実施の形態において、滑り易い路面で車両が加速するときにピッチング振動の振幅Aが判定値A1以下だった場合の動作例を示す図。
【図4】本発明の第1の実施の形態において、滑り易い路面で車両が加速するときにピッチング振動の振幅Aが判定値A1を超える場合の動作例を示す図。
【図5】本発明の第1の実施の形態において、滑り易い路面で走行中の車両が減速するときにピッチング振動の振幅Aが判定値A1以下だった場合の動作例を示す図。
【図6】本発明の第1の実施の形態において、滑り易い路面で走行中の車両が減速するときにピッチング振動の振幅Aが判定値A1を超える場合の動作例を示す図。
【図7】本発明の第2の実施の形態に係る電気駆動車両における電動機制御装置で行われる処理のフローチャート。
【図8】本発明の第2の実施の形態において、滑り易い路面で車両が加速するときにピッチング振動の振幅Aが判定値A1を超える場合の動作例を示す図。
【図9】本発明の第3の実施の形態に係る電気駆動車両における電動機制御装置40で行われる処理のフローチャート。
【図10】本発明の第3の実施の形態において、滑り易い路面で車両が加速するときにピッチング振動の振幅Aが判定値A1を超える場合の動作例を示す図。
【図11】本発明の第4の実施の形態に係る電気駆動車両における電動機制御装置40で行われる処理のフローチャート。
【図12】本発明の第4の実施の形態において、滑り易い路面で車両が加速するときにピッチング振動が大きくなった場合の動作例を示す図。
【図13】本発明の第5の実施の形態に係る電気駆動車両の構成図。
【図14】本発明の第1の実施の形態に係る電気駆動車両の他の構成図。
【図15】本発明の第1の実施の形態に係る電気駆動車両のさらに他の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
【0013】
図1は本発明の第1の実施の形態に係る電気駆動車両の構成図である。この図に示す電気駆動車両は、駆動輪3及び駆動輪6と、従動輪13及び従動輪15と、駆動輪3,6及び従動輪13,15に連結されたサスペンションの車両鉛直方向における変位を検出する変位センサ22,23,24,25と、従動輪13,15の回転速度を検出する速度センサ12,14と、ギア2を介して駆動輪3を駆動する電動機1と、ギア5を介して駆動輪6を駆動する電動機4と、電動機1,4の回転速度を検出する速度センサ10,11と、電動機1及び電動機4を制御する電動機制御装置(電動機制御手段)40と、車両に発生するピッチング振動の振幅を検出するピッチング検出装置(ピッチング検出手段)26を備えている。
【0014】
変位センサ22は従動輪13に連結されたサスペンション(図示せず)の車両鉛直方向の変位を検出するためのものである。変位センサ23は従動輪15に連結されたサスペンション(図示せず)の車両鉛直方向の変位を検出するためのものである。変位センサ24は駆動輪3に連結されたサスペンション(図示せず)の車両鉛直方向の変位を検出するためのものである。変位センサ25は駆動輪6に連結されたサスペンション(図示せず)の車両鉛直方向の変位を検出するためのものである。変位センサ22,23,24,25は、ピッチング検出装置26に接続されており、それらが検出した変位はピッチング検出装置26に出力されている。
【0015】
ピッチング検出装置26は、変位センサ22、変位センサ23、変位センサ24、変位センサ25が出力する各サスペンションの車両鉛直方向の変位検出値に基づいて、車両に発生するピッチング振動の振幅を検出する(以下において、ピッチング検出装置26が検出した振幅をAと表記することがある)。ピッチング検出装置26によって検出されたピッチング振動の振幅Aは、電動機制御装置40におけるスリップ制御部21に出力される。
【0016】
電動機制御装置40は、スリップ制御部21と、トルク指令演算部19と、トルク制御部20と、電力変換器7を備えている。電動機1,4は電動機制御装置40によって制御されており、電動機1,4がギア2,5を介して駆動輪3,6を駆動することで車両は前進または後進する。
【0017】
速度センサ10は、電動機1の回転速度を検出するためのもので、電動機1に接続されている。速度センサ11は、電動機4の回転速度を検出するためのもので、電動機4に接続されている。速度センサ12は、従動輪13の回転速度を検出するためのもので、従動輪13の軸に接続されている。速度センサ14は、従動輪15の回転速度を検出するためのもので、従動輪15の軸に接続されている。速度センサ10,11,12,14はスリップ制御部21に接続されており、これらの検出速度はスリップ制御部21に出力されている。
【0018】
スリップ制御部21は、速度センサ10,11,12,14が出力する回転速度検出値を入力として駆動輪3及び駆動輪6の少なくとも1つにスリップが発生しているかどうかを判定するとともに、ピッチング検出装置26から出力される振幅Aが判定値A1を超えているか否かを判定する。そして、スリップ制御部21は、その判定結果に応じた指令(トルク低減指令、トルク回復指令、回復時間変更指令(後述))をトルク指令演算部19に出力する。ここで、上記における判定値A1は、スリップ制御部21に予め記憶されている設定値であり、ピッチング振動を抑制するために回復時間変更指令(後述)を出力するか否かの判断基準となる値である。判定値A1は後述する判定値調整装置33によって調整することができる。なお、本実施の形態におけるスリップ制御部21は、従動輪13,15の回転速度と駆動輪3,6の回転速度を比較することで駆動輪3,6のスリップ状態を判定している。この場合において、従動輪13,15の回転速度に代えて電気駆動車両の速度(車速)を算出し、当該算出した速度と駆動輪3,6の回転速度を比較してスリップ状態を判定しても良い。
【0019】
まず、スリップ制御部21は、通常走行の状態から駆動輪3及び駆動輪6の少なくとも1つにスリップが発生していると判定した場合には、当該スリップが発生している駆動輪3,6を駆動している電動機1,4のトルクを目標トルク(後述)より小さい値に低減する指令(トルク低減指令)をトルク指令演算部19に出力し、スリップの解消を図る。
【0020】
また、スリップ制御部21は、トルク低減指令の出力中に駆動輪3,6のスリップが発生していないと判定した場合(すなわち、スリップが解消したと判定した場合)には、スリップが解消した駆動輪3,6を駆動している電動機1,4のトルク(トルク低減指令によって目標トルクより小さい値に低減されている電動機1,4のトルク)を目標トルクまで回復させる指令(トルク回復指令)をトルク指令演算部19に出力し、通常走行への復帰を図る。なお、本実施の形態では、後述するように、トルク回復指令による電動機1,4のトルクの回復率(時間当たりのトルク回復量)は一定値Po(以下において、初期値と称することがある)に設定されている。
【0021】
さらに、スリップ制御部21は、トルク回復指令の出力中にピッチング検出装置26から出力される振幅Aが判定値A1を超えたと判定した場合には、トルク回復指令によってトルク回復中の電動機1,4のトルクを目標トルクまで回復させる時間を、振幅Aが判定値A1以下の場合と判定値A1を超える場合とで異ならせるために、電動機1,4のトルクを目標トルクまで回復する時間を変更する指令(回復時間変更指令)をトルク指令演算部19に出力し、ピッチング振動の低減を図る。すなわち、この回復時間変更指令により、スリップ解消後に電動機制御装置40が一定時間に回復させる電動機1,4のトルク量は、ピッチング検出装置26で検出された振幅Aが判定値A1以下の場合と判定値A1を超える場合とで異なることになる。なお、本実施の形態では、後述するように、この回復時間変更指令により、トルク回復率はPo未満の値であるP1(P1<Po)に変更される。
【0022】
なお、スリップ制御部21は、駆動輪3及び駆動輪6にスリップが発生していないと判定した場合には、トルク指令演算部19には特に指令を出力しない。
【0023】
アクセル開度センサ16、ブレーキ開度センサ17及びステアリング角度センサ18は、トルク指令演算部19と接続されている。アクセル開度センサ16は、運転者のアクセル操作に応じたアクセルペダルの開度を検出するもので、検出したアクセルペダル開度をトルク指令演算部19に出力している。ブレーキ開度センサ17は、運転者のブレーキ操作に応じたブレーキペダルの開度を検出するもので、検出したブレーキペダル開度をトルク指令演算部19に出力している。ステアリング角度センサ18は、運転者のステアリング操作に応じたステアリングの角度を検出するもので、検出したステアリング角度をトルク指令演算部19に出力している。
【0024】
判定値調整装置33は、スリップ制御部21においてピッチング振動の振幅Aと比較される判定値A1を外部から調整するためのものであり、スリップ制御部21と接続されている。判定値調整装置33は判定値A1の増減指令を出力し、スリップ制御部21は判定値調整装置33の出力する増減指令を入力として、判定値A1を増減させる。判定値調整装置33は、例えば、車両の運転室内に設置し、運転者が判定値調整装置33を操作することで判定値A1を調整できるようにする。例えば、滑り易い路面を走行中の車両において、スリップ抑制制御が動作することで発生するピッチング振動が気になる場合は、運転者は判定値A1を下げる操作を行うことで、ピッチング振動を小さくすることができる。このように判定値調整装置33を設置すると、運転者が自分の好みに合わせてピッチング振動の大きさを自由に調整することができる。なお、判定値調整装置33としては、例えば、スイッチ式のものや、ダイヤル式のもの等がある。
【0025】
トルク指令演算部19は、アクセル開度センサ16から出力されたアクセル開度検出値、ブレーキ開度センサ17から出力されたブレーキ開度検出値及びステアリング角度センサ18から出力されたステアリング角度検出値を入力値として電動機1,4の目標トルクを算出する。さらに、トルク指令演算部19は、スリップ制御部21からの指令(トルク低減指令、トルク回復指令、回復時間変更指令)の有無及び種類に応じて当該目標トルクに適宜修正を加えた修正トルクを算出する。そして、その目標トルク又は修正トルクが電動機1,4で出力されるようにトルク指令を算出し、その算出したトルク指令をトルク制御部20に出力する。
【0026】
ここで、スリップ制御部21からの指令が出力されている場合にトルク指令演算部19が行うトルク修正処理について説明する。まず、トルク低減指令が出力されている場合には、各センサ16,17,18の検出値から算出した目標トルクをそれよりも小さい値に低減するように修正トルクを算出する。本実施の形態では、時間当たりのトルク低減量(トルク低減率)が一定に設定されており、スリップ制御部21においてスリップが発生したと判定された時刻から当該スリップが解消されたと判定される時刻に至るまで、一定の割合Poでトルクが低減するように修正トルクを算出する。
【0027】
また、トルク回復指令が出力されている場合には、トルク低減指令によって目標トルクより小さい値にまで低減された電動機1,4のトルクが目標トルクまで回復するように修正トルクを算出する。本実施の形態では、トルク回復率が一定値Poに設定されており、トルク低減指令によって目標トルク未満に低減された電動機1,4のトルクが一定の回復率Poで目標トルクに達するまで又はトルク回復指令の出力が中止されるまで修正トルクを算出する。このように電動機1,4へのトルク指令を駆動輪3,6のスリップ状態に応じて変更することで、駆動輪3,6のスリップを抑制することができる。
【0028】
さらに、回復時間変更指令が出力されている場合には、トルク回復指令によってトルク回復中の電動機1,4のトルクを目標トルクまで回復させる時間が、ピッチング振動の振幅Aが判定値A1以下の場合と判定値A1を超える場合とで異なるように修正トルクを算出する。すなわち、一定時間に回復される電動機1,4のトルク量が、ピッチング振動の振幅Aが判定値A1以下の場合と判定値A1を超える場合とで異なるように修正トルクを算出する。本実施の形態では、電動機1,4のトルクを回復させるときに利用するトルク回復率の大きさを、振幅Aが判定値A1以下のときの値Poと比較して小さい値P1(P1<Po)に変更しており、目標トルク未満に低減された電動機1,4のトルクが一定の回復率P1で目標トルクに達するまで又は回復時間変更指令の出力が中止されるまで修正トルクを算出する。これにより、振幅Aが判定値A1以下のときと比較して、電動機1,4のトルクを回復させるために要する時間は長くなる。
【0029】
なお、ピッチング振動の振幅Aが判定値A1を超える場合に用いられるトルク回復率P1は、判定値A1以下の場合に用いられるPoの約1/2〜1/3にすることが好ましい。その理由は、トルク回復率の大きさを小さくするほど電動機1,4の出力するトルクの変動周波数をずらすことができ、ピッチング振動との共振条件から外れやすくなるため、トルク回復率P1はもっと小さくしても良いが、あまり小さくしすぎると電動機1,4の出力するトルクが回復するのに時間を要し過ぎて、車両の加減速性能の低下を招くおそれがあるからである。したがって、車両の加減速性能の低下が問題にならなければ、トルク回復率の大きさをPoの1/3以下にしても良い。
【0030】
電流センサ8は、電力変換器7と電動機1の間に接続されており、これらの間に流れる電流を検出するものである。電流センサ8の電流検出値はトルク制御部20に出力されている。また、電流センサ9は、電力変換器7と電動機4の間に接続されており、これらの間に流れる電流を検出するものである。電流センサ9の電流検出値はトルク制御部20に出力されている。
【0031】
トルク制御部20は、トルク指令演算部19が出力する電動機1へのトルク指令、電流センサ8の出力する電流検出値及び速度センサ10の出力する回転速度検出値に基づいて、電動機1の出力するトルクが電動機1へのトルク指令に従うように、パルス幅変調制御(PWM制御)により電力変換器7へのゲートパルス信号を出力する。また、トルク制御部20は、トルク指令演算部19が出力する電動機4へのトルク指令、電流センサ9が出力する電流検出値及び速度センサ11が出力する回転速度検出値に基づいて、電動機4の出力するトルクが電動機4へのトルク指令に従うように、PWM制御により電力変換器7へのゲートパルス信号を出力する。
【0032】
電力変換器7はトルク制御部20からのゲートパルス信号を受け、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)等のスイッチング素子が高速にスイッチングを行うことで、電動機1,4に対する高応答なトルク制御を実現する。
【0033】
図2は本発明の第1の実施の形態に係る電気駆動車両における電動機制御装置40で行われる処理のフローチャートである。この図に示すフローチャートは、スリップ制御部21において駆動輪3及び駆動輪6の少なくとも1つにスリップが発生していると判定された場合に開始する。スリップが発生していると判定された場合には、スリップ制御部21からトルク指令演算部19に出力されたトルク低減指令に基づいてトルク低減処理が開始される(S201)。これにより、スリップが発生していると判定された駆動輪3,6を駆動している電動機1,4のトルクが低減され、スリップの解消が図られる。S201を実行したらS202に移る。
【0034】
S202では、スリップ制御部21において、発生したスリップが解消したか否かを判定する。スリップが継続していると判定された場合にはトルク低減処理(S201)を繰り返し実行する。一方、スリップが解消したと判定された場合にはS203に移る。
【0035】
S203では、スリップ制御部21は、ピッチング検出装置26から出力されるピッチング振動の振幅Aを入力し、当該入力した振幅Aが判定値A1を超えているか否かを判定する(S204)。S204において、振幅Aが判定値A1以下であると判定された場合には、トルク回復処理で利用されるトルク回復率がPoに設定され(S205)、スリップ制御部21からトルク指令演算部19に出力されたトルク回復指令に基づいてトルク回復処理が開始される(S207)。これにより、スリップ抑制制御が動作する前の目標トルクまで電動機1,4のトルクを回復させることができる。
【0036】
一方、S204において、振幅Aが判定値A1を超えると判定された場合には、トルク回復処理で利用されるトルク回復率がP1(P1<Po)に設定され(S206)、スリップ制御部21からトルク指令演算部19に出力された回復時間低減指令に基づいてトルク回復処理が開始される(S207)。このようにトルク回復率が小さくなると、トルクが目標トルクまで回復するのに要する時間が長くなり、スリップ抑制制御の動作中におけるトルク指令の変動周波数を低くすることができる。その結果、電動機1,4の出力するトルクの変動周波数とピッチング振動の固有周波数をずらすことが可能となり、ピッチング振動が大きくなるのを防止することができる。
【0037】
S207でトルク回復処理を開始したら、スリップ制御部21は、トルク回復処理中にスリップが発生しているか否かを判定する(S208)。S208において駆動輪3,6にスリップが発生したと判定された場合には、S201に戻りS201以降の処理を繰り返す。一方、S208においてスリップは発生していないと判定された場合には、トルク回復処理によって電動機1,4のトルクが目標トルクまで回復したか否かを判定する(S209)。
【0038】
S209で電動機1,4のトルクが目標トルクまで回復していない場合には、S207に戻りトルク回復処理を継続する。一方、S209で電動機1,4のトルクが目標トルクに達したと判定された場合には一連の処理を終了して、電動機制御装置40は次のスリップ発生まで待機する。
【0039】
次に上記フローチャートに基づく電気駆動車両の動作例を図3〜6を用いて説明する。
【0040】
図3は滑り易い路面で車両が加速するときにピッチング振動の振幅Aが判定値A1以下だった場合の動作例を示す図である。この図に示すように、滑り易い路面で加速する時は駆動輪3,6の車輪速度が急上昇するスリップが発生するが、駆動輪3,6のスリップを検出すると電動機1,4のトルク指令を低減する。その結果、スリップが解消されてスリップを検出しなくなると、電動機1,4のトルク指令を回復する動作が行われる。これにより駆動輪3,6に発生するスリップを抑制しつつ車両を加速させることができる。なお、本実施の形態では、図3に示すように、ピッチング振動の振幅Aが判定値A1を超えない場合は、トルク回復率は常に一定のPoとなっている。
【0041】
図4は滑り易い路面で車両が加速するときにピッチング振動の振幅Aが判定値A1を超える場合の動作例を示す図である。この図に示すように、滑り易い路面で加速する時は駆動輪3,6の車輪速度が急上昇するスリップが発生するが、駆動輪3,6のスリップを検出すると電動機1,4のトルク指令を低減する。その結果、スリップが解消されてスリップを検出しなくなると、電動機1,4のトルク指令を回復する動作が行われる。これにより駆動輪3,6に発生するスリップを抑制しつつ車両を加速させることができる。ただし、スリップを抑制するために電動機1,4のトルク指令を低減させたり回復させたりする動作を繰り返す結果、電動機1,4の出力するトルクの変動とピッチング振動が共振してピッチング振動が拡大し、図4に示すようにピッチング振動の振幅Aがだんだん大きくなることがある。そこで、ピッチング振動の振幅Aが判定値A1を超える場合は、トルク回復率の大きさをPoより小さいP1に変更する。このようにトルク回復率の大きさを小さくすると、トルク指令が回復するのに要する時間が長くなり、スリップ抑制制御が動作中におけるトルク指令の変動周波数を低くすることができる。その結果、電動機1,4の出力するトルクの変動周波数とピッチング振動の固有周波数とがずれて共振条件から外れるので、ピッチング振動が大きくなることを防止することができる。
【0042】
図5は滑り易い路面で走行中の車両が減速するときにピッチング振動の振幅Aが判定値A1以下だった場合の動作例を示す図である。この図に示すように、滑り易い路面で減速する時は駆動輪3,6の車輪速度が急下降するスリップが発生するが、駆動輪3,6のスリップを検出すると電動機1,4のトルク指令を低減する。その結果、スリップが解消されてスリップを検出しなくなると、電動機1,4のトルク指令を回復する動作が行われる。これにより駆動輪3,6に発生するスリップを抑制しつつ車両を減速させることができる。なお、本実施の形態では、図4に示すように、ピッチング振動の振幅Aが判定値A1を超えない場合は、トルク回復率は常に一定のPoとなっている。
【0043】
図6は滑り易い路面で走行中の車両が減速するときにピッチング振動の振幅Aが判定値A1を超える場合の動作例を示す図である。この図に示すように、滑り易い路面で減速する時は駆動輪3,6の車輪速度が急下降するスリップが発生するが、駆動輪3,6のスリップを検出すると電動機1,4のトルク指令を低減する。その結果、スリップが解消されてスリップを検出しなくなると、電動機1,4のトルク指令を回復する動作が行われる。これにより駆動輪3,6に発生するスリップを抑制しつつ車両を減速させることができる。ただし、スリップを抑制するために電動機1,4のトルク指令を低減させたり回復させたりする動作を繰り返す結果、電動機1,4の出力するトルクの変動とピッチング振動が共振してピッチング振動が拡大し、図6に示すようにピッチング振動の振幅Aがだんだん大きくなることがある。そこで、ピッチング振動の振幅Aが判定値A1を超える場合は、トルク回復率の大きさをPoより小さいP1に変更する。このようにトルク回復率の大きさを小さくすると、トルク指令が回復するのに要する時間が長くなり、スリップ抑制制御が動作中におけるトルク指令の変動周波数を低くすることができる。その結果、電動機1,4の出力するトルクの変動周波数とピッチング振動の固有周波数とがずれて共振条件から外れるので、ピッチング振動が大きくなることを防止することができる。
【0044】
したがって、本実施の形態によれば、ピッチング振動を大きくさせることなくスリップを抑制できるので、滑り易い路面での車両の乗り心地の悪化を防止しつつ走行安全性を維持することができる。
【0045】
なお、上記の実施の形態では、ピッチング振動の振幅Aが判定値A1を超えるときには、トルク回復率を初期値Poよりも小さい値P1に変更して、振幅Aが判定値A1以下のときと比較して電動機1,4のトルクを回復させるために要する時間を長くすることでピッチング振動を抑制する場合について説明した。しかし、ピッチング振動の振幅Aが判定値A1以下の場合と当該判定値A1を超える場合とで、電動機制御装置40が一定時間に回復させる電動機1,4のトルク量が異なっていれば、上記と同様の効果が得られる。すなわち、電動機1,4の出力するトルクの変動周波数とピッチング振動の固有周波数がずれれば共振条件から外れるので、上記と同様にピッチング振動を抑制することができる。したがって、例えば、当該トルクを回復させるために要する時間を短くしても良い。このようにトルクを回復させるために要する時間を短くする具体的な方法としては、例えば、トルク回復率を初期値Poよりも大きい値に変更するものがある。
【0046】
次に本発明の第2の実施の形態について説明する。上記の実施の形態は、ピッチング振動の振幅Aが判定値A1を超えるときにトルク回復率を変更するものであったが、本実施の形態は、振幅Aが判定値A1を超えている間はトルクを回復させることを停止することでピッチング振動を抑制している点に特徴がある。すなわち、本実施の形態に係るトルク指令演算部19は、スリップが一旦解消してトルク回復処理が開始される場合において、スリップ制御部21から回復時間変更指令が出力されているときには、トルクを回復することを停止するように修正トルクを算出している。
【0047】
図7は本発明の第2の実施の形態に係る電気駆動車両における電動機制御装置40で行われる処理のフローチャートである。この図に示すフローチャートは、スリップ制御部21において駆動輪3及び駆動輪6の少なくとも1つにスリップが発生していると判定された場合に開始する。スリップが発生していると判定された場合には、スリップ制御部21からトルク指令演算部19に出力されたトルク低減指令に基づいてトルク低減処理が開始される(S701)。これにより、スリップが発生していると判定された駆動輪3,6を駆動している電動機1,4のトルクが低減され、スリップの解消が図られる。S701を実行したらS702に移る。
【0048】
S702では、スリップ制御部21において、発生したスリップが解消したか否かを判定する。スリップが継続していると判定された場合にはトルク低減処理(S701)を繰り返し実行する。一方、スリップが解消したと判定された場合にはS703に移る。
【0049】
S703では、スリップ制御部21は、ピッチング検出装置26から出力されるピッチング振動の振幅Aを入力し、当該入力した振幅Aが判定値A1を超えているか否かを判定する(S704)。S704において、振幅Aが判定値A1以下であると判定された場合には、トルク回復処理で利用されるトルク回復率がPoに設定され(S707)、スリップ制御部21からトルク指令演算部19に出力されたトルク回復指令に基づいてトルク回復処理が開始される(S708)。これにより、スリップ抑制制御が動作する前の目標トルクまで電動機1,4のトルクを回復させることができる。
【0050】
一方、S704において、振幅Aが判定値A1を超えると判定された場合には、スリップ制御部21からトルク指令演算部19に出力された回復時間低減指令に基づいてトルク回復処理が停止される(S705)。このようにトルク回復処理を停止させると、トルクが目標トルクまで回復するのに要する時間が長くなり、スリップ抑制制御が動作中におけるトルク指令の変動周波数を低くすることができる。その結果、電動機1,4の出力するトルクの変動周波数とピッチング振動の固有周波数をずらすことが可能となり、ピッチング振動が大きくなるのを防止することができる。
【0051】
S705でトルク回復処理の停止が開始されたら、スリップ制御部21は、ピッチング検出装置26から出力されるピッチング振動の振幅Aを入力し、当該入力した振幅Aが判定値A1以下に達したか否かを判定する(S706)。S706において、振幅Aが判定値A1を超えると判定された場合には、S705に戻ってトルク回復処理の停止を継続する。一方、振幅Aが判定値A1以下に達したと判定された場合には、トルク回復処理で利用されるトルク回復率がPoに設定され(S707)、トルク回復処理が開始される(S708)。
【0052】
S708でトルク回復処理を開始したら、スリップ制御部21は、トルク回復処理中にスリップが発生しているか否かを判定する(S709)。S709において駆動輪3,6にスリップが発生したと判定された場合には、S701に戻りS701以降の処理を繰り返す。一方、S709においてスリップは発生していないと判定された場合には、トルク回復処理によって電動機1,4のトルクが目標トルクまで回復したか否かを判定する(S710)。
【0053】
S710で電動機1,4のトルクが目標トルクまで回復していない場合には、S708に戻りトルク回復処理を継続する。一方、S710で電動機1,4のトルクが目標トルクに達したと判定された場合には一連の処理を終了して、電動機制御装置40は次のスリップ発生まで待機する。
【0054】
次に上記フローチャートに基づく電気駆動車両の動作例を図8を用いて説明する。図8は滑り易い路面で車両が加速するときにピッチング振動の振幅Aが判定値A1を超える場合の動作例を示す図である。この図に示すように、滑り易い路面で加速する時は駆動輪3,6の車輪速度が急上昇するスリップが発生するが、駆動輪3,6のスリップを検出すると電動機1,4のトルク指令を低減する。その結果、スリップが解消されてスリップを検出しなくなると、電動機1,4のトルク指令を回復する動作を行われる。これにより駆動輪3,6に発生するスリップを抑制しつつ車両を加速させることができる。ただし、スリップを抑制するために電動機1,4のトルク指令を低減させたり回復させたりする動作を繰り返す結果、電動機1,4の出力するトルクの変動とピッチング振動が共振してピッチング振動が拡大し、図8に示すようにピッチング振動の振幅Aがだんだん大きくなることがある。そこで、ピッチング振動の振幅Aが判定値A1を超えている間は、トルク指令を回復させる動作を停止する。このようにトルク指令を回復させる動作を停止すると、トルク指令が変動しなくなるので共振が起こらなくなり、ピッチング振動が大きくなることを防止することができる。なお、ここでは、車両が加速するときにピッチング振動が大きくなる場合ついて説明したが、車両が減速するときについても同様である。
【0055】
このように本実施の形態によっても、ピッチング振動を大きくさせることなくスリップを抑制できるので、滑り易い路面での車両の乗り心地の悪化を防止しつつ走行安全性を維持することができる。
【0056】
次に本発明の第3の実施の形態について説明する。上記の実施の形態は、ピッチング振動の振幅Aが判定値A1を超える間はトルクを回復させることを停止するものであったが、本実施の形態は、振幅Aが判定値A1を超えたときはトルクを一定に保持する期間を設けてピッチング振動を抑制している点に特徴がある。すなわち、本実施の形態に係るトルク指令演算部19は、トルク回復処理が行われている間にピッチング振動の振幅Aが判定値A1を超えて、スリップ制御部21から回復時間変更指令が出力されたときには、一定期間トルクを一定に保持し、当該トルクを一定に保持する期間が経過したらトルク回復率を初期値Poに戻してトルクを回復させるように修正トルクを算出している。
【0057】
図9は本発明の第3の実施の形態に係る電気駆動車両における電動機制御装置40で行われる処理のフローチャートである。この図に示すフローチャートは、スリップ制御部21において駆動輪3及び駆動輪6の少なくとも1つにスリップが発生していると判定された場合に開始する。スリップが発生していると判定された場合には、スリップ制御部21からトルク指令演算部19に出力されたトルク低減指令に基づいてトルク低減処理が開始される(S901)。これにより、スリップが発生していると判定された駆動輪3,6を駆動している電動機1,4のトルクが低減され、スリップの解消が図られる。S901を実行したらS902に移る。
【0058】
S902では、スリップ制御部21において、発生したスリップが解消したか否かを判定する。スリップが継続していると判定された場合にはトルク低減処理(S901)を繰り返し実行する。一方、スリップが解消したと判定された場合にはS903に移る。
【0059】
S903では、スリップ制御部21は、ピッチング検出装置26から出力されるピッチング振動の振幅Aを入力し、当該入力した振幅Aが判定値A1を超えているか否かを判定する(S904)。S904において、振幅Aが判定値A1以下であると判定された場合には、トルク回復処理で利用されるトルク回復率がPoに設定され(S906)、スリップ制御部21からトルク指令演算部19に出力されたトルク回復指令に基づいてトルク回復処理が開始される(S907)。これにより、スリップ抑制制御が動作する前の目標トルクまで電動機1,4のトルクを回復させることができる。
【0060】
一方、S904において、振幅Aが判定値A1を超えると判定された場合には、スリップ制御部21からトルク指令演算部19に出力された回復時間低減指令に基づいて、その時刻におけるトルクの値で電動機1,4のトルクを一定期間保持する(S905)。このようにトルクが一定に保持される期間を設けると、トルクが目標トルクまで回復するのに要する時間が長くなり、スリップ抑制制御が動作中におけるトルク指令の変動周波数を低くすることができる。その結果、電動機1,4の出力するトルクの変動周波数とピッチング振動の固有周波数をずらすことが可能となり、ピッチング振動が大きくなるのを防止することができる。S905で電動機1,4のトルクを一定期間保持したら、トルク回復処理で利用されるトルク回復率がPoに設定され(S906)、トルク回復処理が開始される(S907)。
【0061】
S907でトルク回復処理を開始したら、スリップ制御部21は、トルク回復処理中にスリップが発生しているか否かを判定する(S908)。S908において駆動輪3,6にスリップが発生したと判定された場合には、S901に戻りS901以降の処理を繰り返す。一方、S908においてスリップは発生していないと判定された場合には、トルク回復処理によって電動機1,4のトルクが目標トルクまで回復したか否かを判定する(S909)。
【0062】
S909で電動機1,4のトルクが目標トルクまで回復していない場合には、S907に戻りS907以降の処理を繰り返す。一方、S909で電動機1,4のトルクが目標トルクに達したと判定された場合には一連の処理を終了して、電動機制御装置40は次のスリップ発生まで待機する。
【0063】
次に上記フローチャートに基づく電気駆動車両の動作例を図10を用いて説明する。図10は滑り易い路面で車両が加速するときにピッチング振動の振幅Aが判定値A1を超える場合の動作例を示す図である。この図に示すように、滑り易い路面で加速する時は駆動輪3,6の車輪速度が急上昇するスリップが発生するが、駆動輪3,6のスリップを検出すると電動機1,4のトルク指令を低減する。その結果、スリップが解消されてスリップを検出しなくなると、電動機1,4のトルク指令を回復する動作を行われる。これにより駆動輪3,6に発生するスリップを抑制しつつ車両を加速させることができる。ただし、スリップを抑制するために電動機1,4のトルク指令を低減させたり回復させたりする動作を繰り返す結果、電動機1,4の出力するトルクの変動とピッチング振動が共振してピッチング振動が拡大し、図10に示すようにピッチング振動の振幅Aがだんだん大きくなることがある。そこで、ピッチング振動の振幅Aが判定値A1を超える場合は、トルク指令を回復させる動作を行う際にトルクを一定に保つ期間を設ける。このようにトルクを一定に保つ期間を設けると、スリップ抑制制御が動作中におけるトルク指令の変動周波数を低くすることができる。その結果、電動機1,4の出力するトルクの変動周波数とピッチング振動の固有周波数とがずれて共振条件から外れるので、ピッチング振動が大きくなることを防止することができる。なお、ここでは、車両が加速するときにピッチング振動が大きくなる場合ついて説明したが、車両が減速するときについても同様である。
【0064】
このように本実施の形態によっても、ピッチング振動を大きくさせることなくスリップを抑制できるので、滑り易い路面での車両の乗り心地の悪化を防止しつつ走行安全性を維持することができる。
【0065】
なお、上記の説明では、ピッチング振動の振幅Aが判定値A1を超えた時刻から一定期間トルクを保持する場合について説明したが、振幅Aが判定値A1を超えてから所定の時間が経過した後にトルクを一定に保持しても良い。
【0066】
次に本発明の第4の実施の形態について説明する。上記の各実施の形態は、ピッチング振動の振幅Aが判定値A1を超えたときに、トルクを回復させるために要する時間を変更するものであったが、本実施の形態では、ピッチング振動の振幅Aの大きさに合わせてトルク回復率を変更する点に特徴がある。すなわち、本実施の形態に係るトルク指令演算部19は、スリップ制御部21からトルク回復指令が出力されているとき(トルク回復処理が行われているとき)に利用するトルク回復率の大きさをピッチング振動の振幅Aの増加に合わせて小さくなるように算出し、トルク低減指令によって目標トルク未満に低減された電動機1,4のトルクが当該算出したトルク回復率に従って回復するように修正トルクを算出する。すなわち、本実施の形態におけるトルク回復率は、ピッチング振動の振幅Aの増加に合わせて単調減少し、振幅Aの減少に合わせて単調増加する。また、本実施の形態で利用するトルク回復率は振幅Aの関数であり、当該トルク回復率を以下においてP(A)と表記することがある。なお、本実施の形態におけるスリップ制御部21は回復時間変更指令を出力しないこととする。
【0067】
図11は本発明の第4の実施の形態に係る電気駆動車両における電動機制御装置40で行われる処理のフローチャートである。この図に示すフローチャートは、スリップ制御部21において駆動輪3及び駆動輪6の少なくとも1つにスリップが発生していると判定された場合に開始する。スリップが発生していると判定された場合には、スリップ制御部21からトルク指令演算部19に出力されたトルク低減指令に基づいてトルク低減処理が開始される(S1101)。これにより、スリップが発生していると判定された駆動輪3,6を駆動している電動機1,4のトルクが低減され、スリップの解消が図られる。S1101を実行したらS1102に移る。
【0068】
S1102では、スリップ制御部21において、発生したスリップが解消したか否かを判定する。スリップが継続していると判定された場合にはトルク低減処理(S1101)を繰り返し実行する。一方、スリップが解消したと判定された場合にはS1103に移る。
【0069】
S1103では、スリップ制御部21は、ピッチング検出装置26から出力されるピッチング振動の振幅Aを入力し、当該入力した振幅Aに基づいてトルク回復率P(A)を算出する(S1104)。S1104においてトルク回復率P(A)を算出したら、その算出したトルク回復率P(A)を利用してトルク回復処理が開始される(S1105)。S1105でトルク回復処理を開始したら、スリップ制御部21は、トルク回復処理中にスリップが発生しているか否かを判定する(S1106)。S1106において駆動輪3,6にスリップが発生したと判定された場合には、S1101に戻りS1101以降の処理を繰り返す。
【0070】
一方、S1106においてスリップは発生していないと判定された場合には、トルク回復処理によって電動機1,4のトルクが目標トルクまで回復したか否かを判定する(S1107)。S1107で電動機1,4のトルクが目標トルクまで回復していない場合には、S1103に戻りS1103以降の処理を繰り返す。
【0071】
このようにピッチング振動の振幅Aに合わせてトルク回復率P(A)を変化させると、電動機1,4のトルクが回復する時間が振幅Aの増加に合わせて長くなり、スリップ抑制制御が動作中におけるトルク指令の変動周波数を低くすることができる。その結果、電動機1,4の出力するトルクの変動周波数とピッチング振動の固有周波数をずらすことが可能となり、ピッチング振動が大きくなるのを防止することができる。なお、S1107で電動機1,4のトルクが目標トルクに達したと判定された場合には一連の処理を終了して、電動機制御装置40は次のスリップ発生まで待機する。
【0072】
次に上記フローチャートに基づく電気駆動車両の動作例を図12を用いて説明する。図12は滑り易い路面で車両が加速するときにピッチング振動が大きくなった場合の動作例を示す図である。この図に示すように、滑り易い路面で加速する時は駆動輪3,6の車輪速度が急上昇するスリップが発生するが、駆動輪3,6のスリップを検出すると電動機1,4のトルク指令を低減する。その結果、スリップが解消されてスリップを検出しなくなると、電動機1,4のトルク指令を回復する動作を行われる。これにより駆動輪3,6に発生するスリップを抑制しつつ車両を加速させることができる。ただし、スリップを抑制するために電動機1,4のトルク指令を低減させたり回復させたりする動作を繰り返す結果、電動機1,4の出力するトルクの変動とピッチング振動が共振してピッチング振動が拡大し、図12に示すようにピッチング振動の振幅Aがだんだん大きくなることがある。そこで、ピッチング振動の振幅Aが大きくなるにつれてトルク回復率の大きさを小さくし、そのトルク変化率を利用してトルクを回復させる。このように振幅Aに合わせてトルク変化率を変えると、電動機1,4の出力するトルクの変動周波数を低くすることができる。その結果、電動機1,4の出力するトルクの変動周波数とピッチング振動の固有周波数とがずれて共振条件から外れるので、ピッチング振動が大きくなることを防止することができる。なお、ここでは、車両が加速するときにピッチング振動が大きくなる場合ついて説明したが、車両が減速するときについても同様である。
【0073】
このように本実施の形態によっても、ピッチング振動を大きくさせることなくスリップを抑制できるので、滑り易い路面での車両の乗り心地の悪化を防止しつつ走行安全性を維持することができる。なお、本実施の形態は、ピッチング振動の振幅Aに応じて常にトルク回復率P(A)を調節しているので、上記の各実施の形態に比較して特にピッチング振動が大きくなり難いという特別な効果を発揮する。
【0074】
図13は本発明の第5の実施の形態に係る電気駆動車両の構成図である。なお、先の図と同じ部分には同じ符号を付して説明は省略する。図1の電気駆動車両と異なる点は、車両の積載量を検出し、その検出した積載量検出値をスリップ制御部36に出力する積載量センサ35を備えている点と、スリップ解消後のトルク回復処理において一定時間に回復させる電動機1,4のトルク量を積載量センサ35の検出した積載量の増加に合わせて小さくなるように調整するスリップ制御部36を備えている点である。
【0075】
例えば、トラックのように積載量が大きく変化する車両では、積載量に応じてピッチング振動の固有周波数が変化する。一般に、積載量が大きくなるとピッチング振動の固有周波数は低くなり、積載量が小さくなるとピッチング振動の固有周波数は高くなる。そこで、トルクの変動とピッチング振動の共振をより外し易くするためには、積載量の増加に合わせて一定時間に回復させる電動機1,4のトルク量を小さくすれば良い。例えば、これをトルク回復率で表せば、積載量が大きい場合はトルク回復率の大きさを大きくし、積載量が小さい場合はトルク回復率の大きさを小さくすれば良い。
【0076】
したがって、本実施の形態のようにスリップ解消後のトルク回復処理において一定時間に回復させる電動機1,4のトルク量を積載量の増加に合わせて小さくすると、上記の各実施の形態の場合と比較して、トルクの変動とピッチング振動の共振をより外し易くすることができる。
【0077】
ところで、上記の各実施の形態では、各車輪3,6,13,15に連結されたサスペンションの車両鉛直方向の変位検出値に基づいて車両に発生するピッチング振動の振幅を検出してきたが、次に示す他の検出値に基づいてもピッチング振動の振幅は検出することができる。
【0078】
図14は本発明の第1の実施の形態に係る電気駆動車両の他の構成図である。図1と異なるのは、サスペンションの車両鉛直方向の変位を検出する変位センサ22,23,24,25の代わりに当該サスペンションのストラット圧力を検出する圧力センサ27,28,29,30と、当該圧力センサ27,28,29,30から出力される圧力検出値に基づいて車両に発生するピッチング振動の振幅Aを検出するピッチング検出装置31を備えている点である。
【0079】
圧力センサ27は従動輪13に連結されたサスペンションのストラット圧力を検出するためのもので、圧力センサ28は従動輪15に連結されたサスペンションのストラット圧力を検出するためのもので、圧力センサ29は駆動輪3に連結されたサスペンションのストラット圧力を検出するためのもので、圧力センサ30は駆動輪6に連結されたサスペンションのストラット圧力を検出するためのものである。
【0080】
ピッチング検出部31は、圧力センサ27、圧力センサ28、圧力センサ29、圧力センサ30から出力される各サスペンションのストラット圧力検出値を入力として、車両に発生するピッチング振動の振幅Aを検出する。サスペンションのストラット圧力はサスペンションの車両鉛直方向の変位と相関があるため、このようにストラット圧力を用いても車両に発生するピッチング振動の振幅Aを検出することができる。
【0081】
図15は本発明の第1の実施の形態に係る電気駆動車両のさらに他の構成図である。図1と異なるのは、サスペンションの車両鉛直方向の変位の代わりに速度センサ10,11,12,14で検出される各車輪3,6,13,15の回転速度を利用しており、当該速度センサ10,11,12,14から出力される車輪速度検出値に基づいて車両に発生するピッチング振動の振幅Aを検出するピッチング検出装置32を備えている点である。
【0082】
ピッチング検出装置32は、速度センサ10、速度センサ11、速度センサ12、速度センサ14から出力される回転速度検出値を入力として、車両に発生するピッチング振動の振幅Aを検出する。車両にピッチング振動が発生すると、その振動は車体を伝播して駆動輪3、駆動輪6、従動輪13、従動輪15の回転速度にも発生し、その大きさはピッチング振動の大きさと相関がある。そのため、このように車輪の回転速度を用いても車両に発生するピッチング振動の振幅Aを検出することができる。
【0083】
なお、以上の説明では、車輪として駆動輪及び従動輪を備える車両について説明したが、すべての車輪が駆動輪である場合にも本発明は適用可能である。この場合には、スリップ判定をする際に従動輪の回転速度を利用することができないので、車両速度を利用ことが必要となる。
【符号の説明】
【0084】
1…電動機、2…ギア、3…駆動輪、4…電動機、5…ギア、6…駆動輪、7…電力変換器、8…電流センサ、9…電流センサ、10…速度センサ、11…速度センサ、12…速度センサ、13…従動輪、14…速度センサ、15…従動輪、16…アクセル開度センサ、17…ブレーキ開度センサ、18…ステアリング角度センサ、19…トルク指令演算部、20…トルク制御部、21…スリップ制御部、22…変位センサ、23…変位センサ、24…変位センサ、25…変位センサ、26…ピッチング検出装置、27…圧力センサ、28…圧力センサ、29…圧力センサ、30…圧力センサ、31…ピッチング検出装置、32…ピッチング検出装置、33…判定値調整装置、34…スリップ制御部、35…積載量センサ、36…スリップ制御部、40…電動機制御装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機と、当該電動機により駆動される駆動輪と、当該駆動輪にスリップが発生するときに前記電動機のトルクを低減させ、当該スリップ解消後に前記電動機のトルクを回復させる電動機制御手段とを備えた電気駆動車両において、
前記車両に発生するピッチング振動の振幅を検出するピッチング検出手段を備え、
前記スリップ解消後に前記電動機制御手段が一定時間に回復させる前記電動機のトルク量は、前記ピッチング検出手段で検出された振幅が判定値以下の場合と前記判定値を超える場合とで異なっていることを特徴とする電気駆動車両。
【請求項2】
請求項1に記載の電気駆動車両において、
前記電動機制御手段は、前記ピッチング検出手段で検出された振幅が前記判定値を超える場合、前記振幅が前記判定値以下のときと比較して前記電動機のトルクを回復させるために要する時間を長くすることを特徴とする電気駆動車両。
【請求項3】
請求項1に記載の電気駆動車両において、
前記電動機制御手段は、前記ピッチング検出手段で検出された振幅が前記判定値を超える場合、前記電動機のトルクを回復させるときのトルク回復率の大きさを、前記振幅が前記判定値以下のときと比較して小さくすることを特徴とする電気駆動車両。
【請求項4】
請求項1に記載の電気駆動車両において、
前記電動機制御手段は、前記ピッチング検出手段で検出された振幅が前記判定値を超える場合、前記電動機のトルクを回復させることを停止することを特徴とする電気駆動車両。
【請求項5】
請求項1に記載の電気駆動車両において、
前記電動機制御手段は、前記ピッチング検出手段で検出された振幅が前記判定値を超える場合、前記電動機のトルクを回復させる際に前記電動機のトルクを一定に保持する期間を有することを特徴とする電気駆動車両。
【請求項6】
請求項1に記載の電気駆動車両において、
前記判定値を調整する調節装置をさらに備えることを特徴とする電気駆動車両。
【請求項7】
請求項6に記載の電気駆動車両において、
前記調整装置は、前記車両の運転室内にされていることを特徴とする電気駆動車両。
【請求項8】
電動機と、当該電動機により駆動される駆動輪と、当該駆動輪にスリップが発生するときに前記電動機のトルクを低減させ、当該スリップ解消後に前記電動機のトルクを回復させる電動機制御手段とを備えた電気駆動車両において、
前記車両に発生するピッチング振動の振幅を検出するピッチング検出手段を備え、
前記電動機制御手段は、前記電動機のトルクを回復させるときのトルク回復率の大きさを、前記ピッチング検出手段で検出される振幅の増加に合わせて小さくすることを特徴とする電気駆動車両。
【請求項9】
請求項1又は8に記載の電気駆動車両において、
前記車両の積載量を検出する積載量センサをさらに備え、
前記電動機制御手段が一定時間に回復させる前記電動機のトルク量は、前記積載量の増加に合わせて小さくなるように調整されていることを特徴とする電気駆動車両。
【請求項10】
請求項1に記載の電気駆動車両において、
前記車両の車輪に取り付けられたサスペンションの車両鉛直方向の変位を検出する変位センサをさらに備え、
前記ピッチング検出手段は、前記サスペンションの変位に基づいてピッチング振動の振幅を検出することを特徴とする電気駆動車両。
【請求項11】
請求項1に記載の電気駆動車両において、
前記車両の車輪に取り付けられたサスペンションのストラット圧力を検出する圧力センサを更に備え、
前記ピッチング検出手段は、前記ストラット圧力に基づいてピッチング振動の振幅を検出する検出することを特徴とする電気駆動車両。
【請求項12】
請求項1に記載の電気駆動車両において、
前記車両の車輪速度を検出する速度センサをさらに備え、
前記ピッチング検出手段は、前記車輪速度に基づいてピッチング振動の振幅を検出することを特徴とする電気駆動車両。
【請求項1】
電動機と、当該電動機により駆動される駆動輪と、当該駆動輪にスリップが発生するときに前記電動機のトルクを低減させ、当該スリップ解消後に前記電動機のトルクを回復させる電動機制御手段とを備えた電気駆動車両において、
前記車両に発生するピッチング振動の振幅を検出するピッチング検出手段を備え、
前記スリップ解消後に前記電動機制御手段が一定時間に回復させる前記電動機のトルク量は、前記ピッチング検出手段で検出された振幅が判定値以下の場合と前記判定値を超える場合とで異なっていることを特徴とする電気駆動車両。
【請求項2】
請求項1に記載の電気駆動車両において、
前記電動機制御手段は、前記ピッチング検出手段で検出された振幅が前記判定値を超える場合、前記振幅が前記判定値以下のときと比較して前記電動機のトルクを回復させるために要する時間を長くすることを特徴とする電気駆動車両。
【請求項3】
請求項1に記載の電気駆動車両において、
前記電動機制御手段は、前記ピッチング検出手段で検出された振幅が前記判定値を超える場合、前記電動機のトルクを回復させるときのトルク回復率の大きさを、前記振幅が前記判定値以下のときと比較して小さくすることを特徴とする電気駆動車両。
【請求項4】
請求項1に記載の電気駆動車両において、
前記電動機制御手段は、前記ピッチング検出手段で検出された振幅が前記判定値を超える場合、前記電動機のトルクを回復させることを停止することを特徴とする電気駆動車両。
【請求項5】
請求項1に記載の電気駆動車両において、
前記電動機制御手段は、前記ピッチング検出手段で検出された振幅が前記判定値を超える場合、前記電動機のトルクを回復させる際に前記電動機のトルクを一定に保持する期間を有することを特徴とする電気駆動車両。
【請求項6】
請求項1に記載の電気駆動車両において、
前記判定値を調整する調節装置をさらに備えることを特徴とする電気駆動車両。
【請求項7】
請求項6に記載の電気駆動車両において、
前記調整装置は、前記車両の運転室内にされていることを特徴とする電気駆動車両。
【請求項8】
電動機と、当該電動機により駆動される駆動輪と、当該駆動輪にスリップが発生するときに前記電動機のトルクを低減させ、当該スリップ解消後に前記電動機のトルクを回復させる電動機制御手段とを備えた電気駆動車両において、
前記車両に発生するピッチング振動の振幅を検出するピッチング検出手段を備え、
前記電動機制御手段は、前記電動機のトルクを回復させるときのトルク回復率の大きさを、前記ピッチング検出手段で検出される振幅の増加に合わせて小さくすることを特徴とする電気駆動車両。
【請求項9】
請求項1又は8に記載の電気駆動車両において、
前記車両の積載量を検出する積載量センサをさらに備え、
前記電動機制御手段が一定時間に回復させる前記電動機のトルク量は、前記積載量の増加に合わせて小さくなるように調整されていることを特徴とする電気駆動車両。
【請求項10】
請求項1に記載の電気駆動車両において、
前記車両の車輪に取り付けられたサスペンションの車両鉛直方向の変位を検出する変位センサをさらに備え、
前記ピッチング検出手段は、前記サスペンションの変位に基づいてピッチング振動の振幅を検出することを特徴とする電気駆動車両。
【請求項11】
請求項1に記載の電気駆動車両において、
前記車両の車輪に取り付けられたサスペンションのストラット圧力を検出する圧力センサを更に備え、
前記ピッチング検出手段は、前記ストラット圧力に基づいてピッチング振動の振幅を検出する検出することを特徴とする電気駆動車両。
【請求項12】
請求項1に記載の電気駆動車両において、
前記車両の車輪速度を検出する速度センサをさらに備え、
前記ピッチング検出手段は、前記車輪速度に基づいてピッチング振動の振幅を検出することを特徴とする電気駆動車両。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−110073(P2012−110073A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254817(P2010−254817)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】
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