説明

電波吸収体

【課題】 不燃性で、且つ厚さが薄く、電波の斜入射特性に優れた安価な電波吸収体を提供する。
【解決手段】 セメント質粉末叉はケイ酸質粉末を主原料とする硬化体からなる電波吸収体であって、セメント質及びケイ酸質に配合する骨材の一部に、電波吸収材料として天然に産出する砂状のチタン鉄鉱を使用し、これを混合して成形した後、ケイ酸カルシウム水和物により硬化体とする。そして、周波数帯域2〜7GHzの範囲の電波を吸収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電波吸収体に関し、詳しくは建築物における無線LAN対策用の内外装材、及び土木における道路・トンネルなど高度道路交通システム(ITS:Intelligent Transport Systems)及び専用狭域通信(DSRC:Dedicated Short Range Communication)対策用の外装材として使用し、それぞれの電波障害を軽減する不燃性の電波吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電波障害対策用として開発された電波吸収体には、合成樹脂材やゴム材に磁性材料を練り混ぜ板状に成形したものや、不燃性を付与する為に前記成形体の表面にケイ酸カルシウム板のような不燃材を貼り付けたもの(例えば、特許文献1参照)、或いは叉、不燃性があるガラス発泡体による厚さ30mm以上のλ/4法電波吸収体等が存在する。
【0003】
しかしながら、合成樹脂材やゴム材からなる電波吸収体は燃焼性を有し、複層であるため生産工程上コストが高価になるという問題を有する。
叉、不燃性のものでは、全体の厚みが厚く電波の斜入射特性が悪いという問題を有する。
【0004】
また、不燃性を有する電波吸収体として、Mg−Zn系フェライトおよび/またはNi−Zn系フェライトからなる骨材を配合したセメント質粉末叉はケイ酸質粉末を主原料とする硬化体の電波吸収体が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
その特許文献2に記載のセメント質粉末叉はケイ酸質粉末を主原料とする硬化体は、テレビのUHF放送用の周波数帯域(470〜770MHz)で電波吸収性能が優れるもので、無線LANで使用する2つの周波数帯(2.5GHz帯、5.2GHz帯)やITS、DSRCの周波数帯(5.8GHz帯)においては電波吸収の効果は期待できないものである。
従って、無線LANやITS、DSRC対策用の外装材としては有効なものではない。
【0005】
【特許文献1】特開平6−240777号公報
【特許文献2】特開2002−294900号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記した従来の技術が有する問題点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、不燃性で、且つ厚さが薄く、電波の斜入射特性に優れた安価な電波吸収体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、量産化ということを前提に検討し、従来のセメント質粉末叉はケイ酸質粉末を主原料とする板の成形技術(例えば、押し出し法、抄造法、加圧法等)を使い、その配合組成中の骨材の一部を、安価に入手できる天然に産出する砂状のチタン鉄鉱、例えばイルメナイトを電波吸収材料として置き換え、練り混ぜて成形し、水硬性により硬化体とした。
そして、無線LANやITS、DSRC対策用としての電波吸収特性と成形強度及び製品必要強度等を考慮し、電波吸収材料(イルメナイト)とセメントの配合比を調整したものである。その結果、不燃性があり、薄くて電波の斜入射特性に優れた機能を示すことを見出した。
即ち、本発明の電波吸収体は、セメント質粉末叉はケイ酸質粉末を主原料とする硬化体からなる電波吸収体であって、セメント質粉末叉はケイ酸質粉末に配合する骨材の一部に、電波吸収材料として天然に産出する砂状のチタン鉄鉱を使用し、これを混合して成形した後、ケイ酸カルシウム水和物により硬化体とした、周波数帯域2〜7GHzの範囲の電波を吸収することを特徴とする(請求項1)。
上記電波吸収材料のチタン鉄鉱は、成形に支障とならない粒径のもので、その粒径は10μm〜500μmのものが好適である。尚、上記セメント質粉末叉はケイ酸質粉末を主原料とする硬化体製品の一般名称としてスレート板、ケイ酸カルシウム板、押出し成形板及びPC(プレキャストコンクリート)板等が挙げられる。また、これ等の硬化体には無機質(金属以外)及び有機質繊維を適宜配合することができる。
上記主原料のセメント質粉末とは、ケイ酸質粉末を含有するものも含むものである。
【0008】
叉、前記セメントと電波吸収材料の配合比は、セメント質粉末叉はケイ酸質粉末の主原料の配合量が20wt%〜40wt%、チタン鉄鉱の配合量は20wt%〜60wt%の範囲とする(請求項2)。
更に、前記硬化体の板厚は5mm〜20mmの範囲とし、電波の斜入射角度0°〜60°の範囲で反射減衰量が15dB以上の性能を有するように構成する(請求項3)。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電波吸収体は、有機物を使用しないため不燃性で、しかも薄く、電波の斜入時における電波吸収特性に優れた電波吸収体を提供できる。そして、従来のセメント質板叉はケイ酸質板の成形技術及び成形設備を使用でき、それにより大量生産が可能で、建築物及び土木で使用することができる安価な電波吸収体を供給できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係る電波吸収体の実施の形態について説明する。
本発明の電波吸収体は、セメント質粉末叉はケイ酸質粉末を主原料とする硬化体からなる電波吸収体であって、セメント質粉末叉はケイ酸質粉末の主原料に配合する骨材の一部に、電波吸収材料として天然に産出する砂状のチタン鉄鉱、例えばイルメナイトを使用し、これを混合して成形した後、ケイ酸カルシウム水和物により硬化体としたものである。
そして、電波吸収特性と成形強度及び製品必要強度等を考慮し、電波吸収材料(イルメナイト)とセメントの配合比を調整する。特に、完成品の厚さ(肉厚)が薄く、電波の斜入射特性について調整した。
【0011】
その結果、本発明で使用する電波吸収材料のチタン鉄鉱の粒径は10μm〜500μmであり、その配合量は20wt%〜60wt%の範囲とし、セメント質粉末叉はケイ酸質粉末の配合量は20wt%〜40wt%の範囲とする。また、成形する硬化体の厚さは5mm〜20mmの範囲とする。
以下、実施例について説明する。
【0012】
(1)電波吸収材料であるチタン鉄鉱(イルメナイト)の添加量を変化し、セメント質粉末の添加量を39wt%で一定に保ち、伝送線路理論で、ベクトルネットワークアナライザーを用いて、7D同軸管S−パラメーター法により電波吸収量・材料定数を測定した。その中で、配合比[イルメナイト:25wt%、セメント質粉末:39wt%]の整合厚さを求め、電波吸収特性及び斜入時における電波吸収量を計算により算出した。
電波吸収量(反射減衰量)・反射係数の算出式は下記の通りである。
【0013】
【数1】

【0014】
上記チタン鉄鉱(イルメナイト)の添加量を0〜25wt%で変化させ、セメント質粉末の添加量39wt%一定による材料定数(ε’,ε”:複素比誘電率、μ’,μ”:複素比透磁率)及び電波吸収特性(反射減衰量dB)を図1に示す。
また、チタン鉄鉱(イルメナイト)の添加量を0〜25wt%で変化させ、セメント質粉末の添加量39wt%一定による整合厚さ特性を図2に示す。
更に、材料定数(厚さ一定)による電波吸収特性(計算値)を図3に示す。尚、サンプル1は、配合比(イルメナイト:30wt%、セメント質粉末:30wt%)厚さt=11.9mm、サンプル2は、配合比(イルメナイト:25wt%、セメント質粉末:39wt%)厚さt=14.5mmのものである。また、同サンプルの斜入射角度変化による電波吸収特性(円偏波)を図4に示す。
【0015】
(2) 電波吸収材料であるチタン鉄鉱(イルメナイト)の添加量を一定(30wt%)にして、セメント質粉末の添加量を変化させ、その電波吸収量・材料定数を測定した。その中で、配合比[イルメナイト:30wt%、セメント質粉末:30wt%]の整合厚さを求め、電波吸収特性及び斜入時における電波吸収量を計算により算出した。計算式は上記と同様である。
さらに、斜入射によるTE波、TM波の反射減衰量(実測値)をフリースペース法により測定した。その電波吸収特性をそれぞれ図9及び図10に示す。
上記セメント質粉末の添加量を10〜30wt%で変化させ、チタン鉄鉱(イルメナイト)添加量30wt%一定による材料定数及び電波吸収特性を図5に示す。
また、セメント質粉末の添加量を10〜30wt%で変化させ、チタン鉄鉱(イルメナイト)添加量30wt%一定による整合厚さ特性を図6に示す。
更に、チタン鉄鉱(イルメナイト)の添加量を30〜50wt%で変化させ、セメント質粉末の添加量11〜16wt%による材料定数及び電波吸収特性を図7に示す。
また、上記セメント質粉末の添加量を10〜30wt%で変化させ、チタン鉄鉱(イルメナイト)添加量30wt%一定による材料定数、比重、及び電波吸収特性を図8に示す。
【0016】
上記の如く構成した電波級数体は、図4に示すように配合比(イルメナイト:30wt%、セメント質粉末:30wt%)厚さt=11.9mmのものと、配合比(イルメナイト:25wt%、セメント質粉末:39wt%)厚さt=14.5mmのものは、何れも電波の入射角度0°〜60°の範囲で反射減衰量が15dB以上の性能を発揮することが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明の電波吸収体は、建築物における無線LAN対策用の内外装材、及び土木における道路、トンネル等のITS、DSRC対策用の外装材として利用拡大が望める。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】チタン鉄鉱(イルメナイト)添加量変化(セメント質粉末添加量39wt%一定)による材料定数及び電波吸収特性を示すグラフ。
【図2】チタン鉄鉱(イルメナイト)添加量変化(セメント質粉末添加量39wt%一定)による整合厚さ特性を示すグラフ。
【図3】材料定数(厚さ一定)による電波吸収特性(計算値)を示すグラフ。
【図4】斜入射角度変化による電波吸収特性(円偏波)を示すグラフ。
【図5】セメント質粉末添加量変化(チタン鉄鉱(イルメナイト)添加量30wt%一定)による材料定数及び電波吸収特性を示すグラフ。
【図6】セメント質粉末添加量変化(チタン鉄鉱(イルメナイト)添加量30wt%一定)による整合厚さ特性を示すグラフ。
【図7】チタン鉄鉱(イルメナイト)添加量変化(セメント質粉末添加量11〜16wt%)による材料定数及び電波吸収特性を示すグラフ。
【図8】セメント質粉末添加量変化(チタン鉄鉱(イルメナイト)添加量30wt%一定)による材料定数、比重、及び電波吸収特性を示すグラフ。
【図9】斜入射によるTE波の電波吸収特性を示すグラフ。
【図10】斜入射によるTM波の電波吸収特性を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント質粉末叉はケイ酸質粉末を主原料とする硬化体からなる電波吸収体であって、セメント質粉末叉はケイ酸質粉末に配合する骨材の一部に、電波吸収材料として天然に産出する砂状のチタン鉄鉱を使用し、これを混合して成形した後、ケイ酸カルシウム水和物により硬化体とした、周波数帯域2〜7GHzの範囲の電波を吸収することを特徴とする電波吸収体。
【請求項2】
前記セメント質粉末叉はケイ酸質粉末と電波吸収材料の配合比が、セメント質粉末叉はケイ酸質粉末の配合量20wt%〜40wt%、チタン鉄鉱配合量20wt%〜60wt%の範囲にあることを特徴とする請求項1記載の電波吸収体。
【請求項3】
前記硬化体の板厚が5mm〜20mmの範囲にあり、電波の斜入射角度0°〜60°の範囲で反射減衰量が15dB以上の性能を有することを特徴とする請求項1叉は2記載の電波吸収体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−83615(P2006−83615A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−270023(P2004−270023)
【出願日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(390018739)大興物産株式会社 (2)
【出願人】(390006404)倉庫精練株式会社 (1)
【出願人】(000135335)株式会社ノザワ (52)
【出願人】(504352227)株式会社昭和技研 (1)
【出願人】(503388430)
【出願人】(390010216)ニッコー株式会社 (49)
【Fターム(参考)】