説明

電界効果トランジスタ

【課題】特定の有機化合物を半導体材料として用いることにより、実用的なキャリア移動度を有する電界効果トランジスタを提供すること。
【解決手段】下記式(1)で表される化合物を半導体材料として用いた電界効果トランジスタ。


(式(1)中、X及びXはそれぞれ独立に硫黄原子又はセレン原子を、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよい脂肪族炭化水素基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界効果トランジスタに関する。更に詳しくは、本発明は特定の有機複素環化合物を半導体材料として用いた電界効果トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
電界効果トランジスタは、一般に、基板上の半導体材料にソース電極、ドレイン電極、及びこれらの電極と絶縁体層を介してゲート電極等を設けた構造を有しており、論理回路素子として集積回路に使用されるほか、スイッチング素子などにも幅広く用いられている。現在、電界効果トランジスタには、シリコンを中心とする無機系の半導体材料が使われており、特にアモルファスシリコンを用いて、ガラスなどの基板上に作成された薄膜トランジスタがディスプレイ等に利用されている。このような無機の半導体材料を用いた場合、電界効果トランジスタの製造時に高温や真空で処理する必要があり、高額な設備投資や、製造に多くのエネルギーを要するため、コストが非常に高いものとなる。又、これらにおいては電界効果トランジスタの製造時に高温に曝されるために基板にはフィルムやプラスチックのような耐熱性が十分でない基板を利用する事ができず、その応用範囲が制限されている。
【0003】
これに対して、電界効果トランジスタの製造時に高温での処理を必要としない有機の半導体材料を用いた電界効果トランジスタの研究、開発が行われている。有機材料を用いることにより、低温プロセスでの製造が可能になり、用い得る基板材料の範囲が拡大される。その結果、従来以上にフレキシブルであり、且つ軽量で、壊れにくい電界効果トランジスタの作成が実現可能となってきた。また電界効果トランジスタの作成工程において、溶液の塗布、インクジェットなどによる印刷等の手法を採用する事により、大面積の電界効果トランジスタを低コストで製造できる可能性がある。また有機の半導体材料用の化合物としては、様々なものが選択可能であり、その特性を活かした、これまでに無い機能の発現が期待されている。
有機化合物を半導体材料として用いた例としては、これまで各種の検討がなされており、例えばペンタセン、チオフェン又はこれらのオリゴマーやポリマーを利用したものが正孔輸送特性を有する材料としてすでに知られている(特許文献1及び2参照)。ペンタセンは5個のベンゼン環が直線状に縮合したアセン系の芳香族炭化水素であり、これを半導体材料として用いた電界効果トランジスタは、現在実用化されているアモルファスシリコンに匹敵する電荷の移動度(キャリア移動度)を示すことが報告されている。しかしその性能は化合物の純度に大きく影響を受け、その上その精製が困難であり、トランジスタ材料として用いるには製造コストが高いものとなっている。さらにはこの化合物を用いた電界効果トランジスタは、環境による劣化が起こり、安定性に問題がある。またチオフェン系の化合物を用いた場合においても同様の問題点があり、それぞれ実用性の高い材料とは言いがたい現状である。
【0004】
一方、後述の式(1)の構造でX及びXが共に硫黄原子である化合物は文献に記載されているが、その化合物を用いたアプリケーションについては実施されていなかった(非特許文献1及び2参照)。またその類縁体であるX及びXがセレン原子である誘導体についてはこれまで報告が無かった。
【0005】
【特許文献1】特開2001−94107号公報
【特許文献2】特開平6−177380号公報
【非特許文献1】J.Sci.Industr.Res.,Vol.17B(1958),260
【非特許文献2】J.Chem.Soc.Perkin I,(1973)1099
【非特許文献3】Org.Lett.,Vol.2,No.1,2000
【非特許文献4】J.Am.Chem.Soc.2004,126,1338
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は優れたキャリア移動度を有する、有機化合物を半導体材料として用いた安定性に優れた電界効果トランジスタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討の結果、特定の構造を有する複素環式化合物を半導体材料として用いることにより優れたキャリア移動度を示し、かつ安定性に優れた電界効果トランジスタが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明の構成は以下の通りである。
[1]下記式(1)で表される化合物を半導体材料として用いた電界効果トランジスタ。
【0009】
【化1】

【0010】
(式(1)中、X及びXはそれぞれ独立に硫黄原子又はセレン原子を、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよい脂肪族炭化水素基を表す。)
[2]下記式(2)で表される化合物。
【0011】
【化2】

【0012】
(式(2)中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよい脂肪族炭化水素基を表す。)
【0013】
前記式(2)の構造は前記式(1)の定義に包含される。すなわち、前記式(1)の定義において、X及びXに関する選択肢の1つとして表される化合物が前記式(2)である。
【発明の効果】
【0014】
前記式(1)で表される特定の複素環式化合物を使用することにより、優れたキャリア移動度を有し、かつ安定性に優れた有機系の電界効果トランジスタを提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明を詳細に説明する。
本発明は特定の有機化合物を半導体材料として用いた有機系の電界効果トランジスタであり、該有機化合物として前記式(1)で表される化合物を使用する。そこでまず式(1)の化合物について説明する。
【0016】
及びXはそれぞれ独立に硫黄原子、セレン原子である。R及びRはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子または置換されていてもよい脂肪族炭化水素基を示す。R及び/又はRとして好ましいものは水素原子である。
【0017】
上記において、R及びRにおけるハロゲン原子の種類としてはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素が好ましく挙げられ、より好ましくはフッ素、塩素、臭素、さらに好ましくはフッ素及び臭素が挙げられる。
また置換されていてもよい脂肪族炭化水素基の脂肪族炭化水素基としては飽和又は不飽和の直鎖、分岐又は環状の脂肪族炭化水素基が挙げられ、その炭素数は1〜20が好ましい。ここで、飽和又は不飽和の直鎖、分岐の脂肪族炭化水素基の例としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、アリル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−ステアリル基、n−ブテニル基等が挙げられる。又、環状の脂肪族炭化水素基の例としては、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、アダマンチル基、ノルボルニル基等の炭素数3乃至12のシクロアルキル基が挙げられる。
【0018】
置換されていてもよいR及びRの脂肪族炭化水素基が有することのできる置換基の例としては、特に制限はないが、例えばハロゲン原子、ヒドロキシル基、メルカプト基、ニトロ基、アルコキシル基、アルキル置換アミノ基、アリール置換アミノ基、非置換アミノ基、アリール基、アシル基等が挙げられる。
【0019】
式(1)で表される化合物は、非特許文献1及び2に開示された公知の方法などにより合成することができる。また純度の高い化合物を得るためには、例えば下記反応式のように、1,4−ジブロモ−2,5−ジヨードベンゼン(3)より6ステップを経ることにより目的物が得られる(非特許文献3及び4参照)。
【0020】
【化3】

【0021】
上記反応式において、前述したようにXはそれぞれ独立に酸素原子又は硫黄原子を表す。又、この化合物のR及びRの置換基を有する化合物は公知の非特許文献2の方法で得るか、または非特許文献3において記載されているようにハロゲン基を有する誘導体を得た後のカップリング反応などを経て、得ることができる。
上記式(1)で表される化合物の精製方法は、特に限定されず、再結晶、カラムグロマトグラフィー、及び真空昇華精製等の公知の方法が採用できる。また必要に応じてこれらの方法を組合わせて用いてもよい。
【0022】
次に、式(1)で示される化合物の具体例を示す。先ず、表1には、式(1)で示される化合物のうち、下記式(15)で表される化合物の例(化合物No.100〜化合物No.140)を示す。表1においては、フェニル基をPhと略記する。
【0023】
【化4】

【0024】
【表1−1】


【表1−2】

【0025】
又、式(1)で示される化合物のうち式(15)で示される化合物以外の具体例(化合物No.150〜化合物No.159)を以下に示す。
【0026】
【化5】

【0027】
本発明の電界効果トランジスタ(Field effect transistor、以下FETと略することがある)は、半導体に接して2つの電極(ソース電極及びドレイン電極)があり、その電極間に流れる電流を、ゲート電極と呼ばれるもう一つの電極に印加する電圧で制御するものである。
【0028】
一般に、電界効果トランジスタはゲート電極が絶縁膜で絶縁されている構造(Metal−Insulator−Semiconductor;MIS構造)がよく用いられる。絶縁膜に金属酸化膜を用いるものはMOS構造と呼ばれる。他には、ショットキー障壁を介してゲート電極が形成されている構造(MES)のものもあるが、有機半導体材料を用いたFETの場合、MIS構造がよく用いられる。
【0029】
以下、図を用いて本発明による有機系の電界効果トランジスタについてより詳細に説明するが、本発明はこれら構造には限られない。
図1に、本発明の電界効果トランジスタ(素子)のいくつかの態様例を示す。各例において、1がソース電極、2が半導体層、3がドレイン電極、4が絶縁体層、5がゲート電極、6が基板をそれぞれ表す。尚、各層や電極の配置は、素子の用途により適宜選択できる。A〜Dは基板と並行方向に電流が流れるので、横型FETと呼ばれる。Aはボトムコンタクト構造、Bはトップコンタクト構造と呼ばれる。また、Cは有機単結晶のFET作成によく用いられる構造で、半導体上にソース及びドレイン電極、絶縁体層を設け、さらにその上にゲート電極を形成している。Dはトップ&ボトムコンタクト型トランジスタと呼ばれる構造である。Eは縦型の構造をもつFET、静電誘導トランジスタ(SIT)の模式図である。このSIT構造によれば、電流の流れが平面状に広がるので一度に大量のキャリアが移動できる。またソース電極とドレイン電極が縦に配されているので電極間距離を小さくできるため応答が高速である。従って、大電流を流す、高速のスイッチングを行うなどの用途に好ましく適用できる。なお図1中のEには、基板を記載していないが、通常の場合、図1E中の1および3で表されるソース及びドレイン電極の外側には基板が設けられる。
【0030】
各態様例における各構成要素につき説明する。
基板6は、その上に形成される各層が剥離することなく保持できることが必要である。例えば樹脂板やフィルム、紙、ガラス、石英、セラミックなどの絶縁性材料、金属や合金などの導電性基板上にコーティング等により絶縁層を形成した物、樹脂と無機材料など各種組合せからなる材料等が使用しうる。使用しうる樹脂フィルムの例としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、ポリエーテルイミドなどが挙げられる。樹脂フィルムや紙を用いると、素子に可撓性を持たせることができ、フレキシブルで、軽量となり、実用性が向上する。基板の厚さとしては、通常1μm〜10mmであり、好ましくは5μm〜5mmである。
【0031】
ソース電極1,ドレイン電極3,ゲート電極5には導電性を有する材料が用いられる。例えば、白金、金、銀、アルミニウム、クロム、タングステン、タンタル、ニッケル、コバルト、銅、鉄、鉛、錫、チタン、インジウム、パラジウム、モリブデン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、リチウム、カリウム、ナトリウム等の金属及びそれらを含む合金;InO、ZnO、SnO、ITO等の導電性酸化物;ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリジアセチレン等の導電性高分子化合物;シリコン、ゲルマニウム、ガリウム砒素等の半導体;カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラファイト等の炭素材料等が使用しうる。また、導電性高分子化合物や半導体にはドーピングが行われていてもよい。その際のドーパントとしては、例えば、塩酸、硫酸、スルホン酸等の酸、PF、AsF、FeCl等のルイス酸、ヨウ素等のハロゲン原子、リチウム、ナトリウム、カリウム等の金属原子等が用いられる。また、上記材料にカーボンブラックや金属粒子などを分散した導電性の複合材料も用いられる。
またソースとドレイン電極間の距離(チャネル長)が素子の特性を決める重要なファクターとなるが、通常100μm以下、好ましくは50μm以下であり、ソースとドレイン電極間の幅(チャネル幅)は通常2000μm以下、好ましくは1000μm以下となる。またこのチャネル幅は電極の構造がくし型の構造になる時などは、さらに長いチャネル幅を形成してもよい。
ソース及びドレイン電極それぞれの構造(形)について説明する。ソースとドレイン電極の構造はそれぞれ同じであっても、異なっていてもよい。ボトムコンタクト構造を有するときには、一般的にはリソグラフィー法を用いて作成し、直方体に形成するのが好ましい。電極の長さは前期のチャネル幅と同じでよい。電極の幅は特に規定は無いが、電気的特性を安定化できる範囲で素子の面積を小さくするために短い方が好ましい。通常は1000μm以下で好ましくは500μm以下である。電極の厚さは、通常1nm〜1μmであり、好ましくは5nm〜0.5nmであり、より好ましくは10nm〜0.2μmである。
各電極1、3、5には配線が連結されているが、配線も電極とほぼ同様の材料により作製される。
【0032】
絶縁体層4としては絶縁性を有する材料が用いられる。例えば、ポリパラキシリレン、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリビニルフェノール、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリスルホン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等のポリマー及びこれらを組み合わせた共重合体;二酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化タンタル等の酸化物;SrTiO、BaTiO等の強誘電性酸化物;窒化珪素、窒化アルミニウム等の窒化物;硫化物;フッ化物などの誘電体、あるいは、これら誘電体の粒子を分散させたポリマー等が使用しうる。絶縁体層4の膜厚は、材料によって異なるが、通常0.1nm〜100μm、好ましくは0.5nm〜50μm、より好ましくは5nm〜10μmである。
【0033】
半導体層2の材料として、前記式(1)で表される化合物が用いられる。有機物は混合物であってもよいが、有機物中には式(1)で表される化合物を50重量%以上、好ましくは80重量%以上、更に好ましくは95重量%以上含むことが好ましい。電界効果トランジスタの特性を改善したり他の特性を付与するために、必要に応じて他の有機半導体材料や各種添加剤が混合されていてもよい。また半導体層2は複数の層から成ってもよい。
半導体層2の膜厚は、必要な機能を失わない範囲で、薄いほど好ましい。A、B及びDに示すような横型の電界効果トランジスタにおいては、所定以上の膜厚があれば素子の特性は膜厚に依存しない一方、膜厚が厚くなると漏れ電流が増加してくることが多いためである。必要な機能を示すために、通常、1nm〜10μm、好ましくは5nm〜5μm、より好ましくは10nm〜3μmである。
【0034】
本発明の電界効果トランジスタには各層の間や素子の外面に必要に応じて他の層を設けることができる。例えば、半導体層上に直接または他の層を介して、保護層を形成すると、湿度などの外気の影響を小さくすることができ、また、デバイスのON/OFF比を上げることができるなど、電気的特性を安定化できる利点もある。
保護層の材料としては特に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、フッ素樹脂、ポリオレフィン等の各種樹脂からなる膜や、酸化珪素、酸化アルミニウム、窒化珪素等、無機酸化膜や窒化膜等の誘電体からなる膜が好ましく用いられ、特に、酸素や水分の透過率や吸水率の小さな樹脂(ポリマー)が好ましい。近年、有機ELディスプレイ用に開発されている保護材料も使用が可能である。保護層の膜厚は、その目的に応じて任意の膜厚を採用できるが、通常100nm〜1mmである。
【0035】
また半導体層が積層される基板または絶縁体層上などに予め表面処理を行うことにより、デバイスの特性を向上させることが可能である。例えば基板表面の親水性/疎水性の度合いを調整することにより、その上に成膜される膜の膜質を改良しうる。特に、有機半導体材料は分子の配向など膜の状態によって特性が大きく変わることがある。そのため、基板などへの表面処理によって、基板などとその後に成膜される半導体層との界面部分の分子配向が制御されること、また基板や絶縁体層上のトラップ部位が低減されることにより、キャリア移動度等の特性が改良されるものと考えられる。トラップ部位とは、未処理の基板に存在する例えば水酸基のような官能基をさし、このような官能基が存在すると、電子が該官能基に引き寄せられ、この結果としてキャリア移動度が低下する。従って、トラップ部位を低減することもキャリア移動度等の特性改良には有効な場合が多い。このような基板処理としては、例えば、ヘキサメチルジシラザン、シクロヘキセン、オクタデシルトリクロロシラン等による疎水化処理、塩酸や硫酸、酢酸等による酸処理、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア等によるアルカリ処理、オゾン処理、フッ素化処理、酸素やアルゴン等のプラズマ処理、ラングミュア・ブロジェット膜の形成処理、その他の絶縁体や半導体の薄膜の形成処理、機械的処理、コロナ放電などの電気的処理、又繊維等を利用したラビング処理等が挙げられる。
【0036】
これらの態様において各層を設ける方法としては、例えば真空蒸着法、スパッタ法、塗布法、印刷法、ゾルゲル法等が適宜採用できる。
【0037】
次に、本発明に係る電界効果トランジスタの製造方法について、図1の態様例Aに示すボトムコンタクト型電界効果トランジスタ(FET)を例として、図2に基づき以下に説明する。
この製造方法は前記した他の態様の電界効果トランジスタ等にも同様に適用しうるものである。
【0038】
(基板及び基板処理)
本発明の電界効果トランジスタは、基板6上に必要な各種の層や電極を設けることで作製される(図2(1)参照)。基板としては上記で説明したものが使用できる。この基板上に前述の表面処理などを行うことも可能である。基板6の厚みは、必要な機能を妨げない範囲で薄い方が好ましい。材料によっても異なるが、通常1μm〜10mmであり、好ましくは5μm〜5mmである。又、必要により、基板に電極の機能を持たせるようにしてもよい。
【0039】
(ゲート電極の形成)
基板6上にゲート電極5を形成する(図2(2)参照)。電極材料としては上記で説明したものが用いられる。電極膜を成膜する方法としては、各種の方法を用いることができ、例えば真空蒸着法、スパッタ法、塗布法、熱転写法、印刷法、ゾルゲル法等が採用される。成膜時又は成膜後、所望の形状になるよう必要に応じてパターニングを行うのが好ましい。パターニングの方法としても各種の方法を用いうるが、例えばフォトレジストのパターニングとエッチングを組み合わせたフォトリソグラフィー法等が挙げられる。又、インクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷等の印刷法、マイクロコンタクトプリンティング法等のソフトリソグラフィーの手法、及びこれら手法を複数組み合わせた手法を利用し、パターニングすることも可能である。ゲート電極5の膜厚は、材料によっても異なるが、通常0.1nm〜10μmであり、好ましくは0.5nm〜5μmであり、より好ましくは1nm〜3μmである。又、ゲート電極と基板を兼ねる場合は上記の膜厚より大きくてもよい。
【0040】
(絶縁体層の形成)
ゲート電極5上に絶縁体層4を形成する(図2(3)参照)。絶縁体材料としては上記で説明したもの等が用られる。絶縁体層4を形成するにあたっては各種の方法を用いうる。例えばスピンコーティング、スプレイコーティング、ディップコーティング、キャスト、バーコート、ブレードコーティングなどの塗布法、スクリーン印刷、オフセット印刷、インクジェット等の印刷法、真空蒸着法、分子線エピタキシャル成長法、イオンクラスタービーム法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、大気圧プラズマ法、CVD法などのドライプロセス法が挙げられる。その他、ゾルゲル法やアルミニウム上のアルマイトのように金属上に酸化物膜を形成する方法等が採用される。
尚、絶縁体層と半導体層が接する部分においては、両層の界面で半導体を構成する分子、例えば上記式(1)で表される化合物の分子を良好に配向させるために、絶縁体層に所定の表面処理を行うこともできる。表面処理の手法は、基板の表面処理と同様のものを用いうる。絶縁体層4の膜厚は、その機能を損なわない範囲で薄い方が好ましい。通常0.1nm〜100μmであり、好ましくは0.5nm〜50μmであり、より好ましくは5nm〜10μmである。
【0041】
(ソース電極及びドレイン電極の形成)
ソース電極1及びドレイン電極3の形成方法等はゲート電極5の場合に準じて形成することができる(図2(4)参照)。
【0042】
(半導体層の形成)
半導体材料としては上記で説明したように、前記式(1)で表される化合物の一種または複数種の混合物を総量で50重量%以上含む有機材料が使用される。半導体層を成膜するにあたっては、各種の方法を用いることができる。スパッタリング法、CVD法、分子線エピタキシャル成長法、真空蒸着法等の真空プロセスでの形成方法と、ディップコート法、ダイコーター法、ロールコーター法、バーコーター法、スピンコート法等の塗布法、インクジェット法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、マイクロコンタクト印刷法などの溶液プロセスでの形成方法に大別される。以下、半導体層の形成方法について詳細に説明する。
【0043】
まず、有機材料を真空プロセスによって成膜し有機半導体層を得る方法について説明する。
前記有機材料をルツボや金属のボート中で真空下、加熱し、蒸発した有機材料を基板(絶縁体層、ソース電極及びドレイン電極の露出部)に付着(蒸着)させる方法(真空蒸着法)が好ましく採用される。この際、真空度は、通常1.0×10−1Pa以下、好ましくは1.0×10−4Pa以下である。また、蒸着時の基板温度によって有機半導体膜、ひいては電界効果トランジスタの特性が変化するので、注意深く基板温度を選択するのが好ましい。蒸着時の基板温度は通常、0〜200℃、好ましくは10〜150℃である。また、蒸着速度は、通常0.001nm/秒〜10nm/秒であり、好ましくは0.01nm/秒〜1nm/秒である。有機材料から形成される有機半導体層の膜厚は、通常1nm〜10μm、好ましくは5nm〜5μmより好ましくは10nm〜3μmである。
尚、有機半導体層形成のための有機材料を加熱、蒸発させ基板に付着させる方法に代えて、加速したアルゴン等のイオンを材料ターゲットに衝突させて材料原子を叩きだし基板に付着させるスパッタリング法を用いてもよい。
【0044】
本発明における半導体材料は有機物であり、比較的低分子化合物であるため、このような真空プロセスが好ましく用いうる。このような真空プロセスには、やや高価な設備が必要であるというものの、成膜性が良く均一な膜が得られやすいという利点がある。
【0045】
次に、有機半導体材料を溶液プロセスによって成膜し有機半導体層を得る方法について説明する。塗布による製造方法は比較的安価な設備を用いて、製造時の環境を真空や高温状態にする必要が無く、大面積の電界効果トランジスタを低コストで実現できるため有利である。
【0046】
まず式(1)の化合物を溶媒に溶解することで半導体デバイス作製用のインクを調製する。この時の溶媒としては化合物が溶解し、基板上に成膜することができれば特に限定されるものではない。具体的にはクロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタンなどのハロゲノ炭化水素系溶剤;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノールなどのアルコール系溶剤;オクタフルオロペンタノール、ペンタフルオロプロパノールなどのフッ化アルコール系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、安息香酸エチル、炭酸ジエチルなどのエステル系溶剤;トルエン、キシレン、ベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶剤;テトラヒドロフラン、ジイソブチルエーテルなどのエーテル系溶剤などを用いることができる。これらは単独でも、混合して使用することもできる。
インク中における上記式(1)の化合物またはこれらの混合物の総量の濃度は、溶剤の種類や、作製する半導体層の膜厚によって異なるが、0.001%から50%程度、好ましくは0.01%から20%程度が挙げられる。半導体層の成膜性の向上や、後述のドーピングなどの為に添加剤や他の半導体材料を混合することも可能である。
インクを使用する際には半導体材料などの材料を上記の溶剤に溶解させ、必要であれば加熱溶解処理を行う。さらに得られた溶液をフィルターを用いてろ過し、不純物などの固形分を除去することにより、半導体デバイス作製用のインクが得られる。このようなインクを用いると、半導体層の成膜性の向上が見られ、半導体層を作製する上で好ましい。
【0047】
上記のようにして調製した半導体デバイス作製用のインクを、基板(絶縁体層、ソース電極及びドレイン電極の露出部)に塗布する。塗布の方法としては、キャスティング、スピンコーティング、ディップコーティング、ブレードコーティング、ワイヤバーコーティング、スプレーコーティング等のコーティング法や、インクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷等の印刷法、マイクロコンタクトプリンティング法等のソフトリソグラフィーの手法等、さらにはこれらの手法を複数組み合わせた方法を採用しうる。更に、塗布方法に類似した方法として水面上に上記のインクを滴下することにより作製した半導体層の単分子膜を基板に移し積層するラングミュアプロジェクト法、液晶や融液状態の材料を2枚の基板で挟んだり毛管現象で基板間に導入する方法等も採用できる。この方法により作製される有機半導体層の膜厚は、機能を損なわない範囲で、薄い方が好ましい。膜厚が大きくなると漏れ電流が大きくなる懸念がある。有機半導体層の膜厚は、通常1nm〜10μm、好ましくは5nm〜5μm、より好ましくは10nm〜3μmである。
【0048】
このように形成された半導体層(図2(5)参照)は、後処理によりさらに特性を改良することが可能である。例えば、熱処理により、成膜時に生じた膜中の歪みが緩和されること、ピンホール等が低減されること、膜中の配列・配向が制御できると考えられていること等の理由により、半導体特性の向上や安定化を図ることができる。本発明の電界効果トランジスタの作成時にはこの熱処理を行うことが特性の向上の為には効果的である。本熱処理は半導体層を形成した後に基板を加熱することによって行う。熱処理の温度は特に制限は無いが通常、室温から150℃程度で、好ましくは40℃から120℃、さらに好ましくは45℃から100℃である。この時の時間については特に制限は無いが通常1分から24時間、好ましくは2分から3時間程度である。その時の雰囲気は大気中でもよいが、窒素やアルゴンなどの不活性雰囲気下でもよい。
またその他の半導体層の後処理方法として、酸素や水素等の酸化性あるいは還元性の気体や、酸化性あるいは還元性の液体などと処理することにより、酸化あるいは還元による特性変化を誘起することもできる。これは例えば膜中のキャリア密度の増加あるいは減少の目的で利用するものである。
【0049】
また、ドーピングと呼ばれる手法において、微量の元素、原子団、分子、高分子を半導体層に加えることにより、半導体層特性を変化させることができる。例えば、酸素、水素、塩酸、硫酸、スルホン酸等の酸、PF、AsF、FeCl等のルイス酸、ヨウ素等のハロゲン原子、ナトリウム、カリウム等の金属原子等をドーピングすることができる。これは、半導体層に対して、これらのガスを接触させたり、溶液に浸したり、電気化学的なドーピング処理をすることにより達成できる。これらのドーピングは半導体層の作製後でなくても、半導体材料の合成時に添加したり、半導体デバイス作製用のインクを用いて半導体層を作製するプロセスでは、そのインクに添加したり、さらに例えば特許文献2に開示された前駆体薄膜を形成する工程段階などで添加することができる。また蒸着時に半導体層を形成する材料に、ドーピングに用いる材料を添加して共蒸着したり、半導体層を作製する時の周囲の雰囲気に混合したり(ドーピング材料を存在させた環境下で半導体層を作製する)、さらにはイオンを真空中で加速して膜に衝突させてドーピングすることも可能である。
【0050】
これらのドーピングの効果は、キャリア密度の増加あるいは減少による電気伝導度の変化、キャリアの極性の変化(p型、n型)、フェルミ準位の変化等が挙げられる。この様なドーピングは、特にシリコンなどの無機系の材料を用いた半導体素子ではよく利用されているものである。
【0051】
(保護層)
有機半導体層上に保護層7を形成すると、外気の影響を最小限にでき、又、有機電界効果トランジスタの電気的特性を安定化できるという利点がある(図2(6)参照)。保護層材料としては前記のものが使用される。
保護層7の膜厚は、その目的に応じて任意の膜厚を採用できるが、通常100nm〜1mmである。
保護層を成膜するにあたっては各種の方法を採用しうるが、保護層が樹脂からなる場合は、例えば、樹脂溶液を塗布後、乾燥させて樹脂膜とする方法、樹脂モノマーを塗布あるいは蒸着したのち重合する方法などが挙げられる。成膜後に架橋処理を行ってもよい。保護層が無機物からなる場合は、例えば、スパッタリング法、蒸着法等の真空プロセスでの形成方法や、ゾルゲル法等の溶液プロセスでの形成方法も用いることができる。
本発明の電界効果トランジスタにおいては有機半導体層上の他、各層の間にも必要に応じて保護層を設けることができる。それらの層は有機電界効果トランジスタの電気的特性の安定化に役立つ。
【0052】
本発明によれば、有機材料を半導体材料として用いているため比較的低温プロセスでの製造が可能である。従って、高温にさらされる条件下では使用できなかったプラスチック板、プラスチックフィルム等フレキシブルな材質も基板として用いることができる。その結果、軽量で柔軟性に優れた壊れにくい素子の製造が可能になり、ディスプレイのアクティブマトリクスのスイッチング素子等として利用することができる。ディスプレイとしては、例えば液晶ディスプレイ、高分子分散型液晶ディスプレイ、電気泳動型ディスプレイ、ELディスプレイ、エレクトロクロミック型ディスプレイ、粒子回転型ディスプレイ等が挙げられる。また、本発明の電界効果トランジスタは塗布法あるいは印刷プロセスでの製造が可能であることから、大面積ディスプレイの製造にも適している。
【0053】
本発明の電界効果トランジスタは、メモリー回路素子、信号ドライバー回路素子、信号処理回路素子などのデジタル素子やアナログ素子としても利用できる。さらにこれらを組み合わせることによりICカードやICタグの作製が可能となる。更に、本発明の電界効果トランジスタは化学物質等の外部刺激によりその特性に変化を起こすことができるので、FETセンサーとしての利用も可能である。
【0054】
電界効果トランジスタの動作特性は、半導体層のキャリア移動度、電導度、絶縁層の静電容量、素子の構成(ソース・ドレイン電極間距離及び幅、絶縁層の膜厚等)などにより決まる。電界効果トランジスタに用いる半導体用の材料としては、半導体層として、キャリア移動度が高いほど好ましい。本発明における式(1)の化合物は成膜性が良く、大面積適用性がある。さらにペンタセン誘導体などは、大気中においては大気に含まれる水分などにより分解を生じるなど、不安定で取扱が難しい化合物であるが、本発明の上記式(1)で表される化合物を半導体層の材料として用いた場合には、半導体層の作製後においても安定性が高く寿命が長いという利点がある。
【実施例】
【0055】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。実施例中、部は特に指定しない限り質量部を、また%は質量%をそれぞれ表す。
合成例にて得られた各種の化合物は、必要に応じてH−NMR、13C−NMR(NMRは核磁気共鳴スペクトル)、MS(質量分析スペクトル)、mp(融点)、及び元素分析の各種の測定を行うことによりその構造式を決定した。測定機器は以下の通りである。
NMR:JEOL Lambda 400 spectrometer
MS :Shimadzu QP−5050A
元素分析:Parkin Elmer2400 CHN型元素分析計
【0056】
合成例1
1,4−Dibromo−2,5−diiodo−benzene(3)の合成
【0057】
【化6】

【0058】
1,4−ジブロモベンゼン(34.8g,148mmol)、固体ヨウ素(148g,583mmol)を98%濃硫酸溶液(480ml)に加え、6時間120〜135℃で加熱した。反応終了後氷浴下で冷却し、析出物をろ過した。それを乳鉢乳房で粉末状にすりつぶし、亜硫酸水素ナトリウム水溶液、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、水の順に洗浄し乾燥した。ベンゼンから再結晶することで無色針状晶を得た(61g,85%)。
H−NMR(60MHz,CDCl)δ7.99(s,2H,3,6位)
m.p.159〜164℃(163〜165℃1)
【0059】
合成例2
1,4−Dibromo−2,5−bis(trimethylsilylethynyl)benzene(4)の合成
【0060】
【化7】

【0061】
窒素雰囲気下、化合物3(10g,21mmol)を無水ジイソプロピルアミン(30ml)と無水ベンゼン(120ml)に溶解後、脱気を30分行った。室温でPdCl(PPh(0.45g,640μmol)、CuI(0.25g,1.3mmol)、TMSA(5.6ml,40mmol)を加え3時間室温で攪拌した。攪拌終了後、水(300ml)で反応を終了させ、クロロホルム(50ml×3)で抽出し、食塩水(200ml×3)で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。クロロホルムを減圧下で留去し、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、バッチ、塩化メチレン:へキサン=1:3、Rf=0.5)により精製した。ヘキサンから再結晶することで無色針状晶を得た(5.61g,64%)。
H−NMR(60MHz,CDCl)δ7.67(s,2H,3,6位)δ0.27(s,18H,TMS)
m.p.127〜132℃
【0062】
合成例3
1,4−Bis(methylthio)−2,5−bis(trimethylsilylethynyl)benzene(5)の合成
【0063】
【化8】

【0064】
窒素雰囲気下、化合物4(4.0g,9.3mmol)を無水THF(55ml)に溶解後、−78℃まで冷却し、1.59M t−ブチルリチウム・ペンタン溶液(24ml,37mmol)を加えた。その温度で30分攪拌し室温まで昇温した。ジメチルジスルフィド(2.0ml,22mmol)を加え1時間攪拌した。その後、クロロホルム(80ml×3)により抽出した。それを塩化アンモニウム水溶液(50ml×3)、水(300ml×3)で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し減圧下で溶媒を留去した。カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、バッチ、塩化メチレン:ヘキサン=1:3、Rf=0.4)により精製し、ヘキサンから再結晶することで黄色針状晶を得た(1.78g,53%)。
H−NMR(400MHz,CDCl)δ7.17(s,2H,3,6位)δ2.47(s,6H,SMe)δ0.28(s,18H,TMS)
13C−NMR(100MHz,CDCl)δ137.74,127.93,121.78,103.37,101.54,13.36,−0.16
M.S.(70ev,DI)362m/z
m.p.175〜177℃
Anal.Calcd for C1826Si:C,59.61;H,7.23 Found:C,59.68;H,7.14
【0065】
合成例4
3,7−Diiodo−2,6−ditrimethylsilylbenzo[1,2−b:4,5−b’]dithiophene(6)の合成
【0066】
【化9】

【0067】
塩化メチレン(90ml)に化合物5(4.0g,11mmol)、ヨウ素(11.2g,44mmol)を加え9時間攪拌後、チオ硫酸ナトリウム水溶液で処理した。クロロホルム(50ml×3)により抽出した。水(100ml×3)で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し減圧下で溶媒を留去した。カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、バッチ、塩化メチレン:ヘキサン=1:3、Rf=0.8)で精製し、最少量の熱塩化メチレンに溶解後メタノールから再沈殿することで無色針状晶を得た(6.4g,98%)。
H−NMR(400MHz,CDCl)δ8.23(s,2H,4,8位)δ0.53(s,18H,TMS)
13C−NMR(100MHz,CDCl)δ143.30,141.59,138.95,85.51,−0.73
M.S.(70ev,DI)586m/z
m.p.263〜265℃
Anal.Calcd for C1622Si:C,32.77;H,3.44 Found:C,32.66;H,3.24
【0068】
合成例5
2,3,6,7−Tetraiodobenzo[1,2−b:4,5−b’]dithiophene(7)の合成
【0069】
【化10】

【0070】
窒素雰囲気下、化合物6(3.0g,5.1mmol)を無水塩化メチレン(120ml)に溶解し、1.56M一塩化ヨウ素・塩化メチレン溶液(7.88ml,12.3mmol)を−10℃で滴下した。滴下終了後、12時間攪拌した。析出した固体をろ過し、エタノール、へキサンで洗浄した(3.5g,98%)。
H−NMR(400MHz,CDCl,CS)δ8.16(s,2H,4,8位)
M.S.(70ev,DI)694m/z
m.p.>300℃
Anal.Calcd for C10:C,17.31;H,0.29 Found:C,17.39;H,0.23
【0071】
合成例6
2,3,6,7−Tetrakis(trimethylsilyl ethynyl)benzo[1,2−b:4,5−b’]dithiophene(8)の合成
【0072】
【化11】

【0073】
窒素雰囲気下、化合物7(2.0g,2.9mmol)を無水ジイソプロピルアミン(40ml)と無水ベンゼン(80ml)に溶解後、脱気を30分行った。室温で10mol% PdCl(PPh(202mg)、20mol% CuI(56mg)、TMSA(1.96ml,13.8mmol)を加え6時間室温で攪拌した。攪拌終了後、水(100ml)で反応を終了させ、エーテル(40ml×3)で抽出し、食塩水(100ml×3)で洗浄した後無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧下で留去し、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、バッチ、塩化メチレン:ヘキサン=1:3、Rf=0.8)により精製し、最少量の熱ヘキサンに溶解後メタノールから再沈殿することで黄色個体を得た(1.4g,83%)。
H−NMR(400MHz,CDCl)δ8.17(s,2H,4,8位)δ0.34(s,18H,TMS)δ0.31(s,18H,TMS)
13C−NMR(100MHz,CDCl)δ137.6,136.1,128.4,122.8,116.6,107.2,102.5,97.1,96.8,0.09,−0.20
M.S.(70ev,DI)574m/z
m.p.265〜266℃
Anal.Calcd for C3038Si:C,62.55;H,6.66 Found:C,62.65;H,6.62
【0074】
合成例7
Benzo[1,2−b:4,5−b’]bis[d]benzothiophene(9)の合成
【0075】
【化12】

【0076】
容器に化合物8(200mg,0.35mmol)を無水ベンゼン(14ml)に溶解後相関移動触媒Aliquat336(3滴)を加え脱気を30分行った。別の容器に10%の水酸化ナトリウム水溶液(14ml)、水素化ホウ素ナトリウム(53.2mg,1.4mmol)、ヒドラジン1水和物(0.21ml)を加え脱気を30分行った。テルル(98mg,0.77mmol)、ベンゼン溶液を水溶液に加え窒素雰囲気下、45°Cで6時間攪拌した。水を加え反応を終了させ、有機溶媒を減圧下で留去し、得られた個体をろ過し、二硫化炭素から連続抽出した。抽出溶液を減圧下で留去し、得られた個体をろ過し、塩化メチレンで洗浄した(72mg,71%)。最後に昇華精製することで化合物9を得た(48mg,48%)。
H−NMR(400MHz,CDCl)δ8.61(s,2H,6,12位)δ8.23(d,J=5.88Hz,2H,2,8位)δ7.88(d,J=6.00Hz,2H,5,11位)δ7.50(t,J=5.84Hz,2H,3,9位)δ7.49(t,J=5.88Hz,2H,4,10位)
M.S.(70ev,DI)290m/z
m.p.>300℃
Anal.Calcd for C1810Se:C,74.45;H,3.47 Found:C,74.16;H,3.22
【0077】
合成例8
1,4−Bis(methylseleno)−2,5−bis(trimethylsilylethynyl)benzene(10)の合成
【0078】
【化13】

【0079】
窒素雰囲気下、化合物4(2.0g,4.6mmol)を無水THF(40ml)に溶解後、−78℃まで冷却し、1.46M t−ブチルリチウム・ペンタン溶液(13ml,18.4mmol)を加えた。その温度で15分攪拌し室温まで昇温した。Black Selene粉末(0.80g,10mmol)を加え15分攪拌した。その後、ヨードメタン(0.86ml,13.8mmol)を加え15分攪拌した。クロロホルム(40ml×3)により抽出した。それを塩化アンモニウム水溶液(30ml×3)、水(100ml×3)で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し減圧下で溶媒を留去した。カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、バッチ、塩化メチレン:ヘキサン=1:3、Rf=0.4)により精製し、ヘキサンから再結晶することで黄色針状晶を得た(1.0g,47%)。
H−NMR(400MHz,CDCl)δ7.24(s,2H,3,6位)δ2.33(s,6H,SeMe)δ0.29(s,18H,TMS)
13C−NMR(100MHz,CDCl)δ133.0,130.6,124.0,102.8,102.3,6.42,−0.20
m.p.161〜162℃
Anal.Calcd for C1826SeSi:C,47.36;H,5.74 Found:C,47.28;H,5.78
【0080】
合成例9
3,7−Diiodo−2,6−ditrimethylsilylbenzo[1,2−b:4,5−b’]diselenophene(11)の合成
【0081】
【化14】

【0082】
無水塩化メチレン(90ml)に化合物10(4.0g,8.8mmol)、ヨウ素(9.0g,35mmol)を加え9時間攪拌し、チオ硫酸ナトリウム水溶液で処理した。クロロホルム(40ml×3)により抽出した。水(100ml×3)で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し減圧下で溶媒を留去した。カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、バッチ、塩化メチレン:ヘキサン=1:3、Rf=0.8)で精製し、最少量の熱塩化メチレンに溶解後メタノールから再沈殿することで無色個体を得た(5.3g,89%)。
H−NMR(400MHz,CDCl)δ8.38(s,2H,4,8位)δ0.52(s,18H,TMS)
13C−NMR(100MHz,CDCl)δ146.7,143.4,138.8,123.8,88.1,−0.38
m.p.274〜275℃
Anal.Calcd for C1622SeSi:C,28.25;H,2.96 Found:C,28.19;H,2.97
【0083】
合成例10
2,3,6,7−Tetraiodobenzo[1,2−b:4,5−b’]diselenophene(12)の合成
【0084】
【化15】

【0085】
窒素雰囲気下、化合物11(1.0g,1.5mmol)を無水塩化メチレン(30ml)に溶解し、1.9M一塩化ヨウ素・塩化メチレン溶液(0.19ml)を−10℃で滴下した。滴下終了後、12時間攪拌した。析出した固体をろ過し、エタノールへキサンで洗浄した(1.1g,91%)。
H−NMR(400MHz,CDCl,CS)δ8.20(s,2H,4,8位)
M.S.(70ev,DI)790m/z
m.p.>300℃
Anal.Calcd for C10Se:C,15.25;H,0.26 Found:C,15.53;H,0.26
【0086】
合成例11
2,3,6,7−Tetrakis(trimethylsilylethynyl)benzo[1,2−b:4,5−b’]diselenophene(13)の合成
【0087】
【化16】

【0088】
窒素雰囲気下、化合物12(2.0g,2.6mmol)を無水ジイソプロピルアミン(40ml)と無水ベンゼン(80ml)に溶解後、脱気を30分行った。室温で10mol% PdCl(PPh(178mg)、20mol% CuI(48mg)、TMSA(1.68ml,11.9mmol)を加え6時間室温で攪拌した。攪拌終了後、水(30ml)で反応を終了させ、エーテル(40ml×3)で抽出し、食塩水(100ml×3)で洗浄した後無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧下で留去し、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、バッチ、塩化メチレン:ヘキサン=1:3、Rf=0.7)により精製し、最少量の熱ヘキサンに溶解後メタノールから再沈殿することで黄色個体を得た(1.36g,80%)。
H−NMR(400MHz,CHCl)δ8.24(s,2H,4,8位)δ0.34(s,18H,TMS)δ0.31(s,18H,TMS)
13C−NMR(100MHz,CDCl)δ139.5,137.0,129.9,121.9,108.9,101.5,98.8,98.6,0.11,−0.15
M.S.(70ev,DI)670m/z
m.p.255〜256℃
Anal.Calcd for C3038SiSe:C,53.87;H,5.73 Found:C,53.81;H,5.53
【0089】
合成例12
Benzo[1,2−b:4,5−b’]bis[d]benzoselenophene(14)の合成
【0090】
【化17】

【0091】
容器に化合物13(468mg,0.70mmol)を無水ベンゼン(14ml)に溶解後相関移動触媒Aliquat336(3滴)を加え脱気を30分行った。別の容器に10%の水酸化ナトリウム水溶液(14ml)、水素化ホウ素ナトリウム(106mg,2.8mmol)、ヒドラジン1水和物(0.42ml)を加え脱気を30分行った。テルル(196mg,1.54mmol)、ベンゼン溶液を水溶液に加え窒素雰囲気下、45°Cで6時間攪拌した。水を加え反応を終了させ、有機溶媒を減圧下で留去し、得られた個体をろ過し、二硫化炭素から連続抽出した。抽出溶液を減圧下で留去し、得られた個体をろ過し、塩化メチレンで洗浄した(100mg,71%)。クロロベンゼンから再結晶後(69mg,26%)、昇華精製することで化合物14を得た(53mg,20%)。
H−NMR(400MHz,CDCl)δ8.62(s,2H,6,12位)δ8.18(d,J=7.80Hz,2H,2,8位)δ7.91(d,J=8.08Hz,2H,5,11位)δ7.50(t,J=7.87Hz,2H,3,9位)δ7.49(t,J=7.91Hz,2H,4,10位)
M.S.(70ev,DI)386m/z
m.p.>300℃
Anal.Calcd for C1810Se:C,56.27;H,2.62 Found:C,56.15;H,2.43
【0092】
実施例1
ヘキサメチレンジシラザン処理を行った200nmのSiO熱酸化膜付きnドープシリコンウェハー(面抵抗0.02Ω・cm以下)を真空蒸着装置内に設置し、装置内の真空度が5.0×10−3Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱蒸着法によって、この電極に化合物9(表1中のNo.100)を80nmの厚さに室温(25℃)で蒸着し、半導体層2を形成した。次いでこの基板を真空蒸着装置内に設置し、装置内の真空度が1.0×10−3Pa以下になるまで排気し、抵抗加熱蒸着法によって、金の電極(ソース及びドレイン電極)を40nmの厚さに蒸着し本発明の電界効果トランジスタを得た。本実施例における電界効果トランジスタにおいては、熱酸化膜付きnドープシリコンウェハーにおける熱酸化膜が絶縁層4の機能を有し、nドープシリコンウェハーが基板6及びゲート電極5の機能を有している(図3参照)。
【0093】
得られた電界効果トランジスタをプローバー内に設置し半導体パラメーターアナライザー4155C(Agilent社製)を用いて半導体特性を測定した。半導体特性はゲート電圧を10Vから−100Vまで20Vステップで走査し、又ドレイン電圧を10Vから−100Vまで走査し、ドレイン電流−ドレイン電圧を測定した。その結果、電流飽和が観測され、得られた電圧電流曲線より、本素子はp型半導体を示し、キャリア移動度は2×10−3cm/Vsであった。オン/オフ比は1×10、閾値電圧は−17Vであった。
【0094】
実施例2
実施例1において、化合物9を化合物14(表1中のNo.131)に変更した以外は実施例1と同様にして、本発明の有機電界効果トランジスタを作製した。半導体特性はゲート電圧を−10Vから100Vまで20Vステップで走査し、又ドレイン電圧を−10Vから100Vまで走査し、ドレイン電流−ドレイン電圧を測定した。その結果、電流飽和が観測され、得られた電圧電流曲線より、本素子はn型半導体を示し、そのキャリア移動度は3×10−3cm/Vs、オン/オフ比は1×10、閾値電圧は−23Vであった。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の電界効果トランジスタの構造態様例を示す概略図である。
【図2】本発明の電界効果トランジスタの一態様例を製造する為の工程の概略図である。
【図3】実施例1で得られた本発明の電界効果トランジスタの概略図である。
【符号の説明】
【0096】
図1〜図3において同じ名称には同じ番号を付すものとする。
1 ソース電極
2 半導体層
3 ドレイン電極
4 絶縁体層
5 ゲート電極
6 基板
7 保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物を半導体材料として用いた電界効果トランジスタ。
【化1】


(式(1)中、X及びXはそれぞれ独立に硫黄原子又はセレン原子を、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよい脂肪族炭化水素基を表す。)
【請求項2】
下記式(2)で表される化合物。
【化2】


(式(2)中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよい脂肪族炭化水素基を表す。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−147256(P2008−147256A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−329901(P2006−329901)
【出願日】平成18年12月6日(2006.12.6)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】