説明

電磁石ユニット

【課題】 スパッタリング装置に好適に用いられる電磁石ユニットを提供する。
【解決手段】 電磁石81には、第1のフォトダイオード825と第2のフォトダイオード828が設けられており、電磁石81への通電を制御する通電制御器82は、第1のフォトダイオード825からの光を受ける第1のフォトトランジスタ824と、第1のフォトトランジスタ824に接続された第1の正側駆動用トランジスタ821と、第2のフォトダイオード828からの光を受ける第2のフォトトランジスタ827と、第2のフォトトランジスタ827に接続された負側駆動用トランジスタ822とを備えている。第1のフォトトランジスタ824がオンすると、電磁石81に第一の向きに電流が流れ、第2のフォトトランジスタ827がオンすると、電磁石81に逆の第二の向きに電流が流れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願の発明は、電磁石ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
大規模集積回路(LSI)や液晶ディスプレイ(LCD)などの製作においては、基板の表面に所定の薄膜を作成することが広く行われている。このような薄膜の作成においては、成膜速度などの点からスパッタリング法を用いることが従来から広く行われており、スパッタリング装置が多く採用されている。図7は、このような従来のスパッタリング装置の概略構成を示した正面図である。図7に示すスパッタリング装置は、排気系11を備えた真空容器1と、スパッタ放電を形成してスパッタリングを行うためのカソード2と、表面に薄膜を作成する基板30を真空容器1内の所定の位置に配置するための基板ホルダー3と、スパッタ放電に必要な放電用ガスを真空容器1内に導入する放電用ガス導入系6とから主に構成されている。
【0003】
図7には、マグネトロンタイプのスパッタリング装置が示されている。即ち、カソード2は、磁石機構4と真空容器1内に被スパッタ面が露出するように設けられたターゲット5とから構成されている。磁石機構4は、従来の装置では、永久磁石からなるものが使用される。具体的には、図8により説明する磁石機構4は、中央に設けられた円柱状の中心磁石41と、中心磁石41を取り囲む周状の周辺磁石42と、中心磁石41及び周辺磁石42を板面に載せた板状のヨーク43とから構成されている。
【特許文献1】特開平4−48449号公報
【0004】
図7に示すスパッタリング装置では、排気系11によって真空容器1内を所定の圧力まで排気した後、放電用ガス導入系6によってアルゴンなどの放電用ガスを真空容器1に導入する。この状態で、ターゲット5に所定の負の直流電圧を印加する。この電圧によって放電用ガスにスパッタ放電が生じ、ターゲット5がスパッタされる。スパッタされたターゲット5の材料は基板30に達し、所定の薄膜が基板30の表面に作成される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したようなスパッタリング装置においては、基板上に異種の薄膜を連続して作成することがある。例えば、LSIの製作においては、コンタクト配線層と下地層との相互拡散を防止するためのバリア膜がスパッタリングによって作成されるが、このバリア膜には、チタン薄膜と窒化チタン薄膜とを積層した構造が採用される。このような異種の薄膜の連続作成について上記バリア膜を例に採って図7を使用して説明すると、ターゲット5の材料としてチタンを採用し、放電用ガス導入系6から通常のアルゴンなどの放電用ガスを導入してチタンのスパッタリングを行い、基板30上にまずチタン薄膜を所定の厚さで作成する。次に、放電用ガス導入系6に接続した補助ガス導入系7によって所定量の窒素ガスを導入し、窒素によるスパッタ放電によってターゲット5をスパッタして窒素とチタンとの反応を補助的に利用しながら、基板30上に窒化チタンの薄膜を所定の厚さで作成する。これによって、チタン薄膜の上に窒化チタン薄膜を積層したバリア膜が形成される。
【0006】
上述のような異種の薄膜の連続作成においては、放電させるガスの種類によってターゲット上のエロージョン分布の形状が異なることに起因する成膜の不均一性の問題や、エロージョンの浅いターゲット表面上に反応生成物が析出する問題などがあった。この点を図8を使用して説明する。図8は、従来のスパッタリング装置の問題点を説明する断面概略図である。図8には、カソードの構造及びターゲットのエロージョン形状が示されている。図8に示すように、中心磁石41の前面と周辺磁石42の前面とは相異なる磁極が現れるようになっており、前面側に配置されたターゲット5を貫くようにしてアーチ状の磁力線40が設定されるようになっている。
【0007】
マグネトロン放電では磁場の方向と電界の方向とが直角になる位置で最も強く放電することが知られているが、図7及び図8に示すようなスパッタリング装置ではターゲット5の厚さ方向に電界が生ずるので、図8に示すアーチ状の磁力線40の頂上付近において最も強く放電することになる。従って、一般的にターゲット5には上記アーチの頂上部分を臨む領域に強いエロージョンが生じ、ターゲット5の中央部分及び端部付近ではエロージョンは浅くなる。
【0008】
ここで、上述したようにターゲット5の材料としてチタンを採用し、真空容器1内に窒素ガスを導入した場合、チタンと窒素との反応は、ターゲット5の表面上、スパッタされたチタンが浮遊する真空容器内の空間、又は、チタンが付着した基板30の表面上のいずれかで行われる。この場合、エロージョンが効率よく行われるターゲット5の表面領域では、表面上に窒化チタンが析出してもその窒化チタンは効率よくスパッタされるため、表面上に残留することは少ない。しかし、図8に500として示すようにターゲット5の表面上のエロージョンの浅い領域では、析出した窒化チタン500がスパッタされず、残留して堆積していくことになる。
【0009】
このような窒化チタン500はターゲット5との付着力が弱く、ある程度の大きさに成長すると、容易に剥離する傾向がある。このような窒化チタン500が剥離すると、真空容器1内にパーティクルとなって浮遊することになり、基板30の表面上に付着して局部的な膜厚異常や膜汚損等の問題を招くことになる。このような析出した窒化チタンの剥離落下の問題を解決するため、通常のチタンの成膜時以外にも、アルゴンなどの通常の放電用ガスを導入してスパッタリングによってターゲット5の表面上をクリーニングすることが行われている。従来のスパッタリング装置では、このスパッタクリーニングの作業が頻繁に必要になるため、生産効率を著しく阻害しており、生産性低下の原因となっていた。
【0010】
また、チタンと窒化チタンとを共通のターゲット5で成膜する場合のように、異なる種類のガスを導入してスパッタリングを行う場合、放電用ガスの種類によってエロージョンの形状が異なることに起因する成膜の不均一性が生じていた。即ち、例えばアルゴンと窒素ではイオン化効率やターゲットのスパッタ率が異なるため、同一の磁石機構を使用していたとしても、エロージョンの形状は若干異なってくる。また、放電用ガスの種類によってプラズマ中のプラズマ密度の分布も若干異なってくる。このようなことから、ターゲット5上のエロージョン形状はアルゴンの場合と窒素の場合とでは異なってくる。
【0011】
従来、磁石機構4をターゲット5の中心軸から偏心させて回転させることにより不均一なエロージョンを均一化させることが行われているが、このような回転の機構も、ある特定の放電用ガスを想定してその放電用ガスを使用した場合においてエロージョンが均一になるように構成されるのみである。つまり、一つの特定のガスを使用した場合にエロージョンが均一になるように磁石機構4が構成されているため、別の放電用ガスを使用した場合にはエロージョン分布が不均一になり、従って、基板30上に作成される膜も不均一になっていた。
【0012】
このような問題を解決するには、使用する放電用ガスの種類に応じて異なる構成の磁石機構4を使用したりすることが考えられるが、非常にコストがかかり、また構造も複雑になる問題がある。さらに、使用する放電用ガスの種類に応じて磁石機構4の回転のさせ方を変える方法もある。具体的には、磁石機構4を自転及び公転させる回転機構を設け、自転軸と公転軸との偏心距離を放電用ガスの種類によって変える構成が考えられる。しかしながら、このような構成を機械的な手段によって達成すると、回転機構の構成が非常に複雑になり、装置が大がかりとなる欠点がある。
【0013】
本願の発明は、スパッタリング装置が抱えたこのような課題を考慮してなされたものであり、このような課題を解決するスパッタリング装置に好適に用いられる電磁石ユニットを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本願の請求項1記載の発明は、電磁石と、この電磁石への通電を制御する通電制御器とを備えた電磁石ユニットであって、
電磁石には、第1のフォトダイオードと第2のフォトダイオードが設けられており、
通電制御器は、
第1のフォトダイオードからの光を受ける位置に設けられた第1のフォトトランジスタと、第1のフォトトランジスタに接続された第1の正側駆動用トランジスタと、第2のフォトダイオードからの光を受ける位置に設けられた第2のフォトトランジスタと、第2のフォトトランジスタに接続された負側駆動用トランジスタとを備えており、
第1のフォトトランジスタは、第1のフォトダイオードからの光を受けてオンした際、正側駆動用トランジスタのエミッタとベースとの間にバイアス電圧を供給して正側駆動用トランジスタをオンすることで、電磁石に第一の向きに電流が流れるようにするものであり、
第2のフォトトランジスタは、第2のフォトダイオードからの光を受けてオンした際、負側駆動用トランジスタのエミッタとベースとの間にバイアス電圧を供給して負側駆動用トランジスタをオンすることで、電磁石に第一の向きとは逆の第二の向きに電流が流れるようにするものであるという構成を有する。
【発明の効果】
【0015】
以下に説明する通り、本願発明の電磁石ユニットによれば、電磁石を流れる電流の向きを選択することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本願発明を実施するための最良の形態(以下、実施形態)について説明する。まず、実施形態の電磁石ユニットが用いられるスパッタリング装置について説明する。図1は、本願発明の実施形態に係る電磁石ユニットが用いられるスパッタリング装置の概略構成を示した正面図である。図1に示すスパッタリング装置は、排気系11を備えた真空容器1と、磁石機構4と真空容器1内に被スパッタ面が露出するように設けたターゲット5とからなるカソード2と、ターゲット5から放出されたスパッタ粒子が到達する真空容器1内の所定の位置に基板30を配置するための基板ホルダー3と、真空容器1内に放電用ガスを導入する放電用ガス導入系6とから主に構成されている。
真空容器1は、不図示のゲートバルブを備えた気密な容器である。排気系11は、回転ポンプや拡散ポンプなどを備えて10-6パスカル程度まで排気可能に構成されている。
【0017】
カソード2は、マグネトロン放電を達成する磁石機構4と、磁石機構4の前面側に設けられたターゲット5とから構成されている。この磁石機構4の構成につて、図1、図2及び図3を使用して説明する。図2は図1の装置に採用された磁石機構4の構成を説明する斜視概略図、図3は図2に示された磁石機構4の各電磁石ユニット8の構成を説明する正面断面図である。
【0018】
磁石機構4は、ターゲット5の被スパッタ面とは反対側にセグメント状に配置された複数の電磁石ユニット8から構成されている。電磁石ユニット8が、本願発明の実施形態に係るものである。各電磁石ユニット8は、ターゲット5を貫通する磁力線を設定する電磁石81と、電磁石81への通電を制御する通電制御器82と、電磁石81及び通電制御器82を内部に埋設した樹脂モールド83とから構成されている。
【0019】
図2に示すように、各電磁石ユニット8は、全体が正六角柱の部材である。そして、各電磁石ユニット8は互いに密着してセグメント状に配置され、全体で蜂の巣状になるように構成されている。これら複数の電磁石ユニット8によって、ターゲット5の片側の面がほぼ覆われた状態となっている。
【0020】
また、図3に示すように、電磁石ユニット8の電磁石81は、ターゲット5に対して垂直な方向に長い棒状の鉄心811と、鉄心811の回りに巻いたコイル812とから構成されている。コイル812には、通電制御器82を介して直流電流が流され、ターゲット5を貫通する磁力線810が設定されるようになっている。尚、図3に示すように、各電磁石ユニット8を挟んだターゲット5とは反対側にはプリント基板44が設けられている。プリント基板44には、各電磁石ユニット8を装着する位置に三つの端子が形成されている。三つの端子は、COM端子(共通端子)441、+側端子442及び−側端子443である。本実施形態では、COM端子441はアース電位、+側端子442は所定の正の電源電圧、−側端子443は所定の負の電源電圧である。
【0021】
通電制御器82の構成について、図4を使用して説明する。図4は、図3に示す通電制御器82の回路構成を示した図である。図4に示すように、電磁石81を構成するコイル812の一端はCOM端子441に接続されている。コイル812の他端には、+側駆動用トランジスタ821と−側駆動用トランジスタ822とが設けられている。
【0022】
+側駆動用トランジスタ821は、npnトランジスタであり、コレクタが+側端子に接続されている。+側駆動用トランジスタ821のベースは、+側バイアス用抵抗823を介して+側端子442に接続されており、コレクタ−ベース間に所定のバイアス電圧が印加されている。また、+側駆動用トランジスタ821のエミッタ−ベース間には、+側フォトトランジスタ824が設けられている。そして、+側フォトトランジスタ824に光を照射して起電力を与える+側フォトダイオード825が設けられており、+側フォトトランジスタ824と+側フォトダイオード825はフォトカプラを構成している。
【0023】
+側フォトダイオード825が発光して+側フォトトランジスタ824がオンすると、+側駆動用トランジスタ821のエミッタ−ベース間にバイアス電圧が与えられ、+側駆動用トランジスタ821がオンする。この結果、図4中実線で示すようにコイル812を経由して+側端子442からCOM端子441に電流が流れる。これによって、ターゲット5を貫通する第一の向きの磁力線が設定されるようになっている。
【0024】
また一方、−側駆動用トランジスタ822は、pnpトランジスタであり、コレクタが−側端子443に接続されている。−側駆動用トランジスタ822のベースは、−側バイアス用抵抗826を介して−側端子443に接続されており、コレクタ−ベース間に所定のバイアス電圧が印加されている。また、−側駆動用トランジスタ822のエミッタ−ベース間には、同様に−側フォトトランジスタ827が設けられ、この−側フォトトランジスタ827とフォトカプラを構成するようにして−側フォトダイオード828が設けられている。
【0025】
−側フォトダイオード828が発光して−側フォトトランジスタ827がオンすると、−側駆動用トランジスタ822のエミッタ−ベース間にバイアス電圧が与えられ、−側駆動用トランジスタ822がオンする。この結果、図4中点線で示すようにコイル812を経由してCOM端子441から−側端子443に電流が流れる。これによって、ターゲット5を貫通する第一の向きとは逆向きの第二の向きの磁力線が設定されるようになっている。
【0026】
尚、上記+側フォトダイオード825及び−側ダイオード828は、プリント基板44の上に設けられている。+側フォトダイオード825及び−側ダイオード828は、各電磁石ユニット8のそれぞれに設けられており、プリント基板44に形成された不図示の配線を介して制御ユニットに接続されている。
【0027】
図5は、各電磁石ユニット8の動作を制御する制御ユニットの構成を説明する概略図である。制御ユニット45は、各電磁石ユニット8を制御する一対のフォトダイオード825,828を選択的に発光させるドライバ回路91と、ドライバ回路91に制御信号を送るマイクロコンピュータ92とから主に構成されている。
【0028】
ドライバ回路91は、各対のフォトダイオード825,828について、+側フォトダイオード825のみを発光させる状態、−側フォトダイオード828のみを発光させる状態、及び、いずれのフォトダイオード825,828も発光させない状態とを取り得るよう駆動信号を送るようになっている。
【0029】
また、マイクロコンピュータ92は、各電磁石ユニット8の動作パターンを予め定めてプログラミングされたプログラムを記憶したRAM等のメモリ921と、メモリ921からプログラムを読み出してドライバ回路91に制御信号を送るプロセッサ922と、メモリ921にプログラムを記憶させるためにプログラムを入力する入力部923とから主に構成されている。
【0030】
図1に示すスパッタリング装置において行われる成膜処理の条件、例えば、作成する薄膜の種類や使用する放電用ガスの種類及びターゲット5の材質等に応じて、各電磁石ユニット8の動作パターンが予め定められてプログラミングされる。このプログラムは、図5に示す入力部923から入力されてメモリ921に記憶される。プロセッサ922は、メモリ922からこのプログラムを読み出してドライバ回路91に制御信号を送り、各電磁石ユニット8について設けられた各対のフォトダイオード825,828を所定のパターンでオンオフさせる。この結果、各電磁石ユニット8の電磁石81が、予め定められた動作パターンで動作し、最適な回転磁場が形成される。
【0031】
上記回転磁場の形成を図6を使用して説明する。図6は、回転磁場の形成について説明する平面図である。図6の(A)〜(D)は、ターゲット5の背後にセグメント状に配置された複数の電磁石ユニットを示している。また、図6の(A)〜(D)において、斜線でハッチングされた二つの周状の電磁石ユニット群のうち、内側に位置する電磁石ユニット群(以下、内側周状電磁石ユニット群)8aと外側に位置する電磁石ユニットの群(以下、外側周状電磁石ユニット群)8bとが互いに異なる向きの磁力線を発生させるよう動作している。例えば、内側周状電磁石ユニット群8aについては、電磁石81のターゲット5側の表面がN極、外側周状電磁石ユニット群8bについては、電磁石81のターゲット5側の表面がS極になるように動作している。
【0032】
図6の(A)〜(D)において、内側周状電磁石ユニット群8aの電磁石81のターゲット5側の表面と外側周状電磁石ユニット群8bの電磁石81のターゲット5側の表面とは異なる磁極であるため、内側周状電磁石ユニット群8aと外側周状電磁石ユニット群8bとの間にアーチ状の磁力線が設定される。このアーチ状の磁力線はターゲット5の被スパッタ面からアーチ状に突出し、内側周状電磁石ユニット群8aと外側周状電磁石ユニット群8bとの間のスペースに沿って周状の磁場が設定される。
【0033】
ターゲット5の被スパッタ面からアーチ状に突出する磁力線は、その磁力線と被スパッタ面で囲まれた閉空間内に電子を閉じ込めるよう作用する。この結果、当該閉空間内での中性分子のイオン化が促進され、スパッタ放電が高効率で持続する。このため、高い成膜速度で成膜を行うことができる。さらに、アーチ状磁力線の頂上付近では、磁場と電場が直交し、電子はマグネトロン運動を行う。即ち、マグネトロンスパッタリングが行われる。電子は、周状の磁場に沿って周回しながらマグネトロン運動を行うので、処理チャンバーの壁面等に衝突してしまう可能性が低く、この点でも高い成膜速度が得られる。
【0034】
さて、各電磁石ユニット8の動作パターンを適宜選定すると、図6の(A)〜(D)に示すように、上記周状磁場を回転させることができる。即ち、図6(A)の状態から所定時間後に図6(B)の状態になり、その所定時間後に図6(C)の状態になり、……、というように各電磁石ユニット8の動作パターンを選定することで、永久磁石が回転機構によって回転しているのと同等の回転磁場を得ることができる。
【0035】
図6に示す例では、周状磁場が公転する例、即ち、周状磁場の周の中心とは異なる点を通るターゲット5の中心軸の回りに周状磁場が回転する例であるが、自転即ち周の中心の回りに周状磁石が回転する場合もある。また、周状磁石が自転しながら公転するようにするとエロージョンの均一化のためにはさらに好適である。この際、その自転軸と公転軸との偏芯距離を適宜変更するようにするとさらに好適である。偏芯距離の変更は、異なる種類の成膜処理のたびに行ってもよいし、成膜処理中に行ってもよい。
【0036】
いずれにしても、作成する薄膜の種類や使用する放電用ガスの種類及びターゲット5の材質等に応じて各電磁石ユニット8の動作パターンを適宜選定することで、いずれの成膜条件においてもターゲット5の被スパッタ面に均一なエロージョンが得られる。このため、浅いエロージョンの被スパッタ面に放電生成物が析出する問題やこれを取り除くためにクリーニングが必要になる等の問題が効果的に解決される。また、磁石を機械的に回転させる構成ではないので、複雑な回転磁場のパターンを得る際にも機構的に複雑にならず、装置が大がかりになることはない。
【0037】
次に、図1に戻り、スパッタリング装置のその他の構成について説明する。スパッタリング装置は、放電用ガスを導入する放電用ガス導入系6と補助の放電用ガスを導入する補助ガス導入系7とを備えている。放電用ガス導入系6はアルゴンなどのスパッタ率の高い通常の放電用ガスを導入するものである。この放電用ガス導入系6は、不図示のボンベに繋がる配管に設けられたバルブ61や流量調整器62によって構成されている。また、補助ガス導入系7も同様であり、不図示のボンベに繋がる配管に設けたバルブ71や流量調整機器2によって構成されている。
【0038】
次に、上記構成に係るスパッタリング装置を使用した成膜の例について説明する。以下の説明では従来の技術の欄と同様、バリア膜のスパッタ成膜を例に採って説明する。従って、ターゲット5の材料はチタンである。まず、真空容器1に設けられた不図示のゲートバルブを開いて基板30を真空容器1内に搬入し、基板ホルダー3上に載置する。真空容器1内は排気系11により10-6パスカル程度まで排気されており、この状態でまず放電用ガス導入系6を動作させる。
【0039】
放電用ガス導入系6は例えばアルゴンを導入するよう構成されており、アルゴンを例えば20SCCM(Standard Cubic Centimeter per Minute) 程度の流量で真空容器1内に導入する。この状態で、カソード2を動作させる。即ち、磁石機構4を構成する各電磁石ユニット8を所定のパターンで動作させるとともにターゲット5に設けられたターゲット電源50を動作させ、周状磁場に所定の回転を与えながらターゲット5に所定の負の直流電圧を印加してスパッタ放電を生じさせる。ターゲット電源50が与える負の直流電圧は、例えば−500ボルト程度である。このようなスパッタ放電によってターゲット5がスパッタされ、基板30上に所定の薄膜が作成される。
【0040】
次に、放電用ガス導入系6のバルブ61を締め、真空容器1内を再度所定圧力まで排気した後、補助ガス導入系7のバルブ71を開ける。補助ガス導入系7は窒素ガスを導入するよう構成されており、例えば20SCCM程度の流量で窒素ガスを真空容器1内に導入する。この状態で、カソード2を再び動作させ、各電磁石ユニット8を異なるパターンで動作させながらターゲット電源50によってターゲット5をスパッタさせ、基板30上に窒化チタンの薄膜を作成する。その後、カソード2及び補助ガス導入系7の動作を停止させて、基板30を真空容器1から取り出す。
【0041】
以上説明した通り、上記スパッタリング装置によれば、どのような種類のガスを使用して放電させる場合にも均一なエロージョンをターゲット上に形成させることができる。このため、均一な薄膜を基板上に作成することができるとともに複雑な回転機構を必要としない実用的な構成が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本願発明の実施形態に係る電磁石ユニットが用いられるスパッタリング装置の概略構成を示した正面図である。
【図2】図1の装置に採用された磁石機構4の構成を説明する斜視概略図である。
【図3】図2に示された磁石機構4の各電磁石ユニット8の構成を説明する正面断面図である。
【図4】図3に示す通電制御器82の回路構成を示した図である。
【図5】各電磁石ユニット8を制御する制御ユニットの構成を説明する概略図である。
【図6】回転磁場の形成について説明する平面図である。
【図7】従来のスパッタリング装置の概略構成を示した正面図である。
【図8】従来のスパッタリング装置の問題点を説明する断面概略図である。
【符号の説明】
【0043】
1 処理チャンバー
2 カソード
3 基板ホルダー
4 磁石機構
44 プリント基板
5 ターゲット
50 ターゲット電源
6 放電用ガス導入系
7 補助ガス導入系
8 電磁石ユニット
81 電磁石
82 通電制御器
83 樹脂モールド
9 制御ユニット
91 ドライバ回路
92 マイクロコンピュータ




【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁石と、この電磁石への通電を制御する通電制御器とを備えた電磁石ユニットであって、
電磁石には、第1のフォトダイオードと第2のフォトダイオードが設けられており、
通電制御器は、
第1のフォトダイオードからの光を受ける位置に設けられた第1のフォトトランジスタと、第1のフォトトランジスタに接続された第1の正側駆動用トランジスタと、第2のフォトダイオードからの光を受ける位置に設けられた第2のフォトトランジスタと、第2のフォトトランジスタに接続された負側駆動用トランジスタとを備えており、
第1のフォトトランジスタは、第1のフォトダイオードからの光を受けてオンした際、正側駆動用トランジスタのエミッタとベースとの間にバイアス電圧を供給して正側駆動用トランジスタをオンすることで、電磁石に第一の向きに電流が流れるようにするものであり、
第2のフォトトランジスタは、第2のフォトダイオードからの光を受けてオンした際、負側駆動用トランジスタのエミッタとベースとの間にバイアス電圧を供給して負側駆動用トランジスタをオンすることで、電磁石に第一の向きとは逆の第二の向きに電流が流れるようにするものであることを特徴とする電磁石ユニット。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−254898(P2007−254898A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−166531(P2007−166531)
【出願日】平成19年6月25日(2007.6.25)
【分割の表示】特願平9−257676の分割
【原出願日】平成9年9月6日(1997.9.6)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】