説明

電磁連結装置

【課題】構造の複雑化及び高コスト化を招来することなく、制動力が働く状態や回転トルクが伝達する状態において生じ得る不必要な衝撃を防止・抑制可能な電磁連結装置を提供する。
【解決手段】ヨーク内に励磁コイルを設けた磁極体と、シャフトの軸方向に摺動可能であって且つ磁極体と共に磁気回路を形成し得るアーマチュアと、アーマチュアと対向する位置に配されるプレートと、アーマチュアとプレートとの間に配置され、励磁コイルが無励磁状態である場合にアーマチュア又はプレートに押圧される摩擦面4Saを軸方向両端面に有する摩擦板4とを備えた電磁連結装置において、各摩擦面4Saに多数の孔43を形成し、それぞれの孔43に固体潤滑剤42を圧入して固定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、励磁状態であるか否かによって制動力が働く状態と働かない状態との間で切替可能であったり、或いは回転トルクを伝達可能な状態と伝達不可能な状態との間で切替可能な電磁連結装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、無励磁状態においてバネ等の付勢力或いは永久磁石の力により制動力が働く無励磁作動形ブレーキや、無励磁状態においてバネ等の付勢力或いは永久磁石の力により回転トルクをロータに伝達するように構成した無励磁作動形クラッチ、または、励磁状態において磁気吸引力により回転トルクをロータに伝達するように構成した励磁作動形クラッチ、或いは、励磁状態において磁気吸引力によりアーマチュアの回転動作に制動力が働くように構成した励磁作動形ブレーキ等の電磁連結装置が知られている。
【0003】
このような電磁連結装置において、制動力が働く場合や回転トルクが伝達する状態において、相互に摺動摩擦する摩擦面が滑らかでない場合、すなわち摩擦係数(動摩擦係数)が高い場合には不必要な衝撃が生じる。
【0004】
そこで、相互に摺動摩擦する摩擦面の間にオイル等の潤滑剤や磁性粉体(パウダ)を流通させることにより、上述した不必要な衝撃の発生を抑制し得る技術が考えられている(磁性粉体について特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−90663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、潤滑油や磁性粉体を用いる態様であれば、これら液体潤滑剤や磁性粉体が外部へ漏れることを防止するために適宜の密閉構造が必須であり、構造の複雑化及び高コスト化を招来し得る。
【0007】
本発明は、このような問題に着目してなされたものであって、主たる目的は、構造の複雑化及び高コスト化を招来することなく、制動力が働く状態や回転トルクが伝達する状態において生じ得る不必要な衝撃を防止・抑制可能な電磁連結装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、ヨーク内に励磁コイルを設けた磁極体と、シャフトの軸方向に摺動可能であって且つ磁極体と共に磁気回路を形成し得るアーマチュアと、アーマチュアと対向する位置に配されるプレートと、アーマチュアとプレートとの間に配置され、励磁コイルが無励磁状態である場合にアーマチュア又はプレートに押圧し得る摩擦面を軸方向端面に有する摩擦板とを備えた電磁連結装置に関するものである。ここで、「押圧」とは、接触した状態で押し付けて圧することを意味する。また、「軸方向」とは「シャフトの軸方向」を意味する。
【0009】
そして、本発明の電磁連結装置は、摩擦板の摩擦面、アーマチュアのうち摩擦面に押圧し得る面、又はプレートのうち摩擦面に押圧し得る面の少なくとも何れか1つの面に孔を形成し、その孔に固体潤滑剤を埋め込んで固定していることを特徴としている。ここで、固体潤滑剤としては、黒鉛(グラファイト)、PTFE(polytetrafluoroethylene)を挙げることができる。また、金属系軟質金属(銅、ニッケル、鉛、錫、銀等)や、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、フッ化黒鉛、窒化ホウ素(BN)等の硬度が高く潤滑性を有する物質も固体潤滑剤として利用することができる。また、本発明では、摩擦板の摩擦面、アーマチュアのうち摩擦面に押圧し得る面(以下「アーマチュア摩擦面」と称する場合がある)、プレートのうち摩擦面に押圧し得る面(以下「プレート摩擦面」と称する場合もある)、これらの面のうち少なくとも1つの面が、形成した孔に固体潤滑材を埋め込んで固定した面(以下「固体潤滑剤埋込面」と称する場合がある)であればよく、これらのうち選択した複数の面(全ての面も含む)を固体潤滑剤埋込面にした電磁連結装置にすることもできる。また、本発明の「孔」とは、固体潤滑剤埋込面となる面を有する部材(具体的には摩擦板、アーマチュア、プレート)の厚み方向に貫通する貫通孔、固体潤滑剤埋込面となる面を有する部材の厚み方向に凹んだ有底の孔、これら何れも含む概念である。さらに、本発明の電磁連結装置では、孔の数や形状を適宜変更することができる。
【0010】
本発明の電磁連結装置は、制動力が働く状態や回転トルクが伝達する状態において摩擦する面のうち少なくとも一つの面に孔を形成し、その孔に固体潤滑剤を固定して設けることによって、当該固体潤滑材を固定して設けた面(固体潤滑剤埋込面)と、固体潤滑剤埋込面に押圧する面とを相互に押圧させた場合に、固体潤滑剤により各面における摩擦係数を小さくすることができ、動摩擦が滑らかになる。その結果、制動力が働く状態や回転トルクが伝達する状態において生じ得る不必要な衝撃を防止・抑制し、スムーズな制動動作又は連結動作が可能な電磁連結装置となる。さらに、本発明の電磁連結装置であれば、相互に押圧し合う面同士の間に固体潤滑剤を介在させることよって、低摩耗化をも実現することができる。しかも、本発明の電磁連結装置は、任意の面に形成した孔に固体潤滑剤を埋め込んで固定しているため、例えば潤滑油や磁性粉体を用いる態様と比較して、専用の密封機構を設ける必要がなく、構造の複雑化及び高コスト化を回避・抑制することができる。また、例えばアーマチュアや摩擦板、或いはプレートの成形時に、所定の基材に固体潤滑剤を含有させる態様も考えられるが、このような態様と比べて、本発明は、基材を主体として既に成形された環状板材の任意の面に孔を形成し、その孔に固体潤滑剤を埋め込んで固定する態様であるため、低コストでありながら、所望の摩擦・摩耗特性を付与した面(固体潤滑剤埋込面)を形成することができる点で有利である。
【0011】
また、摩擦面の数が増えればトルクが増大する点に着目し、本発明では、軸方向に2つ以上の摩擦板を配設した電磁連結装置を構成することができる。この場合、アーマチュアも軸方向に2つ以上配設し、アーマチュアと摩擦板とを軸方向に交互に並べる態様を採用することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、摩擦板の摩擦面、アーマチュア摩擦面、又はプレート摩擦面の少なくとも何れか一つの面に形成した孔に固体潤滑剤を埋め込んで固定するという斬新な技術的思想を採用することによって、構造の複雑化及び高コスト化を招来することなく、摩擦板とアーマチュアやプレート等の摩擦相手材との動摩擦を滑らかにするとともに、低摩耗化を図ることができ、制動力が働く状態や回転トルクが伝達する状態において生じ得る不必要な衝撃を防止・抑制可能な電磁連結装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る電磁連結装置の断面模式図。
【図2】同実施形態に係る摩擦面の全体図。
【図3】同実施形態に係る電磁連結装置の一変形例の図1対応図。
【図4】摩擦面の一変形例の図2対応図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0015】
本実施形態に係る電磁連結装置Xは、無励磁状態において付勢部材の付勢力(例えばバネ力)により制動力が作用する乾式の無励磁作動形ブレーキである。ここで、乾式と湿式とでは摩擦力の発生原理が異なり、湿式は油等の液体の粘性で摩擦力を発生させるものであるのに対して、乾式は液体を用いずに部品等の固体同士が直接擦れ合うことで摩擦力を発生させるものである。本実施形態に係る無励磁作動形ブレーキXは、湿式ではなく乾式に関するものである。
【0016】
この無励磁作動形ブレーキXは、図1に示すように、ヨーク11内にコイル部12を設けた磁極体1と、被制動軸S(本発明の「シャフト」に相当)の軸方向(スラスト方向)に沿って摺動可能であって且つ磁極体1と共に磁気回路を形成し得るアーマチュア2と、アーマチュア2を磁極体1から離間する方向に付勢する図示しない付勢部材と、被制動軸Sの軸方向に沿ってアーマチュア2と対向する位置に配されるプレート3(「トルク伝達部材」とも称される)と、アーマチュア2とプレート3との間に配される摩擦板4とを備えたものである。
【0017】
磁極体1は、アーマチュア2側に開口する断面視コ字状の凹部11aが形成されたリング状のヨーク11と、凹部11a内に収容される励磁コイル12とを備えたものであり、フィールドコア又はマグネット組立体或いは電磁石部とも称される。ヨーク11は、中心部に被制動軸Sが挿通可能な挿通孔11bを形成した金属製のものである。本実施形態では、ヨーク11を図示しない固定部に固定することにより、磁極体1全体を移動不能に固定している。
【0018】
アーマチュア2は、円形リング状をなす金属製のものである。本実施形態では、肉厚方向(被制動軸Sの軸方向)の断面形状が略矩形状であるアーマチュア2を適用している(図1参照)。このアーマチュア2は、被制動軸Sの軸方向(スラスト方向)にスライド移動可能なものである。なお、本実施形態の無励磁作動形ブレーキXは、磁極体1から後述するプレート3に亘って被制動軸Sの軸方向と平行な平行ピンPを設けおり、アーマチュア2は平行ピンPにガイドされながら被制動軸Sの軸方向にスライド移動可能であって且つ回転方向には平行ピンPにより拘束される(トルク支持)ようにしている(図1参照)。具体的には、平行ピンPを、アーマチュア2に形成したアーマチュア2の厚み方向に貫通させた穴(平行ピンPにおける軸部分の径よりも大きな開口寸法を有する穴)又は例えば外側方(被制動軸Sから離間する方向)に向かって開口するU字状の溝に通した状態で磁極体1に圧入しておくことにより、穴又は溝と平行ピンPとのあそび(ギャップ)分だけアーマチュア2が被制動軸Sの回転方向に微少角度揺動するように構成している。また、アーマチュア2の中心部には被制動軸Sが挿通可能な挿通孔2aを形成している。以下の説明では、アーマチュア2のうち、摩擦板4と接触する面を「アーマチュア摩擦面2S」と称する。このアーマチュア摩擦面2Sが本発明における「アーマチュアのうち摩擦面に押圧し得る面」に相当する。本実施形態では、アーマチュア2として、軟鋼にイソナイト処理を施して硬化金属にしたものを適用している。
【0019】
図示しない付勢部材は、例えば圧縮コイルバネから構成され、アーマチュア2を磁極体1から離間する方向に付勢するものである。本実施形態では、ヨーク11に形成した付勢部材用凹部に付勢部材の一部を収容している。
【0020】
プレート3は、円形リング状をなす金属製のものである。このプレート3は、例えば先端部を磁極体1に螺着させた固定ネジの頭部とこの固定ネジに螺着したナットとによって挟まれた状態で固定されている(図示省略)。本実施形態では、肉厚方向(被制動軸Sの軸方向)の断面形状が略矩形状であるプレート3を適用している(図1参照)。以下の説明では、プレート3のうち、摩擦板4と接触する面を「プレート摩擦面3S」と称する。このプレート摩擦面3Sが本発明における「プレートのうち摩擦面に押圧し得る面」に相当する。本実施形態では、プレート3として、軟鋼にイソナイト処理を施して硬化金属にしたものを適用している。
【0021】
摩擦板4は、例えば円形リング状をなす金属製のものである。本実施形態では、摩擦板4の基端部(被制動軸S側の端部)を被制動軸S回りに設けたハブHにスプライン結合している。摩擦板4は、例えばステンレス鋼、具体的には非磁性の鋼材であるオーステナイト系ステンレス鋼(好ましくはSUS304或いはSUS303)を母材とする摩擦板芯材41を主体とするリング状のものである。以下の説明では、摩擦板4のうち、アーマチュア摩擦面2Sと接触し得る面を「第1摩擦面4Sa」と称し、プレート摩擦面3Sと接触し得る面を「第2摩擦面4Sb」と称する。なお、摩擦板4の内周端部(被制動軸S側の端部)は、被制動軸S回りに設けたハブHにスプライン結合されている(図1参照)。
【0022】
そして、本実施形態に係る電磁連結装置Xでは、図2に示すように、摩擦板4のうち第1摩擦面4Sa,第2摩擦面4Sbに固体潤滑剤42を埋め込んで固定して、固体潤滑剤42を第1摩擦面4Sa,第2摩擦面4Sbに露出させている(図2では第1摩擦面4Saを例示している)。固体潤滑剤42としては、黒鉛、PTFE、二硫化モリブデン等適宜のものを適用することができる。本実施形態の摩擦板4は、例えばオーステナイト系ステンレス鋼等の非磁性の鋼材をプレス加工又は切削加工し、イソナイト処理を施すことによって摩擦板芯材41を形成し、次いで、摩擦板芯材41の厚み方向に貫通する複数の孔43を規則性無くランダムに形成し、それら各孔43に、棒状に成形された固体潤滑剤42(棒状固体潤滑剤)を圧入し、摩擦面4Sa,4Sbと面一となるように棒状固体潤滑剤を切断することによって、固体潤滑剤42を摩擦面4Sa,4Sbに埋め込んだ状態で固定することによって製作されるものである。なお、上記孔43を形成する加工は、イソナイト処理前に実施してもよい。したがって、本実施形態の摩擦板4は、両摩擦面4Sa,4Sbにおける固体潤滑剤42の配置が同一となる。本実施形態では、摩擦面4Sa,4Sbにおいて固体潤滑剤42を同一半径上に規則正しく配置せず、分散させている(図2参照)。そして、摩擦板4が回転している状態では、同一半径上ではなく異なる半径上に不規則に分散させた各固体潤滑剤42がそれぞれの半径上を周回することによって、各摩擦面4Sa,4Sbの全領域又は略全領域に固体潤滑剤42の作用を得ることができる。なお、摩擦面4Sa,4Sbに形成する各孔43の大きさ、言い換えれば各固体潤滑剤42の大きさは均一であってもよいが、図2に示すように不均一にすることもできる。図2では、各固体潤滑剤42を共通のパターンで示している。また、図1では孔43及び固体潤滑剤42を便宜上省略している。
【0023】
次に、このような構成をなす無励磁作動形ブレーキXの動作について説明する。
【0024】
励磁コイル12が励磁状態である場合、アーマチュア2は、磁極体1と共に磁気回路を形成し、この磁気回路を通る磁束によって発生する吸引力により付勢部材の付勢力に抗して磁極体1に接触する位置まで磁極体1側に吸引される(図示省略)。これにより、アーマチュア2は摩擦板4から離間し、アーマチュア摩擦面2Sと摩擦板4の第1摩擦面4Saとの押圧状態も解除され、被制動軸Sに対する制動力は働かない。
【0025】
励磁コイル12が無励磁状態である場合、図1に示すように、アーマチュア2が付勢部材の付勢力によって磁極体1から離間する方向に付勢され、摩擦板4に押圧する。具体的には、アーマチュア2のアーマチュア摩擦面2Sと摩擦板4の第1摩擦面4Saとが押圧する。この際、摩擦板4の第2摩擦面4Sbとプレート3のプレート摩擦面3Sも相互に押圧し、その結果、ハブHを介して被制動軸Sに制動力が作用する。
【0026】
そして、本実施形態に係る無励磁作動形ブレーキXは、励磁コイル12が励磁されていない無励磁状態において摩擦相手材(アーマチュア2やプレート3)に押圧する摩擦板4の各摩擦面4Sa,4Sbに複数の固体潤滑剤42を散在させているため、複数の固体潤滑剤42が摩擦面4Sa,4Sb上にあたかも被膜(潤滑面)を形成し得るように作用し、各摩擦面4Sa,4Sbの摩擦係数を下げて、摩擦相手材(アーマチュア2やプレート3)と摩擦板4との動摩擦を滑らかにすることができる。また、摩擦板4と摩擦相手材(アーマチュア2やプレート3)との摺動摩擦時に、摩擦板4の摩擦面4Sa,4Sbと摩擦相手材(アーマチュア2やプレート3)の摩擦面(アーマチュア摩擦面2S,プレート摩擦面3S)との間に固体潤滑剤42を介在させることができるため、これら各摩擦面間(アーマチュア摩擦面2Sと第1摩擦面4Saとの間、第2摩擦面4Sbとプレート摩擦面3Sとの間)の摩耗を防止・抑制することができる。
【0027】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、図3に示すように、軸方向に複数の摩擦板4(図示例では2つの摩擦板4A,4B)を並べた乾式の無励磁作動形ブレーキXであってもよい。図3に示す無励磁作動形ブレーキXは、2つのアーマチュア2A,2B及び2つの摩擦板4A,4Bを備え、これらアーマチュア2A,2B及び摩擦板4A,4Bを軸方向に交互に配置したものである。これら各アーマチュア2A,2B及び各摩擦板4A,4Bはそれぞれ上述した実施形態におけるアーマチュア2及び摩擦板4に準じたものである。なお、摩擦板4として上述した実施形態で示した摩擦板4よりも例えば薄い摩擦板4A,4Bを適用すれば、無励磁作動形ブレーキXの軸方向寸法の大型化を招来することなく、複数のアーマチュア2A,2B及び摩擦板4A,4Bを軸方向に交互に配置することができる。ここで、2つのアーマチュア2A,2Bのうち、磁極体1側のアーマチュア2を第1アーマチュア2Aとし、摩擦板4A,4B間に配置されるマーマチュアを第2アーマチュア2Bとするとともに、2つの摩擦板4A,4Bのうち相対的に磁極体1に近い方の摩擦板4を第1摩擦板4Aとし、アーマチュア2A,2B間に配置される摩擦板4を第2摩擦板4Bとした場合、無励磁状態において、第1摩擦板4Aの一方の摩擦面4ASaは第1アーマチュア2Aのアーマチュア摩擦面2ASに押圧し、他方の摩擦面4ASbは第2アーマチュア2Bの一方のアーマチュア摩擦面2BSaに押圧するとともに、第2摩擦板4Bの一方の摩擦面4BSaは第2アーマチュア2Bの他方のアーマチュア摩擦面2BSbに押圧し、他方の摩擦面4BSbはプレート3のプレート摩擦面3Sに押圧する。そして、各摩擦板4A,4Bの摩擦面4ASa,4ASb,4BSa,4BSbに、上述した実施形態に準じて複数の孔43を形成し、各孔43に固体潤滑剤42を埋め込んで固定していることにより、上述した作用効果と同様の作用効果を得ることができる。なお、図3において、前記実施形態に係る無励磁作動形ブレーキXの各部と対応する部分には同じ符号を付している。複数の摩擦板4A,4Bを重ねた状態で厚み方向に貫通する孔43を連続して形成し、この孔43に棒状固体潤滑剤を圧入した後、摩擦板4A,4Bごとに棒状固体潤滑剤を切断することによって、固体潤滑剤埋込面を有する複数の摩擦板を同時ないし略同時に製作することができる。
【0028】
さらに、乾式無励磁作動形ブレーキXが発揮するトルクは、次の数式、
T=nμPr
T:トルク、n:摩擦面の数、μ:摩擦係数、P:圧力(押付力)、r:平均摩擦半径
で求めることができ、1つの摩擦板が2つの摩擦面を有するものであることから、摩擦板の増加に伴ってトルクも増加する。したがって、例えば摩擦板の数を2、3、4と増加することにより、無励磁状態で得られるトルクは、1つの摩擦板を備えたブレーキで得られるトルクの2倍、3倍、4倍となり、摩擦板を軸方向に複数配置することによってトルクの増大化を実現することができる。図3に示す態様では2つの摩擦板4A,4Bを用いているため、摩擦面の数が4となり、無励磁状態で得られるトルクは1つの摩擦板4を備えた電磁連結装置と比較して2倍のトルクを得ることができる。さらに、上述したように、各摩擦面4ASa,4ASb,4BSa,4BSbに固体潤滑剤42を表出させた状態で固定することによって優れた摩擦・摩耗特性を各摩擦面4ASa,4ASb,4BSa,4BSbに与えることができるため、例えば軸方向に複数配置した摩擦板4を薄く形成すれば、電磁連結装置全体の大型化(特に軸方向の大型化)を招来することなく、トルクの増加を実現することができる。
【0029】
また、強磁性体であることが必須の第1アーマチュア以外の、摩擦板、アーマチュア、プレートの主材料(芯材、母材)は特に限定されず、ステンレス鋼以外の鋼や、或いは鋼以外の金属材料を採用することもできる。
【0030】
また、固体潤滑剤を孔に埋め込んで固定した面(固体潤滑剤埋込面)を有する部材が、アーマチュアのみであったり、プレートのみであってもよい。さらには、固体潤滑剤埋込面を有する部材が、アーマチュア、摩擦板、プレートのうち選択した2つの部材である態様や、アーマチュア、摩擦板及びプレート全である態様を採用することもできる。
【0031】
また、図4に示すように、固体潤滑剤42の形状や数(孔43の形状や数)は適宜変更しても構わない。孔が貫通孔ではなく、有底の孔(凹み)であってもよい。この場合、固体潤滑剤の粉末を接着剤に混ぜて有底の孔(凹み)内に充填して接着させれば、各孔に固体潤滑剤を埋め込んだ状態で固定することができる。このように、固体潤滑剤の粉末を孔に充填する態様は、孔の形状を問わず、また孔が貫通孔である場合にも適用できる。
【0032】
また、本発明の電磁連結装置では、プレートのうちアーマチュアに対向する面に摩擦板(摩擦材、フェーシング)を一体的に取り付けた態様や、アーマチュアのうちプレートに対向する面に摩擦板(摩擦材、フェーシング)を一体的に取り付けた態様、或いは摩擦板を励磁状態又は無励磁状態の何れか一方の状態においてアーマチュア及びプレートの何れにも接触しない位置に配し、他方の状態において摩擦板がこれらアーマチュア及びプレートに挟み込まれて接触するように構成した態様、これら何れの態様も採用することができる。
【0033】
また、付勢部材が、磁極体に設けた永久磁石の力を利用してアーマチュアを磁極体から離間する方向に付勢するものであっても構わない。この場合、無励磁状態には永久磁石の力でアーマチュアを磁極体から離間する方向に付勢する一方、励磁状態ではコイル磁束が永久磁石の力を打ち消すように構成すればよい。
【0034】
また、励磁状態において磁気吸引力により、トルクを、入力側となる回転軸(シャフト)側から出力側へ、又は入力部側から出力側となる回転軸側へ伝達するように構成した励磁作動形クラッチや、励磁状態において磁気吸引力によりアーマチュアの回転動作に制動力が働くように構成した励磁作動形ブレーキ等の電磁連結装置であってもよい。本発明の電磁連結装置が、クラッチであれば、ロータは磁極体に含まれる。
【0035】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0036】
1…磁極体
11…ヨーク
12…励磁コイル
2,2A,2B…アーマチュア(第1アーマチュア,第2アーマチュア)
3…プレート
4…摩擦板
42…固体潤滑剤
43…孔
4Sa,4Sb,4ASa,4ASb,4BSa,4BSb…摩擦面
S…シャフト(被制動軸)
X…電磁連結装置(無励磁作動形ブレーキ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨーク内に励磁コイルを設けた磁極体と、
シャフトの軸方向に摺動可能であって且つ前記磁極体と共に磁気回路を形成し得るアーマチュアと、
前記アーマチュアと対向する位置に配されるプレートと、
前記アーマチュアと前記プレートとの間に配置され、前記励磁コイルが無励磁状態である場合に前記アーマチュア又は前記プレートに押圧する摩擦面を前記軸方向端面に有する摩擦板とを備えてなり、
前記摩擦面、前記アーマチュアのうち前記摩擦面に押圧し得る面、又は前記プレートのうち前記摩擦面に押圧し得る面の少なくとも何れか1つの面に孔を形成し、当該孔に固体潤滑剤を埋め込んで固定していることを特徴とする電磁連結装置。
【請求項2】
軸方向に2つ以上の前記摩擦板を配設している請求項1に記載の電磁連結装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−67883(P2012−67883A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214729(P2010−214729)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000002059)シンフォニアテクノロジー株式会社 (1,111)
【Fターム(参考)】