説明

電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法、電解コンデンサ電極用アルミニウム材、電解コンデンサ用電極材の製造方法、アルミニウム電解コンデンサ用陽極材およびアルミニウム電解コンデンサ

【課題】 冷間圧延終了後最終焼鈍前に酸化性雰囲気中での加熱を実施する電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造において、PbおよびCuの含有量が検討されていないため最終焼鈍後のアルミニウム材のエッチング特性が不十分であるという問題点を解決し、エッチング特性に優れた電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法、電解コンデンサ電極用アルミニウム材、電解コンデンサ用電極材の製造方法及びアルミニウム電解コンデンサを提供する。
【解決手段】 熱間圧延、冷間圧延、中間焼鈍、仕上げ冷間圧延、最終焼鈍を順次実施する、電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造において、アルミニウム材のPbの含有量を0.3質量ppm以上2.5質量ppm以下とし、中間焼鈍を酸化性雰囲気中で実施し、冷間圧延終了後最終焼鈍前のアルミニウム材を酸化性雰囲気中で加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法、電解コンデンサ電極用アルミニウム材、電解コンデンサ用電極材の製造方法、電解コンデンサ用陽極材およびアルミニウム電解コンデンサに関する。
【0002】
なお、この明細書において「アルミニウム」の語はその合金を含む意味で用い、アルミニウム材には箔と板およびこれらを用いた成形体が含まれる。
【背景技術】
【0003】
アルミニウム電解コンデンサ用電極材として一般に用いられるアルミニウム材は、静電容量を大きくする目的で、電気化学的あるいは化学的エッチング処理を施して、アルミニウム材の実効面積を拡大することが行われている。
【0004】
直流エッチング法でトンネル状ピットを生成される電解コンデンサ陽極用アルミニウム材の製造においては、アルミニウム材の立方体集合組織を発達させるために500℃前後の温度で不活性雰囲気もしくは真空中で最終焼鈍するのが一般的である。最終焼鈍は、冷間圧延より後の工程で行われる。また、冷間圧延工程の途中において、最終焼鈍後の立方体方位占有率を高めるために焼鈍を実施することが多い。上記冷間圧延工程途中の焼鈍を中間焼鈍と称し、一般には窒素やアルゴン等の不活性雰囲気中で実施される。
【0005】
最終焼鈍後のアルミニウム材表面の酸化皮膜の特性は、特に電解エッチング初期のピット生成と関係があることから、アルミニウム材表面の酸化処理に関する検討が行われている。また、アルミニウム材中に含まれる微量元素もアルミニウム材のエッチング特性に影響を及ぼす。特に、Pbは最終焼鈍時にアルミニウム材表面層に濃化し表層を活性化させ、Cuは電解エッチング時のアルミニウム材の溶解量に影響を及ぼすため含有量を適正化させることは重要である。
【0006】
特許文献1には、アルミニウム箔の表面層を除去する工程と、除去後、温度:40〜350℃、露点:0〜80℃、時間:30〜1800秒の条件で加熱酸化する工程と、加熱酸化後、非酸化性雰囲気で焼鈍する工程を実施することにより、焼鈍後のアルミニウム箔表面層の酸化膜を薄くすることができ、かつエッチング液中で速やかに溶解除去することが開示されている。
【0007】
特許文献2には、コイルから巻き戻したアルミニウム箔を連続的に洗浄して酸化膜を除去した後、アルミニウム箔表面を(酸化性)雰囲気と接触させることにより連続的に酸化処理し、その後高温加熱処理することを特徴とする電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法が記載されている。
【0008】
特許文献3には、箔圧延後のアルミニウム箔の表面層を除去したのち、該アルミニウム箔の表面にその平均セルまたはサブグレインサイズが10μm以下の状態のうちに厚さ5〜50オングストロームの酸化皮膜を形成する工程と、その後酸化皮膜の合計厚さが70オングストロームを越えない範囲で高温加熱処理する工程とを経ることを特徴とする電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法が示されている。
【0009】
特許文献4には、アルミニウム材を加熱体との接触により加熱する工程を含む電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法が記載されている。
【0010】
特許文献5では、電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造において、不活性雰囲気中での最終焼鈍の後に、大気中において酸化処理する方法が開示されている。
【0011】
また、特許文献6には、CuおよびPbの濃度が記載されている。
【特許文献1】特開平7−201673号公報
【特許文献2】特開平4−127412号公報
【特許文献3】特開平3−122260号公報
【特許文献4】WO03/091482A1
【特許文献5】特開平5−254140号公報
【特許文献6】特開平2000−239773号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1〜4では、酸化性雰囲気中での加熱あるいは加熱体の接触により静電容量の向上が図られているものの、アルミニウム材中に含まれる微量元素の含有量に関する記載がない。また、特許文献5も微量元素に関する記載がないうえ、酸化処理を最終焼鈍後に行うため、最終焼鈍前に酸化処理を行う場合に比べ、酸化処理によるエッチング特性向上が不十分になる恐れがある。
【0013】
特許文献6では、PbとCuの濃度は規定されているものの酸化性雰囲気中での加熱は実施されておらず、最終焼鈍後のアルミニウム材のエッチング特性の向上は不十分であった。
【0014】
さらに、特許文献1〜6には中間焼鈍を酸化性雰囲気で実施するという記載がない。
【0015】
この発明は、このような技術的背景に鑑みてなされたものであって、冷間圧延終了後最終焼鈍前に酸化性雰囲気中での加熱を実施する電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造において、微量元素の含有量を適切に制御することにより、最終焼鈍後のアルミニウム材のエッチング特性が不十分であるという問題点を解決し、エッチング特性に優れた電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法、電解コンデンサ電極用アルミニウム材、電解コンデンサ用電極材の製造方法、電解コンデンサ用陽極材及びアルミニウム電解コンデンサを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、この発明は、以下の手段を提供する。
(1)0.3質量ppm以上2.5質量ppm以下のPbを含むアルミニウム材に、熱間圧延、冷間圧延、酸化性雰囲気中での中間焼鈍、仕上げ冷間圧延を順次実施し、さらに酸化性雰囲気中で加熱した後、最終焼鈍することを特徴とする電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
(2)アルミニウム材は10質量ppm以上150質量ppm以下のCuを含む前項1に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
(3)アルミニウム材のアルミニウム純度が99.9質量%以上である前項1または前項2に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
(4)仕上げ冷間圧延より後に実施する酸化性雰囲気中での加熱温度が50〜400℃である前項1ないし前項3の何れか1項に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
(5)仕上げ冷間圧延より後に実施する酸化性雰囲気中での加熱時間が3秒以上72時間以下である前項4に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
(6)仕上げ冷間圧延より後に実施する酸化性雰囲気中の酸素濃度が0.1体積%以上である前項1ないし前項5の何れか1項に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
(7)酸化性雰囲気中での中間焼鈍を200℃以上320℃以下の温度で実施する前項1ないし前項6の何れか1項に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
(8)酸化性雰囲気中で行われる中間焼鈍における雰囲気中の酸素濃度が0.1体積%以上である前項1ないし前項7の何れか1項に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
(9)仕上げ冷間圧延後酸化性雰囲気中での加熱前に洗浄を実施する前項1ないし前項8の何れか1項に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
(10)洗浄に用いる洗浄液が有機溶剤、界面活性剤を添加した水、および水溶性有機溶剤と水の混合物、の少なくとも一つである前項9に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
(11)洗浄に用いる洗浄液が酸性水溶液およびアルカリ性水溶液の少なくとも一方である前項9に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
(12)洗浄は、アルカリ性水溶液による洗浄と酸性水溶液による洗浄の順次的実施により行われる前項9に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
(13)酸性水溶液中の酸が、塩酸、硫酸、硝酸、リン元素を含む酸の中から選ばれた1種またな2種以上である前項11または前項12に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
(14)アルカリが水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、オルトケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、リン酸三ナトリウム、炭酸ナトリウムの中から選ばれた1種または2種以上である前項11または前項12に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
(15)洗浄によるアルミニウム材表面層の平均除去量が、以下に規定する除去量D(nm)においてアルミニウム材片面あたり1nm以上500nm以下である前項11ないし前項14の何れか1項に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
【0017】
除去量D(nm)=E(g/cm2)×107/2.7(g/cm3)
ただし、Eは洗浄による単位表面積当たりの質量減
2.7g/cm3はアルミニウム材の密度
(16)アルミニウム材中のPb濃度が、0.6質量ppm以上2.5質量ppm以下である前項10に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
(17)最終焼鈍が不活性ガス雰囲気中で行われる前項1ないし前項16の何れか1項に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
(18)最終焼鈍が450℃以上600℃以下の温度で行われる前項1ないし前項17の何れか1項に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
(19)前項1ないし前項18の何れか1項に記載の製造方法によって製造された電解コンデンサ電極用アルミニウム材。
(20)中圧用陽極材または高圧用陽極材として用いられる前項19に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材。
(21)前項1ないし前項18の何れか1項に記載の製造方法によって製造されたアルミニウム材に、エッチングを実施することを特徴とする電解コンデンサ用電極材の製造方法。
(22)エッチングの少なくとも一部が直流電解エッチングである前項21に記載の電解コンデンサ用電極材の製造方法。
(23)エッチング後、化成処理を実施する前項22に記載の電解コンデンサ用電極材の製造方法。
(24)前項22または前項23に記載の製造方法によって製造されたアルミニウム電解コンデンサ用陽極材。
(25)電極材として前項21ないし前項23の何れか1項に記載の製造方法によって製造されたアルミニウム電極材が用いられていることを特徴とするアルミニウム電解コンデンサ。
【発明の効果】
【0018】
前項(1)に係る発明によれば、0.3質量ppm以上2.5質量ppm以下のPbを含むアルミニウム材に、熱間圧延、冷間圧延、酸化性雰囲気中での中間焼鈍、仕上げ冷間圧延を順次実施し、さらに酸化性雰囲気中で加熱した後、最終焼鈍するから、エッチング時のアルミニウム材表面層の溶解性が均一なエッチング特性に優れた電解コンデンサ電極用アルミニウム材を得ることができる。
【0019】
前項(2)に係る発明によれば、10質量ppm以上150質量ppm以下のCuを含むからエッチング特性に優れた電解コンデンサ電極用アルミニウム材を得ることができる。
【0020】
前項(3)に係る発明によれば、アルミニウム材のアルミニウム純度が99.9質量%以上であるから不純物によるエッチング特性の劣化を防止することができる。
【0021】
前項(4)に係る発明によれば、仕上げ冷間圧延より後に実施する酸化性雰囲気中での加熱温度が50〜400℃であるため、最終焼鈍後のアルミニウム材をエッチングしたときのアルミニウム材表面層の溶解性が均一になる。
【0022】
前項(5)に係る発明によれば、仕上げ冷間圧延より後に実施する酸化性雰囲気中での加熱時間が3秒以上72時間以下であるため、最終焼鈍後のアルミニウム材をエッチングしたときのアルミニウム材表面層の溶解性が均一になる。
【0023】
前項(6)に係る発明によれば、仕上げ冷間圧延より後に実施する酸化性雰囲気中の酸素濃度が0.1体積%以上であるため、最終焼鈍後のアルミニウム材をエッチングしたときのアルミニウム材表面層の溶解性が均一になる。
【0024】
前項(7)に係る発明によれば、酸化性雰囲気中での中間焼鈍を200℃以上320℃以下の温度で実施するため、最終焼鈍後のアルミニウム材をエッチングしたときのアルミニウム材表面層の溶解性が均一になる。
【0025】
前項(8)に係る発明によれば、酸化性雰囲気中で行われる中間焼鈍における雰囲気中の酸素濃度が0.1体積%以上であるため、最終焼鈍後のアルミニウム材をエッチングしたときのアルミニウム材表面層の溶解性が均一になる。
【0026】
前項(9)に係る発明によれば、仕上げ冷間圧延後酸化性雰囲気中での加熱前に洗浄を実施するから、表面が清浄化され、よりエッチング特性に優れた電解コンデンサ電極用アルミニウム材を得ることができる。
【0027】
前項(10)に係る発明によれば、洗浄に用いる洗浄液が有機溶剤、界面活性剤を添加した水、および水溶性有機溶剤と水の混合物、の少なくとも一つであるため、確実に洗浄を行うことができる。
【0028】
前項(11)に係る発明によれば、洗浄に用いる洗浄液が酸性水溶液およびアルカリ性水溶液の少なくとも一方であるため、より確実に洗浄を行うことができる。
【0029】
前項(12)に係る発明によれば、洗浄は、アルカリ性水溶液による洗浄と酸性水溶液による洗浄の順次的実施により行われるため、より確実に洗浄を行うことができる。
【0030】
前項(13)に係る発明によれば、酸性水溶液中の酸が、塩酸、硫酸、硝酸、リン元素を含む酸の中から選ばれた1種またな2種以上であるため、より確実に洗浄を行うことができる。
【0031】
前項(14)に係る発明によれば、アルカリが水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、オルトケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、リン酸三ナトリウム、炭酸ナトリウムの中から選ばれた1種または2種以上であるため、より確実に洗浄を行うことができる。
【0032】
前項(15)に係る発明によれば、洗浄によるアルミニウム材表面層の平均除去量D(nm)がアルミニウム材片面あたり1nm以上500nm以下であるため、最終焼鈍後のアルミニウム材をエッチングする時のアルミニウム材表面層の溶解性がより均一になる。
【0033】
前項(16)に係る発明によれば、仕上げ冷間圧延後酸化性雰囲気中での加熱前に実施する洗浄における洗浄剤として有機溶剤、界面活性剤を添加した水、および水溶性有機溶剤と水とを混合したもの、の少なくとも一つを用いて洗浄する場合、アルミニウム材中のPb濃度が、0.6質量ppm以上2.5質量ppm以下であるから、最終焼鈍後のアルミニウム材をエッチングする時のアルミニウム材表面層の溶解性がより均一になる。
【0034】
前項(17)に係る発明によれば、最終焼鈍が不活性ガス雰囲気中で行われるから、必要以上の酸化皮膜の厚さの増大化を抑制することができ、エッチング特性に優れた電解コンデンサ電極用電極用アルミニウム材を得ることができる。
【0035】
前項(18)に係る発明によれば、最終焼鈍が450℃以上600℃以下の温度で行われるから、エッチピットが均一に生成するアルミニウム材を得ることができる。
【0036】
前項(19)に係る発明によれば、エッチング特性に優れた電解コンデンサ電極用アルミニウム材となし得る。
【0037】
前項(20)に係る発明によれば中圧用または高圧用陽極材として用いられるアルミニウム材となし得る。
【0038】
前項(21)に係る発明によれば、エッチングにより大きな静電容量を有する電解コンデンサ用電極材を製造することができる。
【0039】
前項(22)に係る発明によれば、エッチングの少なくとも一部を直流電解エッチングで行うことにより、深くて太い多数のトンネル状ピットを生成することができ、前記酸化性雰囲気中での中間焼鈍および前記冷間圧延終了後最終焼鈍前の酸化性雰囲気中での加熱の効果を効率的に発揮することができる。
【0040】
前項(23)に係る発明によれば、エッチング後、化成処理を実施するから、陽極材として好適な電解コンデンサ用電極材を得ることができる。
【0041】
前項(24)に係る発明によれば、高静電容量のアルミニウム電解コンデンサ用陽極材となし得る。
【0042】
前項(25)に係る発明によれば、高静電容量のアルミニウム電解コンデンサとなし得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
本願発明者は、0.3質量ppm以上2.5質量ppm以下のPbを含むアルミニウム材に、熱間圧延、冷間圧延、中間焼鈍、仕上げ冷間圧延を順次実施し、最終焼鈍する電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造において、中間焼鈍を酸化性雰囲気中で実施し、仕上げ冷間圧延後最終焼鈍前にアルミニウム材を酸化性雰囲気中で加熱することにより、最終焼鈍後のアルミニウム材をエッチングしたときのアルミニウム材表面層の溶解性が均一になり、電解エッチング特性が向上することを見出した。さらに、冷間圧延終了後酸化性雰囲気中での加熱前に実施する洗浄の条件に応じてPb組成を適正なものとすることにより、更にエッチング特性が向上することを見出した。
【0044】
以下に、電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法を詳細に説明する。
【0045】
アルミニウム材のアルミニウム純度は電解コンデンサ用に使用される範囲であれば特に限定されないが、純度99.9質量%以上のものが好ましく、特に99.95質量%以上が好ましい。なお、本発明において、便宜的に、アルミニウム材のアルミニウム純度は100質量%からFe, SiおよびCuの合計濃度(質量%)を差し引いた値とする。
【0046】
なお、この明細書では、「質量%」に代えて「質量ppm」で表記する場合もある。この場合、1質量%は10000質量ppmである。
【0047】
Pbは最終焼鈍時にアルミニウム材表層に濃化し、エッチピット生成に大きく影響を及ぼす。直流エッチング法によりトンネル状エッチピットを生成させる際に、Pbが少なすぎるとエッチピット分散性が悪く、多すぎるとアルミニウム材の表面溶解が多くなる。本願では酸化性雰囲気中での中間焼鈍および仕上げ冷間圧延後最終焼鈍前の酸化性雰囲気中のアルミニウム材の加熱によるエッチング特性向上効果を発揮させるために、Pb濃度を0.3質量ppm以上2.5質量ppm以下と規定する。
【0048】
また、さらにエッチピットの分散性を向上させるため10質量ppm以上150質量ppm以下のCuが含まれていることが好ましい。Cu含有量が10質量ppm未満ではエッチピット分散性の向上効果に乏しく、150質量ppmを越えると電解エッチング中のアルミニウム材の溶解減量が多くなり静電容量が低下する。Cu含有量はさらに15ppm以上100ppm以下が好ましい。
【0049】
アルミニウム材の製造工程は、限定されないが、アルミニウム材の溶解成分調整・スラブ鋳造、熱間圧延、冷間圧延、酸化性雰囲気中での中間焼鈍、仕上げ冷間圧延(低圧下率圧延)、酸化性雰囲気中での加熱、最終焼鈍の順に実施される。なお、冷間圧延終了後酸化性雰囲気中での加熱前に洗浄を実施することが好ましい。洗浄を実施することで、アルミニウム材の表面が清浄化され、エッチング特性を向上できひいては静電容量の増大につながる。
【0050】
酸化性雰囲気中での中間焼鈍時の加熱方法は限定されないが、送風加熱、輻射加熱などを例示できる。また、アルミニウム材を酸化性雰囲気で加熱する際の昇温速度・パターンは特に限定されないが、最終焼鈍後の立方体方位占有率が高くなる条件で行われる。また、加熱されるアルミニウム材の形態も特に限定されるものではなく、コイルに巻き取った状態でバッチ加熱しても良いし、コイルを巻き戻し連続加熱したのちコイルに巻き取っても良い。
【0051】
酸化性雰囲気中での中間焼鈍温度は、200℃以上320℃以下が好ましい。中間焼鈍温度が200℃未満では最終焼鈍時に立方体方位を有する再結晶粒が優先成長するのに十分な組織が得られず、320℃を越えると最終焼鈍時の立方体方位粒の優先成長を阻害する再結晶粒が成長するからである。なお、良好な立方体方位占有率が得られる中間焼鈍温度および時間はアルミニウム材の組成に依存し、最終焼鈍後に高い立方体方位占有率が得られる条件が選択される。
【0052】
上記温度範囲における酸化性雰囲気中の中間焼鈍によりアルミニウム材が酸化され、アルミニウム材表層の溶解性が均一になる。
【0053】
仕上げ冷間圧延は中間焼鈍と組み合わせて立方体方位の制御のため行われる工程であり、公知の方法を用いることができる。
【0054】
前記アルミニウム材の洗浄に用いる洗浄液は、有機溶剤、界面活性剤を添加した水、アルカリ性水溶液、酸性水溶液を用いることができる。また、水溶性有機溶剤と水を混合したものでも良い。
【0055】
洗浄によりアルミニウム材表面層を除去する場合には、アルカリ性水溶液および酸性水溶液の少なくとも一方を用いる。洗浄は、単独の洗浄液を用いてもよく、アルカリ性水溶液を用いて実施した後、酸性水溶液を用いて洗浄してもよい。
【0056】
アルカリ性水溶液および酸性水溶液の少なくとも一方を用いて洗浄によりアルミニウム材表面層を除去する場合のアルミニウム材中のPbの含有量は、本発明の範囲である0.3質量ppm以上2.5質量ppm以下とすればよい。Pb含有量が0.3質量ppm未満ではエッチピット分散性が悪く、2.5質量ppmを越えるとアルミニウム材の表面溶解が多くなり、静電容量が低下する。Pb含有量はさらに、0.4質量ppm以上1.8質量ppm以下が好ましく、特に0.5質量ppm以上1.2質量ppm以下が好ましい。
【0057】
有機溶剤、界面活性剤を添加した水、および水溶性有機溶剤と水の混合物、の少なくとも一つを用いて洗浄する場合のPb含有量は、0.6質量ppm以上2.5質量ppm以下であることが好ましい。Pb含有量が0.6質量ppm未満ではエッチピット分散性が悪く、2.5質量ppmを越えるとアルミニウム材の表面溶解が多くなり静電容量が低下する。Pb含有量はさらに、0.7質量ppm以上1.8質量ppm以下が好ましく、特に0.7質量ppm以上1.2質量ppm以下が好ましい。
【0058】
洗浄に用いる有機溶剤は特に限定されるものではないが、例として、アルコール、ジオール、トルエン・キシレン等の芳香族炭化水素、アルカン系炭化水素、シクロヘキサン、ケトン、エーテル、エステル、石油製品等があげられる。
【0059】
上記アルコールの例としては、メタノール(CH3OH)、エタノール(C2H5OH)、1-プロパノール(CH3CH2CH2OH)、2-プロパノール(CH3CH(OH)CH3)、1-ブタノール(CH3CH2CH2CH2OH)、2-ブタノール(CH3CH2CH(OH)CH3)、1-ペンタノール(CH3CH2CH2CH2CH2OH)、2-ペンタノール(CH3CH2CH2CH(OH)CH3)等が挙げられ、CnH2n+1OH(n=1〜10の自然数)で表されるものが好ましい。また、シクロヘキサノール等の脂環炭化水素類も用いることが出来る。
【0060】
上記ジオールの例としては1,2-エタンジオール(HOCH2CH2OH)、1,2-プロパンジオール(CH3CH(OH)CH2OH)、1,3-プロパンジオール(HOCH2CH2CH2OH)等が例示できる。
【0061】
上記アルカン系炭化水素の例としては、ペンタン(C5H12)、ヘキサン(C6H14)、ヘプタン(C7H16)、オクタン(C8H18)、ノナン(C9H20)、デカン(C10H22)等が挙げられCnH2n+2(n=5〜15の自然数)で表されるものが好ましい。またシクロヘキサン等脂環式炭化水素の適用も可能である。
【0062】
上記ケトンの例としてはアセトン(CH3COCH3)、2-ブタノン(CH3COC2H5)、3-ペンタノン(CH3CH2COCH2CH3)、3-メチル-2-ブタノン(CH3COCH(CH3)2)等が例示でき、R1COR2(R1およびR2:脂肪族炭化水素基であり、R1とR2の炭素数の合計が8以下)で表されるものが好ましい。また、シクロヘシサノン(C6H10O)等環状ケトンを用いても良い。
【0063】
上記エーテルの例としては、R1-O-R2(R1およびR2:脂肪族炭化水素基であり、R1とR2の炭素数の合計が8以下)で表される物質、2-メトキシエタノール(CH3OCH2CH2OH)、2-エトキシエタノール(CH3CH2OCH2CH2OH)、2-ブトキシエタノール(CH3CH2CH2CH2OCH2CH2OH) 2-(2-エトキシ)エトキシエタノール(CH3CH2OCH2CH2OCH2CH2OH)、等のグリコールエーテルも含まれる。
【0064】
上記エステルの例としては、CH3COOR(R:炭素数1〜5である脂肪族炭化水素基)で表される酢酸エステルが例示できる。
【0065】
上記石油製品の例としては、工業ガソリン(JIS K 2201)、自動車ガソリン(JIS K 2202)、航空ガソリン(JIS K 2206)、灯油(JIS K 2203)、軽油(JIS K 2204)、石油エーテル(JIS K 8593)、石油ベンジン(JIS K 8594)、リグロイン(JIS K 8937)、ケロシン等が挙げられる。
【0066】
なお、水と混合して使用できる有機溶剤としては、上記有機溶剤のうち、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン等が挙げられる。
【0067】
前記洗浄に用いる水に界面活性剤を添加した液に含まれる界面活性剤は特に限定されるものではないが、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、非イオン性界面活性剤を用いることが出来る。
【0068】
アニオン界面活性剤として硫酸エステル塩、スルホン酸塩を用いることができる。
【0069】
上記硫酸エステル塩としては、R-OSO3Na(R=炭素数8〜18の飽和炭化水素基もしくは二重結合を一つ有する不飽和炭化水素基)が利用でき、具体的にはドデシル硫酸ナトリウム(C12H25OSO3Na)、ヘキサデシル硫酸ナトリウム(C16H33OSO3Na)、ステアリル硫酸ナトリウム(C18H37OSO3Na)、オレイル硫酸ナトリウム(C18H35OSO3Na)等が例示できる。
【0070】
上記スルホン酸塩はR-SO3Na(R=炭素数8〜18の飽和炭化水素基もしくは二重結合を一つ有する不飽和炭化水素基)もしくはドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(C12H25-C6H4-SO3Na)等のR-SO3Na(R:アルキル基が炭素数8〜14の飽和炭化水素基もしくは二重結合を一つ有する不飽和炭化水素基であるアルキルベンジル基)で表されるものを用いることができる。
【0071】
カチオン界面活性剤としてR-N+(CH3)3・Cl- (R=炭素数8〜16の飽和炭化水素基)で表される第4級アンモニウム塩を用いることができる。
【0072】
非イオン性界面活性剤として、R-O-(-CH2CH2O)nH(R=炭素数8〜16の飽和炭化水素基もしくは二重結合を一つ有する不飽和炭化水素基、n=6〜14)またはR-O-(-CH2CH2O)nH(R=アルキル基が炭素数8〜12の飽和炭化水素基もしくは二重結合を一つ有する不飽和炭化水素基であるアルキルフェニル基、n=6〜14)で表されるポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤を例示できる。なおnが上記範囲より多いものが非イオン性界面活性剤中に50%以下のモル比で含まれていても良い。
【0073】
上記界面活性剤の少なくとも1種類以上を水に添加し洗浄液として用いる事ができる。界面活性剤の炭素数が上記範囲より少ない界面活性剤が50%以下のモル比で添加されていても良い。なお、アニオン界面活性剤とカチオン界面活性剤を水中で混合させると沈殿が生成するため、混合はさけることが好ましい。
【0074】
界面活性剤の添加濃度は特に規定されないが洗浄効果を発揮させるために臨界ミセル濃度以上であることが好ましい。
【0075】
洗浄に用いるアルカリ性水溶液中のアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、オルトケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、リン酸三ナトリウム、炭酸ナトリウムが例示でき、これらアルカリの中から選ばれた1種あるいは2種以上を水に溶解させ洗浄液として用いることができる。
【0076】
洗浄に用いる酸性水溶液中の酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン元素を含む酸の中から選ばれる1種または2種以上を用いる。リン元素を含む酸としてはオルトリン酸(以後リン酸と称す。)、ピロリン酸、メタリン酸、ポリリン酸を例示できる。また、過塩素酸及び次亜塩素酸を利用しても良い。
【0077】
アルカリ性水溶液または酸性水溶液によるアルミニウム材の表面層除去量は、アルカリまたは酸の濃度、アルカリ性または酸性水溶液の温度およびアルミニウム材とアルカリ性または酸性水溶液との接触時間を適正なものにすることにより調節される。また、アルミニウム材表面層の洗浄効果を高める目的で洗浄液に界面活性剤やキレート剤を添加しても良い。
【0078】
前記洗浄によるアルミニウム材表面層の除去量は平均値で、アルミニウム材片面あたり1nm以上500nm以下であることが好ましい。表面層除去量が1nm未満の場合アルミニウム材表面層の酸化膜の除去が不十分な恐れがあり、500nmより多く表層を除去するとアルミニウム材表面層のエッチピット核の生成が抑制されるため却ってエッチング特性が悪く静電容量が低下する恐れがある。洗浄による特に好ましい表面層除去量は1.5nm以上200nm以下であり、さらに5nm以上200nm以下が好ましく、10nm以上150nm以下がより好ましい。
【0079】
なお、アルミニウム材表面層酸化膜と金属のアルミニウムは密度が異なるが、本願においてアルミニウム材の表面層除去量D(nm)は洗浄による単位表面積当たりの質量減E(g/cm2)とアルミニウムの密度2.7g/cm3を用いて、D(nm)=E×107/2.7と規定する。
【0080】
洗浄液とアルミニウム材との接触方法としては、特に限定されないが、浸漬、洗浄液表面へのアルミニウム材の接触、スプレー等があげられる。
【0081】
酸化性雰囲気中での加熱方法は限定されないが、送風加熱、輻射加熱などを例示できる。また、加熱されるアルミニウム材の形態も特に限定されるものではなく、コイルに巻き取った状態でバッチ加熱しても良いし、コイルを巻き戻し連続加熱したのちコイルに巻き取っても良い。
【0082】
酸化性雰囲気中でのアルミニウム材の加熱温度は50〜400℃であることが好ましい。加熱温度が50℃未満では、最終焼鈍後のアルミニウム材のエッチング時のアルミニウム材表面層の溶解性が不均一になる。加熱温度が400℃を越えるとアルミニウム材表層酸化膜が厚くなりすぎるために、最終焼鈍後のアルミニウム材のエッチング特性が低下する。特に好ましいアルミニウム材の加熱温度は70〜350℃である。
【0083】
加熱時間は3秒以上72時間以下であることが好ましい。加熱時間が3秒未満では最終焼鈍後のアルミニウム材のエッチング時のアルミニウム材表面層の溶解性が不均一になり、加熱時間が72時間を超えるとアルミニウム材表面層の溶解均一性は殆ど変わらなくなり、加熱時のエネルギー消費によりコスト高となる。特に好ましい加熱時間は10秒以上48時間以下であり、とりわけ70秒以上48時間以下が良い。
【0084】
酸化雰囲気中での加熱温度と時間は、加熱方法により適正な条件が選択される。例えば、コイルとして巻き取った状態でアルミニウム材を加熱する場合には、50℃〜280℃にて30分から72時間加熱されることが好ましい。また、コイルを巻き解いた状態のアルミニウム材あるいはシート状にカットしたアルミニウム材を加熱する場合の加熱時間t(時間)は加熱温度をx(℃)とすると、10/(1.44×x1.5)≦t≦72であることが好ましくさらに、10/(1.44×x1.5)≦t≦48であることが好ましい。
【0085】
酸化性雰囲気中でのアルミニウム材の加熱における酸化性雰囲気中の酸素濃度は0.1体積%以上であることが好ましい。酸素濃度が0.1体積%未満では加熱時にアルミニウム材表面が十分酸化されない恐れがある。酸素濃度は特に1体積%以上であることが好ましく、とりわけ5体積%以上であることが好ましく、空気を酸化性雰囲気として好適に利用できる。
【0086】
アルミニウム材の最終焼鈍における処理雰囲気は特に限定されるものではないが、酸化皮膜の厚さを増大させすぎないように、水分および酸素の少ない雰囲気中で加熱するのが好ましい。具体的には、アルゴン、窒素などの不活性ガス中あるいは0.1Pa以下の真空中で加熱することが好ましい。また、最終焼鈍の雰囲気として水素ガスも好適に利用できる。
【0087】
最終焼鈍後のアルミニウム材の立方体方位占有率は90%以上が好ましい。
【0088】
最終焼鈍の方法は特に限定されるものではなく、コイルに巻き取った状態でバッチ焼鈍しても良く、コイルを巻き戻し連続焼鈍したのちコイルに巻き取っても良く、バッチ焼鈍と連続焼鈍の少なくともどちらかを複数回行っても良い。
【0089】
焼鈍時の温度、時間は特に限定されるものではないが、例えばバッチ焼鈍を行う場合には、450〜600℃にて10分〜50時間焼鈍するのが好ましい。温度が450℃未満、時間が10分未満では、エッチピットが均一に生成する表面が得られない恐れがある。逆に600℃を越えて焼鈍すると、アルミニウム材が密着を起こし易くなり、また50時間を超えて焼鈍してもエッチングによる拡面効果は飽和し、却って熱エネルギーコストの増大を招く。特に460〜570℃にて20分〜40時間焼鈍されることが好ましい。
【0090】
また、昇温速度・パターンは特に限定されず、一定速度で昇温させても良く、昇温、温度保持を繰り返しながらステップ昇温・冷却させても良く、焼鈍工程にて450〜600℃の温度域で合計10分〜50時間焼鈍されれば良い。
【0091】
本発明で規定した工程以外の工程および工程条件は限定されず、常法に従って行われる。また、アルミニウム材のエッチング条件との関係で、アルミニウム材の製造工程は適宜変更される。
【0092】
最終焼鈍後に得られる電解コンデンサ電極用アルミニウム材の厚さは特に規定されない。箔と称される200μm以下のものも、それ以上の厚いものも本発明に含まれる。
【0093】
最終焼鈍を経たアルミニウム材には、拡面率向上のためエッチング処理を実施する。エッチング処理条件は特に限定されないが、好ましくは直流エッチング法を採用するのが良い。直流エッチング法によって、前記焼鈍において生成が促進されたエッチピットの核となる部分において、深く太くエッチングされ、多数のトンネル状ピットが生成され、高静電容量が実現される。
【0094】
エッチング処理後、望ましくは化成処理を行って陽極材とするのが良く、特に、中圧用および高圧用の電解コンデンサ電極材として用いるのが良いが、陰極材として用いることを妨げるものではない。また、この電極材を用いた電解コンデンサは大きな静電容量を実現できる。
【0095】
なお、静電容量の測定は常法に従えば良く、化成処理されたエッチド箔について、例えば30℃の80g/Lのホウ酸アンモニウム水溶液中で、ステンレス板を対極として120Hzにて測定する方法を例示できる。
【実施例】
【0096】
以下に本発明の実施例および比較例を示す。
【0097】
表1記載のFe, Si, Cu, Pbを含有するアルミニウムスラブを用意した。アルミニウムスラブを熱間圧延して得られた板を冷間圧延し厚さ140μm、幅500mm、長さ1500mのアルミニウム材とした。このアルミニウム材に中間焼鈍、仕上げ冷間圧延、洗浄、酸化性雰囲気中での加熱、最終焼鈍を順次施し、電解コンデンサ電極用アルミニウム材を得た。
【0098】
表2に中間焼鈍〜最終焼鈍までの工程の種類(工程1〜工程5)、表3に中間焼鈍(工程1)の条件、表4〜表6に表2中の洗浄(工程3)の条件、表7に表2中の酸化性雰囲気中での加熱(工程4)の条件を示す。
【0099】
なお、アルカリ性水溶液による洗浄、酸性水溶液による洗浄によりアルミニウム材表面層を除去する場合のアルミニウム材表面層除去量は洗浄液への浸漬時間により制御し、アルカリ性水溶液による洗浄と酸性水溶液による洗浄を順次的に実施する場合には、アルカリ洗浄液への浸漬時間を制御することにより除去量を制御した。
実施例1
表1の組成6のアルミニウムスラブを熱間圧延して得られた板を冷間圧延し、厚さ140μm、幅500mm、長さ1500mのアルミニウム材とした。このアルミニウム材を空気中で260℃18時間中間焼鈍(工程1)した後、さらに圧下率20%の仕上げ冷間圧延(工程2)を施した。仕上げ冷間圧延後のアルミニウム材を、表6の条件29に示す条件にて80℃20質量%の硫酸水溶液で洗浄し、アルミニウム材表面層を10nm除去した後(工程3)、表7の条件H4に示す条件にて空気中で200℃×8時間加熱し(工程4)、さらにアルゴン雰囲気中で540℃×4時間最終焼鈍(工程5)し、電解コンデンサ電極用アルミニウム材とした。
実施例2〜実施例86、比較例1〜比較例5
表8〜表12に示す各種組成(具体的な組成は表1に示す)のアルミニウムスラブを表8〜表12に示す条件にて処理し、電解コンデンサ電極用アルミニウム材を得た。
【0100】
上記の各実施例および比較例で得られたアルミニウム材を、HCl 1.0mol/LとH2SO4 3.5mol/Lを含む液温75℃の水溶液に浸漬した後、電流密度0.2A/cm2で電解処理を施した。電解処理後のアルミニウム材をさらに前記組成の塩酸―硫酸混合水溶液に90℃にて360秒浸漬し、ピット径を太くしエッチド箔を得た。得られたエッチド箔を化成電圧270VにてEIAJ規格に従い化成処理し、静電容量測定用サンプルとした。
【0101】
表8〜表12に比較例1の静電容量を100としたときの相対静電容量を示す。
【0102】
【表1】

【0103】
【表2】

【0104】
【表3】

【0105】
【表4】

【0106】
【表5】

【0107】
【表6】

【0108】
【表7】

【0109】
【表8】

【0110】
【表9】

【0111】
【表10】

【0112】
【表11】

【0113】
【表12】

【0114】
上記表の結果から理解されるように、本願規定の濃度範囲のPbを含有するアルミニウム材に酸化性雰囲気中での中間焼鈍、仕上げ冷間圧延、酸化性雰囲気中での加熱を順次実施した後最終焼鈍することによりエッチング特性に優れた電解コンデンサ用アルミニウム材を得ることができる。また、Cu含有量が10ppm以上150ppm以下の実施例は、Pb含有量及び工程が同じでCu含有量10ppm未満あるいはCu含有量150ppmを越える実施例に比べ、より静電容量が高い。
【0115】
一方、比較例1は中間焼鈍時の雰囲気が酸化性ではなく、仕上げ冷間圧延後最終焼鈍前の酸化性雰囲気中の加熱を実施しないため静電容量が実施例に比べ低い。比較例2は仕上げ冷間圧延後最終焼鈍前の酸化性雰囲気中の加熱を実施したため、酸化性雰囲気中の加熱を実施しなかった比較例3に比べ静電容量が向上するものの、比較例2および比較例3はPb含有量が0.1ppm未満であり、中間焼鈍時の雰囲気が酸化性ではないため静電容量が実施例に比べ低い。また、比較例4は中間焼鈍時の雰囲気が酸化性ではなくPb含有量が本願規定の下限未満であり、比較例5は中間焼鈍時の雰囲気が酸化性ではなくPb含有量が本願規定の上限を越えるためどちらも静電容量が低い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.3質量ppm以上2.5質量ppm以下のPbを含むアルミニウム材に、熱間圧延、冷間圧延、酸化性雰囲気中での中間焼鈍、仕上げ冷間圧延を順次実施し、さらに酸化性雰囲気中で加熱した後、最終焼鈍することを特徴とする電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
【請求項2】
アルミニウム材は10質量ppm以上150質量ppm以下のCuを含む請求項1に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
【請求項3】
アルミニウム材のアルミニウム純度が99.9質量%以上である請求項1または請求項2に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
【請求項4】
仕上げ冷間圧延より後に実施する酸化性雰囲気中での加熱温度が50〜400℃である請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
【請求項5】
仕上げ冷間圧延より後に実施する酸化性雰囲気中での加熱時間が3秒以上72時間以下である請求項4に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
【請求項6】
仕上げ冷間圧延より後に実施する酸化性雰囲気中の酸素濃度が0.1体積%以上である請求項1ないし請求項5の何れか1項に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
【請求項7】
酸化性雰囲気中での中間焼鈍を200℃以上320℃以下の温度で実施する請求項1ないし請求項6の何れか1項に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
【請求項8】
酸化性雰囲気中で行われる中間焼鈍における雰囲気中の酸素濃度が0.1体積%以上である請求項1ないし請求項7の何れか1項に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
【請求項9】
仕上げ冷間圧延後酸化性雰囲気中での加熱前に洗浄を実施する請求項1ないし請求項8の何れか1項に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
【請求項10】
洗浄に用いる洗浄液が有機溶剤、界面活性剤を添加した水、および水溶性有機溶剤と水の混合物、の少なくとも一つである請求項9に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
【請求項11】
洗浄に用いる洗浄液が酸性水溶液およびアルカリ性水溶液の少なくとも一方である請求項9に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
【請求項12】
洗浄は、アルカリ性水溶液による洗浄と酸性水溶液による洗浄の順次的実施により行われる請求項9に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
【請求項13】
酸性水溶液中の酸が、塩酸、硫酸、硝酸、リン元素を含む酸の中から選ばれた1種またな2種以上である請求項11または請求項12に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
【請求項14】
アルカリが水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、オルトケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、リン酸三ナトリウム、炭酸ナトリウムの中から選ばれた1種または2種以上である請求項11または請求項12に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
【請求項15】
洗浄によるアルミニウム材表面層の平均除去量が、以下に規定する除去量D(nm)においてアルミニウム材片面あたり1nm以上500nm以下である請求項11ないし請求項14の何れか1項に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
除去量D(nm)=E(g/cm2)×107/2.7(g/cm3)
ただし、Eは洗浄による単位表面積当たりの質量減
2.7g/cm3はアルミニウム材の密度
【請求項16】
アルミニウム材中のPb濃度が、0.6質量ppm以上2.5質量ppm以下である請求項10に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
【請求項17】
最終焼鈍が不活性ガス雰囲気中で行われる請求項1ないし請求項16の何れか1項に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
【請求項18】
最終焼鈍が450℃以上600℃以下の温度で行われる請求項1ないし請求項17の何れか1項に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
【請求項19】
請求項1ないし請求項18の何れか1項に記載の製造方法によって製造された電解コンデンサ電極用アルミニウム材。
【請求項20】
中圧用陽極材または高圧用陽極材として用いられる請求項19に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材。
【請求項21】
請求項1ないし請求項18の何れか1項に記載の製造方法によって製造されたアルミニウム材に、エッチングを実施することを特徴とする電解コンデンサ用電極材の製造方法。
【請求項22】
エッチングの少なくとも一部が直流電解エッチングである請求項21に記載の電解コンデンサ用電極材の製造方法。
【請求項23】
エッチング後、化成処理を実施する請求項22に記載の電解コンデンサ用電極材の製造方法。
【請求項24】
請求項22または請求項23に記載の製造方法によって製造されたアルミニウム電解コンデンサ用陽極材。
【請求項25】
電極材として請求項21ないし請求項23の何れか1項に記載の製造方法によって製造されたアルミニウム電極材が用いられていることを特徴とするアルミニウム電解コンデンサ。

【公開番号】特開2007−16281(P2007−16281A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−199226(P2005−199226)
【出願日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】