説明

静圧案内装置およびそれを備えた工作機械

【課題】高精度で円滑に移動することを向上させた静圧案内装置を提供することにある。
【解決手段】直線状に延在するガイドレール12a,12bを備えるベッド11と、ベッド11のガイドレール12a,12bに沿って移動可能なコラムベッド13とを具備し、ベッド11のガイドレール12a,12bと対向するコラムベッド13の摺動部13c,13dに当該コラムベッド13の移動方向に沿って複数の静圧ポケット25〜28,31〜36を設け、複数の静圧ポケット25〜28,31〜36の内のコラムベッド13の移動方向にて両端部以外の静圧ポケット31〜36を両端部の静圧ポケット25〜28よりも小さくした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静圧案内装置およびそれを備えた工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械などの産業機械では、所定軸の直線運動をする機械部品をその移動方向に案内する装置として直動案内装置が一般的に使用され、その一種として静圧案内装置がある。
【0003】
静圧案内装置として、例えば特許文献1には、ベッドのレール部に摺動するテーブルの摺動部に複数の上静圧ポケットを並べて設け、複数の上静圧ポケットの全ての大きさを同一とした静圧案内装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−92879号公報(例えば、明細書の段落[0045]、[図8]など参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1に記載の静圧案内装置では、テーブルを高精度で円滑に移動することができるものの、さらなる向上が求められていた。特に、コラムベースに立設するコラムが大型であり、工作機械が温度調整された環境に設置されていない場合には、コラムベースが摺動するベッドのレール部やコラムベースの摺動部がうねることがあり、ベッドのレール部に対してコラムベースを高精度で円滑に移動することができない可能性があった。
【0006】
従って、本発明は、前述した問題に鑑み提案されたものであって、高精度で円滑に移動することを向上させた静圧案内装置およびそれを備えた工作機械を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決する第1の発明に係る静圧案内装置は、
直線状に延在する摺動部を備える第一部材と、
前記第一部材の摺動部に沿って移動可能な第二部材とを具備し、
前記第一部材の摺動部と対向する前記第二部材の摺動面に当該第二部材の移動方向に沿って複数の静圧ポケットを設け、
前記複数の静圧ポケットの内の前記第二部材の移動方向にて両端部以外の静圧ポケットを両端部の静圧ポケットよりも小さくした
ことを特徴とする。
【0008】
上述した課題を解決する第2の発明に係る工作機械は、
工具を着脱可能に装着する主軸を回転可能に支持するサドルと、前記サドルを移動可能に支持するコラムと、前記コラムをベッドのレール部上を移動可能に支持するコラムベースとを具備し、前記工具と被加工物とを相対移動させて当該被加工物を加工する工作機械であって、
第1の発明に係る静圧案内装置を具備し、
前記第一部材が前記ベッドであり、前記第二部材が前記コラムベースである
ことを特徴とする。
【0009】
上述した課題を解決する第3の発明に係る工作機械は、
第2の発明に係る工作機械であって、
前記両端部以外の静圧ポケットは、前記コラムに対向する箇所に設けられる
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る静圧案内装置によれば、複数の静圧ポケットの内の第二部材の移動方向にて両端部以外の静圧ポケットを両端部の静圧ポケットよりも小さくしたことにより、第二部材の移動方向にて両端部の静圧ポケットに両端部以外の静圧ポケットと比べて作動油が多く供給されることになる。これにより、第一部材の摺動部や第二部材の摺動面がうねる場合であっても、高精度で且つ円滑に移動することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第一番目の実施形態に係る静圧案内装置が適用された横中ぐり盤の概略図である。
【図2】第一番目の実施形態の静圧案内装置を表すコラムベースの断面図である。
【図3】コラムベースの底面を模式的に示した図である。
【図4】第一番目の実施形態の静圧案内装置が適用された横中ぐり盤の要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る静圧案内装置およびそれを備えた工作機械の実施形態について、詳細に説明する。
【0013】
[第一番目の実施形態]
第一番目の実施形態の静圧案内装置およびそれを備えた工作機械について、図1〜図4を参照して説明する。本実施形態では、横中ぐり盤に適用した場合を説明する。
【0014】
図1に示すように、大型の横形中ぐり盤である工作機械1には、床面に固定されるベッド(第一部材)11が設けられ、このベッド11の上面には、X軸方向に延在する左右一対のガイドレール(摺動部)12a,12bが設けられている。ガイドレール12a,12bには、静圧案内装置20を介してコラムベース(第二部材)13がX軸方向に摺動可能に支持されている。コラムベース13にはコラム14が立設されている。よって、図示しないコラム駆動モータやコラム送りねじ機構などを備えるコラム駆動手段を駆動させることにより、コラム14はX軸方向に移動可能になっている。
【0015】
コラム14の前面には、Y軸方向に延在する左右一対のガイドレール15a,15bが設けられている。ガイドレール15a,15bには、サドル16がY軸方向に摺動可能に支持されている。よって、図示しないサドル駆動モータやサドル送りねじ機構などを備えるサドル駆動手段を駆動させることにより、サドル16はY軸方向に移動可能になっている。
【0016】
サドル16には、Z軸方向に貫通するガイド部17が形成されている。ガイド部17内には、ラム18がZ軸方向に摺動可能に支持されている。よって、図示しないラム駆動モータやラム送りねじ機構などを備えるラム駆動手段を駆動させることにより、ラム18はZ軸方向に移動可能になっている。
【0017】
ラム18内には、主軸19が回転可能に、且つ、W軸方向に摺動可能に支持されている。主軸19の先端には、所定の加工を行う工具Tが着脱可能に装着されている。よって、図示しない主軸回転モータなどを備える主軸回転手段を駆動させることにより、主軸19はW軸周りに回転可能となり、さらに、図示しない主軸駆動モータや主軸送りねじ機構などを備える主軸駆動手段を駆動させることにより、主軸19はW軸方向に移動可能となっている。
【0018】
また、ベッド11の側方には、床面に固定されるテーブルベッド51が設けられている。テーブルベッド51の上面には、Z軸方向に延在する前後一対のガイドレール52a,52bが設けられている。ガイドレール52a,52bには、テーブルベース53がZ軸方向に摺動可能に支持されている。テーブルベース53の上部には、回転テーブル54が回転可能に支持されている。回転テーブル54の上面には、ワーク(被加工物)Wが着脱可能に装着されている。よって、図示しないテーブル駆動モータやテーブル送りねじ機構を備えるテーブル駆動手段を駆動させることにより、テーブルベース53はZ軸方向に移動可能になっている。図示しないテーブル回転モータを備えるテーブル回転手段を駆動させることにより、回転テーブル54はY軸周りに回転可能となっている。
【0019】
そして、工作機械1には、当該工作機械全体を制御するためのNC装置60が設けられている。このNC装置60は、上述した各駆動手段および各回転手段などに接続され、工具TおよびワークWの移動方向や移動速度を切り替えると共に、それらの移動量や回転量を調整して、当該工具TおよびワークWの位置決め制御やワークWの割り出し制御を行うようになっている。これにより、工具TとワークWとが相対的に移動されて、ワークWに所定の形状が加工されることになる。
【0020】
このように構成された横中ぐり盤では、ガイドレール12a,12bやコラムベース13の摺動部13c,13dにうねりがある場合であっても、ベッド11に対してコラムベース13を高速で精度良く移動支持する必要があり、このコラムベース13は静圧案内装置20によりベッド11に移動自在に支持されている。
【0021】
図2および図4に示すように、ベッド11は、その上部に左右一対のガイドレール21,22を備えている。左右のガイドレール21,22は、上方(Y軸方向)に延在し、その上部で外側に向かって張り出すようなL字形状をなしている。他方、コラムベース13は、その両側部に下方に向けて延在するガイド部21,22がそれぞれ設けられる。ガイド部21,22の下端部には、ガイドレール21,22を下側から支持するバックプレート23,24がそれぞれ図示しないボルトで固定されている。これにより、後述する中央側静圧ポケット31a〜36aに作動油を供給したときの反力を得ることができる。
【0022】
そして、ガイドレール12a,12bに対向するコラムベース13の摺動部13c,13dには、図2〜図4に示すように、複数のパッド25〜28,31〜36が設けられる。すなわち、ガイドレール12aに対向するコラムベース13の摺動部13cには、コラムベース13の前部13aから後部13bに向かって、前側パッド25、中央側パッド31〜33、後側パッド26が順番に形成されている。ガイドレール12bに対向するコラムベース13の摺動部13dには、コラムベース13の前部13aから後部13bに向かって、前側パッド27、中央側パッド34〜36、後側パッド28が順番に形成されている。そして、中央側パッド31〜36は、コラム14に対向する箇所に設けられる。各パッド25〜28,31〜36には、ポケット25a〜28a,31a〜36aがそれぞれ設けられると共に、ガイドレール12a,12bに接触するランド25b〜28b,31b〜36bがそれぞれ設けられる。
【0023】
前側パッド25,27および後側パッド26,28は、その幅方向(Z軸方向)にて幅W1の大きさに形成されるとともに、その長さ方向(X軸方向)にて長さL1の大きさに形成される。中央側パッド31〜36は、その幅方向(Z軸方向)にて前側及び後側パッド25〜28と同じ幅W1の大きさに形成されるとともに、その長さ方向(X軸方向)にて前側及び後側パッド25〜28よりも短い長さL2の大きさに形成される。すなわち、中央側パッド31〜36に対応する中央側静圧ポケット31a〜36aは、前側及び後側パッド25〜28に対応する前側及び後側静圧ポケット25a〜28aよりも小さく形成される。
【0024】
各ポケット25a〜28a,31a〜36aには、外部から連通する油圧供給孔41,47が形成され、この油圧供給孔41,47には、それぞれ独立した絞り42、油圧供給ライン43、絞り44、供給ポンプ45、タンク46が接続されている。
【0025】
したがって、供給ポンプ45を作動して供給タンク46の作動油を、絞り44、油圧供給ライン43、油圧供給孔41,47、および絞り42を介して前側静圧ポケット25a,27a、中央側静圧ポケット31a〜36a、後側静圧ポケット26a,28aのそれぞれに供給することにより、主軸19、ラム18、サドル16、コラム14を含むコラムベース13の重量と、前側静圧ポケット25a,27aおよび後側静圧ポケット26a,28aに作用する上向きの力とをバランスさせる。これにより、ガイドレール12a,12bとコラムベース13の摺動部13c,13dとの間に作動油が介在し、ガイドレール12a,12bに作用する下向きの力がほとんどなくなるため、コラムベース13がベッド11に対して円滑に移動することができる。さらに、前側及び後側静圧ポケット25a〜28aは中央側静圧ポケット31a〜36aよりも大きく、その分作動油が中央側静圧ポケット31a〜36aと比べて前側及び後側静圧ポケット25a〜28aへ多く供給されることになる。これにより、ベッド11のガイドレール12a,12bやコラムベース13の摺動部13c,13dがうねる場合であっても、コラムベース13がガイドレール12a,12b上を高精度で且つ円滑に移動することができる。
【0026】
また、供給ポンプ45を作動して供給タンク46の作動油を、絞り44、油圧供給ライン43、油圧供給孔41,47、および絞り42を介して前側静圧ポケット25a,27a、中央側静圧ポケット31a〜36a、後側静圧ポケット26a,28aのそれぞれに供給することにより、ラム18のZ軸方向の移動時の慣性力および工具Tによるワーク加工時の力と、中央側静圧ポケット31a〜36aに作用する上向きの力とをバランスさせる。これにより、ワーク加工時のY軸方向の剛性を確保することができる。さらに、中央側静圧ポケット31a〜36aは、上述した通りコラム14に対向する箇所に設けられることにより、中央側静圧ポケット31a〜36aに作動油を供給することにより得られる下向きの力をコラム14に効率良く作用させることができるため、ワーク加工時のY軸方向の剛性を効率良く確保することができる。
【0027】
したがって、本実施形態に係る静圧案内装置20によれば、直線状に延在するガイドレール12a,12bを備えるベッド11と、ベッド11のガイドレール12a,12bに沿って移動可能なコラムベース13とを具備し、ベッド11のガイドレール12a,12bと対向するコラムベース13の摺動部13c,13dに当該コラムベース13の移動方向に沿って複数の静圧ポケット25a〜28a,31a〜36aを設け、複数の静圧ポケット25a〜28a,31a〜36aの内のコラムベース13の移動方向にて両端以外の静圧ポケット31a〜36aを両端部の静圧ポケット25a〜28aよりも小さくしたことにより、コラムベース13の移動方向にて両端部の静圧ポケット25a〜28aに両端部以外の静圧ポケット31a〜36aと比べて作動油が多く供給されることになる。これにより、ベッド11のガイドレール12a,12bやコラムベース13の摺動部13c,13dがうねる場合であっても、高精度で且つ円滑に移動することができる。
【0028】
続いて、上述した、両端にあるパッド25〜28と比べて中央にあるパッド31〜36が小さい静圧案内装置20と、複数のパッドの大きさが全て同じである従来の静圧案内装置とについて、それぞれシミュレーションを行った。このシミュレーションでは、長さ方向(移動方向)に5個のパッドが設けられ、長さ(移動方向の大きさ)を1800mmとし、幅(移動方向に直交する方向の大きさ)を1450mmとしたコラムベースに適用した場合について解析した。
【0029】
まず、従来の静圧案内装置における全てのパッドでは、その長さがそれぞれ350mmとなり、その幅が250mmとなった。隣接するパッド間の大きさが、12.5mmとなった。よって、5個のパッドの長さを合計するとその長さが1750mmとなった。
【0030】
上述した静圧案内装置における両端にあるパッドでは、その長さがそれぞれ450mmとなり、その幅が250mmとなった。両端の箇所以外にあるパッドは、その長さがそれぞれ150mmとなり、その幅が250mmとなった。隣接するパッド間の大きさが、12.5mmとなった。よって、5個のパッドの長さを合計するとその長さが1350mmとなった。
【0031】
したがって、上述した静圧案内装置による複数のパッドの合計の面積が、従来の静圧案内装置の場合と比べて小さくなることを確認した。これにより、パッドを加工する工数を低減できることが分かった。作動油の使用量を減らすことができることが分かった。作動油を供給するためのポンプを小型化することができることが分かった。
【0032】
[他の実施形態]
なお、上記では、横中ぐり盤におけるコラムベース13に適用した場合について説明したが、サドルやテーブルベースなど、支持体のガイドレールに沿って移動可能に設けられた移動体に適用することも可能である。
【0033】
上記では、長方形状のパッド25〜28,31〜36を具備する静圧案内装置20を用いて説明したが、長方形状に限らず円形や楕円形などパッドの形状を変更することも可能である。
【0034】
上記では、コラムベース13の移動方向に6個のパッドを設けた静圧案内装置20を用いて説明したが、パッドの数量は6個に限らず、6個よりも少なくすることも6個よりも多くすることも可能である。
【0035】
上記では、コラムベース13の移動方向に3個の中央側パッドを設け、これら3個の中央側パッドの大きさを全て同じにした静圧案内装置20を用いて説明したが、これらの中央側パッドの大きさを異ならせることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明に係る静圧案内装置およびそれを備えた工作機械によれば、高精度で円滑に移動できるため、工作機械産業などで有益に利用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 工作機械
11 ベッド
12a,12b ガイドレール
13 コラムベース
14 コラム
15a,15b ガイドレール
16 サドル
17 ガイド部
18 ラム
19 主軸
20 静圧案内装置
21,22 ガイド部
23,24 バックプレート
25,27 前側パッド
25a,27a 静圧ポケット
25b,27b ランド
26,28 後側パッド
26a,28a 静圧ポケット
26b,28b ランド
31〜36 中央側パッド
31a〜36a 静圧ポケット
31b〜36b ランド
41 油圧供給孔
42 絞り
47 油圧供給孔
43 油圧供給ライン
44 絞り
45 供給ポンプ
46 タンク
51 テーブルベッド
52a,52b ガイドレール
53 テーブルベース
54 回転テーブル
T 工具
W ワーク(被加工物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線状に延在する摺動面を備える第一部材と、
前記第一部材の摺動面に沿って移動可能な第二部材とを具備し、
前記第一部材の摺動面と対向する前記第二部材の摺動部に当該第二部材の移動方向に沿って複数の静圧ポケットを設け、
前記複数の静圧ポケットの内の前記第二部材の移動方向にて両端部以外の静圧ポケットを両端部の静圧ポケットよりも小さくした
ことを特徴とする静圧案内装置。
【請求項2】
工具を着脱可能に装着する主軸を回転可能に支持するサドルと、前記サドルを移動可能に支持するコラムと、前記コラムをベッドのレール部上を移動可能に支持するコラムベースとを具備し、前記工具と被加工物とを相対移動させて当該被加工物を加工する工作機械であって、
請求項1に記載の静圧案内装置を具備し、
前記支持体が前記ベッドであり、前記移動体が前記コラムベースである
ことを特徴とする工作機械。
【請求項3】
請求項2に記載の工作機械であって、
前記両端部以外の静圧ポケットは、前記コラムに対向する箇所に設けられる
ことを特徴とする工作機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−158018(P2011−158018A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−19431(P2010−19431)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】