説明

静電チャック

【課題】 耐プラズマ性と被吸着物の冷却性能に優れた静電チャックを提供する。
【解決手段】 静電チャック20の基本的な構成は、金属プレート21の表面に溶射によって絶縁体膜22が形成され、この絶縁体膜22の上に絶縁性接着剤層23を介して誘電体基板24が接合され、この誘電体基板24の表面は半導体ウェーハ等の被吸着物Wの載置面とされ、下面には電極25,25が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板やガラス基板などを吸着する静電チャックに関する。
【背景技術】
【0002】
エッチング、CVD、スパッタリング、イオン注入、アッシングなどを行うプラズマ処理チャンバー内で、半導体基板やガラス基板を吸着保持する手段として、特許文献1〜4に開示される静電チャックが用いられている。
【0003】
上記特許文献1〜2に開示される従来の静電チャックの構造は、図7に示すように、金属プレート100上にシリコーン樹脂等の有機接着剤101を介して電極102を内部に保持した誘電体層103を接着一体化している。そして、誘電体層103内に電極102を埋設する方法としては、焼成することで誘電体層となるセラミックグリーンシートの表面に電極(タングステン)をプリントし、更にこの上に別のセラミックグリーンシートを重ねて焼成(ホットプレス)する方法が採用されている。
【0004】
【特許文献1】実開平4−133443号公報
【特許文献2】特開平10−223742号公報
【特許文献3】特開2003−152065号公報
【特許文献4】特開2001−338970号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プラズマ処理を行った後のチャンバー内面には、半導体ウェーハや塗膜からの残渣および生成物が付着している。そしてプラズマ処理を繰り返してゆくと、残渣および生成物が次第に堆積し、やがてチャンバー内面から剥離して半導体基板やガラス基板表面に付着して歩留り低下を招く。
【0006】
そこで、従来から定期的にチャンバー内をプラズマによってクリーニングし、チャンバー内面に付着した残渣および生成物を除去するようにしている。このとき、従来にあっては静電チャックの表面がプラズマに晒されるのを防止するために、ダミーウェーハで静電チャックの表面を覆った状態でクリーニングを行っているが、最近ではタクトタイムを短縮して生産効率を向上させるため、ダミーウェーハで静電チャックの表面を覆うことを行わずに、クリーニングの際には静電チャックの表面を直接OガスやCFガスなどのクリーニングプラズマに曝す、いわゆるウェーハレスプラズマクリーニングが業界の動向である。
【0007】
ところで、通常広く使用されているセラミック原料粉末を用いて製作された静電チャックの焼成後の平均粒子径は5〜50μmであるが、この静電チャックに前記ウェーハレスプラズマクリーニングを実施した場合、セラミックの表面の粒子の脱離および粒界の浸食により、平均粗さ(Ra)が大きくなり、静電吸着力の低下およびウェーハとの固体接触界面の熱伝達率の低下が起きるなどの不具合が発生し、早期に静電チャックを交換しなければならなくなる。
【0008】
これらを解決する手段として特許文献3に開示されるように、セラミックの平均粒子径を2μm以下に抑えた静電チャックが挙げられているが、従来構造の静電チャックのように誘電体内部に電極を入れ込むために、二枚の誘電体基板を焼成、成型した後に、電極材料を挟み込んでホットプレス等の加熱加圧処理により一体化するなど、技術的に高度で複雑な工程を必要としている。このため、信頼性の低下や工期の長期化、などの課題がある。
【0009】
しかしながら、上記の平均粒子径を2μm以下に抑えたセラミック誘電体基板は、焼成時の脱バインダー性などの都合上、誘電体内部に電極を入れ込んだ状態でグリーンシートを積層し一体焼成して得られるものではない。つまり、プラズマ耐久性のある、従来構造の静電チャックを製作しようとする場合、焼成した誘電層基板の内部に電極を入れ込む技術が必要となる。
【0010】
これを解決する手段として特許文献4に開示されるように、誘電層基板の表面に電極を形成し、その上にポリイミドなどの絶縁性の樹脂を貼り付けたものを、金属ベースプレートに接合する方法が開示されているが、この構造の場合は絶縁樹脂の熱伝導率の低さによるウェーハ温度の上昇や絶縁の信頼性に課題がある。
【0011】
本発明の目的は、製造プロセスが簡便で、ウェーハレスプラズマクリーニングの耐久性が高く、ウェーハ冷却能力が高く、電極と金属プレート間の電気絶縁の信頼性が高い等、上記課題を同時に解決する事ができる静電チャックを提供する事である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため本発明に係る静電チャックは、表面に溶射によって絶縁体膜が形成された金属プレートと、表面に電極が形成された誘電体基板とが、前記絶縁体膜と前記電極が対向するように絶縁性接着剤を介在して接合された構成とした。
【0013】
上記のように、誘電体基板の表面に電極が設けられた場合でも、溶射による絶縁体膜を金属プレート表面に形成することにより、簡単な構造で且つ信頼性の高いウェーハレスプラズマクリーニングに対応できる静電チャックを提供することができる。
【0014】
前記誘電体基板を構成する粒子としては平均粒子径が2μm以下のものが耐プラズマ性を向上させる上で好ましい。平均粒子径を2μm以下とする事で、ウェーハレスクリーニングを繰返し行っても、誘電体基板の吸着面粗さの変化が小さい静電チャックを提供することができる。
【0015】
前記誘電体基板、絶縁性接着剤及び絶縁膜のトータルの厚みは、0.5mm以上、2.0mm以下である事が好ましい。上記のような厚みにする事で、被吸着物と電極間の電気絶縁性および電極と金属プレート間の電気絶縁性が確保でき、また、被吸着物から金属プレートへの伝熱効率が良好な静電チャックを提供する事ができる。更に好適な例として、誘電被吸着物と金属プレートの間のインピーダンスを抑えるため、誘電体基板、絶縁性接着剤及び絶縁膜のトータルの厚みは、1.5mm以下にすることが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る静電チャックは、製造プロセスが簡便で、表面が吸着面となる誘電体基板を構成する粒子径が小さいため、耐プラズマ性に優れ、ダミーウェーハを用いることなくウェーハレスプラズマクリーニングを行うことができる為、タクトタイムを大幅に減少させることができ、伝熱効率が良好である為、ウェーハ冷却能力が高める事ができ、電極と金属プレート間の電気絶縁の信頼性を高める事ができる。
【0017】
具体的には、図4(a)はプラズマ照射前の本発明に係る静電チャックの誘電体基板表面を示す顕微鏡写真、(b)はプラズマ照射前の従来の静電チャックの誘電体層表面を示す顕微鏡写真であり、図5(a)はプラズマ照射後の本発明に係る静電チャックの誘電体基板表面を示す顕微鏡写真、(b)はプラズマ照射後の従来の静電チャックの誘電体層表面を示す顕微鏡写真である。
【0018】
また、図6は本発明に係る静電チャックの誘電体基板表面と従来の静電チャックの誘電体層表面にプラズマを照射したときの表面粗さの変化を示している。
【0019】
これらの写真と図からも明らかなように、本発明に係る静電チャックの誘電体基板表面は、プラズマ照射の前後において表面粗さ(Ra)の変化が極めて小さいことが分かる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に本発明の実施例を添付図面に基づいて説明する。図1は本発明に係る静電チャックを組み込んだプラズマ処理装置の全体図、図2は同静電チャックの断面図、図3は同静電チャックの組立て手順を説明した図である。
【0021】
プラズマ処理装置はチャンバー1内にプラズマ発生用の上部電極10と静電チャック20が配置される。またチャンバー1の天井にはCFやO等の反応ガス導入口2と、減圧装置に繋がる排気口3とで形成されている。
【0022】
静電チャック20の基本的な構成は、金属プレート21の表面に溶射によって絶縁体膜22が形成され、この絶縁体膜22の上に絶縁性接着剤層23を介して誘電体基板24が接合され、この誘電体基板24の表面は半導体ウェーハ等の被吸着物Wの載置面とされ、下面には電極25,25が形成されている。そして、これら電極25,25に給電するためのリード線26,26が金属プレート21を貫通して下方まで延びている。尚、リード線26と金属プレート21とは絶縁されている。
【0023】
前記金属プレート21はアルミニウム合金や銅等の熱伝導性に優れた金属からなり、内部には冷媒通路21aが形成され、また金属プレート21の上面に溶射によって形成される絶縁体膜22としては、無機材料、例えばアルミナ(Al)等が好ましい。
【0024】
また、誘電体基板24の製作方法としては例えば、平均粒子径0.1μm、純度99.99%以上のアルミナ原料粉末を主成分とし、これに0.2wt%より大きく、0.6wt%以下の酸化チタン(TiO)を混合粉砕し、アクリル系バインダーを添加、調整後スプレードライヤーで造粒し、顆粒粉を作製する。その後、CIP(ラバープレス)またはメカプレス成形後、所定の形状に加工し、1150〜1350℃の還元雰囲気下で焼成する。さらにHIP処理(熱間等方圧加圧)をおこなう。HIP条件はArガス1000気圧以上とし、温度は焼成温度と同じ1150〜1350℃とする。このような条件のもとで、極めて緻密で且つ構成粒子の平均粒子径が2μm以下、20±3℃において体積抵抗率が10〜1011Ωcm、相対密度が99%以上の誘電体基板24が得られる。
【0025】
尚、ここで示す平均粒子径とは、以下のプラニメトリック法で求められた粒子径である。まず、S E Mで誘電体基板の写真を撮り、この写真上で面積( A )の既知の円を描き、円内の粒子数nc と円周にかかった粒子数ni から( 1 )式によって単位面積あたりの粒子数N G を求める。
N G = ( nc + 1 / 2 ni ) / ( A / m2 ) … ( 1 )
ここで示すmは写真の倍率である。1 / N G が1個の粒子の占める面積であるから、粒子径は円相当径は2 /√ (π N G )、 で得られる。
【0026】
また、前記電極25は誘電体基板24の表面を研削加工した後にCVDやPVDによってTiCやTiなどの導電膜を形成し、この導電膜をサンドブラストやエッチングすることで、所定の電極パターンを得る。
【0027】
上記した極めて緻密な誘電体基板を用いれば、耐プラズマ性が向上し、ダミーウェーハを用いなくても静電チャック表面の粗さの変化が極めて小さく抑えられる。
【0028】
また、上記の静電チャック20を組み立てるには、図3に示すように、予め絶縁体膜22が形成された金属プレート21と、電極25が形成された誘電体基板24を用意し、金属プレート21の絶縁体膜22と誘電体基板24の電極25が対向するようにして絶縁性接着剤23を介して両者を接合する。
【0029】
絶縁性接着剤23としては例えばアルミナやチッ化アルミをフィラーとし、熱伝導率が1W/mk以上、好ましくは1.6W/mK以上のシリコーン樹脂等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る静電チャックを組み込んだプラズマ処理装置の全体図
【図2】同静電チャックの断面図
【図3】同静電チャックの組立て手順を説明した図
【図4】(a)はプラズマ照射前の本発明に係る静電チャックの誘電体基板表面を示す顕微鏡写真、(b)はプラズマ照射前の従来の静電チャックの誘電体層表面を示す顕微鏡写真
【図5】(a)はプラズマ照射後の本発明に係る静電チャックの誘電体基板表面を示す顕微鏡写真、(b)はプラズマ照射後の従来の静電チャックの誘電体層表面を示す顕微鏡写真
【図6】本発明に係る静電チャックの誘電体基板および従来の静電チャックの誘電体層表面にプラズマを照射したときの表面粗さの変化
【図7】従来の静電チャックの断面図
【符号の説明】
【0031】
1…チャンバー、2…反応ガス導入口、3…排気口、10…上部電極、20…静電チャック、21…金属プレート、21a…冷媒通路、22…絶縁体膜、23…絶縁性接着剤層、24…誘電体基板、25…電極、26…リード線、100…金属プレート、101…有機接着剤、102…電極、103…誘電体層、W…被吸着物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に溶射によって絶縁体膜が形成された金属プレートと、表面に電極が形成された誘電体基板とが、前記絶縁体膜と前記電極が対向するように絶縁性接着剤を介在して接合されていることを特徴とする静電チャック。
【請求項2】
請求項1に記載の静電チャックにおいて、前記誘電体基板を構成する粒子の平均粒子径は2μm以下であることを特徴とする静電チャック。
【請求項3】
請求項1に記載の静電チャックにおいて、前記誘電体基板と絶縁性接着剤と絶縁体膜とのトータルの厚みは0.5mm以上2.0mm以下であることを特徴とする静電チャック。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に溶射によって無機材料からなる絶縁体膜が形成された金属プレートと、表面に電極が形成されたセラミックス誘電体基板とが、前記無機材料からなる絶縁体膜と前記電極が対向するように絶縁性接着剤を介在して接合されていることを特徴とする静電チャック。
【請求項2】
請求項1に記載の静電チャックにおいて、前記誘電体基板を構成する粒子の平均粒子径は2μm以下であることを特徴とする静電チャック。
【請求項3】
請求項1に記載の静電チャックにおいて、前記誘電体基板と絶縁体膜とのトータルの厚みは0.5mm以上2.0mm以下であることを特徴とする静電チャック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−332204(P2006−332204A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−151483(P2005−151483)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【出願人】(000010087)東陶機器株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】