説明

静電塗装ガン及び静電塗装方法

【課題】コロナ放電式静電塗装ガンや摩擦帯電式静電塗装ガンにおいて、塗料への帯電量をコントロールすることにより、凸部への塗料の集中を低減し、また、凹部内への付き回りを良好にするとともに、オペレーターの手元が汚れるという問題を解決する。
【解決手段】コロナ放電式静電塗装ガン1や摩擦帯電式静電塗装ガンの塗料噴射口の近傍に、直流電源に接続される電極8を設置することにより、塗料への帯電量をコントロールして、塗着効率を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、帯電させた塗料を静電気力により被塗装物に塗着させる静電塗装ガン及び静電塗装方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のボディー及びその周辺部品、例えばワイパー、アルミホイール、バンパーなど、多くの製品には塗装がなされている。近年、急速に伸びた、液晶テレビの枠や、携帯電話等にも塗装は欠かせない。
【0003】
一般に塗装ガンの種類には、溶剤を吹き付けるスプレーガンと、オーバースプレー粉をできるだけ少なくするために、静電気を利用して、塗装を行う静電塗装ガンとがあり、特に、生産ラインでは、静電塗装ガンを使用している。
【0004】
一般的に、静電塗装ガンには、コロナ放電により塗料を帯電させるコロナ放電式静電塗装ガンと、摩擦帯電により塗料を帯電させる摩擦帯電式静電塗装ガンとがある。
【0005】
コロナ放電式静電塗装ガンは、被塗装物に対して塗料を噴出する先端部にコロナ電極を設置し、コロナ放電により被塗装物との間にイオン化領域を形成し、塗料粒子を帯電させるものである。
【0006】
コロナ放電式静電塗装ガンには、溶剤塗料、水性塗料などの液体塗料をスプレー噴霧するガンと、塗料樹脂を粉末に粉砕した粉体塗料をスプレー噴霧するガンとがある。例えば、自動車のボディーは、溶剤や、近年では水性塗料による静電塗装ガンが多く用いられ、ワイパー、オイルフィルターには粉体塗料による静電塗装ガンが用いられている。
【0007】
また、近年は、品質向上や、平滑性の観点から、下塗りに電着塗装を行い、その上に、静電塗装により、上塗り塗装を行ったり、亜鉛メッキの上への静電塗装や、樹脂への静電塗装を行ったりすることも多くなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−349306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、コロナ放電式静電塗装ガンには、高電圧発生回路を有する高電圧発生装置が内蔵されており、高電圧がコロナ電極に供給されている。
【0010】
したがって、塗料粒子の帯電効率を高め、被塗装物に対する塗着効率を向上させるには、大型の高電圧発生装置を内蔵させればよいが、そうするとガン自体が大型化し、重量も重くなるという問題が生じる。
【0011】
このため、高電圧発生装置を大型化させることなく、塗着効率を向上させることが望まれている。
【0012】
塗着効率の向上は、摩擦帯電式静電塗装ガンにおいても同様に望まれている。
【0013】
また、塗料噴射口の先端のコロナ電極に高電圧をかけた場合、コロナ電極から放電されたイオンのほとんどが、フリーイオンとなって被塗装物に到達し、そのフリーイオンが静電反発を起こして、被塗装物にいわゆるスケが発生するという問題がある。
【0014】
また、コロナ放電式静電塗装ガンによる電気力線は、被塗装物の凸部に集中し易く、凹部内には到達しにくい。
【0015】
したがって、被塗装物の凸部に塗料が集まって、凸部部分の膜圧が厚くなり、均一な膜厚の塗装が行えないという問題があり、反対に、凹部、例えば、隙間への付き回りが犠牲になるという問題もあった。
【0016】
また、下塗り塗装を行ったり、リコート塗装を行ったりする場合、被塗装物と接地線との間に、抵抗ができたりして、静電反発やスケが発生するという問題もあった。
【0017】
一方、摩擦帯電式静電塗装ガンの場合、塗料への帯電がコロナ放電式静電塗装ガンによる帯電よりもかなり大きく、凹部内へも塗料が到達させることができるが、手吹きにより塗装作業を行う場合には、オペレーターの手元側にも塗料が回り込み、オペレーターの手元を汚すという問題があった。
【0018】
そこで、この発明は、コロナ放電式静電塗装ガンや摩擦帯電式静電塗装ガンにおいて、塗料への帯電量をコントロールすることにより、凸部への塗料の集中を低減し、また、凹部内への付き回りを良好にするとともに、オペレーターの手元を汚すという問題を解決しようとするものである。
【0019】
また、帯電した塗料が付着しにくい被塗装物に対しても、良好に静電気力により塗着することができる方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この発明は、上記の課題を解決するために、次の手段を採用したものである。
まず、高電圧発生器に接続され、塗料の噴射口に設置されたコロナ電極によって発生する電界により塗料を帯電させ、帯電させた塗料を被塗装物に噴射して静電気力により塗着させるコロナ放電式静電塗装ガンにおいて、上記コロナ電極の近傍に、直流電源に接続される電極を設けたことを特徴とする。
【0021】
使用する塗料としては、溶剤又は水溶性の溶液塗料、あるいは粉体塗料のいずれでもよい。
【0022】
また、摩擦帯電チューブを備え、摩擦帯電チューブ内で粉体塗料を摩擦帯電させ、帯電させた粉体塗料を被塗装物に噴射して静電気力により塗着させる摩擦帯電式静電塗装ガンにおいて、噴射口の近傍に、直流電源に接続される電極を設けたことを特徴とする。
【0023】
上記コロナ放電式静電塗装ガンの場合、直流電源に接続される電極に与える極性は、コロナ電極の極性と逆極性、又は同極性にすることにより、フリーイオンの流れを調節できるので、コロナ電極のイオン風を活性化したり、静電反発を生じさせるフリーイオンの量を減少させたりすることが可能となる。これにより、塗着効率を向上させることができるとともに、凹部内の塗料の付き回りを改善し、スケの発生を防止することができる。
【0024】
また、摩擦帯電式静電塗装ガンの場合も、直流電源に接続される電極に与える極性を、摩擦帯電した粉体塗料の極性と逆極性にしたり、反対に、同極性にしたりすることにより、粉体塗料の帯電量を安定化させたり、帯電した粉体塗料がオペレーターの手元側への逆流を軽減し、オペレーターの手元の汚れを防止したりすることが可能となる。
【0025】
上記直流電源に接続される電極は、コロナ放電式静電塗装ガンの場合も、摩擦帯電式静電塗装ガンの場合も、塗料の噴射口の周辺に環状に複数設置することが望ましい。
【0026】
また、上記直流電源の電極に与える極性は、塗装状況に応じて正又は負に切り替えたり、接地したりすることもできる。
【0027】
また、帯電した塗料が静電気力で塗着し難いような場合には、被塗装物に、帯電した塗料の極性と反対の極性の直流電圧を与えることにより、静電塗装が可能になる。
上記被塗装物に与える直流電圧は、低電圧でよい。
【発明の効果】
【0028】
以上のように、この発明によれば、塗料の噴射口の近傍に、直流電源に接続される電極を設置することにより、塗料への帯電量をコントロールして、塗着効率を向上させることができ、また、凸部への塗料の集中を低減し、凹部内への付き回りを良好にすることができる。
【0029】
また、摩擦帯電式静電塗装ガンの場合は、帯電量を安定化させることができるとともに、オペレーターの手元側への塗料の逆流を軽減することが可能になる。
【0030】
また、帯電した塗料が付着しにくい被塗装物に対して、帯電した塗料の極性と反対の極性の直流電圧を与えることにより、静電気力により塗着することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】この発明に係るコロナ放電式静電塗装ガンの一例を示す概略側面図である。
【図2】この発明において使用する直流電源の一例を示す回路図である。
【図3】この発明に係るコロナ放電式静電塗装ガンの他の例を示す概略側面図である。
【図4】(a)は直流電源に接続される電極を正面側からみた図3のコロナ放電式静電塗装ガンの概略正面図、(b)は直流電源に接続される電極の他の例を正面側から見た概略正面図である。
【図5】この発明に係るコロナ放電式静電塗装ガンの他の例を示す概略側面図である。
【図6】この発明に係るコロナ放電式静電塗装ガンの他の例を示す概略側面図である。
【図7】この発明に係る摩擦帯電式静電塗装ガンの一例を示す概略側面図である。
【図8】この発明に係る摩擦帯電式静電塗装ガンの他の例を示す概略側面図である。
【図9】図7の摩擦帯電式静電塗装ガンと図8の摩擦帯電式静電塗装ガンとの摩擦電流値を比較したグラフである。
【図10】(a)は塗着実験の塗着面の概略図、(b)は粉体塗料を用いたコロナ式静電塗装ガンの塗着実験の様子を示す概略図である。
【図11】ブレーキパッドの斜視図である。
【図12】ブレーキパッドの静電塗装方法の一例を示す概略側面図である。
【図13】ブレーキパッドの静電塗装方法の他の例を示す概略側面図である。
【図14】ブレーキパッドの静電塗装方法の他の例を示す概略平面図である。
【図15】柱上変圧器の静電塗装方法の一例を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、この発明の実施形態について説明する。
図1は、粉体塗料4を用いたコロナ放電式静電塗装ガン1の概略図を示している。
【0033】
コロナ放電式静電塗装ガン1は、ガン内部に高電圧発生器2を内蔵しており、トリガ3を引くと、ガン先に粉体塗料4と圧縮空気5が供給され、ガン先の噴射口から粉体塗料4が噴射される。また、トリガ3を引くことにより、高電圧発生器2の高電圧発生回路に高周波電圧が供給され、高電圧整流回路により発生した数万ボルトの直流高電圧が、ガン先の先端のコロナ電極6に供給され、被塗装物Aとの間に電界が発生してコロナ放電場が形成され、ガン先の噴射口から噴射された粉体塗料4に電荷が誘起される。帯電した粉体塗料4が、噴射空気によって被塗装物Aに近づくと、接地された被塗装物Aの表面に、粉体塗料4の電荷とは反対極性の電気が誘起され、粉体塗料4と被塗装物Aとの間に静電気力が働き、この静電気による吸引力と噴射空気の吹き付け力の双方の力によって、粉体塗料4が被塗装物Aの表面に塗着される。
【0034】
図1のコロナ放電式静電塗装ガン1には、高電圧発生器2に接続されるコロナ電極6の近傍に、直流電源7に接続される電極8を設けている。
【0035】
直流電源7は、図2に示すように、例えば、24Vの電池27からの出力電力をレギュレータ10によって所定の電圧の直流を、切替スイッチ11に出力するものである。切替スイッチ11は、制御信号に基づき電極8に対して正電圧又は負電圧を与えるようになっている。ここでいう負電圧とは、0ボルト以下の電圧をいう。また、切替スイッチ11によって、電極8を接地することもできる。
電極8に、高電圧発生器2に接続されるコロナ電極6と同極性の直流電圧をかけると、コロナ電極6からのイオン風が活性化され、粉体塗料4の帯電効率が向上する。
【0036】
反対に、電極8に、高電圧発生器2に接続されるコロナ電極6と反対極性の直流電圧をかけることにより、コロナ電極6からのイオン風が弱められるので、被塗装物Aの静電反発を弱めることができる。また、角部があるような被塗装物Aでも、角部に電気力線が集中するのを防止できるので、凹部への塗装も可能になる。
【0037】
上記コロナ電極6と電極8との距離は、近すぎると、塗装時間の経過と共に、電極8に塗料が付着して、電極8の先端が絶縁されて、電極8の設置効果がなくなるので、塗着効率や、電極8の先端の汚れなどを考慮して、適当な距離を選択する。このため、電極8は、コロナ電極6に対して前後に移動可能にしておくことが望ましい。
【0038】
また、電極8は、図1に示すように、針状電極を1本でもよいが、図3に示すコロナ放電式静電塗装ガン1のように、針状電極を環状に設けてもよいし、針状電極ではなく、リング形状のものを使用してもよい。
【0039】
電極8を環状に設ける場合には、図4(a)に示すように、複数の電極8が被塗装物A側に向くようにしてもよいし、図4(b)に示すように、放射方向に向くようにしてもよい。
【0040】
次に、図5は、溶剤又は水溶性の液体塗料9を用いたコロナ放電式静電塗装ガン1の概略図を示している。
【0041】
図5に示すコロナ放電式静電塗装ガン1は、ガン内部に高電圧発生器2を内蔵しており、トリガ3を引くと、ガン先に液体塗料9と圧縮空気5が供給され、液体塗料9がスプレー噴射される。また、トリガ3を引くことにより、高電圧発生器2の高電圧発生回路に高周波電圧が供給され、高電圧整流回路により発生した数万ボルトの直流高電圧が、ガン先の先端のコロナ電極6に供給され、被塗装物Aとの間に電界が発生してコロナ放電場が形成され、ガン先の噴射口からスプレー噴射された液体塗料9の粒子に電荷が誘起される。帯電した液体塗料9の粒子が、噴射空気によって被塗装物Aに近づくと、接地された被塗装物Aの表面に、液体塗料9の粒子の電荷とは反対極性の電気が誘起され、液体塗料9の粒子と被塗装物Aとの間に静電気力が働き、この静電気による吸引力と噴射空気の吹き付け力の双方の力によって、液体塗料9の粒子が被塗装物Aの表面に塗着される。
【0042】
図5に示すコロナ放電式静電塗装ガン1にも、図1に示すコロナ放電式静電塗装ガン1と同様に、高電圧発生器2に接続されるコロナ電極6の近傍に、直流電源7に接続される電極8を設けている。
直流電源7の構成は、前記図2と同様である。
【0043】
電極8に、高電圧発生器2に接続されるコロナ電極6と同極性の直流電圧をかけると、コロナ電極6のイオン風が活性化され、帯電効率が向上する。
【0044】
反対に、電極8に、高電圧発生器2に接続されるコロナ電極6と反対極性の直流電圧をかけることにより、コロナ電極6のイオン風が弱められるので、被塗装物Aに生じる静電反発を弱めることができる。また、角部があるような被塗装物Aでも、角部に電気力線が集中するのを防止できるので、凹部への塗装も可能になる。
【0045】
上記コロナ電極6と電極8との距離は、近すぎると、塗装時間の経過と共に、電極8に塗料が付着して、電極8の先端が絶縁されて、電極8の設置効果がなくなるので、塗着効率や、電極8の先端の汚れなどを考慮して、適当な距離を選択する。このため、電極8は、コロナ電極6に対して前後に移動可能にしておくことが望ましい。
【0046】
また、電極8は、図5に示すように、針状電極を1本でもよいが、図6に示すように、環状に設けるようにしてもよいし、針状電極ではなく、リング形状のものを使用してもよい。
【0047】
次に、図7は、この発明に係る摩擦帯電式静電塗装ガン12の概略図を示している。
摩擦帯電式静電塗装ガン12は、非導電性樹脂の摩擦チューブ13が設置され、トリガ3を引くと、摩擦チューブ13内に粉体塗料4と圧縮空気5が供給され、摩擦チューブ13と粉体塗料4との間で摩擦が生じ、この摩擦によって粉体塗料4が帯電し、帯電した粉体塗料4が被塗装物Aに向かって噴射される。帯電した粉体塗料4が、噴射空気によって被塗装物Aに近づくと、接地された被塗装物Aの表面に、粉体塗料4の電荷とは反対極性の電気が誘起され、粉体塗料4と被塗装物Aとの間に静電気力が働き、この静電気による吸引力と噴射空気の吹き付け力の双方の力によって、粉体塗料4が被塗装物Aの表面に塗着される。
【0048】
粉体塗料4は、摩擦チューブ13と接触(摩擦)することにより、帯電する。粉体塗料4が帯電(例えば、プラス(+))した場合、摩擦チューブ13にはマイナス(−)が帯電する。したがって、摩擦チューブ13のマイナス(−)電荷を速やかに、逃がさなければ、次々搬送されてくる粉体塗料4が帯電しない。このため、摩擦帯電式静電塗装ガン12では、図7に示すように、一般に摩擦チューブ13を接地(アース)してその電荷を逃がすようにしている。
【0049】
摩擦帯電式静電塗装ガン12では、摩擦チューブ13と粉体塗料4との接触(摩擦)の方法や、接触スピードは重要であることは当然である。しかし、摩擦チューブ13に帯電した、電荷(粉体塗料粒子と反対の電荷)をいかに速く逃がすかも重要である。一般に、摩擦チューブ13には、4弗化エチレン(ポリテトラフルオロエチレン)が用いられている。理由は、4弗化エチレンは、一般の樹脂と摩擦すると、すぐにマイナス(−)を示し、樹脂を(+)に帯電する。また、すべり性が良いために、粉体塗料4がこびりつきにくい。
【0050】
摩擦チューブ13の帯電した電荷をいち早く逃がすために、図8に示す摩擦帯電式静電塗装ガン12では、摩擦チューブ13を接地(アース)する代わりに、直流電源7からプラス12Vの直流電圧を与えている。
【0051】
摩擦チューブ13を接地した図7に示す摩擦帯電式静電塗装ガン12と、摩擦チューブ13にプラス12Vの直流電圧を与えた図8に示す摩擦帯電式静電塗装ガン12との摩擦電流値を測定したところ、図9のグラフに示すように、摩擦チューブ13にプラスの12V直流電圧を与えた図8に示す摩擦帯電式静電塗装ガン12の方が、摩擦チューブ13を接地した図7に示す摩擦帯電式静電塗装ガン12よりも、電流値が安定し、粉体塗料4の電荷量がほぼ一定になるということが確認できた。
【0052】
ところで、摩擦帯電式静電塗装ガン12は、コロナ放電式静電塗装ガン1のようにコロナ電極6がないので、被塗装物Aとの間で電場の形成はない。つまり、粉体塗料4の摩擦帯電のみで塗装を行っている。一般に、コロナ放電式静電塗装ガン1は、コロナ電極6から発生した電場の数%が粉体塗料4への帯電に寄与するが、そのほとんど(99%近く)がフリーイオンとして、被塗装物Aへの電界形成となる。フリーイオンは被塗装物Aの凸部に集中しやすく、反面、凹部内には到達しにくい。このため、コロナ放電式静電塗装ガン1の場合、吐出した粉体塗料4は、凸部に多く集まり、厚膜となり、凹部、例えば隙間への付き回りが犠牲になる。
【0053】
一方、摩擦帯電式静電塗装ガン12の場合は、コロナ電極6がないので、帯電した粉体塗料4は凹部にも入り込み易い。また、粉体塗料4への帯電は、コロナに比し、非常に大きいために、例えば、手吹きの場合、オペレーターの手元に粉体塗料4が付着しやすい。
【0054】
このオペレーターの手元側への逆流を防止するために、図7及び図8の摩擦帯電式静電塗装ガン12には、粉体塗料4の噴射口の近傍の後部に、少なくとも一つ以上の電極8を設置し、この電極8に、摩擦帯電した粉体塗料Aの極性と同じ、プラス(+)の直流電圧を与えている。摩擦帯電により、粉体塗料Aには、マイナス(−)の電荷が帯電しているため、例えば、プラス(+)12Vのバッテリーから直流電圧を、電極8に与えると、ガン後部への粉体塗料Aの吹き返しは少なくなり、連続塗装でのオペレーターの手元の汚れが少なくなる。
【0055】
次に、粉体塗料4を用いたコロナ放電式静電塗装ガン1の塗着実験の結果を示す。
塗着実験は、図10に示すように、ガン先に図4(b)に示すような、リング状の電極8を備えたコロナ放電式静電塗装ガン1を、レシプロケーター14に設置して行った。
【0056】
リング状の電極8は、ガン先に前後移動可能に設置され、コロナ電極6から電極8までの距離を変更することができるようにしている。
電極8には、直流電源に切替スイッチを介して直流電源に接続され、切替スイッチによって、正電圧又は負電圧を与えることができ、塗着実験では、針状の電極8に0ボルトを与えた場合(針状の電極8を設置していない場合と同じ)と、針状の電極8を接地した場合、針状の電極8にプラス24ボルトを与えた場合について、塗着量の変化を確認した。
【0057】
上記塗着実験は、コンベア15に、幅800mm、高さ600mmの受け板16を吊るし、この受け板16の前面に、高さ300mm、幅450mm、厚み0.8mmの塗着量測定板17を貼り付け、この塗着量測定板17に向けて、−80kVのコロナ式静電塗装ガン1から粉体塗料4を噴霧して行った。
その他の塗装条件は、下記の通りである。
【0058】
コンベアスピード:1.0m/min
ガン先と受け板16までの距離:200mm
レシプロケーター14の速度:20m/min
レシプロケーター14のストローク:600mm
吐出量:50g/min
【0059】
なお、電極8の位置は、前後動させて塗着量が最大になる位置にして塗着実験を行った。塗着量が最大になる位置は、電極8を接地した場合は、コロナ電極6からの水平距離で80mm、電極8にプラス24ボルトを与えた場合が、コロナ電極6からの水平距離で120mmであった。
【0060】
塗着実験は、各10回を行い、その平均を塗着量とした。また、塗着効率は、塗着量測定板17に塗着した粉体塗料4の重量を、実際に塗装した時間の吐出量(g)で割って、%で表示した。
上記塗着実験の結果をまとめると、表1の通りである。
【0061】
【表1】

【0062】
上記のように、電極8を接地した場合、最大塗着量が得られるコロナ電極6から電極8までの水平距離は、80mmであったが、電極8に24ボルトのプラス電圧を与えた場合には、コロナ電極6から電極8までの水平距離が120mmと離れた位置で最大塗着量が得られた。これはコロナ電極6から電極8までの水平距離が離れても、ガン先から放電されたイオンが、電極8からのプラス(+)のイオン風によって活性化されたためと考えられる。
【0063】
また、量産ラインでは、連続塗装を行うと、電極8が汚れやすい。特に、コロナ電極6からの距離が近いほど、電極8に塗料が付着し、絶縁状態に近づくと、コロナ電極6の活性化が少なくなり、塗着効率が低下する。
【0064】
上記の塗着実験の結果、電極8を接地した場合は、電極8がない場合、即ち、電極8に0Vを与えた場合と同様に、8時間後には、塗着効率が低下したが、電極8に+24Vの直流電圧を与えた場合には、8時間後の塗着効率は、初期の効率とほとんど変わらなかった。
【0065】
上記の塗着実験では、電極8にプラス(+)の直流電圧を与えたが、例えばマイナス(−)の直流電圧を与え、その電圧、電流を調整することにより、塗膜を被塗装物Aの場所によって、調整もできる。また、電極8を接地(アース)したり、プラス(+)マイナス(−)の直流電圧、電流及びアースを切替スイッチで切り替えたりすることにより、被塗装物Aの形状に応じ、あるいは、被塗装物Aの箇所に応じた膜厚管理を行うことが可能である。
【0066】
次に、図6に示す形態の液体塗料9を用いたコロナ放電式静電塗装ガン1により塗着実験を行った結果を表2に示す。表2において、電極から距離は、コロナ電極6から環状の電極8の先端を含む面までの水平方向の距離である。
【0067】
【表2】

【0068】
表2において、初期とは塗装開始時、8時間後とは8時間連続塗装した後であり、途中に1時間の停止を含んでおり、それぞれの数値は塗着効率(%)を示している。
【0069】
コロナ放電式静電塗装ガン1には、高圧発生器2が内蔵されている。従来のコロナ放電式静電塗装ガン1の電圧は60KVを用いているが、表2の塗着実験では電圧30KVのガンを使用した。
【0070】
従来の60KVのコロナ放電式静電塗装ガン1を使用した塗着実験も同様に行ったが、初期の塗着効率は37%、8時間連続塗装後の塗着効率は36%であった。
【0071】
上記塗着実験の結果、コロナ放電式静電塗装ガン1の電極8を接地(アース)した場合、コロナ電極6から、アースされたリング状の電極8により活性化されて、30KVの高圧発生器2を使用するコロナ放電式静電塗装ガン1でも、60KVの高圧発生器2を使用するコロナ放電式静電塗装ガン1と同等の塗着効率を示した。但し、電極から10〜20mm付近が最も効率が大きくなるが、電極からの距離が短いために、短時間の塗装で、接地した電極8に塗料が付着し、その効果が急激に減少した。
【0072】
また、電極8にプラス(+)12Vの直流電圧を与えた場合、表2のようにコロナ電極6から70mm付近の位置で、塗着効率は、電極8を接地した場合と同等の最大値を示した。コロナ電極6からの距離が遠くなるので、電極8が汚れにくく、長時間の塗装にも安定した塗装が行える。
【0073】
表2の塗着実験では、プラス(+)12Vを使用したが、高圧発生器2の電圧、形状によって、電極8に与える直流電圧の数値を変えてもよい。また、電極8を接地(アース)したり、プラス(+)マイナス(−)の直流電圧、電流及びアースを切替スイッチで切り替えたりすることにより、被塗装物Aの形状に応じ、あるいは、被塗装物Aの箇所に応じた膜厚管理を行うことが可能である。
【0074】
次に、被塗装物Aに帯電した塗料が静電気力で塗着し難いような場合には、被塗装物Aに、帯電した塗料の極性と反対の極性の直流電圧を与えることにより、静電塗装が可能になる。
【0075】
例えば、近年、特に静電粉体塗装が多くなった自動車部品の一つに、ブレーキパッドがある。アルミホイールの使用が多くなり、ホイールの空間部からブレーキパッドの外面部がよく見えるようになったため、見栄えを向上させるために、車本体の色調に合わせてブレーキパッドも同色の塗装が行われるようになっている。
【0076】
ところで、ブレーキパッド18は、図11に示すように、金属製のベース板19と、パッド部20とからなる。
【0077】
パッド部20は、骨格材(アスベスト、硫酸バリュウム、金属繊維)、潤滑材(コークス、グラファイト、金属硫化物)、研磨剤(金属酸化物、鉱物、金属)、ダンピング材(ゴム系)、PH調整剤、充填剤等をフェノール樹脂などで焼き固めたものであるが、近年は、パッド部20の鉄粉が少なくなっており、パッド部20の導電性がなくなっている。
【0078】
このため、ブレーキパッド18を静電塗装した場合、導電性のないパッド部20の側面部は、塗料の付き回りが悪く、パッド部20の側面部の塗装が良好に行えないという問題があった。
【0079】
このパッド部20の側面部の塗装を良好にするために、従来は、ブレーキパッド18を予熱したり、成形時の熱を利用したりして塗装を行う、いわゆる前加熱塗装を行う必要があった。
【0080】
この発明では、この前加熱塗装を行うことなく、静電塗装の際に、ブレーキパッド18に、帯電した塗料の極性と反対の極性の直流電圧を与えることにより、導電性のないパッド部20の側面部にも帯電した塗料が良好に付着させるようにした。
【0081】
上記ブレーキパッド18に、帯電した塗料の極性と反対の極性の直流電圧を与えながら静電塗装を行う方法としては、次のような方法を採用することができる。
【0082】
例えば、図12に示すように、マイナス(−)帯電した粉体塗料を吐出するコロナ放電式静電塗装ガン1を、塗装ブース21の上方に2基設置し、塗装ブース21の絶縁ベルト22上に載せて移動するブレーキパッド18に向けて、マイナス(−)帯電した粉体塗料を吹き付けて塗装を行う。ブレーキパッド18は、絶縁ベルト22上にパッド部20を下に向けて載せられて移動し、移動中に直流電源に接続された通電線23がパッド部20に接触して、通電線23からプラス(+)24Vが与えられるようにしている。
【0083】
ブレーキパッド18への通電方法としては、図13に示すように、金属のベース板19に通電線23を接触させ、パッド部20にベース板19を介して通電させるようにしてもよい。
【0084】
また、図14に示すように、ブレーキパッド18を載せる絶縁ベルト22の中央に、通電線23を這わせるようにして通電させてもよい。
【0085】
なお、通電線23に供給する直流電圧は、安全性を考慮して低電圧にしたほうがよい。
【0086】
次に、例えば、柱上変圧器24は、図15に示すように、外面に多数のフィン25が設けられ、重防食が必要で、亜鉛めっきの表面に、100μm以上の粉体塗装を施す必要がある。
【0087】
ところが、フィン25相互間の間隔が狭く、フィン25の奥行きが広いので、コロナ放電式静電塗装ガンを使用して塗装行った場合、フィン25とフィン25との間の隙間に、帯電した粉体塗料が入りにくく、50μm程度の膜厚にしか塗装することができず、しかもフィン25の奥や、フィン25の内面にスケが発生することがあった。
【0088】
このような問題を解決するために、この発明では、コロナ放電式静電塗装ガンを使用して塗装を行う際に、被塗装物である柱上変圧器24を絶縁台26に載せ、柱上変圧器24の外面と直流電源とを接続して、プラス(+)24Vを与えた状態でコロナ放電式静電塗装ガンからマイナス(−)帯電した粉体塗料を吹き付けて塗装を行ったところ、ジーという音がしながら、フィン25の奥まで粉体塗料が入り込み、全体に100〜150μmの膜厚で均一に粉体塗料を付着させることができた。
【0089】
上記のように、被塗装物Aに直流電圧を与えながら静電塗装を行うと、自動車のバンパーのような樹脂部品でも膜厚の厚い塗装を安全に行うことが可能となる。
【0090】
樹脂部品は、絶縁性があるため、静電塗装を行う際には、初めに導電剤液を塗布し、その後に、溶液塗料を用いたコロナ放電式静電塗装ガンによって静電塗装を行う。そして、塗膜の形成に伴い、表面に静電気が溜まりやすくなり、塗装表面にスパーク等の小さい火花が生じる。
【0091】
ところが、被塗装物のハンガーに、塗装ブース内のみプラス(+)の24Vの直流電圧を流しながら静電塗装を行うと、スパークなどの小さい火花はほとんど解消されるとともに、導電剤塗装の塗膜の少ない箇所の塗装不良も改善することができた。
なお、塗装ブース以外は、安全のために、ハンガーは接地(アース)している。
【符号の説明】
【0092】
1 コロナ放電式静電塗装ガン
2 高電圧発生器
3 トリガ
4 粉体塗料
5 圧縮空気
6 コロナ電極
7 直流電源
8 電極
9 液体塗料
10 レギュレータ
11 切替スイッチ
12 摩擦帯電式静電塗装ガン
13 摩擦チューブ
14 レシプロケーター
15 コンベア
16 受け板
17 塗着量測定板
18 ブレーキパッド
19 ベース板
20 パッド部
21 塗装ブース
22 絶縁ベルト
23 通電線
24 柱上変圧器
25 フィン
26 絶縁台
27 電池
A 被塗装物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電圧発生器に接続され、塗料の噴射口に設置されたコロナ電極によって発生する電界により塗料を帯電させ、帯電させた塗料を被塗装物に噴射して静電気力により塗着させるコロナ放電式静電塗装ガンにおいて、上記高電圧発生器に接続される電極の近傍に、低電圧の直流電源に接続される電極を設けたことを特徴とするコロナ放電式静電塗装ガン。
【請求項2】
上記塗料が、溶剤又は水溶性の溶液塗料である請求項1に記載のコロナ放電式静電塗装ガン。
【請求項3】
上記塗料が、粉体塗料である請求項1に記載のコロナ放電式静電塗装ガン。
【請求項4】
摩擦帯電チューブを備え、摩擦帯電チューブ内で粉体塗料を摩擦帯電させ、帯電させた粉体塗料を被塗装物に噴射して静電気力により塗着させる摩擦帯電式静電塗装ガンにおいて、噴射口の近傍に、低電圧の直流電源に接続される電極を設けたことを特徴とする摩擦帯電式静電塗装ガン。
【請求項5】
上記直流電源に接続される電極に与える極性を、高電圧発生器に接続される電極の極性と逆極性にしたことを特徴とする請求項1記載のコロナ放電式静電塗装ガン。
【請求項6】
上記直流電源に接続される電極に与える極性を、高電圧発生器に接続される電極の極性と同極性にしたことを特徴とする請求項1記載のコロナ放電式静電塗装ガン。
【請求項7】
上記直流電源に接続される電極に与える極性を、摩擦帯電した粉体塗料の極性と逆極性にしたことを特徴とする請求項4記載の摩擦帯電式静電塗装ガン。
【請求項8】
上記直流電源に接続される電極の極性を、摩擦帯電した粉体塗料の極性と同極性にしたことを特徴とする請求項4記載の摩擦帯電式静電塗装ガン。
【請求項9】
上記直流電源に接続される電極を、塗料の噴射口の周辺に環状に設置したことを特徴とする請求項1〜8のいずれかの項に記載の静電塗装ガン。
【請求項10】
上記直流電源の電極に与える極性を正又は負に切り替えることを特徴とする請求項1又は4に記載の静電塗装ガン。
【請求項11】
塗料を帯電させて被塗装物に噴射し、または帯電した塗料の流動槽内に被塗装物を浸漬する静電塗装方法において、上記被塗装物に直流電源を接続し、被塗装物に、帯電した塗料の極性と反対の極性を与えることを特徴とする静電塗装方法。
【請求項12】
上記被塗装物に接続される直流電源が低電圧である請求項12に記載の静電塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−131121(P2011−131121A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290558(P2009−290558)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000117009)旭サナック株式会社 (194)
【Fターム(参考)】