説明

静電容量結合式検出装置、該検出装置を備えた操作者識別装置及び操作者識別方法

【課題】操作者を識別するとともに誤操作を防止して所望のスイッチのみを操作可能にする静電容量結合式検出装置、該検出装置を備えた操作者識別装置及び操作者識別方法を提供する。
【解決手段】スイッチ4の可動部材42が押し込まれると、端子44及び45が短絡し、端子45の電位もゼロボルトになる。次に処理装置5の起動部51が、端子45の電位が下がったことを検知し、信号送信部52を起動する。信号送信部52は、運転席2及び助手席3にそれぞれ信号を送る。送られた信号は運転席2及び助手席3に送られ、さらに運転者21又は乗客31を通り、スイッチ4の検出電極422を経由して処理装置5の判定部55に達する。判定部55は、電流測定器531及び541からの値を読み込むことにより、運転者21及び乗客31のどちらがスイッチ4を操作したかを判定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電容量結合式検出装置、該検出装置を備えた操作者識別装置及び操作者識別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーナビゲーションシステムのような車両用端末装置には、静電容量結合式のタッチスクリーン等を使用し、かつ端末装置の操作者を識別する機能が搭載されているものがある。例えば特許文献1には、「ドライバ位置および乗客位置から接近可能なタッチセンサ112と、ドライバ位置と関連して第1信号で駆動される第1接触点114と、乗客位置と関連して第2信号で駆動される第2接触点115と、タッチセンサ上の第1信号または第2信号の検出に基づき、タッチセンサにタッチするドライバ位置における利用者を、タッチセンサにタッチする乗客位置における利用者から識別するよう構成されたプロセッサ116と、を備える」車両タッチスクリーン装置100が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2006−117242号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タッチスクリーンを利用した端末装置では、画面の切替えにより非常に多くの操作機能を選択することができるが、所望の操作を行うために画面の切替えを何度も行わなければならない場合もある。そこで運転中の操作者が1〜2回の操作で素早く所望の操作ができるように、タッチスクリーンのような位置検出型ではない単機能のスイッチが設けられることがある。なお単機能スイッチには、押し込み式スイッチやジョイスティック、回転操作や押し込み操作が可能なジョグダイヤル等が含まれる。しかしこのような単機能スイッチは位置検出型ではなく、かつ比較的狭い領域に複数個並べて配置されることもある。このようなスイッチに上述の静電容量結合式の操作者識別装置を適用すると、本来操作すべきスイッチ及びそれに隣接するスイッチに操作者がほぼ同時に触れてしまうこともあり、そのような場合はいずれのスイッチを作動させるべきかが判断できない。
【0005】
また、機器の小型化に伴ってスイッチも小さいものが使用されるため、静電容量結合機能をスイッチに組み込もうとすると、検出電極の大きさが限られてしまう。スイッチに比べて検出電極が小さいと、スイッチに触れていてもそれが静電容量結合方式では検知できない虞がある。
【0006】
そこで本発明は、単機能スイッチが複数配置されているような場合に、操作者を識別するとともに各スイッチの検知領域を広げ、誤操作を防止して所望のスイッチのみを操作可能にする静電容量結合式検出装置、該検出装置を備えた操作者識別装置及び操作者識別方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一態様によれば、可動に構成された絶縁性の本体と、前記本体内部に配置された検出電極と、前記本体の外側表面に前記検出電極と少なくとも部分的に重畳するように配置された、導電性材料からなる対向電極と、前記本体の変位により電気的状態が変化するスイッチと、を備えた静電容量結合式検出装置が提供される。
【0008】
本発明の他の態様によれば、可動に構成された絶縁性の本体、前記本体内部に配置された検出電極、前記本体の外側表面に前記検出電極と少なくとも部分的に重畳するように配置された、導電性材料からなる対向電極、及び前記本体の変位により電気的状態が変化するスイッチを備えた静電容量結合式検出装置と、前記検出装置を操作し得る複数の操作者に信号を送る信号送信部、並びに前記スイッチの電気的状態が変化したときの前記操作者及び前記検出装置の検出電極を経由した信号に基づいて、前記検出装置を操作した操作者を識別する判定部を備えた処理装置と、を有する操作者識別装置が提供される。
【0009】
本発明のさらなる他の態様によれば、可動に構成された絶縁性の本体、前記本体内部に配置された検出電極、前記本体の外側表面に前記検出電極と少なくとも部分的に重畳するように配置された、導電性材料からなる対向電極、及び前記本体の変位により電気的状態が変化するスイッチを備えた静電容量結合式検出装置を用意することと、前記検出装置を操作し得る複数の操作者に信号を送ることと、前記スイッチの電気的状態が変化したときの前記操作者及び前記検出装置の検出電極を経由した信号に基づいて、前記検出装置を操作した操作者を識別することと、を有する操作者識別方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、操作者がスイッチに触れかつスイッチの可動本体が変位したときにそのスイッチが起動する。従って複数のスイッチが隣接配置されている場合であっても、操作者がスイッチに触れただけではそのスイッチは起動しないので、スイッチの誤操作を大幅に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、本発明に係る静電容量結合式検出装置を含むシステムの概略構成を示す図である。本システム1は、例えば自動車用のカーナビゲーションシステムであり、運転席2及び助手席3に着座している運転者21及び乗客31のいずれかが操作できるようになっている。システム1は、スイッチ4と、スイッチ4の操作内容を判断し処理する処理装置5とを含む。スイッチ4は例えば、図2に示すような自動車のコンソールパネル6に設けられたタッチスクリーン等の表示画面7の外側近傍に配置された押しボタン式スイッチである。
【0012】
図2は、スイッチ4の具体的構成例を説明する図であって、スイッチ4の上面及び側面を示す図である。スイッチ4は、コンソールパネル6に固定される固定部材41と、固定部材41に対し変位可能に構成された可動部材42と、可動部材42を固定部材41から離れる方向に付勢するコイルばね等の付勢部材43とを有し、全体として押しボタン式スイッチを構成している。可動部材42は操作者(ここでは運転者21又は乗客31)が触れる操作面421を上面に有し、操作面421は金属板、銅箔、導電性プラスチック又は導電性物質蒸着膜等の導電体から構成される。一方導電体421から所定距離離隔した位置(図示例では操作面421の裏側)には、静電容量結合のための検出電極422が配置される。また可動部材42は、その全体が絶縁体から構成されてもよいが、少なくとも操作面421と電極422との間においては絶縁体として構成される。
【0013】
図2の上面図に示すように、検出電極422は可動部材42を補強するためのリブ423等のために操作面421よりも小さい表面積を有する(図示例では略十字形状を有する)が、対向電極である導電体421は可動部材の上面全体を覆うように形成され、操作面421と検出電極422とで静電容量結合を構成している。従って、検出電極422から比較的離れた導電体421上の部位(例えば角部)を操作者が触れた場合であっても、導電体421の抵抗による減衰のみで検出電極422に信号伝達が可能となる。従って後述する判定部による操作者の識別を確実に行うことができる。可動部材42の形状等によって検出電極422の配置に制約がある場合であっても、対向電極が部分的にでも検出電極に対向して配置されていれば信号伝達可能なので、検出電極の配置位置は比較的自由に選択でき、設計上の自由度が高い。例えば操作面に対向する位置に検出電極が配置できない場合には、対向電極を可動部材の側面で延長し、その側面にある対向電極と検出電極とを対向させて配置することができる。
【0014】
また対向電極は検出電極よりも広い面積を必ずしも有している必要はなく、例えば、検出電極の周辺部を囲うように中央部に開口部を設けた枠形状にしてもよい。このように対向電極の一部分と検出電極の一部分とが重畳するようにすれば、導電体を操作面全体に配置しなくともよいので、操作面の形状面での制約を減らすことができる。
【0015】
またスイッチ4は2つの端子44及び45を有し、一方の端子44は接地され、他方の端子45は例えば5ボルトの一定電圧に接続されている。可動部材42は、押し込まれたときに端子44及び45を短絡させる金属板等の導電性材料からなる短絡部材424を有する。或いは、短絡部材と一方の端子とが一体的に構成されており、可動部材の変位によって短絡部材が旋回や平行移動して他方の端子と接触するような構成も可能である。
【0016】
図3は、処理装置5の具体的構成例を、概略図示したスイッチ4とともに示す図である。処理装置5は、運転席2及び助手席3にそれぞれ信号を送るように構成された信号送信部52と、スイッチ4が閉じられてON状態になったときに信号送信部52を起動する起動部51と、運転者及び乗客のいずれがスイッチ4を操作したのかを判定する判定部55とを有する。なお起動部51は、電圧測定器又は電圧監視器を有することができる。
【0017】
次に、システム1の作用について説明する。図2に示したスイッチ4の可動部材42が押し込まれると、2つの端子44及び45が短絡し、端子45の電位もゼロボルトになる。次に処理装置5の電圧測定器51が、端子45の電位が下がったことを検知し、信号送信部52を起動する。起動させられた信号送信部52は、運転席2及び助手席3にそれぞれ信号を送る。送られた信号は増幅器53及び54を介して微弱な電流として運転席2及び助手席3に送られ、さらに運転者21又は乗客31を通り、スイッチ4の検出電極422及び増幅器56を経由して処理装置5の判定部55に達する。判定部55は、増幅器53及び54により増幅された電流値をそれぞれ測定する電流測定器531及び541からの値を読み込むことによってどちらの回路に電流が流れているかを判別し、運転者21及び乗客31のどちらがスイッチ4を操作したかを識別することができる。
【0018】
このようにして得られた判定結果は、CPU等の演算処理部8に送られ、所定の処理が行われる。例えばCPU8は、同じスイッチ操作であってもその操作を運転者が走行中に行った場合には、安全確保のために当該操作を無効とし、運転者に運転に専念するようメッセージを発する等の処理を行うことができる。
【0019】
図4は、処理装置5の変形例を示す。図4の例では、図3における2つの電流測定器531及び541を用いる代わりに、判定部55に到達する手前の増幅器56により増幅された電流を測定する電流測定器561を使用する。この場合、信号送信部52から運転席及び助手席に送られる信号波形の各々を図5に示すようなパルス波形と一定値とを交互に繰り返す波形とし、かつ一方がパルス波形であるときは他方は一定値となるようにする。このようにパルス波形が交互に生じるようにすれば、スイッチが操作された時間を測定して、スイッチ4が操作されたときにいずれの信号がパルス波形を呈していたかを検出することにより、運転者及び乗客のいずれがスイッチを操作したかを判断することができる。
【0020】
図6は、処理装置5の他の変形例を示す。図6の例では、図4の電流測定器561の代わりに周波数測定器562を使用し、各回路に周波数の異なる電流を流せるように構成しておき、判定部55に入力された電流の周波数からどちらの操作者が操作したかを識別する。この場合も、図3の電流測定器531、541は不要となる。なお、それぞれの回路に流れる電流の周波数は予め定めておいてもよいし、信号送信部52から判定部55に周波数に関する情報を送るようにしてもよい。
【0021】
スイッチ4は押しボタン式である必要はなく、引き操作や捻り操作によって作動するもの等、可動部材の移動に伴ってON/OFFが切替えられるものであればどのようなものでもよい。またスイッチ4の代わりに又はこれに加え、図7に示すようなジョイスティック9を使用してもよい。ジョイスティック9は、ベース部材91と、ベース部材91を支点として可動に構成されたノブ92と、ノブ92の上端付近内側に配置される静電容量結合のための検出電極93と、ノブ92及び検出電極93を覆う絶縁体94と、絶縁体94の外側に検出電極93から所定距離離れて形成された対向電極すなわち操作面95とを有する。操作面95は、スイッチ4の操作面421と同様に、金属板、銅箔、導電性プラスチック又は導電性物質蒸着膜等の導電体から構成される。図示するように、操作面95は絶縁体94全体を覆うように形成されるので、検出電極93の表面積が比較的小さい場合であっても、確実な信号伝達を行うことができる。
【0022】
ジョイスティックを使用する場合は、図7に示すように、ノブ92の1軸方向の変位を検出する変位センサ96を設け、ノブ92が変位したときに上述の電圧測定器51が作動する。従って操作者が操作面95に触れただけでは、ジョイスティック9に関する操作が開始されない。ジョイスティックの使用により、スイッチ4のような単なるON/OFFだけではなく、ノブの変位に応じた(例えば変位センサ96からの出力電圧の変化量に応じた)複数の異なる処理を行うことができる。またジョイスティックを上方から概略図示した図8に示すように、2つの変位センサ96及び97を設け、2軸(例えばX、Y軸)のそれぞれについてノブ92の変位を測定することもでき、この場合にはノブの2次元座標位置に応じたさらに多様な処理を行うことができるようになる。
【0023】
上述の変位センサには、ボリュームや圧電素子等の、変位を電気的な変化として出力できる各種素子・部品が含まれる。また、単にON/OFFを検出する押し込みスイッチと同様のものを4方向や8方向に配置して、ノブの変位方向を検知することもできる。例えば、変位に応じた電圧を出力する変位センサ96を使用し、変位センサ96からの出力が電圧測定器51に入力されるように構成しておくと、ノブの変位がない状態から電圧がある閾値を超えて変化した場合にノブの操作がなされたと判断し、操作者を識別することができる。
【0024】
本発明によれば、操作者がスイッチ又はジョイスティックに触れるだけではなく、スイッチ等の可動部の物理的移動が伴って初めてスイッチが起動し、操作者識別装置等が作動する。スイッチ等が密集配置されている場合であっても誤操作が少なく、確実に操作者の意図に合致した処理を行うことができる。またスイッチの押し込み操作等がなされて初めて信号送信部が起動するので、信号を常時発信する方式よりも装置の消費電力を小さくできる。
【0025】
以上説明した実施形態では、スイッチの変位によって起動部に入力する電圧が変化し、それによって識別信号が信号送信部から発信される。他の実施形態として、常に識別信号を信号送信部から発信しておき、スイッチの変位によってトリガ信号を発生させることにより、判定部が判定処理を開始するような構成も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る操作者識別装置を含むシステムの概略図である。
【図2】図1のシステムに含まれるスイッチの具体例を示す図である。
【図3】図1のシステムの処理装置の具体的構成を示す図である。
【図4】処理装置の変形例を示す図である。
【図5】処理装置から運転席及び助手席に送られる信号波形の具体例を示すグラフである。
【図6】処理装置の他の変形例を示す図である。
【図7】図2のスイッチの代替又は付加的に用いることができるジョイスティックの構成例を示す図である。
【図8】図5のジョイスティックが2つの変位センサを備える例を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
1 システム
2 運転席
21 運転者
3 助手席
31 乗客
4 スイッチ
41 固定部材
42 可動部材
421 導電体
422 検出電極
43 付勢部材
44、45 端子
5 処理装置
51 起動部
52 信号送信部
53、54、56 増幅器
531、541、561 電流測定器
562 周波数測定器
55 判定部
6 コンソールパネル
7 表示画面
8 演算処理部
9 ジョイスティック
91 ベース部材
92 ノブ
93 検出電極
94 絶縁体
95 導電体
96、97 変位センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動に構成された絶縁性の本体と、
前記本体内部に配置された検出電極と、
前記本体の外側表面に前記検出電極と少なくとも部分的に重畳するように配置された、導電性材料からなる対向電極と、
前記本体の変位により電気的状態が変化するスイッチと、
を備えた静電容量結合式検出装置。
【請求項2】
前記スイッチが押し込み式スイッチである、請求項1に記載の静電容量結合式検出装置。
【請求項3】
前記スイッチがジョイスティックである、請求項1に記載の静電容量結合式検出装置。
【請求項4】
可動に構成された絶縁性の本体、
前記本体内部に配置された検出電極、
前記本体の外側表面に前記検出電極と少なくとも部分的に重畳するように配置された、導電性材料からなる対向電極、及び
前記本体の変位により電気的状態が変化するスイッチを備えた静電容量結合式検出装置と、
前記検出装置を操作し得る複数の操作者に信号を送る信号送信部、並びに前記スイッチの電気的状態が変化したときの前記操作者及び前記検出装置の検出電極を経由した信号に基づいて、前記検出装置を操作した操作者を識別する判定部を備えた処理装置と、
を有する操作者識別装置。
【請求項5】
前記処理装置は、前記スイッチの電気的状態が変化したときに前記信号送信部を起動する起動部を有し、
前記判定部は、前記操作者及び前記検出装置の検出電極を経由した信号に基づいて、前記検出装置を操作した操作者を識別する、請求項4に記載の操作者識別装置。
【請求項6】
前記処理装置は、前記スイッチの電気的状態が変化したときに前記判定部を起動する起動部を有し、
前記判定部は、前記判定部が起動させられたときの前記操作者及び前記検出装置の検出電極を経由した信号に基づいて、前記検出装置を操作した操作者を識別する、請求項4に記載の操作者識別装置。
【請求項7】
可動に構成された絶縁性の本体、前記本体内部に配置された検出電極、前記本体の外側表面に前記検出電極と少なくとも部分的に重畳するように配置された、導電性材料からなる対向電極、及び前記本体の変位により電気的状態が変化するスイッチを備えた静電容量結合式検出装置を用意することと、
前記検出装置を操作し得る複数の操作者に信号を送ることと、
前記スイッチの電気的状態が変化したときの前記操作者及び前記検出装置の検出電極を経由した信号に基づいて、前記検出装置を操作した操作者を識別することと、
を有する操作者識別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−163611(P2009−163611A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−2185(P2008−2185)
【出願日】平成20年1月9日(2008.1.9)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】