説明

静電駆動される非接触式MEMSデバイス

静止摩擦を低減したマイクロ機械システム(MEMS)デバイス(200)が提供されている。このMEMSデバイスは、基板に形成された中心電極(216)と、一対の外側電極(220)とを含む。中心電極は複数の延長部を備え、これら延長部は当該延長部(218)に散在した複数の溝(221)を形成している。外側電極は中心電極の溝内に配置された複数の延長部を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)のようなマイクロ機械システム(MEMS)デバイスに関し、より詳細には、かかるデバイスにおける静止摩擦を低減するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
(背景)
マイクロ電気機械システム(MEMS)デバイスは、これまで集積回路を製造するために開発された技術、例えば光リソグラフィ、ドーピング、金属スパッタリング、酸化膜デポジションおよびプラズマエッチングを使って、一般に半導体ウェーハ上に製造される小型の構造体である。変形可能なマイクロミラーデバイスとも時々称されるこれらデジタルマイクロミラーデバイス(DMD)は、あるタイプのMEMSデバイスであり、このデバイスは反射により光を制御することにより、プロジェクタディスプレイで使用される、あるタイプのMEMSデバイスである。他のタイプのMEMSデバイスとして、加速度計、圧力計および流量センサ並びにギアおよびモータを挙げることができる。
【0003】
図1には、従来のDMD100が示されている。ここに図示されているように、DMD100は、3つの金属層、すなわち頂部層102と、中間層104と、底部層106とから構成されている。これら3つの金属層は、電気的コマンドおよび信号を発生する集積回路(図示せず)に位置する。頂部層102は、ミラー支持ポスト110を介して支持された中間層104上に位置するピクセルミラー108を含み、次に中間層104は、ヒンジ支持ポスト112に支持された底部層106の上に位置している。頂部層102のミラー支持ポスト110は、ヨーク114に取り付けられており、ヨーク114がそのねじりヒンジ118上で回転すると、このヨークはミラー支持ポスト110を回転させ、傾斜するようにこのポストを駆動する。従って、ミラー支持ポスト110が回転し、傾斜する際に、このポストはピクセルミラー108が回転し、傾斜する角度、その方向およびその大きさを定める。基本的にはヨーク114は、その中継効果によりピクセルミラー108を制御する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のMEMSデバイス、例えばDMD100に関連する1つの問題は、静止摩擦である。これは、ねじりヒンジ118上でヨーク114が回転し、ヨークの設置先端116が下方の底部層106内に位置する設置サイト120に物理的に接触する際に生じる。表面の付着力が充分大きいときに、ヨークの設置先端116が下方の底部層106内にある設置サイト120に付着し、ピクセルミラー108の応答時間およびデバイス全体の性能に悪影響を及ぼすケースもあれば、設置先端116が、設置サイト120に付着し、加えられた機械的回復力が、生じている表面付着力に打ち勝つのに充分強力でない場合に、付着したままとなるケースもある。所定の角度で固定された状態のままとなるので、このピクセルミラー108は永久的に故障したものと見なされる。
【0005】
これまで静止摩擦の問題は、付着力を最小にするよう、これら金属表面を充分スリップ状態にするために、ヨークの設置先端116および設置サイト120に潤滑層またはパッシベーション層を塗布することによって解決していた。更に、ヨーク114内に別の電気的エネルギーをポンピングし、ヨークの設置先端116と設置サイト120との間の拘束的表面付着力をなくすように、リセット電子回路122を使用していた。これら技術では、余分な製造プロセスと別のコストが必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、マイクロ電気機械システム(MEMS)デバイスに関し、より詳細には、少なくとも静止摩擦を防止するか、または少なくとも低減する静電駆動されるデジタルマイクロミラーデバイス(DMD)に関する。中心電極は、基板に当初形成された、散在する延長部を含む。中心電極の両側に2つの外側電極が配置されるよう、その後これら散在した延長部を有する2つの外側電極を基板に形成する。外側電極に印加される低バイアス電圧が中心電極に作用する静電力を発生させ、中心電極の頂部に形成されたピクセルミラーが自由に移動、回転および傾斜できるように、中心電極と外側電極の延長部が互い違いに配置される。
【実施例】
【0007】
図1の従来のデジタルマイクロミラーデバイス(DMD)を参照すると、ピクセルミラー108はヨークの傾斜および回転に従って傾斜し、回転する。実際にミラー108は、ピクセルミラー108とミラーアドレス電極113の間の電界だけでなく、ヨーク114とヨークアドレス電極121との間で発生する電界によっても発生する静電力に起因しても回転し、傾斜する。下方の集積回路(図示せず)から、金属製接触孔を通して電気信号が供給され、搬送される。
【0008】
次に、本開示に従ったデジタルマイクロミラーデバイス(DMD)200を示す、図2を参照する。このDMD200は、頂部層202と、中間層204と、底部層206とを含む。図に示されるように、頂部層202は下方に延びるミラー支持ポスト210に接続されたピクセルミラー208を含み、ミラー支持ポスト210は、後述するように、中間層204に形成された対応するポスト嵌合孔211に係合するようになっている。一部の実施例では、ピクセルミラー208は、約2000〜5000Åの厚さを有し、このミラーは、公知の方法および技術を使ってアルミから製造されている。現時点で開示する実施例のピクセルミラー208の厚みは、約3,300Åの厚さを有することが好ましい。ピクセルミラー208を製造するのに、アルミの他にシリコン酸化物、シリコン窒化物、ポリシリコンおよびリン酸ガラス(PSG)のような別の材料も使用できる。一部の実施例では、ミラー支持ポスト210は約500〜1,000Åの厚さを有し、公知の方法および技術を使ってアルミ合金から製造される。現時点で開示する実施例のミラー支持ポスト210の厚さは約700Åとなることが好ましい。
【0009】
頂部層202の下方に配置された中間層204は、複数のヨーク支持ポスト214によって支持されたヨーク212を含む。このヨーク支持ポスト214は、ミラー支持ポスト210と同一または同様な材料および方法に従って形成できる。更に、ヨーク支持ポスト214は、ミラー支持ポスト210と同じ厚さまたは同様な厚さを有することができる。中間層204は、ポスト嵌合孔211も有し、この孔は、公知の材料および方法を使って形成できる。
【0010】
中間層204の下方に位置する底部層206は、ヨークアドレス電極216と、ミラーアドレス電極220とを含む。底部層206は更に、ヨーク支持ポスト214を支持するために設けられた接点パッド224を含む。底部層206は、ヨークアドレス電極216によって分離された一対の金属接点開口部217を更に含む。当然ながら他の金属接点開口部の配置、例えば別の金属接点開口部と交互に配置された金属接点開口部とを設けることも可能である。底部層206の下方に位置する集積回路(図示せず)からの電気信号および接続は、一対の金属接点開口部217を介して、ヨークアドレス電極216またはミラーアドレス電極220のいずれかに送ることが可能となっている。この集積回路は、スタティックなランダムアクセスメモリ(SRAM)セルまたは集積化された相補的金属酸化膜半導体(CMOS)デバイスとすることができ、別の実施例では、この集積回路は一方のデバイスの上に他方のデバイスをスタックし、機能を追加しながら、より高速の電子デバイスのための単一モジュールにすることにより、多数のデバイスを組み立てたマルチチップモジュール(MCM)としてもよい。
【0011】
ヨークアドレス電極216は、全体が底部層206の中間部分に位置し、両側に2つの外側のマイナーアドレス電極220がある。ヨークアドレス電極216は複数の散在した延長部218を含み、これによって複数の散在した溝221を形成している。一実施例では、これら複数の散在した延長部218は、ヨークアドレス電極216の両側の横方向側面に位置している。これら複数の溝221内には、横方向に位置するミラーアドレス電極220の複数の対応する散在した延長部222が配置されている。従って、延長部218と222とは、櫛歯状の構造体を形成するよう、実質的に互い違いになっている。一部の実施例では、ヨークアドレス電極216および2つのミラーアドレス電極220は、約500〜約3000Åの厚さを有する。現時点で開示する実施例におけるヨークアドレス電極216および2つのミラーアドレス電極220の厚さは、約1,500Åであることが好ましい。更に、散在した延長部218、222は、約20μmの対応する幅および長さと、約500〜約3,000Åの厚さを有することができる。また、延長部218と222との間の間隔は約5μmから約10μmまで様々であることができる。現時点で開示する実施例における散在した延長部218、222の厚さは、約1,500Åであることが好ましい。現時点で開示する実施例における散在した延長部218と222との間の間隔は、約7.5μmであることが好ましい。
【0012】
散在した延長部218、222は、形状が正方形に示されているが、これら延長部は、種々の多角形およびサイズにすることができる。これら散在した延長部218、222は、例えば、長方形、三角形、平行四辺形、菱形、台形または他の適当な任意の形状とすることができる。更にこれら散在した延長部218、222は、平面−湾曲形状、例えば円形、半円形、楕円形、半楕円形、直線状、放物線状または双曲線状とすることもできる。更に、これら散在した延長部218、222は、均一に離間してもよいし、または不均一に離間してもよい。形状およびサイズが均一でもよいし、不均一でもよい。形状およびサイズの均一な組み合わせおよび不均一な組み合わせも可能である。
【0013】
これら延長部218、222との間で発生できる静電力の大きさにより、DMD200の利点を実現できる。特にある帯電物体Qが存在する結果、帯電した別の物体Qに作用する静電力Fは、クーロンの法則(F=k×Q×Q/d)によって計算でき、ここで、kは定数であり、dは物体の間の距離である。帯電物体Qの電荷量は、表面密度σを帯電物体の表面積Aで乗算することによって計算できる(Q=σA)。従って、静電力Fは、帯電物体の表面積Aに比例して増加する(F∝A)。このDMD200は、従来のDMD、例えば図1のDMD100と比較すると、表面積がより広くなっている。より詳細に説明すれば、散在した延長部218、222は、DMD200の電極の表面積を広くし、よって従来のDMD100の静電力よりも大きい静電力の発生を容易にできる。
【0014】
実際に、ミラーアドレス電極220にパルスを加えることにより、静電界が発生する。発生したこの電界は、次にピクセルミラー208を傾斜または回転させる静電力を発生する。ピクセルミラー108は、傾斜または回転中に静止摩擦を生じ得るような従来のDMD100と異なり、このDMD200は、より大きい静電力を発生できるので、ピクセルミラー208がDMD200の下方の層に付着する可能性を解消するか、または少なくとも低減できる。更に、このように静電力が大きくなることによってリセット電子回路が不要となる。
【0015】
本発明に関係する当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、本発明を他の特定の形態で実現できることが理解できよう。例えばDMD200は、シリコンウェーハまたは他の適当な基板の表面上の薄膜の層内に構造体をビルトアップする表面マイクロ機械加工によっても製造できる。DMDを製造する別の技術として、バルクマイクロ機械加工がある。更に、現時点で開示する実施例は、生物のタンパク質および遺伝子の機能を研究し、理解するために有効な用途のためのMEMSデバイスも実施できる。従って、ここに開示した実施例は、単に発明を説明するためのものに過ぎず、発明を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】従来のデジタルマイクロミラーデバイス(DMD)の分解図である。
【図2】本発明に係わるDMDの分解図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成され、複数の離間した延長部を有する第1電極であって、前記離間した延長部は、前記第1電極の両側面から延び、延長部と共に散在した複数の溝を形成する前記第1電極と、
前記第1電極の両側面に隣接する、前記基板に形成された一対の追加電極であって、前記第1電極の両側面に形成された溝内に配置されている、離間する複数の延長部を有する前記追加電極と、
を備えたマイクロ電気機械デバイス。
【請求項2】
前記基板に作動的に固定されたヨークを更に含む、請求項1記載のデバイス。
【請求項3】
前記基板に作動的に固定されたミラーを更に含む、請求項2記載のデバイス。
【請求項4】
前記ヨークは、内部に形成された溝を有し、前記ミラーは前記ヨークに形成されたミラーと係合するよう下方に延びるポストを有する、請求項3記載のデバイス。
【請求項5】
前記複数の延長部のうちの少なくとも1つは、幾何学的に多角形の形状となっている、請求項1〜4のいずれかに記載のデバイス。
【請求項6】
基板と、
前記基板に形成された第1電極であって、前記第1電極の第1部分から延びる少なくとも1つの延長部と、前記第1電極の第2部分から延びる少なくとも1つの延長部とを有し、前記第2部分は、前記第1部分に実質的に対向している前記第1電極と、
前記第1電極の前記第1部分に実質的に隣接する、前記基板に形成された第2電極であって、前記第1電極に向かって延びる少なくとも1つの延長部を有する前記第2電極と、
前記第1電極の前記第2部分に実質的に隣接する、前記基板に形成された第3電極であって、前記第1電極に向かって延びる少なくとも1つの延長部を有する前記第3電極と、
を備えたマイクロ電気機械デバイス。
【請求項7】
マイクロ電気機械デバイスの作動に関連する静止摩擦を低減するための方法において、
第1電極と、この第1電極の両側に配置された一対の電極を含むよう、マイクロ電気機械デバイスを形成するステップを含み、
前記第1電極は前記一対の電極に構成された複数の溝内に配置された複数の延長部を介し、前記一対の電極と境界部を構成しており、
前記第1電極と、前記一対の電極との間の境界部に構成された表面積が、前記マイクロ電気機械デバイスの作動に関連した表面付着力を克服するのに充分大きい静電力を発生するようになっている、静止摩擦を低減するための方法。


【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−538328(P2008−538328A)
【公表日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−507981(P2008−507981)
【出願日】平成18年4月24日(2006.4.24)
【国際出願番号】PCT/US2006/015430
【国際公開番号】WO2006/116282
【国際公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(501229528)テキサス インスツルメンツ インコーポレイテッド (111)
【Fターム(参考)】