説明

非ハロゲン難燃性樹脂組成物及びその製造方法並びにこれを用いた電線・ケーブル

【課題】ワイヤ形成後に電子線で架橋することなく、高い機械的強度及び耐熱性を有し、かつ難燃剤を高充填しても高速押出可能でかつ、良好な伸びを示す非ハロゲン難燃性樹脂組成物及びその製造方法並びにこれを用いた電線・ケーブルを提供する。
【解決手段】(A)酢酸ビニル含有量が30mass%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体40〜80質量部、(B)エチレン−酢酸ビニル共重合体60〜20質量部、(C)金属水酸化物が(A)と(B)の合計100質量部に対して150〜250質量部、(D)リン系化合物が(A)と(B)の合計100質量部に対して5〜30質量部、(E)ヒドラジン系化合物が(A)と(B)の合計100質量部に対して10〜40質量部、(F)亜鉛系化合物が(A)と(B)の合計100質量部に対して1〜10質量部含有してなるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、UL規格105℃定格の材料特性かつ難燃性(VW−1合格)を有する非ハロゲン樹脂組成物であり、かつリサイクル性を有する非ハロゲン難燃性樹脂組成物及びその製造方法並びにこれを用いた電線・ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
環境問題に対する意識は世界的に高まりつつあり、電線被覆材料においても燃焼時に有害ガスを発生せず、マテリアルリサイクル可能な熱可塑性エラストマ樹脂が普及しつつある(特許文献2,3)。
【0003】
これまで、熱可塑性エラストマは様々な開発が行なわれており、例えば動的架橋技術を用いることで流動成分であるオレフイン系樹脂をマトリックスとし、そのマトリックス中にエチレン−酢酸ビニル共重合体(以下EVAと称す)を分散させる技術がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−31354号公報
【特許文献2】特開2000−154287号公報
【特許文献3】特開2000−7852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非ハロゲン非架橋材料で、材料特性を保持し、しかもUL(電線、ケーブルおよびフレキシブルコードのための関連規格(Reference Standard for Electrical Wires, Cables,and Flexible Cords))に規定されているVW−1試験(Vehical Flame Test)を行うと、ポリマが燃焼時に流動ガス化するため、VW−1試験に合格することは困難であった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、非ハロゲン難燃性樹脂組成物の製造において、ワイヤ形成後に電子線で架橋することなく、高い機械的強度及び耐熱性を有し、かつ難燃剤を高充填しても高速押出可能でかつ、良好な伸びを示す非ハロゲン難燃性樹脂組成物及びその製造方法並びにこれを用いた電線・ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、(A)酢酸ビニル含有量が30mass%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体40〜80質量部、(B)エチレン−酢酸ビニル共重合体60〜20質量部、(C)金属水酸化物が(A)と(B)の合計100質量部に対して150〜250質量部、(D)リン系化合物が(A)と(B)の合計100質量部に対して5〜30質量部、(E)ヒドラジン系化合物が(A)と(B)の合計100質量部に対して10〜40質量部、(F)亜鉛系化合物が(A)と(B)の合計100質量部に対して1〜10質量部含有してなることを特徴とする非ハロゲン難燃性樹脂組成物である。
【0008】
請求項2の発明は、(A)酢酸ビニル含有量が30mass%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体がシラン架橋されている請求項1記載の非ハロゲン難燃性樹脂組成物である。
【0009】
請求項3の発明は、(B)エチレン−酢酸ビニル共重合体の相中に(A)酢酸ビニル含有量が30mass%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体が分散している請求項1又は2に記載の非ハロゲン難燃性樹脂組成物である。
【0010】
請求項4の発明は、(C)金属水酸化物が、水酸化マグネシウム若しくは水酸化アルミニウムからなる請求項1記載の非ハロゲン難燃性樹脂組成物である。
【0011】
請求項5の発明は、請求項1〜4いずれかに記載の樹脂組成物を製造する方法において、シラングラフトされた(A)酢酸ビニル含有量が30mass%以上のエチレン−共重合体と、(B)エチレン−酢酸ビニル共重合体と、(C)金属水酸化物と、(E)ヒドラジン系化合物と、シラノール縮合触媒とを混練しながらシラン架橋した後、(D)リン系化合物と(F)亜鉛系化合物とを加えて混練することを特徴とする非ハロゲン難燃性樹脂組成物の製造方法である。
【0012】
請求項6の発明は、請求項1〜4いずれかに記載の非ハロゲン難燃性樹脂組成物を絶縁体やシースに用いたことを特徴とする電線・ケーブルである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、動的架橋技術を用いてエチレン−酢酸ビニル共重合体マトリックス中に分散相として、エチレン−酢酸ビニル共重合体を用い、(C)金属水酸化物、(E)ヒドラジン系化合物を分散相に高充填し、更に(D)リン系化合物、(F)亜鉛系化合物を連続相に充填することで高い難燃性を有する非ハロゲン難燃性樹脂組成物を作製するもので、これにより、ワイヤ形成後に電子線で架橋することなく、高い機械的強度及び耐熱性を有し、かつ難燃剤を高充填しても高速押出可能でかつ、良好な伸びを示す非ハロゲン難燃性樹脂組成物及びその製造方法並びにこれを用いた電線・ケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明が適応される電線の詳細断面図である。
【図2】本発明が適応されるケーブルの詳細断面図である。
【図3】本発明が適応されるケーブルの詳細断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0016】
まず、本発明の非ハロゲン難燃性樹脂組成物が適用される電線・ケーブルについて、図1〜図3により説明する。
【0017】
図1は、銅導体1に、非ハロゲン難燃性樹脂組成物からなる絶縁体2を被覆した電線10を示している。
【0018】
図2は、図1に示した電線10を3本撚り合わせ、その外周に、非ハロゲン難燃性樹脂組成物からなるシース3を被覆したケーブル20を示している。
【0019】
図3は、図1に示した電線10を複数本(図では4本)を撚り合わせ介在4を介して押さえ巻きテープ5を施してコア6を形成し、そのコア6の外周に、非ハロゲン難燃性樹脂組成物からなるシース7を被覆したケーブル30を示している。
【0020】
図1〜図3に示した非ハロゲン難燃性樹脂組成物からなる絶縁体2,シース3,7は押出成形により被覆される。
【0021】
本発明は、動的架橋技術を用いてエチレン−酢酸ビニル共重合体マトリックス中に分散相としてエチレン−酢酸ビニル共重合体を用いることで、分散相に(C)金属水酸化物、(E)ビドラジン系化合物を高充填し脱水効果により初期着火時の難燃性を向上させ、連続相に(D)リン系化合物、(F)亜鉛系化合物を充填しチャー生成を促進し、燃焼拡散を抑制することでVW−1試験の合格を達成する。
【0022】
また、本発明は、最初に、シラングラフトされた(A)酢酸ビニル含有量が30mass%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体と、(B)エチレン−酢酸ビニル共重合体と、(C)金属水酸化物と、(E)ヒドラジン系化合物と、シラノール縮合触媒とを混練しながらシラン架橋することにより、シラン架橋されたエチレン−酢酸ビニル共重合体からなる分散相に、(C)金属水酸化物、(E)ヒドラジン系化合物を高充填することができ、その後、(D)リン系化合物と、(F)亜鉛系化合物とを加えて混練することにより、連続相に(D)リン系化合物と(F)亜鉛系化合物を充填させることができる。これは、一般的にフィラーは粘度の低い方に分散するので、(D)リン系化合物と(F)亜鉛系化合物が架橋されていない(架橋されている分散相に対して粘度の低い)連続相に分散するものと考えられる。
【0023】
(A)成分のエチレン−酢酸ビニル共重合体としては、酢酸ビニル含有量30mass%未満では優れた難燃性を得ることが出来ない。(A)成分40質量部未満の場合、十分な架橋度が得られず耐熱性が劣る。また、80質量部より多い場合、溶融流れ性が悪く、押出成形などをした際の外観が悪化する。
【0024】
(B)成分のエチレン−酢酸ビニル共重合体は、20質量部以下では十分な機械的強度と伸びが得られない、60質量部以上では十分な難燃性を得ることが出来ない。(B)成分としてのエチレン−酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル含有量は特に規定せず、任意のものを用いることができる。
【0025】
(C)成分の金属水酸化物が、(A)と(B)の合計100質量部に対して、150質量部未満の場合、優れた難燃性を得ることが出来ず、一方250質量部より多いと、混練が著しく困難であると共に機械的強度が低下する。
【0026】
(D)成分のリン系化合物が、(A)と(B)の合計100質量部に対して5質量部未満だと、十分な難燃性を得ることが出来ず、一方30質量部より多いと機械的強度が低下する。
【0027】
リン系化合物としては、赤リン、ホスファゼン(リンと窒素を構成元素とする化合物)等をを挙げることができる。リン系化合物の含有量は15mass%以上が好ましい。
【0028】
(E)成分のヒドラジン系化合物が(A)と(B)の合計100質量部に対して10質量部未満だと十分な難燃性を得ることが出来ず、40質量部より多いと機械的強度が低下し、外観も悪くなる。
【0029】
ヒドラジン化合物としては、メラミンシアヌレート等を挙げることができる。
【0030】
(F)成分の亜鉛系化合物が(A)と(B)の合計100質量部に対して1質量部未満だと、十分な難燃性と外観を得ることが出来ず、一方10質量部より多いと外観が悪くなる。
【0031】
亜鉛化合物としてはスズ酸亜鉛等を挙げることができる。
【0032】
シラングラフトされた(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体に用いるシラン化合物には、ポリマと反応可能な基とシラノール縮合により架橋を形成するアルコキシ基をともに有していることが要求され、具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン等のビニルシラン化合物、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン化合物、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等のエポキシシラン化合物、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリルシラン化合物、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィド、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィドなどのポリスルフィドシラン化合物、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシランなどのメルカプトシラン化合物等を挙げることができる。
【0033】
シラン化合物を共重合させるにはベースのEVAに所定量のシラン化合物、フリーラジカル発生剤を溶融混練する方法を用いることができる。
【0034】
フリーラジカル発生剤としては、ジクミルパーオキサイドなどの有機過酸化物が主として使用できる。シラン化合物の添加量は、特に規定しないが良好な物性を得るためにはEVA100質量部に対して、0.5〜10.0質量部が好適である。0.5質量部より少ないと十分な架橋効果が得られず、組成物の強度、耐熱性が劣る。10.0質量部を超えると加工性が著しく低下する。
【0035】
また、フリーラジカル発生剤である有機過酸化物の最適な量は、EVA100質量部に対して0.001〜3.0質量部である。0.001質量部より少ないとシラン化合物が十分に共重合せず十分な架橋効果が得られない。3.0質量部を超えるとEVAのスコーチが起きやすくなる。
【0036】
(C)成分である金属酸化物は、水酸化マグネシウムがもっとも難燃性が優れているが、水酸化アルミニウムや水酸化カルシウムを用いても良い。また、これらの金属水酸化物は、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、ステアリン酸やステアリン酸カルシウム等の脂肪酸又は、脂肪酸金属塩等によって表面処理されていることが望ましい。
【0037】
金属水酸化物を表面処理することにより、シラングラフトポリマとの密着性を向上でき、分散層への高充填化を図ることができる。
【0038】
使用できるシラン系カップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン等のビニルシラン化合物、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン化合物、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等のエポキシシラン化合物、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリルシラン化合物、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィド、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィドなどのポリスルフィドシラン化合物、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシランなどのメルカプトシラン化合物が挙げられる。
【0039】
これらの表面処理剤を金属水酸化物に処理させる方法としては湿式法、乾式法、直接混練法などの既知のものを用いてよい。
【0040】
処理量は特に規定しないが金属水酸化物に対して、0.1〜5mass%の範囲であることが望ましく、処理量が0.1mass%より少ないと樹脂組成物の強度が低下し、5mass%より多いと加工性が悪くなる。
【0041】
また金属水酸化物の平均粒子径は、機械的特性、分散性、難燃性の点から4μm以下のものがより好適である。
【0042】
また、本発明においてシラン架橋剤として用いることのできるシラノール縮合触媒は、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオクタエート、酢酸第1錫、カプリル酸第1錫、カプリル酸亜鉛、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト等があり、その添加量は触媒の種類によるが、(A)と(B)の合計100質量部当たり0.001〜0.1質量部に設定される。
【0043】
添加方法としては、そのまま添加する方法以外にエチレン−酢酸ビニル共重合体やエチレン−エチルアクリルレート共重合体に予め混ぜたマスターバッチを使用する方法などがある。
【0044】
上記以外にも必要に応じてプロセス油、加工助剤、難燃助剤、架橋剤、架橋助剤、酸化防止剤、滑剤、無機充填剤、相溶化剤、安定剤、カーボンブラック、着色剤等の添加物を加えることも可能である。
【0045】
本発明の組成物を製造する装置に限定は無いが、ニーダー、バンバリーミキサー、ロール、二軸押出機などの汎用のものが使用できる。
【実施例】
【0046】
次に本発明の実施例1〜28を比較例1〜16と共に説明する。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

材料は、二軸押出機にて(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体を主フィーダから供給し、シラン化合物をグラフト重合させた後、(B)エチレン−酢酸ビニル共重合体をサイドフィーダから供給、混練しベースポリマを作製する。前記混練物に(C)金属水酸化物、(D)リン系化合物、(E)ヒドラジン系化合物、(F)亜鉛系化合物、シラノール縮合触媒等の配合剤をニーダにて混練し、エチレン酢酸ビニル共重合体をシラン架橋させる工程によって作製する。
【0050】
(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体にシラン化合物をグラフト共重合させた後、(B)エチレン−酢酸ビニル共重合体を混練する工程では、原料の(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル含有量42mass%)/ビニルトリメトキシシラン/ジクミルパーオキサイド/(B)エチレン−酢酸ビニル共重合体を70/3.5/0.02/30質量部の比率で、200℃に設定した40mmの二軸押出機(L/D=60)に投入した。(B)エチレン−酢酸ビニル共重合体は、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体のシラン化合物によるグラフト反応が進んだ後にサイドから投入する。
【0051】
次に表1〜表3の各例に示した配合比となるように各成分をワンダーニーダ(55L)に投入することで混練し、混練中にグラフト共重合させたエチレン−酢酸ビニル共重合体を架橋させることで混練物を作製した。
【0052】
チャンバ温度は120℃〜160℃とし、エチレン−酢酸ビニル共重合体にシラン化合物をグラフト共重合させた後、シラングラフトされていないエチレン−酢酸ビニル共重合体、金属水酸化物、ヒドラジン系化合物を一括してワンダーニーダーに投入する。金属水酸化物の投入は、一括もしくは多分割投入しても差し支えない。十分に混練−分散した後、樹脂温度が150℃〜170℃に達した段階でシラノール縮合触媒を投入・混練し、シラングラフトされたエチレン−酢酸ビニル共重合体をシラン架橋させ、その後、(D)リン系化合物と(F)亜鉛系化合物を混練し、樹脂温度が180℃〜190℃に達した段階でこれをペレット化し、ワイヤ作製用の材料とした。
【0053】
ワイヤは20mm押出機を用い、芯線外径0.61mmの銅導体に厚さ0.25mmで押出被覆して作製した。
【0054】
上記手順で作製したワイヤを次に示す方法で評価した。
【0055】
機械的強度はJIS C3005に準拠して評価した。引張強さ8.27MPa以上、破断伸び100%以上を合格とした。
【0056】
耐熱性は、136℃で168時間保持した後、引張強さと伸びの残率が75%以上であるものをそれぞれ合格とした。
【0057】
引張強さと伸びの残率は、作製したワイヤの芯線を抜き、管状でJISC3005に準拠して測定した。
【0058】
難燃性評価にはUL(電線、ケーブルおよびフレキシブルコードのための関連規格(Reference Standard for Electrical Wires, Cables,and Flexible Cords))に規定されているVW−1試験(Vehical Flame Test)を行った。VW−1試験では、ワイヤを垂直に固定し、メタンガスを用いてワイヤ下部に15秒炎をあて、60秒後に引火点より50cm上部に設置したフラッグに炎が到達せずかつ自然消火したものを5回繰り返し、5回とも60秒以内に自然消火及びフラッグに炎が到達していないものを合格とした。
【0059】
表1、表2に示すように、実施例1〜28は、機械的強度、押出外観、難燃性共に良好である。
【0060】
これに対して、表3の比較例1〜3に示すように、(A)に酢酸ビニル含有量が30mass%未満のエチレン−酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル含有量14mass%)を用いると、難燃性が低下し、VW−1試験に合格しない。
【0061】
また比較例4は、(A)酢酸ビニル含有量が30mass%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体が40質量部未満の35質量部であり、難燃性が低下し、VW−1試験に合格しない。比較例5は、(A)酢酸ビニル含有量が30mass%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体が80質量部を超える90質量部であり、押出外観が著しく悪化する。
【0062】
比較例6,7は、(B)にエチレン−酢酸ビニル共重合体以外の例えば、ポリプロピレン、低鎖状低密度ポリエチレンを用いた例であるが、難燃性が低下し、VW−1試験に合格しない。
【0063】
比較例8は、(C)金属水酸化物が(A)と(B)の合計100質量部に対して150質量部未満(120質量部)であり、難燃性が低下し、VW−1試験に合格しない。比較例9は、(C)金属水酸化物が(A)と(B)の合計100質量部に対して250質量部を超える(300質量部)ため、混練が著しく困難となり、押出被覆ができなかった。
【0064】
比較例10は、(D)リン系化合物が(A)と(B)の合計100質量部に対して5質量部未満の未添加であり、難燃性が低下し、VW−1試験に合格できない。比較例11は、(D)リン系化合物が(A)と(B)の合計100質量部に対して30質量部を超える(50質量部)ため、押出外観が低下する。
【0065】
比較例12は、(E)ヒドラジン系化合物であるメラミンシアヌレートが(A)と(B)の合計100質量部に対して10質量部未満の未添加であり、難燃性が低下し、VW−1試験に合格しない。比較例13は、(E)ヒドラジン系化合物(メラミンシアヌレート)が(A)と(B)の合計100質量部に対して40質量部以上(60質量部)であり、機械的強度が低下、押出外観も悪くなり、不合格となる。
【0066】
比較例14は、(F)亜鉛系化合物の合計が(A)と(B)の合計100質量部に対して1質量部以下の未添加であり、難燃性が低下し、VW−1試験に合格しない。比較例15は、(F)亜鉛系化合物の合計が(A)と(B)の合計100質量部に対して10質量部を超える15質量部であり、押出外観が悪化する。
【0067】
比較例16は、(D)リン系化合物、(E)ヒドラジン系化合物、(F)亜鉛系化合物のいずれも加えなため、十分な難燃性が得られずVW−1試験に合格しない。
【0068】
以上より、本発明で規定した範囲のものとすることで、機械的特性と、押出外観性と、十分な難燃性を有しVW−1試験に合格するワイヤとすることができる。
【0069】
本発明に係る樹脂組成物以外にも必要に応じてプロセス油、加工助剤、難燃助剤、架橋剤、酸化防止剤、滑剤、無機充填剤、相溶化剤、安定剤、カーボンブラック、着色剤等の添加物を加えることも可能である。
【0070】
難燃効果を更に向上させるために、リン系難燃剤を(A)若しくは(B)エチレン−酢酸ビニル共重合体にグラフト反応をさせることも可能である。
【0071】
混練中の混練機のモータ負荷を低減させるために、ポリメチルメタクリレートなどの滑剤を混練することも可能である。ポリメチルメタクリレートの添加量は、(A)酢酸ビニル含有量が30mass%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体と(B)エチレン−酢酸ビニル共重合体の合計100質量部に対して、0.1〜10質量部が適している。
【符号の説明】
【0072】
1 銅導体
2 絶縁体
3、7 シース
10 電線
20、30 ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)酢酸ビニル含有量が30mass%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体40〜80質量部、(B)エチレン−酢酸ビニル共重合体60〜20質量部、(C)金属水酸化物が(A)と(B)の合計100質量部に対して150〜250質量部、(D)リン系化合物が(A)と(B)の合計100質量部に対して5〜30質量部、(E)ヒドラジン系化合物が(A)と(B)の合計100質量部に対して10〜40質量部、(F)亜鉛系化合物が(A)と(B)の合計100質量部に対して1〜10質量部含有してなることを特徴とする非ハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
(A)酢酸ビニル含有量が30mass%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体がシラン架橋されている請求項1記載の非ハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
(B)エチレン−酢酸ビニル共重合体の相中に(A)酢酸ビニル含有量が30mass%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体が分散している請求項1又は2に記載の非ハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
(C)金属水酸化物が、水酸化マグネシウム若しくは水酸化アルミニウムからなる請求項1記載の非ハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載の樹脂組成物を製造する方法において、シラングラフトされた(A)酢酸ビニル含有量が30mass%以上のエチレン−共重合体と、(B)エチレン−酢酸ビニル共重合体と、(C)金属水酸化物と、(E)ヒドラジン系化合物と、シラノール縮合触媒とを混練しながらシラン架橋した後、(D)リン系化合物と(F)亜鉛系化合物とを加えて混練することを特徴とする非ハロゲン難燃性樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4いずれかに記載の非ハロゲン難燃性樹脂組成物を絶縁体やシースに用いたことを特徴とする電線・ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−80020(P2011−80020A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235640(P2009−235640)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】