説明

面発光レーザ素子、原子発振器及び面発光レーザ素子の検査方法

【課題】所定の波長を出射する面発光レーザ素子の歩留りを向上させる。
【解決手段】基板の上に形成された下部DBRと、前記下部DBRの上に形成された活性層と、前記活性層の上に形成された上部DBRと、を有し、前記活性層より上部に形成された波長調整層を含み、前記波長調整層の厚さを変えることにより、異なる波長を各々出射する複数の面発光レーザを有するものであって、前記波長調整層はGaInPとGaAsPとを交互に積層した膜、または、GaInPとGaAsとを交互に積層した膜により形成されているものであって、前記積層した膜の一部を各々の層ごとに除去することにより、前記波長調整層の膜厚を変えたものであることを特徴とする面発光レーザ素子を提供することにより上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面発光レーザ素子、原子発振器及び面発光レーザ素子の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
面発光レーザ(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting LASER)は、基板面に対し垂直方向に光を出射する半導体レーザであり、端面発光型の半導体レーザと比較して、低価格、低消費電力、小型であって高性能であること、また2次元的に集積化しやすいといった特徴を有している。
【0003】
面発光レーザは、活性層を含む共振器領域と、共振器領域の上下に設けられた上部反射鏡及び下部反射鏡とからなる共振器構造を有している(例えば、特許文献1)。よって、共振器領域は、発振波長λの光を得るために、共振器領域において波長λの光が共振するように所定の光学的な厚さで形成されている。上部反射鏡及び下部反射鏡は、屈折率の異なる材料、即ち、低屈折率材料と高屈折率材料とを交互に積層形成することにより形成されており、波長λにおいて高い反射率が得られるように、低屈折率材料と高屈折率材料の光学的な膜厚がλ/4となるように形成されている。また、チップ内に波長の異なる素子を形成することも提案されている(例えば、特許文献2〜4、6)。
【0004】
また、極めて正確な時間を計る時計として原子時計(原子発振器)があり、この原子時計を小型化する技術等の検討がなされている。原子時計とは、アルカリ金属等の原子を構成している電子の遷移エネルギー量を基準とする発振器であり、特に、アルカリ金属の原子における電子の遷移エネルギーは外乱がない状態では、非常に精密な値が得られるため、水晶発振器に比べて、数桁高い周波数安定性を得ることができる。
【0005】
このような原子時計には、幾つかの方式があるが、中でも、CPT(Coherent Population Trapping)方式の原子時計は、従来の水晶発振器に比べて周波数安定性が3桁程度高く、また、超小型、超低消費電力を望むことができる(例えば、非特許文献1、2、特許文献5)。
【0006】
CPT方式の原子時計では、図1に示すように、レーザ素子910と、アルカリ金属を封入したセル940と、セル940を透過したレーザ光を受光する受光素子950とを有しており、レーザ光は変調され、特定波長である搬送波の両側に出現するサイドバンド波長により、アルカリ金属原子における電子の2つの遷移を同時に行ない、励起する。この遷移における遷移エネルギーは不変であり、レーザ光のサイドバンド波長と遷移エネルギーに対応する波長とが一致したときに、アルカリ金属における光の吸収率が低下する透明化現象が生じる。このように、アルカリ金属による光の吸収率が低下するように、搬送波の波長を調整するとともに、受光素子950において検出された信号を変調器960にフィードバックし、変調器960によりレーザ素子910からのレーザ光の変調周波数を調整することを特徴とした原子時計である。尚、この原子時計では、レーザ素子910から出射されたレーザ光は、コリメートレンズ920、λ/4波長板930を介し、アルカリ金属を封入したセル940に照射される。
【0007】
このような超小型の原子時計の光源としては、小型で超低消費電力であり、波長品質の高い面発光レーザが適しており、搬送波の波長精度としては、特定波長に対し±1nmが求められる(例えば、非特許文献3)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、面発光レーザは、製造時における半導体層の成長速度のバラツキ、膜厚の分布ムラ等の影響により、同じ波長で発振する面発光レーザを大量に生産することは困難であり、製造される面発光レーザの再現性及び均一性において問題を有していた。具体的には、通常のMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)装置、または、MBE(Molecular Beam Epitaxy)装置により成膜された膜は、膜厚均一性が1%〜2%程度であり、波長850nmと同じ膜厚の膜を成膜した場合には、8.5nm〜17nmの面内分布が生じてしまう。よって、波長に対し±1nm程度が求められる用途においては、歩留りが低くなるので高コストとなってしまう。
【0009】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、所定の波長の光を出射する面発光レーザを有する面発光レーザ素子を低コストで提供することを目的とするものであり、更には、低コストで高精度な原子発振器を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、基板の上に形成された下部DBRと、前記下部DBRの上に形成された活性層と、前記活性層の上に形成された上部DBRと、を有し、前記活性層より上部に形成された波長調整層を含み、前記波長調整層の厚さを変えることにより、異なる波長を各々出射する複数の面発光レーザを有するものであって、前記波長調整層はGaInPとGaAsPとを交互に積層した膜、または、GaInPとGaAsとを交互に積層した膜により形成されているものであって、前記積層した膜の一部を各々の層ごとに除去することにより、前記波長調整層の膜厚を変えたものであることを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、前記波長調整層における前記積層した膜の除去はウエットエッチングにより行なわれるものであって、前記GaInPを除去するエッチングするための第1のエッチング液と、前記GaAsPまたは前記GaAsをエッチングするための第2のエッチング液とが異なるものであることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、前記GaInPは圧縮歪を有する組成であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、前記活性層と前記波長調整層との間にはコンタクト層が形成されており、一方の電極は、前記コンタクト層と接続されていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、基板の上に形成された下部DBRと、前記下部DBRの上に形成された活性層と、前記活性層の上に形成された上部DBRと、を有し、前記活性層より上部に形成された波長調整層を含み、前記波長調整層の厚さを変えることにより、異なる波長を各々出射する複数の面発光レーザを有するものであって、前記活性層と前記波長調整層との間にはコンタクト層が形成されており、一方の電極は、前記コンタクト層と接続されていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、前記コンタクト層は、GaAsを含む材料により形成されているものであることを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、前記上部DBRの少なくとも一部は屈折率の異なる誘電体を交互に積層形成することにより形成されたものであることを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、前記誘電体は、酸化物、窒化物、フッ化物を含むものであることを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、前記複数の面発光レーザは、すべて異なる波長の光を出射するものであることを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、前記複数の面発光レーザは、同じ波長の光を出射する面発光レーザを複数有していることを特徴とする。
【0020】
また、本発明は、前記複数の波長のうちいずれか1つは、893.6nm〜895.6nm、851.3nm〜853.3nm、794.0nm〜796.0nm、779.2nm〜781.2nmの範囲に含まれるものであることを特徴とする。
【0021】
また、本発明は、前記活性層は、GaInAsを含むものであることを特徴とする。
【0022】
また、本発明は、前記基板は導電性を有する半導体結晶基板であって、前記下部DBR、前記活性層は、前記波長調整層は、半導体材料をエピタキシャル成長させることにより形成されているものであることを特徴とする。
【0023】
また、本発明は、前記基板の大きさは、500μm×500μmより小さいことを特徴とする。
【0024】
また、本発明は、前記記載の面発光レーザ素子と、アルカリ金属を封入したアルカリ金属セルと、前記面発光レーザ素子における面発光レーザより前記アルカリ金属セルに照射した光のうち、前記アルカリ金属セルを透過した光を検出する光検出器と、を有し、前記面発光レーザより出射したサイドバンドを含む光のうち、2つの異なる波長の光を前記アルカリ金属セルに同時に入射させることにより、2種類の共鳴光による量子干渉効果による光吸収特性により発振周波数を制御することを特徴とする。
【0025】
また、本発明は、前記2つの異なる波長の光は、ともに前記面発光レーザより出射したサイドバンドの光であることを特徴とする。
【0026】
また、本発明は、前記アルカリ金属は、ルビジウム、または、セシウムであることを特徴とする。
【0027】
また、本発明は、前記記載の原子発振器に用いられる面発光レーザ素子の検査方法であって、面発光レーザ素子における複数の面発光レーザをあらかじめ設定しておいた動作条件において順次発光させ、前記面発光レーザにおける発光波長を計測し、複数の前記面発光レーザのうち、所定の波長に最も近い発光波長の面発光レーザを選択することを特徴とする。
【0028】
また、本発明は、前記記載の原子発振器に用いられる面発光レーザ素子の検査方法であって、面発光レーザ素子における複数の面発光レーザにおいて、前記面発光レーザにおける波長調整層の層数から各面発光レーザごとの波長間隔をあらかじめ推定し、前記面発光レーザ素子のうちの1の面発光レーザをあらかじめ設定しておいた動作条件において発光させ、前記面発光レーザにおける発光波長を計測し、推定された前記波長間隔と計測された前記1の面発光レーザの発光波長より、前記面発光レーザ素子のうちの他の面発光レーザの発光波長を推定し、測定または推定された前記発光波長に基づき、複数の前記面発光レーザのうち、所定の波長に最も近い発光波長の面発光レーザを選択することを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、所定の波長の光を出射する面発光レーザを有する面発光レーザ素子を低コストで提供することができる。また、低コストで高精度な原子発振器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】原子発振器の構造図
【図2】第1の実施の形態における面発光レーザ素子の上面図
【図3】第1の実施の形態における面発光レーザ素子の説明図
【図4】第1の実施の形態における面発光レーザ素子の製造方法の説明図(1)
【図5】第1の実施の形態における面発光レーザ素子の製造方法の説明図(2)
【図6】第1の実施の形態における面発光レーザ素子の製造方法の説明図(3)
【図7】第1の実施の形態における面発光レーザ素子の構造図
【図8】第2の実施の形態における面発光レーザ素子の上面図
【図9】第3の実施の形態における面発光レーザ素子の上面図
【図10】第4の実施の形態における原子発振器の構造図
【図11】CPT方式を説明する原子エネルギー準位の説明図
【図12】面発光レーザ変調時における出力波長の説明図
【図13】変調周波数と透過光量との相関図
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明を実施するための形態について、以下に説明する。尚、同じ部材等については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0032】
〔第1の実施の形態〕
(面発光レーザ素子の構造)
第1の実施の形態における面発光レーザ素子について説明する。本実施の形態における面発光レーザ素子10は、図2及び図3に示すように、複数の面発光レーザを有しており、具体的には、第1の面発光レーザ11、第2の面発光レーザ12、第3の面発光レーザ13、第4の面発光レーザ14を有している。尚、図3は本実施の形態の説明のため簡略化されており、便宜上コンタク層等の記載は省略されている。
【0033】
本実施の形態における面発光レーザ素子10において、第1の面発光レーザ11、第2の面発光レーザ12、第3の面発光レーザ13、第4の面発光レーザ14は、各々に対応して設けられた電極パッドに接続されている。具体的には、第1の面発光レーザ11には電極パッド21が接続されており、第2の面発光レーザ12には電極パッド22が接続されており、第3の面発光レーザ13には電極パッド23が接続されており、第4の面発光レーザ14には電極パッド24が接続されている。また、第1の面発光レーザ11、第2の面発光レーザ12、第3の面発光レーザ13、第4の面発光レーザ14は、出射される光の波長が相互に異なるものである。即ち、第1の面発光レーザ11より出射される波長λ1、第2の面発光レーザ12より出射される波長λ2、第3の面発光レーザ13より出射される波長λ3、第4の面発光レーザ14より出射される波長λ4は、相互に異なる波長である。
【0034】
このように波長λ1から波長λ4を相互に異なるものとするため、図3に示すように、第1の面発光レーザ11から第4の面発光レーザ14において、活性層103と上部DBR104との間に膜厚の異なる波長調整層110を形成する。即ち、基板101上に下部DBR102を形成し、下部DBR102上に活性層103、波長調整層110及び上部DBR104を形成したものにおいて、各々の面発光レーザから出射される波長の光は、下部DBR102と上部DBR104との間における共振器領域の厚さに依存して定まる。従って、図3では、共振器領域は活性層103と波長調整層110とにより形成されるため、各々の面発光レーザごとに波長調整層110の厚さを異なる厚さとすることにより、各々の面発光レーザにおける共振器領域の厚さを変えることができ、各々の面発光レーザから出射される光の波長を異なる波長とすることができる。
【0035】
具体的には、半導体等からなる基板101上に、屈折率の異なる半導体材料を交互に積層形成することにより、下部DBR102を形成し、下部DBR102上には、所定の厚さの活性層103を形成する。活性層103上には、各々の半導体レーザにより厚さが異なる波長調整層110を形成する。波長調整層110は、活性層103上より、第1の調整層111、第2の調整層112、第3の調整層113、第4の調整層114が積層して形成されているものであり、第1の調整層111と第3の調整層113は同じ材料により形成されており、第2の調整層112と第4の調整層114は同じ材料で形成されている。具体的には、第1の調整層111から第4の調整層114を形成する2種類の材料は、一方がGaInPにより形成されており、他方がGaAsPまたはGaAsにより形成されている。尚、基板101上に形成される半導体層となる下部DBR102、活性層103及び波長調整層110は、半導体材料をエピタキシャル成長させることにより形成されている。
【0036】
また、波長調整層110の上には、上部DBR104が各々の面発光レーザごとに形成されている。上部DBR104は、酸化物、窒化物、フッ化物等からなる誘電体膜であって高屈折率材料膜と低屈折率材料膜とを交互に積層形成することにより形成されている。尚、本実施の形態では、下部DBR102及び上部DBR104はミラーとしての機能を有するものであるため、下部DBRを下部反射鏡と記載し、上部DBRを上部反射鏡と記載する場合がある。
【0037】
ここで、第1の面発光レーザ11では、波長調整層110において、第1の調整層111、第2の調整層112、第3の調整層113、第4の調整層114が形成されており、第1の調整層111、第2の調整層112、第3の調整層113、第4の調整層114と活性層103により共振器領域が形成される。よって、第1の面発光レーザ11は、第1の面発光レーザ11における共振器領域の厚さに対応した波長λ1の光が出射される。
【0038】
また、第2の面発光レーザ12では、波長調整層110のうち、第1の調整層111、第2の調整層112、第3の調整層113が形成されており、第1の調整層111、第2の調整層112、第3の調整層113と活性層103により共振器領域が形成される。よって、第2の面発光レーザ12は、第2の面発光レーザ12における共振器領域の厚さに対応した波長λ2の光が出射される。
【0039】
また、第3の面発光レーザ13では、波長調整層110のうち、第1の調整層111、第2の調整層112が形成されており、第1の調整層111、第2の調整層112と活性層103により共振器領域が形成される。よって、第3の面発光レーザ13は、第3の面発光レーザ13における共振器領域の厚さに対応した波長λ3の光が出射される。
【0040】
また、第4の面発光レーザ14では、波長調整層110のうち、第1の調整層111が形成されており、第1の調整層111と活性層103により共振器領域が形成される。よって、第4の面発光レーザ14は、第4の面発光レーザ14における共振器領域の厚さに対応した波長λ4の光が出射される。
【0041】
以上により、本実施の形態における面発光レーザ素子では、1つの基板101において、波長の異なる光を出射する複数の面発光レーザを形成することができる。これにより、面発光レーザ素子を製造する際に半導体層等において膜厚変動が生じた場合であっても、所望の波長に最も近い波長の光を出射するものを第1の面発光レーザ11から第4の面発光レーザ14のうちから選ぶことにより、所望の波長の半導体レーザを容易に得ることができる。これにより、所定の波長で発光する面発光レーザを有する面発光レーザ素子を低コストで製造することができる。
【0042】
尚、適した波長を有する面発光レーザ素子を選別する検査方法であるが、チップ内全面発光レーザ素子をあらかじめ設定しておいた動作条件において順次発光させ、発光波長を計測し、チップごとにあらかじめ設定しておいた特定波長に最も近い、適した面発光レーザ素子を選別することができる。
【0043】
また、各面発光レーザ素子ごとに波長調整層の層数があらかじめわかっているので各面発光レーザ素子ごとの波長間隔をあらかじめ推定し、チップ内の特定の一つの面発光レーザ素子のみ波長を測定することで残りの面発光レーザ素子の波長を推定し、適した面発光レーザ素子を選別する方法を用いることもできる。
【0044】
(面発光レーザ素子における波長調整層の形成方法)
次に、本実施の形態における面発光レーザ素子における波長調整層の形成方法について説明する。
【0045】
最初に、図4(a)に示すように、基板101上に、半導体材料からなる下部DBR102、活性層103、波長調整層110をMOCVDまたはMBEによるエピタキシャル成長させることにより形成する。尚、波長調整層110は第1の調整層111、第2の調整層112、第3の調整層113、第4の調整層114を積層することにより形成されている。ここで、第1の調整層111及び第3の調整層113は、GaInPにより形成されており、第2の調整層112及び第4の調整層114は、GaAsPにより形成されている。また、本実施の形態では、共振器領域の光学的な厚さが発振波長λに対し、3λとなるように形成されている。
【0046】
次に、図4(b)に示すように、第1の面発光レーザ11が形成される領域にレジストパターン151を形成する。具体的には、波長調整層110の第4の調整層114上にフォトレジストを塗布し、露光装置による露光、現像を行なうことにより、レジストパターン151を形成する。
【0047】
次に、図4(c)に示すように、レジストパターン151の形成されていない領域の第4の調整層114をウエットエッチングにより除去する。具体的には、第4の調整層114は、GaAsPにより形成されているため、硫酸と過酸化水素と水の混合液によりウエットエッチングを行なう。これによりレジストパターン151が形成されていない領域の第4の調整層114のみを除去し、第3の調整層113の表面を露出させる。尚、この混合液はGaAsPをエッチングすることはできるが、第3の調整層113を形成しているGaInPは殆どエッチングすることができないものである。この混合液を第1のエッチング液と記載する場合がある。この後、有機溶剤等によりレジストパターン151を除去する。
【0048】
次に、図5(a)に示すように、第1の面発光レーザ11及び第2の面発光レーザ12が形成される領域にレジストパターン152を形成する。具体的には、波長調整層110の第4の調整層114及び第3の調整層113上にフォトレジストを塗布し、露光装置による露光、現像を行なうことにより、レジストパターン152を形成する。
【0049】
次に、図5(b)に示すように、レジストパターン152の形成されていない領域の第3の調整層113をウエットエッチングにより除去する。具体的には、第3の調整層113は、GaInPにより形成されているため、塩酸と水の混合液によりウエットエッチングを行なう。これによりレジストパターン152が形成されていない領域の第3の調整層113のみを除去し、第2の調整層112の表面を露出させる。尚、この混合液はGaInPをエッチングすることはできるが、第2の調整層112を形成しているGaAsPは殆どエッチングすることができないものである。この混合液は第2のエッチング液とも記載する場合がある。この後、有機溶剤等によりレジストパターン152を除去する。
【0050】
次に、図5(c)に示すように、第1の面発光レーザ11、第2の面発光レーザ12及び第3の面発光レーザ13が形成される領域にレジストパターン153を形成する。具体的には、波長調整層110の第4の調整層114、第3の調整層113及び第2の調整層112上にフォトレジストを塗布し、露光装置による露光、現像を行なうことにより、レジストパターン153を形成する。
【0051】
次に、図6(a)に示すように、レジストパターン153の形成されていない領域の第2の調整層112をウエットエッチングにより除去する。具体的には、第1のエッチング液によりレジストパターン153の形成されていない領域の第2の調整層112を除去する。これによりレジストパターン153が形成されていない領域の第2の調整層112のみを除去し、第1の調整層111の表面を露出させる。この後、有機溶剤等によりレジストパターン153を除去する。
【0052】
次に、図6(b)に示すように、上部DBR104を形成する。具体的には、スパッタリング等により、酸化物、窒化物、フッ化物等からなる高屈折率材料からなる誘電体膜と低屈折率材料からなる誘電体膜とを所定の膜厚ごとに交互に積層することにより形成する。
【0053】
これにより、本実施の形態における面発光レーザ素子における波長調整層110及び上部DBRを形成することができる。
【0054】
本実施の形態においては、特許文献3、6とは異なり、波長調整層110となる第1の調整層111、第2の調整層112、第3の調整層113、第4の調整層114には、Alを含んでいないため、エッチング後に酸化等がされにくく、エッチング後もきれいな表面状態を維持することができる。即ち、Alは極めて腐食されやすいため、Alを含んだ材料により第1の調整層111、第2の調整層112、第3の調整層113、第4の調整層114のいずれかを形成した場合、ウエットエッチング等を行なった後の表面状態は劣悪なものとなり、この上に上部DBR104を形成しても、剥がれてしまう場合や、共振器領域の厚さが不均一となる場合等がある。しかしながら、本実施の形態における面発光レーザ素子では、波長調整層110はAlを含まない材料により形成されているため、Alの腐食等が生じることはなく、このような問題が生じることはない。
【0055】
また、本実施の形態では、波長調整層上の上部DBRには誘電体材料を用いている。特許文献3、6のように、エピウエハを加工(波長調整層を加工)してから、上部DBRを再成長させて形成する場合、再成長層においてエッチングの段差上の平坦性や結晶性が悪い等の不具合が生じる。波長調整層にAlを含んでいる場合は酸化の影響もあり不具合は大きい。これに比べ、本実施の形態においては、波長調整層を加工する場合においても、上部DBRが誘電体により形成されているため、このような不具合が生じることはない。
【0056】
また、本実施の形態においては、波長調整層110は、GaAsPとGaInPとを交互に形成したものであり、ウエットエッチングを行う際には、相互に一方はエッチングをすることができるが他方をエッチングすることができない2種類のエッチング液を用いてエッチングを行なっている。このような2種類のエッチング液を用いてエッチングを行なうことにより、エッチング後の表面は平坦になり、オーバーエッチングされることなく所定の厚さで形成することができる。これにより、特性の安定した面発光レーザ素子を得ることができる。また、GaAsPはGaAs基板に対して引っ張り歪を有しているので、歪補償の観点からGaInPは圧縮歪組成とするとよい。
【0057】
(面発光レーザ素子)
次に、図7に基づき、本実施の形態における面発光レーザ素子についてより詳細に説明する。図7は、図2における一点鎖線2A−2Bにおいて切断した断面図である。この面発光レーザ素子は、電流狭窄層となるAlAs層を選択酸化し電流狭窄構造を形成したものであり、発振波長が894.6nmの面発光レーザである。具体的には、300μm角の半導体チップ(基板)に4つの面発光レーザが形成されているものである。このように、面発光レーザ素子では、狭い領域に複数の面発光レーザを形成することができるため、発光させる面発光レーザを切換えた場合であっても、発光位置は殆ど変わらない。従って、光軸調整等が不要または極めて容易となる。このため、基板の大きさとしては、500μm×500μm以下の大きさであることが好ましい。
【0058】
本実施の形態においては、基板101は、n−GaAs基板を用いている。また、下部DBR102は、n−Al0.1Ga0.9As高屈折率層とn−Al0.9Ga0.1As低屈折率層とを各々の層の光学的な膜厚がλ/4となるように35.5ペア積層することにより形成されている。
【0059】
下部DBR102の上には、Al0.2Ga0.8Asからなる下部スペーサ層121を介し、GaInAs量子井戸層/GaInPAs障壁層からなる活性層103が形成されている。活性層103上には、Al0.2Ga0.8Asからなる第1の上部スペーサ層122、AlAsからなる電流狭窄層123、Al0.2Ga0.8Asからなる第2の上部スペーサ層124、p−GaAsからなるコンタクト層125を順次積層することにより形成する。
【0060】
コンタクト層125上には、GaAsPとGaInPとを交互に積層形成することにより、第1の調整層111、第2の調整層112、第3の調整層113、第4の調整層114からなる波長調整層110が形成されており、上述したように、各々の面発光レーザに対応して所定の領域の波長調整層110の一部が除去されている。尚、下部DBR102、下部スペーサ層121、活性層103、第1の上部スペーサ層122、電流狭窄層123、第2の上部スペーサ層124、コンタクト層125、波長調整層110は、MOCVDまたはMBEにより半導体材料をエピタキシャル成長させることにより形成されている。
【0061】
本実施の形態における面発光レーザ素子では、各々の面発光レーザはメサ構造となっており、このメサ構造は、形成される面発光レーザ間の半導体層をエッチングすることにより形成される。メサ構造を形成した後、水蒸気中で熱処理を行なうことにより、酸化されていない電流狭窄層123をメサ構造の周囲より酸化し、周辺部分の選択酸化領域123a(酸化されている領域)と中心部分の酸化されていない電流狭窄領域123bとが形成される。つまり、電流狭窄層123は、酸化された選択酸化領域123aと、酸化されていない電流狭窄領域123bとから構成され、電流狭窄構造となる。本実施の形態では、メサ構造の形状を上部より見た形状が円形となるものを示すが、楕円形、正方形、長方形等の形状となるように形成してもよい。
【0062】
この後、全体にSiNからなる保護膜126を形成し、コンタクト層125上において上部電極131が形成される領域を含むメサ上部の保護膜126を除去し、また、各々の面発光レーザに対応してエッチングにより除去された波長調整層110上には、上部DBR104がTiO高屈折率層とSiO低屈折率層とを各々の層の光学的な膜厚がλ/4となるように8.5ペア積層することにより形成されている。尚、上部DBR104は、誘電体材料であって、高屈折率材料と低屈折率材料とを積層して形成したものであればよく、具体的には、酸化物、窒化物、フッ化物等が挙げられる。高屈折率材料としては、TiOの他、Ta、HfO等が挙げられる。また、低屈折率材料としては、SiOの他、MgF等が挙げられる。
【0063】
尚、本実施の形態における面発光レーザ素子では、波長調整層110及び上部DBR104は、各々の面発光レーザにおいてコンタクト層125が形成される領域よりも狭い領域に形成されている。即ち、コンタクト層125の表面の一部が露出するように、波長調整層110及び上部DBR104が形成されている。また、本実施の形態では、下部DBR102と上部DBR104との間に形成される活性層103及び波長調整層110等により共振器領域が形成される。尚、活性層103とコンタクト層125との間に屈折率の異なる半導体層を積層した数ペアのDBRを形成しても良く、波長調整層の効果が得られる。
【0064】
この後、p側電極となる上部電極131を形成する。この上部電極131は、各々の面発光レーザに対応して各々形成されており、各々の上部電極131は、各々電極パッド21〜24と接続されている。また、基板101の裏面にはn側電極となる下部電極132が形成されており、メサ構造とメサ構造との間の溝はポリイミド127により埋められている。尚、下部電極は、イントラキャビティーコンタクト構造等、基板裏面に形成するのみならず、下部DBR102と活性層103との間にコンタクト層を形成し、このコンタクト層と接続するように形成した構造であってもよい。
【0065】
本実施の形態における面発光レーザ素子は、矢印に示す方向に各々の面発光レーザごとに異なる波長のレーザ光を出射する。また、保護膜となるSiNは、メサ構造を形成する際に側面において露出したAlを含む層を覆うため信頼性を向上させる機能を有している。
【0066】
本実施の形態における面発光レーザ素子では、上部DBR104は屈折率の異なる誘電体膜を積層形成することにより形成したものであるため、屈折率が異なる半導体材料を積層形成したものよりも屈折率差を大きくとることができる。これにより、上部DBR104における積層数を減らすことができ、更には、上部DBR104を薄く形成することができる。
【0067】
また、本実施の形態における面発光レーザでは、上部電極131は、上部電極131と接続される各々の面発光レーザにおけるコンタクト層125は波長調整層110の下に形成されている。このため波長調整層110の厚さの影響を受けることなく、各々の面発光レーザに均等に電流を流すことができる。即ち、波長調整層110の上に上部電極131を形成し波長調整層と直接コンタクトした場合では、コンタクトする材料が素子により異なるのでコンタクト抵抗が異なったり、波長調整層110の厚さに依存して各々の面発光レーザに流すことのできる電流量等も変化し、各々の面発光レーザにおける電気的な特性及び発光特性も大きく異なる。また、波長調整層110の上にコンタクト層を形成し、その上に上部電極131を形成した場合では、波長調整層110を構成する各層の界面におけるバンド不連続により電気抵抗が上昇してしまう。しかも界面の数が素子により異なるので、素子により抵抗値も異なってしまう。しかしながら、本実施の形態における面発光レーザ素子では、上部電極131は、波長調整層110の下に形成されたコンタクト層125に接続されているため、これらのことを回避することができる。
【0068】
〔第2の実施の形態〕
次に、第2の実施の形態について説明する。図8に基づき、本実施の形態における面発光レーザ素子について説明する。本実施の形態における面発光レーザ素子200は、基板201上に8個の面発光レーザを有するものであり、各々異なる波長の光を出射するものである。
【0069】
具体的には、本実施の形態における面発光レーザ素子200は、基板201上に第1の面発光レーザ211、第2の面発光レーザ212、第3の面発光レーザ213、第4の面発光レーザ214、第5の面発光レーザ215、第6の面発光レーザ216、第7の面発光レーザ217、第8の面発光レーザ218を有している。第1の面発光レーザ211から第8の面発光レーザ218は、各々電極パッドに接続されている。具体的には、第1の面発光レーザ211には電極パッド221が接続されており、第2の面発光レーザ212には電極パッド222が接続されており、第3の面発光レーザ213には電極パッド223が接続されており、第4の面発光レーザ214には電極パッド224が接続されており、第5の面発光レーザ215には電極パッド225が接続されており、第6の面発光レーザ216には電極パッド226が接続されており、第7の面発光レーザ217には電極パッド227が接続されており、第8の面発光レーザ218には電極パッド228が接続されている。
【0070】
また、第1の面発光レーザ211から第8の面発光レーザ218は、相互に波長が異なっている。即ち、第1の面発光レーザ211より出射される波長λ1、第2の面発光レーザ212より出射される波長λ2、第3の面発光レーザ213より出射される波長λ3、第4の面発光レーザ214より出射される波長λ4、第5の面発光レーザ215より出射される波長λ5、第6の面発光レーザ216より出射される波長λ6、第7の面発光レーザ217より出射される波長λ7、第8の面発光レーザ218より出射される波長λ8は、相互に異なる波長である。このように各々の面発光レーザにおいて異なる波長の光を出射させるために、第1の実施の形態と同様に波長調整層を設け、各々の面発光レーザごとに、波長調整層の厚さを変えて形成している。もちろん、波長調整層内の層数は増やしている。尚、電極バッド221から228の大きさは、各々約50μm角であり、基板201は300μm角の大きさの半導体チップである。
【0071】
本実施の形態における面発光レーザ素子では、より多くの波長より選択することができるため、歩留りをより向上させることができる。また、本実施の形態における面発光レーザ素子では、必要な波長に最も近い波長の素子のみならず、2番目に近い波長の素子を用いてもよく、それを予備の面発光レーザとして用いることで長寿命化させることができる。
【0072】
尚、上記以外の内容については、第1の実施の形態と同様である。
【0073】
〔第3の実施の形態〕
次に、第3の実施の形態について説明する。図9に基づき、本実施の形態における面発光レーザ素子について説明する。本実施の形態における面発光レーザ素子300は、基板301上に8個の面発光レーザを有するものであり、同じ波長を発光する面発光レーザが2個ずつ形成されているものである。
【0074】
具体的には、本実施の形態における面発光レーザ素子300は、基板301上に第1の面発光レーザ311、第2の面発光レーザ312、第3の面発光レーザ313、第4の面発光レーザ314、第5の面発光レーザ315、第6の面発光レーザ316、第7の面発光レーザ317、第8の面発光レーザ318を有している。第1の面発光レーザ311から第8の面発光レーザ318は、各々電極パッドに接続されている。具体的には、第1の面発光レーザ311には電極パッド321が接続されており、第2の面発光レーザ312には電極パッド322が接続されており、第3の面発光レーザ313には電極パッド323が接続されており、第4の面発光レーザ314には電極パッド324が接続されており、第5の面発光レーザ315には電極パッド325が接続されており、第6の面発光レーザ316には電極パッド326が接続されており、第7の面発光レーザ317には電極パッド327が接続されており、第8の面発光レーザ318には電極パッド328が接続されている。
【0075】
また、第1の面発光レーザ311から第8の面発光レーザ318は、同じ波長のものが2個ずつとなるように形成されている。具体的には、第1の面発光レーザ311及び第2の面発光レーザ312より出射される光は同じ波長λ1、第3の面発光レーザ313及び第4の面発光レーザ314より出射される光は同じ波長λ2、第5の面発光レーザ315及び第6の面発光レーザ316より出射される光は同じ波長λ3、第7の面発光レーザ317及び第8の面発光レーザ318より出射される光は同じ波長λ4であり、波長λ1からλ4は、相互に異なる波長である。このように各々の面発光レーザにおいて異なる波長の光を出射させるために、第1の実施の形態と同様に波長調整層を設け、各々の面発光レーザごとに、波長調整層の厚さを変えて形成している。尚、電極バッド321から328の大きさは、各々約50μm角であり、基板301は300μm角の大きさの半導体チップである。
【0076】
本実施の形態における面発光レーザ素子では、同じ波長の光を発光する面発光レーザが2個ずつ存在しているため、不良や故障等により、同じ波長の光を出射する面発光レーザのうち、一方が発光しなくなったとしても他方を用いることができる。よって、面発光レーザ素子の寿命を長寿命にすることができるとともに、歩留りをより向上させることができる。また、本実施の形態における面発光レーザ素子では、必要な波長に最も近い波長の素子のみならず、2番目に近い波長の素子を用いてもよく、それを予備の面発光レーザとして用いることで長寿命化させることができる。
【0077】
尚、上記以外の内容については、第1の実施の形態と同様である。
【0078】
〔第4の実施の形態〕
次に、第4の実施の形態について説明する。本実施の形態は、第1から第3の実施の形態における面発光レーザ素子を用いた原子発振器である。図10に基づき本実施の形態における原子発振器について説明する。本実施の形態における原子発振器は、CPT方式の小型原子発振器であり、光源410、コリメートレンズ420、λ/4波長板430、アルカリ金属セル440、光検出器450、変調器460を有している。
【0079】
光源410は、第1から第3の実施の形態における面発光レーザ素子が用いられている。アルカリ金属セル440には、アルカリ金属としてCs(セシウム)原子ガスが封入されており、D1ラインの遷移を用いるものである。光検出器450は、フォトダイオードが用いられている。
【0080】
本実施の形態のおける原子発振器では、光源410より出射された光をセシウム原子ガスが封入されたアルカリ金属セル440に照射し、セシウム原子における電子を励起する。アルカリ金属セル440を透過した光は光検出器450において検出され、光検出器450において検出された信号は変調器460にフィードバックされ、変調器460により光源410における面発光レーザ素子を変調する。
【0081】
図11に、CPTに関連する原子エネルギー準位の構造を示す。二つの基底準位から励起準位に電子が同時に励起されると光の吸収率が低下することを利用する。面発光レーザは搬送波波長が894.6nmに近い素子を用いている。搬送波の波長は面発光レーザの温度、もしくは出力を変化させてチューニングすることができる。温度や出力を上げると長波長にシフトする。アルカリ金属セルの光密度の変動は好ましくないので温度変化を利用するのが好ましい。具体的に、波長の温度依存性は0.05nm/℃程度で調整できる。図12に示すように、変調をかけることで搬送波の両側にサイドバンドが発生し、その周波数差がCs原子の固有振動数である9.2GHzに一致するように4.6GHzで変調させている。図13に示すように、励起されたCsガスを通過するレーザ光はサイドバンド周波数差がCs原子の固有周波数差に一致した時に最大となるので、光検出器450の出力が最大値を保持するように変調器460においてフィードバックして光源410における面発光レーザ素子の変調周波数を調整する。原子の固有振動数が極めて安定なので変調周波数は安定した値となり、この情報がアウトプットとして取り出される。尚、波長が894.6nmの場合では、±1nmの範囲の波長の光源が必要となる。即ち、893.6nm〜895.6nmの範囲の波長の光源が必要となる。
【0082】
本実施の形態における原子発振器は第1から第3の実施の形態における面発光レーザ素子を用いているため、原子発振器を低コストで作製し提供することができる。また、更に、第2の実施の形態及び第3の実施の形態における面発光レーザ素子を用いることにより、より長寿命の原子発振器を提供することができる。
【0083】
また、本実施例ではアルカリ金属としてCsを用い、そのD1ラインの遷移を用いるために波長が894.6nmの面発光レーザを用いたが、CsのD2ラインを利用する場合は852.3nmを用いることもできる。また、アルカリ金属としてRb(ルビジウム)を用いることもでき、D1ラインを利用する場合は795.0nm、D2ラインを利用する場合は780.2nmを用いることができる。活性層の材料組成などは波長に応じて設計することができる。また、Rbを用いる場合の変調周波数は、87Rbでは3.4GHz、85Rbでは1.5GHzで変調させる。尚、これらの波長においても、±1nmの範囲の波長の光源が必要となる。即ち、CsのD2ラインを利用する場合は851.3nm〜853.3nmの範囲の波長の光源が必要となる。また、RbのD1ラインを利用する場合は794.0nm〜796.0nmの範囲の波長の光源が必要となる。また、RbのD2ラインを利用する場合は779.2nm〜781.2nmの範囲の波長の光源が必要となる。
【0084】
以上、本発明の実施に係る形態について説明したが、上記内容は、発明の内容を限定するものではない。また、本発明の実施に係る形態では、面発光レーザ素子を原子発振器に用いた場合について説明したが、第1から第3の実施の形態における面発光レーザ素子は、ガスセンサー等の所定の波長の光が必要な他の装置等に用いることができる。この場合、これらの装置等においても、用途に応じた所定の波長の面発光レーザ光を用いることにより、同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0085】
10 面発光レーザ素子
11 第1の面発光レーザ
12 第2の面発光レーザ
13 第3の面発光レーザ
14 第4の面発光レーザ
21 電極パッド
22 電極パッド
23 電極パッド
24 電極パッド
101 基板
102 下部DBR
103 活性層
104 上部DBR
110 波長調整層
111 第1の調整層
112 第2の調整層
113 第3の調整層
114 第4の調整層
121 下部スペーサ層
122 第1の上部スペーサ層
123 電流狭窄層
123a 選択酸化領域
123b 電流狭窄領域
124 第2の上部スペーサ層
125 コンタクト層
126 保護膜
127 ポリイミド
131 上部電極
132 下部電極
【先行技術文献】
【特許文献】
【0086】
【特許文献1】特開2008−53353号公報
【特許文献2】特開2000−58958号公報
【特許文献3】特開平11−330631号公報
【特許文献4】特開2008−283129号公報
【特許文献5】特開2009−188598号公報
【特許文献6】特許第2751814号公報
【非特許文献】
【0087】
【非特許文献1】Applied Physics Letters,Vol.85,pp.1460−1462 (2004).
【非特許文献2】Comprehensive Microsystems, vol.3,pp.571−612
【非特許文献3】Proc.of SPIE Vol.6132 613208−1(2006)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に形成された下部DBRと、
前記下部DBRの上に形成された活性層と、
前記活性層の上に形成された上部DBRと、
を有し、
前記活性層より上部に形成された波長調整層を含み、
前記波長調整層の厚さを変えることにより、異なる波長を各々出射する複数の面発光レーザを有するものであって、
前記波長調整層はGaInPとGaAsPとを交互に積層した膜、または、GaInPとGaAsとを交互に積層した膜により形成されているものであって、前記積層した膜の一部を各々の層ごとに除去することにより、前記波長調整層の膜厚を変えたものであることを特徴とする面発光レーザ素子。
【請求項2】
前記波長調整層における前記積層した膜の除去はウエットエッチングにより行なわれるものであって、前記GaInPを除去するエッチングするための第1のエッチング液と、前記GaAsPまたは前記GaAsをエッチングするための第2のエッチング液とが異なるものであることを特徴とする請求項1に記載の面発光レーザ素子。
【請求項3】
前記GaInPは圧縮歪を有する組成であることを特徴とする請求項1または2に記載の面発光レーザ素子。
【請求項4】
前記活性層と前記波長調整層との間にはコンタクト層が形成されており、
一方の電極は、前記コンタクト層と接続されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかにに記載の面発光レーザ素子。
【請求項5】
基板の上に形成された下部DBRと、
前記下部DBRの上に形成された活性層と、
前記活性層の上に形成された上部DBRと、
を有し、
前記活性層より上部に形成された波長調整層を含み、
前記波長調整層の厚さを変えることにより、異なる波長を各々出射する複数の面発光レーザを有するものであって、
前記活性層と前記波長調整層との間にはコンタクト層が形成されており、
一方の電極は、前記コンタクト層と接続されていることを特徴とする面発光レーザ素子。
【請求項6】
前記コンタクト層は、GaAsを含む材料により形成されているものであることを特徴とする請求項4または5に記載の面発光レーザ素子。
【請求項7】
前記上部DBRの少なくとも一部は屈折率の異なる誘電体を交互に積層形成することにより形成されたものであることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の面発光レーザ素子。
【請求項8】
前記誘電体は、酸化物、窒化物、フッ化物を含むものであることを特徴とする請求項7に記載の面発光レーザ。
【請求項9】
前記複数の面発光レーザは、すべて異なる波長の光を出射するものであることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の面発光レーザ素子。
【請求項10】
前記複数の面発光レーザは、同じ波長の光を出射する面発光レーザを複数有していることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の面発光レーザ素子。
【請求項11】
前記複数の波長のうちいずれか1つは、893.6nm〜895.6nm、851.3nm〜853.3nm、794.0nm〜796.0nm、779.2nm〜781.2nmの範囲に含まれるものであることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の面発光レーザ素子。
【請求項12】
前記活性層は、GaInAsを含むものであることを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載の面発光レーザ素子。
【請求項13】
前記基板は導電性を有する半導体結晶基板であって、
前記下部DBR、前記活性層は、前記波長調整層は、半導体材料をエピタキシャル成長させることにより形成されているものであることを特徴とする請求項1から12のいずれかに記載の面発光レーザ素子。
【請求項14】
前記基板の大きさは、500μm×500μmより小さいことを特徴とする請求項1から13のいずれかに記載の面発光レーザ素子。
【請求項15】
請求項1から14のいずれかに記載の面発光レーザ素子と、
アルカリ金属を封入したアルカリ金属セルと、
前記面発光レーザ素子における面発光レーザより前記アルカリ金属セルに照射した光のうち、前記アルカリ金属セルを透過した光を検出する光検出器と、
を有し、前記面発光レーザより出射したサイドバンドを含む光のうち、2つの異なる波長の光を前記アルカリ金属セルに入射させることにより、2種類の共鳴光による量子干渉効果による光吸収特性により発振周波数を制御することを特徴とする原子発振器。
【請求項16】
前記2つの異なる波長の光は、ともに前記面発光レーザより出射したサイドバンドの光であることを特徴とする請求項15に記載の原子発振器。
【請求項17】
前記アルカリ金属は、ルビジウム、または、セシウムであることを特徴とする請求項15または16に記載の原子発振器。
【請求項18】
請求項15から17のいずれかに記載の原子発振器に用いられる面発光レーザ素子の検査方法であって、
面発光レーザ素子における複数の面発光レーザをあらかじめ設定しておいた動作条件において順次発光させ、
前記面発光レーザにおける発光波長を計測し、
複数の前記面発光レーザのうち、所定の波長に最も近い発光波長の面発光レーザを選択することを特徴とする面発光レーザ素子の検査方法。
【請求項19】
請求項15から17のいずれかに記載の原子発振器に用いられる面発光レーザ素子の検査方法であって、
面発光レーザ素子における複数の面発光レーザにおいて、前記面発光レーザにおける波長調整層の層数から各面発光レーザごとの波長間隔をあらかじめ推定し、
前記面発光レーザ素子のうちの1の面発光レーザをあらかじめ設定しておいた動作条件において発光させ、
前記面発光レーザにおける発光波長を計測し、
推定された前記波長間隔と計測された前記1の面発光レーザの発光波長より、前記面発光レーザ素子のうちの他の面発光レーザの発光波長を推定し、
測定または推定された前記発光波長に基づき、複数の前記面発光レーザのうち、所定の波長に最も近い発光波長の面発光レーザを選択することを特徴とする面発光レーザ素子の検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−209534(P2012−209534A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255532(P2011−255532)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】