説明

面発光レーザ素子およびその製造方法

【課題】良好な発光特性および信頼性を有する面発光レーザ素子およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】ZnOからなる成長基板を用いて成長した多層膜反射鏡と、前記多層膜反射鏡上に成長したAlGaInN系材料からなる活性層と、を備え、前記多層膜反射鏡は、Zn1−x1−y1Mgx1Bey1O(0≦x1≦1、0≦y1≦1)からなる低屈折率層と前記低屈折率層よりも屈折率が高いZnOからなる高屈折率層とが交互に積層した構造からなるとともに、ZnO結晶または前記活性層に対する歪み量が±3%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面発光レーザ素子およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、AlGaInN系材料であるGaInN系材料からなる活性層を用いた半導体レーザ素子が開示されている(特許文献1、非特許文献1参照)。特許文献1では、端面発光型の緑色半導体レーザ素子として、Inの組成比を大きくしたGaInN系材料からなる活性層を用いたものが開示されている。この緑色半導体レーザ素子では、GaInN系材料に対する結晶構造および格子定数の類似性から、ZnO基板が使用されている。
【0003】
一方、ZnO基板上に、ZnO系混晶からなる発光層を有する紫外域での半導体発光素子において、ZnO基板と発光層との間にZnO系混晶からなる多層膜反射鏡であるDBR(Distributed Bragg Reflector)ミラーを配置したものが開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−66550号公報
【特許文献2】特開2008−78460号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Y.Higuchi et al. “Room Temperature CW Lasing of a GaN-Based Vertical-Cavity Surface-Emitting Laser by Current Injection”, Applied Physics Express1(2008)121102
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
AlGaInN系材料からなる活性層は、大きな格子歪み(以下、歪みと記載する)が存在するとその発光特性および信頼性が低下するという問題がある。特に、面発光レーザ素子のように、多層膜反射鏡上に活性層が形成されている場合、多層膜反射鏡が活性層に歪を与えてその発光特性および信頼性を低下させるおそれがあるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、良好な発光特性および信頼性を有する面発光レーザ素子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る面発光レーザ素子は、ZnOからなる成長基板を用いて成長した多層膜反射鏡と、前記多層膜反射鏡上に成長したAlGaInN系材料からなる活性層と、を備え、前記多層膜反射鏡は、Zn1−x1−y1Mgx1Bey1O(0≦x1≦1、0≦y1≦1)からなる低屈折率層と前記低屈折率層よりも屈折率が高いZnOからなる高屈折率層とが交互に積層した構造からなるとともに、ZnO結晶または前記活性層に対する歪み量が±3%以下であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る面発光レーザ素子は、ZnOからなる成長基板を用いて成長した多層膜反射鏡と、前記多層膜反射鏡上に成長したAlGaInN系材料からなる活性層と、を備え、前記多層膜反射鏡は、Zn1−x1−y1Mgx1Bey1O(0≦x1≦1、0≦y1≦1)からなる低屈折率層と前記低屈折率層よりも屈折率が高いZn1−z2Cdz2O(0≦z2≦1)からなる高屈折率層とが交互に積層した構造からなるとともに、ZnO結晶または前記活性層に対する歪み量が±3%以下であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る面発光レーザ素子は、ZnOからなる成長基板を用いて成長した多層膜反射鏡と、前記多層膜反射鏡上に成長したAlGaInN系材料からなる活性層と、を備え、前記多層膜反射鏡は、Zn1−x1Mgx1O(0.3≦x1≦0.9)からなる低屈折率層と前記低屈折率層よりも屈折率が高いZnOからなる高屈折率層とが交互に積層した構造からなるとともに、ZnO結晶または前記活性層に対する歪み量が±3%以下であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る面発光レーザ素子は、上記発明において、前記多層膜反射鏡の前記低屈折率層がMgx1Bey1O(0.62≦x1≦0.89、x1+y1=1)であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る面発光レーザ素子は、上記発明において、前記多層膜反射鏡の前記低屈折率層がZn1−y1Bey1O(0.11≦y2≦0.17)であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る面発光レーザ素子は、上記発明において、前記多層膜反射鏡の歪み量が±2%以下であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る面発光レーザ素子は、上記発明において、前記多層膜反射鏡の歪み量が±1%以下であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る面発光レーザ素子は、上記発明において、前記多層膜反射鏡は、ZnO結晶または前記活性層と格子整合していることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る面発光レーザ素子は、上記発明において、前記多層膜反射鏡の低屈折率層と高屈折率層とが、ZnO結晶または前記活性層に対して、互いに符合が異なり絶対値が等しい歪み量を有することを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る面発光レーザ素子は、上記発明において、前記多層膜反射鏡の前記低屈折率層がMgx1Bey1O(0.62≦x1≦0.73、x1+y1=1)であり、前記高屈折率層がZn1−z2Cdz2O(0.75≦1−z2≦0.94)であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る面発光レーザ素子は、上記発明において、前記多層膜反射鏡の前記低屈折率層がMgx1Bey1O(0.70≦x1≦0.82、x1+y1=1)であり、前記高屈折率層がZn1−z2Cdz2O(0.57≦1−z2≦0.78)であることを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る面発光レーザ素子の製造方法は、ZnOからなる基板上に多層膜反射鏡を成長する多層膜反射鏡成長工程と前記多層膜反射鏡上にAlGaInN系材料からなる活性層を成長する活性層成長工程と、を含み、前記多層膜反射鏡成長工程において、Zn1−x1−y1Mgx1Bey1O(0≦x1≦1、0≦y1≦1)からなる低屈折率層と前記低屈折率層よりも屈折率が高いZnOからなる高屈折率層とを、ZnO結晶または前記活性層に対する歪み量が±3%以下になるように前記各屈折率層の組成を調整して、交互に積層することを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係る面発光レーザ素子の製造方法は、ZnOからなる基板上に多層膜反射鏡を成長する多層膜反射鏡成長工程と前記多層膜反射鏡上にAlGaInN系材料からなる活性層を成長する活性層成長工程と、を含み、前記多層膜反射鏡成長工程において、Zn1−x1−y1Mgx1Bey1O(0≦x1≦1、0≦y1≦1)からなる低屈折率層と前記低屈折率層よりも屈折率が高いZn1−z2Cdz2O(0≦z2≦1)からなる高屈折率層とを、ZnO結晶または前記活性層に対する歪み量が±3%以下になるように前記各屈折率層の組成を調整して、交互に積層することを特徴とする。
【0021】
また、本発明に係る面発光レーザ素子の製造方法は、ZnOからなる基板上に多層膜反射鏡を成長する多層膜反射鏡成長工程と前記多層膜反射鏡上にAlGaInN系材料からなる活性層を成長する活性層成長工程と、を含み、前記多層膜反射鏡成長工程において、Zn1−x1Mgx1O(0.3≦x1≦0.9)からなる低屈折率層と前記低屈折率層よりも屈折率が高いZnOからなる高屈折率層とを、ZnO結晶または前記活性層に対する歪み量が±3%以下になるように前記各屈折率層の組成を調整して、交互に積層することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、活性層の歪みが抑制されるので、良好な発光特性および信頼性を有する面発光レーザ素子を実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、実施の形態1に係る面発光レーザ素子の模式的な断面図である。
【図2】図2は、ZnMgBeCdO系材料の結晶格子のa軸方向の格子定数(a)とバンドギャップエネルギーとの関係を示す図である。
【図3】図3は、ZnMgBeCdO系材料の格子定数(a)と屈折率との関係を示す図である。ここで、屈折率は、製造方法の違いに伴うキャリア濃度や不純物濃度などの結晶品質の違いや発光波長の違い(屈折率の波長分散)により変化する。
【図4】図4は、低屈折率層をMgx1Bey1Oとし、高屈折率層をZnOとして、低屈折率層のMg組成を変化させた場合の、高屈折率層と低屈折率層との屈折率差と、下部DBRミラーの反射率との関係を示す図である。
【図5】図5は、低屈折率層をMgx1Bey1Oとし、高屈折率層をZnOとして、低屈折率層のMg組成を変化させた場合の、ZnOに対する下部DBRミラーの平均の歪み量と、低屈折率層の屈折率、厚さ、およびMg組成と、高屈折率層と低屈折率層との屈折率差と、下部DBRミラーの反射率との関係を示す図である。
【図6】図6は、低屈折率層をMgx1Bey1Oとし、高屈折率層をZn1−z2Cdz2Oとして、低屈折率層のMg組成および高屈折率層のZn組成を変化させた場合の、高屈折率層と低屈折率層との屈折率差と、下部DBRミラーの反射率との関係を示す図である。
【図7】図7は、低屈折率層をMgx1Bey1Oとし、高屈折率層をZn1−z2Cdz2Oとして、低屈折率層のMg組成および高屈折率層のZn組成を変化させた場合の、ZnOに対する低屈折率層および高屈折率層の歪み量の絶対値と、高屈折率層のZn組成、屈折率、および厚さと、低屈折率層のMg組成、屈折率、および厚さと、高屈折率層と低屈折率層との屈折率差と、下部DBRミラーの反射率との関係を示す図である。
【図8】図8は、低屈折率層をZn1−y1Bey1Oとし、高屈折率層をZnOとして、低屈折率層のBe組成を変化させた場合の、低屈折率層のBe組成と、屈折率と、高屈折率層と低屈折率層との屈折率差と、低屈折率層の厚さと、ZnOに対する下部DBRミラーの平均の歪み量と、下部DBRミラーのペア数を45ペアとした場合の反射率との関係を示す図である。
【図9】図9は、低屈折率層をZn1−x1Mgx1Oとし、高屈折率層をZnOとして、低屈折率層のMg組成を変化させた場合の、低屈折率層のMg組成と、屈折率と、高屈折率層と低屈折率層との屈折率差と、低屈折率層の厚さと、ZnOに対する下部DBRミラーの平均の歪み量と、下部DBRミラーのペア数を45ペアとした場合の反射率との関係を示す図である。
【図10】図10は、低屈折率層をZnOとし、高屈折率層をZn1−z1Cdz1Oとして、高屈折率層のCd組成を変化させた場合の、高屈折率層のCd組成と、屈折率と、高屈折率層と低屈折率層との屈折率差と、高屈折率層の厚さと、ZnOに対する下部DBRミラーの平均の歪み量と、下部DBRミラーのペア数を45ペアとした場合の反射率との関係を示す図である。
【図11】図11は、低屈折率層をZn0.64Mg0.36Oとし、高屈折率層をZnOとし、ペア数を45ペアとした下部DBRミラーにおいて、各高屈折率層および各低屈折率層の個々の厚さの、面内における設計値とのズレ量が、0%、1%、2%、5%の場合の反射スペクトルを示す図である。
【図12】図12は、図11に示した反射スペクトルにおいて、ズレ量と波長530nmにおける反射率との関係を示す図である。
【図13】図13は、低屈折率層をMg0.76Be0.24Oとし、高屈折率層をZnOとし、ペア数を15ペアとした下部DBRミラーにおいて、各高屈折率層および各低屈折率層の個々の厚さの、面内における設計値とのズレ量が、0%、1%、5%、10%、15%の場合の反射スペクトルを示す図である。
【図14】図14は、図13に示した反射スペクトルにおいて、ズレ量と波長530nmにおける反射率との関係を示す図である。
【図15】図15は、実施の形態2に係る面発光レーザ素子における下部DBRミラーの低屈折率層をMgx1Bey1Oとし、高屈折率層をZn1−z2Cdz2Oとして、低屈折率層のMg組成および高屈折率層のZn組成を変化させた場合の、高屈折率層と低屈折率層との屈折率差と、下部DBRミラーの反射率との関係を示す図である。
【図16】図16は、低屈折率層をMgx1Bey1Oとし、高屈折率層をZn1−z2Cdz2Oとして、低屈折率層のMg組成および高屈折率層のZn組成を変化させた場合の、活性層に対する低屈折率層および高屈折率層の歪み量の絶対値と、高屈折率層のZn組成、屈折率、および厚さと、低屈折率層のMg組成、屈折率、および厚さと、高屈折率層と低屈折率層との屈折率差と、下部DBRミラーの反射率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、図面を参照して本発明に係る面発光レーザ素子およびその製造方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0025】
(実施の形態1)
はじめに、本発明の実施の形態1に係る面発光レーザ素子について説明する。本実施の形態1では、レーザ発振波長が530nmの場合について例示する。
【0026】
図1は、本実施の形態1に係る面発光レーザ素子100の模式的な断面図である。図1に示すように、この面発光レーザ素子100は、支持基板としての基板1上に積層された下部多層膜反射鏡として機能する下部DBRミラー2、n型導電型の下部コンタクト層3、n側電極となる下部電極4、n型導電型の下部クラッド層5、活性層6、p型導電型の上部クラッド層7、p型導電型の上部コンタクト層8、電流狭窄層9、透明導電膜10、p側電極となる上部電極11、および上部多層膜反射鏡として機能する上部DBRミラー12を備える。このうち、下部クラッド層5から上部コンタクト層8までの積層構造は、エッチング処理等によって柱状に成形されたメサポストMとして形成されている。
【0027】
また、下部DBRミラー2、下部コンタクト層3、下部クラッド層5、活性層6、上部クラッド層7、上部コンタクト層8は基板1を成長基板としてエピタキシャル成長したものである。また、下部DBRミラー2と上部DBRミラー12とは、活性層6を挟んで光共振器を構成している。
【0028】
以下、各構成要素について具体的に説明する。まず、基板1は、ウルツ鉱型結晶構造を有するZnOからなり、結晶格子のc面を主表面とする。なお、基板1の主表面は、特に酸素極性面である−c(000_1)面が好ましい。また、基板1の主表面は、m面である(1_100)面またはa面である(11_20)面およびこれらに等価な面方位、あるいは、半極性面である(10_1_1)面または(11_22)面およびこれらに等価な面方位でもよい。
【0029】
下部DBRミラー2は、基板1の主表面上に積層している。下部DBRミラー2は、ZnMgBeCdO系材料であるMg0.76Be0.24Oからなる低屈折率層2aとZnOからなる高屈折率層2bとが、交互に積層した構造を有している。隣接する低屈折率層2aと高屈折率層2bとの組み合わせを1ペアとすると、ペア数はたとえば15ペアである。低屈折率層2aおよび高屈折率層2bの厚さはいずれもλ/4n(λ:レーザ発振波長、n:屈折率)であり、下部DBRミラー2の反射中心波長がレーザ発振波長と一致するように設定されている。レーザ発振波長を530nmとすると、低屈折率層2aの厚さは約85nmであり、高屈折率層2bの厚さは約63nmである。
【0030】
波長530nmにおいて、低屈折率層2aの屈折率は1.56であり、高屈折率層2bの屈折率は2.1である。その結果、この低屈折率層2aと高屈折率層2bとを15ペア積層した場合、下部DBRミラー2は、99.98%という高い反射率を実現できる。
【0031】
また、下部DBRミラー2の構成材料であるMg0.76Be0.24OおよびZnOの格子定数は、いずれも3.24オングストローム(Å、1Åは0.1nm)であるから、下部DBRミラー2の平均的な格子定数も3.24Åとなり、基板1を構成するZnOの格子定数と一致する。その結果、下部DBRミラー2と基板1とは格子整合したものとなる。
【0032】
下部コンタクト層3および下部クラッド層5は、下部DBRミラー2上に順次積層しており、いずれもn型ドーパントであるSiを用いたAlGaInN系材料であるGaInNからなる。下部コンタクト層3および下部クラッド層5におけるIn組成は10%以下に設定されている。
【0033】
下部電極4は、たとえばTi/Al構造やTi/Pt/Au構造を有し、下部コンタクト層3のメサポストMの外周側に延設した部分に、上方から見てリング状に形成されている。
【0034】
活性層6は、下部クラッド層5上に積層しており、高In組成のGaInNからなる井戸層と低In組成のGaInNからなるバリア層とが交互に積層された量子井戸構造を有する。井戸層およびバリア層の厚さとIn組成とは、レーザ発振波長に合わせて適宜設定される。たとえば、レーザ発振波長を530nmとする場合は、各層の厚さとIn組成とは、井戸層が4nm、0.35、バリア層が10nm、0.1のように設定する。
【0035】
上部クラッド層7および上部コンタクト層8は、活性層6上に順次積層しており、いずれもp型ドーパントであるMgを用いたGaInNからなる。上部クラッド層7および上部コンタクト層8におけるIn組成は10%以下であり、ZnOからなる基板1に対する臨界膜厚である50nm以下の厚さに設定されている。
【0036】
電流狭窄層9は、上部コンタクト層8上に積層しており、電流注入部としての開口部9aを有するリング状に形成されている。この電流狭窄層9は、絶縁性を有しており、上部電極11から注入される電流を狭窄して開口部9a内に集中させることで、活性層6に注入される電流の電流密度を高めている。電流狭窄層9は、SiやSiOなどの絶縁性材料からなるものである。なお、電流狭窄層9としては、GaInNからなる層にイオン注入によりプロトン(H)などを注入することによって、高電気抵抗を付与したものを用いてもよい。
【0037】
透明導電膜10は、電流狭窄層9上、および開口部9a内に露出した上部コンタクト層8を覆うように形成されている。この透明導電膜10は、ITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)、酸化アンチモンもしくはフッ素をドープした酸化スズ、またはAlやGaをドープしたZnOからなる。この透明導電膜10は、活性層6が発光する光を透過するとともに、上部電極11から注入される電流を横方向(面内方向)に広げて電流狭窄層9の開口部9aから上部コンタクト層8へと注入させる機能を有する。
【0038】
また、上部電極11は、たとえばNi/Au構造やNi/Pd/Pt構造を有し、透明導電膜10を介して上部コンタクト層8上にリング状に形成されている。
【0039】
また、上部DBRミラー12は、透明導電膜10を介して上部コンタクト層8上に、開口部9aを覆うように形成されている。この上部DBRミラー12としては、たとえば下部DBRミラー2と同一構造のものを用いたり、誘電体多層膜からなるものを用いたりすることができる。上部DBRミラー12の反射率は99%以上、好ましくは99.9%以上とする。なお、下部DBRミラー2および上部DBRミラー12の反射率を高くすることによって面発光レーザ素子100の閾値電流密度が低減されるので好ましい。
【0040】
上部DBRミラー12として誘電体多層膜を用いる場合には、低屈折率層および高屈折率層の材料を適宜選択して組み合わせ、所望の反射率を実現するようなペア数だけ積層して誘電体多層膜を構成する。たとえば、低屈折率層としては、ZrO(2.3)、Ta(2.2)、HfO(2.11)、MgO(1.74)、Al(1.7)、SiO(1.5)などの酸化物誘電体、Si(2.0)、AlN(2.1)などの窒化物誘電体、SiON(2.0−1.5)などの酸窒化物誘電体、またはMgF(1.38)などのフッ化物誘電体を用いることができる。なお、()内は各物質の屈折率を表す。
【0041】
また、高屈折率層としては、TiO(2.5)、Nb(2.4)、ZrO(2.3)、Ta(2.2)、HfO2(2.11)、MgO(1.74)、AlO3(1.7)、SiO(1.5)などの酸化物誘電体、Si(2.0)、AlN(2.1)などの窒化物誘電体、SiON(2.0−1.5)などの酸窒化物誘電体、またはα−Si:H(4.0)などのアモルファスシリコンを用いることができる。
【0042】
つぎに、この面発光レーザ素子100の動作について説明する。上部電極11と下部電極4との間に電圧を印加し、駆動電流を注入すると、上部電極11からは電流が電流狭窄層9の開口部9a内に集中して密度が高められた状態で、活性層6に注入される。電流が注入された活性層6は、自然放出光を発生する。発生した自然放出光は、活性層6の光増幅作用、および下部DBRミラー2と上部DBRミラー12とが構成する光共振器の作用によって、波長530nmでレーザ発振する。レーザ光は上部DBRミラー12から上方に向かって出力される。
【0043】
ここで、レーザ発振波長として青色より長い波長(約420nm以上)、特に青色から緑色の波長(約420〜550nm)を実現するために、活性層を高In組成のGaInNとした場合、以下の問題が発生する。すなわち、相分離が生じて活性層中のIn組成が不均一になりやすくなり、発光効率が低下するおそれがある。また、GaInNの場合、結晶構造に起因して内部にピエゾ電界が発生するが、高In組成の場合はピエゾ電界が大きくなり、発光再結合確率が低下し、発光効率が低下するおそれがある。また、ピエゾ電界が大きくなると、電流注入した際に活性層の発光波長がシフトするという問題も発生する。
【0044】
また、面発光レーザ素子のように、基板上にDBRミラーを介して活性層が形成される場合、基板と活性層との間に歪みが蓄積しやすくなるため、貫通転位が多量に発生して活性層に及び、活性層の発光効率や信頼性の低下を招くおそれがある。特に、面発光レーザ素子のDBRミラーの場合、たとえば99%以上、好ましくは99.9%以上の高反射率が必要であるから、低屈折率層と高屈折率層との組み合わせに関して、屈折率差ができるだけ大きくなる組成にしたり、屈折率差が小さい場合には低屈折率層と高屈折率層とのペア数を増やしたりしなければならない。そのため、DBRミラーに貫通転位やクラックが発生しやすくなり、また表面平坦性が低下しやすくなるので、その上に形成する活性層の品質も低下し、信頼性も低下するおそれがある。
【0045】
これに対して、本実施の形態1に係る面発光レーザ素子100は、下部DBRミラー2の平均的な格子定数が、基板1の格子定数と一致するため、下部DBRミラー2と基板1とが格子整合されたものとなる。その結果、活性層6におよぶ歪みの影響がきわめて低減されるため、上述した層分離の発生、ピエゾ電界の増大、および貫通転位やクラックの発生はきわめて抑制される。したがって、活性層6は高品質なものとなり、良好な発光特性および信頼性を有する面発光レーザ素子100となる。
【0046】
このように、本実施の形態1に係る面発光レーザ素子100は、良好な発光特性および信頼性を有する面発光レーザ素子となる。
【0047】
なお、本実施の形態1に係る面発光レーザ素子100では、下部DBRミラー2の組成が、基板1と格子整合するように設定されているが、下部DBRミラー2の組成はこれに限定されない。以下では、下部DBRミラー2の好ましい組成についてさらに具体的に説明する。
【0048】
図2は、ZnMgBeCdO系材料の結晶格子のa軸方向の格子定数(a)とバンドギャップエネルギーとの関係を示す図である。図2において、格子定数の単位は「Å」であり、バンドギャップエネルギーの単位は電子ボルト(eV、1eVは約1.60×10−19ジュール)である。また、小さい黒丸はそれぞれZnO、MgO、BeO、CdOの格子定数(a)とバンドギャップエネルギーとの関係を示すデータ点である。なお、ZnO、MgO、BeO、CdOの格子定数(a)は、それぞれ3.24Å、3.43Å、2.70Å、3.66Åである。ZnMgBeCdO系材料の場合は、各組成の組成比に応じて、この黒丸を結んだ四辺形の辺上または内部にデータ点が存在する。
【0049】
点P1は、高屈折率層2bおよび低屈折率層2aの厚さと組成とを考慮した、下部DBRミラー2内の平均の組成の一例に対応するデータ点を示している。また、破線L1はバンドギャップエネルギーが2.34eVであり、光の波長に換算すると、この面発光レーザ素子100のレーザ発振波長である530nmとなる。
【0050】
図2に示すように、下部DBRミラー2の平均の組成を、点P1のようにそのバンドギャップエネルギーが破線L1より高いような組成に選択すれば、下部DBRミラー2によって波長530nmの光が吸収されてレーザ発振の閾値向上またはレーザ光の強度低下が発生するというおそれがないので好ましい。
【0051】
つぎに、図3は、ZnMgBeCdO系材料の格子定数(a)と屈折率との関係を示す図である。また、小さい黒丸はそれぞれZnO、MgO、BeO、CdOの格子定数と屈折率との関係を示すデータ点である。ZnMgBeCdO系材料の場合は、各組成の組成比に応じて、この黒丸を結んだ四辺形の辺上または内部にデータ点が存在する。ここで、屈折率は、製造方法の違いに伴うキャリア濃度や不純物濃度などの結晶品質の違いや発光波長の違い(屈折率の波長分散)により変化する。
【0052】
点P2は、下部DBRミラー2内の平均の組成の一例に対応するデータ点を示している。なお、この点P2と図2の点P1は同一の組成を示している。また、破線L2は、基板1を構成するZnOの格子定数の値(3.24Å)を示している。破線L3は、ZnOの結晶格子に対する歪み量が−3%となる格子定数の値(3.14Å)を示している。破線L4は、ZnOの結晶格子に対する歪み量が+3%となる格子定数の値(3.34Å)を示している。
【0053】
図3に示すように、下部DBRミラー2の平均の組成を、点P2のように、平均の格子定数が破線L3と破線L4との間、すなわちZnOに対する歪み量が±3%以下となるような組成とすれば、活性層6におよぶ歪みの影響がきわめて低減されるため、良好な発光特性および信頼性を有する面発光レーザ素子100が実現され好ましい。
【0054】
つぎに、下部DBRミラー2において好ましい低屈折率層2aの組成と高屈折率層2bの組成とを具体的に例示する。以下では、低屈折率層2aの組成を明示するときは、組成式Zn1−x1−y1−z1Mgx1Bey1Cdz1O(0≦x1≦1、0≦y1≦1、0≦z1≦1)で表し、高屈折率層2bの組成を明示するときは、組成式Zn1−x2−y2−z2Mgx2Bey2Cdz2O(0≦x2≦1、0≦y2≦1、0≦z2≦1)で表すものとする。
【0055】
(MgBeO/ZnO)
はじめに、低屈折率層2aをMgx1Bey1O(x1+y1=1)とし、高屈折率層2bをZnOとした場合の下部DBRミラー2の特性について説明する。
【0056】
図4は、低屈折率層2aをMgx1Bey1Oとし、高屈折率層2bをZnOとして、低屈折率層2aのMg組成を変化させた場合の、高屈折率層2bと低屈折率層2aとの屈折率差(dn)と、下部DBRミラー2の反射率(R[%])との関係を示す図である。なお、高屈折率層2bの屈折率は2.1、厚さは63.1nmである。また、図4では、下部DBRミラー2の高屈折率層2bと低屈折率層2aとのペア数が15ペアの場合と10ペアの場合とを示している。
【0057】
図4において、破線L5〜L9はそれぞれ、ZnOに対する下部DBRミラー2の歪み量が0%、−3%、+3%、−1%、+1%となる場合の組成となる位置を示している。また、破線L10、L11はそれぞれ、Rが99%、99.9%の位置を示している。
【0058】
また、図5は、図4と同様に、低屈折率層2aをMgx1Bey1Oとし、高屈折率層2bをZnOとして、低屈折率層2aのMg組成を変化させた場合の、ZnOに対する下部DBRミラー2の平均の歪み量[%]と、低屈折率層2aの屈折率(n)、厚さ(t[nm])、およびMg組成と、高屈折率層2bと低屈折率層2aとの屈折率差(dn)と、下部DBRミラー2の反射率(R[%])との関係を示す図である。図4のデータと図5のデータとは一部重複している。
【0059】
図4、5に示すように、上述したMg組成(x1)が0.76の場合に、歪み量が0%となり、かつdnも0.54と十分に大きくなる。そして、下部DBRミラー2におけるペア数を、比較的少ない15ペアとした場合でも、99.9%以上という高反射率を実現できる。
【0060】
また、Mg組成(x1)を0.76から0.89としたMgx1Bey1Oからなる低屈折率層2aを用いた下部DBRミラー2は、歪み量が0%〜+3%(圧縮歪み)となり、Mg組成(x1)を0.76から0.62としたMgx1Bey1Oからなる低屈折率層2aを用いた下部DBRミラー2は、歪み量が0%〜−3%(引張歪み)となり、いずれの場合も比較的少ない15ペアまたは更に少ない10ペアとして、99%以上、特には99.9%以上の高反射率が実現される。
【0061】
また、さらに、Mg組成(x1)を0.76から0.84としたMgx1Bey1Oからなる低屈折率層2aを用いた下部DBRミラー2は、歪み量が0%〜+2%(圧縮歪み)となり、Mg組成(x1)を0.76から0.67としたMgx1Bey1Oからなる低屈折率層2aを用いた下部DBRミラー2は、歪み量が0%〜−2%(引張歪み)となり、いずれの場合も比較的少ない15ペアまたは更に少ない10ペアとして、99%以上、特には99.9%以上の高反射率が実現される。
【0062】
また、さらに、Mg組成(x1)を0.76から0.80としたMgx1Bey1Oからなる低屈折率層2aを用いた下部DBRミラー2は、歪み量が0%〜+1%(圧縮歪み)となり、Mg組成(x1)を0.76から0.71としたMgx1Bey1Oからなる低屈折率層2aを用いた下部DBRミラー2は、歪み量が0%〜−1%(引張歪み)となり、いずれの場合も比較的少ない15ペアまたは更に少ない10ペアとして、99%以上、特には99.9%以上の高反射率が実現される。
【0063】
また、歪み量を±3%以内に抑制しつつ、特に好ましい反射率である99.9%を実現するには、低屈折率層2aにおけるMg組成(x1)を0.62から0.84とし、ペア数を15ペアとすればよい。
【0064】
(ZnCdO/MgBeO)
つぎに、低屈折率層2aはMgx1Bey1O(x1+y1=1)であるが、高屈折率層2bを、ZnOの代わりにZnOにCdを混入させてZnOよりも屈折率を高めたZn1−z2Cdz2O(0<z2<1)とした場合の、下部DBRミラー2の特性について説明する。このように、ZnOに比べて格子定数の大きいZn1−z2Cdz2OとZnOに比べて格子定数の小さいMgx1Bey1Oを組み合わせることにより、屈折率差が更に大きく取れる。それとともに、ZnOに対して歪み量の符号が異なるが絶対値が同じであるZn1−z2Cdz2Oの組成(歪み量が正)とMgx1Bey1Oの組成(歪み量が負)とを組み合わせることによって、下部DBRミラー2内の歪みが補償される。その結果、さらに少ないペア数で高反射率を有し、かつ歪みが補償された下部DBRミラー2を実現することができる。このように歪みが補償された下部DBRミラー2を用いた面発光レーザ素子100は、発光特性および信頼性が特に良好なものとなる。
【0065】
図6は、低屈折率層2aをMgx1Bey1Oとし、高屈折率層2bをZn1−z2Cdz2Oとして、低屈折率層2aのMg組成および高屈折率層2bのZn組成を変化させた場合の、高屈折率層2bと低屈折率層2aとの屈折率差(dn)と、下部DBRミラー2の反射率(R[%])との関係を示す図である。なお、低屈折率層2aのMg組成および高屈折率層2bのZn組成の組み合わせは、ZnOに対する歪み量の絶対値が同じになる組み合わせを選択している。また、図6では、下部DBRミラー2の高屈折率層2bと低屈折率層2aとのペア数が15ペアの場合と10ペアの場合とを示している。
【0066】
図6において、破線L12〜L15はそれぞれ、ZnO結晶格子に対する低屈折率層2aと高屈折率層2bとの歪み量の絶対値がいずれも、3%、2%、1%、0.5%となる組成としたときの屈折率差の位置を示している。また、破線L16は、Rが99.9%の位置を示している。
【0067】
また、図7は、図6と同様に、低屈折率層2aをMgx1Bey1Oとし、高屈折率層2bをZn1−z2Cdz2Oとして、低屈折率層2aのMg組成および高屈折率層2bのZn組成を変化させた場合の、ZnOに対する低屈折率層2aおよび高屈折率層2bの歪み量の絶対値[%]と、高屈折率層2bのZn組成、屈折率(n)、および厚さ(t[nm])と、低屈折率層2aのMg組成、屈折率(n)、および厚さ(t[nm])と、高屈折率層2bと低屈折率層2aとの屈折率差(dn)と、下部DBRミラー2の反射率(R[%])との関係を示す図である。図6のデータと図7のデータとは重複している。
【0068】
図6、7に示すように、Zn組成(1−z2)を0.94〜0.75としたZn1−z2Cdz2Oからなる高屈折率層2bと、Mg組成(x1)を0.73から0.62としたMgx1Bey1Oからなる低屈折率層2aとを用いた下部DBRミラー2は、内部での歪みが補償されているとともに、屈折率差(dn)も大きくなる。その結果、下部DBRミラー2におけるペア数が10ペアの場合でも、99.9%以上の反射率を実現することができる。さらにはペア数を15ペアとすれば、一層容易に99.9%以上の反射率を実現することができる。
【0069】
(ZnO/ZnBeO、ZnO/ZnMgO、ZnCdO/ZnO)
つぎに、低屈折率層2aをZn1−y1Bey1O(0<y2<1)またはZn1−x1Mgx1O(0<x1<1)とし、高屈折率層2bをZnOとした場合、あるいは、低屈折率層2aをZnOとし、高屈折率層2bをZn1−z2Cdz2O(0<z2<1)とした場合の下部DBRミラー2の特性について説明する。これらの、ZnOとZnBeO、ZnMgO、またはZnCdOとを組み合わせた下部DBRミラー2では、高屈折率層2bと低屈折率層2aとの屈折率差が小さいので、反射率を高くするためにペア数を増加させている。以下、各組み合わせの場合の下部DBRミラー2の特性について説明する。
【0070】
図8は、低屈折率層2aをZn1−y1Bey1Oとし、高屈折率層2bをZnOとして、低屈折率層2aのBe組成を変化させた場合の、低屈折率層2aのBe組成と、屈折率(n)と、高屈折率層2bと低屈折率層2aとの屈折率差(dn)と、低屈折率層2aの厚さ(t[nm])と、ZnOに対する下部DBRミラー2の平均の歪み量[%]と、下部DBRミラー2のペア数を45ペアとした場合の反射率(R[%])との関係を示す図である。
【0071】
図8に示すように、Be組成(y1)を0.11としたZn1−y1Bey1Oからなる低屈折率層2aを用いた下部DBRミラー2は、歪み量が−2%であり、かつ反射率が約99%となり好ましい。さらに、Be組成(y1)を0.17とした場合は、歪み量が−3%であり、かつ反射率が99.9%以上となりさらに好ましい。
【0072】
図9は、低屈折率層2aをZn1−x1Mgx1Oとし、高屈折率層2bをZnOとして、低屈折率層2aのMg組成を変化させた場合の、低屈折率層2aのMg組成と、屈折率(n)と、高屈折率層2bと低屈折率層2aとの屈折率差(dn)と、低屈折率層2aの厚さ(t[nm])と、ZnOに対する下部DBRミラー2の平均の歪み量[%]と、下部DBRミラー2のペア数を45ペアとした場合の反射率(R[%])との関係を示す図である。
【0073】
図9に示すように、Mg組成(x1)を0.36としたZn1−x1Mgx1Oからなる低屈折率層2aを用いた下部DBRミラー2は、歪み量が2%であり、かつ反射率が約99%となり好ましい。さらに、Mg組成(x1)を0.56とした場合は、歪み量が3%であり、かつ反射率が99.9%以上となりさらに好ましい。
【0074】
図10は、低屈折率層2aをZnOとし、高屈折率層2bをZn1−z1Cdz1Oとして、高屈折率層2bのCd組成を変化させた場合の、高屈折率層2bのCd組成と、屈折率(n)と、高屈折率層2bと低屈折率層2aとの屈折率差(dn)と、高屈折率層2bの厚さ(t[nm])と、ZnOに対する下部DBRミラー2の平均の歪み量[%]と、下部DBRミラー2のペア数を45ペアとした場合の反射率(R[%])との関係を示す図である。
【0075】
図10に示すように、Cd組成(z1)を0.26としたZn1−z1Cdz1Oからなる高屈折率層2bを用いた下部DBRミラー2は、歪み量が3%であり、かつ反射率が約97%となる。
【0076】
(下部DBRミラーの厚さの面内分布と反射特性との関係)
つぎに、下部DBRミラー2の厚さの面内分布と反射特性との関係について説明する。はじめに、高屈折率層2bと低屈折率層2aとの屈折率差が小さい例として、ZnOとZnMgOとを組み合わせた場合について説明し、つぎに、屈折率差が大きい例として、ZnOとMgBeOと組み合わせた場合について説明する。
【0077】
はじめに、ZnOとZnMgOとを組み合わせた下部DBRミラー2では、高屈折率層2bと低屈折率層2aとの屈折率差が小さいので、反射率を高くするためにペア数を増加させる。しかしながら、屈折率差が小さいと、下部DBRミラー2のストップバンド幅(反射帯域幅)が狭くなる。これに加えて、ペア数が増加するために、成長装置の性能に依存して発生する、高屈折率層2bおよび低屈折率層2aの厚さや組成の設計値とのずれが蓄積し、厚さや組成の面内分布の均一性や再現性が低下する。その結果、基板全面においてストップバンドをレーザ発振させたい波長に合わせることが困難になる。そのため、設計したレーザ発振波長において下部DBRミラー2の反射率が低下し、良好な発光特性が得られなくなるおそれがある。したがって、各屈折率層の厚さや組成の設計値とのずれを適正な範囲とすべきである。
【0078】
図11は、低屈折率層2aをZn0.64Mg0.36Oとし、高屈折率層2bをZnOとし、ペア数を45ペアとした下部DBRミラー2において、各高屈折率層2bおよび各低屈折率層2aの個々の厚さの、面内における設計値とのズレ量が、0%(すなわち設計値どおり場合)、1%、2%、5%の場合の反射スペクトルを示す図である。ズレ量は、ウェハ面内での各高屈折率層2bおよび各低屈折率層2aの個々の厚さの設計値とのズレのことをいう。なお、この下部DBRミラー2は、ZnOに対する平均の歪み量が+2%である。
【0079】
また、図11において、横軸は波長(λ波長[nm])を示しており、縦軸は反射率(R[%])を示している。また、破線L17はレーザ発振波長の設計値として530nmを示している。図11に示すように、ペア数の多い下部DBRミラー2では、ストップバンド幅が狭く、下部DBRミラー2の設計値からのズレに対するトレランスが狭くなる。
【0080】
図12は、図11に示した反射スペクトルにおいて、ズレ量と波長530nmにおける反射率との関係を示す図である。図11において、ズレ量が0%、1%、2%、5%の場合の反射率は、それぞれ99.3%、98.9%、93.9%、11.7%である。このように、低屈折率層2aをZn0.64Mg0.36Oとし、高屈折率層2bをZnOとし、ペア数を45ペアとした下部DBRミラー2において、面内における厚さの設計値とのズレ量を、実現が容易な±2%以内に抑制することによって、ペア数が45ペアと多くても、反射率の低下は抑制され、90%以上の反射率を実現することができ、量産性の高いものとなる。
【0081】
なお、低屈折率層2aをZn1−x1Mgx1Oとした場合に、Mg組成(x1)があまり小さいと、90%以上の反射率を実現するためにはペア数を45ペアよりも多くしなければならず、ズレ量を±2%以内とすることが困難になり、量産性が低下する。しかしながら、Mg組成(x1)が0.3以上であれば、ペア数を45ペア以下として、ズレ量を±2%以内に抑制することが容易であり、かつ90%以上の反射率を実現できるので、量産性が高くなり好ましい。
【0082】
ちなみに、この下部DBRミラー2において、低屈折率層2aのMg組成を、歪み量が1%以上となる0.15以上とし、かつ歪み量が3%以下となる0.60以下とすれば、ペア数を45ペア以内として90%以上の高反射率を実現できる。
【0083】
また、高屈折率層2bと低屈折率層2aとの屈折率差が小さい他の組み合わせ、たとえばZnO/ZnBeO、ZnO/ZnMgOまたはZnCdO/ZnOの組み合わせであっても、ペア数を45ペア以下として、ズレ量を±2%以内に抑制し、かつ90%以上の反射率を実現できる組成とすれば、量産性が高いものとなる。
【0084】
つぎに、ZnOとMgBeOとを組み合わせた下部DBRミラー2では、高屈折率層2bと低屈折率層2aとの屈折率差が大きいので、反射率を高くするためのペア数は少なくなる。この場合、下部DBRミラー2のストップバンド幅が広くなるとともに、高屈折率層2bおよび低屈折率層2aの厚さや組成の設計値とのずれの蓄積が抑制されるので、面内分布の均一性や再現性が高くなる。その結果、基板全面でストップバンドをレーザ発振させたい波長に合わせることが一層容易となり、下部DBRミラー2の高い反射率がより確実に実現されるので、良好な発光特性を実現するために好適である。
【0085】
図13は、低屈折率層2aをMg0.76Be0.24Oとし、高屈折率層2bをZnOとし、ペア数を15ペアとした下部DBRミラー2において、各高屈折率層2bおよび各低屈折率層2aの個々の厚さの、面内における設計値とのズレ量が、0%(すなわち設計値どおり場合)、1%、5%、10%、15%の場合の反射スペクトルを示す図である。なお、この下部DBRミラー2は、上述したようにZnO結晶に対して格子整合している。
【0086】
また、図13において、破線L18はレーザ発振波長の設計値である530nmを示している。図13に示すように、ペア数が少ない下部DBRミラー2では、ストップバンド幅が広く、下部DBRミラー2の設計値からのズレに対するトレランスが極めて大きくなる。
【0087】
図14は、図13に示した反射スペクトルにおいて、ズレ量と波長530nmにおける反射率との関係を示す図である。図14において、ズレ量が0%、1%、5%、10%の場合の反射率は、いずれも約100%であり、ズレ量が15%の場合の反射率は62.8%であった。このように、低屈折率層2aをMg0.76Be0.24Oとし、高屈折率層2bをZnOとし、ペア数を15ペアとした下部DBRミラー2(ZnO結晶に格子整合)において、面内における厚さの設計値とのズレ量が±10%であっても、約100%のきわめて高い反射率を実現することができるため、さらに量産性の高いものとなる。ここでは、厚さの面内分布と反射率の変化について記述したが、実際には組成の面内分布についても考慮する必要がある。
【0088】
(実施の形態2)
つぎに、本発明の実施の形態2について説明する。本実施の形態2に係る面発光レーザ素子は、実施の形態1に係る面発光レーザ素子と同様の構造を有しているが、下部DBRミラーの組成を、活性層に対して設定している点が異なるものである。以下では、下部DBRミラーについて具体的に説明する。
【0089】
本実施の形態2に係る面発光レーザ素子における下部DBRミラーは、図6、7に示した場合と同様に、低屈折率層がMgx1Bey1O(x1+y1=1)であり、高屈折率層がZn1−z2Cdz2O(0<z2<1)であって、屈折率差を高めて少ないペア数で高反射率を実現するとともに、下部DBRミラー内の歪みが補償されているものである。ただし、本実施の形態2に係る面発光レーザ素子では、実施の形態1に係る面発光レーザ素子とは異なり、活性層を構成するGaInN結晶に対して歪み量の符号が異なるが絶対値が同じであるZn1−z2Cdz2Oの組成(歪み量が正)とMgx1Bey1Oの組成(歪み量が負)とを組み合わせて、下部DBRミラーと活性層とを格子整合させている。
【0090】
このように、活性層と下部DBRミラーとを格子整合させることによっても、活性層におよぶ歪みの影響がきわめて低減されるため、良好な発光特性および信頼性を有する面発光レーザ素子が実現される。
【0091】
図15は、実施の形態2に係る面発光レーザ素子における下部DBRミラーの低屈折率層をMgx1Bey1Oとし、高屈折率層をZn1−z2Cdz2Oとして、低屈折率層のMg組成および高屈折率層のZn組成を変化させた場合の、高屈折率層と低屈折率層との屈折率差(dn)と、下部DBRミラーの反射率(R[%])との関係を示す図である。なお、低屈折率層のMg組成および高屈折率層のZn組成の組み合わせは、活性層を構成するGaInNに対する歪み量の絶対値が同じになる組み合わせを選択している。活性層の構成材料であるGaInNの各層の厚さとIn組成とは、井戸層が4nm、0.35、バリア層が10nm、0.1のように設定されている。このとき、活性層の格子定数は3.3Åである。
【0092】
図15では、下部DBRミラーの高屈折率層と低屈折率層とのペア数が5ペア、10ペア、および15ペアの場合を示している。また、図15において、破線L19〜L22はそれぞれ、活性層を構成するGaInN結晶に対する低屈折率層と高屈折率層との歪み量の絶対値がいずれも、3%、2%、1%、0.5%となる組成としたときの屈折率差の位置を示している。
【0093】
また、図16は、図15と同様に、低屈折率層をMgx1Bey1Oとし、高屈折率層をZn1−z2Cdz2Oとして、低屈折率層のMg組成および高屈折率層のZn組成を変化させた場合の、活性層に対する低屈折率層および高屈折率層の歪み量の絶対値[%]と、高屈折率層のZn組成、屈折率(n)、および厚さ(t[nm])と、低屈折率層のMg組成、屈折率(n)、および厚さ(t[nm])と、高屈折率層と低屈折率層との屈折率差(dn)と、下部DBRミラーの反射率(R[%])との関係を示す図である。図15のデータと図16のデータとは重複している。
【0094】
図15、16に示すように、Zn組成(1−z2)を0.78〜0.57としたZn1−z2Cdz2Oからなる高屈折率層と、Mg組成(x1)を0.82から0.70としたMgx1Bey1Oからなる低屈折率層とを用いた下部DBRミラーは、活性層と格子整合し、かつ内部での歪みが補償されているとともに、屈折率差(dn)も大きくなる。その結果、下部DBRミラーにおけるペア数が5ペアの場合でも、90%以上の反射率を実現することができる。さらにはペア数を10、15ペアとすれば、容易に99.9%以上の反射率を実現することができる。また、下部DBRミラーの設計値からのズレに対するトレランスも極めて大きくなるので、量産性の高いものとなる。
【0095】
なお、本実施の形態2においては、活性層と下部DBRミラーとを格子整合させ、かつ下部DBRミラーにおいて歪みを補償しているが、本発明はこれに限られない。すなわち、下部DBRミラーの平均の組成を、活性層に対する平均の歪み量が±3%以下、好ましくは±2%以下、さらに好ましくは±1%以下であるか、または活性層と下部DBRミラーとが格子整合するような組成とすれば、活性層におよぶ歪みの影響がきわめて低減されるため、良好な発光特性および信頼性を有する面発光レーザ素子が実現される。また、この場合の下部DBRミラーにおけるペア数は、所望の反射率に応じて適宜設定される。
【0096】
たとえば、低屈折率層をZn1−x1Mgx1O(0<x1<1)とし、高屈折率層をZnOとした下部DBRミラーとし、活性層の構成材料であるGaInNの各層の厚さとIn組成とを、井戸層が4nm、0.35、バリア層が10nm、0.1のように設定した場合を例示する。この場合、活性層に対する下部DBRミラーの歪み量が0.5%以上となるMg組成(x1)が0.3以上の組成、かつ歪み量が3%以下となるMg組成(x1)が0.9以下の組成とし、ペア数を45ペアとした下部DBRミラーを用いた場合に、99%以上の反射率を実現することができる。
【0097】
なお、上記した低屈折率層および高屈折率層の厚さ、ペア数、および反射率は、下部DBRミラーの反射中心波長を波長530nmにする場合について示したものである。ZnMgBeCdO系材料は波長分散特性を有し、その屈折率は波長に応じて変化するので、低屈折率層および高屈折率層の厚さおよびペア数は、所定の反射中心波長において所望の反射率を実現するように適宜調整する。
【0098】
(製造方法)
つぎに、実施の形態1に係る面発光レーザ素子100の製造方法の一例について説明する。
【0099】
(半導体層の成長)
はじめに、ZnOからなる基板1を準備する。なお、ZnOからなる基板については直径が2〜3インチ(50.8〜76.2mm)という大口径の基板が実現されており、素子の量産化に適するものである。また、ZnOからなる基板はサファイア基板よりも熱伝導性が高いので好ましい。
【0100】
つぎに、基板1を成長基板として、基板1上に下部DBRミラー2を、低屈折率層2aと高屈折率層2bとが所望の歪み量および屈折率となるように組成を調整して、所望のペア数だけエピタキシャル成長させる。この下部DBRミラー2の成長は、PLD(パルスレーザデポジション)法、MBE(分子線エピタキシー)法、MOCVD(有機金属化学気相成長)法などを用いて行う。
【0101】
PLD法やMBE法では、酸素源として酸素ラジカルを生成することができる酸素プラズマセルを用いることができる。PLD法では所望の組成のZnO、MgO、BeO、CdOやそれらの化合物であるZnMgO、ZnBeO、ZnCdO、MgBeO、ZnMgBeCdOなどをターゲット材料として、MBE法ではZn、Mg、Be、Cdは金属原料としてクヌーセンセルを用いて供給することができる。
【0102】
MOCVD法では、II族材料であるZn原料としてのジエチルジンク(DEZn)やジメチルジンク(DMZn)、Mg原料としてのジエチルマグネシウム(DEMg)やジメチルマグネシウム(DMMg)、Cd原料としてのジエチルカドミウム(DECd)やジメチルカドミウム(DMCd)、Be原料としてのジエチルベリリウム(DEBe)やジメチルカドミウム(DMCd)といった有機金属材料と、O原料としての酸素(O)とを、原料として供給して、下部DBRミラー2を形成することができる。
【0103】
なお、PLD法やMBE法を用いれば、水素フリーで結晶成長を行うことができるため、下部DBRミラー2とAlGaInN系材料との界面反応を抑制できるのでより好ましい。
【0104】
つぎに、下部DBRミラー2上に、下部コンタクト層3、下部クラッド層5、活性層6、上部クラッド層7、上部コンタクト層8を順次エピタキシャル成長させる。これらの窒化物半導体であるGaInNからなる各層の成長は、PLD法、MBE法、MOCVD法などを用いて行う。
【0105】
PLD法やMBE法では、窒素源として窒素ラジカルを生成する窒素プラズマセルを用いることができる。また、III族原料としては、PLD法では所望の組成のAlN、GaN、InN、AlGaN、GaInN、AlGaInNなどをターゲット材料として、MBE法ではAl、Ga、Inを、クヌーセンセルを用いて供給する。
【0106】
MOCVD法では、窒素源としてアンモニア(NH)を用いることができる。また、III族原料として、Al原料としてのトリメチルアルミニウム(TMA)やトリエチルアルミニウム(TEA)、Ga原料としてのトリメチルガリウム(TMG)やトリエチルガリウム(TEG)、In原料としてのトリメチルインジウム(TMI)やトリエチルインジウム(TEI)をそれぞれ適宜供給することによって、各窒化物半導体層の成長を行う。
【0107】
なお、アンモニアと酸化物半導体とは比較的低温で反応して酸化物半導体が昇華してしまうため、酸化物半導体からなる下部DBRミラー2上に下部コンタクト層3を形成するには、MBE法等を用いる方が好ましい。そして、下部DBRミラー2を窒化物半導体で覆った後には、MOCVD法を用いることにより、より良好な結晶品質の各窒化物半導体層を得ることができる。また、ZnOからなる基板1および下部DBRミラー2の側面や裏面は、MOCVD法で各窒化物半導体層を成長している間にアンモニアと反応して昇華してしまうおそれがあるため、SiやSiOといった絶縁膜、金属等で保護しておくことが好ましい。
【0108】
(素子作製)
つぎに、フォトリソグラフィ技術によって、上部電極11の外周に対応する円形のマスクパターンを形成し、これをマスクとして上部コンタクト層8から下部コンタクト層3の上までをウェットエッチングまたはドライエッチングし、メサポストMを形成する。つぎに、下部電極4の形状に対応するパターンのマスクを形成した後、下部電極4の材料となるTi/Al構造やTi/Pt/Au構造の金属層を、抵抗加熱蒸着(RH)、電子線蒸着(EB)、スパッタ蒸着などによって堆積し、リフトオフして下部電極4を形成し、さらに熱処理を行ってオーム性接触を形成する。
【0109】
つぎに、上部コンタクト層8上にSiO層またはSi層をスパッタやPCVD(プラズマ化学気相成長)法などにより堆積し、フォトリソグラフィ技術によって電流狭窄層9を形成する。その後、たとえばITO膜を全面に堆積して透明導電膜10を形成する。つぎに、透明導電膜10上に、電流狭窄層9の開口部9aを取り囲むように、Ni/Au構造やNi/Pd/Pt構造を有する上部電極11を形成する。続いて、この上部電極11の開口部内にスパッタやPCVD法を用いて上部DBRミラー12を形成する。その後、ダイシングにより素子分離して面発光レーザ素子100が完成する。
【0110】
なお、ダイシングの際に1次元的または2次元的に配列した複数の面発光レーザ素子を切り出して、面発光レーザアレイ素子としてもよい。また、これらの素子をTO−CANなどのCANのパッケージに実装する場合には、たとえば以下のように行う。まず、切り出した素子をヒートシンク又はサブマウント上にボンディングした後に、銅などのヒートシンク上にボンディングする。そして、この素子をボンディングしたものをCANに載せて、素子の電極部とCANをワイヤボンディングする。そして、最後に真空又は窒素雰囲気などでCANを封止して、素子のCANへの実装が完了する。
【0111】
なお、上記実施の形態および製造方法では、ZnOからなる基板1を成長基板として下部DBRミラー2および活性層6を成長させ、且つ面発光レーザ素子100における支持基板としても使用している。しかしながら、本発明はこれに限定されず、たとえばZnOからなる基板を成長基板として下部DBRミラーおよび活性層を含む半導体層積層構造を成長させた後、成長基板と半導体積層構造とを分離し、半導体積層構造をSi基板のような、ZnO基板よりもさらに熱伝導性の高い支持基板やヒートシンク等に搭載してもよい。このように、より熱伝導性の高い支持基板を用いれば、良好な発光特性および信頼性を有するとともに、より高温環境にも適する面発光レーザ素子となる。また、成長基板を分離せずに、CMP(化学機械研磨)等の研磨によって成長基板の一部を除去して厚さを薄くし、他の熱伝導性の高い支持基板等に搭載してもよい。
【0112】
成長基板と半導体積層構造との分離に、たとえば非特許文献1に開示されるような公知のレーザリフトオフ技術を用いて行うことができる。また、CMP(化学機械研磨)等の研磨によって成長基板を半導体積層構造から全部除去することによって行なってもよい。また、窒化物半導体の成長に、HVPE(ハイドライド気相成長)法を用いて、厚い半導体層を形成すれば、成長基板の分離または研磨による一部または全部の除去が容易となり好ましい。このような成長基板の分離または研磨による一部または全部の除去は、上述した素子作製の前または後に行うことができる。
【0113】
また、成長基板と半導体積層構造とを分離する場合、下部DBRミラーをn型導電型として、n側電極を下部DBRミラーの裏面に作製してもよい。また、下部DBRミラーをn型導電型とし、成長基板または支持基板をn型導電型として、n側電極を基板の裏面に作製してもよい。
【0114】
また、上記実施の形態では、下部DBRミラー2上に下部コンタクト層3および下部クラッド層5を介して活性層6を成長しているが、下部DBRミラー2と活性層6との間にさらに別の半導体層を介挿してもよいし、下部DBRミラー2上に直接活性層6を成長する構成としてもよい。
【0115】
また、上記実施の形態では、活性層に対して下部DBRミラー側がn型導電型になっているが、下部DBRミラーをp型導電型としてもよい。この場合、下部DBRミラーをp型導電型としてもよいし、さらに基板をp型導電型として、基板の裏面にp側電極を設けてもよい。
【0116】
また、基板上にn型またはp型の導電型のZnO層をエピタキシャル成長して、これを下部DBRミラーの下地層としてもよい。
【0117】
また、活性層は、AlGaInN材料の組成および厚さを適宜選択すれば、紫外領域から可視領域の広範囲にわたって所望のレーザ発振波長の面発光レーザ素子を実現できる。
【0118】
また、上記実施の形態により本発明が限定されるものではない。上記した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0119】
1 基板
2 下部DBRミラー
2a 低屈折率層
2b 高屈折率層
3 下部コンタクト層
4 下部電極
5 下部クラッド層
6 活性層
7 上部クラッド層
8 上部コンタクト層
9 電流狭窄層
9a 開口部
10 透明導電膜
11 上部電極
12 上部DBRミラー
100 面発光レーザ素子
L1〜L19 破線
M メサポスト
P1、P2 点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZnOからなる成長基板を用いて成長した多層膜反射鏡と、
前記多層膜反射鏡上に成長したAlGaInN系材料からなる活性層と、
を備え、前記多層膜反射鏡は、Zn1−x1−y1Mgx1Bey1O(0≦x1≦1、0≦y1≦1)からなる低屈折率層と前記低屈折率層よりも屈折率が高いZnOからなる高屈折率層とが交互に積層した構造からなるとともに、ZnO結晶または前記活性層に対する歪み量が±3%以下であることを特徴とする面発光レーザ素子。
【請求項2】
ZnOからなる成長基板を用いて成長した多層膜反射鏡と、
前記多層膜反射鏡上に成長したAlGaInN系材料からなる活性層と、
を備え、前記多層膜反射鏡は、Zn1−x1−y1Mgx1Bey1O(0≦x1≦1、0≦y1≦1)からなる低屈折率層と前記低屈折率層よりも屈折率が高いZn1−z2Cdz2O(0≦z2≦1)からなる高屈折率層とが交互に積層した構造からなるとともに、ZnO結晶または前記活性層に対する歪み量が±3%以下であることを特徴とする面発光レーザ素子。
【請求項3】
ZnOからなる成長基板を用いて成長した多層膜反射鏡と、
前記多層膜反射鏡上に成長したAlGaInN系材料からなる活性層と、
を備え、前記多層膜反射鏡は、Zn1−x1Mgx1O(0.3≦x1≦0.9)からなる低屈折率層と前記低屈折率層よりも屈折率が高いZnOからなる高屈折率層とが交互に積層した構造からなるとともに、ZnO結晶または前記活性層に対する歪み量が±3%以下であることを特徴とする面発光レーザ素子。
【請求項4】
前記多層膜反射鏡の前記低屈折率層がMgx1Bey1O(0.62≦x1≦0.89、x1+y1=1)であることを特徴とする請求項1に記載の面発光レーザ素子。
【請求項5】
前記多層膜反射鏡の前記低屈折率層がZn1−y1Bey1O(0.11≦y2≦0.17)であることを特徴とする請求項1に記載の面発光レーザ素子。
【請求項6】
前記多層膜反射鏡の歪み量が±2%以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の面発光レーザ素子。
【請求項7】
前記多層膜反射鏡の歪み量が±1%以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の面発光レーザ素子。
【請求項8】
前記多層膜反射鏡は、ZnO結晶または前記活性層と格子整合していることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の面発光レーザ素子。
【請求項9】
前記多層膜反射鏡の低屈折率層と高屈折率層とが、ZnO結晶または前記活性層に対して、互いに符合が異なり絶対値が等しい歪み量を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか一つに記載の面発光レーザ素子。
【請求項10】
前記多層膜反射鏡の前記低屈折率層がMgx1Bey1O(0.62≦x1≦0.73、x1+y1=1)であり、前記高屈折率層がZn1−z2Cdz2O(0.75≦1−z2≦0.94)であることを特徴とする請求項2に記載の面発光レーザ素子。
【請求項11】
前記多層膜反射鏡の前記低屈折率層がMgx1Bey1O(0.70≦x1≦0.82、x1+y1=1)であり、前記高屈折率層がZn1−z2Cdz2O(0.57≦1−z2≦0.78)であることを特徴とする請求項2に記載の面発光レーザ素子。
【請求項12】
ZnOからなる基板上に多層膜反射鏡を成長する多層膜反射鏡成長工程と
前記多層膜反射鏡上にAlGaInN系材料からなる活性層を成長する活性層成長工程と、
を含み、前記多層膜反射鏡成長工程において、Zn1−x1−y1Mgx1Bey1O(0≦x1≦1、0≦y1≦1)からなる低屈折率層と前記低屈折率層よりも屈折率が高いZnOからなる高屈折率層とを、ZnO結晶または前記活性層に対する歪み量が±3%以下になるように前記各屈折率層の組成を調整して、交互に積層することを特徴とする面発光レーザ素子の製造方法。
【請求項13】
ZnOからなる基板上に多層膜反射鏡を成長する多層膜反射鏡成長工程と
前記多層膜反射鏡上にAlGaInN系材料からなる活性層を成長する活性層成長工程と、
を含み、前記多層膜反射鏡成長工程において、Zn1−x1−y1Mgx1Bey1O(0≦x1≦1、0≦y1≦1)からなる低屈折率層と前記低屈折率層よりも屈折率が高いZn1−z2Cdz2O(0≦z2≦1)からなる高屈折率層とを、ZnO結晶または前記活性層に対する歪み量が±3%以下になるように前記各屈折率層の組成を調整して、交互に積層することを特徴とする面発光レーザ素子の製造方法。
【請求項14】
ZnOからなる基板上に多層膜反射鏡を成長する多層膜反射鏡成長工程と
前記多層膜反射鏡上にAlGaInN系材料からなる活性層を成長する活性層成長工程と、
を含み、前記多層膜反射鏡成長工程において、Zn1−x1Mgx1O(0.3≦x1≦0.9)からなる低屈折率層と前記低屈折率層よりも屈折率が高いZnOからなる高屈折率層とを、ZnO結晶または前記活性層に対する歪み量が±3%以下になるように前記各屈折率層の組成を調整して、交互に積層することを特徴とする面発光レーザ素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−238852(P2011−238852A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110453(P2010−110453)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】