説明

鞍乗型車両、および鞍乗型車両の傾き検出装置

【課題】適切に車両の傾きの状態を検出することができる自動二輪車を提供する。
【解決手段】自動二輪車には、車体の進行方向左右の路面Rまでの距離を測定するセンサであって、モーターサイクルの下方向に向けて取付けられる下方距離センサ(左)LL、および下方距離センサ(右)LRと、進行方向左右の路面Rまでの距離を測定するセンサであって、下方距離センサLL,LRよりも外側に向けて取付けられる側方距離センサ(左)SL、および側方距離センサ(右)SRとが設けられている。下方距離センサ(左)LL、および下方距離センサ(右)LRの測定値に基づいて、車両のバンク角θが算出される。バンク角θが所定範囲内になければ、側方距離センサ(左)SL、および側方距離センサ(右)SRにより転倒の可能性が判定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は鞍乗型車両、および鞍乗型車両の傾き検出装置に関し、特に、センサを用いて車両の傾きの状態を算出する鞍乗型車両、および鞍乗型車両の傾き検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車などの鞍乗型車両の走行路面に対する傾斜角を測定し、設定以上の傾斜となったときに、それをライダーに知らせる装置が考えられている。このような装置に関して、以下の文献がある。
【0003】
下記特許文献1は、自動二輪車の走行中における傾斜角測定装置を開示する。傾斜角測定装置は、車体下面の左右方向に、スリット状のビームを発生させるスリット光源を備えている。2つの一次元光検出素子は、スリット光が路面に照射されてできる光のラインを検出する。光検出素子の座標系から見た光のラインの傾きが求められる。この傾きは、車体のバンク角と1:1の対応関係があるため、バンク角を求めることができるとされている。バンク角が設定以上になると、ライダーに転倒の危険が通知される。
【0004】
下記特許文献2は、二輪車のバンク角検出装置を開示する。これは、超音波送波器を車体進行方向に対して左右に揺動させながら超音波を送波し、路面からの反射波強度が最大となる揺動位置からバンク角を検出するものである。
【0005】
下記特許文献3は、自動二輪車の転倒警告装置を開示する。これは、角速度の微分値(角加速度)と車速の両者から転倒危険性の判定を行い、ライダーに警告をするものである。
【特許文献1】特開平7−132869号公報
【特許文献2】特許第2709394号公報
【特許文献3】特開平9−109967号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら上述の従来の技術では、以下の問題がある。
【0007】
特許文献1の技術では、路面の細かな凹凸に対処できず、機構的に角度の算出精度に問題がある。従って、転倒予測には不向きである。また、引用文献1のアルゴリズムにおいては、バンク角としきい値との比較によって転倒危険性を判定するのみであり、転倒直前の瞬間を検出することは困難である。
【0008】
特許文献2の技術では、傾き検出のために、反射波が最大となる点が検出されるまで送波器を揺動させなければならない。これにより、瞬間的にバンク角を検知することができないという問題がある。
【0009】
特許文献3の技術は、角度の値を判定に用いておらず、あくまでも角加速度に基づいて危険性を警告するものである。すなわち特許文献3の技術では、バンク角を検出することはできない。
【0010】
この発明はそのような問題点を解決するためになされたものであり、適切に傾きの状態を算出することができる鞍乗型車両、および鞍乗型車両の傾き検出装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するためこの発明のある局面に従うと、鞍乗型車両は、進行方向左側の路面までの距離を測定するセンサであって、鞍乗型車両の下方向にある第1の路面位置までの距離を測定する第1の距離センサと、進行方向右側の路面までの距離を測定するセンサであって、鞍乗型車両の下方向にある第2の路面位置までの距離を測定する第2の距離センサと、進行方向左側の路面までの距離を測定するセンサであって、第1の路面位置よりも遠くにある第3の路面位置までの距離を測定する第3の距離センサと、進行方向右側の路面までの距離を測定するセンサであって、第2の路面位置よりも遠くにある第4の路面位置までの距離を測定する第4の距離センサと、第1から第4の距離センサの出力に基づいて、車両の傾きの状態を算出する算出手段とを備える。
【0012】
この発明によると、それぞれが路面の異なる位置までの距離を測定する少なくとも4つの距離センサを用いて、車両の傾きの状態を算出することができるため、適切に傾きの状態を算出することができる鞍乗型車両を提供することが可能となる。
【0013】
好ましくは算出手段は、車両の傾きに関する値、および車両が傾いてゆく速さに関する値のうち、少なくとも1つを算出する。
【0014】
この発明によると、車両の傾きの状態として、車両の傾きに関する値、および車両が傾いてゆく速さに関する値のうち、少なくとも1つを算出することができるという効果がある。
【0015】
好ましくは鞍乗型車両は、算出手段の算出結果に応じて転倒の可能性を判定する判定手段をさらに備える。
【0016】
この発明によると、傾きの状態に応じて転倒の可能性を判定することができるという効果がある。
【0017】
好ましくは判定手段は、転倒の可能性があるときに、警告を行なう警告手段と、転倒の可能性が高いときに、転倒に対処するための制御を行なう制御手段とを含む。
【0018】
この発明によると、転倒の可能性に基づいて、警告や転倒に対処するための制御を行なうことができるという効果がある。
【0019】
好ましくは判定手段は、第1の距離センサおよび第2の距離センサの測定値に基づいて、バンク角を算出するバンク角算出手段をさらに備え、バンク角算出手段により算出されたバンク角が所定範囲内であれば、転倒の可能性がないものとする。
【0020】
この発明によると、鞍乗型車両の下方向にある第1および第2の路面位置までの距離を測定する第1および第2の距離センサによって求められたバンク角が所定の範囲内であれば、転倒の可能性がないものとすることができる。このため、より適切に転倒の可能性を判定することができる鞍乗型車両を提供することが可能となる。
【0021】
好ましくは鞍乗型車両は、車両の走行速度を検出する検出手段をさらに備え、判定手段は、検出手段の検出結果に基づいて判定を行なう。
【0022】
この発明によると、鞍乗型車両の走行速度に基づいて転倒の可能性を判定することができるため、より適切に転倒の可能性を判定することができる鞍乗型車両を提供することが可能となる。
【0023】
この発明の他の局面に従うと鞍乗型車両の傾き検出装置は、進行方向左側の路面までの距離を測定するセンサであって、鞍乗型車両の下方向にある第1の路面位置までの距離を測定する第1の距離センサと、進行方向右側の路面までの距離を測定するセンサであって、鞍乗型車両の下方向にある第2の路面位置までの距離を測定する第2の距離センサと、進行方向左側の路面までの距離を測定するセンサであって、第1の路面位置よりも遠くにある第3の路面位置までの距離を測定する第3の距離センサと、進行方向右側の路面までの距離を測定するセンサであって、第2の路面位置よりも遠くにある第4の路面位置までの距離を測定する第4の距離センサと、第1から第4の距離センサの出力に基づいて、車両の傾きの状態を算出する算出手段とを備える。
【0024】
この発明によると、それぞれが路面の異なる位置までの距離を測定する少なくとも4つの距離センサを用いて、車両の傾きの状態を算出することができるため、適切に傾きの状態を算出することができる鞍乗型車両の傾き検出装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1は、本発明の実施の形態の1つにおける、鞍乗型車両の一例としての自動二輪車の正面図であり、図2は側面図である。
【0026】
図を参照して自動二輪車はスクーターであり、前輪2、後輪3、ハンドル11、ヘッドライト21、フロントカウル23、およびメータ・警告灯類13を備えている。また、二輪車の内部には、二輪車のエンジン他各部材の制御を行なうECU(Electronic Control Unit)30が含まれる。ECU30は、車両の転倒に対応する処理を行なう機能を有する。
【0027】
自動二輪車には、車両の走行速度を検出するための速度センサ51が設けられている。これは、車輪(または後輪駆動歯車(ギア))の回転速度から車速を検出するものである。
【0028】
自動二輪車には、車体の進行方向左側の路面Rまでの距離を測定するセンサであって、自動二輪車の下方向に向けて取付けられる下方距離センサ(左)LLと、進行方向右側の路面Rまでの距離を測定するセンサであって、自動二輪車の下方向に向けて取付けられる下方距離センサ(右)LRと、進行方向左側の路面Rまでの距離を測定するセンサであって、下方距離センサ(左)LLよりも外側に傾けて取付けられる側方距離センサ(左)SLと、進行方向右側の路面までの距離を測定するセンサであって、下方距離センサ(右)LRよりも外側に傾けて取付けられる側方距離センサ(右)SRとが備えられている。
【0029】
下方距離センサ(左)LLは、車体下方左側に供えられ、自動二輪車の走行位置(タイヤの位置)に近い路面位置R1までの距離LLLを測定する。
【0030】
下方距離センサ(右)LRは、車体下方右側に供えられ、自動二輪車の走行位置(タイヤの位置)に近い路面位置R2までの距離LLRを測定する。
【0031】
側方距離センサ(左)SLは、車体側方左側に供えられ、自動二輪車の走行位置(タイヤの位置)から遠い路面位置R3までの距離LSLを測定する。
【0032】
側方距離センサ(右)SRは、車体側方右側に供えられ、自動二輪車の走行位置(タイヤの位置)から遠い路面位置R4(図示せず)までの距離LSRを測定する。
【0033】
これら4つの距離センサの出力に基づいてECU30は、進行方向に対する自動二輪車の傾きの状態を算出する。
【0034】
4つの距離センサのそれぞれは、レーザー距離センサである。これに代えて、超音波センサ、ミリ波レーダ、ナノ波レーダ、光を用いた測距センサなどの物理的に距離を測定するセンサを距離センサとして用いることもできる。
【0035】
予め、以下の情報がECU30には記録されている。
【0036】
・下方距離センサの検知軸間距離(下方距離センサ(左)LLと、下方距離センサ(右)LRとの間の距離。図1参照。):D
【0037】
各距離センサによってECU30が取得する数値データを以下に示す。
【0038】
・側方距離センサ(左)SLと左側方路面との間の距離(側方路面距離(左)):LSL
【0039】
・側方距離センサ(左)SLと左側方路面との間の距離の変化率(側方路面接近速度(左)):VSL(=dLSL/dt)(但しd/dtは微分演算子)
【0040】
・側方距離センサ(右)SRと右側方路面との間の距離(側方路面距離(右)):LSR
【0041】
・側方距離センサ(右)SRと右側方路面との間の距離の変化率(側方路面接近速度(右)):VSR(=dLSR/dt)
【0042】
・下方距離センサ(左)LLと下方路面との間の距離(下方距離(左)):LLL
【0043】
・下方距離センサ(右)LRと下方路面との間の距離(下方距離(右)):LLR
【0044】
・車体鉛直面(図1における一点鎖線“B”で示す。)と、路面Rの鉛直軸“A”との間の角度(バンク角):θ=tan−1((LLL−LLR)/D
【0045】
すなわち、ECU30は、車体側面と側方の路面との間の距離(LSL,LSR)、およびそれらの距離の変化率(VSL,VSR)を計測することができる。また、ECU30は、車体と車体下方の路面との相対位置(LLL,LLR)を計測することが可能であり、これによって車体のバンク角(θ)を検出することができる。
【0046】
また、ECU30は、距離(LSL,LSR)、それらの距離の変化率(VSL,VSR)、および車体と車体下方の路面との相対位置(LLL,LLR)を組み合わせることによって、転倒の可能性を事前に予測する。
【0047】
転倒の可能性の予測のために、予め、以下の情報がECU30には記録されている。
【0048】
・警戒バンク角:θBC
【0049】
また、ECU30は、(LSL,VSL)空間に、安全領域、警告領域、および危険領域を設け、現在の(LSL,VSL)がどの領域に属するかによって、転倒の可能性の予測を行なう。安全領域と警告領域とは隣り合う。警告領域と危険領域とは隣り合う。安全領域と危険領域とは隣り合わない。
【0050】
(LSLC,VSLC)は、安全領域と警告領域との境界線上の点の集合であり、以下のように呼ぶ。
【0051】
・転倒警告距離(左):LSLC
【0052】
・転倒警告接近速度(左):VSLC
【0053】
(LSLD,VSLD)は、警告領域と危険領域との境界線上の点の集合であり、以下のように呼ぶ。
【0054】
・転倒危険距離(左):LSLD
【0055】
・転倒危険接近速度(左):VSLD
【0056】
さらに、転倒の可能性の判断結果として、ECU30は、以下の情報を算出する。
【0057】
・転倒予測判定結果(左):FFL
【0058】
FLの値は、「0」であれば転倒しない、「1」であれば左側へ転倒の危険(転倒可能性)あり、「2」であれば直後に左側へ転倒する(転倒可能性高)と定義されている。
【0059】
なお、上記各領域および判断結果に関しては左側のみ記載するが、右側でも同様の値を用いる。また、転倒の可能性が右と左とで異なるのであれば、右の各領域と左の各領域とを異なる領域としてもよい。
【0060】
図3は、ECU30が判断する車両の傾きの程度を示す図である。
【0061】
ここでは、バンク角の増加に伴って車体が左側に転倒するまでの様子が(a)〜(d)の段階を追って示されている。
【0062】
図3の(a)は、自動二輪車が正立している状態を示す。
【0063】
図3の(b)に示されるように、下方距離(左)LLLおよび下方距離(右)LLRとから求められるバンク角θの絶対値が警告バンク角θBCを超えるのであれば、ECU30は、側方路面距離(左)LSLと、側方路面接近速度VSLとから転倒予測判定を行う。
【0064】
バンク角θは、下方距離(左)LLLと下方距離(右)LLRとの両者のセンサ値を使用して求められる。これにより、サスペンションによる車体全体の沈み込みの影響を受けることなくバンク角を算出することができる。
【0065】
転倒予測判定においては、図3の(c)に示されるように、現在の(LSL,VSL)が警告領域に入ると、ECU30は、ライダーへ転倒の危険性がある旨メータ・警告灯類13で警告を発する(音声により警告してもよい)。
【0066】
転倒予測判定においては、図3の(d)に示されるように、現在の(LSL,VSL)が危険領域に入ると、ECU30は、この直後に車両が転倒すると判断し、ECU30に信号を送り、転倒に備えた制御を開始する。
【0067】
ここに、転倒に備えた制御とは、例えば転倒事故の状況を記録するための事故レコーダを起動させる制御や、GPS装置により現在位置を特定し、携帯電話などを介して事故が起きた位置を報告する制御などである。
【0068】
図4および5は、側方距離センサ(左)SLの取付角度を説明するための図である。
【0069】
図4は、車両の一部が路面Rに接触している状態(転倒状態)を示している。ここでは、位置“P”において車両の一部が路面Rと接触している。このときのバンク角を接触バンク角(左)θBTと定義する。
【0070】
側方距離センサ(左)SLは、側方の路面に向けて車両に取付けられる。側方距離センサ(左)SLは、以下の(1)および(2)の両条件を満たすように車両に取付けられる(なお、ここでは地面は水平と仮定している)。
【0071】
(1) 車体が警戒バンク角θBCに傾斜したときに、側方距離センサ(左)SLは路面Rを捉えること。
【0072】
(2) 車体を傾けていくとき、車体が地面と接触する接触バンク角θBTまで、バンク角θに対する側方路面距離LSLが単調減少の関係となること。
【0073】
上記(1)および(2)を満たすために、側方距離センサ(左)SLの取り付け角θSL(一点鎖線で示される車体鉛直面と、側方距離センサ(左)SLが測定を行なう方向との間の角度)が、以下の関係を満たすように、側方距離センサ(左)SLは取付けられる。
【0074】
θBT<θSL<θBC+90°
【0075】
なお、ここでは側方距離センサ(左)SLについて説明したが、側方距離センサ(右)SRについても同様である。
【0076】
図6は、ECU30の実行する自動二輪車の傾き検出処理を示すフローチャートである。
【0077】
なお、ここでは左方向への傾きの検出について説明するが、右方向の傾きについても同様の処理が行なわれる。
【0078】
図を参照してステップS101において、下方距離(左)LLL、下方距離(右)LLR、および側方路面距離(左)LSLが計測される。
【0079】
ステップS103において、下方距離(左)LLLおよび下方距離(右)LLRから、バンク角θが算出される。ステップS105において、側方路面距離(左)LSLの変化率に基づいて、側方路面接近速度(左)VSLが算出される。
【0080】
ステップS107において、バンク角θが警告バンク角θBCを超えるかが判定される。YESであれば、ステップS109で、側方路面距離(左)LSLおよび側方路面接近速度(左)VSLに基づいて、転倒予測判定結果(左)FFLを求める処理が行なわれる。
【0081】
ステップS111において、転倒予測判定結果(左)FFLの値が何であるかを判定する。FFL=2であれば、ステップS113で転倒予測制御を行なう。FFL=1であれば、ステップS115で転倒危険表示を行なう。
【0082】
ステップS111でFFL=0であれば、ステップS101へ戻る。また、ステップS107でNOであれば、ステップS101へ戻る。
【0083】
図7は、図6のステップS109で実行される処理を説明するための図である。
【0084】
転倒予測判定は、図7のグラフにより行なわれる。このグラフにおいて、横軸は側方路面距離(左)LSLを示し、縦軸は側方路面接近速度(左)VSLを示している。側方路面接近速度(左)VSLは、地面に向かう方向をマイナスとする。グラフに基づいて、測定された側方路面距離(左)LSL、および側方路面接近速度(左)VSLが、どの領域に属するかが判断される。この結果に基づいて、転倒予測判定結果(左)FFLが、0、1、2のいずれであるかが判定される。
【0085】
基本的には、(1)側方路面距離(左)LSLが短いほど、転倒の可能性が高いものと判断し、(2)側方路面接近速度(左)VSLがマイナス方向に速いほど、転倒の可能性が高いものと判断する。
【0086】
各領域の境界はf(LSL,VSL)=0、f(LSL,VSL)=0の各方程式で定義される。
【0087】
方程式f=0を満たす解が、転倒警告距離(左):LSLC、および転倒警告接近速度(左):VSLCとなる。方程式f=0を満たす解が、転倒危険距離(左):LSLD、および転倒危険接近速度(左):VSLDとなる。具体的には、関数f、fに計測値を入力して計算を行ない、算出値の正負で計測値がどの領域に属するかの判定を行なう。これにより、転倒予測判定をすることとなる。
【0088】
[変形例]
【0089】
本発明は、自動二輪車や、原動機付自転車などの鞍乗型車両に適用することができる。鞍乗型車両であれば、2輪、3輪、4輪の車両(あるいはそれ以上の車輪を備えた車両)、クローラ機構により移動を行なう車両のいずれであっても本発明を実施することができる。
【0090】
また、レーサータイプ、アメリカンタイプ、ネイキッドタイプ、オフロードタイプなどのモーターサイクルのいずれであっても本発明を適用することができる。
【0091】
図8は、鞍乗型車両の一例としてのレーサーレプリカタイプの自動二輪車に本発明を適用した場合の構成を示す図である。
【0092】
図を参照して自動二輪車は、前輪2と、後輪3と、前輪と共に回転するセンサロータ4と、センサロータ4の回転を検出することで前輪2の回転速度を検出する前輪速度センサ5と、前輪2に対するフロントブレーキ6と、後輪と共に回転するセンサロータ7と、センサロータ7の回転を検出することで後輪3の回転速度を検出する後輪速度センサ8と、後輪3に対するリアブレーキ9と、ハンドル11と、メータ・警告灯類13と、リアブレーキペダル14とを備えている。
【0093】
また、二輪車の内部には、二輪車のエンジン他各部材の制御を行なうECU30と、車両の転倒に対応する処理を行なう転倒対処ユニット35と、フェイルセーフリレー31とが含まれる。
【0094】
自動二輪車には、車体の進行方向左側の路面までの距離を測定するセンサであって、自動二輪車の下方向に向けて取付けられる下方距離センサ(左)LLと、進行方向右側の路面までの距離を測定するセンサであって、自動二輪車の下方向に向けて取付けられる下方距離センサ(右)LRと、進行方向右側の路面までの距離を測定するセンサであって、下方距離センサ(左)LLよりも外側に傾けて取付けられる側方距離センサ(左)SLと、進行方向右側の路面までの距離を測定するセンサであって、下方距離センサ(右)LRよりも外側に傾けて取付けられる側方距離センサ(右)SRとが備えられている。
【0095】
本変形例においても、上記実施の形態と同様に4つの距離センサで測定された距離に基づいて車両の傾きが検知され、転倒の予測制御が行なわれる。
【0096】
[実施の形態における効果]
【0097】
上記実施の形態によると、車体側面と路面との間の距離(側方路面距離)と、その距離の変化率(側方路面接近速度)とが測定される。これにより、車両の側方が接触するような転倒(側方接触転倒)において、転倒に直接影響する精度の高い情報を得ることができる。
【0098】
また、側方路面距離と側方路面接近速度との関係から、転倒が直前に予測される。これにより、転倒に備えた二輪車の制御を行なったり、転倒の危険性を予測してライダーにその旨を提示することが可能となる。
【0099】
また、側方路面距離や側方路面接近速度のみから車両の傾きを検出すると、車体周囲にガードレールや縁石、他の二輪車、四輪車などが存在して側方路面距離や側方路面接近速度の検出が妨げられたときに、誤検出が生じる可能性がある。
【0100】
このため上述の実施の形態では、車体下方路面の情報に基づく車体のバンク角を利用している。車体側方とは異なって、車体下方には計測を妨害する障害物が存在する可能性が極めて低い。そこで、バンク角が側方転倒の可能性を含む領域に存在するときのみに、転倒予測や転倒危険性予測を行なうこととしている。これにより、誤検出を防ぐことができる。
【0101】
[その他]
【0102】
なお、検出された車両の速度を考慮して、転倒予測や転倒危険性予測を行なうようにしてもよい。車両の速度が速いときは、バンク角が大きくても転倒の可能性が低くなるため、車速に応じて、転倒警告距離、転倒警告接近速度、転倒危険距離、および転倒危険接近速度の値(ならびに警戒バンク角)を変化させるものである。
【0103】
さらに、下方距離センサ(左)LLと、下方距離センサ(右)LRと、側方距離センサ(左)SLと、側方距離センサ(右)SRと、それらセンサからの出力に基づいて車両の傾きを計算したり、転倒予測や転倒危険性予測を行なう演算ユニットとを車両のオプション部品として提供することとしてもよい。
【0104】
また、車両の傾きを計算し、その傾きを表示する機能(または傾きを記録する機能、傾きを外部へ送信する機能)を備えた鞍乗型車両や、車両の傾き検出装置にも本発明を実施することができる。
【0105】
また上記実施の形態では、側方距離センサを下方距離センサよりも車両の外側に向けて取付けることで、側方距離センサの路面の検出位置を、下方距離センサによる路面の検出位置よりも遠くなるようにしていた。これに代えて、側方距離センサと下方距離センサの傾きを同じ程度にし、側方距離センサを下方距離センサの取付位置よりも車両の左右方向側(または下方距離センサの取付位置よりも高い位置)に設置することで、側方距離センサの路面の検出位置を、下方距離センサによる路面の検出位置よりも遠くなるようにしてもよい。
【0106】
また、バンク角を求めるための下方距離センサは障害物による誤検出を避ける必要がある。このため、障害物が少ないと考えられるタイヤに近い路面位置を測定するように取り付けられることが好ましい。
【0107】
なお、上記実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明の実施の形態の1つにおける、鞍乗型車両の一例としての自動二輪車の正面図である。
【図2】本発明の実施の形態の1つにおける、鞍乗型車両の一例としての自動二輪車の側面図である。
【図3】ECU30が判断する車両の傾きの程度を示す図である。
【図4】側方距離センサ(左)SLの取付角度を説明するための図である。
【図5】側方距離センサ(左)SLの取付角度を説明するための図である。
【図6】ECU30の実行する自動二輪車の傾き検出処理を示すフローチャートである。
【図7】図6のステップS109で実行される処理を説明するための図である。
【図8】鞍乗型車両の一例としてのレーサーレプリカタイプの自動二輪車に本発明を適用した場合の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0109】
2 前輪
3 後輪
5 前輪速度センサ
8 後輪速度センサ
13 メータ・警告灯類
21 ヘッドライト
23 フロントカウル
30 ECU
51 速度センサ
LL 下方距離センサ(左)
LR 下方距離センサ(右)
SL 側方距離センサ(左)
SR 側方距離センサ(右)
LL 下方距離(左)
LR 下方距離(右)
SL 側方路面距離(左)
SR 側方路面距離(右)
SL 側方路面接近速度(左)
SR 側方路面接近速度(右)
R 路面
R1 第1の路面位置
R2 第2の路面位置
R3 第3の路面位置
θ バンク角
θBC 警戒バンク角
θBT 接触バンク角
θSL 側方距離センサ取付角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
進行方向左側の路面までの距離を測定するセンサであって、鞍乗型車両の下方向にある第1の路面位置までの距離を測定する第1の距離センサと、
進行方向右側の路面までの距離を測定するセンサであって、鞍乗型車両の下方向にある第2の路面位置までの距離を測定する第2の距離センサと、
進行方向左側の路面までの距離を測定するセンサであって、前記第1の路面位置よりも遠くにある第3の路面位置までの距離を測定する第3の距離センサと、
進行方向右側の路面までの距離を測定するセンサであって、前記第2の路面位置よりも遠くにある第4の路面位置までの距離を測定する第4の距離センサと、
前記第1から第4の距離センサの出力に基づいて、車両の傾きの状態を算出する算出手段とを備えた、鞍乗型車両。
【請求項2】
前記算出手段は、車両の傾きに関する値、および車両が傾いてゆく速さに関する値のうち、少なくとも1つを算出する、請求項1に記載の鞍乗型車両。
【請求項3】
前記算出手段の算出結果に応じて転倒の可能性を判定する判定手段をさらに備えた、請求項1または2に記載の鞍乗型車両。
【請求項4】
前記判定手段は、
転倒の可能性があるときに、警告を行なう警告手段と、
転倒の可能性が高いときに、転倒に対処するための制御を行なう制御手段とを含む、請求項3に記載の鞍乗型車両。
【請求項5】
前記判定手段は、
前記第1の距離センサおよび前記第2の距離センサの測定値に基づいて、バンク角を算出するバンク角算出手段をさらに備え、
前記バンク角算出手段により算出されたバンク角が所定範囲内であれば、転倒の可能性がないものとする、請求項3または4に記載の鞍乗型車両。
【請求項6】
車両の走行速度を検出する検出手段をさらに備え、
前記判定手段は、前記検出手段の検出結果に基づいて判定を行なう、請求項3から5のいずれかに記載の鞍乗型車両。
【請求項7】
進行方向左側の路面までの距離を測定するセンサであって、鞍乗型車両の下方向にある第1の路面位置までの距離を測定する第1の距離センサと、
進行方向右側の路面までの距離を測定するセンサであって、鞍乗型車両の下方向にある第2の路面位置までの距離を測定する第2の距離センサと、
進行方向左側の路面までの距離を測定するセンサであって、前記第1の路面位置よりも遠くにある第3の路面位置までの距離を測定する第3の距離センサと、
進行方向右側の路面までの距離を測定するセンサであって、前記第2の路面位置よりも遠くにある第4の路面位置までの距離を測定する第4の距離センサと、
前記第1から第4の距離センサの出力に基づいて、車両の傾きの状態を算出する算出手段とを備えた、鞍乗型車両の傾き検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−154637(P2009−154637A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−333460(P2007−333460)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】