説明

音叉型水晶振動子及びその周波数調整方法

【課題】周波数調整精度を高めた音叉型水晶振動子及びその周波数調整方法を提供する。
【解決手段】音叉基部1から一対の音叉腕2a、2bが延出した音叉状水晶片3を有する音叉型水晶振動子及びその周波数調整方法において、前記一対の音叉腕2a、2bを周回する外周面から頭部先端面に、又は頭部先端面から外周面に向かって照射されるフェムト秒レーザ(超短パルスレーザ)Pfによって、前記外周面から頭部先端面にまたがる傾斜面を形成して振動周波数を調整する第1周波数調整工程を備えた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は音叉型水晶振動子(以下、音叉型振動子とする)及びその振動周波数の周波数調整方法に係わり、特に調整精度を高めた周波数調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
音叉型振動子は特に時計用の基準源として使用され、腕時計等を始めとして携帯電話やデジカメ等の電子機器に時計機能として内蔵される。近年では、これら電子機器の普及及び小型化に伴い、音叉型振動子もフォトリソグラフィック(写真印刷技術)を用いたエッチングによって形成されている。
【0003】
(従来技術の一例)
図4は一従来例を説明する音叉型振動子のカバーを除いて見た平面図である。さらに、図5(a),(b)はこの音叉型振動子をさらに詳細に示した図であり、特に図5(a)は電極配線も併せて示した音叉型振動子の斜視図、図5(b)は図5(a)のA−A線に沿った断面図を、発振回路とともに示した断面図である。
【0004】
音叉型振動子は図4に示すように、音叉基部1から一対の音叉腕2(ab)が延出した音叉状水晶片3を備える。一対の音叉腕2(ab)にはその頭部先端面(天面)を除く各四面に駆動電極4を有する。そして、図5に示すように、各駆動電極4,4が結線されている。すなわち、各音叉腕2(ab)での両主面間及び両側面間を同電位とし、両主面と両側面とでは逆電位とする。一対の音叉腕2(ab)間では両主面間同士及び両側面同士を逆電位とする。
【0005】
これらの駆動電極4は同電位同士が共通接続され、図5に示すように、一対の電極が音叉基部1における主面下方に延出する。一般には、周波数調整用の金属膜5(ab)が音叉腕2(ab)の先端側主面に設けられる。そして、これらは、駆動電極4等を含めた外形加工が例えばフォトリソグラフィックを用いたエッチングによって形成され、多数の音叉状水晶片3が後述の図2で示す水晶ウェハに一体的に連結される。
【0006】
水晶ウェハから個々の音叉状水晶片3に分割された後、図4に示すように、音叉状水晶片3は、例えば凹状とした表面実装容器6の一端側の分割されて図示しない水晶端子を有する内壁段部7に音叉基部1の主面下方を固着し、電気的・機械的に接続される。そして、表面実装容器6の開口端面を図示しないカバーによって封止し、音叉状水晶片3を密閉封入する。通常、真空封止とし、小型化によるクリスタルインピーダンス(CI)の上昇を抑える。
【0007】
このようなものでは、音叉状水晶片3が水晶ウェハに一体的に連結した状態で、先端主面の金属膜の一部をYAG等のレーザによって、溶融・飛散して除去する。そして、音叉型振動子(音叉状水晶片3)の振動周波数を低い方から高い方に調整する。この場合、一括的に周波数調整ができるので、生産性を高める。
【0008】
あるいは、表面実装容器6内に収容した後、同様にして金属膜5(ab)の一部を除去することによって、周波数調整する。この場合、音叉基部1を段部に固着した際の振動周波数の変化分を含めて、振動周波数(常温)を規格内に調整できる。さらには、水晶ウェハの状態で各音叉水晶片の振動周波数を粗調整をし、容器に収容した後、微調整をすることもある(特許文献1)。
【0009】
また、音叉型水晶片の振動腕部の外側角部を水晶の切断に適した波長のレーザ光により漸次切断して特性調整を行うものもある(特許文献4)。
【0010】
なお、フェムト秒技術については、非特許文献1を参照のこと。
【特許文献1】特開2004−201105号公報
【特許文献2】特開2004−289237号公報
【特許文献3】特開2007−57411号公報
【特許文献4】特開2000−278066号公報
【非特許文献1】日経サイエンス2000年11月号第20頁〜第31頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
(従来技術の問題点)
しかしながら、上記構成の音叉型振動子では、周波数調整用の金属膜5(ab)を形成する必要があるので、製造工程が煩雑になる。そして、周波数調整時にはレーザの熱によって金属膜5(ab)を削除するので、音叉腕2(ab)自体(音叉型振動子自体)の温度も上昇する。一方、音叉型振動子は常温近傍を極大値とし2次関数となる周波数温度特性を有する。
【0012】
したがって、常温時の周波数調整をしても、音叉腕2(ab)自体の温度上昇によって実際には常温時よりも高い温度での周波数調整となる。これにより、周波数調整が充分でなく、調整精度が低下しやすい問題点があった。
【0013】
図6は、この問題点を説明する図であり、音叉型水晶振動子の周波数温度特性の典型例を示した図である。横軸に温度、また、縦軸に各温度での室温に対する周波数変化量(単位:ppm)をとって示した音叉型水晶振動子の温度特性図である。
【0014】
音叉型水晶振動子は、典型的に25℃付近が頂点温度となるよう(温度係数が平坦になるよう)に設計されている。また、周波数調整精度は±20ppm未満が要求される。しかし、上記のように金属膜をレーザの熱によって除去する場合、レーザ照射時は水晶は相当の温度(少なくとも100℃以上)になる。そのため、周波数変化は図6の100℃以上の領域の値になるため、室温時に比べ数100ppmも低い値になる。したがって、レーザ調整が終了して水晶が冷めてくると、周波数は高い方向にシフトする。この結果、周波数調整時の周波数は維持できず、規定の周波数調整精度を確保できない。
【0015】
また、別の問題点として、周波数調整幅が金属膜5(ab)の膜厚で制限される。つまり、YAGレーザでは、これらの金属膜を除去することしかできないので、金属膜を除去し終えると水晶振動子の周波数調整を行えなくなる。したがって、周波数調整幅に自ずと制限がある。このため、フォトリソグラフィで音叉外形を形成した後の周波数分布を狭くおさえることが要求され、製造上の制約も大きかった。
【0016】
(発明の目的)
本発明は周波数調整精度を高めた音叉型振動子及びその周波数調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、特許請求の範囲(請求項1)に示したように、音叉基部から一対の音叉腕が延出した音叉状水晶片を有する音叉型水晶振動子の周波数調整方法において、前記一対の音叉腕を周回する外周面から頭部先端面に又は頭部先端面から外周面に向かって照射されるフェムト秒レーザによって、前記外周面から頭部先端面にまたがる傾斜面を形成して振動周波数を調整する第1周波数調整工程を備えた構成とする。
【発明の効果】
【0018】
このような構成であれば、フェムト秒レーザ(超短パルスレーザ)を適用するので、一対の音叉腕を直接削除できる。したがって、原理的には、水晶自体を削除できる限り周波数調整が可能になるので、金属膜を除去する場合に比べ、周波数調整幅を広くとれる。また、周波数調整に金属膜を用いなくても済むので、従来は必要であった金属膜〔典型的には金(Au)膜〕を不要とすることもできるから、金属膜形成工程の削減、金の材料費の削減を図ることもできる。また、フェムト秒レーザ(超短パルスレーザ)であれば、熱的損傷を殆ど水晶片に与えないので、周波数調整時には温度上昇を起こすこともない。すなわち、フェムト秒レーザでは、レーザ照射位置の周辺部への熱伝導が起こる前にレーザ照射が終了してしまうほどレーザパルス幅が狭いため、音叉状水晶片の周波数調整時の温度上昇を防止できる。したがって、音叉型振動子の周波数調整精度をさらに高められる。
【0019】
また、一対の音叉腕の外周面から頭部先端面又は頭部先端面から外周面に向かってフェムト秒レーザを照射するので、フェムト秒レーザは音叉腕を斜め方向に透過する。したがって、フェムト秒レーザによるエネルギーが水晶片の内部にこもらないので、水晶片のクラックの発生を防止又は軽減できる。
【0020】
これに対し、フェムト秒レーザが、音叉腕の主面に垂直に入射した場合には、フェムトレーザのエネルギーが水晶片の内部にこもりやすくなるため、水晶表面にクラックを生じさせたり、水晶内部を損傷させたりする。
【0021】
(実施態様項)
本発明の請求項2では、請求項1において、前記外周面は前記音叉腕の主面とする。これにより、水晶ウェハの状態での音叉状水晶片3あるいは凹状とした表面実装容器に音叉状水晶片を収容した際の周波数調整を容易にできる。
【0022】
請求項3では、請求項1において、前記音叉状水晶片はエッチングによって形成され、水晶ウェハに一体的に連結した状態で振動周波数が調整される。これにより、一括的に周波数調整され調整が効率的となる。
【0023】
請求項4では、請求項1において、前記音叉状水晶片は前記音叉腕の先端側主面に調整用金属膜を有し、前記フェムト秒レーザによる前記第1周波数調整工程後に、前記調整用金属膜の一部をレーザによって除去する第2周波数調整工程を備える。
【0024】
これにより、音叉型振動子の周波数調整を第1周波数調整による粗調整と第2周波数調整による微調整とによって高精度に周波数調整ができる。
【0025】
請求項5では、請求項4において、前記第1周波数調整工程が水晶ウェハに一体的に連結した状態で、また、前記第2周波数調整工程が個々の音叉状水晶片を凹状の表面実装容器に収容した状態で実施される。これにより、第1周波数工程での粗調整を水晶ウェハの状態で実施するので、効率的にする。
【0026】
請求項6では、請求項4において、前記第2周波数調整工程で用いるレーザを、前記第1周波数調整工程のレーザパワーより低いパワーのフェムト秒レーザとする。これにより第1周波数調整工程でのレーザ装置を兼用できるとともに、熱の影響の少ない微調整ができる。
【0027】
請求項8では、請求項1または3において、前記第1周波数調整工程が前記音叉状水晶片の周波数測定を実施しながら(すなわち、音叉状水晶片に周波数測定用プローブを接触させて周波数を測定しながら)フェムト秒レーザを連続的に照射し、実施される。このようにする理由としては、フェムト秒レーザでは熱伝導が起こる前にレーザ照射が終了するほどレーザパルス幅が狭いという、フェムト秒レーザの特徴を積極的に利用するためである。フェムト秒レーザを連続的に照射しながら周波数測定をすることで、周波数を時々刻々と測定して行けるため、従来のYAGレーザを使う場合に比べ、周波数調整精度を高めることができる。
【0028】
請求項9では、請求項8において、前記傾斜面を形成する前記フェムト秒レーザの音叉主面に対する入射角度を30〜70°とする。フェムト秒レーザを垂直入射した場合、レーザ光は水晶内部にこもる。そうすると、レーザ損傷が生じやすい。斜め照射の場合は、レーザ光が側面に抜け易くなりレーザ光が水晶内部にこもりにくくなるので、水晶内部の損傷を防止できる。
【0029】
なお、上記の第2周波数調整工程では、金属膜を除去する構成を述べたが、水晶自体を第1周波数調整工程時のパワーより小さいパワーのフェムト秒レーザ光で切削して調整するようにしてももちろん良い。
【0030】
ここで、本発明で用いるフェムト秒レーザのパルス幅は、好ましくは500fs(フェムト秒)以下、より好ましくは200fs以下、さらに好ましくは100fs以下が良い。パルス幅が短いほど、このレーザを用いる効果顕著り、熱損傷を低減できる。また、フェムト秒レーザのパワーは、数μJ/パルス〜数10μJ/パルスのパワーで本発明の効果を得ることができる。また、フェムト秒レーザはパルスレーザであるので、パルスの繰り返し周波数も重要なパラメータである。繰り返し周波数を数100Hz、好ましくは500Hz以上、より好ましくは1000Hz以上とするのが良い。フェムト秒レーザの繰り返し周波数が高いほど、単位時間当たりの照射パルス数を多くできるので、周波数調整時間の短縮化が図れるからである。
【0031】
また、本発明では、音叉腕を周回する外周面から頭部先端面に又は頭部先端面から外周面に向かってフェムト秒レーザを斜めに照射して音叉外周面から頭部先端面にまたがる傾斜面を形成する。この斜め照射の角度(音叉主面に対する入射角度)は、これに限られないが、30〜70°、より好ましくは40〜70°、さらに好ましくは45〜60°が良い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
図1乃至図3は本発明の一実施形態である音叉型振動子の周波数調整工程を示す図で、図1(a)は音叉状水晶片の正面図、同図(b)は一部拡大断面図、図2は音叉状水晶片が一体化した水晶ウェハの正面図(一部の水晶片を省略してある)、図3は音叉型振動子のカバーを除いて見た平面図である。なお、従来例と同一部分には同番号を付与してその説明は簡略又は省略する。
【0033】
音叉型振動子は、音叉基部1から一対の音叉腕2(ab)が延出した音叉状水晶片3を備える。一対の音叉腕2(ab)には頭部先端面を除く各4面に駆動電極4を有し、各音叉腕2(ab)での両主面間及び両側面間を同電位とし、両主面と両側面とでは逆電位とする。一対の音叉腕2(ab)間では両主面間同士及び両側面同士を逆電位とする。
【0034】
これらの駆動電極4は同電位同士が共通接続されて一対の電極が音叉基部1における主面下方に延出する。そして、周波数調整用の金属膜5(ab)が音叉腕2(ab)の先端側主面に設けられる。ここでの金属膜5(ab)は従来例よりも高さが低く、先端側主面の上方には素地露出部8(ab)を設ける。これらは、駆動電極4等を含めた外形加工が例えばフォトリソグラフィックを用いたエッチングによって形成され、多数の音叉状水晶片3が水晶ウェハ9に一体的に連結する(図2)。なお、金属膜5(ab)を音叉腕2(ab)の先端まで延出してもよい。
【0035】
そして、ここでは、本発明の音叉型振動子の周波数調整方法は、第1周波数調整工程と第2周波数調整工程とからなる。先ず、第1周波数調整工程では、水晶ウェハ3の状態で、各音叉状水晶片3(音叉腕2(ab))の素地露出部8である先端側両主面から頭部先端面(天面)にかけて又は頭部先端面から先端側両主面にかけて、フェムト秒レーザ(超短パルスレーザー)Pfを照射する。これにより、金属膜5(ab)より上方の先端側両主面から頭部先端面にまたがる傾斜面を形成して振動周波数を粗調整する。
【0036】
今回の実験では、厚さが120μmの水晶ウエハを用いた。また、フェムト秒レーザの照射条件は、パルス幅が約70fs、パワーが30μJ/パルス、パルスの繰り返し周波数1000Hzの条件とした。勿論、これは一実施例にすぎない。また、実験装置は、以下に図7(a)〜図7(c)を用いて説明する構成のものを用いた。図7(a)は実験装置100の概要を示したブロック図、図7(b)はウェハに対する周波数測定の様子を示した図、図7(c)は音叉振動子に対するプロービングの様子を示した図である。
【0037】
実験装置100、はフェムト秒レーザ光源101、ガルバノミラー103、X,Y,Zステージ105、プローブピン107aを有する発振回路107、周波数測定器109、制御装置111を備える。
【0038】
光源101は所望のフェムト秒レーザを発する。ガルバノミラー103は、フェムト秒レーザ光を音叉型振動子の腕部頭部に所定通り走査させて水晶を切削させる。このガルバノミラーの先端にfθレンズ103aを設けてあり、フェムト秒レーザビームの焦点調整を行う構成としてある。X,Y,Zステージ105は水晶ウェハを載せることができ、水晶ウェハをX,Y,Zの3方向に任意に移動できる。発振回路107は水晶ウェハ上の各音叉を順次プロビングして各音叉を発振させるとともに、音叉の周波数信号を周波数測定器109に伝達する。この発振回路107はウェハに対しZ方向に上下動できる構成としてある。周波数測定器109は発振回路107の信号から音叉の周波数を読み取る。制御装置111は、前記各要素103〜109を制御する。周波数調整の実施に当たり、好ましくは、発振回路により水晶を発振させながら、かつ、周波数測定を実施しながら、フェムト秒レーザ光を連続的に照射し、周波数が目的の範囲に入ることを確認しながら、音叉の周波数調整を行うのが良い。
【0039】
勿論、この実験装置100の構成は一実施例にすぎない。今回の実験装置の場合、ガルバノミラーを用いてレーザビームを走査したが、ビームは対物レンズを通すのみとして走査しないようにし、X,Y,Zステージを微動させて水晶ウェハをレーザビームで加工しても良い。
また、今回の実験では、水晶ウェハの表裏からレーザ照射をする行為は、実験者が水晶ウエハを裏返しにすることで、実施した。
【0040】
なお、今回の実験では、音叉状水晶片3に素地露出部8を設けてある。この素地露出部8は必須ではないが、素地露出部8を設けここにフェムト秒レーザを照射した方がレーザ加工が行い易い(水晶の切削が行われ易い)ことが実験で判明しているので、好ましくはこの素地露出部8を設け、ここにフェムト秒レーザを照射するのが良い。
【0041】
次に、第2周波数調整工程では、前述したように、水晶ウェハ9から各音叉状水晶片3を切り離して、表面実装容器6に音叉状水晶片3を収容する。音叉状水晶片3は表面実装容器6の内壁段部7に音叉基部1が固着される。そして、この実施形態では、第1周波数調整工程と同様にフェムト秒レーザによって、個々の音叉状水晶片3に対し、音叉先端主面の金属膜5(ab)を除去して、振動周波数の微調整をする。
【0042】
このような周波数調整方法によれば、フェムト秒レーザPfによる第1周波数調整工程で粗調整をするので、周波数の調整時には温度上昇がなく、常温で規格内に調整できる。この場合、粗調整における周波数調整量は概ね数千〜数万ppmとなって多くなるが、フェムト秒レーザによる調整のため(温度の影響が実質的にな調整であるので)規格に対する偏差(規格外れの率)を小さくできる。
【0043】
そして、本発明の振動周波数の調整は、音叉状水晶片3が水晶ウェハに連結された状態での調整なので、各音叉状水晶片3の位置精度や被加工部の水平度等は確保しやすいなどから作業性を良好にする。さらに、本発明では両主面側からの切削とするので、音叉状水晶片3の対称性を維持して音叉振動を良好に維持する。しかも、音叉状水晶片3の片面から切削する場合に比べ、水晶の除去量を多くできる。その結果、周波数調整幅を広くとれ、加工時間当たりの周波数変化量を大きくできる(すなわち加工時間を短縮できる)。
【0044】
さらにまた、フェムトレーザ(超短パルスレーザ)Pfを特に音叉腕の主面に対して斜めに入射して音叉腕を切削するので、フェムトレーザPfが音叉腕を透過し、レーザエネルギーによる損傷がない。
【0045】
また、第1周波数調整工程(粗調整)後に、表面実装容器6に音叉状水晶片3を収容しての第2周波数調整工程による微調整をするので、微調整時の周波数調整量を少なくできる。この場合の調整量は例えば例えば数十〜数百ppmとなる。もし、調整量が多い場合でも、フェムト秒レーザを用いているので、レーザPfによって生ずる熱量も小さくなり、振動周波数を常温時での規格内に調整できる。
【0046】
(他の事項)
上記実施形態では、第1周波数調整工程は音叉腕2(ab)の両主面側からフェムト秒レーザを照射するとしたが、音叉腕2(ab)の一主面側からのみフェムト秒レーザを照射してもよい。この場合は、フェムト秒レーザ装置の配置構成等を簡単にできる。また、第2周波数調整工程は金属膜5(ab)をフェムト秒レーザで除去するとしたが、水晶自体を切削してもよい。こうすると、音叉頭部に金属膜5(ab)を形成する工程を省略できる。
【0047】
さらに、フェムト秒レーザによる第1周波数調整工程では、音叉腕2(ab)の両主面側からの切削としたが、音叉腕の側面側からの切削であってもよい。要は、音叉腕3(ab)を周回する外周面から頭部先端面にかけての傾斜面が形成されれば、基本的な効果は奏する。なお、第2周波数調整工程を従来同様にYAGレーザ等で行っても、さらにはイオンミーリング法で行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一実施形態である音叉型振動子の周波数調整工程を示す図で、図1(a)は音叉状水晶片の正面図、図1(b)は一部拡大断面図である。
【図2】本発明の一実施形態である音叉型振動子の周波数調整工程を示す図で、音叉状水晶片が一体化した水晶ウェハの正面図である。
【図3】本発明の一実施形態である音叉型振動子の周波数調整工程を示す図で、音叉型振動子のカバーを除いて見た平面図である。
【図4】一従来例を説明する音叉型振動子のカバーを除く平面図である。
【図5】音叉型振動子をさらに詳細に示したものであり、図5(a)は電極配線も併せて示した斜視図、図5(b)は図5(a)のA−A線に沿った断面図である。
【図6】音叉型水晶振動子の周波数温度特性の典型例を示した図である。
【図7】図7(a)は実験装置100の概要を示したブロック図、図7(b)はウェハに対する周波数測定の様子を示した斜視図、図7(c)は音叉振動子に対するプロービングの様子を示した概略図である。
【符号の説明】
【0049】
1 音叉基部
2 音叉腕
3 音叉状水晶片
4 駆動電極
5 金属膜
6 表面実装容器
7 内壁段部
8 素地露出部
9 水晶ウェハ
100 実験装置
101 フェムト秒レーザ光源
103 ガルバノミラー
105 X,Y,Zステージ
107 発振回路
107a プローブピン
109 周波数測定器
111 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音叉基部から一対の音叉腕が延出した音叉状水晶片を有する音叉型水晶振動子の周波数調整方法において、前記一対の音叉腕を周回する外周面から頭部先端面に又は頭部先端面から外周面に向かって照射されるフェムト秒レーザによって、前記外周面から頭部先端面にまたがる傾斜面を形成して振動周波数を調整する第1周波数調整工程を備えたことを特徴とする音叉型水晶振動子の周波数調整方法。
【請求項2】
請求項1において、前記外周面が、前記音叉腕の主面である音叉型水晶振動子の周波数調整方法。
【請求項3】
請求項1において、前記音叉状水晶片が、エッチングによって形成され、水晶ウェハに一体的に連結した状態で振動周波数が調整される音叉型水晶振動子の周波数調整方法。
【請求項4】
請求項1において、前記音叉状水晶片が、前記音叉腕の先端側主面に調整用金属膜を有し、前記フェムト秒レーザによる前記第1周波数調整工程後に、前記調整用金属膜の一部をレーザによって除去する第2周波数調整工程を備えた音叉型水晶振動子の周波数調整方法。
【請求項5】
請求項4において、前記第1周波数調整工程が、水晶ウェハに一体的に連結した状態で、また前記第2周波数調整工程が、個々の音叉状水晶片を凹状の表面実装容器に収容した状態で実施される音叉型振動子の周波数調整方法。
【請求項6】
請求項4において、前記第2周波数調整工程で用いるレーザを、前記第1周波数調整工程のレーザパワーより低いパワーのフェムト秒レーザとする音叉型振動子の周波数調整方法。
【請求項7】
請求項4において、前記第2周波数調整工程が、音叉頭部に予め設けた金属膜をイオンミリングで除去して行う音叉型振動子の周波数調整方法。
【請求項8】
請求項1または3において、前記第1周波数調整工程が、前記音叉状水晶片の周波数測定を実施しながら前記フェムト秒レーザを連続的に照射し、実施される音叉型水晶振動子の周波数調整方法。
【請求項9】
請求項8において、前記傾斜面を形成する前記フェムト秒レーザの前記音叉腕の主面に対する入射角を30〜70°とする音叉型水晶振動子の周波数調整方法。
【請求項10】
音叉基部から一対の音叉腕が延出した音叉状水晶片を有する音叉型水晶振動子であって、前記一対の音叉腕を周回する外周面から頭部先端面に又は頭部先端面から外周面に向かって照射されるフェムト秒レーザによって形成された、前記外周面から頭部先端面にまたがる傾斜面を備える音叉型水晶振動子。
【請求項11】
請求項10において、前記外周面を前記音叉腕の主面に備える音叉型水晶振動子。
【請求項12】
請求項10または11において、前記外周面を前記音叉腕の片側の主面に備える音叉型水晶振動子。
【請求項13】
請求項10または11において、前記外周面を前記音叉腕の両側の主面に備える音叉型水晶振動子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−50499(P2010−50499A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−201470(P2008−201470)
【出願日】平成20年8月5日(2008.8.5)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】